(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007502
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】MAS NMRプローブヘッドのためのトランシーバコイル装置、およびトランシーバコイル装置を設計するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20240110BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N24/00 570A
G01N24/00 510B
H01F5/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023108131
(22)【出願日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】10 2022 206 768.1
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】591148048
【氏名又は名称】ブルーカー スウィッツァーランド アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bruker Switzerland AG
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス フレイタグ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】視野内の軸方向および半径方向の均一領域が改善されるNMR-MAS用途のトランシーバコイルを提供する。
【解決手段】第1のトランシーバコイル1aは、導体経路幅WおよびN≧3巻線を伴う電気導体を有する少なくとも1つのソレノイド形状部を有し、すべての巻線はトランシーバコイルの長手方向軸の周りを通り、電気導体はスロープを有し、各半巻線は長手方向軸に対して傾斜Tで傾斜する。結果として、均一領域が視野内において軸方向および半径方向に改善され、ならびに/または、トランシーバコイルによって生成されるHF磁場の強度が所与の電力で増加するように、トランシーバコイルを最適化できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のHF磁場B1を生成するための長手方向軸Z’を伴う第1のトランシーバコイル(1a~g)を有するMAS NMRプローブヘッド用のトランシーバコイル装置(100a~f)であって、
前記第1のトランシーバコイル(1a~g)は、導体経路幅WおよびN≧3巻線を伴う電気導体(2)を有する少なくとも1つのソレノイド形状部を有し、すべての巻線が前記トランシーバコイル(1a~g)の前記長手方向軸Z’の周りを通り、前記電気導体(2)はスロープSを有し、各半巻線は前記長手方向軸Z’に対して傾斜Tで傾斜し、前記半巻線の少なくとも一部についてT≠0であり、
●傾斜T=T(t)、
●スロープS=S(t)、
●導体経路幅W=W(t)
の変数のうちの少なくとも2つは、前記トランシーバコイル(1a~g)の前記電気導体(2)の前記長さの前記進路tにわたって変化する、
ことを特徴とする、
MAS NMRプローブヘッド用のトランシーバコイル装置(100a~f)。
【請求項2】
前記第1のトランシーバコイル(1a~g)の前記電気導体(2)は、帯状導体として設計されている、ことを特徴とする、請求項1に記載のトランシーバコイル装置(100a~f)。
【請求項3】
前記スロープSは、前記電気導体の前記長さの前記進路tにわたって変化し、前記導体経路幅Wは、各巻線内で変化し、特に前記導体経路幅Wは、各巻線内で少なくとも1回増加し1回減少すること、を特徴とする、請求項1から2のいずれか一項に記載のトランシーバコイル装置(100a~f)。
【請求項4】
前記第1のトランシーバコイル(1d~f)の前記電気導体(2)の前記スロープSおよび前記傾斜Tは、前記電気導体(2)の前記進路に沿って変化すること、を特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のトランシーバコイル装置(100d~f)。
【請求項5】
前記第1のトランシーバコイル(1d,1e,1f,1g)の前記軸方向端部(4a,4b)における前記傾斜Tは、前記軸方向中心よりも小さいこと、を特徴とする、請求項4に記載のトランシーバコイル装置(100d~f)。
【請求項6】
前記トランシーバコイル装置(100b,100c)は、前記第1のトランシーバコイル(1b、1c)の半径方向外側に第2のHF磁場B2を生成するための少なくとも1つの別のトランシーバコイル(11)を備え、
前記第1のトランシーバコイル(1b、1c)および前記別のトランシーバコイル(11)は、前記第1のトランシーバコイル(1b、1c)、および前記別のトランシーバコイル(11)によって生成されるHF磁場B1、B2が互いに垂直に整列するように、前記共通の長手方向軸Z’の周りに配置されること、
を特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のトランシーバコイル装置(100b,100c)。
【請求項7】
前記第1のトランシーバコイル(1c)の前記電気導体(2)は、順巻線部および逆巻線部を備え、前記順巻線部は、順巻線(14)を備え、接続領域から開始して、前記トランシーバコイル(1c)の軸方向端部(4a)に所定の巻線の向きで導き、前記逆巻線部は、逆巻線(15)を備え、前記第1のトランシーバコイル(1c)の前記軸方向端部(4b)から開始して、前記所定の巻線の向きで前記接続領域に導き、前記逆巻線部の前記巻線は、前記順巻線部の符号とは反対の符号を有するスロープSを有し、
前記電気導体(2)の前記順巻線および前記逆巻線は、前記順巻線および前記逆巻線が互いに交差する交差領域を除いて、前記長手方向軸Z’の周りの共通の円筒形ジャケット表面上に配置されること、
を特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のトランシーバコイル装置(100c)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のトランシーバコイル装置(100,100a-f)を有する、MAS NMRプローブヘッド(23)。
【請求項9】
最適化が実行され、
最適化のための前記目標関数として、所定のNMR実験の前記信号対雑音比SNRが選択されるか、または、前記目標関数が前記信号対雑音比SNRに影響を及ぼす少なくとも2つの変数を備えるかのいずれかであること、を特徴とし、
かつ、
最適化が、最適化パラメータによって実行され、そのうちの少なくとも2つの選択された最適化パラメータは、前記電気導体(2)の前記長さの前記進路にわたって変動し、
●スロープS、
●傾斜T、
●導体経路幅W、
のパラメータから選択されること、
を特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のトランシーバコイル装置を設計するための方法(100a~f)。
【請求項10】
最適化は、
a)巻線の数Nを規定するステップであって、N≧3である、ステップと、
b)それぞれの場合に、前記最適化パラメータの開始値を決定するステップと、
c)前記最適化パラメータの前記決定された開始値を有する前記目標関数を決定するステップと、
d)前記最適化パラメータを調整するステップであって、前記少なくとも2つの選択されたパラメータについて、前記トランシーバコイル装置(100a~f)の0と巻線数Nとの間で実行する実行パラメータtの関数として非定数関数が使用され、t∈R’’(R’’:実数全体からなる集合)および0≦t≦Nである、ステップと、
e)前記調整された最適化パラメータを用いて前記目標関数を決定するステップと、
f)前記目標関数が所定の目標間隔内になるまでステップd)~e)を繰り返すステップと、を備えること、
を特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記信号対雑音比SNRに影響を及ぼす前記目標関数の前記少なくとも2つの変数のうちの1つは、前記視野内での動作中に前記トランシーバコイル(1d,1e,1f,1g)によって生成される前記HF磁場B1の前記半径方向均一性であり、前記選択された最適化パラメータは、前記巻線の前記スロープSおよび前記傾斜Tであること、を特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記巻線の前記傾斜は、前記第1のトランシーバコイル(1d,1e,1f)の前記軸方向端部(4a,4b)における前記傾斜Tが前記第1のトランシーバコイル(1d,1e,1f,1g)の前記軸方向中心よりも小さくなるように、前記電気導体(2)の前記長さの前記進路にわたって適合されること、を特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記信号対雑音比SNRに影響を及ぼす前記目標関数の前記少なくとも2つの変数のうちの1つは、前記トランシーバコイル(1a~e、1g)によって生成される前記HF磁場B1の軸方向均一性であること、を特徴とする、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記信号対雑音比SNRに影響を及ぼす前記目標関数の前記少なくとも2つの変数のうちの1つは、前記B1の振幅/定格であり、前記選択された最適化パラメータが前記スロープSおよび前記導体経路幅Wであること、を特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項15】
前記トランシーバコイル(1a~g)の前記中心における前記巻線の前記傾斜Tは、前記B1の振幅/定格が、導体経路幅Wに対するスロープSの所与の比S/Wに対して最大化されるように、選択されること、を特徴とする、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記トランシーバコイル装置(100b,100c)は、別のHF磁場B2を生成するための別のトランシーバコイル(11)を備え、前記信号対雑音比SNRに影響を及ぼす前記目標関数の前記少なくとも2つの変数のうちの1つは、前記第1のHF磁場B1および前記別のHF磁場B2の前記振幅/定格の前記比B1/B2であること、を特徴とする、請求項9から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記電気導体(2)は、導体厚さdおよび丸み半径rを有し、前記電気導体(2)の前記導体厚さdおよび/または前記丸み半径rが、前記電気導体(2)の前記長さの前記進路にわたって変動する追加の最適化パラメータとして使用されること、を特徴とする、請求項9から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記トランシーバコイル(1a~g)は、請求項9から17のいずれか一項に記載の方法に従って設計され、
前記トランシーバコイル(1a~g)の前記幾何学形状は、金属管から前記設計に従って、特にミリング、レーザまたはウォータジェット切断によって製造されること、を特徴とし、または、前記トランシーバコイル(1a~g)の前記幾何学的形状は、コーティングされたキャリアによって前記設計に従って実現され、前記コーティングは、構造化、例えばエッチング、ミリングまたはレーザアブレーションによって製造されること、
を特徴とする、トランシーバコイル(1a~g)を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のHF磁場B1を発生させるための長手方向軸Z’を伴う第1のトランシーバコイルを有するMAS NMRプローブヘッド用のトランシーバコイル装置に関し、第1のトランシーバコイルは、導体経路幅WおよびN≧3巻線を伴う電気導体を有する少なくとも1つのソレノイド形状部を有し、すべての巻線はトランシーバコイルの長手方向軸Z’の周りを通り、電気導体はスロープSを有し、各半巻線は長手方向軸Z’に対して傾斜Tで傾斜し、半巻線の少なくとも一部についてT≠0である。本発明はまた、トランシーバコイル装置を設計するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MAS NMRプローブヘッドのための傾斜した巻線を有するトランシーバコイル装置は、[Sunら]および[Barbaraら]から知られている。
【0003】
MASプローブヘッドでは、トランシーバコイル装置は、通常、静磁場B0(主磁場磁石)に対して54.7°のマジック角で立っている。
【0004】
[Sunら]および[Barbaraら]から、NMR-MASプローブヘッド用のソレノイド形状トランシーバコイルは、ソレノイドコイルによって生成される高周波B1磁場が静B0磁場に対して可能な限り垂直になるように、ソレノイドコイルの軸に対して傾斜角で設計されることが知られている。
【0005】
[Sunら]では、傾斜角ψ=90-φMASを用いてNMRコイルの高感度化を試みている。それらは、MAS配置に対して同じ送信電力で最大17%短いパルス角に達する。[Sunら]では、生成されたB1磁場は空間的に一定の角度を生成し、延長された導体断面部を有するコイルの特定の実施態様とは無関係であると仮定する。コイルの縁部領域における軸外効果は、[Sunら]では調査されていない。
【0006】
[Barbaraら]では、より複雑なコイル幾何学形状を設計することによって、生成されたHF磁場B1の解を見つける試みが行われ、この場合、HF磁場B1は、コイルの活性領域全体においてXY平面内に位置するようになる。したがって、[Barbaraら]における最適化の目標関数は、円筒形の測定体積に生成されたB1磁場のz成分が存在しない。特に、コイルの長手方向軸の周りを通っていない巻線を有するソレノイド形状から逸脱する幾何学形状が提案されている。[Barbaraら]で示されるコイルの幾何学形状は、第2のコイル/共振器と組み合わせて使用されるべきであり、第2のコイルによって生成されるHF磁場は、Bz成分を有するべきではない。[Barbaraら]では、B=BxyのHF磁場を生成するコイルを有するNMR測定ヘッドはまた、2つ以上のトランシーバコイル装置を有する測定ヘッドで使用されるとき、すなわち交差分極測定のためにも、最大感度を有すると仮定される。コイルの導体による遮蔽効果は考慮されていない。
【0007】
[Sunら]および[Barbaraら]の解は、(拡張されていない導体)の導体経路幅の消失から始まり、有限の導体経路の最良の解を表すものではないが、特に導体経路間の距離は非常に小さい。
【0008】
円形または楕円形の断面部を有する導体に基づくコイルの幾何学形状に加えて、NMRプローブヘッドにストリップ形状の導体を使用することも知られている。特に、そのようなコイルの幾何学形状は、円筒形のジャケット形状導体上に構造化することができ(例えば、円筒形の表面を有する基材上に金属層を構造的に適用することによって、または減算的な製造プロセスを使用して均一に適用された導体を構造化することによって)、あるいは、円筒形のジャケット形状導体から切り出すことができる。これらの製造方法は、コイルの幾何学形状、特に可変ピッチの設計においてより大きな自由度を可能にする。
【0009】
[Privalovら]は、帯状導体を有するトランシーバコイルを記載している。軸方向の均一性を最適化するために、導体経路幅は軸方向端部に向かって縮小される。半径方向の不均一性を最小限に抑えるために、巻線間の導体距離は可能な限り小さく一定に保たれる。しかしながら、このトランシーバコイルの効率は最適ではない。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、視野内の軸方向および半径方向の均一領域(検査されるプローブがNMRによって位置決めされ得る、かつ検査され得る、トランシーバコイル内の領域)が改善され、および/または、トランシーバコイルによって生成されるHF磁場B1の強度が所与の電力で増加するように、NMR-MAS用途のトランシーバコイルを最適化することである。
【0011】
この目的は、本発明によれば、請求項1に記載のトランシーバコイル装置および請求項8に記載の方法によって達成される。
【0012】
本発明によれば、トランシーバコイルの電気導体の長さの進路tにわたって、スロープS=S(t)、傾斜T=T(t)、導体経路幅W=W(t)の変数の少なくとも2つが変化する。
【0013】
スロープS=S(t)の変化は、ピッチP(巻線のスロープ)の変化によって実現できるが、一定のPの巻線内での局所的スロープSの変化によっても実現できる。
【0014】
第nの巻線のピッチP(n)は、
【数1】
、巻線の局所的スロープS(t)、(すなわち、Z’方向の巻線にわたって覆われた距離)として規定され、ここで、S(t)は局所的スロープであり、tnは第nの巻線(すなわち、tn=0,1,...)の開始時の導体プロファイルの実行パラメータtである。
【0015】
一定のピッチPの場合、局所的スロープSは、1つの巻線内で変動する可能性があり、符号が反転する可能性さえある。巻線のピッチPは、tn+1の中心線のZ’座標がtnでZ’座標よりも大きい場合に、正と呼ばれる。これは、tnとtn+1との間の間隔におけるZ’座標が、tnにおけるよりも小さい値をとる場合でも成り立つ。巻線のスロープSと導体経路幅W、または、スロープSと導体経路幅Wとの比S/Wは、軸方向の均一性に影響を与える。
【0016】
トランシーバコイルの複数の巻線は、誘導的または容量的に結合された個々の巻線として実現することもできる。次いで、ピッチは、2つの隣接する個々の巻線の中心線の距離を表す。
【0017】
巻線の傾斜Tは、B1振幅(トランシーバコイルによって生成されるHF磁場B1の振幅)および半径方向の均一性に影響を及ぼす。傾斜Tは、1つの巻線にわたる導体中心面のZ’位置の正弦波変調の振幅として規定される。T≠0の傾斜を有するコイルの場合、第1の巻線半部内の局所的スロープSは、第2の巻線半部の局所的スロープSとは異なる。電気導体の長さの進路tにわたって変動する傾斜T=T(t)の場合、傾斜は、特に少なくとも1つの半巻線について、部分で一定であることが好ましい。これにより、半巻線から半巻線へ、傾斜Tが変化する。
【0018】
T≠0の傾斜を有するコイルは、原則として、可変スロープS’(t)=S(t)+T(t)cos(2πt+φ)(一般的なスロープ)で表すこともできる。S’(t)がフーリエ級数として書かれている場合、Tはスロープの(t=1)周期部分を表す。巻線ごとに、スロープは次のように書くことができる。
【数2】
ここで
S(t)=S’(t)-(S
1,acos(2πt)+S
1,bsin(2πt))である。
(S
1,acos(2πt)+S
1,bsin(2πt))は、T(t)cos(2πt+φ)と書くことができ、式中、Tは傾きであり、φは傾きの方向である(通常、φ=0またはφ=90°)。
【0019】
導体経路幅Wは、導体中心に対して垂直な導体経路の幅である。電気導体の長さの進路tにわたって変動する導体経路幅W=W(t)の場合、導体経路幅はまた、1つの巻線内で変動し得る。
【0020】
本発明によるトランシーバコイルの巻線は、トランシーバコイルの長手方向軸Z’の周りに完全に通る巻線、すなわち、長手方向軸Z’に垂直な投影内に円を描く巻線である。特に好ましくは、トランシーバコイルはソレノイド形状であるか、またはトランシーバコイルは、ソレノイド形状巻線部(例えば、ソレノイド形状の順巻線部およびソレノイド形状の逆巻線部、以下を参照)のみを備える。
【0021】
本発明によるトランシーバコイルでは、トランシーバコイルの感度に対するトランシーバコイルの様々な幾何学的要因の影響が利用される。導体が延長された(導体の進路に垂直な)トランシーバコイルのコイル感度の最適化を達成するために、本発明によれば、上記のパラメータの少なくとも2つは、トランシーバコイルの電気導体に沿った、すなわち電気導体の経路に沿った実行パラメータtに依存するように選択される。
【0022】
好ましくは、第1のトランシーバコイルの電気導体は、帯状導体として設計される。帯状導体は、導体経路幅に対して小さい(特に少なくとも1桁小さい)厚さを有し、略矩形の断面部を有する。帯状導体は、好ましくは、薄い金属めっき、特にHTSコーティングを有する基材を備える。
【0023】
好ましくは、導体の導体厚さd(すなわち、トランシーバコイルの長手方向軸Z’に対する半径方向の電気導体の延長部)は、最大1mm(好ましくは最大200μm)であり、および/または、電気導体へのRF電流の侵入深さの少なくとも2倍である。さらに、導体経路厚さdが少なくとも20μm、好ましくは少なくとも100μmであると有利である。侵入深さは、電流密度が導体表面での値の1/eに低下した深さとして理解されるべきである(表皮効果)。これは、電気導体の材料およびそれと共に発生するRF磁場の周波数の関数である。
【0024】
円形の導体断面部を有する導体(円形導体)の場合、ピッチ対導体経路幅の比P/Wは、P/W≒1.5-1.667(ソレノイドコイルの長さ/直径比に依存)で、最適な品質係数が達成されることが知られている。本発明の文脈において、ストリップ導体からのトランシーバコイルでは、この比は著しく小さく、すなわち、円形導体とは対照的に、ストリップ導体厚さが小さい場合、2つの巻線間の導体距離(ギャップ幅D)は、導体経路幅よりも著しく小さいことが認識されている。さらに、このギャップ幅Dは導体の全長にわたって均一ではない。有限ソレノイドコイルの縁部効果により、縁部領域の磁場はもはやZ’軸に平行には延在せず、「外向きに」回転する。この結果、トランシーバコイルの縁部領域における巻線間のギャップ幅Dは、中央よりも大きくなるように選択されるべきであり、すなわち、導体経路幅に対するギャップ幅の比D/Wは、中央よりも縁部で大きくなるべきである。円筒形導体とは対照的に、ストリップ形状導体から製造されたトランシーバコイルは、特に管状金属めっきから構造化することによって製造される場合、著しく高い設計柔軟性を可能にする。
【0025】
本発明によるトランシーバコイルの好ましい実施形態では、スロープSは、電気導体の長さの進路tにわたって変化し、導体経路幅Wは、各巻線内で変化する。特に、各巻線内の導体経路幅は、各場合に少なくとも1回増減する。好ましくは、導体経路幅は周期的に変動する。
【0026】
巻線当たりの導体経路幅の2つの最大値および2つの最小値を有する、特に、交差コイル構成の2つのトランシーバコイルを有するトランシーバコイル装置のための実施形態が特に好ましい。好ましくは、導体経路幅の最小値を有する電気導体の領域は、長手方向軸Z’を中心とした回転に関して180°オフセットして配置される。最小導体幅を有する電気導体の領域は、好ましくは、長手方向軸Z’を中心とした回転に関して最大導体幅を有する領域に対して90°回転して配置される、すなわち、巻線の4分の1だけ互いに離間される。
【0027】
導体幅Wは、0.1mm~2mmの間で変動することが好ましい。
【0028】
さらに、デカルトX’、Y’、Z’座標系のX’Z’平面において測定試料内に実質的に存在するHF磁場を生成するT≠0の第1のトランシーバコイルと、測定試料において実質的にY’Z’平面に存在する第2のHF磁場B2を生成する第2のコイルとの組み合わせの場合、第1のトランシーバコイルの実施形態は、巻線当たり4つの最大値および4つの最小値を有し、最小値はX’およびY’方向にあり、最大値はX’とY’との間の45°にあることが有利である。
【0029】
本発明によるトランシーバコイル装置の特定の実施形態では、第1のトランシーバコイルの電気導体のスロープSおよび傾斜Tは、電気導体の進路に沿って変化する。
【0030】
傾斜Tには2つの効果がある。第一は、X’方向に磁場成分が生じる。これは、トランシーバコイルがZ軸に沿って配向された静磁場で使用され、Z軸がトランシーバコイルの長手方向軸Z’と同一直線上にない場合に、特に有利である。所与のトランシーバコイルについて、核の歳差運動と同じ方向に回転する円偏波成分は核励起(励起磁場B1+)に関連し、核の歳差運動の方向と反対の方向に回転する円偏波成分は信号受信(励起磁場B1-)に関連し、B1+=(B1x+iB1y)/2およびB1-=B1x-iB1y)/2である。言い換えれば、X面およびY面内、すなわち静磁場の方向に垂直な、磁場成分のみが、NMR信号の励起および受信に関連する。
【0031】
励起場B1+および励起場B1-は、傾斜Tを調整することによって最大化することができる。ピッチ対導体経路幅の比P/W>>1を有するトランシーバコイルの場合、すなわち、非常に狭い/薄い導体の場合、トランシーバコイルによって生成された磁場がX’Z’平面に位置するようになると、励起場B1+の最大値に達する。しかしながら、導体上の遮蔽電流がトランシーバコイルの効率を低下させるので、この最大値は、広範な導体が使用されるとき、すなわち導体幅Wが増加するとき、より低い傾斜Tに向かって押される。
【0032】
上述したように、B1磁場の向きは、有限トランシーバコイルの縁部領域のように中心の向きと等しくないことが本発明の範囲内で認識された。ここで、トランシーバコイルの長手方向軸Z’がZ軸に対して0°または90°に等しくない角度をとる場合、長手方向軸Z’の上方のB1+(すなわち、X’>0の場合)は、長手方向軸Z’の下方のB1+(すなわち、X’<0の場合)と等しくない。縁部領域で傾斜Tを適合させることにより、B1+を縁部領域の試料体積全体にわたって均質化できる。
【0033】
導体の長さに沿った傾斜Tの変動は、縁部領域内のB1+磁場の半径方向最小均一性の条件下でトランシーバコイルの効率を最大化できる。
【0034】
好ましくは、第1のトランシーバコイルの軸方向端部の傾斜Tは、トランシーバコイルの軸方向中心よりも小さい。
【0035】
トランシーバコイルの長手方向軸Z’がZ軸に対してマジック角にある条件下で、トランシーバコイルの軸方向端部における半径方向均一性の同時最適化による効率の最大化は、軸方向端部におけるより低い傾斜Tによって達成される。
【0036】
本発明によるトランシーバコイル装置の特定の実施形態では、トランシーバコイル装置は、第1のトランシーバコイルの半径方向外側に第2のHF磁場B2を生成するための少なくとも1つの別のトランシーバコイルを備え、第1のトランシーバコイルおよび別のトランシーバコイルは、第1のトランシーバコイルおよび別のトランシーバコイルによって生成されるHF磁場B1、B2が互いに垂直に配向されるように、共通の長手方向軸Z’の周りに配置される。
【0037】
2つのトランシーバコイルは、好ましくは異なる周波数に調整される。HF磁場B1、B2が互いに垂直であるということは、ベクトルB1(x、y、z)とB2(x、y、z)とのスカラー積の体積積分が、少なくとも測定試料が位置する2つのトランシーバコイルの視野(FOV)の領域にわたってほぼ0であることを意味する。すなわち、測定試料内のHF磁場B1、B2のみが考慮される。特定の実施形態では、2つのHF磁場B1およびB2の直交性は、整合ネットワークによって達成され、すなわち、2つのトランシーバコイルによって直接生成されるHF磁場B1およびB2は、互いに正確に直交する必要はない。
【0038】
特に、第1のトランシーバコイルの表面法線が第2のHF磁場B2に平行である領域において、第1のトランシーバコイルの電気導体の導体経路幅Wは、最小値を有するべきである。言い換えれば、視野内で測定試料を励起するためにHF磁場B2が侵入しなければならない第1のトランシーバコイルの表面の領域では、B2の透明領域を形成するために、第1のトランシーバコイルの電気導体の導体経路幅Wは最小である。
【0039】
別のトランシーバコイルは、好ましくは、鞍型コイルまたは共振器(例えば、鳥かご共振器、Alderman-Grant共振器、...)である。
【0040】
本発明によるトランシーバコイル装置のさらに別の特定の実施形態では、第1のトランシーバコイルの電気導体は、順巻線部および逆巻線部を備え、順巻線部は、順巻線を備え、接続領域から開始して、トランシーバコイルの軸方向端部に所定の巻線の向きで導き、逆巻線部は、逆巻線を備え、第1のトランシーバコイルの軸方向端部から開始して、接続領域に所定の巻線の向きで導き、逆巻線部の巻線は、順巻線部のピッチとは反対の符号のピッチPを有し、電気導体の順巻線および逆巻線は、順巻線および逆巻線が交差する交差領域を除いて、長手方向軸Z’の周りの共通の円筒形ジャケット表面上に配置される(「交差幾何学形状」)。
【0041】
したがって、順巻線および逆巻線は、長手方向軸Z’の周りで同じ半径方向距離にあり、すなわち、共通の表面上で反対方向を通る巻線がある。接続領域は、電気コイル部を整合ネットワークに接続するために使用され、複数の電気コイル部のための接続部を備えることができる。順巻線部および逆巻線部は、端子部の2つの端子間を通るコイル部を形成し、それにより、印加電圧は、それぞれのコイル部の順巻線の開始と逆巻線の終了との間に印加される。共通の円筒表面上に順巻線および逆巻線を配置するために、順巻線および逆巻線は互いに交差しなければならない。交差は、可能な限り小さい延長部を有する円周部(交差領域)で実行され、好ましくは、順巻線部または逆巻線部の電気導体は円筒表面に残るが、それぞれの他の電気導体はブリッジ要素の形態で第1の電気導体を交差する。
【0042】
この特定の実施形態によって、トランシーバコイルの動作中の電位が隣接する巻線の同等の位置(例えば、巻線の開始または中央または最後)と大きさが等しいかまたは類似するように、巻線および接続領域の配置を選択できる。U1/UN=(N/2-1)/(N/2)であり、U1が第1の巻線にわたる電圧で、UNがN巻線の電圧ある場合、電位は同様であると考えられる。コイル部が、動作時に電位0の点を有する反転巻線(いわゆる平衡回路網によって設定される)を備える好ましい実施形態では、したがって、コイル部の順巻線および逆巻線は、反転巻線を除いて、好ましくは交互に配置される。このようにして、導電性試料に見える電場を低減することができ、同時に他の性能損失を低減できる。この実施形態は、導電性測定試料または高い誘電損失を有する測定試料の検査に特に有利である。本発明による共通の円筒表面上の導体部の幾何学形状の配置は、測定試料中のNMRプローブヘッドのコイルによって生成される電場を大幅に最小化できる。電場は、送信中および受信中の両方の性能損失、例えば測定試料の加熱、制限された送信電力でのパルス角の延長、信号対雑音比の低減などにつながる可能性がある。
【0043】
複数のコイル部を設けることもでき、各コイル部は、順巻線部および逆巻線部を備える。
【0044】
好ましくは、順巻線部および逆巻線部の両方は、ソレノイド形状になるように設計される。順巻線と逆巻線とは、交互に配置されていることが好ましい。
【0045】
本発明はまた、先に記載されたトランシーバコイル装置を有するMAS NMRプローブヘッドに関し、NMRプローブヘッドは、NMR磁石の細長いボア内に配置されるように設計される。NMR磁石の細長いボアおよびNMR磁石によって生成される静磁場B0は、Z方向に沿って配向される。NMRプローブヘッドハウジングの細長い延長部もZ方向に延び、それにより、NMRプローブヘッドをNMR磁石のボアに挿入できる。X方向は、X’Z’平面内にあり、Y=Y’である。
【0046】
本発明はまた、最適化が実行される、前述のトランシーバコイル装置を設計するための方法に関する。本発明によれば、所定のNMR実験の信号対雑音比SNRが最適化のための目標関数として選択されるか、または、目標関数が信号対雑音比(SNR)に影響を及ぼす少なくとも2つの変数を備える。本発明によれば、最適化は、最適化パラメータによって実行され、そのうちの少なくとも2つの選択された最適化パラメータは、電気導体の長さの進路にわたって変動し、以下のパラメータ、スロープS、傾斜T、導体経路幅Wから選択される。
【0047】
NMR実験は、特に、試料、特に励起されるべきスピンの種類および数、ならびにこれらのスピン間の結合定数、静磁場B0に対するトランシーバコイルの長手方向軸Z’の角度Θ(Z方向)、励起パルスシーケンス(1つまたは複数のチャネル上の送信電力を含む)、スピンの緩和時間、トランシーバコイルの長手方向軸Z’を中心とした測定試料の回転速度を提供する。
【0048】
したがって、本発明によれば、最適化の目標関数は、SNR自体またはSNRに影響を及ぼすいくつかの変数を備えることができ、これらは重み付きで目標関数に組み込むことができる。あるいは、目標関数は、反復的に最適化される複数の部分関数、例えば、SNRに影響を及ぼす各選択された変数ごとに1つの部分関数からなることができる。
【0049】
様々な最適化パラメータを用いた本発明による最適化の結果として、トランシーバコイル自体の電気導体によって生成される遮蔽効果を補償できる。これは、トランシーバコイルによって生成されたHF磁場B1の品質(均一性)およびNMR信号の信号強度(トランシーバコイルによって生成されたHF磁場B1の振幅)の改善、特に、例えば帯状導体の延長のための改善をもたらす。本発明による最適化は、好ましくは、トランシーバコイルの長手方向軸Z’の方向に成分を有するHF磁場を可能にする。したがって、本発明による最適化は、HF磁場B1のZ’成分を回避する目的で行われない。したがって、[Sunら等]および[Barbaraら]とは対照的に、本発明は、生成されたHF磁場B1がXY平面内に可能な限り完全に位置するようになることが最良の解決策である、とは仮定しない。特に、本発明による方法は、コイル導体上の遮蔽電流に起因して生じる抵抗損失と、これらの遮蔽電流に起因するB1磁場の低減とを考慮に入れる。これらの損失は、傾斜Tが増加するにつれて延長された導体(導体経路幅が消失しない導体)で増加するため、その結果、XY平面(主磁場磁石のB0磁場に垂直な平面)に完全にはないHF磁場B1で最良の効率が一般に達成される。
【0050】
3δ~10δの厚さ、δ=所与の周波数および所与のコイル材料における侵入深さ、を有するストリップ導体の使用が特に有利である。
【0051】
最適化は、好ましくは、
a)巻線の数Nを規定するステップであって、N≧3である、ステップと、
b)それぞれの場合に、最適化パラメータの開始値を決定するステップと、
c)最適化パラメータの決定された開始値を有する目標関数を決定するステップと、
d)最適化パラメータを調整するステップであって、少なくとも2つの選択されたパラメータについて、トランシーバコイル装置の0と巻線数Nとの間で実行する実行パラメータtの関数として非定数関数が使用され、t∈R’’および0≦t≦N、N∈R’’である(R’’:実数全体からなる集合)、ステップと、
e)調整された最適化パラメータを用いて目標関数を決定するステップと、
f)目標関数が所定の目標間隔内になるまでステップd)~e)を繰り返すステップと、を備える。
【0052】
好ましくは、巻線の数Nは、整数または半整数(N∈N’’または2N∈N’’(N’’:自然数全体からなる集合))であるように選択される。原則として、Nは∈R’’とすることができる。
【0053】
本発明による方法の好ましい変形例では、SNRに影響を及ぼす目標関数の少なくとも2つの変数のうちの1つは、FOV内での動作中にトランシーバコイルによって生成されるHF磁場B1の半径方向均一性であり、選択された最適化パラメータは、巻線のスロープSおよび傾斜Tである。
【0054】
したがって、この変形例では、目標関数は、特に、傾斜TおよびスロープSによって最適化される軸方向および半径方向の均一性を備える。
【0055】
目標関数の一部として半径方向の均一性を使用することにより、SNRは、特に、本発明によるトランシーバコイルを有する交差コイル配置を用いた交差分極(CP)および二重交差分極(DCP)実験によって改善できる。無限に長いソレノイドコイル(巻線のすぐ近くを除く)は、非常に高い半径方向の均一性を特徴とするが、短いソレノイドコイルは、端部領域における巻線のスロープを低減することによって軸方向の均一性が補正されたとしても、端部領域(軸方向端部)における半径方向の均一性が低減されている。このような短いソレノイドコイルがMAS NMR測定ヘッドに使用される場合、トランシーバコイルの長手方向軸Z’は、静磁場の軸Zに対してY軸を中心とするマジック角だけ傾斜している。これらの状況下では、HF磁場B1の半径方向の均一性は、縁部領域で大きく減少する。これは、二重交差分極(CP)および二重交差分極(DCP)実験の達成可能なSNRに悪影響を及ぼし、特に、第1のトランシーバコイルに加えて別のトランシーバコイルが設けられ、2つのトランシーバコイルが異なる測定周波数に一致する場合、特に別のトランシーバコイルが鞍型コイルおよび/または共振器として設計され、B2磁場はY方向を指す(ソレノイドコイルとして設計された第1のトランシーバコイルの長手方向軸Z’はYZ平面内に位置する)場合に、悪影響を及ぼす。
【0056】
半径方向の均一性の最適化は、トランシーバコイルの長手方向軸Z’に平行なFOV内の所定の長さL’(プラトー領域)で行われる。プラトー領域に沿ったB1強度値がより類似するほど(すなわち、異なる半径に対して)、半径方向の均一性がより良好になる。
【0057】
好ましくは、巻線の傾斜Tは、第1のトランシーバコイルの軸方向端部の傾斜Tが軸方向中心よりも小さくなるように、電気導体の長さの進路にわたって適合される。
【0058】
各導体断面部(すなわち、特に各導体経路幅Wについて)および各スロープSに対して、B1磁場振幅が最大化される傾斜Tがある。トランシーバコイルの中央領域に最大値を有する可変傾斜Tは、同時に補正された半径方向の均一性を有するトランシーバコイルの効率を最大化できる。特に、最も外側の1~2巻線は、より中心に向かって配置された巻線の傾斜Tと比較して、より小さい傾斜Tを有する。
【0059】
好ましくは、トランシーバコイル装置の中心の少なくとも1つの半巻線は、所定のNMR実験の静磁場B0によって規定されたZ軸に対するトランシーバコイルの長手方向軸Z’よりも、トランシーバコイルの長手方向軸Z’に対してより強く傾斜している。結果として、延長された導体の場合、B1磁場がXY平面内を通ることを達成できる。本明細書で見出される解決策は、通常、最大効率を有する解決策ではなく、コイル品質係数が低下した単一電流当たりの最大発生磁場強度を有する解決策である。これは、プローブヘッドの他の領域で非常に多くの損失が発生し、したがって、コイル品質係数が導体損失によって支配されない場合(しかし、例えば、誘電損失によって支配される場合)に、特に有利である。
【0060】
隣接する巻線へのギャップ幅Dと導体経路幅Wとの比D/Wは、好ましくは、巻線の傾斜の関数として設定される。位置tにおける導体のギャップ幅Dは、位置tと位置t+2πまたはt-2πとの間の電気導体の距離である。
【0061】
傾斜Tに加えて、ギャップ幅Dと導体経路幅Wとの比D/Wが最適化パラメータとして選択される場合、比D/W、すなわち導体経路幅もしくはギャップ幅のいずれか、または導体の長さに沿った両方のパラメータ、が最適化パラメータとして選択され、比D/Wは傾斜Tの関数として選択される。すなわち、巻線傾斜Tが大きいほど、ギャップ幅Dと導体経路幅Wの比D/Wが大きくなるように選択される。特に、D/Wはまた、単一の巻線の長さにわたって変動し、D/Wは少なくとも2つの最小値を有する。
【0062】
本発明による方法の有利な変形例では、信号対雑音比SNRに影響を及ぼす少なくとも2つの変数のうちの1つは、トランシーバコイルによって生成されるHF磁場B1の軸方向均一性である。これは、特に巻線のスロープを変動することによって行われる。軸方向の均一性(長手方向軸Z’(軸上)に沿った均一性)を最適化することによって、特に、いくつかの(90°および180°)パルスを有するパルスシーケンスのSNRを改善すること、または、所望の信号品質、特に所望の信号振幅が達成されるトランシーバコイルの活性領域の使用可能な体積を増加させること、が可能である。
【0063】
有限のトランシーバコイルの場合、B1磁場の振幅は軸方向端部で低下する。軸方向端部のスロープを低減することによって、巻線が互いにより近くに位置することが達成できる。このようにして、トランシーバコイルの有限性に起因して欠落している電流密度を補償できる。したがって、固有周波数から離れて動作する短いトランシーバコイルの長手方向軸Z’に沿った均一性の改善は、特にトランシーバコイルの軸方向端部のスロープが軸方向中心よりも小さくなるように選択された場合に生じる。
【0064】
固有周波数に近い動作中、トランシーバコイルを接続するとき、電流分布が変化するので、トランシーバコイルが対称的に発振するように電位が設定されることを保証しなければならない。あるいは、最大値がソレノイドコイルの中心にないように、整合ネットワークによって電位分布を設定できるが、これはより高い電場、したがって、損失の多い測定試料におけるより高い損失をもたらす。
【0065】
本発明による方法のさらなる変形例は、信号対雑音比SNRに影響を及ぼす少なくとも2つの変数のうちの1つがB1の振幅/定格であり、選択された最適化パラメータがスロープSおよび導体経路幅Wであることを提供する。B1の振幅/定格の最適化はまた、B1振幅/単位電流および品質係数の反復最適化を含む。B1の振幅/定格により、トランシーバコイルの効率が改善される。
【0066】
特に、平坦なストリップ導体を電気導体として使用する場合(δ=侵入深さであり、3δ~10δの導体経路厚さを有する)、トランシーバコイルの感度(B1の振幅/定格)は、ギャップ幅Dと導体経路幅Wとの比D/Wを変動させることによって影響を受ける可能性がある。特に、NMRにおけるソレノイドコイルについて従来技術から知られている値P/W=1.5...1.667に対する偏差が提供される。非常に薄い金属めっき、特に直径よりも著しく長い長さを有するコイルの場合、ソレノイドコイルの最高効率は、本発明によれば、P/W<1.5、特に<1.25の比で達成される。(すなわちピッチP1mm、導体経路幅0.8mm以上)。したがって、導体経路幅に対するギャップ幅Dの比D/Wは、好ましくはD/W<0.5であり、好ましくはD/W=0.25である。したがって、好ましくは、巻線間のギャップ幅Dは、導体経路幅Wの半分以下、特に導体幅の4分の1以下である。
【0067】
トランシーバコイルの軸中心における巻線の傾斜Tは、トランシーバコイルによって生成されるHF磁場B1のB1振幅が、導体経路幅Wに対するギャップ幅Dの所与の比に対して定格ごとに最大になるように選択されることが好ましい。ここでは、傾斜Tが最適化パラメータとなる。
【0068】
本発明による方法の特別な変形例は、トランシーバコイル装置が、別のHF磁場B2を生成するための別のトランシーバコイルを備え、信号対雑音比SNRに影響を及ぼす少なくとも2つの変数のうちの1つが、第1のHF磁場B1および別のHF磁場B2の振幅/定格の比B1/B2であることを提供する。
【0069】
コイルの効率を高めるために、電気導体が導体厚さdおよび丸み半径rを有することが有利であり、電気導体の導体厚さdおよび/または丸み半径rは、電気導体の長さの進路にわたって変動する追加の最適化パラメータとして使用される。これにより、コーナー(角)における電流の累積「ぼやけ」が、他のパラメータに大きな影響を与えることなく、品質係数を向上し、したがって、コイルの効率が向上する。
【0070】
本発明はまた、トランシーバコイルを製造するための方法に関する。トランシーバコイルは、前述の方法に従って設計され、コイルの幾何学形状は、金属管からの設計に従って、特にミリング、レーザまたはウォータジェット切断によって生成される。
【0071】
これの利点は、達成可能な小さい導体経路厚さdである。さらに、そのようなトランシーバコイルは、キャリアなしで、特に導体と測定試料との間にキャリアなしで、製造することができ、その結果、トランシーバコイルの効率が向上する。導電性をさらに改善するために、導体の切断縁部を丸める方法(例えば、トロバリジング)を使用することができ、または切断縁部を、例えばミリングによって丸めることができる。
【0072】
あるいは、設計によるコイルの幾何学形状は、コーティングされたキャリアによって実現することができ、コーティングは、例えばエッチング、ミリング、レーザアブレーションなどの構造化によって製造される。キャリア上のコーティングの製造は、さらに薄い層の製造を可能にする。キャリアは、機械的堅牢性を高めるのに役立ち、例えばコールドフィンガによって極低温コイルを冷却するために熱伝導体として使用することができる。コーティングは、好ましくは超伝導性である。
【0073】
本発明のさらなる利点は、説明および図面から明らかになるであろう。同様に、上記で言及され、以下に記載される本発明による特徴は、それぞれ単独でまたは任意の所望の組み合わせで一緒に使用できる。図示および説明された実施形態は、網羅的な一覧として理解されるべきではなく、本発明を説明するための例示的な性質のものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】単一のコイル構成のための、中心で一定の傾斜と、最も外側の2つの巻線の減少した傾斜と、巻線当たり2つの最大値を伴う変動するスロープおよび周期的に変動する導体経路幅と、を有する、本発明によるトランシーバコイルを示す。
【
図2】交差コイル構成のための、変動する傾斜と、変動するスロープと、巻線当たり2つの最大値を伴う周期的に変動する導体経路幅と、を有する、トランシーバコイルを示す。
【
図3a】
図2による第1のトランシーバコイルを有する交差コイル構成にある、本発明によるトランシーバコイル装置の平面図を示す。
【
図3b】
図3aのトランシーバコイル装置の斜視図を示す。
【
図4】交差コイル構成のための、変動する傾斜と、変動するスロープと、巻線当たり4つの最大値を伴う周期的に変動する導体経路幅と、を有する、本発明によるトランシーバコイルを示す。
【
図5a】周期的に変動するスロープと周期的に変動する導体経路幅とを伴うゼロピッチ・トランシーバコイルを有する交差コイル構成における、本発明によるトランシーバコイル装置の平面図を示す。
【
図5b】
図5aのトランシーバコイル装置の斜視図を示す。
【
図6】スロープおよび導体経路幅に加えて、傾斜も変動し、導体経路幅が、各回転において最大値を伴って周期的に変動する、単一コイル構成のための本発明によるトランシーバコイルを示す。
【
図7】巻線ごとに変動するスロープと、変動する導体経路幅と、大きく変動する傾斜を伴い、導体経路幅は周期的に変動する、本発明によるトランシーバコイルを示す。
【
図8】一定のスロープと、変動する導体経路幅と、変動する傾斜とを有する、本発明によるトランシーバコイルを示す。
【
図10a】傾斜した巻線を有するコイルにおけるコイルパラメータを説明するためのソレノイド形状コイル部の詳細を示す。
【
図10b】非傾斜巻線を有するコイルにおけるコイルパラメータを説明するためのソレノイド形状コイル部分の詳細を示す。
【発明を実施するための形態】
【0075】
本発明によるトランシーバコイルは、トランシーバコイルの電気導体の進路に沿って変動するコイルパラメータを有する。
図10aおよび
図10bは、ストリップ形状導体2(導体経路)を有するソレノイド形状コイルの部分をそれぞれ示しており、コイルパラメータのいくつかが最初に示されている。
図10aおよび
図10bのソレノイド形状コイルは、長手方向軸Z’(コイル軸)に沿って配置され、長手方向軸Z’は、X’Y’平面(図示せず)に垂直である。ソレノイド形状のコイルは、導体2の導体経路幅W、ギャップ10のギャップ幅D、巻線の局所的スロープS(図示せず)および/またはピッチP、巻線の傾斜T、および巻線の半径Rによってパラメータ化される。ここに示す実施形態では、合計3つの巻線が示されている。
【0076】
導体幅Wは、導体2の幅を示す。導体経路幅Wは、導体中心に対して垂直な導体経路の幅である。
図10aおよび
図10bに示すコイルでは、導体経路幅Wは、長手方向軸Z’に沿って一定である(すなわち、Wが定数)。
【0077】
ギャップ幅Dは、導体経路2の隣り合う巻線のストリップ形状導体間の中間間隔10の幅を示す。
【0078】
巻線のピッチPは、完全な巻線のZ’方向の前進を示し、導体経路2の中心線を介して決定される。一定のピッチPは、局所的スロープSが1つの巻線内で変動することを排除するものではない。
【0079】
巻線の傾きTは、長手方向軸Z’に対する巻線の傾きを示し、1つの巻線にわたる導体中心面のZ’位置の正弦波変調の振幅に対応する。スロープおよび傾斜がいくつかの巻線にわたって一定である場合、それはMax(Z(t)-Z(t+1))-S)/2から容易に決定することができ、式中、tは間隔tn...tn+1で変動する。
【0080】
巻線の半径Rは、導体2が存在する半径を示す。
【0081】
図10aおよび
図10bに示すソレノイドコイルは各々、一定の導体経路幅W、一定のギャップ幅D、一定のスロープS、したがって一定のピッチPを有し、
図10aに示すコイルは傾斜コイル(T≠0)であり、
図10bに示すコイルは非傾斜コイル(T=0)である。
【0082】
一般に、導体2の中心線は、デカルト座標で次のように規定される。
【数3】
、t∈{0...N}であり、
φ:巻線の傾きの向き。
【0083】
デカルト座標における導体2の包絡線は、次のように規定される。
【数4】
、t∈{0...N}である。
【0084】
導体経路幅は、特に、W(t)=W0+ΣWi(sin(2πt+k))2iであり、傾斜Tは、各半巻線にわたって一定である。通常、傾斜方向はφ=0(Y’軸周りの傾斜)またはπ/2(X’軸周りの傾斜)であり、半径R(t)=Rである。
【0085】
以下では、電気導体2の進路に沿った本発明によるNMRコイルヘッドの性能がコイルパラメータを変動させることにより最適化できる、本発明によるトランシーバコイルの幾何学形状の様々な変形例について説明する。
【0086】
図1および
図2は、x’方向(すなわち、傾斜の方向φ=π/2)の周りに一定の傾斜Tを有する本発明によるトランシーバコイル1a、1bを示す。ピッチPは、トランシーバコイル1a、1bの中央領域で一定であり、トランシーバコイル1a、1bの2つの軸方向端部4a、4bに向かって減少する。導体経路幅Wは、周期的に変動し、巻線当たりの導体経路幅が最大となる2つの領域と、導体経路接触が最小となる2つの領域とを有する。また、W(k)=W(k+0.5)=Wminであり、W(k+0.25)=W(k+0.75)=Wmaxである。
【0087】
本発明に従って変動するトランシーバコイル1a、1bのパラメータは、導体経路幅W、およびピッチP、したがってスロープSである。これらの実施形態では、スロープSは巻線ごとに一定である。しかしながら、一般に、巻線の長さにわたって変動することもできる。
【0088】
2つのトランシーバコイル1a、1bは、トランシーバコイル1a、1bの傾斜方向φ=π/2またはφ=0に対する最小および最大の導体経路幅の配置に関して異なる。
【0089】
原則として、傾斜巻線(T≠0)の場合、断面平面上の最小導体経路幅が傾斜軸に直交すると有利である。X’軸周りの傾斜の場合、
図1に示すように、導体経路幅の最小値は、Y’Z’平面を有するコイルの断面平面上にある。傾斜により、Y’軸に沿って、すなわちZ’に対して90°の磁場成分が生成される。この磁場成分は、トランシーバコイルに「侵入」しなければならず、これは、2つの巻線の導体部の間に、より大きなギャップ幅Dが存在する場合に容易になる。遮蔽電流が導体自体に形成され、これは抵抗損失を増加させ、磁場を弱め、したがって、性能損失につながる。導体経路幅Wの最小値またはギャップ幅Dの最大値をY’Z’平面に沿って配置し、かつ、導体経路幅Wの最大値またはギャップ幅Dの最小値をX’Z’平面の方向に配置することによって、性能を向上させることができる。これは、ギャップ幅と導体経路幅との比をすべての空間位置で最適化することができるためである。
【0090】
それらの良好な性能のために、
図1に示すトランシーバコイル1aは、単一コイル構成を有するトランシーバコイル装置100a、100bに特に適している。
【0091】
X’方向(すなわち、鞍型コイル、共振器、...)に配向されたHF磁場B2を生成する別のトランシーバコイル11(
図3aおよび
図3bを参照)が、本発明によるトランシーバコイル1bを取り囲むか、またはそれによって囲まれる場合、この磁場B2は、第1のトランシーバコイル1bに侵入しなければならない。第1のトランシーバコイル1bの導体経路(巻線)は、「途中」にあり、別のトランシーバコイル11の磁場を部分的に遮蔽する。この場合、
図2に示すように、第1のトランシーバコイル1bのX’軸方向の導体経路幅Wを小さくすることで、別のトランシーバコイル11の性能を最適化できる。別のトランシーバコイル11のこの最適化は、第1のトランシーバコイル1bの性能を「損なう」が、X’方向により良好な透磁性を提供する。したがって、
図2に示すトランシーバコイル1bは、交差コイル構成を有するトランシーバコイル装置100bに特に適している。
【0092】
図3aおよび
図3bは、そのようなトランシーバコイル1bおよび交差コイル構成の別のトランシーバコイル11を有するトランシーバコイル装置100bを示す。トランシーバコイル装置100bは、本発明によるNMRプローブヘッド23(
図9参照)のために、第1のHF磁場B1を生成するための
図2に示す第1のトランシーバコイル1bと、第2のHF磁場B2を生成するための別のトランシーバコイル11とを備える。ここで、第1のトランシーバコイル1bは、別のトランシーバコイル11によって生成される第2の磁場B2が第1のトランシーバコイル1bによって生成される第1の磁場B1に対して略垂直になるように、別のトランシーバコイル11の半径方向内側に同軸に配置される。別のトランシーバコイル11は、ここでは、2つの半部5および5’からなるAlderman-Grant共振器として形成され、第1のトランシーバコイル1bを半径方向に囲み、別のトランシーバコイル11は、2つの対向する開口部12(「窓」)を備える。第1のトランシーバコイル1bおよび別のトランシーバコイル11は、第1のトランシーバコイル1の電気導体2の導体経路幅Wが最小値を有する第1のトランシーバコイル1bの領域が別のトランシーバコイル11の「窓」12内にあるように互いに対して配向され、その結果、別のトランシーバコイル11によって生成される第2の磁場B2は、第1のトランシーバコイル1aの最小導体経路幅Wを有する領域を通る。結果として、第1のトランシーバコイル1bは、第2のHF磁場B2に対して高い透明性を有する。
図3aおよび
図3bに示す実施形態の代替として、別のトランシーバコイル11を第1のトランシーバコイル1b(図示せず)内に配置することもできる。同様に、別のトランシーバコイルは、共鳴器(図示せず)としてではなく、鞍型コイル、特に多巻線サドルコイルとして設計することもできる。
【0093】
図4は、本発明によるトランシーバコイル1gの非常に具体的な実施形態を示す。導体経路幅Wは、トランシーバコイル1gに対して周期的に変化し、巻線当たり4つの最大値および4つの最小値を有する。傾斜軸(X’方向)に沿った2つの最小値は、
図2のトランシーバコイル1bと同様に、交差コイル構成の第2のHF磁場B2の透明性を生成するためであり、傾斜軸に垂直な(Y’方向に沿った)2つの最小値は、
図1のトランシーバコイル1aと同様に、「独自の方法でより少なくなる」ためである。これらの最小値は、一般に、傾斜した巻線を伴うトランシーバコイルに対する第1のトランシーバコイル1gの性能を最適化するが、透明性を高める最小値は、第1のトランシーバコイル1gを犠牲にして、別のトランシーバコイル(
図4に図示せず)の性能を最適化する。
【0094】
本発明に従って変動するトランシーバコイル1gのパラメータは、導体経路幅W、ならびにピッチPしたがってスロープS、および傾斜Tである。
【0095】
図5aおよび
図5bは、第1のトランシーバコイル1cを有する交差コイルの幾何学形状のトランシーバコイル装置100cのさらなる実施形態を示す。トランシーバコイル1cの巻線は、それらの長さの大部分にわたって局所的スロープS(t)=0を有する。そのような巻線は、閉じていないリング、すなわち、t=t0...t0+1-ε、またはt=t0+ε/2...t0+1-ε/2、について、S(t)=0を形成する。ここで、ε>0であり、ε>0は短絡を防止し、t=t0は、巻き始めである。このように設計されたソレノイドコイル1cは、巻線の大部分が0の局所ピッチを有するため、「ゼロピッチ」コイルとして知られている。しかしながら、完全な巻線のピッチPは0に等しくない値を有し、この値は本実施形態では一定である(│P│=定数)。したがって、そのようなトランシーバコイル1cは、(局所的)スロープのない閉じていない「リング」と、スロープS(t)≫0を有する電気コイル部の組み合わせとして設計できる。導体経路幅Wとギャップ幅Dとの比W/Dは、導体経路幅が一定に設計されていれば、トランシーバコイル1cにわたって簡単な方法で一定に保つことができる。結果として、トランシーバコイル1cの品質を最大化することができ、および/または電場を特に簡単な方法で最小化することができる。しかしながら、
図5a、5bのトランシーバコイル1cは、周期的に変動する導体経路幅Wを有し、結果として、巻線間のギャップ幅Dも周期的に変動する。1つのトランシーバコイル1cの性能の最適化および交差コイル配置の性能へのその影響は、この構成では特に計算が容易である。また、トランシーバコイル1cは、一定の傾斜Tを有する。
【0096】
本発明に従って変動するトランシーバコイル1cのパラメータは、導体経路幅W、スロープSまたはピッチP、および傾斜Tである。
【0097】
図5aおよび
図5bに示す第1のトランシーバコイル1cは、好ましくは交互に配置された順巻線14および逆巻線15を有する交差する幾何学形状に設計されることが好ましい。
【0098】
図6は、局所的スロープSおよび導体経路幅Wの両方、ならびに傾斜Tが変動する、本発明によるトランシーバコイル1dを示す。導体経路幅Wは、各巻線において正確に1つの最大値および1つの最小値を有し、巻線にわたって平均化された導体経路幅Wは、軸方向端部4a、4bに向かって減少する。
図6のトランシーバコイル1dは、複数のコアに特によく適合することができ、したがって、特に1コイルのトランシーバコイル装置100dに適している。
【0099】
本発明に従って変動するトランシーバコイル1dのパラメータは、導体経路幅W、傾斜T、およびピッチPしたがってスロープSである。コイルの軸方向端部の傾斜TはT=0である。結果として、そのようなコイルは、例えばMASステータのベアリング間の規定の設置スペースに特に容易に取り付けることができ、利用可能な体積を特に良好に利用する。
【0100】
図7は、局所的スロープSおよび導体経路幅Wの両方、ならびに傾斜Tが変動する、本発明によるトランシーバコイル1eを示す。この実施形態では、巻線のスロープSは離散的に変化する、すなわち、1つの巻線内でS(t)=一定である。この離散化は最適な均一性を提供しないが、十分に良好な均一性レベルを達成することができる。導体経路幅Wおよび傾斜Tの両方、ならびにピッチPは、軸方向端部4a、4bに向かって減少する。
【0101】
本発明に従って変動するトランシーバコイル1eのパラメータは、導体経路幅W、傾斜、およびピッチPしたがってスロープSである。
【0102】
トランシーバコイル1eは、特に1コイルのトランシーバコイル装置100eに適している。
【0103】
図8に示すトランシーバコイル1fは、一定のピッチPを有するが、巻線間の傾斜Tと導体経路幅Wとは変動する。
【0104】
巻線間のギャップ幅Dに対する導体経路幅Wの比W/Dは、ここでは一定である。傾斜巻線(Tは0に等しくない)と組み合わせて、これにより、トランシーバコイル1fの左半分の巻線では最大導体経路幅Wが底部(-Y’方向)に配置され、トランシーバコイル1fの右半分の巻線では最大導体経路幅Wが上部(+Y’方向)に配置される。
図8に示すトランシーバコイル1fは、例えば、トランシーバコイルを2つの軸受の間に挿入しなければならないトランシーバコイル装置の幾何学形状など、トランシーバコイル装置の全長が制限される場合に、特に有利に使用できる。トランシーバコイル1fは、特に、軸方向および半径方向の均一性を最大化する必要がない単純なFID実験に使用できる。
【0105】
本発明に従って変動するトランシーバコイル1fのパラメータは、導体経路幅W、ギャップ幅D、および傾斜Tである。
【0106】
トランシーバコイル1fは、特に1コイルのトランシーバコイル装置100fに適している。
【0107】
図9は、本発明によるNMRプローブヘッド23の概略図を示す。ここに示す例では、NMR測定を行うための静磁場は、動作中にZ軸に平行に整列される。NMRプローブヘッド23は、本発明によるトランシーバコイル1a~gまたはトランシーバコイル装置100a~fを備え、トランシーバコイル装置100a~fは、整合ネットワーク24に接続され、分光計接続部21をさらに備える。
図9に示すNMRプローブヘッド23は、トランシーバコイル1の長手方向軸Z’が、NMRプローブヘッド23の細長い延長部が延びるZ軸に対して、好ましくはマジック角θ(θ=54.74°)だけ傾斜している、MAS(マジック角回転)プローブヘッドである。
【符号の説明】
【0108】
1a-g トランシーバコイル
2 電気導体
4a,4b 軸方向端部
5,5’ 別のトランシーバコイルの半部
10 巻線間の中間間隔
11 別のトランシーバコイル
12 別のトランシーバコイルの開口部/窓
21 分光計接続部
23 NMRプローブヘッド
24 整合ネットワーク
100a-f トランシーバコイル装置
Z’ トランシーバコイルの長手方向軸
W 導体経路幅
D ギャップ幅
S 局所的スロープ
P ピッチ
T 傾斜
R 半径
【0109】
引用文献等一覧
[Sunら]Y.H.Sun,G.E.Maciel,
J.Magn.Reson.,Series A,Vol.105,145-150ページ(1993)
NMR実験のための傾斜コイル
[Barbaraら]US6359437B1
[Privalovら]F.Privalov,S.V.Dvinskikh,H.-M.Vieth
J.Magn.Reson.,Series A,Vol.123,157-160ページ(1996)
固体NMR用途のための大体積・高B1均一性のためのコイル設計
[Mispelter]J.Mispelterら
生物物理学的および生物医学的実験のためのNMRプローブヘッド。理論的原理および実用的ガイドライン(第2版)、
World Scientific Publishing Company、2015年
ISBN1783268042;89ページ
【外国語明細書】