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特開2024-74770樹脂フィルム、無端ベルト及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074770
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、無端ベルト及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20240524BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20240524BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20240524BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240524BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
G03G15/00 552
G03G15/20 515
G03G15/16
C08G73/10
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175235
(22)【出願日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2022186038
(32)【優先日】2022-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀明
(72)【発明者】
【氏名】梶原 賢志
【テーマコード(参考)】
2H033
2H171
2H200
4F071
4J043
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BB03
2H033BB26
2H033BE03
2H171FA07
2H171FA10
2H171FA19
2H171FA24
2H171FA26
2H171GA20
2H171JA03
2H171JA12
2H171QA03
2H171QA08
2H171QA24
2H171QA29
2H171QB03
2H171QB16
2H171QB32
2H171QC03
2H171TA07
2H171UA03
2H171UA10
2H171UA12
2H171UA14
2H171VA02
2H171XA03
2H171XA11
2H171XA12
2H200FA09
2H200GB26
2H200HA03
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2H200JA02
2H200JC03
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2H200MA04
2H200MA17
2H200MC01
2H200MC03
4F071AA60
4F071AA60X
4F071AF15
4F071AF17
4F071AG28
4F071AH16
4F071AH17
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC05
4F071BC12
4J043PA08
4J043QB26
4J043QB41
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA47
4J043SB03
4J043TA14
4J043TA22
4J043TA47
4J043TA67
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4J043TB01
4J043UA022
4J043UA032
4J043UA082
4J043UA121
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4J043UB302
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4J043VA011
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA042
4J043VA051
4J043VA081
4J043XA16
4J043XA19
4J043YA06
4J043ZA31
4J043ZA33
4J043ZB11
4J043ZB51
(57)【要約】
【課題】繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムの提供。
【解決手段】ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、2200ppmを超え10000ppm以下である樹脂フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、
前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、2200ppmを超え10000ppm以下である樹脂フィルム。
【請求項2】
前記溶媒が、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記アルコキシ基含有アミド系溶媒が、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド及び3-nブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記エステル基含有アミド系溶媒が、5-ジメチルアミノ-2-メチル-5-オキソ-ペンタン酸メチルである請求項2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記溶媒が3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドである請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記樹脂層が、フェニレンジアミンに由来する構造単位、及びジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位を有するポリイミド樹脂を含み、
前記ポリイミド樹脂中の、前記フェニレンジアミンに由来する構造単位と、前記ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位の含有割合(フェニレンジアミンに由来する構造単位/ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位)が、mol比で、80/20以上99.7/0.3以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、2500ppm以上9000ppm以下である請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、6000ppm以上7000ppm以下である請求項6に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
前記溶媒の沸点が200℃以上280℃以下である請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
曲率半径Rが2mmのクランプを用いたMIT試験による耐折れ回数が300,000回以上である請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、
引張破断強度が270N/mm以上である樹脂フィルム。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなる無端ベルト。
【請求項12】
請求項11に記載の無端ベルトを備える画像形成装置。
【請求項13】
像保持体と、
像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成装置と、
トナーを含む現像剤により、像保持体の表面に形成された静電荷像をトナー画像として現像する現像装置と、
トナー画像を、トナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
トナー像を記録媒体に定着する定着装置と、を備え、
前記転写装置及び前記定着装置からなる群から選択される少なくとも1つが請求項11に記載の無端ベルトを有する画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、無端ベルト及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる溶媒群Aより選択された少なくとも1種の溶媒の含有量が50ppm以上2000ppm以下であるポリイミド樹脂層を有する無端ベルト。」が提案されている。
特許文献2には、「テトラカルボン酸二無水物に由来する成分およびジアミン化合物に由来する成分のうち、少なくとも一方の成分を2種類以上含有するポリイミド樹脂を含み、かつ、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる溶媒群Aより選択された少なくとも1種の溶媒の含有量が50ppm以上2000ppm以下であるポリイミド樹脂層を有する無端ベルト。」が提案されている。
特許文献3には、「像担持体と、該像担持体上に形成された潜像をトナーにより現像する現像手段と、該現像手段により現像されたトナー像が一次転写される中間転写ベルトと、該中間転写ベルト上に担持されたトナー像を記録媒体に二次転写する転写手段とを備えた画像形成装置に装備される中間転写ベルトであって、前記中間転写ベルトは、ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂であって、前記ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂は、残留溶媒として、5ppm以上5000ppm以下のγーブチロラクトンのみを含有することを特徴とする中間転写ベルト。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-223837号公報
【特許文献2】特開2019-045677号公報
【特許文献3】特開2014-170048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第一実施形態が解決しようとする課題は、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppm以下又は10000ppmを超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムを提供することである。
本発明の第二実施形態が解決しようとする課題は、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、引張破断強度が270N/mm未満である場合と比較して繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、
前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、2200ppmを超え10000ppm以下である樹脂フィルム。
<2> 前記溶媒が、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒
からなる群から選択される少なくとも1種である<1>に記載の樹脂フィルム。
<3> 前記アルコキシ基含有アミド系溶媒が、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド及び3-nブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記エステル基含有アミド系溶媒が、5-ジメチルアミノ-2-メチル-5-オキソ-ペンタン酸メチルである<2>に記載の樹脂フィルム。
<4> 前記溶媒が3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドである<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<5> 前記樹脂層が、フェニレンジアミンに由来する構造単位、及びジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位を有するポリイミド樹脂を含み、
前記ポリイミド樹脂中の、前記フェニレンジアミンに由来する構造単位と、前記ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位の含有割合(フェニレンジアミンに由来する構造単位/ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位)が、mol比で、80/20以上99.7/0.3以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<6> 前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、2500ppm以上9000ppm以下である<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<7> 前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、6000ppm以上7000ppm以下である<6>に記載の樹脂フィルム。
<8> 前記溶媒の沸点が200℃以上280℃以下である<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<9> 曲率半径Rが2mmのクランプを用いたMIT試験による耐折れ回数が300,000回以上である<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<10> ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、
引張破断強度が270N/mm以上である樹脂フィルム。
<11> <1>~<10>のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなる無端ベルト。
<12> <11>に記載の無端ベルトを備える画像形成装置。
<13> 像保持体と、
像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成装置と、
トナーを含む現像剤により、像保持体の表面に形成された静電荷像をトナー画像として現像する現像装置と、
トナー画像を、トナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
トナー像を記録媒体に定着する定着装置と、を備え、
前記転写装置及び前記定着装置からなる群から選択される少なくとも1つが<11>に記載の無端ベルトを有する画像形成装置。
【発明の効果】
【0006】
<1>に係る発明によれば、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppm以下又は10000ppmを超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
<2>、<3>又は<4>に係る発明によれば、溶媒がウレア系溶媒である場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
<5>に係る発明によれば、ポリイミド樹脂中の、記フェニレンジアミンに由来する構造単位と、ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位の含有割合(フェニレンジアミンに由来する構造単位/ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位)が、mol比で、80/20未満又は99.7/0.3超えである場合に比べ。繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
<6>に係る発明によれば、溶媒の含有量が2500ppm未満又は9000ppmを超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
<7>に係る発明によれば、溶媒の含有量が6000ppm未満又は7000ppmを超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
<8>に係る発明によれば、溶媒の沸点が200℃未満又は280℃を超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
<9>に係る発明によれば、曲率半径Rが2mmのクランプを用いたMIT試験による耐折れ回数が300,000回未満である場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも
屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
<10>に係る発明によれば、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、引張破断強度が270N/mm未満である場合と比較して繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
<11>に係る発明によれば、 ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppm以下又は10000ppmを超える樹脂フィルムからなる無端ベルトに比較して、又は引張破断強度が270N/mm未満である樹脂フィルムからなる無端ベルトに比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される無端ベルトが提供される。
<12>又は<13>に係る発明によれば、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppm以下又は10000ppmを超える樹脂フィルムからなる無端ベルトを備えた場合、又は引張破断強度が270N/mm未満である樹脂フィルムからなる無端ベルトを備えた場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される無端ベルトを備えた画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本実施形態に係る画像形成装置の他の一例を示す概略構成図である。
図3】第1の態様に係る定着装置の一例を示す概略構成図である。
図4】第2の態様に係る定着装置の一例を示す概略構成図である。
図5】本実施形態に係る無端ベルトユニットの一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0009】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0010】
<樹脂フィルム>
第一実施形態に係る樹脂フィルムは、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppmを超え10000ppm以下である。
【0011】
第一実施形態に係る樹脂フィルムは、上記構成により、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される。その理由は、次の通り推測される。
【0012】
樹脂層を有する樹脂フィルムは、屈曲した状態で使用される場合がある。屈曲部で繰り返し屈曲変形を受けると、屈曲部で疲労による割れを生じることがあった。
【0013】
第一実施形態に係る樹脂フィルムは、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppmを超え10000ppm以下である。溶媒の含有量を、樹脂層全体に対して、2200ppmを超える量とすることで、樹脂フィルムの柔軟性が高まり、屈曲部で繰り返し屈曲変形を受けた場合でも屈曲部における割れが抑制される。
また、溶媒の含有量を、樹脂層全体に対して、10000ppm以下とすることで樹脂フィルムの柔軟性が高くなりすぎず、永久変形が抑制される。
更に、樹脂層はウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。これらの溶媒は極性の高い官能基を有するため、沸点が高くなり揮発しにくくなる。そのため、樹脂層における溶媒の含有量が経時変化しにくくなる。そのため、樹脂フィルムの柔軟性が保たれやすくなり、屈曲部で繰り返し屈曲変形を受けた場合でも屈曲部における割れが抑制される。
【0014】
そのため、第一実施形態に係る樹脂フィルムは繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される。
【0015】
第二実施形態に係る樹脂フィルムはウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、引張破断強度が270N/mm以上である。
【0016】
第二実施形態に係る樹脂フィルムは、上記構成により、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される。その理由は、次の通り推測される。
【0017】
第二実施形態に係る樹脂フィルムはウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する。溶媒を含有するため樹脂フィルムの柔軟性が向上し、また、上記と同一の理由から樹脂層における溶媒の含有量が経時変化しにくくなり、樹脂フィルムの柔軟性が保たれやすくなる。
また樹脂フィルムの引張破断強度を270N/mm以上とすることで、実使用時に発生する応力は弾性限度より十分小さくなる。
【0018】
そのため、第二実施形態に係る樹脂フィルムは繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される。
【0019】
以下、第一及び第二実施形態のいずれにも該当する樹脂フィルムについて詳細に説明する。ただし、本発明の樹脂フィルムの一例は、第一又は第二実施形態のいずれか一つに該当する樹脂フィルムであればよい。
【0020】
(樹脂層)
-溶媒-
樹脂層はウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。
そして、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppmを超え10000ppm以下である。
【0021】
屈曲部における割れの発生をより抑制する観点から、溶媒の含有量は、樹脂層全体に対して、2500ppm以上9000ppm以下であることが好ましく、4000ppm以上8000ppm以下であることがより好ましく、6000ppm以上7000ppm以下であることが更に好ましい。
【0022】
樹脂フィルムを構成する樹脂層に含有する溶媒(残留溶媒)は、測定対象となる樹脂フィルムの樹脂層から測定用試料を採取し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)などで測定することができる。具体的には、落下型の熱分解装置(フロンティアラボ社製:PY-2020D)を設置したガスクロマトグラフ質量分析計(島津社製GCMS QP-2010)により分析できる。
樹脂フィルムを構成する樹脂層に含有する溶媒は、樹脂層から測定用試料0.40mgを精確に秤量し、熱分解温度400℃で測定する。
熱分解装置:フロンティアラボ社製:PY-2020D
ガスクロマトグラフ質量分析計:島津社製GCMS QP-2010
熱分解温度:400℃
ガスクロマト導入温度:280℃
Inject方法:スプリット比1:50
カラム:フロンティアラボ社製:Ultra ALLOY-5,0.25μm、0.25μm ID、30m
ガスクロマト温度プログラム:40℃⇒20℃/min⇒280℃-10min保持
マスレンジ:EI、m/z=29-600
【0023】
・ウレア系溶媒
ウレア系溶媒とは、ウレア基(N-C(=O)-N)を有する溶媒である。具体的には、ウレア系溶媒は、「*-N(Ra)-C(=O)-N(Ra)-*」構造を有する溶媒がよい。ここで、Ra、及びRaは、各々独立に、水素原子、アルキル基、フェニル基、又はフェニルアルキル基を示す。2つのN原子の両末端*は、前記構造の他の原子団との結合部位を示す。ウレア系溶媒は、2つのN原子の両末端*同士が、例えば、アルキレン、-O-、-C(=O)-、又はこれらの組み合わせからなる連結基を介して連結した環構造を有する溶媒であってもよい。
【0024】
Ra、及びRaを示すアルキル基は、鎖状、分岐状、及び環状のいずれでもよく、置換基を有していてもよい。アルキル基の具体例としては、炭素数1以上6以下(好ましくは1以上4以下)のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基など)が挙げられる。
アルキル基の置換基としては、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、水酸基、ケトン基、エステル基、アルキルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
ケトン基の具体例としては、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基、n-プロピルカルボニル基などが挙げられる。エステル基の具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、アセトキシ基などが挙げられる。アルキルカルボニルオキシ基の具体例としては、メチルカルボニルオキシ基(アセチルオキシ基)、エチルカルボニルオキシ基、n-プロピルカルボニルオキシ基などが挙げられる。
【0025】
Ra、及びRaを示すフェニル基及びフェニルアルキル基のフェニル骨格には、置換基を有していてもよい。フェニル骨格の置換基としては、上記アルキル基の置換基と同じものが挙げられる。
【0026】
なお、ウレア系溶媒が上記2つのN原子の両末端*が連結した環構造を有する場合、その環員数としては5または6がよい。
【0027】
ウレア系溶媒としては、例えば、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ジフェニル尿素、1,3-ジシクロへキシル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、2-イミダゾリジノン、プロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルプロピレン尿素などが挙げられる。
これらの中でも、屈曲部における割れの発生をより抑制する観点から、ウレア系溶媒としては、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルプロピレン尿素が好ましく、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルプロピレン尿素が最も好ましい。
【0028】
・アルコキシ基含有アミド系溶媒、エステル基含有アミド系溶媒
アルコキシ基含有アミド系溶媒は、アルコキシ基とアミド基とを有する溶媒である。一方、エステル基含有アミド系溶媒は、エステル基とアミド基とを有する溶媒である。アルコキシ基、エステル基としては、ウレア系溶媒で説明において、「Ra、及びRaを示すアルキル基の置換基」として例示したアルコキシ基、エステル基と同様な基が挙げられる。なお、アルコキシ基含有アミド系溶媒がエステル基を有していてもよいし、エステル基含有アミド系溶媒はアルコキシ基を有していてもよい。
【0029】
以下、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒の双方を「アルコキシ基又はエステル基含有アミド系溶媒」と称して説明する。
【0030】
アルコキシ基又はエステル基含有アミド系溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、下記一般式(Am1)で示されるアミド系溶媒、下記一般式(Am2)で示されるアミド系溶媒等が好適に挙げられる。
【0031】
【化1】
【0032】
(一般式(Am1)中、Rb、Rb、Rb、Rb、Rb、及びRbは、各々独立に、水素原子、又はアルキル基を示す。Rbは、アルコキシ基、又はエステル基を示す。
Rb~Rbを示すアルキル基は、ウレア系溶媒の説明で記載した「Ra、及びRaを示すアルキル基」と同義である。
Rbを示すアルコキシ基及びエステル基は、ウレア系溶媒の説明において、「Ra、及びRaを示すアルキル基の置換基」として例示したアルコキシ基、エステル基と同義である。
【0033】
以下、一般式(Am1)で示されるアミド系溶媒の具体例を示すが、これらに限られるわけではない。
【0034】
【化2】
【0035】
なお、一般式(Am1)で示されるアミド系溶媒の具体例において、Me=メチル基、Et=エチル基、nPr=n-プロピル基、nBu=n-ブチル基である。
【0036】
【化3】
【0037】
(一般式(Am2)中、Rc、Rc、Rc、Rc、Rc、Rc、Rc、及びRcは、各々独立に、水素原子、又はアルキル基を示す。Rcは、アルコキシ基、又はエステル基を示す。
Rc~Rcを示すアルキル基は、ウレア系溶媒の説明で記載した「Ra、及びRaを示すアルキル基」と同義である。
Rcを示すアルコキシ基及びエステル基は、ウレア系溶媒の説明において、「Ra、及びRaを示すアルキル基の置換基」として例示したアルコキシ基、エステル基と同義である。
【0038】
以下、一般式(Am2)で示されるアミド系溶媒の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0039】
【化4】
【0040】
なお、一般式(Am2)で示されるアミド系溶媒の具体例において、Me=メチル基、Et=エチル基、nPr=n-プロピル基である。
【0041】
これらの中でも、屈曲部における割れの発生をより抑制する観点から、アルコキシ基又はエステル基含有アミド系溶媒としては、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(例示化合物B-4)、3-nブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(例示化合物B-7)、5-ジメチルアミノ-2-メチル-5-オキソ-ペンタン酸メチル(例示化合物C-3)が好ましく、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(例示化合物B-4)がより好ましい。
【0042】
溶媒はアルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒は樹脂フィルムの製造において樹脂層を構成する材料(例えば樹脂)を溶解しやすい。また、溶媒の沸点が高いため揮発しにくくなる。そのため、樹脂層における溶媒の含有量が経時変化しにくくなる。そのため、樹脂フィルムの柔軟性が保たれやすくなり、屈曲部で繰り返し屈曲変形を受けた場合でも屈曲部における割れが抑制される。
【0043】
アルコキシ基含有アミド系溶媒としては、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド及び3-nブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、エステル基含有アミド系溶媒としては、5-ジメチルアミノ-2-メチル-5-オキソ-ペンタン酸メチルであることが好ましい。
溶媒としては3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドであることが特に好ましい。
【0044】
アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒として、当該溶媒を使用することで、樹脂フィルムの製造において樹脂層を構成する材料(例えば樹脂)をより溶解しやすい。また、溶媒の沸点が高いため揮発しにくくなる。そのため、樹脂層における溶媒の含有量が経時変化しにくくなる。そのため、樹脂フィルムの柔軟性が保たれやすくなり、屈曲部で繰り返し屈曲変形を受けた場合でも屈曲部における割れが抑制される。
【0045】
溶媒の沸点が200℃以上280℃以下であることが好ましく、205℃以上275℃以下であることがより好ましく、210℃以上275℃以下であることが更に好ましい。
ここで、溶媒の沸点は、大気圧下(101kPa)における沸点である。
【0046】
溶媒の沸点を200℃以上とすることで、溶媒が樹脂層から揮発しにくくなる。そのため、樹脂層における溶媒の含有量が経時変化しにくくなる。そのため、樹脂フィルムの柔軟性が保たれやすくなり、屈曲部で繰り返し屈曲変形を受けた場合でも屈曲部における割れが抑制される。
また、溶媒の沸点を280℃以下とすることで、後述する樹脂フィルムの製造方法のうち焼成工程での300℃程度の加熱処理後の残留溶媒量が過多とならない。
【0047】
-樹脂-
樹脂層は樹脂を含む。樹脂としては特に限定されないが、屈曲部における割れの発生を抑制する観点から、ポリイミド樹脂であることが好ましい。
ポリイミド樹脂としては、後述のポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドが挙げられる。
【0048】
ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二水和物に由来する構造単位と、ジアミン化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。
特に、ポリイミド樹脂は、ジアミン化合物に由来する構造単位として、フェニレンジアミンに由来する構造単位、及びジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位を有することが好ましい。
そして、屈曲部における割れ抑制の観点から、ポリイミド樹脂中の、フェニレンジアミンに由来する構造単位と、ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位と、の含有割合(フェニレンジアミンに由来する構造単位/ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位)は、mol比で、80/20以上99.7/0.3以下が好ましく、85/15以上95/5以下がより好ましい。
【0049】
上記構成単位の含有割合の測定方法は、次の通りである。
まず、既知の混合比率のフェニレンジアミンとジアミノジフェニルエーテルとの混合試料の数点から、赤外分光光度計(IR)の測定により、1515cm-1のピーク(フェニレンジアミン由来のピーク)と、1500cm-1(ジアミノジフェニルエーテル由来のピーク)と、のピーク強度比を得て、ピーク強度比と混合比率と検量線を引く。
次に、赤外分光光度計(IR)の測定により、測定対象の樹脂フィルムの樹脂層の試料から、上記ピーク強度比を得て、検量線から上記混合比率を算出する。得られた混合比率を、ポリイミド樹脂中の、フェニレンジアミンに由来する構造単位と、ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位の含有割合とする。
【0050】
ここで、樹脂層の樹脂を形成する単量体に由来する構造単位は、例えば、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)によって検出される成分を分析および定量することで測定できる。具体的には、まず、測定対象となる樹脂フィルムから、樹脂層の測定用試料を準備する。次に測定用試料を、落下型の熱分解装置(フロンティアラボ社製:PY-2020D)を設置したガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所社製:GCMS QP-2010)により測定を行う。そして、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置によって、ポリイミド樹脂の単量体単位まで分解され、分解によって得られた分解生成物の質量分析によって、単量体の構造及び比率が求められる。
【0051】
-導電性粒子-
本実施形態に係る樹脂フィルムを構成する樹脂層には、必要に応じて、導電性付与のため添加される導電性粒子を含んでいてもよい。導電性粒子としては、導電性(例えば体積抵抗率10Ω・cm未満、以下同様である)又は半導電性(例えば体積抵抗率10Ω・cm以上1013Ω・cm以下、以下同様である)のものが挙げられ、使用目的により選択される。
導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、金属(例えばアルミニウムやニッケル等)、金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等)、イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等)等が挙げられる。
これら導電性粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。導電性粒子の一次粒径は10μm未満(好ましくは1μm以下)の粒子であることがよい。
【0052】
これらの中でも、導電性粒子としては、カーボンブラックがよく、特に、pH5.0以下の酸性カーボンブラックがよい。
酸性カーボンブラックとしては、表面が酸化処理されたカーボンブラック、例えば、表面にカルボキシル基、キノン基、ラクトン基、水酸基等を付与して得られたカーボンブラックが挙げられる。
酸性カーボンブラックとしては、ポリイミド樹脂を含む樹脂層を有する転写ベルトに適用される場合、電気抵抗の経時での安定性及び転写電圧による電界集中を抑制する電界依存性の観点から、pH4.5以下のカーボンブラックが望ましく、より望ましくはpH4.0以下の酸性カーボンブラックである。
なお、酸性カーボンブラックのpHは、JIS Z8802(2011)規定のpH測定方法によって測定される値である。
【0053】
カーボンブラックとしては、具体的には、オリオンエンジニアドカーボンズ社製の「スペシャルブラック350」、「スペシャルブラック100」、「スペシャルブラック250」、「スペシャルブラック5」、「スペシャルブラック4」、「スペシャルブラック4A」、「スペシャルブラック550」、「スペシャルブラック6」、「カラーブラックFW200」、「カラーブラックFW2」、「カラーブラックFW2V」、キャボット社製「MONARCH1000」、キャボット社製「MONARCH1300」、「MONARCH1400」、「MOGUL-L」、「REGAL400R」等が挙げられる。
【0054】
導電性粒子の含有量は、特に限定されるものではないが、樹脂フィルムの外観的・機械的・電気的品質の点から、樹脂層の樹脂100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下(好ましくは10質量部以上30質量部以下)であることがよい。
【0055】
(その他の添加剤)
本実施形態に係る樹脂フィルムを構成する樹脂層には、機械強度などの各種機能を付与することを目的として、各種フィラーなどを含んでもよい。また、樹脂層が樹脂としてポリイミドを含む場合は、イミド化反応促進のための触媒や、製膜品質向上のためのレベリング材などを含んでもよい。
【0056】
機械強度向上のため添加されるフィラーとしては、シリカ粉、アルミナ粉、硫酸バリウム粉、酸化チタン粉、マイカ、タルクなどの粒子状材料が挙げられる。また、樹脂層の表面の撥水性、離型性改善のためには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂粉末などを添加してもよい。
【0057】
イミド化反応促進のための触媒には、酸無水物など脱水剤、フェノール誘導体、スルホン酸誘導体、安息香酸誘導体などの酸触媒などを使用してもよい。
【0058】
樹脂層の製膜品質の向上には、界面活性剤を添加してもよい。使用する界面活性剤は、カチオン系、アニオン系、非イオン系、のいずれを用いてもよい。
【0059】
その他の添加剤の含有量は、樹脂層の目的とする特性に応じて選択すればよい。
【0060】
(層構造)
なお、本実施形態に係る樹脂フィルムは、樹脂層をそのまま樹脂フィルムとしてもよい。また、樹脂層の内周面上又は外周面上の少なくとも一方に離型層等の機能層を有する積層体からなる樹脂フィルムとしてもよい。
【0061】
(樹脂フィルムの物性)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、曲率半径Rが2mmのクランプを用いたMIT試験による耐折れ回数が300,000回以上であることが好ましく、400,000回以上であることがより好ましく、500,000回以上であることが更に好ましい
【0062】
上記MIT試験による耐折れ回数は、樹脂フィルムを繰り返し屈曲させた場合に樹脂フィルムが破断するまでの屈曲回数を表す。そのため、上記MIT試験による耐折れ回数を30
0,000回以上とすることで繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生がより抑制される樹脂フィルムとなる。
【0063】
MIT試験による耐折れ回数は、以下のようにして測定する。
MIT試験は、JIS P 8115:2001(MIT試験機法)に準拠する。
具体的には、樹脂フィルムから、周方向に幅15mm、長さ200mmの短冊状試験片を切り出す。この短冊状試験片の両端を固定し1kgfの引張張力をかけて、曲率半径R=2mmのクランプを支点として左右90°方向に繰返し屈曲(折り曲げ)させる。このときに短冊状試験片が破断するまでの回数を耐折れ回数とする。
なお、温度22℃、湿度55%RHの環境下でMIT試験を行うものとする。
【0064】
本実施形態に係る樹脂フィルムは、引張破断強度が270N/mm以上である。
屈曲部における割れの発生をより抑制する観点から、引張破断強度が320N/mm以上500N/mm以下であることが好ましく、375N/mm以上475N/mm以下であることがより好ましく、400N/mm以上450N/mm以下であることが更に好ましい。
【0065】
引張破断強度は、以下のようにして測定する。
樹脂フィルムから、幅5mmの短冊形状に切り出し、これを引張試験機Model 1605N(アイコーエンジニアリング社製)に設置し、10mm/sec等速で引っ張った際の引張破断強度にして測定される。
【0066】
(樹脂フィルムの製造方法)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、樹脂フィルム形成用の塗布液を、被塗物に塗布した後、乾燥し焼成することで得ることが好ましい。
樹脂フィルムの製造方法は、具体的には、例えば、以下の方法が挙げられる。
樹脂フィルムの製造方法は、例えば、ポリイミド前駆体組成物を円筒状の基材(金型)上に塗布して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)と、基材上に形成した塗膜を乾燥し、乾燥膜を形成する工程(乾燥工程)と、乾燥膜をイミド化処理(加熱処理)し、ポリイミド前駆体のイミド化を行って、ポリイミド樹脂の成形体を形成する工程(焼成工程)と、基材からポリイミド樹脂の成形体を取り外し、樹脂フィルムとする工程(取り外し工程)と、を含む。なお、このポリイミド樹脂の成形体が樹脂層となる。具体的には、例えば、次の通りである。
なお、ポリイミド前駆体組成物は後述の「-ポリイミド前駆体組成物-」の通りである。
【0067】
まず、ポリイミド前駆体組成物を円筒状の基材の内面又は外面に塗布して、塗膜を形成する。円筒状の基材としては、例えば、円筒状の金属製基材が好適に用いられる。金属製の代わりに、樹脂製、ガラス製、セラミック製など、他の素材の基材を用いてもよい。また、基材の表面にガラスコート、セラミックコート等を設けてもよく、シリコーン系、フッ素系等の剥離剤を塗布してもよい。
なお、基材の形状は、円筒状に限られず、板状等の形状を、樹脂フィルムの用途に応じで選択する。
【0068】
ここで、ポリイミド前駆体組成物を精度よく塗布するには、塗布する前にポリイミド前駆体組成物を脱泡する工程を実施することがよい。ポリイミド前駆体組成物を脱泡することで、塗布時の泡かみ及び塗膜の欠陥発生が抑制される。
ポリイミド前駆体組成物を脱泡する方法としては、減圧状態にする方法、遠心分離する方法などが挙げられるが、減圧状態とする脱泡が簡便で脱泡能が大きいため適している。
【0069】
次に、ポリイミド前駆体組成物の塗膜が形成された円筒状の基材を、加熱又は真空環境に置いて、塗布膜を乾燥し、乾燥膜を形成する。含有溶媒の30質量%以上、好ましくは50質量%以上を揮発させる。
【0070】
次に、乾燥膜に対して、イミド化処理(加熱処理)を行う。これにより、ポリイミド樹脂の成形体が形成される。
イミド化処理の加熱条件としては、例えば150℃以上400℃以下(好ましくは200℃以上300℃以下)で、20分間以上60分間以下加熱することで、イミド化反応が起こり、ポリイミド樹脂の成形体が形成される。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。イミド化の温度は、例えば原料として用いたテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類によって異なり、イミド化が不充分であると機械的特性及び電気的特性に劣るため、イミド化が完結する温度に設定する。
その後、円筒状の基材から、ポリイミド樹脂の成形体を取り外し、樹脂フィルムを得る。
樹脂層に加え、離型層等の機能層を有する樹脂フィルムを得る場合、ポリイミド樹脂の成形体に対して適宜機能層を形成することで樹脂フィルムを得る。
【0071】
-ポリイミド前駆体組成物-
ポリイミド前駆体組成物は、一般式(I)で示される繰り返し単位を有する樹脂(以下、「ポリイミド前駆体」と称する)と、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒とを含むポリイミド前駆体組成物である。
また、ポリイミド前駆体組成物は、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位およびジアミン化合物に由来する構造単位のうち、少なくとも一方の構造単位は2種類以上含有するポリイミド前駆体を含有する。ポリイミド前駆体は、一般式(I)で示される繰り返し単位を有する共重合体でもよく、一般式(I)で示される繰り返し単位を有し、互いに異なる種類の単独重合体の混合物でもよい。
なお、ポリイミド前駆体組成物は、必要に応じて、導電性粒子、その他の添加剤を含んでもよい。
【0072】
(ポリイミド前駆体)
ポリイミド前駆体は、一般式(I)で表される繰り返し単位を有する樹脂(ポリアミック酸)が挙げられる。
【0073】
【化5】
【0074】
一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。
【0075】
ここで、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基としては、原料となるテトラカルボン酸二無水物より4つのカルボキシル基を除いたその残基である。
一方、Bが表す2価の有機基としては、原料となるジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0076】
つまり、一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。すなわち、ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物に由来する成分とジアミン化合物に由来する成分とを含んでいる。
【0077】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0078】
芳香族系テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3‘,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物、4,4’- オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等が挙げられる。
【0079】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0080】
これらの中でも、テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物がよく、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’- オキシジフタル酸二無水物がよく、更に、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’- オキシジフタル酸二無水物がよく、特に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよい。
【0081】
なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族テトラカルボン酸二無水物、又は脂肪族テトラカルボン酸を各々併用しても、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族テトラカルボン酸二無水物とを組み合わせてもよい。
【0082】
ポリイミド前駆体が、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を2種類以上含有する場合、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の態様は特に限定されない。例えば、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位は、2種類以上のテトラカルボン酸二無水物を用いた共重合体または共重合体の混合物として含有していてもよい。また、テトラカルボン酸二無水物を1種類用いた単独重合体と、異なるテトラカルボン酸二無水物を用いた単独重合体または共重合体との混合物として含有していてもよい。
ポリイミド前駆体が、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を2種類以上含有する場合、テトラカルボン酸二無水物に由来する成分には、蛇行したときの亀裂の発生を抑制する点で、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含むことがよい。
【0083】
特に、ポリイミド前駆体が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物二由来する構造単位を含む場合、テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の全体に対する、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の含有割合が70質量%以上99質量%以下(好ましくは80質量%以上95質量%以下)であることがよい。
【0084】
一方、ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Bが表す2価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0085】
ジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,7-ジアミノフルオレン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0086】
これらの中でも、ジアミン化合物としては、芳香族系ジアミン化合物がよく、具体的には、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンがよく、特に、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルがよい。
【0087】
なお、ジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。蛇行したときの破断の発生を抑制する点で、ジアミン化合物は、2種類以上用いることが好ましい。2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族ジアミン化合物、又は脂肪族ジアミン化合物を各々併用しても、芳香族ジアミン化合物と脂肪族ジアミン化合物とを組み合わせてもよい。
【0088】
ポリイミド前駆体が、ジアミン化合物に由来する構造単位を2種類以上含有する場合、ジアミン化合物に由来する構造単位の態様は特に限定されない。例えば、ジアミン化合物に由来する構造単位は、2種類以上のジアミン化合物を用いた共重合体または共重合体の混合物として含有していてもよい。また、ジアミン化合物を1種類用いた単独重合体と、異なるジアミン化合物を用いた単独重合体または共重合体との混合物として含有していてもよい。
ポリイミド前駆体が、ジアミン化合物に由来する構造単位を2種以上含有する場合、屈曲部における割れの発生を抑制する点で、少なくともp-フェニレンジアミンに由来する構造単位またはジアミノジフェニルエーテル(4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等)に由来する構造単位を含むことがよい。同様の点でp-フェニレンジアミンに由来する構造単位およびジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位の両者を含んでいてもよい。これらの中でも、少なくともp-フェニレンジアミンに由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0089】
特に、ポリイミド前駆体が、p-フェニレンジアミンに由来する構造単位を含む場合、ジアミン化合物に由来する構造単位の全体に対する、p-フェニレンジアミンに由来する構造単位の含有割合が70質量%以上90質量%以下(好ましくは75質量%以上85質量%以下)であることがよい。
ジアミン化合物に由来する構造単位が2種類以上含有するときの好ましい組み合わせとしては、上記の通り、p-フェニレンジアミンに由来する構造単位とジアミノジフェニルエーテル(4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等)に由来する構造単位との組み合わせが好ましい。
屈曲部における割れの発生を抑制する点で、p-フェニレンジアミンに由来する構造単位とジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位との含有割合は、質量比で、70/30以上90/10以下が好ましい。
同観点で、フェニレンジアミンに由来する構造単位とジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位との含有割合(フェニレンジアミンに由来する構造単位/ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位)は、mol比で、80/20以上99.7/0.3以下が好ましく、85/15以上95/5以下がより好ましい。
【0090】
ポリイミド前駆体は、一部がイミド化された樹脂であってもよい。
具体的には、ポリイミド前駆体としては、例えば、一般式(I-1)、一般式(I-2)及び一般式(I-3)で表される繰り返し単位を有する樹脂が挙げられる。
【0091】
【化6】
【0092】
一般式(I-1)、一般式(I-2)及び一般式(I-3)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。なお、A及びBは、一般式(I)中のA及びBと同義である。
lは1以上の整数を示し、m及びnは、各々独立に0又は1以上の整数を示す。
【0093】
ここで、ポリイミド前駆体の結合部(テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応部)において、イミド閉環している結合部数(2n+m)の全結合部数(2l+2m+2n)に対する割合、すなわちポリイミド前駆体のイミド化率は、「(2n+m)/(2l+2m+2n)」で示される。この値は、0.2以下が好ましく、0.15以下がより好ましく、0.1以下が最も好ましい。
イミド化率をこの範囲にすることで、ポリイミド前駆体のゲル化や析出分離を引き起こすことが抑制される。
【0094】
なお、ポリイミド前駆体のイミド化率(「(2n+m)/(2l+2m+2n)」の値)は、次の方法により測定される。
【0095】
-ポリイミド前駆体のイミド化率の測定-
・ポリイミド前駆体試料の作製
(i)測定対象となるポリイミド前駆体組成物を、シリコーンウェハー上に、膜厚1μm以上10μm以下の範囲で塗布して、塗膜試料を作製する。
(ii)塗膜試料をテトラヒドロフラン(THF)中に20分間浸漬させて、塗膜試料中の溶媒をテトラヒドロフラン(THF)に置換する。浸漬させる溶媒は、THFに限定されることなく、ポリイミド前駆体を溶解せず、ポリイミド前駆体組成物に含まれている溶媒成分と混和し得る溶媒より選択できる。具体的には、メタノール、エタノールなどのアルコール溶媒、ジオキサンなどのエーテル化合物が使用できる。
(iii)塗膜試料を、THF中より取り出し、塗膜試料表面に付着しているTHFにNガスを吹き付け、取り除く。10mmHg以下の減圧下、5℃以上25℃以下の範囲にて12時間以上処理して塗膜試料を乾燥させ、ポリイミド前駆体試料を作製する。
【0096】
・100%イミド化標準試料の作製
(iv)上記(i)と同様に、測定対象となるポリイミド前駆体組成物をシリコーンウェハー上に塗布して、塗膜試料を作製する。
(v)塗膜試料を380℃にて60分間加熱してイミド化反応を行い、100%イミド化標準試料を作製する。
【0097】
・測定と解析
(vi)フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所製FT-730)を用いて、100%イミド化標準試料、ポリイミド前駆体試料の赤外吸光スペクトルを測定する。100%イミド化標準試料の1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab’(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab’(1780cm-1))の比I’(100)を求める。
(vii)同様にして、ポリイミド前駆体試料について測定を行い、1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab(1780cm-1))の比I(x)を求める。
【0098】
そして、測定した各吸光ピークI’(100)、I(x)を使用し、下記式に基づき、ポリイミド前駆体のイミド化率を算出する。
・式: ポリイミド前駆体のイミド化率=I(x)/I’(100)
・式: I’(100)=(Ab’(1780cm-1))/(Ab’(1500cm-1))
・式: I(x)=(Ab(1780cm-1))/(Ab(1500cm-1))
【0099】
なお、このポリイミド前駆体のイミド化率の測定は、芳香族系ポリイミド前駆体のイミド化率の測定に適用される。脂肪族ポリイミド前駆体のイミド化率を測定する場合、芳香環の吸収ピークに代えて、イミド化反応前後で変化のない構造由来のピークを内部標準ピークとして使用する。
【0100】
-ポリイミド前駆体の末端アミノ基-
ポリイミド前駆体は、末端にアミノ基を有するポリイミド前駆体(樹脂)を含むことがよく、好ましくは全ての末端にアミノ基を有するポリイミド前駆体とすることがよい。
【0101】
ポリイミド前駆体の分子末端にアミノ基を持たせるには、例えば、重合反応の際に使用するジアミン化合物のモル当量を、テトラカルボン酸二無水物のモル当量より過剰に添加する。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とのモル当量の比は、ジアミン化合物のモル当量を1に対して、0.92以上0.9999以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは、0.93以上0.999以下の範囲である。
ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とのモル当量の比が0.9以上であれば、分子末端のアミノ基の効果が大きく、良好な分散性が得られ易いる。また、モル当量の比が0.9999以下であれば、得られるポリイミド前駆体の分子量が大きく、例えば、ポリイミド樹脂の成形体としたときに、十分な強度(引裂き強度、引張り強度)が得られ易い。
【0102】
ポリイミド前駆体の末端アミノ基は、ポリイミド前駆体組成物にトリフルオロ酢酸無水物(アミノ基に対して定量的に反応)を作用させることによって検出される。すなわち、ポリイミド前駆体の末端アミノ基をトリフルオロ酢酸無水物によりトリフルオロアセチル化する。処理後、ポリイミド前駆体を再沈殿などで精製して過剰のトリフルオロ酢酸無水物、トリフルオロ酢酸残渣を除去する。処理後のポリイミド前駆体について、ポリイミド前駆体中のフッ素原子の導入量を核磁気共鳴(19F-NMR)によって定量することで、ポリイミド前駆体の末端アミノ基量が測定される。
【0103】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、5000以上100000以下であることがよく、より好ましくは7000以上50000以下、更に好ましくは10000以上30000以下である。
ポリイミド前駆体の数平均分子量を上記範囲とすると、組成物中のポリイミド前駆体の溶解性と製膜後の膜の機械特性が良好になる。
なお、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とのモル当量の比を、調整することで、目的とする数平均分子量のポリイミド前駆体が得られる。
【0104】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)法で測定される。
・カラム:東ソーTSKgelα-M(7.8mm I.D×30cm)
・溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)/30mMLiBr/60mMリン酸
・流速:0.6mL/min
・注入量:60μL
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0105】
ポリイミド前駆体の含有量(濃度)は、全ポリイミド前駆体組成物に対して、0.1質量%以上40質量%以下であることがよく、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0106】
-ポリイミド前駆体組成物の製造方法-
ポリイミド前駆体組成物の製造方法は特に限定されるものではない。例えば、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含有する溶媒中で、前述のテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を得る方法が挙げられる。
【0107】
ポリイミド前駆体の重合反応時の反応温度は、例えば、0℃以上70℃以下であることがよく、好ましくは10℃以上60℃以下、より好ましくは20℃以上55℃以下である。この反応温度を0℃以上とすることで、重合反応の進行を促進し、反応に要する時間が短時間化され、生産性が向上し易くなる。一方、反応温度を70℃以下とすると、生成したポリイミド前駆体の分子内で生じるイミド化反応の進行が抑制され、ポリイミド前駆体の溶解性低下に伴う析出、又はゲル化が抑制され易くなる。
なお、ポリイミド前駆体の重合反応時の時間は、反応温度により1時間以上24時間以下の範囲とすることがよい。
【0108】
[樹脂フィルムの使用例]
本実施形態に係る樹脂フィルムは、無端ベルトとして利用し得る。
また、本実施形態に係る樹脂フィルムは、例えば、フレキシブルプリント配線板(FPC:Flexible Print Circuit)のうち、Dynamic Flexと呼ばれる、製品のライフサイクル中、繰り返し曲げられる部品の機能層として利用し得る。Dynamic Flexとしては、例えば、ハードディスクドライブ、光ピックアップ、携帯電話のヒンジ等が挙げられる。
その他、実施形態に係る樹脂フィルムは、電気絶縁材、配管被覆材、電磁波絶縁材、熱源絶縁体、電磁波吸収フィルムとして利用し得る。
【0109】
<無端ベルト>
本実施形態に係る無端ベルトは、上記本実施形態に係る樹脂フィルムからなる。つまり、本実施形態に係る無端ベルトは、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppmを超え10000ppm以下である。
本実施形態に係る無端ベルトは、例えば、電子写真方式の画像形成装置用の無端ベルトとして利用し得る。電子写真方式の画像形成装置用の無端ベルトとしては、例えば、中間転写ベルト、転写ベルト(記録媒体搬送ベルト)、定着ベルト(加熱ベルト、加圧ベルト)、搬送ベルト(記録媒体搬送ベルト)等が挙げられる。なお、本実施形態に係る無端ベルトは、画像形成装置用の無端ベルト以外にも、例えば、搬送ベルト、駆動ベルト、ラミネートベルト、電気絶縁材、配管被覆材、電磁波絶縁材、熱源絶縁体、電磁波吸収フィルム等のベルト状部材にも利用し得る。
【0110】
<画像形成装置>
本実施形態に係る画像形成装置は、上記の無端ベルトを有する。無端ベルトが、中間転写ベルト、転写ベルト、搬送ベルト(記録媒体搬送ベルト)等のベルトに適用される場合、本実施形態に係る画像形成装置としては、例えば、以下に示す画像形成装置が挙げられる。
像保持体と、像保持体の表面を帯電する帯電装置と、帯電した像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成装置と、トナーを含む現像剤により、像保持体の表面に形成された静電荷像をトナー画像として現像する現像装置と、トナー画像を本実施形態に係る無端ベルトを介して記録媒体の表面に転写する転写装置と、とを備えるものが挙げられる。
なお、転写装置は、後述する無端ベルトユニットを有していてもよい。
【0111】
本実施形態に係る画像形成装置は、転写装置及び前記定着装置からなる群から選択される少なくとも1つが本実施形態に係る無端ベルトを有することが好ましい。
【0112】
定着装置が本実施形態に係る無端ベルトを有する場合、本実施形態に係る画像形成装置は、例えば、転写装置が中間転写体と、像保持体に形成されたトナー画像を中間転写体に一次転写する一次転写装置と、中間転写体に転写されたトナー画像を記録媒体に二次転写する二次転写装置と、を備え、当該中間転写体として上記本実施形態に係る無端ベルトを備える構成が挙げられる。
【0113】
定着装置が本実施形態に係る無端ベルトを有する場合、本実施形態に係る画像形成装置は、例えば、定着ベルト(加熱ベルト、加圧ベルト)等のベルトに適用されることが好ましい。具体的には、以下に示す画像形成装置が挙げられる。
像保持体と、像保持体の表面を帯電する帯電装置と、帯電した像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成装置と、トナーを含む現像剤により、像保持体の表面に形成された静電荷像をトナー画像として現像する現像装置と、トナー画像を、トナー像を記録媒体に転写する転写装置と、トナー像を記録媒体に定着する定着装置と、を備える構成が挙げられる。そして定着装置としては、第1回転体と、第1回転体の外面に接して配置される第2回転体と、を備え、第1回転体及び前記第2回転体の少なくとも一方が、本実施形態の無端ベルトである定着装置が適用される。
【0114】
また、本実施形態に係る画像形成装置は、例えば、転写装置が記録媒体を搬送するための記録媒体搬送体(記録媒体搬送ベルト)と、像保持体に形成されたトナー画像を記録媒体搬送体により搬送された記録媒体に転写するための転写装置と、を備え、当該記録媒体搬送体として上記本実施形態に係る無端ベルトを備える構成であってもよい。
【0115】
本実施形態に係る画像形成装置は、例えば、現像装置内に単色のトナーのみを収容する通常のモノカラー画像形成装置、像保持体上に保持されたトナー画像を中間転写体に順次一次転写を繰り返すカラー画像形成装置、各色の現像器を備えた複数の像保持体を中間転写体上に直列に配置したタンデム型カラー画像形成装置が挙げられる。
【0116】
以下、本実施形態に係る画像形成装置を、図面を参照しつつ説明する。
【0117】
図1は、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。図1に示す画像形成装置は、上記本実施形態に係る無端ベルトを中間転写体(中間転写ベルト)に適用した画像形成装置である。
本実施形態に係る画像形成装置100は、図1に示すように、例えば、いわゆるタンデム方式であり、電子写真感光体からなる4つの像保持体101a~101dの周囲に、その回転方向に沿って順次、帯電装置102a~102d、露光装置114a~114d、現像装置103a~103d、一次転写装置(一次転写ロール)105a~105d、像保持体クリーニング装置104a~104dが配置されている。尚、転写後の像保持体101a~101dの表面に残留している残留電位を除去するために除電器を備えていてもよい。
【0118】
中間転写ベルト107が、支持ロール106a~106d、駆動ロール111および対向ロール108により張力を付与しつつ支持され、無端ベルトユニット107bを形成している。これらの支持ロール106a~106d、駆動ロール111および対向ロール108により、中間転写ベルト107は、各像保持体101a~101dの表面に接触しながら各像保持体101a~101dと一次転写ロール105a~105dとを矢印Aの方向に移動し得る。一次転写ロール105a~105dが中間転写ベルト107を介して像保持体101a~101dに接触する部位が一次転写部となり、像保持体101a~101dと一次転写ロール105a~105dとの接触部には一次転写電圧が印加される。
【0119】
二次転写装置として、中間転写ベルト107および二次転写ベルト116を介して対向ロール108と二次転写ロール109が対向配置されている。二次転写ベルト116は、二次転写ロール109と支持ロール106eとによって支持されている。紙等の記録媒体115が中間転写ベルト107の表面に接触しながら中間転写ベルト107と二次転写ロール109とで挟まれる領域を矢印Bの方向に移動し、その後、定着装置110を通過する。二次転写ロール109が中間転写ベルト107および二次転写ベルト116を介して対向ロール108に接触する部位が二次転写部となり、二次転写ロール109と対向ロール108との接触部には二次転写電圧が印加される。更に、転写後の中間転写ベルト107と接触するように、中間転写ベルトクリーニング装置112および113が配置されている。
【0120】
この構成の多色の画像形成装置100では、像保持体101aが矢印Cの方向に回転するとともに、その表面が帯電装置102aによって帯電された後、レーザ光等の露光装置114aにより第1色目の静電荷像が形成される。形成された静電荷像はその色に対応するトナーを収容した現像装置103aにより、トナーを含む現像剤で現像(顕像化)されてトナー画像が形成される。なお、現像装置103a~103dには、各色の静電荷像に対応するトナー(例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)がそれぞれ収容されている。
【0121】
像保持体101a上に形成されたトナー画像は、一次転写部を通過する際に、一次転写ロール105aによって中間転写ベルト107上に静電的に転写(一次転写)される。以降、第1色目のトナー画像を保持した中間転写ベルト107上に、一次転写ロール105b~105dによって、第2色目、第3色目、第4色目のトナー画像が順次重ね合わせられるよう一次転写され、最終的に多色の多重トナー画像が得られる。
【0122】
中間転写ベルト107上に形成された多重トナー画像は、二次転写部を通過する際に、記録媒体115に静電的に一括転写される。トナー画像が転写された記録媒体115は、定着装置110に搬送され、加熱および加圧、または加熱、若しくは加圧により定着処理された後、機外に排出される。
【0123】
一次転写後の像保持体101a~101dは、像保持体クリーニング装置104a~104dにより残留トナーが除去される。一方、二次転写後の中間転写ベルト107は、中間転写ベルトクリーニング装置112および113により残留トナーが除去され、次の画像形成プロセスに備える。
【0124】
-像保持体-
像保持体101a~101dとしては、公知の電子写真感光体が広く適用される。電子写真感光体としては、感光層が無機材料で構成される無機感光体や、感光層が有機材料で構成される有機感光体などが用いられる。有機感光体においては、露光により電荷を発生する電荷発生層と、電荷を輸送する電荷輸送層を積層する機能分離型有機感光体や、電荷を発生する機能と電荷を輸送する機能を果たす単層型有機感光体が好適に用いられる。また、無機感光体においては、感光層がアモルファスシリコンにより構成されているものが、好適に用いられる。
【0125】
また、像保持体の形状には特に限定はなく、例えば、円筒ドラム状、シート状またはプレート状等、公知の形状が採用される。
【0126】
-帯電装置-
帯電装置102a~102dとしては、特に制限はなく、例えば、導電性(ここで、帯電装置における「導電性」とは例えば体積抵抗率が10Ωcm未満を意味する。)または半導電性(ここで、帯電装置における「半導電性」とは例えば体積抵抗率が10Ωcm以上1013Ωcm以下を意味する。)のローラ、ブラシ、フィルム、またはゴムブレード等を用いた接触型帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器など、公知の帯電器が広く適用される。これらの中でも接触型帯電器が望ましい。
【0127】
帯電装置102a~102dは、像保持体101a~101dに対し、通常、直流電流を印加するが、交流電流を更に重畳させて印加してもよい。
【0128】
-露光装置-
露光装置114a~114dとしては、特に制限はなく、例えば、像保持体101a~101dの表面に、半導体レーザ光、LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)光、または液晶シャッタ光等の光源、またはこれらの光源からポリゴンミラーを介して定められた像様に露光し得る光学系機器など、公知の露光装置が広く適用される。
【0129】
-現像装置-
現像装置103a~103dとしては、目的に応じて選択され。例えば、一成分系現像剤または二成分系現像剤をブラシ、またはローラ等を用い接触または非接触で現像する公知の現像器などが挙げられる。
【0130】
-一次転写ロール-
一次転写ロール105a~105dは単層または多層のいずれでもよい。例えば、単層構造の場合は、発泡または無発泡のシリコーンゴム、ウレタンゴム、またはEPDM等にカーボンブラック等の導電性粒子が適量配合されたロールで構成される。
【0131】
-像保持体クリーニング装置-
像保持体クリーニング装置104a~104dは、一次転写工程後の像保持体101a~101dの表面に付着する残存トナーを除去するためのものであり、クリーニングブレードの他、ブラシクリーニング、またはロールクリーニング等が用いられる。これらの中でもクリーニングブレードを用いることが望ましい。また、クリーニングブレードの材質としてはウレタンゴム、ネオプレンゴム、またはシリコーンゴム等が挙げられる。
【0132】
-二次転写ロール-
二次転写ロール109の層構造は、特に限定されるものではないが、例えば、三層構造の場合、コア層と中間層とその表面を被覆する塗布層により構成される。コア層は導電性粒子を分散したシリコーンゴム、ウレタンゴム、またはEPDM等の発泡体で、中間層はこれらの無発泡体で構成される。塗布層の材料としては、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、またはパーフルオロアルコキシ樹脂などが挙げられる。二次転写ロール109の体積抵抗率は10Ωcm以下であることが望ましい。また、中間層を除いた2層構造としてもよい。
【0133】
-対向ロール-
対向ロール108は、二次転写ロール109の対向電極を形成する。対向ロール108の層構造は、単層または多層のいずれでもよい。例えば単層構造の場合は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、またはEPDM等にカーボンブラック等の導電性粒子が適量配合されたロールで構成される。二層構造の場合は、上記のゴム材料で構成される弾性層の外周面を高抵抗層で被覆したロールから構成される。
【0134】
対向ロール108と二次転写ロール109の芯体とには、通常1kV以上6kV以下の電圧が印加される。対向ロール108の芯体への電圧印加に代えて、対向ロール108に接触させた電気良導性の電極部材と二次転写ロール109とに電圧を印加してもよい。上記電極部材としては、金属ロール、導電性ゴムロール、導電性ブラシ、金属プレート、または導電性樹脂プレート等が挙げられる。
【0135】
-定着装置-
定着装置110としては、例えば、熱ローラ定着器、加圧ローラ定着器、またはフラッシュ定着器など公知の定着器が広く適用される。
【0136】
-中間転写ベルトクリーニング装置-
中間転写ベルトクリーニング装置112および113としては、クリーニングブレードの他、ブラシクリーニング、またはロールクリーニング等が用いられる、これらの中でもクリーニングブレードを用いることが望ましい。また、クリーニングブレードの材質としてはウレタンゴム、ネオプレンゴム、またはシリコーンゴム等が挙げられる。
【0137】
次に、本実施形態の無端ベルトを、記録媒体搬送体(用紙搬送ベルト)として用いた画像形成装置について説明する。
図2は、本実施形態に係る画像形成装置の他の一例を示す概略構成図である。図2に示す画像形成装置は、上記本実施形態に係る無端ベルトを記録媒体搬送体(用紙搬送ベルト)に適用した画像形成装置である。
【0138】
図2に示す画像形成装置において、ユニットY、M、C、BKは、矢印の時計方向に回転するように、それぞれ感光体ドラム(像保持体)201Y、201M、201C、201BKが備えられる。感光体ドラム201Y、201M、201C、201BKの周囲には、帯電器202Y、202M、202C、202BKと、露光器203Y、203M、203C、203BKと、各色現像装置(イエロー現像装置204Y、マゼンタ現像装置204M、シアン現像装置204C、ブラック現像装置204BK)と、感光体ドラム清掃部材205Y、205M、205C、205BKとがそれぞれ配置されている。
【0139】
ユニットY、M、C、BKは、用紙搬送ベルト206に対して4つ並列に、ユニットBK、C、M、Yの順に配置されているが、ユニットBK、Y、C、Mの順等、画像形成方法に合わせて適当な順序が設定される。
【0140】
用紙搬送ベルト206は、ベルト支持ロール210、211、212、213によって内面側から張力を付与しつつ支持され、無端ベルトユニット220を形成している。該用紙搬送ベルト206は、矢印の反時計方向に感光体ドラム201Y、201M、201C、201BKと同じ周速度をもって回転するようになっており、ベルト支持ロール212、213の中間に位置するその一部が感光体ドラム201Y、201M、201C、201BKとそれぞれ接するように配置されている。用紙搬送ベルト206は、ベルト用清掃部材214が備えられている。
【0141】
転写ロール207Y、207M、207C、207BKは、用紙搬送ベルト206の内側であって、用紙搬送ベルト206と感光体ドラム201Y、201M、201C、201BKとが接している部分に対向する位置にそれぞれ配置され、感光体ドラム201Y、201M、201C、201BKと、用紙搬送ベルト206を介してトナー画像を用紙(被転写体)216に転写する転写領域を形成している。転写ロール207Y、207M、207C、207BKは、図2に示すとおり、感光体ドラム201Y、201M、201C、201BKの直下に配置していても、直下からずれた位置に配置してもよい。
【0142】
定着装置209は、用紙搬送ベルト206と感光体ドラム201Y、201M、201C、201BKとのそれぞれの転写領域を通過した後に搬送されるように配置されている。
【0143】
用紙搬送ロール208により、用紙216は用紙搬送ベルト206に搬送される。
【0144】
図2に示す画像形成装置において、ユニットBKにおいては、感光体ドラム201BKを回転駆動させる。これと連動して帯電器202BKが駆動し、感光体ドラム201BKの表面を目的の極性・電位に帯電させる。表面が帯電された感光体ドラム201BKは、次に、露光器203BKによって像様に露光され、その表面に静電荷像が形成される。
【0145】
続いて該静電荷像は、ブラック現像装置204BKによって現像される。すると、感光体ドラム201BKの表面にトナー画像が形成される。なお、このときの現像剤は一成分系のものでもよいし二成分系のものでもよい。
【0146】
このトナー画像は、感光体ドラム201BKと用紙搬送ベルト206との転写領域を通過し、用紙216が静電的に用紙搬送ベルト206に吸着して転写領域まで搬送され、転写ロール207BKから印加される転写バイアスによって形成される電界により、用紙216の表面に順次転写される。
【0147】
この後、感光体ドラム201BK上に残存するトナーは、感光体ドラム清掃部材205BKによって清掃・除去される。そして、感光体ドラム201BKは、次の画像転写に供される。
【0148】
以上の画像転写は、ユニットC、MおよびYでも上記の方法によって行われる。
【0149】
転写ロール207BK、207C、207Mおよび207Yによってトナー画像を転写された用紙216は、さらに定着装置209に搬送され、定着が行われる。
以上により用紙上に目的とする画像が形成される。
【0150】
次に、本実施形態の無端ベルトを、定着ベルト(加熱ベルト、加圧ベルト)として用いた画像形成装置について説明する。
【0151】
本実施形態に係る無端ベルトが、定着ベルト(加熱ベルト、加圧ベルト)として用いられた画像形成装置としては、例えば、図1および図2に示す画像形成装置と同様の画像形成装置が挙げられる。そして、図1および図2に示す画像形成装置において、定着装置110または定着装置209として、例えば、後述する本実施形態に係る無端ベルトが用いられた定着装置が適用される。
以下、本実施形態に係る無端ベルトが定着ベルト(加熱ベルト、加圧ベルト)として適用された定着装置について説明する。
【0152】
-定着装置-
定着装置としては、種々の構成があり、例えば、第1回転体と、第1回転体の外面に接して配置される第2回転体と、を備える。
【0153】
以下に、定着装置の第1及び第2の態様として、加熱ベルトと加圧ロールとを備えた定着装置を説明する。
なお、定着装置は、第1及び第2の態様に限られず、加熱ロール又は加熱ベルトと加圧ベルトとを備えた定着装置であってよい。そして、本実施形態に係る無端ベルトは、加熱ベルト及び加圧ベルトのいずれにも適用され得る。
また、定着装置は、第1及び第2の態様に限られず、電磁誘導加熱方式の定着装置であってもよい。
【0154】
・定着装置の第1の態様
第1の態様に係る定着装置について説明する。図3は、第1の態様に係る定着装置の一例を示す概略図である。
【0155】
第1の態様に係る定着装置60は、図3に示すように、例えば、回転駆動する加熱ロール61(第1回転体の一例)と、加圧ベルト62(第2回転体の一例)と、加圧ベルト62を介して加熱ロール61を押圧する押圧パッド64(押圧部材の一例)とを備えて構成されている。
なお、押圧パッド64は、例えば、加圧ベルト62と加熱ロール61とが相対的に加圧されていればよい。従って、加圧ベルト62側が加熱ロール61に加圧されてもよく、加熱ロール61側が加圧ベルト62に加圧されてもよい。
【0156】
加熱ロール61の内部には、ハロゲンランプ66(加熱手段の一例)が配設されている。加熱手段としては、ハロゲンランプに限られず、発熱する他の発熱部材を用いてもよい。
【0157】
一方、加熱ロール61の表面には、例えば、感温素子69が接触して配置されている。この感温素子69による温度計測値に基づいて、ハロゲンランプ66の点灯が制御され、加熱ロール61の表面温度が目的とする設定温度(例えば、150℃)を維持される。
【0158】
加圧ベルト62は、例えば、内部に配置された押圧パッド64とベルト走行ガイド63とによって回転自在に支持されている。そして、挟込領域N(ニップ部)において押圧パッド64により加熱ロール61に対して押圧されて配置されている。
【0159】
押圧パッド64は、例えば、加圧ベルト62の内側において、加圧ベルト62を介して加熱ロール61に加圧される状態で配置され、加熱ロール61との間で挟込領域Nを形成している。
押圧パッド64は、例えば、幅の広い挟込領域Nを確保するための前挟込部材64aを挟込領域Nの入口側に配置し、加熱ロール61に歪みを与えるための剥離挟込部材64bを挟込領域Nの出口側に配置している。
【0160】
加圧ベルト62の内周面と押圧パッド64との摺動抵抗を小さくするために、例えば、前挟込部材64a及び剥離挟込部材64bの加圧ベルト62と接する面にシート状の摺動部材68が設けられている。そして、押圧パッド64と摺動部材68とは、金属製の保持部材65に保持されている。
なお、摺動部材68は、例えば、その摺動面が加圧ベルト62の内周面と接するように設けられており、加圧ベルト62との間に存在するオイルの保持・供給に関与する。
【0161】
保持部材65には、例えば、ベルト走行ガイド63が取り付けられ、加圧ベルト62が回転する構成となっている。
【0162】
加熱ロール61は、例えば、図示しない駆動モータにより矢印S方向に回転し、この回転に従動して加圧ベルト62は、加熱ロール61の回転方向と反対の矢印R方向へ回転する。すなわち、例えば、加熱ロール61が図3における時計方向へ回転するのに対して、加圧ベルト62は反時計方向へ回転する。
【0163】
そして、未定着トナー像を有する用紙K(記録媒体の一例)は、例えば、定着入口ガイド56によって導かれて、挟込領域Nに搬送される。そして、用紙Kが挟込領域Nを通過する際に、用紙K上のトナー像は挟込領域Nに作用する圧力と熱とによって定着される。
【0164】
第1の態様に係る定着装置60では、例えば、加熱ロール61の外周面に倣う凹形状の前挟込部材64aにより、前挟込部材64aがない構成に比して、広い挟込領域Nを確保される。
【0165】
また、第1の態様に係る定着装置60では、例えば、加熱ロール61の外周面に対し突出させて剥離挟込部材64bを配置することにより、挟込領域Nの出口領域において加熱ロール61の歪みが局所的に大きくなるように構成されている。
【0166】
このように剥離挟込部材64bを配置すれば、例えば、定着後の用紙Kは、剥離挟込領域を通過する際に、局所的に大きく形成された歪みを通過することになるので、用紙Kが加熱ロール61から剥離しやすい。
【0167】
剥離の補助手段として、例えば、加熱ロール61の挟込領域Nの下流側に、剥離部材70を配設されている。剥離部材70は、例えば、剥離爪71が加熱ロール61の回転方向と対向する向き(カウンタ方向)に加熱ロール61と近接する状態で保持部材72によって保持されている。
【0168】
・定着装置の第2の態様
第2の態様に係る定着装置について説明する。図4は、第2の態様に係る定着装置の一例を示す概略図である。
【0169】
第2の態様に係る定着装置80は、図4に示すように、例えば、加熱ベルト84(第1回転体の一例)を備える定着ベルトモジュール86と、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)に押圧して配置された加圧ロール88(第2回転体の一例)とを含んで構成されている。そして、例えば、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)と加圧ロール88とが接触する挟込領域N(ニップ部)が形成されている。挟込領域Nでは、用紙K(記録媒体の一例)が加圧及び加熱されトナー像が定着される。
【0170】
定着ベルトモジュール86は、例えば、無端状の加熱ベルト84と、加圧ロール88側で加熱ベルト84が巻き掛けられ、モータ(不図示)の回転力で回転駆動すると共に加熱ベルト84をその内周面から加圧ロール88側へ押し付ける加熱押圧ロール89と、加熱押圧ロール89と異なる位置で内側から加熱ベルト84を支持する支持ロール90とを備えている。
定着ベルトモジュール86は、例えば、加熱ベルト84の外側に配置されてその周回経路を規定する支持ロール92と、加熱押圧ロール89から支持ロール90までの加熱ベルト84の姿勢を矯正する姿勢矯正ロール94と、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)と加圧ロール88とが接触する領域である挟込領域Nの下流側において加熱ベルト84を内周面から張力を付与する支持ロール98とが設けられている。
【0171】
そして、定着ベルトモジュール86は、例えば、加熱ベルト84と加熱押圧ロール89との間に、シート状の摺動部材82が介在するように設けられている。
摺動部材82は、例えば、その摺動面が加熱ベルト84の内周面と接するように設けられており、加熱ベルト84との間に存在するオイルの保持・供給に関与する。
ここで、摺動部材82は、例えば、その両端が支持部材96により支持された状態で設けられている。
【0172】
加熱押圧ロール89の内部には、例えば、ハロゲンヒータ89A(加熱手段の一例)が設けられている。
【0173】
支持ロール90は、例えば、アルミニウムで形成された円筒状ロールであり、内部にはハロゲンヒータ90A(加熱手段の一例)が配設されており、加熱ベルト84を内周面側から加熱するようになっている。
支持ロール90の両端部には、例えば、加熱ベルト84を外側に押圧するバネ部材(不図示)が配設されている。
【0174】
支持ロール92は、例えば、アルミニウムで形成された円筒状ロールであり、支持ロール92の表面には厚み20μmのフッ素樹脂からなる離型層が形成されている。
支持ロール92の離型層は、例えば、加熱ベルト84の外周面からのトナーや紙粉が支持ロール92に堆積するのを防止するために形成されるものである。
支持ロール92の内部には、例えば、ハロゲンヒータ92A(加熱源の一例)が配設されており、加熱ベルト84を外周面側から加熱するようになっている。
【0175】
つまり、例えば、加熱押圧ロール89と支持ロール90及び支持ロール92とによって、加熱ベルト84が加熱される構成となっている。
【0176】
姿勢矯正ロール94は、例えば、アルミニウムで形成された円柱状ロールであり、姿勢矯正ロール94の近傍には、加熱ベルト84の端部位置を測定する端部位置測定機構(不図示)が配置されている。
姿勢矯正ロール94には、例えば、端部位置測定機構の測定結果に応じて加熱ベルト84の軸方向における当り位置を変位させる軸変位機構(不図示)が配設され、加熱ベルト84の蛇行を制御するように構成されている。
【0177】
一方、加圧ロール88は、例えば、回転自在に支持されると共に、図示しないスプリング等の付勢手段によって加熱ベルト84が加熱押圧ロール89に巻き回された部位に押圧されて設けられている。これにより、定着ベルトモジュール86の加熱ベルト84(加熱押圧ロール89)が矢印S方向へ回転移動するのに伴って、加熱ベルト84(加熱押圧ロール89)に従動して加圧ロール88が矢印R方向に回転移動するようになっている。
【0178】
そして、未定着トナー像(不図示)を有する用紙Kは、矢印P方向に搬送され、定着装置80の挟込領域Nに導かれると、挟込領域Nに作用する圧力と熱とによって定着される。
【0179】
なお、第2の態様に係る定着装置80では、加熱源の一例としてハロゲンヒータ(ハロゲンランプ)を適用した形態を説明したが、これに限られず、ハロゲンヒータ以外の輻射ランプ発熱体(放射線(赤外線等)を発する発熱体)、抵抗発熱体(抵抗に電流を流すことによりジュール熱を発生させる発熱体:例えばセラミック基板に抵抗を有する膜を形成して焼成させたもの等)を適用してもよい。
【0180】
<無端ベルトユニット>
本実施形態に係る無端ベルトユニットとしては、本実施形態に係る無端ベルトと、無端ベルトを張力がかかった状態で掛け渡す複数のロールと、を備えるものが挙げられる。
【0181】
なお、本実施形態の無端ベルトユニットとしては、例えば、図1に示す無端ベルトユニット107b、及び図2に示す無端ベルトユニット220のように、円筒状部材と、円筒状部材を張力がかかった状態で掛け渡す複数のロールとを備えている。
【0182】
例えば、本実施形態に係る無端ベルトユニットの一例として、図5に示す無端ベルトユニットであってもよい。
図5は、本実施形態に係る無端ベルトユニットを示す概略斜視図である。
本実施形態に係る無端ベルトユニット130は、図5に示すように、上記本実施形態に係る無端ベルト30を備えており、例えば、無端ベルト30は対向して配置された駆動ロール131および従動ロール132により張力がかかった状態で掛け渡されている。
ここで、本実施形態に係る無端ベルトユニット130は、無端ベルト30を中間転写体として適用させる場合、無端ベルト30を支持するロールとして、感光体(像保持体)表面のトナー像を無端ベルト30上に1次転写させるためのロールと、無端ベルト30上に転写されたトナー像をさらに記録媒体に二次転写させるためのロールが配置されていてもよい。
なお、無端ベルト30を支持するロールの数は限定されず、使用態様に応じて配置すればよい。上記構成の無端ベルトユニット130は、装置に組み込まれて使用され、駆動ロール131、従動ロール132の回転に伴って無端ベルト30も支持した状態で回転する。
【実施例0183】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0184】
<実施例1>
(ポリイミド前駆体組成物の作製)
撹拌機、温度計及び滴下漏斗を取り付けたフラスコに、溶媒としてウレア系溶媒であるテトラメチル尿素200gを加えた。ここに、ジアミン化合物としてp-フェニレンジアミン20.20gを添加し、20℃で10分間撹拌した。この溶液に芳香族系テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物21.38gを添加し、反応温度40℃に保持しながら、24時間攪拌して溶解、反応を行い、ポリイミド前駆体を含むポリイミド前駆体組成物を得た。
【0185】
(塗膜形成工程及び乾燥工程)
作製したポリイミド前駆体組成物をアルミニウム製円筒状の金型(基材)の外面に塗布し、150℃で30分間回転乾燥した。
(焼成工程)
次いで、この金型を300℃のオーブンに20rpmで回転させながら1時間加熱させた後、オーブンから取り出した。
(取り外し工程)
この金型の外周面に形成されたポリイミド樹脂の成形体を金型から抜き取り、厚さ0.08mmの樹脂層を有する無端ベルトを得た。
【0186】
<実施例2~21、比較例1~5>
(ポリイミド前駆体組成物の作製)における溶媒の種類、並びに、(焼成工程)におけるオーブンの温度及び加熱時間を表1に記載の通りに変更したこと以外は実施例1と同一の手順で無端ベルトを得た。
【0187】
<実施例22~27>
(ポリイミド前駆体組成物の作製)におけるジアミン化合物種を、表2に記載の通りに変更したこと以外は実施例4と同一の手順で無端ベルトを得た。
【0188】
<評価>
既述の手順に従って各例で得た無端ベルトの引張破断強度及びMIT試験による耐折れ回数を測定し、その結果を表1に示す。なお、MIT試験による耐折れ回数の欄中のA~Dは下記基準で記載した。
-基準-
MIT試験による耐折れ回数の目標値(300,000回)を100としたときの、実測値の割合(%)[(MIT試験による耐折れ回数の実測値÷MIT試験による耐折れ回数の目標値)×100]を算出し、その値を基に下記基準でA~Dのいずれかを表1中に記載した。
AA:230%≦実測値の割合
A:200%≦実測値の割合<230%
B:120%≦実測値の割合<200%
C:100%≦実測値の割合<120%
D:実測値の割合<100%
【0189】
なお、MIT試験による耐折れ回数は、既述の手順の通り、無端ベルトから得た短冊状試験片を繰返し屈曲することで破断するまでの回数である。破断は屈曲部における割れの発生が生じることで引き起こされるため、MIT試験による耐折れ回数の値が大きいほど繰り返し屈曲された場合の屈曲部における割れの発生が抑制される無端ベルトであることを示す。
【0190】
【表1】
【0191】
【表2】
【0192】
表1~表2中の略称については以下の通りである。
・溶媒種
ウレア:ウレア系溶媒
アルコキシアミド:アルコキシ基含有アミド系溶媒
エステルアミド:エステル基含有アミド系溶媒
【0193】
上記結果から、本実施例の無端ベルトは、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される無端ベルトであることがわかる。
【0194】
なお、各例の無端ベルトの作製条件に順じて、樹脂フィルムを作製し、引張破断強度及びMIT試験による耐折れ回数を測定したところ、各例の無端ベルトと同様の結果が得られた。それにより、樹脂フィルムとしても、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制されることがわかった。
【0195】
<樹脂フィルム>
(塗膜形成工程及び乾燥工程)
作製したポリイミド前駆体組成物をバーコーターでガラス板(基材)上にて塗布し、150℃で30分間乾燥した。
(焼成工程)
次いで、このガラス板をオーブンにて加熱させた後、オーブンから取り出した。
(取り外し工程)
このガラス板上に形成されたポリイミド樹脂の膜をガラス板から剥がし、厚さ0.08mmの樹脂フィルムを得た。
【0196】
(((1))) ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、
前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、2200ppmを超え10000ppm以下である樹脂フィルム。
(((2))) 前記溶媒が、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種である(((1)))に記載の樹脂フィルム。
(((3))) 前記アルコキシ基含有アミド系溶媒が、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド及び3-nブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記エステル基含有アミド系溶媒が、5-ジメチルアミノ-2-メチル-5-オキソ-ペンタン酸メチルである(((2)))に記載の樹脂フィルム。
(((4))) 前記溶媒が3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドである(((1)))~(((3)))のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
((((5)))) 前記樹脂層が、フェニレンジアミンに由来する構造単位、及びジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位を有するポリイミド樹脂を含み、
前記ポリイミド樹脂中の、前記フェニレンジアミンに由来する構造単位と、前記ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位の含有割合(フェニレンジアミンに由来する構造単位/ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位)が、mol比で、80/20以上99.7/0.3以下である、(((1)))~(((4)))のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
(((6))) 前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、2500ppm以上9000ppm以下である(((1)))~(((5)))のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
(((7))) 前記溶媒の含有量が、前記樹脂層全体に対して、6000ppm以上7000ppm以下である(((6)))に記載の樹脂フィルム。
(((8))) 前記溶媒の沸点が200℃以上260℃以下である(((1)))~(((7)))のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
(((9))) 曲率半径Rが2mmのクランプを用いたMIT試験による耐折れ回数が300,000回以上である(((1)))~(((8)))のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
(((10))) ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有し、
引張破断強度が350N/mm以上である樹脂フィルム。
(((11))) (((1)))~(((10)))のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなる無端ベルト。
(((11))) (((11)))に記載の無端ベルトを備える画像形成装置。
(((12))) 像保持体と、
像保持体の表面を帯電する帯電装置と、
帯電した像保持体の表面に静電荷像を形成する静電荷像形成装置と、
トナーを含む現像剤により、像保持体の表面に形成された静電荷像をトナー画像として現像する現像装置と、
トナー画像を、トナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
トナー像を記録媒体に定着する定着装置と、を備え、
前記転写装置及び前記定着装置からなる群から選択される少なくとも1つが(((11)))に記載の無端ベルトを有する画像形成装置。
【0197】
(((1)))に係る発明によれば、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppm以下又は10000ppmを超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
(((2)))、(((3)))又は(((4)))に係る発明によれば、溶媒がウレア系溶媒である場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
(((5)))に係る発明によれば、ポリイミド樹脂中の、フェニレンジアミン由来の構造単位と、ジアミノジフェニルエーテル由来の構造単位の含有割合(フェニレンジアミン由来の構造単位/ジアミノジフェニルエーテル由来の構造単位)が、mol比で、80/20未満又は99.7/0.3超えである場合に比べ。繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
(((6)))に係る発明によれば、溶媒の含有量が2500ppm未満又は9000ppmを超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
(((7)))に係る発明によれば、溶媒の含有量が6000ppm未満又は7000ppmを超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
(((8)))に係る発明によれば、溶媒の沸点が200℃未満又は280℃を超える場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
(((9)))に係る発明によれば、曲率半径Rが2mmのクランプを用いたMIT試験による耐折れ回数が300,000回未満である場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
(((10)))に係る発明によれば、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、引張破断強度が270N/mm未満である場合と比較して繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される樹脂フィルムが提供される。
(((11)))に係る発明によれば、 ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppm以下又は10000ppmを超える樹脂フィルムからなる無端ベルトに比較して、又は引張破断強度が270N/mm未満である樹脂フィルムからなる無端ベルトに比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される無端ベルトが提供される。
(((12)))又は(((13)))に係る発明によれば、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む樹脂層を有する樹脂フィルムにおいて、溶媒の含有量が、樹脂層全体に対して、2200ppm以下又は10000ppmを超える樹脂フィルムからなる無端ベルトを備えた場合、又は引張破断強度が270N/mm未満である樹脂フィルム樹脂フィルムからなる無端ベルトを備えた場合と比較して、繰り返し屈曲された場合でも屈曲部における割れの発生が抑制される無端ベルトを備えた画像形成装置が提供される。
【符号の説明】
【0198】
60 定着装置、61 加熱ロール、62 加圧ベルト、63 ベルト走行ガイド、64 押圧パッド、64a 前挟込部材、64b 剥離挟込部材、65 保持部材、66 ハロゲンランプ、68 摺動部材、69 感温素子、70 剥離部材、71 剥離爪、72 保持部材、80 定着装置、82 摺動部材、84 加熱ベルト、86 定着ベルトモジュール、88 加圧ロール、89A ハロゲンヒータ、89 加熱押圧ロール、90A ハロゲンヒータ、90 支持ロール、92A ハロゲンヒータ、92 支持ロール、94 姿勢矯正ロール、96 支持部材、98 支持ロール、100 画像形成装置、101a乃至101d 像保持体、102a乃至102d 帯電装置(帯電手段)、103a乃至103d、204Y、204M、204C、204BK 現像装置(現像手段)、104a乃至104d 像保持体クリーニング装置、105a乃至105d 一次転写ロール、106a乃至106e 支持ロール、107 中間転写ベルト、107b、130、220 無端ベルトユニット、108 対向ロール、109 二次転写ロール、110、209 定着装置(定着手段)、111 駆動ロール、112、113 中間転写ベルトクリーニング装置、114a乃至114d 露光装置(潜像形成手段)115 記録媒体、116 二次転写ベルト、201Y、201M、201C、201BK 感光体ドラム(像保持体)、202Y、202M、202C、202BK 帯電器(帯電手段)、203Y、203M、203C、203BK 露光器(潜像形成手段)、205Y、205M、205C、205BK 感光体ドラム清掃部材、206 用紙搬送ベルト、207Y、207M、207C、207BK 転写ロール(転写手段)、214 ベルト用清掃部材、216 用紙(記録媒体)
図1
図2
図3
図4
図5