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特開2024-74595地盤固結材およびそれを用いた地盤注入工法
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  • 特開-地盤固結材およびそれを用いた地盤注入工法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074595
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】地盤固結材およびそれを用いた地盤注入工法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20240524BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20240524BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C09K17/02 P
C09K17/06 P
E02D3/12 101
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185865
(22)【出願日】2022-11-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(72)【発明者】
【氏名】角田 百合花
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
(72)【発明者】
【氏名】田井 智大
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB01
2D040CA02
2D040CA03
2D040CA04
2D040CC01
2D040CC02
4H026CA02
4H026CA04
4H026CA05
4H026CB03
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】シリカゾルとスラグを含みセメントを使用しないシリカグラウトを用いることで、COの生成を削減するとともに、土壌汚染を生ずることがない懸濁型の地盤固結材、および、これを用いた環境保全性に優れた地盤注入工法を提供することを目的とする。
【解決手段】中性シリカゾルと、スラグと、石膏と、を含有する懸濁型の地盤固結材であって、スラグのブレーン比表面積が、4000cm/g以上である地盤固結材である。この地盤固結材を地盤に注入して、地盤を固結する地盤注入工法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性シリカゾルと、スラグと、石膏と、を含有する懸濁型の地盤固結材であって、前記スラグのブレーン比表面積が、4000cm/g以上であることを特徴とする地盤固結材。
【請求項2】
アルカリ剤として、消石灰を含有する請求項1記載の地盤固結材。
【請求項3】
アルカリ剤として、消石灰以外のアルカリ剤または難溶性アルカリ剤を含有する請求項1記載の地盤固結材。
【請求項4】
前記スラグおよび前記消石灰のブレーン比表面積が4000cm/g~20000cm/gであって、前記中性シリカゾルの、pHが8.0~10.5、SiO濃度が10~60質量%、NaO濃度が0.01~4質量%である請求項2記載の地盤固結材。
【請求項5】
ゲル化調整剤を含有する請求項1記載の地盤固結材。
【請求項6】
ポゾラン、粘土および塩のうちのいずれか一種または複数種を含む請求項1記載の地盤固結材。
【請求項7】
下記(1)~(3)のうちのいずれか1つ以上の条件を満足する請求項1記載の地盤固結材。
(1)前記地盤固結材が分散剤、または、界面活性剤を含む。
(2)前記地盤固結材がマイクロ・ナノバブルを含有する。
(3)前記地盤固結材に超音波が照射されている。
【請求項8】
前記中性シリカゾルが、イオン交換法により得られたシリカゾル、および、金属珪素から製造されたシリカゾルの中から選ばれた一種または複数種である請求項1記載の地盤固結材。
【請求項9】
前記スラグが、微細化された微粒子スラグである請求項1記載の地盤固結材。
【請求項10】
請求項1~9のうちいずれか一項記載の地盤固結材を地盤に注入して、該地盤を固結することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項11】
あらかじめ1次注入材を注入した地盤に、2次注入材として前記地盤固結材を注入する請求項10記載の地盤注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤固結材およびそれを用いた地盤注入工法(以下、単に「固結材」および「注入工法」とも称する)に関し、詳しくは、中性~弱アルカリ性のシリカコロイド(以下、「中性シリカゾル」と称する)およびスラグを用いた懸濁型グラウトからなる地盤固結材およびそれを用いた地盤注入工法の改良に関する。
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、脱炭素型技術が社会的に要求されている。本発明は、地盤中に微粒子スラグを注入して地盤を高強度に固結する非セメント系脱炭素型地盤改良技術としての、地盤固結材および地盤注入工法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
地盤を固結するための地盤注入用のグラウトについては、種々知られている。例えば、従来より、セメントと水ガラスのグラウトが知られているが、このグラウトはゲル化時間が短く、浸透性が悪く、かつ、耐久性がなく、また、アルカリの溶脱が懸念される。また、水ガラスと酸とを混合して得られる酸性シリカゾルおよびセメント系からなるグラウトでは、ゲル化時間が短く、フロック状の沈殿ができやすいため浸透性が悪い。さらに、水ガラスをイオン交換処理することによって得られた中性シリカゾルとポルトランドセメントを合流して注入する方法も知られている。しかし、このグラウトは、ゲル化時間が1分以内程度と短く、浸透性が悪い。さらにまた、中性シリカゾルに多価金属塩またはアルカリ金属塩を加えたグラウトも、ゲル化時間が短く強度が低いという欠点があった。
【0004】
この強度の問題を解決するために、近年、地盤を固結する耐久性に優れた懸濁型の地盤固結材として、本出願人により、イオン交換法により製造された中性シリカゾルと、ブレーン比表面積が9000cm/g以上の微粒子スラグや微粒子セメントからなる地盤固結材が発明されている(特許文献1)。このグラウトは、細粒土への浸透が良く、また、ゲル化時間が長く、強度が高いという長所を有するが、上述したようにセメントを用いていることから、脱炭素型技術とは言えない。
【0005】
さらに、中性シリカゾルとスラグと消石灰からなる固結材も知られている。しかし、この場合、ゲル化が不安定で、地盤中に注入された場合には固結が不安定になるという問題がある。そのため、凝結調整剤が別途、必要になる。
【0006】
このように懸濁型の地盤固結材として用いられている水ガラス-スラグセメント系、シリカゾル-セメントまたはスラグ系、および、中性シリカコロイド-セメント系には、ゲル化時間が短く、粘性が高く、浸透性が悪いという欠点がある。
【0007】
地盤固結材に関する先行技術としては、上記特許文献1に記載された地盤固結材の他、シリカゾルとセメントまたは石灰を用いる固結材(特許文献2)やセメントとシリカゾルを用いた固結材(特許文献3,4)、シリカゾルとセメントとスラグを配合した地盤注入材(特許文献5)なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8-109378号公報(特許第3575561号)
【特許文献2】特開昭59-184283号公報
【特許文献3】特開昭57-164186号公報
【特許文献4】特開昭54-117528号公報
【特許文献5】特開平05-140557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、本発明者らは、上記課題を解決するために、イオン交換法によって得られた中性シリカコロイド、微粒子スラグおよび微粒子セメントを主成分とする地盤固結材、あるいはさらにゲル化調整剤を配合した地盤固結材を提案しているが(特許文献1)、中性シリカゾルとスラグとセメントを主成分とする固結材は、近年の地球温暖化対策のためのCO削減の国家的な要求の点からは問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、シリカゾルとスラグを含みセメントを使用しないシリカグラウトを用いることで、COの生成を削減するとともに、土壌汚染を生ずることがない懸濁型の地盤固結材、および、これを用いた環境保全性に優れた地盤注入工法を提供することにある。
【0011】
具体的には、本発明は、環境保全性に優れ、ゲル化時間を長く調整したことで浸透固結性に優れ、しかも固結強度が高く、かつ、アルカリの溶脱が少なく、そのために溶液型シリカグラウトとの併用においても優れた、中性シリカゾル-スラグ-石膏系または中性シリカゾル-スラグ-石膏-消石灰系の懸濁型地盤固結材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、中性シリカゾルと、ブレーン比表面積が4000cm/g以上のスラグと、石膏とを含む懸濁型の地盤固結材を地盤注入に用いることで、すなわち、特許文献1記載の発明においてセメントを石膏で置き換えることで、環境保全性に優れ、かつ、優れた地盤固結効果を有する地盤固結材が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の地盤固結材は、中性シリカゾルと、スラグと、石膏と、を含有する懸濁型の地盤固結材であって、前記スラグのブレーン比表面積が、4000cm/g以上であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の地盤固結材は、アルカリ剤として消石灰を含有することが好ましく、アルカリ剤として、消石灰以外のアルカリ剤または難溶性アルカリ剤を含有することも好ましい。
【0015】
また、本発明の地盤固結材においては、前記スラグおよび前記消石灰のブレーン比表面積が4000cm/g~20000cm/gであって、前記中性シリカゾルの、pHが8.0~10.5、SiO濃度が10~60質量%、NaO濃度が0.01~4質量%であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の地盤固結材は、好適には、ゲル化調整剤を含有する。
【0017】
さらにまた、本発明の地盤固結材は、ポゾラン、粘土および塩のうちのいずれか一種または複数種を含むことで、ゲル化および強度が調整されていることが好ましい。
【0018】
さらにまた、本発明の地盤固結材は、下記(1)~(3)のうちのいずれか1つ以上の条件を満足することで、懸濁粒子の凝集が低減されていることが好ましい。
(1)前記地盤固結材が分散剤、または、界面活性剤を含む。
(2)前記地盤固結材がマイクロ・ナノバブルを含有する。
(3)前記地盤固結材に超音波が照射されている。
【0019】
さらにまた、本発明の地盤固結材においては、前記中性シリカゾルが、イオン交換法により得られたシリカゾル、および、金属珪素から製造されたシリカゾルの中から選ばれた一種または複数種であることが好ましい。
【0020】
さらにまた、本発明の地盤固結材においては、前記スラグが、微細化された微粒子スラグであることが好ましい。
【0021】
本発明の地盤注入工法は、上記地盤固結材を地盤に注入して、該地盤を固結することを特徴とするものである。
【0022】
本発明の地盤注入工法においては、あらかじめ1次注入材を注入した地盤に、2次注入材として前記地盤固結材を注入することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、COの生成を削減した環境保全性に優れた地盤固結材、および、それを用いた地盤注入工法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】溶液型非アルカリ性シリカゲル化物と本発明に係る懸濁型固結物との相性を確認するための試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明は、地盤に注入して地盤改良領域を形成する地盤固結材、および、地盤固結材を地盤に注入して地盤改良領域を形成する地盤注入工法の改良に関する。
【0026】
本発明の地盤固結材は、中性シリカゾルと、スラグと、石膏と、を含有する懸濁型の地盤固結材であって、スラグのブレーン比表面積が4000cm/g以上であるものである。
【0027】
本発明の地盤固結材の主剤となるスラグ、特に高炉スラグの生産時のCO排出量は、セメントに比べて1/10程度であり、セメントを使用した懸濁型の注入材に比べてCOの削減効果が期待できる。また、本発明は産業副産物を素材として用いることにより、さらに、土粒子間浸透によって現地盤そのものを強固に固結することにより、産廃土を生ずることなく地盤改良を行うことができ、環境負荷を低減した地盤改良工法である。以上の観点から、本発明はスラグ系の地盤固結材の改良に関し、具体的には、特定の条件範囲にあるスラグと、中性シリカゾルと、石膏とを使用することにより、固結とゲル化とを可能にした地盤固結材に関する。さらに、消石灰などのアルカリ剤を加えると高い固結強度が得られるとともに、ゲル化時間が長く、かつ、ゲル化時間の調整が容易な特徴を示し、懸濁型の地盤固結材としてはセメントを使用しない注入材となり、浸透性にも優れ、かつ、CO削減効果およびヒ素等の汚染現象を生じない環境保全に優れた特性を有する地盤固結材となる。
【0028】
本発明は、セメントを使用することなく、中性シリカゾル、スラグおよび石膏を主成分とし、さらには消石灰などのアルカリ剤を加えた地盤固結材であって、スラグとしてブレーン比表面積4000cm/g以上のものを用いたことにより、セメントを使用しなくても安定したゲル化および浸透性を有し、COの削減効果も有する地盤固結材を可能にしたものである。また、本発明に用いる中性シリカゾルは、イオン交換法により得られたシリカゾルでも、金属珪素から製造されたシリカゾルでもよく、これらの中から選ばれた一種または複数種を用いることができ、本発明における効果は同様である。よって、中性シリカゾルとしてイオン交換法によるシリカゾルの例を用いて、本発明を説明するものとする。
【0029】
イオン交換法による中性シリカゾルは、水ガラスをイオン交換樹脂で処理してNaイオン等のアルカリをほとんど分離除去し、中性~弱アルカリ性、好ましくはpHが8.0~10.5の弱アルカリ性に調整し、比重が1.16~1.24で、おおよそSiO濃度が10~60質量%、NaO濃度が0.01~4質量%の範囲にあるものである。従って、水ガラスを使用した固結材に比べると、アルカリの溶脱が非常に少なくなることが期待できる。
【0030】
本発明者らは、以上の点を見出し、以下の特性を有する本発明を可能にしたものである。
【0031】
(1)従来、スラグの固結はアルカリ剤による潜在水硬性によるものと考えられていた。それに対し、本発明者らは微粒子スラグが、中性シリカゾル、または、同じくほぼ中性領域のpHである石膏と反応して固結することを見出し、また、スラグに石膏と中性シリカゾルを加えるとスラグは石膏によって固化し、中性シリカゾルによってゲル化することを見出した。また、この場合、石膏は中性であることからゲル化が安定して、長いゲル化時間で安定した固結が可能であることが分かった。
【0032】
(2)スラグと中性シリカゾルと石膏に、さらに、消石灰等のアルカリ剤を加えた場合は、消石灰のアルカリによって高強度が得られ、その配合液は安定した挙動を示し、長いゲル化時間で安定した固結を示すことが分かった。その理由は、石膏も中性シリカゾルも中性を呈し、中性シリカゾルと石膏は反応がゆるやかで、かつ、消石灰がスラグとの反応に用いられ、中性シリカゾルがゲル化に作用することにあると思われる。
【0033】
また、消石灰を含むこのグラウトの固結原理は、消石灰のアルカリがスラグの潜在水硬性を刺激して固結することと、中性シリカゾルによりゲル化が可能となる点にある。さらに、中性シリカゾルは、消石灰とは不均質なゲルを直ちに生ずるが、スラグと混合されておりその使用量もスラグの半分以下であるため、直ちに不均質なゲルを形成することなく、長いゲル化時間で均質なゲル化を生じさせるという特徴がある。さらにまた、従来の中性シリカゾル-スラグ-セメントに比べて、セメントではなく消石灰を用いることで初期の固結が不安定である問題を、石膏を加えることにより安定化することができる。その理由は、セメントは消石灰に比べるとそれ自体で固化するが、消石灰はそれ自体では固化せず、スラグにアルカリを供給して、スラグを固結させる効果がある点と、石膏はほとんど中性でスラグにアルカリを供給しないが、それ自体で自硬性があるため、本発明における初期からの固結の安定性に効果をもたらしている点にあると思われる。また、本発明における中性シリカゾルの作用は、それ自体はアルカリを含まないため、スラグの潜在水硬性を刺激する効果はないが、スラグ-消石灰-石膏による安定した強度発現をする構成分にゲル化する機能を加えることにより、地盤注入にあたって地盤中で懸濁液が分散することなく、ゲル化により互いに連結しあって固結することに役立っているものと思われる。
【0034】
本発明の地盤固結材の例について、以下に説明する。下記条件を満足する地盤固結材を、後述の実験例において用いた。
スラグ;
比重2.9、ブレーン比表面積4000cm/g以上、好ましくは20000cm/g以下、水硬率0.9~2.0、塩基度1.9~2.9。
鉄鋼スラグ、ステンレススラグ、フェロアロイスラグ等である。スラグは、微細化された微粒子スラグであってもよい。
石膏;
比重2.76。
消石灰;
比重2.2(微粒子消石灰を用いても同様の結果が得られる)。
重曹;
比重2.2。
水酸化マグネシウム;
比重2.35。
【0035】
本発明の地盤固結材には、ゲル化調整剤を含有させることができる。
【0036】
ゲル化調整剤またはアルカリ剤としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の重炭酸塩、炭酸塩や消石灰、セメント、水ガラス等を挙げることができる。その他、リン酸塩、酸性リン酸塩、ピロリン酸塩等が挙げられる。スラグは、石膏等を混合したスラグでもよい。さらに、これらとスラグの混合物は、混合前にブレーン比表面積が約4000cm/g以上となるように粉砕されたスラグを混合したものでも、ある程度粉砕されたスラグを混合し、さらにブレーン比表面積が約4000cm/g以上になるまで粉砕したものでもよい。さらに、懸濁液として微粒子状のものを分級して、微粒子懸濁液として使用することもできる。
【0037】
また、増粘剤を加えてもよく、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0038】
本発明においては、アルカリ剤として、消石灰を含有することが好ましく、消石灰以外のアルカリ剤または難溶性アルカリ剤を含有することも好ましい。難溶性アルカリ剤としては、マグネシウムやカルシウムの水酸化物、酸化物、炭酸塩等を挙げることができ、その他、CaSO、BaSO、CaCO、MgSO、Fe(OH)、Al(OH)等の難溶性塩が挙げられる。
【0039】
地盤固結材が消石灰を含む場合、スラグおよび消石灰のブレーン比表面積が4000cm/g~20000cm/gであることが好ましい。
【0040】
スラグや消石灰の微粒子化を行うために、加圧した粉末同士をチャンバー内で斜向衝突させることにより、分散粉砕を行うことができる。装置としては、例えば、スギノマシン社製のスターバーストラボを用いることができる。
【0041】
地盤固結材において、中性シリカゾルの配合量は、地盤固結材(グラウト)1000L当たり10~300gが好ましく、これ以上多くすると溶液型グラウトのホモゲルに近い弾力性を有するゲルとなり、強度上昇はほとんど見られない。また、スラグまたはこれらの混合物の配合量は、グラウト1000L当たり20~600gが好ましく、これより少ないと固結材の強度が小さく、これ以上多くなると液の粘性が高くなって、凝固時間も長くすることができなくなる。
【0042】
また、本発明の地盤固結材において、ゲル化調整剤を配合する場合には、その配合量は、ゲル化調整剤の種類、他の成分組成等により一概に規定することは難しいが、一般には、全配合液中の10質量%以下が好ましい。
【0043】
(1)中性シリカゾル
水ガラスを陽イオン交換樹脂で処理することによりアルカリの大部分を除去して得られた、表1に示す組成の中性シリカゾルを使用することができる。
【0044】
【表1】
【0045】
(2)スラグ
表2に示す2種類のスラグを使用することができ、これらはそれぞれ粉砕度を異にして使用してもよい。
【0046】
【表2】
【0047】
(3)ゲル化調整剤
代表的なゲル化調整剤として、炭酸水素ナトリウム(試薬:NaHCO)を使用することができる。他のゲル化調整剤でも添加量による差はあるがゲル化調整効果を示すものの、重炭酸のアルカリ金属塩または炭酸のアルカリ金属塩により、特に優れた効果が得られる。また、重炭酸のアルカリ金属塩と炭酸のアルカリ金属塩は、ほとんど同じ効果を示す。さらに、ゲルタイム遅延剤としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩、重炭酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、ピロリン酸塩等が挙げられる。
さらに、ポゾラン、粘土を用いることもでき、ブリーディング率を減少させる効果が高い。ポゾラン、粘土および塩のうちのいずれか一種または複数種を含むことでゲル化および強度を調整することができる。
【0048】
(4)石膏
一方、ゲル化促進剤としては、消石灰や石膏を用いることができるが、消石灰は不均質なゲルが生じやすい。それに対して、石膏はそれ自体ほとんど中性であるため、pHの変化が生じず、添加量に対応してゲルタイムを短縮することができるので、地盤条件、施工法に対して効果的に配合を調整することができる。また、石膏には無水石膏と半水石膏があり、いずれを用いた場合も同様な結果が得られる。さらに、産業廃棄物になる廃石膏を用いることもでき、環境リサイクルに貢献することができる。
【0049】
以下に、本発明の実験例を示す。なお、これらの実験例は本発明の一例に過ぎず、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
【0050】
下記実験では、ブレーン比表面積8000cm/gのスラグを使用した。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表3に、実験例1~18の配合とゲルタイム、ブリーディング率、一軸圧縮強度、pHを示す。
【0054】
・ゲルタイム試験
混合直後の薬液250mLをビニール袋に密封し、静置したままゲルタイムを測定した。ビニール袋を静かに傾けた後、静かに元の状態に戻して、このとき、懸濁部分の2/3が移動しなくなった時点をゲルタイムとした。
【0055】
・ブリーディング試験
混合直後の薬液400mLをグラウト袋に封入し、3時間後および1日後にブリーディング量を測定した。
【0056】
・強度試験
混合直後の薬液800mLをグラウト袋に封入し、供試体を5cm×10cmに切り出し、材令7日で強度試験を行った。
【0057】
(結果)
・ゲルタイムおよびブリーディング率
消石灰を増加させるとゲルタイムが長くなり、ブリーディング率が減少する。
さらに石膏を加えるとブリーディング率が減少し、消石灰と同量程度加えるとゲルタイムとブリーディング率が減少する。(実験例No.1~3)
【0058】
実験例1,2,3,4では、ゲル化しても不安定であるため、強度が発現しなかった。
実験例5では、石膏と消石灰を併用すると、実験例4に比べてゲルタイムが短くなり、ブリーディング率が減少し、強度は実験例12と同等であることがわかった。
実験例6では、実験例5の石膏量を増加させたところ、増加させるとゲルタイムが短くなり、ブリーディング率は減少し、強度はやや減少することがわかった。
実験例7では、実験例5の消石灰を増加させた。ゲルタイムが延びたが強度は減少した。
実験例3,8では、中性シリカゾルを増加させるとゲルタイムとブリーディング率が減少することがわかった。
実験例8では、中性シリカゾルが多いためゲルタイムが1秒となり、瞬結配合になった。瞬結配合のため、ブリーディング率はほぼ0であった。
実験例9,10,11は、スラグと石膏のみの配合である。石膏量を多くすればゲルタイムは短くなり、ブリーディングの量も減少した。しかし、ゲル化しても強度が発現しなかった。
実験例12,13は、中性シリカゾルとスラグと石膏の組合せである。石膏量を5kg/400L当たり増加させた場合は、ほぼゲルタイムと強度の変化はないが、ブリーディング率は減少した。
実験例14,15は、実験例12,13のスラグ量を増加させた配合である。この場合も石膏量を5kg/400L当たり増加させた場合は、ほぼゲルタイムの変化はないが、ブリーディング率は減少し、強度は増加した。
実験例16,17,18では、中性シリカゾルの量を増加させ、石膏の量を変化させた。中性シリカゾルを増加させるとゲルタイムが伸び、ブリーディング率は減少した。実験例18では、石膏量が多かったため強度が低下している。
実験例19は、実験例12に重曹を併用して配合した結果である。実験例12よりもわずかにゲルタイムが長くなり、ブリーディング率と強度は同様であった。
実験例20は、実験例12に水酸化マグネシウムを配合した結果である。実験例12よりもわずかにゲルタイムが早くなり、ブリーディング率と強度は同等であった。
【0059】
試験の結果、中性シリカゾルとスラグと石膏の組合せでは、ゲルタイムとブリーディング率が良化し、さらには強度の発現を確認できた。また、消石灰を石膏と同等程度の量で使用した場合、強度は消石灰抜きと同程度であった。よって、消石灰はゲルタイムとブリーディングに影響を与えることが分かった。
また、実験例19,20より、炭酸塩や難溶性アルカリ剤を併用してもよいことが分かった。
【0060】
(溶液型非アルカリ性シリカゲル化物と本発明に係る懸濁型固結物との相性試験)
(試験方法)
(1)前述の実験例に用いた本発明の懸濁型注入材を調製し、600ml容器に200mlを入れ硬化させる。
(2)硬化が確認されてから、1週間放置した後、ブリーディング水を取り除き、非アルカリシリカグラウトを(1)の上層に200ml載せて硬化させる。
【0061】
溶液型シリカグラウトとしては、1)酸性シリカゾルグラウト、2)イオン交換法のシリカグラウト、3)金属珪素から製造されたシリカによるシリカグラウトを用いた。
【0062】
(試験結果)
いずれの溶液型グラウトも、2か月後も溶解することなくゲル化状態を維持した(図1)。
【0063】
なお、上記実験において本発明の懸濁型注入材以外の水ガラス-セメントや低モル比水ガラス、苛性ソーダを含むスラグ系懸濁液の固結体を用いた場合、溶液型のシリカグラウトは1か月以内にほとんど溶解した。
【0064】
以上より、本発明の懸濁型注入材を地盤中に注入後、非アルカリシリカグラウトを重ね合わせて注入することにより、懸濁型グラウトが土粒子間で浸透しきれなかった細粒土部分に浸透固結して、一体化して止水性のある固結体を形成することがわかった。
【0065】
また、非アルカリ性シリカグラウトを注入した領域と本発明の懸濁型注入材を注入した領域を隣接させて注入しても、注入領域において粗い土壌に本発明の懸濁型注入材を注入し、細かい層に非アルカリ性シリカグラウトを注入しても、耐久性のある地盤改良を行えることがわかった。
【0066】
本発明においては、金属珪素から製造されたシリカを用いることもできる。なお、効果についても、同様の結果が得られた。
【0067】
また、本発明においては、超音波発生装置を併用することで、上記シリカ材をさらに微細に粉砕して用いたり、浸透性を良くすることもできる。さらに、注入材に、カチオン系、アニオン系、非イオン系などの界面活性剤、特には、気泡発生効果のある界面活性剤を併用することや、分散剤(花王ケミカル社製のマイティ150など)を併用することによっても、浸透性を良くすることができる。さらに、高圧ポンプ攪拌によって微細化することもできる(例えば、スギノマシン製のスターバースト(湿式微粒子化装置))。さらにまた、マイクロ・ナノバブル製造装置を用いて、シリカ材を粉砕微細化すると同時にマイクロ・ナノバブルの作用で浸透性をよくすることもできる。
【0068】
具体的には、本発明の地盤固結材においては、下記(1)~(3)のうちのいずれか1つ以上の条件を満足することで、懸濁粒子の凝集が低減され、浸透性が向上されているものとすることができる。
(1)地盤固結材が分散剤、または、界面活性剤を含む。
(2)地盤固結材がマイクロ・ナノバブルを含有する。
(3)地盤固結材に超音波が照射されている。
【0069】
本発明においては、あらかじめ1次注入材を注入した地盤に、2次注入材として上記地盤固結材を注入することが好ましい。例えば、1次注入としてセメント・ベントナイトを用い、2次注入として上記地盤固結材を重ねて注入して、2次注入材の注入領域外への逸脱を低減することができる。
【0070】
以上の手法によって、地盤の均質化を図って注入地盤を拘束したうえで、大きな注入孔間隔でも所定の範囲外へ逸脱することなく所定の注入量に相当する固結体を形成することができる。
【0071】
本発明の地盤固結材は、主に地盤の止水性向上、強度増大、液状化防止に適し、大きな吐出量の固結材を、孔壁周囲の地盤中に低圧力で広範囲かつ均一に浸透注入させることができる。本発明は、不均質地盤でも大きな固結径でかつ所定範囲以外への逸脱を低減し、経済的で確実に地盤改良を実施することができる。
【0072】
本発明の地盤注入工法は、上記本発明の地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結することを特徴とするものである。
【0073】
本発明の地盤固結材は、地盤改良(補強)、液状化防止、耐震補強、住宅持ち上げなどに、幅広く適用できる。

図1
【手続補正書】
【提出日】2023-02-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性シリカゾルと、スラグと、石膏と、を含有し、セメントおよび消石灰を含有しない懸濁型の地盤固結材であって、
前記スラグのブレーン比表面積が、4000cm/g以上20000cm /g以下であることを特徴とする地盤固結材。
【請求項2】
アルカリ剤として、消石灰以外のアルカリ剤または難溶性アルカリ剤を含有する請求項1記載の地盤固結材。
【請求項3】
前記スラグのブレーン比表面積が4000cm/g~20000cm/gであって、前記中性シリカゾルの、pHが8.0~10.5、SiO濃度が10~60質量%、NaO濃度が0.01~4質量%である請求項記載の地盤固結材。
【請求項4】
ゲル化調整剤を含有する請求項1記載の地盤固結材。
【請求項5】
ポゾラン、粘土および塩のうちのいずれか一種または複数種を含む請求項1記載の地盤固結材。
【請求項6】
下記(1)~(3)のうちのいずれか1つ以上の条件を満足する請求項1記載の地盤固結材。
(1)前記地盤固結材が分散剤、または、界面活性剤を含む。
(2)前記地盤固結材がマイクロ・ナノバブルを含有する。
(3)前記地盤固結材に超音波が照射されている。
【請求項7】
前記中性シリカゾルが、イオン交換法により得られたシリカゾル、および、金属珪素から製造されたシリカゾルの中から選ばれた一種または複数種である請求項1記載の地盤固結材。
【請求項8】
前記スラグが、微細化された微粒子スラグである請求項1記載の地盤固結材。
【請求項9】
請求項1~のうちいずれか一項記載の地盤固結材を地盤に注入して、該地盤を固結することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項10】
あらかじめ1次注入材を注入した地盤に、2次注入材として前記地盤固結材を注入する請求項記載の地盤注入工法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
すなわち、本発明の地盤固結材は、中性シリカゾルと、スラグと、石膏と、を含有し、セメントおよび消石灰を含有しない懸濁型の地盤固結材であって、
前記スラグのブレーン比表面積が、4000cm/g以上20000cm/g以下であることを特徴とするものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
本発明の地盤固結材は、アルカリ剤として、消石灰以外のアルカリ剤または難溶性アルカリ剤を含有することが好ましい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
また、本発明の地盤固結材においては、前記スラグのブレーン比表面積が4000cm/g~20000cm/gであって、前記中性シリカゾルの、pHが8.0~10.5、SiO濃度が10~60質量%、NaO濃度が0.01~4質量%であることが好ましい。