(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075047
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】X線回折測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20 20180101AFI20240527BHJP
G21K 5/02 20060101ALI20240527BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20240527BHJP
【FI】
G01N23/20
G21K5/02 X
G01N23/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186183
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】乾 典規
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001SA02
(57)【要約】
【課題】回折X線強度の測定精度の低下を抑制する。
【解決手段】X線を生成して測定対象物に向けて出射する管球20と、X線の測定対象物に対する照射範囲を調整するコリメータ22と、レーザ光を測定対象物側に出射するレーザ光源24と、測定対象物にて回折したX線を検出する検出センサ40と、を備えるX線回折測定装置1であって、管球20とコリメータ22との間に配設され、X線及びレーザ光を遮蔽する本体部50を有する遮蔽板32と、遮蔽板32を、第三方向D3に沿って移動させるソレノイド34と、ソレノイド34を制御するコンピュータ14と、を備え、遮蔽板32には、レーザ光源24からのレーザ光をコリメータ22側に偏向させる偏向面58と、X線をコリメータ22側に通過させる貫通穴部60と、が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を生成して測定対象物に向けて出射する管球と、前記X線の前記測定対象物に対する照射範囲を調整するコリメータと、レーザ光を前記測定対象物側に出射するレーザ光出射器と、前記測定対象物にて回折したX線を検出するX線検出器と、を備えるX線回折測定装置であって、
前記管球と前記コリメータとの間に配設され、前記X線及び前記レーザ光を遮蔽する本体部を有する遮蔽板と、
前記遮蔽板を、前記管球の軸方向及び前記X線の出射方向に沿った方向と交差する方向に沿って移動させる駆動機構と、
前記駆動機構を制御する制御部と、
を備え、
前記遮蔽板には、前記レーザ光出射器からの前記レーザ光を前記コリメータ側に偏向させる偏向部と、前記X線を前記コリメータ側に通過させる貫通穴部と、が形成されている、
X線回折測定装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、
前記レーザ光を前記測定対象物に照射させる場合には、前記偏向部が前記コリメータ上に位置するように前記遮蔽板を移動させ、
前記測定対象物にて回折した前記X線を前記X線検出器で検出する場合には、前記貫通穴部が前記コリメータ上に位置するように前記遮蔽板を移動させ、
前記X線検出器の環境ノイズを測定する場合には、前記本体部が前記コリメータ上に位置するように前記遮蔽板を移動させる、
請求項1に記載のX線回折測定装置。
【請求項3】
前記貫通穴部の直径は、前記コリメータの直径と略等しい、
請求項1又は2に記載のX線回折測定装置。
【請求項4】
前記X線検出器は、前記測定対象物にて回折したX線を検出するセンサ部と、検出されたX線を電気信号に変換する回路部と、を含む検出センサである、
請求項1又は2に記載のX線回折測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物に向けてX線を照射し、当該測定対象物にて回折したX線の回折強度に基づき、当該測定対象物の残留応力等を測定するX線回折測定装置が知られている。
【0003】
このようなX線回折測定装置として、例えば下記特許文献1には、X線を生成して測定対象物に向けて出射する管球と、X線が測定対象物に照射される範囲を調整するコリメータと、測定対象物にて回折したX線を検出するX線検出器と、を備えるX線回折測定装置が開示されている。また、このようなX線回折測定装置においては、一般的に、X線照射点の位置決めをするためにレーザ光を測定対象物側に出射するレーザ光出射器が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のX線回折測定装置においては、X線検出器の環境ノイズ(少なくともX線を測定対象物に照射させない状態での検出値)を考慮してX線の回折強度を測定する必要がある。従来、この環境ノイズは、X線の回折強度を測定する直前に測定しているが、例えばX線の回折強度を連続的に測定する場合、X線検出器の発熱やレーザ光を含む各種光源の影響等によって環境ノイズが変化する可能性がある。しかしながら、X線回折測定装置で一般的に用いられるX線管球では、X線のON/OFF切り替えを瞬時に行って環境ノイズを測定することは困難であるため、X線の回折強度を連続的に測定する場合等における環境ノイズの変化に起因してX線の回折強度の測定精度が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、X線の回折強度の測定精度の低下を抑制することができるX線回折測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一態様に係るX線回折測定装置は、X線を生成して測定対象物に向けて出射する管球と、前記X線の前記測定対象物に対する照射範囲を調整するコリメータと、レーザ光を前記測定対象物側に出射するレーザ光出射器と、前記測定対象物にて回折したX線を検出するX線検出器と、を備えるX線回折測定装置であって、前記管球と前記コリメータとの間に配設され、前記X線及び前記レーザ光を遮蔽する本体部を有する遮蔽板と、前記遮蔽板を、前記管球の軸方向及び前記X線の出射方向に沿った方向と交差する方向に沿って移動させる駆動機構と、前記駆動機構を制御する制御部と、を備え、前記遮蔽板には、前記レーザ光出射器からの前記レーザ光を前記コリメータ側に偏向させる偏向部と、前記X線を前記コリメータ側に通過させる貫通穴部と、が形成されている。
【0008】
本発明の第二態様に係るX線回折測定装置では、前記駆動機構は、前記レーザ光を前記測定対象物に照射させる場合には、前記偏向部が前記コリメータ上に位置するように前記遮蔽板を移動させ、前記測定対象物にて回折した前記X線を前記X線検出器で検出する場合には、前記貫通穴部が前記コリメータ上に位置するように前記遮蔽板を移動させ、前記X線検出器の環境ノイズを測定する場合には、前記本体部が前記コリメータ上に位置するように前記遮蔽板を移動させる。
【0009】
本発明の第三態様に係るX線回折測定装置では、前記貫通穴部の直径は、前記コリメータの直径と略等しい。
【0010】
本発明の第四態様に係るX線回折測定装置では、前記X線検出器は、前記測定対象物にて回折したX線を検出するセンサ部と、検出されたX線を電気信号に変換する回路部と、を含む検出センサである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、X線の回折強度の測定精度の低下を抑制することができるX線回折測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】X線回折測定装置の全体構成の一例を示す図である。
【
図2】X線回折測定装置が備える測定部の一部構成の一例を示す図である。
【
図3】
図2に示す基板の底面を示す一部拡大図である。
【
図5】
図4の遮蔽板のV-V線に沿った断面図である。
【
図6】ソレノイドによって移動される遮蔽板の位置と、当該位置における遮蔽板の機能について説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一要素又は同一機能を有する要素には可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0014】
<全体構成>
本実施形態に係るX線回折測定装置は、測定対象物にX線を照射し、当該測定対象物にて回折したX線の回折強度(以下、「回折X線強度」ともいう。)に基づき、当該測定対象物の残留応力等を測定する装置である。
図1は、X線回折測定装置の全体構成の一例を示す図である。
【0015】
図1に示すように、X線回折測定装置1は、例えば、測定部10と、扉ボックスBと、冷却チラー12と、コンピュータ14と、を備える。なお、
図1では、測定部10の図示は簡略化している。
【0016】
測定部10は、結晶構造を有する測定対象物に向けてX線を射出し、当該測定対象物から回折したX線の回折強度を測定する測定装置である。
【0017】
扉ボックスBは、上記測定対象物及び測定部10を取り囲んでいる。扉ボックスBは、扉を有しており、ユーザがその扉を開けることで測定対象物を測定部10にセットできる。なお、扉ボックスBは測定部10から発生するX線を十分に遮蔽できる材質及び板厚とする。
【0018】
冷却チラー12は、冷却水を貯留するタンクおよび冷却部材28に冷却水を送るポンプから構成されており、測定部10に搭載された検出センサ40を有する基板26を冷却する。なお、この冷却チラー12は、複数存在してもよい。
【0019】
コンピュータ14は、測定部10に接続され、当該測定部10を制御する制御部である。コンピュータ14は、不図示の記憶手段に記憶されているプログラムを実行して、測定部10を制御する。コンピュータ14は、例えば、測定部10が備える駆動機構であるソレノイド34(
図2参照)を制御する。また、コンピュータ14は、測定部10から回折X線強度の測定結果(電気信号)を受信し、当該測定結果に基づき、測定対象物の構造や特性(例えば残留応力)の分析・測定を行う。
【0020】
<測定部10の構成>
図2は、X線回折測定装置1が備える測定部10の一部構成の一例を示す図である。
図2に示すように、測定部10は、例えば、管球20と、コリメータ22と、レーザ光源24と、基板26と、冷却部材28と、絶縁部材30と、遮蔽板32と、ソレノイド34と、を備える。
【0021】
管球20は、X線を発生させるX線源であって、発生したX線を測定対象物に向けて出射するX線出射器である。この管球20は、冷却部材28上に遮蔽板32を介して載置されている。以下、管球20が延在している軸方向(長手方向)を第一方向D1と称し、X線の出射方向に沿った方向(管球20とコリメータ22との対向方向)を第二方向D2とし、第一方向D1及び第二方向D2に交差する方向(本実施形態では、略直交する方向)を第三方向D3と称する。
【0022】
コリメータ22は、冷却部材28において絶縁部材30とは反対側の面(管球20側の面)に取り付けられ、基板26側に延伸し、管球20から出射されたX線の測定対象物に対する照射範囲を調整する。コリメータ22の先端は、基板26の下面側に突出している。
【0023】
レーザ光源24は、可視光であるレーザ光を出射するレーザ光出射器である。レーザ光源24は、測定対象物に対するX線照射点の位置決めをするために、第二方向D2で測定対象物側(基板26側)にレーザ光を出射する。レーザ光源24は、例えば第三方向D3で管球20の側方に配置されている。また、本実施形態では、レーザ光源24のレーザ光射出口側に、プリズム固定治具35が取り付けられている。プリズム固定治具35は、プリズム35aを固定する治具である。プリズム35aは、プリズム固定治具35の内部に固定されている。プリズム35aは、直角二等辺三角形を底面とする三角柱状の直角プリズムであって、入射してきたレーザ光を90度偏向する。レーザ光源24は、このプリズム35aにレーザ光を入射する。プリズム35aは、レーザ光源24から入射されたレーザ光を、遮蔽板32の偏向面58(
図4及び
図5参照)に向けて偏向する。
【0024】
プリズム固定治具35には、一対のロッド36が挿入されている。各ロッド36の一端は、連結部品37等を介してソレノイド34に固定されており、各ロッド36の他端は、不図示の固定部材等を介して遮蔽板32に固定されている。すなわち、プリズム固定治具35は、ロッド36を介して、ソレノイド34と遮蔽板32との両方に固定されている。
【0025】
基板26は、第二方向D2で、絶縁部材30、冷却部材28、遮蔽板32、及び管球20を、この並び順で載置する。
図3は、
図2に示す基板26の底面の一部拡大図である。
図3に示すように、基板26の底面(測定対象物側の面)には、測定対象物にて回折したX線を検出する検出センサ40が設けられている。検出センサ40としては、測定対象物にて回折したX線を検出するセンサ部と、検出したX線を電気信号に変換する回路部とが一体化されているものが好ましい。このような検出センサ40としては、例えばSOI(Silicon on Insulator)センサが挙げられる。検出センサ40は、基板26の底面において左右に2つ設けられている。また、2つの検出センサ40の間には、コリメータ22が突出するための貫通孔26Aが形成されており、この貫通孔26Aからコリメータ22が突出している。また、基板26の底面には、検出センサ40が変換した電気信号をコンピュータ14に送信するためのコネクタ(不図示)等が設けられている。
【0026】
図2に戻り、冷却部材28は、基板26における底面と反対の面側(管球20側)に設けられている。冷却部材28の内部には、冷却チラー12から不図示の冷却配管を通して送られた冷却水が循環する流路が形成されており、この流路が冷却部材28を冷却し、ひいては、絶縁部材30を介して基板26の検出センサ40を冷却する。
【0027】
絶縁部材30は、基板26と冷却部材28との間に挟まれて基板26と冷却部材28とに接触し、電気的絶縁性及び熱伝導性を有する。このような絶縁部材30としては、例えばシリコンシートが挙げられる。なお、絶縁部材30には、コリメータ22が突出する貫通穴(不図示)が形成されている。
【0028】
遮蔽板32は、管球20とコリメータ22との間に配設され、X線及びレーザ光を遮蔽する本体部50を有する。遮蔽板32は、例えばステンレス製の平板部材である。なお、遮蔽板32の表面は、鉛コーティング加工されていてもよい。また、遮蔽板32の材質は、ステンレスに限らず、X線及びレーザ光を遮蔽可能な材質であれば何れの材質であってもよい。また、遮蔽板32の板厚は、例えば1~2mm程度とされているが、これに限定されない。
【0029】
図4は、
図2に示す遮蔽板32の平面図である。
図4の平面図は、遮蔽板32を第二方向D2に沿って平面視した図(換言すると、管球20とコリメータ22との対向方向で遮蔽板32を見た図)である。以下の説明において、第二方向D2に沿った平面視とは、管球20とコリメータ22との対向方向で見ることを示す。
図5は、
図4の遮蔽板32のV-V線に沿った断面図である。
図4に示すように、遮蔽板32は、第二方向D2に沿った平面視で、長方形状を呈しており、第一方向D1で対向する一対の長辺部32a,32bと、第三方向D3で対向する一対の短辺部32c,32dと、を有する。また、
図5に示すように、第一方向D1に沿った断面で見て、遮蔽板32は、管球20側の上面32eと、コリメータ22側の下面32fと、を有している。
【0030】
また、遮蔽板32には、ロッド穴52と、長穴54と、切り欠き部56と、偏向面58と、貫通穴部60と、が形成されている。ロッド穴52は、ロッド36が挿入される貫通穴であって、遮蔽板32の短辺部32c側に一対形成されている。これら一対のロッド穴52は、第一方向D1で互いに離間して対向配置されている。長穴54は、遮蔽板32の固定位置を決めるための貫通穴であって、遮蔽板32の短辺部32d側に一対形成されている。これら一対の長穴54は、第一方向D1で互いに離間して対向配置されている。
【0031】
切り欠き部56は、遮蔽板32の短辺部32c側を切り欠いて形成されており、プリズム35aの位置に対応する幅広部56aと、プリズム35aにより偏向されたレーザ光が通過する幅狭部56bと、を有する。幅広部56aは、各ロッド穴52の間に位置し、第二方向D2に沿った平面視で略矩形状を呈している。幅狭部56bは、幅広部56aから第三方向D3で短辺部32d側に突き出すように幅広部56aと一体的に形成されており、幅広部56aよりも狭い幅を有する直線状を呈している。幅狭部56bは、第三方向D3に沿って直進し、貫通穴部60の手前まで延在している。幅狭部56bを構成する内側面のうち、第三方向D3で貫通穴部60に対向して位置する内側面は、遮蔽板32の上面32e及び下面32fに対し交差する傾斜面56cとなっている。この傾斜面56cは、遮蔽板32の上面32eから下面32fに向かって上る傾斜状に形成されている。本実施形態では、傾斜面56cは、遮蔽板32の上面32e(第三方向D3に沿った平面)に対して約45度傾斜している。
【0032】
偏向面58は、レーザ光源24からのレーザ光をコリメータ22側に偏向させる偏向部である。本実施形態では、偏向面58は、傾斜面56cを鏡面加工又はプリズム加工すること等によって形成されている。偏向面58は、プリズム35aによって偏向され第三方向D3に沿って幅狭部56bを直進し入射してきたレーザ光を、90度偏向させ、第二方向D2に沿ってコリメータ22側に向かわせる。
【0033】
貫通穴部60は、第三方向D3で、切り欠き部56と長穴54との間の位置に形成されている。貫通穴部60は、遮蔽板32の上面32eから下面32fまで貫通する穴であって、管球20からのX線をコリメータ22側に通過させる穴である。本実施形態において、貫通穴部60の直径は、コリメータ22の直径(X線照射範囲を規定する穴の直径)と略等しい。なお、略等しいとは、完全に等しい場合だけでなく、誤差の範囲等において略等しいとみなせる場合や、位置ずれ等を考慮して例えば貫通穴部60の直径がコリメータ22の直径よりも多少大きい場合を含んでもよい。
【0034】
図2に戻り、ソレノイド34は、遮蔽板32を移動させる駆動機構であって、コンピュータ14(
図1参照)によって制御される。ソレノイド34は、ブラケット39等の固定部材によって例えば管球20の上方に固定されている。ソレノイド34は、連結部品37、ロッド36、及びプリズム固定治具35等を介して遮蔽板32と連結されており、コンピュータ14によって制御されることによって遮蔽板32を移動させる。ソレノイド34は、遮蔽板32を、第三方向D3に沿って移動させる。ソレノイド34によって遮蔽板32が第三方向D3に沿って移動され、遮蔽板32の位置が切り替えられることによって、遮蔽板32の機能が切り替えられる。
【0035】
<遮蔽板32の位置と機能との対応関係>
図6は、ソレノイド34によって移動される遮蔽板32の位置と、当該位置における遮蔽板32の機能について説明するための概念図である。説明の便宜上、
図6においては、プリズム35aについてはプリズム35aの偏向面のみを図示している。また、遮蔽板32と冷却部材28のみ、ハッチングを付して断面を示している。また、X線を点線で示し、レーザ光を一点鎖線で示している。
【0036】
図6の(a)は、遮蔽板32の偏向面58がコリメータ22上に位置する場合を示す。ここで、偏向面58がコリメータ22上に位置するとは、第二方向D2において、コリメータ22の直上でコリメータ22に偏向面58が重なっていることを示す。ソレノイド34は、レーザ光源24からのレーザ光を測定対象物に照射させる場合には、この
図6の(a)に示す位置に遮蔽板32を移動させる。この場合、図示するように、プリズム35aにより偏向されるとともに遮蔽板32の偏向面58により偏向されたレーザ光が、コリメータ22を通過する。また、この場合、管球20のX線出射口の下には、遮蔽板32の本体部50が位置するため、管球20から出射されたX線は、この本体部50に遮られて、コリメータ22を通過しない。このように、遮蔽板32の位置が
図6の(a)に示す位置である場合には、遮蔽板32は、レーザ光だけを測定対象物に照射させる機能を果たす。
【0037】
また、
図6の(b)は、遮蔽板32の貫通穴部60がコリメータ22上に位置する場合を示す。ここで、貫通穴部60がコリメータ22上に位置するとは、第二方向D2において、コリメータ22の直上でコリメータ22に貫通穴部60が重なっていることを示す。ソレノイド34は、測定対象物にて回折したX線を検出センサ40で検出する場合には、この
図6の(b)に示す位置に遮蔽板32を移動させる。この場合、図示するように、管球20から出射したX線が、貫通穴部60を通過するとともにコリメータ22を通過する。また、この場合、偏向面58によって偏向されたレーザ光は、その直進方向がコリメータ22とずれて位置するため、コリメータ22を通過しない。また、当該レーザ光の直進方向には冷却部材28が位置するため、レーザ光はこの冷却部材28に遮られて測定対象物に照射されない。このように、遮蔽板32の位置が
図6の(b)に示す位置である場合には、遮蔽板32は、X線だけを測定対象物に照射させる機能を果たす。
【0038】
また、
図6の(c)は、遮蔽板32の本体部50がコリメータ22上に位置する場合(偏向面58や貫通穴部60がコリメータ22上に位置しない位置)を示す。ここで、本体部50がコリメータ22上に位置するとは、第二方向D2において、コリメータ22の直上でコリメータ22に本体部50が重なっていることを示す。ソレノイド34は、検出センサ40の環境ノイズを測定する場合には、この
図6の(c)に示す位置に遮蔽板32を移動させる。検出センサ40の環境ノイズとは、X線(本実施形態では、X線及びレーザ光)を測定対象物に照射させない状態における検出センサ40の検出値を示し、検出センサ40及び基板26の温度変化による出力電流値の変化や駆動電圧により発生する出力電流、それらの電源におけるスイッチングノイズ、レーザ光を含む各種光源の影響等を含む。この場合、図示するように、管球20から出射したX線は、遮蔽板32の本体部50に遮られてコリメータ22を通過しない。また、遮蔽板32の偏向面58によって偏向されたレーザ光は、その直進方向がコリメータ22とずれて位置するため、コリメータ22を通過しない。また、当該レーザ光の直進方向には冷却部材28が位置するため、レーザ光はこの冷却部材28に遮られて測定対象物に照射されない。このように、遮蔽板32の位置が
図6の(c)に示す位置である場合には、遮蔽板32は、X線及びレーザ光の何れも測定対象物に照射させないように遮蔽する機能を果たす。これにより、X線及びレーザ光が出力ON状態のままであっても、X線及びレーザ光を測定対象物に照射させずに環境ノイズを測定可能な状態を実現させることができる。
【0039】
<作用効果>
以上、本実施形態に係るX線回折測定装置1は、X線を生成して測定対象物に向けて出射する管球20と、X線の測定対象物に対する照射範囲を調整するコリメータ22と、レーザ光を測定対象物側に出射するレーザ光源24(レーザ光出射器)と、測定対象物にて回折したX線を検出する検出センサ40(X線検出器)と、を備えるX線回折測定装置であって、管球20とコリメータ22との間に配設され、X線及びレーザ光を遮蔽する本体部50を有する遮蔽板32と、遮蔽板32を、第一方向D1(管球20の軸方向)及び第二方向D2(X線の出射方向に沿った方向)と交差する第三方向D3に沿って移動させるソレノイド34(駆動機構)と、ソレノイド34を制御するコンピュータ14(制御部)と、を備え、遮蔽板32には、レーザ光源24からのレーザ光をコリメータ22側に偏向させる偏向面58と、X線をコリメータ22側に通過させる貫通穴部60と、が形成されている。
この構成によれば、遮蔽板32を第三方向D3に沿って移動させることにより、遮蔽板32における本体部50、偏向面58、及び貫通穴部60のそれぞれを、コリメータ22上に位置させたり、コリメータ22上からずらして位置させたりすることができる。これにより、上述したように遮蔽板32の機能を切り替えて、X線及びレーザ光の測定対象物に対する照射の有無を切り替えることができる。よって、例えば回折X線強度の測定を連続的に行いながら、途中で
図6の(c)に示すようにX線を測定対象物に照射させない位置に遮蔽板32を移動させることで、X線を停止させずに環境ノイズを適宜測定することができる。そして、この適宜測定した環境ノイズを考慮して回折X線強度を測定することができるため、環境ノイズの変化に起因して回折X線強度の測定精度が低下することを抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態では、ソレノイド34は、レーザ光を測定対象物に照射させる場合には、偏向面58がコリメータ22上に位置するように遮蔽板32を移動させ(
図6の(a)参照)、測定対象物にて回折したX線を検出センサ40で検出する場合には、貫通穴部60がコリメータ22上に位置するように遮蔽板32を移動させ(
図6の(b)参照)、検出センサ40の環境ノイズを測定する場合には、本体部50がコリメータ22上に位置するように遮蔽板32を移動させる(
図6の(c)参照)。
この構成によれば、
図6の(a)~(c)に示す各位置に遮蔽板32を移動させることにより、遮蔽板32の機能を適切に切り替えることができ、上記効果を好適に奏する。また、本実施形態では、偏向されたレーザ光がコリメータ22を通過するため、測定対象物に対するレーザ光の照射位置とコリメータ22により測定対象物に照射されるX線照射位置とが略一致する。このため、測定部10の位置調整を行う既知の自動ステージ等を用いて、レーザ光の照射位置にX線照射位置を合わせる位置合わせが不要とすることができ、レーザ光の照射位置とX線照射位置との位置ずれに起因した回折X線強度の測定精度の低下を抑制することができる。また、本実施形態では、管球20とコリメータ22との間に遮蔽板32が位置しており、管球20から出射されたX線が、遮蔽板32の貫通穴部60を通過するとともにコリメータ22を通過するため、管球20とコリメータ22との間の隙間が減りX線の直進性を向上させることができる。その結果、回折X線強度の測定精度を向上させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、貫通穴部60の直径は、コリメータ22の直径と略等しい。
この構成によれば、X線の直進性を更に向上させることができる結果、回折X線強度の測定精度を更に向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、検出センサ40は、測定対象物にて回折したX線を検出するセンサ部と、検出されたX線を電気信号に変換する回路部と、を含む検出センサ(SOIセンサ)である。
このような構成とした場合、検出センサ40が熱を発し易く環境ノイズが変化し易いため、環境ノイズの変化に起因した回折X線強度の測定精度の低下を抑制するという効果を好適に発揮することができる。
【0043】
<変形例>
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。すなわち、上記の実施形態に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記の実施形態及び後述する変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0044】
例えば、上記実施形態では、レーザ光源24からプリズム35aに向けてレーザ光を入射し、プリズム35aにより偏向され偏向面58に入射されたレーザ光を当該偏向面58で更にコリメータ22側に偏向させる例について説明したが、この例に限らない。例えば、レーザ光源24の向きを第三方向D3に沿って横向きに配置し、レーザ光源24からのレーザ光を第三方向D3に沿って偏向面58に直接入射させてもよい。すなわち、測定部10は、プリズム固定治具35及びプリズム35aを有していなくてもよい。
【0045】
また、プリズム固定治具35及びプリズム35aに代えて、遮蔽板32が、レーザ光源24からのレーザ光を偏向面58に入射させる偏向部を備えていてもよい。この場合の具体例について、
図7を参照して説明する。
図7は、変形例に係る遮蔽板32Aの平面図であって、
図3に対応する図である。遮蔽板32Aは、以下で説明する構成以外は、遮蔽板32と同様の構成を有する。
図7に示すように、遮蔽板32Aには、幅広部56aが形成されていない代わりに、幅狭部56bが各ロッド穴52の間から貫通穴部60の手前まで延在している。また、幅狭部56bを構成する内側面のうち傾斜面56cに対向する内側面(ロッド穴52の間に位置する内側面)は、傾斜面56cと平行に傾斜する傾斜面56dとなっている。また、遮蔽板32Aには、この傾斜面56dが鏡面加工又はプリズム加工されること等によって、レーザ光源24からのレーザ光を偏向面58に入射させる偏向面70が形成されている。この変形例によっても、レーザ光源24からのレーザ光が偏向面70で偏向され、幅狭部56bを第三方向D3に沿って直進し、偏向面58に入射する。そして偏向面58に入射されたレーザ光が、偏向面58で更に90度偏向されることにより、コリメータ22側に向けて直進する。また、レーザ光を偏向させる偏向部は、傾斜面56c,56dに鏡面加工又はプリズム加工することによって形成される偏向面58,70に限らず、例えば遮蔽板32における偏向面58,70が形成された位置に対応する位置に直角プリズム等を取り付けることによって構成してもよい。
【0046】
また、貫通穴部60の直径は、コリメータ22の直径に対して大きくても小さくてもよい。また、上記実施形態では、検出センサ40がSOIセンサである例について説明したが、検出センサ40は他のセンサであってもよい。また、ソレノイド34を制御する制御部は、コンピュータ14に限らず、ソレノイド34に接続された別のコンピュータであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1:X線回折測定装置、14:コンピュータ(制御部)、20:管球、22:コリメータ、24:レーザ光源(レーザ光出射器)、40:検出センサ(X線検出器)、32:遮蔽板、34:ソレノイド(駆動機構)、50:本体部、58:偏向面(偏向部)、60:貫通穴部