(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074560
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】建設作業施工方法及び建設作業施工装置
(51)【国際特許分類】
E04G 21/14 20060101AFI20240524BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240524BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20240524BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20240524BHJP
B25J 9/10 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
E04G21/14
G01C15/00 103Z
E04G21/16
E04F13/02 B
B25J9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185805
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】511100693
【氏名又は名称】株式会社三松
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】上田 航平
(72)【発明者】
【氏名】坂上 肇
(72)【発明者】
【氏名】池田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田名部 徹朗
(72)【発明者】
【氏名】西尾 昭
【テーマコード(参考)】
2E174
3C707
【Fターム(参考)】
2E174DA52
3C707AS13
3C707AS21
3C707BS12
3C707CS08
3C707KS03
3C707KS17
3C707KS36
3C707KT01
3C707LT11
3C707MT04
3C707WA16
(57)【要約】
【課題】建設部材の施工対象面に対して的確に処理を実行する建設作業施工方法及び建設作業施工装置を提供する。
【解決手段】ロボットアーム25が固定された吹付け装置20の本体部21の周囲の予め定められた位置に、複数のターゲットを配置する。吹付け装置20の本体部21に、鉛直軸を中心として回転するように距離計測器46を設けるとともに、ロボットアーム25の先端部26の位置を調整する制御部51を設ける。そして、距離計測器46を、水平面で旋回させることによりターゲットまでの距離及び旋回角度を計測する。制御部51は、計測した距離及び旋回角度を用いて、吹付け装置20の本体部21の姿勢を特定し、この姿勢に応じてロボットアーム25の先端部26の位置を調整して、施工対象面16aに対して、梁16の施工対象面16aに対する吹付け作業を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームを用いて、建設部材の施工対象面に対する建設作業を施工する建設作業施工方法であって、
前記ロボットアームが固定された装置本体の周囲の予め定められた位置に、複数のターゲットを配置し、
水平面で旋回する距離計測器で前記各ターゲットまでの距離及び旋回角度を計測し、
前記計測した距離及び旋回角度を用いて、前記装置本体の姿勢を特定し、
前記姿勢に応じて、前記ロボットアームの先端部の位置を調整して、前記施工対象面に対して施工を行なうことを特徴とする建設作業施工方法。
【請求項2】
前記装置本体は撮影装置を備え、
前記撮影装置が撮影した撮影画像の視野の中心鉛直軸上に、前記距離計測器のレーザ光を照射し、
前記撮影画像の中心鉛直軸上にターゲットがある場合に、前記距離計測器で距離を計測することを特徴とする請求項1に記載の建設作業施工方法。
【請求項3】
前記先端部には、前記施工対象面を被覆する吹付け材を吐出する吐出部を取り付け、
前記吐出部から前記吹付け材を吹付ける作業を、前記建設作業として行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の建設作業施工方法。
【請求項4】
ロボットアームを用いて、建設部材の施工対象面に対する建設作業を施工する建設作業施工装置であって、
前記ロボットアームが固定された装置本体の周囲の予め定められた位置に、複数のターゲットを配置し、
前記装置本体に、鉛直軸を中心として回転するように距離計測器を設けるとともに、前記ロボットアームの先端部の位置を調整する制御部を設け、
前記距離計測器を水平面で旋回させることにより、前記各ターゲットまでの距離及び旋回角度を計測し、
前記制御部は、
前記計測した距離及び旋回角度を用いて、前記装置本体の姿勢を特定し、
前記姿勢に応じて前記ロボットアームの先端部の位置を調整して、前記施工対象面に対して施工を行なうことを特徴とする建設作業施工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建設部材の施工対象面に対して吹付け材を吹付ける吹付け方法等の建設作業施工方法及び建設作業施工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームを利用して、梁に耐火被覆材を吹付ける場合、吹付け作業対象面に対して実施する吹付け内容に基づいて作成されるジョブファイルを用いることがある(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の建設作業装置は、ロボットアームの動作を制御するアーム制御装置を備える。アーム制御装置は、作業対象面を設定された建設部材の設計情報と、作業対象面に対して実施する作業内容とに基づいて作成されるジョブファイルに従って、ロボットアームを動作させる。更に、アーム制御装置は、設計情報と現実の表面形状に係る計測データとに基づいて、位置及び姿勢に係る施工誤差を検出し、この検出された施工誤差に基づいて、ジョブファイルを修正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、位置及び姿勢に係わる施工誤差の検出に、施工対象の天井梁を含む作業周辺領域の3次元形状モデルとしての点群モデルを生成する。このため、点群モデルの生成のためには、3次元の点群を取得する必要がある。この場合、1軸回りに回転させながらレーザを照射させた層を複数、取得する。従って、施工誤差を特定するために、手間や時間が掛かっていた。更に、この点群モデルを用いて位置を推定した場合には、数cm~数十cmの誤差が生じることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する建設作業施工方法は、ロボットアームを用いて、建設部材の施工対象面に対する建設作業を施工する建設作業施工方法であって、前記ロボットアームが固定された装置本体の周囲の予め定められた位置に、複数のターゲットを配置し、水平面で旋回する距離計測器で前記各ターゲットまでの距離及び旋回角度を計測し、前記計測した距離及び旋回角度を用いて、前記装置本体の姿勢を特定し、前記姿勢に応じて、前記ロボットアームの先端部の位置を調整して、前記施工対象面に対して施工を行なう。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、建設部材の施工対象面に対して的確に処理を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態における吹付け装置の作業現場を説明する斜視図である。
【
図2】実施形態における吹付け装置の構成を説明する模式図である。
【
図3】実施形態のハードウェア構成の説明図である。
【
図4】実施形態における吹付け装置の上から見た構成を説明する模式図である。
【
図5】実施形態における吹付け装置の計測ユニットの斜視図である。
【
図6】実施形態における吹付け装置の位置とターゲットの位置との関係を説明する説明図である。
【
図7】実施形態における第1及び第2ターゲットと吹付け装置との位置及び角度の関係を示した説明図である。
【
図8】実施形態において吹付け装置の座標、現場座標、既知の角度、計測角度及び姿勢角度の関係を説明する説明図である。
【
図9】実施形態における移動後の吹付け工程の作業手順を示す流れ図である。
【
図10】実施形態において吹付け処理を実行した状態を説明する説明図である。
【
図11】実施形態の吹付け工程においてターゲットまでの測距処理、位置及び姿勢の推定処理及びジョブファイルの修正処理の処理手順を説明する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図11を用いて、建設作業施工方法及び建設作業施工装置を具体化した実施形態を説明する。本実施形態では、建設作業として建設部材に対する仕上げ作業等の施工方法及び施工装置として、吹付け対象としての梁の施工対象面に吹付け材を吹付ける吹付け方法及び吹付け装置に適用して説明する。
【0009】
図1に示すように、本実施形態の吹付け装置20は、柱15とともに建物10を構成する梁16に対して、吹付け材を吹付ける。本実施形態では、梁16における吹付け装置20側のウェブが、施工対象面16aとなる。
【0010】
更に、建物10内には、離間するターゲットT1,T2を配置する。各ターゲットT1,T2は、吹付け装置20との距離をそれぞれ計測するために用いられ、それぞれ予め決められた位置(所定の座標位置)に配置される。
図2は、
図1に示した吹付け装置20を拡大した模式図である。この吹付け装置20の本体部21には、端末装置50が内蔵されている。
【0011】
(ハードウェア構成例)
図3は、端末装置50等として機能する情報処理装置H10のハードウェア構成例である。
【0012】
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0013】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインターフェースであり、例えばネットワークインターフェースや無線インターフェース等である。
【0014】
入力装置H12は、ユーザの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。
表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。
記憶装置H14は、端末装置50の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0015】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、端末装置50における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、CPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各種処理に対応する各種プロセスを実行する。例えば、プロセッサH15は、端末装置50のアプリケーションプログラムが起動された場合、後述する各処理を実行するプロセスを動作させる。
【0016】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、以下で構成し得る。
【0017】
(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ
(2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路
(3)それらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)
【0018】
プロセッサH15は、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0019】
(吹付け装置20の構成)
図2に示すように、吹付け装置20は、本体部21、横行装置、ロボットアーム25、吹付け部30、計測ユニット40及び端末装置50を備える。
【0020】
本体部21には、ロボットアーム25の昇降装置が内蔵されている。本体部21の下方に設けられた横行装置は、回転可能な離間した4個の車輪22を有する。これら車輪22には回転を不能にするストッパ(図示せず)が設けられており、移動先等の任意の位置で吹付け装置20を据え付けることができる。
【0021】
更に、本体部21の上面には、ロボットアーム25が固定されている。
ロボットアーム25は、6軸自由度の多関節構造を有する。具体的には、このロボットアーム25は、本体部21に固定された位置において、鉛直方向に延在する第1軸を中心として回転可能な回転機構を有している。ここで、第1軸とは、吹付け装置20の上面に対して直交する第1軸となるローカル座標のz軸である。このローカル座標(x,y,z)は、吹付け装置20における座標であって、例えば、本体部21におけるロボットアーム25の固定部を、水平面の原点(x=0,y=0)とし、計測ユニット40の高さの座標を垂直軸の原点(z=0)とする。
【0022】
ロボットアーム25の先端部26には、吹付け部30が固定されている。吹付け部30は、ロボットアーム25の先端部26において、取付部材27を介して取り付けられる。吹付け部30は、筒状の本体部31及び吐出部としてのガンヘッド32を備える。ガンヘッド32は、本体部31の先端(施工対象面16a側)に固定される。本体部31のガンヘッド32と反対側には、吹付け材を供給する供給ホースが連結される。本実施形態のガンヘッド32は、先端部26と平行となる方向で、吹付け材を施工対象面16aに向けて噴出(吐出)する。ここで、吹付け材としては、グラスウールやモルタル等の耐火被覆材を用いる。
【0023】
(計測ユニット40の構成)
吹付け装置20の本体部21には、下部に、計測ユニット40が設けられている。
この計測ユニット40は、ターゲットT1,T2を用いて、吹付け装置20の配置(位置及び姿勢)を特定するために、吹付け装置20と各ターゲットT1,T2との距離及び角度を特定する。このため、計測ユニット40は、各ターゲットT1,T2の高さと同じ高さで吹付け装置20に設けられている。なお、
図2、
図4及び
図10における計測ユニット40は、設置位置が分かりやすいように吹付け装置20の外側に表示しているが、吹付け装置20の角部に設けた凹部に配置される。
【0024】
図4に示すように、本実施形態では、2個の計測ユニット40が、吹付け装置20の長手方向の両端部で、短手方向の対向する端部に配置される。2個の計測ユニット40は、同じ構成を有し、カメラ45及び距離計測器46がそれぞれ外側(相反する方向)に向くように配置されている。これにより、2個の計測ユニット40によって、吹付け装置20の全周を撮影することが可能である。なお、
図4及び
図6においては、取付部材27及び吹付け部30の図示を省略している。
【0025】
図5に示すように、計測ユニット40においては、回転台41上に、撮影装置としてのカメラ45及び距離計測器46が固定される。
回転台41は、基台部41bの上に回転可能に設けられた回転部41aを備える。回転部41aは、基台部41bに内蔵された回転機構によって回転する。そして、端末装置50の制御に応じて、回転部41aを所定角度で回転させる。そして、回転台41は、基準方位に対する回転角度を特定し、この回転角度の情報を端末装置50に送信する。
【0026】
回転台41の回転部41aの上には、カメラ45が設けられている。カメラ45は、レンズ45Rを用いて、回転部41aが停止した位置において吹付け装置20の周囲を撮影する。そして、カメラ45は、撮影した画像(撮影画像)を、端末装置50に送信する。
【0027】
カメラ45の上には、距離計測器46が固定されている。この距離計測器46は、射出部46aから射出するレーザ光を用いて距離を計測するレーザ計測器である。本実施形態では、距離計測器46は、カメラ45の視野の中心に向けてレーザ光が射出するように、距離計測器46を配置する。距離計測器46は、照射したレーザ光がターゲットT1,T2において反射されることにより戻ってきた時間を用いて、ターゲットT1,T2までの距離を特定する。
【0028】
(端末装置50の構成)
図2に示す端末装置50は、上述したロボットアーム25の先端部26の位置を制御する。この端末装置50は、回転台41からの回転部41aの回転角度、カメラ45からの撮影画像、距離計測器46から計測したターゲットT1,T2までの距離を取得する。
【0029】
端末装置50は、制御部51及びジョブデータ記憶部52を備える。
制御部51は、後述する処理(移動制御段階、計測段階、推定段階、修正段階及び吹付け制御段階等を含む処理)を行なう。このための吹付け処理プログラムを実行することにより、制御部51は、移動制御部511、計測部512、推定部513、修正部514及び吹付け制御部515等として機能する。
【0030】
移動制御部511は、吹付け装置20の横行移動及び停止(据え付け)を制御する。
計測部512は、計測ユニット40を用いてターゲットT1,T2までの距離と、この距離を取得したときの角度とを取得する。このために、計測部512は、ターゲットT1,T2の位置を大まかに特定するために用いる第1角度と、位置を正確に特定するために用いる第2角度とを記憶している。例えば、第1角度としては10°、第2角度としては、第1角度よりも小さい1°を用いる。そして、計測部512は、取得した画像においてターゲットT1,T2を認識するためのマッチングデータを記憶している。
【0031】
推定部513は、取得したターゲットT1,T2との距離及び角度を用いて、吹付け装置20の位置及び姿勢の推定処理を実行する。このために、本実施形態の推定部513は、ターゲットT1,T2と現場座標との既知の角度AK1を記憶している。更に、この計測部512には、吹付け装置20の角に配置された計測ユニット40と、吹付け装置20の中心座標との距離及び角度を記憶している。この推定部513が実行する吹付け装置20の位置及び姿勢の推定方法の詳細は後述する。
【0032】
修正部514は、推定部513が推定した吹付け装置20の配置(位置及び姿勢)を用いて、ジョブデータ記憶部52に記憶したジョブファイルを修正する。
吹付け制御部515は、ジョブファイルに基づいて、吹付け部30のガンヘッド32から吹付け材を吐出して吹付け処理を実行する。
【0033】
ジョブデータ記憶部52は、ジョブファイルを記憶している。本実施形態では、ジョブファイルとして、予定位置における修正前のジョブファイルと、修正後のジョブファイルとを記憶している。各ジョブファイルには、吹付け装置20の固定位置と、この固定位置に関連付けられたロボットアーム25の先端部26やガンヘッド32の作業位置情報とが含まれる。ここで、吹付け装置20の固定位置とは、吹付け装置20が作業するために据え付けられる位置であり、横行装置で移動して停止する予定位置である。また、作業位置情報は、吹付け処理を行なう位置情報である。修正前のジョブファイルの作業位置情報には、固定位置において吹付け処理を行なうときのガンヘッド32の中心からの施工対象面16aまでの設定距離と、このときのガンヘッド32の中心位置のローカル座標(x,y,z)とが含まれる。修正後のジョブファイルの作業位置情報には、移動後の吹付け装置20の配置に応じて修正された設定距離と、ガンヘッド32の中心位置のローカル座標とが含まれる。また、ガンヘッド32の中心位置座標の代わりに、ロボットアーム25の先端部26の中心位置のローカル座標(x,y,z)を作業位置情報に含めてもよい。
【0034】
(吹付け装置20の位置の推定方法)
次に、
図6~
図9を用いて、ターゲットT1,T2との距離及び角度を用いて、端末装置50の推定部513が、吹付け装置20の位置及び姿勢を推定する方法について詳述する。
【0035】
例えば、
図6に示すように、梁16と対向して位置P1に据え付けられていた吹付け装置20を、梁16の延在方向の予定位置P3に移動させる場合を想定する。ここでは、制御部51の移動制御部511は、予定位置P3に移動したと判断した場合、車輪22のストッパを用いて、吹付け装置20を固定する。本実施形態では、予定位置P3に対して、梁16の延在方向に対して少し傾斜した位置P2に移動した場合を想定する。
【0036】
ここで、
図7に示すように、現場座標の原点O、吹付け装置20の位置R1、ターゲットT1,T2の位置の座標を、それぞれ(0,0)、(rx,ry)、(t1x,t1y)、(t2x,t2y)とする。
【0037】
ターゲットT2は、ターゲットT1よりも、現場座標の原点からy軸上で近い位置にある(t2y≦t1y)。ここで、例えば、吹付け装置20の座標(rx,ry)としては、吹付け装置20の中心の座標を用いる。
【0038】
ターゲットT1,T2は、予め定めた位置にあるため、ターゲットT1,T2の距離Ltは、判明している。また、距離計測器46と回転台41によって吹付け装置20と各ターゲットT1,T2の距離L1,L2を取得できる。このため、ターゲットT1,T2の距離Ltは、
図7の(1)式で表される。
【0039】
そして、余弦の定理から、ターゲットT2において、ターゲットT1と吹付け装置20とがなす角度θt2は、(1)式を用いて、
図7の(2)式で表される。
よって、ターゲットT2の外角Ψ,φは、それぞれ以下のように示される。
t2y≦t1yの場合には、cosψ=(t1y-t2y)/Lt …(3)
従って、φ=180-θt2-ψである。
【0040】
また、t1y<t2yの場合には、sinψ=(t1y-t2y)/Lt …(4)
従って、φ=90-θt2-ψである。
【0041】
以上により、吹付け装置20の位置R1(rx,ry)は、以下となる。
rx=L2×sinφ+t2x …(5)、 ry=t2y-L2×cosφ …(6)
【0042】
このため、
図8に示すように、ターゲットT2と現場座標のX軸とがなす既知の角度AK1と、吹付け装置20の姿勢角度AP1との和が、ターゲットT2と、吹付け装置20におけるローカル座標のx軸とがなす角度AM1である。この角度AM1は、ターゲットT2との距離を計測した際に、回転台41が回転したターゲットT2との旋回角度に相当する。この旋回角度は、吹付け装置20のローカル座標のx軸を基準方向とし、この基準方向に対するターゲットT2の角度である。
【0043】
従って、計測した角度AM1から、記憶している既知の角度AK1を減算することにより、吹付け装置20の傾き(姿勢角度AP1)を特定することができる。また、ターゲットT1,T2の距離及び角度から、現場座標における吹付け装置20の位置R1(rx,ry)を特定することができる。
【0044】
(吹付け処理)
次に、
図2、
図9~
図11を用いて、上述した構成の吹付け装置20の吹付け処理について説明する。
図9は、吹付け工程における全体の流れ図、
図11は、
図9における移動後の配置に応じた修正処理における各処理の詳細を説明する流れ図である。
【0045】
まず、端末装置50の制御部51は、吹付け位置への移動処理を実行する(ステップS11)。具体的には、制御部51の移動制御部511は、吹付け装置20の車輪22を駆動することにより、吹付け作業を行なう固定位置に吹付け装置20を移動させる。
【0046】
次に、端末装置50の制御部51は、移動後の配置に応じた修正処理を実行する(ステップS12)。具体的には、制御部51は、ターゲットまでの測距処理、位置及び姿勢の推定処理及びジョブファイルの修正処理を実行する。これにより、移動した移動先の実際の配置に応じて、ジョブファイル中の作業位置情報を修正する。この具体的な処理の詳細については、後述する。
【0047】
そして、端末装置50の制御部51は、吹付け処理を実行する(ステップS13)。具体的には、制御部51の吹付け制御部515は、ジョブデータ記憶部52に記憶された修正後のジョブファイルを用いて、吹付け材をガンヘッド32から吐出することにより吹付け処理を実行する。
この場合、
図10に示すように、吹付け装置20のガンヘッド32を梁16の施工対象面16aに対向させて吹付け処理を実行する。
【0048】
(移動後の配置に応じた修正処理)
次に、
図11を用いて、移動後の配置に応じた修正処理(ステップS12)を説明する。ここでは、
図5の位置P2に移動した場合について説明する。この場合、制御部51の計測部512は、吹付け装置20に設けられた2個の計測ユニット40を稼働して、ターゲットT1,T2までの距離を計測する。
【0049】
まず、制御部51の計測部512は、回転部を第1角度ずつ回転した撮影処理を実行する(ステップS21)。具体的には、計測部512は、回転台41の基台部41bに内蔵された回転機構を予め定めた第1角度(10°)ずつ回転させる。この場合、第1角度ずつ回転させる度に、カメラ45で撮影を行なう。そして、カメラ45は、撮影により生成した撮影画像を端末装置50の制御部51に送信する。この場合、撮影画像には、撮影されたときの回転台41の回転部41aの回転角度の情報が関連付けられる。
【0050】
そして、制御部51の計測部512は、カメラでターゲットをキャプチャしたか否かの判定処理を実行する(ステップS22)。具体的には、計測部512は、取得した複数の撮影画像と、記憶しているデータとをマッチングすることにより、撮影画像のうち、ターゲットT1,T2が、撮影画像の視野中心に近い位置で撮影されている撮影画像を特定する。
【0051】
ここで、撮影画像にターゲットT1,T2が含まれていない場合(ステップS22において「NO」の場合)には、制御部51の計測部512は、回転部41aを第1角度ずつ回転した撮影処理(ステップS21)を再度、実行する。
【0052】
また、撮影画像にターゲットT1,T2が含まれている場合(ステップS22において「YES」の場合)には、制御部51の計測部512は、特定した撮影画像を撮影したときの回転台41の回転部41aの角度を特定する。そして、計測部512は、特定した回転部41aの角度から、ターゲットT1,T2が位置する走査角度範囲を特定する。
【0053】
次に、制御部51の計測部512は、回転部を第2角度ずつ回転した撮影処理を実行する(ステップS23)。具体的には、計測部512は、回転台41の回転機構を駆動することにより、特定した走査角度範囲において、回転部41aを予め定めた第2角度(1°)ずつ回転させる。この場合、第2角度ずつ回転させる度に、カメラ45は、撮影により生成した撮影画像を、回転部41aの回転角度の情報に関連付けて、端末装置50の制御部51に送信する。
【0054】
そして、制御部51の計測部512は、ターゲットがカメラの視野範囲の中心鉛直軸上にあるか否かの判定処理を実行する(ステップS24)。具体的には、計測部512は、取得した複数の撮影画像と、記憶しているデータとをマッチングすることにより、撮影画像のうち、ターゲットT1,T2が、撮影画像の中心位置における鉛直軸上(中心鉛直軸)に重なったか否かを判定する。
【0055】
ここで、ターゲットがカメラの視野範囲の中心鉛直軸上にない場合(ステップS24において「NO」の場合)には、制御部51の計測部512は、ステップS23以降の処理を実行する。具体的には、計測部512は、特定した走査角度範囲において、回転部41aを第2角度ずつ回転した撮影処理を実行する(ステップS23)。
【0056】
また、ターゲットがカメラの視野範囲の中心鉛直軸上にある場合(ステップS24において「YES」の場合)には、制御部51の計測部512は、このときの撮影画像を撮影したときの角度に回転部41aが回転するように、回転台41の回転機構を駆動する。
【0057】
次に、制御部51の計測部512は、ターゲットまでの距離の計測処理を実行する(ステップS25)。具体的には、計測部512は、計測ユニット40の距離計測器46を駆動して、ターゲットT1,T2までの距離を計測する。
【0058】
そして、制御部51の計測部512は、ターゲットまでの距離を取得できたか否かの判定処理を実行する(ステップS26)。具体的には、計測部512は、設置した2個のターゲットT1,T2の距離が取得できなかった場合(ステップS26において「NO」の場合)には、ステップS21以降の処理を実行する。なお、この場合、一方のターゲットT1(T2)の距離が取得できた場合には、取得できた距離を、ターゲットT1,T2を特定する識別子に関連付けて記憶し、もう一方のターゲットT2(T1)について、ステップS21以降の処理を実行する。
【0059】
また、制御部51は、設置した2個のターゲットT1,T2の距離が取得できた場合(ステップS26において「YES」の場合)には、後方交会法による自己位置推定処理を実行する(ステップS31)。具体的には、制御部51の推定部513は、現場座標における吹付け装置20の位置R1(rx,ry)を特定する。この特定においては、計測ユニット40と吹付け装置20の中心座標との距離及び角度と、吹付け装置20からターゲットT1,T2までの距離L1,L2と、これら距離L1,L2を計測したときの角度と、を用いる。
【0060】
次に、制御部51は、回転角度による姿勢推定処理を実行する(ステップS32)。具体的には、制御部51の推定部513は、記憶している既知の角度AK1と、計測した角度AM1とを用いて、吹付け装置20の姿勢角度AP1を算出する。この場合、ターゲットT1,T2の距離を計測時に取得したそれぞれの角度を用いて吹付け装置20の姿勢角度AP1を算出する。ここで、ターゲットT1,T2からそれぞれ算出した姿勢角度AP1が異なる場合には、平均値を姿勢角度AP1として特定する。
【0061】
次に、制御部51の修正部514は、ジョブファイルの修正処理を実行する(ステップS41)。具体的には、修正部514は、吹付け装置20の予定位置P3におけるジョブファイルを、ジョブデータ記憶部52から抽出する。
【0062】
そして、修正部514は、取得した各ジョブファイルにおけるローカル座標を、吹付け装置20の実際の配置で実現するための変換式を算出する。具体的には、修正部514は、予定位置P3において吹付け装置20の中心が、位置R1(rx,ry)に移動した状態において、予定位置P3のときに施工対象面16aに対して吹付け処理を行なう配置となるような変換式を算出する。
【0063】
そして、この変換式を用いて変換したローカル座標(x,y)を、水平面における円筒座標(r,θ)に変換する。更に、この円筒座標において、(角度θに対応する)算出した姿勢角度AP1分、逆に旋回したときの座標を算出する。この場合、水平面のローカル座標(x,y)の原点(0,0)を、水平面の円筒座標(r,θ)の原点(0,0)として用いる。
【0064】
そして、修正部514は、算出した水平面の円筒座標を、吹付け装置20のローカル座標に変換する。結果として、吹付け装置20が実際の位置R1(rx,ry)で実際の姿勢角度AP1(θ)に傾いて配置された状態で、予定位置P3における予定座標で、施工対象面16aに平行な予定姿勢で吹付け処理を行なえるように、予定位置P3のジョブファイルにおけるガンヘッド32のローカル位置が修正される。
そして、修正部514は、変換したローカル座標を、ジョブデータ記憶部52に、修正後のデータとして記録する。
【0065】
(作用)
吹付け装置20の制御部51は、吹付け装置20と各ターゲットT1,T2との距離及び角度から、現場座標における吹付け装置20の位置R1及び姿勢角度AP1を特定する。特定した吹付け装置20の位置R1及び姿勢角度AP1に応じて、施工対象面16aの相対位置及び姿勢の修正を行なう。
【0066】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、吹付け装置20の制御部51は、各ターゲットT1,T2との距離及び角度から、現場座標における吹付け装置20の位置R1及び姿勢角度AP1を特定する。更に、制御部51は、特定した吹付け装置20の位置R1及び姿勢角度AP1に応じて、ジョブファイルを修正し、このジョブファイルを用いて吹付け処理を実行する。このため、効率的に修正を行なって、的確な吹付け処理を行なうことができる。
【0067】
(2)本実施形態では、吹付け装置20の制御部51は、カメラ45でターゲットT1,T2をキャプチャできた場合(ステップS22において「YES」の場合)、より細かい第2角度で回転部41aを回転して撮影を行なう。これにより、効率的に、ターゲットT1,T2を特定することができる。
【0068】
(3)本実施形態では、吹付け装置20の対向する角に2つの計測ユニット40を設ける。これにより、吹付け装置20の周囲にあるターゲットT1,T2を効率的に特定することができる。
【0069】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、端末装置50の制御部51は、取得した吹付け装置20の位置R1(rx,ry)と姿勢角度AP1とを用いて修正したジョブファイルを用いて吹付け処理を実行した。ジョブファイルを修正する代わりに、吹付け処理を行なう際に、算出した座標(x,y)から位置R1(rx,ry)のズレと姿勢角度AP1と、ジョブファイルの座標とを用いて、修正を行なってもよい。
【0070】
・上記実施形態においては、ジョブファイルに記載された吹付け装置20のガンヘッド32の位置やロボットアーム25の先端部26の位置を修正した。ガンヘッド32の位置とロボットアーム25の先端部26とは、一定の位置関係にある。このため、ガンヘッドの位置を修正することにより、ロボットアーム25の先端部26を調整してもよいし、ロボットアーム25の先端部26の位置を調整して、ガンヘッド32の位置を調整してもよい。すなわち、建設作業を行なうために必要な位置の調整を、ロボットアームの先端部の位置及びこれと一定位置にある部材の位置の調整ができればよい。
【0071】
・上記実施形態では、梁16に対して、平行に移動させたい吹付け装置20が移動後に予定位置P3からズレたり傾いたりした場合について説明した。吹付け装置20がズレたり傾いたりした場合だけでなく、梁16が予定位置からズレたり傾いて配置された場合においても、同様に適用することができる。
【0072】
・上記実施形態では、建設作業施工方法として吹付け方法を行なった。施工方法は、これに限らず、例えば建設部材の表面に付着、孔開口、表面ならし等、位置決めをしながら建設部材に対して施工を行なう建設作業施工方法であればよい。
【0073】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)ロボットアームの先端部の位置に基づいて、施工対象面との距離、前記施工対象面に対する前記先端部の位置を修正するための修正方法であって、
前記ロボットアームが固定された装置本体の周囲の予め定められた位置に、複数のターゲットを配置し、
水平面で旋回する距離計測器で前記各ターゲットまでの距離及び旋回角度を計測し、
前記計測した距離及び旋回角度を用いて、前記装置本体の姿勢を特定し、
前記姿勢に応じて、前記ロボットアームの先端部の位置を調整することにより、前記先端部の位置を調整することを特徴とする修正方法。
【符号の説明】
【0074】
Ψ,φ…外角、L1,L2,Lt…距離、P1,P2,R1…位置、P3…予定位置、T1,T2…ターゲット、θt2,AK1,AM1…角度、AP1…姿勢角度、10…建物、15…柱、16…梁、16a…施工対象面、20…吹付け装置、21…装置本体としての本体部、22…車輪、25…ロボットアーム、26…先端部、27…取付部材、30…吹付け部、31…本体部、32…ガンヘッド、40…計測ユニット、41…回転台、41a…回転部、41b…基台部、45…カメラ、45R…レンズ、46…距離計測器、46a…射出部、50…端末装置、51…制御部、52…ジョブデータ記憶部、511…移動制御部、512…計測部、513…推定部、514…修正部、515…吹付け制御部。