IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 遠藤工業株式会社の特許一覧

特開2024-750電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法
<>
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図1
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図2
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図3
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図4
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図5
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図6
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図7
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図8
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図9
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図10
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図11
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図12
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図13
  • 特開-電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000750
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66D 1/46 20060101AFI20231226BHJP
   H02P 29/00 20160101ALI20231226BHJP
【FI】
B66D1/46 B
B66D1/46 E
H02P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099631
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000121327
【氏名又は名称】遠藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】弁理士法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】横山 陽哉
(72)【発明者】
【氏名】灰野 拓己
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA06
5H501BB04
5H501DD01
5H501GG03
5H501KK07
5H501LL01
5H501LL48
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】荷役物の重量に応じてサーボモータの回転速度を好適に設定又は荷役物の運搬速度を好適に設定して荷役物の運搬時間を短縮化できる電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法を提供する。
【解決手段】荷役物2を運搬するための動力を供給するサーボモータ6と、サーボモータ6の駆動を制御する制御部15と、を有する電動式荷役装置1において、制御部15へ使用者が情報を入力するための入力部20を有し、制御部15は、使用者によって入力部20から入力された荷役物2の重量又は使用者によって入力部20から入力されたサーボモータ6で荷役物2を吊り上げるために必要なトルクと、サーボモータ6の回転速度に対するトルクの特性とに基づいて、サーボモータ6が動作可能な最高回転速度又は電動式荷役装置1が動作可能な荷役物2の最高昇降速度を算出し、前記最高回転速度又は前記最高昇降速度を上限としてサーボモータ6を駆動する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役物を運搬するための動力を供給するサーボモータと、
前記サーボモータの駆動を制御する制御部と、を有する電動式荷役装置において、
前記制御部へ使用者が情報を入力するための入力部を有し、
前記制御部は、使用者によって前記入力部から入力された前記荷役物の重量又は使用者によって前記入力部から入力された前記サーボモータで前記荷役物を吊り上げるために必要なトルクと、前記サーボモータの回転速度に対するトルクの特性とに基づいて、前記サーボモータが動作可能な最高回転速度又は前記電動式荷役装置が動作可能な前記荷役物の最高昇降速度を算出し、前記最高回転速度又は前記最高昇降速度を上限として前記サーボモータを駆動することを特徴とする電動式荷役装置。
【請求項2】
前記制御部で算出された前記最高回転速度又は前記最高昇降速度を表示するための表示部を有し、
前記制御部は、前記最高回転速度又は前記最高昇降速度の範囲内で使用者によって前記入力部から入力された前記サーボモータの所望の最高回転速度又は前記荷役物の所望の最高昇降速度を上限として前記サーボモータを駆動することを特徴とする請求項1に記載の電動式荷役装置。
【請求項3】
前記荷役物の重量を検出するための重量センサを有し、
前記制御部は、使用者によって前記入力部から入力された前記荷役物の重量を、前記重量センサで検出された前記荷役物の重量が上回る場合、前記電動式荷役装置による前記荷役物の上昇方向の動作を禁止することを特徴とする請求項2に記載の電動式荷役装置。
【請求項4】
前記サーボモータのトルクを検出するためのトルク検出手段を有し、
前記制御部は、使用者によって前記入力部から入力された前記荷役物の重量を、前記トルク検出手段で検出された前記サーボモータのトルクから推定される前記荷役物の重量が上回る場合、又は使用者によって前記入力部から入力された前記サーボモータで前記荷役物を吊り上げるために必要なトルクを、前記トルク検出手段で検出された前記サーボモータのトルクが上回る場合、前記電動式荷役装置による前記荷役物の上昇方向の動作を禁止することを特徴とする請求項2に記載の電動式荷役装置。
【請求項5】
使用者が前記電動式荷役装置を操作するための操作手段と、
使用者による前記操作手段のアナログな操作量を検出する操作量検出部と、を有し、
前記制御部は、前記操作量検出部で検出された前記操作手段の操作量に応じて前記サーボモータの回転速度を0から前記最高回転速度まで又は前記荷役物の昇降速度を0から前記最高昇降速度まで無段階に調整することを特徴とする請求項2に記載の電動式荷役装置。
【請求項6】
使用者が前記電動式荷役装置を操作するための操作手段と、
使用者による前記操作手段のオン/オフ操作を検出するオン/オフ操作検出部と、を有し、
前記制御部は、前記オン/オフ操作検出部で前記操作手段のオン操作が検出された際に前記サーボモータを所定の回転速度で駆動する又は前記荷役物を所定の昇降速度で運搬するように前記サーボモータを駆動することを特徴とする請求項2に記載の電動式荷役装置。
【請求項7】
使用者が前記電動式荷役装置を無線通信で操作するための無線操作手段と、
前記無線操作手段からの操作信号を受信して前記制御部へ伝達する無線受信部と、を有することを特徴とする請求項2に記載の電動式荷役装置。
【請求項8】
前記荷役物を吊るすチェーンを巻き上げるためのシーブと、
前記シーブに前記サーボモータの回転を伝達する減速機と、を有し、
前記サーボモータのトルクが垂下する特性が以下のトルク垂下特性直線で示される場合、
T=-a・N+T
ただし、
T:前記サーボモータの出力トルク
a:前記トルク垂下特性直線の傾き
N:前記サーボモータの回転速度
:前記トルク垂下特性直線を延長した回転速度0のときの仮想トルク値
前記制御部は、前記最高回転速度又は前記最高昇降速度を以下の式に基づいて算出することを特徴とする請求項2に記載の電動式荷役装置。
={T-r・W/(η・R)}/a
=2πrN/R
ただし、
:前記最高回転速度
:前記最高昇降速度
:前記荷役物の重量
r:前記シーブの半径
R:前記減速機の減速比
η:前記減速機の伝達効率
【請求項9】
電動式荷役装置に備えられたサーボモータの駆動制御方法であって、
使用者によって入力された荷役物の重量又は使用者によって入力された前記サーボモータで前記荷役物を吊り上げるために必要なトルクと、前記サーボモータの回転速度及びトルクの特性とに基づいて、前記サーボモータが動作可能な最高回転速度又は前記電動式荷役装置が動作可能な前記荷役物の最高昇降速度を算出するステップと、
前記最高回転速度又は前記最高昇降速度の範囲内で使用者によって入力された前記サーボモータの所望の最高回転速度又は前記荷役物の所望の最高昇降速度を上限として前記サーボモータを駆動するステップと、を含むことを特徴とするサーボモータの駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上げ式昇降機や多関節のアーム式昇降機等の電動式荷役装置に関する。特に本発明は、操作グリップや操作ペンダントスイッチ等の操作手段による操作に基づいて荷役物を上下方向に昇降して運搬する電動式荷役装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンの従来の制御方法として特許文献1に示すような方法がある。この方法では、吊り上げた荷役物の重量を検出し、その重量から出力可能なトルク及び動作可能な加減速度及び動作速度を算出して加減速制御を行うことにより、昇降動作時間の短縮化を図り作業性の向上を図っている。
【0003】
特許文献1は、トルクに関する記載はないものの、動作可能な加減速度及び速度の設定はトルクによって決まるため、当該記載は省略されていると考えられる。例えば、クレーンの定格重量に対して実際に吊り上げた荷役物の重量が小さい場合は、定格重量を吊り上げた場合と比較すると、小さなトルクで荷役物を動かすことが可能になる。このため、加速度、減速度を上げて昇降速度を速くすることができ、その結果昇降動作に要する時間をより短くして運搬作業を完了することが可能になる。このように荷役物の重量に応じてクレーンの加減速度及び速度を制御することにより、昇降動作に要する時間は荷役物の重量とモータの出力容量に応じて最適化することができると考えられる。
【0004】
上述した制御方法は、クレーンの揚程(昇降動作距離)が10mを越えるような長い場合において特に有効に機能すると考えられるが、工場の組み立てライン等における作業のように揚程が1~2m程度と比較的短く、さらに操作グリップや操作レバーによって微妙な速度調整や位置設定動作が必要になるような作業には適していないと考えられる。なぜなら、上述した制御方法では荷役物を吊り上げ昇降動作させるまで昇降速度が分からないため、細やかな速度調整や位置設定操作が容易でないと考えられるためである。
【0005】
次に、電動式荷役装置に搭載される電動機について説明する。現状の電動式荷役装置に搭載される電動機は、トルクモータ、直流モータ、誘導電動機、サーボモータ等の様々な種類のモータがある。特にサーボモータはAC(Alternating Current)サーボモータ、DC(Direct Current)サーボモータがあり、さらにACサーボモータは同期形ACサーボモータ、誘導形ACサーボモータがある。電動式荷役装置にサーボモータを搭載しようとする場合、メンテナンス性、エネルギー効率及びモータ出力容量等を考慮すると、同期型ACサーボモータが最も適していると考えられる。このため、以下のサーボモータの説明では、同期型ACサーボモータを電動式荷役装置に搭載する場合を想定して説明する。
【0006】
図5は、従来の電動式荷役装置であって、電動機としてDCモータを搭載し、電動機の回転情報(回転速度や回転位置等の情報)を検出しないオープンループ制御を行う電動式荷役装置の構成を示す図である。
【0007】
図5に示す従来の電動式荷役装置100において、使用者が操作ボックス101の操作グリップ102を例えば上昇方向に操作すると、操作量検出部103で上昇方向のグリップ操作量が検出される。操作量検出部103で検出されたグリップ操作量は、速度指令変換部104によって速度指令に変換され、上昇方向のグリップ速度指令が発行される。速度指令変換部104で発行されたグリップ上昇速度指令は、増幅器105で増幅されモータ駆動部106でモータ駆動指令に変換され、電動機107へ入力される。電動機107はモータ駆動指令に基づいて回転し、この回転は減速機108を介してシーブ(ロードシーブ)109に伝達される。これにより、シーブ109が回転してチェーン(ロードチェーン)110が巻き上げられ、チェーン110先端のフック111に吊り下げられた荷役物112が上昇する。このようにして電動式荷役装置100の昇降機構(107~111)は上昇方向に動作し、使用者が操作グリップ102の操作を止めると、昇降機構はその場で停止する。そして、使用者が操作グリップ102を下降方向に操作すると、昇降機構は下降方向に動作を開始し、操作グリップ102の下降方向への操作が中止されるまで下降方向の動作を継続する。
【0008】
電動式荷役装置100に電動機107として搭載されているDCモータは、DCモータに印加する直流電圧を一定とすると、図6に示すような回転速度に対するトルクの垂下特性を有する。このため、荷役物112の重量によってトルクが変わると昇降速度も変化する。このときの動作を、図6を用いて説明する。図6において荷役物112の重量が大きくなり昇降動作に必要なDCモータのトルクが大きくなると、動作点(トルクの垂下特性を示す直線(トルク垂下特性直線)上の動作点)Pは左上方向に移動することとなり、その結果DCモータの回転速度が下がり昇降速度も低下する。一方、荷役物112の重量が小さい場合は、荷役物112を昇降するために必要とされるトルクが小さくなるため、動作点Pは図6の右下方向へ移動することとなり、回転速度が上がり昇降速度も上昇することとなる。
【0009】
斯かる電動式荷役装置100を使用して重量不明の荷役物112を吊り上げて昇降動作させる場合、実際に操作グリップ102を操作して荷役物112を吊り上げ動かしてみなければ、どの程度の速度で昇降動作するか分からない。このため、電動式荷役装置100の使用者は、荷役物112の実際の昇降速度を視認しながら操作グリップ102を操作する必要がある。操作グリップ102によって速度指令値を変えて荷役物112の昇降速度を変えることはできるものの、オープンループ制御の場合は吊り上げた荷役物112の重量により昇降速度が変わってしまう。このため、電動式荷役装置100は、特許文献1で述べたクレーンと同様、細やかな速度調整や位置設定動作が求められるような作業には適していない。
【0010】
図7は、従来の電動式荷役装置であって、電動機としてサーボモータを搭載した電動式荷役装置の構成を示す図である。
【0011】
図7に示す電動式荷役装置113では、回転速度検出部114で検出したサーボモータ115の回転速度の情報を読み取りサーボモータ115を制御する、速度フィードバックによるクローズドループ制御が行われる。この制御では、メイン制御回路(速度指令差分演算部)116において、速度指令変換部104からの速度指令値と、回転速度検出部114で検出されフィードバックされたサーボモータ115の現在速度との間で差分演算処理が行われ、その結果得られた差分速度が増幅器105で増幅されモータ駆動部106でモータ駆動指令に変換され、これに基づいてサーボモータ115が駆動される。
【0012】
斯かる速度フィードバックによるクローズドループ制御では、差分速度が略0、即ちグリップ操作に基づいて速度指令変換部104から発行された速度指令値と回転速度検出部114で検出されたサーボモータ115の現在速度とが一致するまでフィードバック制御が行われる。このため、電動式荷役装置113に搭載されたサーボモータ115の出力容量が荷役物112の重量に対して十分に大きければ、荷役物112の重量の大小に関係なく、操作グリップ102からの速度指令通りの回転速度でサーボモータ115を回転させることが可能になる。
【0013】
図10は、サーボモータ115を搭載した電動式荷役装置113のグリップ操作量とサーボモータ115の回転速度との関係を示している。サーボモータ115の回転速度は、荷役物112の重量の大小に関係なく、グリップ操作による速度指令にしたがって忠実に上下する。図10において、0点から斜め上方に向かって引かれた斜線(サーボモータ115の回転速度の特性を示す斜線)は、サーボモータ115がグリップ操作量に正比例して回転動作することを示している。なお、電動式荷役装置113による作業内容によっては、図10中に破線で示したような、グリップ操作量に対して二次曲線のような曲線状の特性を有する速度指令を発行した方が作業しやすい場合もある。電動機としてサーボモータ115を使用した場合、操作グリップ102からの様々な速度指令要求に対して動作遅れを生ずることなくサーボモータ115を忠実に回転動作させることができるため、作業内容に合わせた使いやすい電動式荷役装置113を実現することができる。
【0014】
ここで、従来の電動式荷役装置には、例えば重量センサによって荷役物の重量を検出し、さらに使用者が荷役物を直接把持して力を加えながらこのときのわずかな重量変化を検出することにより、荷役物を昇降動作させて位置決め作業を行う(以下、「フローティング操作」という)機能を備えたものがある。このフローティング操作機能を備えた電動式荷役装置には、正確で細やかな速度調整や位置決めのための昇降動作が求められるため、サーボモータを搭載して高度なモータ制御を行うことが要求される。図5に示すようなオープンループ制御による従来の電動式荷役装置100でフローティング操作機能を実現しようとする場合、当該制御では細やかで安定した速度調整や位置決め動作を行うことが難しいため、実用に耐え得るフローティング操作機能の実現は難しいと考えられる。
【0015】
電動式荷役装置はサーボモータを搭載することにより高性能で高品質のモータ制御が可能になる一方、製造コストの面では低価格のトルクモータやDCモータを搭載する場合に比して、モータの回転位置、回転速度、トルク(モータ電流)情報等を検出するための検出センサが必要となり高度なモータ制御が求められるため、製造コストが大きくなってしまう。しかしながら、サーボモータを搭載した電動式荷役装置は、上述のように細やかな速度調整や位置決め動作を行うことができ、実用に耐え得るフローティング操作機能を実現できる等のメリットがあるため、作業内容に応じて求められる場面が多い。
【0016】
次に、図7に示すように電動式荷役装置113にサーボモータ115を搭載した場合のサーボモータ115のトルク、回転速度、仕事率等について説明する。一般に、電動式荷役装置による荷役物の運搬作業は長時間連続して行われるため、電動式荷役装置に搭載されるサーボモータは基本的に連続運転動作が可能な定格トルク以内で使用される。
【0017】
図8は、サーボモータ115を搭載した電動式荷役装置113の基本的な構造を示す図である。図8において、サーボモータ115のトルクをT[N・m]、サーボモータ115の回転速度をN[rpm]、サーボモータ115の仕事率をP[W]とすると、仕事率Pは次式(1)で表される。
(1) P=2πT・N/60
【0018】
上記式(1)から仕事率PはトルクTと回転速度Nの積に比例する。このため、サーボモータ115の連続運転動作において出力可能な最大仕事率Pm(MAX)は、図9に示すサーボモータ115を搭載した従来の電動式荷役装置113のトルク-回転速度特性図において、定格回転速度以内のトルク一定特性直線Aと、定格回転速度を越えた場合のトルク垂下特性直線Bとが交わる付近にある。ここで、直線Aと直線Bとが交わる「付近」とは、サーボモータ115を定格回転数を越えて高回転速度で動作させたときのトルク垂下特性直線Bの傾きに応じて最大仕事率Pm(MAX)の位置が多少変化することを意味している。トルク垂下特性直線Bの傾きが大きい場合、直線Aと直線Bとが交わる点、即ち定格回転速度近辺でサーボモータ115の仕事率Pは最大となるが、逆に傾きが小さい場合には、定格回転速度を少し越えた高回転領域において仕事率Pは最大となる。
【0019】
図8において、電動式荷役装置113で吊り上げた荷役物112を空中で停止させるためには、荷役物112の重量によって発生する、シーブ109を下降方向に回転させるトルクと、サーボモータ115が減速機108を介してシーブ109を上昇方向に駆動するトルクとが一致する必要がある。このときのシーブ109を下降方向に回転させようとするトルクをT[N・m]、減速機108の伝達効率をη、減速機108の減速比をRとすると、次式(2)が成り立つ。
(2) T=η・R・T
【0020】
ここで、シーブ109の半径をr[m]、荷役物112の定格重量をW[N]としたときの下降方向のトルクTは、
=r・W
となるため、このトルクTを上記式(2)に代入すると、
r・W=η・R・T
となり、減速機108の減速比Rは次式(3)で表される。
(3) R=r・W/(η・T
【0021】
上記式(3)によって減速比Rを算出した場合、このときの荷役物112の昇降速度Vは次式(4)で表すことができる。
(4) V=2πrN/R
【0022】
上記式(4)は、減速機108の減速比Rを大きくしていくと、荷役物112の昇降速度Vは、減速比Rに反比例して遅くなることを示している。
また、上記式(3)から
=r・W/(η・R)
となるため、このトルクTを上記式(1)に代入すると、次式(5)が得られる。
(5) P=2πT・N/60=2π・r・W・N/(η・R・60)
【0023】
上記式(1)からサーボモータ115の仕事率Pは、トルクTと回転速度Nとの積に比例し、さらに図9よりサーボモータ115のトルク特性は、定格回転速度まで略一定の値を保っているため、定格回転速度N付近で仕事率Pが最大になると考えられる。したがって、定格回転速度N付近ではP=Pm(MAX)になるため、上記式(5)は次式(6)のようになる。
(6) Pm(MAX)=2π・r・W・N/(η・R・60)
【0024】
上記式(6)から減速機108の減速比Rを求めると、
(7) R=2π・r・W・N/(η・Pm(MAX)・60)
となる。上記式(7)において、シーブ109の半径r、回転速度N(=定格回転速度)は固定値であり、最大仕事率Pm(MAX)はサーボモータ115の定格出力(固定値)である。このため、上記式(7)より減速機108の減速比Rは、荷役物112の重量Wに比例するように決める必要があることが分かる。
【0025】
例えば、電動式荷役装置113で運搬する荷役物112の重量Wが大きくなる場合、減速機108の減速比Rを重量Wに比例するように大きくすることにより、サーボモータ115の最大仕事率(定格出力)で荷役物112を吊り上げることが可能になる。しかしながら、減速機108の減速比Rを大きくした場合、上記式(4)に示すように減速比Rに反比例してサーボモータ115の回転速度は遅くなってしまう。
【0026】
現在、電動式荷役装置の各メーカーから製品化されているサーボモータを搭載した電動式荷役装置の製品仕様を見比べてみると、サーボモータの定格出力が同じ場合、電動式荷役装置が運搬可能な重量(定格重量)と最高昇降速度とが略反比例している(定格重量×最高昇降速度=略一定である)ことが分かる。このことから各メーカーから上市されているサーボモータを搭載した電動式荷役装置は、サーボモータの最大仕事率(定格出力)を出力するために、搬送可能な定格重量に応じて減速機の減速比が設定され、これに基づいて最高昇降速度が決められていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開平2-215698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
サーボモータを搭載した従来の電動式荷役装置では、運搬する荷役物の重量から定格出力を選定することは当然のことであり、サーボモータには供給電源の仕様(単相電源又は三相電源)を考慮しながら定格出力が比較的小さい低価格のものが採用されていると考えられる。低出力のサーボモータを最大仕事率(定格出力)で使用するためには、荷役物の重量(定格重量)に応じて減速機の減速比を変えることにより装置の最適化を図る必要がある。
【0029】
例えば、重量が100kgまでの荷役物、150kgまでの荷役物、200kgまでの荷役物をそれぞれ運搬する場合、定格出力が同じサーボモータを搭載した3つの電動式荷役装置の仕事率をそれぞれ最大化しようとすると、装置毎に減速比の異なる減速機を搭載する必要がある。その結果、それぞれの電動式荷役装置を別機種として設計、製造して管理する必要があるため、製造コストも管理コストも大きくなってしまう。
【0030】
これらのコストを回避するために、定格重量200kgの電動式荷役装置を設計し、当該装置を定格重量100kg仕様、150kg仕様の装置とすることが考えられるが、この場合、定格重量200kgを運搬するために減速比の大きな装置、即ち低昇降速度に設計された装置で100kg又は150kgの軽量な荷役物を運搬することとなるため、前述のように減速機自体を変更して最適化された電動式荷役装置と比較すると、昇降速度が低速になってしまい作業性が悪くなってしまう。
【0031】
一般的に、電動式荷役装置のユーザーは、定格重量を大きく下回る重量の荷役物を低昇降速度で運搬するような作業を継続して行うことは避けたいため、荷役物の重量に合わせて昇降速度を最適化した電動式荷役装置を選択して購入する。そのため、電動式荷役装置の各メーカーは、荷役物の重量に合わせた電動式荷役装置を設計し、製品のラインナップを充実せざるを得ない。このことは現在上市されているサーボモータを搭載した多くの電動式荷役装置の仕様を見ても明らかである。
【0032】
なお、上述した特許文献1のクレーンの制御方法は、荷役物の重量に応じて電動機の加速度を変更することで所定の昇降速度に達するまでの時間を短縮化し、これによって荷役物の昇降時間を短縮化しようとするものである。即ち、所定の昇降速度自体を荷役物の重量に応じて変更するものでないため、荷役物の昇降時間を十分に短縮化することができない。
【0033】
そこで本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、荷役物の重量に応じてサーボモータの回転速度を好適に設定又は荷役物の昇降速度を好適に設定して荷役物の運搬時間を短縮化できる電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記課題を解決するために本発明は、
荷役物を運搬するための動力を供給するサーボモータと、
前記サーボモータの駆動を制御する制御部と、を有する電動式荷役装置において、
前記制御部へ使用者が情報を入力するための入力部を有し、
前記制御部は、使用者によって前記入力部から入力された前記荷役物の重量又は使用者によって前記入力部から入力された前記サーボモータで前記荷役物を吊り上げるために必要なトルクと、前記サーボモータの回転速度に対するトルクの特性とに基づいて、前記サーボモータが動作可能な最高回転速度又は前記電動式荷役装置が動作可能な前記荷役物の最高昇降速度を算出し、前記最高回転速度又は前記最高昇降速度を上限として前記サーボモータを駆動することを特徴とする電動式荷役装置を提供する。
【0035】
また本発明は、
電動式荷役装置に備えられたサーボモータの駆動制御方法であって、
使用者によって入力された荷役物の重量又は使用者によって入力された前記サーボモータで前記荷役物を吊り上げるために必要なトルクと、前記サーボモータの回転速度及びトルクの特性とに基づいて、前記サーボモータが動作可能な最高回転速度又は前記電動式荷役装置が動作可能な前記荷役物の最高昇降速度を算出するステップと、
前記最高回転速度又は前記最高昇降速度の範囲内で使用者によって入力された前記サーボモータの所望の最高回転速度又は前記荷役物の所望の最高昇降速度を上限として前記サーボモータを駆動するステップと、を含むことを特徴とするサーボモータの駆動制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、荷役物の重量に応じてサーボモータの回転速度を好適に設定又は荷役物の昇降速度を好適に設定して荷役物の運搬時間を短縮化できる電動式荷役装置、サーボモータの駆動制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は本発明の第1実施形態に係る電動式荷役装置の構成を示す図である。
図2図2は本発明の第1実施形態に係る電動式荷役装置の第1変形例の構成を示す部分図であり、詳しくは第1実施形態に係る電動式荷役装置の操作ボックスに上昇/下降指令ボタンを備えた操作スイッチを実装した様子を示している。
図3図3は本発明の第1実施形態に係る電動式荷役装置の第2変形例の構成を示す部分図であり、詳しくは第1実施形態に係る電動式荷役装置の操作ボックスに重量センサを搭載した様子を示している。
図4図4は本発明の第2実施形態に係る電動式荷役装置の構成を示す図である。
図5図5は電動機としてDCモータを搭載した従来の電動式荷役装置の構成を示す図である。
図6図6図5に示す従来の電動式荷役装置のDCモータの回転速度-トルク特性を示す図である。
図7図7は電動機としてサーボモータを搭載した従来の電動式荷役装置の構成を示す図である。
図8図8図7に示す従来の電動式荷役装置における荷役装置本体の基本構造を示す図である。
図9図9図7に示す従来の電動式荷役装置のサーボモータの回転速度-トルク特性と使用領域を示す図である。
図10図10図7に示す従来の電動式荷役装置の操作グリップの操作量-回転速度特性を示す図である。
図11図11は本発明の第1実施形態に係る電動式荷役装置のサーボモータの回転速度-トルク特性と使用領域を示す図である。
図12図12は本発明の第1実施形態に係る電動式荷役装置の操作グリップの操作量とサーボモータの回転速度との関係を示す図である。
図13図13は本発明の第1実施形態に係る電動式荷役装置で実行される荷役物の重量及びサーボモータの回転速度の設定ルーチンを示すフローチャートである。
図14図14(a)及び図14(b)は本発明の第1実施形態に係る電動式荷役装置における表示部の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る電動式荷役装置の構成を示す図である。
図1に示すように本実施形態に係る電動式荷役装置1は、巻上げ式昇降機であって、荷役物2を吊るして運搬するための荷役装置本体3と、荷役装置本体3を操作するための操作ボックス4と、荷役装置本体3を制御するための制御装置5とからなる。
【0039】
荷役装置本体3では、制御装置5からの指示に基づいて電動機、具体的にはサーボモータ(同期型ACサーボモータ)6が回転し、サーボモータ6の回転が減速機7を介してシーブ8に伝達されてシーブ8が回転することにより、シーブ8にチェーン9が巻上げ/巻下げられてチェーン9先端のフック10に吊り下げられた荷役物2を上昇/下降する。
【0040】
荷役装置本体3には、サーボモータ6の回転速度を検出するための回転速度検出部11が備えられている。回転速度検出部11で検出されたサーボモータ6の回転速度は制御装置5へ入力される。
なお、荷役装置本体3の上部には、荷役装置本体3を例えば工場の天井等に吊り下げるためのフック12が備えられている。
【0041】
操作ボックス4は、電動式荷役装置1で荷役物2を上昇/下降させるために、使用者が操作して上昇/下降の指示を制御装置5へ入力するものである。
本実施形態では操作ボックス4に操作グリップ13が備えられており、使用者は操作グリップ13の操作量に応じてサーボモータ6の回転速度を変える、即ち電動式荷役装置1による荷役物2の昇降速度を変更することができる。
【0042】
操作ボックス4には、操作グリップ13の操作量を検出するための操作量検出部14が備えられている。操作量検出部14で検出されたグリップ操作量は制御装置5へ入力される。ここで、操作量検出部14は、使用者による操作グリップ13のアナログな(連続した)操作量を検出するために、例えばポテンショメータ、歪みゲージ、ホールセンサ等が用いられる。なお、操作グリップ13に限られず、アナログな操作量を検出するためのその他の操作手段(例えば、操作レバー等)を採用してもよい。
【0043】
制御装置5は、操作ボックス4からの指示に基づいて荷役装置本体3のサーボモータ6の駆動を制御するものである。
制御装置5では、操作量検出部14から入力されたグリップ操作量に基づいて制御部15がサーボモータ6の速度指令(回転速度)を速度指令差分演算部16へ出力する。速度指令差分演算部16は、制御部15からの速度指令と、回転速度検出部11で検出されてフィードバックされたサーボモータ6の現在の回転速度とにより差分演算処理を行う。これによって得られた差分速度は、増幅器17で増幅され、モータ駆動部18で駆動指令に変換されてサーボモータ6へ入力される。これによりサーボモータ6が駆動され、電動式荷役装置1は荷役物2を上昇/下降させることができる。
【0044】
制御装置5には、表示部19、入力部20、記憶部21が備えられている。
表示部19は、電動式荷役装置1の定格荷重(定格重量)やサーボモータ6の回転速度等を表示するためのものである。
入力部20は、使用者が電動式荷役装置1で運搬したい荷役物2の最大重量等を制御部15へ入力するためのものである。
記憶部21は、後に詳述する荷役物2の重量及びサーボモータ6の回転速度の設定ルーチンを実行するためのプログラムが保存されている。
なお、制御装置5は荷役装置本体3と一体でも別体でもよい。
【0045】
ここで、本実施形態に係る電動式荷役装置1と図7に示す従来の電動式荷役装置113との相違点について説明する。
本実施形態に係る電動式荷役装置1と図7に示す従来の電動式荷役装置113とのハードウェア構成の大きな違いは、本実施形態に係る電動式荷役装置1が荷役物2の重量やサーボモータ6の回転速度等を表示するための表示部19と、荷役物2の重量やサーボモータ6の所望の回転速度を入力、設定するための入力部20とを有する点である。
【0046】
図9は先に述べたように従来の電動式荷役装置113に搭載されたサーボモータ115の回転速度-トルク特性と使用領域を示している。一般に電動式荷役装置による荷役物の運搬作業は連続して行われるため、サーボモータ115の回転速度-トルク特性における使用領域は連続運転領域(定格回転速度と定格トルクで規定される領域)に設定される。
【0047】
詳しくは図9に示すように、電動式荷役装置113で定格重量までの荷役物112を運搬可能とするため、サーボモータ115のトルクの使用領域は0~定格トルク付近のトルク領域に設定され、回転速度の使用領域は0~定格回転速度付近の回転速度領域に設定される。この結果、図9においてドットパターンで示された領域が、従来の電動式荷役装置113に搭載されたサーボモータ115の回転速度-トルク特性における使用領域となる。なお、定格トルク「付近」とは、電動式荷役装置113で定格重量付近の荷役物112を上昇動作させた場合、始動(加速)時に定格トルクを越えた加速トルクが必要になることを意味している。
【0048】
図11は本実施形態に係る電動式荷役装置1に搭載されたサーボモータ6の回転速度-トルク特性と使用領域の一例を示している。図11に示すように本実施形態に係る電動式荷役装置1では、上述した従来の電動式荷役装置113の使用領域以外の領域も用いられる。電動式荷役装置1は、運搬するべき荷役物2の重量が定格重量を下回る場合、可搬重量(運搬可能な荷役物2の重量)に制限を加えることによりサーボモータ6の出力可能なトルクを小さく抑える。これにより、電動式荷役装置1は従来の電動式荷役装置113では殆ど使用されていないトルクの垂下特性領域(トルク垂下特性直線Sと横軸とによって挟まれた領域であって高速回転速度領域ともいう)を積極的に利用し、定格回転速度を上回る高速回転速度でサーボモータ6を使用する。このようにサーボモータ6を垂下特性領域(高速回転速度領域)で積極的に使用する構成としたことにより、電動式荷役装置1で重量の小さな荷役物2を運搬する場合、定格回転速度を上回る速度でサーボモータ6を回転させることで荷役物2の昇降速度を上げることができる。そしてこれにより、昇降時間を短縮化することができ、作業効率を向上することができる。
【0049】
図11には電動式荷役装置1で使用するサーボモータ6のトルク-回転速度領域の一例が網掛け線パターンと薄い塗り潰しパターンとで示されている。図11において、網掛け線パターンで示された領域は、電動式荷役装置1で運搬する荷役物2の重量に制限(=トルク制限)を加えた際にサーボモータ6が動作可能な回転速度の領域である。
【0050】
電動式荷役装置1では、制御部15が、使用者によって設定された荷役物2の重量から必要なサーボモータ6のトルクを算出し、図11に網掛け線パターンで示されたサーボモータ6の動作可能な回転速度の領域を算出する。そして、算出された当該領域内において、使用者はサーボモータ6の所望の回転速度の領域を設定することができる。使用者によって設定されたサーボモータ6の回転速度の領域(ユーザ設定領域)は、図11において薄い塗り潰しパターンで示されている。
【0051】
このときの操作グリップ13の操作量とサーボモータ6の回転速度との関係が図12に示されている。従来の電動式荷役装置113は、図10に示すように操作グリップ102の操作量に対して0から定格回転速度(最大操作量時)までの領域を使用している。これに対して本実施形態に係る電動式荷役装置1は、運搬可能な荷役物2の重量に制限を加えることにより、従来の電動式荷役装置113のような0から定格回転速度までの領域の他に、0から定格回転速度を越えてサーボモータ6が動作可能な最高回転速度(最大回転速度)までの領域を使用している。
【0052】
図12において、操作グリップ13の最大操作量と定格回転速度の交点と0点とを結んだ斜線(斜線S1)は、従来の電動式荷役装置113の操作グリップ102の操作量に対する回転速度の特性と同じ特性を示している。本実施形態に係る電動式荷役装置1では、運搬可能な荷役物2の重量を小さく抑えることにより、操作グリップ13の操作量に対して図12の斜線S1よりも急な勾配の斜線の特性を実現している。
【0053】
具体的には、定格回転速度を越えた高回転速度の領域では、運搬可能な荷役物2の重量を低く設定するほど図12に示すように定格回転速度(斜線S1)、高速回転速度1(斜線S2)、高速回転速度2(斜線S3)の順でサーボモータ6の高速回転が可能になり、操作グリップ13の操作量に対する回転速度の特性を示す斜線S1、S2、S3の勾配が急になる。即ち、図12は操作グリップ13の操作量に対するサーボモータ6の回転速度の特性を示す斜線の勾配が急になるほど同じ操作量に対する回転速度が速くなることを示している。
【0054】
電動式荷役装置1は荷役物2を運搬する作業の内容に応じてサーボモータ6に低速回転動作が求められる場合には、サーボモータ6の回転速度を定格回転速度以下に設定し、サーボモータ6を低速回転速度で動作させることができる。この場合の特性は図12において斜線S1よりも勾配の緩やかな斜線(斜線S4)で示される。
したがって、サーボモータ6の高速回転時と低速回転時との違いは、高速回転時は設定された荷役物2の重量に応じたトルク制限がサーボモータ6に加えられ、低速回転時は運搬可能な荷役物2の重量は定格重量となりサーボモータ6は定格トルクまでトルクを出力できる点である。
【0055】
次に、電動式荷役装置1で運搬する荷役物2の重量をWとしたときのサーボモータ6の最高(最大)回転速度及び荷役物2の最高(最大)昇降速度の算出方法について説明する。例えば、サーボモータ6が定格回転速度を越えて高速回転する場合、図11よりサーボモータ6のトルクが垂下する特性(トルク垂下特性直線S)を示す出力トルクTは下記の直線式で表すことができる。
(8) T=-a・N+T
ここで、-a(a>0)はトルク垂下特性直線Sの傾きを示し、Tはトルク垂下特性直線Sを延長した回転速度0のときの仮想トルク値を示す。なお、トルク垂下特性直線Sの傾き-aの符号「-」はトルク垂下特性直線Sが右肩下がりの直線式であることを示している。
【0056】
サーボモータ6の回転速度をNとしたときのトルクTmcは、上記式(8)から
(9) Tmc=T-a・N
となるため、上記式(9)からサーボモータ6の回転速度Nは次式(10)で表される。
(10) N=(T-Tmc)/a
【0057】
次に、上記式(3)から重量Wの荷役物2を電動式荷役装置1で吊り上げたときのトルクTmcは次式(11)で表すことができる。
(11) Tmc=r・W/(η・R)
【0058】
上記式(11)のトルクTmcを上記式(10)に代入し、電動式荷役装置1で重量Wの荷役物2を吊り上げて昇降動作させる場合にサーボモータ6が動作可能な回転速度Nは次式(12)で算出される。
(12) N={T-r・W/(η・R)}/a
【0059】
上記式(12)は、荷役物2の重量Wを設定することにより、そのときにサーボモータ6が動作可能な回転速度Nを算出できることを示している。また、上記式(12)は、シーブ8の半径rと減速機7の減速比Rを固定値と考えると、荷役物2の重量Wが軽くなるほどサーボモータ6の回転速度Nが上昇することを示している。
サーボモータ6が回転速度Nで回転したときの荷役物2の動作可能な昇降速度Vは、上記式(12)で算出したNを上記式(4)に代入することで得られる。
(13) V=2πrN/R
上記式(13)は、電動式荷役装置1による荷役物2の昇降速度がサーボモータ6の回転速度Nに比例して増加することを示している。
【0060】
以上より、電動式荷役装置1で最大重量の荷役物2を昇降する際に必要なトルクTmcは上記式(11)により、またこのときのサーボモータ6の回転速度Nは上記式(12)により、昇降速度Vは上記式(13)によりそれぞれ算出できることが分かる。
【0061】
次に、上述した内容に基づき、本実施形態に係る電動式荷役装置1において、使用者が表示部19と入力部20とを用いて、電動式荷役装置1で運搬する荷役物2の最大重量Wとサーボモータ6の最高回転速度を入力、設定する方法を、図13を参照して説明する。
【0062】
本実施形態に係る電動式荷役装置1の制御装置5は、図13に示し以下に詳述する荷役物2の重量及びサーボモータ6の回転速度の設定ルーチンを実行可能に構成されている。
【0063】
本設定ルーチンのプログラムは、制御装置5の記憶部21に保存されており、入力部20に備えられた不図示の設定開始キーが使用者により押されることで開始され、制御部15により以下のステップS1~S7が実行される。
ここで、具体例として電動式荷役装置1のハードウェア仕様が次のように設定されているものと仮定する。
定格荷重(電動式荷役装置1で運搬可能な荷役物2の最大重量):300[kg]
サーボモータ6の定格回転数(定格回転速度):3000[rpm]
サーボモータ6の最高回転数(最高回転速度):6000[rpm]
【0064】
ステップS1:制御部15は表示部19に電動式荷役装置1の定格荷重の値を表示させるとともに、使用者に電動式荷役装置1で運搬する荷役物2の最大重量の入力を促すメッセージを表示させる(図14(a)参照)。なお、図14(a)は具体例として定格荷重の値300[kg]が表示部19に表示された様子を示している。
【0065】
ステップS2:制御部15は使用者が入力部20を操作して荷役物2の最大重量の値を入力したか否か判定する。制御部15は当該最大重量の値の入力が確認された場合は次のステップS3へ進み、確認されない場合は本ステップS2を繰り返し実行する。
【0066】
ステップS3:制御部15は使用者が入力部20を操作して入力した荷役物2の最大重量の値を表示部19に表示させる(図14(a)参照)。なお、図14(a)は具体例として使用者によって荷役物2の最大重量の値「200」が入力されて表示部19に表示された様子を示している。
【0067】
ステップS4:制御部15は、使用者が入力した荷役物2の最大重量の値と、図11のサーボモータ6の回転速度-トルク特性を示すグラフとに基づいて、サーボモータ6が動作可能な最高回転速度と電動式荷役装置1による荷役物2の最高昇降速度とを算出して表示部19に表示させる。
【0068】
具体的には、制御部15は、使用者によって入力された荷役物2の最大重量(W)の値を上記式(12)に代入することにより、サーボモータ6が動作可能な最高回転速度(N)即ち電動式荷役装置1に設定可能なサーボモータ6の最高回転速度(N)を算出する。また制御部15は、算出した最高回転速度(N)の値を上記式(13)に代入することにより、電動式荷役装置1による荷役物2の最高昇降速度(V)を算出する。
【0069】
本ステップS4において制御部15は、このようにして算出された最高回転速度(N)の値及び最高昇降速度(V)の値を表示部19に表示させるとともに、使用者にサーボモータ6の所望の最高回転速度の入力を促すメッセージを表示部19に表示させる(図14(b)参照)。なお、図14(b)は具体例として電動式荷役装置1に設定可能なサーボモータ6の最高回転速度(N)の値5000[rpm]及びこのときの荷役物2の最高昇降速度(V)の値400[mm/Sec]が表示部19に表示された様子を示している。
【0070】
ステップS5:制御部15は使用者が入力部20を操作してサーボモータ6の所望の最高回転速度の値、詳しくはサーボモータ6が動作可能な最高回転速度(N)以下の回転速度範囲内において使用者が所望する最高回転速度の値を入力したか否か判定する。制御部15は当該所望の最高回転速度の値の入力が確認された場合は次のステップS6へ進み、確認されない場合は本ステップS5を繰り返し実行する。
【0071】
ステップS6:制御部15は使用者が入力部20を操作して入力したサーボモータ6の所望の最高回転速度の値を表示部19に表示させる(図14(b)参照)。なお、図14(b)は具体例として使用者によってサーボモータ6の所望の最高回転速度の値「4000」(≦5000[rpm])が入力されて表示部19に表示された様子を示している。
【0072】
ステップS7:制御部15は電動式荷役装置1におけるサーボモータ6の最高回転速度として使用者によって入力された所望の最高回転速度の値(4000[rpm])を設定(記憶部21に保存)し、本設定ルーチンを終了する。
【0073】
以上の設定ルーチンにより、使用者は電動式荷役装置1により重量200[kg]の荷役物2を、サーボモータ6を最大で回転速度4000[rpm]で回転させて昇降することができる。即ち、電動式荷役装置1により使用者は操作グリップ13の操作量を加減することでサーボモータ6の回転速度を0~4000[rpm]の範囲で無段階に変更して重量200[kg]の荷役物2を昇降することができる。
以上より、電動式荷役装置1によれば、荷役物2の重量に応じてサーボモータ6の回転速度及び荷役物の昇降速度を好適に設定することができ、荷役物2の運搬時間を短縮化することができる。
【0074】
電動式荷役装置1で運搬する荷役物2の最大重量が定格荷重に満たない場合、上述した荷役物2の重量及びサーボモータ6の回転速度の設定ルーチンを実行することにより、電動式荷役装置1はサーボモータ6を定格回転速度で動作させて荷役物2を昇降した際の昇降速度よりも高速で荷役物2を昇降することが可能になる。
【0075】
なお、上記ステップS2において、使用者によって入力された荷役物2の最大重量の値が定格荷重を上回る場合には、制御部15が荷役物2の最大重量として定格荷重の値を採用してステップS3~S7を実行する構成とすることが好ましい。
【0076】
上述した設定ルーチンは、使用者が入力部20を操作して荷役物2の最大重量を入力し、制御部15が上記式(11)に基づき当該最大重量から必要なトルク(制限トルク)Tmcを算出しさらに上記式(12)でサーボモータ6が動作可能な最高回転速度(N)を算出している。
しかしながら設定ルーチンはこれに限られず、使用者が制限トルク(Tmc)、即ち電動式荷役装置1で運搬したい荷役物2を吊り上げるために必要なサーボモータ6のトルクの値を入力部20から直接入力し、制御部15がこの直接入力された制限トルクを用いて上記式(10)からサーボモータ6が動作可能な最高回転速度(N)を算出するようにしてもよい。
【0077】
なお、使用者による制限トルクの入力は、制限トルク(Tmc)の値を入力するだけでなく、例えばサーボモータ6の定格トルクを100%として定格トルク比[%]で入力することも可能である。この場合、使用者が入力する定格トルク比の制限トルクT[%]は、サーボモータ6の定格トルクをTとすると、上記式(11)を用いて、
=(Tmc/T)×100[%]
で表すことができる。
【0078】
このため、制御部15は、使用者によって定格トルク比の制限トルクTが入力されると、荷役物2の昇降に必要なサーボモータ6のトルクTmcを次式(14)で算出することができる。
(14) Tmc=(T・T)/100
したがって、制御部15は使用者によって定格トルク比の制限トルクTが入力された場合でも、上記式(10)からサーボモータ6が動作可能な最高回転速度(N)を算出することができる。
【0079】
また、上記ステップS5において、使用者によって入力されたサーボモータ6の所望の最高回転速度の値が、サーボモータ6が動作可能な最高回転速度(N)を上回る場合には、制御部15が使用者の所望の最高回転速度として最高回転速度(N)の値を採用してステップS6、S7を実行する構成とすることが好ましい。また斯かる場合には、制御部15が、サーボモータ6の所望の最高回転速度の値として最高回転速度(N)以下の値の入力を使用者へ促すメッセージを表示部19に表示させる構成としてもよい。
【0080】
また、上述した設定ルーチンは、電動式荷役装置1におけるサーボモータ6の最高回転速度として使用者によって入力された所望の最高回転速度が設定される構成である。しかしながらこれに限られず、例えば、上記ステップS5、S6を省略し、ステップS4で算出されたサーボモータ6の動作可能な最高回転速度(N)の値を、ステップS7で電動式荷役装置1におけるサーボモータ6の最高回転速度として設定し、設定ルーチンを終了する構成とすることもできる。
【0081】
また、上述した設定ルーチンは、ステップS5で使用者が入力部20を操作してサーボモータ6の所望の最高回転速度の値を入力し、ステップS6で当該所望の最高回転速度の値を表示部19に表示させ、ステップS7でサーボモータ6の最高回転速度として使用者によって入力された所望の最高回転速度の値を設定する構成であるが、これに限られない。電動式荷役装置1による荷役物2の昇降速度はサーボモータ6の回転速度から算出可能であり、サーボモータ6の回転速度は電動式荷役装置1による荷役物2の昇降速度から算出可能でもあるため(上記式(13)参照)、ステップS5で使用者が入力部20を操作して電動式荷役装置1による荷役物2の所望の最高昇降速度の値を入力し、ステップS6で当該所望の最高昇降速度の値を表示部19に表示させ、ステップS7で電動式荷役装置1による荷役物2の最高昇降速度として使用者によって入力された所望の最高昇降速度の値を設定する構成としてもよい。
【0082】
なお、電動式荷役装置1に荷役物2の重量を検出するための重量センサを追加することにより、重量センサで検出された荷役物の重量が上述の設定ルーチンで設定された荷役物2の重量を上回る場合、制御部15が荷役物2の吊り上げ動作を禁止する構成としてもよい。
【0083】
また、電動式荷役装置1にサーボモータ6のトルクを検出するためのトルクセンサを追加することにより、トルクセンサで検出されたサーボモータ6のトルクから推定される荷役物2の重量が上述の設定ルーチンで設定された荷役物2の重量を上回る際(前述のように使用者が制御部15に制限トルクを入力する場合には当該制限トルクをトルクセンサで検出されたサーボモータ6のトルクが上回る際)に、制御部15が荷役物2の吊り上げ動作を禁止する構成としてもよい。
【0084】
ここで、上記式(7)に示すように、電動式荷役装置1におけるシーブ8の半径rを固定値としてサーボモータ6を最大仕事率で使用しようとする場合、減速機7の減速比は、荷役物2の重量と正比例の関係とする必要がある。図7の従来の電動式荷役装置113は、搭載しているサーボモータ115を替えずに電動式荷役装置113の定格荷重を変えようとする場合、減速機108を定格荷重の増減に合わせて減速比の異なる減速機に交換する必要があった。
【0085】
これに対して本実施形態に係る電動式荷役装置1は、図11に示すようにサーボモータ6が定格回転速度を上回る高速回転速度の領域で使用されることにより、サーボモータ6及び減速機7を交換することなく昇降速度を変えて荷役物2の重量の変更に対応することができる。このため、電動式荷役装置1の定格荷重に変更があったとしても電動式荷役装置1のハードウェア仕様を変更することなく対応することができる。
【0086】
以上説明したように本実施形態に係る電動式荷役装置1は、ハードウェア仕様を変更することが不要となりハードウェア仕様を統一することができる。このため、製造コストや管理コストを大幅に低減することができる。また、製品出荷後であっても荷役物2の重量に応じて最適な昇降速度を設定することができる。
【0087】
(第1実施形態の第1変形例)
図2は第1実施形態に係る電動式荷役装置1の第1変形例を示す図である。
第1実施形態に係る電動式荷役装置1は、操作ボックス4の操作グリップ13、操作量検出部14の代わりに、操作スイッチ22、ボタン操作検出部23を備える構成としてもよい。
【0088】
操作スイッチ22は、使用者によって操作されてボタン操作検出部23へON(上昇)/OFF(停止)情報を出力する上昇指令ボタン22aと、ON(下降)/OFF(停止)情報を出力する下降指令ボタン22bとを含む。
ボタン操作検出部23は、操作スイッチ22から出力されたON/OFF情報を検出して制御部15へ伝達するものである。
【0089】
図1に示す電動式荷役装置1では、使用者が操作ボックス4の操作グリップ13を操作したとき、操作量検出部14で操作グリップ13のアナログな操作量が検出される。このため、操作グリップ13の操作量に応じてサーボモータ6は0から最高回転速度まで無段階に回転速度を調整することができる(図12参照)。
【0090】
これに対して、図2に示す第1変形例の電動式荷役装置では、使用者が操作スイッチ22を操作したとき、ボタン操作検出部23ではON/OFF情報が検出される。このため、制御部15はボタン操作検出部23からON情報が入力された際には、予め設定されている固定の回転速度でサーボモータ6を駆動する。具体的には、第1実施形態で述べた荷役物2の重量及びサーボモータ6の回転速度の設定ルーチンで設定されたサーボモータ6の所望の最高回転速度でサーボモータ6は動作することが望ましい。なお、制御部15はボタン操作検出部23からOFF情報が入力された際にはサーボモータ6を停止する。
【0091】
(第1実施形態の第2変形例)
図3は第1実施形態に係る電動式荷役装置1の第2変形例を示す図である。
上記第1実施形態に係る電動式荷役装置1は、重量センサ24と、重量検出部25とをさらに備える構成としてもよい。
【0092】
重量センサ24は、操作ボックス4とフック10との間に配置され、荷役物2の重量を検出するものである。
重量検出部25は、重量センサ24で検出された荷役物2の重量の情報を制御部15へ伝達するものである。
【0093】
図3に示す第2変形例の電動式荷役装置では、使用者が操作グリップ13を操作して吊り上げた荷役物2の重量を重量センサ24で検出する。制御部15は、重量センサ24で検出された荷役物2の重量を、重量検出部25を介して取得し、これを平均化処理して記憶部21に保存する。その後、制御部15は使用者が荷役物2を手で直接持って上昇/下降させたときに重量センサ24で検出された荷役物2の重量と、記憶部21に保存されている荷役物2の重量とを差分演算する。制御部15は、この差分演算によって得られた差分重量から使用者の操作力及び操作方向を検出し、使用者の操作力に比例するようにサーボモータ6を駆動して昇降機構6~10を上下方向へ動作させるフローティング操作を行うことができる。
【0094】
また、第2変形例の電動式荷役装置では、前述のように荷役物2の重量を重量センサ24で直接検出することができる。このため、先に述べた荷役物2の重量及びサーボモータ6の回転速度の設定ルーチンで設定した荷役物2の重量を上回る荷役物2を電動式荷役装置で吊り上げようとした場合、これを重量センサ24で検出して制御部15が荷役物2の吊り上げを禁止する構成とすることもできる。
【0095】
なお、このように過負荷を検出して荷役物2の吊り上げを禁止する機能は、サーボモータ6のトルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサで検出されたトルクの情報を制御部15へ伝達するトルク検出部とを用いて、サーボモータ6のトルクを常時監視し、過負荷トルクが検出された際に荷役物2の吊り上げを禁止する方法でも実現することができる。この場合、トルクセンサを用いずにサーボモータ6に流れる電流を常時監視し、当該電流から推定されるトルクの値が過負荷トルクであると判定された際に荷役物2の吊り上げを禁止する構成としてもよい。
【0096】
(第2実施形態)
図4は本発明の第2実施形態に係る電動式荷役装置の構成を示す図である。
第2実施形態に係る電動式荷役装置について、上記第1実施形態と同様の部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
図4に示されるように、第2実施形態に係る電動式荷役装置26は、上記第1実施形態に係る電動式荷役装置1における操作ボックス4、操作グリップ13及び操作量検出部14の代わりに、無線操作スイッチ(ペンダントスイッチ)27と無線受信部28とを備えてなる。
【0097】
無線操作スイッチ27は、使用者が荷役装置本体3を無線通信で操作するためのものである。無線操作スイッチ27は、使用者によって操作され無線受信部28へON(上昇)/OFF(停止)情報を出力する上昇指令ボタン22aと、同じくON(下降)/OFF(停止)情報を出力する下降指令ボタン22bとを含む。
無線受信部28は、無線操作スイッチ27から出力されたON/OFF情報を受信して制御部15へ伝達するものである。
【0098】
使用者は電動式荷役装置26から離れた場所で無線操作スイッチ27を用いて電動式荷役装置26を操作して荷役物2の運搬作業を行うことができる。
電動式荷役装置26では、使用者が無線操作スイッチ27を操作したとき、無線受信部28ではON/OFF情報が受信される。このため、制御部15は無線受信部28からON情報が入力された際には、予め設定されている固定の回転速度でサーボモータ6を駆動する。具体的には、第1実施形態で述べた荷役物2の重量及びサーボモータ6の回転速度の設定ルーチンで設定されたサーボモータ6の所望の最高回転速度でサーボモータ6は動作することが望ましい。なお、制御部15は無線受信部28からOFF情報が入力された際にはサーボモータ6を停止する。
【0099】
上記各実施形態によれば、荷役物の重量に応じてサーボモータの回転速度を好適に設定又は荷役物の昇降速度を好適に設定して荷役物の運搬時間を短縮化できる電動式荷役装置1、26、サーボモータ6の駆動制御方法を実現することができる。
【0100】
上記各実施形態に係る電動式荷役装置1、26は、本発明を工業用の生産ラインで使用される荷役物運搬装置に適用した例を示している。しかしながら、本発明はサーボモータの使用方法について見直し、サーボモータが元々備えている能力を最大限に利用しようとするものであるため、サーボモータを備えた荷役物運搬装置に関連したその他の装置にも適用することができる。
【0101】
上記各実施形態によれば、サーボモータ6の能力やその特性を最大限に利用することにより、運搬する荷役物2の重量が変化した場合でも、電動式荷役装置1、26のハードウェア構成を変えずに、荷役物2の重量に合わせて電動式荷役装置1、26の昇降速度を最適値に設定することができる。このため、素早い運搬作業が可能となり作業性の向上を図れるとともに、電動式荷役装置1、26のハードウェア仕様を変えることなく、荷役物2の可搬重量と動作速度を最適化することができる。
【0102】
上記各実施形態によれば、電動式荷役装置メーカーは、ハードウェア構成の異なる電動式荷役装置を複数種類製造、管理する必要がなくなるため、製造コスト及び管理コストを大幅に低減することができる。一方、電動式荷役装置のユーザーは、本発明の電動式荷役装置の購入後に運搬するべき荷役物の重量が変更された場合でも、変更された重量に合わせて電動式荷役装置の昇降速度を最適化することができる。このため、荷役物が軽くなった場合は昇降速度を上げて作業効率の向上を図ることができ、変更された荷役物の重量に合わせて仕様の異なる電動式荷役装置を新たに購入する必要がなくなるというメリットもある。
【符号の説明】
【0103】
1、100、113 電動式荷役装置
2、112 荷役物
10、111 フック
8、109 シーブ
9、110 チェーン
12 フック
15 制御部
19 表示部
20 入力部
21 記憶部
18、106 モータ駆動部
17、105 増幅器
16、116 速度指令差分演算部
6、115 サーボモータ
7、108 減速機
4、101 操作ボックス
13、102 操作グリップ
11、114 回転速度検出部
22 操作スイッチ
23 ボタン操作検出部
22a 上昇指令ボタン
22b 下降指令ボタン
24 重量センサ
25 重量検出部
27 無線操作スイッチ
28 無線受信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14