(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074786
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】低放射性アルミナ粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/441 20220101AFI20240524BHJP
C01F 7/46 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C01F7/441
C01F7/46
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196007
(22)【出願日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】202211453088.3
(32)【優先日】2022-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】519365506
【氏名又は名称】江蘇聯瑞新材料股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】胡世成
(72)【発明者】
【氏名】姜兵
(72)【発明者】
【氏名】彭澤華
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB06
4G076BA25
4G076BA38
4G076BA43
4G076BD01
4G076BF05
4G076CA03
4G076CA26
4G076CA37
4G076DA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、アルミナの技術分野に関し、且つ低放射性アルミナ粉末およびその製造方法を開示しており、アルミナ材における表面ウラン含有量を5ppb以下のレベルに低下させる。
【手段】この製造方法は、アルミナを酸性溶液に分散させ、酸性条件下でアルミナ単結晶表面に吸着したウランを溶液に分散させてウラニルイオン(UO
2
2+)の状態で存在させることができ、そして、シランカップリング剤の溶剤で置換し、表面張力の作用下でアルミナ隙間に残留している酸性溶液およびその中のウラニルイオン(UO
2
2+)がアルミナ粉体外へ置換され、最後、高温乾燥処理を行うことで、含有するウラン含有量の低下を実現し、原料のウラン含有量を30ppb程度から5ppb以下に低下させて、低放射性球状アルミナの生産のニーズを満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面ウラン含有量が30ppb以下の水酸化アルミニウムを焙焼装置で焼成してアルミナ粉体を得るS1と、
pH<4の酸性溶液を調製した後、アルミナ粉体を酸性溶液に浸潤し、均一に0.5~2h分散するS2と、
分散した粉体を酸性溶液から分離した後、シランカップリング剤を含む溶剤に入れて0.5~6h溶剤置換するS3と、
溶剤置換した粉体を分離した後、粉体を100~120℃の条件下で2~6h乾燥して、表面ウラン含有量が5ppb以下の低放射性アルミナ粉体を得るS4と、を含む、
ことを特徴とする低放射性アルミナ粉末の製造方法。
【請求項2】
前記S1では、水酸化アルミニウムの比表面積は60m2/g以上であり、平均粒径は2~100μmである、
ことを特徴とする請求項1に記載の低放射性アルミナ粉末の製造方法。
【請求項3】
前記S1では、焼成は500~1200℃で0.5~4h行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の低放射性アルミナ粉末の製造方法。
【請求項4】
前記S2では、酸性溶液は、塩酸、硝酸、ホウ酸、クエン酸のうちの1種または複数種である、
ことを特徴とする請求項1に記載の低放射性アルミナ粉末の製造方法。
【請求項5】
前記S2では、分散の方式は、撹拌による分散、超音波による分散、揺動反応器による分散のうちの1種である、
ことを特徴とする請求項1に記載の低放射性アルミナ粉末の製造方法。
【請求項6】
前記S3では、シランカップリング剤は、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランのうちの1種を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の低放射性アルミナ粉末の製造方法。
【請求項7】
前記S3では、溶剤は、エタノール、n-ヘキサンのうちの1種を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の低放射性アルミナ粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナの技術分野に関し、具体的には、低放射性アルミナ粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー自動車や、5G通信業界の発展に伴い、信号伝送および記憶の機能を持つチップなどの素子は、作動時の発熱量が急激に増えている。素子の作動時の信頼性を確保するために、素子の放熱性能を向上させる必要がある。そのため、通常、パッケージングのフィラーとして、球状酸化ケイ素の代わりに熱伝導率がより高い球状アルミナを選択することがある。
【0003】
素子の信号が伝送時に「ソフトエラー」が発生することを回避するために、フィラーにおける放射性元素であるウラン(U)、トリウム(Th)などの元素を厳密に管理・制御する必要がある。通常のアルミナにおけるウラン(U)元素の含有量が数百ppbの高さに達するので、球状化された後に要求を満たす低放射性球状アルミナ製品を取得することができるために、ウラン(U)元素の含有量が低い低放射性原料を取得する必要がある。日本特許JP-A11-92136は、高純度アルミニウム粉末(ウラン、トリウムの含有量<1ppb)を球状化の原料として、爆燃法により低放射性球状アルミナ製品を取得するが、この方法は、コストが高く、かつ一定のセキュリティリスクが存在する。中国専利CN102249276Aは、比表面積SSAが0.3~3m2/gで、ウラン含有量Uが10ppb未満、より好ましくは8ppb以下の水酸化アルミニウムを原料として、火炎に噴射した後、粉末を収集して球状アルミナ製品を取得するが、得られた球状アルミナのU含有量が8ppb以下のレベルに達成できるのみである。製品におけるウラン(U)含有量をさらに低下させて、球状アルミナ製品のより低いウラン(U)含有量のニーズを満たすために、本発明では、低放射性アルミナ粉末の製造方法が報道される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、表面ウラン含有量が5ppb以下の低放射性アルミナ粉末および製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術案を提供する。
表面ウラン含有量が30ppb以下の水酸化アルミニウムを焙焼装置で焼成してアルミナ粉体を得るS1と、
pH<4の酸性溶液を調製した後、アルミナ粉体を酸性溶液に浸潤し、均一に0.5~2h分散するS2と、
分散した粉体を酸性溶液から分離した後、シランカップリング剤を含む溶剤に入れて0.5~6h溶剤置換するS3と、
溶剤置換した粉体を分離した後、粉体を100~120℃の条件下で2~6h乾燥して、表面ウラン含有量が5ppb以下の低放射性アルミナ粉体を得るS4と、を含む、低放射性アルミナ粉末の製造方法。
【0006】
好ましくは、前記S1では、水酸化アルミニウムの比表面積は60m2/g以上であり、平均粒径は2~100μmである。
【0007】
好ましくは、前記S1では、焼成は500~1200℃で0.5~4h行う。
【0008】
好ましくは、前記S2では、酸性溶液は、塩酸、硝酸、ホウ酸、クエン酸のうちの1種または複数種である。
【0009】
好ましくは、前記S2では、分散の方式は、撹拌による分散、超音波による分散、揺動反応器による分散のうちの1種である。
【0010】
好ましくは、前記S3では、シランカップリング剤は、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランのうちの1種を含む。
【0011】
好ましくは、前記S3では、溶剤は、エタノール、n-ヘキサンのうちの1種を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、低放射性アルミナ粉末およびその製造方法を設計することを目的とし、アルミナ材における表面ウラン含有量を5ppb以下のレベルに低下させ、アルミナを酸性溶液に分散させることで、酸性条件下でアルミナ単結晶表面に吸着したウランを溶液に分散させてウラニルイオン(UO2
2+)の状態で存在させることができ、その後、シランカップリング剤の溶剤で置換し、表面張力の作用下でアルミナ隙間に残留している酸性溶液およびその中のウラニルイオン(UO2
2+)がアルミナ粉体外へ置換され、最後、高温乾燥処理を行うことで、含有するウラン含有量の低下を実現し、原料のウラン含有量を30ppb程度から5ppb以下に低下させて、低放射性球状アルミナの生産のニーズを満たす。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】低放射性アルミナ粉体の表面トポグラフィーの走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】低放射性球状アルミナ粉体の表面トポグラフィーの走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施例1
(1)表面ウラン含有量が30ppb以下、比表面積が60m2/g以上、平均粒径が40μmの水酸化アルミニウム粉体を1000℃の条件下で4h焼成して、アルミナ粉体を得た。
【0015】
(2)焼成されたアルミナ粉体を、pH3.5の塩酸溶液に浸潤し、撹拌および超音波分散を1h行った。
【0016】
(3)アルミナ粉体を溶液から分離し、ヘキサメチルジシロキサンを含むn-ヘキサン溶液に浸潤し、溶剤置換を3h行った。
【0017】
(4)溶液におけるアルミナ粉体を分離し、120℃の条件下で4h乾燥して、低放射性アルミナ粉体を得た。
【0018】
実施例2
(1)表面ウラン含有量が30ppb以下、比表面積が60m2/g以上、平均粒径が10μmの水酸化アルミニウム粉体を1000℃の条件下で4h焼成して、アルミナ粉体を得た。
【0019】
(2)焼成されたアルミナ粉体を、pH3.5の塩酸溶液に浸潤し、撹拌および超音波分散を1h行った。
【0020】
(3)アルミナ粉体を溶液から分離し、ヘキサメチルジシロキサンのn-ヘキサン溶液に浸潤し、溶剤置換を3h行った。
【0021】
(4)溶液におけるアルミナ粉体を分離し、120℃の条件下で4h乾燥して、低放射性アルミナ粉体を得た。
【0022】
実施例3
(1)表面ウラン含有量が30ppb以下、比表面積が60m2/g以上、平均粒径が5μmの水酸化アルミニウム粉体を1000℃の条件下で4h焼成して、アルミナ粉体を得た。
【0023】
(2)焼成されたアルミナ粉体を、pH3.5の塩酸溶液に浸潤し、撹拌および超音波分散を1h行った。
【0024】
(3)アルミナ粉体を溶液から分離した後、ヘキサメチルジシロキサンのn-ヘキサン溶液に浸潤し、溶剤置換を3h行った。
【0025】
(4)溶液におけるアルミナ粉体を分離し、120℃の条件下で4h乾燥して、低放射性アルミナ粉体を得た。
【0026】
実施例4
球状化技術により、天然ガスおよび酸素ガスが燃焼して形成された火炎領域を球状化領域として、実施例3で得られた低放射性アルミナ粉体を球状化処理した。球状化されたサンプルの平均粒径は4.5μmであった。
【0027】
比較例1
(1)表面ウラン含有量が30ppb以下、比表面積が60m2/g以上、平均粒径が40μmの水酸化アルミニウム粉体を1000℃の条件下で4h焼成して、アルミナ粉体を得た。
【0028】
比較例2
(1)表面ウラン含有量が30ppb以下、比表面積が60m2/g以上、平均粒径が5μmの水酸化アルミニウム粉体を1000℃の条件下で4h焼成して、アルミナ粉体を得た。
【0029】
(2)焼成した酸化粉体を、pH3.5の塩酸溶液に浸潤し、撹拌および超音波分散を1h行った。
【0030】
(3)アルミナ粉体を溶液から分離し、1000℃の条件下で4h焼成して、低放射性アルミナ粉体を得た。
【0031】
比較例3
球状化技術により、天然ガスおよび酸素ガスが燃焼して形成された火炎領域を球状化領域として、比較例2で得られた低放射性アルミナ粉体を球状化処理した。球状化されたサンプルの平均粒径は4.5μmであった。
【0032】
ICP-MS誘導結合プラズマ質量分析法によりサンプルの表面ウラン含有量を測定した。0.1gのアルミナサンプル、硫酸、硝酸、およびリン酸を消化タンクで30min消化し、その後、180℃の条件下で乾燥、酸除去を行い、酸除去後に、1%の硝酸で100mlまでメスアップした後、メスアップしたサンプルをICP-MSで検出した。
【0033】
【0034】
検出結果から分かるように、本発明に記載の製造方法によりウラン(U)含有量が5ppb未満の低放射性アルミナ粉体を取得することができ、且つ原料の粒度が細かいほど精製効果が良くなった。比較例の試験結果から分かるように、粉体の酸性溶液における分散、および溶剤置換の方式により、アルミナ粉体におけるウラン(U)含有量を大幅に低下させて、低放射性球状アルミナの原料におけるニーズを満たすことができる。