(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000748
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】アルカリ蓄電池用正極板、及びアルカリ蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/32 20060101AFI20231226BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231226BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20231226BHJP
H01M 10/28 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M4/32
H01M4/62 C
H01M4/24 J
H01M10/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099625
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】谷本 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】石田 潤
(72)【発明者】
【氏名】井本 雄三
(72)【発明者】
【氏名】江原 友樹
【テーマコード(参考)】
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028CC12
5H028EE01
5H028EE05
5H028FF03
5H028HH01
5H050AA06
5H050BA11
5H050CA03
5H050CB16
5H050DA02
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA12
5H050FA05
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA19
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】 低温環境下における放電容量の高いアルカリ蓄電池用正極板を提供する。
【解決手段】 アルカリ蓄電池を構成する正極板は、水酸化ニッケルの100質量部を含む正極活物質と、酸化イットリウムからなる添加剤と、を含む。水酸化ニッケルはα相単相からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルの100質量部を含む正極活物質と、酸化イットリウムからなる添加剤と、を含み、前記水酸化ニッケルはα相単相からなる、アルカリ蓄電池用正極板。
【請求項2】
前記酸化イットリウムは、0.3以上5以下の質量部である、請求項1記載のアルカリ蓄電池用正極板。
【請求項3】
前記添加剤は、さらに、イッテルビウム化合物、ニオブ化合物及びチタン化合物のうちのすくなくとも1つ以上を含む、請求項1または2記載のアルカリ蓄電池用正極板。
【請求項4】
前記水酸化ニッケルの粒子の表面に導電層を有し、前記導電層はコバルト化合物を含む、請求項1または2記載のアルカリ蓄電池用正極板。
【請求項5】
さらに、導電材を含む、請求項1または2記載のアルカリ蓄電池用正極板。
【請求項6】
外装缶に電極群がアルカリ電解液と共に収容されたアルカリ蓄電池であって、
前記電極群は、
請求項1または2に記載の正極板と、
電気化学的に水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金を含み、且つ前記正極板とセパレータを介して対向する負極板と、
を有する、アルカリ蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池用正極板と、当該正極板を有するアルカリ蓄電池とに関する。
【背景技術】
【0002】
現在広く使用されているアルカリ蓄電池用正極活物質は、β相のNi(OH)2である。該活物質は、充電において、β-Ni(OH)2からオキシ水酸化ニッケルβ-NiOOHに酸化され、放電において元のβ-Ni(OH)2に還元される。また、充電及び放電時の酸化還元反応は、1電子反応(理論容量289mAh/g)で進行する。
【0003】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、さらなる高容量化のためにα相のNi(OH)2であるα-Ni(OH)2と、γ-NiOOHの1.5電子反応(理論容量434mAh/g)を利用した正極が提案されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のアルカリ蓄電池用正極板は、水酸化ニッケルの100質量部を含む正極活物質と、酸化イットリウムからなる添加剤と、を含み、前記水酸化ニッケルはα相単相からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、正極板の導電性が向上するので、係る正極板を有するアルカリ電池の低温放電性能が改善する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施の形態に係るニッケル水素電池の一部を破断した斜視図である。
【
図2】正極活物質の結晶構造の種類と、添加剤の種類及び添加量と、低温特性との関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態に係るアルカリ蓄電池の一例としてニッケル水素電池について説明する。
【0010】
1.アルカリ蓄電池の構成
ニッケル水素電池(以下、「電池」と称す)1は、例えば
図1に示すように、AAサイズの円筒型である。電池1は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶2に、正極板3及び負極板4がセパレータ5を介して重ね合わせられて渦巻状に巻回された電極群6がアルカリ電解液と共に収容され、上端が封口体7にて封止されている。
【0011】
外装缶2は、底壁8が導電性を有して負極端子として機能する。封口体7は、蓋板9及び正極端子10を含む。蓋板9は、導電性を有して中央にガス抜き孔11を有し、蓋板9の外面上には、ガス抜き孔11を塞ぐゴム製の弁体12が配置される。蓋板9は、外装缶2の開口端部にリング形状のガスケット13を介して配置され、外装缶2の開口縁をかしめ加工することにより当該開口を閉塞する。蓋板9には、端子が取付けられて、正極端子10として機能する。
【0012】
電極群6は、それぞれ帯状の正極板3、負極板4及びセパレータ5からなり、正極板3と負極板4との間に、セパレータ5が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回され、ほぼ円柱形状をなしている。すなわち、正極板3及び負極板4は、セパレータ5を介して対向し、外装缶2の径方向に重ね合わせられている。
【0013】
外装缶2内では、電極群6の一端と蓋板9との間に正極リード14が配置され、正極リード14の各端部は、それぞれ正極板3及び蓋板9に電気的に接続される。
【0014】
正極板3は、多孔質構造を有する導電性の正極芯体と、正極芯体の表面及び空孔内に塗布された正極合剤とからなる。正極芯体としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体や発泡ニッケルが用いられている。
【0015】
正極合剤は、正極活物質粒子、導電材、正極添加剤及び結着剤を含む。正極活物質粒子は、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)粒子又は高次水酸化ニッケル粒子である。また、導電材として、水酸化コバルト(Co(OH)2)を用いる。本実施の形態では、結晶構造がα相の単相である水酸化ニッケルを用いる。
そして、α相の単相からなる水酸化ニッケル粒子には、コバルト、アルミニウム、イットリウム及びマンガンのうちの少なくとも一種を固溶させることが好ましい。正極添加剤としては、Y2O3、Nb2O5、TiO2、Yb2O3が用いられる。
【0016】
負極板4は、帯状をなす導電性の負極芯体を有し、この負極芯体に負極合剤が塗布される。負極芯体は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、表面にニッケルメッキを施した鉄製のパンチングシートを用いる。負極合剤は、負極芯体に塗布されると負極合剤層を構成する。
【0017】
負極合剤は、水素吸蔵合金の粒子、負極添加剤、導電材及び結着剤を含む。
【0018】
水素吸蔵合金は、負極活物質である水素を吸蔵及び放出可能な合金である。水素吸蔵合金としては、一般的な水素吸蔵合金を用いることができる。ここで、本開示においては、希土類元素、Mg、Niを含む希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。
【0019】
セパレータ5は、例えば、フッ素処理やスルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維からなる不織布からなる。
【0020】
電極群6は、負極側が外装缶2の底壁8に接するように外装缶2に収容される。
【0021】
さらに、外装缶2内に所定量のアルカリ電解液が注入される。アルカリ電解液は、正極板3、負極板4及びセパレータ5に含浸され、正極板3と負極板4との間の電気化学反応、いわゆる充放電反応に寄与する。アルカリ電解液としては、NaOHを溶質の主体として含むアルカリ電解液が用いられる。その後、外装缶2の開口が閉塞される。
【0022】
2.電池の製造方法
次に、上記電池1の製造方法について以下に説明する。
(1)正極板の製造
硫酸ニッケル、硫酸アルミニウム及び硫酸コバルトを所定の組成に計量し、計量した硫酸ニッケル、硫酸アルミニウム及び硫酸コバルトを1mol/Lの硫酸水溶液に加えて混合水溶液を作製する。この混合水溶液に、撹拌しながら10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に徐々に添加して反応中の水溶液のpHを13~14に安定させて、水酸化ニッケルを主体としてAl及びCoを固溶させた水酸化ニッケル粒子を生成する。これにより、Al及びCoが固溶された水酸化ニッケル粒子の混合体である水酸化ニッケル粉末が、正極活物質粉末として得られる。
【0023】
この水酸化ニッケル粒子の表面に導電層を形成する場合は、以下に示す処理を行うことができる。
【0024】
まず、上記のように得られた水酸化ニッケル粒子をアンモニア水溶液中に投入し、この水溶液中に硫酸コバルト水溶液を加える。これにより、水酸化ニッケル粒子を核として、この核の表面に水酸化コバルトが析出し、水酸化コバルトからなる導電層を備えた活物質が形成される。
【0025】
得られた水酸化ニッケルに対して、X線回折(XRD)分析を行った。分析には、粉末XRD装置(Rigaku社製MiniFlex600)を用いた。分析の条件は、X線源はCuKα、管電圧は40keV、管電流は15mA、スキャンスピードは5度/分、ステップ幅は0.02度であった。この分析結果のプロファイルから、水酸化ニッケルは、結晶構造がα相の単相であることが確認される。
【0026】
上記正極活物質粉末の100質量部に対し、水酸化コバルトの3.5質量部と、ヒドロキシプロピルセルロース(Hydroxypropyl Cellulose,HPC)の0.2質量部の粉末に、添加剤としてY2O3を乾燥状態で適宜添加して混合する。さらに、Y2O3の他に、第2添加剤としてNb2O5、TiO2、Yb2O3の中からの少なくとも1つを適宜添加して混合することもできる。そして、水の30質量部、PTFEの0.3質量部を添加して正極活物質スラリーを作製する。正極活物質スラリーを発泡ニッケルからなるテープ状の正極芯体に充填して乾燥させる。その後、スラリーが乾燥された正極芯体をロール圧延し裁断して、AAサイズ用の正極板3を作製する。
【0027】
(2)負極板の作製
最初に、30質量%のランタン(La)、70質量%のサマリウム(Sm)を含む希土類成分を調製し、得られた希土類成分、Mg、Ni、Alを計量して、これらがモル比で0.90:0.10:3.33:0.17の割合となる混合物を作製する。この混合物は、誘導溶解炉で溶解され、その溶湯が鋳型に流し込まれて室温まで冷却されると、水素吸蔵合金のインゴットになる。インゴットより採取したサンプルに対し、高周波プラズマ分光分析法(ICP)により組成を分析すると、水素吸蔵合金の組成は、La0.30Sm0.70Mg0.10Ni3.33Al0.17であった。
【0028】
上記水素吸蔵合金のインゴットに対し、アルゴンガス雰囲気中、温度1000℃の熱処理を10時間施す。熱処理後、室温まで冷却されたインゴットをアルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕し、水素吸蔵合金粒子からなる水素吸蔵合金粉末を得る。水素吸蔵合金粉子の粒径を、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて測定したところ、水素吸蔵合金粒子の体積平均粒径(Mean Volume Diameter)は60μmであった。
【0029】
この水素吸蔵合金粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4質量部、カルボキシメチルセルロース0.1質量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスパージョン1.0質量部、カーボンブラック1.0質量部、及び水30質量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを作製する。このペーストを、テープ状の鉄製の孔あき板の両面に、それぞれ厚さが一定となるように塗布する。孔あき板は、60μmの厚みを有し、表面にはニッケルめっきが施されている。
【0030】
ペーストを乾燥させた後、孔あき板をロール圧延して負極合剤の単位体積当たりの合金量を高めた後、所定の大きさに裁断し、AAサイズ用の負極板4を作製する。
【0031】
(3)電池の組立
正極板3及び負極板4をそれぞれの長手方向が同一となるように重ね合わせ、両電極板間にセパレータ5を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群6を形成する。本実施の形態において、セパレータ5は、スルホン化処理が施されたポリプロピレン繊維製不織布で形成され、厚みは0.1mm(目付量53g/m2)である。
【0032】
アルカリ電解液は、KOH、NaOH及びLiOHを含む水溶液である。本実施の形態では、アルカリ電解液には、KOH、NaOH及びLiOHが、KOH:NaOH:LiOH=0.8:7.0:0.02の比で含まれている。
【0033】
次に、外装缶2に電極群6を収容し、アルカリ電解液を所定量注入する。その後、封口体7で外装缶2の開口を塞いで、公称容量2000mAhのAAサイズのニッケル水素電池1を組み立てる。電池1の公称容量は、温度25℃の環境下にて、0.2Itで16時間充電後、0.4Itで電池電圧が1.0Vになるまで放電させるときの放電容量とする。
【0034】
上記構成のニッケル水素電池の放電特性を調べるために、
図2の表1に示すように、正極活物質としてのα相単相からなる水酸化ニッケル100質量部に対する添加剤としてのY
2O
3の添加量を変えた電池1をそれぞれ実施例1-7として作製する。
実施例1:添加剤(Y
2O
3)0.3質量部
実施例2:添加剤(Y
2O
3)1質量部
実施例3:添加剤(Y
2O
3)5質量部
なお、実施例1の電池は、(Y
2O
3)が0.3質量部と、添加剤の総量が少ないので、他の添加剤としてYb
2O
3の1質量部を添加している。
【0035】
また、正極活物質としてのα相単相からなる水酸化ニッケル100質量部に対し、添加剤としてY2O3の1質量部の他に、種類の異なる添加剤を添加した電池1を作製する。
実施例4:添加剤(Y2O3)1質量部に添加剤(Nb2O5)1質量部
実施例5:添加剤(Y2O3)1質量部に添加剤(TiO2)1質量部
実施例6:添加剤(Y2O3)1質量部に添加剤(Yb2O3)1質量部
【0036】
上記実施例に対し以下の電池1を比較例1-7として作製する。
比較例1:正極活物質はα相単相のNi(OH)2、添加剤(Y2O3)0.1質量部
比較例2:正極活物質はα相単相のNi(OH)2、添加剤(Y2O3)6質量部
比較例3:正極活物質はα相単相のNi(OH)2、添加剤(TiO2)1質量部
比較例4:正極活物質はα相単相のNi(OH)2、添加剤(Yb2O3)1質量部
比較例5:正極活物質はβ相のNi(OH)2、添加剤無し
比較例6:正極活物質はβ相単相のNi(OH)2、添加剤(Y2O3)1質量部
【0037】
(4)初期活性化処理
組立てた電池1に対し、温度25℃の環境下にて、0.2Itで16時間の充電を行った後に、0.4Itで電池電圧が1.0Vになるまで放電させる充放電操作を1サイクルとする。この充放電サイクルを5回繰り返すことにより初期活性化処理を行い、電池1を使用可能にする。
【0038】
3.電池特性の評価
初期活性化済みの電池1を、25℃の温度環境下で1.0Itの充電電流で1時間充電し、その後、25℃の温度環境下で1.0Itの放電電流で放電させる。電池電圧が1.0V(放電休止電圧)になるまで放電させたときの電池の放電容量を測定する。この時の放電容量を25℃充電・25℃放電容量とし、電池特性評価の基準とする。また、利用率は、下記の式を用いて算出する。
【0039】
次に、電池1を25℃の温度環境下にて1.0Itの充電電流で1時間充電し、その後、-20℃の温度環境下で1.0Itの放電電流で放電させる。放電される電池1の電池電圧が放電休止電圧である1.0Vに降下するまでの電池1の放電容量を測定した。この放電容量を25℃充電・-20℃放電容量とする。
【0040】
一方、電池1を60℃の温度環境下にて1.0Itの充電電流で16時間充電し、その後、25℃の温度環境下で0.2Itの放電電流で放電させる。放電される電池1の電池電圧が放電休止電圧である1.0Vに降下するまでの電池1の放電容量を測定した。この放電容量を60℃充電・25℃放電容量とする。
【0041】
図2に、各電池に対し、25℃充電・25℃放電容量に対する、測定された25℃充電・-20℃放電容量の比と、60℃充電・25℃放電容量の比と、を算出した表を記す。なお、本開示において、25℃充電・25℃充電容量を基準とする25℃充電・-20℃放電容量の比を「低温放電性能」と称する。この値が大きいときは、低温環境での放電容量が多いことを意味し、低温放電性能が高いことを示す。一方、当該比が小さいときは、低温環境での放電容量が少ないことを意味し、低温放電性能が低いと記す。
【0042】
また、各電池に対し、25℃充電・25℃放電容量を基準とする60℃充電・25℃放電容量の比を「高温充電性能」と称する。この値が大きいときは、高温環境での充電容量が多いことを意味し、高温充電性能が優れていることを示す。一方、当該比が小さいときは、高温環境下での充電容量が少ないことを意味し、高温充電性能が低いことを示す。
【0043】
また、添加剤としてY2O3の1質量部を用いるときの低温放電性能は、α相単相からなる実施例2の電池では45.8%になり、β相からなる比較例6の電池では3.9%になる。このように、同量のY2O3を添加剤として含む場合であっても、正極活物質としてβ相よりもα相の水酸化ニッケルを用いた電池の方が、低温時における放電容量が10倍以上に増えていることが分かる。
【0044】
なお、β相からなる水酸化ニッケルを正極活物質としてY2O3を添加した場合であっても(比較例6)、α相の水酸化ニッケルに同量のY2O3を添加した正極合材からなる実施例2の電池のように、低温放電性能は改善されない。従って、正極活物質としてのα相の水酸化ニッケルと、添加剤としてのY2O3とを組み合わせて正極合材とすることにより、電池1の低温放電性能の改善が可能になる。
【0045】
また、正極添加剤としては、Y2O3、Nb2O5、TiO2、Yb2O3のうちいずれか一の1質量部を添加した場合、すなわち、実施例2、比較例4、比較例3、比較例4の低温放電性能を比較したときに、Y2O3を添加した実施例2の電池が45.8%と最も高い数値を呈している。従って、Y2O3を正極添加剤として作製された電池は、低温(-20℃)における放電容量が多いことが分かる。
【0046】
さらに、添加剤としてY2O3を用いる時に、同時にNb2O5、TiO2及びYb2O3のうちのいずれか一つを添加剤として一緒に添加して正極合材とする場合(実施例4-7)は、Y2O3のみを添加材として作製する電池(実施例2)よりも、平均して高温充電性能が向上する傾向が確認された。したがって、添加剤としてY2O3に加え、同時にNb2O5、TiO2及びYb2O3のうちの一つをさらなる添加材として添加して正極合材とする電池は、低温放電性能に加え高温充電性能も改善される。このように、電池特性が向上した電池を製造することができる。
【0047】
さらに、Y2O3の添加量について、低温放電性能は、0.3質量部の実施例1の電池が24.2%、1質量部の実施例2の電池が45.8%、5質量部の実施例3の電池が48.1%と、比較例3、4、5の電池に比べて高くなっている。しかしながら、Y2O3が0.1%添加された比較例1の電池では、低温放電性能は10.7%と低い。一方で、Y2O3が6質量部の比較例2の電池は、47.3%と高い数値を呈する。しかしながら、比較例2の電池は、正極合剤の正極芯体への充填量が同じ放電容量を得るために、実施例1の電池に比較して1.053倍と5%以上重くなるので、添加量は、5%までとするのが望ましい。従って、Y2O3の添加量は、α相の水酸化ニッケルの100質量部に対し、0.3質量部から5質量部が好ましい。
【0048】
以上から、アルカリ蓄電池において、正極活物質となる水酸化ニッケルとしてはα相単相を用い、且つ酸化イットリウムを添加剤として正極板を作製することによって、低温放電性能を改善することができる。すなわち、例えば-20℃などの低温環境においても、十分な放電容量を得ることができる。また、酸化イットリウムと同時に、イッテルビウム化合物、ニオブ化合物、及びチタン化合物のうちのいずれか一つを添加剤として添加することにより、高温充電性能の改善を図ることもできる。
【0049】
なお、上記実施の形態では、アルカリ蓄電池としてニッケル水素電池について記載したが、本発明は、ニッケル水素電池に限定されず、適宜の種類のアルカリ蓄電池の正極板に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 電池
3 正極板
4 負極板
5 セパレータ