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特開2024-7489固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007489
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20240111BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240111BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240111BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240111BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240111BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/139
C04B35/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107717
(22)【出願日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2022108362
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山田 博俊
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 僚也
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AM12
5H029CJ02
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ03
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CB02
5H050DA09
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA08
5H050EA10
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】600℃程度の低温で焼結することができ、電極合剤中のイオン導電率及び電子伝導性を向上させることができる固体電解質の製造方法を提供する。
【解決手段】GeO2水溶液と、固体電解質のGe以外の原料を含む化合物と、添加物とを混合して溶液を得る工程(ステップSA1)と、溶液を固化させて粉末状の前駆体を得る工程(ステップSA2)と、前駆体を第1の温度で焼成して仮焼成体を得る工程(ステップSA3)と、仮焼成体を成型した後、第2の温度で焼結し、焼結体を得る工程(ステップSA4)とを含み、添加物は、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸からなる群より少なくとも1種選択されるカルボキシル基を持つ有機酸であり、第2の温度は590℃以上650℃以下である固体電解質の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0≦x≦1として一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表される固体電解質の製造方法であって、
GeO2水溶液と、固体電解質のGe以外の原料を含む化合物と、添加物とを混合して溶液を得る工程と、
前記溶液を固化させて粉末状の前駆体を得る工程と、
前記前駆体を第1の温度で焼成して仮焼成体を得る工程と、
前記仮焼成体を成型した後、第2の温度で焼結し、焼結体を得る工程と
を含み、
前記添加物は、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸からなる群より少なくとも1種選択されるカルボキシル基を持つ有機酸であり、
前記第2の温度は590℃以上650℃以下である
固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記有機酸は、シュウ酸またはクエン酸である
請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸は、シュウ酸である
請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記添加物は、さらにグルコースを含む
請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記焼結体を得る工程での焼結時間は4時間以上16時間以下である
請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記第1の温度は350℃以上550℃以下である
請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記仮焼成体を得る工程での焼成時間は4時間以上16時間以下である
請求項6に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記化合物は、LiNO3、Al(NO3)3・9H2O、(NH4)2HPO4である
請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記焼結体を得る工程は、前記仮焼成体を加熱する温度を、前記第2の温度より低い第3の温度まで昇温させ、前記第3の温度で保持する工程と、次に、前記仮焼成体を加熱する温度を、前記第3の温度から前記第2の温度まで昇温させ、前記第2の温度で保持する工程を含む
請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項10】
正極活物質と固体電解質と導電助剤を含む正極合剤層、固体電解質を含む固体電解質層、及び、負極活物質と固体電解質と導電助剤を含む負極合剤層が順に積層されてなる全固体電池の製造方法であって、
前記固体電解質は、0≦x≦1として一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表され、
前記正極合剤層及び前記負極合剤層は、
GeO2水溶液と、固体電解質のGe以外の原料を含む化合物と、添加物と、導電助剤とを混合して溶液を得る工程と、
前記溶液を固化させて粉末状の前駆体を得る工程と、
前記前駆体を第1の温度で焼成して仮焼成体を得る工程と、
前記仮焼成体を成型した後、第2の温度で焼結し、焼結体を得る工程と
を含む電極合剤の製造方法で製造され、
前記添加物は、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸からなる群より少なくとも1種選択されるカルボキシル基を持つ有機酸であり、
前記第2の温度は590℃以上650℃以下である
全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に用いられる固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質を用いた全固体電池は、液漏れなどの可能性がなく、信頼性に優れた電池として期待されている。全固体電池に用いられる固体電解質としては、硫化物系と酸化物系の化合物が広く研究されており、酸化物系の固体電解質では、ガーネット型結晶構造を有する化合物とNASICON型結晶構造を有する化合物を中心として、全固体電池への応用が試みられている。
【0003】
ガーネット型結晶構造を有する固体電解質は、H2O、CO2と反応するため、化学的安定性に劣る。これに対して、NASICON型結晶構造を有する固体電解質は、ガーネット型結晶構造を有する固体電解質と比べて化学的安定性に優れる。
【0004】
NASICON型結晶構造を有する固体電解質としては、一例としてLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3で表されるLAGPと称すリン酸塩系化合物からなる固体電解質が知られている。LAGPなどのNASICON型結晶構造を有する化合物を用いて固体電解質を製造する場合、ガーネット型結晶構造を有する化合物と比較して低温で焼結が可能で、800℃から900℃程度の温度で焼結が行われる。
【0005】
LAGPと称す固体電解質は、チップ型全固体電池の固体電解質として用いられることが考えられている。チップ型全固体電池は、活物質と固体電解質を複合化して焼結させることで製造される。
【0006】
但し、活物質と固体電解質を複合化して焼結させる際に、焼結温度が800℃から900℃程度であると、固体電解質が活物質と反応し、異相が発生してイオン導電率などの特性が低下する。一方、焼結温度が低いと、粒子間の接合が進行せず、高抵抗となる。このため、イオン伝導性、耐還元性、さらに低温で焼結性を示す材料及び製造工程が求められている。
【0007】
また、活物質と電解質からなる電極層は、イオン伝導性に加えて電子伝導性を有する必要がある。液体電解質を用いたリチウムイオン電池では、炭素系の導電助剤が添加されている。炭素系の導電助剤として用いられるアセチレンブラックなどは、空気中では650℃以上で燃焼するため、650℃以上で焼結する場合、炭素系の導電助剤を使うことは出来ず、Pdなどの貴金属系材料が用いられている。固体電解質を用いた全固体電池では、固体電解質の焼結温度が600℃以下であれば、電極層に添加する導電助剤として安価な炭素系材料を用いることができる。
【0008】
そこで、このような固体電解質の製造方法として、比較的低温で化合物を合成できる液相法が試みられており、原料混合液にアンモニアを加えて、Geの溶解度を高める技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、シュウ酸を添加した系において不純物の析出が抑制されると記載されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6971089号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of Physics: Conference Series, 1347 (2019) 012113.Production of Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3ionic conductor from liquid-phase precursorsRussian Academy of Sciences
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1では、625℃で焼結された試料のイオン導電率が10-5S/cm未満にとどまっている。
【0013】
また、非特許文献1では、シュウ酸を添加した系において900℃で焼結された試料のイオン導電率が8×10-4S/cmであると記載されている。しかし、非特許文献1においては、特許文献1のように、600℃程度の低温で焼結することについての記載はない。
【0014】
そこで、本発明は、600℃程度の低温で焼結することができ、電極合剤中のイオン導電率及び電子伝導性を向上させることができる固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するため、本発明は、0≦x≦1として一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表される固体電解質の製造方法であって、GeO2水溶液と、固体電解質のGe以外の原料を含む化合物と、添加物とを混合して溶液を得る工程と、溶液を固化させて粉末状の前駆体を得る工程と、前駆体を第1の温度で焼成して仮焼成体を得る工程と、仮焼成体を成型した後、第2の温度で焼結し、焼結体を得る工程とを含み、添加物は、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸からなる群より少なくとも1種選択されるカルボキシル基を持つ有機酸であり、第2の温度は590℃以上650℃以下である固体電解質の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、正極活物質と固体電解質と導電助剤を含む正極合剤層、固体電解質を含む固体電解質層、及び、負極活物質と固体電解質と導電助剤を含む負極合剤層が順に積層されてなる全固体電池の製造方法であって、固体電解質は、0≦x≦1として一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表され、正極合剤層及び負極合剤層は、GeO2水溶液と、固体電解質のGe以外の原料を含む化合物と、添加物と、導電助剤とを混合して溶液を得る工程と、溶液を固化させて粉末状の前駆体を得る工程と、前駆体を第1の温度で焼成して仮焼成体を得る工程と、仮焼成体を成型した後、第2の温度で焼結し、焼結体を得る工程とを含む電極合剤の製造方法で製造され、添加物は、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸からなる群より少なくとも1種選択されるカルボキシル基を持つ有機酸であり、第2の温度は590℃以上650℃以下である全固体電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、添加剤がキレート剤として機能して、Geの溶解度を高めることができる。これにより、仮焼成体を焼結する第2の温度を600℃程度にすることができる。また、焼結温度を600℃程度としても、焼結が進行するので、イオン導電率を向上させることができる。更に、第2の温度を600℃程度にすることで、全固体電池を作製する際に、電極合剤層に炭素系の導電助剤を添加しても、加熱による導電助剤の消失が抑制され、電子伝導性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施の形態の固体電解質の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】本実施の形態の電極合剤の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3】本実施の形態の全固体電池の一例を示す断面図である。
図4A】シュウ酸の添加の有無によるGeO2の析出の有無を検証したグラフである。
図4B】シュウ酸の添加の有無によるGeO2の析出の有無を検証したグラフである。
図5A】焼結体の電子顕微鏡像である。
図5B】Geの元素分布を示す図である。
図5C】Pの元素分布を示す図である。
図5D】Alの元素分布を示す図である。
図5E】Cの元素分布を示す図である。
図5F】Oの元素分布を示す図である。
図6A】シュウ酸を添加したLAGP焼結体の交流インピーダンスを分析したNyquist図である。
図6B】シュウ酸を添加したLAGP焼結体の交流インピーダンスを分析したNyquist図である。
図7】熱処理温度と導電助剤の残存の有無を示すグラフである。
図8】仮焼成体を焼結して焼結体を得る工程でのTG-DTA曲線を示すグラフである。
図9A】仮焼成体を焼結する工程の一例を示すフローチャートである。
図9B】仮焼成体を焼結する熱処理温度プロファイルの一例を示すグラフである。
図10A】焼結体断面の反射電子像である。
図10B】焼結体断面の反射電子像である。
図10C】焼結体断面の反射電子像である。
図10D】焼結体断面の反射電子像である。
図10E】焼結体断面の反射電子像である。
図10F】焼結体断面の反射電子像である。
図11】焼結体の相対密度とイオン導電率を示すグラフである。
図12A】全固体電池を作製する工程を示す説明図である。
図12B】全固体電池を作製する工程を示す説明図である。
図12C】全固体電池を作製する工程を示す説明図である。
図13】作成された全固体電池を示す説明図である。
図14】焼結後の全固体電解質層断面の反射電子像である。
図15A】焼結後の正極合剤層断面の反射電子像である。
図15B】焼結後の正極合剤層断面のPの元素分布像である。
図15C】焼結後の正極合剤層断面のCoの元素分布像である。
図15D】焼結後の正極合剤層断面のGeの元素分布像である。
図15E】焼結後の正極合剤層断面のCoの元素分布像とGeの元素分布像を重ね合わせたものである。
図16A】焼結後の負極合剤層断面の反射電子像である。
図16B】焼結後の負極合剤層断面のPの元素分布像である。
図16C】焼結後の負極合剤層断面のTiの元素分布像である。
図16D】焼結後の負極合剤層断面のGeの元素分布像である。
図16E】焼結後の負極合剤層断面のTiの元素分布像とGeの元素分布像を重ね合わせたものである。
図17】作製した全固体電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法の実施の形態について説明する。
【0020】
<本実施の形態の固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法の一例>
図1は、本実施の形態の固体電解質の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態の固体電解質の製造方法は、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表されるLAGPと称す固体電解質を製造する。上記一般式におけるxは、0≦x≦1である。一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表される固体電解質の主たる原料はLi、Al、Ge、Pである。
【0021】
上記固体電解質の製造方法は、固体電解質の原料の一つであるGeを含むGeO2(二酸化ゲルマニウム)水溶液と、固体電解質のGe以外の原料を含む化合物と、特定の添加物とを混合して溶液を得る工程(ステップSA1)と、
ステップSA1の工程で得た溶液を乾燥固化させて前駆体粉末を得る工程(ステップSA2)と、
ステップSA2の工程で得た前駆体粉末を、第1の温度で焼成して仮焼成体(LAGP仮焼成体)を得る焼成工程(ステップSA3)と、
ステップSA3の工程で得た仮焼成体を成型した後、仮焼成体が焼結する第2の温度で加熱して焼結体(LAGP焼結体)を得る工程(ステップSA4)と、を含む。
【0022】
図2は、本実施の形態の電極合剤の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態の電極合剤の製造方法は、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表されるLAGPと称す固体電解質と正極活物質あるいは負極活物質との複合体を製造する。上記一般式におけるxは、0≦x≦1である。一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表される固体電解質の主たる原料はLi、Al、Ge、Pである。
【0023】
上記電極合剤の製造方法は、固体電解質の原料の一つであるGeを含むGeO2水溶液と、固体電解質のGe以外の原料を含む化合物と、特定の添加物とを混合して得られる溶液に、正極活物質または負極活物質(電極活物質と称す)と導電助剤を混合する工程(ステップSB1)と、
ステップSB1の工程で得た分散液を乾燥固化させて前駆体粉末を得る工程(ステップSB2)と、
ステップSB2の工程で得た前駆体粉末を、第1の温度で焼成して仮焼成体(電極合剤仮焼成体)を得る焼成工程(ステップSB3)と、
ステップSB3の工程で得た仮焼成体を成型した後、仮焼成体が焼結する第2の温度で加熱して焼結体(電極合剤焼結体)を得る工程(ステップSB4)と、を含む。
【0024】
上述した電極合剤の製造方法では、電極活物質と導電助剤を、ステップSB1において固体電解質原料溶液と混合しているが、乾燥固化した前駆体を得る工程(ステップSB2)の後、あるいは前駆体を第1の温度で焼成して仮焼成体を得る工程(ステップSB3)の後であっても良い。
【0025】
図3は、本実施の形態の全固体電池の一例を示す断面図である。全固体電池1は、正極活物質、導電助剤と上述した固体電解質を含む正極合剤層2と、上述した固体電解質を含む全固体電解質層3と、負極活物質、導電助剤と上述した固体電解質を含む負極合剤層4を備える。
【0026】
全固体電池1は、全固体電解質層3の一の面に正極合剤層2が形成される。また、全固体電解質層3の他の面に負極合剤層4が形成される。
【0027】
本実施の形態の全固体電池の製造方法は、固体電解質が上述したステップSA1、SA2、SA3、SA4の工程で示す固体電解質の製造方法で作製される。また、本実施の形態の全固体電池の製造方法は、正極合剤及び負極合剤が、上述したステップSB1、SB2、SB3、SB4の工程で示す電極合剤の製造方法で作製される。
【0028】
上述した全固体電池に用いられるLAGPと称す固体電解質の原料となる化合物としては、GeO2以外に、LiNO3(硝酸リチウム)、Al(NO3)3・9H2O(硝酸アルミニウム)、(NH4)2HPO4(リン酸水素二アンモニウム)が用いることができる。これらの原料は、水溶性を有する化合物であればよく、限定されるものではない。
【0029】
添加剤は、水溶液中のGeの溶解度を高めることを目的として添加され、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸からなる群より少なくとも1種選択されるカルボキシル基を持つ有機酸である。添加剤は、キレート剤として機能する。添加物は、さらにグルコースを含んでも良く、クエン酸とグルコースを複合添加しても良い。
【0030】
添加剤は、Geの溶解度を考慮するとシュウ酸かクエン酸であることが好ましく、上記ステップSA1、SA2、SA3、SA4及びステップSB1、SB2、SB3、SB4の工程で添加剤を変えて生成した各固体電解質のイオン導電率を考慮すると、シュウ酸であることがより好ましい。
【0031】
前駆体を焼成して仮焼成体を得るステップSA3及びSB3の工程において、第1の温度は350℃以上550℃以下であることが好ましい。
【0032】
添加剤としてシュウ酸を用いた場合、前駆体を焼成して仮焼成体を得るステップSA3及びSB3の工程において、前駆体の熱分解の過程で質量分析を行うと、熱分解により発生するガスの量がピークとなるのは、温度が300℃-350℃であった。これにより、第1の温度が300℃を下回るような低い温度になると、前駆体の熱分解が十分に起きないことがわかり、第1の温度が350℃以上であれば、前駆体の熱分解が十分に起きることがわかる。
【0033】
これに対し、第1の温度が550℃を超えるような高い温度になると、シュウ酸などの特定の添加剤の添加でGeO2の溶解度を高めても、前駆体中でLAGPが結晶化してしまい、所定の温度で仮焼成体を焼結するステップSA4及びSB4の工程での焼結性が乏しくなる。
【0034】
このため、第1の温度の下限値は350℃以上であることが好ましく、第1の温度の上限値は550℃以下であることが好ましい。
【0035】
前駆体を焼成して仮焼成体を得るステップSA3及びSB3の工程において、焼成時間は4時間以上16時間以下であることが好ましい。
【0036】
焼成時間が4時間を下回るような短い時間になると、前駆体の熱分解が十分に進まない。これに対し、焼成時間が4時間以上であれば、前駆体の熱分解が十分に進む。但し、焼成時間が16時間を超えるような長い時間になっても、前駆体の熱分解の進行は、焼成時間が4時間程度の場合と比較して差異は見られない。
【0037】
このため、焼成時間の下限値は4時間以上であることが好ましく、焼成時間の上限値は16時間以下であることが好ましい。
【0038】
仮焼成体を焼結して焼結体(LAGP焼結体または電極合剤焼結体)を得るステップSA4及びSB4の工程において、第2の温度は590℃以上650℃以下であることが好ましい。
【0039】
第2の温度が590℃を下回るような低い温度になると、上述したステップSA1、SA2、SA3の工程またはステップSB1、SB2、SB3の工程で、シュウ酸などの特定の添加剤を添加した原料を用いて仮焼成体を得たとしても、この仮焼成体の焼結と結晶化が十分に進まず、イオン導電率を向上させることができない。
【0040】
これに対し、第2の温度が590℃以上であれば、上述したステップSA1、ステップSA2及びステップSA3の工程、ステップSB1、ステップSB2及びステップSB3の工程で、シュウ酸などの特定の添加剤を添加した原料を用いて得た仮焼成体の焼結と結晶化が十分に進み、イオン導電率を向上させることができる。
【0041】
但し、第2の温度が650℃を超えるような高い温度になると、電極合剤の製造工程において、正極活物質または負極活物質と固体電解質の間で、元素拡散が進行し、電気化学活性が低下することがある。さらに、電極合剤層を空気中で焼結した場合、電極合剤層に含まれる炭素系の導電助剤が燃焼して消失し、導電助剤の添加による電子伝導性の向上の効果が得られない。窒素雰囲気であれば、第2の温度が650℃を超えても炭素系の導電助剤を残すことができるが、窒素雰囲気で加熱可能な炉が必要である。
【0042】
このため、第2の温度の下限値は、600℃程度の温度域での焼結の進行によるイオン導電率の向上を考慮すると、590℃以上であることが好ましい。また、第2の温度の上限値は、空気中での焼結と、導電助剤の添加による電子伝導性を考慮すると、650℃以下であることが好ましい。
【0043】
仮焼成体を焼結して焼結体(LAGP焼結体または電極合剤焼結体)を得るステップSA4及びSB4の工程において、焼結時間は4時間以上16時間以下であることが好ましい。
【0044】
焼結時間が4時間を下回るような短い時間になると、仮焼成体の焼結が十分に進まず、イオン導電率を向上させることができない。これに対し、焼結時間が4時間以上であれば、仮焼成体の焼結が十分に進み、イオン導電率を向上させることができる。但し、焼結時間が16時間を超えるような長い時間になっても、仮焼成体の焼結の進行は、焼結時間が4時間程度の場合と比較して差異は見られず、イオン導電率も差異が見られない。
【0045】
このため、焼結時間の下限値は4時間以上であることが好ましく、焼結時間の上限値は16時間以下であることが好ましい。
【0046】
上述の電極合剤に用いられる正極活物質および負極活物質は、以下の組成式(1a)で表わされる。
【0047】
LiaMXbZc・・・(1a)
【0048】
組成式(1a)において、aは0≦a≦2である。MはCo、Ni、Mn、Ti、Al、Fe、Sn、W、Nb、Ta、Vのうちいずれかまたは2つ以上である。XはSi、P、Sのうちいずれかまたは2つ以上であり、bは0≦b≦2である。ZはC、O、F、Sのうちいずれかまたは2つ以上であり、cは0≦c≦7である。正極活物質は、例えば、LiCoO2などが挙げられる。また負極活物質は、例えばTiO2などが挙げられる。
【実施例0049】
以下、上述したステップSA1、SA2、SA3、SA4の工程で固体電解質を作製した。原料、添加剤は以下の通りである。添加剤としては、実施例として(1)シュウ酸を添加した場合、(2)クエン酸を添加した場合と、比較例として(3)添加剤がない場合のそれぞれで固体電解質を作製した。
【0050】
(a)原料
GeO2水溶液
LiNO3
Al(NO3)3・9H2O
(NH4)2HPO4
(b)添加剤
(1)シュウ酸
(2)クエン酸
(3)なし
【0051】
上記原料、添加剤、導電助剤を混合して得た溶液を乾燥固化させて前駆体粉末を得るステップSA2の工程での加熱温度は170℃とした。
【0052】
前駆体を焼成して仮焼成体を得るステップSA3の工程において、第1の温度は400℃とし、焼成時間は4時間とした。加熱雰囲気は空気中とした。
【0053】
ステップSA3の工程で得た仮焼成を乳鉢混合粉砕し、一軸加圧及びCIP加圧で所定の形状に成型した。仮焼成体を焼結して焼結体(LAGP焼結体)を得るステップSA4の工程において、第2の温度は600℃とし、焼結時間は4時間とした。加熱雰囲気は空気中とした。
【0054】
<シュウ酸を添加したGeの配位状態例>
以下の化学式(1)に示すように、水溶液中でのシュウ酸のGeに対する配位数は2である。原料中の金属イオンの総量に対するシュウ酸の比(Ox/M)が1の場合、Ge に対するシュウ酸量はOx/Ge4+=2.3で示され、Ge4+がすべてキレート化されていることがわかる。
【0055】
【化1】
【0056】
<シュウ酸の添加によるGeの析出の検証例>
図4A及び図4Bは、シュウ酸の添加の有無によるGeO2の析出の有無を検証したグラフであり、上述したステップSA2の工程で得た前駆体及び上述したステップSA3の工程で得た仮焼成体について、X線回折(XRD)で主にGeO2の析出の有無を検証した。
【0057】
シュウ酸の添加量をOx/Ge=2.3(Ox/M=1)とした場合、図4Aに示す前駆体と図4Bに示す仮焼成体のいずれの場合も、GeO2の析出は見られなかった。これに対し、シュウ酸を添加していない場合、図4Aに示す前駆体と図4Bに示す仮焼成体のいずれの場合も、GeO2の析出が見られた。なお、シュウ酸の添加量を増やした場合(Ox/M=12)でも、GeO2の析出は見られなかった。
【0058】
これに対し、添加剤としてシュウ酸に変えてクエン酸を所定量(Cit/M=1)添加した場合、前駆体と仮焼成体のいずれの場合もGeO2の析出は見られなかった。但し、クエン酸の添加量を増やしていくと、不純物増加して結晶化温度の上昇がみられた。また、焼結時にAl2Ge2O7やAl(PO3)3が生成した。これは主に原料中のリン酸塩が熱分解する過程で、クエン酸が脱水されて炭化し、元素同士の反応を阻害したためと考えられる。加える添加剤分子中の酸素/炭素比が低いと、より炭化が進行した。このため、Geの溶解度を高める添加剤としては、シュウ酸がより好ましいことがわかった。
【0059】
なお、シュウ酸の添加が開示されている非特許文献1では、シュウ酸の添加量がOx/Ge=3(Ge:シュウ酸=1: 3)である。シュウ酸の添加量が多いと、ステップSA4及びSB4の焼結の工程でガスの発生が多くなるので、焼結体の空隙率が高くなる傾向にある。そこで、本発明の実施例では、シュウ酸の添加量がOx/Ge=2.3(Ge:シュウ酸=1: 2.3)としたところ、Geの析出を抑制するなどの所望の効果が得られた。
【0060】
<仮焼成体の組成の検証例>
上述したステップSA3の工程で得た仮焼成体の組成について、X線光電子分光法(XPS)で検証した結果を以下の表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、シュウ酸の添加量をOx/Ge=2.3(Ox/M=1)とした場合、仮焼成体の組成が仕込み組成に近いことがわかり、不純物が少ないことがわかった。なお、仮焼成体の組成について、不純物の含有量を考慮すると、N/P比が0.5以下,C/P比が5以下で或ることが好ましい。
【0063】
<シュウ酸の添加によるGeの偏析の検証例>
図5Aは、LAGP焼結体断面の反射電子像、図5Bは、Geの元素分布像、図5Cは、Pの元素分布像、図5Dは、Alの元素分布像、図5Eは、Cの元素分布像、図5Fは、Oの元素分布像である。図5A図5Fは、シュウ酸の添加量をOx/Ge=2.3(Ox/M=1)とした場合において、上述したステップSA4の工程で得た焼結体の断面を、走査型電子顕微鏡及び付属したエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)で分析した像である。
【0064】
シュウ酸を添加した場合、図5Aに示すように、粒子同士が接合し、図5Bに示すように、Geの組成は均一であった。これは、上述したステップSA1の工程でシュウ酸を添加したことによりGeの溶解度が向上したこと、及び、上述したステップSA3の工程での焼成温度、上述したステップSA4の工程での焼結温度に起因すると考えられる。シュウ酸を添加した場合、図5C-図5Fに示すように、P、Al、C、Oの組成も均一であった。
【0065】
<シュウ酸の添加によるイオン導電率の検証例>
LAGP焼結体のイオン伝導性は、交流インピーダンス法により分析した。図6Aは、シュウ酸を添加したLAGP焼結体の交流インピーダンスを分析したNyquist図で、シュウ酸の添加量を増減させた場合の交流インピーダンスの変化を示す。シュウ酸の添加量をOx/Ge=2.3(Ox/M=1)とした場合において、上述したステップSA4の工程で得た焼結体のイオン導電率は1.88×10-5S/cmであり、焼結温度(第2の温度)を600℃とした場合の目標とするイオン導電率を達成できた。なお、シュウ酸の添加量を増やした場合(Ox/M=12)のイオン導電率は3.64×10-6S/cmであり、シュウ酸の添加量が過剰であっても、比較的高いイオン導電率が得られた。
【0066】
図6Bは、シュウ酸を添加したLAGP焼結体の交流インピーダンスを分析したNyquist図で、焼結時間を増減させた場合の交流インピーダンスの変化を示す。シュウ酸の添加量をOx/Ge=2.3(Ox/M=1)とした場合において、上述したステップSA4の工程(焼結時間4時間)で得た焼結体のイオン導電率は1.88×10-5S/cmであり、焼結温度(第2の温度)を600℃とした場合の目標とするイオン導電率を達成できた。これに対し、焼結時間を8時間とした場合の焼結体のイオン導電率は1.50×10-5S/cmであり、焼結時間を16時間とした場合の焼結体のイオン導電率は2.01×10-5S/cmであって、上述したステップSA4の工程での焼結時間は、4時間で十分なことがわかった。
【0067】
<焼結温度と導電助剤の残存の有無の検証例>
図7は、熱処理温度と導電助剤の残存の有無について、アセチレンブラック(AB)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を空気中で加熱したときの熱重量測定(TG)で検証した。
【0068】
図7に示すように、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、500℃以下の加熱で燃焼して消失する。このため、電極合剤の製造工程で導電助剤として多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を添加した場合、シュウ酸を添加して固体電解質の焼結温度を600℃程度にまで下げたとしても、電極合剤焼結体に多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を残存させることができない。これに対し、アセチレンブラック(AB)は650℃を超える加熱で燃焼して消失する。このため、電極合剤の製造工程で導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を添加した場合、シュウ酸を添加して固体電解質の焼結温度を600℃程度にまで下げることで、電極合剤焼結体にアセチレンブラック(AB)を残存させることができる。
【0069】
なお、上述したステップSA1、SA2、SA3の工程で、原料の混合液にシュウ酸等の添加剤を添加せずに得た仮焼成体、特許文献1に記載のように、原料の混合液にアンモニアを添加して得た仮焼成体は、600℃程度の焼結温度では十分なイオン導電率が得られないため,700℃-900℃程度のより高い温度で焼結させる必要がある。
【0070】
このように、固体電解質の焼結温度が700℃以上となると、電極合剤の製造工程で導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を添加しても、空気中で焼結した場合、焼結温度が650℃を超えるとアセチレンブラック(AB)が燃焼して消失するため、電極合剤における導電助剤の添加による電子伝導性の向上の効果が得られない。非特許文献1においても、焼結温度が900℃であるため、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を添加しても、導電助剤の添加による電子伝導性の向上の効果が得られない。
【0071】
そこで、シュウ酸を添加してGeの溶解度を高めることで、固体電解質の焼結温度を600℃程度にまで下げても、焼成体の焼結と結晶化が十分に進み、所望のイオン導電率を得ることができることがわかった。また、電極合剤の製造工程で導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を添加しても、固体電解質の焼結温度を600℃程度にまで下げることで、電極合剤焼結体にアセチレンブラック(AB)を残存させることができ、電極合剤層(正極合剤層、負極合剤層)における電子伝導性を向上させることができることがわかった。
【0072】
<仮焼成体を加熱する温度の切り替えによる2段階焼結例>
図8は、仮焼成体を焼結して焼結体を得る工程でのTG-DTA曲線を示すグラフである。仮焼成体(LAGP仮焼成体)を焼結して焼結体(LAGP焼結体)を得る上述したステップSA4の工程で、熱重量測定(TG:Thermogravimetry)及び示差熱測定(DTA:Differential Thermal Analysis) を行ったところ、熱分解が500℃付近で終了し、結晶化が600℃で進行することが分かった。
【0073】
また、仮焼成体を焼結して焼結体を得る工程では、焼結時に試料の一部が融解することで緻密化が促進されることが分かっている。
【0074】
上述したように、NASICON型結晶構造を有する化合物としてLAGPと称す化合物からなる固体電解質を製造する際に、仮焼成体が焼結する温度である第2の温度Tの好ましい範囲が590℃以上650℃以下となるように、組成及び添加物が定められている。
【0075】
これらのことから、仮焼成体(LAGP仮焼成体)を加熱して焼結体(LAGP焼結体)を得る工程で、仮焼成体を加熱する温度を、結晶化が進行する温度にまで昇温する前に、結晶化が進行する温度より低い温度(第3の温度T)で保持することで、緻密化が促進されることを見出した。
【0076】
図9Aは、仮焼成体を焼結する工程の一例を示すフローチャート、図9Bは、仮焼成体を焼結する熱処理温度プロファイルの一例を示すグラフである。また、図10A図10Fは、焼結体断面の反射電子像である。図10A図10Fは、仮焼成体を第3の温度Tで加熱した後、第2の温度Tで仮焼成体を加熱して得た焼結体の断面を、走査型電子顕微鏡及び付属したエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)で分析した像であり、第3の温度Tを550℃から600℃の範囲で10℃ずつ変えた結果を示す。
【0077】
仮焼成体(LAGP仮焼成体)を加熱して焼結体(LAGP焼結体)を得る上述したステップSA4の工程を、ステップSA4aの緻密化工程と、ステップSA4bの結晶化工程に分ける。ステップSA4aの緻密化工程では、仮焼成体を加熱する温度を、まず第2の温度Tより低い第3の温度Tまで昇温させ、第3の温度Tで保持する。次に、ステップSA4bの結晶化工程では、仮焼成体を加熱する温度を、第2の温度Tまで昇温させ、第2の温度Tで保持する。第2の温度Tは、結晶化が進行する上述した焼結温度である。第3の温度Tは、おおよそ、熱分解が終了する温度T31(500℃付近)から、結晶化が進行する温度T32(600℃程度)までの間の値である。
【0078】
このように、仮焼成体を加熱して焼結体を得る工程を、結晶化が進行する第2の温度Tより低い第3の温度Tで仮焼成体を加熱する工程と、第2の温度Tで仮焼成体を加熱する工程の2段階に分ける。これにより、焼結体の緻密化が促進される。また、焼結体の結晶化が阻害されない。
【0079】
次に、上述したステップSA4a、SA4bの工程で得た焼結体について検証する。ステップSA4aの緻密化工程では、第3の温度Tは、図10Aでは550℃、図10Bでは560℃、図10Cでは570℃、図10Dでは580℃、図10Eでは590℃、図10Fでは600℃とした。第3の温度Tでの焼結時間t(h)は、いずれも2時間とした。
【0080】
ステップSA4aの緻密化工程後のステップSA4bの結晶化工程では、第2の温度Tは600℃とし、焼結時間t(h)は2時間とした。焼結時間の合計は4時間とした。加熱雰囲気は空気中とした。なお、図10Fでは、第3の温度Tと第2の温度Tは同じである。図10Fでは、仮焼成体を加熱する温度を第2の温度Tより低い温度で保持せず、第2の温度Tまで昇温させている。
【0081】
第3の温度Tを550℃、560℃または570℃として得た焼結体の断面には、図10A図10B及び図10Cに示すように、粒子間の接合が進み空隙が小さくなり、緻密化が進んでいることが分かる。これに対し、第3の温度Tを580℃または590℃として得た焼結体の断面には、図10D及び図10Eに示すように、粒子間の接合が進む一方で大きな空隙が残存しており、緻密化が進んでいないことが分かる。また、第3の温度Tを第2の温度Tと同じ600℃として得た焼結体の断面にも、図10Fに示すように、大きな空隙があることが分かる。
【0082】
これにより、仮焼成体を加熱する温度を、焼結温度である第2の温度Tより低い第3の温度Tで保持した後、第2の温度Tまで昇温してさらに保持するに際し、第3の温度Tを550℃以上570℃以下とした場合、第3の温度Tが570℃超600℃以下である場合と比較して、焼結体の緻密化が促進されることが分かる。
【0083】
図11は、焼結体の相対密度とイオン導電率を示すグラフである。図11は、第3の温度Tを550℃、560℃、570℃、580℃、590℃、600℃として得た焼結体の相対密度とイオン導電率を示す。
【0084】
焼結体の相対密度とイオン導電率は、第3の温度Tが560℃以上570℃以下であるとともに極大を示し、第3の温度が580℃以上になるとともに低下した。このように、焼結体の相対密度とイオン導電率は、相関関係を示す。
【0085】
第3の温度Tを550℃、560℃または570℃として得た焼結体の断面には、図10A図10B及び図10Cに示すように、小さな空隙が多く、焼結体の緻密化が促進されていることが分かる。これにより、第3の温度Tを550℃以上570℃以下として得た焼結体は、緻密化が促進され、焼結体の緻密化によりイオン導電率が向上することが分かる。
【0086】
また、第3の温度Tを550℃、560℃または570℃として得た焼結体は、全導電率が2.3 ×10-5 S/cmを達成している。これは、仮焼成体を加熱する温度を、第2の温度より低い第3の温度で保持せず、第2の温度まで昇温させて得た焼結体と比較して、約20%高い値を示している。
【0087】
<全固体電池の作製と評価>
図12A図12B及び図12Cは、全固体電池を作製する工程を示す説明図、図13は、作製された全固体電池を示す説明図である。
【0088】
正極活物質と固体電解質と導電助剤を含む正極合剤層2と、固体電解質を含む全固体電解質層3と、負極活物質と固体電解質と導電助剤を含む負極合剤層4が順に積層されてなる全固体電池1を作製した。
【0089】
正極活物質は、上述した組成式(1a)からLiCoPO4を用いた。負極活物質は、上述した組成式(1a)からTiO2を用いた。各層含まれる固体電解質は、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で表される上述したLAGPと称す固体電解質を用いた。導電助剤は、アセチレンブラック(AB)を用いた。各層含まれる固体電解質は、上述したステップSA3の工程で第1の温度として400℃で焼成したものを粉砕した粉末を用いた。
【0090】
まず、図12Aに示すように、ダイ10に正極合剤層2、全固体電解質層3及び負極合剤層4を積層した試料を入れ、上パンチ11と下パンチ12で試料を挟んで一軸加圧成型した。圧力は100MPaとした。
【0091】
次に、図12B図12Cに示すように、正極合剤層2、全固体電解質層3及び負極合剤層4を加圧成型した積層試料13を、図12Bに示すように、図示しないヒータを備えた上パンチ14と下パンチ15で挟み、図12Bに示すように加熱、加圧成型(ホットプレス)した。温度は550℃、圧力は5MPaとした。
【0092】
そして、加圧、加熱成型された積層試料13を焼結することで、各層含まれる固体電解質(LAGP)を結晶化させた。焼結温度は600℃、焼結時間は4時間とした。
【0093】
以上のように作製した全固体電池1は、図13に示すように、全固体電解質層3及び負極合剤層4の各層がより緻密化され、また、全固体電解質層3が塑性変形することで薄くなり、内部抵抗が低減される。
【0094】
また、上述したように、各層含まれる固体電解質の焼結温度を600℃程度にまで下げても、焼成体の焼結と結晶化が十分に進むようにしたことで、所望のイオン導電率を得ることができた。また、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を添加しても、固体電解質の焼結温度を600℃程度にまで下げることで、空気中で焼結しているにもかかわらず、正極合剤層2及び負極合剤層4にアセチレンブラック(AB)を残存させることができ、正極合剤層2及び負極合剤層4における電子伝導性を向上させることができた。
【0095】
図14は、焼結後の全固体電解質層断面の反射電子像である。図14は、焼結後の全固体電解質層の断面を、走査型電子顕微鏡及び付属したエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)で分析した像である。図14に示すように、作製された全固体電池1において、全固体電解質層3は、加圧せずに焼結した場合の全固体電解質層と比較して、ホットプレスによってさらに空隙が減少していることが分かった。
【0096】
また、図15Aは、焼結後の正極合剤層断面の反射電子像、図15Bは、焼結後の正極合剤層断面のPの元素分布像、図15Cは、焼結後の正極合剤層断面のCoの元素分布像、図15Dは、焼結後の正極合剤層断面のGeの元素分布像、図15Eは、焼結後の正極合剤層断面のCoの元素分布像とGeの元素分布像を重ね合わせたものである。図15A図15Eは、焼結後の正極合剤層の断面を、走査型電子顕微鏡及び付属したエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)で分析した像である。図15A図15Eに示すように、作製された全固体電池1において、正極合剤層2では、Coの元素分布とGeの元素分布は重なっておらず、LiCoPO4とLAGPの元素拡散が確認されなかった。
【0097】
さらに、図16Aは、焼結後の負極合剤層断面の反射電子像、図16Bは、焼結後の負極合剤層断面のPの元素分布像、図16Cは、焼結後の負極合剤層断面のTiの元素分布像、図16Dは、焼結後の負極合剤層断面のGeの元素分布像、図16Eは、焼結後の負極合剤層断面のTiの元素分布像とGeの元素分布像を重ね合わせたものである。図16A図16Eは、焼結後の負極合剤層の断面を、走査型電子顕微鏡及び付属したエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)で分析した像である。図16A図16Eに示すように、作製された全固体電池1において、負極合剤層4では、Tiの元素分布とGeの元素分布は重なっておらず、TiO2とLAGPの元素拡散が確認されなかった。
【0098】
図17は、作製した全固体電池の初回充放電曲線を示すグラフである。作製した全固体電池1の充放電試験を行ったところ、室温でも動作し、電圧は約3Vで、電極面積当たり0.2 mAh/cm2の容量が得られた。これにより、NASICON型結晶構造を有する固体電解質を用いたバルク型の全固体電池として動作することを確認できた。
【符号の説明】
【0099】
1・・・全固体電池、2・・・正極合剤層、3・・・全固体電解質層、4・・・負極合剤層
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
図17