(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074874
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】道路補修支援システム、道路補修支援方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/26 20240101AFI20240524BHJP
【FI】
G06Q50/26
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058517
(22)【出願日】2024-04-01
(62)【分割の表示】P 2020034958の分割
【原出願日】2020-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000155469
【氏名又は名称】株式会社野村総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】武井 博一
(57)【要約】
【課題】道路の効率的な補修を支援する。
【解決手段】道路補修支援システム18は、道路の複数の区間それぞれの路面健全度を路面性状調査システム14から取得する。道路補修支援システム18は、上記複数の区間それぞれの交通量を動線分析システム16から取得する。道路補修支援システム18は、各区間の路面健全度と交通量との乗算結果に基づいて、社会への貢献度合いを示す指標値である効用について、各区間の道路補修前の効用と道路補修後の効用とを導出する。道路補修支援システム18は、道路補修前後での効用の増加度合いが相対的に大きい区間を、道路補修の優先度が高い区間として決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路の複数の区間それぞれの路面健全度を取得する第1取得部と、
前記複数の区間それぞれの交通量を取得する第2取得部と、
前記複数の区間それぞれの路面健全度と交通量との乗算結果に基づいて、社会への貢献度合いを示す指標値である効用について、前記複数の区間それぞれの道路補修前の効用と、道路補修後の効用とを導出する効用導出部と、
道路補修前後での効用の増加度合いが相対的に大きい区間を、道路補修の優先度が高い区間として決定する補修対象決定部と、
を備えることを特徴とする道路補修支援システム。
【請求項2】
過去の道路補修に要した費用の実績をもとに、少なくとも道路補修の優先度が相対的に高い区間の道路補修に要する費用を推定する費用推定部をさらに備え、
前記補修対象決定部は、道路補修に要する費用が予め定められた金額に収まるように、道路補修の優先度が高い順に1つ以上の区間を、前記道路補修を行うべき区間として決定することを特徴とする請求項1に記載の道路補修支援システム。
【請求項3】
前記第1取得部により取得された前記複数の区間それぞれの現在の路面健全度をもとに、前記複数の区間それぞれの将来時点の路面健全度を推定する路面健全度推定部をさらに備え、
前記効用導出部は、前記複数の区間それぞれの将来時点の路面健全度をもとに、前記複数の区間それぞれの将来時点の道路の効用を導出し、
前記補修対象決定部は、前記複数の区間それぞれの将来時点の道路の効用をもとに、将来時点において道路補修を行うべき区間を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の道路補修支援システム。
【請求項4】
前記費用推定部は、過去の道路補修に要した費用の実績をもとに、道路面積が大きいほど単位面積あたりの道路補修の費用を安くし、各区間の道路面積に応じて各区間の道路補修に要する費用を推定し、
前記補修対象決定部は、隣接する複数の区間における道路補修前後での効用の増加度合いと、前記費用推定部により推定された、前記隣接する複数の区間に亘る道路補修を一括して行う場合の費用とをもとに、前記隣接する複数の区間を、前記道路補修を行うべき区間として決定し得ることを特徴とする請求項2に記載の道路補修支援システム。
【請求項5】
道路の複数の区間それぞれの路面健全度を取得するステップと、
前記複数の区間それぞれの交通量を取得するステップと、
前記複数の区間それぞれの路面健全度と交通量との乗算結果に基づいて、社会への貢献度合いを示す指標値である効用について、前記複数の区間それぞれの道路補修前の効用と、道路補修後の効用とを導出するステップと、
道路補修前後での効用の増加度合いが相対的に大きい区間を、道路補修の優先度が高い区間として決定するステップと、
をコンピュータが実行することを特徴とする道路補修支援方法。
【請求項6】
道路の複数の区間それぞれの路面健全度を取得する機能と、
前記複数の区間それぞれの交通量を取得する機能と、
前記複数の区間それぞれの路面健全度と交通量との乗算結果に基づいて、社会への貢献度合いを示す指標値である効用について、前記複数の区間それぞれの道路補修前の効用と、道路補修後の効用とを導出する機能と、
道路補修前後での効用の増加度合いが相対的に大きい区間を、道路補修の優先度が高い区間として決定する機能と、
をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ処理技術に関し、特に道路補修支援システム、道路補修支援方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本の道路網が整備されてから長期間が経過し、道路の老朽化が進んでいる。以下の特許文献1では、検査車両が走行した道路の性状を取得する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
道路の老朽化が進んでいる状況において、補修が必要な道路は今後急速に増加していくが、道路を維持管理する主体(例えば地方自治体)は、限られた予算の中で効率的に道路の補修を行う必要がある。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、1つの目的は、道路の効率的な補修を支援する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の道路補修支援システムは、道路の複数の区間それぞれの路面健全度を取得する第1取得部と、複数の区間それぞれの交通量を取得する第2取得部と、複数の区間それぞれの路面健全度と交通量とをもとに、各区間の道路の効用を導出する効用導出部と、複数の区間それぞれの道路の効用をもとに、道路補修を行うべき区間を決定する補修対象決定部と、を備える。
【0007】
本開示の別の態様は、道路補修支援方法である。この方法は、道路の複数の区間それぞれの路面健全度を取得するステップと、複数の区間それぞれの交通量を取得するステップと、複数の区間それぞれの路面健全度と交通量とをもとに、各区間の道路の効用を導出するステップと、複数の区間それぞれの道路の効用をもとに、道路補修を行うべき区間を決定するステップと、をコンピュータが実行する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を、装置、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、道路の効率的な補修を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施例の情報処理システムの構成を示す図である。
【
図2】第1実施例の道路補修支援システムの機能ブロックを示すブロック図である。
【
図10】第2実施例の道路補修支援システムの機能ブロックを示すブロック図である。
【
図11】補修未実施の場合の各区間の効用の例を示す図である。
【
図12】
図11の状況において補修推奨区間を決定する例を示す図である。
【
図13】
図11の状況において補修推奨区間を決定する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示における装置または方法の主体は、コンピュータを備えている。このコンピュータがプログラムを実行することによって、本開示における装置または方法の主体の機能が実現される。コンピュータは、プログラムにしたがって動作するプロセッサを主なハードウェア構成として備える。プロセッサは、プログラムを実行することによって機能を実現することができれば、その種類は問わない。プロセッサは、半導体集積回路(IC)、またはLSI(large scale integration)を含む1つまたは複数の電子回路で構成される。
【0012】
実施例の概要を説明する。道路の維持管理に関して本発明者は以下の課題を認識した。(1)目視による路面性状調査に人手と時間が掛かる。(2)限られた予算の中で効率的に道路の補修を行う必要がある。(3)補修が必要な道路は今後急速に拡大していく。(4)道路の利用状況を定量的に勘案する必要がある。
【0013】
現在、路面性状を簡易判定するソフトウェア開発が進んでいる。例えば、車両にスマートフォンを固定して、その車両の道路走行時の振動情報から路面性状を推定する(例えば路面の劣化状態を自動的に推定する)ソフトウェアが提供されている。また現在、スマートフォン等に搭載されたGPS測位機能等に基づいて、道路の交通量や、人の移動量を可視化するサービスが提供されている。
【0014】
実施例では、このような既存技術を利用して、道路の補修を支援する技術を提案する。実施例における道路の「区間」は、路面性状調査の単位、交通量計測の単位、補修の単位となるものであり、道路を維持管理する主体(例えば地方自治体)により予め定められてよい。
【0015】
<第1実施例>
図1は、第1実施例の情報処理システム10の構成を示す。情報処理システム10は、ユーザ端末12、路面性状調査システム14、動線分析システム16、道路補修支援システム18を備える。これらの装置またはシステムは、LAN・WAN・インターネット等を含む通信網を介して接続される。
【0016】
ユーザ端末12は、道路を維持管理する主体(例えば地方自治体)の担当者により操作される情報処理装置であり、例えば、PC、スマートフォン、タブレット端末である。
【0017】
路面性状調査システム14は、上述したように、スマートフォン等を用いて道路の路面性状を調査するための、複数のコンピュータ装置を含む公知のシステムである。路面性状調査システム14は、道路の複数の区間それぞれの路面の健全度を示す指標値(以下「路面健全度」と呼ぶ。)を提供する。第1実施例での路面健全度は、道路の路面状況を100点~0点に数値化したものである。例えば、路面健全度100%は、道路が100%健全な状態であることを示し、路面健全度0%は、道路に窪みや段差ができて危険な状態であることを示す。この数値化は、路面性状調査システム14が行ってもよく、道路補修支援システム18が行ってもよい。
【0018】
動線分析システム16は、上述したように、道路の移動量や人の移動量を可視化するための複数のコンピュータ装置を含む公知のシステムである。動線分析システム16は、道路の複数の区間それぞれの交通量(例えば単位時間当りに走行する自動車の台数)を提供する。道路補修支援システム18は、路面性状調査システム14および動線分析システム16から入力されたデータをもとに、複数の区間の中から道路補修を推奨する区間を自動的に決定する。道路補修支援システム18は、1台のコンピュータ装置により実現されてもよく、複数台のコンピュータが連携することにより実現されてもよい。
【0019】
図2は、第1実施例の道路補修支援システム18の機能ブロックを示すブロック図である。本明細書のブロック図で示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。ブロック図で示す複数のブロックの機能は、1台のコンピュータに実装されてもよく、複数台のコンピュータに分散して実装されてもよい。
【0020】
道路補修支援システム18は、制御部20、記憶部22、通信部24を備える。制御部20は、道路の補修を支援する各種データ処理を実行する。記憶部22は、制御部20により参照または更新されるデータを記憶する。通信部24は、所定の通信プロトコルにしたがって外部装置と通信する。制御部20は、通信部24を介して、ユーザ端末12、路面性状調査システム14、動線分析システム16とデータを送受信する。
【0021】
記憶部22は、区間情報記憶部26と補修実績記憶部28を含む。区間情報記憶部26は、道路の複数の区間のそれぞれに関する属性情報を記憶する。例えば、区間情報記憶部26は、各区間の長さ(「区間距離」とも呼ぶ。)と、各区間の道路面積を記憶する。なお、「区間距離」は、後述する区間効用(各区間の道路の効用)を算出するために用いる値であるが、必ずしも実測値でなくてもよい。例えば、区間距離は、あらかじめ一律に任意の数値(例えば10メートル)で設定しておくことも可能であるし、区間ごとに任意の数値(例えばある区間は100メートル、ある区間は50メートル等)で設定することも可能である。後述する効用導出部34は、あらかじめ記憶された又は設定された区間距離をもとに区間効用をシミュレーションする。
【0022】
補修実績記憶部28は、過去の道路補修の実績に関する情報を記憶する。過去の道路補修の実績に関する情報は、過去の道路補修に要した費用の実績に関する情報を含む。具体的には、補修実績記憶部28は、道路面積の複数の範囲(例えば10平米未満、10平米以上25平米未満、25平米以上50平米未満等)と、各範囲における平米あたりの補修費用(以下「費用原単位」とも呼ぶ。)との対応関係を記憶する。典型的には、補修対象となる道路面積が大きいほど、小さい費用原単位に対応付けられる。これは、道路補修に用いられる機械や車両の共用により、単位補修費用が抑制されるからである。
【0023】
制御部20は、路面健全度取得部30、交通量取得部32、効用導出部34、費用推定部36、補修対象決定部38、出力部40を含む。これら複数のブロックの機能が実装されたコンピュータプログラムが記録媒体に格納され、その記録媒体を介して道路補修支援システム18のコンピュータのストレージにインストールされてもよい。または、上記コンピュータプログラムが、通信網を介してダウンロードされ、道路補修支援システム18のコンピュータのストレージにインストールされてもよい。道路補修支援システム18のコンピュータのCPUは、上記コンピュータプログラムをメインメモリに読み出して実行することにより、上記複数のブロックの機能を発揮してもよい。
【0024】
路面健全度取得部30は、道路の複数の区間それぞれの路面健全度を路面性状調査システム14から取得する。区間ごとの路面状況の平均値を、各区間の路面健全度としてもよい。交通量取得部32は、道路の複数の区間それぞれの交通量を動線分析システム16から取得する。区間ごとの交通量の平均値を、各区間の交通量としてもよい。
【0025】
効用導出部34は、路面健全度取得部30により取得された各区間の路面健全度と、交通量取得部32により取得された各区間の交通量と、区間情報記憶部26に記憶された各区間の長さ(区間距離)をもとに、各区間の道路の効用を導出する。効用は、社会への貢献度合いを示す指標値と言え、また、人の社会活動の利便性を向上させる度合いを示す指標値とも言える。第1実施例では、以下の式1により各区間の効用を算出する。
1つの区間の効用 = 道路健全度 × 交通量 × 区間距離 ・・・(式1)
また、効用導出部34は、複数の区間(少なくとも道路健全度が相対的に低い区間を含む)それぞれの道路補修前の効用と道路補修後の効用とを導出する。
【0026】
補修対象決定部38は、効用導出部34により導出された複数の区間それぞれの道路の効用をもとに、道路補修を行うべき区間を決定する。具体的には、補修対象決定部38は、効用導出部34により導出された各区間の道路補修前の効用と道路補修後の効用との差、すなわち、道路補修前後での効用の増加度合いが相対的に大きい区間を、道路補修の優先度が高い区間として決定する。
【0027】
費用推定部36は、補修実績記憶部28に記憶された、過去の道路補修に要した費用の実績をもとに、少なくとも道路補修の優先度が相対的に高い区間の道路補修に要する費用を推定する。具体的には、費用推定部36は、各区間の道路面積に対応する費用原単位と、各区間の道路面積との積を補修費用として導出する。道路補修の優先度が相対的に高い区間は、補修対象となり得る区間であり、例えば、路面健全度が100未満の区間であってもよい。また、道路補修の優先度が相対的に高い区間は、優先度が高い順に所定順位までの区間(例えば上位10区間)であってもよい。変形例として、費用推定部36は、効用が導出された全ての区間の補修費用を推定してもよい。
【0028】
補修対象決定部38は、道路補修に要する費用が予め定められた金額(具体的には道路補修の予算)に収まるように、道路補修の優先度が高い順に1つ以上の区間を、道路補修を行うべき区間(以下「補修推奨区間」とも呼ぶ。)として決定する。
【0029】
出力部40は、補修対象決定部38により決定された補修推奨区間に関する情報を出力する。例えば、出力部40は、補修推奨区間を示す画像をユーザ端末12に出力してもよく、また、所定の記憶装置に記憶させてもよい。
【0030】
第1実施例の道路補修支援システム18の動作を説明する。
ユーザ端末12は、道路補修支援システム18に対して、補修推奨区間の導出を指示する。道路補修支援システム18の路面健全度取得部30は、道路の各区間の路面健全度を路面性状調査システム14から取得する。道路補修支援システム18の交通量取得部32は、道路の各区間の交通量を動線分析システム16から取得する。道路補修支援システム18の効用導出部34は、道路の各区間の効用を導出する。
【0031】
図3は、補修前の各区間の効用の例を示す。図中の区間距離は、区間情報記憶部26から読み込まれる。効用導出部34は、複数の区間のそれぞれについて、区間距離と路面健全度と交通量の積を区間効用として求める。なお、図中の道路効用は、複数の区間(図では第1区間~第5区間)の区間効用の合計である。
【0032】
道路補修支援システム18の効用導出部34は、補修後の区間の効用を導出する。
図4は、補修後の各区間の効用の例を示す。同図は、第2区間を補修した場合の効用の変化を示している。補修により第2区間の路面健全度は100になり、これに伴い、第2区間の区間効用は400に増加し、道路効用は2520に増加している。
図5も、補修後の各区間の効用の例を示す。同図は、第4区間を補修した場合の効用の変化を示している。補修により第4区間の路面健全度は100になり、これに伴い、第4区間の区間効用は200に増加し、道路効用は2580に増加している。
【0033】
第2区間を補修する場合、効用が120増加する一方、第4区間を補修する場合には、効用が180増加する。したがって、道路補修支援システム18の補修対象決定部38は、第2区間の道路補修の優先度より第4区間の道路補修の優先度を高く決定する。
【0034】
道路補修支援システム18の費用推定部36は、第2区間と第4区間の補修費用を推定する。
図6は、補修費用導出の例を示す。区間距離と道路面積は、区間情報記憶部26から読み込まれる。費用推定部36は、各区間の道路面積に対応する各区間の費用原単位を補修実績記憶部28から取得する。費用推定部36は、各区間の道路面積と費用原単位との積を補修費用として推定する。
【0035】
図7は、複数の区間の補修費用の例を示す。同図は、補修の優先度が高い順に複数の区間を並べたものである。補修対象決定部38は、予め定められた予算内で、優先順位が高い順に1つ以上の区間を選択することにより、1つ以上の補修推奨区間を決定する。例えば、
図7の状況で予算が500万円の場合、補修対象決定部38は、優先順位が上位5位の区間(第15区間、第10区間、第4区間、第6区間、第20区間)を補修推奨区間として決定する。
【0036】
道路補修支援システム18の出力部40は、補修推奨区間に関する情報(「補修推奨区間情報」と呼ぶ。)をユーザ端末12へ送信し、ユーザ端末12のディスプレイに補修推奨区間情報を表示させる。
図8は、補修推奨区間情報の例を示す。同図の補修推奨区間情報は、地図上に1つ以上の補修推奨区間50を重ねて示す画像である。また、同図の補修推奨区間情報は、1つ以上の補修推奨区間50のそれぞれに、各区間の優先順位を付加している。
【0037】
道路補修支援システム18では、道路の複数の区間それぞれの効用をもとに補修すべき区間を決定することで、社会や人への貢献度合いが高い区間を優先的に補修できるよう支援できる。また、道路補修支援システム18では、道路補修前後での効用の増加度合いが大きい区間の補修優先度を高めることで、効率的かつ効果的な道路補修を行えるよう支援できる。また、道路補修支援システム18によると、予算の範囲内で効果的な補修が行える区間を、道路を維持管理する主体(例えば地方自治体)の担当者に提案することができる。
【0038】
なお、第1実施例では、道路健全度と交通量と区間距離とを積算することで区間効用のシミュレーションを説明したが、算出式はこれに限定されるものではない。例えば、少なくとも道路健全度、交通量、区間距離を変数として、区間効用を導き出す関数(「区間効用関数」とも呼ぶ。)であってもよい。区間効用関数は、道路健全度、交通量、区間距離以外の変数を含んでもよい。
【0039】
また、道路補修支援システム18で算出した補修優先度の蓋然性を高めるために、各変数を区間効用関数に投入する前に、各変数を一次加工する前処理を実行してもよい。例えば、前処理として、
図9に示すように、交通量に関する変数を一次加工してもよい。
図9の例では、区間効用のパラメータとしての交通量(加工後の交通量)について下限値T1と上限値T2を設け、T1とT2の間では実際の交通量を加工後の交通量とする。この結果、区間効用のパラメータとしての交通量(加工後の交通量)は、T1とT2の間の値となる。このような加工により、交通量が非常に少ない道路の補修が切り捨てられる状況や、逆に交通量が非常に多い幹線道路の補修優先度が常に高いと判断されて他の生活道路の補修が進まない状況等を回避できる効果がある。
【0040】
また、道路の補修優先度を判定する際に、上記の変数(例えば道路健全度、交通量、区間距離)以外の要素を考慮してもよい。例えば、公共施設(病院や学校等)が道路に近接している場合に補修優先度を高めるための施設変数や、ユーザ(例えば自治体)が任意に指定する道路の重要度を補修優先度に反映させるための調整変数を区間効用関数に投入できるように実装してもよい。
【0041】
<第2実施例>
本実施例に関して、これまでの実施例と相違する点を中心に以下説明し、共通する点の説明を省略する。本変形例の構成要素のうちこれまでの実施例の構成要素と同一または対応する構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0042】
第2実施例では、将来時点の路面状態劣化を勘案して補修推奨区間を決定する技術を提案する。第2実施例の情報処理システム10の構成は、第1実施例の情報処理システム10の構成(
図1)と同じである。
【0043】
図10は、第2実施例の道路補修支援システム18の機能ブロックを示すブロック図である。第2実施例の道路補修支援システム18は、第1実施例の機能ブロックに加えて、路面推定データ記憶部29と路面健全度推定部42をさらに備える。
【0044】
路面推定データ記憶部29は、時系列での路面健全度の推移(路面劣化の進行度合いとも言える)を求めるアルゴリズムが実装された路面健全度推定モデル(路面健全度推定関数とも言える)を記憶する。路面健全度推定モデルは、複数の区間の路面健全度の推移の実績と、複数の区間の交通量の実績とをもとに、機械学習によって作成されてもよい。また、路面健全度推定モデルは、現在の路面健全度、交通量、および路面健全度を推定する時点(将来時点であり、例えば1年後、2年後等)の入力を受け付けると、その将来時点の路面健全度の推定値を出力するものであってもよい。
【0045】
路面健全度推定部42は、路面健全度取得部30により取得された複数の区間それぞれの現在の路面健全度をもとに、各区間の将来時点の路面健全度を推定する。具体的には、路面健全度推定部42は、路面推定データ記憶部29に記憶された路面健全度推定モデルを用いて、各区間の将来時点の路面健全度を推定する。例えば、路面健全度推定部42は、路面健全度取得部30により取得された各区間の現在の路面健全度と、交通量取得部32により取得された各区間の現在の交通量とを路面健全度推定モデルに入力し、当該モデルが出力する各区間の将来時点の路面健全度を取得してもよい。
【0046】
効用導出部34は、複数の区間それぞれの将来時点の路面健全度をもとに、それら複数の区間それぞれの将来時点の道路の効用を導出する。補修対象決定部38は、複数の区間それぞれの将来時点の道路の効用をもとに、将来時点において道路補修を行うべき区間を決定する。
【0047】
第2実施例の道路補修支援システム18の動作を説明する。
図11は、補修未実施の場合の各区間の効用の例を示す。路面健全度(T年度)は、各区間の現在の路面健全度を示し、路面健全度(T+1年度)は、各区間の将来時点(1年後)の路面健全度を示す。路面健全度(T+1年度)は、路面健全度推定部42により推定される。ここでは、路面健全度は1年後に一律0.8倍に劣化すると仮定しており、路面健全度推定部42は、その劣化率で各区間の路面健全度(T+1年度)を推定する。
【0048】
区間効用(T年度)は、各区間の現在の効用を示し、区間効用(T+1年度)は、各区間の将来時点(1年後)の効用を示している。いずれも効用導出部34により導出される。なお、交通量は、T年度とT+1年度で不変としている。
【0049】
図12は、
図11の状況において補修推奨区間を決定する例を示す。補修対象決定部38は、T年度の予算(140万円とする)内でT年度の効用が最大になるようにT年度の1つ以上の補修推奨区間を決定する。具体的には、参考1に示すように、補修対象決定部38は、T年度の補修推奨区間として、第3区間と第28区間を決定する。
【0050】
また、補修対象決定部38は、T+1年度の予算(140万円とする)内でT+1年度の効用が最大になるようにT+1年度の1つ以上の補修推奨区間を決定する。具体的には、参考2に示すように、補修対象決定部38は、T+1年度の補修推奨区間として、第2区間を決定する。
【0051】
第2実施例の道路補修支援システム18によると、将来時点において道路補修を行うべき区間を、道路を維持管理する主体(例えば地方自治体)の担当者に提案でき、長期的視点からの道路補修計画の立案や予算確保を支援することができる。なお、第2実施例では、1年後の路面健全度を推定したが、3年後、5年後等、他の将来時点の路面健全度を推定して、その将来時点における補修推奨区間を決定してもよいことはもちろんである。
【0052】
以上、本発明を第1実施例、第2実施例をもとに説明した。これらの実施例に記載の内容は例示であり、実施例の構成要素や処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0053】
第1変形例を説明する。この変形例は、第1実施例と第2実施例の両方に適用可能である。第1実施例で既述したように、補修実績記憶部28は、補修対象の道路面積と費用原単位とを対応付けたデータであって、補修対象の道路面積が大きいほど、小さい費用原単位に対応づけたデータを記憶する。費用推定部36は、補修実績記憶部28に記憶されたデータをもとに、道路面積が大きいほど単位面積あたりの道路補修の費用(費用原単位)を安くし、各区間の道路面積に応じて各区間の道路補修に要する費用を推定してもよい。言い換えれば、費用推定部36は、隣接する複数の区間の道路補修を個別に行う場合より、それら複数の区間の道路補修を一括して行う場合の費用を低く推定してもよい。
【0054】
補修対象決定部38は、隣接する複数の区間における道路補修前後での効用の増加度合いと、費用推定部36により推定された、上記隣接する複数の区間に亘る道路補修を一括して行う場合の費用とをもとに、上記隣接する複数の区間を、道路補修を行うべき区間として決定してもよい。すなわち、補修対象決定部38は、隣接する複数の区間を道路補修を行うべき候補として識別し、当該隣接する複数の区間の効用および補修費用に基づいて、当該隣接する複数の区間を1つの補修推奨区間として決定してもよい。
【0055】
図13は、(第2実施例で示した)
図11の状況において補修推奨区間を決定する例を示す。ここでは、補修対象決定部38は、隣接する第2区間と第3区間を、一括して道路補修を行うべき候補区間として識別する。費用推定部36は、補修実績記憶部28に記憶されたデータを参照して、第2区間の道路面積と第3区間の道路面積を合計した1000平米に対応する費用原単位(1400円/平米)を取得し、その費用原単位に基づいて第2区間の補修費用(112万円)と第3区間の補修費用(28万円)を推定する。
【0056】
補修対象決定部38は、T年度の予算(140万円とする)内でT年度の効用が最大になるようにT年度の1つ以上の補修推奨区間を決定し、具体的には、T年度の補修推奨区間として、第2区間と第3区間を決定する。また、補修対象決定部38は、T+1年度の予算(140万円とする)内でT+1年度の効用が最大になるようにT+1年度の1つ以上の補修推奨区間を決定し、具体的には、T+1年度の補修推奨区間として、第28区間と第31区間を決定する。
【0057】
第1変形例によると、隣接する複数の区間を一括して道路補修を行うべき候補として識別し、それら複数の区間に対して道路面積に応じて割り引いた費用原単位を適用する。これにより、限られた予算の制約の下、より高い効用が得られる補修対象を導出する可能性を広げることができる。例えば、第2実施例の
図12の例では、T年度とT+1年度の区間効用の合計は7750になるが、第1変形例の
図13の例では、T年度とT+1年度の区間効用の合計は7798となる。すなわち、同じ予算額の下であっても、全体の効用を高めることができる。
【0058】
第2変形例を説明する。効用導出部34は、路面健全度と交通量と区間距離の積を区間効用の基礎値としつつ、道路周辺に学校や病院等の施設が存在することや、近隣住民から補修要望を受け付けていることに応じて区間効用を調整してもよい。例えば、道路周辺に学校や病院等の施設が存在する場合や、近隣住民から補修要望を受け付けている場合には、区間効用を基礎値より大きくしてもよい。例えば、基礎値に対して所定の調整値を加算または積算してもよい。
【0059】
第3変形例を説明する。路面性状調査システム14から提供された道路の各区間の路面健全度は、道路補修支援システム18に予め記憶されてもよい。道路補修支援システム18の路面健全度取得部30は、自システムに予め記憶された各区間の路面健全度を読み込んでもよい。同様に、動線分析システム16から提供された道路の各区間の交通量は、道路補修支援システム18に予め記憶されてもよい。道路補修支援システム18の交通量取得部32は、自システムに予め記憶された各区間の交通量を読み込んでもよい。
【0060】
上述した実施例および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施例および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施例および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。
【符号の説明】
【0061】
18 道路補修支援システム、 30 路面健全度取得部、 32 交通量取得部、 34 効用導出部、 36 費用推定部、 38 補修対象決定部、 40 出力部、 42 路面健全度推定部。