(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007500
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】NMRプローブヘッド
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20240110BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20240110BHJP
H01Q 7/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N24/00 570A
H01F5/00 C
H01F5/00 F
H01Q7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023108129
(22)【出願日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】10 2022 206 767.3
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】591148048
【氏名又は名称】ブルーカー スウィッツァーランド アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bruker Switzerland AG
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス フレイタグ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放射され得る更なるRF磁場に対する同時透過性を伴う最大品質係数を有するトランシーバコイルを有するNMRプローブヘッドを提供する。
【解決手段】本発明は、第1のRF磁場B1を生成するための第1のトランシーバコイル1を有するトランシーバコイル装置を有し、第1のトランシーバコイル1が、長手方向軸Z’周りに複数の巻線3を有する導電体2を備え、第1のトランシーバコイル1の導電体2が、導体幅Wを有するストリップ形状導体として設計される、NMRプローブヘッドであって、各巻線3における導体幅Wは、少なくとも2回減少し、少なくとも2回増大することを特徴とするNMRプローブヘッドで、放射され得る他のRF磁場に対する同時透過性を伴う最大品質係数を有するトランシーバコイルを有するNMRプローブヘッドを提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のRF磁場B1を生成するための第1のトランシーバコイル(1;1a;1b;1c;1d;1e;1g)を有するトランシーバコイルアセンブリ(100)を有して、前記第1のトランシーバコイル(1;1a;1b;1c;1d;1e;1g)が、長手方向軸Z’周りに複数の巻線(3)を有する導電体(2)を備え、
前記第1のトランシーバコイル(1;1a;1b;1c;1d;1e;1g)の前記導電体(2)が、導体幅Wを有するストリップ形状導体として設計される、NMRプローブヘッドであって、
各巻線(3)における前記導体幅Wは、少なくとも2回減少し、少なくとも2回増大することを特徴とするNMRプローブヘッド。
【請求項2】
前記導体幅Wが周期的に変化し、特に、前記導体幅Wに関して最小値を有する前記導電体(2)の領域が、前記長手方向軸を中心とした回転に関して180°ずれて配置されることを特徴とする、請求項1に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項3】
前記導体(2)の前記導体厚さdは、最大で500μmであり、及び/又は前記導電体(2)への前記RF電流の侵入深さの少なくとも2倍であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項4】
前記導体幅Wが0.5mm~2mmの間で変化することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項5】
前記トランシーバコイル(1c;1g)の前記巻線(3)は、前記トランシーバコイル(1c;1g)の前記長手方向軸に対して傾けられることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項6】
前記トランシーバコイル装置(1a)は、第2のRF磁場B2を生成するための少なくとも1つの更なるトランシーバコイル(11)を備え、
前記第1のトランシーバコイル(1a)及び前記更なるトランシーバコイル(11)によって生成されるRF磁場B1、B2が互いに垂直に整列されるように、前記第1のトランシーバコイル(1a)及び前記更なるトランシーバコイル(11)が前記共通の長手方向軸Z’の周りに配置され、
前記第1のトランシーバコイル(1a)の前記導体(2)の前記導体幅Wは、前記第1のトランシーバコイル(1a)の表面法線が前記第2のRF磁場B2と平行である領域(6,7)において最小値を有する、
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項7】
前記更なるトランシーバコイル(11)がサドルコイル又は共鳴器であることを特徴とする、請求項6に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項8】
前記第1のトランシーバコイル(1;1a;1b;1c;1d;1e;1g)の前記導電体(2)が少なくとも1つのソレノイド形状部を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項9】
前記第1のトランシーバコイル(1b)の前記導電体(2)が順方向巻線セクションと戻り巻線セクションとを備え、前記順方向巻線セクションは、順方向巻線(14a,14b)を備えるとともに、接続領域(12)を起点として、所定の巻回方向で、前記トランシーバコイル(1b)の軸方向端部(4a,4b)に至り、前記戻り巻線セクションは、戻り巻線(15a,15b)を備えるとともに、前記第1のトランシーバコイル(1b)の前記軸方向端部(4a,4b)を起点として、前記所定の巻回方向で前記接続領域(12)に至り、前記戻り巻線セクションの前記巻線は、前記順方向巻線セクションの巻線とは反対の符号を伴うピッチPを有し、
前記導電体(2)の前記順方向巻線及び前記戻り巻線(14a,14b,15a,15b)は、前記順方向巻線及び前記戻り巻線(14a,14b,15a,15b)が互いに交差する交差領域(17)を除き、前記長手方向軸Z’周りで共通の円筒ジャケット表面上に配置される、
ことを特徴とする請求項8に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項10】
前記順方向巻線及び前記戻り巻線(14a,14b,15a,15b)が交互に配置されることを特徴とする、請求項9に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項11】
前記第1のトランシーバコイル(1c)の前記巻線(3)の勾配S、特にピッチPは、前記導電体(2)の経路に沿って変化することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項12】
前記第1のトランシーバコイル(1c)の前記軸方向端部(4a,4b)における前記ピッチPは、軸方向中心(20)におけるピッチよりも小さいことを特徴とする、請求項11に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項13】
前記第1のトランシーバコイル(1d)の前記長手方向軸Z’に沿う前記第1のトランシーバコイル(1d)の前記巻線(3)は、前記長手方向軸Z’に対して可変の傾きTを有することを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載のNMRプローブヘッド。
【請求項14】
前記巻線(3)の少なくとも一部が前記長手方向軸Z’に対して垂直に方向付けられることを特徴とする、請求項13に記載のNMRプローブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のRF磁場B1を生成するための第1のトランシーバコイルを伴うトランシーバコイル装置を有するNMRプローブヘッドに関し、第1のトランシーバコイルは、長手方向軸Z’の周りに複数の巻線を伴う導電体を備え、第1のトランシーバコイルの導電体は、導体幅Wを伴うストリップ形状導体として設計される。
【背景技術】
【0002】
ストリップ形状導体を伴うNMRプローブヘッド用のコイルは、[Prialov1996]から知られている。
【0003】
核磁気共鳴分光法(NMR)用のプローブヘッドを使用して、異なる核を検査することができる。異なる核を励起するために、互いに垂直な磁場を生成する複数、特に2つのコイルを使用することが知られている(クロスコイルNMR測定ヘッド)。しかしながら、一方のコイルの磁場が他方のコイルの導体によって乱され或いは部分的に遮蔽されたりするという問題がある。
【0004】
[Gorkov2007]は、15N核に調整されたソレノイドコイルが1H核に調整された環状ギャップ共振器内に位置される、マジック角回転(MAS)NMR測定用のクロスコイル共振器装置を開示する。
【0005】
他のクロスコイル共振器装置が[Doty2006]から知られている。ここで、1Hコアに調整されたクロスコイルの外側には、可変ピッチソレノイドコイルが取り付けられる。クロスコイルは、1Hコアに調整されたサドルコイルであり、その磁場は円筒形の測定サンプルを通じて横方向に放射する。外側ソレノイドコイルは、13C及び15Nの測定周波数に調整され、測定サンプルに対して軸方向に整列される更なるRF磁場を生成する。1H周波数の交番磁場に関して十分な透過性を達成するためには、ソレノイドコイルの巻線間のクリアランスが十分に大きくなければならない。しかしながら、これは、通常、ソレノイドコイルの品質係数が所与のコイル形状に関して想定し得る最適値よりも低くなるという結果をもたらす。このことは、ソレノイドコイルが内側コイルである構成と、ソレノイドコイルが1Hコイル又は1H共振器の外側にある構成の両方に当てはまる。[Doty2006]において、品質係数損失の一部は、ソレノイドコイル用の楕円形断面を有する導体を使用することによって補償されるべきであり、この場合、長軸はトランシーバコイルの長手方向軸Z’と径方向で整列される。しかしながら、これは、楕円率が増大するにつれて同じ電流に関して生成されるRF磁場が減少するように電流密度が設定される有効直径を増大させる。
【0006】
円形又は楕円形の断面を有する導体に基づくコイル形状に加えて、NMRプローブヘッドに関してストリップ形状導体を使用することも知られている。特に、そのようなコイル形状は、円筒形導体上に構造化することができ(例えば、円筒形の表面を有する基材上に金属層を構造的に適用することによって又は減法的製造プロセスを使用して均一に適用された導体を構造化することによって)、或いは円筒ジャケット形状導体から切り出すことができる。これらの製造方法は、コイル形状、特に可変ピッチの設計においてより大きな自由度を可能にする。
【0007】
[米国特許第6751847号明細書]は、一定のギャップ幅を有するストリップ形状導体から成るコイルを開示し、このコイルは、導電層で作られた円筒ジャケットの外側に構造化される。
【0008】
[Prialov1996]は、可変導体幅及び一定のギャップ幅を伴うストリップ形状導体を有するコイル形状を開示する。幅を変えることにより、軸方向の不均一性が最小限に抑えられる。巻線間の距離は、径方向の磁場の不均一性を最小限に抑えるために小さく保たれる。しかしながら、巻線間の距離が小さいため、このコイル形状は透過性が低く、したがってクロスコイル装置には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、放射され得る更なるRF磁場に対する同時透過性を伴う最大品質係数を有するトランシーバコイルを有するNMRプローブヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、本発明によれば、請求項1に係るNMRプローブヘッドによって達成される。
【0012】
本発明に係るNMRプローブヘッドのトランシーバコイルでは、導体幅Wが、各巻線内で、少なくとも2回減少及び増大し、少なくとも2回増大する。
【0013】
導体幅は、導体中心に垂直な導体の幅である。本発明によれば、各巻線内に最小の導体幅を伴う2つの領域及び最大の導体幅を伴う2つの領域が存在する。したがって、本発明によれば、導体幅は、導体の経路に沿った位置の関数である(W=W(t)、式中、tは、0と巻線の数Nとの間に及ぶパラメータであり、t∈R’’であり、0≦t≦Nであり、N∈R’’は、巻線の数である(R’’:実数全体からなる集合))。最小幅の領域は、磁場に関して高い透過性を達成する一方で、トランシーバコイルの品質係数は、最大幅の領域によって最適化される。このようにして、トランシーバコイルの品質係数にあまり強く悪影響を及ぼすことなく、磁場に関するより高い透過性が達成される。
【0014】
特定の実施形態では、最大導体幅を伴う領域が同じ導体幅を有する。
【0015】
好ましくは、導体幅Wは、特に導体幅の最小値を伴う導電体の領域が長手方向軸の周りの回転に関して180°だけオフセットして配置されるように、周期的に変化する。
【0016】
したがって、最小導体幅を伴う導体の領域は、それぞれの場合に巻線の半分だけ互いに離間されることが好ましい。したがって、最大導体幅を伴う導体の領域もそれぞれ、巻線の半分だけ互いに離間される。最小導体幅を伴う導電体の領域は、好ましくは、長手方向軸Z’を中心とした回転に関して最大導体幅を伴う領域に対して90°回転して配置され、すなわち、巻線の4分の1だけ互いに離間される。したがって、最小導体幅を伴う導電体の2番目の領域ごとに通る直線は、長手方向軸Z’と平行に延びる。この実施形態では、最小導体幅を伴う領域が対向する円筒ジャケットセグメント上に位置され、その結果、最大導体幅を伴うクリアランスも対向する円筒ジャケットセグメント上に配置される。これにより、コイルの品質係数にあまり悪影響を与えることなく、トランシーバコイル装置の透過性を高めることができる。これは、クロスコイル装置に関して、すなわち、他のトランシーバコイル装置によって生成された第2のRF磁場が第1のRF磁場に重畳されるようになっている場合に、特に有利である(以下を参照)。次いで、プローブ体積は両方のRF磁場に「視認可能」となる。同時に、トランシーバコイル装置は、他の領域でより大きい導体幅を有することができ、その結果、コイルの品質係数が増大する。一定の導体幅又は一定のギャップ幅を伴うコイルは、特に導体間隔に対する導体幅の比が<5、より良好には<2、特に<1である場合に、更なるRF磁場に対する同じ透過性を伴う本発明に係るトランシーバコイルよりも低い品質係数を有する。
【0017】
導体幅Wは、0.1mm~2mmの間で変化することが好ましい。
【0018】
更に、デカルトX’、Y’、Z’座標系のX’Z’平面において測定サンプル内に実質的に存在するRF磁場を生成するT≠0の第1のトランシーバコイルと、測定サンプルにおいて実質的にY’Z’平面に存在する第2のRF磁場B2を生成する更なるトランシーバコイルとの組み合わせの場合、巻線当たり4つの最大値及び4つの最小値を有し、最小値がX’及びY’方向にあり、最大値がX’とY’との間の45°にある、第1のトランシーバコイルの一実施形態が有利である。
【0019】
トランシーバコイルが誘電体基材上の金属層(コーティング)から形成される場合、特に有利である。これにより、導体の構造の実現における最大の柔軟性が可能になる。適切な基材は、特に、サファイア、酸化アルミニウムセラミック、テフロン(登録商標)、亜硝酸アルミニウム、石英、及びガラスなどの誘電損失が低い材料である。
【0020】
コーティングは、誘電体基材の内側及び/又は外側に塗布されてもよく、湿式化学及び/又は反応性/非反応性真空エッチングプロセス及び/又はレーザアブレーションプロセスによって構造化されてもよい。或いは、選択的メタライゼーションを使用することができ、その場合、真空蒸着及び電気めっきプロセスが特に有利である。層成長の高い精度と堆積材料の高純度を達成する可能性とに起因して、真空堆積法は、特にコイルが極低温で動作する場合に有利である。ガルバニック法は、特に50μmを超える厚いコーティングに関して、迅速且つ費用効果的に実施することができる。
【0021】
金属管からトランシーバコイルを製造することも同様に有利である。構造化は、例えばフライス加工、レーザ切断、又はウォータージェット切断によって、管状ブランクから必要とされない領域を切り出すことによって行なうことができる。これの利点は、低コストで達成することができ、コーティングプロセスよりも大幅に大きくすることができる大きな導体厚さdである。これは、コイルの高い導電率を達成することを可能にするために、5mm以上、特に10mm以上の直径及び低い測定周波数を有するサンプルに有利であり得る。更に、そのようなトランシーバコイルは、キャリアを伴うことなく、特に導体と測定サンプルとの間にキャリアを伴うことなく製造することができ、その結果、効率が向上する。これは、直径<5mmの小さな測定サンプルに特に有利である。導電性を更に改善するために、切断縁部を丸める方法(例えば、振動仕上げ)を使用することができ、又は切断縁部を、例えばフライス加工によって丸めることができる。
【0022】
好ましくは、導体(すなわち、トランシーバコイルの長手方向軸Z’に対する径方向の導電体の延在部)の導体厚さdは、最大1mm(好ましくは最大200μm)であり、及び/又は導電体へのRF電流の侵入深さの少なくとも2倍である。更に、導体厚さが少なくとも20μm、好ましくは少なくとも100μmであると有利である。侵入深さは、電流密度が導体表面での値の1/eに低下した深さ(表皮効果)として理解されるべきである。これは、導電体の材料及びそれと共に生成するRF磁場の周波数の関数である。
【数1】
ここで、
ρ:比抵抗、
μ=μ
0μ
r:絶対透磁率、
ω=2πf:円周波数である。
【0023】
しかしながら、トランシーバコイルが複数の周波数で使用される場合、導体厚さdは最も低い動作周波数でd<2δとすることもできる。
【0024】
導体の導体厚さdが250μmよりも大きい場合、特に500μmよりも大きい場合、丸みを帯びた部分の電流密度が長方形の導体断面の場合よりも広い面積にわたって分布され、それによって導体の使用表面積を増大させることができるため、丸みを帯びた導体材料で作られた送信/受信コイルは、積層材料で作られた送信/受信コイルよりも高い品質係数を有する。特に、例えば円形ワイヤをプレス加工することによって製造されるような楕円形の導体断面が有利である。
【0025】
導体幅Wは、0.5mm~2mmの間で変化することが好ましい。導体幅が0.5mm未満の場合、製造が困難であり、構造化に起因するエッジ効果が導電率を支配し、原料中の不純物が問題となり得る。導体幅が2mmよりも大きい場合、NMRで典型的な測定サンプル寸法に関しては、複数の層を径方向に構成しなければ十分なインダクタンスを有するソレノイドコイルは不可能である。しかしながら、複数の層を伴うトランシーバコイルは、第2のRF磁場に対する透過性を大幅に低下させ、クロスコイル装置にとって不利になる。
【0026】
特定の実施形態は、トランシーバコイルの巻線がトランシーバコイルの長手方向軸Z’に対して傾けられるようにする。傾きは、1つの巻線にわたる導体中心面のZ’位置の正弦波変調の振幅として規定される。傾きT≠0のコイルは、原則として、可変勾配S’(t)=S(t)+T(t)cos(2πt+φ)(一般的な勾配)で表わすこともできる。S’(t)がフーリエ級数として書かれる場合、Tは勾配の(t=1)-周期部分を表わす。それぞれの巻線ごとに、勾配は次のように書くことができる。
【数2】
ここで、
S(t)=S’(t)-(S
1,acos(2πt)+S
1,bsin(2πt))である。
【0027】
(S1,acos(2πt)+S1,bsin(2πt))は、T(t)cos(2πt+φ)と書くことができ、式中、Tは傾きであり、φは傾きの方向である(通常、φ=0°又はφ=90°)。
【0028】
傾きTは、導電体の長さの経過tにわたって変化し得る(T=T(t))。この場合、傾きは、特に少なくとも1つの半巻線に関して、断面で一定である。次いで、傾きは、半巻線から半巻線に変化する、すなわち、各半巻線は、長手方向軸Z’に対して傾きTで傾けられ、半巻線の少なくとも一部(半巻線)に関して、T≠0が適用される。巻線の傾きTは、B1振幅及び径方向均一性に影響を及ぼす。これは、特にこのコイルがソレノイドコイルとして設計される又はソレノイド形状セクションを備える場合に、トランシーバコイルの効率を高めることができるため、特にMAS NMR測定に有利である。MAS NMR測定では、測定サンプルが長手方向軸Z’の周りで回転され、長手方向軸Z’は、好ましくは、静磁場B0によって規定されて動作中にNMRプローブヘッドの長尺な延在が延びる(すなわち、NMRプローブヘッドがNMR装置に取り付けられる場合)Z軸に対してマジック角θ(θ=54.74°)だけ傾けられる。トランシーバコイルの巻線の傾きに起因して、RF磁場B1の磁場成分を静磁場B0と平行に最小化することができ、又はRF磁場B1の磁場成分を静磁場B0に直交して最大化することができる。しかしながら、巻線の傾きに起因して、従来の(傾斜していない)ソレノイドコイルとは異なり、RF磁場B1はもはやコイルの長手方向軸Z’と平行ではなく、それにより、コイルの導体は「それが生成する磁場の邪魔になる」。これらの領域における傾斜ソレノイドコイルの導体幅の減少は、本発明に係る傾斜ソレノイドコイルの伝達効率及び可能な信号対雑音比を増大させる。
【0029】
本発明に係るMRプローブヘッドの特に好ましい実施形態は、トランシーバコイル装置が、第2のRF磁場B2を生成するための少なくとも1つの更なるトランシーバコイルを備え、第1のトランシーバコイル及び更なるトランシーバコイルによって生成されるRF磁場B1、B2が互いに垂直に整列されるように、第1のトランシーバコイル及び更なるトランシーバコイルが共通の長手方向軸Z’の周りに配置され、第1のトランシーバコイルの表面法線が第2のRF磁場B2と平行である領域において、第1のトランシーバコイルの導電体の導体幅Wが最小値(テーパ)を有するようにする。言い換えれば、視野内で測定サンプルを励起するためにRF磁場B2が透過しなければならない第1のトランシーバコイルの表面の領域では、B2において透過領域を形成するために、第1のトランシーバコイルの導電体の導体幅Wは最小である。
【0030】
2つのトランシーバコイルは、好ましくは異なる周波数に調整される。互いに垂直な磁場B1、B2は、ベクトルB1(x、y、z)とB2(x、y、z)とのスカラー積の体積積分が、少なくとも測定サンプルが位置する2つのコイルの視野領域にわたってほぼ0であることを意味し、すなわち、測定サンプル内のB1、B2磁場のみが考慮される。特定の実施形態では、2つのRF磁場B1及びB2の分離は整合ネットワークによって達成され、すなわち、2つの送信受信コイルによって直接生成されるRF磁場B1及びB2が互いに正確に直交する必要はない。
【0031】
第1のトランシーバコイルの表面法線(第1のトランシーバコイルの円筒表面に垂直なベクトル)が第2のRF磁場B2と平行である領域における第1のトランシーバコイルの導電体の導体幅Wの最小値により、第1のトランシーバコイル装置は、第2のRF磁場B2に対して高い透過性を示す。
【0032】
キャリアが第1のトランシーバコイルと更なるトランシーバコイルとの間の空間を少なくとも部分的に満たす場合には更に有利である。高い絶縁耐力を有する材料が使用される場合、RFパルスを送信する際、特に同時RFパルスの送信中に、電気的破壊を回避することができる。
【0033】
特定の実施形態では、第3のRF磁場B3を生成するための第3のトランシーバコイル装置が提供され、第3のRF磁場B3は、好ましくは第1のRF磁場B1及び第2の磁場B2に垂直であり、また、第1のトランシーバコイルの導体幅は、第1のトランシーバコイルの表面法線が第3のRF磁場B3に平行である領域において最小値を有する。
【0034】
したがって、トランシーバコイル装置のストリップ導体の導体幅Wは、B2磁場及びB3磁場の領域でコイルの円筒の円周に沿って周期的に減少する。したがって、各巻線は、導体幅が最小値を有する4つの領域を有する。
【0035】
更なるトランシーバコイルは、好ましくは、サドルコイル又は共振器、例えば、Alderman-Grant、バードケージ、又はループギャップ共振器として形成される。
【0036】
好ましくは、第1のトランシーバコイルは、少なくとも1つのソレノイド形状(螺旋状)セクションを有する。特に、第1のトランシーバコイルはソレノイドコイルとすることができる。好ましくは、トランシーバコイルは、ソレノイド形状セクションのみを備え、したがって、特にトランシーバコイルの長手方向軸Z’の周囲で延びる巻線のみを備える。
【0037】
好ましくは、トランシーバコイルは、少なくとも3つの巻線を備える。
【0038】
一般に、円筒形ソレノイドコイルの導電体の包絡線は、以下のように定義される(ここで、コイルの端部は、以下の式のパラメトリック表示によってカバーされない)。
デカルト座標
【数3】
において、t∈{0...N}
(開始巻線に関しても適宜定義される)
この場合、
【数4】
は巻線のピッチ(すなわち、Z’方向で巻線により覆われる経路)であり、Sは局所勾配であり、ここで、tnはn番目の巻線の開始時のtであり、すなわち、tn=0,1,...であり、
Tは、傾き(ここでは、1巻線にわたる導体中心面のZ’位置の正弦波変調の振幅として定義される)であり、
Rは半径であり、
Nはトランシーバコイルの巻回数であり、N∈R’’であり、3≦Nであり、
tは、トランシーバコイル装置の0巻回数と1巻回数との間にあるパラメータであり、t∈R’’であり、0≦t≦Nである。
好ましくは、巻回数Nは、整数又は半整数(N∈N’’又は2N∈N’’(N’’:自然数全体からなる集合))である。
【0039】
本発明に係るMRプローブヘッドの特定の実施形態は、第1のトランシーバコイルの導電体が順方向巻線セクションと戻り巻線セクションとを備え、順方向巻線セクションが、順方向巻線を備えるとともに、接続領域を起点として、所定の巻回方向で、トランシーバコイルの軸方向端部に至り、戻り巻線セクションが、戻り巻線を備えるとともに、第1のトランシーバコイルの軸方向端部を起点として、同じ所定の巻回方向で接続領域に至り、戻り巻線セクションの巻線が、順方向巻線セクションの巻線とは反対の符号を伴うピッチPを有し、導電体の順方向巻線及び戻り巻線が、順方向巻線及び戻り巻線が交差する交差領域を除き、長手方向軸Z’周りで共通の円筒ジャケット表面上に配置されるようにする(交差形状)。したがって、この実施形態において、トランシーバコイルは、2つのソレノイド形状導体セクション(順方向巻線セクション及び戻り巻線セクション)を有する。
【0040】
したがって、順方向巻線及び戻り巻線は、長手方向軸Z’の周りで同じ径方向距離にあり、すなわち、共通の表面上で反対方向に延びる巻線がある。接続領域は、電気コイルセクションを整合ネットワークに接続するために使用され、複数の電気コイルセクションのための接続部を備えることができる。順方向巻線セクション及び戻り巻線セクションは、端子セクションの2つの端子間で延びるコイルセクションを形成し、それにより、印加電圧は、それぞれのコイルセクションの順方向巻線の開始と戻り巻線の終わりとの間に印加される。共通の円筒表面上に順方向巻線及び戻り巻線を配置するために、順方向巻線及び戻り巻線は互いに交差しなければならない。交差部は、可能な限り小さい延在部を有する円周のセクション(交差領域)で実行され、好ましくは、順方向巻線セクション又は戻り巻線セクションの導電体は円筒表面上に残るが、それぞれの他の導電体はブリッジ要素の形態で第1の導電体上にわたって交差する。
【0041】
この特定の実施形態によって、巻線及び接続領域の配置は、トランシーバコイルの動作中の電位が隣り合う巻線の同等の位置(例えば、巻線の最初又は中央又は最後)と大きさが等しいか又は類似するように選択され得る。U1/UN=(N/2-1)/(N/2)であり、ここで、U1:第1の巻線にわたる電圧、UN:N個の巻線にわたる電圧である場合、電位は同様であると考えられる。したがって、コイルセクションが動作時に電位0の点を有する逆方向巻線(いわゆる平衡回路網によって設定される)を備える好ましい実施形態では、コイルセクションの順方向巻線及び戻り巻線は、逆方向巻線を除いて、交互に配置されることが好ましい。このようにして、導電性サンプルに見える電場を低減することができ、同時に他の性能損失を低減することができる。この実施形態は、導電性測定サンプル又は高い誘電損失を有する測定サンプルの検査に特に有利である。本発明に係る共通の円筒表面上の導体セクションの幾何学的配置は、測定サンプル中のNMRプローブヘッドのコイルによって生成される電場を大幅に最小化できるようにする。電場は、送信中及び受信中の両方の性能損失、例えば測定サンプルの加熱、制限された送信電力でのパルス角の延長、信号対雑音比の低減などにつながる可能性がある。
【0042】
複数のコイルセクションを設けることもでき、各コイルセクションは、順方向巻線セクション及び戻り巻線セクションを備える。
【0043】
特定の実施形態では、第1のトランシーバコイルの巻線の勾配S、特にピッチPが導体の経路に沿って変化するようにすることができる。したがって、勾配は、コイルセクションに沿った位置の関数である(S=S(t))。勾配S=S(t)の変化は、ピッチPの変化によって実現できるが、一定のPの巻線内での局所勾配Sの変化によっても実現できる。
【0044】
一定のピッチPの場合、局所勾配S(t)は、1つの巻線内で変化する可能性があり、符号が反転する可能性さえある。巻線のピッチPは、tn+1における中心線のZ’座標がtnのZ’座標よりも大きい場合に正と呼ばれる。これは、tnとtn+1との間の間隔におけるZ’座標が、tnよりも小さい値をとる場合でも成り立つ。トランシーバコイルの長手方向軸Z’に沿った(軸上)均一性は、可変ピッチP又は可変勾配Sによって改善することができる。
【0045】
複数の巻線は、誘導的又は容量的に結合された個々の共振器として実現することもできる。次いで、ピッチPは、2つの隣り合う個々の共振器間の距離を表わす。
【0046】
有限コイルの場合、B1磁場の振幅は軸方向端部で低下する。軸方向端部におけるピッチPを減少させることによって、巻線が互いにより近くに位置することを達成することができる。このようにして、コイルの有限性に起因して欠けている電流密度を補償することができる。したがって、短いコイルの長手方向軸Z’に沿った均一性の改善は、特にトランシーバコイルの軸方向端部におけるピッチPが軸方向中心よりも小さい場合に生じる。
【0047】
一方、交互に配置された順方向巻線セクション及び戻り巻線セクション(交差形状-上記参照)を伴う「ショート」コイルが自然共振で/その近傍で動作される場合、コイルセクションの長さに沿ったほぼ正弦波の電流分布が、コイルの一端又は中央のいずれかに静止する導体端部の領域における生成電場を低減するので、導体の中心におけるピッチPを低減することが有利である。
【0048】
径方向(軸外)の均一性を改善するために、本発明に係るMRプローブヘッドの更なる実施形態は、導体に沿ったトランシーバコイルの巻線が第1のトランシーバコイルの長手方向軸Z’に対して可変の傾きを有する、すなわち、T=T(t)となるようにする。
【0049】
更に、トランシーバコイル又はトランシーバコイルの一部を螺旋形状ではなくゼロピッチコイルとして形成する可能性もある。この場合、少なくとも1つの巻線は、その長さの大部分にわたって勾配S=0を有する。そのような巻線は、閉じていないリングを形成し、すなわち、S(t)=0は、t=t0...t0+1-ε又はt=t0+..ε/2...t0+1-ε/2に関して有効であり、この場合、ε>0であり、ここで、ε>0は短絡を防止し、t=t0は、巻き始めである。しかしながら、巻線間のギャップ幅D>0を確保するために、完全な巻線のピッチPは0に等しくない大きさを有する。ここで、P(t)は、一定であってもよく、巻線ごとに異なっていてもよい。傾斜していないトランシーバコイル装置の場合(すなわち、T=0の場合)、巻線は、勾配S=0を有する全範囲にわたって長手方向軸Z’に対して垂直に方向付けられる。そのようなトランシーバコイル装置は、勾配のない閉じていない「リング」と勾配S≫0の短い巻線部との組み合わせとして設計することができる。特定の実施形態において、巻線の一部は、トランシーバコイルの長手方向軸Z’に対して垂直に整列され得る。したがって、トランシーバコイルは、(局所)勾配のない閉じていない「リング」と、勾配S>0を有する導電体の部分との組み合わせとして設計することができる。その結果、導体幅Wとギャップ幅Dとの比W/Dをトランシーバコイル装置にわたって一定に保つことができる。結果として、トランシーバコイル装置の品質係数を最大にすることができ、特に簡単な方法で電界を最小にすることができる。
【0050】
特に好ましい実施形態は、量傾きT、勾配S、導体幅Wのうちの少なくとも2つがトランシーバコイルの導電体の長さの経過tにわたって変化し、特に、勾配Sと、量傾きT及び導体幅Wのうちの一方とが変化するようにする。このようにして、信号対雑音比(SNR)に関して最適化されたトランシーバコイルを実現することができる。
【0051】
本発明の更なる利点は、説明及び図面から明らかになる。同様に、上記で言及されて以下に記載される本発明に係る特徴はそれぞれ、それ自体単独で又は任意の所望の組み合わせで一緒に使用することができる。図示及び説明された実施形態は、網羅的なリストとして理解されるべきではなく、本発明を説明するための例示的な性質のものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】導体幅が各巻線内で周期的に変化するトランシーバコイルの一実施形態の斜視図を示す。
【
図2a】第1のトランシーバコイルが他のトランシーバコイルの内側に配置された、本発明に係るプローブヘッドにおけるトランシーバコイル装置の一実施形態の斜め上から見た斜視図である(クロスコイル形状)。
【
図2b】
図2aの実施形態の側方からの斜視図を示す。
【
図3a】傾けられた巻線を伴うコイルにおけるコイルパラメータを説明するためのソレノイド形状コイル部の詳細を示す。
【
図3b】傾けられていない巻線を伴うコイルにおけるコイルパラメータを説明するためのソレノイド形状コイル部の詳細を示す。
【
図4】傾けられた巻線を伴うとともに導体幅Wが各巻線内で周期的に変化するトランシーバコイルの一実施形態の斜視図である。
【
図5】各巻線内で導体幅Wが周期的に変化するゼロピッチトランシーバコイルの一実施形態の斜視図である。
【
図6】各巻線内でピッチPが変動するとともに導体幅Wが周期的に変動するトランシーバコイルの一実施形態の平面図を示す。
【
図7】順方向巻線セクション及び戻り巻線セクションを有する第1のトランシーバコイルを有する、本発明に係るプローブヘッド用のトランシーバコイル装置の一実施形態の巻線図を示す。
【
図8】両方の縁部領域から中心に向かって傾きが増大し、両方の縁部領域から中心に向かって勾配が増大し、及び巻線当たり4つの最大値及び4つの最小値を有する周期的に変化する導体幅を伴う、本発明に係るトランシーバコイルを示す。
【
図9】本発明に係るNMRプローブヘッドの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、本発明に係るNMRプローブヘッド用の第1のRF磁場B1を生成するための第1のトランシーバコイル1の好ましい実施形態の斜視図を示す。第1のトランシーバコイル1は、長手方向軸Z’の周りに配置されるN個(ここで、N=10)の巻線3を伴う導電体2を備える。第1のトランシーバコイル1はソレノイド形状であり、巻線3は、仮想円筒表面の周りに円筒状を成して巻回又は配置される。
【0054】
導電体2は、ストリップ形状導体(「導体トラック」)として設計されており、すなわち、導体は、導体の厚さよりも大きい(特に少なくとも1桁大きい)導体幅を有する。ストリップ導体は略矩形状の断面を有する。本発明によれば、導電体2は、可変導体幅W(
図3a及び
図3b参照)、すなわち、W=W(t)を有し、式中、tは、0とトランシーバコイル1の巻回数との間に及ぶパラメータであり、t∈R’’及び0≦t≦Nであり、ここで、Nは、N∈R’’及び3≦Nである第1のトランシーバコイル1の巻回数である。更に、導体は、導体厚さdを有する。ここに示される実施形態において、各巻線は、(それぞれの巻線内の)最小導体幅Wminを伴う第1の領域6と、最小導体幅Wminを伴う第2の領域7とを有し、これらの領域は、長手方向軸Z’を中心とした回転に関して180°だけオフセットして配置される。更に、巻線はそれぞれ、長手方向軸Z’を中心とした回転に関して第1の領域6に対して90°だけオフセットして配置される最大導体幅Wmaxを伴う第3の領域8と、長手方向軸Z’を中心とした回転に関して第3の領域8に対して180°だけオフセットして配置される最大導体幅Wmaxを伴う第4の領域9とを有する。したがって、各巻線3内で、導体幅Wmaxは2回増大し、2回減少し、最小導体幅を伴う領域6、7は互いに対向して位置する。最大導体幅を伴う領域8、9も互いに対向して位置している。ここに示される実施形態では、導体幅W=W(t)の増減が周期的である。また、W(k)=W(k+0.5)=Wminであり、W(k+0.25)=W(k+0.75)=Wmaxである。
【0055】
図示の実施形態では、導体幅Wを以下のように指定することができる。W(t)=W(0.5+(n-1))、又はW(0+(n-1))<W(0.25+(n-1)又はW(0.75+(n-1))、nは自然数、すなわちn∈N’’である。巻線当たり2つの最大値及び2つの最小値を伴う導体の周期的な拡大及び先細りの場合、導体幅は、 W(t)=W0+ΣWi(sin(2πt+φ))2iとして表わすことができ、式中、「位相」φは最小値/最大値の位置を決定する。一般に、W0及びWiも、tに依存し得るものであり、特に、巻線又は半巻線ごとに異なっていてもよい。
【0056】
ストリップ形状導体間には、可変ギャップ幅D(
図3a及び
図3b参照)を伴うギャップ10がある。中間空間10のギャップ幅Dは、最小導体幅Wを伴う領域6、7において最大である。導体幅Wが大きい領域8、9は、第1のトランシーバコイル1の品質係数の改善につながるが、導体幅Wが小さいがギャップ幅Dが大きい領域6、7は、放射されるべき更なる磁場における透過性の向上をもたらす。導体の厚さdに応じて、コイルの品質係数が最大になる最適な比W/Dがある。
【0057】
図2a、
図2bは、第1のRF磁場B1を生成するためのソレノイド形状の第1のトランシーバコイル1aと、本発明に係るNMRプローブヘッド用の第2のRF磁場B2を生成するための更なるトランシーバコイル11とを伴うトランシーバコイル装置100の特に好ましい実施形態の斜視図の2つの角度を示す。ここで、第1のトランシーバコイル1aは、更なるトランシーバコイル11によって生成される第2の磁場B2が第1のトランシーバコイル1aによって生成される第1の磁場B1に対して実質的に垂直になるように、更なるトランシーバコイル11の径方向内側に同軸に配置される。更なるトランシーバコイル11は、ここでは2つの半体5,5’から成るAlderman-Grant共振器として形成され、第1のトランシーバコイル1aを径方向で取り囲む。第1のトランシーバコイル1a及び更なるトランシーバコイル11は、第1のトランシーバコイル1の導電体2の導体幅Wが最小値を有する第1のトランシーバコイル1aの領域6、7が更なるトランシーバコイル11の「窓」内にあるように互いに対して方向付けられ、それにより、更なるトランシーバコイル11によって生成された第2の磁場は、第1のトランシーバコイル1aの領域6、7(
図2a及び
図2bに破線で示されている)を通過する。結果として、第1のトランシーバコイル1aは、第2のRF磁場B2に関して高い透過性を有する。更に、トランシーバコイル1aは、端部領域においてより低いピッチPを有する。本実施形態では、平均ギャップ幅に対する平均導体幅の比W/Dが一定であるため、平均導体幅Wは、中央巻線3’から末端巻線3’’に向かって減少する。
図2の実施形態の代替として、更なるトランシーバコイル11を第1のトランシーバコイル1a内に配置することもできる。同様に、更なるトランシーバコイルは、共鳴器(図示せず)としてではなく、サドルコイル、特に多巻サドルコイルとして設計することもできる。
【0058】
第1のトランシーバコイル1の導電体2は2つの接続領域12a、12bを備え、該接続領域のそれぞれは、ここに示される実施形態では第1のトランシーバコイル1aの軸方向端部4a、4bに位置される。そこで、トランシーバコイル1bは、RFパルスを送信するときにトランシーバコイル1bにエネルギーを供給するために、又は測定サンプルの励起後にコイルに誘導された信号を検出するために、末端巻線3’’を介して整合ネットワーク(より詳細に図示せず)に接続され得る。
【0059】
本発明に係るNMRプローブヘッドの更なる最適化は、トランシーバコイルのコイルパラメータを変化させることによって行なうことができる。
【0060】
図3a及び
図3bは、ストリップ形状導体2を有するソレノイド形状コイルの断面をそれぞれ示しており、それに基づいてコイルパラメータが最初に示される。
図3a及び
図3bのソレノイド形状コイルは、長手方向軸Z’(コイル軸)に沿って配置され、長手方向軸Z’はX’Y’平面に垂直である。ソレノイド形状のコイルは、導体2の導体幅W、ギャップ10のギャップ幅D、巻線のピッチP、巻線の傾きT、巻線の半径Rによってパラメータ化される。ここに示される実施形態では、合計3つの巻線が示される。
【0061】
導体幅Wは、導体2の幅を示す。導体幅Wは、導体2の最外点によって決定される。ここに示される実施形態において、導体幅Wは、長手方向軸Z’に沿って一定に保たれる(すなわち、W=一定)。
【0062】
ギャップ幅Dは、導体2の巻線間の中間空間10の幅を示す。ギャップ幅Dは、導体2の隣り合う巻線間の領域の最も外側の点によって決定される。
【0063】
巻線のピッチPは、隣り合う2つの巻線間のZ’方向の距離、すなわち、1回の完全な巻線後のコイルの進行を示し、導体2の中心線によって決定される。一定のピッチPは、勾配Sが1つの巻線内で変化することを排除するものではない。
【0064】
巻線の傾きTは、長手方向軸Z’に対する巻線の傾きを示し、1つの巻線にわたる導体中心面のZ’位置の正弦波変調の振幅に対応する。勾配S及び傾きが幾つかの巻線にわたって一定である場合、それはMax(Z(t)-Z(t+1))-S)/2から容易に決定することができ、ここで、tは間隔tn...tn+1で変化する。
【0065】
巻線の半径Rは、導体2が存在する半径を示す。
【0066】
図3a及び
図3bに示されるソレノイドコイルはそれぞれ、一定の導体幅W、一定のギャップ幅D、及び一定のピッチPを有し、
図3aに示されるコイルは傾斜コイル(T≠0)であり、
図3bに示されるコイルは非傾斜コイル(T=0)である。
【0067】
一般に、導体2の中心線は、デカルト座標で次のように定義される。
【数5】
であり、ここで、
φは、巻線の傾きの向きである。
【0068】
デカルト座標における導体2の包絡線は、以下のように定義される。
【数6】
ここで、t∈{0...N}である。
【0069】
特に、導体幅はW(t)=W
0+ΣW
i(sin(2πt+k))
2iであり、傾きTは各半巻線にわたって一定であり、通常、傾き方向はφ=0(Y’軸周りの傾き)又はπ/2(X’軸周りの傾き)であり、半径R(t)=Rである。
図1及び
図2に示される本発明に係るトランシーバコイル1、1aの実施形態はそれぞれ可変導体幅W=W(t)、一定の勾配S=一定及び傾きT=0を有する。
【0070】
以下では、コイルパラメータを変化させることによって本発明に係るNMRコイルヘッドの性能を更に向上させることができる本発明に係るトランシーバコイル形状の特定の変形例について説明する。
【0071】
図4は、各巻線3c内で導体幅Wが周期的に変化する本発明に係るトランシーバコイル1cの一実施形態を示し、巻線はトランシーバコイル1の長手方向軸Z’に対して傾けられ(T≠0)、導体幅の最小値は、傾きによって規定される導体位置の正弦波変調の最大値の位置で生じる。傾斜巻線3cを有するトランシーバコイルは、トランシーバコイル1の長手方向軸Z’がNMRプローブヘッド23のZ軸に対して、好ましくはマジック角θ(θ=54.74°)(
図8参照)だけ傾斜しているMAS配置で特に有利に使用することができる。
【0072】
図5は、ゼロピッチコイルとして設計された、各巻線3e内の導体幅Wが周期的に変化する本発明に係るトランシーバコイル1dを示す。巻線3eは、接続部22を介して互いに接続された閉じていないリング状に形成されている。各巻線3d内の勾配Sは0である。全体として、一定のピッチP=一定は、接続部22によって実現される。
【0073】
図6は、導体幅が周期的に変化するとともに各巻線内でピッチPが変化する本発明に係るトランシーバコイル1eを示し、ピッチP及び導体幅Wの両方は、軸Z’に沿って変化し、すなわち、ピッチP及び導体の最大幅は、巻線の軸方向位置に応じて変化する。
図6に示される例では、ピッチP及び導体幅Wの両方が軸方向端部4a、4bに向かって減少する。
【0074】
図7は、本発明に係るNMRプローブヘッド用の第1のトランシーバコイル1bの特定の実施形態の巻線図を示す。ここでも、導体幅Wは、本発明に係る各巻線内で2回変化する。これはゼロピッチコイルであるため、最大導体幅を伴う領域8、9は互いに対向して位置する。最小導体幅を伴う領域6、7も互いに対向して位置している。
【0075】
ここに示される実施形態において、第1のトランシーバコイル1bは、それぞれが接続領域12からトランシーバコイル1bのそれぞれの軸方向端部4a、4bまで延びる順方向巻線14a、14bと、それぞれの軸方向端部4a、4bから元の接続領域12まで延びる戻り巻線15a、15bとを伴う2つのコイルセクション13a、13bを有する。戻り巻線15a、15bは、順方向巻線14a、14bに対して反対のピッチPを有する。リードバック導体(戻り巻線15a、15b)は、順方向導体(順方向巻線14a、14b)と同じ表面(ここでは、円筒表面、より詳細には図示せず)上で延びる。順方向巻線14a、14b及び戻り巻線15a、15bは、長手方向軸Z’の周りの共通の円筒表面上に配置される。戻り巻線15a、15bは、2つの順方向巻線14a、14b間の空間に配置される。このために必要な交差部16は、ここでは円周の可能な限り小さい部分(交差領域17)で実現される。順方向巻線及び戻り巻線14、14b、15a、15bの交差部16は、例えば、接続要素(より詳細には図示せず)として共通の周面の中に出入りするブリッジ要素によって実装され得る。
【0076】
したがって、ここに示されるトランシーバコイル1bの幾何学的形状では、反対の電位を伴う巻線が、第1のトランシーバコイル1bの長手方向軸Z’から同じ径方向距離を隔てて配置され、その場合、隣り合う巻線14a~15a;14b~15bの電位は、互いに補償し合い、すなわち、大きさが可能な限り類似しているが符号が反対である。電界は、ギャップに集中し、トランシーバコイル1bからの距離が増大するにつれて非常に急速に減衰する。電界は、測定サンプルが位置される、視野が位置するトランシーバコイル1bの内部にわずかにしか延在しない。これにより、測定サンプルに導入される電界が最小になる。極低温冷却NMR測定ヘッドの場合、損失の多い測定サンプルで動作する場合でも、良好な信号対雑音比を保証することができる。
【0077】
ここに示されるトランシーバコイル1bは、1つのコイルセクションのみを有する実施形態として実施することもできる。この場合、接続領域は、軸方向端部のうちの1つに位置される。次いで、導電体は、所定巻回方向で反対の軸方向端部に向かって案内され、反対のピッチP及び同じ巻回方向で接続領域に戻る。
【0078】
図8は、傾斜巻線を有する本発明に係るトランシーバコイル1gの特定の実施形態を示す。導体幅Wは、トランシーバコイル1gに関して周期的に変化し、1巻線当たり、4つの最大値と、4つの最小値、すなわち、クロスコイル形態の第2のRF磁場B2における透過度をもたらすための傾斜軸(X’方向)に沿う2つの最小値、及び「それ自体の方法でより少なくなる」ための傾斜軸に垂直な(Y’方向に沿った)2つの最小値とを有する。これらの最小値は、一般に、傾斜巻線を有するトランシーバコイルに関して第1のトランシーバコイル1gの性能を最適化するが、透過性を高める最小値は、第1のトランシーバコイル1gを犠牲にして更なるトランシーバコイル(
図8には示されない)の性能を最適化する。
【0079】
図8は、本発明に係るNMRプローブヘッド23の概略図を示す。NMR測定を実行するための静磁場は、ここに示される例では動作中にZ軸に平行に整列される。NMRプローブヘッド23は、本発明に係るトランシーバコイル1を備え、トランシーバコイル1は、整合ネットワーク24に接続され、分光計接続部21を更に備える。
図8に示されるNMRプローブヘッドは、NMRプローブヘッド23の長尺延在部がそれに沿って延びるZ軸に対して、トランシーバコイル1の長手方向軸Z’が好ましくはマジック角θ(θ=54.74°)だけ傾けられるMAS(マジック角回転)プローブヘッドである。
【符号の説明】
【0080】
1,1a-1e,1g 第1のトランシーバコイル
2 第1のトランシーバコイルの導電体
3 第1のトランシーバコイルの巻線
3’ 第1のトランシーバコイルの中央巻線
3’’ 第1のトランシーバコイルの末端巻線
4a,4b 第1のトランシーバコイルの軸方向端部
5,5’ 更なるトランシーバコイル11の半体
6 最小導体幅を有する巻線の第1の領域
7 最小導体幅を有する巻線の第2の領域
8 最大導体幅を有する巻線の第3の領域
9 最大導体幅を有する巻線の第4の領域
10 第1のトランシーバコイルの巻線間の中間空間
11 更なるトランシーバコイル
12,12a,12b 第1のトランシーバコイルの接続領域
13a,13b 第1のトランシーバコイルのコイルセクション
14a,14b コイルセクションの順方向巻線
15a,15b コイルセクションの戻り巻線
16 導電体の交差部
17 交差領域
21 分光計接続部
22 接続セクション
23 NMRプローブヘッド
24 整合ネットワーク
100 2つのトランシーバコイルを有するトランシーバコイル装置
d ストリップ形状導体の導体厚さ
D 中間空間のギャップ幅
R 巻線の半径
P 巻線のピッチ
S 局所勾配
T 巻線の傾き
W 導体の導体幅
Z’ 長手方向軸
Z プローブヘッドの静磁場/長手方向延在の方向
【0081】
参考文献
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クロスコイルを使用して、高磁場での三重共鳴多核MASにおけるRF加熱を1桁減少させる
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【外国語明細書】