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▶ 株式会社リンレイの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074720
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】防滑性向上剤
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/02 20060101AFI20240524BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20240524BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
E04F15/02 C
C09D171/02
C09D5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186065
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】390039712
【氏名又は名称】株式会社リンレイ
(74)【代理人】
【識別番号】100074181
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 明博
(74)【代理人】
【識別番号】100206139
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 匡
(72)【発明者】
【氏名】平原 裕基
【テーマコード(参考)】
2E220
4J038
【Fターム(参考)】
2E220AA16
2E220AA45
2E220AB06
2E220BB03
2E220EA02
2E220GA35X
2E220GB32X
4J038JA55
4J038KA06
4J038KA09
4J038NA09
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】 小さな手間とコストで容易に既存のフローリングの防滑性を向上させる防滑性向上剤を得る。
【解決手段】 小さな手間とコストで容易に既存のフローリンの防滑性を向上させる防滑向上剤を得るために、防滑性向上剤にHLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させた。また、より好適な効果を生じさせるために、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの防滑性向上剤における含有量を0.3wt%以上とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローリングの防滑性を向上させる防滑性向上剤であって、
HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする防滑性向上剤。
【請求項2】
前記HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は0.3wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載の防滑性向上剤。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローリングの防滑性を簡易に向上させることができる防滑性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木質系板材を敷き詰めて形成されたフローリングは、住宅等で広く取り入れられ普及している。フローリングは美観に優れたものであるが、住宅に一般的に使用されるフローリングは表面の平滑性が高く滑りやすいため、居住者が転倒するおそれがある。また、近年、室内で犬を飼育する家庭が増加しているが、滑りやすいフローリングが犬の関節に負担をかけ、股関節系背不全や膝蓋骨脱臼を引き起こすことが指摘されている。
【0003】
そのため、フローリングの美観を損ねることなくフローリングの防滑性を高めることが求められている。このような要望に応えるものとして、床面あるいは床用化粧板基材上に着色熱可塑性樹脂層、絵柄模様層、表面に梨地状凹凸をする透明熱可塑性樹脂層、表面保護層を少なくともこの順に有する床用化粧シートにおいて、前記表面保護層を設けた後の表面の凹凸の高低差が10μm~40μmであり隣接する凸部間の幅が150μm~400μmであることを特徴とする床用化粧シートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このような床用化粧シートによれば、フローリングに用いることにより、人やペットが滑ったり転んだりすることを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-47221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の化粧シートの場合、床面に接着剤を用いて貼り付ける必要があり、既存住宅に施工するためにはフローリングの張り替え工事が必要となることから、大きな作業労力が必要となりまたコストもかかるといった問題がある。
【0007】
本発明は係る問題を解決し、小さな手間とコストで容易に既存のフローリングの防滑性を向上させる防滑性向上剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明に係る防滑性向上剤は、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする。
【0009】
前記HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は0.3wt%以上とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明に係る防滑性向上剤によれば、フローリングに塗布することにより容易にフローリングの防滑性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明に係る防滑性向上剤を実施するための形態の一例を説明する。
【0012】
本願発明に係る防滑性向上剤は、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有している。HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸ポリグリセリル-10、カプリン酸ポリグリセリル-10、カプリル酸ポリグリセリル-6、トリラウリン酸ポリグリセリル-10、ミリスチン酸ポリグリセリル-10、オレイン酸ポリグリセリル-10、ジオレイン酸ポリグリセリル-10、ステアリン酸ポリグリセリル-10、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-10などが挙げられる。
【0013】
本願発明におけるHLB値はグリフィン法により算出された理論値を用いる。多価アルコール型ノ二オン界面活性剤の理論値はエステルのけん化価(S)と脂肪酸中和価(N)の数値をHLB=20(1‐S/N)の式に当てはめることにより算出することができる。また、ポリエチレングリコール型ノ二オン界面活性剤の理論値はポリエチレングリコール部分の重量%(E)をHLB=E/5の式に当てはめることにより算出することができる。
【0014】
防滑性向上剤の他の成分としては水が挙げられるが、防滑性向上剤の効果を阻害しない範囲でアルコール系、グリコール系等の溶剤やアニオン、ノニオン等の活性剤、金属封鎖剤、香料、染料、防腐剤、除菌剤等を含むものとすることができる。
【0015】
防滑性向上剤全体におけるHLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、防滑性向上剤全体を100wt%とした場合に、0.3wt%以上とすることが好ましい。HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量の上限は特に限定されないが、含有量が0.3wt%以上であれば含有量を多くしても防滑性は必ずしも向上するものではないため、コスト等を考慮して1.0wt%程度であることが好ましい。
【0016】
このような防滑性向上剤の使用は、フローリングに滴下し全体に引き延ばすように塗布した後、乾燥させることにより行われる。防滑性向上剤の滴下前にフローリングを洗浄剤等を使用して洗浄しておくことが望ましい。防滑性向上剤の滴下量は特に限定されないが、あまりに少量であると十分な防滑性が得られず、あまりに多量であると乾燥に時間がかかるおそれがあることから、フローリング1平方メートルあたり1.0mL~2.0mL程度とすることが好ましい。
【0017】
防滑性向上剤の使用方法としてはスプレーなどを用いて床に直接散布した後に塗付具で塗り伸ばす方法、あらかじめ薬剤を含侵させた塗付具で床を拭き上げる方法などが挙げられる。塗付具としてはシート、モップ、ペーパータオルなどを使用することができる。
【0018】
防滑性向上剤が塗布されたフローリングは塗布前と比較して防滑性を向上させることができる。
【実施例0019】
以下、本発明を実施例の性能試験の結果により更に具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
<実施例1~27、比較例1~8>
表1~4に示す成分を水に順次加え、攪拌することによって、表1~4に示す組成からなる組成物を調製した。
【0021】
<試験1>
試験1では、洗浄剤(株式会社リンレイ製「NEWプロインパクト中性」30倍希釈液」)で洗浄、乾燥したフローリング(朝日ウッドテック株式会社製「ライブナチュラル」)に、表1及び表2に示す組成物を1.5mL/m2滴下し、塗布具(株式会社リンレイ製)「オールワックスワイパー張り替えシート」)で塗付し、塗付後1時間室温(23℃)放置してから温度23℃、湿度40%の環境下でCSR・D’を測定し、塗布前後のフローリングのCSR・D’の差分を算出した。
【0022】
ここで、CSR・D’とは、「日本建築学会構造系論文集 第585号」(2004年11月)のpp51~56に掲載された「携帯型床のすべり試験機(ONO・PPSM)の開発」において提示された試験機により測定される床のすべり抵抗をいう。具体的なCSR・D’の測定方法は次のとおりである。まず、測定対象床にONO・PPSMを設置する。そして、すべり片(発泡ゴムシートに麻織物を被せたもの)を測定箇所に全面接触させた後、ハンドルを回転させ、斜め上方18°の方向に引張加重速度約20kgfで引張る。次に、すべり片が明らかに動き始めるのを確認したうえで引張るのを停止し、停止するまでの最大引張荷重(Pmax)を読み取る。すべり片と錘を合わせた質量(x)と最大引張荷重(Pmax)から、CSR・D’=Pmax/xという関係式により、CSR・D’が算出される。
【0023】
以上の試験により得られたCSR・D’の差分の評価は、以下のとおりとした。

0.12以上 ・・・・・・・◎
0.05以上0.12未満 ・・・・・・・〇
0.02以上0.05未満 ・・・・・・・Δ
0.02未満 ・・・・・・・×

以上の試験1の結果は表1及び表2に示すとおりである。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
表1によれば、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む実施例1~10はいずれも塗布前と塗布後のCSR・D’の差分が0.03以上であり、フローリングの防滑性を向上させることができることが示された。また、ジオレイン酸ポリグリセリル-10を成分とする実施例7と実施例8を比較すると、含有量を0.20wt%とした場合はCSR・D’の差分が0.03であったが、含有量を0.30wt%とするとCSR・D’の差分が0.05となった。このことから、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は0.30wt%以上であることが好適であることが示された。
【0027】
表2の比較例1はHLB値が8.4未満のポリグリセリン脂肪酸エステルであるトリラウリン酸ポリグリセリル-6を0.30wt%含有させた組成物を試験した結果を示すものである。この結果によれば、比較例1のCSR・D’の差分は0.01であり、組成物に含有させるポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が8.4未満の場合はフローリングの防滑性が十分に向上しないことが示された。つまり、本願発明の効果を生じさせるにはポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が8.4以上である必要があることが示された。
【0028】
表2の比較例2~8は、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステル以外の物質を0.30wt%含有させた組成物を試験した結果を示すものである。この結果によれば何れの比較例もCSR・D’の差分が0.00以下であり、HLB値が8.4以上であってもポリグリセリン脂肪酸エステル以外の物質では、本願発明の効果は生じないことが示された。
【0029】
<試験2>
試験2は、洗浄剤(株式会社リンレイ製「NEWプロインパクト中性」30倍希釈))で洗浄、乾燥したフローリングNo.1(朝日ウッドテック株式会社製「ライブナチュラル」)、フローリングNo.2(パナソニック株式会社製「フィットフロアー」)、フローリングNo.3(大建工業株式会社製「フォレスハード」)及びフローリングNo.4(大建工業株式会社製「エクオスミラー」)に、表3の組成物を1.5mL/m2を滴下し、塗付具(株式会社リンレイ製「オールワックスワイパー」)で塗付し、塗付後1時間室温(23℃)で放置してから温度23℃、湿度40%の環境下でCSR・D’を測定し、塗布前後でのCSR・D’の差分を算出した。評価は試験1と同様に行った。なお、フローリングNo.1~4は日本国内で広く使用されているフローリングである。以上の試験2の結果は表3に示すとおりである。
【0030】
【表3】
【0031】
表3によれば、実施例1及び実施例11~21の何れでもCSR・D’が0.05以上であることから、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを0.30wt%以上含有する組成物がフローリングの種類を問わずその防滑性を向上させるものであることが示された。また、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.30wt%の場合よりも0.50wt%の場合の方が、フローリングの防滑性は明らかに向上したが、0.50wt%と1.00wt%の場合は大きな差がなかったことから、HLB値が8.4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は0.50以上であるとより好適であり、コストを鑑みると含有量は1.00程度までとすることが好適であることが示された。
【0032】
<試験3>
試験3は、洗浄剤(株式会社リンレイ製「NEWプロインパクト中性」30倍希釈液」)で洗浄、乾燥したフローリングNo.1(朝日ウッドテック株式会社製「ライブナチュラル」大建工業株式会社製「フォレスハード」)に、コート剤A(株式会社リンレイ製「ハイテクフローリングコート」)、コート剤B(株式会社リンレイ製「オール」)及びコート剤C(株式会社リンレイ製「滑り止め床用コーティング剤」)を10mL/m2を滴下し、モップ(株式会社リンレイ製 「オールワックスモップ」)で塗付した。コート剤A~Cを塗付して6時間経過した後に、表4の組成物1.5mL/m2をコート剤の塗膜上に滴下し、塗付具(株式会社リンレイ製 「オールワックスワイパー張り替えシート」)で塗付し、塗付後1時間室温(23℃)で放置してから温度23℃、湿度40%の環境下でCSR・D’を測定し、塗布前後でのCSR・D’の差分を算出した。評価は試験1と同様に行った。なお、コート剤A、Bはアクリル樹脂を主成分としコート剤Cはウレタン樹脂を主成分とするものである。試験3の結果は表4に示すとおりである。
【0033】
【表4】
【0034】
表4によれば、実施例22~27のいずれでも防滑性の向上が認められ、本願発明はフローリングに滑り止めのコーティングが施されていても、その上から塗布することによってフローリングの防滑性を向上させることが示された。