(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074574
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】副甲状腺ホルモン分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/15 20160101AFI20240524BHJP
A61K 31/51 20060101ALI20240524BHJP
A61K 31/714 20060101ALI20240524BHJP
A61P 5/18 20060101ALI20240524BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A23L33/15
A61K31/51
A61K31/714
A61P5/18
A61P13/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185833
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 章規
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕之
(72)【発明者】
【氏名】辻口 博聖
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB06
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD23
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC83
4C086DA39
4C086GA07
4C086GA10
4C086MA01
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4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC06
(57)【要約】
【課題】ビタミンなどの栄養素を有効成分として用いた副甲状腺ホルモン分泌促進剤の提供。
【解決手段】ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つを含む副甲状腺ホルモン分泌促進剤、例えば、ビタミンB1を含む腎機能正常対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤、及びビタミンB12を含む腎機能低下対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤、並びにそれを用いた食品、医薬及び飼料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つを含む、副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
【請求項2】
ビタミンB1を含む、腎機能正常対象のための、請求項1に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
【請求項3】
腎機能正常対象が、60mL/分/1.73m2以上の推算糸球体濾過量(eGFR)を示すヒトである、請求項2に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
【請求項4】
腎機能正常対象における血中副甲状腺ホルモン濃度低下の予防又は治療のための、請求項2に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
【請求項5】
ビタミンB12を含む、腎機能低下対象のための、請求項1に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
【請求項6】
腎機能低下対象が、60mL/分/1.73m2未満の推算糸球体濾過量(eGFR)を示すヒトである、請求項5に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
【請求項7】
腎機能低下対象における血中副甲状腺ホルモン濃度低下の予防又は治療のための、請求項5に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
【請求項8】
前記対象が副甲状腺機能低下症及び無形成骨からなる群から選択される少なくとも1つを呈する、請求項4又は7に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
【請求項9】
請求項1に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含む、副甲状腺ホルモン分泌促進のための食品。
【請求項10】
請求項1に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含む、副甲状腺ホルモン分泌促進のための医薬。
【請求項11】
請求項1に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含む、副甲状腺ホルモン分泌促進のための飼料。
【請求項12】
i)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB1を含み、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、及び/又はii)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB12を含み、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、請求項9に記載の食品。
【請求項13】
i)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB1を含み、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、及び/又はii)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB12を含み、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、請求項10に記載の医薬。
【請求項14】
i)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB1を含み、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、及び/又はii)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB12を含み、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、請求項11に記載の飼料。
【請求項15】
経口投与用の、請求項10又は13に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副甲状腺ホルモン分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone; PTH)は、生体内のカルシウム・リン代謝を制御する上で中心的役割を果たすホルモンの1つである。副甲状腺機能低下症では、PTHの分泌が低下することにより、PTHの作用が低減し、低カルシウム血症や高リン血症がもたらされ、主に低カルシウム血症による症状が問題となる。現在、低カルシウム血症による諸症状に対する治療法として、血中カルシウム濃度を上昇させるために活性型ビタミンD3製剤が主として使用されている。その治療のため、当該製剤に加えてカルシウム製剤が併用される場合もある。しかし、これらの治療は、病因に基づく治療法ではなく、PTH低下を改善できるわけではない。またそれらの従来の治療法は、高カルシウム血症や高カルシウム尿症、腎石灰化、尿路結石、腎機能障害などの有害事象を惹起する場合があることも知られている。
【0003】
腎臓はPTHなどのホルモンの調節を受けてカルシウムやリンを尿中に排泄する一方、活性型ビタミンDを産生し、腸管でのカルシウム吸収や骨代謝の維持にも関与している。慢性腎臓病(CKD)患者においては、活性型ビタミンDの低下やリンの蓄積に伴い、様々な骨病変やミネラル代謝異常を生じることが知られている。腎機能低下の際に骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)として生じる腎性骨異栄養症の中には、無形成骨(adynamic bone disease; ABD)と呼ばれる病態が存在する。近年、腎性骨異栄養症のうち無形成骨の有病率が相対的に増加している。無形成骨は、典型的にはカルシウムやビタミンDの過剰摂取によるPTH過剰抑制によって惹起される、PTHの分泌低下やPTHに対する骨の反応性低下(抵抗性)を主因とする骨障害であり、骨の代謝回転の著しい低下を伴う。慢性腎臓病患者における無形成骨の治療では、PTHの分泌を増加させることを目的として、カルシウム非含有リン吸着剤の使用や、活性型ビタミンD3製剤の減量又は中止といった薬剤調整が行われている。
【0004】
特許文献1は、活性型ビタミンD3の代謝物1α,25-ジヒドロキシビタミンD3-26,23-ラクトンの誘導体である(23S)-1α-ヒドロキシ-27-ノル-25-メチレンビタミンD3-26,23-ラクトンを有効成分として含有する、経口投与可能な副甲状腺ホルモン産生促進剤及び副甲状腺機能低下症の治療剤を開示している。
【0005】
PTH制御とビタミンDの関連については多くの報告がある一方、ビタミンD以外のビタミンとPTHとの関係はほとんど知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ビタミンなどの栄養素を有効成分として用いた副甲状腺ホルモン分泌促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ビタミンB1摂取量増加及びビタミンB12摂取量増加が、それぞれ、腎機能正常条件下及び腎機能低下条件下で血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度の増加と相関することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つを含む、副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
[2]ビタミンB1を含む、腎機能正常対象のための、上記[1]に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
[3]腎機能正常対象が、60mL/分/1.73m2以上の推算糸球体濾過量(eGFR)を示すヒトである、上記[2]に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
[4]腎機能正常対象における血中副甲状腺ホルモン濃度低下の予防又は治療のための、上記[2]又は[3]に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
[5]ビタミンB12を含む、腎機能低下対象のための、上記[1]に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
[6]腎機能低下対象が、60mL/分/1.73m2未満の推算糸球体濾過量(eGFR)を示すヒトである、上記[5]に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
[7]腎機能低下対象における血中副甲状腺ホルモン濃度低下の予防又は治療のための、上記[5]又は[6]に記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
[8]前記対象が副甲状腺機能低下症及び無形成骨からなる群から選択される少なくとも1つを呈する、上記[2]~[7]のいずれかに記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含む、副甲状腺ホルモン分泌促進のための食品。
[10]上記[1]~[8]のいずれかに記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含む、副甲状腺ホルモン分泌促進のための医薬。
[11]上記[1]、[2]及び[5]のいずれかに記載の副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含む、副甲状腺ホルモン分泌促進のための飼料。
[12]i)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB1を含み、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、及び/又はii)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB12を含み、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、上記[9]に記載の食品。
[13]i)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB1を含み、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、及び/又はii)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB12を含み、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、上記[10]に記載の医薬。
[14]i)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB1を含み、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、及び/又はii)前記副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB12を含み、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものである、上記[11]に記載の飼料。
[15]経口投与用の、上記[10]又は[13]に記載の医薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、腎機能の状態に応じて血中PTH濃度を効果的に高めるのに有用な副甲状腺ホルモン分泌促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、ビタミンB群、特に、ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つを含む、副甲状腺ホルモン分泌促進剤に関する。本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、対象における副甲状腺ホルモン分泌を促進するために用いることができる。
【0013】
一実施形態では、本発明は、ビタミンB1を含む、腎機能正常対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤を提供する。ビタミンB1は、チアミン及びその誘導体(典型的には、任意の置換基が導入されたチアミンである誘導体;好ましくは、チアミンのプロドラッグである誘導体)並びにそれらの塩(塩酸塩、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩等の任意の塩)を包含する。一実施形態ではビタミンB1は水和物であってもよい。ビタミンB1としては、例えば、チアミン、フルスルチアミン(フルスルチアミン塩酸塩など)、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、ジセチアミン、オクトチアミン、アリチアミン等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0014】
一実施形態では、本発明は、ビタミンB12を含む、腎機能低下対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤を提供する。ビタミンB12は、コバラミン及びその誘導体(典型的には、任意の置換基が導入されたコバラミンである誘導体;好ましくは、コバラミンのプロドラッグ、例えばアデノシルコバラミンやメチルコバラミンのような活性型コバラミンのプロドラッグである誘導体)並びにそれらの塩(塩酸塩、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩等の任意の塩)を包含する。一実施形態ではビタミンB12は水和物であってもよい。ビタミンB12としては、例えば、シアノコバラミン、メチルコバラミン(メコバラミン)、アデノシルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、スルフィトコバラミン等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0015】
一実施形態では、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、ビタミンB1とビタミンB12とを含む、副甲状腺ホルモン分泌促進剤、特に、腎機能正常対象及び腎機能低下対象の双方のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤であってもよい。すなわち、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、ビタミンB1とビタミンB12の両方を含み、ビタミンB1により腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌を促進し、かつ、ビタミンB12により腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌を促進するためのものであってもよい。
【0016】
本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つ(ビタミンB1、若しくはビタミンB12、又はその両方)を、有効成分として含むことができる。本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つをそれぞれ有効量で含むことができる。
【0017】
本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つからなるものであってもよいし、ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つを含む組成物であってもよい。本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、ビタミンB1及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つに加えて、例えば担体、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、着色剤などの、食品分野、医薬分野、又は飼料分野等での配合が許容される添加剤をさらに含んでもよい。本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤はまた、他の生理活性成分などの追加の成分をさらに含んでもよい。
【0018】
本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、対象において副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を促進させることを目的として対象に投与又は摂取させることを意図したものであり得る。本発明において「対象」は、内在性PTH産生能を有する任意の動物であってよい。本発明において「対象」は、ヒト又は非ヒト動物であってよく、例えば、ヒト、チンパンジー、ゴリラなどの霊長類、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどのげっ歯類、また、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ロバなどの哺乳動物であってもよいし、又は、ニワトリ、ウズラ、カモ、オウム、インコ、ハトなどの鳥類であってもよい。本発明における対象は、ヒトであることがより好ましい。本発明における対象は、腎機能について正常であってもよいし(腎機能正常対象)、腎機能の低下を呈していてもよい(腎機能低下対象)。本発明における対象は、腎機能低下を生じやすい遺伝的素因又は環境的素因を有していてもよい。一実施形態では、本発明における対象は、中高齢者であってもよく、例えば、40歳以上のヒトであってもよいが、それに限定されない。
【0019】
一実施形態では、本発明における対象は、ヒトの腎機能正常対象又は腎機能低下対象であってよい。慢性腎臓病(CKD)診療ガイドライン「KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease」に基づく慢性腎臓病の定義に基づき、本発明における腎機能正常対象は、60mL/分/1.73m2以上の推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate; eGFR)[eGFR≧60mL/分/1.73m2]を示すヒトであり得る。同様に、慢性腎臓病(CKD)診療ガイドラインに基づき、本発明における腎機能低下対象は、60mL/分/1.73m2未満の推算糸球体濾過量[eGFR<60mL/分/1.73m2]を示すヒトであり得る。推算糸球体濾過量は、老廃物を尿へ排泄する腎臓の能力を示しており、この値が低いほど腎臓の機能が悪い(低下している)ことを意味する。推算糸球体濾過量は、ヒト対象の場合、以下の式に従って算出することができる。血清クレアチニン値は常法により測定できる。
【0020】
<男性>
eGFR(mL/分/1.73m2)=194×血清クレアチニン値(mg/dl)-1.094×年齢-0.287
<女性>
eGFR(mL/分/1.73m2)=194×血清クレアチニン値(mg/dl)-1.094×年齢-0.287×0.739
【0021】
一実施形態では、本発明における対象は、血中PTH濃度(例えば、血清PTH濃度)の低下(特に、病的な低下)若しくは副甲状腺機能低下を呈するか、又はそれに起因する若しくはそれを伴う症状、疾患、若しくは障害を呈する対象であり得る。一実施形態では、本発明における対象(例えば、腎機能正常対象又は腎機能低下対象)は、例えば、副甲状腺機能低下症及び無形成骨からなる群から選択される少なくとも1つを呈する対象であり得る。一実施形態では、本発明における対象(例えば、腎機能正常対象又は腎機能低下対象)は、骨粗鬆症を呈する対象であり得る。従来、骨粗鬆症治療薬としては、活性型ビタミンD3製剤や副甲状腺ホルモン(PTH)製剤などの骨形成促進薬、ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体等の骨吸収抑制薬、また、カルシウム製剤などが使用されている。一方で、これらの骨粗鬆症治療薬では、腎障害、高カルシウム血症、又は低カルシウム血症などの副作用も報告されている。
【0022】
一実施形態では、血中PTH(intact PTH)濃度が45pg/mL未満、特に30pg/mL未満の場合は血中PTH濃度低下ありとし、45pg/mL以上の場合はPTH正常(血中PTH濃度低下なし)とすることができる(特に、ヒトの場合)が、それに限定されない。血中PTH濃度が30pg/mL未満の場合、副甲状腺機能低下症の診断基準の1つに該当し、血中PTH濃度の病的な低下を呈すると判断することができる。血中PTH濃度(例えば、血清PTH濃度)は常法により(例えば、電気化学発光免疫測定法により)測定することができる。
【0023】
一実施形態では、本発明の「副甲状腺ホルモン分泌促進剤」は、血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度の低下(特に、病的な低下)又は副甲状腺機能低下の予防又は治療のためのものであり得る。一実施形態では、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度の低下(特に、病的な低下)若しくは副甲状腺機能低下に起因するか又はそれを伴う症状、疾患、若しくは障害、例えば、副甲状腺機能低下症、無形成骨、及び骨粗鬆症からなる群から選択される少なくとも1つの、予防又は治療のためのものであり得る。
【0024】
本発明において、「腎機能正常対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤」とは、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進を目的として、腎機能正常対象に投与又は摂取させることを意図した副甲状腺ホルモン分泌促進剤を意味する。一実施形態では、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、ビタミンB1を含み、ビタミンB1の投与又は摂取により腎機能正常対象における副甲状腺ホルモンの分泌を促進するための、「腎機能正常対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤」であり得る。一実施形態では、本発明の「腎機能正常対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤」は、腎機能正常対象における血中PTH濃度の低下(特に、病的な低下)の予防又は治療のためのものであり得る。
【0025】
本発明において、「腎機能低下対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤」とは、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進を目的として、腎機能低下対象に投与又は摂取させることを意図した副甲状腺ホルモン分泌促進剤を意味する。一実施形態では、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤は、ビタミンB12を含み、ビタミンB12の投与又は摂取により腎機能低下対象における副甲状腺ホルモンの分泌を促進するための、「腎機能低下対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤」であり得る。一実施形態では、本発明の「腎機能低下対象のための副甲状腺ホルモン分泌促進剤」は、腎機能低下対象における血中PTH濃度の低下(特に、病的な低下)の予防又は治療のためのものであり得る。
【0026】
本発明は、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又はその有効成分であるビタミンB1及び/若しくはビタミンB12を含む、食品にも関する。本発明の食品は、上記の対象における、副甲状腺ホルモン分泌促進のための食品であり得る。本発明の食品は、食品分野で許容される添加剤、例えば、以下に限定されないが、担体、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、保存剤、香料、着色剤などの食品添加剤(食品添加物)をさらに含んでもよい。本発明の食品は、他の成分や食品材料をさらに含んでもよい。本発明の食品は、任意の種類及び任意の形態の食品であってよく、例えば、以下に限定されないが、総菜、菓子類、麺類、肉加工品、野菜加工品、パン類、スープ類、調味料、ソース、又は飲料等であってよい。本発明の食品はまた、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、サプリメントなどの機能性食品であってもよい。機能性食品は、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品などの健康食品全般を包含する。機能性食品は、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤などの固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤などの液体製剤、又はジェル剤やペースト剤などの剤形であってもよいし、通常の食品の形状(例えば、飲料、菓子など)であってもよい。本発明の食品は、食品組成物であり得る。
【0027】
本発明は、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又はその有効成分であるビタミンB1及び/若しくはビタミンB12を含む、医薬にも関する。本発明の医薬は、上記の対象における、副甲状腺ホルモン分泌促進のための医薬であり得る。本発明の医薬は、製薬分野で許容される添加剤、例えば、以下に限定されないが、担体、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、保存剤、矯味剤、着色剤などの医薬品添加剤(医薬品添加物)をさらに含んでもよい。本発明の医薬は、他の生理活性物質などの成分や材料をさらに含んでもよい。本発明の医薬は、任意の種類及び任意の形態の医薬であってよく、例えば、以下に限定されないが、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤などの固形製剤、ジェル剤、又は液剤、懸濁剤、シロップ剤などの液体製剤等の任意の剤形のものであってよい。本発明の医薬は、経口投与用であっても非経口投与用であってもよいが、経口投与用であることがより好ましい。本発明の医薬は、医薬組成物であり得る。
【0028】
本発明は、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又はその有効成分であるビタミンB1及び/若しくはビタミンB12を含む、飼料にも関する。本発明の飼料は、上記の対象(非ヒト動物)における、副甲状腺ホルモン分泌促進のための飼料であり得る。本発明の飼料は、飼料分野で許容される添加剤、例えば、以下に限定されないが、担体、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、保存剤、矯味剤、着色剤などの飼料添加剤(飼料添加物)をさらに含んでもよい。本発明の飼料は、他の生理活性物質などの成分や飼料材料をさらに含んでもよい。本発明の飼料は、固形、半固形、液状などの任意の形状を有するものであってよい。本発明の飼料は、飼料組成物であり得る。
【0029】
一実施形態では、本発明の食品、医薬、及び飼料は、それぞれ、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のための食品、医薬、及び飼料であり得る。本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含む食品、医薬、及び飼料は、その副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB1を含み、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものであり得る。一実施形態では、本発明の食品、医薬、及び飼料は、それぞれ、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のための食品、医薬、及び飼料であり得る。本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含む食品、医薬、及び飼料は、その副甲状腺ホルモン分泌促進剤がビタミンB12を含み、腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進のためのものであり得る。一実施形態では、本発明の食品、医薬、及び飼料は、それぞれ、副甲状腺ホルモン分泌促進のための食品、医薬、及び飼料であってよく、例えば、腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌促進と腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌促進の両方の目的を兼ねるものであってもよい。すなわち、本発明の食品、医薬、及び飼料は、ビタミンB1及びビタミンB12の両方を含むか、又はビタミンB1及びビタミンB12の両方を含む副甲状腺ホルモン分泌促進剤を含み、ビタミンB1により腎機能正常対象における副甲状腺ホルモン分泌を促進し、かつ、ビタミンB12により腎機能低下対象における副甲状腺ホルモン分泌を促進するものであってもよい。
【0030】
本発明の食品、医薬、及び飼料は、それを投与される又は摂取する対象における、血中PTH濃度の低下(特に、病的な低下)又は副甲状腺機能低下の予防又は治療のためのものであり得る。本発明の食品、医薬、及び飼料は、それを投与される又は摂取する対象における、血中PTH濃度の低下(特に、病的な低下)若しくは副甲状腺機能低下に起因するか又はそれを伴う症状、疾患、若しくは障害、例えば、副甲状腺機能低下症、無形成骨、及び骨粗鬆症からなる群から選択される少なくとも1つの、予防又は治療のためのものであり得る。
【0031】
本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又はその有効成分であるビタミンB1及び/若しくはビタミンB12は、好ましくは有効量で、対象に投与するか又は摂取させることにより、対象における副甲状腺ホルモン分泌を促進させることができる。本発明は、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又は本発明の食品、医薬、若しくは飼料を、対象に投与するか又は摂取させることを含む、対象における副甲状腺ホルモン分泌を促進する方法も提供する。
【0032】
本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又は本発明の食品、医薬、若しくは飼料の投与量又は摂取量は、当業者であれば適宜定めることができるが、例えば、ビタミンB1含量が1日当たり0.1mg~1g、好ましくは25mg~100mgとなる量(ビタミンB1相当量)であってよく、及び/又は、ビタミンB12含量が1日当たり1μg~10mg、好ましくは100μg~1,500μgとなる量(ビタミンB12相当量)であってよい。それらの投与量又は摂取量を副甲状腺ホルモン分泌促進のための有効量とすることができる。本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又は本発明の食品、医薬、若しくは飼料の投与又は摂取は、対象1個体に対して1回以上、2回以上、又は3回以上実施することが好ましく、反復して行うことがさらに好ましい。当該投与又は摂取は、例えば、毎日又は1日おきに行ってもよい。当該投与又は摂取は、例えば、1週間当たり1回以上、2回以上、3回以上、又は5回以上行うことが好ましい。当該投与又は摂取は、例えば、1日当たり1回、2回、又は3回以上行ってもよい。当該投与又は摂取は、任意の期間にわたって行うことができるが、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、6ヶ月以上、又は1年以上にわたって行ってもよい。
【0033】
本発明におけるPTHの「分泌促進」とは、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又は本発明の食品、医薬、若しくは飼料を投与又は摂取する対象において、当該投与又は摂取後(以下に限定されないが、例えば、1週間以上、又は1ヶ月若しくはそれ以上の期間にわたる投与又は摂取後)の血中PTH濃度(例えば、血清PTH濃度)が上昇することを意味する。好ましい実施形態では、本発明におけるPTHの分泌促進は、血中PTH濃度の低下(特に、病的な低下)及び/又は副甲状腺機能低下を予防又は治療することができる。すなわち本発明は、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又は本発明の食品、医薬、若しくは飼料を、対象に投与するか又は摂取させることを含む、対象における血中PTH濃度の低下(特に、病的な低下)及び/又は副甲状腺機能低下の予防又は治療方法にも関する。好ましい実施形態では、本発明におけるPTHの分泌促進はまた、骨代謝(例えば、骨代謝マーカー値)の改善をもたらす。すなわち本発明は、本発明の副甲状腺ホルモン分泌促進剤、又は本発明の食品、医薬、若しくは飼料を、対象に投与するか又は摂取させることを含む、対象における骨代謝の改善方法にも関する。本発明は、血中PTH濃度の低下(特に、病的な低下)若しくは副甲状腺機能低下に起因するか、又はそれを伴う症状、疾患、若しくは障害、例えば、副甲状腺機能低下症、無形成骨、及び骨粗鬆症からなる群から選択される少なくとも1つの、予防又は治療方法にも関する。
【実施例0034】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は本実施例に限定されるものではない。
【0035】
本実施例では、一般住民を対象として、腎機能低下の有無と、食事性ビタミン摂取量及びPTH濃度との関連を調べた。
【0036】
1.解析対象
日本の石川県志賀町に在住の40歳以上の中高齢者住民の健康診断データを使用して解析を行った。健康診断の受診者総数1335人のうち、副甲状腺ホルモン(PTH)、血中25-ヒドロキシビタミンD(以下、25(OH)D)、及びクレアチニンのうち1つ以上についての未測定者、透析治療中の末期腎不全者、ビタミンD3製剤服用中の者、並びに簡易自記式食事歴質問票(BDHQ)に回答した者のうち1日カロリー摂取量が600kcal未満又は4000kcalより大きい者を除外した。その結果、住民843例(男性396例、女性447例;平均年齢62.1±11.2歳)を解析対象とした。この試験は金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得て実施され、全参加者よりインフォームドコンセントを取得した。
【0037】
それぞれの解析対象から、質問票を用いて、年齢、性別、身体活動歴及び喫煙歴に関する情報を収集した。身体活動歴については、「1回30分以上の運動を、週2回以上で1年以上実施している」又は「普段の生活の中で歩行、掃除、荷物運びなど体を動かすことを1日1時間以上実施している」のいずれかに当てはまる場合を身体活動歴ありとした。喫煙歴は、現在喫煙、禁煙、又は、喫煙歴なし(非喫煙)の3段階での回答を得た。
【0038】
さらに、HbA1c≧6.5%であるか又は糖尿病治療歴がある解析対象を、糖尿病ありとした。
【0039】
解析対象の体重と身長を測定し、以下の式を用いてBMI(body mass index)を算出した。
BMI = 体重(kg) / [身長(m)]2
【0040】
解析対象の血清カルシウム濃度及び血清リン濃度を、それぞれアルセナゾIII法及びモリブデン酸直接法を用いて測定した。
【0041】
2.腎機能、血清PTH濃度、及び血清25(OD)D濃度の測定及び評価
それぞれの解析対象の腎機能を評価するために、酵素法を用いて血清クレアチニン濃度を測定し、以下の計算式を用いて推算糸球体濾過量(eGFR)を算出した。
eGFR(mL/分/1.73m2)=194×血清クレアチニン値(mg/dl)-1.094×年齢-0.287(女性の場合、さらに、×0.739)
【0042】
慢性腎臓病(CKD)診療ガイドライン「KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease」に基づくCKDの定義に基づき、eGFR<60mL/min/1.73m2の場合は「腎機能低下あり」とし、eGFR≧60mL/min/1.73m2の場合は「腎機能正常(腎機能低下なし)」として、解析対象を2群(腎機能低下群、及び腎機能正常群)に分類した。
【0043】
解析対象の血清PTH濃度を電気化学発光免疫測定法により測定した。血清PTH濃度が中央値である45pg/mL未満の場合は「PTH低下あり」とし、45pg/mL以上の場合は「PTH正常(PTH低下なし)」として、解析対象を2群(PTH低下群、及びPTH正常群)に分類した。
【0044】
また、解析対象の血清25(OH)D濃度を、化学発光酵素免疫測定法で測定した。
【0045】
3.栄養摂取量の評価
簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を使用して、解析対象の栄養摂取量の評価を行った。BDHQは食事歴質問票の簡易版であり、被検者に58種の飲食品の摂取頻度についての質問に回答させるものである。これらの飲食品は、日本で一般的に消費されており、主に日本の国民健康・栄養調査で使用されている食品リストに掲載されているものである。このBDHQは、他の研究でも妥当性が確認されており、日本人被検者における栄養素の多寡を十分に評価できると考えられている(Kobayashi et al., J. Epidemiol, 2012; 22(2):151-159)。BDHQの回答に基づき、食事性の栄養摂取量を算出した。栄養摂取量の算出は、各栄養素の粗摂取量について推定エネルギー摂取量を用いて調整を行い、1000kcal当たりの摂取量(密度法による摂取量)を求めることによって行った。食事性ビタミン摂取量として、レチノール(μg/1000kcal)、レチノール当量(μg/1000kcal)、βカロテン当量(μg/1000kcal)、αトコフェロール(mg/1000kcal)、ビタミンK(μg/1000kcal)、ビタミンB1(mg/1000kcal)、ビタミンB2(mg/1000kcal)、ナイアシン(mg/1000kcal)、パントテン酸(mg/1000kcal)、ビタミンB6(mg/1000kcal)、葉酸(μg/1000kcal)、ビタミンB12(μg/1000kcal)、ビタミンC(mg/1000kcal)、及びクリプトキサンチン(μg/1000kcal)の密度法による摂取量を算出した。また、カルシウム(mg/1000kcal)及びリン(mg/1000kcal)についても密度法による摂取量を算出した。
【0046】
4.統計解析
上記で得られた解析対象の情報と栄養摂取量を用いて統計解析を行った。性別、腎機能、又は血清PTH濃度低下の有無で分類した2群の比較を行い、連続変数の平均値の比較には、Studentのt検定を行い、カテゴリ変数の割合の比較にはカイ二乗検定を行った。その結果を表1(性別)、表2(腎機能)、表3(血清PTH濃度低下の有無)に示す。
【0047】
また、血清PTH濃度に基づいて分類したPTH2群(PTH低下群/PTH正常群)と、eGFR値に基づいて分類したeGFR2群(腎機能低下群/腎機能正常群)を固定因子とし、年齢、性別、及び糖尿病ありを共変量として用いて、ビタミン摂取量に対する二元配置共分散分析を行った。その結果を表4に示す。
【0048】
さらに、腎機能正常群と腎機能低下群に層別化し、「PTH低下あり」と各ビタミン摂取量との関連性について評価するため、共変量(年齢、性別、糖尿病、血清25(OH)D濃度、カルシウム摂取量、リン摂取量、BMI、身体活動歴、及び喫煙歴)を交絡因子として調整したモデルを用いて、多重ロジスティック回帰分析を実施した。その結果を表5に示す。
【0049】
表1~5に示したp値は両側検定によるものであり、p<0.05である場合を統計学的に有意とした。すべての統計解析には、IBM SPSS(R) Statistics 26.0(SPSS Inc., Armonk, NY, USA)を使用した。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
5.解析結果
解析対象843例のうち、腎機能正常者は706例、腎機能低下者は137例であった(表2)。表2に示されるように、腎機能低下群(eGFR低下群)における血清カルシウム濃度及び血清25(OH)D濃度は、腎機能正常群(eGFR正常群)と比較して高値であった。密度法による栄養摂取量について、腎機能低下群におけるカルシウム摂取量及びビタミンC摂取量は、腎機能正常群におけるそれらと比較して高かった。
【0056】
解析対象843例のうち、PTH正常者は426例、PTH低下者は417例であった(表3)。表3に示されるように、PTH低下群における年齢及び糖尿病有病率は、PTH正常群におけるそれらと比較して高かった。また、PTH低下群における血清カルシウム濃度、血清リン濃度、及び血清25(OH)D濃度は、PTH正常群におけるそれらと比較して高値であった。
【0057】
二元配置共分散分析の結果、表4に示されるように、腎機能(eGFR値)及びPTH値の各ビタミン摂取量に対する主効果が認められたことに加え、腎機能(eGFR値)とPTH値の間にはクリプトキサンチン摂取量に対する交互作用が認められた。すなわち、腎機能低下群(eGFR低下群)ではPTH低下群のクリプトキサンチン摂取量がPTH正常群のそれよりも少なかったのに対し、腎機能正常群(eGFR正常群)ではその差はみられなかった。
【0058】
PTH値と腎機能(eGFR値)との間にクリプトキサンチン摂取量をはじめとするビタミン摂取量に対する交互作用又はその傾向が認められたため、腎機能正常群と腎機能低下群で層別化した多重ロジスティック回帰分析を用いて、各ビタミン摂取量とPTH低下との関連について検討した(表5)。その結果、腎機能低下群(eGFR<60mL/分/1.73m2)において、ビタミンB12摂取量とPTH低下との間に負の関連(ビタミンB12摂取量が+1μg/1,000kcal増加するとき、PTH低下となる場合のオッズ比0.765、95%信頼区間0.599-0.976)が示された。他方、腎機能正常群(eGFR≧60mL/分/1.73m2)では、ビタミンB1摂取量とPTH低下の間に負の関連(ビタミンB1摂取量が+1mg/1,000kcal増加するとき、PTH低下となる場合のオッズ比0.049、95%信頼区間0.004-0.624)が示された。この結果は、腎機能正常者においてビタミンB1摂取量は血中PTH濃度(PTH分泌量)と関連していること、また、腎機能低下者においてビタミンB12摂取量は血中PTH濃度(PTH分泌量)と関連していることを示す。
【0059】
以上の結果から、腎機能正常時には特にビタミンB1摂取量の増加により、また、腎機能低下時には特にビタミンB12摂取量の増加により、対象におけるPTH分泌を促進し、血中PTH濃度を上昇(向上)させることができると考えられた。血中PTH濃度の上昇(向上)は、副甲状腺機能低下の改善に資するだけでなく、骨代謝を改善し、骨粗鬆症の改善や、PTH産生抑制などに起因する無形成骨及びそれに伴う症状の改善に資すると考えられた。