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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074553
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】アルミニウム溶湯用不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20240524BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20240524BHJP
【FI】
C04B35/66
C23C4/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185793
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】591149344
【氏名又は名称】伊藤忠セラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】武藤 大夢
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 静一郎
(72)【発明者】
【氏名】庄司 大記
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA04
4K031CB43
(57)【要約】
【課題】耐火製品の製造に際して、浸透抑制剤の添加を必須とするものではない、若しくはその使用量を低減させても、優れた浸透抑制機能を発揮せしめることが出来る、高機能なアルミニウム溶湯用不定形耐火物を提供する。
【解決手段】耐火物主原料と耐火性結合剤とを少なくとも含むアルミニウム溶湯用不定形耐火物において、耐火物主原料を、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密なセラミック粉粒体にて構成すると共に、Al23の65質量%以上とMgOの0.06~35質量%とその他の成分の5質量%以下とからなる化学組成を全体として有するように構成し、且つ耐火物主原料が、角の無い丸みを帯びたラウンド形状を呈する、同様な化学組成を有し、円形度が0.70以上のラウンド粒子を、10~80質量%の割合において含有するように構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物主原料と耐火性結合剤とを少なくとも含む、アルミニウム溶湯に接触する耐火面を形成するための不定形耐火物にして、
該耐火物主原料が、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密なセラミック粉粒体にて構成されて、Al23の65質量%以上とMgOの0.06~35質量%とその他の成分の5質量%以下とからなる化学組成を全体として有していると共に、該耐火物主原料が、角の無い丸みを帯びたラウンド形状を呈する、前記化学組成を有し且つ円形度が0.70以上のラウンド粒子を、10~80質量%の割合において含有していることを特徴とするアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項2】
前記ラウンド粒子が、3-1mmの粒度の粒子及び/又は1mm-45μmの粒度の粒子を主体として構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項3】
前記耐火物主原料が、前記化学組成を有する1mm未満の粒度の粒子を、40~95質量%の割合において含有していることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項4】
前記ラウンド粒子が、前記化学組成を与える造粒物又はその破砕物の焼成によって得られる、前記角の無い丸みを帯びたラウンド形状を呈する焼結粒子であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項5】
前記耐火物主原料が、前記ラウンド粒子と、前記化学組成を有する焼結体の破砕粒子との混合物にて、構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項6】
前記耐火物主原料が、75~99質量%の割合で含有されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項7】
前記耐火性結合剤が、アルミナセメントであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項8】
浸透抑制剤が、更に含有せしめられていることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム溶湯用不定形耐火物に係り、特に、アルミニウム溶湯に接触する、溶解炉、保持炉、取鍋、樋等の内面(耐火面)を形成するために好適に用いられる不定形耐火物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウムやアルミニウム合金の溶解、鋳造等において、アルミニウム溶湯(アルミニウム合金溶湯を含む。以下同じ)が直接に接触する部位において、その接触面を耐火面とするべく用いられる耐火物には、(a)耐火物へのアルミニウムの付着、浸透によるオバケの成長防止、(b)溶湯の汚染及び成分変化の防止、更には(c)物理的摩耗や熱衝撃による破損耐性、長寿命化等が求められている。
【0003】
ここで、上記の(a)における「オバケ」とは、耐火物へ付着、浸透したアルミニウムや揮発したガス成分が、空気と反応して、アルミニウム溶湯液面上部に生成、成長する固着物を指すものであって、そのようなオバケの生成は、メタルロスや効率低下に繋がり、更にオバケの欠片が溶湯に混入することで、非金属介在物の発生要因となるところから、かかるオバケの物理的な除去が行われることとなるが、その際、耐火物が損傷することも多い。また、上記の(b)に関しては、還元性の強いアルミニウム溶湯によって、耐火物組織が分解されて、生成する遊離成分によるところの溶湯の汚染や、オバケやアルミドロスの生成において、溶湯中の特定成分が濃縮されることにより、溶湯の成分変化が惹起される恐れを内在している。さらに、(c)の長寿命化に関しては、アルミニウム溶湯を取り扱う不定形耐火物の損耗は、主に、前述したアルミニウム溶湯による化学的浸食によるものと、溶湯の流動による摩耗や機械的衝撃、急激な昇降温に基づくところの熱衝撃といった物理的な損傷による影響が挙げられる。
【0004】
このため、従来より、オバケの抑制や耐火物の耐食性向上には、主に、アルミニウム溶湯に対する濡れ性を低下させることと、耐火物の緻密化を図ることにより、その対策が為されてきており、また熱衝撃に対しては、耐火物の断熱性向上や低熱膨張化によって、損耗の防止が図られてきている。例えば、アルミニウム溶湯に対する濡れ性を低下させる方法としては、フッ素化合物、ホウ素化合物、硫酸バリウム、ジルコンに代表される浸透抑制剤を添加したり(特許文献1~3参照)、そのような浸透抑制剤を用いて、耐火物表面コーティングを実施したり(特許文献4~5参照)、耐火物の主要材料を、黒鉛や炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコンのようなアルミニウム溶湯に濡れ難い材質とすること(特許文献6~7参照)等が、提案されている。
【0005】
一方、不定形耐火物における緻密化は、主にリン酸ナトリウムやポリカルボン酸、ポリアクリル酸に代表される分散剤の添加により、低水分量において施工することによって、実現されている。けだし、アルミニウムに代表される非鉄金属の溶湯においては、その表面張力が比較的小さく、微細な気孔でも浸透することとなるところから(非特許文献1~3参照)、可能な限り低水分量化、低気孔率化を図ることにより、そのような非鉄金属溶湯の浸透を抑制することが出来るようになるからである。また、硫酸バリウムの如き一部の浸透抑制剤にあっては、不定形耐火物の緻密化と気孔の微細化を図って、金属溶湯の浸透抑制効果を発揮し得るようになっている。
【0006】
しかしながら、それら従来からの提案は、何れも、浸透抑制剤や分散剤といった添加成分を用いた特性の付与を、基本的な考え方とするものであり、アルミニウム溶湯用不定形耐火物の多くで使用されている、耐火物主原料たるアルミナ原料そのものの特性改善に取り組んだ報告は為されていない。また、浸透抑制剤として多く用いられているフッ素化合物については、アルミニウム溶湯に混入すると、ガスとして大気中に放出されたり、産業廃棄物となるアルミドロスを生じたりすることとなるが、それらは、人体に有害であったり、環境負荷が高いといった問題がある。このため、アルミニウムの溶解・製錬工程において、同じくフッ素化合物がよく用いられるフラックス材においては、既に、脱フッ素化が推進されているところから、同様に、耐火材においても、今後、脱フッ素化が必要になるものと考えられる。
【0007】
また、不定形耐火物において、その主要原料をSi系材料に変更した場合にあっては、アルミニウム溶湯に対する耐食性が向上せしめられ得たとしても、溶湯面の上方に位置する部位では、空気によって酸化されることにより、SiO2 が生成されるようになる。而して、かかるSiO2 は、アルミニウム溶湯によって分解され易く、そのために、不純物であるSi成分の混入が生じる問題を内在している。更に、アルミニウム溶湯において、Si成分の増加は、耐火物への浸透を促進することとなり、黒色化とも呼ばれる黒い変質層を形成することとなるが、この変質層は、元の耐火物よりも高い膨張率を有するものであるところから、構造スポーリングによる損傷の要因ともなる問題を内在しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59-169971号公報
【特許文献2】特開平1-192773号公報
【特許文献3】特開2006-182576号公報
【特許文献4】特許第4783660号公報
【特許文献5】WO2013/111731
【特許文献6】特開2000-344575号公報
【特許文献7】特開2019-210180号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】小松俊夫, 鈴木裕之, 耐火物, 44 (1992) 288-294
【非特許文献2】宮脇正夫, 本郷靖郎, 耐火物, 51 (1999) 303-309.
【非特許文献3】田村洋介, 耐火物, 70 (2018) 457-464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の如く、アルミニウム溶湯用不定形耐火物においては、その配合成分の中でも、最も多くの割合を占める主原料たる、アルミナ原料そのものの機能向上に焦点を当てた提案は、殆ど為されておらず、現状では、費用対効果の観点から、ハイアルミナ質の低セメントキャスタブルに浸透抑制剤や分散剤を添加することにより、機能向上を図る提案が、主流となっているのである。而して、アルミニウム製品における高品質化要求や、コスト競争のためのメタルロスの軽減を図るべく、アルミニウム溶湯に接触する耐火面を有する耐火製品への浸透抑制効果の向上が求められる一方で、環境負荷低減のために、化学物質規制が強まっているという相反する状況下において、耐火物主原料であるアルミナ原料の機能向上は、必須のものとなっている。
【0011】
本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、耐火物主原料たるセラミック原料そのものに、アルミニウム溶湯に対する浸透抑制機能や水分低減機能を付与することで、耐火製品の製造に際して、浸透抑制剤や分散剤の添加を必須とするものではない、若しくはそれらの使用量を低減させても、同等の緻密化や浸透抑制機能を維持することが出来る、高機能なアルミニウム溶湯用不定形耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載、及びそこに開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0013】
そこで、本発明は、先ず、前記した課題を解決すべく、耐火物主原料と耐火性結合剤とを少なくとも含む、アルミニウム溶湯に接触する耐火面を形成するための不定形耐火物にして、該耐火物主原料が、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密なセラミック粉粒体にて構成されて、Al23の65質量%以上とMgOの0.06~35質量%とその他の成分の5質量%以下とからなる化学組成を全体として有していると共に、該耐火物主原料が、角の無い丸みを帯びたラウンド形状を呈する、前記化学組成を有し且つ円形度が0.70以上のラウンド粒子を、10~80質量%の割合において含有していることを特徴とするアルミニウム溶湯用不定形耐火物を、その要旨とするものである。
【0014】
なお、かかる本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の好ましい態様の一つによれば、前記ラウンド粒子は、3-1mmの粒度の粒子及び/又は1mm-45μmの粒度の粒子を主体として構成されていることを特徴としている。
【0015】
また、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の好ましい態様の他の一つによれば、前記耐火物主原料は、前記化学組成を有する1mm未満の粒度の粒子を、40~95質量%の割合において含有していることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の好ましい別の態様の一つによれば、前記ラウンド粒子は、前記化学組成を与える造粒物又はその破砕物の焼成によって得られる、前記角の無い丸みを帯びたラウンド形状を呈する焼結粒子であることを特徴とするものである。
【0017】
更にまた、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物にあっては、好ましくは、前記耐火物主原料が、前記ラウンド粒子と、前記化学組成を有する焼結体の破砕粒子との混合物にて、構成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の望ましい別の態様の一つによれば、前記耐火物主原料が、75~99質量%の割合で含有されていることを特徴とするものである。
【0019】
加えて、本発明にあっては、望ましくは、前記耐火性結合剤は、アルミナセメントであることを特徴としている。
【0020】
そして、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の望ましい態様の他の一つによれば、浸透抑制剤が、更に含有せしめられており、これによって、より優れた浸透抑制効果が発揮せしめられ得るようになっている。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物にあっては、MgOを所定量含有する高機能Al23-MgO質セラミックからなるラウンド粒子を用い、従来のアルミナ原料の一部と置換せしめることによって、流動性を有利に向上させると共に、アルミニウム溶湯に対する耐浸食性を効果的に向上せしめ得て、以下に列挙せる如き格別な作用乃至は効果を発揮し得るのである。
(1)従来のアルミナ原料との単純置換が可能となるために、基本となる配合設計を損な うことなく、流動性の向上によって、施工に際しての低水分量化を効果的に実現せ しめつつ、アルミニウム溶湯に対する耐浸食性が向上される。
(2)アルミニウム溶湯の汚染が少なくなることにより、メタルロスを低減せしめ得て、 製品品質や生産性が向上する。
(3)従来の不定形耐火物としての機能を維持したまま、浸透抑制剤や分散剤の添加量の 低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例において用いられるラウンド粒子イの顕微鏡写真である。
図2】実施例において用いられるラウンド粒子ロの顕微鏡写真である。
図3】実施例において用いられる破砕粒子Aの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ところで、本発明に係るアルミニウム溶湯用不定形耐火物は、原料そのものに、アルミニウム溶湯に対する耐濡れ性と共に、流動性向上効果を付与することで、アルミニウム溶湯に対する不定形耐火物の耐浸透性の向上と、低水分施工による緻密化の実現を有利に図り得るところに、大きな特徴を有するものであって、そこで用いられる耐火物主原料は、粒子密度においては、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密質なセラミック粉粒体にて構成されると共に、Al23の65質量%以上と、MgOの0.06~35質量%と、その他の成分の5質量%以下とからなる化学組成を、全体として有しているものである。
【0024】
ここで、かかる耐火物主原料を構成するセラミック粉粒体は、不定形耐火物の施工時における吸水量を低減せしめ、また、そのような不定形耐火物を用いて形成される炉壁や側壁等の耐火製品における、アルミニウム溶湯の浸透の抑制を図る上において、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密質な構造を有していることが必要である。これに反して、その見掛け気孔率が7%を超えるようになると、セラミック粉粒体(骨材)中の気孔による吸水量が多くなり過ぎて、不定形耐火物の施工時における混練に際しての必要添加水分量が増加し、結果として、耐火製品における気孔率の増加や、耐食性の低下を惹起するようになる。
【0025】
また、本発明は、Al23の65質量%以上と、MgOの0.06~35質量%と、その他の成分の5質量%以下とからなるAl23-MgO系の化学組成を全体として有する高機能セラミック原料を、耐火物主原料として用いるものであるが、そのような化学組成において、MgOの含有量が1質量%以下となる場合にあっては、セラミック原料の構成鉱物は、コランダム単相となり、またMgOの含有量が1~20質量%の場合には、コランダムとスピネルの2相が共存するものとなり、更にMgOの含有量が20~35質量%の場合にあっては、スピネル単相となる。なお、ここで言うスピネルとは、Al23-MgOスピネルを指すものである。そして、MgOの組成比率が増加し、35質量%を超えるようになると、スピネルに加えて、ペリクレースが晶出し始めるようになる。而して、その生じるペリクレースは、水和反応を生じ易く、ブルーサイトを生成して、脆化するようになるところから、長期保管が困難であり、水と混練して施工し、且つ数ヶ月~数年間使用されるアルミニウム溶湯用不定形耐火物には、不適となるものである。このため、本発明において用いられる耐火物主原料におけるMgOの組成比率は、本発明の目的を有利に実現する上において、0.06~35質量%である必要がある。なお、Al23に、スピネルを形成しない程度のMgOを添加した場合において、MgOは焼結助剤として機能するようになるところから、緻密化及び既存のアルミナ原料との単純置換を前提にする場合、最も好ましいMgOの組成比率は、コランダム単相となる0.06~1質量%程度である。
【0026】
さらに、上述の如き化学組成を有する耐火物主原料は、単一組成のAl23-MgO系のセラミック原料にて構成される他、そのようなAl23-MgO系セラミック原料に、他の組成のAl23-MgO系セラミック原料や、別の成分組成のセラミック原料等を混合してなる配合物を用いることも可能であるが、2種以上のセラミック原料の配合物にあっては、その全体としての化学組成が、前記した本発明にて規定される範囲内のAl23やMgOを含有している必要がある。そして、それらセラミック原料は、不定形耐火物の配合で通常採用される各種の粒度、具体的には、5-3mm(粗粒)、3-1mm(中粒)、1mm-45μm(微粒)、-45μm(微粉)等の粒度に整粒して、それらを適宜の割合において配合して、耐火物主原料が構成されることとなる。また、目的とする耐火製品のサイズに応じて、5mmを超えるような粒度のセラミック原料(粒子)も、適宜に用いられることとなる。
【0027】
そして、本発明にあっては、上述の如き特定の化学組成を全体として有する耐火物主原料において、その10~80質量%が、好ましくは15~60質量%が、更に好ましくは30~50質量%が、かかる特定の化学組成を有する、円形度が0.70以上のラウンド粒子、換言すれば図1図2の顕微鏡写真にて示されるような、米粒状若しくはおはじき状の、角の無い丸みを帯びたラウンド形状を呈するAl23-MgO系セラミック粒子にて、構成されている必要があり、これによって、原料そのものに、アルミニウム溶湯に対する浸透抑制機能や水分低減機能が有利に付与され得ることとなるのである。なお、かかるラウンド粒子は、それが耐火物主原料の構成成分の一つである限りにおいて、他の構成成分と同様に、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密質のセラミック粒子であることは、勿論である。また、そのようなラウンド粒子の含有割合が少なくなり過ぎると、流動性の向上に係る本発明の特徴が充分に発揮され難くなる問題を生じ、一方、その含有割合が多くなり過ぎると、不定形耐火物の施工作業において、各種の問題等を生じて、目的とする耐火製品の特性に悪影響をもたらす恐れを生じる。
【0028】
ここで、上記した本発明におけるラウンド粒子の形状の指標として用いられている円形度は、光学顕微鏡によって撮影した粒子写真から、個々の粒子の面積(A)と周長(L)とを用いて、公知の式:円形度=4π×A/L2 に従って、算出されるものであって、その値が1に近づくほど、円形乃至は球に近い粒子であることを示している。なお、かかる円形度の算出に際しては、測定粒子の数が少な過ぎると、特異な形状の粒子の存在によって、円形度が大きく変動するようになるところから、少なくとも無作為にサンプリングした20個以上の粒子について求めた円形度の平均値が、ラウンド粒子の円形度として用いられることとなる。
【0029】
このような本発明に従うラウンド粒子は、不定形耐火物原料として従来から用いられているアルミナ原料に配合されて、本発明における耐火物主原料を構成することとなるが、その配合相手となるアルミナ原料としては、公知の各種のものが適宜に採用されることとなるところ、特に、本発明にあっては、前記化学組成を有する焼結体を破砕することによって得られる、図3に示されるような、破断面を有する角張った破砕粒子が、有利に用いられることとなる。なお、そのような破砕粒子は、一般に、0.50~0.80の円形度を示すものである。
【0030】
また、本発明において、耐火物主原料の所定割合を占めるラウンド粒子は、不定形耐火物の配合において採用される各種の粒度にて用いられ得るものであるが、特に3-1mmの粒度の粒子や、-1mm、中でも1mm-45μmの粒度の粒子が好適に用いられ、それら中粒や微粒、微粉の如き細かな粒子を用いることによって、本発明の目的が有利に実現され得ることとなる。
【0031】
なお、本発明に従う耐火物主原料を構成する、上述の如き化学組成を有するラウンド粒子は、主原料となる仮焼アルミナに、マグネシウム成分添加剤、更にバインダを加えて、混練した後、球状に成形したり、或いは角の無い丸みを帯びたラウンド形状に成形したりして得られるラウンド状造粒体を用い、それを乾燥した後、1700℃以上の温度で焼成することにより、有利に得ることが出来るが、また、加圧成形によってペレットの如き造粒体を形成し、次いで、その得られた造粒体を、乾燥させた後、或いはその乾燥に先立って、機械的な破砕機を用いて破砕することにより、所定大きさの破砕造粒物を形成し、更に、その得られた破砕造粒物を、ロータリーキルン等の焼成炉を用いて、1700℃以上の温度で回転焼成せしめることによって、米粒状若しくはおはじき状の角の無い丸みを帯びた形状を呈する、円形度が0.70以上のラウンド粒子として、製造することも、可能である。
【0032】
そして、このようにして得られたラウンド粒子(焼結粒子)は、通常、各種の粒度に整粒されて、用いられることとなるのである。なお、上記した焼成に際しては、得られるラウンド粒子の見掛け気孔率が7%以下となるまで、充分に焼成(焼結)を行う必要があることは、言うまでもないところである。また、そこで仮焼アルミナに配合されるマグネシウム成分添加剤としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等のマグネシウム無機酸塩や、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウムオキソ酸塩、ステアリン酸マグネシウムやスルホン酸マグネシウム等のマグネシウムの有機酸塩が使用可能であり、更にバインダの一部に、マグネシウム成分を含んでいるものであっても、何等差し支えない。
【0033】
かくの如くして得られるラウンド粒子は、主にコランダムやスピネルの鉱物相からなる緻密な焼結構造を有しており、そのようなラウンド粒子を含む耐火物主原料に、アルミナセメント等の耐火性結合剤を配合して作製される不定形耐火物にあっては、一般的なアルミナ原料を使用した場合と比較して、アルミニウム溶湯に対する濡れ性が効果的に低減せしめられ得ると共に、不定形耐火物自体の流動性の向上により、混練時における必要水分量の低減を効果的に図り得て、従来から用いられている浸透抑制剤や分散剤を減量したりしても、更にはそれらを添加しなくても、アルミニウム溶湯の浸透を抑制乃至は阻止する効果を確保しつつ、不定形耐火物の施工時における水分量低減化効果を、有利に発現し得ることとなるのである。
【0034】
また、上述の如き特定の化学組成を有する高機能セラミック原料たるラウンド粒子は、不定形耐火物における耐火物主原料の構成成分の一つとして用いられるものであって、このようなラウンド粒子と併用される、他の緻密なセラミック原料としては、前述の如く、かかる特定の化学組成を有する焼結体の破砕物(破砕粒子)の他、耐火物主原料の全体として、前記した特定の化学組成を満たす範囲内において、公知のセラミック原料、例えばアルミナや黒鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコン、ムライト、シャモット、溶融シリカ等の骨材や粉粒体を用いることが可能である。なお、その際、本発明の特徴である、アルミニウム溶湯に対する非濡れ性の特性を充分に機能させるためには、アルミニウム溶湯により還元分解が生じるムライトやシャモットの如きAl23-SiO2 系の原料の使用は、可及的に少量に止めることが望ましい、と言うことが出来る。
【0035】
さらに、本発明にあっては、上述の如き特定の化学組成を全体として有する耐火物主原料において、その40~95質量%が、かかる特定の化学組成を有する1mm未満の粒度の微粉にて、構成されていることが望ましく、加えて、耐火物主原料の20~60質量%が、1mm-45μm(1mm未満、45μm以上)の粒度の微粉にて構成されており、且つ耐火物主原料の20~75質量%が、-45μm、換言すれば45μm未満の粒度の微粉にて構成されていることが望ましい。このような粒度構成のセラミック粒子を含む耐火物主原料を用いることによって、原料そのものにおける特徴が有利に発揮され得て、アルミニウム溶湯に対する不定形耐火物の耐浸透性が効果的に向上せしめられ得ることとなるのである。
【0036】
そして、本発明に従う不定形耐火物には、上述の如き耐火物主原料と共に、それを結合するための耐火性結合剤、例えばアルミナセメント、水硬性アルミナ、リン酸塩、ケイ酸塩、シリカゾル、樹脂等の公知の結合剤が、配合せしめられることとなる。この耐火性結合剤の使用量は、従来の不定形耐火物における含有割合と同様であり、一般に、不定形耐火物の1~30質量%程度の割合において、用いられることとなる。
【0037】
ところで、本発明に従う不定形耐火物は、従来の如き浸透抑制剤を用いることなく、アルミニウム溶湯に対して優れた浸透抑制効果を発揮し得るものであるが、そのような浸透抑制剤を併用することによって、アルミニウム溶湯の浸透抑制効果を、更に向上せしめることが可能となる。この浸透抑制剤としては、特に制限はなく、従来と同様なものを使用することが可能である。けだし、アルミニウムの融点は約660℃であり、アルミニウム溶解炉の操業温度は高くとも1000℃程度であるところから、例えばフッ化カルシウムやホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、ジルコンのような浸透抑制剤に対して、本発明に係る不定形耐火物の耐火物主原料を構成するコランダムやスピネルは、安定となるものであるために、それぞれの効果を損なうことはないからである。そして、かかる浸透抑制剤の使用量としては、従来と同様な割合、例えば、不定形耐火物の1~20質量%程度となる割合において、用いられることとなる。
【0038】
さらに、本発明に従う不定形耐火物には、分散剤の添加も、必須ではなく、任意となるものであるが、それが添加される場合には、リン酸ナトリウムやポリカルボン酸、ポリアクリル酸等の公知のものが適宜に選択され得る他、不定形耐火物の特性の向上のために、公知の各種の添加剤が、必要に応じて配合せしめられ得ることは、言うまでもないところである。
【0039】
かくの如く、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物は、上述の如き特定の化学組成を有する耐火物主原料や耐火性結合剤を必須成分として含み、更に必要に応じて、浸透抑制剤、分散剤等の公知の各種の添加剤を配合することによって、構成されるものであるところ、かかる耐火物主原料の不定形耐火物中の含有割合としては、本発明の目的を達成し得る範囲内において、適宜に選定されるところであるが、一般に、75~99質量%の範囲内となるように設定されることとなる。不定形耐火物中の耐火物主原料の含有割合が少なくなり過ぎると、不定形耐火物としての使用が困難となったり、本発明の特徴を効果的に発揮し難くなる等の問題を生じ易くなるからである。
【実施例0040】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、比較例と対比することにより、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例や比較例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが理解されるべきである。
【0041】
先ず、不定形耐火物における耐火物主原料として、下記表1に示される各種の耐火物原料(セラミック粒子)を準備した。そこにおいて、破砕粒子A,Bは、それぞれ、仮焼アルミナに、所定量のマグネシウム成分(酸化マグネシウム)やバインダを加えて、混練した後、ペレット状に造粒し、次いで、その得られた造粒物を乾燥した後、1700℃以上の温度で焼成することによって、焼結体を形成せしめ、更にその焼結体を機械的に破砕して、製造されたものである。
【0042】
また、ラウンド粒子イ、ロ、ハ、ニは、それぞれ、前記した破砕粒子A,Bと同様に焼成して得られたものであって、その中で、ラウンド粒子ロ及びハは、それぞれ、破砕粒子A又はBと同様な原料を用いて、ラウンド形状乃至は球状に造粒し、そしてその得られたラウンド形状/球状の造粒物を乾燥した後、ロータリーキルンで回転焼成することによって、製造されたものである。また、ラウンド粒子イ及びニは、それぞれ、破砕粒子Aと同様な原料を用いて、ペレット状に造粒して得られた造粒物を乾燥し、そしてそれを機械的に破砕した後、その得られた破砕物を、ロータリーキルンで回転焼成することによって、製造されたものである。
【0043】
なお、それら破砕粒子やラウンド粒子は、それぞれ整粒されて、それぞれの粒度の耐火物原料として、使用されることとなる。そして、かかる得られたラウンド粒子イ、ロ、及び前記の破砕粒子Aについて、それらの粒子形状を明らかにすべく、それらの顕微鏡写真を、それぞれ、図1図2及び図3に示す。また、耐火物原料として準備されるタビュラーアルミナは、市販の焼結アルミナ材料であり、電融アルミナとしては、市販品が用いられているが、それらは、何れも、破砕粒子となるものである。
【0044】
そして、それぞれの耐火物原料について、その主要鉱物相が、X線回折装置を用いて同定される一方、Al23、MgO及びSiO2 の各成分の含有比率は、蛍光X線分析装置で測定されたものである。更に、見掛け気孔率は、JIS-R-2205に準じて、測定されたものである。更にまた、用いた耐火物原料の円形度については、それぞれの原料粒子のうち、1mm-0.5mmの粒度の粒子について、光学顕微鏡によって撮影した粒子写真から、個々の粒子の面積と周長を用いて、本文中に示した計算式に従って算出し、無作為にサンプリングした50個の粒子についての平均値を求めて、それを、円形度(1-0.5mm粒)とした。それらの測定結果が、下記表1に示されている。なお、化学成分におけるSiO2 は、Al23及びMgO以外の、その他の成分の一つである。勿論、かかるその他の成分には、SiO2 のみならず、他の不純物成分も含まれることとなることは、言うまでもないところである。
【0045】
【表1】
【0046】
次いで、かかる準備された各種の耐火物原料を用いて、下記表2及び表3に示される各種の不定形耐火物を、各種粒度組成において、それぞれ調製した。即ち、実施例1~4では、耐火物主原料として、MgO含有量が0.08質量%の破砕粒子A材料と共に、円形度が0.84である、同様なMgO含有量のラウンド粒子イが用いられ、実施例5では、耐火物主原料として、MgO含有量が0.08質量%の破砕粒子A材料と共に、円形度が0.73である、同様なMgO含有量のラウンド粒子ニが用いられている。また、実施例6,7では、破砕粒子A材料と共に、円形度が球状に近い、0.88である、同様なMgO含有量のラウンド粒子ロが用いられ、更に実施例8においては、MgO含有量が25.7質量%の破砕粒子B材料と共に、円形度が0.86である、同様なMgO含有量のラウンド粒子ハが用いられている。そして、それら実施例におけるラウンド粒子イ~ニは、それぞれ、3-1mmの中粒部や1mm-45μmの微粒部に用いられて、混合粉粒体として、耐火物主原料が構成されるようになっている。なお、表2において、主原料の各粒度における数字の右横の括弧内のA、B、イ、ロ、ハ、ニの記号は、それぞれの粒度で用いられた破砕粒子又はラウンド粒子を示している。
【0047】
一方、比較例1及び2では、それぞれ、耐火物主原料として、破砕粒子A又はBのみが用いられており、また比較例3及び4では、耐火物主原料として、何れも、MgOを殆ど含有しない(Tr)、タビュラーアルミナ(焼結アルミナ)材料又は市販の電融アルミナ材料のみが、用いられている。そして、5-3mmの粗粒部、3-1mmの中粒部、1mm-45μmの微粒部及び-45μmの微粉部の配合割合は、何れも、実施例と同様に、10:20:30:25の割合となるように調整されている。
【0048】
ところで、実施例及び比較例においてそれぞれ調製された耐火物主原料は、下記表2及び表3に示される、5-3mmの粗粒部と、3-1mmの中粒部と、1mm-45μmの微粒部と、-45μmの微粉部とからなる粒度構成を有するものとされているが、そこにおいて、「5-3mm」の粒度の粗粒とは、セラミック粒子の分級に際して、粒子が5mm目の金網を通過し、且つ3mm目の金網は通過しない大きさを有するものであることを意味するものである。同様に、「3-1mm」の粒度の中粒は、3mm目の金網は通過するが、1mm目の金網は通過しないものを意味し、また「1mm-45μm」の粒度の微粒は、1mm目の金網は通過するが、45μm目の金網は通過しないものを意味し、更に「-45μm」の粒度の微粉は、45μm目の金網を通過する大きさのものであることを意味している。
【0049】
なお、下掲の表2及び表3に示される実施例や比較例に係る各不定形耐火物には、何れも、主原料以外の材料として、市販の仮焼アルミナと、硬化剤(耐火性結合剤)としてのハイアルミナセメントと、分散剤(リン酸ナトリウム)とが、それぞれ、下表に示される割合において、配合されている。
【0050】
そして、実施例及び比較例において採用される不定形耐火物の全ての配合組成を評価するに際しては、同程度の作業性であることを前提として、評価用の試験体を作製した。具体的には、先ず、作業性の指標として、タップフローが約160~170mmとなるように、添加水分量を調整し、混練時間5分、鋳込み作業完了までを10分以内とした。フロー値の測定は、JIS-R-2521に準じて行い、フローコーンを取り去ってから1分後の最大径部とその直交方向の径の平均値をフリーフロー値とし、このフリーフロー値の測定直後に、フロー台に約30秒で10回の落下衝撃を加えた後の最大径部とその直交方向の径の平均値をタップフロー値として、測定した。そして、試験体としては、物性/強度試験用の直方体形状と、浸食試験用の坩堝形状の2種類を作製した。具体的には、直方体形状は、40mm×40mm×160mmのサイズを採用する一方、坩堝形状の各寸法は、外径85mm、上部内径65mm、底部内径60mm、高さ60mm、底面厚さ10mmとした。更に、各試験体は、各不定形耐火物を、それぞれの形状の型枠に約3Gの振動を加えて鋳込んだ後、常温で24時間養生して、脱枠し、更に110℃の乾燥機で24時間の乾燥を行うことにより、作製した。その後、直方体試料については、850℃の温度で、72時間の焼成を実施した。
【0051】
実施例及び比較例の各不定形耐火物について、それぞれの流動性の評価は、添加水分とタップフロー値を総合して実施し、流動性が最も高いものを「++++」と評価すると共に、流動性が低下する毎に、「+++」、「++」、「+」として評価した。即ち、添加水分は、6%未満、6~7%、7%以上で区分し、タップフロー値は150mm未満、150~160mm、160~170mm、170mm以上に区分した上で、添加水分6%未満且つタップフロー値160~170mmを「++++」とし、添加水分6%未満且つタップフロー値150~160mm若しくは添加水分6~7%且つタップフロー値160~170mm及び170mm以上を「+++」とし、添加水分6~7%且つタップフロー値150~160mm若しくは添加水分7%以上且つタップフロー値160~170mm及び170mm以上を「++」、添加水分7%以上且つタップフロー値150~160mm若しくはタップフロー値150mm未満を「+」として評価し、ここでは、「+」の区分を、流動性不良と判定した。
【0052】
また、嵩比重及び見掛け気孔率の測定については、850℃で焼成して得られた直方体試料を用いて、JIS-R-2205に準じて実施すると共に、圧縮強度の測定については、かかる850℃で焼成した直方体試料を用いて、JIS-R-2553に準じて実施した。
【0053】
さらに、耐浸透性の評価は、アルミニウム溶湯を用いた坩堝浸食試験によって、実施した。具体的には、乾燥した坩堝形状の試料(成形体)に、アルミニウム合金(AC2B)溶湯を注湯して、電気炉内で850℃×72時間保持した後に、自然放冷し、そしてダイヤモンドカッターで縦方向に二分割した後、その断面部分へのアルミニウム合金の浸透状況及びアルミニウム合金と坩堝試料との付着状体を観察して、評価した。そこで、耐浸透性が最も高いものを、「++++」として、耐浸透性が低下する毎に、「+++」、「++」、「+」とした。詳しくは、坩堝形状試料の分割断面に、アルミニウム合金の浸透が確認出来ず、坩堝形状試料とアルミニウム合金とが、特に力を加えなくても、容易に剥離可能で有り且つ剥離後の坩堝形状試料とアルミニウム合金の接触面において、特に坩堝形状試料側に浸透の痕跡や黒色化した酸化皮膜の付着が確認されないものを、「++++」として評価した。また、断面にアルミニウム合金の浸透が確認出来ず、坩堝形状試料とアルミニウム合金とが、特に力を加えなくても、容易に剥離可能であるが、剥離後の坩堝形状試料とアルミニウム合金の接触面において、特に坩堝形状試料側に、数mm程度の浸透の痕跡や黒色化した酸化皮膜の付着が確認される場合を、「+++」と評価し、更に坩堝形状試料の分割断面にアルミニウム合金が一部浸透しており、坩堝形状試料とアルミニウム合金の剥離が困難である場合を、「++」と評価し、加えて坩堝形状試料の分割断面及び坩堝形状試料の背面までアルミニウム合金の浸透が確認され、坩堝形状試料の上部にオバケの生成が確認される場合を、「+」と評価した。そして、ここでは、「++」、「+」の区分を、耐浸透性不良と判定した。
【0054】
以上の測定方法乃至は評価方法に従って、実施例及び比較例に示される各種の不定形耐火物について評価された、フリーフロー値、タップフロー値、流動性、嵩比重、見掛け気孔率、圧縮強度、及び耐浸透性について、それらの結果を、下記表2及び表3に併せ示した。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
かかる表2及び表3の結果の対比から明らかな如く、実施例1~8は、同様な製法で作製された焼結品からなるセラミック骨材を用いた耐火物配合を採用するものであって、そこでは、本発明にて規定される化学組成を有するラウンド粒子乃至は球状粒子が用いられていることにより、流動性が向上した結果、必要添加水分量が減少する傾向が、確認される。なお、それらの実施例において用いられたラウンド粒子イ、ハ、ニの円形度は0.84、0.86及び0.73であり、球状粒子と認められるラウンド粒子ロにおいては、円形度が0.88であった。ここで、それらの実施例で用いたラウンド粒子イ及びロについて、それぞれの顕微鏡写真を図1及び図2として示すが、そのうち、図1に示されるラウンド粒子イにあっては、図2に示される球状のラウンド粒子とは異なり、やや扁平化していたり、アスペクト比が大きい等の、やや歪な粒子径状を呈していることが認められる。而して、それらラウンド粒子イ、ロ、ハ、ニの何れの添加によっても、流動性が向上しており、低水分化と緻密化の特性の向上が確認された。例えば、配合中の1mm-45μmの粒度のものをラウンド粒子イに置換した実施例2の試料は、比較例1と配合の化学組成及び粒度構成は同等であるにも関わらず、必要添加水分量は6.2%~5.5%へと、相対比で11%減少し、耐浸透性においても酸化皮膜の付着の減少が確認されたことから、流動性と耐浸透性において、より優れた特性を示しており、その上で、圧縮強度等の特性も同等であった。
【0058】
また、実施例4では、破砕粒子Aの3-1mm及び1mm-45μmの全量と、-45μmの半分強を、ラウンド粒子イの3-1mm及び1mm-45μmのものに置き換え、主原料配合中のラウンド粒子比率を約76%に高めたものであるが、そこでは、本実施例中最も高い流動性を示しており、必要添加水分量は、比較例1と比較して、6.2%から4.4%へと、相対比で29%減少する結果が得られている。また、より円形度の高い球状のラウンド粒子ロを用いた実施例6及び7の場合にあっては、その使用比率の増加に伴う流動性の向上、低水分化、緻密化の傾向が認められる。更に、鉱物相がスピネルであるラウンド粒子ハを用いた実施例8においては、ラウンド粒子イやラウンド粒子ロ、ニにおけるコランダム相とは異なる鉱物相であるスピネル相のラウンド粒子であっても、同様の低水分化と緻密化効果が確認され得るのである。
【0059】
さらに、実施例1~8のうち、MgO含有量の多い破砕粒子Bとラウンド粒子ハを使用した実施例8では、耐浸透性が著しく優れていることを示し、また、MgO含有量の少ない破砕粒子Aとラウンド粒子イ、ロ、ニを用いた実施例1~7においても、充分な耐浸透性を有していることが、認められるのである。しかるに、MgOを殆ど含まないコランダム質のタビュラーアルミナや電融アルミナを用いた比較例3,4では、僅か72時間の浸透試験で、アルミニウム溶湯が坩堝形状試料の背面まで達していることを認めることが出来る。このようなことから、耐火物主原料中に含まれるMgOの有無によって、アルミニウム溶湯に対する耐浸透性が大きく変動することを認めることが出来る。
【0060】
これに対して、比較例1~4は、何れも、破砕粒子のみを用いた耐火物主原料の配合となっているところから、実施例1~8において採用される耐火物主原料の配合に比べて、必要添加水分量が多くなり、流動性において、充分ではないことが認められる。なお、比較例1及び2において用いられる破砕粒子A,Bは、何れも、比較例3,4において用いられるタビュラーアルミナや電融アルミナとは異なり、所定量のMgOを含有するものであるところから、アルミニウム溶湯に対する耐浸透性に関しては、向上せしめられていることを認めることが出来る。また、破砕粒子Aについて、その顕微鏡写真が図3に示されているが、そこでは、破断面を有し、且つ鋭角の角部を有する角張った形状の粒子であることが、明らかにされている。
【0061】
なお、かくの如き本発明に従う不定形耐火物の耐浸透性に係る特徴は、また、浸透抑制剤を併用することにより、有利に向上せしめられ得ることとなる。下記表4に示される実施例9~11及び比較例5~7の結果は、それぞれ、実施例1及び比較例1における不定形耐火物の配合組成を基本とし、浸透抑制剤として、硫酸バリウム(BaSO4 )を、外掛けで、2~10%添加した場合における耐火物評価を、明らかにしている。
【0062】
【表4】
【0063】
かかる表4の結果より明らかなように、実施例9~11においては、浸透抑制剤(硫酸バリウム)の更なる添加により、先の表2における実施例1の結果よりも、アルミニウム合金溶湯に対する耐浸透性が向上することが、認められる。また、浸透抑制剤の添加量が増加することにより、耐浸透性が向上する結果となっており、5%以上の添加により、優れた耐浸透性が得られている。しかも、ラウンド粒子イを、1mm-45μmの粒度の粒子として用いた実施例9~11の方が、破砕粒子Aのみを使用した比較例5~8と比較して、同じ浸透抑制剤の添加量でも、より耐浸透性が高い結果となっている。これは、同時に、ラウンド粒子を不定形耐火物の骨材として混合して使用することで、より少ない浸透抑制剤の添加により、耐浸透性に優れた不定形耐火物を得ることが出来ることを示唆しているものと認められる。
【0064】
また、実施例3及び比較例1における分散剤の使用量を、外掛けの0.1%から、外掛けで0.05%に変更して、得られた不定形耐火物についての評価結果が、実施例12及び比較例8として、それぞれ、下記表5に示されている。なお、表5には、実施例3及び比較例1の耐火物評価結果も、併せて示されている。
【0065】
【表5】
【0066】
かかる表5の結果より明らかなように、分散剤の使用量を1/2に減量しても、実施例12の結果に示される如く、流動性及び耐浸透性の何れにおいても、優れた特性を有する不定形耐火物を調製し得ることは明らかである。これに対して、本発明に従うラウンド粒子を混合していない不定形耐火物にあっては、分散剤の配合量を少なくすると、比較例8の結果よりして、流動性が著しく悪化し、実用に供し得ないことが明らかとなった。
図1
図2
図3