(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074962
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】照明装置及び照明システム
(51)【国際特許分類】
H05B 47/155 20200101AFI20240524BHJP
H05B 47/165 20200101ALI20240524BHJP
H05B 47/16 20200101ALI20240524BHJP
H05B 47/105 20200101ALI20240524BHJP
【FI】
H05B47/155
H05B47/165
H05B47/16
H05B47/105
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062808
(22)【出願日】2024-04-09
(62)【分割の表示】P 2022505975の分割
【原出願日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/011147
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【弁理士】
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203677
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 力
(72)【発明者】
【氏名】山田 旭洋
(72)【発明者】
【氏名】桑田 宗晴
(72)【発明者】
【氏名】伏江 遼
(72)【発明者】
【氏名】満倉 靖恵
(57)【要約】
【課題】人のストレスを高めすぎることなく作業効率を向上させること。
【解決手段】照明装置100は、4000K未満の色温度の光を発する第1の光源112と、4000Kよりも高い色温度の光を発する第2の光源122と、第1の光源112及び第2の光源122の動作を制御し、4000K未満の第1の色温度の光と、4000Kよりも高い第2の色温度の光とを、40秒よりも長く、10分以内の間隔で、交互に、第1の光源112及び第2の光源122に発光させる切替制御を行う制御部130と、を備え、制御部130は、被照射面で反射される光に対する2800K~5200Kの範囲内の所望色温度となる第1の光源112の出力と、第2の光源122の出力とを記憶しており、制御部130は、被照射面で反射される光の色温度が所望色温度となるよう、第1の光源112の出力と、第2の光源122の出力とを制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱特性を有する被照射面に照射して照明を行う照明装置において、
4000K未満の色温度の光を発する第1の光源と、
4000Kよりも高い色温度の光を発する第2の光源と、
前記第1の光源及び前記第2の光源の動作を制御し、4000K未満の第1の色温度の光と、4000Kよりも高い第2の色温度の光とを、40秒よりも長く、10分以内の間隔で、交互に、前記第1の光源及び前記第2の光源に発光させる切替制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、前記被照射面で反射される光に対する2800K~5200Kの範囲内の所望色温度となる前記第1の光源の出力と、前記第2の光源の出力とを記憶しており、
前記制御部は、前記被照射面で反射される光の色温度が前記所望色温度となるよう、前記第1の光源の出力と、前記第2の光源の出力とを制御すること
を特徴とする照明装置。
【請求項2】
屋内の天井に設置され、散乱特性を有する被照射面に照射して太陽の直射光と散乱光の相関関係を模擬する照明装置において、
4000K未満の色温度の光を発する第1の光源と、
4000Kよりも高い色温度の光を発する第2の光源と、
前記第1の光源及び前記第2の光源の動作を制御し、4000K未満の第1の色温度の光と、4000Kよりも高い第2の色温度の光とを、40秒よりも長く、10分以内の間隔で、交互に、前記第1の光源及び前記第2の光源に発光させる切替制御を行う制御部とを備え、
前記第1の色温度の光による前記被照射面における第1の照度が前記第2の色温度の光による前記被照射面における第2の照度より高く、前記制御部は、前記直射光と、前記散乱光との前記相関関係を模擬することを特徴とする照明装置。
【請求項3】
散乱特性を有する被照射面に照射して照明を行う照明システムにおいて、
4000K未満の色温度の光を発する第1の光源を備える第1の照明装置と、
4000Kよりも高い色温度の光を発する第2の光源を備える第2の照明装置と、
前記第1の光源及び前記第2の光源の動作を制御し、4000K未満の第1の色温度の光と、4000Kよりも高い第2の色温度の光とを、40秒よりも長く、10分以内の間隔で、交互に、前記第1の光源及び前記第2の光源に発光させる切替制御を行う制御部を備える制御装置と、を備え、
前記制御部は、前記被照射面で反射される光に対する2800K~5200Kの範囲内の所望色温度となる前記第1の光源の出力と、前記第2の光源の出力とを記憶しており、
前記制御部は、前記被照射面で反射される光の色温度が前記所望色温度となるよう、前記第1の光源の出力と、前記第2の光源の出力とを制御すること
を特徴とする照明システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、照明装置及び照明システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間が感じる印象は、照明の光色である色温度により、例えば、次のように分類できる。3300K未満の色温度は、暖かい印象、5300Kを超える色温度は、涼しい印象、3300K~5300Kの色温度は、それらの中間の印象を与えるとされている。暖かい印象のある光色は、リラックス効果があり、涼しい印象のある光色は、覚醒効果があるといわれている。
【0003】
従来より、居室等の作業空間で行う事務作業等において、照明の色温度を制御することによって、覚醒度を高める、あるいは、リラックスさせる照明装置がある。例えば、特許文献1では、3000K以下の低色温度と、4000Kの中色温度とを交互に発生させることによって、人をリラックスさせ、6700K以上の高色温度と、4000Kの中色温度とを交互に発生させることによって、人を覚醒させる照明システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-135273号公報(段落0006~0007、
図1~2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人が覚醒している状態では、その人は緊張し、集中する状態となる。このため、覚醒状態は、緊張状態又は集中状態であるともいえる。事務作業等において、作業員の覚醒状態を維持させることは、ストレスの蓄積につながり、その作業員に高ストレスを与えることとなる。高ストレスの状態が長く続くと、作業効率が低下することが知られている。
【0006】
一方で、作業員がリラックス状態である場合、時間の長短に関わらず、覚醒状態時に比べて作業効率が低下することが知られている。
【0007】
そこで、本開示の一又は複数の態様は、人のストレスを高めすぎることなく作業効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第一の態様に係る照明装置は、散乱特性を有する被照射面に照射して照明を行う照明装置において、4000K未満の色温度の光を発する第1の光源と、4000Kよりも高い色温度の光を発する第2の光源と、前記第1の光源及び前記第2の光源の動作を制御し、4000K未満の第1の色温度の光と、4000Kよりも高い第2の色温度の光とを、40秒よりも長く、10分以内の間隔で、交互に、前記第1の光源及び前記第2の光源に発光させる切替制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記被照射面で反射される光に対する2800K~5200Kの範囲内の所望色温度となる前記第1の光源の出力と、前記第2の光源の出力とを記憶しており、前記制御部は、前記被照射面で反射される光の色温度が前記所望色温度となるよう、前記第1の光源の出力と、前記第2の光源の出力とを制御することを特徴とする。
【0009】
本開示の第二の態様に係る照明装置は、屋内の天井に設置され、散乱特性を有する被照射面に照射して太陽の直射光と散乱光の相関関係を模擬する照明装置において、4000K未満の色温度の光を発する第1の光源と、4000Kよりも高い色温度の光を発する第2の光源と、前記第1の光源及び前記第2の光源の動作を制御し、4000K未満の第1の色温度の光と、4000Kよりも高い第2の色温度の光とを、40秒よりも長く、10分以内の間隔で、交互に、前記第1の光源及び前記第2の光源に発光させる切替制御を行う制御部とを備え、前記第1の色温度の光による前記被照射面における第1の照度が前記第2の色温度の光による前記被照射面における第2の照度より高く、前記制御部は、前記直射光と、前記散乱光との前記相関関係を模擬することを特徴とする。
【0010】
本開示の一態様に係る照明システムは、散乱特性を有する被照射面に照射して照明を行う照明システムにおいて、4000K未満の色温度の光を発する第1の光源を備える第1の照明装置と、4000Kよりも高い色温度の光を発する第2の光源を備える第2の照明装置と、前記第1の光源及び前記第2の光源の動作を制御し、4000K未満の第1の色温度の光と、4000Kよりも高い第2の色温度の光とを、40秒よりも長く、10分以内の間隔で、交互に、前記第1の光源及び前記第2の光源に発光させる切替制御を行う制御部を備える制御装置と、を備え、前記制御部は、前記被照射面で反射される光に対する2800K~5200Kの範囲内の所望色温度となる前記第1の光源の出力と、前記第2の光源の出力とを記憶しており、前記制御部は、前記被照射面で反射される光の色温度が前記所望色温度となるよう、前記第1の光源の出力と、前記第2の光源の出力とを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一又は複数の態様によれば、人のストレスを高めすぎることなく作業効率を向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る照明装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】(A)及び(B)は、ハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図3】照明試験の一例を説明するためのグラフである。
【
図6】照明試験の一例を説明するためのグラフである。
【
図8】実施の形態1の変形例である照明制御システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図9】実施の形態1に係る照明装置を設置する第1の例を示す概略図である。
【
図10】実施の形態1に係る照明装置を設置する第2の例を示す概略図である。
【
図11】実施の形態1の第1の変形例である照明装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図12】実施の形態1の第2の変形例の照明試験の一例を説明するためのグラフである。
【
図13】第2の変形例の照明方法を説明するための図である。
【
図14】第2の変形例の照明方法を説明するための図である。
【
図15】第2の変形例の照明試験の試験結果を示す概略図である。
【
図16】第2の変形例の効果を説明する概略図である。
【
図17】実施の形態2に係る照明装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図18】実施の形態2に係る照明装置を設置する例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る照明装置100の構成を概略的に示すブロック図である。
照明装置100は、第1の発光部110と、第2の発光部120と、制御部130とを備える。
【0014】
第1の発光部110は、第1の色温度の光を発光する。第1の色温度は、4000K未満の色温度である。例えば、第1の色温度は、2800Kよりも高く、4000K未満の色温度であることが好ましく、3300Kよりも高く、4000K未満の色温度であることがさらに好ましい。
【0015】
第1の発光部110は、例えば、第1の点灯部111と、第1の光源112とを備える。
第1の点灯部111は、第1の光源112の出力を調整する点灯回路である。例えば、第1の点灯部111は、制御部130から指示された出力で、第1の光源112から第1の色温度の光を発光させる。
第1の光源112は、第1の色温度の光を出射する。第1の光源112は、調光機能を有し、第1の点灯部111による制御に応じた出力で、第1の色温度の光を出射する。第1の光源112は、1つ又は複数の発光素子を含むことができる。第1の光源112が複数の発光素子を含む場合、それら複数の発光素子から出射される光の合成の結果、第1の色温度の光が出射されてもよい。
【0016】
第2の発光部120は、第2の色温度の光を発光する。第2の色温度は、4000Kよりも高い色温度である。例えば、第2の色温度は、4000Kよりも高く、5200K未満の色温度であることが好ましい。
また、第1の色温度と、第2の色温度との差である色温度差は、500K以上が好ましい。また、その色温度差は、1200K以下であってもよい。
【0017】
第2の発光部120は、例えば、第2の点灯部121と、第2の光源122とを備える。
第2の点灯部121は、第2の光源122の出力を調整する点灯回路である。例えば、第2の点灯部121は、制御部130から指示された出力で、第2の光源122から第2の色温度の光を発光させる。
第2の光源122は、第2の色温度の光を出射する。第2の光源122は、調光機能を有し、第2の点灯部121による制御に応じた出力で、第2の色温度の光を出射する。なお、第2の光源122は、1つ又は複数の発光素子を含むことができる。第2の光源122が複数の発光素子を含む場合、それら複数の発光素子から出射される光の合成の結果、第2の色温度の光が出射されてもよい。
【0018】
なお、
図1では、第1の点灯部111と、第2の点灯部121とを分けて示しているが、第1の点灯部111と、第2の点灯部121とは、1つの共通の点灯部である点灯回路により実現されてもよい。例えば、そのような点灯回路により、制御部130からの指示に応じて第1の光源112及び第2の光源122の出力が調整されてもよい。そのような場合において、例えば、点灯回路は、第1の光源112を、制御部130から指示された出力で発光(点灯)又は消灯させるとともに、第2の光源122を、制御部130から指示された出力で発光(点灯)又は消灯させてもよい。これにより、照明装置100から出射される照明光の色温度が、第1の色温度から第2の色温度へ、又は、第2の色温度から第1の色温度へ切り替えられてもよい。
【0019】
制御部130は、第1の発光部110(より具体的には、第1の光源112)及び第2の発光部120(より具体的には、第2の光源122)による出力を決定することで、照明装置100から出射される照明光の色温度を、第1の色温度から第2の色温度の間で切り替える切替制御を行う。制御部130が第1の光源112及び第2の光源122の出力を制御することで、照明装置100は、例えば、2800K~5200Kの色温度の光を出射することが可能となる。
【0020】
具体的には、制御部130は、第1の光源112及び第2の光源122の出力を制御して、各光源が出射する光束量及び色温度を調整することにより、照明装置100から出射される照明光の光束量及び色温度を調整する。ここで、制御部130による制御には、上述した第1の点灯部111又は第2の点灯部121に対する指示が含まれる。
また、制御部130は、照明装置100の時間的な点灯制御も行う。言い換えると、制御部130は、照明装置100全体としての点灯状態又は消灯状態の継続時間の制御も行う。制御部130は、予め定められた期間毎、例えば、2分毎に照明装置100から出射する光束量及び色温度を切り替えることが可能である。
【0021】
以下、制御部130が、照明装置100がある色温度の光を出射している状態から、それとは異なる色温度の光を出射する状態に切り替える周期を「色温度切替周期s」又は単に「切替周期s」という場合がある。「切替周期s」は、より具体的には、第1の色温度又は第2の色温度の光を照射する状態への切替制御を行った以後、次の切替制御、即ち前回の切替制御における切替先とされた色温度とは異なる色温度の光を照射する状態に切り替える制御を開始するまでの時間をいう。
図3に示されているように、切替周期sには、(1)照明装置100から出射される照明光を、第1の切替先とされた第1の色温度(図中の例では、3500K)以外の色温度(例えば、4000K又は4500K)の光から第1の色温度の光への切り替えを開始してから、第2の切替先とされた第2の色温度(図中の例では、4500K)の光への切り替えを開始するまでの時間(以下、s1とも表記する)、及び、(2)照明装置100から出射される照明光を、第2の切替先とされた第2の色温度(図中の例では、4500K)以外の色温度の光から第2の色温度の光に切り替え始めた以後、第1の切り替え先である第1の色温度(図中の例では、3500K)の光に切替え始める前までの時間(以下、s2とも表記する)、が含まれる。なお、
図3では、上記の(1)及び(2)を区別なく、s1=s2=sとして示しているが、s1≠s2であってもよい。
【0022】
また、以下では、照明装置100において1つの色温度の光が出射される状態が継続される時間を「色温度継続期間h」、又は、単に「継続期間h」という場合がある。なお、
図3に示すように、他の色温度から第1の色温度への切替、又は、他の色温度から第2の色温度への切替に要する時間(以下、「色温度移行期間r」、又は、単に「移行期間r」という)が無視できる程小さい場合等は、s=hと見なすことができる。ここで、「移行期間r」は、より具体的に、第1の色温度の光又は第2の色温度の光が照射されている状態から、他方の色温度の光が照射されている状態への切り替えを開始してから、その切り替えが完了するまでの時間をいう。
【0023】
色温度継続期間h及び色温度移行期間rにおいても、色温度切替周期sと同様、(1)第1の色温度又は第1の色温度への切替にかかる時間と、(2)第2の色温度又は第2の色温度への切替にかかる時間とを区別してもよい。以下では、第1の色温度の継続期間を第1の継続期間h1、第2の色温度の継続期間を第2の継続期間h2、第1の色温度への移行期間を第1の移行期間r1又は立ち下がり移行期間r1、第2の色温度への移行期間を第2の移行期間r2又は立ち上がり移行期間r2という場合がある。ここで、h1≠h2であってもよいし、r1≠r2であってもよい。
なお、色温度継続期間h及び色温度移行期間rについては、後述する
図5に示している。
【0024】
制御部130は、例えば、第1の点灯部111及び第2の点灯部121を介して、第1の光源112及び第2の光源122が出射する光束量及び色温度を調整することにより、上記の色温度継続期間h、色温度移行期間r及び色温度切替周期sを調整してもよい。
【0025】
また、制御部130は、机上面の色を認識し、又は、予め記憶しておくことにより、照明装置100から出射される光の色温度を制御することができる。例えば、照明装置100が図示しない色センサを備えることで、制御部130は、机上面の色を認識することができる。
また、照明装置100は、分光反射率特性を示すデータを記憶する図示しない記憶部を備えることで、机上面の色を予め記憶しておくことができる。なお、そのデータは、分光反射率特性が好ましいが、R(Red:例えば、630nm)、G(Green:例えば、550nm)及びB(Blue:例えば、460nm)の反射率の相対比を示すデータであってもよい。
【0026】
机上面の分光反射率特性が用いられる場合は、分光反射率に照明装置100から出射される放射分光特性を乗じて算出した色温度が、机上面から反射した光の色温度となる。従って、制御部130は、机上面から反射した光の放射分光特性から逆算することにより、出射する光の色温度を制御してもよい。例えば、机上面の分光反射率が既知であり、かつ、机上面からの反射後の分光反射特性より算出される色温度が特定されている場合、制御部130は、机上面からの反射後の分光反射特性を、机上面の分光反射率で除することにより、照明装置100から出射する放射分光特性が求まり、色温度を逆算することが可能となる。
【0027】
RGBの反射率の相対比が用いられる場合は、制御部130は、照明装置100から出射される放射分光特性にRGBの反射率の相対比を乗ずることで、出射する光のおおよその色温度を算出することが可能である。言い換えると、制御部130は、RGBの3種類の相対分光反射率を用いて机上面のおおよその色を算出することができる。RGBの各色の領域内、例えば、R:600~700nm、G:500~600nm、及び、B:400~500nmの領域内は、相対分光反射率を一定とする。
【0028】
制御部130は、人の集中持続時間とされている40分~45分の間、上述したような第1の色温度の光と、第2の色温度の光とを交互に発光させる切替制御を行った後に、その切替制御を中断するように設定されていてもよい。また、ユーザが作業の集中を求める際に、例えば、図示しない入力部である入力装置を用いて、制御部130に開始指示を行うことで、制御部130は、切替制御を開始し、ユーザが終了指示を入力するまで、切替制御を継続してもよい。なお、制御部130は切替制御の継続時間に上限を設けてもよい。例えば、制御部130は、切替制御の継続時間が予め決められた時間(例えば、60分)を超えた場合に、切替制御を終了してもよい。また、例えば、制御部130は、予め定められた時間(例えば、40分以上、60分以下の時間)、切替制御を行うようにしてもよい。これにより、ユーザの負荷が高くなりすぎることを抑制でき、また、ユーザが照明状態(例えば、一般的な照明状態か、切替制御を伴う作業用の照明状態か)を選択することも可能になる。
【0029】
但し、制御部130の制御範囲内の照明装置100が動作するため、ユーザの作業領域をパーティションで区切る、又は、各ユーザ用に照明装置100が設置されていることが好ましい。
なお、ここでは、机上面が、第1の光源112及び第2の光源122の光を照射する被照射面となる。被照射面は、第1の光源112における光の出射面の法線ベクトルと、第2の光源122における光の出射面の法線ベクトルとの和が示す方向を、光の出射方向とし、第1の光源112及び第2の光源122の中間点から、光の出射方向に予め定められた距離(例えば、2000mm)離れた位置の水平面であるものとする。なお、この被照射面での照度は、1000lx(ルクス)未満であることが好ましい。
【0030】
以上に記載された制御部130の一部又は全部は、例えば、
図2(A)に示されているように、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路10で構成することができる。
【0031】
また、制御部130の一部又は全部は、例えば、
図2(B)に示されているように、メモリ11と、メモリ11に格納されているプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ12とにより構成することもできる。このようなプログラムは、ネットワークを通じて提供されてもよく、また、記録媒体に記録されて提供されてもよい。即ち、このようなプログラムは、例えば、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
以上のように、制御部130は、処理回路網により実現することができる。
【0032】
次に、発明者が行った照明試験の一例を説明する。
図3は、照明試験の一例を説明するためのグラフである。
図3に示されているグラフの縦軸は、照明器具から出射される照明光の色温度を示している。その横軸は、時間を示しており、色温度の切替周期sが2分である。試験時間は12分間とした。また、作業面である机上面の照度は、500lxとした。
【0033】
まず、試験開始前は、照明器具が4000Kの色温度の照明光を出射している状態を維持する。試験開始と同時に、その照明光は、4500Kの色温度に切り替えられ、試験開始から2分後に、その照明光は、3500Kに切り替えられる。その後、試験終了まで、3500Kから4500Kの色温度への切り替えと、4500Kから3500Kの色温度への切り替えとが2分間隔で繰り返される。
【0034】
以上の照明試験では、クレペリン試験と、マインドマップ試験とが行われ、照明器具としては、アンビエント照明器具が用いられ、机上面は、概ね均一に照明された。クレペリン試験は、単純な計算を行う作業効率(例えば、集中力)を評価する試験であり、マインドマップ試験は、創造性を評価する試験である。被験者数は20名とした。なお、クレペリン試験及びマインドマップ試験は、回答数が多いほど、良い成績となる。
【0035】
ここで、
図3に示されているように、色温度を3500Kと4500Kとの間で切り替える照明方法を第1の照明方法とする。
また、一般的な執務室の照度条件となる、机上面の照度を500lx及び色温度を4000Kとして、照度及び色温度を切り替えずに12分間持続して点灯させる照明方法を第2の照明方法とする。なお、第2の照明方法における他の条件については、第1の照明方法と同様である。
【0036】
また、一般に業務効率が向上するとされている条件となる、机上面の照度を1000lx及び色温度を4500Kとして、照度及び色温度は切り替えずに12分間持続して点灯させる照明方法を第3の照明方法とする。なお、第3の照明方法における他の条件は、第1の照明方法と同様である。発明者は、これらの照明方法において、照明試験を行った。
【0037】
以上の照明試験の試験結果を、
図4に示す。
図4では、クレペリン試験及びマインドマップ試験の回答数を各照明方法で比較するため、まず、回答数の個人差を除去するため、各被験者の回答数を以下の式(1)で正規化した正規化回答数Pを算出する。
P=(各照明方法の回答数)/(第2の照明方法の回答数) (1)
【0038】
式(1)の正規化回答数Pは、個人において、第2の照明方法の回答数で各照明方法の回答数を正規化した値である。式(1)の値を照明方法毎に被験者全員で平均化した各照明方法の相対回答数を
図4に示している。ここで、一般的な執務室の照度条件に対して作業効率を比較するため、第2の照明方法の回答数で正規化を行っている。
【0039】
図4により、クレペリン試験及びマインドマップ試験の両方とも、第1の照明方法が最も回答数の多い結果となった。また、第2の照明方法と、第3の照明方法とを比較するとわずかではあるが、第3の照明方法の方の回答数が上回った。
【0040】
これより、2種類の色温度の光(例えば、3500Kと4500K)を、1分より長い時間間隔(好ましくは2分以上)で、交互に切替えることにより、作業効率が向上すると考えられる。言い換えると、2つの光色の略中間となる中色温度(本例でいうと3500Kと4500Kとの平均である4000K程度)に対して±500K(合計1000K)の振幅で交互に発光させることにより、4000K未満の光がもたらすリラックス効果と、4000Kを超える光がもたらす覚醒効果とを交互にもたらすことができる。その結果として、リラックスしながら緊張感(例えば、集中力)を維持できたと考えられる。
【0041】
ここで、上記の振幅は、交互に発光させた、4000K未満の第1の色温度の光と、4000Kより高い第2の色温度の光との色温度差とみなすことができる。
また、上記の試験結果は、3500K及び4500Kのように一般に中間の印象の色温度範囲内(3300K~5300K)で変化させることにより、光刺激の強度を抑制しながら、リラックス効果と、覚醒効果とを交互にもたらすことができたとも考えられる。
【0042】
なお、上記の照明試験では、合計で1000Kの振幅で効果を確認したが、合計で1200K(例えば、±600K)の振幅でも効果が得られる。
また、合計で500K(例えば、±250K)の振幅でも効果は得られる。
なお、振幅は、人が色温度の変化を知覚できる程度の差であることが好ましい。
また、上記では机上面での第1の色温度と第2の色温度の平均値となる中色温度は4000Kとして説明したが、中色温度は、3700K~4300Kの範囲内でもよい。すなわち、3700K≦机上面での第1の色温度と第2の色温度の平均値≦4300Kが満たされるのが好ましい。
【0043】
ここでは机上面の色温度差(振幅)及び色温度を用いて説明したが、光源の色温度差(振幅)及び色温度と読み替えてもよい。なお、これは、以下の記載でも同様である。
【0044】
以上の試験結果から、
図1に示されている照明装置100により照明を行う方法である実施の形態1に係る照明方法では、第1の照明方法と同様に、第1の色温度の光と、第2の色温度の光とを交互に切り替える。
【0045】
実施の形態1に係る照明方法では、第1の色温度と、第2の色温度との切替制御を行う際、第1の色温度の照明光又は第2の色温度の照明光の点灯時間を眼の明順応がおきる時間長(例えば、40秒から1分)より長く、かつ、脳が色順応を行う時間長(例えば、10分)以内とする。ここで、上記の「点灯時間」は、基本的に、移行期間rを含まない色温度継続期間h(狭義の継続期間)を指すが、移行期間r<切替周期sを前提に、上記の「点灯時間」を切替周期s(広義の継続期間)と見なしてもよい。その場合、継続期間hと移行期間rとを含む切替周期sを、眼の明順応がおきる時間長(例えば、40秒から1分)より長く、かつ、脳が色順応を行う時間長(例えば、10分)以内としてもよい。なお、上述したように、継続期間h、移行期間r及び切替周期sは、第1の色温度と第2の色温度とで異なるようにしてもよい。
第1の色温度及び第2の色温度の照明光のそれぞれの点灯時間を、眼および脳の順応速度を考慮した長さとすることにより、実施の形態1に係る照明方法は、眼に直接的な刺激を与えることにより覚醒を促すのではなく、照明下での作業を効率的に行うことができるようにしている。従って、実施の形態1に係る照明方法では、机上面の照度及び色温度を考慮することが好ましい。
【0046】
このとき、例えば、第1の色温度の光と、第2の色温度の光とを切り替える際の移行期間rを、1秒以下とすることも可能である。これにより、眼へ光刺激が与えられ、色温度の変化を認識することが可能となり、色温度の変化の効果が得られる。
【0047】
ここで、色温度の変化の効果を得るには、眼が順応している状態の色温度から、色温度を変化させることによって、眼が知覚可能な光刺激を与えることができればよい。しかし、急峻な色温度の変化は、光刺激が強く、人によっては違和感が感じられるため、光刺激が強すぎないことがよい。言い換えると、移行期間rは、違和感がなく、かつ、人が知覚可能な時間長であることがより好ましい。ここで、違和感とは急峻な色温度の変化により、光刺激が強く感じることを示す。
【0048】
発明者が主観評価を行った結果、相対的に低色温度から高色温度(例えば、3500Kから4500K)に色温度を変化させる場合、言い換えると、立ち上がり変化の場合には、移行期間r(より具体的には、第2の移行期間r2)が10秒以下であれば、人は違和感なくその色温度の変化を知覚可能であることを、発明者は確認した。従って、立ち上がり変化時の移行期間である第2の移行期間r2は、10秒以下又は5秒以下でもよい。特に、第2の移行期間r2が5秒のとき、作業者は、色温度の変化が知覚でき、かつ光刺激が強すぎないため、好ましい。
【0049】
また、相対的に高色温度から低色温度(例えば、4500Kから3500K)に色温度を変化させる場合、言い換えると、立ち下がり変化の場合には、移行期間r(より具体的には、第1の移行期間r1)は15秒以下であれば、人は違和感なくその色温度の変化を知覚可能であることを、発明者は確認した。従って、立ち下がり変化時の移行期間である第1の移行期間r1は15秒以下、10秒以下又は5秒以下でもよい。
【0050】
なお、主観評価では色温度が高くなる場合(立ち上がり変化の場合)より、色温度が低くなる場合(立ち下がり変化の場合)の方が変化に対する光刺激が強いことが確認できた。これより、特に、光刺激の強度が支配的である立ち下がり変化時の移行期間r1に、立ち上がり変化時の移行期間r2を合わせてもよい。換言すると、r1=r2=15秒以下としてもよい。また、例えば、r1=r2=10秒とすれば立ち上がり変化時の移行期間r2と、立ち下がり変化時の移行期間r1との双方において、違和感なく知覚可能となるため、より好ましい。
【0051】
なお、移行期間rは上記の例に限定されず、例えば立ち上がり変化と立ち下がり変化とを区別なく、15秒以下の任意の長さ(例えば、13秒一定、5秒一定など)としてもよい。あるいは、
図5に示されているように、立ち上がり変化の場合は、移行期間r2を5秒、立ち下がり変化の場合は、移行期間r1を10秒のように、移行期間r1>移行期間r2となるようにしてもよい。ちなみに、移行期間r、r1、r2の下限値は、特に限定されないが、照明装置100が切り替えを行うことのできる最短の長さでよい。
【0052】
なお、上記の移行期間r、r1、r2は、色温度の変化範囲が1000Kであることを想定している。従って、変化範囲が1000Kと異なる場合は、上記の値を単位時間当たりの色温度の変化量に換算して採用してもよい。例えば、1000Kの色温度変化範囲を10秒で変化させる場合、1秒当たりの色温度の変化量(変化速度)は100K/秒となるので、他の色温度変化範囲でも100K/秒の変化量で変化するように移行期間r、r1、r2を設定してもよい。
【0053】
なお、机上面に反射した光が眼に入射するため、机上面の色は、白色が好ましい。例えば、茶色い木目調の場合は、短波長側の光より長波長側の光の反射率が高いため、第1の色温度と第2の色温度との平均値となる中色温度(振幅)を上述した範囲(3700K~4300K)よりも高い値にしてもよい。
【0054】
また、人が白色の紙面上で作業を行い、かつ、白色の紙面の領域が視界の大半を占める場合には、紙面で光が反射し、人の眼に知覚されるため、照明装置100の出射光の色温度を調整する必要はない。
【0055】
上記の照明試験において、発明者らは、試験作業中の各被験者の心拍変動を計測し、その心電図の解析を行った。発明者らが、ストレス指標となるLF(Low Frequency)/HF(Hi Frequency)を算出した結果、第1の照明方法<第2の照明方法<第3の照明方法となり、第1の照明方法が最も作業中のストレスが低いことを確認した。これにより、第1の照明方法による作業中のストレス低減効果が確認できた。
【0056】
第2の照明方法及び第3の照明方法では、第3の照明方法の方が、人はストレスを感じており、第3の照明方法は、作業中のストレスには逆効果であることがわかった。言い換えると、1000lxの照度よりも、500lxの照度の方が、人は、リラックスして作業を行うことができると考えられる。これより、照度は、1000lxより低い方が好ましい。また、作業性を考慮し、作業面(ここでは、机上面)の照度は、問題なく作業が可能であり、かつ、暗すぎると感じない300lx以上が好ましい。
【0057】
さらに、上記の照明試験において、発明者らは、脳波解析を行った。その結果、ストレス値に関して、照度及び色温度を固定した第2の照明方法及び第3の照明方法と比較して、色温度を変化させた第1の照明方法では、作業前のストレス値に対する作業後のストレス値の変化量として、作業後のストレス値がより低い値を示すことが確認された。これは、色温度を変化させた第1の照明方法は、照度及び色温度を固定した第2の照明方法及び第3の照明方法と比較して、作業前後におけるストレス値の低減効果が高いことを示している。
【0058】
従って、心電解析及び脳波解析の結果から、色温度を変化させた第1の照明方法は、照度及び色温度を固定した第2の照明方法及び第3の照明方法と比較して、集中状態が必要とされる作業の作業成績が向上すると共に作業中のストレス及び作業前後のストレスの低減効果が高いことが確認された。
このため、第1の照明方法と同様に、色温度を変化させた実施の形態1に係る照明方法も、同様の効果を備える。
【0059】
以上のように、実施の形態1によれば、リラックスしながら集中状態を維持させるとともに、ストレスを高めすぎることなく集中状態を持続させるといった、2つの異なる色温度の光が人に与える利点を活かすことで、作業効率を向上させることができる。ここで、作業効率には、単純な作業の効率だけでなく創造性を要する作業(業務を含む)の効率も含まれる。
【0060】
主観評価の結果を参考に、発明者らが行った照明試験の他の例を
図6に示す。
図6は、照明試験の一例を説明するためのグラフである。
図6に示されているグラフの縦軸は、照明器具から出射される照明光の色温度を示している。その横軸は、時間を示しており、色温度の切替周期sが2分である。試験時間は12分間とした。また、作業面である机上面の照度は、500lxとした。
【0061】
まず、試験開始前は、照明器具が4000Kの色温度の照明光を出射している状態を維持する。試験開始と同時に、その照明光は、4500Kの色温度に切り替えられ、試験開始から2分後に、その照明光は、3500Kに切り替えられる。その後、試験終了まで、3500Kから4500Kの色温度への切り替えと、4500Kから3500Kの色温度への切り替えとが2分間隔で繰り返される。なお、
図6に示す例では、試験中の切替周期s(図中のs1、s2)に、上述した移行期間r(図中のr1、r2)が含まれている。より具体的には、切替周期s1に移行期間r1が含まれ、切替周期s2に移行期間r2が含まれている。なお、本試験において、移行期間rは、立ち上がり時と、立ち下がり時とで特に区別せず、いずれの方法においても同じ長さ、すなわちr1=r2となるようにした。また、切替周期sも、第1の色温度と、第2の色温度とで特に区別せず、いずれの方法においても同じ長さ、すなわちs1=s2となるようにした。なお、図中の例のように、試験開始直後又は試験終了直前と、他の期間とで、第1の色温度と、第2の色温度との間での色温度変化時(試験開始直後及び試験終了直前を除いた切替制御時)と、それ以外の色温度変化時とで、移行期間r又は継続期間hの値が異なる等、一連の切替制御中における移行期間、継続期間及び切替周期は必ずしも同一でなくてもよい。
【0062】
以上の照明試験では、クレペリン試験と、マインドマップ試験と、タイピング試験とが行われ、照明器具にはアンビエント照明器具が用いられた。また、机上面は、概ね均一に照明されていることを確認した。クレペリン試験は、単純な計算を行う作業効率(例えば、集中力)を評価する試験であり、マインドマップ試験は、創造性を評価する試験であり、タイピング試験はオフィスでPCを用いた単純なデスクワークの作業効率を評価する試験である。被験者数は17名とした。なお、クレペリン試験、マインドマップ試験は、回答数が多いほど、良い成績となる。タイピング試験は、タイプ速度(文字数/秒)が速いほど良い成績となる。
【0063】
ここで、
図6に示されているように、色温度を3500Kと4500Kとの間で切り替える照明方法を第4の照明方法とする。このとき、移行期間r1=r2は最短(1秒未満。ほぼ0秒)である。
また、移行期間r1=r2が約5秒(200K/s)となるように切替制御を行う照明方法を第5の照明方法とする。
また、移行期間r1=r2が約50秒(20K/s)となるように切替制御を行う照明方法を第6の照明方法とする。第6の照明方法は、第5の照明方法よりも移行期間を長く設定し、色温度の切り替えが気付きにくい条件としている。
なお、第5の照明方法及び第6の照明方法における他の条件については、第1の照明方法と同様である。発明者らは、これら3つの照明方法を用いて照明試験を行った。
【0064】
以上の照明試験の試験結果を、
図7に示す。
図7では、クレペリン試験及びマインドマップ試験の回答数を各照明方法で比較するため、まず、回答数の個人差を除去するため、各被験者の回答数を以下の式(1)で正規化した正規化回答数Qを算出する。
Q=(各照明方法の回答数)/(第4の照明方法の回答数) (2)
【0065】
式(2)の正規化回答数Qは、個人において、第4の照明方法の回答数で各照明方法の回答数を正規化した値である。式(2)の値を照明方法毎に被験者全員で平均化した各照明方法の相対回答数を
図7に示している。ここで、
図4の第1の照明方法に対して作業効率を比較するため、第4の照明方法の回答数で正規化を行っている。なお、
図4の第1の照明方法と、
図7の第4の照明方法とは照明方法が等しい。
【0066】
図7により、クレペリン試験において、第5の照明方法の回答数の最も多い結果となった。マインドマップ試験において、第5の照明方法及び第6の照明方法の回答数が多い結果となった。また、第4の照明方法と比較して、第5の照明方法及び第6の照明方法共にクレペリン試験及びマインドマップ試験の回答数が多くなる結果となった。移行期間をあえて設けることにより、集中状態が必要とされる作業及び創造性が必要とされる作業の作業成績が向上することが確認できる。
【0067】
また、タイピング試験の速度(文字数/秒)を各照明方法で比較するため、まず、速度の個人差を除去する。このため、各被験者の速度を以下の式(3)で正規化した正規化回答数Rを算出する。
R=(各照明方法の速度)/(第4の照明方法の速度) (3)
【0068】
式(3)の正規化回答数Rは、個人において、第4の照明方法の回答数で各照明方法の速度を正規化した値である。式(3)の値を照明方法毎に被験者全員で平均化した各照明方法の相対速度を
図7に示している。ここで、
図4の第1の照明方法に対して作業効率を比較するため、第4の照明方法の速度で正規化を行っている。なお、
図4の第1の照明方法と
図7の第4の照明方法は照明方法が等しい。
【0069】
図7により、タイピング試験は、第5の照明方法及び第6の照明方法共に、第4の照明方法より速度が速い結果となった。さらに、わずかではあるが、第6の照明方法が最も速度が速い結果となった。
【0070】
作業成績の結果より、クレペリン試験のような、集中力が必要となる作業に関しては、第5の照明方法のように、人が違和感なく色温度の変化を知覚可能なスピードで色温度を変化させることで、第4の照明方法のように急激に色温度を変化させる方法、又は、第6の照明方法のように、色温度の変化に伴う光刺激がより弱くなる穏やかなスピードで色温度を変化させる方法と比べて、作業効率が向上することが確認できる。従って、集中力が必要となる作業に関しては、上述したような移行期間を設けることが好ましい。一方で、マインドマップ試験若しくはタイピング試験のように、創造性が必要となる作業、又は、PCを用いた単純なデスクワークを行う際には、第6の照明方法のように色温度の変化に伴う光刺激が弱くなる穏やかなスピードで色温度を変化させる方法がより好ましいといえる。
【0071】
さらに、上記の照明試験において、発明者らは、脳波解析を行った。その結果、作業中のストレス値の平均値に関して、第5の照明方法、第6の照明方法、第4の照明方法の順に低い値を示すことを確認した。不等号で表すと、第5の照明方法の作業中ストレス平均値<第6の照明方法の作業中ストレス平均値<第4の照明方法の作業中ストレス平均値となる。以上より、ストレス抑制効果は、第5の照明方法が最もよいことが確認できる。
【0072】
従って、脳波解析の結果から、移行期間rを人が違和感なくかつ変化自体を知覚可能なスピードに設定した第5の照明方法は、急峻に色温度を切替える第4の照明方法と比較して、集中状態が必要とされる作業の作業成績が向上すると共にストレスの低減効果が高いことが確認された。これより、第5の照明方法は、第4の照明方法と比べて、色温度の切り替え時の違和感を感じることなく、さらにストレスを抑制しつつ、集中状態を維持することができるといえる。このため、特に集中状態の維持が望まれる場合には、第5の照明方法がより好ましいといえる。
【0073】
また、脳波解析の結果から、緩やかに色温度を切替える第6の照明方法は、急峻に色温度を切替える第4の照明方法と比較して、PCを用いた単純なデスクワークの作業成績が向上すると共にストレスの低減効果が高いことが確認された。これより、第6の照明方法は、第4の照明方法と比べて、色温度の切り替え時の違和感を感じることなく、さらにストレスを抑制しつつ、作業成績を向上させることができるといえる。このため、特に作業成績の向上が望まれる場合には、第6の照明方法がより好ましいといえる。
なお、マインドマップ試験及びタイピング試験における第5の照明方法と第6の照明方法との差はそれほど大きくないため、ストレスを抑制して比較的長時間持続的に作業効率(回答数)を高めたい場合等には、第5の照明方法がより好ましいともいえる。
【0074】
以上のように、実施の形態1によれば、リラックスしながら集中状態を維持させるとともに、ストレスを高めすぎることなく集中状態を持続させるといった、2つの異なる色温度の光が人に与える利点を活かすと共に、さらに移行期間を調整することにより、作業効率をより向上させたり、集中状態をより維持させたりすることができる。ここで、作業効率には、単純な作業の効率だけでなく創造性を要する作業(業務を含む)の効率又はPCを用いた単純なデスクワークの効率も含まれる。
【0075】
以上より、作業内容によって、照明方法を切替えてもよい。例えば、第5の照明方法と、第6の照明方法との2種類の制御パターンを作業内容に応じて切り替えるようにしてもよい。クレペリン試験のように、集中力が必要とされる単純作業の場合は、第5の照明方法を使用し、マインドマップ試験及びタイピング試験のように、創造性が必要とされる作業又はPCを用いた単純なデスクワークの場合は、第6の照明方法を使用するようにしてもよい。また、個人が作業に応じて、リモコン等で制御を選択できるようにしてもよい。この場合、一つの制御部に、異なる移行期間を示す設定値を、個人が選択して設定できるようにすればよい。
【0076】
一例として、照明装置100が、第5の照明方法と、第6の照明方法とのように、異なる移行期間が設定された2以上の制御方法のうちのいずれか一方の照明方法で切替制御を行う2以上の制御部(例えば、第1の制御部及び第2の制御部)を備え、いずれの制御部による切替制御を行うかを外部入力、例えば、設定値を入力することによって選択できるように構成されてもよい。この場合、2以上の制御部には、それぞれ異なる移行期間を示す設定値が設定されていればよい。
【0077】
ここで、第5の照明方法では移行期間を5秒としたが、移行期間は人が違和感なく色温度の変化を知覚できればよく、例えば0.1秒以上かつ10秒以下の任意の時間長でもよい。なお、第5の照明方法の移行期間の上限に関して、15秒以下とすることも可能である。また、立ち上がりと立ち下がりで移行期間を異ならせてもよい。また、第6の照明方法は、第5の照明方法より移行期間が長ければよく、例えば、5秒以上、10秒以上又は15秒以上でもよい。ここで、移行期間は、眼の明順応がおきる時間長以下(例えば、1分以下)であることが好ましい。ここで、違和感なく知覚可能な条件として、移行期間を立ち上がりと、立ち下がりとで等しくする場合は、10秒以下が好ましい。また、他の例として、相対的に低色温度から高色温度(例えば、3500Kから4500K)に色温度を変化させる場合、すなわち立ち上がり変化の場合には、移行期間(r2)が10秒より長く、相対的に高色温度から低色温度(例えば、4500Kから3500K)に色温度を変化させる場合、すなわち立ち下がり変化の場合には、移行期間(r1)は15秒より長くするようといったように、立ち上がりと、立ち下がりとで移行期間を異ならせてもよい。なお、その場合でも、第6の照明方法の各移行期間は、第5の照明方法の各移行期間よりも長くなるように設定されるのが好ましい。
【0078】
また、上述したようにストレスの抑制を優先的に考慮するのであれば、照明試験を行った3つの作業全てにおいて第4の照明方法より成績が良く、作業中の平均ストレス値が最も低い第5の照明方法を用いることが好ましい。
【0079】
以上に記載された実施の形態1では、照明装置100が、第1の色温度の光を発光する第1の発光部110と、第2の色温度の光を発光する第2の発光部120とを備えているが、実施の形態1はこのような例に限定されない。
例えば、
図8に示されているように、第1の照明装置100#1と、第2の照明装置100#2と、制御装置140とを備える照明システム101として、実施の形態1が構成されていてもよい。
【0080】
第1の照明装置100#1は、第1の発光部110#と、第1の通信部113とを備える。
第1の発光部110#は、第1の点灯部111#と、第1の光源112とを備える。
第1の光源112は、
図1に示されている照明装置100の第1の光源112と同様である。
【0081】
第1の点灯部111#は、第1の光源112を制御して、制御装置140から指示された出力で、第1の光源112から第1の色温度の光を発光させる。
【0082】
第1の通信部113は、制御装置140と通信を行う通信インターフェースである。
例えば、第1の通信部113は、制御装置140からの制御信号を第1の点灯部111#に与える。
【0083】
第2の照明装置100#2は、第2の発光部120#と、第2の通信部123とを備える。
第2の発光部120#は、第2の点灯部121#と、第2の光源122とを備える。
第2の光源122は、
図1に示されている照明装置100の第2の光源122と同様である。
【0084】
第2の点灯部121#は、第2の光源122を制御して、制御装置140から指示された出力で、第2の光源122から第2の色温度の光を発光させる。
【0085】
第2の通信部123は、制御装置140と通信を行う通信インターフェースである。
例えば、第2の通信部123は、制御装置140からの制御信号を第2の点灯部121#に与える。
【0086】
制御装置140は、制御部141と、通信部142とを備える。
制御部141は、第1の発光部110#及び第2の発光部120#による出力を決定する。これにより、制御部141は、照明システム101から出射される照明光の色温度を、第1の色温度から第2の色温度の間で切り替える。ここで、制御部141は、第1の照明装置100#1及び第2の照明装置100#2を個別に制御することができる。
通信部142は、第1の照明装置100#1及び第2の照明装置100#2と通信を行う通信インターフェースである。
例えば、通信部142は、制御部141での決定を示す制御信号を第1の照明装置100#1及び第2の照明装置100#2に与える。
【0087】
なお、以上に記載された制御装置140は、リモートコントローラ又はPC(Personal Computer)であってもよい。
このため、制御部141の一部又は全部も、例えば、
図2(A)に示されているように、処理回路10で構成することができる。また、制御部141の一部又は全部は、例えば、
図2(B)に示されているように、メモリ11と、プロセッサ12とにより構成することもできる。
【0088】
次に、照明装置100の設置例について説明する。
例えば、照明装置100は、執務空間の天井に設置され、机上面を均一に照射する。なお、机上面内に多少の照度ムラ及び色ムラが存在しても構わない。人の眼に知覚されない程度のムラであれば問題ない。例えば、机上面中心の照度より机上面周辺の照度が2割低くても構わない。その場合は、机上面の中心から周辺にかけて滑らかに照度が変化していることが好ましい。
【0089】
複数の照明装置100を複数備えることで、照明システムが構成されてもよい。例えば、1つの室内に、複数の照明装置100が設置されてもよい。それにより、各領域又は各ユーザの机上面上の照度及び色温度を調整することが可能となる。
【0090】
図9は、照明装置100を設置する第1の例を示す概略図である。
図9に示されている例では、天井170に、照明装置100A及び照明装置100Bが設置されている。
なお、照明装置100A及び照明装置100Bの各々は、
図1に示されている照明装置100と同様に構成されている。
ここでは、照明装置100Aを用いて説明する。
【0091】
上述のように、第1の発光部110と、第2の発光部120とでは、出射される色温度が異なっている。ここでの配光はランバーシャン相当である。
第1の発光部110からは、第1の光源112から出射された第1の色温度の光である3000Kの光が出射される。第2の発光部120からは、第2の光源122から出射された第2の色温度の光である5000Kの光が出射される。
【0092】
机171の高さD2を760mm、床面172から天井170までの高さD1を2800mm、第1の発光部110の第1の光源112と、第2の発光部120の第2の光源122との間の距離である間隔D3を500mmとする。ここでの間隔D3は、第1の発光部110の第1の光源112における光の出射面の中心と、第2の発光部120の第2の光源122における光の出射面の中心との距離である。
【0093】
以上の例で、第1の発光部110と、第2の発光部120とを点灯させた場合、机171の机上面171a上の照度分布及び色温度分布は概ね均一となり、違和感はない。言い換えると、異なる色温度の光を発する2つの第1の発光部110及び第2の発光部120を有する照明装置100Aの場合、色温度を変化させる制御を行うことが可能となる。なお、間隔D3が500mmより大きくなるにしたがって、机上面171aの色温度の分布の均一性が低下するため、間隔D3は、500mm以下が好ましい。但し、間隔D3は、0mmよりも大きい。
【0094】
近年、執務空間内の天井にはグリッドタイプのシステム天井が使用されることが増えてきている。システム天井で使用される一つの天井材のサイズが、通常600mm×600mmであることを想定すると、システム天井の一つの天井材内に収まる2種類の発光部を有する照明装置でもよい。なお、天井材のサイズは、640mm×640mmの場合もある。この場合でも、
図3に示されているように、第1の発光部110と、第2の発光部120との間隔D3を500mm以内に収めれば、一つの天井材に収めることができる。
【0095】
また、第1の光源112から出射される光の色温度が3500Kであり、第2の光源122から出射される光の色温度が4500Kである場合、間隔D3が600mm以下であれば、机上面171aの色温度の分布の均一性を確保できる。具体的には、第1の光源112と、第2の光源122との色温度の差が2000Kの場合、間隔D3≦500mmの条件で、第1の光源112と、第2の光源122との色温度の差が1000Kの場合、間隔D3≦600mmの条件で、第1の発光部110及び第2の発光部120の配置を決定することが好ましい。
【0096】
なお、
図8に示されているように、第1の照明装置100#1及び第2の照明装置100#2を備える照明システム101の場合には、第1の照明装置100#1及び第2の照明装置100#2の間隔を適宜設定することが可能である。
【0097】
ここで、照明装置100が天井から光を出射する場合は、他のユーザに影響を与えないため、狭い配光であることが好ましい。例えば、
図9に示されている照明装置100Aの場合、他のユーザの机173の机上面173bに、照明装置100Aから出射された光が到達しないように、狭い配光であることが好ましい。
【0098】
図10は、照明装置100を設置する第2の例を示す概略図である。
図10に示されている例でも、天井170に、照明装置100A及び照明装置100Bが設置されている。
なお、照明装置100A及び照明装置100Bの各々は、
図1に示されている照明装置100と同様に構成されている。
ここでは、照明装置100Aを用いて説明する。
【0099】
図10に示されているように、第1の発光部110から出射される光の中心軸110aと、第2の発光部120から出射される光の中心軸120aとが、机上面171aの中心171bで交差するように、第1の発光部110及び第2の発光部120を傾けてもよい。これにより、机171上の色温度分布の均一性が向上する。
【0100】
次に、実施の形態1に係る照明装置100の変形例について説明する。
図11は、実施の形態1に係る照明装置100の第1の変形例である照明装置100#3の構成を概略的に示すブロック図である。
図11に示されている照明装置100#3のように、第1の発光部110#3及び第2の発光部120#2の各々に、第1の点灯部111及び第1の光源112のセット、並びに、第2の点灯部121及び第2の光源122のセットのペアが含まれていてもよい。ここでは、第1の発光部110#3及び第2の発光部120#3の各々に、少なくとも一つのペアが含まれていればよい。なお、第1の発光部110#3及び第2の発光部120#3の各々に、複数のペアが含まれている場合には、第1の光源112及び第2の光源122が交互に配列されていることが好ましい。これにより、
図10に示されているように、第1の発光部110及び第2の発光部120を傾けることなく、色温度の均一性を確保することが可能となる。この場合でも、隣り合う光源間の間隔は、500mm以下であることが好ましい。
【0101】
次に、実施の形態1に係る照明装置100の第2の変形例について説明する。
図1に示されているように、第2の変形例に係る照明装置100#4は、第1の発光部110#4と、第2の発光部120#4と、制御部130#4とを備える。
【0102】
第1の発光部110#4は、第1の色温度の光を、制御部130#4から指示された照度となるように発光する。
【0103】
第1の発光部110#4は、例えば、第1の点灯部111#4と、第1の光源112とを備える。第1の光源112は、実施の形態1における第1の光源112と同様である。
第1の点灯部111#4は、制御部130#4から指示された出力で、第1の光源112から第1の色温度の光を発光させる。
【0104】
第2の発光部120#4は、第2の色温度の光を、制御部130#4から指示された照度となるように発光する。
【0105】
第2の発光部120#4は、例えば、第2の点灯部121#4と、第2の光源122とを備える。第2の光源122は、実施の形態1における第2の光源122と同様である。
第2の点灯部121#4は、第2の光源122の出力を調整する点灯回路である。例えば、第2の点灯部121は、制御部130から指示された出力で、第2の光源122から第2の色温度の光を発光させる。
【0106】
制御部130#4は、第1の発光部110#4(より具体的には、第1の光源112)及び第2の発光部120#4(より具体的には、第2の光源122)による出力を決定することで、照明装置100#4から出射される照明光の色温度を、第1の色温度から第2の色温度の間で切り替えるとともに、色温度を切り替える際に、照明装置100#4から出射される照明光の照度も切り替える切替制御を行う。
【0107】
具体的には、制御部130は、第1の光源112及び第2の光源122の出力を制御して、各光源が出射する光束量及び色温度を調整することにより、照明装置100から出射される照明光の光束量及び色温度を調整する。
【0108】
次に、発明者が行った第2の変形例の照明試験の一例を説明する。実施の形態1では、色温度のみ変化させた例を示したが、以下では、第2の変形例として色温度を変化させるとともに照度も変化させた例を示す。
【0109】
図12は、第2の変形例における照明試験の一例を説明するためのグラフである。
図12に示されているグラフの縦軸は、照明装置100#4から出射される照明光の照度及び色温度の組み合わせを示している。その横軸は、時間を示しており、照度及び色温度の組み合わせの切替周期sが2分である。試験時間は、8分間とした。実施の形態1では、切替周期sを色温度の切替周期として説明したが、ここでは照度及び色温度の組み合わせを同時に変化させる切替周期sとする。
【0110】
ここで、照明試験条件について説明する。
まず、試験開始前は、照明装置100#4が500lx及び4000Kの照度及び色温度の組み合わせの照明光を出射している状態を維持する。試験開始と同時に、その照明光は、第1の組み合わせの照度及び色温度に切り替えられ、試験開始から2分後に、その照明光は、第2の組み合わせの照度及び色温度に切り替えられる。その後、試験終了まで、第1の組み合わせから第2の組み合わせの照度及び色温度への切り替えと、第2の組み合わせから第1の組み合わせの照度及び色温度への切り替えとが2分間隔で繰り返される。
【0111】
図13は、この照明試験で採用された照明方法を示す概略図である。
図13には、各照明方法の第1の組み合わせ及び第2の組み合わせの照度及び色温度の数値が記載されている。また、照度及び色温度の変化の傾向を説明するイメージを
図14に示す。
図14は、縦軸が照度を示し、横軸が色温度を示している。
【0112】
照度及び色温度を、第1の組み合わせ:300lx及び3500Kと、第2の組み合わせ:700lx及び4500Kとの間で同時に切り替える照明方法を第8の照明方法とする。
照度及び色温度を、第1の組み合わせ:300lx及び3500Kと、第2の組み合わせ1000lx及び4500Kとの間で同時に切り替える照明方法を第9の照明方法とする。
照度及び色温度を、第1の組み合わせ:700lx及び3500Kと、第2の組み合わせ300lx及び4500Kとの間で同時に切り替える照明方法を第10の照明方法とする。
照度及び色温度を、第1の組み合わせ:600lx及び3500Kと、第2の組み合わせ:400lx及び4500Kとの間で同時に切り替える照明方法を第11の照明方法とする。
照度及び色温度を、第1の組み合わせ:500lx及び3500Kと、第2の組み合わせ300lx及び4500Kとの間で同時に切り替える照明方法を第12の照明方法とする。
照度及び色温度を、第1の組み合わせ:500lx及び4000Kと、第2の組み合わせ:300lx及び4500Kとの間で同時に切り替える照明方法を第13の照明方法とする。
なお、一般的な執務室の照度条件となる、机上面の照度を500lx及び色温度を4000Kとして、照度及び色温度を切り替えずに8分間持続して点灯させる照明方法を第7の照明方法とする。
【0113】
次に、試験項目について説明する。
照明試験では、クレペリン試験と、マインドマップ試験とが行われ、照明装置100#4としては、アンビエント照明器具が用いられ、机上面は、概ね均一に照明された。クレペリン試験は、単純な計算を行う作業効率(例えば、集中力)を評価する試験であり、マインドマップ試験は、創造性を評価する試験である。被験者数は5名とし、各照明方法に対して少なくとも3名以上が試験を行うこととした。なお、クレペリン試験及びマインドマップ試験は、回答数が多いほど、良い成績となる。
【0114】
次に、試験結果について説明する。
以上の照明試験の試験結果を、
図15に示す。
図15では、クレペリン試験及びマインドマップ試験の回答数を各照明方法で比較されている。ここで、回答数の個人差を除去するため、各被験者の回答数を以下の式(4)で正規化した正規化回答数Pが算出された。
P=(各照明方法の回答数)/(第7の照明方法の回答数) (4)
【0115】
式(4)の正規化回答数Pは、個人において、第7の照明方法の回答数で各照明方法の回答数を正規化した値である。式(4)の値を照明方法毎に被験者全員で平均化した各照明方法の相対回答数が
図15に示されている。ここでは、一般的な執務室の照度条件に対して作業効率を比較するため、第7の照明方法の回答数で正規化が行われている。
【0116】
次に、試験結果から確認される効果について説明する。
まず、低照度及び低色温度の組み合わせと、高照度及び高色温度の組み合わせとを切り替えた場合の効果を説明する。
第8の照明方法を確認すると、クレペリン試験で第7の照明方法より回答数が多くなっていることが確認できる。また、第9の照明方法では、クレペリン試験及びマインドマップ試験共に第7の照明方法より回答数が多くなっていると共に第8の照明方法よりも回答数が多くなっていることが確認できる。これにより、低照度及び低色温度の状態と、高照度及び高色温度の状態とを切り替えることにより作業効率が向上することが確認できる。
【0117】
特に、照度変化幅が第8の照明方法は400lx、第9の照明方法は700lxであり、照度変化幅を大きくするとより高い効果が得られることがわかる。これは、色温度の光刺激に加えて照度の光刺激を加えることにより、適度な光刺激となり、集中力が向上し、回答数が増加したと考えられる。従って、低照度及び低色温度の状態と、高照度及び高色温度の状態を400lx以上の照度幅で切り替えることにより、作業効率の向上の効果が得られると考えられる。
【0118】
また、さらに、上記の照明試験において、脳波解析を行い、作業前後のストレス低減効果を確認した。その結果、第8の照明方法は作業前後のストレスの低減効果が確認でき、第9の照明方法は作業前後のストレスは変わらないことを確認した。これより、第8の照明方法に関しては、ストレスを低減させながら、特定の作業(例えば、単純作業)の作業効率を向上させることが可能であることがわかった。第9の照明方法に関しては、ストレスを増加させることなく、例えば、単純作業又は創造性を必要とする作業の効率を向上させる効果が得られると考えられる。
【0119】
次に、高照度及び低色温度の組み合わせと、低照度及び高色温度の組み合わせとを切り替えた場合の効果を説明する。
第10の照明方法を確認すると、クレペリン試験及びマインドマップ試験共に第7の照明方法と概ね等しい回答数となることがわかった。第11の照明方法を確認すると、クレペリン試験及びマインドマップ試験共に第7の照明方法より回答数が多くなっていることがわかった。また、第12の照明方法を確認すると、クレペリン試験及びマインドマップ試験共に第7の照明方法より回答数が多くなっていることがわかった。
【0120】
第10の照明方法、第11の照明方法及び第12の照明方法は、高照度及び低色温度の状態と、低照度及び高色温度の状態とを切り替える照明方法であり、上記の結果から、照度変化幅が400lx以上となると、クレペリン試験及びマインドマップ試験の回答数の増加に効果が得られないと想定される。つまり、第11の照明方法及び第12の照明方法のように照度変化幅を200lx(400lx未満)とすることにより、クレペリン試験及びマインドマップ試験の回答数が第7の照明方法より多くなり、例えば、単純作業又は創造性を必要とする作業の効率を向上させる効果が得られると考えられる。
【0121】
また、さらに、上記の照明試験において、脳波解析を行い、作業前後のストレス低減効果を確認した。その結果、第11の照明方法は作業前後のストレスは変わらないことを確認し、第12の照明方法は作業前後のストレスが低減することを確認した。これより、第11の照明方法は、ストレスを増加させることなく、例えば、単純作業又は創造性を必要とする作業の効率を向上させる効果が得られると考えられる。また、第12の照明方法は、照度をより低く抑えることで、ストレスをより低減しながら、例えば、単純作業又は創造性を必要とする作業の効率を向上させる効果が得られると考えられる。
【0122】
ここで、第11の照明方法及び第12の照明方法は、高照度及び低色温度の状態と、低照度及び高色温度の状態とを200lxの照度幅で切り替える照明方法である。これは、自然光を模擬し、かつ、作業に適応させた照明方法である。例えば、
図16に示すように、太陽の直接光が居室に差し込む際には、高照度及び低色温度の自然光(日なたの直射光と散乱光の和:例えば、照度110000lx、色温度5400K)が入射し、太陽が雲に隠れた際(直射光を遮光した場合)には低照度及び高色温度の自然光(日陰の散乱光:例えば、照度15000lx、色温度7800K)が入射する原理を再現した照明方法である。ここで、太陽の光は、直射光と、散乱光とに分類した。直射光は、太陽から直接地上に到達する光で、散乱光は、太陽光から雲等で反射、屈折及び散乱し、間接的に地上に到達する光である。
【0123】
なお、第10の照明方法のように、照度変化幅が400lxと大きい場合には、光刺激が強く、作業効率の低下を招いていると考えられる。照度幅が大きい場合、色温度も変化しているため、目の順応に時間がかかると想定される。従って、適度な光刺激となる400lx未満の照度幅で照度及び色温度を変化させることが好ましいと考えられる。
【0124】
次に、高照度及び中色温度の組み合わせと、低照度及び高色温度の組み合わせとを切り替えた場合の効果を説明する。
第13の照明方法を確認すると、第7の照明方法と比較してクレペリン試験の回答数は多くなっているが、マインドマップ試験の回答数が少なくなっている。
また、上記の照明試験において、脳波解析を行い、作業前後のストレス低減効果を確認した。その結果、作業前後のストレスが第12の照明方法よりも低減することが確認できた。以上より、ストレスを低減させながら、特定の作業(例えば、単純作業)の作業効率を向上させることが可能であることがわかった。単純作業で、ストレスを重視する場合は、第13の照明方法が好ましいと考えられる。
【0125】
以上から、4250K未満の色温度と4250K以上の色温度で点灯させる場合に、4250K未満の照度が4250K以上の色温度の照度より高く、照度差を200lx以下とすることにより、ストレスを低減させながら特定の作業の作業効率を向上させることが可能となる。
【0126】
第2の変形例に関して、移行期間rを設けた場合には、実施の形態1と同様に違和感が軽減された照明方法を実現することが可能となる。第2の変形例の実施の形態1との差異は、色温度の切り替えのみではなく、照度の切り替えを同時に加えた点となる。
第2の変形例において、切り替える色温度は、第1の照明方法のように4000Kを境に、低色温度と、高色温度との組み合わせであってもよい。しかしながら、第2の変形例は、このような例に限られない。例えば、色温度が3300K~5300Kの範囲内で、500K以上又は500K~1000Kの色温度差があってもよい。
また、切り替える照度は、300lx~1000lxの範囲で、200lx以上の差があってもよい。
【0127】
実施の形態2.
図17は、実施の形態2に係る照明装置200の構成を概略的に示すブロック図である。
照明装置200は、第1の発光部110と、第2の発光部120と、制御部130と、第1の偏向部250と、第2の偏向部260とを備える。
実施の形態2に係る照明装置200の第1の発光部110、第2の発光部120及び制御部130は、実施の形態1に係る照明装置100の第1の発光部110、第2の発光部120及び制御部130と同様である。
【0128】
第1の偏向部250は、第1の光源112から出射される光の進行方向を偏向させる光学素子である。
第2の偏向部260は、第2の光源122から出射される光の進行方向を偏向させる光学素子である。
以下、第1の偏向部250及び第2の偏向部260について、詳細に説明する。
【0129】
図18は、照明装置200を設置する例を示す概略図である。
図18に示されている例でも、天井170に、照明装置200A及び照明装置200Bが設置されている。
なお、照明装置200A及び照明装置200Bの各々は、
図17に示されている照明装置200と同様に構成されている。
ここでは、照明装置200Aを用いて説明する。
【0130】
第1の偏向部250及び第2の偏向部260は、第1の発光部110から出射される光の中心軸110aと、第2の発光部120から出射される光の中心軸120aとが、机上面171aの中心171bで交差するように、例えば、その形状が設計されればよい。
【0131】
図19は、第1の偏向部250として使用される光学素子280の形状を示す概略図である。
図19に示されているように、第1の偏向部250から出射される光の中心軸110aと、光学素子280の光が出力される側の面である出力面280aに対する垂直線280bとの間の角度を角度θとし、第1の偏向部250から出力される光の中心軸110bと、垂直線280bとの間の角度を角度θ+ηとする。
【0132】
まず、角度ηは、間隔D3が500mmの場合、下記の式(5)で求められる。
角度η=atan(250mm/(D1-D2))≒7度 (5)
【0133】
次に、スネルの法則より、光学素子280の屈折率を1.49とすると、下記の式(6)及び式(7)により角度θ≒13.77度となる。
sin(θ)×1.49=sin(θ+η) (6)
θ=atan(sin(η)/(1.49-cos(η)))
≒13.77度 (7)
なお、間隔D3が600mmの場合も同様に算出することができる。
【0134】
以上に記載された実施の形態1及び2では、天井170に照明装置100、200が設置される例を示しているが、実施の形態1及び2は、このような例に限定されない。例えば、照明装置100、200が、作業面上に設置可能なタスク照明として利用されてもよい。その場合、執務空間に限定されず、各ユーザが所望の場所で集中して業務を行う際に、照明装置100、200を持ち運びできるため、集中力を高める領域の選択性が高まる。
【0135】
以上に記載された実施の形態1及び2では、2種類の色温度の光が出射されているが、3種類以上の色温度の光が出射されていてもよい。
【符号の説明】
【0136】
100,100#3,200 照明装置、 100#1 第1の照明装置、 100#2 第2の照明装置、 101 照明システム、 110,110#,110#3 第1の発光部、 111,111# 第1の点灯部、 112 第1の光源、 113 第1の通信部、 120,120#,120#3 第2の発光部、 121,121# 第2の点灯部、 122 第2の光源、 123 第2の通信部、 130 制御部、 140 制御装置、 141 制御部、 142 通信部、 250 第1の偏向部、 260 第2の偏向部。