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特開2024-74693耐震補強用構造体、及びそれを使った耐震補強方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074693
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】耐震補強用構造体、及びそれを使った耐震補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240524BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240524BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20240524BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04H9/02 311
E04B2/56 651D
E04B1/26 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186020
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】500029822
【氏名又は名称】水谷 孝三
(74)【代理人】
【識別番号】100088214
【弁理士】
【氏名又は名称】生田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 孝三
(72)【発明者】
【氏名】堀田 修
【テーマコード(参考)】
2E002
2E139
2E176
【Fターム(参考)】
2E002FB15
2E002LA03
2E002MA12
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC02
2E139AC22
2E139BD15
2E176AA09
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】従来工法で建築されて築年数が長い古い木造家屋を耐震補強する方法であって、一般家庭の主婦が一人でも耐震補強できる方法、及び該方法に使用する耐震補強部材ユニットを提供する。
【解決手段】一対の棒状体(110、120)であって、各々の中心線が同一平面内にある一対の棒状体(110、120)と、前記一対の棒状体の一方の棒状体(第1の棒状体:110))の一方の端部と、他方の棒状体(第2の棒状体:120))の一方の端部とを連結する棒状体(第3の棒状体:130)と、前記一対の棒状体の前記一方の棒状体(第1の棒状体:110)の他方の端部と、前記他方の棒状体(第2の棒状体:120)の他方の端部とを連結する棒状体(第4の棒状体:140)とを有する構造体、及び該構造体を、従来工法で建築されて築年数が長い古い木造家屋の柱-梁(桁)で画成された平面空間内に積み木方式で設置する方法を提供する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の棒状体であって、各々の中心線が同一平面内にある一対の棒状体と、
前記一対の棒状体の一方の棒状体(第1の棒状体)の一方の端部と、他方の棒状体(第2の棒状体)の一方の端部とを連結する棒状体(第3の棒状体)と、
前記一対の棒状体の前記一方の棒状体(第1の棒状体)の他方の端部と、前記他方の棒状体(第2の棒状体)の他方の端部とを連結する棒状体(第4の棒状体)とを有する構造体。
【請求項2】
前記連結が、各端部において、相対する棒状体を固定することにより得られる
ことを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記第3の棒状体の中心線が第1の平面内にあり、前記第4の構造体の中心線が第2の平面内にあり、該第1の平面と該第2の平面とは相互に平行である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
前記第3の棒状体の中央部と前記第4の棒状体の中央部とが、スペーサーを介して連結されている
ことを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
前記棒状体の各々の中心線に直交する断面の形状が矩形である
ことを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の構造体。
【請求項6】
木造構造物の一対の柱材の中心線と一対の横架材の中心線とで画成された平面内に、前記第1の棒状体の中心線と前記第2の棒状体の中心線が延在するように、該一対の柱材と該一対の横架材とが画成する空間内に、請求項1~5のうちのいずれか1項に記載の構造体を設置する
ことを特徴とする木造構造物の耐震補強方法。
【請求項7】
前記設置が、前記一対の柱材の一方の柱材に前記第1の棒状体がその全長に亘って固定され、他方の柱材に前記第2の棒状体がその全長に亘って固定されている態様での設置である
ことを特徴とする請求項6に記載の木造構造物の耐震補強方法。
【請求項8】
前記設置が、前記一対の横架材の一方の横架材に前記第1の棒状体がその全長に亘って固定され、他方の横架材に前記第2の棒状体がその全長に亘って固定されている態様での設置である
ことを特徴とする請求項6に記載の木造構造物の耐震補強方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、在来工法で建築された木造家屋、木造構造物のうち、築年数が長い木造古家に対して、後付けで設置できる耐震補強ユニット、及び該耐震補強ユニットを後付け式に設置する方法(以下、「後付け式フレームパネル工法」)に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近い将来3軒のうち1軒が空き家になると言われる今日の日本においては、古家問題、特に、築年数が50年以上にもなるような木造家屋に起因する様々な問題を解決することは喫緊の課題であることはもはや一般大衆も認めることである。かかる社会背景の下で、様々な技術が開発・提案されており、代表的なものとして、以下がある。
【特許文献1】特開平9-21200号公報
【特許文献2】特開2003-352218号公報
【特許文献3】特開2006-104916号公報
【特許文献4】特開2008-106447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
築年数が50年以上にもなるような木造家屋は、ツーバイフォー工法が日本に導入される以前からの従来工法により建築されており、その中には未だ土壁が残っている木造家屋もあったり、既存の柱や土台などの構造耐力上重要な部材が、シロアリに食われて最早構造耐力部材としては機能しない状態になっている場合や、湿気によるカビの発生で腐朽して、仕口部分が、外見上は当初の形態を維持しているものの、外力を伝達する機能が無くなっている場合が一般的である。
【0004】
このような木造家屋に対して、後付けで耐震補強を施す場合の方法には、主に、1)新たな筋交いを入れる方法、2)既存の柱材と横架材の仕口部や接合部に制振装置を金物でビス留めする方法、3)厚み12mmの三六合板の全周を既存の柱材と横架材とにビス留めする方法、4)特殊な接着剤を使った包帯工法(SRF工法)による方法等がある。1)の筋交いを入れる方法には、筋交いの座屈長さを短縮して、筋交いの耐力を向上させるために、筋交いの中間部を間柱等に固定することが行われている。しかし、掛かる従来の方法では、筋交いの座屈前に、間柱等に、折れや割れが生じ、あるいは固定用の釘が抜けたりすることによって、間柱等が筋交いの座屈防止材として機能しない恐れがあると言われている(特許文献1)。この「固定用の釘やビスが抜けたりする」現象は、築年数が50年以上もなるような古家に既設の木材(柱材や横架材)においては頻繁に見られる現象である。
【0005】
また、制振ビルに使われるようなダンパーとその動作・機能が同じような小型のダンパーでもって地震時の振動エネルギーを吸収させることで、耐震化を図る技術も提案・開発されているが、これを木造家屋に導入するには、耐力壁とは別に、制振装置を設置するための耐震パネル等の無開口壁が必要となり、更には、既存の古くて粘りがなくなっている柱や梁、桁に金物でビス留め等する必要があるところ、固定のためのビスが効かないために、本来の機能が十分発揮できないという問題がある。
【0006】
これら従来技術は、基本的には、新築の木造家屋の制振・耐震を目的としており、新築の場合は、各種固定金物をビス留めする際の問題は余り表出しないが、古い木造家屋、特に、持主が亡くなったり、居住者が退去した後、長年放置されていたような場合には、その問題が顕著に表出する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
古い木造家屋の構造補強、耐震補強における上述のような潜在的な課題を解決することを目的とする本発明の基本的な技術的思想は、相互に独立して個々にバラバラな部材を、所定の構成となるように、相互に接合、接着させながら、既存の古い柱材-横架材(例えば、梁、桁等)の間に画成される平面空間内に、組み立てると同時に、これら既存の木材と一体化させることで、フレーム構造でありながら、構造力学的には、パネルと等価な物を形成することにあり、以下のような発明特定事項によりその特徴が記述できる。
【0008】
即ち、第1の発明は、一対の棒状体であって、各々の中心線が同一平面内にある一対の棒状体と、前記一対の棒状体の一方の棒状体(第1の棒状体)の一方の端部と、他方の棒状体(第2の棒状体)の一方の端部とを連結する棒状体(第3の棒状体)と、前記一対の棒状体の前記一方の棒状体(第1の棒状体)の他方の端部と、前記他方の棒状体(第2の棒状体)の他方の端部とを連結する棒状体(第4の棒状体)とを有する構造体に係る発明である。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記連結が、各端部において、相対する棒状体を固定することにより得られることを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、上記第1の発明又は第2の発明において、上記第3の棒状体の中心線が第1の平面内にあり、上記第4の構造体の中心線が第2の平面内にあり、該第1の平面と該第2の平面とは相互に平行であることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、上記第1~第3の発明において、上記第3の棒状体の中央部と上記第4の棒状体の中央部とが、スペーサーを介して連結されていることを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、上記第1~第4の発明において、上記棒状体の各々の中心線に直交する断面の形状が矩形であることを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、在来工法による古い木造構造物の耐震補強方法に係る発明であり、具体的には、古い木造構造物の一対の柱材の中心線と一対の横架材の中心線とで画成された平面内に、上記第1の棒状体の中心線と上記第2の棒状体の中心線が延在するように、該一対の柱材と該一対の横架材とが画成する空間内に、上記第1~第5の発明のいずれかの発明に係る構造体を設置することで、古い木造家屋の耐震化を、一般の素人でも、容易にできるようにする発明である。
【0014】
第7の発明は、上記第6の発明において、上記設置が、上記一対の柱材の一方の柱材に上記第1の棒状体がその全長に亘って固定され、他方の柱材に上記第2の棒状体がその全長に亘って固定されている態様での設置であることを特徴とする。
【0015】
第8の発明は、上記第6の発明において、前記設置が、前記一対の横架材の一方の横架材に前記第1の棒状体がその全長に亘って固定され、他方の横架材に前記第2の棒状体がその全長に亘って固定されている態様での設置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る上述の構造体は、それを構成する個々の部材を、既存の柱と梁や桁で画成された平面空間(既存の土壁を撤去した後に残る平面空間)内に、一つずつ積み木のごとく組み立てて設置することができるので、扱う部材の重さが、家庭の主婦でも一人で取り扱える程度に軽くすることが可能となる。
また、Engineered Woodと同様にして、近年の高度な接着剤を使えば、現場でEngineered Woodを形成できるので、従来は家庭の主婦が古い木造家屋の耐震補強するなんてことは想像を絶していたが、本発明に係る上述の構造体を、接着剤を使って、In-Situ Engineered Wood の手法でもって、組み立て前は個々のバラバラの部材でありながら、一旦組み立てて、既存の柱-梁、柱-桁、柱-土台等と接着剤でもって一体化した後では、向う側が透けて見えるフレームでありながら、構造力学的には、分厚い板と等価のパネルとして、外力に対抗可能となり、従って、簡便であり、また、低コストでありながら、効果的な耐震補強方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る構造体の正面図である。同図においては、外郭が正方形となっているが、縦長の長方形であっても、基本的な構成は同じである。
図2】本発明に係る構造体の背面図である。基本的には図1と同じ外観となる。
図3-A】本発明に係る構造体を上から見降ろしたときの平面図である。
図3-B】本発明に係る構造体を下から見上げたときの下面図である。
図4-A】本発明に係る構造体を左から見たときの左立面図である。
図4-B】本発明に係る構造体を右から見たときに右立面図である。
図5-1】本発明に係る構造体の模型の正面写真である。
図5-2】本発明に係る構造体の模型の背面写真である。
図5-3】本発明に係る構造体の模型の上面写真である。
図5-4】本発明に係る構造体の模型の下面写真である。
図5-5】本発明に係る構造体の模型の左側面写真である。
図5-6】本発明に係る構造体の模型の右側面写真である。
図5-7】本発明に係る構造体を既存の柱材-横架材と見立てた枠内の上半分の平面空間に、本発明の実施例を設置したときのイメージを示す模型の正面写真である。
図6図1の正面図で表された構造体の構成部材に参照番号を附記した図である。なお、参照番号130の棒状体と参照番号140の棒状体とは、相互に隔離して相互に平行な平面内に延在するが、同図から明らかなとおり、それらの中央部では、交差しているように見える。それらの間のギャップには、スペーサーが間挿されているが、図示はされていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、実施例及びそれの基となる模型を参照しつつ本発明を説明する。
【0019】
本発明に係る構造体は、木製が基本であるが、それを構成する各部材間は、固定接合されており、その接合方法は、接合点に集まる部材の端部において、全て一体化するような方法を採用し、そのときの接合具や接着剤は、場合に応じて適宜選択可能である。
【0020】
本発明の一実施例においては、木材が使用されているが、本発明と同じような構造力学的な特徴が確保できる材料であれば、その断面寸法、長さ等は、適宜選択可能である。
【0021】
本発明の構造体を構成する部材の厚さは同じ厚さであることが好ましく、その全体の厚さは、該構造体を既存の柱-梁が画成する平面空間内に設置したときに、その平面空間から面外に突出する部分が生じないような厚さであることが好ましい。
【0022】
本発明に係る構造体を構成する各部材の空間的相互関係、接合関係等は、図面と模型の写真を見れば、当業者には容易に理解できる構成となっているが、図6を参照しつつ参考までに説明すると以下のようになる。
一対の棒状体(110、120)であって、各々の中心線が同一平面内にある一対の棒状体(110、120)と、前記一対の棒状体の一方の棒状体(第1の棒状体:110))の一方の端部と、他方の棒状体(第2の棒状体:120))の一方の端部とを連結する棒状体(第3の棒状体:130)と、前記一対の棒状体の前記一方の棒状体(第1の棒状体:110)の他方の端部と、前記他方の棒状体(第2の棒状体:120)の他方の端部とを連結する棒状体(第4の棒状体:140)とを有する構造体である。なお、このとき、第3の棒状体と第4の棒状体は、それぞれ相互に離れた平面内に延在するが、構造体の正面、又は背面から見ると、それぞれの中央部にて交差するように見える。この交差する箇所には、第3の棒状体と第4の棒状体の間にスペーサー(図示せず)が固定接合されるのが好ましい。また、構造体を構成する部材の厚さは、全て同一であることが好ましい。
なお、一対の棒状体(110、120)はそれぞれタイバーとも呼称される。
【0023】
本発明に係る構造体の一実施例では、棒状体は、その断面が矩形で、長方形であり、使用した材木は、輸入材の所謂ワン・バイ・フォーである。また、構造体は、相互に相対する90cm角の柱のそれぞれ相対する面に、2×4(ツー・バイ・フォー)の角材を、その幅広の面を接着剤で接着し、その柱が支える梁の内側の面にも同様にして2×4(ツー・バイ・フォー)の角材を接着し、その柱を支える横架材についても同様に2×4(ツー・バイ・フォー)の角材を接着させて、これら2×4(ツー・バイ・フォー)の角材により囲まれた平面空間内に、図5-7のように設置した。設置した構造体を構成する部材には、全て、1×4(ワン・バイ・フォー)を使用した。構造体の外郭の平面サイズは、高さ約85.6cm、幅約72.8cmであった。この構造体(外郭が矩形)の各頂点を既存の柱及び梁(桁)に固定する際には、一般的な金具をビス留めしたが、本発明においては、一方の柱から加わる横荷重は、その柱と接合され一体化されている縦型のタイバーに伝わり、次に、参照番号130及び140を介して、着実に、向かって左側のタイバーに伝わり、それが、面接合している左側の柱に伝わることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、簡便で低コストな耐震補強用構造体が提供でき、また、家庭の主婦でも一人で、古い木造家屋の耐震補強をすることが可能となると言う観点において、産業上の利用価値が大きい。
【0025】
なお、本発明を実施例及び模型の写真を参照しつつ説明したが、本発明の作用機序、目的を逸脱しない範囲においては、様々な変形タイプ、改良タイプが考えられる。例えば、本発明の縦型のタイバーを、横型のタイバーに変更されたタイプ、あるいは、縦型タイバーと横型タイバーとの双方を具備し、全体として4層構成のタイプとすることも好適に適用できる。
図1
図2
図3-A】
図3-B】
図4-A】
図4-B】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図5-7】
図6