(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074572
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】アンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240524BHJP
E02D 27/00 20060101ALI20240524BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20240524BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
E02D27/00 Z
E02D27/34 B
E02D27/00 A
E04B1/58 510C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185830
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】504451690
【氏名又は名称】半澤 薫和
(74)【代理人】
【識別番号】100142550
【弁理士】
【氏名又は名称】重泉 達志
(72)【発明者】
【氏名】半澤 薫和
(72)【発明者】
【氏名】半澤 和夫
【テーマコード(参考)】
2D046
2E125
2E139
【Fターム(参考)】
2D046AA13
2D046DA12
2E125AA03
2E125AA45
2E125BA02
2E125CA05
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA21
2E139CB04
(57)【要約】
【課題】土台への貫通孔の削孔作業を容易に行うことができ、建築物の建築に要するコスト及び工数の低減を図ることのできるアンカーボルトと分散型免震装置の協働機構を提供する。
【解決手段】建築物の基礎11に埋設され土台12を固定するためのアンカーボルト21と、アンカーボルト21が挿入され土台12を上下に貫通する貫通孔13と、アンカーボルト21の上端側に螺入するナット22と、基礎11と土台12の間に介挿される分散型免震装置30と、を備えたアンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構において、貫通孔13を上下にわたって同じ径に形成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の基礎に埋設され、土台を固定するためのアンカーボルトと、
前記アンカーボルトが挿入され、前記土台を上下に貫通する貫通孔と、
前記アンカーボルトの上端側に螺入するナットと、
前記基礎と前記土台の間に介挿される分散型免震装置と、を備え、
前記分散型免震装置は、前記土台と接触する第1の滑り平板と、前記基礎と接触し前記第1の滑り平板の下側に配置される第2の滑り平板と、を有し、
前記貫通孔は、上下にわたって、同じ径に形成されるアンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構。
【請求項2】
前記貫通孔の直径と前記アンカーボルトの直径の差は、10mm以上である請求項1に記載のアンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構。
【請求項3】
前記貫通孔の直径は、前記土台の幅方向寸法の1/3以下である請求項2に記載のアンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構。
【請求項4】
前記分散型免震装置は、前記第1の滑り平板と前記第2の滑り平板の少なくとも一方に設けられた高さ調整部を有する請求項3に記載のアンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の基礎に埋設されるアンカーボルトと、基礎と土台の間に介挿される分散型免震装置の協働機構に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の基礎に埋設され土台を固定するためのアンカーボルトと、アンカーボルトが挿入され土台を上下に貫通する貫通孔と、アンカーボルトの上端側に螺入するナットと、基礎と土台の間に介挿される分散型免震装置と、を備えたアンカーボルトと分散型免震装置の協働機構が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の協働機構では、貫通孔は、土台の上面から順に第1の貫通孔及び第2の貫通孔を有し、第2の貫通孔の径は第1の貫通孔の径より大きくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の協働機構では、貫通孔の径が変化するため、土台への貫通孔の削孔作業が煩雑となり、建築物の建築に要するコスト及び工数が嵩むという問題点がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、土台への貫通孔の削孔作業を容易に行うことができ、建築物の建築に要するコスト及び工数の低減を図ることのできるアンカーボルトと分散型免震装置の協働機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、
建築物の基礎に埋設され、土台を固定するためのアンカーボルトと、
前記アンカーボルトが挿入され、前記土台を上下に貫通する貫通孔と、
前記アンカーボルトの上端側に螺入するナットと、
前記基礎と前記土台の間に介挿される分散型免震装置と、を備え、
前記分散型免震装置は、前記土台と接触する第1の滑り平板と、前記基礎と接触し前記第1の滑り平板の下側に配置される第2の滑り平板と、を有し、
前記貫通孔は、上下にわたって、同じ径に形成されるアンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構が提供される。
【0007】
また、上記アンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構において、前記貫通孔の直径と前記アンカーボルトの直径の差は、10mm以上であることが好ましい。
【0008】
また、上記アンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構において、前記貫通孔の直径は、前記土台の幅方向寸法の1/3以下であることが好ましい。
【0009】
また、上記アンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構において、前記分散型免震装置は、前記第1の滑り平板と前記第2の滑り平板の少なくとも一方に設けられた高さ調整部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアンカーボルトと分散型免震装置の協働機構によれば、土台への貫通孔の削孔作業を容易に行うことができ、建築物の建築に要するコスト及び工数の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態を示すアンカーボルトと分散型免震装置の協働機構の概略側面説明図である。
【
図2】アンカーボルト及び貫通孔の拡大側面説明図である。
【
図9】アンカーボルトと分散型免震装置の協働機構における地震加速度と応答加速度の大きさの一例を示すグラフである。
【
図10】変形例を示すアンカーボルト及び貫通孔の拡大側面説明図である。
【
図11】変形例を示すアンカーボルト及び貫通孔の拡大側面説明図である。
【
図12】変形例を示すアンカーボルト及び貫通孔の拡大側面説明図である。
【
図13】変形例を示す分散型免震装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1から
図8は本発明の一実施形態であり、
図1はアンカーボルトと分散型免震装置の協働機構の概略側面説明図、
図2はアンカーボルト及び貫通孔の拡大側面説明図、
図3は上側平板の平面図、
図4は上側平板の底面図、
図5は上側平板の断面図、
図6は下側平板の平面図、
図7は下側平板の底面図、
図8は下側平板の断面図である。
【0013】
図1に示すように、このアンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構は、建築物の基礎11に埋設され土台12を固定するための複数のアンカーボルト21と、アンカーボルト21が挿入され土台12を上下に貫通する貫通孔13と、アンカーボルト21の上端側に螺入するナット22と、基礎11と土台12の間に介挿される分散型免震装置30と、を備えている。尚、建築物には、図示されていない柱にホールダウン金物が設けられ、土台12を固定するためのアンカーボルト21とは別のアンカーボルトが接続される。本実施形態においては、建築物は、木造であり、基礎11はコンクリート、土台12は木材により構成される。
図2に示すように、ナット22は、アンカーボルト21と螺合する長ナット部22aと、長ナット部22aの上端側に形成された丸座22bと、を有している。丸座22bの下面には、径方向外側へ向けて放射状に形成された複数の三角突条22b1が形成されている。各三角突条22b1は、頂角が鋭角の三角形の断面を有し、径方向外側に行くにつれて頂点の高さが増すよう形成される。本実施形態においては、締付後のナット22の上端は、土台12の上面と同一レベルとなっている。長ナット部22a及び丸座22bを有するナット22により、アンカーボルト21の頂部が拘束される。また、アンカーボルト21の上端は、土台12よりもやや低く設定され、本実施形態においては、土台12の上面から5mm低くなるよう設定される。尚、締付後のアンカーボルト21及びナット22の上端は、土台12の上面より低くともよい。また、貫通孔13は、上下にわたって、同じ径に形成されている。
【0014】
本実施形態においては、土台12の高さ寸法及び幅方向寸法は105mm、アンカーボルト21の直径は12mm、貫通孔13の直径は24mm、ナット22の丸座22bの直径は45mmに設定される。尚、土台12の寸法は任意であり、例えば、高さ寸法及び幅方向寸法が89mm,120mm等であってもよい。また、アンカーボルト21及び貫通孔13の直径も任意に変更することができ、例えば、アンカーボルト21の直径を16mm、貫通孔13の直径を28mmとしてもよい。ここで、明細書中の「アンカーボルトの直径」は、アンカーボルト下端側のねじが形成されていない部分の直径ではなく、上端側のねじが形成された部分の直径を指している。すなわち、「アンカーボルトの直径」が12mmとは、上端側のねじが形成された部分の直径が12mmであり、下端側のねじが形成されていない部分は、例えば、12mmであっても10.6mmであってもよい。地震時におけるアンカーボルト21の免震作用を考慮すると、貫通孔13の直径をアンカーボルト21の直径よりも10mm以上大きくすることが好ましい。貫通孔13の直径は任意であるが、土台12の強度等を考慮すると、土台12の幅方向寸法の1/3以下とすることが好ましい。
【0015】
分散型免震装置30は、土台12と接触する第1の滑り平板としての上側平板40と、基礎11と接触し上側平板40の下側に配置される第2の滑り平板としての下側平板50と、を有する。本実施形態においては、分散型免震装置30は、高さが6mmで、土台12上の柱14の直下に配置される。分散型免震装置30の高さ寸法は、任意に変更できる。本実施形態においては、上側平板40及び下側平板50は、プラスチックからなり、エンジニアリングプラスチックを用いることが好ましい。エンジニアリングプラスチックとして、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等を挙げることができる。また、上側平板40及び下側平板50を、プラスチックを母材とし、ガラス繊維、カーボン繊維等により強化された繊維強化プラスチックとすることもできる。本明細書では、「プラスチック」は、繊維強化プラスチックも含むものとする。尚、上側平板40及び下側平板50を、例えば金属等のようなプラスチック以外の材料とすることもできる。また、上側平板40及び下側平板50は、同じ材料であっても、異なる材料であってもよく、必要な摩擦抵抗等に応じて各平板40,50の材料を選定することができる。例えば、各平板40,50の一方を金属、他方をプラスチックとしたり、各平板40,50の両方を同種の合金として、合金中に含まれる元素の配合比率を異なるようにしてもよい。
【0016】
上側平板40及び下側平板50は、それぞれ平面視円形に形成され、互いに平面視で中心が一致するよう配置される。本実施形態においては、上側平板40の直径は、土台12の幅と略同一であり、下側平板50の直径よりも大きい。尚、上側平板40の直径を、土台12の幅と異なるようにしたり、下側平板50の直径以下の大きさとすることもできる。さらに、上側平板40及び下側平板50を、平面視円形以外の形状とすることもできる。
【0017】
図3に示すように、上側平板40の上面41は、平坦に形成され、複数の上面突起42が形成される。各上面突起42は、上方へ向かって先端が細くなるよう形成される。本実施形態においては、各上面突起42は、上面41における所定の径方向位置で周方向に並んで配置される。具体的に、各上面突起42は、上面41の周縁寄りと中心寄りの2つの径方向位置で、周方向に並んで配置される。尚、各上面突起42をランダムに配置することも可能である。また、上側平板40は、中心位置で上下方向に延びる受容部としてのピン受容孔43を有している。
【0018】
図4に示すように、上側平板40の下面44は、平坦に形成された滑り面44aと、滑り面44aの径方向外側に形成され径方向外側へ向かって上側に傾斜する傾斜面44bと、滑り面44aの径方向内側に形成された塵埃収容溝44cと、塵埃収容溝44cの径方向内側に形成された中心平坦面44dと、を有する。
図5に示すように、塵埃収容溝44cは、平坦部44c1と、平坦部44c1の径方向内側に形成され径方向内側へ向かって下方へ傾斜する内側傾斜部44c2と、平坦部44c1の径方向外側に形成され径方向外側へ向かって下方へ傾斜する外側傾斜部44c3と、を有する。特に図示していないが、本実施形態においては、上側平板40の下面44及び下側平板50の上面51は、プラスチックの成形時に使用したゲートの痕跡の凸部を有しており、この凸部が平面視で塵埃収容溝44cと重なる位置に配置されている。そして、塵埃収容溝44cは、凸部の高さよりも深く形成されている。この結果、凸部は、上側平板40の下面44及び下側平板50の上面51の間に、塵埃収容溝44cにより画成される空間に配置されることとなる。
【0019】
図6に示すように、下側平板50の上面51は、平坦に形成され、中心に突出部としてのピン52が形成される。下側平板50の上面51は、滑り面をなし、上側平板40の下面44と密着する。ピン52がピン受容孔43に受容された状態で、上側平板40及び下側平板50に相対的な水平方向への所定の負荷が加わると、ピン52が破断されるようになっている。ピン52が破断に至る負荷の大きさは任意に設定することができ、例えば、40N以上300N以下とすることができる。ピン52の破断のしやすさを考慮すると、40N以上120N以下とすることが好ましい。本実施形態においては、水平方向に60Nの力が加わると破断するよう設定されている。
【0020】
図7に示すように、下側平板50の下面53は、下面53の大部分をなす主平面53aと、主平面53aの径方向外側に形成されるテーパ面53bと、を有するとともに、複数の下面凸部54が形成される。
図8に示すように、テーパ面53bは、下側平板50の下面53の外縁に形成されるテーパ部をなし、内側へ向かって下るよう傾斜している。尚、テーパ面53bの傾斜角度、形成範囲等は任意に変更することができ、必要に応じてテーパ面53bを省略することができる。各下面凸部54は、平面視円形に形成される。本実施形態においては、各下面凸部54は、下面53の中心に配置されるとともに、下面53における所定の径方向位置で周方向に並んで配置される。具体的に、各下面凸部54は、下面53の中心に配置されるとともに、4つの径方向位置で周方向に並んで配置される。尚、各下面凸部54をランダムに配置することも可能である。
【0021】
分散型免震装置30は、下側平板50のピン52を上側平板40のピン受容孔43に受容させることにより、上側平板40と下側平板50を組み合わせて固定される。従って、従来のように、上側平板及び下側平板を組み合わせるために、上側平板及び下側平板に溝部を形成し、リング状のゴムで上側平板及び下側平板を巻回する必要はない。これにより、上側平板40及び下側平板50の形状を単純にして成形しやすくするとともに、ゴムを廃止して部品点数を削減し、製造コストの低減を図ることができる。また、ピン52及びピン受容孔43は、平面視円形の上側平板40及び下側平板50の中心に配置されているので、任意の周方向位置で各平板40,50を組み合わせることができ、各平板40,50の固定作業を簡単容易に行うことができる。さらに、本実施形態の分散型免震装置30によれば、上側平板40及び下側平板50をプラスチックとしたので、亜鉛合金等とした場合と比較して、製造時の二酸化炭素の排出量の削減を図ることができる。
【0022】
以上のように構成されたアンカーボルト及び分散型免震装置の協働機構によれば、土台12の貫通孔13が上下にわたって同じ径で形成されているので、貫通孔の径が変化する従来のものと比べて、貫通孔13の削孔作業を容易に行うことができる。従来は、貫通孔ごとに、複数の削孔径に対応して、電動工具の削孔径を変えて複数回削孔を行う必要があったが、本実施形態においてはその必要がなく、土台12の貫通孔13の削孔に要するコスト及び工数を飛躍的に低減することができる。また、従来よりも貫通孔の径が大きくなり、削孔時に電動工具に要求されるトルクが大きくなったとしても、近年の電動工具の性能向上により発生トルクが向上しており、一般的な土台12の寸法に形成される貫通孔13の大きさであれば削孔時にトルク不足となることはなく、作業効率が低下することはない。さらに、貫通孔13の径が大きくなったとしても、削孔時に木材に生じる応力は小さくなり、木材の許容応力を超えないようにすることは勿論、木材に加わる負荷を軽減することができる。
【0023】
ピン52及びピン受容孔43により上側平板40と下側平板50が組み合わされた分散型免震装置30は、基礎11の上面における柱14の直下となる位置に載置される。
図1では、1個の分散型免震装置30を柱14の直下に配置した状態を示しているが、複数個の分散型免震装置30を柱14に対応して配置してもよく、この場合は柱軸力の伝達範囲に分散型免震装置30が半分以上かかるようにすればよい。この状態で、各アンカーボルト21が貫通孔13を挿通するように、土台12が基礎11上に設置される。このとき、貫通孔13の直径がアンカーボルト21の直径よりも十分大きいことから、アンカーボルト21と貫通孔13の間に十分なクリアランスを確保することができ、アンカーボルト21及び貫通孔13の加工時の誤差等によりアンカーボルト21の上端が径方向にずれた場合に、アンカーボルト21上端の貫通孔13の内周面への接触を少なくすることができる。特に、本実施形態のように土台12の上面よりアンカーボルト21の上端が低い場合、アンカーボルト21の上端が貫通孔13の内周面に接触してしまうと、アンカーボルト21へのナット22の螺入を行うことができないため、アンカーボルト21を曲げる、あるいは、貫通孔13を拡げる等の追加の作業が発生することとなり作業性が悪化してしまう。尚、貫通孔13の直径をアンカーボルト21の直径の1.5倍としたとき、約半数の貫通孔13でアンカーボルト21の上端が内周面へ接触することが確認されている。アンカーボルト21の貫通孔13への接触を少なくするためには。貫通孔13の直径をアンカーボルト21の直径の1.8倍以上とすることが好ましい。
【0024】
この後、アンカーボルト21にナット22を螺入する。本実施形態においては、ナット22の丸座22b下面に三角突条22b1が形成されているので、螺入時に三角突条113により土台12上面の貫通孔13周囲が削られ、簡単容易にナット22の上端を土台12上面と同一レベルとすることができる。従って、土台12の上面に予め木材を掘り込む座彫りが不要となって、施工精度及び施工効率が向上する。
【0025】
また、分散型免震装置30の上側平板40には各上面突起42が形成され、下側平板50には各下面凸部53が形成されているので、これらが土台12及び基礎11に食い込み、土台12及び基礎11と分散型免震装置30との間の滑りの発生が抑制される。本実施形態においては、木材からなる土台12の方が、コンクリートからなる基礎11よりも強度が弱いことを考慮し、上側平板40における土台12との接触面積が、下側平板50における基礎11との接触面積よりも大きくなるよう構成されている。基礎11と分散型免震装置30は、必要に応じて接着剤により接着される。
【0026】
次に、アンカーボルトと分散型免震装置の協働機構の地震時における作用について説明する。
地震時に基礎11と土台12が水平方向に相対的に移動すると、アンカーボルト21が曲げられてアンカーボルト21の内部に曲げ応力が発生する。地震エネルギーは、アンカーボルト21の曲げ応力となることにより消費される。本実施形態においては、貫通孔13の直径がアンカーボルト21の直径よりも10mm以上大きいので、貫通孔13内の全区間にわたってアンカーボルト21に比較的大きな曲げ応力を生じさせることができる。また、本実施形態においては、貫通孔13の直径とアンカーボルト21の直径との差が30mm以下であるので、基礎11と土台12の相対的な移動量が30mm以下に抑えられ、地震時に建築物の各部位及び各設備に大きな損傷等を生じさせる可能性を低くしつつ、免震効果を得ることができる。尚、貫通孔13の直径とアンカーボルト21の直径との差は、任意であり、例えば1mm以上であれば十分な曲げ応力を生じさせることができる。また、地震時に各部位及び各設備に大きな損傷等が生じ難いよう建築物が設計等されていれば、貫通孔13の直径とアンカーボルト21の直径との差を30mmより大きくしてもよい。ただし、地震時に各部位及び各設備に生じる損傷等を考慮すれば、30mm以下が好ましく、20mm以下がさらに好ましく、15mm以下が特に好ましい。
【0027】
また、貫通孔13とアンカーボルト21のクリアランスが比較的小さい従来のものと比較して、ナット22と土台12の接触面積が小さくなり、アンカーボルト21の土台12への拘束力が小さくなっている。これにより、アンカーボルト21が土台12に過度に拘束されることはなく、地震時にアンカーボルト21に的確に曲げ応力を生じさせることができる。尚、ナット22と土台12の接触面積が小さくなることによりアンカーボルト21の引き抜き強度が低下するものの、建築物においてはホールダウン金物に接続されるアンカーボルトが主として引き抜き力を負担しているので、特に問題が生じることはない。
【0028】
また、分散型免震装置30については、地震時に上側平板40及び下側平板50に相対的な水平方向の負荷が加わり、負荷によりピン52の基端部分が破断されると上側平板40及び下側平板50が相対的に移動可能となる。そして、地震エネルギーは、上側平板40の下面44と下側平板50の上面51とで水平方向の滑りが生じることにより消費される。このように、アンカーボルト21と分散型免震装置30とが協働して地震エネルギーを消費する。
【0029】
図9は、本実施形態のアンカーボルトと分散型免震装置の協働機構における地震加速度と応答加速度の大きさの一例を示すグラフである。
図9に示すように、基礎11側の地震加速度に対して土台12側の応答加速度が小さくなり、免震効果が得られていることが理解される。
【0030】
本実施形態においては、上側平板40と下側平板50は、破断されたピン52がピン受容孔43に受容された状態で滑動する。このとき、ピン52の基端部分の破断により生じた塵埃は、上側平板40の下面44及び下側平板50の上面51の間に塵埃収容溝44cにより画成された空間に収容され、滑り面44aまで到達することはない。これにより、ピン52の破断により生じた塵埃が滑り面44aに入り込むことはない。また、ゲートの痕跡の凸部は、塵埃収容溝44cにより画成される空間に配置され、滑り面44aから隔離されている。これにより、凸部の形成面を研磨等により平滑とする必要はなく、分散型免震装置30の製造コストの低減を図ることができる。尚、凸部が滑り面44aをなす位置に配置されていても、研磨等により形成面を平滑とすれば、製造コストが嵩むことになるが問題はない。また、ゲートの痕跡の凸部が、上側平板40の下面44及び下側平板50の上面51でない部分に形成されている場合も、滑り面44aから隔離された構成とすることができる。
【0031】
また、下側平板50の下面53の外縁にテーパ部を設けたので、下側平板50と基礎11が接着剤により接着されていたとしても、テーパ部と基礎11との間に工具等を差し込むことで、下側平板50を基礎11から簡単容易に取り外すことができる。従って、メンテナンス時の作業者の負担を軽減することができる。尚、下面53の外縁にテーパ部を設けなくともよい。
【0032】
また、前記実施形態においては、ナット22の上端が土台12の上面と同一レベルとなるいわゆる根太レス工法のものを示したが、例えば
図10から
図12に示すように、ナット122,222,322の上端が土台12の上面より高くなるいわゆる根太床工法のものに本発明を適用可能なことはいうまでもない。
図10から
図12の建築物では、アンカーボルト21は、基礎11への埋め込み時に、上端が土台12の表面より高くなるよう設置されている。
【0033】
図10に示すナット122は、前記実施形態のナット22のような長ナット部22a及び丸座22bを有しておらず、アンカーボルト21が挿通され土台12の表面と接触する丸座金122a、及び、アンカーボルト21が挿通され丸座金122aの下面から貫通孔13内を下方へ延びる楔材122bと組み合わせて使用される。このナット122は、緩み止め機能を有し、丸座金122aの上面に配置され、アンカーボルト21の上端と螺合する。楔材122bは、上端側が貫通孔13の径よりも大きく形成され、径方向外端が下方へ向かって内側に傾斜するよう形成される。楔材122bは、ナット122のアンカーボルト21への螺入時に、その上端側が土台12の貫通孔13に食い込む。補助材として丸座金122a及び楔材122bを設けることにより、ナット122の下方への移動を阻止するとともに、アンカーボルト21の頂部を拘束することができる。また、ナット122のアンカーボルト21への螺入時に、ナット122及びアンカーボルト21が貫通孔13の中心からずれていた場合、ナット122及びアンカーボルト21の中心が貫通孔13の中心となるよう自動的に修正される。尚、緩み止め機能を有するナット122でなく、緩み止め機能を有さないナットとスプリングワッシャーの組み合わせによっても、ナット122に緩み止め機能を付与することができる。尚、メンテナンス時にナット122を締め直す前提であれば、ナット122の緩み止め機能は不要である。また、丸座金122aに代えて角座金を用いてもよく、座金の種類は任意に選択可能である。
【0034】
図11に示すナット222は、前記実施形態のナット22のような長ナット部22a及び丸座22bを有しておらず、アンカーボルト21が挿通される丸座金222a、及び、丸座金222aと土台12表面の間に介在するハット型部材222bと組み合わせて使用される。このナット222は、緩み止め機能を有し、丸座金222aの上面に配置され、アンカーボルト21の上端と螺合する。ハット型部材222bは、丸座金222aと土台12表面の間の平板状の介在部222b1と、介在部222b1の下面から貫通孔13内を下方へ延びる延在部222b2と、を有する。延在部222b2は、貫通孔13の内周面に沿って下方へ延びる円筒状に形成され、下端側の径方向外端が下方へ向かって内側に傾斜するよう形成される。補助材として丸座金222a及びハット型部材222bを設けることにより、ナット222の下方への移動を阻止するとともに、アンカーボルト21の頂部を拘束することができる。このナット222においても、ナット222のアンカーボルト21への螺入時に、ナット222及びアンカーボルト21が貫通孔13の中心からずれていた場合、ナット222及びアンカーボルト21の中心が貫通孔13の中心となるよう自動的に修正される。尚、緩み止め機能を有するナット222でなく、緩み止め機能を有さないナットとスプリングワッシャーの組み合わせによっても、ナット222に緩み止め機能を付与することができる。尚、メンテナンス時にナット222を締め直す前提であれば、ナット222の緩み止め機能は不要である。また、丸座金222aに代えて角座金を用いてもよく、座金の種類は任意に選択可能である。
【0035】
図12に示すナット322は、前記実施形態のナット22のような長ナット部22a及び丸座22bを有しておらず、アンカーボルト21が挿通される丸座金322a、及び、丸座金322aと土台12表面の間に介在し丸座金322aよりも薄く形成される拘束座金322bと、組み合わせて使用される。このナット322は、緩み止め機能を有し、丸座金322aの上面に配置され、アンカーボルト21の上端と螺合する。拘束座金322bは、径方向外端側が外側へ向かって下方へ傾斜するよう湾曲加工されている。このナット322は、アンカーボルト21への螺入時に、拘束座金322bの径方向外端側が土台12の表面に食い込む。補助材として丸座金322a及び拘束座金322bを設けることにより、ナット322の下方への移動を阻止するとともに、アンカーボルト21の頂部を拘束することができる。尚、緩み止め機能を有するナット322でなく、緩み止め機能を有さないナットとスプリングワッシャーの組み合わせによっても、ナット322に緩み止め機能を付与することができる。尚、メンテナンス時にナット322を締め直す前提であれば、ナット322の緩み止め機能は不要である。また、丸座金322aに代えて角座金を用いてもよく、座金の種類は任意に選択可能である。
【0036】
また、分散型免震装置30についても、土台12と接触する第1の滑り平板と、基礎11と接触し第1の滑り平板の下側に配置される第2の滑り平板と、を有していれば、適宜変更が可能である。
図13から
図16は分散型免震装置の変形例を示し、
図13は分散型免震装置の側面図、
図14は上側平板の平面図、
図15は上側平板の底面図、
図16は上側平板の断面図である。
図13に示すように、この変形例では、分散型免震装置130の上側平板140が前記実施形態と異なっており、分散型免震装置130の高さは20mmである。
【0037】
図14に示すように、この分散型免震装置130の上側平板140は、平面視円形の平板本体140aと、平板本体140aの外縁から上方へ延びる円筒状の外側円筒部140bと、外側円筒部140bの上端から径方向外側へ延びる外縁部140cと、を有している。また、上側平板140は、平板本体140aの径方向中央側から上方へ延びる円筒状の内側円筒部140dと、径方向へ延び内側円筒部140dと外側円筒部140bとを接続する複数の連結壁140eと、を有している。
図14では、各連結壁140eは周方向に等間隔に配置されているが、等間隔でなくともよい。この分散型免震装置130では、上側平板140の外側円筒部140b、内側円筒部140d及び各連結壁140eが、高さ調整部をなしている。尚、建築物の仕様等に応じ、上側平板140の高さ調整部の上下寸法を変更することで、分散型免震装置130の高さを任意に変更することができ、例えば、分散型免震装置130の高さを9mmとすることもできる。また、この分散型免震装置130では、上側平板140の外側円筒部140b、内側円筒部140d及び各連結壁140eにより上下方向へ延びる空洞部が形成され、上側平板140をプラスチックによる成形が可能な形状としつつ、上側平板140の重量軽減が図られている。また、高さ調整部を上側平板140でなく下側平板50に設けてもよいし、上側平板140と下側平板50の両方に設けてもよい。また、平板本体140aには、外側円筒部140b、内側円筒部140d及び各連結壁140eにより上方が包囲された空間に溜まる水を抜くための複数の水抜き孔140fが形成されている。尚、水抜き穴140fは、適宜省略することができる。
【0038】
外側円筒部140b、外縁部140c、内側円筒部140d及び各連結壁140eの上端は、連続的に平坦に形成され、上側平板140の上面141をなしている。すなわち、上面141は、外側円筒部140b、外縁部140c、内側円筒部140d及び各連結壁140eの上端により形成される開口を有している。上面141には、複数の上面突起142が形成される。各上面突起42は、上方へ向かって先端が細くなるよう形成される。本実施形態においても、各上面突起142は、上面141における所定の径方向位置で周方向に並んで配置される。具体的に、各上面突起142は、上面141における内側円筒部140dの位置と、外側円筒部140b上の位置で、周方向に並んで配置される。また、ピン受容孔143は、平板本体140aの中心位置で上下方向に延びて形成される。
【0039】
図15に示すように、上側平板140の下面144は、平坦に形成された滑り面144aと、滑り面144aの径方向内側に形成された塵埃収容溝144cと、塵埃収容溝144cの径方向内側に形成された中心平坦面144dと、を有する。
図16に示すように、塵埃収容溝144cは、平坦部144c1と、平坦部144c1の径方向内側に形成され径方向内側へ向かって下方へ傾斜する内側傾斜部144c2と、平坦部144c1の径方向外側に形成され径方向外側へ向かって下方へ傾斜する外側傾斜部144c3と、を有する。本実施形態においては、成形時の金型の抜きやすさを考慮して、外側円筒部140bの内面と、内側円筒部140dの内面及び外面は、上方へ向かって内側に傾斜するよう形成される。また、平板本体140aにおける内側円筒部140dよりも径方向内側の領域は、平板本体140aに加わる曲げ応力を考慮して、径方向内側へ向かって厚くなるよう形成される。また、特に図示していないが、本実施形態においても、上側平板140及び下側平板50は、ゲートの痕跡の凸部を有しており、凸部が塵埃収容溝144cにより画成される空間に配置されている。
以上のように構成された分散型免震装置130においても、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
また、例えば、
図17及び
図18に示すように、塵埃収容溝を形成せずに、上側平板の下面を全面的に平坦に形成してもよい。
図17及び
図18は分散型免震装置の変形例を示し、
図17は上側平板の底面図、
図18は上側平板の断面図である。
図17に示すように、上側平板240の下面244は、平坦に形成され、全面的に滑り面をなしている。
図18に示すように、上側平板240は、中実の円柱状に形成されており、平坦な上面241に複数の上面突起242が形成されている。この分散型免震装置では、上側平板240における上面241と下面244の間で上下に延びる部分が、高さ調整部をなしている。また、上側平板240は、中心位置で上下方向に延びる受容部としてのピン受容孔243を有している。
【0041】
また、
図19及び
図20に示すように、上側平板340について、平面視円形の平板本体340aを上側に配置し、平板本体340aから下方へ延びる円筒状の外側円筒部340b及び内側円筒部340dを形成するようにすることもできる。
図20に示すように、この上側平板340は、平板本体340aの中心から下方へ延びる円柱部340gを有し、円柱部340gに上下方向へ延びるピン受容孔343が形成される。また、上側平板340は、径方向へ延び内側円筒部340dと外側円筒部340bとを接続する複数の外側連結壁340eと、径方向へ延び円柱部340gと内側円筒部340dとを接続する複数の内側連結壁340hと、を有している。
図19では、各外側連結壁340e及び各内側連結壁340hは、それぞれ周方向に等間隔に配置されているが、等間隔でなくともよい。外側円筒部340b、内側円筒部340d、円柱部340g、各外側連結壁340e及び各内側連結壁340hの下端は、連続的に平坦に形成され、上側平板340の下面344をなしている。すなわち、下面344は、外側円筒部340b、内側円筒部340d、円柱部340g、各外側連結壁340e及び各内側連結壁340hにより形成される開口を有している。このように、上面341に開口を形成することなく、下面344に開口を配置することにより、上面341の土台12との接触面積を大きくして、めり込み強度を大きく取ることが可能となる。この上側平板340では、下面344全体が滑り面をなしている。この分散型免震装置では、上側平板340の外側円筒部340b、内側円筒部340d、円柱部340g、各外側連結壁340e及び各内側連結壁340hが、高さ調整部をなし、これらにより上下方向へ延びる空洞部が形成され、上側平板340をプラスチックによる成形が可能な形状としつつ、上側平板340の重量軽減が図られている。平板本体340aの上面には、複数の上面突起342が形成される。
【0042】
また、前記実施形態においては、ピン52を下側平板50の上面51に形成し、ピン受容孔43を上側平板40の下面44に形成したものを示したが、下側平板の上面にピン受容孔を形成し、上側平板の下面にピンを形成してもよい。また、ピン及びピン受容孔の形状は適宜変更することができ、例えば、ピン及びピン受容孔の延在方向中央部に径が大きくなる大径部を設けてもよい。また、突出部及び受容部としてピン52及びピン受容孔43を採用したものを示したが、上側平板及び下側平板に相対的な水平方向への所定の負荷が加わると突出部が破断されるものであれば、突出部及び受容部の形状は任意に変更することができる。また、前記各実施形態においては、突出部と受容部が1組であるものを示したが、2組以上とすることもできる。また、各平板における突出部と受容部の位置も、任意に変更が可能である。さらに、上側平板40と下側平板50を重ねて所期の姿勢で配置することができるのであれば、突出部及び受容部を省略した構成としても差し支えない。
【0043】
以上、本発明の実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0044】
11 基礎
12 土台
13 貫通孔
22 ナット
30 分散型免震装置
40 上側平板
50 下側平板
122 ナット
130 分散型免震装置
140 上側平板
240 上側平板
222 ナット
322 ナット
340 上側平板