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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074939
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】家畜飼育システム
(51)【国際特許分類】
   A01K 1/00 20060101AFI20240524BHJP
   A01K 29/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A01K1/00 D
A01K29/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061492
(22)【出願日】2024-04-05
(62)【分割の表示】P 2019214657の分割
【原出願日】2019-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】519423828
【氏名又は名称】A-Tech株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500561517
【氏名又は名称】株式会社小桝屋
(74)【代理人】
【識別番号】110002114
【氏名又は名称】弁理士法人河野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100128624
【弁理士】
【氏名又は名称】穂坂 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138483
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 晃一
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(72)【発明者】
【氏名】有竹 正善
(72)【発明者】
【氏名】小島 嘉豊
(57)【要約】
【課題】
過熱水蒸気暖房機を家畜舎で用いることにより、家畜の身体を暖め、かつ、家畜舎を殺菌することを課題とする。
【解決手段】
過熱水蒸気を用いて家畜を暖める暖房手段と、暖められた家畜の体温情報を取得する体温情報取得手段を備える。また、取得した家畜の体温が、家畜の健康を維持するために好ましい体温として、予め規定体温を設定しておき、取得した家畜の体温が、規定体温に近づくように過熱水蒸気の発生量を変更する過熱水蒸気発生量変更手段とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱水蒸気を用いて家畜を暖める暖房手段と、
前記暖房手段により暖められた家畜の体温情報を取得する体温情報取得手段と、
前記体温情報取得手段により取得した前記家畜の取得体温が予め設定された前記家畜の規定体温に近づくように過熱水蒸気の発生量を変更する過熱水蒸気発生量変更手段とを備え、
前記過熱水蒸気発生量変更手段は水蒸気を加熱する熱量の変更によって水蒸気発生量を変更するものであり、
前記暖房手段が家畜舎の空気を加熱するための複数のコイルを備えており、前記水蒸気を加熱する熱量の変更は過熱するコイルの数の変更により得られるものであり、
前記水蒸気を加熱する熱量の変更が前記家畜の前記規定体温と前記家畜の取得体温との体温差に応じてあらかじめ設定された加熱コイルのみを加熱することによって為される家畜飼育システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
過熱水蒸気暖房機を用いて家畜を飼育するシステム、過熱水蒸気暖房機を用いた家畜飼育装置及び過熱水蒸気暖房機を用いた家畜飼育方法に関する。さらに、豚舎における、過熱水蒸気暖房機を用いた豚を飼育するシステム、過熱水蒸気暖房機を用いた豚飼育装置及び過熱水蒸気暖房機を用いた豚飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、過熱水蒸気暖房機であって、遠赤外線を放出するものが記載されているが、過熱水蒸気暖房機を家畜舎の家畜に用いることについては記載がない。動物の飼育に過熱水蒸気暖房機を使用する場合には、体温が上がりすぎないように配慮が必要であり、動物に使用することについて発想がなかった。
【0003】
特許文献2には、遠赤外線を照射して行う動物の飼育方法が記載されている。しかし、遠赤外線は遠赤外線ヒータから発せられており、過熱水蒸気暖房機を用いたものではない。遠赤外線が遠赤外線ヒータから発せられる場合、遠赤外線が及ぶのはヒータの周辺のみである。これに対し、過熱水蒸気暖房機を用いた場合、過熱水蒸気が家畜舎の全体に隅々まで充満するため、遠赤外線もこれに伴い家畜舎の全体に降り注ぐ。よって、過熱水蒸気暖房機を用いた場合は、遠赤外線ヒータを用いた場合と比較すると、家畜を暖める効果がはるかに高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4671076号
【特許文献2】特開2005-287428
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
過熱水蒸気暖房機を用いて家畜の身体をあたためることを課題とする。
【0006】
過熱水蒸気暖房機を用いて家畜の身体をあたためる結果、家畜が活発に動くようになることを課題とする。
【0007】
複数の家畜を同一の家畜舎で飼育する場合、過熱水蒸気暖房機を用いて家畜の身体をあたためた際の結果が、家畜の個体差により、様々である。そのような個体差をふまえた上で、飼育中のより多くの家畜に健康被害が出ないようにすることを課題とする。
【0008】
家畜のうち豚においては、汗をかかないために身体を温めた影響がすぐに現れる。過熱水蒸気暖房機を用いて豚の身体をあたためるにあたり、健康被害が出ないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)過熱水蒸気を用いて家畜を暖める暖房手段と、前記暖房手段により暖められた家畜の体温情報を取得する体温情報取得手段と、前記体温情報取得手段により取得した前記家畜の取得体温が予め設定された前記家畜の規定体温に近づくように過熱水蒸気の発生量を変更する過熱水蒸気発生量変更手段とを備えた家畜飼育システムによって課題を解決する。
過熱水蒸気を用いて家畜を暖める場合、過熱水蒸気が家畜舎の全体に隅々まで充満し、家畜を効率よく暖めることができる。また、過熱水蒸気は遠赤外線を発生すると考えられており、家畜の過熱と同時に空気中の菌を滅し、臭気が改善されるという効果もある。家畜の体温が上昇しすぎないように管理するために、家畜の体温を取得する手段が必要である。規定体温とは家畜の健康を維持するために好ましい体温をいう。「規定体温」をあらかじめ設定しておき、家畜の体温が規定体温に近づくようにすることにより、家畜を健康な状態に維持できる。
(2)前記体温情報取得手段が、前記家畜のサーモグラフィー画像により前記家畜の前記体温情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
サーモグラフィー画像を用いることにより、体温情報を容易に取得することができる。家畜の体温情報の取得は、サーモグラフィー画像を用いるほか、一般的な体温計を用いることもできる。また、ピンポイントで所定の家畜を対象とし、放射温度計を用いることもできる。
(3)前記体温情報取得手段が、前記家畜を飼育する家畜舎の室温により前記家畜の前記体温情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
家畜舎の室温は、家畜自体の体温に密接に影響を与えるため、室温より、家畜の体温情報を得ることができる。
(4)前記過熱水蒸気発生量変更手段が、前記家畜の前記規定体温と前記体温情報取得手段により取得した前記家畜の取得体温との体温差に応じて前記過熱水蒸気の発生量を変更することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
家畜の好ましい体温である規定体温と家畜の実際の体温である取得体温の差が大きい場合には過熱水蒸気発生量を大きく変更する必要があり、規定体温と取得体温の差が小さい場合には過熱水蒸気発生量の変更は小さくて良い。
(5)前記過熱水蒸気発生量変更手段が、水蒸気を加熱する熱量の変更によって水蒸気発生量を変更することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
(6)前記暖房手段が家畜舎の空気を加熱するための複数のコイルを備えており、前記水蒸気を加熱する熱量の変更が、過熱するコイルの数の変更により得られることを特徴とする請求項5に記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
(7)前記水蒸気を加熱する熱量の変更が、前記家畜の前記規定体温と前記家畜の取得体温との体温差に応じてあらかじめ設定された加熱コイルのみを加熱することによって為されることを特徴とする請求項6に記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
(8)前記暖房手段が水を加熱して水蒸気を生成する加熱機構と水蒸気のもととなる水を循環させる水循環機構と、前記家畜を飼育する家畜舎の中の空気を前記加熱機構に送り込む送風機構とを備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
(9)前記送風機構から前記加熱機構に送り込む風量が所定量であり変更されないことを特徴とする請求項8に記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
加熱機構に送り込む風量が変更されないようにすることにより、過熱水蒸気の温度、量、質、を一定にすることができる。
(10)前記過熱水蒸気が常に発生し発生量がゼロにならないことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
過熱水蒸気の発生量がゼロになる機会があると、家畜の体温が変化し、家畜にストレスを与える結果となるため、過熱水蒸気な常に発生することが望ましい。
(11)前記過熱水蒸気から生じる遠赤外線により前記家畜が暖められることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
過熱水蒸気は、冷やされる時に凝縮熱が放たれ、遠赤外線が生じる。凝縮熱によって、家畜の深部まで熱が伝わり、家畜を暖めることができる。
(12)前記家畜が豚であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の家畜飼育システムによって課題を解決する。
豚は汗をかかないため、体温調節を十分にすることができない。このため、過熱水蒸気を用いて暖めることによる効果が、他の家畜と比して大である。
(13)過熱水蒸気を用いて家畜を暖める暖房機構と、前記暖房機構により暖められた家畜の体温情報を取得する体温情報取得機構と、前記体温情報取得機構により取得した前記家畜の取得体温が予め設定された前記家畜の規定体温に近づくように過熱水蒸気の発生量を変更する過熱水蒸気発生量変更機構とを備えた家畜飼育装置によって課題を解決する。
(14)過熱水蒸気を用いて家畜を暖める暖房工程と、前記暖房工程により暖められた家畜の体温情報を取得する体温情報取得工程と、前記体温情報取得工程により取得した前記家畜の取得体温が予め設定された前記家畜の規定体温に近づくように過熱水蒸気の発生量を変更する過熱水蒸気発生量変更工程とを備えた家畜飼育方法によって課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
過熱水蒸気暖房機を用いて家畜の身体を暖めることができる。
【0011】
過熱水蒸気暖房機を用いて家畜の身体をあたためる結果、家畜が活発に動くようになる。
【0012】
複数の家畜を同一の家畜者で飼育する場合、過熱水蒸気暖房機を用いて家畜の身体をあたためた際の結果が、家畜の個体差により、様々である。そのような個体差をふまえた上で、飼育中のより多くの家畜に健康被害が出ない。
【0013】
家畜のうち豚においては、汗をかかないために身体を温めた影響がすぐに現れる。過熱水蒸気暖房機を用いて豚の身体をあたためるにあたり、健康被害が極めて低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願の実施例1全体の概要と説明する図である。
図2】適正体温維持プログラムを説明するフローチャートである。
図3】適正室温維持プログラムを説明するフローチャートである。
図4】実施例1を説明する図である。
図5】本願の実施例1に係る飼育方法の効果を説明する図である。
図6】過熱水蒸気発生量調節プログラムを説明するフローチャートである。
図7】適正加熱コイル情報(体温用)を示す図である。
図8】適正加熱コイル情報(室温用)を示す図である。
図9】過熱水蒸気暖房機を使用した豚舎と通常の暖房機を使用した豚舎の比較実験の結果を数値で示す。
図10】過熱水蒸気暖房機を使用した豚舎と通常の暖房機を使用した豚舎の比較実験の結果を写真で示す。
図11】過熱水蒸気暖房機を使用した豚舎と通常の暖房機を使用した豚舎の比較実験の結果をサーモグラフィー画面で示す。
【符号の説明】
【0015】
1 豚舎
10 過熱水蒸気暖房機端末
20 サーモグラフィー画像撮影機端末
30 豚舎端末
40 インターネット
50 サーバ
51 処理プログラム情報記憶領域
52 記憶情報記憶領域
60 過熱水蒸気発生装置
61 ファン
62 過熱水蒸気発生体単体
63 水
64 上方
65 加熱室
66 コイル室
【発明を実施するための形態】
【実施例0016】
[本発明全体]
図1によって、実施例1の全体の概要を説明する。
【0017】
豚舎1では豚を飼育している。豚舎には、過熱水蒸気暖房機10とサーモグラフィー画像撮影機端末20が備わる。畜舎には、図示しないが、さらに温度計・湿度計・気計等の計測器、及び動画撮影機等の機器が備わる。これらの機器によって畜舎内の状況を計測し、また動画を撮影する。過熱水蒸気暖房機端末10と、サーモグラフィー画像撮影機端末20とその他の機器と豚舎端末30は、サーバ50と、インターネット40等の情報通信網により情報交換可能に繋がっている。
【0018】
過熱水蒸気暖房機からは過熱水蒸気が発せられる。過熱水蒸気は豚舎内の垂直方向・水平方向に短時間でくまなく行き渡る。過熱水蒸気は冷える際に遠赤外線を発するため、豚舎内に行き渡った過熱水蒸気は、豚舎内の隅々まで遠赤外線をもたらす。
【0019】
サーモグラフィー画像撮影機は、豚舎のサーモグラフィー画像を撮影する。撮影のための設備が豚舎に備え付けてあってもよいし、別途移動可能な撮影機であっても良い。
【0020】
サーバ50には、処理プログラム情報記憶領域51及び記憶情報記憶領域52が記憶されている。処理プログラム情報記憶領域51には、適正体温維持プログラム、適正室温維持プログラム、過熱水蒸気発生量調節プログラムが記憶されている。記憶情報領域52には、規定範囲(体温・室温)情報、適正な加熱コイル情報(体温用、室温用)、サーモグラフィー画像情報、動画情報、測定情報、判断情報が記録されている。適正体温維持プログラムについては図2等で説明する。適正室温維持プログラムについては図3等で説明する。過熱水蒸気発生量調節プログラムについては図6等で説明する。適正な加熱コイル情報(体温用、室温用)については図7図8等で説明する。サーモグラフィー画像情報については図11に例示する。動画情報とは家畜舎の動画情報である。測定情報とは、日時、気温、湿度、室外温度、室内温度、臭気強度、豚の平均体温、豚の増体量、事故率、等の情報である。判断情報とは、上記各プログラムに則って行われた判断の情報である。
【0021】
サーモグラフィー画像の記憶情報、測定結果の記憶情報、判断結果の記憶情報と、判断の結果行った指示の記憶情報は、他の情報とともに記録し、蓄積して、その後、より良い判断をおこなうための資料として用いる。
【0022】
図2によって、適正体温維持プログラムを説明する。サーバ50のCPUは、豚舎端末30より豚舎のサーモグラフィー画像の情報を取得する(S1)。
【0023】
サーバ50のCPUは、サーモグラフィー画像から豚の体温情報を取得する(S2)。図11に示す通り、サーモグラフィー画像には、撮影対象の平均温度、最高温度、の各情報に加えて、画面上の色彩により個々の豚の体温が示されている。サーバ50のCPUが取得する対象として、いずれの豚の体温を取得するかについては、状況に応じて適宜定めておく。例えば平均体温(図11の過熱水蒸気暖房機使用のものでは37.6℃)にしても良い。また、例えば、体温が上がりすぎることが問題になるケースが多いことから最高温度(図11の過熱水蒸気暖房機使用のものでは41.0℃)にしても良い。また、例えば、最も身体の弱い豚の体温を把握してこれを取得する豚の体温としても良い。最も身体の弱い豚の体温を、CPUが取得する豚の体温とすることにより、身体の弱い豚を含め、豚舎の中の多くの豚を適正体温に維持できる可能性がある。
【0024】
サーバ50のCPUは、豚の体温が規定範囲内か否かを判断する(S3)。規定範囲とは、その範囲内であれば適正な温度と考えられる温度範囲である。例えば豚の体温の規定範囲を39℃から40℃に設定しておく。豚の体温が規定範囲内にない場合には、過熱水蒸気の発生量を調節する(S4)。過熱水蒸気の発生量を調節するためのプログラムは、図6に示す通りである。豚の体温が規定範囲内にある場合、プログラムは終了する。
【0025】
図3によって、適正室温維持プログラムを説明する。サーバ50のCPUは、豚舎端末より、豚舎の室内温度の情報を取得する(S5)。
【0026】
サーバ50のCPUは、豚舎の室内温度が規定範囲内か否かを判断する(S6)。規定範囲とは、その範囲内であれば適正な温度と考えられる温度範囲である。例えば豚舎の室内温度の規定範囲を25℃から28℃に設定しておく。豚舎の室内温度が規定範囲内にない場合には、過熱水蒸気の発生量を調節する(S7)。過熱水蒸気の発生量を調節するためのプログラムは、図6に示す通りである。豚舎の室内温度が規定範囲内にある場合、プログラムは終了する。
【0027】
図4図5及び図6により、本願に係る過熱水蒸気の発生量調節の機構を説明する。図4に、過熱水蒸気発生装置60を示す。図4の(a)は過熱水蒸気発生装置全体を示し、図4の(b)は、(a)にa、b、c、d、e、fの符号を付けて示す過熱水蒸気発生体単体62の一つを示す。a、b、c、d、e、fの符号を付けて示す各過熱水蒸気発生体単体は、いずれも図4の(b)に示すものと同じ機構である。
【0028】
過熱水蒸気発生装置60は豚舎に設置されている。過熱水蒸気発生装置60は過熱水蒸気暖房機端末10を備える(図1)。図4の(a)に示す通り、過熱水蒸気発生装置60は、豚舎内の空気を取り込みファン61の力で装置内に送りこむ。過熱水蒸気発生装置60は過熱水蒸気発生体単体62を複数備える。図に示す過熱水蒸気発生装置ではaからfの符号を付した6個の過熱水蒸気発生体単体62を備える。過熱水蒸気発生体単体62から発生した過熱水蒸気は集められてファン68を介して外部に放出される。図4の(b)に示す通り、過熱水蒸気発生体単体62は、内部にコイル室66と加熱室65を備える。コイル室66にはコイルが備えてあり、コイルは電力で加熱される。過熱水蒸気発生装置は外部から水を供給する機構が備わり(図示せず)、加熱室65には取り込んだ水が入っている(63)。加熱室65はコイル室66と隣り合っており、加熱室65の水63はコイル室のコイルにより加熱され水蒸気が発生する。加熱室65は上下方向に延びており、水63は加熱室全体には及んでいない。加熱により発生した水蒸気は、加熱室65の上方64に収まる。発生した水蒸気は、コイルで加熱された空気と混じり合うことにより加熱室65の上方64でさらに加熱され、過熱水蒸気となる。
【0029】
豚舎内の空気は、コイル室で温められる過程で殺菌され、臭気や病原菌は死滅する。このように、室内の空気が過熱水蒸気暖房装置内を通過することにより、室内の空気は殺菌されながら循環する。その結果、空気が清浄され、臭いも消える。
【0030】
各々の過熱水蒸気発生体単体62のコイル室66のコイルは、単体毎に独立して電源をオンとオフにできる。
【0031】
過熱水蒸気の発生量と豚の体温の変化を図5に示す。
【0032】
図5の(a)では、全ての加熱コイルの電源をオンまたはオフにした場合に、それに追従して変化する豚の体温を示している。豚には、体温調節が苦手で、外気温の変化が体温にすぐに影響する、という特徴がある。このため、全てのコイル室の電源をオフにし過熱水蒸気の発生量をゼロにすると、体温が39℃から37℃に下がる。また、全てのコイル室の電源をオンにして過熱水蒸気の発生量を多くすると、体温は37℃から39℃に上昇する。このような、体温の上がり下がりは、豚にストレスを与え、健康上好ましくない。
【0033】
図5の(b)では、全てのコイル室の電源をオンまたオフにするのではなく、6個の個々の加熱コイルに関し、グラフに示す順に、5個のコイルをオン、6個のコイルをオン、5個のコイルをオン、4個のコイルをオン、4個のコイルをオン・・・・・・といったように、オンにするコイルの数は変更されるが、常にいずれかのコイルの電源がオンにされており、過熱水蒸気が発生し続けるようにしてある。この場合、それに追従した豚の体温を示すグラフから明らかなとおり、豚の体温は39℃を維持し変化しない。このため、豚は体温変化によるストレスを感じずに済む。
【0034】
すなわち、過熱水蒸気暖房機の使用が過剰であるために豚の体温が上がりすぎた場合の対応策として、過熱水蒸気暖房による加熱を一時的に取りやめるという手段があるところ、過熱水蒸気の発生を一切取りやめることは好ましくない。
【0035】
本願にあっては、豚の体温を調節する際は、一部の加熱コイルのみ電源をオンにして、稼働する加熱コイルの数を減らす。例えば、図4の斜線を付した加熱コイル(コイルaとコイルb)のみについて電源をオンにする。このようにすると、過熱水蒸気は、発生量の増減はあっても、過熱水蒸気が発生しない、という状況にならずに済むことになる。
【0036】
過熱水蒸気の発生量の調節のために、ファン61の回転数を減らして、過熱水蒸気発生装置内に送り込む空気の風量を減らす、という手段があるが、次に説明する通り、これも好ましくない。ファン61の回転数を減らして過熱水蒸気発生装置内に送り込む空気の風量を減らすと、個々のコイル室66に送り込まれる空気の量が減る。個々の過熱水蒸気発生体単体62から発生する過熱水蒸気は、コイル室を通過して暖められた空気によって過熱される。このため、コイル室を通過して暖められた空気の量が減ると、それに応じて水蒸気に十分な加熱がされない結果となり、過熱水蒸気の温度が低くなり、質が下がる。また、過熱水蒸気の量も減る。
【0037】
本願にあっては、豚の体温を調節するにあたり、過熱水蒸気暖房装置内に送り込む豚舎内の空気の風量は、一定を保つようにする。その結果、個々の過熱水蒸気発生体単体から発生する過熱水蒸気の温度は変化することなく所定の高温を維持することができ、質が良く、所定量の過熱水蒸気を得ることができる。なお、過熱水蒸気暖房装置内に送り込む豚舎内の空気の風量が一定に保たれる場合、過熱水蒸気発生体単体62のうち、例えば加熱コイルの電源がオフにされている単体にあっても、空気は、電源がオンである場合と変わらない勢いで通過する。
【0038】
図6により、過熱水蒸気発生量調節プログラムを説明する。図6に示す過熱水蒸気発生量調節プログラムは、適正体温維持プログラムのS3で豚の体温が規定範囲内にないと判断した場合にスタートする(S4)。サーバ50のCPUは、現在の体温と規定範囲の上限又は下限との温度差を取得する(S8)。温度差の取得は既存の計算ソフトによりコンピュータ上で行うことができる。サーバ50のCPUは、適正加熱コイル情報(体温用)(図7)により加熱コイルを決定する(S9)。すなわち、例えば豚の体温が41℃の場合、豚の体温の規定範囲は39℃から40℃に設定しているので、規定範囲の上限との差は+1℃である。適正加 熱コイル情報(体温用)によると、温度差が+1℃の場合、加熱すべきコイルは、a、b、cと決定する。
【0039】
サーバ50のCPUは、加熱すべきコイル以外のコイルの電源をオフにする(S10)。すなわち体温41℃の例では、d、e、fのコイルの電源をオフにする。d、e及びfのコイルの電源をオフにする作業は、既存の方法により、人の手を介さずにコンピュータ上で行うことができる。
【0040】
サーバ50のCPUが適正室温維持プログラムのS6で室内温度が規定範囲内にないと判断した場合には(S7)、適正加熱コイル情報(室温用)(図8)を用いて、図6に示すのと同様のプログラムにより、必要なコイルの電源を切る。プログラムの詳細は省略する。
【0041】
[実験結果]
図9に、過熱水蒸気暖房機を使用した豚舎と通常の暖房機を使用した豚舎の比較実験の結果を数値で示す。
【0042】
過熱水蒸気暖房機を使用した場合については、40日齢の離乳豚を、2019年2月8日から約60日間飼育した。平均室温は27.1℃、平均湿度は70.0%、臭気強度は外気をゼロとした場合700から800、豚の平均体温は38.0℃、体重の増加量は1日当たり441g、事故率は379頭のうち2頭が死亡(0・005%)であった。実験の第一日目、子豚は、過熱水蒸気暖房機を使用する前は豚舎の隅で互いにくっつきあってじっとしていたところ、過熱水蒸気暖房機を起動した後5分程で豚舎に広く散らばり、活発に動き餌を食べる行動が見られた。その後も、継続的に活発に動き、えさをたくさん食べた。
【0043】
過熱水蒸気暖房機を使用しない場合については、46日齢の離乳豚を、2019年2月14日から約60日間飼育した。平均温度は26.8℃、平均室内湿度は76.0%、臭気強度は外気をゼロとした場合1,150、豚の平均体温は36.0℃、体重の増加量は1日当たり403g、事故率は385頭のうち5頭が死亡(0・013%)であった。子豚は、元気がなく、部屋の隅で、床暖房の上に、互いにくっつきあうように集まり、じっと停止したままであった。
【0044】
図10に、過熱水蒸気暖房機を使用した豚舎と通常の暖房機を使用した豚舎の比較実験の結果を写真で示す。過熱水蒸気暖房機を使用した豚舎では、豚が豚舎に散らばり活発に活動する様子が見られる。過熱水蒸気暖房機を使用しない豚舎では、豚の活動が緩慢で、豚舎への散らばりも少ない。
【0045】
図11に、過熱水蒸気暖房機を使用した豚舎と通常の暖房機を使用した豚舎の比較実験の結果をサーモグラフィー画面で示す。 過熱水蒸気暖房機を使用した豚舎では豚の体温が平均37.6℃であり、最高体温は41.6℃であった。通常の暖房機を使用した豚舎では豚の体温は平均35.3℃であり、最高体温は36.7℃であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11