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特開2024-74727排水構造、排水構造の施工方法、及び建築物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074727
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】排水構造、排水構造の施工方法、及び建築物
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/122 20060101AFI20240524BHJP
   E04H 1/04 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
E03C1/122 Z
E04H1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186075
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003498
【氏名又は名称】弁理士法人アイピールーム
(74)【代理人】
【識別番号】100167117
【弁理士】
【氏名又は名称】打越 佑介
(72)【発明者】
【氏名】若林 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保 勝之
【テーマコード(参考)】
2D061
【Fターム(参考)】
2D061AA04
2D061AA05
2D061AB07
2D061AB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】階層によって区画された専用部分の数を含む仕様が異なる建築物が備える排水立て管の最適な数及び設置位置を提供すること。
【解決手段】区画された専用部分の数が異なる階層を少なくとも2組以上含み、上記階層の各々が上記専用部分と隣接する共用部分Saを含み、上記専用部分が最も多い下層階Lが隣接する3つ以上の専用部分を含む建築物に対し、上記建築物の上下方向に設けられる排水立て管1と、上記専用部分と排水立て管1とを繋ぐサイホン排水管2とを備え、排水立て管1は、共用部分Saのうち上記3つ以上の専用部分の略中間に相当する位置にあるメーターボックスSa1を基準に全ての階層を貫通する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画された専用部分の数が異なる階層を少なくとも2組以上含み、
前記階層の各々が前記専用部分と隣接する共用部分を含み、
前記専用部分が最も多い階層が隣接する3つ以上の専用部分を含む建築物に対し、
前記建築物の上下方向に設けられる排水立て管と、
前記専用部分と前記排水立て管とを繋ぐサイホン排水管とを備え、
前記排水立て管は、前記共用部分のうち前記3つ以上の専用部分の略中間に相当する位置を基準に全ての階層を貫通する
ことを特徴とする排水構造。
【請求項2】
前記階層の各々は、隣接する2つ以上の専用部分を含み、
前記排水立て管は、階層毎に前記2つ以上の専用部分からの排水を受ける
ことを特徴とする請求項1に記載の排水構造。
【請求項3】
前記サイホン排水管は、階層を形成する床スラブ上に位置する横引き管を有し、
前記横引き管は、前記床スラブのうち前記共有部分に形成された配管ピットを経由して前記排水立て管と連結する
ことを特徴とする請求項1に記載の排水構造。
【請求項4】
前記建築物は、集合住宅であり、
前記専用部分は、前記集合住宅内の住戸であり、
前記共用部分は、前記住戸に備わるメーターボックスと、前記住戸に沿って形成された共用廊下とを含み、
前記排水立て管は、前記メーターボックス内に配置され、
前記サイホン排水管は、前記床スラブと前記住戸の床とで形成された二重床間に位置し、
前記配管ピットは、前記共用廊下に沿って凹状に形成される
ことを特徴とする請求項3に記載の排水構造。
【請求項5】
区画された専用部分の数が異なる階層を少なくとも2組以上含み、
前記階層の各々が前記専用部分と隣接する共用部分を含み、
前記専用部分が最も多い階層が隣接する3つ以上の専用部分を含む建築物に対し、
排水立て管を前記建築物の上下方向に設けて前記共用部分のうち前記3つ以上の専用部分の略中間に相当する位置を基準に全ての階層を貫通させ、
前記専用部分と前記排水立て管とをサイホン排水管で繋ぐ
ことを特徴とする排水構造の施工方法。
【請求項6】
請求項1に記載の排水構造を備え、又は請求項5に記載の排水構造の施工方法を採用した建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば集合住宅の各住戸からの排水を処理する排水構造、この排水構造の施工方法、及びこの排水構造を備え、又はこの排水構造の施工方法を採用した建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な集合住宅の各住居の排水構造は、各階層を垂直方向に貫通する排水立て管と、キッチン等の水回り設備と排水立て管とをつなぐ横引き管とを備えている。排水立て管は、各階層のうち住居を含む専用部内又はメーターボックスやパイプスペースのような専用部外に相当する共用部内に配置されている。横引き管は、各階層を構成する床スラブ上に配置されており、排水立て管の配置によっては専用部内から共有部内に渡って配置されている。
【0003】
例えば、特許文献1のように、上層階に戸数の少ない大規模住戸、下層階に戸数の多い小規模住戸を有する集合住宅の場合、各階層における略中央部分に共用廊下やエレベーターが形成され、その周辺に給排水や配電といった設備が配置され、排水系を含む設備配管は上層階から下層階まで形成されたり、下層階のみ個別に形成されたりしている。
【0004】
また、特許文献2で開示されている排水構造(サイホン排水システム)は、排水立て管と、横引き管と、50cm以上の水頭をもつ合流部とからなり、横引き管がそのまま他の横引き管と合流することなく合流部へ接続されることで、水頭さの分だけ発生するサイホン力により横引き管内の水が排水される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】昭60-223575号公報
【特許文献2】特開2000-297447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
排水立て管を専用部内に設ける場合、上層階と下層階との住戸の面積・数・配置・間取りといった仕様を同じか同程度にしなければならず、換言すると、上下階の上記仕様が同じか同程度でなければ専用部内に排水立て管を設けられず、専用部内に排水立て管を設けることが上下階の上記仕様を制限してしまうことになるおそれがある。
【0007】
一方、排水立て管を共用部内に設ける場合、水回り設備から排水立て管が遠のくことによる排水効率の低下を予防するために、排水立て管に通じる横引き管に排水勾配を付ける分、二重床における床スラブから床材までの高さに相当する床下が高くなり、これにより天井高が相対的に低くなることを回避するために階高が高くなることに起因して、建築コストが割高になるおそれがある。
【0008】
排水立て管が専用部内であっても、特許文献1のように、上層階と下層階とで別々の場所に形成されれば、上下階の上記仕様が制限されないものの、排水立て管の数や設置位置が増えてしまう分、施工効率が下がったり管理負担が増えたりするおそれがある。また、特許文献1の排水立て管が共用部内であっても、上述した横引き管の排水勾配の課題を解決することについての記載も示唆もなく、さらに特許文献1に対して特許文献2の排水構造を採用して上記排水勾配の課題を解決することについての記載も示唆もない。
【0009】
すなわち、上層階と下層階との上記仕様が異なる建築物に対して特許文献2のようなサイホン排水システムを採用すれば、上述した横引き管の排水勾配の課題を解決できるのみならず、排水立て管の数や設置位置の最適化も実現する可能性があることに、発明者等は辿り着いた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、階層によって区画された専用部分の数を含む仕様が異なる建築物が備える排水立て管の最適な数及び設置位置を提供する排水構造、この排水構造の施工方法、及びこの排水構造を備え、又はこの排水構造の施工方法を採用した建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明における排水構造は、区画された専用部分の数が異なる階層を少なくとも2組以上含み、上記階層の各々が上記専用部分と隣接する共用部分を含み、上記専用部分が最も多い階層が隣接する3つ以上の専用部分を含む建築物に対し、上記建築物の上下方向に設けられる排水立て管と、上記専用部分と上記排水立て管とを繋ぐサイホン排水管とを備え、上記排水立て管は、上記共用部分のうち上記3つ以上の専用部分の略中間に相当する位置を基準に全ての階層を貫通することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、例えば建築物を集合住宅、区画された専用部分を住戸とし、上層階の住戸数より下層階の住戸数が多い場合、排水立て管が下層階に含まれる隣接する3つ以上の住戸と隣接する共用部分のうち上記3つ以上の住戸の略中間に相当する位置を基準に全ての階層を貫通することで、上層階の住戸にも下層階の住戸にも干渉しないことから、上層階と下層階とにそれぞれ排水立て管を施工しなくよいため、排水立て管の最適な数及び設置位置の実現が期待できる。
【0013】
「隣接する3つ以上の専用部分」のうち、上記専用部分の隣接状態は同一直線上であってもL字のような折れ線上であってもよく、また上記専用部分の数は4つでも5つ以上でもよいが、建築物のタイプや階層毎の専用部分の数やサイホン排水管の配管経路を含む施工管理上、好ましい上記専用部分の隣接状態は同一直線上であり、また好ましい上記専用部分の数は3つ又は4つである。
【0014】
また、上記階層の各々は、隣接する2つ以上の専用部分を含み、上記排水立て管は、階層毎に上記2つ以上の上記専用部分からの排水を受けるのが望ましい。
【0015】
この構成によれば、例えば住戸数の少ない上層階でも住戸数の多い下層階でも1本の排水立て管で階層毎に2つ以上の住戸から排水を流せることから、排水立て管の最適な数及び設置位置の実現がさらに期待できる。
【0016】
また、上記サイホン排水管は、階層を形成する床スラブ上に位置する横引き管を有し、上記横引き管は、上記床スラブのうち上記共有部分に形成された配管ピットを経由して上記排水立て管と連結するのが望ましい。
【0017】
この構成によれば、例えば住戸の水回り設備から排水立て管までの距離が遠いため、横引き管を水回り設備から住戸の床下を経由して排水立て管に直接連結できなくても、この床下から床スラブ上に露出させずに配管ピットを経由して排水立て管に間接的に連結できることから、横引き管が住戸外の他の設備・建具・配管等及びこれらの施工に干渉せずに排水を排水立て管に流せる効果を期待できる。
【0018】
また、上記建築物は、集合住宅であり、上記専用部分は、上記集合住宅内の住戸であり、上記共用部分は、上記住戸に備わるメーターボックスと、上記住戸に沿って形成された共用廊下とを含み、上記排水立て管は、上記メーターボックス内に配置され、上記サイホン排水管は、上記床スラブと上記住戸の床とで形成された二重床間に位置し、上記配管ピットは、上記共用廊下に沿って凹状に形成されるのが望ましい。
【0019】
この構成によれば、一般的な集合住宅の仕様を本発明用として大幅に変更する必要が無く、共用部分として従来のメーターボックスや共用廊下を本発明の実施に兼用できることから、排水立て管の配置に関わらず住戸毎の間取りも検討しやすく、階高を上げる必要もないため、本発明用の設計や施工の工数を抑えられる効果を期待できる。
【0020】
また、本発明における排水構造の施工方法は、区画された専用部分の数が異なる階層を少なくとも2組以上含み、上記階層の各々が上記専用部分と隣接する共用部分を含み、上記専用部分が最も多い階層が同一直線上で隣接する3つ以上の専用部分を含む建築物に対し、排水立て管を上記建築物の上下方向に設けて上記共用部分のうち上記3つ以上の専用部分の略中間に相当する位置を基準に全ての階層を貫通させ、上記専用部分と上記排水立て管とをサイホン排水管で繋ぐことを特徴とする。
【0021】
また、本発明における建築物は、上述した排水構造を備え、また上述した排水構造の施工方法を採用したことを特徴とする。
【0022】
なお、建築物とは、例えば、集合住宅・戸建住宅・仮設住宅・学校・病院・高齢者施設・障害者施設・各種商業施設であり、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造といった構造やサイズを限定しない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、要するに、階層によって区画された専用部分の数を含む仕様が異なる建築物が備える排水立て管の最適な数及び設置位置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態における建築物の下層階、中層階、及び上層階の平面概念図である。
図2】上記下層階の一部を拡大した部分拡大平面概念図である。
図3】上記下層階の一部を拡大した部分拡大断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図1図3を参照しつつ、本発明の一実施形態における排水構造(以下「本排水構造」ともいう。)について説明する。これらの図において、複数個存在する同一の物や部位については、一つの物や部位のみに符番した部分もある。説明の便宜上、所定の物や部位、この物や部位の引き出し線をかくれ線(破線)で示した部分もある。説明において、上方、下方、側方、垂直方向、水平方向等の向きを示す用語は、基本的に通常の建築物を基準とし、これ以外を基準にする場合は適宜説明する。
【0026】
<本排水構造を採用する建築物の概要>
上記建築物は、区画された専用部分に相当する住戸の数が異なる階層を少なくとも2組以上含む集合住宅であり、直線状や湾曲状の外廊下に沿って住戸を複数含むタイプ(以下「外廊下式」ともいう。)でも、コの字状や四角状に折れ曲がった内廊下を囲むように住戸を複数含むタイプ(以下「内廊下式」ともいう。)でもよく、例えば階数が20階超の超高層マンション、6~20階の高層マンション、4~5階の中層マンション、2~3階の低層マンションであってもよく、外廊下式は板状型でも雁行型でもこれら以外の型でもよい。
【0027】
図1に示す集合住宅は、内廊下式の超高層マンションであり、付番しない構造柱や構造壁といった公知技術により形成された所定の部位を備え、住戸の数が異なる下層階L、中層階M、及び上層階Hといった3組の階層を含む。下層階Lは、住戸の数が最も多く、同一直線上で隣接する少なくとも3つの住戸を含んでおり、中層階Mは、下層階L及び/又は上層階Hの住戸の数及び区画に応じて区画された隣接する2つ以上の住戸を含み、上層階Hは、下層階L及び/又は中層階Mの住戸の数及び区画に応じて区画された隣接する2つ以上の住戸を含み、下層階Lは住戸L1~L11、中層階Mは住戸M1~M7、高層階は住戸H1~H6を含む。下層階L、中層階M、及び上層階Hは、各住戸と隣接する共用部分Saと、共用部分Saより内側に設けられた別の共用部分Sbを含む。
【0028】
住戸の各々は、図示しないキッチン・トイレ・洗面所・風呂といった水回り設備・リビング・寝室・洋室・和室等を備え、住戸全体の広さ並びに間仕切られた水回り設備や部屋の広さ及びこれらで構成された間取りを限定しない。共用部分Saは、住戸に隣接するメーターボックス又はパイプスペースSa1(以下、単に「メーターボックスSa1」という。)と、各住戸に沿って形成された共用廊下Sa2とを含む。共用部分Sbは、エレベーターや非常階段を含む。
【0029】
メーターボックスSa1の各々は、下層階Lでは住戸L2、L6、L10用、中層階Mでは住戸M2、M4、M6用、上層階Hでは住戸H1、H3、H5用であり、少なくとも下層階Lでは同一直線上で隣接する各住戸の略中間に位置し、例えば下層階Lでは住戸L2用として住戸L1、L2、L3、L4の略中間に相当する住戸L2とL3との境界付近、住戸L6用として住戸L5、L6、L7、L8の略中間に相当する住戸L6とL7との境界付近、住戸L10用として住戸L9、L10、L11の略中間に相当する住戸L10の略中間にそれぞれ位置し、中層階Mでは住戸M2用として住戸M2の略中間、住戸M4用として住戸M4の略中間、住戸M6用として住戸M5、M6、M7の略中間に相当する住戸M6の略中間、上層階Hでは住戸H1用として住戸H1、H2の略中間に相当する住戸H1とH2との境界付近、住戸H3用として住戸H3、H4の略中間に相当する住戸H3とH4との境界付近、住戸H5用として住戸H5、H6の略中間に相当する住戸H5とH6との境界付近にそれぞれ位置する。メーターボックスSa1以外の図示しないメーターボックスは、各住戸に隣接する位置にあってもよい。
【0030】
<本排水構造の詳細>
図1に示すように、本排水構造は、共用部分Saのうち下層階Lの3つ以上の住戸の略中間に相当する位置にあるメーターボックスSa1を基準に全ての階層を垂直方向に貫通する排水立て管1と、住戸の各々に備わった水回り設備と排水立て管1とを繋ぐサイホン排水管2とを備える。排水立て管1及びサイホン排水管2は公知技術により形成されており、素材・寸法・形状等の仕様を限定しない。排水立て管1は、各階層の住戸用のメーターボックスSa1に収まるように配置されている。
【0031】
排水立て管1は3本であり、下層階Lの住戸L2用、中層階Mの住戸M2用、及び上層階Hの住戸H1用のメーターボックスSa1内に収まるように配置された第1排水立て管1aと、下層階Lの住戸L6用、中層階Mの住戸M4用、及び上層階Hの住戸H3用のメーターボックスSa1内に収まるように配置された第2排水立て管1bと、下層階Lの住戸L10用、中層階Mの住戸M6用、及び上層階Hの住戸H5用のメーターボックスSa1内に収まるように配置された第3排水立て管1cとであるが、下層階Lの住戸の数に応じて2本以下であっても4本以上であってもよい。
【0032】
サイホン排水管2は住戸毎に備わっており、下層階Lでは住戸L1用サイホン排水管2L1~住戸11用サイホン排水管2L11、中層階Mでは住戸M1用サイホン排水管2M1~住戸M7用サイホン排水管2M7、上層階Lでは住戸H1用サイホン排水管2H1~住戸H6用サイホン排水管2H6であるが、水回り設備の数や配置に応じて住戸毎に2本以上あってもよく、キッチンの排水用やトイレの排水用といった用途毎にあってもよい。
【0033】
第1排水立て管1a・第2排水立て管1b・第3排水立て管1cの各々は、下層階L毎・中層階M毎・上層階Hのそれぞれの階層毎に2つ以上の住戸からサイホン排水管2を介して排水を受ける。詳細には、第1排水立て管1aは、下層階Lでは住戸L1~L4、中層階Mでは住戸M1及びM2、上層階Hでは住戸H1及びH2から排水を受け、第2排水立て管1bは、下層階Lでは住戸L5~L8、中層階Mでは住戸M3及びM4、上層階Hでは住戸H3及びH4から排水を受け、第3排水立て管1cは、下層階Lでは住戸L9~L11、中層階Mでは住戸M5~M7、上層階Hでは住戸H5及びH6から排水を受ける。
【0034】
図2図1に示す下層階Lの住戸L1~L4に相当する部分を拡大した図である。図2に示すように、住戸L2のキッチンL2kに連結されたサイホン排水管2L1は、室内から直接メーターボックスSa1内に配置された第1排水立て管1aと連結する。一方、住戸L1のキッチンL1kに連結されたサイホン排水管2L1、住戸L3のキッチンL3kに連結されたサイホン排水管2L3、及び住戸L4のキッチンL4kに連結されたサイホン排水管2L4は、共用廊下Sa2に形成された配管ピットSa3を経由して住戸L2用のメーターボックスSa1内に配置された第1排水立て管1aと連結することで、他の住戸の範囲を跨がずに配管できる効果を期待できる。下層階Lの住戸L5~L8、住戸L9~L11、中層階Mの住戸M1・M2、住戸M3・M4、住戸M5~M7、上層階Hの住戸H1・H2、住戸H3・H4、住戸H5・H6も、上述した下層階Lの住戸L1~L4と同等の排水構造であるため、説明を省略する。
【0035】
図3(A)は図2に示す住戸L2の排水構造を示す部分拡大断面概念図、図3(B)及び(C)は図2に示す住戸L1の排水構造を示す部分拡大断面概念図である。図3(A)に示すように、住戸L2は、床スラブFaと床材Fbとで構成される二重床構造であり、床材Fb上に載置されたキッチンL2kを有し、壁W、Wで形成されたメーターボックスSa1と隣接する。キッチンL2kに連結したサイホン排水管2L2は、床スラブFa上に位置する横引き管21L2と、横引き管21L2の端部から略垂直に折れ曲がった竪管22L2とを有しており、付番しない排水トラップ、接続管、及び貯水槽を介してキッチンL2kと連結されてもよい。
【0036】
床スラブFaは、住戸L2の床を形成する第1床スラブFa1と、第1床スラブFa1より低く形成された第2床スラブFa2と、第1床スラブFa1及び第2床スラブFa2より高く形成された第3床スラブFa3とを含む。第2床スラブFa2上に充填されたモルタルMの高さは、第1床スラブFa1の高さと略同等である。
【0037】
横引き管21L2は、第1床スラブFa1から壁Wに形成された付番しない貫通孔を経由してモルタルMの上に設けられている。竪管22L2は、モルタルM及び第2床スラブFa2を貫通して第1排水立て管1aと合流するように設けられている。第1排水立て管1aは、モルタルM及び第2床スラブFa2を貫通し、メーターボックスSa1内に収まるように設けられている。第3床スラブFa3は共用廊下Sa2に該当し、メーターボックスSa1との境界付近に下方に凹んだ配管ピットSa3を有する。
【0038】
図3(B)及び(C)に示すように、住戸L1のキッチンL1kに連結したサイホン排水管2L1の横引き管21L1は、第3床スラブFa3に形成された付番しない貫通孔を経由して配管ピットSa3まで延び、配管ピットSa3内で折れ曲がってメーターボックスSa1の前まで延び、再び配管ピットSa3内で折れ曲がって第3床スラブFa3に形成された付番しない貫通孔を経由してメーターボックスSa1まで延び、メーターボックスSa1内で折れ曲がって竪管22L1と連結する。図3(B)に示すように、横引き管21L1は第2床スラブFa2上及び配管ピットSa3内でモルタルMに埋設されてもよい。
【0039】
<本排水構造の作用効果>
したがって、図1及び図2に示すように、上層階Hの住戸数より下層階Lの住戸数が多い集合住宅の場合、例えば第1排水立て管1aが下層階Lに含まれる同一直線上で互いに隣接する3つ以上の住戸L1~L4と隣接する共用部分Saのうち住戸L1~L4の略中間に相当する位置であるメーターボックスSa1を基準に全ての階層を貫通することで、上層階H・中層階M・下層階Lのいずれの住戸にも干渉しないことから、階層に応じてそれぞれ排水立て管を施工しなくてもよく、また、住戸数の少ない上層階Hでも住戸数の多い下層階Lでも1本の第1排水立て管1aで階層毎に2つ以上の住戸から排水を流せることから、排水立て管1の最適な数及び設置位置の実現が期待できる。
【0040】
また、図3(B)及び(C)に示すように、下層階Lの住戸L1のキッチンL1kから第1排水立て管1aまでの距離が遠いため、横引き管21L1をキッチンL1kから住戸L1の床下を経由して第1排水立て管1aに直接連結できなくても、配管ピットSa3を経由して第1排水立て管1aに間接的に連結できることから、例えキッチンL1kから第1排水立て管1aまで10m以上あっても、横引き管21L1が住戸L1外の他の設備・建具・配管等に干渉せず排水を第1排水立て管1aに流せる効果を期待できる。
【0041】
総じて、一般的な集合住宅の仕様を本排水構造用として大幅に変更する必要が無く、共用部分Saとして従来のメーターボックスSa1や共用廊下Sa2を本排水構造の実施に兼用できることから、排水立て管1の配置に関わらず住戸毎の間取りも検討しやすく、階高を上げる必要もないため、本排水構造用の設計や施工の工数を抑えられる効果を期待できる。また、住戸毎に排水立て管の伸長通気の設置も不要であり、住戸内に余分なパイプスペースも不要となることから、これらにより居住性が損なわれなくなる効果も期待できる。
【0042】
なお、本実施形態に示した排水構造は、上述した内容に限定されず、同等の効果を得られる限り、あらゆる部位の位置・形状・寸法や、部位同士の関係を含む。
【0043】
<本排水構造の施工方法の一例>
本排水構造の施工方法は、例えば図1に示すような区画された住戸の数が異なる下層階L、中層階M、及び上層階Hを含み、階層の各々が住戸と隣接する共用部分Saを含み、住戸が最も多い下層階Lが同一直線上で隣接する3つ以上の住戸を含む建築物に対し、排水立て管1を建築物の上下方向に設けて共用部分Saのうち3つ以上の住戸の略中間に相当する位置にあるメーターボックスSa1を基準に全ての階層を貫通させ、住戸と排水立て管1aとをサイホン排水管2で繋ぐ。メーターボックスSa1の位置は、設計段階で全ての階層における住戸の区画を決定した後だが、決定する前でもよく、例えば、上記位置を決定した後に上記区画を決定してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 排水立て管
1a 第1排水立て管、1b 第2排水立て管、1c 第3排水立て管
2 サイホン排水管
21 横引き管、22 竪管
L 下層階、M 中層階、H 上層階
L1~L11 下層階の住戸、M1~M7 中層階の住戸、H1~H6 上層階の住戸
Sa、Sb 共用部分
Sa1 メーターボックス、Sa2 共用廊下、Sa3 配管ピット
Fa 床スラブ、Fb 床
Fa1 第1床スラブ、Fa2 第2床スラブ、Fa3 第3床スラブ
図1
図2
図3