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特開2024-7465陣痛発来予測補助方法及び陣痛発来予測用マーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007465
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】陣痛発来予測補助方法及び陣痛発来予測用マーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20240110BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C12Q1/37
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106855
(22)【出願日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2022107019
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519231267
【氏名又は名称】医療法人三栄会
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 栄彦
(72)【発明者】
【氏名】柴田 清住
(72)【発明者】
【氏名】梶山 広明
(72)【発明者】
【氏名】吉原 雅人
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA27
2G045CB03
2G045DA20
2G045DA42
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ36
4B063QQ84
4B063QR48
4B063QR58
4B063QS28
4B063QS33
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】経腟正期産分娩の陣痛発来までの時間の予測補助方法、及びそのような時間の検出に用いることができるバイオマーカーを提供することを目的とする。
【解決手段】血液(血清等)では明確にならなかったが、妊婦の尿において、妊娠の進行とともに増加する尿中のP-LAPレベルは、妊娠35週又は第36週以降でそのピークが認められた。その後尿中のP-LAPレベルの下降に伴って、一定日数後に陣痛が発来することが見出された。本発明では、陣痛発来までの時間の予測を客観的に行うことができる。また、このピーク後のP-LAPの低下の程度(幅は)陣痛の強さに比例していることが見出され、低下幅が小さいと陣痛が弱いことも明らかになった。本発明によって、主にオキシトシン投与で行われる陣痛誘発法の有効性を判断することも可能となる。さらに、陣痛誘発剤投与の最適時期の予測や予測の為の情報提供も可能になる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿中のP-LAPを測定する工程を含む、経腟正期産分娩の陣痛発来までの時間の予測補助方法。
【請求項2】
妊娠第36週以降の妊婦における陣痛発来までの時間の予測補助方法であって、
(A)妊娠第35週又は第36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAP(胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ)レベル、又は第35週と第36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルの平均値を測定し、第1のP-LAPレベル値を決定する工程;並びに
(B)妊娠第37週以降に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルを測定し、第2のP-LAPレベル値を決定する工程;を含み、
該第1のP-LAPレベル値を100%とした時に、該第2のP-LAPレベル測定値がその90%以下になる場合に、陣痛発来が該第2のP-LAPレベル測定から8日以内であるとする、予測補助方法。
【請求項3】
前記第1のP-LAPレベル値及び第2のP-LAPレベル値が共にクレアチニンで補正された値である、請求項2に記載の予測補助方法。
【請求項4】
前記第1のP-LAPレベルと第2のP-LAPレベルとが、共に酵素-基質反応で測定される、請求項2に記載の予測補助方法。
【請求項5】
前記第1のP-LAPレベルと第2のP-LAPレベルとが、共に免疫反応で測定される、請求項2に記載の予測補助方法。
【請求項6】
尿中のP-LAPからなる、経腟正期産分娩の陣痛発来予測の為に用いられるバイオマーカー。
【請求項7】
前記経腟正期産分娩の陣痛発来予測が、
(A)妊娠35週又は36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベル、又は35週と36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルの平均値を測定し、第1のP-LAPレベル値を決定する工程;並びに
(B)妊娠37週目以降に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルを測定し、第2のP-LAPレベル値を決定する工程;を含み、
該第1のP-LAPレベル値を100%とした時に、該第2のP-LAPレベル測定値がその90%以下になる場合に、陣痛発来が該第2のP-LAPレベル測定から8日以内であると予測するものである、請求項6に記載のバイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妊娠の進行に伴って妊婦血中に著増する胎盤由来ロイシンアミノペプチダーゼ(オキシトシン分解酵素、P-LAP)の尿中酵素の増減を測定することにより、陣痛発来時期や陣痛誘発剤投与の好適な時期を予測する方法、及びその為のバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
妊娠は、母体子宮内で発育成熟する胎児が、280日間で娩出される生理現象で、胎児は胎盤を介して母体とは独立した循環系で発育する。胎児は、陣痛の開始で始まる子宮収縮で娩出される。妊娠36週以降毎週施行される妊婦検診の目的は、陣痛発来日の予測がその中心的課題となる。また計画分娩を施行する際の、産科医がオキシトシン他の陣痛誘発剤の投与のタイミングあるいは投与の可否を判断する手段ともなる。
【0003】
産科医が陣痛発来を推測する方法は、一般的に内診によって子宮口開大度、展退度、児頭の位置、硬度、位置を点数化し14段階のスコア(Bishopスコア)で子宮頸管熟化(分娩までの近さ)を表す方法が臨床現場でも広く用いられている。しかしながら、このBishopスコアとは子宮頸管と胎児が陣痛発来態勢にどれほど備えているか否かの指標であり、医師の個人的な感覚にも左右され予想精度が低い。陣痛発来の機序が不明な事から、陣痛発来の予測は、妊婦には切実な問題である一方、医師にとっても未だ困難な問題である。
【0004】
胎盤は、母体側の血液を介して胎児の発育と成長を支える。すなわち、酸素や栄養物質を胎児に供給する一方胎児の老廃物を母体側に廃棄する胎児生存に必須の臓器である。
【0005】
胎盤でつくられるロイシンアミノペプチダーゼ(P-LAP)は、妊娠が進むにつれてその血中活性が上昇することが知られている(非特許文献1)。また、非特許文献1の表3にあるように、血中P-LAP活性の値は陣痛発来二週前ぐらいからは一定以上の値でプラトーとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mizutani S et al. Simultaneous Determinations of Plasma Oxytocin and Serum Placental Leucine Aminopeptidase (P-LAP) during Late Pregnancy.Clin. Biochem. 1982 ;15 :141-145 (1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
産科医は、前述の子宮頸管長や子宮頸管拡張を指標(Bishopスコア)とした陣痛発来予測を行うが、陣痛の予測は難しく、より簡易なバイオマーカーによる陣痛発来予測方法の開発が望まれる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、正常妊婦の為の陣痛発来予測補助方法及びその為に使用するバイオマーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、胎盤でつくられるP-LAPは、オキシトシンを分解するペプチダーゼであり、0001で述べた如く妊婦血中に妊娠の進行とともに著増することに着目した。
また一方で、妊娠時のオキシトシンの血中濃度は、常に母体側より胎児側の方が高値で、陣痛発来時には胎児のオキシトシン分泌が著増する事実に着目した。そして、P-LAPが、特に正常妊婦の陣痛発来予知の重要なバイオマーカーになり得ること、そのようなバイオマーカーの変動が、尿中で検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、陣痛発来時期の予測や陣痛誘発剤投与の好適な時期を予測する方法に関する。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に掲げる陣痛発来までの時間の予測補助方法を提供する。
項1.
尿中のP-LAPを測定する工程を含む、経腟正期産分娩の陣痛発来までの時間の予測補助方法。
項2.
妊娠第36週以降の妊婦における陣痛発来までの時間の予測補助方法であって、
(A)妊娠第35週又は第36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAP(胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ)レベル、又は第35週と第36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルの平均値を測定し、第1のP-LAPレベル値を決定する工程;並びに
(B)妊娠第37週以降に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルを測定し、第2のP-LAPレベル値を決定する工程;を含み、
該第1のP-LAPレベル値を100%とした時に、該第2のP-LAPレベル測定値がその90%以下になる場合に、陣痛発来が該第2のP-LAPレベル測定から8日以内であるとする、予測補助方法。
項3.
前記第1のP-LAPレベル値及び第2のP-LAPレベル値が共にクレアチニンで補正された値である、項2に記載の予測補助方法。
項4.
前記第1のP-LAPレベルと第2のP-LAPレベルとが、共に酵素-基質反応で測定される、項2又は項3に記載の予測補助方法。
項5.
前記第1のP-LAPレベルと第2のP-LAPレベルとが、共に免疫反応で測定される、項2~項4のいずれか1項に記載の予測補助方法。
【0012】
本発明は、また、下記に掲げるバイオマーカーを提供する。
項6.
尿中のP-LAPからなる、経腟正期産分娩の陣痛発来予測の為に用いられるバイオマーカー。
項7.
前記経腟正期産分娩の陣痛発来予測が、
(A)妊娠35週又は36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベル、又は35週と36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルの平均値を測定し、第1のP-LAPレベル値を決定する工程;並びに
(B)妊娠37週目以降に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルを測定し、第2のP-LAPレベル値を決定する工程;を含み、
該第1のP-LAPレベル値を100%とした時に、該第2のP-LAPレベル測定値がその90%以下になる場合に、陣痛発来が該第2のP-LAPレベル測定から8日以内であると予測するものである、項6に記載のバイオマーカー。
【0013】
本発明は、また、下記に掲げる方法を提供する。
尿中のP-LAPを測定する工程を含む、経腟正期産分娩の為の陣痛促進剤投与の好適な時期を予測する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便で非侵襲的な尿中P-LAPの測定により、陣痛発来を予測すること、及び/又は陣痛誘発剤の使用のタイミングを決定することができる。
さらに、本発明によれば、陣痛発来を予測する為のバイオマーカーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
血液(血清等)では明確にならなかったが、妊婦の尿において、妊娠の進行ととも血液同様に増加する尿中のP-LAPレベルは、妊娠35週又は第36週以降でそのピークが認められた。その後尿中のP-LAPレベルの下降に伴って、一定日数後に陣痛が発来することが見出された。従って、本発明では、陣痛発来までの時間の予測を客観的に行うことができる。また同時に、このピーク後のP-LAPの低下の程度(幅は)来るべき陣痛の強さに比例していることが見出され、低下幅が小さいと陣痛が弱いことも明らかになった(微弱陣痛)。従って、本発明によって、主にオキシトシン投与で行われる陣痛誘発法の有効性を判断することが可能となる。さらに、このP-LAPのピーク以前では陣痛誘発剤の有効性が期待されず、ピーク以降に陣痛誘発剤を投与すると効果的であることがわかり、陣痛誘発剤投与の最適時期の予測や予測の為の情報提供も可能になる。
【0016】
本発明では、このような予測や判断を可能とするバイオマーカーにも関するものである。
【0017】
[正期産分娩の陣痛発来までの時間の予測補助方法]
本発明は、尿中のP-LAPを測定する工程を含む、経腟正期産分娩の陣痛発来までの時間の予測補助方法に関する。
【0018】
ここで、経腟正期産分娩とは、当業者に使用される通常の意味で用いられ、妊娠37週の1日目から41週6日までになされる経腟分娩をいう。
また、陣痛発来までの時間とは、痛みとして自覚する子宮収縮の間隔が10分以内になった最初の時点(陣痛発来)までの時間をいう。
【0019】
上記方法は、特には、以下のような方法であることが好ましい。
すなわち、妊娠第36週以降又はそれを超えた妊婦における陣痛発来までの時間の予測補助方法であって、
(A)妊娠第35週又は第36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベル、又は第35週と第36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルの平均値を測定し、
第1のP-LAPレベル値を決定する工程;並びに
(B)妊娠第37週以降に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルを測定し、第2のP-LAPレベル値を決定する工程;を含み、
該第1のP-LAPレベル値を100%とした時に、該第2のP-LAPレベル測定値がある一定レベル以下になる場合に、陣痛発来が該第2のP-LAPレベル測定から一定期間内であるとする、予測補助方法である。
【0020】
ここで、上記「一定レベル以下」とは、限定はされないが、例えば、第1のP-LAPレベル値を100%とした時に、第2のP-LAPレベル値が、90%以下であるような場合をいう。この値は、85%以下、あるいは80%以下であってもよい。
【0021】
一定期間内であるとは、例えば、第2のP-LAPレベル値が、90%以下である場合に、測定の当日~8日程度以内であることをいう。
【0022】
尿中のP-LAPレベル値は、公知の方法により測定することができ、その酵素の活性の程度を指標とすること、その酵素の量を指標とすることのいずれでも良い。
【0023】
ここで、尿は、蓄尿、随時尿のいずれでもあり得る。随時尿の中間尿であることが特に好ましい。尿の採取量は、10ml~200ml、好ましくは、10ml~100ml、さらに好ましくは、10mlml~100mlである。
【0024】
尿中のP-LAPレベル値のピークや割合を比較するにあたり、採尿や測定の条件は同じ又は同様にすることが好ましい。各妊婦について、同じ個人については、出来る限り同時間に採尿を行うことが好ましい。また、採尿した尿は、好ましくは、採尿してから速やかにP-LAPレベル値の測定に供されることが好ましい。
【0025】
尿中のP-LAPレベル値の測定前に前処理として濃縮を含む操作を行うことも可能である。この濃縮方法は特に限定されないが、分画分子量の限外ろ過膜を用いた方法、凍結濃縮、減圧または真空濃縮、加熱などが挙げられる。
【0026】
原尿の総タンパク質量の濃度は、0.001g/dL~0.6g/dL程度であるため、濃縮による前処理を行ってもよい。原尿を200~250倍に濃縮して分析に用いることができる。この濃縮液をそのまま測定に供することも可能であるが、さらに総タンパク質量を希釈して調整して測定に供することもできる。
【0027】
濃縮は、Vivaspin(登録商標、サルトリウス・ジャパン株式会社製)、アミコンウルトラ(メルクミリポア社製)などを使用して、製造者の指示に従って使用することもできる。
【0028】
希釈は、蒸留水や緩衝液を用いて行うことができ、濃縮尿の調整にも利用することができる。
【0029】
尿中のP-LAPレベル値は、例えば、L-ロイシン-p-ニトロアニリド法などの酵素法を用いて測定することができる。L-ロイシン-p-ニトロアニリド法は、試料中のP-LAPがL-ロイシン-p-ニトロアニリド(基質)に作用してL-ロイシンとp-ニトロアニリドを生成する際に、p-ニトロアニリドの生成に伴う吸光度の増加速度を測定することで、LAP活性値を求めるものである。L-ロイシン-p-ニトロアニリド法により尿中P-LAPを測定する場合、市販のロイシンアミノペプチダーゼ測定キットを使用することができる。
【0030】
酵素法により尿中P-LAPレベルを測定する場合、メチオニンの存在下で基質と試料を反応させてもよい。メチオニンの存在により、P-LAP以外のLAP、例えば肝臓由来のLAPの活性を阻害でき、胎盤由来のP-LAPのみの活性を測定することができるからである。メチオニン濃度は、例えば、市販のロイシンアミノペプチダーゼ測定キットを用いる場合、製品によって、厳密に測定系で20mM濃度とすることができる。
【0031】
尿中P-LAPレベル値の測定方法には、この他に、ELISA法などのイムノアッセイ法や質量分析法が包含される。イムノアッセイ法では、試料と抗P-LAP抗体とを接触させ、試料中のP-LAPと抗P-LAP抗体との複合体を検出することで、尿中P-LAP量を測定することができる。
【0032】
限定はされないが、具体的には、例えば、尿中のP-LAPは、モノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定法(EIA)により測定することができる。方法として、限定はされないが、P-LAPモノクロナール抗体で予めコーティングしたマイクロウェルに試料を入れ、反応の後、洗浄して、例えば、N-ethyl-aminoethanolを含む緩衝液に基質としてp-nitrophenyl-phosphateを加え、反応させ発色の後マイクロプレートリーダーで、特定波長で測定することもできる。
【0033】
また、限定はされないが、前記第1のP-LAPレベル値及び第2のP-LAPレベル値は、共にクレアチニンで補正された値であり得る。クレアチニン補正とは、水分摂取や発汗などの影響を受け、濃縮あるいは希釈されて排出される尿中成分を、常に尿中への排出されているクレアチニンで、その希釈率を把握し、これをP-LAPレベル値の尿中の定量値に乗じる方法で行われる。クレアチニン排泄量又はその活性を基準とし、尿中成分をそれとの相対量(単位/g・crea)で表現する。補正の方法は、各測定法に従ってそれぞれ当業者に公知の方法を適用することができる。
【0034】
第1のP-LAPレベル値は、典型的には、例えば妊婦健診で妊娠第35週又は第36週に受診した妊婦から採尿した試料を測定して求めることができる。あるいは、妊娠第35週と第36週のいずれも受診する妊婦の場合には、それぞれの時点において採尿した試料の2回分を平均した値であっても良い。
【0035】
正常妊娠では、妊娠36週以降の毎週陣痛発来まで妊婦健診が行われる。本発明における第2のP-LAPレベル値は、妊娠37週~41週のいずれかで採尿し、測定されるいずれの値であっても良い。仮に37週時点でP-LAPレベル値が第1のP-LAP値の一定以下のレベルにまで下降している場合には、その測定時から所定期間内(多くは8日程度以内)に陣痛発来と予測できる。仮に、37週で下降が見られなかった場合には、次の健診日を7日先として経過を観察することができる。これを、P-LAPレベル値の下降が見られるまで繰り返すことができる。
【0036】
本発明の予測補助方法は、例えばBishopスコアと適宜組み合わせて用いることも可能である。
【0037】
[バイオマーカー]
本発明はまた、尿中のP-LAPからなる、経腟正期産分娩の陣痛発来予測の為に用いられるバイオマーカーに関する。
【0038】
このような経腟正期産分娩の陣痛発来予測は、具体的には、
(A)妊娠第35週又は36週目に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAP(胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ)レベル、又は35週と36週に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルの平均値を測定し、第1のP-LAPレベル値を決定する工程;
並びに
(B)妊娠第37週目以降に得られた該妊婦の尿試料中のP-LAPレベルを測定し、第2のP-LAPレベル値を決定する工程;を含み、
該第1のP-LAPレベル値を100%とした時に、該第2のP-LAPレベル測定値がその90%以下になる場合に、陣痛発来が該第2のP-LAPレベル測定から8日以内であると予測するものであり得る。
【0039】
本発明のバイオマーカーはこのような予測に使用することが可能である。本発明のバイオマーカーの使用条件とその方法は、[経腟正期産分娩の陣痛発来までの時間の予測補助方法]の記載に準じる。
【0040】
[陣痛誘発剤の使用の為の情報提供方法]
本発明はまた、尿中のP-LAPを測定する工程を含む、誘発の決定の為の情報提供方法に関する。この方法は、健康上の問題に関係のない理由で陣痛が誘発される場合の主にオキシトシン投与による陣痛誘発の決定の為の情報提供方法であり、分娩予定日周辺での陣痛誘発法施行のタイミングの決定の為の情報提供方法である。本発明の情報提供方法の条件とその詳細は、[経腟正期産分娩の陣痛発来までの時間の予測補助方法]の記載に準じる。
【実施例0041】
次に、実施例や試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例や試験例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1:妊婦の尿中P-LAPレベル値測定〕
1. 第1のP-LAPレベル値測定
(1)試料
35週又は36週、又はその両方の時期に健診を受けた妊婦の尿を採取し、試料とした。試料中のP-LAPは採尿後できる限り速やかに行った。
(2)尿中P-LAP測定方法
ロイシンアミノペプチダーゼ測定用キット(株式会社セロテック)を使用した。具体的には、キット説明書に従い、あらかじめL-メチオニンを酵素反応時20mMになる量を添加した試験管に尿を1ml注入し、3,000rmpで5分間遠沈し、その上清を第一試薬160μLおよび第二試薬40μLをチューブに加え、L-メチオニンを終濃度20mMになるように添加し、尿を4μL加え、37℃で5分間インキュベートした。分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、LABOSPECT 008α)を用いて405nmの吸光度を測定した。このようにして得られた値をクレアチニン補正し、算出値を出した。
【0043】
2. 第2のP-LAPレベル値測定
(1)試料
37週、又はその後の時期に健診を受けた妊婦で、第1のP-LAPレベル値を測定した妊婦の尿を採取し、試料とした。
(2)尿中P-LAPレベル値測定方法
ロイシンアミノペプチダーゼ測定用キット(株式会社セロテック)を使用した。具体的には、キット説明書に従い、あらかじめL-メチオニンを酵素反応時20mMになる量を添加した試験管に尿を1ml注入し、3,000rmpで5分間遠沈し、その上清を分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、LABOSPECT 008α)を用いて405nmの吸光度を測定した。
このようにして得られた値をクレアチニン補正し、算出値を出した。
【0044】
3.陣痛発来時期の検証
第1及び第2のP-LAPレベル値を測定し、比較した妊婦について、実際の陣痛発来時期を検証し、その結果を表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から明らかなように、3例について、いずれも、P-LAPレベル値が85%以下にまで下降した状態から0~8日以内に陣痛が起こると予想され、予測どおりに陣痛が発来し、分娩に至った。
【0047】
識別番号2の妊婦から得られた第2のP-LAPレベル値は、38週目にピーク時の90%を下回らない若干の低下が見られ、39週目に再度上昇が見られ、40週時点でさらに90%を下回らない若干の低下が検出された。この妊婦については、40週目の測定時点から11日間陣痛の発来はなかった。ピーク後の下降が十分でない(P-LAPの減少が十分でない)ために、陣痛が遅延すると予測された。その後、40週の時点で予測したどおりに、その時点から8日以内には陣痛は発来せず、分娩予定日を超過して陣痛が発来し、分娩に至った。
【0048】
また、これまで、P-LAPレベル値を測定せずに陣痛誘発剤を使用して、陣痛発来に至らなかった例が散見されていたが、尿中のP-LAPレベル値を測定し、その値について、十分な下降が確認されてから陣痛誘発剤を使用した例については、すべて陣痛発来に至り、分娩を達成することができた。
【0049】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。