(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074673
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用負極材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240524BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240524BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
C01B33/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185991
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 忍
(72)【発明者】
【氏名】寿福 誠
(72)【発明者】
【氏名】大久 洋幸
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072AA20
4G072BB01
4G072BB05
4G072DD03
4G072DD04
4G072DD05
4G072EE01
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH02
4G072LL03
4G072MM26
4G072MM31
4G072QQ01
4G072TT01
4G072TT30
4G072UU30
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB11
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA06
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】負極材料をSi含有粒子が集合して成る塊状の乾燥固化体で構成した場合における溶媒中への分散性を高めることが可能なリチウムイオン電池用負極材料を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池用負極材料1は、Si含有粒子4が集合して成る塊状の乾燥固化体2で構成され、乾燥固化体2における充填率が25%~37%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si含有粒子が集合して成る塊状の乾燥固化体で構成されるリチウムイオン電池用負極材料であって、前記乾燥固化体における充填率が25%~37%であるリチウムイオン電池用負極材料。
【請求項2】
前記Si含有粒子の平均粒子径は1.0μm未満である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極材料。
【請求項3】
前記Si含有粒子は、平均粒子径が1.0μm未満である一次粒子が集合した二次粒子を含み、
前記二次粒子の平均粒子径は、1.0~20μmである、請求項1,2の何れかに記載のリチウムイオン電池用負極材料。
【請求項4】
前記乾燥固化体の平均粒子径は20μm超である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極材料。
【請求項5】
前記乾燥固化体が、カーボンブラック,ケッチェンブラック,アセチレンブラック,CNT(カーボンナノチューブ),グラフェンまたは酸化グラフェンから選ばれる少なくとも1種を更に含んでいる、請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極材料。
【請求項6】
請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極材料を製造する方法であって、
前記Si含有粒子を準備する準備工程と、
スラリー中の固形分濃度が50質量%~80質量%となるように、前記Si含有粒子を溶媒中に分散させる分散工程と、
前記スラリーを不活性ガス雰囲気下もしくは減圧下で乾燥させて前記塊状の乾燥固化体を得る乾燥固化工程と、
を有するリチウムイオン電池用負極材料の製造方法。
【請求項7】
前記Si含有粒子を分散させた前記スラリーを得るに際し、
前記準備したSi含有粒子を平均粒子径1.0μm未満に微粉砕した後、更に一次粒子としての前記微粉砕されたSi含有粒子をメカニカルミリング処理して、平均粒子径1.0~20μmに造粒化させた二次粒子を作製し、該二次粒子を前記スラリー中に分散させる、請求項6に記載のリチウムイオン電池用負極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン電池用負極材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は高容量、高電圧で小型化が可能である利点を有し、携帯電話やノートパソコン等の電源として広く用いられている。また近年、電気自動車やハイブリッド自動車等のパワー用途の電源として大きな期待を集め、その開発が活発に進められている。
【0003】
このリチウムイオン電池では、正極と負極との間でリチウムイオンが移動して充電と放電とが行われ、負極側では充電時に負極活物質中にLiが吸蔵され、放電時には負極活物質からイオンとしてLiが放出される。
従来、一般には正極側の活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)が用いられ、また負極活物質として黒鉛が広く使用されていた。しかしながら、負極活物質の黒鉛は、その理論容量が372mAh/gに過ぎず、より一層の高容量化が望まれていた。
【0004】
炭素系電極材料の代替としては、高容量化が期待できるSi等の金属材料(Siの理論容量は4198mAh/gである)が検討されている(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-126835号公報
【特許文献2】特開2013-235682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SiはLiとの合金化反応によりLiの吸蔵を行うため、Liの吸蔵・放出に伴って大きな体積膨張・収縮を生じる。このためSi粒子が割れたり集電体から剥離したりし、充放電を繰り返したときの容量維持特性であるサイクル特性が悪化する問題がある。これを解決するための手段としては、負極活物質としてのSi粒子を微細化することが有効であるが、微粉砕されたSi粒子については、可燃性を有し着火や燃焼の虞が生じるため取扱いが難しくなる。
【0007】
ここで、微細化されたSi粒子の難燃化を図るため、スプレードライ法によりSi粒子を集合された造粒体を製造する方法が知られている(例えば上記特許文献2参照)。
しかしながらスプレードライ法により製造されたSi造粒粉は、造粒粉の平均粒子径が大きく、密度が高いため溶媒中に分散し難い。このためペースト状として集電体の面に塗工する場合の均一性確保が難しく、また大きいままのSi造粒粉が存在すると塗工後の電極表面に線キズが入ってしまうなどの塗工不良の問題が生じ易かった。
【0008】
本発明は以上のような事情を背景とし、負極材料をSi含有粒子が集合して成る塊状の乾燥固化体で構成した場合における溶媒中への分散性を高めることが可能なリチウムイオン電池用負極材料を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
而してこの発明の第1の局面のリチウムイオン電池用負極材料は、次のように規定される。即ち、
Si含有粒子が集合して成る塊状の乾燥固化体で構成されるリチウムイオン電池用負極材料であって、前記乾燥固化体における充填率が25%~37%である。
このように充填率が規定された塊状の乾燥固化体の内部には多数の空隙が形成されているため、液体との接触面積が増加し、溶媒中への分散性を高めることできる。
【0010】
ここで、電池特性(具体的にはサイクル特性)を高める観点から、前記Si含有粒子の平均粒径は1.0μm未満とすることができる(第2の局面)。
【0011】
また、前記Si含有粒子は、平均粒子径が1.0μm未満である一次粒子が集合した二次粒子を含むことができる。この場合に前記二次粒子の平均粒子径は、1.0~20μmとすることができる(第3の局面)。
【0012】
また、負極材料の難燃性を高める観点から、前記乾燥固化体の平均粒子径は20μm超とすることができる(第4の局面)。
【0013】
またこの発明では、前記乾燥固化体が、カーボンブラック,ケッチェンブラック,アセチレンブラック,CNT(カーボンナノチューブ),グラフェンまたは酸化グラフェンから選ばれる少なくとも1種を更に含むように構成することができる(第5の局面)。
このように規定された第5の局面のリチウムイオン電池用負極材料では、Liを吸蔵するSi含有粒子の膨張・収縮が、その周囲に分散配置されたカーボンブラック等の炭素材料により抑制される。加えてこれら炭素材料はSiに比べて伝導性に優れているため、Si含有粒子に亀裂が発生し、集電体からの剥離が進行した場合でも、炭素材料を介して隣接するSi含有粒子や集電体との電気的接続の維持が図られる。第5の局面のリチウムイオン電池用負極材料によれば、これらの効果に基づいて、高い初期放電容量が得られるSiを活物質として用いた場合のサイクル特性を高めることができる。
【0014】
この発明の第6の局面のリチウムイオン電池用負極材料の製造方法は、次のように規定される。即ち、
第1の局面に記載のリチウムイオン電池用負極材料を製造する方法であって、
前記Si含有粒子を準備する準備工程と、
スラリー中の固形分濃度が50質量%~80質量%となるように、前記Si含有粒子を溶媒中に分散させる分散工程と、
前記スラリーを不活性ガス雰囲気下もしくは減圧下で乾燥させて前記塊状の乾燥固化体を得る乾燥固化工程と、
を有する。
このように規定されたリチウムイオン電池用負極材料の製造方法によれば、内部に多くの空隙が形成された第1の局面に記載の乾燥固化体を製造することができる。
【0015】
ここで、前記Si含有粒子を分散させた前記スラリーを得るに際し、
前記準備したSi含有粒子を平均粒子径1.0μm未満に微粉砕した後、更に一次粒子としての前記微粉砕されたSi含有粒子をメカニカルミリング処理して、平均粒子径1.0~20μmに造粒化させた二次粒子を作製し、該二次粒子を前記スラリー中に分散させることができる(第7の局面)。
このようにすればSi含有粒子におけるSi結晶面に由来する回折ピークの半値幅が広げられるため、リチウムイオン電池における電池特性を向上させることができる。また、二次粒子の平均粒径が1.0~20μmの範囲内であれば、電極作製時における電極面に線キズが入ってしまう等の塗工不良の問題も回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は本発明の一実施形態のリチウムイオン電池用負極材料を構成する乾燥固化体の模式図である。(B)は同乾燥固化体を構成するSi含有粒子を拡大して示した模式図である。
【
図2】同実施形態のリチウムイオン電池用負極材料における製造方法のフローチャートである。
【
図3】
図2の微粉砕処理および造粒化処理についてのフローチャートである。
【
図4】スラリー中の固形分濃度と乾燥固化体の充填率との関係を示した図である。
【
図5】乾燥固化体が更に炭素粒子を含んでいる変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の一実施形態のリチウムイオン電池用負極材料について具体的に説明する。
図1の(A)は本発明の一実施形態のリチウムイオン電池用負極材料を構成する乾燥固化体の模式図、(B)は同乾燥固化体を構成するSi含有粒子を拡大して示した模式図である。
図1において、1はリチウムイオン電池用負極材料(以下、単に負極材料と称する場合がある)、2は乾燥固化体、4は一次粒子、5は二次粒子、である。
本例では、微粉砕されたSi含有粒子から成る一次粒子4が集合した二次粒子5が形成され、この二次粒子5が多数集合して塊状に固められ乾燥固化体2が形成されている。
【0018】
一次粒子4は、純SiもしくはSi合金から成りLiを吸蔵する。
一次粒子4は、Liの吸蔵・放出に伴なう大きな体積膨張・収縮を抑制する観点から微細化するのが望ましく、本例における一次粒子4の平均粒子径は1.0μm未満とされている。好ましい平均粒子径は、0.1~0.7μmである。
ここで、一次粒子4の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察される粒子の輪郭線から得られる最大長さで規定される。そして一次粒子4の平均粒子径は、数~数十視野中から観察された粒子径の平均である。
【0019】
本例の一次粒子4は、メカニカルミリング処理により、X線回折結果におけるSi(111)面の回折ピークの半値幅(FWHM)の拡大が図られている。半値幅を拡大させることで電池の初期クーロン効率やサイクル特性を向上させることができる(電池特性を高めるために半値幅を拡大させることについては、例えば特開2015-522679等に記載されている)。当該半値幅の好ましい範囲は、0.2°以上であり、より好ましくは0.7°以上を例示することができる。
【0020】
なお、本例における一次粒子4は、純Siに代えてSi合金から成る原料組成物を用いて作製することも可能である。Si合金から成る原料組成物としては、Si、Sn、CuおよびX元素を主構成元素とするものを例示することができる。ここで、元素XはFe,Zr,Ni,Co,Mn,Ti,V,Crよりなる群の中から選択された1種以上の元素とすることができる。
【0021】
この場合一次粒子4は、その金属組織として、Liを吸蔵するSi相のほか、Si-X化合物相およびSn-Cu化合物相を含んでいる。
【0022】
Si-X化合物相は、Li吸蔵性に乏しくLiとの反応による膨張は非常に小さい。このためSi-X化合物相は、電極の構造を維持する骨格の役割を果たすことができる。Si-X化合物相は、1種の化合物のみで構成する場合のほか、2種以上の化合物で構成することも可能である。
他方、Sn-Cu化合物相を構成するSn-Cu化合物は、理論容量がSiよりも低く、Si-X化合物よりも高い。このSn-Cu化合物相は導電性に優れており、電子伝導ネットワークを形成するのに有効である。またSn-Cu化合物相はサイクル特性を向上させるのにも有効である。
なお、Si合金の組成はこれに限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更したものを使用可能である。
【0023】
二次粒子5は、複数の一次粒子4が集まった造粒体である。二次粒子5は、後述するメカニカルミリング処理により作製することができる。
二次粒子5の平均粒子径(メジアン径d50)は、1.0~20μmの範囲内である。負極材料1の難燃化を図る観点から二次粒子5の平均粒子径は1.0μm以上とする。但し、二次粒子5の平均粒子径が大き過ぎると、電極面に線状のキズを付けてしまうなどの塗工不良が生じることから、本例では二次粒子5の平均粒子径の上限を20μmとしている。ここで平均粒子径(d50)は、体積基準を意味し、レーザ回折・散乱式粒子分布測定装置を用いて測定することができる。
【0024】
乾燥固化体2は、複数の二次粒子5を集めて塊状に固められた固化体である。本発明者らの調査によれば、難燃性を高めるための目安のサイズは、平均粒子径(d50)で20μm超であり、本例で乾燥固化体2を平均粒子径(d50)で20μm超としている。ここで、乾燥固化体2のサイズは体積0.0034mm3以上とすることが好ましい。目開き150μmの篩を通過しないサイズ(0.15×0.15×0.15=0.0034)であれば、消防法における危険物から外れるからである。更に乾燥固化体2のハンドリング性を高めるためには、乾燥固化体2のサイズを体積125mm3以上のブロック状とすることが好適である。
【0025】
ただし、乾燥固化体2を大きなサイズとした場合であっても、負極作製時における塗工不良を回避するためには、乾燥固化体2が溶媒中で充分に解砕されて溶媒中での凝集体の大きさ(分散粒度)を20μm以下とすることが求められる。本例では、かかる分散性を確保するため乾燥固化体2における充填率を37%以下(空隙率を63%以上)としている。但し、過度に充填率を低くすると乾燥固化体2の自体の形状が崩れやすくなり、取扱い性や難燃性の低下が懸念されるため、本例では乾燥固化体2における充填率を25%~37%とする。
【0026】
<本負極材料の製造方法>
図2は本負極材料における製造方法のフローチャートである。同図で示すように、本負極材料1は、原材料準備S001、微粉砕処理S003、造粒化処理S005、容器充填S007および乾燥固化S009の各工程を経て製造される。
【0027】
先ず、原材料準備S001では、原材料としての原料金属粉(純Si粉もしくはSi合金粉)を準備する。所定の化学組成となるように各原料を量り取り、量り取った各原料を、アーク炉、高周波誘導炉、加熱炉などの溶解手段を用いて溶解させるなどして得た溶湯を、アトマイズ法を用いて急冷して原料金属粉を得ることができる。ここで準備される原料金属粉(アトマイズ粉)の平均粒子径(d50)は、20~100μmであることが望ましい。
また、アトマイズ法に代えてロール急冷法を用いて箔片化された金属組成物を原材料とすることも可能である。
【0028】
微粉砕処理S003では、準備した原料金属粉を粉砕装置に投入して平均粒子径1.0μm未満の一次粒子4を得る。粉砕装置としては、原料金属粉を所望の粒子径に粉砕できるものであれば特に制限はないが、ここでは遊星ボールミルを用いるものとする。
微粉砕処理S003は、
図3(A)で示すように、乾式粉砕S101、湿式粉砕S102、乾燥S103および解砕S104の工程を経て実行される。
図3(A)では、各粉砕工程における処理条件(回転数および処理時間)の一例が示してある。例えば、乾式粉砕工程S101では、遊星ボールミルで、準備した原料金属粉を回転数240rpmで30分粉砕処理し、平均粒子径(d50)が0.6μm程の粉砕物(一次粒子4)を得ることができる。
【0029】
湿式粉砕工程S102は、乾式粉砕工程S101で得られた粉砕物をアルコール等と共に湿式(泥状態)で粉砕する工程である。
湿式粉砕工程S102では、遊星ボールミルを用い、例えば240rpmで15分粉砕処理する。この際に添加される溶媒としては、メチル基またはエチル基などのアルキル基を含むアルコールやエーテルを選択することが可能である。アルコールの一例として、エタノールやメタノールを選択することができる。エーテルの一例として、メチルエーテルやエチルエーテルを選択することができる。エーテルは、シリコーン系オイル、石油エーテル、炭化水素系オイルあるいはナフテン系オイル等と混和しても良い。アルコールとしは、特にエタノールが好ましい。但し、処理時間が長くなると溶媒が粘調な液体となるため、処理時間は1時間以下とすることが好ましい。
【0030】
乾燥工程S103は、湿式粉砕工程S102で処理された粉砕物を容器内でボールとともに乾燥させアルコール等を除去する工程である。粉砕物に向けてアルゴンなどの不活性ガスを流すことにより、または真空乾燥により実施することができる。アルコール等が除去された後、Siを含有する粉砕物の表面にはオルトケイ酸テトラアルキル皮膜(またはオルトケイ酸テトラアルキル被膜が加水分解したSiOX被膜)が形成される。例えば湿式粉砕工程S102にてエタノールが添加された場合、Si(OC2H5)4で表されるオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)被膜が形成される。かかる被膜は後段で実施される乾式粉砕における固着を軽減させることができる。なお、湿式粉砕工程S102にてメタノールが添加された場合は、Si(OCH3)4で表されるオルトケイ酸テトラメチル(TMOS)被膜が形成される。
【0031】
解砕工程S104では、オルトケイ酸テトラアルキル皮膜が形成された粉砕物を回転数100rpmで1分の条件で解砕する。これにより粉砕物は、ボールまたは容器壁面からほぼ完全に簡単に剥離し、解砕紛として一次粒子4が回収される。
【0032】
次に実施される造粒化処理S005(
図2参照)では、微粉砕処理S003にて微粉砕した一次粒子4を造粒化し、造粒化した二次粒子5を含むスラリーを得る。また、Si結晶面に由来する回折ピークの半値幅を拡大させる。造粒化処理S005は、
図3(B)で示すように、乾式粉砕S111、湿式粉砕S112の工程を経て実行される。
【0033】
乾式粉砕工程S111は、前記微粉砕処理S003で得た一次粒子4(解砕紛)を乾式でメカニカルミリング処理し、Si結晶面に由来する回折ピークの半値幅を拡大させる。メカニカルミリング処理は、機械的エネルギーを付与しながら原料粉を摩砕混合する方法であり、この方法によれば、原料に機械的な衝撃及び摩擦を与えて粒子の粉砕及び/又は造粒を行うことができる。
表面にオルトケイ酸テトラアルキル皮膜が形成された粉砕物は、容器壁面またはボールから剥離し易くなっており、乾式粉砕工程S111では適度な固着と剥離が繰り返されることで、微粉化されたSi含有粒子の造粒化および半値幅の拡大が図られる。乾式粉砕工程S111では、造粒化した二次粒子(Si含有粒子)5が所望の平均粒子径および半値幅が得られるように、その処理条件を決定することができる。
【0034】
続く湿式粉砕工程S112では、溶媒を添加しての湿式粉砕により、造粒化した二次粒子5を含むスラリーが得られる。この湿式粉砕工程S112が、Si含有粒子を溶媒中に分散させる本発明における分散工程に相当する。
湿式粉砕工程S112ではスラリー中の固形分濃度が50質量%~80質量%となるように、二次粒子(Si含有粒子)5を溶媒中に分散させる。ここでスラリー中の固形分濃度を50質量%~80質量%の範囲とするのは、後段の乾燥固化S009において所望の充填率を有する乾燥固化体2を得るためである。
ここで添加される溶媒としては、メチル基またはエチル基などのアルキル基を含むアルコールやエーテルを選択することが可能である。アルコールの一例として、エタノールやメタノールを選択することができる。エーテルの一例として、メチルエーテルやエチルエーテルを選択することができる。エーテルは、シリコーン系オイル、石油エーテル、炭化水素系オイルあるいはナフテン系オイル等と混和しても良い。アルコールとしては、特にエタノールが好ましい。
【0035】
そして、造粒化処理S005(詳しくは湿式粉砕S112)で得られたスラリーを、
図2で示すように、所定形状を有する容器内に充填して(S007)、乾燥固化する(S009)。これにより、塊状に固められた乾燥固化体2が得られる。なお、乾燥固化の工程S009においては、不活性ガス雰囲気下もしくは減圧下で乾燥させることで、分散性に優れたポーラス状の乾燥固化体2を得ることができる。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。ここでは下記表1に示す5種の負極材料を作製し、見掛密度、充填率、分散性、難燃性について評価した。
【0037】
1.負極材料の作製
アトマイズにより作製された原材料紛としてのSi合金紛5gを、遊星ボールミルを用い、Ar雰囲気下で微粉砕処理して平均粒子径(d50)1.0μm未満の一次粒子を作製し、続く造粒化処理にて平均粒子径(d50)1.0μm~20μmの二次粒子とするとともに、二次粒子を所定の固形分濃度となるように溶媒中に分散させたスラリーを得た。かかるスラリーを容器に充填し乾燥固化して、5種のブロック状の負極材料(乾燥固化体)を作製した。ここでの負極材料の製造条件等は下記の通りである。
・Si合金の組成:71.4Si-23.6Zr-3Sn-2Cu(質量%)
・原材料紛(アトマイズ紛):平均粒子径(d50)30μm、真密度2.78g/cm3
・微粉砕処理条件:乾式240rpm×0.5hr、湿式240rpm×0.25hr、乾燥減圧下80℃×0.5hr、解砕100rpm×1分
・造粒化処理条件:乾式240rpm×30hr、湿式240rpm×0.25hr
・湿式溶媒:エタノール
・乾燥固化条件:Ar雰囲気下もしくは減圧下、25℃~70℃で1hr乾燥
・ここで5種の負極材料は、下記表1で示すように、スラリー中の固形分濃度、乾燥固化時の雰囲気および温度が異なっている。なお表1に示される雰囲気の欄に記載された「低真空」は105未満~102以上(Pa)、「中真空」は102未満~10-1以上(Pa)、「高真空」は10-1未満(Pa)である。
【0038】
【0039】
2.評価
2-1.見掛密度および充填率評価
作製したブロック状の乾燥固化体から立方体状の測定片を切り出し、その3辺の寸法(厚み、縦、横の各寸法)および重量を測定し、見掛密度を求めた。更にこの見掛密度を原材料紛の真密度(アトマイズ紛をアルキメデス法により測定した真密度)で除して充填率(%)を求めた。その結果を表1に示している。
【0040】
2-2.分散性評価
作製した乾燥固化体100質量部に対し、導電助材6質量部と結着剤19質量部を添加し、更に溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合し、ペーストを作製した。そして、グラインドゲージを用いて分散粒度を確認した。
分散粒度が20μm以下であれば、乾燥固化体をペースト化して集電体の面に塗工する時の塗工不良が抑えられることから、判定は、分散粒度が0~10μm未満であった場合を「◎」、分散粒度が10~20μmであった場合を「○」、分散粒度が20μm超の場合を「×」とした。その結果を表1に示している。
【0041】
2-3.難燃性評価
作製した乾燥固化体について、危険物第2類(可燃性固体)の判定試験である小ガス炎着火試験を下記に示す手順で行った。
(1)厚さ10mm以上の無機質断熱板の上に、試料としての乾燥固化体(3cm3程度)を置く。
(2)先端が長い携帯用簡易着火器具を用い、液化石油ガスの火炎を長さ約70mmに調節して、試料に10秒間接触(火炎と試料の接触面積は1~2cm2,接触角度約30度)させた後、試料から炎を遠ざける。
(3)上記(1)および(2)の操作を10回以上繰り返し、接炎から試料に着火するまでの時間と、燃焼が継続するかを確認する。
判定は、着火時間3秒以下の場合(第1種可燃性固体に該当する場合)及び着火時間3秒を超えて10秒以下の場合(第2種可燃性固体に該当する場合)を「×」、着火時間10秒を超える場合又は燃焼が継続しない場合(第2類の危険物に該当しない場合)を「〇」とした。その結果を下記表1に示している。
【0042】
以上のようにして得られた表1の結果から次のことが分かる。
実験No.1の乾燥固化体は、難燃性評価の判定が「○」である。しかしながら充填率が40.9%で本実施形態の規定範囲(25%~37%)よりも高いため、ペースト化した際の分散粒度は60~70μmと大きく、分散性評価の判定が「×」であった。
【0043】
実験No.2~5の乾燥固化体は、難燃性評価の判定は「○」である。また実験No.2~5の乾燥固化体における充填率は本実施形態の規定範囲内であり、ペースト化した際の分散粒度は20μm以下で分散性評価の結果も良好である。したがって実験No.2~5の乾燥固化体であれば、難燃性を考慮しての取扱い性および塗工時の分散性、共に優れた負極材料として使用できると推測される。
【0044】
得られた乾燥固化体の乾燥状態を調べてみると、表1で示すように、充填率が最も高い実験No.1が最も硬く、充填率が低くなるに従って軟らかくなる傾向が認められた。但し実験No.5の例では乾燥ムラが認められ、空隙が多く軟らかい部位と、空隙が少なく硬い部位との混在が確認された。
【0045】
図4は、得られた5種の乾燥固化体におけるスラリー中の固形分濃度と乾燥固化体としての充填率との関係を示した図である。
同図によれば、製造途中でのスラリー中の固形分濃度が高くなるほど、その後に得られる乾燥固化体の充填率が低くなる傾向が認められる。充填率を本実施形態の規定範囲(25~37%)とするためには、スラリー中の固形分濃度を50~80質量%とすることが好適であることが分かる。
【0046】
以上、本発明のリチウムイオン電池用負極材料について詳しく説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、純SiもしくはSi合金から成る一次粒子を集合(造粒化)させて二次粒子とした例であったが、本発明では、
図5で示すように、純SiもしくはSi合金から成る一次粒子4と炭素材料からなる炭素粒子10(
図5中では円形状で表されている)が集合した二次粒子5を用いて乾燥固化体を形成することも可能である。ここで、炭素材料は、カーボンブラック,ケッチェンブラック,アセチレンブラック,CNT(カーボンナノチューブ),グラフェンまたは酸化グラフェンから選ばれる少なくとも1種を含むように構成することができる。この場合には原材料粉としてのSi合金粉および炭素材料を所定の比率(例えば1:1)で図り取り、これらを原材料粉として、
図2で示すように、微粉砕処理、造粒化処理、容器充填および乾燥固化の各工程を実施すればよい。炭素材料が二次粒子を形成する段階で加わることによって、二次粒子内の導電性がより高まると共に、炭素材料のクッション効果によって乾燥時の緻密化が緩和され、よりペースト中に分散し易い乾燥固化体を得ることができる。
【0048】
また上記実施形態では、微粉砕処理および造粒化処理を実施した後に乾燥固化を行っているが、場合によっては、造粒化処理の工程を省略し、微粉砕処理で得られたスラリーを乾燥固化させて乾燥固化体を得るようにすることも可能である。