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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074582
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】ホログラム素子
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/22 20060101AFI20240524BHJP
   G02B 5/32 20060101ALI20240524BHJP
   G03B 35/00 20210101ALI20240524BHJP
【FI】
G03H1/22
G02B5/32
G03B35/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185844
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】503208150
【氏名又は名称】独立行政法人 造幣局
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山東 悠介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和郎
(72)【発明者】
【氏名】矢野 純也
(72)【発明者】
【氏名】福 大介
(72)【発明者】
【氏名】大原 輝彦
【テーマコード(参考)】
2H059
2H249
2K008
【Fターム(参考)】
2H059AC04
2H249CA05
2H249CA08
2H249CA09
2H249CA22
2K008AA00
2K008CC03
2K008EE01
2K008FF11
2K008FF17
2K008HH02
2K008HH06
(57)【要約】
【課題】観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を提供する。
【解決手段】ホログラム素子1の入射面P1は、少なくとも1つの配列方向Aに沿って周期的に配列された複数の要素ホログラムEを有する。複数の要素ホログラムEのそれぞれは、それぞれに対応する視点Vである対応視点から観察した場合に、潜像面P2上の共通の領域である対象領域20に潜像3を生成するように構成され、少なくとも2つの要素ホログラムEが、対象領域20に互いに異なる潜像3を生成するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子であって、
前記入射面に直交する方向を奥行き方向とし、前記奥行き方向における前記入射面に対して観察者の視点が配置される側を手前側とし、前記奥行き方向における前記手前側とは反対側を奥側とし、前記入射面よりも前記奥側であって前記潜像が生成される面を潜像面として、
前記入射面は、少なくとも1つの配列方向に沿って周期的に配列された複数の要素ホログラムを有し、
複数の前記要素ホログラムのそれぞれは、それぞれに対応する前記視点である対応視点から観察した場合に、前記潜像面上の共通の領域である対象領域に前記潜像を生成するように構成され、
少なくとも2つの前記要素ホログラムが、前記対象領域に互いに異なる前記潜像を生成するように構成されている、ホログラム素子。
【請求項2】
前記配列方向の一方側を配列方向第1側とし、前記配列方向の他方側を配列方向第2側とし、
前記配列方向に隣接する2つの前記要素ホログラムを、前記配列方向第1側から順に、第1要素ホログラム、第2要素ホログラムとし、
前記第1要素ホログラムが前記対象領域に生成する前記潜像を第1潜像とし、前記第2要素ホログラムが前記対象領域に生成する前記潜像を第2潜像として、
前記第1潜像に表示される対象物が、当該第1潜像での向きよりも前記配列方向第2側から見た向きで、前記第2潜像に表示されるように、前記配列方向に隣接する2つの前記要素ホログラムが構成されている、請求項1に記載のホログラム素子。
【請求項3】
前記配列方向の一方側を配列方向第1側とし、前記配列方向の他方側を配列方向第2側とし、前記対象領域を第1対象領域とし、前記潜像面上における前記第1対象領域に対して前記配列方向第1側に隣接する領域を第2対象領域として、
複数の前記要素ホログラムのそれぞれは、前記配列方向第2側に隣接する他の前記要素ホログラムに対応する前記対応視点から観察した場合に、前記第2対象領域に前記潜像を生成するように構成され、
少なくとも2つの前記要素ホログラムが、前記第2対象領域に互いに異なる前記潜像を生成するように構成されている、請求項1に記載のホログラム素子。
【請求項4】
前記配列方向に隣接する3つの前記要素ホログラムを、前記配列方向第1側から順に、第1要素ホログラム、第2要素ホログラム、第3要素ホログラムとし、
前記第1要素ホログラムが前記第2対象領域に生成する前記潜像を第1分割潜像とし、前記第2要素ホログラムが前記第1対象領域に生成する前記潜像を第2分割潜像とし、前記第2要素ホログラムが前記第2対象領域に生成する前記潜像を第3分割潜像とし、前記第3要素ホログラムが前記第1対象領域に生成する前記潜像を第4分割潜像として、
前記第1分割潜像と前記第2分割潜像とを合わせた第1合成潜像に表示される対象物が、当該第1合成潜像での向きよりも前記配列方向第2側から見た向きで、前記第3分割潜像と前記第4分割潜像とを合わせた第2合成潜像に表示されるように、前記配列方向に隣接する3つの前記要素ホログラムが構成されている、請求項3に記載のホログラム素子。
【請求項5】
前記配列方向は、前記入射面に沿って互いに直交する2つの方向を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のホログラム素子。
【請求項6】
複数の前記要素ホログラムは、前記配列方向に沿って隙間なく配列されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のホログラム素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラム素子の一例が、特開2004-309709号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1には、観察方向に応じて複数の画像を選択的に再生可能な計算機合成ホログラム(ホログラフィックステレオグラム)に関する技術が開示されている。特許文献1の段落0002,0003に記載されているように、ステレオグラムを用いると、全く異なる複数の画像の切り替え表示、立体感のある画像表示、及び、アニメーション効果を持った画像表示が可能となる。特許文献1には、レンズアレイのような物理的な画素構造の必要のないホログラフィックステレオグラムの技術として、視差画像等の複数の画像を再生する面であってホログラム面から離れた面に、放射方向に応じて異なった画像のその方向の放射輝度を持った仮想点光源、或いは集光方向に応じて異なった画像のその方向の輝度に等しい放射輝度を持った仮想集光点を多数定義し、それらの仮想点光源から放射する光或いはそれらの仮想集光点に集光する光を仮想的な物体光として計算機合成ホログラムを作成する技術が開示されている(段落0020等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-309709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子において、観察者の視点を固定すると、ホログラム素子の入射面におけるその視点から見た潜像の生成に寄与する空間的な領域は限定される。本発明者らは、このように潜像の生成に寄与する領域が入射面における特定の領域に限定されることを、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なステレオグラムに利用できることを知見した。
【0005】
本発明の目的は、このような新規な知見に基づいた、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るホログラム素子は、入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子であって、前記入射面に直交する方向を奥行き方向とし、前記奥行き方向における前記入射面に対して観察者の視点が配置される側を手前側とし、前記奥行き方向における前記手前側とは反対側を奥側とし、前記入射面よりも前記奥側であって前記潜像が生成される面を潜像面として、前記入射面は、少なくとも1つの配列方向に沿って周期的に配列された複数の要素ホログラムを有し、複数の前記要素ホログラムのそれぞれは、それぞれに対応する前記視点である対応視点から観察した場合に、前記潜像面上の共通の領域である対象領域に前記潜像を生成するように構成され、少なくとも2つの前記要素ホログラムが、前記対象領域に互いに異なる前記潜像を生成するように構成されている。
【0007】
入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子において、観察者の視点を固定すると、入射面におけるその視点から見た潜像の生成に寄与する空間的な領域は限定される。従って、視点に対応するようにホログラム素子の入射面を区画分割すれば、区画分割された領域のホログラム(要素ホログラム)が生成する潜像は、要素ホログラム毎に自由に設定することができる。このような知見に基づき、本構成では、ホログラム素子の入射面が、少なくとも1つの配列方向に沿って周期的に配列された複数の要素ホログラムを有し、複数の要素ホログラムのそれぞれが、それぞれに対応する視点である対応視点から観察した場合に、潜像面上の共通の領域である対象領域に潜像を生成するように構成される。そして、少なくとも2つの要素ホログラムが、対象領域に互いに異なる潜像を生成するように構成されている。これにより、観察者が視点を配列方向に移動させた場合に、対象領域に生成される潜像を少なくとも2通りに変化させることができ、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を実現することができる。
【0008】
ホログラム素子の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係るホログラム素子の観察態様を示す図
図2】第1の実施形態に係る要素ホログラムと要素潜像との関係を示す図
図3】第1の実施形態に係る対象領域と要素ホログラムと視点との関係を示す図
図4】潜像の生成領域の拡張の説明図
図5】2つの要素潜像の合成により生成される視点潜像の説明図
図6】2つの要素潜像の合成により生成される視点潜像の説明図
図7】3つの要素潜像の合成により生成される視点潜像の説明図
図8】第2の実施形態に係る対象領域と要素ホログラムと視点との関係を示す図
図9】第2の実施形態に係る要素潜像と視点潜像との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔第1の実施形態〕
ホログラム素子の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、ホログラム素子1は、入射面P1への入射光(図1に示す例では、点光源9からの入射光)を回折して潜像3を表示する素子である。ホログラム素子1には、入射面P1への入射光を回折させるためのパターン(ホログラムパターン)が形成されている。ホログラム素子1は、位相型であっても振幅型であってもよい。位相型のホログラム素子1には、凹凸パターン等の光路長(位相遅延量)の変化によって入射光を回折させるホログラムパターンが形成され、振幅型のホログラム素子1には、濃淡パターン等の反射率や透過率の変化によって入射光を回折させるホログラムパターンが形成される。
【0012】
本開示の技術は、例えば、コインやメダル等の金属製品の付加価値向上のために実施することができる。この場合、金属製品が「ホログラム素子」に相当し、当該金属製品の表面におけるホログラムパターン(例えば、凹凸パターン)が形成された領域が「入射面」に相当する。これ以外にも、本開示の技術は、例えば、時計やアクセサリ等の装飾品、フィルムシート、金券、チケット、CDやDVD等の記録媒体(メディア)、公的文書や機密情報を記録した媒体等にも適用することができる。
【0013】
潜像3を生成するための入射面P1への入射光(再生光)は、球面波であっても平面波であってもよい。図1には、入射面P1への入射光が、点光源9からの球面波とされる場合を例示している。なお、点光源9には、疑似的に点光源と近似可能な光源を含む。点光源9は、単色光を発する光源であっても、連続的又は不連続的なスペクトル分布を持つ光(例えば、白色光)を発する光源であってもよい。例えば、スマートフォン等に搭載された白色LED(Light Emitting Diode)を、点光源9として用いることができる。
【0014】
ここで、図1に示すように、入射面P1に直交する方向を奥行き方向Dとし、奥行き方向Dにおける入射面P1に対して観察者の視点Vが配置される側を手前側D1とし、奥行き方向Dにおける手前側D1とは反対側を奥側D2とし、入射面P1よりも奥側D2であって潜像3が生成される面を潜像面P2とする。
【0015】
ホログラム素子1は、反射型であっても透過型であってもよい。ホログラム素子1が透過型である場合、図1に示すように、光源(例えば、点光源9)は、入射面P1に対して奥側D2に配置され、ホログラム素子1が反射型である場合、図示は省略するが、光源(例えば、点光源9)は、入射面P1に対して手前側D1に配置される。ホログラム素子1が透過型である場合の入射側の光学系を入射面P1に対して奥行き方向Dに反転させると、ホログラム素子1が反射型である場合の入射側の光学系となる。そのため、以下の説明は、ホログラム素子1が反射型であっても透過型であっても成立する。
【0016】
本出願人らは、特願2022-58522号の出願において、レーザ等の特殊な光源や、狭帯域フィルタ等の特殊な光学部材を用いることなく、比較的入手の容易な点光源とホログラム素子のみで、色収差に起因する色滲みや点光源の大きさに起因する像ボケ(潜像のボケ)が低減された潜像を表示する技術を提案している。本開示の技術は、図1に示す態様に限定されないが、図1に示す態様は、特願2022-58522号にて提案されている技術を適用したものであり、ホログラム素子1は、入射面P1に対して奥側D2であって、入射面P1からの奥行き方向Dに沿った距離が設定距離である位置に、潜像3を生成するように構成されている。ここで、入射面P1と点光源9との奥行き方向Dの距離を対象距離として、設定距離は、対象距離未満の距離(好適には、対象距離の半分と同等の距離)である。ホログラム素子1をこのように構成することで、入射面P1からの奥行き方向Dに沿った距離が対象距離である位置に潜像3を生成する場合に比べて、色滲みや像ボケが低減された潜像3を生成することができる。
【0017】
特願2022-58522号にて提案されている技術では、光学的な奥行き範囲を広げなければ、色滲みや像ボケを増加させないようにすることができる。そして、以下に説明するように、本開示の技術によれば、光学的な奥行き範囲を広げることなく、観察方向に応じて複数の潜像を選択的に表示することができる。そのため、図1に例示するようにこれら2つの技術を組み合わせた場合、色滲みや像ボケの増加による画質の劣化を抑制しつつ、観察方向に応じて複数の潜像を選択的に表示することができる。従って、これら2つの技術は好適に組み合わせることができる。なお、本開示の技術は、特願2022-58522号にて提案されている技術を組み合わせずに実施することも当然可能であり、例えば、図1に示す態様に代えて、潜像3がフーリエ面(光源或いはその鏡像が配置される面)に生成されるようにホログラム素子1を設計してもよい。
【0018】
図1に示すように、ホログラム素子1の入射面P1は、少なくとも1つの配列方向Aに沿って周期的に配列された複数の要素ホログラムEを有している。すなわち、入射面P1は、配列方向Aにおいて複数の区画に分割されており、区画分割された各領域のホログラムが要素ホログラムEである。複数の要素ホログラムEは、互いに同一の形状(具体的には、奥行き方向Dに沿う方向視での形状)を有している。すなわち、入射面P1内にて平行移動すれば、複数の要素ホログラムEは互いに一致する。図1等では、複数の要素ホログラムEを互いに区別するために、インデックス[M,N]又は[N](M、Nは整数)を用いている。複数の要素ホログラムE同士の間に隙間があってもよいが、複数の要素ホログラムEが配列方向Aに沿って隙間なく配列されていると好適である。言い換えれば、要素ホログラムEの形状は、平行移動のみで複数の要素ホログラムEを周期的に敷き詰めることができる形状であると好適である。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態では、配列方向Aは、入射面P1に沿って互いに直交する2つの方向である第1方向X及び第2方向Yを含んでいる。すなわち、本実施形態では、入射面P1には、複数の要素ホログラムEが2つの配列方向A(具体的には、第1方向X及び第2方向Y)に沿って周期的に配列されている。第1方向Xにおける複数の要素ホログラムEの配列周期と、第2方向Yにおける複数の要素ホログラムEの配列周期とは、同じであっても互いに異なっていてもよい。図1及び図2では、これら2つの配列周期を同じとしており、要素ホログラムEの形状は正方形状となっている。なお、配列方向Aに含まれる方向の数は“2”に限定されず、例えば、配列方向Aが1つの方向のみを含む構成や、配列方向Aが3つの方向を含む構成とすることもできる。後者の場合、例えば、要素ホログラムEの形状を正六角形状とし、入射面P1に、複数の要素ホログラムEが3つの配列方向Aに沿って周期的に配列された構成とすることができる。このように要素ホログラムEの形状を正六角形状とすることで、複数の要素ホログラムEを3つの配列方向Aに沿って隙間なく配列することができる。
【0020】
図1及び図2に示す例では、入射面P1を第1方向X及び第2方向Yのそれぞれにおいて3つの区画に分割しており、入射面P1は合計で9つの要素ホログラムE(図1ではそのうちの3つの要素ホログラムEのみを図示)を有している。そして、複数の要素ホログラムEを区別するためのインデックス[M,N](M、N=-1,0,1)において、Mは第1方向Xの座標を表し、Nは第2方向Yの座標を表している。
【0021】
図1に示すように、複数の要素ホログラムEのそれぞれは、それぞれに対応する視点Vである対応視点から観察した場合に、潜像面P2上の共通の領域である対象領域20に潜像3を生成するように構成されている。ここで、「複数の要素ホログラムE」は、全ての要素ホログラムEでなくてもよく、他の箇所の記載においても同様である。後に参照する図7図9に示す例では、配列方向Aの両端部の要素ホログラムEを除く複数の要素ホログラムEのそれぞれが、対象領域20(図7図9に示す例では、第1対象領域21)に潜像3を生成するように構成されている。なお、本明細書では、潜像面P2に生成され得る高次回折像(+1次回折像や-1次回折像等)は考慮しない。
【0022】
図1において、視点V[M,N]は、要素ホログラムE[M,N]に対応する対応視点である。視点V[M,N]と要素ホログラムE[M,N]とは1:1に対応する。図1に示すように、視点V[M,N]から見える潜像3は、ホログラムの全体ではなく、限られた一部の領域のホログラムである要素ホログラムE[M,N]によって生成される。このように視点V毎に潜像3の生成に寄与する要素ホログラムEが異なるため、要素ホログラムEが対象領域20に生成する潜像3は、要素ホログラムE毎に自由に設定することができる。
【0023】
少なくとも2つの要素ホログラムEが、対象領域20に互いに異なる潜像3を生成するように構成されていると、観察者が視点Vを移動させた場合に、対象領域20に生成される潜像3を少なくとも2通りに変化させることができ、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子1を実現することができる。
【0024】
図2では、全ての要素ホログラムEが、対象領域20に互いに異なる潜像3を生成するように構成されている場合を例示している。要素ホログラムEが生成する潜像3を要素潜像3Eとすると、本実施形態では、要素潜像3Eは、対象領域20に生成される潜像3である。図2において、要素潜像3E[M,N]は、要素ホログラムE[M,N]が生成する潜像3であり、図2では、要素ホログラムEと要素潜像3Eとの対応関係の理解を容易にするために、要素ホログラムEに対応する要素潜像3Eを、当該要素ホログラムEに重ねて示している。ここでは、潜像3に表示される対象物2をサイコロとしている。なお、対象物2は、物体の一部であってもよい。
【0025】
視点Vから見える潜像3を視点潜像3Vとして、図1では、3つの視点V(V[0,0]、V[1,1]、V[-1,-1])について、図2のホログラム素子1を観察した場合の視点潜像3Vを示している。図1において、視点潜像3V[M,N]は、視点V[M,N]に対応する視点潜像3Vである。本実施形態では、図1に示すように、視点潜像3V[M,N]は、要素潜像3E[M,N](図2参照)と一致する。具体的には、視点潜像3V[0,0]は要素潜像3E[0,0]と一致し、視点潜像3V[1,1]は要素潜像3E[1,1]と一致し、視点潜像3V[-1,-1]は要素潜像3E[-1,-1]と一致している。
【0026】
図2に示す例では、対象物2(本例では、サイコロ)が立体的に表示されるように、各要素潜像3Eを設定している。すなわち、要素潜像3E[M,N]は、視点V[M,N]に対応する方向から対象物2を見た画像に設定されている。例えば、潜像面P2に対象物2が存在するとした場合に視点V[M,N]から見える対象物2の画像を、要素潜像3E[M,N]に設定することができる。このように、要素潜像3E[M,N]を、視点V[M,N]に対応する方向から対象物2を見た画像に設定することで、運動視差(或いは、両眼視差)に基づく対象物2の立体感を観察者に与えることができる。なお、各要素潜像3Eは、光学的には2次元像であり、光学的な奥行き範囲はない(言い換えれば、奥行きに幅がない)。そのため、本開示の技術に、上述した特願2022-58522号にて提案されている技術を組み合わせた場合には、色滲みや像ボケの増加による画質の劣化を抑制しつつ、立体感を観察者に与えることが可能な視差画像を生成することができる。
【0027】
以下、図3を参照して、図2に示すホログラム素子1について具体的に説明する。なお、本実施形態では、配列方向Aには複数の方向(具体的には、第1方向X及び第2方向Yの2つの方向)が含まれるが、以下の説明は、いずれの配列方向Aについても成立する。そのため、以下では、1つの配列方向Aである第2方向Yについて説明する。具体的には、図2における第1方向Xの中央部の3つの要素ホログラムE(要素ホログラムE[0,0]、要素ホログラムE[0,1]、要素ホログラムE[0,-1])に着目して説明する。そして、以下では、第2方向Yの座標を表すインデックス[N]を用いて説明する。インデックス[N]は、図1及び図2における[0,N]に対応する。よって、以下の説明における、要素ホログラムE[N]、要素潜像3E[N]、視点V[N]、視点潜像3V[N]は、図1及び図2における、要素ホログラムE[0,N]、要素潜像3E[0,N]、視点V[0,N]、視点潜像3V[0,N]にそれぞれ対応する。
【0028】
図3では、ホログラム素子1(具体的には、図1に示す入射面P1、以下同様)と潜像面P2との奥行き方向Dの距離を第1距離L1とし、ホログラム素子1と視点面P3(視点Vが配置される面)との奥行き方向Dの距離を第2距離L2とし、潜像面P2と視点面P3との奥行き方向Dの距離(すなわち、第1距離L1と第2距離L2との和)を第3距離L3としている。要素ホログラムEの配列方向Aの寸法を区画サイズSとし、対象領域20の配列方向Aの寸法を潜像サイズKSとすると、幾何学的に、KS=S・L3/L2となる。このように、潜像サイズKSは、ホログラムの画素サイズにかかわらず、区画サイズSに応じて定まる。後述する生成可能潜像サイズKΔ(図4参照)は、ホログラムの画素サイズに応じて定まるが、ここでいう潜像サイズKSは、生成可能潜像サイズKΔとは異なり、区画サイズSと2つの距離(第2距離L2及び第3距離L3)のみで定まる。また、図3から明らかなように、配列方向Aに隣接する2つの視点間の距離(例えば、視点V[1]と視点V[0]との距離)は、区画サイズSを決めると幾何学的に一意に決まり、具体的には、S・L3/L1となる。
【0029】
ここで、図3に示すように、配列方向A(ここでは、第2方向Y)の一方側を配列方向第1側A1とし、配列方向Aの他方側を配列方向第2側A2とする。そして、配列方向Aに隣接する2つの要素ホログラムEを、配列方向第1側A1から順に、第1要素ホログラム、第2要素ホログラムとし、第1要素ホログラムが対象領域20に生成する潜像3を第1潜像とし、第2要素ホログラムが対象領域20に生成する潜像3を第2潜像とすると、第1潜像に表示される対象物2が、当該第1潜像での向きよりも配列方向第2側A2から見た向きで、第2潜像に表示されるように、配列方向Aに隣接する2つの要素ホログラムEが構成されている。ここでは、配列方向Aに隣接する2つの要素ホログラムEの組のそれぞれが、上記のように構成されている。これにより、配列方向Aの視差(運動視差或いは両眼視差)に基づく対象物2の立体感を観察者に与えることができる。
【0030】
例えば、配列方向Aに隣接する要素ホログラムE[1]と要素ホログラムE[0]との組については、要素ホログラムE[1]、要素ホログラムE[0]、要素潜像3E[1]、要素潜像3E[0]が、それぞれ、第1要素ホログラム、第2要素ホログラム、第1潜像、第2潜像に対応する。そのため、図3に示すように、第1潜像である要素潜像3E[1](ここでは、視点潜像3V[1]と一致)に表示される対象物2が、当該要素潜像3E[1]での向きよりも配列方向第2側A2から見た向きで、第2潜像である要素潜像3E[0](ここでは、視点潜像3V[0]と一致)に表示される。
【0031】
また、配列方向Aに隣接する要素ホログラムE[0]と要素ホログラムE[-1]との組については、要素ホログラムE[0]、要素ホログラムE[-1]、要素潜像3E[0]、要素潜像3E[-1]が、それぞれ、第1要素ホログラム、第2要素ホログラム、第1潜像、第2潜像に対応する。そのため、図3に示すように、第1潜像である要素潜像3E[0](ここでは、視点潜像3V[0]と一致)に表示される対象物2が、当該要素潜像3E[0]での向きよりも配列方向第2側A2から見た向きで、第2潜像である要素潜像3E[-1](ここでは、視点潜像3V[-1]と一致)に表示される。
【0032】
詳細は省略するが、別の配列方向Aである第1方向Xについても同様に、第1潜像に表示される対象物2が、当該第1潜像での向きよりも配列方向第2側A2から見た向きで、第2潜像に表示されるように、配列方向Aに隣接する2つの要素ホログラムEが構成されている。このように各要素ホログラムEを設計することで、図2に示すような、対象物2を立体的に表示することが可能なホログラム素子1を実現することができる。
【0033】
ホログラム素子1における各要素ホログラムEには、対応する要素潜像3Eを生成するためのパターンが形成されている。例えば、要素潜像3Eを生成するために入射面P1に形成すべきパターンの計算を、入射面P1の全体に対して行った後、当該要素潜像3Eに対応する要素ホログラムEの領域を抽出することで、当該要素ホログラムEに形成すべき要素パターンを得ることができる。このような要素パターンの取得を、全ての要素潜像3Eについて行い、複数の要素パターンのそれぞれを、それぞれに対応する要素ホログラムEの領域に配置することで、ホログラム素子1の入射面P1に形成すべきパターン(例えば、図2に示すホログラム素子1を実現するためのパターン)を得ることができる。
【0034】
図1に示す例では、要素ホログラムEのそれぞれが、入射面P1に対して奥側D2であって、入射面P1からの奥行き方向Dに沿った距離が設定距離(上述したように、入射面P1と点光源9との奥行き方向Dの距離未満の距離)である位置に、要素潜像3Eを生成するように構成されている。この場合、要素潜像3Eを生成するために入射面P1に形成すべきパターンは、要素潜像3Eの原画像に基づくフーリエ変換像にレンズ(具体的には、凹レンズ)の位相分布を乗算した複素振幅分布を、符号化したパターンとすることができる。このようにレンズ(仮想レンズ)の位相分布を乗算することで、要素潜像3Eの奥行き方向Dの位置を制御することができる。なお、要素潜像3Eの原画像に基づくフーリエ変換像は、要素潜像3Eの原画像をそのままフーリエ変換したものであっても、要素潜像3Eの原画像に何らかの処理(例えば、0から2πの間のランダムな位相を付加する処理)を施した後にフーリエ変換したものであってもよい。また、符号化(コーディング)は、あらゆる手法を採用することができ、例えば、複素振幅分布の偏角の2値化とすることができる。
【0035】
入射面P1に形成されるパターン(複素振幅分布を符号化したパターン)は、例えば、複素振幅分布に対応する凹凸パターンとされる。この凹凸パターンは、例えば、複素振幅分布の位相情報を2値以上に多値化した凹凸パターンとされる。このような凹凸パターンを入射面P1に有するホログラム素子1は、例えば、入射面P1に対する微細加工(フォトリソグラフィプロセス等)を行って製造することができる。この凹凸パターンを、2値化された複素振幅分布の位相情報を深さで表すパターンとする場合には、ホログラム素子1の作製工程が簡素になると共に、パターンの転写を行うことでホログラム素子1の大量生産も容易となるため、コストの低減を図ることもできる。
【0036】
〔第2の実施形態〕
ホログラム素子の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。第1の実施形態では、視点潜像3Vが要素潜像3Eと1:1に対応していたが、本実施形態では、視点潜像3Vが、複数の要素潜像3Eのそれぞれの一部同士を配列方向Aに並べたものとなる。以下では、本実施形態のホログラム素子について、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。特に明記しない点については、第1の実施形態と同様であり、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。なお、以下では、第1の実施形態における図3を参照した説明と同様に、1つの配列方向A(具体的には、第2方向Y)について説明するが、配列方向Aに複数の方向が含まれる場合には、以下の説明は、いずれの配列方向Aについても成立する。
【0037】
上述したように、要素ホログラムEの配列方向Aの寸法を区画サイズSとして、対象領域20の配列方向Aの寸法である潜像サイズKSは、KS=S・L3/L2で表され、潜像サイズKSは、ホログラムの画素サイズにかかわらず、区画サイズSに応じて定まる(図3参照)。一方、ホログラムが本来生成することが可能な潜像3の配列方向Aの寸法を生成可能潜像サイズKΔ(図4参照)とすると、潜像3がフーリエ面(光源或いはその鏡像が配置される面)に生成される場合には、生成可能潜像サイズKΔは、波長λと対象距離L(入射面P1と点光源9との奥行き方向Dの距離)とホログラムの画素サイズΔとを用いて、KΔ=λ・L/Δで表される。一方、図1に示す例のように、潜像面P2がフーリエ面とは異なる場合には、上述した仮想レンズによる像面位置の変化による結像倍率が、図3に示す第1距離L1を用いてL1/Lで与えられるため、生成可能潜像サイズKΔは、KΔ=(λ・L/Δ)・(L1/L)=λ・L1/Δで表される。
【0038】
図4に示すように生成可能潜像サイズKΔが潜像サイズKSよりも大きい場合(多くの場合が該当する)、潜像3の本来の生成可能領域を無駄にしていることになる。この点に鑑みて、本実施形態のホログラム素子1では、以下に述べるように、潜像3の生成領域を配列方向Aに拡張している。
【0039】
図4に示すように、対象領域20(図3参照)を第1対象領域21とし、潜像面P2上における第1対象領域21に対して配列方向第1側A1に隣接する領域を第2対象領域22とする。第2対象領域22の配列方向Aの寸法は、第1対象領域21の配列方向Aの寸法と等しい。ここでは、生成可能潜像サイズKΔが、潜像サイズKSの3倍以上である場合を想定している。そして、複数の要素ホログラムEのそれぞれは、配列方向第2側A2に隣接する他の要素ホログラムEに対応する対応視点から観察した場合に、第2対象領域22に潜像3を生成するように構成されている。例えば、要素ホログラムE[0]は、配列方向第2側A2に隣接する要素ホログラムE[-1]に対応する視点V[-1]から観察した場合に、第2対象領域22に潜像3を生成するように構成されている。なお、後に参照する図7図9に示す例では、配列方向第2側A2の2つの要素ホログラムEを除く複数の要素ホログラムEのそれぞれが、第2対象領域22に潜像3を生成するように構成されている。
【0040】
第1対象領域21(対象領域20)に生成される潜像3と同様に、第2対象領域22に生成される潜像3についても、視点V毎に潜像3の生成に寄与する要素ホログラムEが異なる。すなわち、視点V[N-1]と要素ホログラムE[N]とが1:1に対応する。そのため、要素ホログラムEが第2対象領域22に生成する潜像3は、要素ホログラムE毎に自由に設定することができる。従って、少なくとも2つの要素ホログラムEが、第2対象領域22に互いに異なる潜像3を生成するように構成されていると、観察者が視点Vを配列方向Aに移動させた場合に、第1対象領域21に生成される潜像3に加えて第2対象領域22に生成される潜像3についても、少なくとも2通りに変化させることができる。
【0041】
図5及び図6に示すように、要素ホログラムEが生成する潜像3である要素潜像3Eには、第1対象領域21に生成される要素潜像3Eである第1要素潜像3E1と、第2対象領域22に生成される要素潜像3Eである第2要素潜像3E2とが含まれる。図5には、要素ホログラムE[0]が生成する第1要素潜像3E1[0]と、要素ホログラムE[1]が生成する第2要素潜像3E2[1]とを示し、図6には、要素ホログラムE[0]が生成する第2要素潜像3E2[0]と、要素ホログラムE[-1]が生成する第1要素潜像3E1[-1]とを示している。
【0042】
図5及び図6に示す例では、同じ視点Vから見た場合に第1対象領域21及び第2対象領域22のそれぞれに観察される潜像3が連続するように各要素ホログラムEを構成することで、第1対象領域21と第2対象領域22とを合わせた領域に、対象物2(本例では、サイコロの一部)を立体的に表示させることを可能としている。ここで、配列方向Aに隣接する3つの要素ホログラムEを、配列方向第1側A1から順に、第1要素ホログラム、第2要素ホログラム、第3要素ホログラムとし、第1要素ホログラムが第2対象領域22に生成する潜像3を第1分割潜像とし、第2要素ホログラムが第1対象領域21に生成する潜像3を第2分割潜像とし、第2要素ホログラムが第2対象領域22に生成する潜像3を第3分割潜像とし、第3要素ホログラムが第1対象領域21に生成する潜像3を第4分割潜像として、第1分割潜像と第2分割潜像とを合わせた第1合成潜像に表示される対象物2が、当該第1合成潜像での向きよりも配列方向第2側A2から見た向きで、第3分割潜像と第4分割潜像とを合わせた第2合成潜像に表示されるように、配列方向Aに隣接する3つの要素ホログラムEが構成されている。これにより、配列方向Aの視差(運動視差或いは両眼視差)に基づく対象物2の立体感を観察者に与えることができる。
【0043】
具体的には、図5及び図6において、配列方向Aに隣接する要素ホログラムE[1]と要素ホログラムE[0]と要素ホログラムE[-1]との組について、要素ホログラムE[1]、要素ホログラムE[0]、要素ホログラムE[-1]、第2要素潜像3E2[1]、第1要素潜像3E1[0]、第2要素潜像3E2[0]、第1要素潜像3E1[-1]が、それぞれ、第1要素ホログラム、第2要素ホログラム、第3要素ホログラム、第1分割潜像、第2分割潜像、第3分割潜像、第4分割潜像に対応する。そのため、図5及び図6に示すように、第2要素潜像3E2[1]と第1要素潜像3E1[0]とを合わせた第1合成潜像(ここでは、視点潜像3V[0]と一致)に表示される対象物2が、当該第1合成潜像での向きよりも配列方向第2側A2から見た向きで、第2要素潜像3E2[0]と第1要素潜像3E1[-1]とを合わせた第2合成潜像(ここでは、視点潜像3V[-1]と一致)に表示される。
【0044】
本実施形態では、図7に示すように、潜像面P2上における第1対象領域21に対して配列方向第2側A2に隣接する領域を第3対象領域23として、潜像3の生成領域を配列方向第2側A2にも拡張している。第3対象領域23の配列方向Aの寸法は、第1対象領域21の配列方向Aの寸法と等しい。詳細は省略するが、図7に示す例よりも潜像3の生成領域を配列方向第1側A1や配列方向第2側A2に更に拡張することもできる。
【0045】
図7に示す例では、7個の要素ホログラムEが配列方向Aに沿って配列されている。そして、複数の要素ホログラムEのそれぞれは、配列方向第1側A1に隣接する他の要素ホログラムEに対応する対応視点から観察した場合に、第3対象領域23に潜像3を生成するように構成されている。例えば、要素ホログラムE[-1]は、配列方向第1側A1に隣接する要素ホログラムE[0]に対応する視点V[0]から観察した場合に、第3対象領域23に潜像3を生成するように構成されている。なお、図7図9に示す例では、配列方向第1側A1の2つの要素ホログラムEを除く複数の要素ホログラムEのそれぞれが、第3対象領域23に潜像3を生成するように構成されている。
【0046】
第1対象領域21や第2対象領域22に生成される潜像3と同様に、第3対象領域23に生成される潜像3についても、視点V毎に潜像3の生成に寄与する要素ホログラムEが異なる。すなわち、視点V[N+1]と要素ホログラムE[N]とが1:1に対応する。そのため、要素ホログラムEが第3対象領域23に生成する潜像3は、要素ホログラムE毎に自由に設定することができる。従って、少なくとも2つの要素ホログラムEが、第3対象領域23に互いに異なる潜像3を生成するように構成されていると、観察者が視点Vを配列方向Aに移動させた場合に、第1対象領域21や第2対象領域22に生成される潜像3に加えて第3対象領域23に生成される潜像3についても、少なくとも2通りに変化させることができる。
【0047】
図7及び図9に示すように、本実施形態では、要素ホログラムEが生成する潜像3である要素潜像3Eには、第1対象領域21に生成される要素潜像3Eである第1要素潜像3E1と、第2対象領域22に生成される要素潜像3Eである第2要素潜像3E2と、第3対象領域23に生成される要素潜像3Eである第3要素潜像3E3とが含まれる。図7には、要素ホログラムE[0]が生成する第1要素潜像3E1[0]と、要素ホログラムE[1]が生成する第2要素潜像3E2[1]と、要素ホログラムE[-1]が生成する第3要素潜像3E3[-1]とを示している。
【0048】
図7に示す例では、同じ視点Vから見た場合に第1対象領域21、第2対象領域22、及び第3対象領域23のそれぞれに観察される潜像3が連続するように各要素ホログラムEを構成することで、第1対象領域21と第2対象領域22と第3対象領域23とを合わせた領域に、対象物2(本例では、サイコロ)を立体的に表示させることを可能としている。
【0049】
具体的には、図7図9に示す例では、配列方向Aに隣接する3つの要素ホログラムEの組のそれぞれについて(ここでは、最も配列方向第2側A2の組は除く)、図5及び図6に示す例と同様に、第1分割潜像と第2分割潜像とを合わせた第1合成潜像に表示される対象物2が、当該第1合成潜像での向きよりも配列方向第2側A2から見た向きで、第3分割潜像と第4分割潜像とを合わせた第2合成潜像に表示されるように、配列方向Aに隣接する3つの要素ホログラムEが構成されている。更に、図7図9に示す例では、配列方向Aに隣接する3つの要素ホログラムEを、配列方向第2側A2から順に、第4要素ホログラム、第5要素ホログラム、第6要素ホログラムとし、第4要素ホログラムが第3対象領域23に生成する潜像3を第5分割潜像とし、第5要素ホログラムが第1対象領域21に生成する潜像3を第6分割潜像とし、第5要素ホログラムが第3対象領域23に生成する潜像3を第7分割潜像とし、第6要素ホログラムが第1対象領域21に生成する潜像3を第8分割潜像として、第5分割潜像と第6分割潜像とを合わせた第3合成潜像に表示される対象物2が、当該第3合成潜像での向きよりも配列方向第1側A1から見た向きで、第7分割潜像と第8分割潜像とを合わせた第4合成潜像に表示されるように、配列方向Aに隣接する3つの要素ホログラムEが構成されている。ここでは、配列方向Aに隣接する3つの要素ホログラムEの組のそれぞれが(ここでは、最も配列方向第1側A1の組は除く)、上記のように構成されている。
【0050】
図8に示すように、視点Vが決まると、視点潜像3Vにおいてどの要素潜像3Eにおけるどの部分が配列方向Aに並べられるかが、幾何学的に一意に決まる。具体的には、図8及び図9に示すように、視点潜像3V[N]は、第2要素潜像3E2[N+1](要素潜像3E[N+1]に含まれる第2要素潜像3E2)と、第1要素潜像3E1[N](要素潜像3E[N]に含まれる第1要素潜像3E1)と、第3要素潜像3E3[N-1](要素潜像3E[N-1]に含まれる第3要素潜像3E3)とを、配列方向第1側A1から並べたものとなる。よって、意図した視点潜像3V(ここでは、図8及び図9に示すような、配列方向Aの視差に基づく対象物2の立体感を観察者に与えることができるような視点潜像3V)が得られるように、各要素ホログラムEの要素潜像3E(具体的には、第1要素潜像3E1、第2要素潜像3E2、及び第3要素潜像3E3のそれぞれ)が設定される。言い換えれば、意図した視点潜像3Vが分割されて複数の要素潜像3E(ここでは、3つの要素潜像3E)に分けて配置される。この結果、図9の左側に示すように、要素潜像3Eのそれぞれは、複数の画像を継ぎ接ぎしたような画像となっている。
【0051】
本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0052】
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明したホログラム素子の概要について説明する。
【0053】
入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子であって、前記入射面に直交する方向を奥行き方向とし、前記奥行き方向における前記入射面に対して観察者の視点が配置される側を手前側とし、前記奥行き方向における前記手前側とは反対側を奥側とし、前記入射面よりも前記奥側であって前記潜像が生成される面を潜像面として、前記入射面は、少なくとも1つの配列方向に沿って周期的に配列された複数の要素ホログラムを有し、複数の前記要素ホログラムのそれぞれは、それぞれに対応する前記視点である対応視点から観察した場合に、前記潜像面上の共通の領域である対象領域に前記潜像を生成するように構成され、少なくとも2つの前記要素ホログラムが、前記対象領域に互いに異なる前記潜像を生成するように構成されている。
【0054】
入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子において、観察者の視点を固定すると、入射面におけるその視点から見た潜像の生成に寄与する空間的な領域は限定される。従って、視点に対応するようにホログラム素子の入射面を区画分割すれば、区画分割された領域のホログラム(要素ホログラム)が生成する潜像は、要素ホログラム毎に自由に設定することができる。このような知見に基づき、本構成では、ホログラム素子の入射面が、少なくとも1つの配列方向に沿って周期的に配列された複数の要素ホログラムを有し、複数の要素ホログラムのそれぞれが、それぞれに対応する視点である対応視点から観察した場合に、潜像面上の共通の領域である対象領域に潜像を生成するように構成される。そして、少なくとも2つの要素ホログラムが、対象領域に互いに異なる潜像を生成するように構成されている。これにより、観察者が視点を配列方向に移動させた場合に、対象領域に生成される潜像を少なくとも2通りに変化させることができ、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を実現することができる。
【0055】
ここで、前記配列方向の一方側を配列方向第1側とし、前記配列方向の他方側を配列方向第2側とし、前記配列方向に隣接する2つの前記要素ホログラムを、前記配列方向第1側から順に、第1要素ホログラム、第2要素ホログラムとし、前記第1要素ホログラムが前記対象領域に生成する前記潜像を第1潜像とし、前記第2要素ホログラムが前記対象領域に生成する前記潜像を第2潜像として、前記第1潜像に表示される対象物が、当該第1潜像での向きよりも前記配列方向第2側から見た向きで、前記第2潜像に表示されるように、前記配列方向に隣接する2つの前記要素ホログラムが構成されていると好適である。
【0056】
本構成によれば、観察者が視点を配列方向第1側に移動させた場合に、対象領域に表示される対象物の向きを、視点の移動前に比べて配列方向第1側から見た向きとし、観察者が視点を配列方向第2側に移動させた場合に、対象領域に表示される対象物の向きを、視点の移動前に比べて配列方向第2側から見た向きとすることができる。よって、適切な視差画像が得られるように、各要素ホログラムが対象領域に生成する潜像を設定することで、運動視差(或いは、両眼視差)に基づく立体感を観察者に与えることができる。
【0057】
また、前記配列方向の一方側を配列方向第1側とし、前記配列方向の他方側を配列方向第2側とし、前記対象領域を第1対象領域とし、前記潜像面上における前記第1対象領域に対して前記配列方向第1側に隣接する領域を第2対象領域として、複数の前記要素ホログラムのそれぞれは、前記配列方向第2側に隣接する他の前記要素ホログラムに対応する前記対応視点から観察した場合に、前記第2対象領域に前記潜像を生成するように構成され、少なくとも2つの前記要素ホログラムが、前記第2対象領域に互いに異なる前記潜像を生成するように構成されていると好適である。
【0058】
本構成によれば、各要素ホログラムを配列方向第2側に隣接する他の要素ホログラムに対応する対応視点から観察することで、対象領域(第1対象領域)に対して配列方向第1側に隣接する第2対象領域に潜像を表示させることができる。よって、新たな対応視点を設定することなく、潜像の生成領域を配列方向第1側に拡張することができる。そして、本構成によれば、少なくとも2つの要素ホログラムが、第2対象領域に互いに異なる潜像を生成するように構成されている。そのため、観察者が視点を配列方向に移動させた場合に、第1対象領域に生成される潜像に加えて第2対象領域に生成される潜像についても、少なくとも2通りに変化させることができる。また、同じ視点から見た場合に第1対象領域及び第2対象領域のそれぞれに観察される潜像が連続するように各要素ホログラムを構成することで、第1対象領域と第2対象領域とを合わせた広い領域に1つの対象物を表示させることもできる。
【0059】
上記の構成において、前記配列方向に隣接する3つの前記要素ホログラムを、前記配列方向第1側から順に、第1要素ホログラム、第2要素ホログラム、第3要素ホログラムとし、前記第1要素ホログラムが前記第2対象領域に生成する前記潜像を第1分割潜像とし、前記第2要素ホログラムが前記第1対象領域に生成する前記潜像を第2分割潜像とし、前記第2要素ホログラムが前記第2対象領域に生成する前記潜像を第3分割潜像とし、前記第3要素ホログラムが前記第1対象領域に生成する前記潜像を第4分割潜像として、前記第1分割潜像と前記第2分割潜像とを合わせた第1合成潜像に表示される対象物が、当該第1合成潜像での向きよりも前記配列方向第2側から見た向きで、前記第3分割潜像と前記第4分割潜像とを合わせた第2合成潜像に表示されるように、前記配列方向に隣接する3つの前記要素ホログラムが構成されていると好適である。
【0060】
本構成によれば、観察者が視点を配列方向第1側に移動させた場合に、第1対象領域と第2対象領域とを合わせた領域に表示される対象物の向きを、視点の移動前に比べて配列方向第1側から見た向きとし、観察者が視点を配列方向第2側に移動させた場合に、第1対象領域と第2対象領域とを合わせた領域に表示される対象物の向きを、視点の移動前に比べて配列方向第2側から見た向きとすることができる。よって、第1対象領域に生成される潜像と第2対象領域に生成される潜像とを合わせた合成潜像によって適切な視差画像が得られるように、各要素ホログラムが第1対象領域及び第2対象領域のそれぞれに生成する潜像を設定することで、運動視差(或いは、両眼視差)に基づく立体感を観察者に与えることができる。
【0061】
上記の各構成において、前記配列方向は、前記入射面に沿って互いに直交する2つの方向を含むと好適である。
【0062】
本構成によれば、互いに直交する2つの配列方向のそれぞれにおいて、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を実現することができる。
【0063】
また、複数の前記要素ホログラムは、前記配列方向に沿って隙間なく配列されていると好適である。
【0064】
本構成によれば、光の利用効率を高めて、潜像面に生成される潜像の光量を向上させやすい。
【0065】
本開示に係るホログラム素子は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができればよい。
【符号の説明】
【0066】
1:ホログラム素子
2:対象物
3:潜像
20:対象領域
21:第1対象領域
22:第2対象領域
A:配列方向
A1:配列方向第1側
A2:配列方向第2側
D:奥行き方向
D1:手前側
D2:奥側
E:要素ホログラム
P1:入射面
P2:潜像面
V:視点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9