IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイヘンの特許一覧

<>
  • 特開-電圧調整装置 図1
  • 特開-電圧調整装置 図2
  • 特開-電圧調整装置 図3
  • 特開-電圧調整装置 図4
  • 特開-電圧調整装置 図5
  • 特開-電圧調整装置 図6
  • 特開-電圧調整装置 図7
  • 特開-電圧調整装置 図8
  • 特開-電圧調整装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074592
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】電圧調整装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/12 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
H02J3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185856
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 博宣
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066DA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】タップ位置を効率的に導出する電圧調整装置を提供する。
【解決手段】電圧調整装置100において、負荷時のタップ切換器4は、タップに関する処理を行う制御部を備える。制御部は、電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値及び負荷側における三相の線間電圧それぞれを示す2次側電圧値を取得し、取得した1次側電圧値と2次側電圧値に基づき、三相それぞれにおける検出電圧比率を算出し、タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差を含む伝達関数行列を用いて、三相それぞれにおける検出電圧比率に対応するタップ位置それぞれを導出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流を電源から負荷に配電する配電線に二次巻線が直列に接続される直列変圧器と、
前記配電線に一次巻線が並列に接続された調整変圧器と、
前記調整変圧器の複数の巻線それぞれが有するタップを切り換えて選択するための切換スイッチを備え、前記巻線それぞれについて選択されたタップを結線して交流を出力する負荷時タップ切換器とを含む電圧調整装置であって、
前記負荷時タップ切換器は、前記タップに関する処理を行う制御部を備え、
前記制御部は、
前記電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値、及び前記負荷側における三相の線間電圧それぞれを示す2次側電圧値を取得し、
前記取得した1次側電圧値と2次側電圧値に基づき、三相それぞれにおける検出電圧比率を算出し、
前記タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差を含む伝達関数行列を用いて、前記三相それぞれにおける検出電圧比率に対応するタップ位置それぞれを導出する
電圧調整装置。
【請求項2】
前記伝達関数行列の成分は、前記タップ位置に対する素通しタップからの偏差を含み、
前記偏差に対する係数は、前記直列変圧器の変圧比と、前記調整変圧器における1タップ分の変圧比差とを含む
請求項1に記載の電圧調整装置。
【請求項3】
前記検出電圧比率に対応する算式それぞれは、前記伝達関数行列における複数の成分を含み、
前記算式それぞれに含まれる複数の成分は、前記伝達関数行列における同じ行の成分である
請求項2に記載の電圧調整装置。
【請求項4】
前記調整変圧器の一次巻線がデルタ結線され、前記調整変圧器の二次巻線がY結線され、前記直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されており、
逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される
請求項2に記載の電圧調整装置。
【数1】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【請求項5】
前記調整変圧器の一次巻線がV結線され、前記調整変圧器の二次巻線がV結線され、前記直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されており、
逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される
請求項2に記載の電圧調整装置。
【数2】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【請求項6】
前記調整変圧器の一次巻線がV結線され、前記調整変圧器の二次巻線がV結線され、前記直列変圧器の一次巻線がY結線されており、
逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される
請求項2に記載の電圧調整装置。
【数3】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【請求項7】
順送電状態における伝達関数行列は、前記逆送電状態の伝達関数行列の逆行列にて示される
請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の電圧調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる間接切換方式による電圧調整装置は、二次巻線が配電線に直列に接続される直列変圧器と、一次巻線が配電線に並列に接続され、二次巻線に複数のタップが設けられた調整変圧器と、該複数のタップを切り換えて直列変圧器の一次巻線に接続するタップ切換器とを備えている。
【0003】
タップ切換器は、直列変圧器の一次巻線に接続するタップを切り換えるための切換スイッチと、タップ切換を行う過程でタップ間に流れる矯絡電流を制限する限流抵抗器等の限流素子と、該限流素子のタップ間への接続及び切り離しを行う矯絡用スイッチとを有する。限流抵抗器及び矯絡用スイッチは直列に接続されている。タップ切換器は、切換スイッチ及び矯絡用スイッチを所定のシーケンスでオンオフすることにより、調整変圧器から直列変圧器の一次巻線に印加する調整電圧の大きさ及び極性を切り換える。
【0004】
限流抵抗器及び矯絡用スイッチの直列回路には、機械接点を有する電磁接触器等の開閉器が並列に接続されている(特許文献1参照)。この開閉器は、切換スイッチが制御不能になった場合及び配電線における短絡事故等の原因によってタップ切換器に大電流が流れた場合に閉路されるようになっている。この場合の機械接点としては、電源喪失の場合に閉路されるようにb接点(常閉接点)が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-312612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された開閉器は、タップ位置を効率的に導出する観点について考慮されていない。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タップ位置を効率的に導出することが可能な電圧調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、三相交流を電源から負荷に配電する配電線に二次巻線が直列に接続される直列変圧器と、前記配電線に一次巻線が並列に接続された調整変圧器と、前記調整変圧器の複数の巻線それぞれが有するタップを切り換えて選択するための切換スイッチを備え、前記巻線それぞれについて選択されたタップを結線して交流を出力する負荷時タップ切換器とを含む電圧調整装置であって、前記負荷時タップ切換器は、前記タップに関する処理を行う制御部を備え、前記制御部は、前記電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値、及び前記負荷側における三相の線間電圧それぞれを示す2次側電圧値を取得し、前記取得した1次側電圧値と2次側電圧値に基づき、三相それぞれにおける検出電圧比率を算出し、前記タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差を含む伝達関数行列を用いて、前記三相それぞれにおける検出電圧比率に対応するタップ位置それぞれを導出する。
【0009】
本態様にあたっては、三相の交流電圧を配電する配電線に設けられる電圧調整装置は、直列変圧器、調整変圧器、及び負荷時タップ切換器を含み、負荷時タップ切換器は、調整変圧器のタップを切り換えて選択するための切換スイッチと、切換スイッチをオン又はオフして前記タップを切り換える制御を行う制御部を備える。これにより、負荷時タップ切換器の制御部が、調整変圧器のタップを切り換えることにより、三相における配電線(u相、v相、w相)それぞれの電圧を調整することができる。制御部は、電圧調整装置に接続される電源の側における電圧を示す1次側電圧値と、電圧調整装置に接続される負荷の側における電圧を示す2次側電圧値とを、取得する。電源側の配電線は、U相の配電線、V相の配電線及びW相の配電線を含み、これら配電線の間には、計測用変圧器が設けられている。電源側の計測用変圧器それぞれにより、電源側のUV相間の線間電圧値(UV)、VW相間の線間電圧値(VW)、及びWU相間の線間電圧値(WU)が計測(検出)される。又、負荷側の配電線は、u相の配電線、v相の配電線及びw相の配電線を含み、これら配電線の間には、計測用変圧器が設けられている。負荷側の計測用変圧器それぞれにより、負荷側のuv相間の線間電圧値(uv)、vw相間の線間電圧値(vw)、及びwu相間の線間電圧値(wu)が計測(検出)される。制御部は、各相それぞれに接続される電源側の計測用変圧器、及び負荷側の計測用変圧器から、三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値及び2次側電圧値を取得し、三相それぞれにおける検出電圧比率を算出する。UV相の検出電圧比率は、uv相間の線間電圧値(uv)の絶対値を、UV相間の線間電圧値(UV)の絶対値にて除算(|uv|/|UV|)することにより算出される。VW相の検出電圧比率は、vw相間の線間電圧値(vw)の絶対値を、VW相間の線間電圧値(VW)の絶対値にて除算(|vw|/|VW|)することにより算出される。WU相の検出電圧比率は、wu相間の線間電圧値(wu)の絶対値を、WU相間の線間電圧値(WU)の絶対値にて除算(|wu|/|WU|)することにより算出される。制御部は、算出したUV相、VW相及びWU相の検出電圧比率と、タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差を含む伝達関数行列とを用いて、調整変圧器における各層のタップ位置それぞれを導出する。間接切換方式による電圧調整装置においては、1次側と2次側の電圧比には一定の法則性があるため、電源側電圧(1次側電圧)が変動するとタップ毎の負荷側電圧(2次側電圧)は変動し、タップ位置を1タップ毎に切り換えた際の電圧(1タップ電圧)は、一様にならないことが想定される。すなわち、1タップ電圧を所定値に正規化した上での計算によっては最適な目標タップ位置に到達することが困難となり、現時点におけるタップ位置をより効率的に検出することが求められる。これに対し、各相における線間電圧において、1次側電圧値と2次側電圧値との比率と、タップの切り換えにて決定されるタップ位置に応じた偏差(素通しタップからの偏差)を含む伝達関数行列とを用いることにより、効率的に現時点におけるタップ位置を決定することができる。すなわち、間接切換方式の電圧調整装置を、伝達関数行列を用いて制御モデル化し、当該制御モデルにおいて電源側電圧(1次側電圧)及び負荷側電圧(2次側電圧)の比率に最も近接するように対応するタップ位置を、現時点におけるタップ位置として導出(検出)することができる。これにより、例えば、SVR(Step Voltage Regulator)、TVR(Thyristor Voltage Regulator)又はLVR(Low Voltage Regulator)等において電圧調整指令の出力状態等を用いたタップ位置の検出に関する処理を不要とすることができる。
【0010】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記伝達関数行列の成分は、前記タップ位置に対する素通しタップからの偏差を含み、前記偏差に対する係数は、前記直列変圧器の変圧比と、前記調整変圧器における1タップ分の変圧比差とを含む。
【0011】
本態様にあたっては、伝達関数行列は、直列変圧器の変圧比と、調整変圧器における1タップ分の変圧比差とをスカラー(行列の係数)として含む。このように直列変圧器の変圧比を伝達関数行列の成分の係数(スカラー)として含ませることにより、当該伝達関数行列を用いた際における処理部の計算負荷を軽減することができる。伝達関数行列の成分それぞれは、各相におけるタップ位置それぞれに対する素通しタップからの偏差(タップ位置偏差:nu、nv、nw)にて定義される。これらタップ位置偏差(nu、nv、nw)に、調整変圧器における1タップ分の変圧比差(dt)に乗算することにより、調整変圧器における素通しに対する偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))に相当するものとなる。これら素通しに対する偏差(dt・nu=Nt(nu)、dt・nv=Nt(nv)、dt・nw=Nt(nw))は、タップの切り換えにて決定されるタップ位置に対応する調整変圧器の巻数比による偏差に対応する。当該偏差は、負荷時タップ切換器が出力する電圧が0となる素通しとなるタップ位置(素通しタップ)を0とし、当該0に対する偏差であってもよい。このように定義された伝達関数行列を用いることにより、直列変圧器及び調整変圧器を含む間接切換方式の電圧調整装置において、現時点におけるタップ位置の導出精度を向上させることができる。
【0012】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記検出電圧比率に対応する算式それぞれは、前記伝達関数行列における複数の成分を含み、前記算式それぞれに含まれる複数の成分は、前記伝達関数行列における同じ行の成分である。
【0013】
本態様にあたっては、制御部は、検出電圧比率に対応する算式(電圧比算出式)を用いて、当該電圧比算出式の算出結果が、取得した各相の検出電圧比率それぞれとなるように、各相におけるタップ位置それぞれを導出する。電圧比算出式は、各相毎に異なるものであってもよく、例えば、UV相の検出電圧比率(|uv|/|UV|)の電圧比算出式、VW相の検出電圧比率(|vw|/|VW|)の電圧比算出式、及びWU相の検出電圧比率(|wu|/|WU|)の電圧比算出式を含む。各電圧比算出式は、伝達関数行列における複数の成分を含み、それぞれの電圧比算出式に含まれる複数の成分は、伝達関数行列における同じ行の成分となるように定義されている。このように定義された電圧比算出式及び伝達関数行列を用いることにより、直列変圧器及び調整変圧器を含む間接切換方式の電圧調整装置において、現時点におけるタップ位置の導出精度を向上させることができる。
【0014】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記調整変圧器の一次巻線がデルタ結線され、前記調整変圧器の二次巻線がY結線され、前記直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されており、逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される。
【数1】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【0015】
本態様にあたっては、電圧調整装置は、調整変圧器の一次巻線がデルタ結線され、調整変圧器の二次巻線がY結線され、直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されるΔ-Y-Δ結線の電圧調整装置である。当該Δ-Y-Δ結線の電圧調整装置に対し、上述した伝達関数行列を用いることにより、現時点におけるタップ位置の導出精度を向上させることができる。すなわち、伝達関数行列を用いることにより三相制御における間接切替式を一般化しているため、間接切替式の一態様であるΔ-Y-Δ結線の電圧調整装置に対し、当該伝達関数行列を適用することができる。
【0016】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記調整変圧器の一次巻線がV結線され、前記調整変圧器の二次巻線がV結線され、前記直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されており、逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される。
【数2】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【0017】
本態様にあたっては、電圧調整装置は、調整変圧器の一次巻線がV結線され、調整変圧器の二次巻線がV結線され、直列変圧器の一次巻線がデルタ結線されるV-V-Δ結線の電圧調整装置である。当該V-V-Δ結線の電圧調整装置対し、上述した伝達関数行列を用いることにより、現時点におけるタップ位置の導出精度を向上させることができる。すなわち、伝達関数行列を用いることにより三相制御における間接切替式を一般化しているため、間接切替式の一態様であるV-V-Δ結線の電圧調整装置に対し、当該伝達関数行列を適用することができる。
【0018】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、前記調整変圧器の一次巻線がV結線され、前記調整変圧器の二次巻線がV結線され、前記直列変圧器の一次巻線がY結線されており、逆送電状態において、前記伝達関数行列は、以下にて示される。
【数3】
但し、
Ns:直列変圧器の変圧比
Nt(nu):u相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nv):v相における素通しタップからタップ位置までの偏差
Nt(nw):w相における素通しタップからタップ位置までの偏差
【0019】
本態様にあたっては、電圧調整装置は、調整変圧器の一次巻線がV結線され、調整変圧器の二次巻線がV結線され、直列変圧器の一次巻線がY結線されるV-V-Y結線の電圧調整装置である。当該V-V-Y結線の電圧調整装置対し、上述した伝達関数行列を用いることにより、現時点におけるタップ位置の導出精度を向上させることができる。すなわち、伝達関数行列を用いることにより三相制御における間接切替式を一般化しているため、間接切替式の一態様であるV-V-Y結線の電圧調整装置に対し、当該伝達関数行列を適用することができる。
【0020】
本開示の一態様に係る電圧調整装置は、順送電状態における伝達関数行列は、前記逆送電状態の伝達関数行列の逆行列にて示される。
【0021】
本態様にあたっては、順送電状態における伝達関数行列(F)は、逆送電状態の伝達関数行列(G)の逆行列(F=G^1)にて示されるものであり、これら伝達関数行列(G、F)は可逆性を有する。従って、電圧調整装置が順送電状態の場合においても、逆送電状態の伝達関数行列(G)の逆行列となる伝達関数行列(F:順送電状態における伝達関数行列)を用いて、現時点におけるタップ位置の導出精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
タップ位置を効率的に導出する電圧調整装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態1(Δ-Y-Δ結線)に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
図2】タップ位置とオンにする切換スイッチ等との関係を定義するタップ位置テーブルの説明図である。
図3】線間電圧それぞれの大きさ(辺ベクトル)を三角形で示した説明図である。
図4】三角形の2つの合成ベクトル計算に用いる位相角に関する説明図である。
図5】制御部の処理手順(逆送電状態)を示すフローチャートである。
図6】制御部の処理手順(順送電状態)を示すフローチャートである。
図7】実施形態2(V-V-Δ結線)に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
図8】タップ位置とオンにする切換スイッチ等との関係を定義するタップ位置テーブルの説明図である。
図9】実施形態3(V-V-Y結線)に係る電圧調整装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施形態1)
以下、実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)に係る電圧調整装置100の構成例を示すブロック図である。図中1u,1v,1wは、電源(U相,V相,W相)から負荷(u相,v相,w相)へ、U相,V相,W相の交流電圧を紙面の右向きに配電(順送電状態)、又は左向きに配電(逆送電状態)する配電線である。電圧調整装置100は、配電線1u,1v,1w夫々に二次巻線212,222,232が直列に接続される直列変圧器2と、配電線1u,1v,1wに一次巻線311,321,331がΔ結線される調整変圧器3と、調整変圧器3の二次巻線312,322,332及び直列変圧器2の一次巻線211,221,231の間に設けられたタップ切換器4とを備える。
【0025】
電圧調整装置100は、順送電状態において、紙面左側の電源側から供給される3相交流の電圧を調整し、紙面右側の負荷側へ、配電線1u,1v,1wを介して3相交流を配電する。電圧調整装置100は、逆送電状態において、紙面右側の負荷側から供給される3相交流の電圧を調整し、紙面左側の電源側へ、配電線1u,1v,1wを介して3相交流を配電する。
【0026】
電圧調整装置100は、また、Δ-Y結線された三相の計測用変圧器5を介して配電線1u,1v,1wの電圧を検出する電圧検出部62と、該電圧検出部62が検出した電圧を表示して使用者の操作を受け付けるための操作表示部63と、該操作表示部63によって受け付けた操作に基づいて、後述する切換スイッチS1,S2,・・S6,SS及び電磁接触器MCに、駆動部64を介して駆動信号を与える制御部61とを備える。切換スイッチS1,S2,・・S6は、何れも極性切換スイッチとして機能する。
【0027】
電圧検出部62は、配電線1u,1v,1wの線間電圧を検出するものであるが、Δ-Y結線以外の結線方式で結線された計測用変圧器を介して相電圧を検出してもよい。また、計測用変圧器5に代えて、調整変圧器3の一次巻線311,321,331夫々に対応する三次巻線を設けておき、この三次巻線を介して電圧検出部62が配電線1u,1v,1wの電圧を検出してもよいし、電圧調整装置100とは別に配電線1u,1v,1wの電圧を検出してもよい。
【0028】
三相の計測用変圧器5及び電圧検出部62は、負荷側の配電線1u,1v,1w、及び電源側のの配電線1u,1v,1wの双方に設けられているものであってもよい。電源側の配電線1u,1v,1wに設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62は、電圧調整装置100よりも電源側におけるU相とV相との線間電圧(UV)、V相とW相との線間電圧(VW)、W相とU相との線間電圧(WU)の電圧値(1次側電圧値)それぞれを取得し、制御部61に出力する。負荷側の配電線1u,1v,1wに設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62は、電圧調整装置100よりも負荷側におけるu相とv相との線間電圧(uv)、v相とw相との線間電圧(vw)、w相とu相との線間電圧(wu)の電圧値(2次側電圧値)それぞれを取得し、制御部61に出力する。
【0029】
制御部61は、例えばマイコン等により構成され、不図示のCPU(Central Processing Unit )及び、ROM又はRAM等の記憶部を有する。ROM等の記憶部に予め記憶された制御プログラムに従って、電圧の調整を制御する。一時的に発生した情報はRAMに記憶されるものであってもよい。記憶部は、後述するタップ位置テーブルが記憶されているものであってもよい。制御部61は、経過時間を計測するためのタイマカウンタを有する。
【0030】
直列変圧器2は、二次巻線212,222,232夫々に一次巻線211,221,231が対応している。一次巻線211,221,231はΔ結線されている。二次巻線212,222,232夫々の上記負荷側の端子に対応する一次巻線211,221,231の端子をu1,v1,w1とする。また、二次巻線212,222,232夫々の上記電源側の端子に対応する一次巻線211,221,231の端子をu2,v2,w2とする。
【0031】
調整変圧器3は、一次巻線311が配電線1u,1v間に、一次巻線321が配電線1v,1w間に、一次巻線331が配電線1w,1u間に夫々接続されている。即ち、一次巻線311,321,331が配電線1u,1v,1wに対してΔ結線されている。一次巻線311,321,331夫々には二次巻線312,322,332が対応している。
【0032】
二次巻線312,322,332の夫々は、一端及び他端から引き出されたタップta及びtcと,タップta及びtcの間から引き出された中間のタップtbとを有する。二次巻線312,322,332夫々が有するタップta~tcの何れか1つが、タップ切換器4を介して直列変圧器2の一次側の端子u1,v1,w1と、端子v2,w2,u2とに接続される。
【0033】
タップ切換器4は、調整変圧器3の二次巻線312,322,332夫々が有するタップta,tb,tcを切り換えるための6つの切換スイッチS1,S2,・・S6を三相分、有する。すなわち、調整変圧器3は、u相のスイッチS1,S2,・・S6、v相のスイッチS1,S2,・・S6、及びw相のスイッチS1,S2,・・S6を備える。二次巻線312,322,332夫々のタップtaは、保護用のヒューズFを介して切換スイッチS1,S4の一端に接続されている。二次巻線312,322,332夫々のタップtbは、保護用のヒューズFを介して切換スイッチS2,S5の一端に接続されている。二次巻線312,322,332夫々のタップtcは、切換スイッチS3,S6の一端に接続されている。切換スイッチS1,S2,S3は他端同士が接続されている。切換スイッチS4,S5,S6は他端同士が接続されている。
【0034】
二次巻線312のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS1,S2,S3の他端同士は、直列変圧器2の一次側の端子u1及びv2に接続されている。二次巻線312のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS4,S5,S6の他端同士は、中性点Nに接続されている。二次巻線322のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS1,S2,S3の他端同士は、直列変圧器2の一次側の端子v1及びw2に接続されている。二次巻線322のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS4,S5,S6の他端同士は、中性点Nに接続されている。二次巻線332のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS1,S2,S3の他端同士は、直列変圧器2の一次側の端子w1及びu2に接続されている。二次巻線332のタップta,tb,tc夫々が一端に接続される切換スイッチS4,S5,S6の他端同士は、中性点Nに接続されている。
【0035】
切換スイッチS1,S2,S3の他端同士と、切換スイッチS4,S5,S6の他端同士との間には、限流抵抗器R及び切換スイッチSSの直列回路と、電磁接触器MCとが並列に接続されている。切換スイッチSSは、切換スイッチS1,S2,・・S6によってタップta,tb,tcを切り換える過程で、限流抵抗器Rを介してタップ間を矯絡させておくために、タップ間への限流抵抗器Rの接続及び切り離しを行うためのものである。電磁接触器MCは、切換スイッチS1,S2,・・S6及びSSによってタップta,tb,tcを切り換える運用が停止されている間に、直列変圧器2の一次側の端子u1,v1間、端子v1,w1間及び端子w1,u1間を矯絡して、開放状態にしないようにするためのものである。
【0036】
タップtbに対するタップtaの電圧は、例えばタップtcに対するタップtbの電圧の2倍となるようにしてあるが、これに限定されるものではない。このように構成された調整変圧器3のタップta,tb,tcを選択することにより、タップtcに対するタップtbの電圧に対して2倍(タップtbに対するタップta)、3倍(タップtcに対するタップta)、-1倍(タップtbに対するタップtc)、-2倍(タップtaに対するタップtb)及び-3倍(タップtaに対するタップtc)の電圧を取り出すことができる。即ち、調整変圧器3から取り出される相対的な調整電圧を1、-1、2、-2、3及び-3から選択することができる。
【0037】
本実施形態では、例として図1に黒で塗りつぶした切換スイッチS2,S6のみをオンにしてタップtb,tcを選択することにより、二次巻線312,322,332夫々から取り出される調整電圧の比を1:1:1とする。以下では、二次巻線312のタップtb,tc夫々に対応する端子をU1,U2とし、二次巻線322のタップtb,tc夫々に対応する端子をV1,V2とし、二次巻線332のタップtb,tc夫々に対応する端子をW1,W2とする。ここでの例によれば、端子U2,V2,W2が中性点Nに接続され、端子U1,V1,W1から調整電圧が取り出されるが、例えば調整電圧の比を-1:-1:-1とする場合は、端子U1,V1,W1が中性点Nに接続され、端子U2,V2,W2から調整電圧が取り出される。本実施形態にて用いられる電圧調整装置100は、例えば、特開2019-80430号公報、又はタップ数が7個以上(例えば13個等)となるような特開2021-82667号公報、特開2021-197891号公報に記載されている電圧調整装置100の各装置等と同様の構成、作用及び機能を発揮するものであってもよい。
【0038】
図2は、タップ位置とオンにする切換スイッチ等との関係を定義するタップ位置テーブルの説明図である。当該タップ位置テーブルを用いて、オンにする切換スイッチの組み合わせについて説明する。なお、タップ位置テーブルと電圧調整装置100の構成例を示すブロック図との対比において、切換スイッチS1を3(Th3)、切換スイッチS2を2(Th2)、切換スイッチS3を1(Th1)、切換スイッチS4をC(ThC)、切換スイッチS5をB(ThB)、切換スイッチS6をA(ThA)と記す。
【0039】
各相(u相,v相,w相)それぞれにおいて、切換スイッチの組み合わせは7通りあり、これらの組み合わせをタップ1からタップ7までのタップ位置で表す。タップ切換によって、接続される2つのタップに係るタップ間の巻数は、タップ位置に応じて決まる、換言すれば、タップ位置に応じて、調整変圧器3の二次巻線312,322,332と、一次巻線311,321,331との巻数比が決まる。
【0040】
タップ位置がタップ4の場合、負荷時タップ切換器が出力する電圧が0となる素通しとなるタップ位置(素通しタップ)となる。タップ位置がタップ1から3の場合と、タップ5から7の場合とでは、出力される電圧の位相が反転する。なお、タップ1から7までのタップ位置は一例であり、タップ位置はタップ1から13まで等、7つ以上であってもよい。
【0041】
例えば、タップ位置をタップ1にした場合、切換スイッチS3(Th1)及び切換スイッチS4(ThC)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(-Nt1-Nt2)/Np1となる。Np1は、調整変圧器3の一次巻線の巻数を示す。Nt1は、調整変圧器3の二次巻線におけるタップtaとタップtbとの間における巻数である。Nt2は、調整変圧器3の二次巻線におけるタップtbとタップtcとの間における巻数である。
【0042】
タップ位置をタップ2にした場合、切換スイッチS2(Th2)及び切換スイッチS4(ThC)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(-Nt2)/Np1となる。タップ位置をタップ3にした場合、切換スイッチS3(Th1)及び切換スイッチS5(ThB)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(-Nt1)/Np1となる。
【0043】
例えば、タップ位置をタップ4にした場合、切換スイッチS6(ThA)及び切換スイッチS3(Th1)がオンする。又は、切換スイッチS5(ThB)及び切換スイッチS2(Th2)がオンする。又は、切換スイッチS4(ThC)及び切換スイッチS1(Th3)がオンする。これらは、素通しタップとなり、当該素通しタップを0とした際の偏差は、0となる。
【0044】
例えば、タップ位置をタップ5にした場合、切換スイッチS6(ThA)及び切換スイッチS2(Th2)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(Nt1)/Np1となる。タップ位置をタップ6にした場合、切換スイッチS5(ThB)及び切換スイッチS1(Th3)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(Nt2)/Np1となる。タップ位置をタップ7にした場合、切換スイッチS6(ThA)及び切換スイッチS1(Th3)がオンする。この場合、素通しタップを0とした際の偏差は、(Nt1+Nt2)/Np1となる。
【0045】
タップ位置テーブルは、マイコン等にて構成される制御部61の記憶部(ROM)に予め記憶されている。すなわち、記憶部には、タップの切り替えにより定まるタップ位置と、当該タップ位置における調整変圧器3の巻数比に関する値(巻数比を用いた偏差)とが関連付けられ、タップ位置テーブル(テーブル形式)として記憶されている。タップ位置を上げ下げする毎にタップ位置テーブルを参照して、オンにすべき切換スイッチを示す情報と巻数比とを読み出すことにより、タップ切換の処理が容易に行える。
【0046】
タップ位置テーブルは、管理項目(フィールド)として、例えば、各相(u相,v相,w相)それぞれにおけるタップ位置(n:nu、nv、nw)を示す項目、選択する交流スイッチ素子(切換スイッチ)を示す項目、及び素通しタップを0とした際の偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))を示す項目を含む。タップ位置のフィールドには、切換スイッチの状態に応じたタップ位置の番号が格納される。本実施形態においては、タップ位置は、1から7までの値をとり、タップ位置の個数(タップ数)は7つ(7タップ)となる。
【0047】
切換スイッチのフィールドには、選択する交流スイッチ素子(切換スイッチ)の組み合わせが格納される。すなわち、対応するタップ位置において、オンとなる切換スイッチの番号が格納される。
【0048】
素通しタップを0とした際の偏差のフィールドには、対応するタップ位置における調整変圧器3の一次巻線311,321,331と、二次巻線312,322,332の巻数比とを用いた偏差が、格納される。当該偏差は、素通しタップを0とした際の偏差を意味し、調整変圧器3の各相におけるOLTC電圧(Ou、Ov、Ow)の線間電圧を、負荷側の線間電圧で除算した値に相当する。すなわち、u相の偏差(Nt(nu))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OuOv)の絶対値を、負荷側の線間電圧(uv)絶対値にて除算した値(Nt(nu)=|OuOv|/|uv|)に相当する。v相の偏差(Nt(nv))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OvOw)の絶対値を、負荷側の線間電圧(vw)絶対値にて除算した値(Nt(nv)=|OvOw|/|vw|)に相当する。u相の偏差(Nt(nw))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OwOu)の絶対値を、負荷側の線間電圧(wu)絶対値にて除算した値(Nt(nw)=|OwOu|/|wu|)に相当する。
【0049】
電圧調整装置100が逆送電状態である場合における制御モデル(逆送電状態の制御モデル)に関し、説明する。当該制御モデルにて定義又は用いられる各種定数、行列式及び算式等は、電圧調整装置100の型式又は製品仕様に基づき決定され、制御部61を構成するマイコンに含まれるROM等の記憶部に記憶されている。制御部61は、記憶部を参照することにより、各種定数、行列式及び算式等を取得(読み出し)し、電源側及び負荷側の電圧検出部62から取得した1次側電圧値と2次側電圧値に基づき、各相におけるタップ位置それぞれを導出する。
【0050】
1次側電圧、すなわち電源側におけるU相とV相との線間電圧(UV)、V相とW相との線間電圧(VW)、W相とU相との線間電圧(WU)の電圧値それぞれを、三角形(△UVW)の一辺の大きさとすることにより、当該1次側電圧は、△UVWによって構成されるベクトルとして定義される。更に、2次側電圧、すなわち負荷側におけるu相とv相との線間電圧(uv)、v相とw相との線間電圧(vw)、w相とu相との線間電圧(wu)の電圧値それぞれを、三角形(△uvw)の一辺の大きさとすることにより、当該2次側電圧は、△uvwによって構成されるベクトルとして定義される。
【0051】
制御部61は、電源側の配電線1u,1v,1wに設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62より、これら電源側における線間電圧(UV、VW、WU)それぞれを取得することができる。更に制御部61は、負荷側の配電線1u,1v,1wに設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62に設けられた計測用変圧器5及び電圧検出部62より、これら負荷側における線間電圧(uv、vw、wu)それぞれを取得することができる。制御部61は、これら取得した電源側における線間電圧(UV、VW、WU)と、負荷側における線間電圧(uv、vw、wu)とに基づき、三相それぞれにおける各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)を算出することができる。
【0052】
制御部61は、これら取得した電源側の線間電圧(UV、VW、WU)を用いて、1次側電圧を三角形△UVWによって構成されるベクトルとして定義する。制御部61は、1次側電圧を三角形△UVWを定義することにより、当該△UVWの辺の長さを示す電源側の線間電圧(UV、VW、WU)に基づき、例えば余弦定理を用いることにより、△UVWの内角(ΦU、ΦV、ΦW)それぞれを算出することができる。制御部61は、これら取得した負荷側の線間電圧(uv、vw、wu)を用いて、2次側電圧を三角形△uvwによって構成されるベクトルとして定義する。制御部61は、2次側電圧を三角形△uvwを定義することにより、当該△uvwの辺の長さを示す負荷側の線間電圧(uv、vw、wu)に基づき、例えば余弦定理を用いることにより、△uvwの内角(Φu、Φv、Φw)それぞれを算出することができる。制御部61は、電源側における線間電圧(UV、VW、WU)、負荷側における線間電圧(uv、vw、wu)、及び算出した各内角(ΦU、ΦV、ΦW、Φu、Φv、Φw)を用いて、後述する各算式における演算を行う。
【0053】
これら1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWと、2次側電圧のベクトルを示す△uvwとの対応する頂点(同相の頂点同士)それぞれを結ぶ重畳電圧ベクトル(Uu、Vv、Ww)は、調整変圧器3、直列変圧器2の結線と選択タップによって決定されるタップ行列(Nt3x3)と直列変圧器2の変圧比(Ns:スカラー)により、下記(1)式にて示される。
【数4】
【0054】
タップ行列(Nt3x3)は、下記(2)式にて示される。
【数5】
【0055】
1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWと、2次側電圧のベクトルを示す△uvwとは、直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)と、重畳電圧ベクトル(Uu、Vv、Ww)によって、下記(3)式にて示される。
【数6】
但し、E3x3は、3行3列の単位行列を示す。
【0056】
これにより、1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVWは、逆送電の伝達関数行列(G3x3)に2次側電圧のベクトルを示す△uvwを乗算(△UVW=G3x3・△uvw)することにより示される。逆送電の伝達関数行列(G3x3)は、下記(4)式にて示される。
【数7】
【0057】
上述した逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各成分(行列要素)を用いることにより、三角形△UVWにおける各辺の長さ(各線間電圧の大きさ)は、下記の(5)、(6)及び(7)式にて示される。
【0058】
U相とV相との線間電圧(UV)の電圧値の絶対値のべき乗(|UV|^2)は、(5)にて示される。
【数8】
【0059】
V相とW相との線間電圧(VW)の電圧値の絶対値のべき乗(|VW|^2)は、(6)にて示される。
【数9】
【0060】
W相とU相との線間電圧(WU)の電圧値の絶対値のべき乗(|WU|^2)は、(7)にて示される。
【数10】
【0061】
上述した(5)、(6)及び(7)式を展開し、1次側電圧と2次側電圧との電圧比の式に変形すると、下記の(8)、(9)及び(10)式にて示される。UV(uv)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|)は、(8)にて示される。
【数11】
【0062】
VW(vw)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|vw|/|VW|)は、(9)にて示される。
【数12】
【0063】
WU(wu)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|wu|/|WU|)は、(10)にて示される。
【数13】
【0064】
上述した(8)、(9)及び(10)式それぞれにおいて、2次側電圧、すなわち負荷側における各線間電圧(uv、vw、wu)同士の比率が含まれる。これら負荷側の各線間電圧(uv、vw、wu)の電圧値の大きさが同じ場合、2次側電圧のベクトルを示す△uvwの各辺は同じ長さとなり、当該△uvwは正三角形となり、内角(Φu、Φv、Φw)は全て60°なる。
【0065】
この場合、各相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|、|vw|/|VW|、|wu|/|WU|)は、以下の(11)、(12)及び(13)式にて示される。
【0066】
【数14】
【0067】
【数15】
【0068】
【数16】
【0069】
本実施形態のように電圧調整装置100に含まれる調整変圧器3が、Δ-Y-Δ結線により構成される場合、タップ行列(Nt3x3)は、(14)にて示される。
【数17】
【0070】
直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)は、(15)にて示される。
【数18】
【0071】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)は、(16)にて示される。
【数19】
【0072】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)において、上述した(16)式と、(4)式とを組み合わせることにより、逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各要素に含まれる9つの変数(G11からG33)は、(17)にて示される。(17)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(G11からG33)の係数(スカラー)となる。
【数20】
【0073】
上述した(17)式に含まれるNt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw)は、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示す。当該偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))は、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nu、nv、nw)を用いて、再定義することができる。この場合、Nt(nu)は、dt・nuとして定義され、Nt(nv)は、dt・nvとして定義され、Nt(nw)は、dt・nwとして定義される。例えば、素通しタップのタップ位置が4と設定されており、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置が5の場合、タップ位置偏差は、1(1=5-4)となる。タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置が3の場合、タップ位置偏差は、-1(-1=3-4)となる。調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)は、当該調整変圧器3の製品仕様として予め決定(定数として定義)されており、記憶部に記憶されている。
【0074】
各相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|、|vw|/|VW|、|wu|/|WU|)を示す(8)、(9)及び(10)式に含まれる、逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各要素に含まれる9つの変数(G11からG33)それぞれに対し、(17)式にて示されるタップ位置偏差(nu、nv、nw)を代入することにより、(8)、(9)及び(10)式は、3つの変数(nu、nv、nw)を含む3元連立方程式として定義される。制御部61は、各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、当該検出電圧比率に対応する算式である(8)、(9)及び(10)から成る3元連立方程式を用いて、各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)を算出する。素通しタップのタップ番号を基準とし、算出した各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)に基づき、調整変圧器3における各相のタップ位置と導出することができる。
【0075】
又は、制御部61は、上述したタップ位置テーブルと(17)式とを組み合わせ、検出電圧比率に対応する算式である(8)、(9)及び(10)を用いて、各相のタップ位置を導出するものであってもよい。(17)式にて示される偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))は、タップ位置テーブルにおいて、各タップ位置それぞれに応じた値として、当該タップ位置における調整変圧器3の巻数比に関する値(巻数比を用いた偏差)にて定義されている。制御部61は、(8)、(9)及び(10)から成る3元連立方程式を用いて算出した偏差(Nt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw))それぞれと、タップ位置テーブルに定義される偏差(巻数比を用いた偏差)とを対比し、値が最も近接する偏差に対応するタップ位置を、現時点(線間電圧の検出時点)におけるタップ位置として導出するものであってもよい。
【0076】
電圧調整装置100が順送電状態である場合における制御モデル(順送電状態の制御モデル)に関し、説明する。順送電状態の制御モデルは、逆送電状態の制御モデルにおける伝達関数行列(G3x3)の逆行列により示される。逆送電状態の制御モデルにおける伝達関数行列(G3x3)の逆行列は、下記(18)式にて示される。
【数21】
【0077】
順送電状態の制御モデル(F3x3)は、下記(19)式にて示される。
【数22】
このように、順送電状態における伝達関数行列(F3x3)は、逆送電状態の伝達関数行列(G3x3)の逆行列(F3x3=[G3x3]^1)にて示されるものであり、これら伝達関数行列(G3x3、F3x3)は可逆性を有する。
【0078】
順送電状態において、1次側電圧と2次側電圧との電圧比の式は、下記の(20)、(22)及び(22)式にて示される。UV(uv)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|)は、(20)にて示される。
【数23】
【0079】
VW(vw)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|vw|/|VW|)は、(21)にて示される。
【数24】
【0080】
WU(wu)相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|wu|/|WU|)は、(22)にて示される。
【数25】
【0081】
上述した(20)、(21)及び(22)式それぞれにおいて、1次側電圧、すなわち電源側における各線間電圧(UV、VW、WU)同士の比率が含まれる。これら負荷側の各線間電圧(UV、VW、WU)の電圧値の大きさが同じ場合、1次側電圧のベクトルを示す△UVWの各辺は同じ長さとなり、当該△UVWは正三角形となり、内角(ΦU、ΦV、ΦW)は全て60°なる。
【0082】
この場合、各相間の線間電圧の電圧値の絶対値の比率(|uv|/|UV|、|vw|/|VW|、|wu|/|WU|)は、以下の(23)、(24)及び(25)式にて示される。
【0083】
【数26】
【0084】
【数27】
【0085】
【数28】
【0086】
順送電の伝達関数行列(F3x3)は、(26)にて示される。
【数29】
なお、タップ行列(Nt3x3)及び直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)については、順送電及び逆送電において、同様である。
【0087】
順送電の伝達関数行列(F3x3)において、上述した(26)式と、(19)式とを組み合わせることにより、順送電の伝達関数行列(F3x3)の各要素に含まれる9つの変数(F11からF33)は、(27)にて示される。(27)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(F11からF33)の係数(スカラー)となる。
【数30】
【0088】
上述した(27)式に含まれるNt(nu)、Nt(nv)、Nt(nw)は、逆送電と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nu、nv、nw)を用いて、再定義することができる。
【0089】
制御部61は、逆送電における場合と同様に、順送電においても各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、当該検出電圧比率に対応する算式である(20)、(21)及び(22)から成る3元連立方程式を用いて、各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)を算出する。素通しタップのタップ番号を基準とし、算出した各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)に基づき、調整変圧器3における各相のタップ位置と導出することができる。
【0090】
図3は、線間電圧それぞれの大きさ(辺ベクトル)を三角形で示した説明図である。図4は、三角形の2つの合成ベクトル計算に用いる位相角に関する説明図である。本実施形態において演算処理に利用した三角形等の幾何学的な事項(定理等)について、図示に基づき説明する。上述のとおり、1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVW、又は2次側電圧のベクトルを示す三角形△uvwにおける各辺の長さは、1次側電圧(電源側)又は2次側電圧(負荷側)における各線間電圧の電圧値の大きさ(絶対値)を示す。1次側電圧のベクトルを示す三角形△UVW、又は2次側電圧のベクトルを示す三角形△uvwにおいて、三角形△を一周する3つの辺ベクトルの内の1つのベクトルは、他の2つの辺の逆方向の合成ベクトル(WU=(-UV)-VW)にて表現(定義)することができる。
【0091】
三角形△UVWを一周する3つの辺ベクトルのうち、2つの辺ベクトルの差による合成ベクトルは、残り(他)の1片を軸に反転複写することにより形成される合同三角形(図3では△UVWに対する△UVW’)によって示される平行四辺形の対角線となる。平行四辺形の2つの対角線は、互いの中点で交差するため、当該対角線(例えば対角線WW’)は△UVWの頂点(例えばW)から重心(O)に向かう線(線WO)の3倍の長さを持つ同相ベクトルとなる。これを利用することにより、相電圧と線間電圧との双方向での変換を表現(WW’=VW-WU=-3WO)し、定義することができる。三角形△UVWを一周する3つの辺ベクトルのうち、2つの辺ベクトルの合成ベクトルの大きさは、基本ベクトル(図3では、-UV)に対する相手側ベクトル(図3では、-VW)と成す角によって、相手側ベクトル(-VW)を、基本ベクトル(-UV)の縦横成分に変換し、自乗平方根によって算出することができる。
【0092】
三相交流の位相回転を考慮すると、図3で使用する位相角は、図4のように示される。すなわち、基準ベクトル(基本ベクトル)よりも進んでいるベクトルに使用する位相角は、πから三角形の内角(∠V、ΦV)を減算した値(例えば、π-∠V、π-ΦV)となる。基準ベクトル(基本ベクトル)よりも遅れているベクトルに使用する位相角は、πから三角形の内角(∠W、ΦW)を加算した値(例えば、π+∠W、π+ΦW)となる。このような定義となるのは、(8)、(9)、(10)、(20)、(21)、(22)、式において、三角関数の符号が項毎に異なる要因によるものである。
【0093】
図5は、制御部61の処理手順(逆送電状態)を示すフローチャートである。制御部61は、ROM等の記憶部に予め格納されている制御プログラム(プログラム製品)に従って、タップ切換器4の運用中に、例えば60Hzの1周期より短い周期で本処理を実行する。又は、制御部61は、検出した電圧が不感帯を逸脱した場合に本処理を実行するものであってもよい。
【0094】
制御部61は、電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値を取得する(S101)。制御部61は、例えば、電源側の電圧検出部62から、電源側における線間電圧(UV、VW、WU)それぞれを、1次側電圧値として取得する。当該1次側電圧値は、例えば、直近1サイクルの実行値、一定時間の実行値平均、フィルタ計算した値等、1次側電圧データに基づくものであればよい。
【0095】
制御部61は、負荷側における三相の線間電圧それぞれを示す2次側電圧値を取得する(S102)。制御部61は、例えば、負荷側の電圧検出部62から、負荷側における線間電圧(uv、vw、wu)それぞれを、2次側電圧値として取得する。当該2次側電圧値は、例えば、直近1サイクルの実行値、一定時間の実行値平均、フィルタ計算した値等、2次側電圧データに基づくものであればよい。
【0096】
制御部61は、1次側電圧値と2次側電圧値に基づき、三相それぞれにおける検出電圧比率を算出する(S103)。制御部61は、例えば、2次側電圧値を、1次側電圧値にて除算(2次側電圧値/1次側電圧値)することにより、2次側電圧値と1次側電圧値との検出電圧比率を算出する。すなわち、制御部61は、電源側(1次側)における線間電圧(UV、VW、WU)と、負荷側(2次側)における線間電圧(uv、vw、wu)とに基づき、三相それぞれにおける各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)を算出する。
【0097】
制御部61は、逆送電状態における伝達関数行列を用いて、三相それぞれにおける検出電圧比率に対応するタップ位置それぞれを導出する(S104)。制御部61は、算出した三相それぞれにおける各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、逆送電状態における伝達関数行列の各成分が含まれる算式(検出電圧比率に対応する算式)を用いて、三相それぞれにおける検出電圧比率に対応するタップ位置それぞれを導出する。本実施形態においては、当該算式は、(8)、(9)、(10)の3元連立方程式にて示される。制御部61は、これら算式に含まれる伝達関数行列の各成分に含まれる9つの変数(G11からG33)を(17)式に基づき代入することにより、各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)を導出する。制御部61は、タップ位置偏差(nu、nv、nw)に対し、素通しタップのタップ番号を基準とし、各相におけるタップ位置を検出(導出)する。制御部61は、検出(導出)したタップ位置(n)を、1次側電圧値及び2次側電圧値を検出又は取得した時点(検出時点、取得時点)と関連付けて、例えば記憶部に記憶する。
【0098】
図6は、制御部61の処理手順(順送電状態)を示すフローチャートである。制御部61は、ROM等の記憶部に予め格納されている制御プログラム(プログラム製品)に従って、タップ切換器4の運用中に、例えば60Hzの1周期より短い周期で本処理を実行する。又は、制御部61は、検出した電圧が不感帯を逸脱した場合に本処理を実行するものであってもよい。
【0099】
制御部61は、電源側における三相の線間電圧それぞれを示す1次側電圧値を取得する(S111)。制御部61は、負荷側における三相の線間電圧それぞれを示す2次側電圧値を取得する(S112)。制御部61は、1次側電圧値と2次側電圧値に基づき、三相それぞれにおける検出電圧比率を算出する(S113)。制御部61は、処理S101からS103と同様に、S111からS113の処理を行う。
【0100】
制御部61は、順送電状態における伝達関数行列を用いて、三相それぞれにおける検出電圧比率に対応するタップ位置それぞれを導出する(S114)。制御部61は、算出した三相それぞれにおける各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、順送電状態における伝達関数行列の各成分が含まれる算式(検出電圧比率に対応する算式)を用いて、三相それぞれにおける検出電圧比率に対応するタップ位置それぞれを導出する。本実施形態においては、当該算式は、(20)、(21)、(22)の3元連立方程式にて示される。制御部61は、これら算式に含まれる伝達関数行列の各成分に含まれる9つの変数(F11からF33)を(27)式に基づき代入することにより、各相におけるタップ位置偏差(nu、nv、nw)を導出する。制御部61は、タップ位置偏差(nu、nv、nw)に対し、素通しタップのタップ番号を基準とし、各相におけるタップ位置を検出(導出)する。制御部61は、例えば、1次側、2次側の電圧、電流変化量に基づき、順送電状態であるか、又は逆送電状態であるかを判定し、判定結果に応じて、逆送電状態のタップ制御、又は順送電状態のタップ制御を行うものであってもよい。
【0101】
本実施形態において、制御部61は、取得した1次側電圧値及び2次側電圧値に基づき、各相におけるタップ位置を導出したが、これに限定されない。制御部61は、1次側電圧値又は2次側電圧値のいずれか一方のみを取得する共に、スイッチを構成するサイリスタ等への指令出力状態を用いてタップの現時点における位置(タップ位置)を取得する。その上で、制御部61は、これら取得したタップ位置と、1次側電圧値又は2次側電圧値のいずれか一方とを用いて、他方となる2次側電圧値又は1次側電圧値を導出するものであってもよい。この場合であっても、制御部61は、逆送電状態においては(8)、(9)及び(10)式、順送電状態においては(20)、(21)及び(22)式(検出電圧比率に対応する算式)を用いることにより、他方となる2次側電圧値又は1次側電圧値を効率的に導出することができる。このように他方となる2次側電圧値又は1次側電圧値を導出することにより、導出する電圧値を検出するための計測用変圧器及5び電圧検出部62を不要とすることができる。制御部61は、本実施形態において説明した各種演算処理を、後述するV-V-Δ結線又はV-V-Y結線の電圧調整装置100においても同様に適用することができる。
【0102】
(実施形態2)
図7は、実施形態2(V-V-Δ結線)に係る電圧調整装置100の構成例を示すブロック図である。実施形態2の電圧調整装置100は、実施形態1と同様に電圧検出部62及び制御部61等を備え、V-V-Δ結線の電圧調整装置100である。実施形態1と共通する電圧検出部62及び制御部61等の図示は省略する。電圧検出部62はΔ結線に限定されず、V結線であってもよい。図中1u,1v,1wは、電源(U相,V相,W相)から負荷(u相,v相,w相)へ、U相,V相,W相の交流電圧を紙面の右向きに配電(順送電状態)、又は左向きに配電(逆送電状態)する配電線である。
【0103】
電圧調整装置100は、配電線1u,1v,1w夫々に二次巻線212,222,232が直列に接続される直列変圧器2と、配電線1u,1v,1wに一次巻線311,321がV結線される調整変圧器3と、調整変圧器3の二次巻線312,322及び直列変圧器2の一次巻線211,221,231の間に設けられたタップ切換器4とを備える。
【0104】
調整変圧器3の二次巻線312,322は、一次巻線311,321と同様にV結線されている。調整変圧器3の一次巻線311と二次巻線312とが対応し、調整変圧器3の一次巻線321と二次巻線322とが対応する。このように調整変圧器3の一次巻線311,321と、二次巻線312,322とは、V-V結線されている。
【0105】
直列変圧器2の一次巻線211,221,231は、実施形態1と同様にΔ結線されている。すなわち、調整変圧器3の二次巻線312,322と、直列変圧器2の一次巻線211,221,231とは、V-Δ結線されている。直列変圧器2の一次巻線211は直列変圧器2の二次巻線212に対応し、直列変圧器2の一次巻線221は直列変圧器2の二次巻線222に対応し、直列変圧器2の一次巻線231は直列変圧器2の二次巻線232に対応する。
【0106】
タップ切換器4は、調整変圧器3の二次巻線312,322夫々が有するタップta,tb,tcを切り換えるための6つの切換スイッチS1,S2,・・S6を2相分、有する。すなわち、調整変圧器3は、V-V結線における1相のスイッチS1,S2,・・S6及び2相のスイッチS1,S2,・・S6を備える。
【0107】
図8は、タップ位置とオンにする切換スイッチ等との関係を定義するタップ位置テーブルの説明図である。なお、タップ位置テーブルと電圧調整装置100の構成例を示すブロック図との対比は、実施形態1と同様である。本実施形態におけるタップ位置テーブルは、実施形態1にて説明したタップ位置テーブルと同様に管理項目(フィールド)として、例えば、各相(1相,2相)それぞれにおけるタップ位置(n:nuv、nvw)を示す項目、選択する交流スイッチ素子(切換スイッチ)を示す項目、及び素通しタップを0とした際の偏差(Nt(nuv)、Nt(nv)、Nt(nvw))を示す項目を含む。
【0108】
各タップ位置における切換スイッチS1,S2,・・S6の選択(オン)の態様は、実施形態1と同様である。また、各タップ位置それぞれににおける素通しタップを0とした際の偏差についても、実施形態1と同様である。
【0109】
当該偏差は、素通しタップを0とした際の偏差を意味し、調整変圧器3の各相におけるOLTC電圧(Ou、Ov、Ow)の線間電圧を、負荷側の線間電圧で除算した値に相当する。すなわち、1相の偏差(Nt(nuv))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OuOv)の絶対値を、負荷側の線間電圧(uv)絶対値にて除算した値(Nt(nuv)=|OuOv|/|uv|)に相当する。2相の偏差(Nt(nvw))は、対応するOLTC電圧の線間電圧(OvOw)の絶対値を、負荷側の線間電圧(vw)絶対値にて除算した値(Nt(nvw)=|OvOw|/|vw|)に相当する。本実施形態にて図示したタップ位置テーブルは、V-V-Δ結線の調整変圧器3のみならず、後述するV-V-Y結線の調整変圧器3に対しても適用することができる。
【0110】
調整変圧器3がV-V-Δ結線にて構成される電圧調整装置100が逆送電状態である場合における制御モデル(逆送電状態の制御モデル)に関し、説明する。本実施形態におけるV-V-Δ結線の調整変圧器3と、実施形態1におけるΔ-Y-Δ結線の調整変圧器3とにおいて、同様の逆送電の伝達関数行列(G3x3)を用いることができる。この場合、直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)は同じであるが、タップ行列(Nt3x3)は異なる。
【0111】
タップ行列(Nt3x3)は、下記(28)式にて示される。
【数31】
【0112】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)は、下記(29)式にて示される。
【数32】
【0113】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)において、上述した(29)式と、(4)式とを組み合わせることにより、逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各要素に含まれる9つの変数(G11からG33)は、(30)にて示される。(30)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(G11からG33)の係数(スカラー)となる。
【数33】
【0114】
上述した(30)式に含まれるNt(nuv)、Nt(nvw)は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nuv、nvw)を用いて、再定義することができる。
【0115】
制御部61は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、当該検出電圧比率に対応する算式である(8)、(9)及び(10)から成る3元連立方程式を用いて、各相におけるタップ位置偏差(nuv、nvw)を算出する。素通しタップのタップ番号を基準とし、算出した各相におけるタップ位置偏差(nuv、nvw)に基づき、調整変圧器3における各相のタップ位置と導出することができる。
【0116】
調整変圧器3がV-V-Δ結線にて構成される電圧調整装置100が順送電状態である場合における制御モデル(順送電状態の制御モデル)に関し、説明する。順送電状態の制御モデルは、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、逆送電状態の制御モデルにおける伝達関数行列(G3x3)の逆行列により示される。
【0117】
順送電の伝達関数行列(F3x3)は、(31)にて示される。
【数34】
なお、タップ行列(Nt3x3)及び直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)については、順送電及び逆送電において、同様である。
【0118】
順送電の伝達関数行列(F3x3)において、上述した(31)式と、(19)式とを組み合わせることにより、順送電の伝達関数行列(F3x3)の各要素に含まれる9つの変数(F11からF33)は、(32)にて示される。(32)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(F11からF33)の係数(スカラー)となる。
【数35】
【0119】
上述した(32)式に含まれるNt(nuv)、Nt(nvw)は、逆送電と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nuv、nvw)を用いて、再定義することができる。
【0120】
制御部61は、逆送電における場合と同様に、順送電においても各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、当該検出電圧比率に対応する算式である(20)、(21)及び(22)から成る3元連立方程式を用いて、各相におけるタップ位置偏差(nuv、nvw)を算出する。素通しタップのタップ番号を基準とし、算出した各相におけるタップ位置偏差(nuv、nvw)に基づき、調整変圧器3における各相のタップ位置と導出することができる。
【0121】
(実施形態3)
図9は、実施形態3(V-V-Y結線)に係る電圧調整装置100の構成例を示すブロック図である。実施形態2の電圧調整装置100は、実施形態1と同様に電圧検出部62及び制御部61等を備え、V-V-Y結線の電圧調整装置100である。実施形態1と共通する電圧検出部62及び制御部61等の図示は省略する。電圧調整装置100は、配電線1u,1v,1w夫々に二次巻線212,222,232が直列に接続される直列変圧器2と、配電線1u,1v,1wに一次巻線311,321がV結線される調整変圧器3と、調整変圧器3の二次巻線312,322及び直列変圧器2の一次巻線211,221,231の間に設けられたタップ切換器4とを備える。
【0122】
調整変圧器3の二次巻線312,322は、一次巻線311,321と同様にV結線されている。調整変圧器3の一次巻線311と二次巻線312とが対応し、調整変圧器3の一次巻線321と二次巻線322とが対応する。このように調整変圧器3の一次巻線311,321と、二次巻線312,322とは、V-V結線されている。
【0123】
直列変圧器2の一次巻線211,221,231は、Y結線されている。すなわち、調整変圧器3の二次巻線312,322と、直列変圧器2の一次巻線211,221,231とは、V-Y結線されている。直列変圧器2の一次巻線211は直列変圧器2の二次巻線212に対応し、直列変圧器2の一次巻線221は直列変圧器2の二次巻線222に対応し、直列変圧器2の一次巻線231は直列変圧器2の二次巻線232に対応する。
【0124】
タップ切換器4は、調整変圧器3の二次巻線312,322夫々が有するタップta,tb,tcを切り換えるための6つの切換スイッチS1,S2,・・S6を2相分、有する。すなわち、調整変圧器3は、V-V結線における1相のスイッチS1,S2,・・S6及び2相のスイッチS1,S2,・・S6を備える。
【0125】
調整変圧器3がV-V-Y結線にて構成される電圧調整装置100が逆送電状態である場合における制御モデル(逆送電状態の制御モデル)に関し、説明する。本実施形態におけるV-V-Y結線の調整変圧器3と、実施形態1におけるΔ-Y-Δ結線の調整変圧器3とにおいて、同様の逆送電の伝達関数行列(G3x3)を用いることができる。この場合、直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)は同じであるが、タップ行列(Nt3x3)は異なる。
【0126】
タップ行列(Nt3x3)は、下記(33)式にて示される。
【数36】
【0127】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)は、下記(34)式にて示される。
【数37】
【0128】
逆送電の伝達関数行列(G3x3)において、上述した(34)式と、(4)式とを組み合わせることにより、逆送電の伝達関数行列(G3x3)の各要素に含まれる9つの変数(G11からG33)は、(35)にて示される。(35)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(G11からG33)の係数(スカラー)となる。
【数38】
【0129】
上述した(30)式に含まれるNt(nuv)、Nt(nvw)は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nuv、nvw)を用いて、再定義することができる。
【0130】
制御部61は、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、当該検出電圧比率に対応する算式である(8)、(9)及び(10)から成る3元連立方程式を用いて、各相におけるタップ位置偏差(nuv、nvw)を算出する。素通しタップのタップ番号を基準とし、算出した各相におけるタップ位置偏差(nuv、nvw)に基づき、調整変圧器3における各相のタップ位置と導出することができる。
【0131】
調整変圧器3がV-V-Y結線にて構成される電圧調整装置100が順送電状態である場合における制御モデル(順送電状態の制御モデル)に関し、説明する。順送電状態の制御モデルは、実施形態1(Δ-Y-Δ結線)と同様に、逆送電状態の制御モデルにおける伝達関数行列(G3x3)の逆行列により示される。
【0132】
順送電の伝達関数行列(F3x3)は、(36)にて示される。
【数39】
なお、タップ行列(Nt3x3)及び直列変圧器2の結線行列(Ws3x3)については、順送電及び逆送電において、同様である。
【0133】
順送電の伝達関数行列(F3x3)において、上述した(36)式と、(19)式とを組み合わせることにより、順送電の伝達関数行列(F3x3)の各要素に含まれる9つの変数(F11からF33)は、(37)にて示される。
【数40】
(37)式において、Nsは直列変圧器2の変圧比を示し、当該直列変圧器2の変圧比(Ns)は、これら9つの変数(F11からF33)の係数(スカラー)となる。
【0134】
上述した(32)式に含まれるNt(nuv)、Nt(nvw)は、逆送電と同様に、タップta、tb、tcの切り換えにて決定されるタップ位置に対し、素通しタップを0とした際の偏差を示し、調整変圧器3の1タップ分の変圧比差(dt)、及び素通しタップからのタップ位置偏差(nuv、nvw)を用いて、再定義することができる。
【0135】
制御部61は、逆送電における場合と同様に、順送電においても各線間電圧の検出電圧比率(|uv/UV|、|vw/VW|、|wu/WU|)に対し、当該検出電圧比率に対応する算式である(20)、(21)及び(22)から成る3元連立方程式を用いて、各相におけるタップ位置偏差(nuv、nvw)を算出する。素通しタップのタップ番号を基準とし、算出した各相におけるタップ位置偏差(nuv、nvw)に基づき、調整変圧器3における各相のタップ位置と導出することができる。
【0136】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0137】
特許請求の範囲に記載されている複数の請求項に関して、引用形式に関わらず、相互に組み合わせることが可能である。特許請求の範囲では、複数の請求項に従属する多項従属請求項が記載されている。特許請求の範囲では、多項従属請求項に従属する多項従属請求項は記載されていないが、多項従属請求項に従属する多項従属請求項を記載してもよい。
【符号の説明】
【0138】
1u、1v、1w 配電線、 2 直列変圧器、 211,221、231 一次巻線、 212、222、232 二次巻線、 u1、v1、w1 端子、 N 中性点、 3 調整変圧器、 311、321、331 一次巻線、 312、322、332 二次巻線、 S1、S2、S3、S4、S5、S6、SS 切換スイッチ、 U1、U2、V1、V2、W1、W2 端子、 F ヒューズ、 MC 電磁接触器、 R 限流抵器、 4 タップ切換器、 ta、tb、tc タップ、 5 計測用変圧器、 61 制御部、 62 電圧検出部、 63 操作表示部、 64 駆動部、 100 電圧調整装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9