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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007466
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20240110BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240110BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240110BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/00
C08K5/09
C08K5/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106869
(22)【出願日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2022107960
(32)【優先日】2022-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】網谷 健
(72)【発明者】
【氏名】山田 飛将
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB042
4J002BB142
4J002BB162
4J002BB212
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002CL061
4J002EF036
4J002EF056
4J002EF066
4J002EF096
4J002EF116
4J002EG027
4J002EG037
4J002EG047
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性と流動性を両立し、さらに長期物性と成形品重量の安定性に優れるポリアミド樹脂組成物及びこれを用いた成形品の提供。
【解決手段】ポリアミド樹脂(A)、ポリオレフィン共重合体(B)、カルボン酸化合物(C)及び高級脂肪酸金属塩(D)を含有する、ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)、ポリオレフィン共重合体(B)、カルボン酸化合物(C)及び高級脂肪酸金属塩(D)を含有する、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記高級脂肪酸金属塩(D)の少なくとも一部は、前記ポリアミド樹脂組成物からなるペレット表面に付着している、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記高級脂肪酸金属塩(D)のアルカリ価に対する、前記カルボン酸化合物(C)の酸価の比(X)が下式(1)を満たす、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
0<X<25 (1)
【請求項4】
前記高級脂肪酸金属塩(D)は、融点が110℃以上210℃未満である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記カルボン酸化合物(C)はジカルボン酸である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリオレフィン共重合体(B)の一部は、前記ポリアミド樹脂(A)と親和性を有する官能基を有する、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミド樹脂組成物の総質量に対する前記ポリオレフィン共重合体(B)の含有量は、3.0質量%以上25.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリオレフィン共重合体(B)は、
エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方と、炭素数3以上のα-オレフィンとを共重合した、α-オレフィン重合体、又は、
前記α-オレフィン重合体を、極性基を含む化合物で変性した変性α-オレフィン重合体からなる、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド66、ポリアミド66/6I、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6I及びポリアミド6からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物を成形した成形品。
【請求項11】
前記成形品は、結束バンド及び自動車プロテクターのいずれか一方又は両方である、請求項10に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、その特徴である良流動性や、高い耐熱性や機械的特性を活かして、さまざまな工業分野で用いられている。近年、単一なポリアミド樹脂のみでは得られない、耐衝撃に対する特性を更に改良するため種々のゴムをポリアミドにブレンドし、複合化されたいわゆるポリマーアロイが提案されている。
【0003】
このようなポリマーアロイに用いられるゴムは、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-ジエン-プロピレン三元共重合体等のエチレン-α・オレフィン共重合体や、スチレン-ブタジエン共重合体、その水素化物であるスチレン-エチレン-ブタジエン共重合体等のスチレン系共重合体等である。
【0004】
しかし、これらの非極性ゴムとポリアミドは一般に非相溶なため、無水マレイン酸などα・β不飽和カルボン酸またはその誘導体等のポリアミドと反応可能な官能基を予め、ゴムに共重合または付加反応させたいわゆる変性ゴムが使用される。
【0005】
耐衝撃性を向上させるための具体的な提案として特許文献1記載の方法には、ジカルボン酸基またはその誘導体基を含有する、ビニル芳香族-オレフィン化合物ブロック共重合体に関する技術が提案されている。特許文献1は、未変性のブロック共重合体と比較して、変性ブロック共重合体はポリアミドとの相溶性が飛躍的に向上し、例えば、ポリアミドの耐衝撃性は大きく改善されることを開示している。
【0006】
一方、ポリアミドを良流動化する技術として、一般的にはポリマー分子量による粘度の調整が行われており、ポリアミド樹脂に低分子量のポリアミドオリゴマーを混合することが知られている。
【0007】
特許文献2は、良流動を目的としてポリアミド樹脂にアミド基1個当たりの炭素原子数が15未満かつ数平均分子量が3000以下の低分子量ポリアミドオリゴマーを混合することを開示している。
【0008】
特許文献3は、良流動を目的としてポリアミド樹脂にアミド基1個当たりの炭素原子数が10未満の低分子量ポリアミドオリゴマーを混合することを開示している。
【0009】
特許文献4は、良流動を目的としてポリアミド樹脂にアミド基1個当たりの炭素原子数が10未満かつ融点が280℃以上の低分子量ポリアミドオリゴマーを混合することを開示している。
【0010】
また、特許文献5は、カルボン酸化合物を添加してポリアミドの溶融粘度を下げることで良流動を図る技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63-254119号公報
【特許文献2】特開2004-107576号公報
【特許文献3】特開平05-194841号公報
【特許文献4】特表2006-510780号公報
【特許文献5】特開平04-076053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の方法では、ポリアミドとゴムのポリマーアロイは耐衝撃性を向上させるものの、同時にポリアミドの特徴である流動性を著しく低下させてしまう。特に、近年は、燃費向上のための自動車部品の軽量化を目的とした薄肉化や、電気及び電子部品の小型化、精密化に伴い、ポリアミドに対して良流動性が求められている。
【0013】
さらに特許文献1に記載の方法では、添加したゴムが成形機内のシリンダーなどの加熱部分に過度に粘着し、可塑化不良や流動性のばらつきを発生させ、成形品毎の重量が安定しにくい傾向がありポリアミドとゴムのポリマーアロイでより成形品毎の重量を安定させたい要求がある。
【0014】
また、特許文献2~4に記載の方法では低分子量のポリアミドオリゴマーを添加が原因で機械的強度が低下するという課題がある。また、特許文献5に記載の方法では機械的強度の低下の他、耐熱エージング性などの長期物性が低下してしまうという課題がある。さらにポリアミド樹脂の劣化が成形機内で促進され、流動性のばらつきや可塑化不良を引き起こすため成形品毎の重量の安定性に改善が求められている。
【0015】
上記事情により、ポリアミドをゴムによって耐衝撃性を改良しながら、ポリアミドの特徴である流動性を著しく損なうことなく、耐熱エージング性を代表とする長期物性と成形品毎の重量の安定性に優れるポリアミド樹脂組成物が求められている。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、耐衝撃性と流動性を両立し、さらに長期物性と成形品重量の安定性に優れるポリアミド樹脂組成物及びこれを用いた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]ポリアミド樹脂(A)、ポリオレフィン共重合体(B)、カルボン酸化合物(C)及び高級脂肪酸金属塩(D)を含有する、ポリアミド樹脂組成物。
[2]前記高級脂肪酸金属塩(D)の少なくとも一部は、前記ポリアミド樹脂組成物からなるペレット表面に付着している、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3]前記高級脂肪酸金属塩(D)のアルカリ価に対する、前記カルボン酸化合物(C)の酸価の比(X)が下式(1)を満たす、[1]又は[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
0<X<25 (1)
[4]前記高級脂肪酸金属塩(D)は、融点が110℃以上210℃未満である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
[5]前記カルボン酸化合物(C)はジカルボン酸である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
[6]前記ポリオレフィン共重合体(B)の一部は、前記ポリアミド樹脂(A)と親和性を有する官能基を有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
[7]ポリアミド樹脂組成物の総質量に対する前記ポリオレフィン共重合体(B)の含有量は、3.0質量%以上25.0質量%以下である、[1]~[6]のいずか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
[8]前記ポリオレフィン共重合体(B)は、エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方と、炭素数3以上のα-オレフィンとを共重合した、α-オレフィン重合体、又は、前記α-オレフィン重合体を、極性基を含む化合物で変性した変性α-オレフィン重合体からなる、[1]~[7]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
[9]前記ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド66、ポリアミド66/6I、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6I及びポリアミド6からなる群より選ばれる1種以上である、[1]~[8]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物。
[10][1]~[9]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂組成物を成形した成形品。
[11]前記成形品は、結束バンド及び自動車プロテクターのいずれか一方又は両方である、[10]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐衝撃性と流動性を両立し、さらに長期物性と成形品重量の安定性に優れるポリアミド樹脂組成物、及びこれを用いた成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施することができる。
【0020】
なお、本明細書において、「ポリアミド」とは主鎖中にアミド(-NHCO-)基を有する重合体を意味する。
【0021】
<ポリアミド樹脂組成物>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、ポリオレフィン共重合体(B)、カルボン酸化合物(C)及び高級脂肪酸金属塩(D)を含有する。
【0022】
ポリアミド樹脂組成物のアミノ末端量とカルボキシル末端量との総量に対するアミノ末端量の比{アミノ末端量/(アミノ末端量+カルボキシル末端量)}は、0.15以上0.45未満が好ましく、0.2以上0.4未満がさらに好ましく、0.25以上0.35以下がより好ましい。上記範囲内であることでポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の湿熱環境下での表面変色が抑制される傾向にある。
【0023】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物において、高級脂肪酸金属塩(D)のアルカリ価に対する、カルボン酸化合物(C)の酸価との比(X)は、0<X<25を満たすことが好ましく、0<X<15がより好ましく、1<X<11がさらに好ましい。比(X)が上記範囲を満たすことで、耐熱エージング性と、成形品重量の安定性に優れる傾向にある。なお、比(X)は、「カルボン酸化合物(C)の酸価/高級脂肪酸金属塩(D)のアルカリ価」である。
【0024】
ポリアミド樹脂組成物中のカルボン酸化合物(C)の酸価は、JIS K0070に基づき定義される。
すなわち、カルボン酸化合物(C)酸価は、試料1g中に含有する遊離脂肪酸、樹脂酸等を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数である。
【0025】
ポリアミド樹脂組成物中の高級脂肪酸金属塩(D)のアルカリ価は、JIS K0070に基づき定義される。
すなわち、高級脂肪酸金属塩(D)のアルカリ価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数である。
【0026】
≪ポリアミド樹脂(A)≫
ポリアミド樹脂(A)としては、以下に制限されないが、例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド410(ポリテトラメチレンセバカミド)、ポリアミド412(ポリテトラメチレンドデカミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド1010(ポリデカメチレンセバカミド)、ポリアミド1012(ポリデカメチレンドデカミド)、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド10T(ポリデカメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド11T(ポリウンデカメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド12T(ポリドデカメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド10C(ポリデカメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミド11C(ポリウンデカメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)、ポリアミド12C(ポリドデカメチレンシクロヘキサンジカルボキサミド)及びこれらの共重合体又は混合物等が挙げられる。
【0027】
中でも、ポリアミド樹脂(A)としては、ポリアミド66、ポリアミド66/6I、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6I及びポリアミド6からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0028】
また、ポリアミド樹脂(A)としては、機械的強度と流動性向上の観点から、ポリアミド66又はPA66とPA6の混合物が特に好ましい。
【0029】
ポリアミド樹脂(A)の末端基には、一般にアミノ基又はカルボキシ基が存在する。
ポリアミド樹脂(A)のアミノ末端基量及びカルボキシ末端基量の総モル量に対するアミノ末端基量の比[アミノ末端基量/(アミノ末端基量+カルボキシ末端基量)]は、0.1以上1.0未満であることが好ましく、0.15以上0.6以下であることがより好ましく、0.25以上0.5以下であることがさらに好ましい。末端基量の比が上記範囲内であることにより、ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の、色調及び機械的強度がより優れる傾向にある。
【0030】
ポリアミド樹脂(A)のアミノ末端基量は、10μmol/g以上100μmol/g以下であることが好ましく、10μmol/g以上70μmol/g以下であることがより好ましく、15μmol/g以上50μmol/g以下であることがさらに好ましい。アミノ末端基量が上記範囲内であることにより、ポリオレフィン共重合体(B)がポリアミド樹脂(A)中によく分散し、耐衝撃性に優れる傾向がある。
【0031】
ポリアミド樹脂(A)の末端基の濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。調整方法としては、特に限定されないが、例えば、末端調整剤を用いる方法が挙げられる。具体例として、ポリアミドの重合時に所定の末端濃度となる割合で、モノアミン化合物、ジアミン化合物、モノカルボン酸化合物、及びジカルボン酸化合物からなる群より選択される1種以上の末端調整剤を添加することが挙げられる。末端調整剤の溶媒への添加時期については、末端調整剤として本来の機能を果たす限り特に限定されず、例えば、上記したポリアミドの原料を溶媒に添加する際があり得る。
【0032】
上記モノアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性や価格等の観点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、又はアニリンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記ジアミン化合物は、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミン、2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐鎖状の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
上記モノカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記ジカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
ポリアミド樹脂(A)の粘度は特に限定されないが、ギ酸相対粘度RVが25以上50以下であることが好ましく、流動性と機械的特性のバランスにより優れるという観点から28以上45以下であることがより好ましく、31以上39以下がさらに好ましい。
【0037】
ポリアミド樹脂(A)の含有量はポリアミド樹脂組成物の総質量に対して、例えば、30質量%以上98質量%以下とすることができ、50質量%以上96質量%以下とすることができ、75質量%以上95質量%以下とすることができる。
上記範囲内であることで、成形したときの強度、耐熱エージング性、流動性に優れる傾向がある。
【0038】
≪ポリオレフィン共重合体(B)≫
ポリオレフィン共重合体(B)としては、以下に制限されないが、例えば、(エチレン及びはプロピレンのいずれか一方又は両方)/α-オレフィン系共重合体、(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/(α,β-不飽和カルボン酸及びα,β-不飽和カルボン酸エステルのいずれか一方又は両方)系共重合体を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0039】
[(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/α-オレフィン系共重合体]
(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/α-オレフィン系共重合体は、エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方と、炭素数3以上又は4以上のα-オレフィンとを共重合した重合体である。
【0040】
炭素数3以上のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0041】
α-オレフィンの炭素数は、例えば12以下である。
【0042】
また共重合体は、非共役ジエン等のポリエンを共重合したものであってもよい。非共役ジエンとしては、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジェン、1,5-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,5-オクタジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、2-メチル-1,5-へキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,5-ノルボルナジエン等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0043】
[(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/(α,β-不飽和カルボン酸及びα,β-不飽和カルボン酸エステルのいずれか一方又は両方)系共重合体]
(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/(α,β-不飽和カルボン酸及びα,β-不飽和カルボン酸エステルのいずれか一方又は両方)系共重合体は、エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方と、α,β-不飽和カルボン酸及びα,β-不飽和カルボン酸エステルのいずれか一方又は両方の単量体とを共重合した重合体である。
【0044】
α,β-不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸エステル単量体としては、これらα,β-不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0045】
ポリオレフィン共重合体(B)は、ポリアミド樹脂(A)に対して親和性を有する官能基をその分子中に含むことが好ましい。(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/α-オレフィン系共重合体は、極性基を含む化合物で変性されることにより、ポリアミド樹脂(A)に対して親和性を有する官能基をその分子中に含むことができる。極性基を含む化合物は、例えばカルボン酸及びその誘導体のいずれか一方又は両方、不飽和カルボン酸及びその誘導体のいずれか一方又は両方である。
【0046】
(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/(α,β-不飽和カルボン酸及びα,β-不飽和カルボン酸エステルのいずれか一方又は両方)系共重合体は、カルボキシル基及びカルボン酸エステル基のいずれか一方又は両方を有するため、ポリアミド樹脂(A)に対して親和性を有する官能基をその分子中に含む。本実施形態においては、更にカルボン酸及びその誘導体のいずれか一方又は両方、不飽和カルボン酸及びその誘導体のいずれか一方又は両方により変性されていてもよい。
【0047】
ポリアミド樹脂(A)に対して親和性を有する官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩、カルボン酸イミド基、カルボン酸アミド基、エポキシ基等が挙げられる。
【0048】
これらの官能基を含む化合物の例として、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、エンドビシクロ-[2.2.1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸及びこれらカルボン酸の金属塩、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ-[2.2.1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸無水物、マレイミド、N-エチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル等が挙げられる。これらは1種単独でも又は2種以上を組合せて用いることができる。これらの中では無水マレイン酸が好ましい。
【0049】
樹脂に、これらの官能基を導入する方法としては、(i)樹脂の重合時、官能基を有する共重合可能な単量体を共重合する方法、(ii)重合開始剤、連鎖移動剤等により、樹脂の分子鎖又は分子末端に官能基を導入する方法、(iii)官能基とグラフト化が可能な官能基とを有する化合物(グラフト化合物)を樹脂にグラフトさせる方法等が挙げられる。これらの導入方法は、単独で、あるいは適宜、組合せて用いることができる。
【0050】
これらの中でも、ポリオレフィン共重合体(B)として用いられる(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/α-オレフィン系共重合体は、不飽和カルボン酸又はその酸無水物等により酸変性された重合体であることが好ましく、(エチレン及びプロピレンのいずれか一方又は両方)/(α,β-不飽和カルボン酸及びα,β-不飽和カルボン酸エステルのいずれか一方又は両方)系共重合体は、あらかじめ有する官能基に加えて、さらに不飽和カルボン酸又はその酸無水物等により酸変性された重合体であることが好ましい。
【0051】
ポリオレフィン共重合体(B)に酸無水物基が含まれる場合、ポリオレフィン共重合体(B)における酸無水物基の含有量は、好ましくは0.3~3.0%、より好ましくは0.4~2.0%、さらに好ましくは0.4~1.5%である。酸無水物基の含有量が前記範囲にあることで耐衝撃性が良好になる傾向がある。
【0052】
ポリアミド樹脂組成物の総質量に対するポリオレフィン共重合体(B)の含有量は、1.0質量%以上30.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上25.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下がさらに好ましい。ポリオレフィン共重合体(B)が前記範囲内にあることで耐衝撃性及び流動性が良好になる傾向がある。
【0053】
≪カルボン酸化合物(C)≫
カルボン酸化合物(C)としては、特には限定されないが、モノカルボン酸及び又は2価のカルボン酸化合物から1種類以上から選ばれるのが好ましく、モノカルボン酸化合物としてはギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。2価のカルボン酸化合物としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸又はテレフタル酸等が挙げられる。
【0054】
中でもカルボン酸化合物(C)としては、ジカルボン酸化合物からアジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸から1種類以上が選ばれるのがさらに好ましい。
【0055】
カルボン酸化合物(C)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して、例えば、0.010質量%以上1.00質量%以下であり、好ましくは0.020質量%以上0.70質量%以下であり、さらに好ましくは0.040質量%以上0.40質量%以下である。カルボン酸化合物(C)が前記範囲内にあることで流動性が良好になる傾向がある。
【0056】
カルボン酸化合物(C)は、予めマスターバッチ及び又はタブレットとして担体となるポリマーで粒子化されたものを用いてもよい。この場合、担体となるポリマーとしては、カルボン酸化合物(C)が担体中に均一に分散するようなポリマーであることが好ましく、担体とカルボン酸化合物(C)が反応しないことが好ましい。
【0057】
そのようなポリマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、他のオレフィン、メタクリル酸、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル(アクリレート)、メタクリル酸エステル(メタクリレート)等のモノマーからなるポリマー、及びこれらのコポリマー等が挙げられる。中でも、担体となるポリマーとしては、オレフィン-アクリレートコポリマー又はオレフィン-メタクリレートコポリマーが好ましく、エチレン-アクリレートコポリマーがより好ましい。
【0058】
エチレン-アクリレートコポリマーの中ではエチレンーメチルアクリレートコポリマー(EMA)、エチレンーエチルアクリレートコポリマー(EEA)、エチレンーブチルアクリレートコポリマー(EBA)が挙げられ、中でも、エチレンーメチルアクリレートコポリマー(EMA)が好ましい。
【0059】
エチレン-アクリレートコポリマーの含有量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して、例えば、0.10質量%以上5.00質量%以下であり、好ましくは0.20質量%以上2.00質量%以下であり、さらに好ましくは0.30質量%以上1.00質量%以下とすることができる。エチレン-アクリレートコポリマーが前記範囲内であることで、耐衝撃性が良好となる傾向がある。
【0060】
≪高級脂肪酸金属塩(D)≫
高級脂肪酸金属塩(D)を構成する金属元素としては元素周期律表の第1族元素(アルカリ金属)、第2族元素(アルカリ土類金属)、第3族元素、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。中でも、金属元素としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、又はアルミニウムが好ましい。
【0061】
高級脂肪酸金属塩(D)を構成する脂肪酸は脂肪族モノカルボン酸を示す。中でも、炭素数8以上の脂肪酸が好ましく、炭素数8以上40以下の脂肪酸がより好ましい。脂肪酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分岐鎖状の、脂肪族モノカルボン酸が挙げられ、より具体的には例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、モンタン酸等が挙げられる。
【0062】
すなわち、高級脂肪酸金属塩(D)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸ナトリウム、ベヘン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム等が挙げられる。
【0063】
高級脂肪酸金属塩(D)の融点は80℃以上230℃未満が好ましく、110℃以上210℃未満であることがより好ましく、140℃以上180℃未満であることがさらに好ましい。上記範囲内であることで成形時の可塑化性の向上及び成形品の重量ばらつきを、より抑制できる傾向がある。
【0064】
高級脂肪酸金属塩(D)は、ポリアミド樹脂組成物のペレット中に包含された状態でもよいが、高級脂肪酸金属塩(D)の少なくとも一部は、ポリアミド樹脂組成物からなるペレット表面に付着している。
なかでもポリアミド樹脂組成物のペレット表面のみに付着した状態が、成形品毎の重量安定性の観点でより好ましい。
【0065】
ポリアミド樹脂組成物からなるペレット表面に、高級脂肪酸金属塩(D)が付着しているか否かは、ペレット表面を光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡(SEM)等の観察により確認でき、高級脂肪酸金属塩(D)の付着しているペレットは表面に多数の高級脂肪酸金属塩(D)が粒状に付着している形態が観察される。
【0066】
ポリアミド樹脂組成物からなるペレット表面に付着している高級脂肪酸金属塩(D)の定量には、まず、ペレット100gをアセトンで洗浄し、洗浄液を30分静置後に上澄み液を吸引ろ過する。次いで、吸引ろ過前後でのろ紙の重さを測ることで高級脂肪酸金属塩(D)の定量が可能である。
【0067】
前記ポリアミド樹脂組成物からなるペレット表面に付着している高級脂肪酸金属塩(D)の量はポリアミド樹脂組成物中の高級脂肪酸金属塩(D)の全量に対して、例えば、50%以上の割合が好ましく、70%以上の割合がより好ましく、80%以上の割合がさらに好ましい。上記範囲内であることで成形時の可塑化性の向上及び成形品の重量ばらつきを、より抑制できる傾向がある。
【0068】
ペレット表面に付着させる方法としては、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して0.01%以上0.07%以下の液状のポリエチレングリコールを予めペレット表面に均一付着させた後に、高級脂肪酸金属塩(D)を添加し、ブレンダーで攪拌することで付着させる方法が好ましい。
【0069】
高級脂肪酸金属塩(D)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の総質量に対して、例えば、0.010質量%以上0.50質量%以下が好ましく、0.020質量%以上0.30質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.20質量%以下がさらに好ましい。上記範囲内であることで成形時の可塑化性の向上及び成形品の重量ばらつきを、より抑制できる傾向がある。
【0070】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、前記(A)~(D)成分に加えて、本実施形態における効果を損なわない範囲で、必要に応じて、(E)その他添加剤を更に含有してもよい。
【0071】
その他添加剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、熱安定化剤、紫外線吸収剤、光劣化防止剤、可塑剤、滑剤、離型剤、核剤、難燃剤、着色剤、染色剤や顔料、他の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0072】
ここで、上記その他添加剤は、それぞれ性質が大きく異なるため、各成分についての、本実施形態の効果をほとんど損なわない好適な含有率は様々である。そして、当業者であれば、上記その他添加剤ごとの好適な含有率は容易に設定可能である。
【0073】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、ポリオレフィン共重合体(B)と、カルボン酸化合物(C)と、高級脂肪酸金属塩(D)、必要応じて、前記(E)成分と、を混合することにより製造することができる。
【0074】
前記(A)~(D)の各成分、並びに、必要に応じて、前記(E)の各成分と、の混合方法としては、例えば、以下の(1)~(3)の方法等が挙げられ、
(1)前記(A)~(D)の各成分、並びに、必要に応じて、前記(E)の各成分を、ヘンシェルミキサ-等を用いて混合し溶融混練機に供給し混練する方法。
(2)単軸又は2軸押出機で、前記(A)~(D)の各成分、並びに、必要に応じて、前記(E)成分を、予めヘンシェルミキサ-等を用いて混合して(A)~(D)の各成分、並びに、必要に応じて、前記(E)成分を含む混合物を調製し、当該混合物を溶融混練機に供給し混練する方法。
(3)単軸又は2軸押出機で、前記(A)~(C)の各成分、並びに、必要に応じて、前記(E)成分を、予めヘンシェルミキサ-等を用いて混合して(A)~(C)の各成分、並びに、必要に応じて、前記(E)成分を含む混合物を調製し、当該混合物を溶融混練機に供給し混練し、ペレット形状に成形したものの表面にタンブラー等を用いて(D)成分を均一に付着する方法。
【0075】
溶融混練の温度は、ポリアミド樹脂(A)の融点より1℃以上100℃以下程度高い温度が好ましく、ポリアミド樹脂(A)の融点より10℃以上70℃以下程度高い温度がより好ましい。
【0076】
溶融混練を行う装置としては、公知の装置であればよく、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、溶融混練機(ミキシングロ-ル等)等が好ましく用いられる。
【0077】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を製造する際の各成分の配合量は、上述したポリアミド樹脂組成物における各成分の含有量と同様である。
【0078】
<成形品>
本実施形態は、前記本実施形態のポリアミド樹脂組成物を成形した成形品である。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物によれば、従来公知の種々の方法、例えば射出成形や押出成形により各種部品の成形品を得ることが可能である。
【0079】
これら各種部品は、例えば、自動車用、機械工業用、電気および電子用、産業資材用、工業材料用、日用及び家庭品用として好適に使用できる。とりわけ、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、流動性と耐衝撃に優れ、成形品毎の重量の安定性が要求される特に結束バンド、自動車プロテクターで好適に使用できる。
【実施例0080】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
以下、本実施例及び比較例に用いたポリアミド樹脂組成物の各構成成分について説明する。
【0082】
<構成成分>
[ポリアミド樹脂(A)]
A-1:ポリアミド66(PA66)(INVISTA社製、型番:TORZEN U3600、融点262℃、ギ酸相対粘度(RV)37.0、アミノ基末端濃度55μmol/g、カルボキシ基末端濃度98μmol/g)
【0083】
ポリアミド樹脂(A)の融点は、JIS-K7121に準じて、PERKIN-ELMER社製のDiamond DSCを用いて測定した。
【0084】
ポリアミド樹脂(A)のギ酸相対粘度(RV)はASTM-D789に従って測定した。より詳細には、90質量%ギ酸(水10質量%)にポリアミド樹脂が8.4質量%となる割合で溶解させた溶液を用いて、25℃でギ酸相対粘度(RV)を測定した。
【0085】
ポリアミド樹脂(A)のアミノ基末端濃度は、中和滴定により以下のとおり測定した。
まず、得られたポリアミド3.0gを90質量%フェノ-ル水溶液100mLに溶解した。次いで、得られた溶液を用い、0.025Nの塩酸で滴定を行い、アミノ基末端濃度(μmol/g)を求めた。終点はpH計の指示値から決定した。
【0086】
ポリアミド樹脂(A)のカルボキシ基末端濃度は、中和滴定により以下のとおり測定した。
まず、得られたポリアミド4.0gをベンジルアルコ-ル50mLに溶解した。次いで、得られた溶液を用い、0.1NのNaOHで滴定を行い、カルボキシ基末端濃度(μmol/g)を求めた。終点はフェノ-ルフタレイン指示薬の変色から決定した。
【0087】
[ポリオレフィン共重合体(B)]
B-1:無水マレイン酸グラフトエチレン-ブテン共重合体(三井化学社製、商品名「TafmerMD715」、酸変性率0.75%)
B-2:無水マレイン酸グラフトエチレン-オクテン共重合体(DUPONT社製、商品名「FusabondN493D、酸変性率0.75%」
B-3:エチレン-ブテン共重合体(三井化学社製、商品名「TafmerTMDF605」)
B-4:エチレン-オクテン共重合体(商品名「ダウ・ケミカル社製、「エンゲージTM8180」)
【0088】
[カルボン酸化合物(C)]
C-1:アジピン酸(和光純薬工業製)
C-2:ドデカン二酸 (宇部興産製)
【0089】
[高級脂肪酸金属塩(D)]
D-1:ステアリン酸アルミニウム(堺化学製、商品名「SA♯1000」、融点160℃)
D-2:トリステアリン酸アルミニウム(堺化学製、商品名「SA♯2000」、融点120℃)
D-3:ステアリン酸カルシウム(日本油脂製、融点153℃)
D-4:モンタン酸ナトリウム(クラリアントジャパン製、商品名「Licomont NaV101」、融点170℃)
D-5:モンタン酸リチウム(クラリアントジャパン製、商品名「Licomont LiV103、融点200℃」
【0090】
[その他の成分(E)]
E-1:エチレンーアクリレートーコポリマー(日本ポリエチレン株式会社製、商品名「レスクパールEMA EB240H」)
【0091】
<成形品の物性及び評価方法>
[成形品の製造]
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、80℃で16時間以上24時間以下で乾燥し、ポリアミド樹脂組成物中の水分量を500ppm以下にした。次いで、水分量を調整した各ポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機(NEX‐50IV、日精樹脂株式会社製)を用いて、ISO3167に準拠して、多目的試験片(A型、ダンベル形引張試験片)を成形品として成形した。なお、多目的試験片の寸法は、全長≧170mm、タブ部間距離109.3±3.2mm、平行部の長さ80±2mm、肩部の半径24±1mm、端部の幅20±0.2mm、中央の平行部の幅10±0.2mm、厚さ4±0.2mmである。具体的な射出成形時の条件としては、射出及び保圧の時間:25秒、冷却時間:15秒、金型温度:80℃、シリンダ-温度:280℃とした。
【0092】
[評価1]耐衝撃性
「シャルピー衝撃試験」
前記多目的試験片Aを用いて、ISO179に準拠し、ノッチありシャルピー衝撃強度を測定した。
【0093】
[評価2]長期物性
「耐熱エージング試験」
前記多目的試験片Aを用いて、ISO527に準拠して引張速度5mm/分で引張試験を行い、初期引張強度(MPa)を測定した(S0)。次いで、各多目的試験片(A型)をISO188に準拠したオーブンに入れて、150℃で1500時間加熱して、耐熱老化試験を行った。1500時間後にオーブンから各多目的試験片(A型)を取り出し、23℃で24時間冷却させた。次いで、耐熱老化試験後の各多目的試験片(A型)をISO527に準拠して引張速度5mm/分で上述した方法と同様の方法で引張試験を行い、耐熱老化試験後の引張強度(MPa)を測定した(S1)。次いで、下記に示す式(3)を用いて、引張強度保持率(%)を算出した。
【0094】
引張強度保持率(%)=S1/S0×100 (3)
【0095】
得られた引張強度保持率から、以下の評価基準に従い、引張強度保持率を評価した。
【0096】
(評価基準)
◎:引張強度保持率が80%以上
〇:引張強度保持率が60%以上80%未満
△:引張強度保持率が40%以上60%未満
×:引張強度保持率が40%未満
【0097】
[評価3]流動性
「スパイラルフロー(SFD)」
以下の条件でポリアミド樹脂組成物の射出成形を行い、流動性を評価した。なお、スパイラルフローを測定する前にペレットは、80℃で16時間以上24時間以下で乾燥させ、ペレット水分率は、500質量ppm未満となったことを確認後、以下の条件で成形し、成形品流動長を計測した。
【0098】
(測定条件)
射出成形機:日精樹脂株式会社製、「NEX‐50IV」、型締め力50KN
測定用金型:金型内部溝幅(キャビティー幅)10mm、厚み2mmのスパイラル金型
金型温度:80℃
シリンダー設定温度:280℃
射出圧力:60MPa(射出速度はMax設定で、圧力でコントロール)
射出時間:10秒間
冷却時間:5秒間
計量回転数:150rpm
背圧:1MPa
【0099】
[評価4]成形品重量安定性
以下の条件でポリアミド樹脂組成物の射出成形を行い、成形品の重量安定性を評価した。
なお、成形前にペレットは、80℃で16時間以上24時間以下乾燥させ、ペレット水分率を500ppm未満とした。成形は以下の成形条件で行い、パージをした後に成形機に材料を供給し、30shot捨てた後に成形品のサンプリングを開始した。成形後は成形品を室温で30分以上静置し、重量を測定して標準偏差を算出した。
【0100】
(成形条件)
射出成形機:日精樹脂株式会社製、「NEX‐50IV」、型締め力50KN
使用金型:幅60mm、長さ60mm、厚み2mmの平板金型
金型温度:80℃
シリンダー設定温度:280℃
最大射出圧力:60MPa
射出速度:50mm/s
射出時間:10秒間
冷却時間:15秒間
計量回転数:100rpm
背圧:1MPa
成形本数:30 shot
【0101】
(評価基準)
◎:標準偏差0.30未満
〇:標準偏差0.30以上0.50未満
△:標準偏差0.50以上0.70未満
×:標準偏差0.70以上
【0102】
<ポリアミド樹脂組成物の製造>
[実施例1]
(ポリアミド樹脂組成物の製造)
東芝機械社製、TEM35mm2軸押出機(設定温度:280℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、ポリアミド樹脂(A)と、ポリオレフィン共重合体(B)、カルボン酸化合物(C)を予めブレンドしたものを供給した。ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしたものをブレンダー内に供給し、高級脂肪酸金属塩(D)を添加してペレット表面に高級脂肪酸金属塩を付着させ、ポリアミド樹脂組成物PA-a1を得た。各構成成分の含有量は表1に記載のとおりとした。
【0103】
[実施例2~5、実施例7、実施例9~18、比較例2、比較例6~7]
各構成成分を表1~3に記載の構成に変更した以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を得た。
【0104】
[実施例6]
(ポリアミド樹脂組成物の製造)
東芝機械社製、TEM35mm2軸押出機(設定温度:280℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、ポリアミド樹脂(A)と、ポリオレフィン共重合体(B)、カルボン酸化合物(C)、高級脂肪酸金属塩(D)を予めブレンドしたものを供給した。ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズし、ポリアミド樹脂組成物PA-a6を得た。各構成成分の含有量は表1に記載のとおりとした。
【0105】
[実施例8、比較例3~5、比較例8~9]
各構成成分を表1~3に記載の構成に変更した以外は実施例6と同様にポリアミド樹脂組成物を得た。
【0106】
[実施例19]
(ポリアミド樹脂組成物の製造)
東芝機械社製、TEM35mm2軸押出機(設定温度:280℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、ポリアミド樹脂(A)と、ポリオレフィン共重合体(B)、カルボン酸化合物(C)、高級脂肪酸金属塩(D)の半量を予めブレンドしたものを供給した。ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしたものをブレンダー内に供給し、残りの高級脂肪酸金属塩(D)の半量を添加してペレット表面に付着させポリアミド樹脂組成物PA-a19を得た。各構成成分の含有量は表1に記載のとおりとした。
【0107】
上記方法により、各種物性測定及び評価を行った。評価結果を下記表1~3に示す。なお、表1~3において、「高級脂肪酸金属塩(D)のペレット表面付着量」の行には、ペレタイズされたポリアミド樹脂組成物の総質量に対する、ペレット表面に付着している高級脂肪酸金属塩(D)の質量の割合が示されている。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
上記結果に示した通り、本実施形態のポリアミド樹脂組成物によれば、耐衝撃性と流動性を両立し、さらに長期物性と成形品重量の安定性に優れることが確認できた。