(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074832
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】核酸ベクター錠剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20240524BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240524BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240524BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240524BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240524BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240524BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240524BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240524BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P1/00
A61P15/02
A61K47/18
A61K47/24
A61K47/28
A61K31/713
A61K31/7105
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024048512
(22)【出願日】2024-03-25
(62)【分割の表示】P 2022168639の分割
【原出願日】2018-05-09
(31)【優先権主張番号】1754105
(32)【優先日】2017-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】512082439
【氏名又は名称】アンスティテュ ポリテクニック ドゥ ボルドー
【氏名又は名称原語表記】Institut Polytechnique De Bordeaux
(71)【出願人】
【識別番号】519400357
【氏名又は名称】エコール・ナシオナル・シュペリウール・ダール・エ・メティエ
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】518436250
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レットル
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルジニー・ビュシニー-ゴッダン
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ビジェー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーヌ・シャルオー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルジニー・エスクリウ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・トショルロフ
(57)【要約】
【課題】本発明は、核酸ベクターを含む錠剤を製造するための方法に関する。
【解決手段】第1の態様によれば、本発明は:
(i)核酸;と
(ii)好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子;
との複合体を含む錠剤を製造するための方法に関し、
前記方法は、以下:
a) - (i)核酸と(ii)好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子との複合体;
- 乾燥、特に凍結乾燥に適した1種又は複数の添加剤;
を含む水性混合物を、特に凍結乾燥によって乾燥させる工程;
b)1種又は複数の圧縮添加剤を工程a)で得られた乾燥混合物と混合する工程;並びに
c)工程b)で得られた混合物を圧縮する工程
を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)核酸;と
(ii)好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子;
との複合体を含む錠剤を製造するための方法であって、以下:
a) - (i)核酸と(ii)好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子との複合体;
- 乾燥、特に凍結乾燥に適した1種又は複数の添加剤;
を含む水性混合物を、特に凍結乾燥によって乾燥させる工程;
b)1種又は複数の圧縮添加剤を工程a)で得られた乾燥混合物と混合する工程;並びに
c)工程b)で得られた混合物を圧縮する工程
を含む、方法。
【請求項2】
カチオン性脂質が、リポポリアミン、第四級アンモニウム、及びグアニジン又はイミダゾール型のカチオン性頭部を有する脂質から選択され、好ましくはカチオン性脂質が、ジミリスチルアミノプロピルアミノプロピル(DMAPAP)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、[1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン](DOTAP)、3β[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DCChol)及びジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、好ましくはジミリスチルアミノプロピルアミノプロピル(DMAPAP)から選択され;
カチオン性脂質が、特に1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、コレステロール、ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)及びN'-(rac-1-[11-(F-オクチル)ウンデカ-10-エニル]-2-(ヘキサデシル)グリセロ-3-ホスホエタノイル)-スペルミンカルボキサミド)から選択される中性脂肪と任意選択で混合され、好ましくは中性脂肪が、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カチオン性脂質と中性脂肪の混合物が:
- 混合物中に50~99mol%、好ましくは約50mol%のカチオン性脂質
- 混合物中に1~50mol%、好ましくは約50mol%の中性脂肪
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
核酸が、治療用核酸、特にsiRNA、miRNA、shRNA、プラスミド又はmRNAである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
カチオン性脂質の正電荷と核酸の負電荷の電荷比(+/-)が、0.5~10、好ましくは4~10、好ましくは約8であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
凍結乾燥に適した添加剤が、任意選択で混合物の状態の、特にトレハロース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、ラクトース、グルコース、グリセリン、グリシン、アラニン、リジン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン及びデキストランから選択される保護剤(凍結保護物質又は凍結乾燥保護物質)及び/又は充填剤であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
凍結乾燥に適した添加剤が、特に凍結乾燥に適した添加剤の0~90質量%の割合の別の凍結乾燥に適した添加剤、好ましくはマンニトールと任意選択で混合された、特に凍結乾燥に適した添加剤の10~100質量%の割合のトレハロースであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
圧縮添加剤が、圧縮工程c)の間、核酸とカチオン性脂質を含む脂質粒子の複合体を保護し、前記圧縮添加剤が、別の圧縮添加剤、好ましくは賦形剤(例えばラクトース、デンプン、リン酸カルシウム及びその誘導体とセルロース及びその誘導体、好ましくはラクトース)と任意選択で混合された、特に、滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びタルク、好ましくはステアリン酸マグネシウム)であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
滑剤が、完成した錠剤の0.25~5質量%、好ましくは0.5%に相当することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程c)の圧縮が、10~400MPa、好ましくは50~250MPaの圧力で実施されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる錠剤。
【請求項12】
- 核酸とカチオン性脂質を含むリポソーム又はミセルの複合体;
- 凍結乾燥工程a)の間に前記複合体を保護するため、及び/又は圧縮工程に適した質感の凍結乾燥物を得るための1種又は複数の適当な凍結乾燥添加剤、好ましくはトレハロース及びマンニトール;
- 圧縮工程c)の間に前記複合体を保護するため、及び複合体の生物活性を維持するための1種又は複数の適当な圧縮添加剤
を含む、錠剤。
【請求項13】
経口、膣、直腸、舌下又は経粘膜投与、好ましくは経口経路による投与のための、請求項11又は12に記載の錠剤。
【請求項14】
胃腸管又は膣障害の治療に使用するための、請求項11から13のいずれか一項に記載の錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸ベクターを含む錠剤を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子療法は、疾患を治療又は予防するために核酸(特にDNA又はRNA)を使用する。病状に応じて、核酸は、遺伝子配列を調節、修復、置換、追加又は削除するために投与される。治療、予防又は診断効果は、核酸配列又はその配列の遺伝子発現の産物に直接依存する。治療用核酸には、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA及びshRNAが含まれる。特に、低ベクターと結合した分子干渉RNA、又はsiRNAは、病的タンパク質の発現を特異的に抑制するそれらの能力により、高い治療的可能性をもつ作用物質を構成する。治療用核酸は、裸の核酸として細胞に直接注入することができるが、それらはほとんどの場合核酸ベクターを使用して患者の細胞に輸送される。核酸ベクターは、ポリマー又は脂質系に基づいたウイルスベクター、又は合成ベクターであってよい。
【0003】
現在、核酸ベクターは、主に非経口的に投与されるコロイド懸濁液の形態である。このタイプの製剤及び投与経路では、投与されるベクターのサイズや無菌調製物の取得等の強い制約が課せられる。これらの制約は、新薬候補としての核酸ベクターの開発に対する障害である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、治療用核酸の生物活性を維持しながら上述の制約を回避するための核酸ベクターの新しい製剤が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様によれば、本発明は:
(i)核酸;と
(ii)好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子;
との複合体を含む錠剤を製造するための方法に関し、
前記方法は、以下:
a) - (i)核酸と(ii)好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子との複合体;
- 乾燥、特に凍結乾燥に適した1種又は複数の添加剤;
を含む水性混合物を、特に凍結乾燥によって乾燥させる工程;
b)1種又は複数の圧縮添加剤を工程a)で得られた乾燥混合物と混合する工程;並びに
c)工程b)で得られた混合物を圧縮する工程
を含む。
【0007】
特定の実施形態では、前記カチオン性脂質は、リポポリアミン、第四級アンモニウム、及びグアニジン又はイミダゾール型のカチオン性頭部を有する脂質から選択され、好ましくはカチオン性脂質は、ジミリスチルアミノプロピルアミノプロピル(DMAPAP)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、[1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン](DOTAP)、3β[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DCChol)及びジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、好ましくはジミリスチルアミノプロピルアミノプロピル(DMAPAP)から選択される。前記カチオン性脂質は、特に1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、コレステロール、ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)及びN'-(rac-1-[11-(F-オクチル)ウンデカ-10-エニル]-2-(ヘキサデシル)グリセロ-3-ホスホエタノイル)-スペルミンカルボキサミド)から選択される中性脂肪と任意選択で混合することができ、好ましくは中性脂肪は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)である。特に、カチオン性脂質と中性脂肪の混合物は、混合物中に50~99mol%、好ましくは約50mol%のカチオン性脂質を含んでいてもよく、また混合物中に1~50mol%、好ましくは約50mol%の中性脂肪を含んでいてもよい。
【0008】
特定の実施形態によれば、複合体は、治療用核酸、特にsiRNA、miRNA、shRNA、プラスミド、又はmRNAを含む。特定の実施形態によれば、カチオン性脂質の正電荷と核酸の負電荷の電荷比(+/-)は、0.5~10、好ましくは4~10、好ましくは約8である。
【0009】
本発明の方法によれば、乾燥、特に凍結乾燥に適した添加剤は、任意選択で混合物の状態の、特にトレハロース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、ラクトース、グルコース、グリセリン、グリシン、アラニン、リジン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン及びデキストランから選択される保護剤(凍結保護物質又は凍結乾燥保護物質)及び/又は充填剤であってよい。特に、凍結乾燥に適した添加剤は、特に凍結乾燥に適した添加剤の0~90質量%の割合の別の凍結乾燥に適した添加剤、好ましくはマンニトールと任意選択で混合された、特に凍結乾燥に適した添加剤の10~100質量%の割合のトレハロースである。
【0010】
本発明の方法によれば、圧縮添加剤は、圧縮工程c)の間、核酸とカチオン性脂質を含む脂質粒子の複合体を保護し、前記圧縮添加剤は、別の圧縮添加剤、好ましくは賦形剤(例えばラクトース、デンプン、リン酸カルシウム及びその誘導体とセルロース及びその誘導体、好ましくはラクトース)と任意選択で混合された、特に、滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びタルク、好ましくはステアリン酸マグネシウム)である。特に、滑剤は、完成した錠剤の0.25~5質量%、好ましくは0.5%に相当し得る。
【0011】
特定の実施形態では、本発明による方法は、10~400MPa、好ましくは50~250MPaの圧力で行われる圧縮工程(工程c)を含む。
【0012】
別の態様では、本発明は、上記の方法に従って得ることができる錠剤に関する。本発明の錠剤は:
- 核酸とカチオン性脂質を含むリポソーム又はミセルの複合体;
- 凍結乾燥工程a)の間に前記複合体を保護するため、及び/又は圧縮工程に適した質感の凍結乾燥物を得るための1種又は複数の適当な凍結乾燥添加剤、好ましくはトレハロース及びマンニトール;
- 圧縮工程c)の間に前記複合体を保護するため、及び複合体の生物活性を維持するための1種又は複数の適当な圧縮添加剤
を含むことができる。
【0013】
特定の実施形態によれば、本発明の錠剤は、経口、膣、直腸、舌下又は経粘膜投与、好ましくは経口経路による投与を対象としている。
【0014】
本発明はまた、胃腸管又は膣障害の治療に使用するための上記の錠剤に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】凍結乾燥サイクル:サイクルの3段階の間の生成物温度の表示;(a)凍結、一次乾燥及び二次乾燥の開始;(b)液体窒素中での凍結に焦点を当てる。
【
図2】凍結乾燥物(=lyoph)及び圧縮方法中に適用された圧縮応力(X=50、100、150、200又は250MPaのCX)の関数としてのリポプレックスを含有する錠剤の有効性:B16-Luc細胞への48hのトランスフェクション、三連、1ウェル当たり0.5μgのルシフェラーゼsiRNA。ルシフェラーゼの測定及び非トランスフェクト細胞と比較した阻害率の表示。陽性対照(T+):使用直前に調製されたリポプレックスでトランスフェクトされた細胞(凍結乾燥も圧縮もされていない)、陰性対照(siCtle):錠剤から再懸濁された対照siRNAを含有するリポプレックスでトランスフェクトされた細胞。
【
図3】siRNAリポプレックスのSAXSプロファイル(DMAPAP/DOPE+アルギン酸塩)、150mM NaClバッファー中の+/-電荷比8で調製される。ピーク分析は、2つの相、主要な立方晶ピーク(C
1、q=0.084nm
-1)及び少量の層状ピーク(L
1、q=0.101nm
-1)を同定する。
【
図4】凍結乾燥工程、次いで圧縮工程を経た、乾燥した粉末形態のsiRNAリポプレックスのSAXSプロファイル。150mM NaClバッファー中の+/-電荷比8で調製された、siRNAリポプレックス(DMAPAP/DOPE+アルギン酸塩)は、トレハロース及びマルトースを補充し、次いで30時間凍結乾燥される。凍結乾燥物は、秤量し、ラクトースを補充し圧縮する。SAXS分析は、毛細管内に置かれた凍結乾燥物又は錠剤粉末で行われる。単一の大きなピーク(q=0.096nm
-1)が検出される。
【
図5】NaCl/糖中に懸濁されたsiRNAリポプレックスのSAXSプロファイル。
図3の説明文に示すように調製されたリポプレックスは、それぞれ凍結乾燥又は圧縮試料と同じ条件下で、第1にトレハロース/マンニトール混合物又は第2にトレハロース/マンニトール/ラクトース混合物が補充される。ピーク分析は、第1のピークの位置が、第1の混合物(C
1、q=0.095nm
-1)の図形と第2の混合物(C
1、q=0.097nm
-1)の図形の間でわずかにずれている、単一立方相を同定する。
【
図6】懸濁させたsiRNAリポプレックスのSAXSプロファイル。第1の曲線は、(A)凍結乾燥、次いで(B)圧縮(
図4の説明文を参照)、その後水を加えることによって再懸濁させた試料に対応する。第2の曲線は、凍結乾燥又は圧縮されていないが、凍結乾燥された再懸濁試料と同じ量の(A)トレハロース/マンニトール又は再懸濁させた圧縮試料と同じ量の(B)トレハロース/マンニトール/ラクトースが補充された、懸濁させた試料に対応する。ピーク分析は、立方タイプの第2の曲線に対応する図形の単一相(C
1、(A)q=0.094nm
-1;(B)q=0.096nm
-1)、(A)の第1曲線の図形の立方相(C
1、q=0.093nm
-1)並びに立方(C
1、q=0.086nm
-1)及び層状(L
1、q=0.101nm
-1)の(B)の第1の曲線の図形の2つの相を同定する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、経口、膣、直腸、舌下又は経粘膜投与のための錠剤形態の核酸ベクターを形成することを提案する。「錠剤」形態は、上記の製剤及び投与の制約を回避しながら、投与を容易にする。加えて、錠剤は、治療標的に基づく核酸ベクターの放出を制御又は調節するための多くの製剤選択肢を可能にする。「錠剤」形態はまた、核酸ベクターの安定性の突破口になる。特に、使用直前のそれらの調製を避けることが可能になる。加えて、「錠剤」形態は、患者の快適性と治療の遵守の両方を改善する。
【0017】
本発明の実施前、当業者は、錠剤を形成するのに必要な工程中における核酸活性の損失を危惧しているため、核酸ベクター錠剤が利用できず、更には考えられなかった。しかしながら、この偏見に反して、本発明者らは、核酸ベクター錠剤を生成する革新的な手段を提案する。
【0018】
本発明は、少なくとも1種の核酸ベクターを含む錠剤を製造するための方法に関する。より具体的には、提案している発明は、この形成作業に伴う機械的応力にもかかわらずそれらの治療特性を維持しながら、「錠剤」形態で核酸ベクターを製剤することを可能にする。
【0019】
定義
「錠剤」は、圧縮粉末から得られた特定の形状又はサイズのない任意の均一な固形製剤を意味し、粉末は凝集していてもしていなくてもよい。
【0020】
「核酸ベクター」(他の場合には、以下で「複合体」と呼ばれる)は、核酸をベクター化するのに適していることが公知である任意の構造を意味し;特に、これらの用語は、(i)核酸と(ii)好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子との複合体を意味する。
【0021】
「リポプレックス」は、(i)核酸と(ii)カチオン性脂質を含むリポソームとの複合体を意味する。
【0022】
「カチオン性脂質」は、正の全電荷を有する脂質を意味する。カチオン性脂質は、カチオン性極性ヘッド及び1種又は複数の疎水性鎖を含む。
【0023】
「中性脂肪」は、中性の全電荷、より具体的には、双性イオン脂質を有する脂質を意味する。
【0024】
「ミセル」は、親水性極性ヘッド及び疎水性鎖を有する両親媒性分子の球状凝集体を意味する。
【0025】
「リポソーム」は、それらの間に水性区画を閉じ込めた、同心の脂質二重層によって形成された人工小胞を意味する。
【0026】
例えば、核酸ベクターは、リポソーム、脂質、例えばカチオン性脂質、アニオン性脂質、両性脂質若しくは非荷電脂質、カチオン性ポリマー、ポリマー、ヒドロゲル、マイクロ若しくはナノカプセル(生分解性)、マイクロスフェア(任意選択で生体接着性)、シクロデキストリン、タンパク質ベクター、又はその任意の組合せから選択することができる。好ましくは、ベクターは、脂質系送達システム、ポリイミン系送達システム、デンドリマー、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)粒子、国際公開WO15023775に記載されているシステム、及び類似のシステムから選択することができる。
【0027】
「約」は、値+又は-10%、好ましくはその+又は-5%を表す。例えば、約50は、45~55、好ましくは47.5~52.5である。
【0028】
核酸ベクターの調製
核酸は、特に、任意のサイズの、一本又は二本鎖、直鎖状又は環状、化学的に未修飾又は修飾されている(ホスホロチオエート、ホスホロアミダート及び/又は2'-O-メチル型等)デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)であってよい。核酸のサイズは、例えば10塩基対から数万塩基対まで、大きく異なっていてよい。例えば、核酸のサイズは、プラスミドの場合は約10,000塩基対以上、二本鎖siRNAの場合は約19~25ヌクレオチド、或いは一本鎖マイクロRNAの場合は約20~30ヌクレオチドに達する可能性がある。それらは、任意の起源(原核生物、真核生物、ウイルス、寄生虫、植物等)の天然、ハイブリッド又は合成配列であってよい。好ましくは、核酸は、治療用核酸、すなわち遺伝子配列の調節、修復、置換、付加又は削除によって治療効果がある核酸である。好ましくは、核酸は、タンパク質の発現を調節でき、特にアンチセンスオリゴヌクレオチド、エキソンスキッピングのためのオリゴヌクレオチド、選択的スプライシング修飾のためのオリゴヌクレオチド、干渉RNA、メッセンジャーRNA又はプラスミドDNAから選択することができる。好ましくは、核酸は、干渉RNAである。本発明の文脈において、「干渉RNA」は、遺伝子発現を阻害するRNAである。特に、干渉RNAは、特定のメッセンジャーRNAに干渉する小さい(とりわけ20~25塩基対、特に21~23塩基対)リボ核酸であり、その分解及びそのタンパク質への翻訳の阻害をもたらす。例えば、低分子干渉RNA(siRNA)及びマイクロRNA(miRNA)は、干渉RNAである。
【0029】
特に、核酸は、プラスミド、siRNA、miRNA、mRNA及びshRNAから選択され、好ましくは、核酸は、siRNA又はmiRNAである。好ましくは、核酸は、siRNAである。
【0030】
本発明によって製造した錠剤は、上記で定義した通り、1種又は複数の核酸ベクター(又は複合体)を含む。特定の実施形態によれば、錠剤は、いくつかの異なる核酸ベクターの組合せ、特に少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4又は更には少なくとも5つの異なる核酸ベクターの組合せを含む。別の特定の実施形態によれば、錠剤は、1種又は複数の核酸ベクター(又は複合体)と少なくとも1種のプロバイオティックの組合せを含む。
【0031】
「プロバイオティック」は、十分な量で投与したとき、従来の栄養効果を超えるプラスの健康効果がある、生きた微生物を意味する。プラスの健康効果には、例えば、消化の改善又は免疫防御の改善がある。
【0032】
本発明によれば、複合体は、負に帯電した核酸とカチオン性脂質を含む脂質粒子の静電的相互作用によって形成される。
【0033】
好ましくは、カチオン性脂質を含む脂質粒子は、ミセル又はリポソームである。
【0034】
更により好ましくは、脂質粒子は、リポソームである。本実施形態によれば、核酸とリポソームの間に形成された複合体は、「リポプレックス」と呼ばれている。
【0035】
特定の実施形態によれば、本発明は:
(i)核酸;と
(ii)好ましくはリポソーム又はミセルであり、更により好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子
との複合体を含む錠剤を製造するために方法に関する。
【0036】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、以下に詳細に説明する乾燥工程の前に、核酸と、好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子との複合体を形成する工程を含む。
【0037】
特定の実施形態によれば、核酸は、核酸と脂質粒子の複合体を形成する工程の前にアニオン性ポリマーと予め混合することができる。前記アニオン性ポリマーは、核酸と脂質粒子の複合体の構造を改善するためのアジュバントであり、したがって前記複合体の有効性を高めることができる。アニオン性ポリマーは、アニオン性多糖類及びアニオン性ポリペプチドから選択することができ、好ましくは、アニオン性ポリマーは、アルギン酸ナトリウム及びポリグルタミン酸ナトリウムから選択される。特定の実施形態によれば、アニオン性ポリマーは、アルギン酸塩であり、特にアルギン酸ナトリウムである。したがって、本発明による製造方法はまた、核酸と脂質粒子の複合体を形成する工程の前に、核酸とアニオン性ポリマーの混合工程も含んでいてよい。
【0038】
加えて、本発明による方法は、好ましくはリポソーム又はミセル、好ましくはリポソームである、カチオン性脂質を含む脂質粒子を形成する前の工程を含んでいてもよい。
【0039】
好ましくは、カチオン性脂質は、いくつかの脂質の疎水鎖を合わせることによって粒子を形成できるカチオン性脂質から選択される。本発明によるカチオン性脂質は、リポポリアミン、第四級アンモニウム、及びグアニジン又はイミダゾール型のカチオン性頭部を有する脂質から選択することができる。好ましくは、カチオン性脂質は、ジミリスチルアミノプロピルアミノプロピル(又はDMAPAP)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(又はDOTMA)、1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン](又はDOTAP)、3β[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DCChol)、及びジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(又はDOGS)から選択される。好ましくは、カチオン性脂質は、ジミリスチルアミノプロピルアミノプロピル(又はDMAPAP)である。
【0040】
特定の実施形態によれば、カチオン性脂質は、中性脂肪と混合される。好ましくは、中性脂肪は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、コレステロール、ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)及びN'-(rac-1-[11-(F-オクチル)ウンデカ-10-エニル]-2-(ヘキサデシル)グリセロ-3-ホスホエタノイル)-スペルミンカルボキサミド)から選択される。好ましくは、中性脂肪は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)である。
【0041】
したがって、本発明による錠剤は、(i)核酸と(ii)中性脂肪と任意選択で混合されたカチオン性脂質を含む脂質粒子との複合体を含んでいてもよい。
【0042】
好ましい実施形態によれば、本発明による錠剤は、(i)核酸と(ii)カチオン性脂質と中性脂肪の混合物を含む脂質粒子との複合体を含む。好ましくは、脂質粒子は、ミセル又はリポソーム、好ましくはリポソームである。
【0043】
カチオン性脂質と中性脂肪の混合物には、特に定義された割合のカチオン性脂質と中性脂肪が含まれる。好ましくは、カチオン性脂質の割合は、混合物中の脂質が50~99mol%である。特に、カチオン性脂質の割合は、混合物の脂質が約50mol%、約60mol%、約70mol%、約80mol%又は約90mol%であってよい。好ましくは、カチオン性脂質の割合は、混合物中の脂質が約50mol%である。
【0044】
好ましくは、中性脂肪の割合は、混合物中の脂質が1~50mol%である。特に、中性脂肪の割合は、混合物中の脂質が約10mol%、約20mol%、約30mol%、約40mol%又は約50mol%であってよい。好ましくは、中性脂肪割合は、混合物中の脂質が約50mol%である。
【0045】
好ましい実施形態によれば、カチオン性脂質は、中性脂肪と1:1等モル比で混合される。
【0046】
本発明による方法は、脂質粒子を形成する工程の前に、カチオン性脂質と中性脂肪の混合工程を含んでもよく、脂質粒子はその後、核酸と複合体を形成する工程の間に使用される。
【0047】
特定の実施形態によれば、カチオン性脂質と中性脂肪の混合物は、DMAPAPとDOPEの混合物である。
【0048】
特定の実施形態によれば、本発明の核酸は、定義された電荷比に従って本発明の脂質粒子と混合される。「電荷比」は、カチオン性脂質の正電荷の数と核酸の負電荷の数の+/-比に相当する。この電荷比は、物理化学的性質(例えばサイズ又は表面電荷)に影響を与えることによって、形成された複合体の有効性に影響を与え得る。前記電荷比は、選択された脂質及び核酸並びに所望の用途(標的臓器又は細胞型)に応じて、異なっていてよく、当業者によって適合され得る。好ましくは、+/-電荷比は、0.5~10、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である。好ましくは、+/-電荷比は、4~10、例えば約4、5、6、7、8、9又は10である。更により好ましくは、電荷比は、約8である。
【0049】
特定の実施形態によれば、核酸と脂質粒子の混合物は、水性混合物である。したがって、本発明による方法は、核酸とカチオン性脂質を含む脂質粒子との水性混合物を調製する工程を含んでいてもよい。
【0050】
好ましくは、核酸と脂質粒子の水性混合物は、緩衝液中で実施される。特に、前記緩衝液のpHは、約4~8である。好ましくは、選択される緩衝液は、NaClを含む溶液である。前記緩衝液は、約150mMのNaCl濃度を含んでいてよい。例えば、当業者は、HEPES若しくはOpti-MEMタイプ緩衝液、又はグルコースを含む溶液を使用することができる。
【0051】
したがって、特定の実施形態によれば、本発明による錠剤を製造するための方法は:
- 緩衝液中で、脂質粒子、好ましくはリポソームを形成する工程;及び/又は
- 緩衝液中で核酸を調製する工程;及び/又は
- 緩衝液中で核酸と脂質粒子とを混合する工程
を含んでいてよい。
【0052】
特定の実施形態によれば、核酸と脂質粒子、好ましくはリポソームの混合時間は、10秒~数日、例えば10秒~10時間、特に5分~5時間、特に10分~1時間である。好ましくは、混合時間は、30分以上であり、特に約30分に等しい。混合は、広い温度範囲にわたって実施することができる。しかしながら、好ましい実施形態によれば、混合は、10℃~30℃、特に15℃~25℃の温度で実施される。
【0053】
複合体が形成された後、それは、本発明による方法の以下の工程に直接かけてもよく、又は前記の以下の工程の前に、特に少なくとも1日保存してもよい。
【0054】
「錠剤」製剤
本発明による方法は、上記のように核酸及び脂質粒子を含む水性混合物からの錠剤製剤の段階を含む。本出願の発明者らは、前記核酸ベクターの生物学的特性を維持しながら、潜在的な経口、膣、直腸、舌下又は経粘膜投与のための「錠剤」形態に核酸ベクター(又は複合体)をすることに成功した。
【0055】
より具体的には、本発明による方法は:
- 上記で定義した複合体を含む水性混合物を乾燥する工程;及び
- このように得られた乾燥混合物を圧縮する工程
を含む。
【0056】
好ましくは、本発明による方法は、以下の:
a)- 上記で定義した複合体;及び
- 乾燥するのに適した1種又は複数の添加剤
を含む水性混合物を乾燥する工程;
b)1種又は複数の圧縮添加剤を工程a)で得られた乾燥混合物と混合する工程;及び
c)工程b)で得られた混合物を圧縮する工程
を含む。
【0057】
・乾燥工程a):
乾燥は、物質又は体に含有されている水を除去可能な任意の脱水プロセスを意味する。例えば、乾燥は、噴霧乾燥、対流乾燥又は凍結乾燥によって達成することができる。好ましい実施形態によれば、乾燥は、凍結乾燥によって実施される。本実施形態によれば、乾燥に適した添加剤は、凍結乾燥に適した添加剤である。凍結乾燥は、昇華によって以前に凍結した生成物から水を除去する低温、減圧乾燥プロセスである。
【0058】
好ましい実施形態によれば、乾燥工程a)は、凍結乾燥である。特定の実施形態によれば、実施した凍結乾燥プロセスは、以下の工程:
- 上記で定義した複合体及び1種又は複数の凍結乾燥に適した添加剤を含む水性混合物の凍結;
- 一次乾燥(又は昇華);及び
- 二次乾燥
を含む。
【0059】
好ましくは、本発明による方法は、乾燥工程の前に、上記で定義した複合体を乾燥に適した添加剤と混合する工程を含む。
【0060】
乾燥に適した添加剤は、乾燥工程の間に核酸ベクターの構造を保存できる添加剤であり、それによって核酸の生物活性が保存される。乾燥に適した添加剤はまた、圧縮工程に適した乾燥混合物を提供する。特に、添加剤は、その質感(残留水分に影響される)が圧縮工程に適している乾燥生成物を得ることを可能にする。添加剤はまた、その質量及び/又は機械的強度が圧縮工程に適した乾燥生成物を得ることを可能にし、前記添加剤は、例えば、乾燥生成物の構造の崩壊を回避することを可能にする。好ましくは、乾燥、好ましくは凍結乾燥に適した前記添加剤は、得られた乾燥生成物と圧縮添加剤の粉砕及び均一な混合を促進する。乾燥に適した添加剤の性質及び量を選択することによる、乾燥生成物の質感、質量及び/又は機械的強度等のパラメーターの最適化は、従来、特にそれぞれの添加剤の物理化学的特徴(共晶の存在、ガラス転移温度等)に基づいて、当業者によって実施されている。
【0061】
本発明の好ましい実施形態によれば、工程a)で凍結乾燥を用いる場合、乾燥に適した添加剤は、凍結乾燥に適している。したがって、凍結乾燥に適した添加剤は、凍結乾燥工程の間に複合体を保護し、且つ/又は圧縮工程に適した質感の凍結乾燥物を得ることを可能にする。
【0062】
特定の実施形態によれば、凍結乾燥に適した添加剤は、保護剤(凍結保護物質又は凍結乾燥保護物質)及び/又は充填剤(又はバラスト)である。凍結保護添加剤は、凍結工程の間に核酸ベクターの構造を保護する添加剤である。溶解保護添加剤は、脱水工程の間に核酸ベクターの構造を保護する添加剤である。凍結乾燥中、これらの薬剤は、水分子と置換してリン脂質の極性ヘッドと相互作用し(水置換仮説)、リポプレックスの構造を維持するのに役立つガラス質マトリックスを形成する(ガラス化仮説)。充填剤(又はバラスト)は、凍結乾燥物の構造及び剛性を維持する添加剤である(崩壊状態とは対照的に)。
【0063】
具体的な実施形態によれば、凍結乾燥に適した添加剤は、任意選択で混合物の状態の、トレハロース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、ラクトース、グルコース、グリセリン、グリシン、アラニン、リジン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン(PVP)及びデキストランから選択される。
【0064】
特定の実施形態によれば、凍結乾燥に適した添加剤は、凍結乾燥に適した添加剤の質量に基づいて1~100質量%、特に10~100質量%の割合のトレハロースである。例えば、トレハロースの割合は、凍結乾燥に適した添加剤の約10質量%、約20質量%、約30質量%、約40質量%、約50質量%、約60質量%、約70質量%、約80質量%、約90質量%又は約100質量%である。
【0065】
特定の実施形態によれば、凍結乾燥に適した添加剤は、凍結乾燥に適した添加剤の1~90質量%の割合のマンニトールである。例えば、マンニトールの割合は、凍結乾燥に適した添加剤の約0質量%、約10質量%、約20質量%、約30質量%、約40質量%、約50質量%、約60質量%、約70質量%、約80質量%又は約90質量%である。
【0066】
好ましくは、凍結乾燥に適した添加剤は、マンニトール、スクロース、ソルビトール、ラクトース、グルコース、グリセリン、グリシン、アラニン、リジン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン(PVP)及びデキストラン、好ましくはマンニトールから選択される凍結乾燥に適した別の添加剤と任意選択で混合されたトレハロースである。
【0067】
特定の実施形態によれば、トレハロースは、定義された割合でマンニトールと混合される。特に、トレハロースの割合は、トレハロース/マンニトール混合物の10~99質量%であってよい。例えば、トレハロースの割合は、トレハロース/マンニトール混合物の約10質量%、約20質量%、約30質量%、約40質量%、約50質量%、約60質量%、約70質量%、約80質量%又は約90質量%であり、好ましくはトレハロース/マンニトール混合物の約71質量%である。
【0068】
特定の実施形態によれば、マンニトールの割合は、トレハロース/マンニトール混合物の1~90質量%であってよい。例えば、マンニトールの割合は、トレハロース/マンニトール混合物の約10質量%、約20質量%、約30質量%、約40質量%、約50質量%、約60質量%、約70質量%、約80質量%又は約90質量%であり、好ましくはトレハロース/マンニトール混合物の約29質量%である。
【0069】
特定の実施形態によれば、本発明による方法は、以下の:
- 好ましくは水性媒体で調製される、乾燥に適した添加剤を調製する工程;
- 乾燥に適した添加剤を上記で定義した複合体と混合する工程;及び
- このようにして得られた混合物を、特に凍結乾燥によって、乾燥する工程
を含むことができる。
【0070】
特定の実施形態によれば、凍結乾燥の間に実施した凍結工程は、乾燥に適した添加剤と上記で定義した複合体を含む混合物の凍結に相当する。凍結は、核酸ベクターの生物活性を保存するような方法で、好ましくは核酸ベクターの超分子集合体を保存するような方法で実行される。凍結パラメーターは、混合物の成分のアモルファス化を促進するため、且つ/又は結晶成長の制限をするために制御される。
【0071】
好ましくは、凍結速度論は、特に凍結温度に応じて、速い。好ましくは、凍結速度は、-40℃/分~-0.5℃/分である。
【0072】
好ましくは、アモルファス化を促進するために、凍結は、液体窒素中で行われ、その温度は、特に約-190℃である。好ましくは、液体窒素中の凍結時間は、1分~24時間、特に1分~1時間であり、前記凍結時間は、特に約10分である。
【0073】
特定の実施形態によれば、凍結乾燥プロセスのパラメーターは、前記複合体の生物活性を保存することを可能にする。特に、凍結乾燥サイクルを制御する動作パラメーター(室温又は貯蔵温度、乾燥チャンバー内の圧力及びサイクル持続時間)は、複合体の生物活性を維持するために適切に選択され、前記複合体を含む水性混合物の体積に応じて適合させることができる(より具体的には、昇華すべき水の体積に応じて)。
【0074】
特定の実施形態によれば、一次乾燥及び二次乾燥を含む凍結乾燥持続時間は、10~80時間、優先的には15~72時間、より優先的には20~48時間、好ましくは約30時間である。凍結乾燥時間は、凍結乾燥すべき水性混合物の体積及び製剤に基づいて当業者によって適合され得る。
【0075】
特定の実施形態によれば、特に凍結乾燥による乾燥は、大気圧で実施される。
【0076】
・混合工程b):
本発明による方法は、乾燥後に得られた生成物の構造を破壊する工程を含んでいてもよい。この工程は、生成物の軽い粉砕(低エネルギー)又は再分散の工程であってよい。それは、例えば振動又は校正グリッドを使用して、又は例えば賦形剤と混合する場合にパドルミキサー中で実施することができる。
【0077】
圧縮前に、任意選択で粉砕された乾燥混合物は、1種又は複数の圧縮添加剤と混合する。「圧縮添加剤」は:
- 圧縮工程c)の間に核酸と脂質粒子の複合体を保護するための;及び/又は
- 圧縮工程c)の間に摩擦現象を低減させるための;及び/又は
- 粉末が圧縮される区画を区切る、圧縮に使用されるマトリックスの定期的な供給を可能にする;及び/又は
- 十分な質量及び十分な機械的強度の錠剤を得るための、及び/又は
- 核酸ベクターの放出を制御又は遅延するための、及び/又は
- 錠剤の崩壊を可能にする
任意の添加剤を表す。
【0078】
特定の実施形態によれば、圧縮添加剤は、圧縮のために顆粒状混合物で使用される添加剤の中から選択される。
【0079】
好ましい実施形態では、圧縮添加剤は、当業者に周知の少なくとも1種の他の圧縮添加剤、好ましくは賦形剤と任意選択で混合された、滑剤である。
【0080】
「滑剤」は、錠剤の圧縮及び放出の間に、圧縮機のパンチ及びダイへの粉末の付着を低減し、且つ/又は粒子とダイの間の摩擦を低減する任意の添加剤を表す。
【0081】
特定の実施形態によれば、滑剤は、完成した錠剤の0.25~5質量%に相当する。好ましくは、滑剤は、完成した錠剤の約0.5質量%に相当する。好ましい実施形態によれば、滑剤は、任意選択で混合物の状態の、ステアリン酸マグネシウム、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム及びステアリン酸から選択される。好ましくは、滑剤は、ステアリン酸マグネシウムである。
【0082】
「賦形剤」は、有効成分及び他の添加剤の量が適当なサイズの錠剤を作製するのに不十分である場合に充填の役割を有する任意の添加剤を表し、したがって錠剤の質量及び寸法の調整が可能になる。
【0083】
好ましい実施形態によれば、賦形剤は、任意選択で混合物の状態の、ラクトース、デンプン及びその誘導体、リン酸カルシウム及びその誘導体、特にリン酸二カルシウム及びセルロース及びその誘導体、特に微結晶性セルロースから選択される。好ましくは、賦形剤は、ラクトースである。
【0084】
錠剤は、当業者に周知の医薬添加剤、例えば、流動剤、崩壊剤、結合剤、核酸ベクターの放出を制御又は遅延するための添加剤、錠剤に粘膜付着特性を与える添加剤及びそれらの組合せを更に含有していてもよい。例えば、錠剤は、1種又は複数の以下の添加剤:スクロース、グルコース、マンニトール、トレハロース及びシリカを含有していてもよい。
【0085】
好ましくは、圧縮添加剤は、好ましくは粉末形態の乾燥添加剤である。
【0086】
本発明の方法は、混合工程の前に、異なる圧縮添加剤を乾燥工程a)の後に得られた乾燥混合物と混合する工程を含んでいてもよい。
【0087】
・圧縮工程c):
本発明による方法は、工程b)の終わりに得られた混合物の圧縮の工程c)を更に含む。圧縮工程は、核酸ベクターの生物学的機能を保存する条件下で実施される。特に、圧縮工程は、核酸ベクターの治療的活性を保存するような方法で実施され、例えばsiRNAの場合には、標的遺伝子の発現が阻害される。
【0088】
圧縮工程の間に加えられる機械的応力は、制御及びモニターすることができる。より具体的には、本発明による核酸ベクターを含む混合物に加えられた圧力は、圧縮工程の間に制御及びモニターされる。好ましくは、工程c)の圧縮は、10~400MPa、好ましくは50~250MPaの圧力で行われる。
【0089】
好ましい実施形態によれば、工程c)の圧縮は、錠剤成形機、例えば回転式プレス又は代替プレスを用いて実施される。
【0090】
特定の実施形態では、湿式造粒又は乾式造粒の工程は、圧縮工程c)の前に実施される。「湿式造粒」又は「乾式造粒」工程は、圧縮を促進するために、粒子のサイズを増大させて凝集物を得ることで構成される。より具体的には、湿式造粒工程は、凝集物の形態の顆粒を得るための結合剤の添加を含み、その後圧縮工程の前に乾燥され、任意選択でふるい分けされる。乾式造粒は、粒子を強く圧縮して凝集体を得てから、それらを粉砕して粒子を形成することで構成され、それらは任意選択で、圧縮による最終成形工程の前に較正される。
【0091】
好ましい実施形態によれば、圧縮工程c)は、直接圧縮であり、直接圧縮は、事前の造粒工程を必要としない。本実施形態によれば、圧縮添加剤(工程b))と任意選択で混合された、乾燥工程(工程a))の終わりに得られた乾燥混合物は、直接圧縮に適した特性を有している。
【0092】
特定の実施形態では、本発明による方法は、圧縮工程後、得られた錠剤のフィルム-コーティング(又はコーティング)をする工程を含む。この工程の利点は、より良く保護された錠剤の製造であり、その安定性は改善され、且つ/又はその放出速度論が適合されている。フィルム-コーティング及び/又はコーティング剤の性質、及びこの工程を実施するのに使用されるプロセスは、配合当業者に周知である。
【0093】
第2の態様では、本発明は、上記の方法によって得ることができる錠剤に関する。
【0094】
特に、本発明は:
- 上記の1種又は複数の核酸ベクター(又は複合体);
- 乾燥に適した1種又は複数の添加剤;
- 1種又は複数の圧縮添加剤
を含む錠剤に関する。
【0095】
特に、本発明の錠剤は:
- 核酸とカチオン性脂質を含むリポソーム又はミセルとの複合体;
- 凍結乾燥工程a)の間に前記複合体を保護するため、且つ/又は圧縮工程に適した質感の凍結乾燥物、好ましくはトレハロース及びマンニトールを得るための1種又は複数の適当な凍結乾燥添加剤;
- 圧縮工程c)の間に前記複合体を保護するため、及び複合体の生物活性を保存するための1種又は複数の適当な圧縮添加剤
を含んでいてもよい。
【0096】
特に、完成した錠剤は、核酸を1μg~1mg、好ましくは約10μg含有する。
【0097】
完成した錠剤中のカチオン性脂質の質量は、18.7μg~18.7mg、好ましくは約170μgであってよい。
【0098】
完成した錠剤中の中性脂肪の質量は、16.5μg~16.5mg、好ましくは約150μgであってよい。
【0099】
完成した錠剤中のポリマーの質量は、1μg~1mg、好ましくは約10μgであってよい。
【0100】
乾燥に適した添加剤の質量は、完成した錠剤中に36mg~720mg、好ましくは約126mg含まれていてよい。特に、完成した錠剤中のトレハロースの質量は、3.6mg~720mg、好ましくは約90mgであってよい。特に、完成した錠剤中のマンニトールの質量は、0mg~648mg、好ましくは約36mgであってよい。
【0101】
圧縮に適した添加剤の割合は、完成した錠剤の0.25~95質量%であってよい。特に、滑剤、好ましくはステアリン酸マグネシウムの割合は、完成した錠剤の0.25~5質量%、好ましくは約0.5質量%であってもよい。特に、他の圧縮添加剤の割合は、完成した錠剤の0~94.75質量%であってもよい。
【0102】
特定の実施形態によれば、本発明による錠剤は:
- アルギン酸塩、特にアルギン酸ナトリウムを更に含む、核酸とDMAPAP及びDOPEを含むリポソーム又はミセルとの複合体;
- トレハロース及びマンニトール;並びに
- ラクトース
を含む。
【0103】
この実施形態の変形例によれば、このように構成された錠剤は、水に再懸濁させた後、立方相及びラメラ相、任意選択で液晶相を含むシンクロトロン放射光小角X線散乱(SAXS)プロファイルを有する。SAXSプロファイルは、実施例で示されるプロトコルに基づいて決定することができる。水に再懸濁後の本発明による錠剤のSAXSプロファイルは、q=0.086nm-1及びq=0.101nm-1でピークを示す。特定の実施形態によれば、ラメラ相は、立方相と比較して大部分である。
【0104】
特定の実施形態によれば、本発明による錠剤は、経口、膣、直腸、舌下又は経粘膜投与を対象としている。好ましくは、本発明による錠剤は、経口投与を対象としている。
【0105】
別の態様では、本発明は、局所、局所領域又は全身の病状の治療に使用される本発明の錠剤に関する。好ましくは、本発明による錠剤は、胃腸管の疾患の治療に使用される。例えば、胃腸管の疾患は、クローン病(核酸は、例えばTNF-α等の炎症性タンパク質を阻害するsiRNAである)、潰瘍性大腸炎(核酸は、例えばanti-ICAM-1オリゴヌクレオチド、プラスミドをコードするIL-10又はanti-TNF-α siRNAである)、又は胃癌(核酸は、例えばsiRNA又はanti-Her2オリゴヌクレオチド)であり得る。本発明による錠剤はまた、膣の病状、特に陰門膣のカンジダ症又はHSV、HPV若しくはHIV感染症(例えば抗ウイルスsiRNAの投与を介して)の治療に使用することもできる。
【0106】
加えて、錠剤は、脊髄病性筋萎縮症(spinal muscular atrophy)(核酸は、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドヌシネルセン(Nusinersen)である)、家族性高コレステロール血症(核酸は、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドミポメルセン(Mipomersen)である)、デュシェーヌミオパシー、又は加齢性黄斑変性(核酸は、例えばアプタマーマクジェン(Macugen)である)等の症状の治療に使用することができる。
【0107】
本発明による錠剤は、安定であり、すなわちその生物活性を実質的に、好ましくは室温で2週間、1か月、3か月、1年(錠剤の製剤と投与の間)まで保持している。
【実施例0108】
(実施例1)
錠剤の調製
1. リポプレックス形成
第1の工程は、リポプレックス、すなわち核酸とリポソームの複合体の形成からなる。この実施例で使用した核酸は、ルシフェラーゼ特異的siRNAである。ここで使用したリポソームには、カチオン性脂質(DMAPAP)及び中性脂肪(DOPE)が含まれる。リポプレックスの形成は、以下の成分を使用して実施した:
【0109】
【0110】
siRNA、リポソーム及びポリマー調製物をボルテックスした。
- リポソームをNaCl溶液と混合して、最終体積200μL(リポソーム10.7μLとNaCl溶液189μL)を得た。
- その上、siRNAをNaCl溶液中のポリマーと混合して、最終体積200μL(siRNA 7.5μL+ポリマー6.5μL+NaCl溶液186μL)を得た。したがって得られた混合物には、質量で1:1のsiRNAとポリマーの比率が含まれる。
- 得られた2つの調製物、それぞれ200μLを、混合し、ボルテックスし、次いで室温で30分間置いて、siRNAとリポソームの複合体を形成させた。
【0111】
上記成分を混合して、+/-電荷比が8のリポプレックスを形成した。
【0112】
2. 凍結乾燥
この実施例では、凍結乾燥に適した添加剤としてマンニトール及びトレハロースを使用した。
【0113】
以前に得られたリポプレックス懸濁液を50mL遠心分離管に移した。2.5%m/vトレハロース及び1%m/vマンニトールを含む溶液を調製した。このトレハロース/マンニトール溶液3.6mLを、次にリポプレックス懸濁液400μLに加えた。次いで遠心分離管を液体窒素に10分間浸漬した。
【0114】
凍結乾燥は、凍結した試料管を接続した12個のバルブを備えたマニホールドを有する凍結乾燥器で行った。凍結乾燥は、凍結乾燥チャンバー中0.2mbar未満(より具体的には0.1~0.18mbar)の圧力で30時間実施した。昇華中に吸収されるエネルギーを補うために必要とされるエネルギーは、周囲の空気(室温、より具体的には20~25℃)によって供給される。
【0115】
温度センサーを試料に入れて、凍結(
図1b参照)及び凍結乾燥(
図1a参照)プロセス中の生成物の温度をモニターした。
【0116】
3. 圧縮
この実施例では、圧縮に適した添加剤としてステアリン酸マグネシウム(滑剤)及びラクトース(賦形剤)を使用した。
【0117】
以前に得られた凍結乾燥物はまず、乳鉢で軽く粉砕することによって粉末状にした。次いでラクトース36.2mg及びステアリン酸マグネシウム0.8mgを乳鉢に加え、凍結乾燥物と混合した。
【0118】
圧縮は、STYL'One Evolution圧縮シミュレーターを用いて以下のパラメーターに従って行った:
- 6mm直径の面取りフラットパンチ
- 圧縮サイクル=サイクル1圧縮(デフォルトサイクル)、速度2%。
- 力制御
- 用量(ダイ充填高さ)=18mm
- 手動充填
- 圧縮力=1.4~7.1kN(50~250MPa)
【0119】
(実施例2)
リポプレックスを含有する錠剤の組成の例
以下のTable 1(表2)は、リポプレックスを含有する錠剤の組成を例示するために示す。異なる成分は、mg単位で表す。
【0120】
【0121】
(実施例3)
錠剤の有効性の試験
次に錠剤の有効性を、ルシフェラーゼ遺伝子を発現している培養細胞で評価する。これらの細胞を、ルシフェラーゼ特異的siRNAを含有するベクターに曝露すると、ルシフェラーゼ活性が阻害される。試験は、ルシフェラーゼ(B16-Luc)を発現しているマウス黒色腫細胞をトランスフェクトし、48時間後に細胞内の残留ルシフェラーゼ活性を決定することで構成される。対照siRNA(阻害効果なし)を含有するベクターで処理してない又は処理した細胞の活性に対して、この測定により、研究したsiRNAベクターによって誘発された阻害の割合を得ることができる。
【0122】
圧縮後のこの活性の維持を評価するために、トランスフェクトすべき細胞と接触する前に錠剤を可溶化させる。凍結乾燥物(圧縮工程の前に得られた)も、圧縮前に乾燥混合物の有効性を分析するために再水和させた。
【0123】
したがって試験は:
- 陰性対照:すなわち、圧縮形態から再懸濁させた対照siRNAを含有するリポプレックス(タンパク質標的を阻害しないようにその配列が選択されている);
- 陽性トランスフェクション対照:すなわち、再懸濁させたリポプレックス(凍結乾燥なし、圧縮なし);
- 再水和させた凍結乾燥物;又は
- 再水和させた錠剤
でB16-Luc細胞を処理することで構成される。
【0124】
より正確には、再懸濁させたリポプレックス(陽性トランスフェクション対照に対応)を上記のように調製し、次いで培地と混合した。培地は、ジェネティシン(G418)を補充した完全培地(DMEM+Glutamax+ウシ胎児血清+ペニシリン/ストレプトマイシン)である。
【0125】
凍結乾燥物及び錠剤を上記のように調製し、次いで蒸留水又はMilli-Q水に溶解させ、培地と混合した。
【0126】
操作は4日間(0日目、1日目、2日目及び3日目)にわたって行われる:
0日目、細胞を24ウェルプレート上で調製する(40,000細胞/ウェル)。
1日目、細胞培養培地をトランスフェクション培地1mLと置換する(1ウェル当たり0.5μgのsiRNAを添加するため)。トランスフェクション培地は、陰性対照、陽性トランスフェクション対照、凍結乾燥物又は錠剤を含む培地である。
2日目、トランスフェクション培地を培地(完全培地+G418)と置換する。
3日目、細胞を溶解させ、ルシフェラーゼ活性を測定する。
試験は、三連で行う(条件毎に3回繰り返す)。
【0127】
結果:
錠剤の有効性の試験
細胞のトランスフェクション試験は、リポプレックスを含有する錠剤の優れた有効性を示した(有効性は、非トランスフェクト細胞と比較した錠剤の阻害の割合によって表される)。加えて、適用した圧縮応力の全範囲にわたって、ルシフェラーゼ遺伝子の阻害の割合に対して圧縮応力効果は観察されなかった(
図2)。
【0128】
(実施例4)
超分子構造
小角X線散乱(SAXS)技術は、懸濁粒子と乾燥形態、例えば凍結乾燥物又は錠剤の両方について、siRNAベクターの超分子構造を同定するのに使用した。使用したsiRNAは、対照siRNAであり、各試料は、siRNAを100マイクログラム含有する。このタイプの粒子の構造は、核酸を投与する際のそれらの有効性に直接関係するという事実によって、この同定が必要となる。シンクロトロン放射光SAXS分析は、水性媒体又は粉末に懸濁した種々のガレヌス形態でこの構造同定へのアクセスを提供する唯一の技術である。
【0129】
最初に、+/-電荷比が8で調製されたsiRNAリポプレックス(DMAPAP/DOPE+アルギン酸塩)の構造を決定した。塩緩衝液(150mM NaCl)に懸濁したリポプレックスで実施した研究は、これらのリポプレックスが、共存する2つの構造、ラメラ相及び立方相の形態であることを示した(
図3)。
【0130】
次に、我々はこの構造の運命を研究し、懸濁したベクターが凍結乾燥工程を受けたとき、圧縮工程を行う前に必要な前提条件を、その後圧縮工程を行うことができる。
図4は、両方のタイプの試料(凍結乾燥物と錠剤)でシグナルが検出され、q=0.096nm
-1で多少幅の広い単一のピークがあることを示す。その位置は、懸濁したリポプレックスのピークL
1とC
1の値の中間の位置であり(
図3)、その特異性により、このピークに対応する相を推定することができない。凍結乾燥試料で観察されたピークは、圧縮試料のものよりも強力だが、後者は完全に検出可能なままである。
【0131】
凍結乾燥及び圧縮工程には、添加剤の添加が必要である。したがって我々は、凍結乾燥及び圧縮試料と同じ濃度条件下でNaCl/添加剤混合物で希釈されたリポプレックスについて得られたシグナルを評価した(
図5)。得られたプロファイルは、単一の立方相の存在を示し、その第1のピークは、「凍結乾燥物」及び「錠剤」条件の間でわずかに相殺される。このピークの位置は、粉末分析中に検出されたピークに近く、乾燥形態で存在する相が立方相であることを示している可能性がある。ラメラ相に対応するピークは、乾燥形態又は懸濁液のいずれかにおいて、添加剤の存在下ではもはや検出できない。
【0132】
次に我々は、再懸濁した凍結乾燥又は圧縮試料のSAXSプロファイルを分析した。以前の分析は、粒子の構造に対する添加剤の存在の影響を示し(
図5)、我々は、添加剤濃度が同じ条件下で、各再懸濁した試料と懸濁したリポプレックスを比較した。得られた結果を
図6に示す。再懸濁した凍結乾燥試料のSAXSプロファイルは、同じ条件下の懸濁したリポプレックスのプロファイルに近いことがわかり(
図6A)、それは凍結乾燥がリポプレックスの構造を変えないことを示唆している。添加剤の存在下では、立方相だけが検出される。他方では、再懸濁した圧縮試料の場合、得られたプロファイルにより、2つの相、ラメラ及び立方が明確に検出でき、その主要なピークは、初期のリポプレックス懸濁液で得られたものと類似した位置を有している(
図3)。この試料のプロファイルは、添加剤濃度が同一の条件下でリポプレックス懸濁液のものと明確に異なる。またこれは、立方相とラメラ相の相対的な割合が逆になるので、初期のリポプレックス懸濁液とも異なる。初期の懸濁液では、立方相が大部分であり、再懸濁した圧縮試料では、ラメラ相が大部分である。この結果は、圧縮は、1つの相の相対的な比率を別に変えることによって構造に影響を与えるが、新しい相が現れたり消えたりしないことを示している。
【0133】
(実施例5)
in vivo有効性の評価
モデル:飲料水中の硫酸デキストラン(DS)を7日間投与することによるマウスの潰瘍性大腸炎の誘発
【0134】
ベクター有効性の評価:siRNAリポプレックスを含有する錠剤の経口投与。DS治療下でマウスに錠剤を1、3及び5日目に与える(0日目に開始)。各マウスは、リポプレックスとして製剤したsiRNA 50μgを含有する錠剤を受け取る。
【0135】
10匹のマウスがいる3つのグループを使用する:
・グループ1:水を飲み、リポプレックスを投与しない
・グループ2:1、3及び5日目にDSを飲み、TNF-αに対するsiRNAリポプレックスを含有する錠剤
・グループ3:1、3及び5日目にDSを飲み、対照siRNAリポプレックスを含有する錠剤(阻害効果なし)
・グループ4:DSを飲み、リポプレックスを投与しない
【0136】
治療の間、糞便の質量及び外観(血液が存在)をモニターする。7日目に、安楽死、結腸の採取、結腸サイズの測定、結腸溶解物の炎症性サイトカインのアッセイ、結腸切片の炎症及び組織損傷の組織学的分析。
【0137】
期待された結果:
治療後の疾患の臨床的及び生化学的徴候の減少、又は更には消失。この減少は、siRNA配列に特異的であり、すなわち、抗TNF-α siRNAを含有するリポプレックスで治療したマウスで観察され、対照siRNAを含有するリポプレックスで治療したマウスでは観察されない。