(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075023
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】素子、電子デバイス、電子機器及びシステム
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240527BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20240527BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240527BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240527BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H01L41/113
H01L41/09
H01L41/047
H03H9/25 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186128
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】721011637
【氏名又は名称】株式会社Gaianixx
(72)【発明者】
【氏名】木島 健
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA30
5J097AA33
5J097BB11
5J097DD30
5J097EE08
5J097FF02
5J097GG06
5J097HA01
5J097KK01
5J097KK10
(57)【要約】
【課題】環境に優しく、精度に優れた素子を提供する。
【解決手段】結晶基板上に、第1の中間膜としてHfを含む化合物膜を積層し、ついで第2の中間膜として熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属を含む金属膜を積層した後、直接に又は他の層を介して、結晶成長により、圧電体膜を積層し、ついで前記結晶基板を剥離する。そして、得られた圧電体を、略円柱状の基体に巻回し、接合箇所から順に、反射器とすだれ状電極とを設けて圧電体素子を作製する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のすだれ状電極が圧電体に設けられている素子であって、前記圧電体がシート状であることを特徴とする素子。
【請求項2】
前記圧電体が基体に接合されている請求項1記載の素子。
【請求項3】
前記基体が円柱状、略円柱状、樽状又は略樽状であり、前記圧電体が前記基体に巻回して円状又は略円状を形成し、前記円状又は略円状の円周方向又は略円周方向に表面弾性波が伝搬可能となるように前記すだれ状電極が設置されている請求項2記載の素子。
【請求項4】
前記表面弾性波の伝搬経路内に反射器が設けられている請求項3記載の素子。
【請求項5】
前記反射器が2以上設けられており、前記の巻回による前記圧電体同士の接合部が、前記反射器間に設けられている請求項4記載の素子。
【請求項6】
前記すだれ状電極が前記表面弾性波を発生させるSAW発生手段及び前記表面弾性波を受信するSAW受信手段を備えている請求項3~5のいずれかに記載の素子。
【請求項7】
前記圧電体が、金属膜上に成膜されてなる請求項1~6のいずれかに記載の素子。
【請求項8】
前記圧電体と前記金属膜とがそれぞれ(100)方向に配向している請求項7記載の素子。
【請求項9】
前記金属膜が2種以上の金属層からなる請求項7又は8に記載の素子。
【請求項10】
前記金属膜が熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属を含み、前記圧電体と前記金属膜とがそれぞれ略同一の結晶軸方向に配向している請求項7~9のいずれかに記載の素子。
【請求項11】
前記金属膜が、Feを含む請求項10記載の素子。
【請求項12】
前記金属膜が、Crを含む請求項10又は11に記載の素子。
【請求項13】
前記圧電体が単結晶膜からなる請求項1~12のいずれかに記載の素子。
【請求項14】
素子を含む電子デバイス、電子機器又はシステムであって、前記素子が請求項1~13のいずれかに記載の素子である電子デバイス、電子機器又はシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子、電子デバイス、電子機器及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子の一つである表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子は、水晶基板などの圧電基板上にすだれ状電極(IDT:Interdigital Transducer)を備えている。すだれ状電極は、一対となっており、櫛型の電極が非接触で対向するように圧電基板上に形成されている。このすだれ状電極に交流電圧を印加することで、圧電基板の有する圧電効果および逆圧電効果により、すだれ状電極が形成されている圧電基板の表面および表面付近を周波数帯で振動させることができる。表面弾性波素子は、すだれ状電極の組合せや構成によって、発振器、帯域フィルタ、ジャイロなど、様々な電子機器を構成する電子回路に幅広く用いられている。
【0003】
また、近年においては、例えば、移動体通信に用いられる携帯端末装置の小型化、軽量化が進むとともに、高い通信品質を実現するために、さらに高い精度を有する表面弾性波素子が求められており、このような要求に応えるべく、球状SAWセンサ(ボールSAWセンサ)等が検討されている(特許文献1)。ボールSAWセンサは、SAWの自然なコリメートビームが多重周回する現象を利用して、相互作用距離を平面型センサよりも著しく増加させることができたため、高感度化に有用である。しかしながら、製造工程が煩雑になるなどコストの問題があり、高周波特性等についてもSAWデバイスには課題が多くあり、まだまだ満足のいくものではなかった。さらには、環境問題等に対する省エネの要求も加わり、これら課題を解決するような新規SAW素子が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、環境に優しく、優れた精度を有する素子、電子デバイス、電子機器及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、金属膜上に圧電体が同一の結晶軸方向に配向して積層されている積層構造体の創製に成功し、このような積層構造体によれば、1以上のすだれ状電極が圧電体に設けられている素子であって、前記圧電体がシート状である素子が容易に実現できることを知見し、このような素子が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 1以上のすだれ状電極が圧電体に設けられている素子であって、前記圧電体がシート状であることを特徴とする素子。
[2] 前記圧電体が基体に接合されている前記[1]記載の素子。
[3] 前記基体が円柱状、略円柱状、樽状又は略樽状であり、前記圧電体が前記基体に巻回して円状又は略円状を形成し、前記円状又は略円状の円周方向又は略円周方向に表面弾性波が伝搬可能となるように前記すだれ状電極が設置されている前記[2]記載の素子。
[4] 前記表面弾性波の伝搬経路内に反射器が設けられている前記[3]記載の素子。
[5] 前記反射器が2以上設けられており、前記の巻回による前記圧電体同士の接合部が、前記反射器間に設けられている前記[4]記載の素子。
[6] 前記すだれ状電極が前記表面弾性波を発生させるSAW発生手段及び前記表面弾性波を受信するSAW受信手段を備えている前記[3]~[5]のいずれかに記載の素子。
[7] 前記圧電体が、金属膜上に成膜されてなる前記[1]~[6]のいずれかに記載の素子。
[8] 前記圧電体と前記金属膜とがそれぞれ(100)方向に配向している前記[7]記載の素子。
[9] 前記金属膜が2種以上の金属層からなる前記[7]又は[8]に記載の素子。
[10] 前記金属膜が熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属を含み、前記圧電体と前記金属膜とがそれぞれ略同一の結晶軸方向に配向している前記[7]~[9]のいずれかに記載の素子。
[11] 前記金属膜が、Feを含む前記[10]記載の素子。
[12] 前記金属膜が、Crを含む前記[10]又は[11]に記載の素子。
[13] 前記圧電体が単結晶膜からなる前記[1]~[12]のいずれかに記載の素子。
[14] 素子を含む電子デバイス、電子機器又はシステムであって、前記素子が前記[1]~[13]のいずれかに記載の素子である電子デバイス、電子機器又はシステム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の素子、電子デバイス、電子機器及びシステムは、環境に優しく、優れた精度を有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の素子の好適な実施態様の一例を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の素子に好適に用いられる反射器の一例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の素子の別の好適な実施態様の一例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の素子における表面弾性波の伝搬方向等を模式的に説明する図である。
【
図5】本発明の積層構造体の好適な実施態様の一例を模式的に示す図である。
【
図6】実施例におけるXRD回折パターンを示す図である。
【
図7】試験例における実施例品の試験片を説明する図である。
【
図8】試験例における比較例品の試験片を説明する図である。
【
図9】試験例における曲げ強度試験結果を示す図である。
【
図10】実施例において好適に用いられる成膜装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の素子は、1以上のすだれ状電極がシート状の圧電体に設けられている素子であれば特に限定されない。本発明においては、前記圧電体が基体に接合されているのが好ましい。前記の接合は公知の接合手段が用いられてよく、本発明においては、金属接合手段又は貼付手段であるのが好ましい。前記金属接合手段は公知の金属接合手段であってよく、金属膜を前記圧電体に貼り付けて用いてもよいが、本発明においては、前記金属膜上に前記圧電体を成膜し、得られた積層構造体を用いるのが好ましい。なお、本発明においては、前記圧電体が金属膜上に成膜されてなるのが好ましく、前記圧電体と前記金属膜とがそれぞれ(100)方向に配向しているのがより好ましい。また、本発明においては、前記金属膜が2種以上の金属層からなるのが好ましく、うち一種が、熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属を含み、前記圧電体と前記金属膜とがそれぞれ略同一の結晶軸方向に配向しているのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、前記素子の精度をより優れたものとすることができる。また、前記金属膜は、Feを含むのが好ましく、さらに、Crを含むのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、可撓性により優れたものとなり、前記圧電体の曲げを伴う素子において、より容易に優れた精度を奏することができる。なお、前記圧電体は単結晶膜からなるのが好ましい。また、前記貼付手段は、特に限定されないが、公知の接着剤を用いる手段などが好適な例として挙げられる。
【0011】
また、本発明においては、前記基体が円柱状、略円柱状、樽状又は略樽状であり、前記圧電体が前記基体に巻回して円状又は略円状を形成し、前記円状又は略円状の円周方向又は略円周方向に表面弾性波が伝搬可能となるように前記すだれ状電極が設置されているのが好ましい。このような好ましい範囲によれば、例えばボールSAW等にしなくても、前記素子のSAWデバイスとしての精度をより向上させることができる。また、本発明においては、前記表面弾性波の伝搬経路内に反射器が設けられているのが好ましく、前記反射器が2以上設けられており、前記の巻回による前記圧電体同士の接合部が、前記反射器間に設けられているのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、前記素子の製造工程を大幅に簡易なものとすることができ、また、汎用性もより向上させることができる。また、本発明においては、前記すだれ状電極が前記表面弾性波を発生させるSAW発生手段及び前記表面弾性波を受信するSAW受信手段を備えているのが好ましい。このような好ましい範囲によれば、どのような形状の基体であっても、前記素子の精度をより容易に優れたものにすることができる。
【0012】
前記素子は、円状又は略円状の圧電体を含み、円周方向又は略円周方向に表面弾性波が伝搬可能となるように1以上のすだれ状電極が前記圧電体に設けられている素子であるのが好ましいが、本発明においては、前記表面弾性波の伝搬経路内となる前記圧電体に反射器が設けられているのがより好ましい。
【0013】
前記反射器は、前記表面弾性波(以下、「SAW」ともいう。)の伝搬経路内となる前記圧電体に設けられていれば特に限定されず、公知の反射器であってよいが、本発明においては、例えば
図1に示すように、SAWの伝搬方向において、すだれ状電極(以下「IDT電極」ともいう。)と隣り合うように位置しているのが好ましい。前記反射器は、例えば、格子状に形成されている電極等であってよく、本発明においては、
図2に示すように、互いに対向する1対の反射バスバー11と、前記1対の反射バスバー11間において延びる複数の反射電極指13とを有しているのが好ましい。
【0014】
図2の反射バスバー11及び反射電極指13の形状および寸法は、各反射電極指13の両端が1対の反射バスバー11に接続されていることを除いては、基本的に、IDT電極のバスバー及び電極指と同様であってよい。例えば、各反射電極指13は、一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2方向)に直線状に延びる長尺形状を有しており、互いに同等の長さであり、これら複数の反射電極指13は、例えば、SAWの伝搬方向にそれぞれ並べて配列されている。複数の反射電極指13の本数は、通常、利用を意図しているモードのSAWの反射率が概ね100%以上となるように設定されている。その理論的な必要最小限の本数は、例えば、数本~10本程度が好適な例として挙げられ、反射電極指13の本数は、好ましくは20本以上である。
【0015】
前記反射器は、通常、IDT電極とは電気的に非接続であり、電気的に浮遊状態(外部から電位が付与されない状態)であってもよいし、基準電位等が付与されてもよい。本発明においては、前記反射器が、IDT電極のうちの一方の電極部と電気的に接続されていてもよいが、電気的に浮遊状態(外部から電位が付与されない状態)であるのが好ましい。
【0016】
また、本発明においては、前記素子が、前記すだれ状電極が前記表面弾性波を発生させるSAW発生手段及び前記表面弾性波を受信するSAW受信手段を備えているのが好ましい。また、本発明においては、例えば
図3に示すように、前記すだれ状電極が前記反射器2つ及び前記圧電体の継ぎ目を挟んで合計で2以上設けられているのがより好ましく、このように構成することで、さらに一段と、前記信号を用いた補正による精度を向上させることができ、より高感度のセンサをより容易に実現することができる。
【0017】
ここで、
図3のSAW受信手段19を用いた補正の態様の好適な一例を示す。
図4に示すように、すだれ状電極13に電圧が印加されると、すだれ状電極の電極指によって圧電体12に電圧が印加され圧電体12に沿ってD1方向及びD2方向に伝搬する所定のモードのSAWが励起される。励起されたSAWは、すだれ状電極13の電極指及び反射器20によって機械的に反射され、電極指のピッチを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、すだれ状電極の電極指によって取り出される。ここで、回転角速度が加わったSAWの伝搬するD1方向の波とD2方向の波とに位相差が生じるので、例えば、位相差を表す下記式(1)を利用した補正等が可能となる。
【数1】
(式中、Ωは角速度を示し、kは波数を示し、Nは積算回数を示し、Aは上部面積を示す。)
【0018】
前記素子は、前記積層構造体を用いて容易に作製することが可能である。なお、本発明においては、前記積層構造体が結晶基板を含む場合には、かかる結晶基板を剥離してから用いるのが好ましい。なお、前記積層構造体は、第1の層上に少なくとも第2の層が積層されており、可撓性を有する積層構造体であって、前記第1の層が金属膜からなり、前記第2の層が前記圧電体からなる圧電体膜(以下、「圧電体層」ともいう)からなるのが好ましい。このような積層構造体によれば、高周波等においてより優れた圧電特性を発揮し得る。
【0019】
本発明においては、前記圧電体膜と前記金属膜とがそれぞれ(100)方向に配向しているのが好ましい。また、本発明においては、前記圧電体膜が単結晶膜であるのがより優れた圧電特性及び耐久性等を有するので好ましい。なお、本発明においては、前記圧電体膜が、PTO膜又はPZT膜であるのが好ましい。また、本発明においては、前記金属がFeを含むのが好ましく、Crをさらに含むのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、より良好な結晶成長を実現することができ、より高品質の結晶膜を得ることができる。また、本発明においては、前記金属膜と前記圧電体膜との間に導電性酸化膜が、導電性窒化膜上に前記金属膜が積層されているのがそれぞれ好ましい。なお、前記導電性酸化膜が積層される場合には、前記導電性酸化膜が、Sr及び/又はRuを含むのが好ましく、前記導電性窒化膜が積層される場合には、前記導電性窒化膜が、Hfを含むのが好ましい。
【0020】
前記金属膜は、金属を主成分として含む膜であれば特に限定されない。なお、「主成分」とは、前記金属膜中の前記金属の原子比が0.5以上の割合であればそれでよい。本発明においては、前記金属膜中の全ての金属元素に対する前記金属の原子比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であるのがより好ましい。前記金属は、熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属であるのが好ましいが、特に限定されず、公知の金属であってよい。前記のマルテンサイト変態する金属としては、例えば、Fe-Cr-Ni、Fe、Fe-Cr-Ni-Cu-Nb、Fe-Ni、Fe-Ni-Co、Fe-Si、Fe-Cr、Fe-Mn、Fe-Mn-C、Fe-Mn-Ni、Fe-Mn-Cr、Fe-C、Fe-N、Fe-Ni-C、Fe-Cr-C、Fe-Cu-C、Fe-Si-C、Fe-Cr-Ni-C、Co、Co-Ni、Co-Fe、Mn-Cu、In-Tl、In-Tl-Li、Na、Zr、Tl、Hf、Ti、Ti-Al、Ti-Cu、Ti-Cr、Ti-Fe、Ti-Mn、Ti-Mo、Ti-V、Ti-Zr、Ti-Al-V、Zr-U、Cu-Al-Ni、Cu-Al、Ag-Cd、Au-Cd、Au-Cd-Cu、Li、Li-Mg、Cu-Zn、U、U-Cr、Hgなどが挙げられる。本発明においては、前記金属が、Fe、Cr又はNiを含むのが好ましく、Fe及びCrを含むのがより好ましく、ステンレスであるのが最も好ましい。このような好ましい範囲によれば、曲げ強度をより優れたものとすることができる。
【0021】
前記の「(100)方向に配向」とは、X線回折法により検出される結晶方位角が(100)方向に配向していればそれでよく、より具体的には、X線回折法により検出される前記金属膜の全ピークに対し、(100)方向のピーク比が50%以上であればそれでよく、好ましくは前記ピーク比が90%以上である。
【0022】
本発明においては、前記金属膜の膜厚が100μm以下であるのが好ましく、膜厚1μm~10μmであるのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、機能膜の結晶成長用中間膜として、より優れたものとなる。
【0023】
前記積層構造体は、例えば、結晶基板上に、第1の中間膜としてHfを含む化合物膜を積層し、ついで第2の中間膜として熱処理又は加工によりマルテンサイト変態する金属を含む金属膜を積層した後、直接に又は他の層を介して、結晶成長により、圧電体膜(以下、「圧電体層」ともいう)を積層し、ついで前記結晶基板を剥離することにより、容易に得ることが可能である。前記結晶成長における結晶成長手段としては、例えば、PLD法又はCVD法等の公知の結晶成長手段が挙げられる。なお、前記剥離手段は、前記結晶基板を前記圧電体膜から剥離できればそれでよく、公知の剥離手段を用いてよい。前記剥離手段は、前記結晶基板の除去手段であってよく、本発明の目的を阻害しない限り、ドライエッチング及びウエットエッチング等の公知の除去手段も前記剥離に用いることができる。なお、本発明では、前記結晶基板の剥離を、ウエットエッチングにて行うのが好ましい。前記ウエットエッチング手段には、例えば強アルカリ等の公知のエッチング剤が好適に用いられ得る。
【0024】
前記結晶基板(以下、単に「基板」ともいう)は、基板材料等、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の結晶基板であってよい。有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。本発明においては、前記結晶基板が無機化合物を含んでいるのが好ましい。本発明においては、前記基板が、表面の一部または全部に結晶を有するものであるのが好ましく、結晶成長側の主面の全部または一部に結晶を有している結晶基板であるのがより好ましく、結晶成長側の主面の全部に結晶を有している結晶基板であるのが最も好ましい。前記結晶は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、結晶構造等も特に限定されないが、立方晶系、正方晶系、三方晶系、六方晶系、斜方晶系又は単斜晶系の結晶であるのが好ましく、(100)又は(200)に配向している結晶であるのがより好ましい。また、前記結晶基板は、オフ角を有していてもよく、前記オフ角としては、例えば、0.2°~12.0°のオフ角などが挙げられる。ここで、「オフ角」とは、基板表面と結晶成長面とのなす角度をいう。前記基板形状は、板状であって、前記エピタキシャル膜の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいが、本発明においては、前記基板が、Si基板であるのが好ましく、結晶性Si基板であるのがより好ましく、(100)に配向している結晶性Si基板であるのが最も好ましい。なお、前記基板材料としては、例えば、Si基板の他に周期律表第3族~第15族に属する1種若しくは2種以上の金属又はこれらの金属の酸化物等が挙げられる。前記基板の形状は、特に限定されず、略円形状(例えば、円形、楕円形など)であってもよいし、多角形状(例えば、三角形、正方形、長方形、五角形、六角形、七角形、八角形、九角形など)であってもよく、様々な形状を好適に用いることができる。また、本発明においては、大面積の基板を用いることもでき、このような大面積の基板を用いることによって、エピタキシャル膜の面積を大きくすることができる。
【0025】
また、本発明においては、前記結晶基板が平坦面を有するのが好ましいが、前記結晶基板が表面の一部または全部に凹凸形状を有しているのも、前記エピタキシャル膜の結晶成長の品質をより良好なものとし得るので、好ましい。前記の凹凸形状を有する結晶基板は、表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されていればそれでよく、前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部および凹部からなる凹凸部であってもよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、前記凹凸部が周期的に形成されているのが好ましく、周期的かつ規則的にパターン化されているのがより好ましい。前記凹凸部の形状としては、特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、本発明においては、ドット状またはストライプ状が好ましく、ドット状がより好ましい。また、凹凸部が周期的かつ規則的にパターン化されている場合には、前記凹凸部のパターン形状が、三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などの形状であるのが好ましい。なお、ドット状に凹凸部を形成する場合には、ドットの格子形状を、例えば正方格子、斜方格子、三角格子、六角格子などの格子形状にするのが好ましく、三角格子の格子形状にするのがより好ましい。前記凹凸部の凹部または凸部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは100~1000μmである。
【0026】
前記圧電体層は、前記圧電体からなる圧電体層であれば特に限定されない。前記圧電体も公知の圧電体であってよいが、本発明においては、前記圧電体が、Pb及びTiを含むのが好ましい。なお、本明細書中、「膜」及び「層」の各用語は、それぞれ場合によって、又は状況に応じて、互いに入れ替えてもよい。
【0027】
また、本発明においては、結晶基板上に、第1の中間膜を積層し、ついで第2の中間膜を積層した後、そのままで又は他の層を介して、前記圧電体層が積層するのが好ましい。前記他の層としては、例えば、金属膜、導電性酸化膜又は導電性窒化膜などが挙げられる。前記導電性酸化膜は、Sr及び/又はRuを含む導電性酸化膜などが挙げられる。また、前記導電性窒化膜は、Hfを含む導電性窒化膜などが挙げられる。前記他の層における金属膜としては、前記金属とは異なる金属からなるのが好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、銀パラジウム、銅、ニッケル、又はこれらの合金等が挙げられる。
前記の積層手段は、いずれも公知の成膜手段を用いて積層することができる。本発明においては、前記成膜手段が、蒸着(MBE含む)又はスパッタであるのが好ましい。各層のそれぞれの厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10nm~100μmであり、より好ましくは50nm~30μmである。
【0028】
以上のようにして得られた積層構造体は、適宜ウエットエッチング等で前記結晶基板から剥離され、圧電体として、公知の手段を用いて、圧電素子等の前記素子に好適に用いられる。例えば、得られた圧電体を、略円柱状の基体に巻回し、接合箇所から順に、反射器とすだれ状電極とを設けることで、高性能な新規圧電体素子を容易に作製することができる。また、前記素子は、常法に従い、電子デバイスに好適に用いられる。例えば、前記積層構造体を、圧電素子として、電源や電気/電子回路と接続し、回路基板に搭載したり、パッケージしたりすることにより様々な電子デバイスを構成することができる。本発明においては、前記電子デバイスが、圧電デバイスであるのが好ましく、例えば、インクジェットプリンタヘッド、マイクロアクチュエータ、ジャイロスコープ、モーションセンサ等の電子機器における圧電デバイスとして利用可能である。また、例えば、増幅器と整流回路を接続しパッケージすれば、磁気センサなどの各種センサに利用可能である。また、定電圧駆動のメモリにも適用できるし、例えば、蓄電素子と整流電力管理回路を接続すれば、外部からの磁場や振動から電力を発電するエネルギー変換デバイス(エネルギーハーベスタ)となる。なお、前記エネルギー変換デバイスは、電源システムやウェアラブル端末(イヤホン/ヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス(眼鏡)、スマートコンタクトレンズ、人工内耳、心臓ペースメーカーなど)などに組み込まれ利用される。本発明においては、前記積層構造体を、例えばスマートグラス、ARヘッドセット、LiDARシステム向けのMEMSミラー、先端医療向けの圧電MEMS超音波トランスデューサ(PMUT)、商工業用3Dプリンタ向けのピエゾヘッド等に用いることが好ましい。
【0029】
前記電子デバイスは、常法に従い電子機器に好適に用いられる。前記電子機器としては、上記した電子機器以外にも様々な電子機器に適用可能であり、より具体的に例えば、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、振動波モータ、光学機器、振動装置、撮像装置、圧電音響部品や該圧電音響部品を有する音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、各種情報端末等が好適な例として挙げられる。
【0030】
また、前記電子機器は、常法に従いシステムにも適用され、かかるシステムとしては、例えばセンサーシステム等が挙げられる。
【0031】
以下、本発明の好適な態様を、図面を用いて説明するが、本発明はこれら好適な態様に限定されるものではない。
【0032】
図1は、本発明の好適な素子の一例を示す。
図1の素子は、圧電体12が、円柱状の基体側面に巻回されており、側面の圧電体12上には、すだれ状電極10及び反射器20が形成されている。なお、すだれ状電極10及び反射器20の形成は、それぞれ公知の手段を用いて行われてよい。すだれ状電極10に電圧が印加されると、圧電体12の圧電効果により、すだれ状電極10の隣り合う電極指間の圧電体上にひずみが生じ表面波が励振される。すだれ状電極は、電極指が周期的に配置されており、表面波はその波長と電極指周期が等しい場合に最も強く励振される。表面に形成された電極間隔で周波数が決まるため、フォトリソ加工等することにより、容易に高周波に対応することができる。
【0033】
前記素子は、常法に従い、電子デバイスに好適に用いられる。例えば、前記素子を、圧電素子として、電源や電気/電子回路と接続し、回路基板に搭載したり、パッケージしたりすることにより様々な電子デバイスを構成することができる。本発明においては、前記電子デバイスが、圧電デバイスであるのが好ましく、例えば、ジャイロスコープ、モーションセンサ等の電子機器における圧電デバイスとして利用可能である。また、例えば、増幅器と整流回路を接続しパッケージすれば、磁気センサなどの各種センサに利用可能である。
【0034】
前記電子デバイスは、常法に従い電子機器に好適に用いられる。前記電子機器としては、上記した電子機器以外にも様々な電子機器に適用可能であり、より具体的に例えば、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、振動波モータ、光学機器、振動装置、撮像装置、圧電音響部品や該圧電音響部品を有する音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、各種情報端末等が好適な例として挙げられる。
【0035】
また、前記電子機器は、常法に従いシステムにも適用され、かかるシステムとしては、例えばセンサーシステム等が挙げられる。
【実施例0036】
(実施例1)
Si基板(100)の結晶成長面側をRIEで処理し、窒素の存在下、蒸着法にて、蒸着源の金属と、窒素とを熱反応させ、HfZrN単結晶をSi基板上に形成した。なお、この成膜時の蒸着法の各条件は次の通りであった。
蒸着源 : Hf、Zr
電圧 : 3.5~4.75V
圧力 : 3×10-2~6×10-2Pa
基板温度 : 450~700℃
【0037】
HfZrN単結晶の蒸着において用いた蒸着成膜装置を
図8に示す。
図8の成膜装置は、ルツボに金属源1101a~1101b、アース1102a~1102h、ICP電極1103a~1103b、カットフィルター1104a~1104b、DC電源1105a~1105b、RF電源1106a~1106b、ランプ1107a~1107b、Ar源1108、反応性ガス源1109、電源1110、基板ホルダー1111、基板1112、カットフィルター1113、ICPリング1114、真空槽1115及び回転軸1116を少なくとも備えている。なお、
図8のICP電極1103a~1103bは基板1112の中心側に湾曲した略凹曲面形状又はパラボラ形状を有している。
【0038】
図8に示すように、基板1112を基板ホルダー1111上に係止する。ついで、電源1110と回転機構(図示せず)とを用いて回転軸1116を回転させ、基板1112を回転させる。また、基板112をランプ1107a~1107bによって加熱し、真空ポンプ(図示せず)によって真空槽1115内を排気により真空又は減圧下にする。その後、真空槽1115内にAr源1108からArガスを導入し、DC電源1105a~1105b、RF電源1106a~1106b、ICP電極1103a~1103b、カットフィルター1104a~1104b、及びアース1102a~1102hを用いて基板1112上にアルゴンプラズマを形成することにより、基板1112の表面の清浄化を行う。
【0039】
真空槽1115内にArガスを導入するとともに反応性ガス源1109を用いて反応性ガスを導入する。このとき、ランプ7a及び7bはそれぞれ異なる波長を基板12に対して照射することができるように構成されている。また、ランプ7a及び7bはそれぞれランプヒーターであってもよい。前記波長は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、紫外線であってもよいし、赤外線であってもよい。また、前記波長は、原料や反応の種類等によって、適宜設定されてよく、膜質や成膜レートを容易により良好なものとすることができる。また、ランプ7a~7bのオンとオフとを交互に繰り返すことで、より良質な結晶成長膜を形成することもできる。
【0040】
次に、蒸着源の金属として、Fe、Cr及びNiを用いたこと以外、上記と同様にして、SUS304単結晶膜を成膜した。
【0041】
次に、結晶性金属酸化物の単結晶膜の上に、導電膜として、白金(Pt)の金属膜をスパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : ULVAC社製スパッタリング装置QAM-4
圧力 : 1.20×10-1Pa
ターゲット : Pt
電力 : 100W(DC)
厚さ : 100nm
基板温度 : 450~600℃
【0042】
次に、導電膜上に、SRO膜を、スパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : ULVAC社製スパッタリング装置QAM-4
パワー : 150W(RF)
ガス : Ar
圧力 : 1.8Pa
基板温度 : 600℃
厚さ : 20nm
【0043】
次に、SRO膜上に、圧電膜として、PbTiO
3膜を成膜した。得られた積層構造体は、良好な密着性及び結晶性を有する積層構造体であった。また、積層構造体の結晶基板、結晶性金属酸化物の単結晶膜及び導電膜につき、X線回折装置を用いて、それぞれの結晶を測定した。
図2に、XRD測定結果を示す。
図2から明らかなように、良好な結晶性を有するSUS304単結晶膜が形成されており、PbTiO
3膜等の結晶性等も良好であった。
【0044】
PbTiO3膜を成膜した後、水酸化ナトリウムを用いて、Si基板をウエットエッチングにより除去して、PbTiO3膜からSi基板を剥離した。なお、得られた積層構造体は、可撓性を有していた。
【0045】
(試験例)
試験例として
図3及び
図4のような微小素子の片持ちはりをFIB FB2100 (日立ハイテクノロジーズ製)を用いて作製し、その破壊強度特性をナノインデンター NanoTest Xtreme(Micro Materials社製)にて破壊強度評価したところ
図5のようになった。
図5よりSiの破壊強度は約1GPa程度とほぼ一定値を示した。Si単結晶バルク材の曲げ強度が、300MPa程度(論文)であることを考えると、マイクロマテリアルでは大きな強度を持つことがわかった。さらにSUS304単結晶薄膜の場合は、破壊強度約5GPaと、Si単結晶の約5倍の曲げ強度を有していた。このことは、SUS304単結晶薄膜をMEMSデバイスの梁(可動部分、SOI基板の活性層相当)に用いることで、MEMSデバイスの変位量の大幅な改善に加えて、大幅な寿命特性の改善が期待できる。
【0046】
得られた圧電体の素子への適用例を、以下、図を用いてより具体的に説明するが、本発明は、これら適用例に限定されるものではない。なお、本発明においては、特に断りがない限り、公知の手段を用いて、前記圧電体から素子及び電子デバイス等を製造することができる。
【0047】
図3は、本発明の好適な態様である素子の一例を示す。
図3の素子は、
図1とは、SAWを検出するためのSAW受信器を備えている点で異なる。
図3の素子は、圧電体12が、円柱状基体側面に巻回されており、基体側面の圧電体12上には、すだれ状電極13及び反射器20がそれぞれ2つずつ公知の手段を用いて形成されている。すだれ状電極13に電圧が印加されると、圧電体12の圧電効果により、すだれ状電極13のそれぞれ隣り合う電極指間の圧電体上にひずみが生じ表面波が励振される。また、すだれ状電極13には、SAW受信器19が接続されており、
図1に示すSAW伝搬経路14内に伝搬する表面弾性波を検出できるように構成されている。表面弾性波は、反射器20により、圧電体12の表面を
図4に示すD1方向及びD2方向にそれぞれ伝搬し、つまり互いに対向する方向に表面弾性波が伝搬する。これにより、環境にやさしい高精度かつ高感度のセンサを作製することができる。