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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074634
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】操舵制御装置及び操舵制御方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240524BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240524BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240524BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240524BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20240524BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240524BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185924
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石原 敦
(72)【発明者】
【氏名】外山 英次
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC03
3D232CC46
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA09
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DC08
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD17
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC14
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD09
3D333CE47
3D333CE52
(57)【要約】
【課題】車両操縦性の悪化を抑えることができる操舵制御装置及び操舵制御方法を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、ハンドル角とピニオン角との関係を変更可能に構成されているステアバイワイヤ式の車両用の操舵装置を制御する。操舵制御装置は、反力制御処理と、転舵制御処理と、調整処理とを実行するように構成されている。反力制御処理は、反力トルクを付与するように、反力モータの動作を制御する反力制御部の処理である。転舵制御処理は、転舵トルクを付与するように、転舵モータの動作を制御する転舵制御部の処理である。調整処理は、転舵制御部のオフセット成分演算処理部及びオフセット反映処理部の処理である。反力制御部は、上記調整処理によって目標ピニオン角θp*が調整される間、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大するなかで急変することが推定される場合、反力トルクを増大させる処理を実行する機能補償軸力成分演算部を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵装置を制御する操舵制御装置であって、
前記操舵装置は、操作部材を有する操作ユニットと転舵輪を転舵させるように構成される転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有することによって、前記操作部材の操作位置と前記転舵輪の転舵位置との関係を変更可能に構成されており、
前記操作ユニットは、前記操作部材に対する運転者の操作に抗する反力トルクを発生させる反力モータを含み、
前記転舵ユニットは、前記転舵輪を転舵させるための転舵トルクを発生させる転舵モータを含み、
前記操舵制御装置は、反力制御処理と、転舵制御処理と、調整処理とを実行するように構成され、
前記反力制御処理は、前記操作部材に対して前記反力トルクを付与するように、前記反力モータの動作を制御するための処理であり、
前記転舵制御処理は、前記転舵輪に対して前記転舵トルクを付与するように、前記転舵モータの動作を制御するための処理であり、
前記調整処理は、前記転舵モータの動作を制御するための転舵トルク操作量を調整するための処理であり、
前記転舵トルク操作量は、前記操作位置に応じた前記転舵位置を実現するために、前記転舵モータに発生させる前記転舵トルクを示す操作量であって、前記操作位置の変化に対応するように前記転舵制御処理を通じて更新される操作量であり、
前記反力制御処理は、前記調整処理によって前記転舵トルク操作量が調整される間、前記転舵トルク操作量が調整されない間よりも前記反力トルクを増大させるための処理を含む操舵制御装置。
【請求項2】
前記転舵制御処理は、
前記操作位置に基づいて目標転舵位置を更新するように演算する目標転舵位置演算処理と、
フィードバック処理によって前記転舵位置を前記目標転舵位置に制御するための操作量である前記転舵トルク操作量を演算する転舵トルク操作量演算処理と、を含み、
前記調整処理は、前記目標転舵位置の調整を通じて前記転舵トルク操作量を調整する処理である請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記調整処理は、
前記目標転舵位置が更新される際の更新成分の絶対値を小さくずらすためのオフセット成分を演算する処理と、
前記オフセット成分を前記目標転舵位置から減算し、かつ、当該オフセット成分の少なくとも一部であるリリース成分を前記目標転舵位置に加算するオフセット反映処理と、を含む請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記反力トルクを増大させるための処理は、前記調整処理によって前記転舵トルク操作量が調整される間であることを示す調整中条件が成立する場合に有効になる処理であり、
前記調整中条件は、前記目標転舵位置演算処理によって更新された前記目標転舵位置の値が増加又は減少する条件、及び、前記オフセット反映処理によって前記リリース成分が反映された前記目標転舵位置の値が増加又は減少する条件を含む請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記操作位置と前記転舵位置との関係は、前記操作位置の変化量に対する前記転舵位置の変化量の比が1よりも大きくなるように変更される前提で、
前記調整中条件は、前記更新成分の正負符号と前記オフセット成分の正負符号とが、互いに同一となる条件を含む請求項4に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
操作部材を有し、かつ、前記操作部材に対する運転者の操作に抗する反力トルクを発生させる反力モータを含む操作ユニットと転舵輪を転舵させるための転舵トルクを発生させる転舵モータを含む転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有することによって、前記操作部材の操作位置と前記転舵輪の転舵位置との関係を変更可能に構成された車両の操舵装置を制御する操舵制御方法であって、
前記操舵制御方法は、反力制御処理と、転舵制御処理と、調整処理とを実行することを含み、
前記反力制御処理は、前記操作部材に対して前記反力トルクを付与するように、前記反力モータの動作を制御するための処理であり、
前記転舵制御処理は、前記転舵輪に対して前記転舵トルクを付与するように、前記転舵モータの動作を制御するための処理であり、
前記調整処理は、前記転舵モータの動作を制御するための転舵トルク操作量を調整するための処理であり、
前記転舵トルク操作量は、前記操作位置に応じた前記転舵位置を実現するために、前記転舵モータに発生させる前記転舵トルクを示す操作量であって、前記操作位置の変化に対応するように前記転舵制御処理を通じて更新される操作量であり、
前記反力制御処理は、前記調整処理によって前記転舵トルク操作量が調整される間、前記転舵トルク操作量が調整されない間よりも前記反力トルクを増大させるための処理を含む操舵制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置及び操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される操舵装置には、ステアバイワイヤ式の操舵装置がある。例えば、特許文献1に記載されるように、こうした操舵装置を制御する操舵制御装置は、操舵角に応じた転舵角を実現するための転舵トルク操作量に基づいて、転舵輪を転舵させるための制御を実行する。操舵角は、ステアリングホイールの回転位置である。転舵角は、転舵輪の転舵位置である。ここで、転舵トルク操作量は、操舵角と転舵角との関係の乖離が存在する場合に、当該乖離を小さくすることを目的とした調整処理が施される。
【0003】
より詳しくは、調整処理は、上記乖離を一旦、留保させた後、車両又は操舵装置の状態に応じて上記乖離を徐々にリリースする態様で実施される。これにより、転舵トルク操作量は、上記乖離が留保される間、当該乖離に対応する分だけ本来の操作量に対してずれを生じる。その後、転舵トルク操作量は、上記乖離が徐々にリリースされるなかで、本来の操作量に徐々に近付くことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-037763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記転舵トルク操作量は、上記乖離が徐々にリリースされる間も、操舵角の変化に対応して更新される。そのため、上記転舵トルク操作量には、更新に伴う更新成分と上記乖離のリリースに伴うリリース成分とが重畳される。この場合、上記転舵トルク操作量は急変を伴い得る。これは、操舵角と転舵角との関係を変更可能にする場合、車両操縦性の悪化の原因になり得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、車両の操舵装置を制御する。前記操舵装置は、操作部材を有する操作ユニットと転舵輪を転舵させるように構成される転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有することによって、前記操作部材の操作位置と前記転舵輪の転舵位置との関係を変更可能に構成されており、前記操作ユニットは、前記操作部材に対する運転者の操作に抗する反力トルクを発生させる反力モータを含み、前記転舵ユニットは、前記転舵輪を転舵させるための転舵トルクを発生させる転舵モータを含む。前記操舵制御装置は、反力制御処理と、転舵制御処理と、調整処理とを実行するように構成され、前記反力制御処理は、前記操作部材に対して前記反力トルクを付与するように、前記反力モータの動作を制御するための処理であり、前記転舵制御処理は、前記転舵輪に対して前記転舵トルクを付与するように、前記転舵モータの動作を制御するための処理であり、前記調整処理は、前記転舵モータの動作を制御するための転舵トルク操作量を調整するための処理であり、前記転舵トルク操作量は、前記操作位置に応じた前記転舵位置を実現するために、前記転舵モータに発生させる前記転舵トルクを示す操作量であって、前記操作位置の変化に対応するように前記転舵制御処理を通じて更新される操作量であり、前記反力制御処理は、前記調整処理によって前記転舵トルク操作量が調整される間、前記転舵トルク操作量が調整されない間よりも前記反力トルクを増大させるための処理を含む。
【0007】
また、上記課題を解決し得る操舵制御方法は、操作部材を有し、かつ、前記操作部材に対する運転者の操作に抗する反力トルクを発生させる反力モータを含む操作ユニットと転舵輪を転舵させるための転舵トルクを発生させる転舵モータを含む転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有することによって、前記操作部材の操作位置と前記転舵輪の転舵位置との関係を変更可能に構成された車両の操舵装置を制御する方法である。前記操舵制御方法は、反力制御処理と、転舵制御処理と、調整処理とを実行することを含み、前記反力制御処理は、前記操作部材に対して前記反力トルクを付与するように、前記反力モータの動作を制御するための処理であり、前記転舵制御処理は、前記転舵輪に対して前記転舵トルクを付与するように、前記転舵モータの動作を制御するための処理であり、前記調整処理は、前記転舵モータの動作を制御するための転舵トルク操作量を調整するための処理であり、前記転舵トルク操作量は、前記操作位置に応じた前記転舵位置を実現するために、前記転舵モータに発生させる前記転舵トルクを示す操作量であって、前記操作位置の変化に対応するように前記転舵制御処理を通じて更新される操作量であり、前記反力制御処理は、前記調整処理によって前記転舵トルク操作量が調整される間、前記転舵トルク操作量が調整されない間よりも前記反力トルクを増大させるための処理を含む。
【0008】
上記構成及び上記方法によれば、転舵トルク操作量には、調整処理による調整がされる間、当該調整に伴う調整成分と、転舵制御処理を通じた更新に伴う更新成分とが重畳される。これに対して、操作部材に付与される反力トルクは、調整処理によって転舵トルク操作量が調整される間、当該転舵トルク操作量が調整されない間よりも増大する。これにより、調整処理によって転舵トルク操作量が調整される間、運転者が操作部材を操作する際の当該操作部材の急変が抑えられる。したがって、更新成分の急変を抑えることができるので、転舵トルク操作量の急変が抑えられる。これは、操作部材の操作位置と転舵輪の転舵位置との関係を変更可能にする場合、車両操縦性の悪化を抑えるのに効果的である。
【0009】
上記操舵制御において、前記転舵制御処理は、前記操作位置に基づいて目標転舵位置を更新するように演算する目標転舵位置演算処理と、フィードバック処理によって前記転舵位置を前記目標転舵位置に制御するための操作量である前記転舵トルク操作量を演算する転舵トルク操作量演算処理と、を含み、前記調整処理は、前記目標転舵位置の調整を通じて前記転舵トルク操作量を調整する処理であることが好ましい。
【0010】
例えば、調整処理は、目標転舵位置の絶対値を本来の絶対値に対して減少させる等の対処を可能にする。ただし、調整処理された目標転舵位置を本来の目標転舵位置に復帰させる際に、目標転舵位置の急変を伴い得る。目標転舵位置の急変は、転舵トルク操作量の急変に繋がる。これに対して、上記構成は、調整処理された目標転舵位置を本来の目標転舵位置に復帰させる際にも、転舵トルク操作量の急変を抑えるのに効果的である。
【0011】
上記操舵制御装置において、前記調整処理は、前記目標転舵位置が更新される際の更新成分の絶対値を小さくずらすためのオフセット成分を演算する処理と、前記オフセット成分を前記目標転舵位置から減算し、かつ、当該オフセット成分の少なくとも一部であるリリース成分を前記目標転舵位置に加算するオフセット反映処理と、を含むことが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、調整処理された目標転舵位置は、オフセット反映処理によって本来の目標転舵値に復帰することになる。これにより、オフセット反映処理によってリリース成分が反映される際に、目標転舵位置の急変を伴い得る。これに対して、上記構成は、オフセット反映処理によってリリース成分が反映される際にも、目標転舵位置、すなわち転舵トルク操作量の急変を抑えるのに効果的である。
【0013】
上記操舵制御装置において、前記反力トルクを増大させるための処理は、前記調整処理によって前記転舵トルク操作量が調整される間であることを示す調整中条件が成立する場合に有効になる処理であり、前記調整中条件は、前記目標転舵位置演算処理によって更新された前記目標転舵位置の値が増加又は減少する条件、及び、前記オフセット反映処理によって前記リリース成分が反映された前記目標転舵位置の値が増加又は減少する条件を含むことが好ましい。
【0014】
上記構成は、調整処理によって目標転舵位置が調整される間における目標転舵位置の絶対値が増加又は減少することの好適な推定を可能にする。これは、転舵トルク操作量が急変する状況を検出するのに効果的である。
【0015】
上記操舵制御装置において、前記操作位置と前記転舵位置との関係は、前記操作位置と前記転舵位置との関係は、前記操作位置の変化量に対する前記転舵位置の変化量の比が1よりも大きくなるように変更される前提で、前記調整中条件は、前記更新成分の正負符号と前記オフセット成分の正負符号とが、互いに同一となる条件を含むことが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、リリース成分が反映されるなかで、目標転舵位置の変化量が大きくなる状況が相まって、目標転舵位置の絶対値が想定以上に増大して急変し得る。こうした状況は、更新成分の正負符号とオフセット成分の正負符号とが、互いに同一となることを判断することによって推定できる。オフセット成分の正負符号は、リリース成分が反映されることによる目標転舵位置の絶対値の増減を推定できる。これは、反力トルクを増大させるための処理を適用する状況を最適化するのに効果的である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の操舵制御装置及び操舵制御方法によれば、車両操縦性の悪化が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態にかかるステアバイワイヤ式の操舵装置の構成を示す図である。
図2図1の操舵制御装置が実行する処理を示すブロック図である。
図3図2の目標ピニオン角演算部が実行する処理を示すブロック図である。
図4図3のオフセット反映処理部が実行する処理を示すブロック図である。
図5図2の反力可変フラグ演算部が実行する処理を示すブロック図である。
図6図2の軸力成分演算部が実行する処理を示すブロック図である。
図7図6の機能補償軸力成分演算部が実行する処理を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る操舵制御装置を説明する。
図1に示すように、操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の車両用の操舵装置である。操舵装置2は、操舵制御装置1と、操作ユニット4と、転舵ユニット6とを備えている。操作ユニット4は、車両の進行方向を変更する際、運転者により操作される機構部分である。転舵ユニット6は、車両の左右の転舵輪5を転舵させるための機構部分である。操舵装置2は、操作ユニット4と転舵ユニット6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。操舵制御装置1は、操作ユニット4の操作状態に応じて、転舵ユニット6の動作を制御する、すなわち操舵装置2を制御対象とする。
【0020】
操作ユニット4は、ステアリング軸11と、反力アクチュエータ12とを有している。ステアリング軸11は、ステアリングホイール3に連結されている。ステアリングホイール3は、運転者により操作される操作部材である。反力アクチュエータ12は、反力モータ13と、減速機構14とを有している。反力モータ13は、ステアリングホイール3に付与する反力トルクの発生源である。反力トルクは、ステアリングホイール3の運転者による操作であるステアリング操作に抗する力である。反力モータ13は、例えば、三相のブラシレスモータである。減速機構14は、例えば、ウォームアンドホイールからなるウォーム減速機構である。減速機構14は、反力モータ13の回転をステアリング軸11に伝達する。減速機構14を介してステアリング軸11に伝達される回転は、ステアリングホイール3に反力トルクとして付与される。
【0021】
転舵ユニット6は、ピニオン軸21と、ラック軸22と、ハウジング23とを有している。ハウジング23は、ピニオン軸21を回転可能に支持する。また、ハウジング23は、ラック軸22を往復動可能に収容する。ピニオン軸21は、ラック軸22に交わるように設けられている。ピニオン軸21のピニオン歯21aとラック軸22のラック歯22aとが噛み合うことでラックアンドピニオン機構24を構成している。ラック軸22の両端は、ハウジング23の軸方向の両端から突出している。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介して、タイロッド26が連結されている。タイロッド26の先端は、左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0022】
転舵ユニット6は、転舵アクチュエータ31を備えている。転舵アクチュエータ31は、転舵モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。転舵モータ32は、ラック軸22に付与する転舵トルクの発生源である。転舵トルクは、転舵輪5を転舵させるための力である。転舵モータ32は、例えば、三相のブラシレスモータである。伝達機構33は、例えば、ベルト伝達機構である。伝達機構33は、転舵モータ32の回転を変換機構34に伝達する。変換機構34は、例えば、ボールねじ機構である。変換機構34は、伝達機構33を介して伝達される回転を、ラック軸22の軸方向の運動に変換する。
【0023】
ラック軸22が軸方向に移動することによって、転舵輪5の転舵角が変更される。このとき、ステアリングホイール3には、反力トルクが付与される。この反力トルクにより、ステアリング操作に必要な運転者の力である操作トルクThが変更される。
【0024】
なお、ピニオン軸21を設ける理由は、ピニオン軸21と共にラック軸22をハウジング23の内部に支持するためである。操舵装置2に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はハウジング23の内部に支持される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をハウジング23に支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0025】
<操舵装置の電気的構成>
図1に示すように、操舵制御装置1は、反力モータ13と、転舵モータ32とに接続されている。操舵制御装置1は、車載されるセンサの検出結果を参照する。センサは、トルクセンサ41、2つの回転角センサ42,43、及び車速センサ44を含む。操舵制御装置1は、トルクセンサ41によって検出される操作トルクThを参照する。トルクセンサ41は、例えば、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3と減速機構14との間の部分に設けられている。操作トルクThは、ステアリング操作の際に入力される運転者のトルクであって、ステアリング操作に関わって変化する操作量である。操作トルクThは、ステアリング軸11の途中であって、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3と減速機構14との間に設けられたトーションバー41aの捩じれに関わって検出される。操舵制御装置1は、回転角センサ42によって検出される回転角θaを参照する。回転角センサ42は、例えば、反力モータ13に設けられている。回転角θaは、360度の範囲内の、反力モータ13の回転軸の角度である。操舵制御装置1は、回転角センサ43によって検出される回転角θbを参照する。回転角センサ43は、例えば、転舵モータ32に設けられている。回転角θbは、360度の範囲内の、転舵モータ32の回転軸の角度である。操舵制御装置1は、車速センサ44によって検出される車速Vを参照する。車速Vは、車両の走行速度である。操舵制御装置1は、操作ユニット4の操作状態、転舵ユニット6の転舵状態、及び各種のセンサの検出結果を参照して、各モータ13,32の動作を制御する。操舵制御装置1は、各モータ13,32に対する給電を制御する。
【0026】
<操舵制御装置の電気的構成>
図2に示すように、操舵制御装置1は、反力制御部50と、転舵制御部60とを有している。反力制御部50は、反力モータ13の動作を制御するための反力制御処理を実行する。つまり、反力制御部50は、反力モータ13に対する給電を制御する。転舵制御部60は、転舵モータ32の動作を制御するための転舵制御処理を実行する。つまり、転舵制御部60は、転舵モータ32に対する給電を制御する。反力制御部50と転舵制御部60とは、例えば、シリアル通信等のローカルネットワークを介して情報の送受信を相互に行う。反力制御部50は、操作ユニット4の一部を構成する。転舵制御部60は、転舵ユニット6の一部を構成する。
【0027】
反力制御部50は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。CPU及びメモリは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。これと同様、転舵制御部60は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。CPU及びメモリは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。メモリは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)のようなコンピュータ可読媒体を含む。ただし、各種処理がソフトウェアによって実現されることは一例である。反力制御部50が有する処理回路は、少なくとも一部の処理をロジック回路などのハードウェア回路によって実現するように構成されてもよい。これは、転舵制御部60についても同様である。
【0028】
<反力制御部について>
反力制御部50は、ハンドル角演算部51、反力トルク演算部52、及び通電制御部53を有している。
【0029】
ハンドル角演算部51は、回転角θaを入力として、ハンドル角θsを演算する処理である。より詳しくは、ハンドル角演算部51は、例えば、ハンドル中立位置からの反力モータ13の回転回数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。ハンドル中立位置は、車両が直進走行しているときのステアリングホイール3の回転位置、すなわち操作位置である。ハンドル角演算部51は、換算して得られた積算角に減速機構14の回転速度比に基づき換算係数を乗算することで、ハンドル角θsを演算する。なお、ハンドル角θsは、ハンドル中立位置よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。
【0030】
反力トルク演算部52は、操作トルクTh、車速V、ハンドル角θs、及び複数の転舵取得情報を入力として、反力トルク操作量Ts*を演算するための反力トルク演算処理である。反力トルク操作量Ts*は、反力モータ13に発生させる反力トルクの目標となる操作量である。複数の転舵取得情報は、転舵制御部60から得られる情報であって、例えば、実電流Ib、目標ピニオン角θp*、ピニオン角θp、及び反力可変フラグFLGを含む。
【0031】
通電制御部53は、反力トルク操作量Ts*に応じた電力を反力モータ13へ供給するための処理である。より詳しくは、通電制御部53は、反力トルク操作量Ts*、回転角θa、及び実電流Iaを入力として、反力モータ13に対する操作信号である電流指令値を演算する処理を含む。通電制御部53は、反力モータ13に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、給電経路に生じる実電流Iaの値を検出する処理を含む。実電流Iaの値は、反力モータ13に供給される電流の値である。通電制御部53は、電流指令値と実電流Iaの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ13に対する給電を制御する処理を含む。反力モータ13は、反力トルク操作量Ts*に応じたトルクを発生する。これにより、運転者に対して適度な手応え感を与えることができる。
【0032】
<転舵制御部について>
転舵制御部60は、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部(図2中「ピニオン角F/B制御部」)63と、通電制御部64と、反力可変フラグ演算部65とを有している。
【0033】
ピニオン角演算部61は、回転角θbを入力として、ピニオン角θpを演算する処理である。より詳しくは、ピニオン角演算部61は、例えば、ラック中立位置からの転舵モータ32の回転回数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。ラック中立位置は、車両が直進走行しているときのラック軸22の軸方向位置である。ピニオン角演算部61は、換算して得られた積算角に換算係数を乗算することで、ピニオン軸21の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する処理を含む。換算係数は、伝達機構33の減速比、変換機構34のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づき得られる値である。なお、ピニオン角θpは、ラック中立位置よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。転舵モータ32とピニオン軸21とは、伝達機構33、変換機構34、及びラック軸22を介して連動する。このため、転舵モータ32の回転角θbとピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して、転舵モータ32の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。ピニオン軸21は、ラック軸22と噛み合っている。このため、ピニオン角θpとラック軸22の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪5の転舵角、すなわち転舵位置を反映する値である。
【0034】
目標ピニオン角演算部62は、ハンドル角θsと、車速Vと、システム状態信号Smとを入力として、目標ピニオン角θp*を演算する処理である。システム状態信号Smは、制御状態の切り替えを示す情報であって、所定の制御状態の切り替えがあった場合に入力される信号である。例えば、所定の制御状態の切り替えは、車両の電源状態が停止から起動への切り替え時、転舵モータ32の発熱状態に伴う機能制限から解除への切り替え時、直流電源の電圧低下に伴う機能制限から解除への切り替え時、車速Vの有効判断の切り替え時を含む。これら切り替え時は、当該切り替え前後で、目標ピニオン角θp*に想定外の変化を伴うことが想定される。なお、システム状態信号Smは、転舵制御部60の処理の一部として実現される。
【0035】
<目標ピニオン角演算部について>
図3に示すように、目標ピニオン角演算部62は、舵角比可変制御部71と、オフセット成分演算処理部72と、オフセット反映処理部73とを有している。
【0036】
舵角比可変制御部71は、ハンドル角θsと、車速Vとを入力として、目標ピニオン角θp1*を演算する処理である。より詳しくは、舵角比可変制御部71は、ハンドル角θsに調整量を加算することによって目標ピニオン角θp1*を演算する処理を含む。目標ピニオン角θp1*は、今回周期である最新周期における操作量として、目標ピニオン角θp*に反映される操作量である。調整量は、ハンドル角θsに対する目標ピニオン角θp*の舵角比を変化させるための操作量である。舵角比は、「1」を含み、「1」よりも大きくなるように変更される前提で、車速Vが速いほど、たとえば滑らかに非線形増加する値である。つまり、調整量は、例えば、車速Vが遅い場合に速い場合よりも、ハンドル角θsの変化に対する目標ピニオン角θp*の変化が大きくなるように、車速Vに応じて変化する。このため、ハンドル角θsと目標ピニオン角θp*との間には相関関係がある。ピニオン角θpは、目標ピニオン角θp*に基づいて制御される。このため、ハンドル角θsとピニオン角θpとの間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、ハンドル角θsを反映する値である。したがって、舵角比を変化させることは、ハンドル角θsとピニオン角θpとの関係を変更することになる。本実施形態において、目標ピニオン角演算部62を構成する舵角比可変制御部71が実行する処理は、目標転舵位置演算処理の一例である。
【0037】
オフセット成分演算処理部72は、システム状態信号Smと、ピニオン角θpと、目標ピニオン角θp1*と、目標ピニオン角θp*とを入力として、オフセット基礎成分θftbを演算するための処理である。より詳しくは、オフセット成分演算処理部72は、システム状態信号Smに基づいて、制御状態の切り替えがあったか否かを判断する処理を含む。また、オフセット成分演算処理部72は、制御状態の切り替えがあったことを判断する場合、当該切り替え前後における目標ピニオン角θp*の偏差であるオフセット基礎成分θftbを演算する処理を含む。例えば、オフセット成分演算処理部72は、判断した制御状態の切り替えの種類に応じて、目標ピニオン角θp1*からピニオン角θpを減算する、又は、目標ピニオン角θp1*から目標ピニオン角θp*を減算するいずれかの処理を実行する。ここで使用されるピニオン角θpは、転舵制御部60における制御周期に関して、厳密には今回周期以前の周期の処理で演算された前回値θp(-1)である。これと同様、ここで使用される目標ピニオン角θp*は、転舵制御部60における制御周期に関して、厳密には今回周期の前回周期以前の周期の処理で演算された前回値θp*(-1)である。
【0038】
オフセット反映処理部73は、車速Vと、目標ピニオン角θp1*と、オフセット基礎成分θftbとを入力として、最終的な目標ピニオン角θp*を演算するための処理である。
【0039】
より詳しくは、図4に示すように、オフセット反映処理部73は、リリースゲイン演算部81と、リリース量演算部82と、符号処理部83と、乗算器84,85と、減算器86,87と、微分器88とを有している。
【0040】
リリースゲイン演算部81は、車速Vを入力として、リリースゲインGを演算するための処理である。より詳しくは、リリースゲイン演算部81は、例えば、転舵制御部60のメモリに予め記憶されているマップデータであるリリースゲインマップM1を用いて、CPUによりリリースゲインGをマップ演算を通じて算出する処理を含む。このリリースゲインマップM1は、車速Vを入力変数とし、リリースゲインGを出力変数とするデータである。
【0041】
なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0042】
図4に示すように、リリースゲイン演算部81が使用するリリースゲインマップM1は、次のような特性を有している。すなわち、リリースゲインGの値は、例えば、車速Vが「0」値の場合には、「0」値である。また、リリースゲインGの値は、「0」値よりも大きい値の場合には、車速Vの値に応じて、たとえば滑らかに非線形増加する値である。
【0043】
リリース量演算部82は、目標ピニオン角速度ωp1を入力として、リリース基礎量θd1を演算するための処理である。より詳しくは、リリース量演算部82は、例えば、転舵制御部60のメモリに予め記憶されているマップデータであるリリース量マップM2を用いて、CPUによりリリース基礎量θd1をマップ演算を通じて算出する処理を含む。このリリース量マップM2は、目標ピニオン角速度ωp1の絶対値を入力変数とし、リリース基礎量θd1を出力変数とするデータである。目標ピニオン角速度ωp1は、微分器88にて、目標ピニオン角θp1*を微分して得られる微分値であって、目標ピニオン角θp*に関わって変化する操作量である。つまり、目標ピニオン角速度ωp1は、目標ピニオン角θp1*の更新成分である。これは、目標ピニオン角θp*の更新成分でもある。
【0044】
図4に示すように、リリース量演算部82が使用するリリース量マップM2は、次のような特性を有している。すなわち、リリース基礎量θd1の値は、例えば、目標ピニオン角速度ωp1の絶対値が「0」値の場合には、「0」値である。また、リリース基礎量θd1の値は、「0」値よりも大きい値の場合には、目標ピニオン角速度ωp1の絶対値に応じて、たとえば滑らかに非線形増加する値である。
【0045】
乗算器84は、リリースゲインGとリリース基礎量θd1とを乗算することによって、リリース量θd2を演算する処理である。
符号処理部83は、オフセット基礎成分θftbを入力として、符号Sin1を演算するための処理である。より詳しくは、符号処理部83は、オフセット基礎成分θftbが正の値の場合に「+1」を演算する処理を含む。また、符号処理部83は、オフセット基礎成分θftbが負の値の場合に「-1」を演算する処理を含む。オフセット基礎成分θftbの正負は、目標ピニオン角θp*、すなわちピニオン角θpの正負に準ずる。なお、オフセット反映処理部73は、オフセット基礎成分θftbが「0」値の場合、リリース基礎量θd1を「0」値とする処理を含む。また、オフセット反映処理部73は、オフセット基礎成分θftbの絶対値がリリース量θd2以下の場合、当該オフセット基礎成分θftbの絶対値をリリース量θd2とする処理を含む。つまり、リリース量θd2は、オフセット基礎成分θftbの絶対値の少なくとも一部である。
【0046】
乗算器85は、リリース量θd2と符号Sin1とを乗算することによって、リリース成分θdを演算する処理である。つまり、リリース量θd2に基づき得られるリリース成分θdは、オフセット基礎成分θftbの少なくとも一部である。
【0047】
減算器86は、オフセット基礎成分θftbからリリース成分θdを減算することによって、オフセット成分θftを演算する処理である。なお、減算器86を通じて得られたオフセット成分θftは、反力可変フラグ演算部65にも入力される。
【0048】
減算器87は、目標ピニオン角θp1*からオフセット成分θftを減算することによって、最終的な目標ピニオン角θp*を演算する処理である。
オフセット成分θftは、制御状態の切り替えがあった場合、当該切り替え前後における目標ピニオン角θp*の乖離を調整するための操作量である。目標ピニオン角θp*は、オフセット成分θftが反映されることによって、制御状態の切り替え前後で生じる乖離が制御に反映されないように本来の操作量を調整して得られる。また、目標ピニオン角θp*は、リリース成分θdが反映されることによって、オフセット成分θftの絶対値が徐々に小さくなるように本来の操作量に復帰する。オフセット成分θftの絶対値が小さくなることは、更新成分に相当する目標ピニオン角速度ωp1に重畳して、リリース成分θdの分だけ目標ピニオン角θp*を変化させることになる。こうした目標ピニオン角θp*の調整は、転舵トルク操作量Tt*の調整に繋がる。本実施形態において、目標ピニオン角演算部62を構成するオフセット成分演算処理部72及びオフセット反映処理部73が実行する処理は、調整処理の一例である。
【0049】
図2の説明に戻り、ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角θp*と、ピニオン角θpとを入力として、転舵トルク操作量Tt*を演算する処理である。より詳しくは、ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θpを目標ピニオン角θp*に追従させるべくピニオン角θpのフィードバック処理として比例項及び微分項を用いたPD制御を実行する処理を含む。ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角θp*とピニオン角θpとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵トルク操作量Tt*を演算する処理を含む。転舵トルク操作量Tt*は、転舵モータ32に発生させる転舵トルクの目標となる操作量である。本実施形態において、ピニオン角フィードバック制御部63が実行する処理は、転舵トルク操作量演算処理の一例である。
【0050】
通電制御部64は、転舵トルク操作量Tt*に応じた電力を転舵モータ32へ供給するための処理である。より詳しくは、通電制御部64は、転舵トルク操作量Tt*と、回転角θbと、実電流Ibとを入力として、転舵モータ32に対する操作信号である電流指令値を演算する処理を含む。通電制御部64は、転舵モータ32に対する給電経路に設けられた電流センサ67を通じて、給電経路に生じる実電流Ibの値を検出する処理を含む。実電流Ibの値は、転舵モータ32に供給される電流の値である。通電制御部64は、電流指令値と実電流Ibの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ32に対する給電を制御する処理を含む。転舵モータ32は、転舵トルク操作量Tt*に応じたトルクを発生する。これにより、転舵輪5は、転舵トルク操作量Tt*に応じた角度だけ回転する。
【0051】
反力可変フラグ演算部65は、目標ピニオン角θp*と、オフセット成分θftとを入力として、反力可変フラグFLGを演算するための処理である。反力可変フラグFLGは、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大するなかで急変することが推定される状態か否かを示す情報である。本実施形態において、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大することは、目標ピニオン角θp*の絶対値が減少するなかでラック中立位置を跨ぐ結果として、当該目標ピニオン角θp*の絶対値が増加することを含む。これは、例えば、正の値である目標ピニオン角θp*がラック中立位置に向かって変化するなかで当該ラック中立位置を跨ぐことによって、負方向に増大するように変化する場合のことである。なお、反力可変フラグ演算部65は、オフセット成分θftが「0」値の場合、反力可変フラグFLGを生成しない処理を含む。
【0052】
<反力可変フラグ演算部について>
図5に示すように、反力可変フラグ演算部65は、符号判定処理部91,92と、符号比較処理部93と、微分器94とを有している。
【0053】
符号判定処理部91は、目標ピニオン角速度ωp2を入力として、符号Sinpを判定するための処理である。より詳しくは、符号判定処理部91は、目標ピニオン角速度ωp2が正の値の場合に「+1」を演算する処理を含む。また、符号判定処理部91は、目標ピニオン角速度ωp2が負の値の場合に「-1」を演算する処理を含む。目標ピニオン角速度ωp2の正負は、目標ピニオン角θp*、すなわちピニオン角θpの正負に準ずる。目標ピニオン角速度ωp2は、微分器94にて、目標ピニオン角θp*を微分して得られる微分値であって、目標ピニオン角θp*に関わって変化する操作量である。これにより、符号Sinpが「+1」は、目標ピニオン角θp*が正方向へ変化することの推定を可能にする。一方、符号Sinpが「-1」は、目標ピニオン角θp*が負方向へ変化することの推定を可能にする。
【0054】
符号判定処理部92は、オフセット成分θftを入力として、符号Sindを判定するための処理である。より詳しくは、符号判定処理部92は、オフセット成分θftが正の値の場合に「+1」を演算する処理を含む。また、符号判定処理部92は、オフセット成分θftが負の値の場合に「-1」を演算する処理を含む。オフセット成分θftの正負は、目標ピニオン角θp*、すなわちピニオン角θpの正負に準ずる。オフセット成分θftが正の値は、リリース成分θdが目標ピニオン角θp*を正方向へ変化させる。一方、オフセット成分θftが負の値は、リリース成分θdが目標ピニオン角θp*を負方向へ変化させる。これにより、符号Sindが「+1」は、目標ピニオン角θp*を正方向へ変化させるためのリリース成分θdが反映されることの推定を可能にする。一方、符号Sindが「-1」は、目標ピニオン角θp*を負方向へ変化させるためのリリース成分θdが反映されることの推定を可能にする。
【0055】
符号比較処理部93は、符号Sinpと、符号Sindとを入力として、反力可変フラグFLGを演算するための処理である。より詳しくは、符号比較処理部93は、符号Sinpと符号Sindとを比較する処理を含む。
【0056】
これにより、符号比較処理部93は、符号Sinpと符号Sindとが共に「+1」で同一の場合、反力可変フラグFLGを生成演算する処理を含む。この場合、目標ピニオン角θp*には、目標ピニオン角速度ωp1に対応する更新成分に対して、さらにリリース成分θdが重畳される。これは、目標ピニオン角θp*が正方向へ変化するなかで、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大することの推定を可能にする。
【0057】
また、符号比較処理部93は、符号Sinpと符号Sindとが共に「-1」で同一の場合、反力可変フラグFLGを生成演算する処理を含む。この場合、目標ピニオン角θp*には、目標ピニオン角速度ωp1に対応する更新成分に対して、さらにリリース成分θdが重畳される。これは、目標ピニオン角θp*が負方向へ変化するなかで、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大することの推定を可能にする。
【0058】
<反力トルク演算部について>
図2に示すように、反力トルク演算部52は、アシスト成分演算部55と、軸力成分演算部56と、減算器57とを有している。
【0059】
アシスト成分演算部55は、操作トルクThと、車速Vとを入力として、アシスト成分Tb*を演算するための処理である。より詳しくは、アシスト成分演算部55は、操作トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな絶対値のアシスト成分Tb*を演算する処理を含む。アシスト成分Tb*は、ステアリング操作の方向と同一方向の成分である。
【0060】
軸力成分演算部56は、ハンドル角θsと、車速Vと、実電流Ibと、目標ピニオン角θp*と、ピニオン角θpと、反力可変フラグFLGとを入力として、軸力成分Fを演算するための処理である。軸力成分Fは、転舵輪5を通じてラック軸22に作用する軸力であって、ステアリング操作の方向と反対方向の成分である。
【0061】
より詳しくは、図6に示すように、軸力成分演算部56は、配分軸力成分演算部101と、機能補償軸力成分演算部102と、加算器103とを有している。
配分軸力成分演算部101は、車速Vと、目標ピニオン角θp*と、実電流Ibとを入力として、配分軸力成分Fdを演算するための処理である。より詳しくは、配分軸力成分演算部101は、車速Vと、目標ピニオン角θp*とを入力として、角度軸力成分を演算する処理を含む。角度軸力成分は、任意に設定する車両のモデルにより規定される、ラック軸22に作用する軸力の理想値である。角度軸力成分は、路面情報が反映されない軸力である。また、配分軸力成分演算部101は、実電流Ibを入力として、電流軸力成分を演算する処理を含む。電流軸力成分は、転舵輪5の転舵に伴ってラック軸22に実際に作用する軸力の推定値である。電流軸力成分は、上記路面情報が反映される軸力である。また、配分軸力成分演算部101は、車速Vを入力として、配分比を演算する処理を含む。配分比は、角度軸力成分と電流軸力成分との配分比率である。また、配分軸力成分演算部101は、角度軸力成分と電流軸力成分とを配分比で配分することによって、配分軸力成分Fdを演算する処理を含む。
【0062】
機能補償軸力成分演算部102は、実電流Ibと、機能補償用変数θcomと、反力可変フラグFLGと、ハンドル角θsとを入力として、機能補償軸力成分Fcを演算するための処理である。機能補償軸力成分Fcは、操舵装置2の状況を運転者に伝える。例えば、運転者に伝える操舵装置2の状況は、転舵輪5が転舵限界に達する状況、転舵輪5が縁石等の障害物に当たる状況、転舵モータ32の発熱状態に伴う機能制限される状況、直流電源の電圧低下に伴う機能制限される状況を含む。機能補償用変数θcomは、操舵装置2、すなわち操作ユニット4及び転舵ユニット6から得られる情報であって、例えば、ハンドル角θs、目標ピニオン角θp*、及びピニオン角θpの少なくともいずれかを含む。
【0063】
加算器103は、配分軸力成分Fdと機能補償軸力成分Fcとを加算することによって、軸力成分Fを演算するための処理である。
<機能補償軸力成分演算部について>
図7に示すように、機能補償軸力成分演算部102は、通常時成分演算部111と、制限時成分演算部112と、成分切替演算部113と、符号処理部114と、乗算器115と、微分器116とを有している。
【0064】
通常時成分演算部111は、機能補償用変数θcomを入力として、通常時成分Fc1を演算するための処理である。より詳しくは、通常時成分演算部111は、例えば、反力制御部50のメモリに予め記憶されているマップデータである通常時成分マップM3を用いて、CPUにより通常時成分Fc1をマップ演算を通じて算出する処理を含む。この通常時成分マップM3は、機能補償用変数θcomの絶対値を入力変数とし、通常時成分Fc1を出力変数とするデータである。
【0065】
図7に示すように、通常時成分演算部111が使用する通常時成分マップM3は、次のような特性を有している。すなわち、通常時成分Fc1の値は、例えば、機能補償用変数θcomの絶対値が第1閾値θ1以下の場合には、一定値である「0」値である。機能補償用変数θcomの絶対値が第1閾値θ1以下の範囲は、機能補償用変数θcomが変化しても通常時成分Fc1の値が変化しない不感帯である。また、通常時成分Fc1の値は、第1閾値θ1よりも大きい場合には、機能補償用変数θcomの絶対値に応じて、たとえば単調増加する値である。
【0066】
制限時成分演算部112は、機能補償用変数θcomを入力として、制限時成分Fc2を演算するための処理である。より詳しくは、制限時成分演算部112は、例えば、反力制御部50のメモリに予め記憶されているマップデータである制限時成分マップM4を用いて、CPUにより制限時成分Fc2をマップ演算を通じて算出する処理を含む。この制限時成分マップM4は、機能補償用変数θcomの絶対値を入力変数とし、制限時成分Fc2を出力変数とするデータである。
【0067】
図7に示すように、制限時成分演算部112が使用する制限時成分マップM4は、次のような特性を有している。すなわち、制限時成分Fc2の値は、例えば、機能補償用変数θcomの絶対値が第2閾値θ2以下の場合には、一定値である「0」値である。機能補償用変数θcomの絶対値が第2閾値θ2以下の範囲は、機能補償用変数θcomが変化しても制限時成分Fc2の値が変化しない不感帯である。第2閾値θ2は、第1閾値θ1と比べて小さい値である。そのため、制限時成分マップM4における不感帯の範囲は、通常時成分マップM3と比べて小さい。また、制限時成分Fc2の値は、第2閾値θ2よりも大きい場合には、機能補償用変数θcomの絶対値に応じて、たとえば単調増加する値となる。この単調増加する際の勾配は、通常時成分Fc1が単調増加する際の勾配よりも急勾配である。そのため、制限時成分Fc2の値は、機能補償用変数θcomが同一の場合に通常時成分Fc1と比べて大きい値である。
【0068】
成分切替演算部113は、反力可変フラグFLGと、ハンドル角速度ωsと、通常時成分Fc1と、制限時成分Fc2とを入力として、切替後成分Fc3を演算するための処理である。成分切替演算部113は、反力可変フラグFLGとハンドル角速度ωsとに基づいて、通常時成分Fc1と制限時成分Fc2とを切り替えることによって、切替後成分Fc3を演算する処理を含む。ハンドル角速度ωsは、微分器116にて、ハンドル角θsを微分して得られる微分値であって、ステアリング操作に関わって変化する操作量である。
【0069】
より詳しくは、成分切替演算部113は、調整中条件が成立するか否かを判断する処理を含む。成分切替演算部113は、反力可変フラグFLGを入力したか否かに基づいて、調整中条件が成立するか否かを判断する処理である。成分切替演算部113は、反力可変フラグFLGを入力しないことを判断する場合、調整中条件が成立しないことを判断する。これにより、成分切替演算部113は、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大するなかで急変することが推定される状態でないことを判断する。この場合、成分切替演算部113は、通常時成分Fc1である切替後成分Fc3を演算する。
【0070】
一方、成分切替演算部113は、反力可変フラグFLGを入力したことを判断する場合、調整中条件が成立することを判断する。これにより、成分切替演算部113は、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大するなかで急変することが推定される状態であることを判断する。この場合、成分切替演算部113は、制限時成分Fc2である切替後成分Fc3を演算する。本実施形態において、制限時成分Fc2である切替後成分Fc3を演算する処理は、調整中条件が成立する場合に有効になる処理である。一方、制限時成分Fc2である切替後成分Fc3を演算する処理は、調整中条件が成立しない場合に無効になる処理である。
【0071】
また、成分切替演算部113は、ハンドル角速度ωsを参照して、当該ハンドル角速度ωsの絶対値が角速度閾値ωth以上であるか否かを判断する処理を含む。成分切替演算部113は、ハンドル角速度ωsの絶対値が角速度閾値ωth以上の場合、反力可変フラグFLGを入力したか否かの判断に関係なく、通常時成分Fc1である切替後成分Fc3を演算する。角速度閾値ωthは、例えば、ステアリングホイール3を運転者が緊急回避操作していることを判断できる範囲の値である。この場合、成分切替演算部113は、反力可変フラグFLGを入力したことを判断するとしても、運転者よる緊急回避操作を判断すれば、調整中条件が成立しないことと同等の判断をすることになる。
【0072】
一方、成分切替演算部113は、ハンドル角速度ωsの絶対値が角速度閾値ωth未満の場合、反力可変フラグFLGを入力したか否かの判断に基づいて、各成分Fc1,Fc2のいずれかである切替後成分Fc3を演算する。
【0073】
符号処理部114は、実電流Ibを入力として、符号Sinfを演算するための処理である。より詳しくは、符号処理部114は、実電流Ibが「0」値を含む正値の場合に「+1」を演算する処理を含む。また、符号処理部114は、実電流Ibが負値の場合に「-1」を演算する処理を含む。
【0074】
乗算器115は、切替後成分Fc3と符号Sinfとを乗算することによって、機能補償軸力成分Fcを演算するための処理である。
<本実施形態の作用>
目標ピニオン角θp*には、オフセット成分演算処理部72及びオフセット反映処理部73による調整がされる間、当該調整に伴うオフセット成分θftと、目標ピニオン角速度ωp1に対応する舵角比可変制御部71を通じた更新に伴う更新成分とが重畳される。
【0075】
これに対して、反力制御部50は、反力可変フラグFLGの入力に基づいて判断する調整中条件が成立する場合、より大きい値を有する制限時成分Fc2に基づく機能補償軸力成分Fcを演算する。これは、機能補償軸力成分Fcを反映して得られる軸力成分Fを増大させる。つまり、反力トルクは、上記調整がされる間、当該調整されない間よりも増大する。例えば、反力トルクは、上記調整がされる間のなかでも、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大するなかで急変することが推定される状態であることを判断できる場合に増大する。これにより、上記調整がされる間のなかでも、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大するなかで急変することが推定される状態であることを判断できる場合、ステアリング操作する際のステアリングホイール3の急変が抑えられる。したがって、舵角比可変制御部71を通じた更新に伴う更新成分の変化を抑えることができるので、目標ピニオン角θp*の急変が抑えられる。
【0076】
<実施形態の効果>
(1-1)上記調整がされる間のなかでも、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大するなかで急変することが推定される状態であることを判断できる場合、目標ピニオン角θp*の急変が抑えられるので、転舵トルク操作量Tt*の急変が抑えられる。これは、舵角比を変更可能にする場合、車両操縦性の悪化を抑えるのに効果的である。
【0077】
(1-2)オフセット成分演算処理部72及びオフセット反映処理部73による調整は、目標ピニオン角θp*の絶対値を本来の絶対値に対して減少させる等の対処を可能にする。ただし、上記調整された目標ピニオン角θp*を本来の目標ピニオン角θp*に復帰させる際に、目標ピニオン角θp*の急変を伴い得る。目標ピニオン角θp*の急変は、転舵トルク操作量Tt*の急変に繋がる。これに対して、本実施形態は、上記調整された目標ピニオン角θp*を本来の目標ピニオン角θp*に復帰させる際にも、転舵トルク操作量Tt*の急変を抑えるのに効果的である。
【0078】
(1-3)上記調整された目標ピニオン角θp*は、オフセット反映処理部73によって本来の目標ピニオン角θp*に復帰することになる。これにより、オフセット反映処理部73によってリリース成分θdが反映される際に、目標ピニオン角θp*の急変を伴い得る。これに対して、本実施形態は、オフセット反映処理部73によってリリース成分θdが反映される際にも、目標ピニオン角θp*、すなわち転舵トルク操作量Tt*の急変を抑えるのに効果的である。
【0079】
(1-4)反力可変フラグ演算部65は、目標ピニオン角速度ωp2から得られる符号Sinpと、オフセット成分θftから得られる符号Sindとを用いることによって、反力可変フラグFLGを演算する処理である。これにより、上記調整によって目標ピニオン角θp*が調整される間における目標ピニオン角θp*の絶対値が増加又は減少することの好適な推定を可能にする。これは、転舵トルク操作量Tt*が急変する状況を検出するのに効果的である。
【0080】
(1-5)目標ピニオン角θp*の絶対値は、リリース成分θdが反映されるなかで、目標ピニオン角θp*の変化量が大きくなる状況が相まって、想定以上に増大して急変し得る。こうした状況は、目標ピニオン角θp*の更新成分である目標ピニオン角速度ωp2の正負符号とオフセット成分θftの正負符号とが、互いに同一となることを判断することによって推定できる。これは、反力トルクを増大させるための処理を適用する状況を最適化するのに効果的である。
【0081】
(1-6)舵角比可変制御部71を通じた更新に伴う更新成分の変化を抑えることは、目標ピニオン角速度ωp1の増大を抑えることに繋がる。これにより、リリース基礎量θd1の値の増大を抑えることができる。これは、上記調整がされる間のなかでも、目標ピニオン角θp*の絶対値が増大するなかで急変することが推定される状態であることを判断できる場合、目標ピニオン角θp*の絶対値の増大を抑えるのに効果的である。
【0082】
<他の実施形態>
上記各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
【0083】
・反力可変フラグ演算部65は、目標ピニオン角θp*の代わりに、ハンドル角θsを入力とする処理であってもよい。より詳しくは、符号判定処理部91は、目標ピニオン角速度ωp2の代わりに、ハンドル角速度ωsを入力とする処理であればよい。また、符号比較処理部93は、目標ピニオン角θp*の代わりに、ハンドル角θsを入力とする処理であればよい。ここに記載したその他の実施形態は、目標ピニオン角θp*の代わりに、ピニオン角θpを入力とするようにして実現することもできる。
【0084】
・符号判定処理部92は、オフセット成分θftの代わりに、オフセット基礎成分θftb又はリリース成分θdを入力とする処理であってもよい。
・符号判定処理部92は、オフセット成分θftと、目標ピニオン角θp*とを入力として、符号Sindを判定する処理であってもよい。例えば、符号判定処理部92は、オフセット成分θftが正の値、かつ、目標ピニオン角θp*が正の値の場合に「+1」を演算すればよい。また、符号判定処理部92は、オフセット成分θftが負の値、かつ、目標ピニオン角θp*が負の値の場合に「-1」を演算すればよい。この場合、符号比較処理部93は、符号Sinpと符号Sindとが同一であることを判定する処理であればよい。
【0085】
・符号比較処理部93は、符号Sinpと、符号Sindと、さらに目標ピニオン角θp*(図5中、二点鎖線で示す)とを入力として、反力可変フラグFLGを演算する処理であってもよい。つまり、符号比較処理部93は、符号Sinpと符号Sindとが同一の場合、目標ピニオン角θp*が正又は負の値のいずれであるかを判定する処理を含む。これは、反力可変フラグFLGを演算する際に、ステアリング操作の切り込み及び切り戻しの状況を加味することを可能にする。これにより、目標ピニオン角θp*が調整される間における目標ピニオン角θp*の絶対値が増加又は減少することのさらに詳細な推定を可能にする。
【0086】
・符号比較処理部93は、符号Sinpと、符号Sindとを入力とし、さらにハンドル角速度ωs(図5中、二点鎖線で示す)を参照して、反力可変フラグFLGを演算する処理であってもよい。つまり、符号比較処理部93は、運転者よる緊急回避操作を判断すれば、反力可変フラグFLGを生成しない処理を含む。この場合、成分切替演算部113は、ハンドル角速度ωsに関する処理を削除すればよい。
【0087】
・符号比較処理部93は、符号Sinpと、符号Sindとを入力とし、さらに車速Vを参照して、反力可変フラグFLGを演算する処理であってもよい。その他、符号比較処理部93は、舵角比を参照する処理であってもよい。
【0088】
・成分切替演算部113は、ハンドル角速度ωsを参照しない処理であってもよい。例えば、成分切替演算部113は、反力可変フラグFLGを入力したか否かに基づいてのみ、調整中条件の成否を判断する処理であってもよい。
【0089】
・成分切替演算部113は、調整中条件の成否の他、別の条件の成否に基づいて、制限時成分Fc2を演算する処理であってもよい。例えば、成分切替演算部113は、転舵モータ32の発熱状態に伴う機能制限中、又は直流電源の電圧低下に伴う機能制限中のなかでも、重度の機能制限中の場合、制限時成分Fc2を演算する処理であってもよい。
【0090】
・オフセット成分演算処理部72は、システム状態信号Smに基づいて、制御状態の切り替えがあったか否かを判断する場合、当該切り替え前後における転舵トルク操作量Tt*の偏差であるオフセット基礎成分θftbを演算する処理であってもよい。
【0091】
・オフセット反映処理部73は、オフセット基礎成分θftbを所定のタイミングで一気にリリースする処理であってもよい。この場合であっても、リリースするタイミングで反力トルクを増大することができればよい。
【0092】
・オフセット反映処理部73は、リリースゲイン演算部81又はリリース量演算部82を削除してもよい。
・オフセット反映処理部73は、オフセット基礎成分θftbを時間経過に伴って所定量ずつリリースする処理であってもよい。例えば、オフセット反映処理部73は、リリース基礎量θd1の下限値を設定することによって、当該下限値を制御周期毎にリリースするようにすればよい。この場合、オフセット反映処理部73は、リリースゲイン演算部81及びリリース量演算部82を削除してもよい。
【0093】
・機能補償軸力成分演算部102は、通常時成分Fc1に制限用ゲインを乗算することによって、制限時成分Fc2と同等の成分を演算する処理であってもよい。この場合、制限時成分演算部112を削除してもよい。
【0094】
・反力トルクを増大する処理は、軸力成分Fを増大させることに代えて、アシスト成分Tb*を減少させることによって実現してもよい。例えば、アシスト成分演算部55は、成分切替演算部113が調整中条件の成否を判断する処理と同様の処理であればよい。この場合、図2に示すように、アシスト成分演算部55は、反力可変フラグFLGと、ハンドル角θsとを入力するように構成されていればよい。また、アシスト成分演算部55は、アシスト成分Tb*を減少させる場合、例えば、基本アシスト成分及び補償成分のいずれかを減少させればよい。基本アシスト成分は、操作トルクTh及び車速Vに基づいて得られるアシスト成分Tb*の基礎成分である。補償成分は、基本アシスト成分を補償するための成分である。
【0095】
・舵角比の増加変化は、線形変化であってもよいし、ステップ状に変化したり、変化しない範囲を有していたりしてもよい。また、舵角比は、車速Vが遅いほど、たとえば滑らかに非線形増加する値であってもよい。また、舵角比は、ハンドル角θsの値が小さいほど、たとえば滑らかに非線形増加する値であってもよいし、ハンドル角θsの値が大きいほど、たとえば滑らかに非線形増加する値であってもよい。つまり、舵角比は、ハンドル角θsの値に応じて変化するようにしてもよい。
【0096】
・リリースゲインマップM1は、車速Vが変化してもリリースゲインGの値が変化しない不感帯を有していてもよい。また、リリースゲインGの変化は、勾配の異なる複数の線形変化の組み合わせであってもよい。また、リリースゲインGの変化は、単調増加する値となるようにしてもよい。これは、リリース量マップM2についても同様である。
【0097】
・各成分マップM3,M4は、機能補償用変数θcomが変化しても各成分Fc1,Fc2の値が変化しない不感帯を削除してもよい。また、各成分マップM3,M4は、第1閾値θ1と第2閾値θ2とを同一値にすることによって、不感帯の範囲を一致させてもよい。また、各成分マップM3,M4は、制限時成分Fc2が単調増加する際に通常時成分Fc1よりも急勾配を有するのであれば、それぞれの勾配を適宜変更してもよい。また、各成分Fc1,Fc2の変化は、滑らかに増加する値となるようにしてもよい。この滑らかに増加する際の変化は、非線形変化であってもよいし、勾配の異なる複数の線形変化の組み合わせであってもよい。
【0098】
・ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θpのフィードバック制御として比例項、積分項、及び微分項を用いたPID制御を実行するようにしてもよい。
・反力可変フラグ演算部65は、反力制御部50の処理としてもよい。また、目標ピニオン角演算部62のうち、オフセット成分θftを演算するための処理は、反力可変フラグ演算部65の処理と合わせて反力制御部50の処理としてもよい。この場合、反力制御部50が演算したオフセット成分θftは、転舵制御部60の目標ピニオン角演算部62に入力されるように構成されていればよい。
【0099】
・機能補償軸力成分演算部102は、転舵制御部60の処理としてもよい。また、軸力成分演算部56は、機能補償軸力成分演算部102の処理と合わせて転舵制御部60の処理としてもよい。この場合、転舵制御部60が演算した機能補償軸力成分Fc又は軸力成分Fは、反力制御部50の反力トルク演算部52に入力されるように構成されていればよい。
【0100】
・アシスト成分演算部55は、アシスト成分Tb*を演算する際、例えば、車速Vを用いなくてもよいし、操作トルクThの代わりに、ハンドル角θsを用いてもよい。
・各制御部50,60は、これらの処理を集約した単一の制御部であってもよい。
【0101】
・ピニオン角演算部61では、ラック軸22の移動量の検出値をピニオン角θpに換算する処理であってもよい。この場合、上記各実施形態に対して、ピニオン角θpに関する操作量等は、ラック軸22の移動量の検出値によって換算されることになる。
【0102】
・ハンドル角θsは、ステアリング軸11の回転角を直接的に検出する舵角センサの検出値であってもよい。舵角センサは、例えば、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3とトルクセンサ41との間に設けてもよい。
【0103】
・運転者が車両を操舵するために操作する操作部材は、ステアリングホイール3に限らず、例えば、ジョイスティックであってもよい。
・ステアリングホイール3に機械的に連結される反力モータ13は、3相のブラシレスモータに限らず、例えば、ブラシ付きの直流モータであってもよい。これは、転舵モータ32についても同様である。
【0104】
・転舵ユニット6は、転舵モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達したが、これに限らず、例えば、転舵モータ32の回転を歯車機構を介して変換機構34に伝達するように構成してもよい。また、転舵モータ32が変換機構34を直接回転させるように転舵ユニット6を構成してもよい。さらに、転舵ユニット6が第2のラックアンドピニオン機構を備える構成とし、転舵モータ32の回転を第2のラックアンドピニオン機構にてラック軸22の往復動に変換するように転舵ユニット6を構成してもよい。
【0105】
・転舵ユニット6は、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とが連動している構成に限らない。換言すれば、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とを独立に制御できるものであってもよい。
【0106】
・操舵装置2を、操作ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、例えば、クラッチにより操作ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。
【0107】
・本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」または「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」または「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0108】
1…操舵制御装置
2…操舵装置
3…ステアリングホイール(操作部材)
4…操作ユニット
5…転舵輪
6…転舵ユニット
13…反力モータ
32…転舵モータ
50…反力制御部
56…軸力成分演算部
60…転舵制御部
62…目標ピニオン角演算部
63…ピニオン角フィードバック制御部
65…反力可変フラグ演算部
71…舵角比可変制御部
72…オフセット成分演算処理部
73…オフセット反映処理部
91…符号判定処理部
92…符号判定処理部
93…符号比較処理部
102…機能補償軸力成分演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7