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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074602
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/08 20060101AFI20240524BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240524BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240524BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A01N43/08 C
A01P1/00
A01P3/00
A01N43/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185878
(22)【出願日】2022-11-21
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】徳本 健人
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB08
(57)【要約】
【課題】天然由来成分又はその等価物を有効成分として含んだ新規な抗菌剤を提供する。
【解決手段】本発明の抗菌剤は、ヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールの少なくとも一方を含む。この抗菌剤は、例えば、枯草菌、大腸菌及び緑膿菌の1以上の増殖を抑制するための抗菌剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールの少なくとも一方を含んだ抗菌剤。
【請求項2】
黄色ブドウ球菌、枯草菌、大腸菌及び緑膿菌の1以上の増殖を抑制するための請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
ヒドロキシメチルフルフラールを含んだ請求項2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
マルトールを含んだ、大腸菌及び緑膿菌の1以上の増殖を抑制するための請求項1に記載の抗菌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤は、様々な物品において使用されている。例えば、特許文献1及び2には、抗菌剤を添加した芳香消臭剤が記載されている。また、特許文献3には、ラクトン系香料又はケトン系香料を含んだ水性芳香性組成物において、菌類及び/又は真菌類の増殖を防止するために有機ヨード系防腐剤を使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-113392号公報
【特許文献2】特開2003-190264号公報
【特許文献3】特開2010-104765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、人々の健康意識が高まっており、環境負荷低減への意識も高まっている。そこで、本発明は、天然由来成分又はその等価物を有効成分として含んだ新規な抗菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によると、ヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールの少なくとも一方を含んだ抗菌剤が提供される。
本発明の他の側面によると、黄色ブドウ球菌、枯草菌、大腸菌及び緑膿菌の1以上の増殖を抑制するための上記側面に係る抗菌剤が提供される。
本発明の更に他の側面によると、ヒドロキシメチルフルフラールを含んだ上記側面の何れかに係る抗菌剤が提供される。
本発明の更に他の側面によると、マルトールを含んだ、大腸菌及び緑膿菌の1以上の増殖を抑制するための上記側面の何れかに係る抗菌剤が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、天然由来成分又はその等価物を有効成分として含んだ新規な抗菌剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0008】
本発明者は、天然由来成分を有効成分として含んだ新規な抗菌剤を得るべく、天然由来の化合物について、それらの抗菌性を調べた。その結果、植物に由来する化合物であるヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールは、優れた抗菌性を示すこと、特には、大腸菌及び緑膿菌を含む2種以上の菌に対して優れた抗菌性を示すことを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0009】
本実施形態に係る抗菌剤は、ヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールの少なくとも一方を含んでいる。この抗菌剤は、細菌及び真菌の少なくとも一方の増殖を抑制するために使用する。この抗菌剤は、好ましくは、黄色ブドウ球菌、枯草菌、大腸菌及び緑膿菌の1以上の増殖を抑制するために使用する。
【0010】
ヒドロキシメチルフルフラールは、炭水化物や糖の熱分解によって生じる揮発性の有機化合物である。ヒドロキシメチルフルフラールは、5-(ヒドロキシメチル)-2-フルアルデヒドと呼ばれることもある。ヒドロキシメチルフルフラールは、例えば、メイラード反応によって生じ、コーヒー、キャラメル及びドライフルーツなどの食品に多く含まれている。ヒドロキシメチルフルフラールは、例えば、グルコースやフルクトースなどの糖から製造することが可能である。ヒドロキシメチルフルフラールは、グラム陰性菌及びグラム陽性菌の双方に対して優れた抗菌性を示し得る。例えば、ヒドロキシメチルフルフラールは、黄色ブドウ球菌、枯草菌、大腸菌及び緑膿菌に対して優れた抗菌性を示す。
【0011】
マルトールは、カツラの葉等に含まれている揮発性の有機化合物である。マルトールは、3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン、パラトン、ベルトール又はラリキシン酸と呼ばれることもある。マルトールは、例えば、カツラの葉からの抽出及び精製等を含む方法によって得ることができる。また、マルトールは、糖類の熱分解によっても生じ得る。マルトールとしては、これら天然由来成分に加え、その等価物も使用することができる。例えば、マルトールは、1-(フラン-2-イル)エタン-1-オールとメタノールとを原料として用いた有機電解合成法によって工業的に製造することも可能である。マルトールは、香料や食品添加物として用いられている。マルトールは、グラム陰性菌に対して優れた抗菌性を示し得る。例えば、マルトールは、大腸菌及び緑膿菌に対して優れた抗菌性を示す。
【0012】
ヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールは、各々を単独で使用してもよく、それらを組み合わせて使用してもよい。
【0013】
本実施形態の抗菌剤は、ヒドロキシメチルフルフラール及びマルトール以外の抗菌成分を更に含んでいてもよい。また、この抗菌剤は、溶媒及び香料などの抗菌成分以外の成分を更に含んでいてもよい。
【0014】
抗菌剤が溶媒等を更に含んでいる場合、抗菌剤におけるヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールの合計の濃度は、2g/L以上であることが好ましく、5g/L以上であることがより好ましい。抗菌剤におけるヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールの合計の濃度は、例えば、100g/L以下である。
【0015】
抗菌剤がヒドロキシメチルフルフラールを含んでいる場合、抗菌剤におけるヒドロキシメチルフルフラールの濃度は、2g/L以上であることが好ましく、5g/L以上であることがより好ましい。抗菌剤におけるヒドロキシメチルフルフラールの濃度は、例えば、100g/L以下である。
【0016】
上記のように、ヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールは、2種以上の菌に対して優れた抗菌性を示す。また、ヒドロキシメチルフルフラール及びマルトールは、何れも天然由来の化合物であり、食品等に含まれている。人々の健康意識が高まっており、環境負荷低減への意識も高まっているなか、これらの特徴は、抗菌剤へ又は物品に抗菌剤を支持させてなる抗菌物品へ高い訴求力を付与する。
【実施例0017】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
【0018】
(1)試験1
以下の試験試料について、ハロー試験法により抗菌効果を検証した。
(1.1)試験試料
以下の2つの試験試料を準備した。
・マルトール含有液
・ソホリジン含有液
ここで、マルトール含有液は、マルトールを40mg/mLの濃度で含んだジメチルスルホキシド溶液である。また、ソホリジン含有液は、ソホリジンを40mg/mLの濃度で含んだジメチルスルホキシド溶液である。
【0019】
(1.2)試験微生物
試験には、以下の菌を使用した。
・Escherichia coli NBRC 3972(大腸菌)
・Staphylococcus aureus NBRC 12732(黄色ブドウ球菌)
・Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275(緑膿菌)
・Bacillus subtilis NBRC 3134(枯草菌)
【0020】
(1.3)試験方法
試験は、以下の手順で行った。
先ず、菌体の各々について、普通ブイヨン培地を使用し、37℃の温度条件下で24時間に亘る培養を行って、生菌数が10乃至10cfu/mLの菌液を準備した。生菌数は、希釈系列を作製し、濁度計を使用して測定した。
【0021】
次に、これら菌液100μLを、それぞれ、標準寒天培地へ塗抹した。次いで、これら培地上へ直径が6mmのペーパーディスクを静置した。続いて、これらペーパーディスクへ、試験試料15μLをそれぞれ含浸させた。
【0022】
次いで、寒天培地を収容したシャーレを密閉し、これらについて、37℃の温度条件下で24時間に亘る培養を行った。
【0023】
その後、ペーパーディスクの周りに生育阻止帯を生じているか確認し、生育阻止帯を生じていた場合は、その幅を測定した。生育阻止帯の幅は、生育阻止円の直径を計測し、この直径とペーパーディスクの直径との差を2で除することにより算出した。
【0024】
(1.4)結果
上記試験の結果を、以下の表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1に示すように、マルトールは、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌及び枯草菌に対しては抗菌効果を示さなかったものの、グラム陰性菌である大腸菌及び緑膿菌に対しては抗菌効果を示した。これに対し、ソホリジンは、黄色ブドウ球菌、枯草菌、大腸菌及び緑膿菌の何れに対しても抗菌効果を示さなかった。
【0027】
(2)試験2
以下の試験試料について、最小発育阻止濃度測定法により抗菌効果を検証した。
(2.1)試験試料
本試験では、試験試料としてヒドロキシメチルフルフラールを使用した。
【0028】
(2.2)試験微生物
試験には、以下の菌を使用した。
・Escherichia coli NBRC 3972(大腸菌)
・Staphylococcus aureus NBRC 12732(黄色ブドウ球菌)
・Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275(緑膿菌)
・Bacillus subtilis NBRC 3134(枯草菌)
【0029】
(2.3)試験方法
試験は、以下の手順で行った。
先ず、普通ブイヨン培地を使用し、37℃の温度条件下で24時間に亘って菌体を培養して、生菌数を10cfu/mLに調整した菌液を準備した。生菌数は、希釈系列を作製し、濁度計を使用して測定した。
【0030】
次に、1%のTween 80水溶液をミューラーヒントンブロス(MHB)液体培地へ溶かし、この溶液を5mLずつ滅菌済みの空の試験管6本に加えた。1本目の試験管には、上記の溶液4.9mLを更に加えた。そして、これに試験試料0.1gを加えて、試料濃度が1%の試料溶液を得た。2乃至6本目の試験管については、倍々希釈を行って、試料濃度がそれぞれ0.5%、0.25%、0.125%、0.0625%及び0.003125%の試料溶液を得た。
【0031】
次に、24ウェルプレートの各ウェルへ菌液10μLを加えた。次いで、これらウェルへ上記の試料溶液を1mLずつ加えた。ここでは、同一列内のウェルには同一の試料溶液を加え、列間でウェルに加える試料溶液の試料濃度を異ならしめた。
【0032】
続いて、37℃で24時間に亘る振盪培養を行った。その後、ウェル内の液に濁りを生じたか確認した。そして、濁りが見られなかった最小試料濃度を最小発育阻止濃度(MIC)とした。
【0033】
(2.4)結果
上記試験の結果を、以下の表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示すように、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、グラム陰性菌である大腸菌及び緑膿菌に対しては抗菌効果を示したのに加え、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌及び枯草菌に対しても抗菌効果を示した。また、ヒドロキシメチルフルフラールは、緑膿菌に対しては、黄色ブドウ球菌、枯草菌及び大腸菌と比較して、より低い濃度で抗菌効果を示した。