(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007498
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】平角線、コイルおよび熱収縮チューブ
(51)【国際特許分類】
H01F 5/06 20060101AFI20240111BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240111BHJP
C08J 5/00 20060101ALN20240111BHJP
【FI】
H01F5/06 H
H01F5/06 Q
H01F27/28 147
C08J5/00 CEW
C08J5/00 CEZ
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108057
(22)【出願日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2022108402
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 広明
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 星風
(72)【発明者】
【氏名】堀澤 和史
(72)【発明者】
【氏名】河野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】助川 勝通
【テーマコード(参考)】
4F071
5E043
【Fターム(参考)】
4F071AA26X
4F071AA27X
4F071AA51
4F071AA88
4F071AF61
4F071AG12
4F071AG28
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB07
4F071BC05
5E043AB04
(57)【要約】
【課題】エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体および被覆層を備える平角線であって、部分放電開始電圧が低い平角線を提供すること。
【解決手段】エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体と、前記平角導体の外周に形成された被覆層とを備える平角線であって、前記被覆層が、前記曲げ部を有する前記平角導体に、熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより形成される平角線を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体と、前記平角導体の外周に形成された被覆層とを備える平角線であって、
前記被覆層が、前記曲げ部を有する前記平角導体に、熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより形成される平角線。
【請求項2】
前記平角導体の前記曲げ部と前記被覆層とが隙間なく密着している請求項1に記載の平角線。
【請求項3】
前記平角導体が、略U字形状を有しており、
前記熱収縮チューブを被せた前記平角導体を、前記平角導体の頂部から吊り下げた状態で、前記平角導体の頂部側から端部側に向かう方向に熱風を吹き付け、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、前記被覆層を形成する
請求項1または2に記載の平角線。
【請求項4】
前記熱収縮チューブが、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体、および、テトラフルオロエチレン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を含有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含有する請求項1または2に記載の平角線。
【請求項5】
前記熱収縮チューブが、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有し、前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全モノマー単位に対して、0.4~4.0モル%である請求項1または2に記載の平角線。
【請求項6】
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、0.1~70g/10分である請求項4に記載の平角線。
【請求項7】
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、10g/10分未満である請求項4に記載の平角線。
【請求項8】
前記フッ素樹脂が、官能基を有しており、前記フッ素樹脂の官能基数が、炭素原子106個あたり5~1300個である請求項4に記載の平角線。
【請求項9】
前記熱収縮チューブにより形成される前記被覆層の外周に、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂を含有するPAEK層をさらに備える請求項1または2に記載の平角線。
【請求項10】
請求項1または2に記載の平角線を備えるコイル。
【請求項11】
請求項1または2に記載の平角線を製造する平角線の製造方法であって、
前記平角導体をエッジワイズ方向に曲げることにより、前記曲げ部を有する前記平角導体を形成し、
前記曲げ部を有する前記平角導体に、前記熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、前記被覆層を形成する
製造方法。
【請求項12】
前記平角導体をエッジワイズ方向に曲げることにより、前記曲げ部を有する略U字形状の前記平角導体を形成し、
前記曲げ部を有する略U字形状の前記平角導体に、前記熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを被せた前記平角導体を、前記平角導体の頂部から吊り下げた状態で、前記平角導体の頂部側から端部側に向かう方向に熱風を吹き付け、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、前記被覆層を形成する
請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
形成した前記被覆層に対して、さらに、熱処理をする請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
前記被覆層を形成した後、得れた平角線に、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂を含有する熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、PAEK層を形成する請求項11に記載の製造方法。
【請求項15】
エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体を被覆する被覆層を形成するために用いられる熱収縮チューブ。
【請求項16】
前記熱収縮チューブが、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体、および、テトラフルオロエチレン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を含有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含有する請求項15に記載の熱収縮チューブ。
【請求項17】
前記熱収縮チューブが、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有し、前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全モノマー単位に対して、0.4~4.0モル%である請求項15または16に記載の熱収縮チューブ。
【請求項18】
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、0.1~70g/10分である請求項16に記載の熱収縮チューブ。
【請求項19】
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、10g/10分未満である請求項16に記載の熱収縮チューブ。
【請求項20】
前記フッ素樹脂が、官能基を有しており、前記フッ素樹脂の官能基数が、炭素原子106個あたり5~1300個である請求項16に記載の熱収縮チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、平角線、コイルおよび熱収縮チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、断面矩形の導体上に、少なくとも2層の絶縁層が積層された絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、前記積層された絶縁皮膜が、前記導体の外周上に熱硬化性樹脂からなるエナメル絶縁層および該層の外側に熱可塑性樹脂からなる押出絶縁層から構成され、前記エナメル絶縁層の厚さが、50μm以上であり、前記積層された絶縁皮膜の全体の厚さ(T)および100°Cにおける比誘電率(ε)、前記積層された絶縁層中、1層の最大厚さ(Tmax)および100°Cにおける比誘電率の最大値(εmax)と最小値(εmin)が、下記の関係を全て満たすことを特徴とする絶縁電線が記載されている。
【0003】
特許文献2には、平角導体と、前記平角導体の周囲に形成されており、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有する平角マグネット線被覆層形成用熱収縮チューブから形成される被覆層と、を備える平角マグネット線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/175516号
【特許文献2】特開2021-2458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示では、エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体および被覆層を備える平角線であって、部分放電開始電圧が低い平角線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の観点によれば、
エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体と、前記平角導体の外周に形成された被覆層とを備える平角線であって、
前記被覆層が、前記曲げ部を有する前記平角導体に、熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより形成される平角線が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体および被覆層を備える平角線であって、部分放電開始電圧が低い平角線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る平角線の正面図および上面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る平角線の断面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る熱収縮チューブの断面図である。
【
図4】
図4は、実施例および比較例における平角マグネットワイヤーまたは平角導体の曲げ加工方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
(平角線)
特許文献1には、断面形状が矩形(平角)の導体を使用することにより、ステータのスロット内における導体の占積率を高くできることが記載されている。さらに、特許文献1には、絶縁電線が上記した構成を備えることから、エナメル絶縁層が厚い場合でも、絶縁耐力(絶縁破壊電圧)を高め、かつ部分放電開始電圧が高く、耐熱性、ノッチ付きエッジワイズ曲げなどの機械的特性に優れた絶縁電線、コイルおよび電気・電子機器を提供することが可能となったことが記載されている。
【0011】
また、特許文献2では、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有する平角マグネット線被覆層形成用熱収縮チューブを平角導体に被せ、前記平角マグネット線被覆層形成用熱収縮チューブを熱収縮させることにより、平角導体の周囲に被覆層を形成することによって、平角導体に強固に密着する被覆層を形成できるとともに、エッジワイズ方向に曲げた場合であっても、曲げ外周部および曲げ内周部のいずれを被覆する被覆層にも、膨れおよび亀裂が生じにくい被覆層を形成できることが記載されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1および2に記載のように、被覆層を備える平角導体をエッジワイズ方向に曲げることにより、エッジワイズ方向に曲げられた曲げ部を形成しようとすると、曲げ部の内周を被覆する被覆層は、曲げ部の外周を被覆する被覆層よりも大きく縮むことになることから、拡大鏡を用いて丁寧に観察すると、平角導体と被覆層との間に空隙が生じることが判明した。
【0013】
これに対し、本開示の平角線(平角マグネットワイヤー)は、エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体と、平角導体の外周に形成された被覆層とを備えており、被覆層が、曲げ部を有する平角導体に、熱収縮チューブを被せ、熱収縮チューブを収縮させることにより形成される。これによって、熱収縮チューブがエッジワイズ方向に曲げられた曲げ部の形状に沿って収縮し、形成される被覆層が平角導体の曲げ部に隙間なく密着することになる。したがって、本開示の平角線は、エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有するにもかかわらず、平角導体と被覆層との間に空隙が存在しない。
【0014】
図1は、一実施形態に係る平角線の正面図および上面図である。
図2は、一実施形態に係る平角線の断面図である。
図1に示す平角線100は、回転電機のコアの各スロットに挿入することによりコイルを形成するための平角線(セグメントコイル)である。平角線100は、所定の長さの平角線を、フラットワイズ方向にU字状に曲げることにより構成される。
図2に示すように、平角線100は、平角導体21と、平角導体21の外周に形成された被覆層22とを備えている。
【0015】
図1に示すように、平角線100は、略U字形状を有しており、湾曲部11と、湾曲部11の両端から伸びるスロット挿入部12とから構成されている。湾曲部11とスロット挿入部12とを繋ぐ部分には、平角導体をエッジワイズ方向に曲げることにより形成される肩部13aおよび13bが形成されている。また、湾曲部11には、平角導体をエッジワイズ方向に曲げることにより形成される凸形状部14、および、平角導体をフラットワイズ方向に曲げることにより形成されるクランク形状部15が形成されている。平角線100は、肩部13aおよび肩部13bのいずれにおいても、また、凸形状部14においても、平角導体21と被覆層22とが隙間なく完全に密着している。すなわち、本開示の平角線が備える被覆層は、平角導体の曲げ部に隙間なく密着しており、この点で、従来の曲げ部を有する平角線と区別される。さらに、本開示の平角線は、平角導体と被覆層との間に空隙が存在しておらず、平角導体と被覆層とが密着していることから、従来の平角線よりも低い部分放電開始電圧を示すことができる。
【0016】
次に、被覆層を形成するために用いる熱収縮チューブ、平角導体、任意で設けられるその他の層などの構成について、より詳細に説明する。
【0017】
(熱収縮チューブ)
エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体を被覆する被覆層を形成するために、熱収縮チューブを用いる。
【0018】
図3は、一実施形態に係る熱収縮チューブの断面図である。
図3に示すように、熱収縮チューブ30は、中空部31を備えている。中空部31の内径を、平角導体の外径よりも大きくすることにより、中空部31に曲げ部を有する平角導体(図示せず)を円滑に挿入することができ、熱収縮チューブ30を平角導体に被せることができる。平角導体に被せた熱収縮チューブ30を熱収縮させることにより、平角導体21と被覆層22とが隙間なく完全に密着した平角線100を製造することができる。
【0019】
熱収縮チューブを構成する材料は、熱により収縮する材料であれば特に限定されず、たとえば、熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などが挙げられる。
【0021】
熱可塑性樹脂の比誘電率は、電気特性の観点から、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.4以下であり、さらに好ましくは2.9以下であり、尚さらに好ましくは2.4以下であり、特に好ましくは2.1以下であり、好ましくは1.80以上である。比誘電率は、ネットワークアナライザーHP8510C(ヒューレットパッカード社製)および空洞共振器を用いて、共振周波数および電界強度の変化を20~25℃の温度下で測定して得られる値である。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、なかでも、フッ素樹脂およびポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、フッ素樹脂がより好ましい。熱収縮チューブがフッ素樹脂を含有することにより、電気特性に優れる被覆層を形成することができる。
【0023】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)/フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体〔ECTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/HFP/VdF共重合体などが挙げられる。
【0024】
フッ素樹脂としては、耐熱性および電気特性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、TFE/FAVE共重合体、および、TFE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0025】
フッ素樹脂としては、押出成形法により熱収縮チューブを容易に製造することができ、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できることから、溶融加工性のフッ素樹脂が好ましい。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のフッ素樹脂は、後述する測定方法により測定されるメルトフローレートが0.01~500g/10分であることが通常である。
【0026】
フッ素樹脂のメルトフローレートは、好ましくは0.1~70g/10分であり、より好ましくは60g/10分以下であり、さらに好ましくは50g/10分以下であり、特に好ましくは40g/10分以下であり、最も好ましくは30g/10分以下である。フッ素樹脂のメルトフローレートが上記範囲内にあることにより、厚さが均一で、機械的強度に優れる熱収縮チューブおよび被覆層を容易に得ることができる。
【0027】
また、フッ素樹脂のメルトフローレートは、10g/10分未満であってもよい。熱収縮チューブは、熱収縮させることによって、平角導体上に被覆層を形成できるので、押出成形により被覆層を形成する場合のように、フッ素樹脂の高い溶融流動性を要しない。したがって、フッ素樹脂のメルトフローレートが小さくても、被覆時の加工性を損なうことなく、機械的強度に優れた被覆層を形成できる。
【0028】
フッ素樹脂の融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは220℃以上であり、さらに好ましくは240℃以上であり、尚さらに好ましくは260℃以上であり、特に好ましくは280℃以上であり、より好ましくは320℃以下である。
【0029】
融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0030】
本開示において、フッ素樹脂のメルトフローレートは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0031】
フッ素樹脂としては、耐熱性、成形性、電気特性に優れており、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できることから、TFE/FAVE共重合体、および、TFE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0032】
TFE/FAVE共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)単位を含有する共重合体である。
【0033】
FAVE単位を構成するFAVEとしては、一般式(1):
CF2=CFO(CF2CFY1O)p-(CF2CF2CF2O)q-Rf (1)
(式中、Y1はFまたはCF3を表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCF2OR1 (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCF3を表し、R1は、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0034】
FAVEとしては、なかでも、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、PPVEが特に好ましい。
【0035】
TFE/FAVE共重合体のFAVE単位の含有量は、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できることから、全モノマー単位に対して、好ましくは0.4~4.0モル%であり、より好ましくは1.1モル%以上であり、さらに好ましくは1.3モル%以上であり、尚さらに好ましくは1.4モル%以上であり、特に好ましくは1.5モル%以上であり、最も好ましくは1.8モル%以上であり、より好ましくは3.2モル%以下であり、さらに好ましくは2.8モル%以下であり、特に好ましくは2.5モル%以下であり、特に好ましくは2.4モル%以下である。
【0036】
TFE/FAVE共重合体のTFE単位の含有量は、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できることから、全モノマー単位に対して、好ましくは96.0~99.6モル%であり、より好ましくは96.8モル%以上であり、さらに好ましくは97.2モル%以上であり、尚さらに好ましくは97.5モル%以上であり、特に好ましくは97.6モル%以上であり、より好ましくは98.9モル%以下であり、さらに好ましくは98.7モル%以下であり、尚さらに好ましくは98.6モル%以下であり、特に好ましくは98.5モル%以下であり、最も好ましくは98.2モル%以下である。
【0037】
本開示において、共重合体中の各モノマー単位の含有量は、19F-NMR法により測定する。
【0038】
TFE/FAVE共重合体は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体の含有量は、TFE/FAVE共重合体の全モノマー単位に対して、好ましくは0~3.6モル%であり、より好ましくは0.1~2.2モル%であり、さらに好ましくは0.2~1.0モル%である。
【0039】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ1Z2=CZ3(CF2)nZ4(式中、Z1、Z2およびZ3は、同一または異なって、HまたはFを表し、Z4は、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF2=CF-OCH2-Rf1(式中、Rf1は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、官能基を有する単量体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0040】
TFE/FAVE共重合体としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、上記TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0041】
TFE/FAVE共重合体の融点は、耐熱性および耐ストレスクラック性の観点から、好ましくは280~322℃であり、より好ましくは285℃以上であり、より好ましくは315℃以下であり、さらに好ましくは310℃以下である。融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0042】
TFE/FAVE共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70~110℃であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定できる。
【0043】
TFE/FAVE共重合体の比誘電率は、電気特性の観点から、好ましくは2.4以下であり、より好ましくは2.1以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは1.8以上である。比誘電率は、ネットワークアナライザーHP8510C(ヒューレットパッカード社製)および空洞共振器を用いて、共振周波数および電界強度の変化を20~25℃の温度下で測定して得られる値である。
【0044】
TFE/HFP共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位を含有する共重合体である。
【0045】
TFE/HFP共重合体のHFP単位の含有量は、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できることから、全モノマー単位に対して、好ましくは0.1モル%以上であり、より好ましくは0.7モル%以上であり、さらに好ましくは1.3モル%以上であり、好ましくは22モル%以下であり、より好ましくは11モル%以下である。
【0046】
TFE/HFP共重合体のTFE単位の含有量は、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できることから、全モノマー単位に対して、好ましくは78モル%以上であり、より好ましくは89モル%以上であり、好ましくは99.9モル%以下であり、より好ましくは99.3モル%以下であり、さらに好ましくは98.7モル%以下である。
【0047】
TFE/HFP共重合体は、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体の含有量は、TFE/HFP共重合体の全モノマー単位に対して、好ましくは0~21.9モル%であり、より好ましくは0.1~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~1.0モル%である。
【0048】
TFEおよびHFPと共重合可能な単量体としては、FAVE、CZ1Z2=CZ3(CF2)nZ4(式中、Z1、Z2およびZ3は、同一または異なって、HまたはFを表し、Z4は、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF2=CF-OCH2-Rf1(式中、Rf1は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、官能基を有する単量体等が挙げられる。なかでも、FAVEが好ましい。
【0049】
TFE/HFP共重合体の融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは210℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、より好ましくは300℃未満であり、さらに好ましくは280℃以下である。
【0050】
TFE/HFP共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは60~110℃であり、より好ましくは65℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。
【0051】
フッ素樹脂は、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できることから、官能基を有することが好ましい。フッ素樹脂が官能基を有することにより、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できる。
【0052】
官能基としては、カルボニル基含有基、アミノ基、ヒドロキシ基、-CF2H基、オレフィン基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0053】
カルボニル基含有基は、構造中にカルボニル基(-C(=O)-)を含有する基である。カルボニル基含有基としては、たとえば、
カーボネート基[-O-C(=O)-OR3(式中、R3は炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)]、
アシル基[-C(=O)-R3(式中、R3は炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)]
ハロホルミル基[-C(=O)X5、X5はハロゲン原子]、
ホルミル基[-C(=O)H]、
式:-R4-C(=O)-R5(式中、R4は、炭素原子数1~20の2価の有機基であり、R5は、炭素原子数1~20の1価の有機基である)で示される基、
式:-O-C(=O)-R6(式中、R6は、炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)で示される基、
カルボキシル基[-C(=O)OH]、
アルコキシカルボニル基[-C(=O)OR7(式中、R7は、炭素原子数1~20の1価の有機基である)]、
カルバモイル基[-C(=O)NR8R9(式中、R8およびR9は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~20の1価の有機基である)]、
酸無水物結合[-C(=O)-O-C(=O)-]、
などをあげることができる。
【0054】
R3の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。上記R4の具体例としては、メチレン基、-CF2-基、-C6H4-基などがあげられ、R5の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。R7の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。また、R8およびR9の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基などがあげられる。
【0055】
ヒドロキシ基は、-OHで示される基または-OHで示される基を含む基である。本開示において、カルボキシル基を構成する-OHは、ヒドロキシ基に含まない。ヒドロキシ基としては、-OH、メチロール基、エチロール基などが挙げられる。
【0056】
オレフィン基(Olefinic group)とは、炭素-炭素二重結合を有する基である。オレフィン基としては、下記式:
-CR10=CR11R12
(式中、R10、R11およびR12は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子または炭素原子数1~20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、-CF=CF2、-CH=CF2、-CF=CHF、-CF=CH2および-CH=CH2からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0057】
イソシアネート基は、-N=C=Oで示される基である。
【0058】
フッ素樹脂の官能基数は、平角導体に一層強固に密着する被覆層を形成できることから、炭素原子106個あたり5~1300個が好ましい。官能基の個数は、炭素原子106個あたり、より好ましくは50個以上であり、さらに好ましくは100個以上であり、特に好ましくは200個以上であり、より好ましくは1000個以下であり、さらに好ましくは800個以下であり、特に好ましくは700個以下であり、最も好ましくは500個以下である。
【0059】
また、フッ素樹脂の官能基数は、電気特性に優れる被覆層を形成できることから、炭素原子106個あたり5個未満であってよい。
【0060】
上記官能基は、共重合体(フッ素樹脂)の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基であり、好適には主鎖末端に存在する。上記官能基としては、-CF=CF2、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3、-CONH2、-CH2OHなどが挙げられ、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3および-CH2OHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。-COOHには、2つの-COOHが結合することにより形成されるジカルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)が含まれる。
【0061】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0062】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、共重合体を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、共重合体における炭素原子1×106個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0063】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0064】
【0065】
なお、-CH2CF2H、-CH2COF、-CH2COOH、-CH2COOCH3、-CH2CONH2の吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CF2H、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH3、-CONH2の吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
従って、たとえば、-COFの官能基数とは、-CF2COFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CH2COFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0066】
上記官能基数は、-CF=CF2、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3、-CONH2および-CH2OHの合計数であってよく、-CF2H、-COF、-COOH、-COOCH3および-CH2OHの合計数であってよい。
【0067】
上記官能基は、たとえば、フッ素樹脂を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、フッ素樹脂(共重合体)に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用したり、重合開始剤として-CH2OHの構造を有する過酸化物を使用したりした場合、共重合体の主鎖末端に-CH2OHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基が共重合体の側鎖末端に導入される。フッ素樹脂は、官能基を有する単量体に由来する単位を含有してもよい。
【0068】
官能基を有する単量体としては、特開2006-152234号に記載のジカルボン酸無水物基((-CO-O-CO-)を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマー、国際公開第2017/122743号に記載の官能基(f)を有する単量体などが挙げられる。官能基を有する単量体としては、なかでも、カルボキシ基を有する単量体(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸等);酸無水物基を有する単量体(無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸等)、水酸基またはエポキシ基を有する単量体(ヒドロキシブチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル等)等が挙げられる。
【0069】
フッ素樹脂は、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0070】
また、熱可塑性樹脂として、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂を用いることができる。熱収縮チューブがPAEK樹脂を含有することにより、耐熱性に優れる被覆層を得ることができる。
【0071】
PAEK樹脂は、アリーレン基とエーテル基[-O-]とカルボニル基[-C(=O)-]とで構成された繰り返し単位を含んでいる限り特に制限されず、たとえば、下記式(a1)~(a5)のいずれかで表される繰り返し単位を含む樹脂が挙げられる。
[-Ar-O-Ar-C(=O)-] (a1)
[-Ar-O-Ar-C(=O)-Ar-C(=O)-] (a2)
[-Ar-O-Ar-O-Ar-C(=O)-] (a3)
[-Ar-O-Ar-C(=O)-Ar-O-Ar-C(=O)-Ar-C(=O)-] (a4)
[-Ar-O-Ar-O-Ar-C(=O)-Ar-C(=O)-] (a5)
(式中、Arは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素環基を表す)
【0072】
Arで表される2価の芳香族炭化水素環基としては、たとえば、フェニレン基(o-、m-、またはp-フェニレン基など)、ナフチレン基などの炭素数が6~10のアリーレン基、ビフェニレン基(2,2’-ビフェニレン基、3,3’-ビフェニレン基、4,4’-ビフェニレン基など)などのビアリーレン基(各アリーレン基の炭素数は6~10)、o-、m-またはp-ターフェニレン基などのターアリーレン基(各アリーレン基の炭素数は6~10)などが例示できる。これらの芳香族炭化水素環基は、置換基、たとえば、ハロゲン原子、アルキル基(メチル基などの直鎖上または分岐鎖状の炭素数1~4のアルキル基など)、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状の炭素数1~4のアルコキシ基など)、メルカプト基、アルキルチオ基、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、N-置換アミノ基、シアノ基などを有していてもよい。なお、繰り返し単位(a1)~(a5)において、各Arの種類は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。好ましいArは、フェニレン基(たとえば、p-フェニレン基)、ビフェニレン基(たとえば、4,4’-ビフェニレン基)である。
【0073】
繰り返し単位(a1)を有する樹脂としては、ポリエーテルケトン(たとえば、Victrex社製「PEEK-HT」)などが例示できる。繰り返し単位(a2)を有する樹脂としては、ポリエーテルケトンケトン(たとえば、Arkema+Oxford Performance Material社製「PEKK」)などが例示できる。繰り返し単位(a3)を有する樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(たとえば、Victrex社製「VICTREX PEEK」、Evonik社製「Vestakeep(登録商標)」、ダイセル・エボニック社製「Vestakeep-J」、Solvay Speciality Polymers社製「KetaSpire(登録商標)」)、ポリエーテル-ジフェニル-エーテル-フェニル-ケトン-フェニル(たとえば、Solvay Speciality Polymers社製「Kadel(登録商標)」)などが例示できる。繰り返し単位(a4)を有する樹脂としては、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(たとえば、Victrex社製「VICTREX ST」)などが例示できる。繰り返し単位(a5)を有する樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトンケトンなどが例示できる。
【0074】
アリーレン基とエーテル基とカルボニル基とで構成された繰り返し単位において、エーテルセグメント(E)とケトンセグメント(K)との割合は、たとえば、E/K=0.5~3であり、好ましくは1~2.5程度である。エーテルセグメントは分子鎖に柔軟性を付与し、ケトンセグメントは分子鎖に剛直性を付与するため、エーテルセグメントが多いほど結晶化速度は速く、最終的に到達可能な結晶化度も高くなり、ケトンセグメントが多いほどガラス転移温度および融点が高くなる傾向にある。これらのPAEK樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0075】
これらのPAEK樹脂のうち、繰り返し単位(a1)~(a3)のいずれかを有する樹脂が好ましい。たとえば、PAEK樹脂としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンおよびポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂が好ましい。
【0076】
特に、ガラス転移温度および融点の高さと、結晶化速度の速さとのバランスに優れる点から、繰り返し単位(a3)を有するPAEK樹脂がさらに好ましく、ポリエーテルエーテルケトンが特に好ましい。
【0077】
PAEK樹脂は、60sec-1、390℃における溶融粘度が0.01~4.0kNsm-2であることが好ましい。溶融粘度の好ましい下限は0.05kNsm-2であり、より好ましくは0.10kNsm-2であり、さらに好ましくは0.15kNsm-2である。溶融粘度の好ましい上限は2.5kNsm-2であり、より好ましくは1.5kNsm-2であり、さらに好ましくは1.0kNsm-2であり、特に好ましくは0.5kNsm-2であり、最も好ましくは0.4kNsm-2である。PAEK樹脂の溶融粘度は、ASTM D3835に準拠して測定する。
【0078】
PAEK樹脂のガラス転移温度は、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは135℃以上であり、さらに好ましくは140℃以上である。ガラス転移温度は示差走査熱量測定(DSC)装置によって測定される。
【0079】
PAEK樹脂の融点は、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは320℃以上である。融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置によって測定される。
【0080】
熱収縮チューブ(被覆層)は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。他の成分としては、架橋剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、発泡剤、発泡核剤、酸化防止剤、界面活性剤、光重合開始剤、摩耗防止剤、表面改質剤、顔料等の添加剤等を挙げることができる。熱収縮チューブ中の他の成分の含有量としては、熱収縮チューブ中の熱可塑性樹脂の質量に対して、好ましくは1質量%未満であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、下限は特に限定されないが、0質量%以上であってもよい。すなわち、熱収縮チューブは、他の成分を含有しなくてもよい。
【0081】
熱収縮チューブ(被覆層)中の熱可塑性樹脂の含有量としては、電気特性の観点から、好ましくは99質量%超であり、より好ましくは99.5質量%以上であり、さらに好ましくは99.9質量%以上であり、上限は特に限定されないが、100質量%以下であってよい。すなわち、熱収縮チューブは、熱可塑性樹脂のみを含有してよく、この場合の熱可塑性樹脂の含有量は、熱収縮チューブの質量に対して、100質量%である。
【0082】
熱収縮チューブは、熱可塑性樹脂を押出成形することにより、製造することができる。また、熱収縮チューブは、熱可塑性樹脂を押出成形してチューブを得て、チューブを膨張させることによっても、製造することができる。押出成形には、押出機を用いることができる。上記押出機は、単軸押出機であっても、二軸押出機であってもよい。押出成形の際の成形条件としては、従来公知の条件を採用することができる。たとえば、熱可塑性樹脂を融点以上に加熱して溶融させ、押出成形する方法が使用できる。
【0083】
熱収縮チューブは、たとえば、下記の文献に記載されている方法を参考にして製造することができる。
(a)特開平11-080387号公報に記載の、径方向の延伸倍率を規制する延伸管中で未延伸チューブに内圧をかけて膨張させる方法。
(b)特開2011-183800号公報に記載の、2つのピンチローラ、エア供給部および2つのピンチローラの距離を変更することでチューブの膨張を制御する制御部を備える熱収縮チューブの製造装置を用いて、製造する方法。
(c)国際公開第2003/012555号に記載の、環状ダイスを吐出口に有する押し出し機にてフッ素樹脂を溶融押出し、これをダイス先端に設置した冷却用ダイスに挿通して、引き取る方法。
(d)特開2010-125634号公報に記載の、溶融した材料を金型からチューブ状に押し出し後、チューブ状の材料の内周面を金型近傍にて円筒形状の冷却部材の外周面に接触させて、170℃以下に冷却する方法。
【0084】
熱可塑性樹脂としてTFE/FAVE共重合体を用いる場合、熱収縮チューブを製造するための簡便な方法としては、たとえば、次の方法が挙げられる。まず、樹脂温度380℃にて押出成形によりチューブ成形した後、得られたチューブを所定の内径を有する金属管の中に挿入する。これを、電気炉中で170℃に加熱後、空気にて内圧をかけて膨張させる。この時、外径は金属管で径を規制しているので一定にすることができる。取り出して、冷却すると熱収縮チューブが得られる。金属管の形状は円筒形状であっても、四角柱の形状であってもよい。
【0085】
チューブを膨張させることによって、熱収縮チューブを製造する場合の、膨張倍率(拡径倍率)としては、好ましくは1.0倍超であり、より好ましくは1.1倍以上であり、さらに好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは50倍以下であり、より好ましくは10倍以下であり、さらに好ましくは5倍以下である。膨張倍率は、膨張後のチューブの内径を、膨張前のチューブの内径で除することにより、算出できる。
【0086】
熱収縮チューブの市販品を用いることもできる。サイズが平角導体より大きく挿入が容易で、加熱後に収縮して平角導体と密着するだけの収縮率を有するものが好ましい。
【0087】
熱収縮チューブを、1以上の曲げ部を有する平角導体に被せ、熱収縮チューブを熱収縮させることにより、平角導体の外周に形成された被覆層を備える平角線を製造することできる。すなわち、本開示には、エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体を被覆する被覆層を形成するための、上記した熱収縮チューブの使用が含まれる。
【0088】
被覆層は、平角導体と被覆層が一層強固に密着することから、熱処理をされた被覆層であることが好ましい。熱処理の詳細は後述する。
【0089】
熱収縮チューブの内径(収縮前内径)は、好ましくは2~65mmであり、より好ましくは2~20mmである。また、熱収縮チューブの厚み(収縮前厚み)は、好ましくは0.030~0.150mmであり、より好ましくは0.050~0.100mmである。
【0090】
熱収縮チューブは、任意の倍率で収縮させて用いることができる。熱収縮チューブは、後述する大きさを有する平角導体に密着するように、収縮させて用いることが好ましい。
【0091】
熱収縮チューブが収縮することにより形成される被覆層の厚みは、特に限定されないが、絶縁特性の観点から、好ましくは30~150μmであり、より好ましくは50~100μmである。
【0092】
(平角導体)
熱収縮チューブを用いて被覆する平角導体の形状は、その断面が略長方形の平角線の形状であれば特に限定されない。平角導体の断面の角部は直角であってもよいし、平角導体の断面の角部が丸みを有していてもよい。また、平角導体は、導体全体の断面が略長方形であれば、単線、集合線、撚線などであってよいが、単線であることが好ましい。
【0093】
平角導体の断面の幅は1~75mmであってよく、平角導体の断面の厚さは0.1~30mmであってよい。平角導体の外周径は、6.5mm以上であってよく、200mm以下であってよい。また、幅の厚さに対する比は、1超30以下であってよい。
【0094】
平角導体としては、導電材料から構成されるものであれば特に限定されないが、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、銀、ニッケルなどの材料により構成することができ、銅または銅合金により構成されたものが好ましい。また、銀めっき、ニッケルめっきなどのめっきを施した導体を用いることもできる。銅としては、無酸素銅、低酸素銅、銅合金などを用いることができる。
【0095】
(その他の層)
平角線は、平角導体と被覆層とが接していることが好ましい。平角導体と被覆層との間にプライマー層を形成してもよいが、本開示の平角線は、曲げ部を有する平角導体に、熱収縮チューブを被せ、熱収縮チューブを収縮させることにより形成される被覆層を備えるものであることから、プライマー層を形成しなくても、平角導体と被覆層とが隙間なく完全に密着している。プライマー層の形成は、誘電率が高くなることから好ましくない。
【0096】
本開示の平角線は、被覆層の外周に形成された他の層をさらに備えるものであってもよい。
【0097】
他の層としては、熱可塑性樹脂を含有する層が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、上述した被覆層を形成し得る熱可塑性樹脂が挙げられる。他の層としては、なかでも、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂を含有するPAEK層が好ましい。PAEK層は、被覆層を備える平角線に、PAEK樹脂を含有する熱収縮チューブを被せ、熱収縮チューブを収縮させることにより形成することができる。
【0098】
(平角線の用途)
平角線は、コイルとして使用することができる。コイルとしては、ステータコイル、ロータコイルなどが挙げられる。たとえば、平角線を、ステータコアやロータコアに巻回してコイルを形成してもよいし、平角線を巻回してから、ステータコアやロータコアに装着してもよい。特に、本開示の平角線は、エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有するものであることから、ステータコアまたはロータコアに形成されたスロットに挿入するセグメントコイルとして好適に使用することができる。たとえば、セグメントコイルとして、平角線をスロットに挿入し、各平角線の端部を接合することによりコイルを形成することができる。
【0099】
平角線およびコイルは、モータ、発電機、インダクターなどの電気機器または電子機器に好適に用いることができる。また、平角線およびコイルは、車載用モータ、車載用発電機、車載用インダクターなどの車載用電気機器または車載用電子機器に好適に用いることができる。
【0100】
(平角線の製造方法)
次に平角線の製造方法について、詳細に説明する。
【0101】
平角線は、たとえば、平角導体をエッジワイズ方向に曲げることにより、曲げ部を有する平角導体を形成し、曲げ部を有する平角導体に、熱収縮チューブを被せ、熱収縮チューブを収縮させることにより、被覆層を形成する製造方法により、好適に製造することができる。
【0102】
熱収縮チューブは、加熱することにより、熱収縮させることができる。熱収縮させるための加熱温度は、好ましくは150~290℃であり、より好ましくは180℃以上であり、さらに好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以下である。また、熱収縮させるための加熱時間は、好ましくは2~20分であり、より好ましくは5分以上であり、より好ましくは15分以下である。
【0103】
平角導体が、略U字形状を有している場合には、略U字形状の前記平角導体に、熱収縮チューブを被せ、熱収縮チューブを被せた平角導体を、平角導体の頂部から吊り下げた状態で、平角導体の頂部側から端部側に向かう方向に熱風を吹き付け、熱収縮チューブを収縮させることにより、平角導体と熱収縮チューブとの間に存在する気体を円滑に外部に排出しながら、熱収縮チューブを収縮させることができるので、平角導体と熱収縮チューブとを一層円滑に隙間なく密着させることができる。
【0104】
平角導体の周囲に被覆層を形成させた後、得られた被覆層に対して、熱処理をしてもよい。被覆層の熱処理によって、平角導体と被覆層との密着性を一層高めることができる。
【0105】
熱処理は、熱風循環炉や高周波誘導加熱を利用した加熱炉を用いて、上記共重合体により被覆された平角導体をバッチ式又は連続式に加熱することにより、行うことができる。また、ソルトバス法により行うこともできる。ソルトバス法では、溶融塩中に平角線を通して加熱する。溶融塩としては、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムの混合物などが挙げられる。
【0106】
熱処理の際の加熱温度は、平角導体と被覆層との密着性を一層高めることができるとともに、平角導体の酸化を抑制できることから、好ましくは300~360℃であり、より好ましくは320℃以上であり、より好ましくは350℃以下である。また、熱処理の際の加熱温度は、好ましくは被覆層に含まれる熱可塑性樹脂の融点以上であり、より好ましくは熱可塑性樹脂の融点より15℃高い温度以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂の融点より30℃高い温度以上である。
【0107】
熱処理の時間は、平角導体と被覆層との密着性を一層高めることができるとともに、平角導体の酸化を抑制できることから、好ましくは0.1~5分であり、より好ましくは0.5分以上であり、より好ましくは3分以下である。高温で長く加熱すると、銅製の芯線の場合は酸化されて変色する場合がある。
【0108】
被覆層を形成した後、被覆層の外周にさらに他の層を形成してもよい。たとえば、被覆層を備える平角線に、PAEK樹脂を含有する熱収縮チューブを被せ、熱収縮チューブを収縮させることにより、被覆層の外周にPAEK層を形成することができる。
【0109】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0110】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体と、前記平角導体の外周に形成された被覆層とを備える平角線であって、
前記被覆層が、前記曲げ部を有する前記平角導体に、熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより形成される平角線が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
前記平角導体の前記曲げ部と前記被覆層とが隙間なく密着している第1の観点による平角線が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
前記平角導体が、略U字形状を有しており、
前記熱収縮チューブを被せた前記平角導体を、前記平角導体の頂部から吊り下げた状態で、前記平角導体の頂部側から端部側に向かう方向に熱風を吹き付け、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、前記被覆層を形成する
第1または第2の観点による平角線が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
前記熱収縮チューブが、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体、および、テトラフルオロエチレン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を含有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含有する第1~第3のいずれかの観点による平角線が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
前記熱収縮チューブが、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有し、前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全モノマー単位に対して、0.4~4.0モル%である第1~第4のいずれかの観点による平角線が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、0.1~70g/10分である第4または第5の観点による平角線が提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、10g/10分未満である第4~第6のいずれかの観点による平角線が提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
前記フッ素樹脂が、官能基を有しており、前記フッ素樹脂の官能基数が、炭素原子106個あたり5~1300個である第4~第7のいずれかの観点による平角線が提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
前記熱収縮チューブにより形成される前記被覆層の外周に、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂を含有するPAEK層をさらに備える第1~第8のいずれかの観点による平角線が提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
第1~第9のいずれかの観点による平角線を備えるコイルが提供される。
<11> 本開示の第11の観点によれば、
第1~第10のいずれかの観点による平角線を製造する平角線の製造方法であって、
前記平角導体をエッジワイズ方向に曲げることにより、前記曲げ部を有する前記平角導体を形成し、
前記曲げ部を有する前記平角導体に、前記熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、前記被覆層を形成する
製造方法が提供される。
<12> 本開示の第12の観点によれば、
前記平角導体をエッジワイズ方向に曲げることにより、前記曲げ部を有する略U字形状の前記平角導体を形成し、
前記曲げ部を有する略U字形状の前記平角導体に、前記熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを被せた前記平角導体を、前記平角導体の頂部から吊り下げた状態で、前記平角導体の頂部側から端部側に向かう方向に熱風を吹き付け、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、前記被覆層を形成する
第11の観点による製造方法が提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
形成した前記被覆層に対して、さらに、熱処理をする第11または第12の観点による製造方法が提供される。
<14> 本開示の第14の観点によれば、
前記被覆層を形成した後、得れた平角線に、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂を含有する熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、PAEK層を形成する第11~第13のいずれかの観点による製造方法が提供される。
<15> 本開示の第15の観点によれば、
エッジワイズ方向に曲げられた1以上の曲げ部を有する平角導体を被覆する被覆層を形成するために用いられる熱収縮チューブが提供される。
<16> 本開示の第16の観点によれば、
前記熱収縮チューブが、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体、および、テトラフルオロエチレン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を含有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含有する第15の観点による熱収縮チューブが提供される。
<17> 本開示の第17の観点によれば、
前記熱収縮チューブが、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有し、前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全モノマー単位に対して、0.4~4.0モル%である第15または第16の観点による熱収縮チューブが提供される。
<18> 本開示の第18の観点によれば、
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、0.1~70g/10分である第16または第17の観点による熱収縮チューブが提供される。
<19> 本開示の第19の観点によれば、
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、10g/10分未満である第16~第18のいずれかの観点による熱収縮チューブが提供される。
<20> 本開示の第20の観点によれば、
前記フッ素樹脂が、官能基を有しており、前記フッ素樹脂の官能基数が、炭素原子106個あたり5~1300個である第16~第19のいずれかの観点による熱収縮チューブが提供される。
【実施例0111】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0112】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で、内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出する共重合体の質量(g/10分)を求めた。
【0113】
(フッ素樹脂の組成)
19F-NMR法により測定した。
【0114】
(融点)
示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0115】
(官能基数)
フッ素樹脂を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置〔FT-IR(商品名:1760X型、パーキンエルマー社製)により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得た。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、フッ素樹脂における炭素原子106個あたりの官能基数Nを算出した。
【0116】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0117】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表2に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0118】
【0119】
<エッジワイズ加工試験>
(被覆厚さ)
熱処理後の平角マグネットワイヤーの直線部から片端10mmを切断し電線サンプルを詐取し、電線サンプルを硬化剤で硬め、断面を研磨した。
このサンプルの断面をビデオマイクロスコープ(Keyence VHX-S660)で50倍に拡大し、上下左右の各々3か所(計12か所)測定し、平均値を算出して、被覆厚さとした。
【0120】
(曲げ加工内側の状態(膨れ))
凸形状部14を目視にて、被覆膨れの有無を確認した。
×:曲げ加工内側に膨れが観られた
〇:曲げ加工内側に膨れが観られなかった
【0121】
(曲げ加工内側の状態(空隙))
拡大鏡を用いて凸形状部14内側の空隙の有無を確認した。倍率は5倍とした
×:曲げ加工内側に空隙が観られた
〇:曲げ加工内側に空隙が観られなかった
【0122】
(曲げ加工外側の状態(亀裂))
凸形状部14を目視にて、被覆亀裂の有無を確認した。
×:曲げ加工外側に亀裂が観られた
〇:曲げ加工外側に亀裂が観られなかった
【0123】
(曲げ加工外側の状態(空隙))
拡大鏡を用いて凸形状部14外側の空隙の有無を確認した。倍率は5倍とした
×:曲げ加工外側に空隙が観られた
〇:曲げ加工外側に空隙が観られなかった
【0124】
(曲げ加工後の部分放電開始電圧(PDIV))
部分放電測定器(総研電気株式会社製DAC-PD-7)を用いて、曲げ加工済の2本の平角マグネットワイヤーの断面形状の長辺を含む面同士を、隙間が無いように重ね合わせた試験片を作成し、この2本の導体間に50Hz正弦波の交流電圧を加えることで測定した。昇圧速度50V/sec、降圧速度50V/sec、電圧保持時間を0secとして、10pC以上の放電が発生した時点の電圧を部分放電開始電圧とした。
【0125】
<チューブの成形方法>
実施例、比較例で使用した熱収縮チューブは、次の方法により作製した。表3に記載の特性を有するテトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)共重合体を、チューブ押出成形機(シリンダー軸径50mm、L/D=22)を用いて、ダイ温度380℃、引き取り速度0.6m/分で押出成形し、外径3.20mm、内径3.05mmのチューブを得た。このチューブを、所定のサイズの金属管内に挿入して、170℃に設定した電気炉中で、空気圧により加熱膨張した。直ちに、電気炉から取り出し、水冷して室温まで冷却した。この様にして外径4.00mm、内径3.80mmの熱収縮チューブを成形した。
【0126】
比較例1
上記で得られた熱収縮チューブ内に、平角導体(平角銅線、厚さ:2.00mm、幅:3.40mm、曲げ部を有していない)を挿入し、ヒートガンを用いて、熱収縮チューブを200℃で5分間加熱することによって収縮させて、平角導体の外表面に密着した被覆層を備える平角マグネットワイヤーを作製した。
【0127】
さらに、得られた平角マグネットワイヤーを、330℃で1分の条件で熱風循環炉内で加熱処理した。熱処理後の平角マグネットワイヤーの被覆層の厚みは、81μm程度であった。
【0128】
図4に示すように、工程1および工程2を含む方法を用いて、熱処理後の平角マグネットワイヤーを加工した。工程1において、金型41の上に平角マグネットワイヤー40を載せ、金型42で1Mpaの荷重を平角マグネットワイヤー40に与え、フラットワイズ方向およびエッジワイズ方向に曲げられた平角マグネットワイヤー43を得た。工程2において、平角マグネットワイヤー43を金型44に載せ、金型45で1Mpaの荷重を平角マグネットワイヤー43に与え、フラットワイズ方向およびエッジワイズ方向に曲げられた平角マグネットワイヤー46を得た。
【0129】
拡大鏡を用いて、平角マグネットワイヤー46を観察すると、凸形状部14の内側(エッジワイズ方向に曲げられた曲げ部の内周)の平角導体と被覆層との間に空隙が観られた。
【0130】
比較例2~3
共重合体を表3に記載の特性を有する共重合体に変更した以外は、比較例1と同様にして、平角マグネットワイヤーを作製した。得られた平角マグネットワイヤーを上記した方法により評価した。結果を表3に示す。
拡大鏡を用いて、得られた平角マグネットワイヤーを観察すると、凸形状部14の内側(エッジワイズ方向に曲げられた曲げ部の内周)の平角導体と被覆層との間に空隙が観られた。
【0131】
実施例1
被覆層を備える熱処理後の平角マグネットワイヤーに代えて、平角導体(厚さ:2.00mm、幅:3.40mm、曲げ部を有していない)を用いた以外は、比較例1と同様にして、フラットワイズ方向およびエッジワイズ方向に曲げられた平角導体46(被覆層を備えていない平角導体)を得た。
【0132】
上記で得られた熱収縮チューブ内に、上記で得られた曲げ加工済の平角導体46を挿入し、ヒートガンを用いて、熱収縮チューブを200℃で5分間加熱することによって収縮させて、平角導体の外表面に密着した被覆層を備える平角マグネットワイヤーを作製した。
【0133】
さらに、得られた平角マグネットワイヤーを、330℃で1分の条件で熱風循環炉内で加熱処理した。熱処理後の平角マグネットワイヤーの被覆層の厚みは、81μm程度であった。
【0134】
得られた平角マグネットワイヤーには、いずれの部分にも空隙が観られなかった。さらにPDIVは比較例よりも1割程度高い値を示した。
【0135】
実施例2~3
共重合体を表3に記載の特性を有する共重合体に変更した以外は、実施例1と同様にして、平角マグネットワイヤーを作製した。得られた平角マグネットワイヤーを上記した方法により評価した。結果を表3に示す。
得られた平角マグネットワイヤーには、いずれの実施例においても、いずれの部分にも空隙が観られなかった。さらにPDIVは比較例よりも1割程度高い値を示した。
【0136】
表3において、「COOH+COF(個/C100万個)」との記載は、共重合体の炭素原子106個に対する、共重合体の主鎖末端の-COOHおよび-COFの個数の合計を表す。また、「COOH+COF+CH2OH+CF2H+CO2CH3(個/C100万個)」との記載は、共重合体の炭素原子106個に対する、共重合体の主鎖末端の-COOH、-COF、-CH2OH、-CF2Hおよび-CO2CH3の個数の合計を表す。
【0137】
前記熱収縮チューブが、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有し、前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全モノマー単位に対して、0.4~4.0モル%である請求項1または2に記載の平角線。
前記熱収縮チューブにより形成される前記被覆層の外周に、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂を含有するPAEK層をさらに備える請求項1または2に記載の平角線。
前記被覆層を形成した後、得れた平角線に、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)樹脂を含有する熱収縮チューブを被せ、前記熱収縮チューブを収縮させることにより、PAEK層を形成する請求項10に記載の製造方法。
前記熱収縮チューブが、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有し、前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全モノマー単位に対して、0.4~4.0モル%である請求項14に記載の熱収縮チューブ。