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特開2024-74993皮膚常在細菌叢改善又は多様化用剤及びそれを含有する組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074993
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】皮膚常在細菌叢改善又は多様化用剤及びそれを含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/40 20060101AFI20240524BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240524BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240524BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A61K38/40
A61P31/04
A61P31/02
A61K8/64
A61Q19/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064779
(22)【出願日】2024-04-12
(62)【分割の表示】P 2019219464の分割
【原出願日】2019-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2018229259
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599012167
【氏名又は名称】株式会社NRLファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100113402
【弁理士】
【氏名又は名称】前 直美
(72)【発明者】
【氏名】大野 恵
(72)【発明者】
【氏名】牧田 亜耶乃
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 伸治
(72)【発明者】
【氏名】星野 達雄
(57)【要約】
【課題】 皮膚の常在細菌叢の改善又は多様化用の剤及び改善又は多様化用の組成物を提供することを目的とする。さらに、皮膚常在細菌叢の中で、ヒトの皮膚において有益な常在菌を特に損なわず、一般的に有害な菌のみに静菌又は殺菌作用を有する皮膚常在菌叢改善又は多様化用の剤及び改善又は多様化用の組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 ラクトフェリン又はその塩を有効成分とする皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤、ならびに前記皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤を含む医薬組成物又は化粧品組成物。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン又はその塩からなり、ヒト皮膚において表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に対して殺菌作用を示さず、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して殺菌又は増殖抑制作用を示す、皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤。
【請求項2】
請求項1記載の皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤を含み、ヒト皮膚において表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に対して殺菌作用を示さず、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して殺菌又は増殖抑制作用を示す、皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用組成物。
【請求項3】
請求項1記載の皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤を含み、ヒト皮膚において表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に対して殺菌作用を示さず、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して殺菌又は増殖抑制作用を示す、皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用医薬組成物。
【請求項4】
請求項1記載の皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤を含み、ヒト皮膚において表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に対して殺菌作用を示さず、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して殺菌又は増殖抑制作用を示す、皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用化粧品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の常在細菌叢を改善又は多様化するための剤及び皮膚の常在細菌叢改善又は多様化用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚には、腸に次いで多くの細菌が生息しており、凡そ1000種類相当、1兆個の常在菌が皮膚常在菌叢を形成している。近年、この皮膚常在菌叢の個人差が、皮膚の恒常的維持や疾患に関与していることが報告されている。健康な人間の皮膚は、弱酸性であり、このpH調整は、皮膚のあらゆる部位にいる表皮ブドウ球菌スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)などが抗菌作用のある脂肪酸を作り、弱アルカリ性環境を好む黄色ブドウ球菌スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)の増殖を抑えることによって成り立っている。
【0003】
アトピー性皮膚炎患者の皮膚病態部には黄色ブドウ球菌が優位に存在し、増悪期は皮膚細菌叢の多様性が低下し、黄色ブドウ球菌の割合が増加することが知られている。Mylesらは、健常人から採取した皮膚常在菌ロゼオモナス・ムコサ(Roseomonas mucosa)をアトピー性皮膚炎モデルマウスに移植すると、その症状は改善したが、アトピー性皮膚炎患者の皮膚から採取したロゼオモナス・ムコサでは症状が変化しないか、悪化したこと(非特許文献1)、また、健常人から採取したロゼオモナス・ムコサをアトピー性皮膚炎患者に塗布すると、重症度が半減し、副作用や合併症は生じなかったことを報告している(非特許文献2)。
【0004】
このように、皮膚において適切な環境を整え、有益な菌を増やし、細菌の多様性を向上させることは、有害な黄色ブドウ球菌や緑膿菌シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)の菌数を抑えることになり、皮膚細菌叢を改善し、健康な皮膚を維持していくことにつながると期待される。
【0005】
現在、黄色ブドウ球菌などに対して静菌又は殺菌作用を持つ薬剤や化粧品原料成分として、かなりの種類のものが報告されている。しかし、たとえば、N-アシルグルタミン酸含有洗浄剤、様々な植物抽出物などは、同じスタフィロコッカスに属する皮膚常在菌であれば表皮ブドウ球菌などの有益なものに対しても同等以上に静菌作用を持つため、皮膚常在菌叢改善剤としては不適切であった。
【0006】
また、ニガリとローズマリー抽出物又はカンゾウ抽出物を含有する皮膚常在菌の生態系バランス調整剤(特許文献1、特開2005-139075号公報)は、その効果も不充分で緑膿菌に対する静菌性については記載がなく、また、高価であるため現実的な使用に適さないものであった。セロビオースを含有する皮膚常在菌叢改善剤(特許文献2、特開2008-50322号公報)は、静菌作用についてはインビトロでの効果しか開示されておらず、ヒトに対する実施例は髪の毛、しっとり感の評価しかなく、皮膚における実際の常在菌叢改善効果は不明である。
【0007】
ラクトフェリンは、主に哺乳動物の乳汁中に存在し、好中球、涙、唾液、鼻汁、胆汁、精液などにも見出されている、分子量約80,000の糖タンパク質である。ラクトフェリンの生理活性としては、抗菌作用、鉄代謝調節作用、細胞増殖活性化作用、造血作用、抗炎症作用、抗酸化作用、食作用亢進作用、抗ウイルス作用、ビフィズス菌生育促進作用、抗がん作用、がん転移阻止作用、トランスロケーション阻止作用などが知られている。さらに、最近、ラクトフェリンが脂質代謝改善作用、鎮痛・抗ストレス作用、アンチエイジング作用を有することも明らかにされている。このように、ラクトフェリンは、多様な機能を示す多機能生理活性タンパク質であり、健康の回復又は増進のため、医薬品や食品などの用途に使用されることが期待されており、ラクトフェリンを含む食品は既に市販されている。
【0008】
しかし、ラクトフェリンの皮膚常在菌に対する作用については、インビトロでの評価により、表皮ブドウ球菌にも抗菌活性を持つことが報告されていたが、皮膚において実際にどのような抗菌作用を有するかについては知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-139075号公報
【特許文献2】特開2008-50322号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】JCI Insight. 2018 May 3;3(9). pii: 120608. doi: 10.1172/jci.insight.120608. “First-in-human topical microbiome transplantation with Roseomonas mucosa for atopic dermatitis.” Myles, et al.
【非特許文献2】JCI Insight. 2016 Jul 7;1(10). pii: e86955. “Transplantation of human skin microbiota in models of atopic dermatitis.” Myles, et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、皮膚の常在細菌叢の改善又は多様化用の剤及び改善又は多様化用の組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、皮膚常在細菌叢の中で、ヒトの皮膚において有益な常在菌を特に損なわず、一般的に有害な菌のみに静菌又は殺菌作用を有する皮膚常在菌叢改善又は多様化用の剤及び改善又は多様化用の組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、皮膚常在菌叢の中で一般的に有害な菌に対しては静菌又は殺菌活性を有するがヒトの皮膚において有益な菌を損なわない物質を鋭意探索した結果、驚くべきことにラクトフェリンが、インビトロでは有用な菌にも静菌又は殺菌効果を示すにもかかわらず、ヒトの皮膚においては、有害な菌のみに影響を与え、皮膚常在菌の多様性を高め、皮膚常在細菌叢を改善することを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕 ラクトフェリン又はその塩を有効成分とする皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤;
〔2〕 前記〔1〕記載の皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤を含む、組成物;
〔3〕 前記〔1〕記載の皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤を含む、医薬組成物;
〔4〕 前記〔1〕記載の皮膚常在細菌叢の改善又は多様化用剤を含む、化粧品組成物;
〔5〕 ラクトフェリン又はその塩を0.001~50%(W/W)の量で含有する皮膚外用剤である、前記〔3〕記載の医薬組成物;
〔6〕 ラクトフェリン又はその塩を0.00001~50%(W/W)の量で含有する、前記〔4〕記載の化粧品組成物;
〔7〕 ラクトフェリン又はその塩を0.00001~10%(W/W)の量で含有する入浴剤である、前記〔6〕記載の化粧品組成物
が、提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の剤又は組成物によれば、皮膚に有益である表皮ブドウ球菌などに対しては殺菌作用を示さず、有害である黄色ブドウ球菌などに対しては殺菌もしくは増殖抑制作用を有し、皮膚常在菌叢の多様化を促進させることができる。また、ラクトフェリンは、乳汁、粘液や好中球の成分であることから、経口での投与又は摂取であっても外用剤としての使用であっても非常に安全性が高く、副作用の報告もないうえ、他の薬物の生物活性を損なわずに各種の成分と併用することができる。したがって、本発明の剤又は組成物も同様に極めて安全性が高く、他の成分とも問題なく併用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、表皮ブドウ球菌(左)及びアクネ菌(右)について作成した検量線の図である。
図2図2は、本発明の組成物を使用開始前及び4週間塗布後の皮膚常在細菌叢の比較を示す図である。
図3図3は、本発明の組成物を使用開始前及び4週間塗布後の皮膚常在細菌叢のシャノン多様度指数の比較を示す図である(個人別)。
図4図4は、本発明の組成物を使用開始前及び4週間塗布後の皮膚常在細菌叢のシャノン多様度指数の比較を示す図である(平均)。
図5図5は、本発明の組成物を4週間塗布後の皮膚常在細菌(善玉菌:表皮ブドウ球菌、悪玉菌:黄色ブドウ球菌、日和見菌:アクネ菌)の平均変化率を示す図である。
図6図6は、本発明の組成物を使用前及び4週間塗布後の皮膚角質の比較を示す写真である。
図7図7は、角質グレードを表す写真である。
図8図8は、本発明の組成物を使用開始前及び4週間塗布後の角質グレード(パネルA)、有核数(パネルB)、及び重層剥離面積(パネルC)の比較を示す図である。
図9図9は、本発明の組成物を4週間塗布後の被験者のビジュアルアナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を使用したアンケート結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様である皮膚常在菌叢改善又は多様化用剤は、ラクトフェリン又はその塩を有効成分とする。また、本発明の一態様である皮膚常在菌叢改善又は多様化用組成物は、そのようなラクトフェリン又はその塩を有効成分とする本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用剤を、他の1以上の成分と共に含有する組成物である。
【0017】
本発明において使用される「ラクトフェリン」は、哺乳動物の乳汁等から抽出される生体由来のラクトフェリンに限らず、ラクトフェリンの生物活性、特に皮膚細菌叢の改善又は多様化作用を発揮するものであれば、いかなるラクトフェリンを用いてもよい。その例を挙げると、ヒトをはじめとする各種哺乳動物(たとえば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダなど)から得られる天然のラクトフェリン(たとえば、ウシの乳に含まれるウシラクトフェリン)、ラクトフェリンから常法によって鉄を除去したアポラクトフェリン(鉄イオンフリー型)、アポラクトフェリンに金属(鉄、銅、亜鉛、マンガンなど)イオンをキレートさせた金属飽和又は非飽和ラクトフェリン、遺伝子工学技術により生産される遺伝子組換えラクトフェリン、及びこれらのラクトフェリンにポリエチレングリコール鎖を結合させたものなどがある。なお、遺伝子組換えラクトフェリンには、改変されたラクトフェリン遺伝子に基づいて産生される組換え型ラクトフェリンのほか、トランスジェニック動物が泌乳するラクトフェリン、ラクトフェリンの活性フラグメントなどの機能的等価物も包含される。
【0018】
本発明において使用され得るラクトフェリンの塩とは、上記のような任意のラクトフェリンの、生理学的に許容され得る塩であり、たとえばナトリウム塩、カリウム塩、硫酸塩、リン酸塩などである。
【0019】
本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用の剤又は組成物は、上記のようなラクトフェリンの1種類のみを含んでいてもよく、又は2種類以上を含んでいてもよい。ラクトフェリンは公知の物質であるので、市販品を用いることができる。また、ラクトフェリンを含有する乳などから、公知の方法、たとえばスルホン化担体を用いてラクトフェリンを精製する方法(特開平3-109400号公報)によって単離又は精製したラクトフェリンを使用することができる。さらに、用途によっては、乳などからの分画物であってラクトフェリンを高濃度で含有するもの(たとえば、乳から糖類を除去した分画物)を使用することもできる。
【0020】
本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用剤は、ラクトフェリンを唯一の必須成分とするが、他の有効成分を含有してもよい。また、所望により、製薬、食品、化粧品などの業界で公知の種々の成分や添加剤を含んでいてもよい。本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用組成物は、1以上の上記のような成分を、本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用剤と共に含有する。本発明の組成物は、医薬組成物、飲食品組成物又は化粧品組成物などであることができ、それらの具体的な形態は、特に限定されない。また、本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用の剤又は組成物の投与(又は摂取もしくは適用)経路は、たとえば、経口、経皮、経腸、直腸内経路などから適宜選択することができる。
【0021】
本発明の一態様である医薬組成物は、皮膚外用剤(軟膏、クリーム、ローションなど)の剤形であることが好ましい。
【0022】
本発明に関して「化粧品組成物」は、皮膚などに塗布又は貼付するなどして使用される組成物であって医薬組成物に分類されないものであればよく、いわゆる基礎化粧品、メーキャップ化粧品、薬用化粧品、香水及びオーデコロン、仕上用化粧品、皮膚用化粧品、ヘアトニックなどの頭髪用化粧品、特殊用途化粧品、シャンプー、リンス、せっけん、入浴剤などを含む。
【0023】
本発明の組成物が含んでいてもよい添加剤としては、製薬、食品、化粧品などの業界で日常的に使用されている賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、流動性促進剤、着色剤、溶剤、増粘剤、分散剤、pH調整剤、保湿剤、安定化剤、保存料、香料などを挙げることができる。これらの添加剤は、所望の剤型などに応じて、適宜選択される。
【0024】
たとえば、本発明の医薬組成物などの組成物が、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの形態である場合には、用いる賦形剤としては、乳糖、蔗糖、グルコース、ソルビトール、ラクチトールなどの単糖又は二糖類、コーンスターチ、ポテトスターチのような澱粉類、結晶セルロース、無機物としては軽質シリカゲル、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、二酸化ケイ素などがある。また、必要に応じ、前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料などを適宜使用することができる。
【0025】
崩壊剤としては、澱粉類、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩、ポリビニルピロリドンなどがある。
結合剤としては、たとえば、澱粉、デキストリン、アラビアガム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0026】
界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステルなどが、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが、流動性促進剤としては、無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどが、それぞれ挙げられる。
【0027】
皮膚外用剤のような局所投与用の医薬組成物又は化粧品組成物は、その使用目的に応じて、通常用いられる公知の成分と配合することによって、液剤、固形剤、半固形剤等の各種剤形に調製することが可能である。好ましい組成物としては、軟膏剤、ジェル剤、クリーム剤、スプレー剤、貼付剤、ローション剤、乳剤、液剤、懸濁剤、粉末剤などが挙げられる。たとえば、本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用剤を、ワセリンなどの炭化水素、ステアリルアルコール、ミリスチン酸イソプロピルなどの高級脂肪酸低級アルキルエステル、ラノリンなどの動物性油脂、グリセリンなどの多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコールなどの界面活性剤、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、キサンタンガムなどの増粘剤、ヒアルロン酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウムなどの保湿剤、無機塩、有機塩、ロウ、樹脂、水、フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸メチルなどの保存料などの1以上の成分と混合することによって、皮膚外用剤である医薬組成物又は化粧品組成物を製造することができる。
【0028】
本発明の剤又は組成物は、単独で投与又は使用してもよく、他の薬剤と併用してもよい。また、本発明の剤又は組成物を他の薬剤と併用する場合は、両者を同時に用いてもよく、前後して用いてもよい。
【0029】
皮膚常在細菌叢の改善又は多様化に有効な本発明の剤又は組成物の1日当たりの投与(又は摂取もしくは適用)量は、その製剤形態、投与などの方法や経路、対象者の年齢及び体重などによって異なるが、たとえば経口経路の場合、ヒトでは、一般的には、有効成分のラクトフェリン量として約0.001g~約10g/kg/日、好ましくは約0.001g~約2g/kg/日を、最も好ましくは約0.01g~約1g/kg/日を、一度に又は分割して、投与又は摂取することができる。また、たとえば、外用剤として使用する場合は、0.001~50%(W/W)、化粧品組成物については0.00001~50%(W/W)の量で有効成分のラクトフェリン又はその塩を含有する組成物を、1日1~数回程度適用することができる。入浴剤組成物については、たとえば0.00001~10%(W/W)の量でラクトフェリン又はその塩を含有する組成物を製造し、使用時のラクトフェリン濃度が0.000002~0.2%(W/V)になるように水又は温水に溶解して使用することができる。
【0030】
本発明の剤又は組成物は、ヒト及びヒト以外の動物、好ましくは哺乳類に同様に投与(又は摂取もしくは適用)することができる。ヒト以外の動物の例としては、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどの家畜、及びイヌ、ネコなどのコンパニオン動物が挙げられる。外用剤等の投与量については上記と同様の量で使用することができる。
【0031】
本発明の剤又は組成物により、皮膚細菌叢が改善又は正常化されたか否かは、本発明の剤又は組成物の投与(又は摂取もしくは適用)の前、中、後、あるいは投与(又は摂取もしくは適用)後の2以上の時点で被験者の皮膚から採取した検体を用いて、16S rRNA遺伝子の増幅に基づく細菌叢解析手法により、皮膚常在細菌叢における多様度指数を算出し、採取された時点の異なる複数の検体の数値を比較することにより、判定することができる。
【0032】
検体としては、皮膚から採取される試料であって、皮膚の細菌が含まれるものであればよく、採取方法も限定されないが、たとえば市販の皮膚常在菌採取用テープなどが簡便に使用される。
【0033】
検体を採取する時点の組み合わせについては特に限定されず、1日以上のインターバルがあればよく、本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用の剤又は組成物の投与(又は摂取もしくは適用)前、投与(又は摂取もしくは適用)中、あるいは投与(又は摂取もしくは適用)後の任意の時点であることができる。2以上の時点の検体は、本発明の皮膚常在菌叢改善又は多様化用の剤又は組成物の投与(又は摂取もしくは適用)中、あるいは投与(又は摂取もしくは適用)後の少なくとも1つの検体を含むことが好ましい。たとえば、2つの時点の検体を採取する場合、本発明の剤又は組成物の投与(又は摂取もしくは適用)前と、投与(又は摂取もしくは適用)中あるいは後;投与(又は摂取もしくは適用)中の2回の異なる時点;投与(又は摂取もしくは適用)中と、投与(又は摂取もしくは適用)後;投与(又は摂取もしくは適用)後の2回の異なる時点のいずれかであることが好ましい。
【0034】
細菌叢改善又は多様化の効果判定方法において使用される細菌叢解析手法は、一般に、以下の工程を含む:(1)被験者から採取した検体中のゲノムDNAを抽出し、細菌由来の16S rRNA遺伝子のDNA配列の一部又は全長を増幅させる;(2)DNA増幅産物にアダプター配列を付与したライブラリーを作製し、次世代シーケンサーにてシーケンスを行う;(3)得られたシーケンスリードは、データ解析のソフトウェアを組みあわせて、菌の由来と検体中の占有率を推定する。
【0035】
16S rRNA遺伝子の増幅に基づく細菌叢解析手法としては、たとえば16Sアンプリコンシーケンス法、ショットガンシーケンス法、16S全長アンプリコンシーケンス法など、又はそれらと同等の細菌叢解析法が挙げられる。
【0036】
本発明に関して、皮膚常在細菌叢が改善された状態は、前記のような16S rRNA遺伝子の増幅に基づく細菌叢解析手法により、2つの時点で皮膚から採取された検体を測定して比較した場合に、後に採取された検体におけるシャノン多様度指数(Shannon Diversity Index)が増大した状態を指す。
【0037】
本発明の効果は、皮膚又は角質の状態等を評価することによっても判定することができる。たとえば、皮膚細胞は、年齢によりターンオーバーが不十分になり、テープによる剥離された角化細胞の面積が増加する。適正なターンオーバーほど剥離面積が小さく、健康な状態の皮膚を示す。したがって、皮膚から得られた検体の角質が、所定の角質グレードのどれに相当するかを評価し、皮膚の改善状態を判定することができる。
【0038】
また、正常な皮膚のターンオーバーは28日周期であるが、種々の要因により乱れることが分かっており、不完全角化となる。表皮細胞は通常最外層に近づくにつれ、脱核化状態となり角化細胞となるが、不完全角化の状態では、核を持った有核細胞が表皮に現れる。有核細胞は角化細胞として未熟であり、保湿やバリヤ機能が落ちるため、皮膚の老化などが早まる。したがって、皮膚から得られた検体の細胞の有核細胞数(有核数)を評価することにより、皮膚の状態を判定することができる。
【0039】
テープ等で角化細胞を剥離させたときに、角層が重なって剥がれることを重層剥離という。重層剥離の多い皮膚は、バリヤ機能が低下し、保湿能や炎症を起こしている状態であるため、その量を測定することで皮膚の状態を評価することもできる。
【実施例0040】
以下に、例を示して、本発明をより具体的に説明する。以下に示す例、特に処方例は代表的又は一般的な例であって、本発明を限定するものではない。
【0041】
〔試験例1〕インビトロでのラクトフェリンの抗菌活性
液体培養法及び固体培養法(改変カップ法)を用いてラクトフェリンの黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、アクネ菌キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)に対する抗菌活性を調べた。
【0042】
1)被検菌の培養条件検討
Staphylococcus aureus IFO12732(以下、SAと表記)及びStaphylococcus epidermidis NBRC 100911(以下、SEと表記)はミュラーヒントン培地(BD社)、Cutibacterium acnes NBRC 10765(以下、CAと表記)はGAM培地(ニッスイ)の希釈培地(1/2、1/5、1/10)を用いて37℃で静置培養(液体培養、固体培養)を行い、20時間後の生育状態を観察した。なお、CAは嫌気性菌であるため、嫌気ジャーとアネロパック(型番A-110、三菱ガス化学社製)を用い嫌気培養を行った。
【0043】
その結果、いずれの菌も全ての希釈培地(液体培地、固体培地)において37℃、20時間後の生育が確認されたため、以降の実験は1/10培地で実施することに決定した。
【0044】
2)検量線の作成
SEは、1/10 MH培地を用い、37℃、120rpm、22時間振盪培養後、倍々希釈(4段階)して濁度(OD660)を測定した。それらを適宜希釈後、各3枚ずつ1/10 MH寒天培地に撒き、37℃で44時間静置培養後、コロニー数をカウントして検量線を作成した。
【0045】
CAは、1/10 GAM寒天培地で37℃、22時間嫌気培養後、シャーレよりコロニーをかき取って1/10 GAM培地に懸濁したものを倍々希釈(4段階)して濁度(OD660)を測定した。それらを適宜希釈後、各3枚ずつ1/10 GAM寒天培地に撒き、37℃で70時間培養後、コロニー数をカウントして検量線を作成した。
【0046】
結果を図1に示す。図1において、縦軸はOD660、横軸はcfu/ml(×10)である。
【0047】
3)液体培養法による抗菌活性の検証1
液体培養法により、主な皮膚常在菌に対するラクトフェリンの最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。
ラクトフェリン(Tatura社製又は森永乳業製など、乳由来の精製ラクトフェリン粉末、他の例においても使用;以下、LFと表記)及びネガティブコントロールとして用いたバクトペプトン(BD社製;以下、BPと表記)は1/10培地で終濃度100mg/mlに、ポジティブコントロールとして用いたクロロテトラサイクリン塩酸塩(以下、CTCと表記)は1/10培地で終濃度10μg/mlに調製後、それぞれフィルター滅菌して使用した。
【0048】
各サンプルは96ウェルプレートを用いて20段階希釈を行い、アッセイに用いた。
SA及びSEは、1/10 MH培地を用い37℃、120rpmで20時間振盪培養した菌液のOD660を測定し、先に求めた検量線より終濃度 1×10cfu/mlとなるよう調製した。また、CAは1/10 GAM寒天培地を用い37℃、20時間静置嫌気培養後、シャーレよりかき取って1/10 GAM培地に懸濁した菌液のOD660を測定し、先に求めた検量線より終濃度 1×10 cfu/mlとなるよう調製した。
【0049】
これらの菌液を96ウェルプレートに10%(V/V)添加し(終濃度1×10 cfu/ml)、プレートミキサーを用いて1分程度振盪攪拌後、37℃で静置培養(CAは静置嫌気培養)を行った。
【0050】
22時間培養後及び27時間培養後に観察したところ、SAはコントロールの生育は悪いもののLFに強い抗菌活性が認められた。この時点でBPには抗菌活性は認められず、CTCに弱い抗菌活性が認められた。SEはコントロール、LF、CTCいずれも殆ど生育していなかったが、BPは明らかに生育を促進していることが分かった。CAはコントロールも含め全く生育していなかった。
【0051】
いずれの菌もコントロールが十分生育していないため延長培養を行い、48時間培養後プレートリーダーを用いてOD650を測定した。
【0052】
結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1からわかるとおり、LFはいずれの菌に対しても強い抗菌活性を示し、LF感受性の強さはSE>SA>CAの順であった。またBPはCAに対して弱い抗菌活性を示した。
【0055】
なお、144時間培養後、LFのMICはいずれの菌に対しても変化しなかったが(殺菌的)、CTCは最高濃度の10μg/mlでも菌は完全増殖になっていた(静菌的)。
【0056】
4)液体培養法による抗菌活性の検証2
検証1の結果、LFの抗菌活性が想定以上に強く出たため、LFのみ定法で再アッセイを行った。すなわち、通常濃度の培地を用い、接種菌量を終濃度1×10cfu/mlに戻し、培養開始より22時間後(SA、SE)及び48時間後(SA、SE、CA)に生育を観察した。
【0057】
22時間後、SAでは100mg/mlで僅かに生育(コントロールの約10%)するが、50~12.5mg/mlでは100%生育阻害しており、SEでは100~25mg/mlで生育(コントロールの約80%)するが、12.5~1.56mg/mlでは100%生育阻害していることが分かった。CAはコントロールも全く生育しておらず測定不能のため、延長培養を行い、48時間後にOD650を測定した。
【0058】
結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、SAとSEに対してはLFの抗菌活性が認められたが、CAに対しては活性が確認できなかった。感受性の強さは検証1と同様、SE>SA>CAの順であった。
【0061】
5)固体培養法(改変カップ法)による抗菌活性の検証
LFは、各1/10培地で終濃度100mg/mlに調製後、フィルター滅菌し、倍々希釈(5段階)した。
【0062】
予め作製しておいた1/10寒天培地(20ml/シャーレ)に滅菌済みペニシリンカップを5個ずつ立て、そこへ終濃度1×10cfu/mlに調製した菌液を含む1/10寒天培地5mlを流し込み、固化後カップを取り除いて出来た窪みに上記LF溶液を50μlずつ分注し、37℃で静置培養(CAは嫌気培養)を行った(各菌2枚ずつ)。20時間後の観察では菌がほとんど生育していなかったため、40時間後に1回目の阻止円直径(mm)の計測を行った。
【0063】
結果を表3に示す。SA、SEともに濃度依存的に阻止円が観測できたが、CAでは二重円になっており、外側の円は不透明であった。
【0064】
【表3】
【0065】
さらに20時間後(60時間培養)、2回目の阻止円直径(mm)計測を行った。結果を表4に示す。CAの外側の円には菌が生育していたので、阻止円は内側の透明な部分であることが分かった。
【0066】
【表4】
【0067】
これらの結果より、固体培養法(改変カップ法)においてLFはいずれの菌に対しても抗菌活性を示し、感受性の強さは液体培養法により測定した場合と同様、SE>SA>CAの順であった。
【0068】
以上から、インビトロにおいては、ラクトフェリンは、液体培養法、固体培養法(改変カップ法)のいずれにおいても、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、アクネ菌に対して抗菌活性を示し、ラクトフェリン感受性の強さは表皮ブドウ球菌>黄色ブドウ球菌>アクネ菌の順であった。
【0069】
〔製造例1〕 皮膚外用剤(クリーム剤)の製造
表5に示す処方のラクトフェリン含有皮膚外用剤(クリーム剤)を製造した。
【0070】
<クリーム剤の処方例>
【表5】
【0071】
〔製造例2〕 化粧水の製造
ラクトフェリン含有化粧水を、表6に示す処方で製造した。
【0072】
<化粧水の処方例>
【表6】
【0073】
〔製造例3〕 乳液の製造
ラクトフェリン含有乳液を、表7に示す処方で製造した。
【0074】
<乳液の処方例>
【表7】
【0075】
〔製造例4〕 美容液の製造
ラクトフェリン含有美容液を、表8に示す成分で製造した。
【0076】
<美容液の処方例>
【表8】
【0077】
〔製造例6〕 ジェルの製造
ラクトフェリン含有ジェルを、表9に示す成分で製造した。
【0078】
<ジェルの処方例>
【表9】
【0079】
〔試験例2〕 ヒトに対する皮膚常在菌叢の多様化効果の検討
皮膚常在菌叢及び角質状態に対するラクトフェリン配合クリーム剤の有用性の検証を目的としてオープン試験を実施した。実施に当たって、株式会社NRLファーマの開催する倫理委員会にて承認を得て行った。
【0080】
被験者として、30から49歳の乾燥肌の自覚がある日本人女性10名(平均年齢33.5歳)を選定した(表10)。
【0081】
【表10】
【0082】
被験者の選定に際し、アトピー性皮膚炎患者、ラクトフェリン配合の健康食品を摂取している者、妊娠中及び授乳中の者、薬剤又は食品にアレルギーがある者(特に牛乳アレルギー)、本試験に不適当と判断した者、本人又は家族が化粧品・医薬品・衛生用品会社に勤務している者は除外とした。
【0083】
試験方法は以下のとおりであった。被験者は、1日2回朝晩の洗顔・スキンケア時に、適量(約0.5g)のラクトフェリン配合クリーム剤(製造例1で製造したもの;ラクトフェリン0.5%(W/W)含有)を全顔に塗布し、4週間継続した。また、被験者は、主要評価項目として、皮膚常在細菌叢及び角質細胞を調べるために、塗布開始前及び4週間後に、各々のサンプリング用テープ(皮膚常在菌採取:MySkin(登録商標)サンプル採取用シール、TAK-Circulator社;角質細胞採取:角質チェッカー(商品名)PROタイプ、PROMOTOOL社)を使用して、皮膚常在菌採取(採取用テープ1枚を額におさえつけはがす)及び角質細胞採取(採取用テープ1枚を右頬おさえつけはがす)を行い、家庭用冷蔵庫に保存した。その他に、副次評価項目として、塗布開始前、4週間後の自記式アンケートにて自覚する肌状態の評価を行った。なお、各被験者は、塗布開始日の前日まで、及び試験期間中も、各被験者が使用していた市販の化粧品を同様に使用していた。
【0084】
1) 皮膚常在菌叢の解析
上記のように採取した皮膚常在菌採取用テープからDNAの抽出を行った。抽出から、菌叢の解析は、MySkin(登録商標)を採用し、TAK-Circulator社に依頼して実施した。なお、DNAの抽出は、森田らの方法(MicrobesEnviron. Vol22, No.3, 214-222, 2007)によって行うこともできる。
【0085】
得られたDNA溶液を用い、溶液内に含まれる16SリボゾームRNA遺伝子をPCR法により増幅した後、シークエンサー(NGS)(Miseq illumina社製)を用いてDNA解析を行った。
【0086】
以上のようにして得られた結果を、パイプライン解析ツールQiimeを用いて解析し、577菌種の16SリボゾームRNAの発現総量を1として、各々の細菌の相対発現量を評価した。さらに、細菌をPhylum(門)のテルミ(Thermi)、アシドバクテリア(Acidobacteria)、アシネトバクテリア(Actinobacteria)、アルマティモナス(Armatimonadetes)、バクテロイデテス(Bacteroidetes)、クロロビウム(Chlorobi)、クロロフレクサス(Chloroflexi)、シアノバクテリア(Cyanobacteria)、ディフェリバクター(Deferribacteres)、ファーミキューテス(Firmicutes)、フソバクテリア(Fusobacteria)、ゲンマティモナス(Gemmatimonadetes)、GN02、プランクトミセス(Planctomycetes)、プロテオバクテリア(Proteobacteria)、スピロヘータ(Spirochaetes)、SR1、シネルギステス(Synergistetes)、テネリクテス(Tenericutes)、TM6、TM7、ベルコミクロビア(Verrucomicrobia)、及び「その他」の23種類に分類し、被験者の皮膚常在菌の各門多様度指数をシャノン-ウィーバー指標(Shannon-Wiener)のh’より求め、23種の総和を多様度指数H’を計算し、使用前と4週間使用後の多様度指数を求めた。
式 h’=-門相対発現量/全門発現総量×log門相対発現量/全門発現総量
H’=h’の総和
【0087】
【数1】
【0088】
結果を図2~5に示す。図2は、各被験者の皮膚常在菌叢の解析結果である。各被験者において、本発明の一態様のラクトフェリン含有皮膚外用剤塗布により、皮膚常在菌叢の変化が見られた。
【0089】
図3は、シャノン-ウィーバー指標を用いて各被験者の開始前、4週間後の皮膚常在菌叢の多様度指数を求めたものである。一部の被験者を除き、多様度指数の増加が見られ、皮膚常在菌の多様性が改善した。
【0090】
図4は、図3に示した全被験者の開始前、4週間後の皮膚常在菌叢の多様度指数の平均を求めたものである。全体として、多様性の改善傾向が見られた。
【0091】
図5は、全被験者の主要皮膚常在菌(インビトロで評価を行った3種の菌)について変化率を調べたものである(計算式:4週間後の%/開始前の%)。多様性指数の増加とともに善玉菌である表皮ブドウ球菌が2倍以上に増加し、悪玉菌である黄色ブドウ球菌が減少した。日和見菌であるアクネ菌と比べても顕著に増加(p<0.05)した。このことから、皮膚常在菌叢が改善され、それにより、皮膚の状態が改善された(後述)と考えられる。
【0092】
以上のとおり、本発明の一態様のラクトフェリン含有皮膚外用剤塗布前と比べ、4週間使用後に、多様度指数は増加し、皮膚常在菌叢は改善される傾向が見られた。
【0093】
2) 角質細胞の解析
角質チェッカーを染色液に浸漬させ、10分程度染色を行った。染色液は、ゲンチアナバイオレット(細胞質染色用)を1.0(w/v)%、ブリリアントグリーン(核染色用)を0.5(w/v)%となるように蒸留水に溶解した。角質チェッカーを10分間程度水に浸し、余分な染色液を洗い流した。この際に角質細胞が剥離しないように気を付けて洗浄した。
【0094】
風乾させたのち、顕微鏡下で観察を行った。染色された角質は、500万画素のCMOSカメラ(顕微鏡アダプター3R-DKMC01 3R社)を用いてAnyty Microscopeソフトで撮影した(図6)。角質グレードは、図7に示す基準に従い、剥離面積の少ないものを最も状態の良いグレード0とし、グレード5までの6段階で評価した。目視により角質剥離面積量、有核細胞数、角質層の重層剥離面積率(重層剥離面積率(%)=重層剥離面積/角質剥離面積×100)を算出し、開始前及び4週間後を比較した。
【0095】
結果を図8に示す。パネルAは、図7の角質グレードの写真をもとに図6の各被験者の開始前と4週間後の角質グレードを評価したものである。全体的に4週間後の角質グレード値の減少が見られ、平均値も4週間後に改善が見られた。スチューデントのt検定により開始前、4週間後の角質グレードを評価するとp=0.00458と有意に改善が見られた。
【0096】
パネルBは、図6の各被験者の開始前と4週間後の角化細胞の有核数を数えたものである。開始前に有核数が多かった被験者は4週間後に顕著に有核数が減少し、改善が見られ、一方、有核数が少なかった被験者は変動が見られなかった。平均値も4週間後に改善が見られた。スチューデントのt検定により開始前、4週間後の有核数を評価するとp=0.0174と有意に改善が見られた。
【0097】
パネルCは、図6の各被験者の開始前と4週間後の重層剥離面積率を求めたものである。重層剥離面積は、一部の被験者で4週間後に増悪したものの、全体的に減少傾向が見られ、平均値でも改善の傾向が認められた。
このことから、本発明の一態様のラクトフェリン含有皮膚外用剤の使用により、皮膚常在菌叢が多様化され、皮膚の状態を改善することが分かった。
【0098】
3) 副次評価項目
被験者に対し、ビジュアルアナログスケール(VAS)(0~10、0はすごく改善、10はすごく悪化、5は変化なし)を用いて、製造例1の皮膚外用剤の使用感(かさつき、くすみ、赤み、しみ・そばかす、にきび、吹き出物、額・眉間のしわ、目尻のしわ、目元のたるみ、口もとのたるみ、滑らかさ、はり、つや、きめ、化粧のり、化粧もち、肌の状態総合評価)についてアンケート調査し、本発明の一態様のラクトフェリン含有皮膚外用剤による改善度を求めた。
【0099】
結果を表11及び図9に示す。
【0100】
【表11】
【0101】
すべての項目で改善が見られ、T検定により、かさつき、くすみ、赤み、額・眉間のしわ、目尻のしわ、目元のたるみ、口もとのたるみ、滑らかさ、はり、つや、きめ、化粧のり、化粧もち、肌の状態総合評価において統計的有意差が得られた。
【0102】
〔製造例7〕 入浴剤の製造
ラクトフェリン含有入浴剤を、表12に示す処方で製造した。
(使用時、150~300Lの温水に対し、本入浴剤10~60gを溶解する。)
【0103】
<入浴剤の処方例>
【表12】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9