(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007506
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】SIRT1遺伝子発現誘導用製剤
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240110BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240110BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20240110BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20240110BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A23L33/135
A61K8/99
A61K35/747
A61P43/00 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108277
(22)【出願日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2022106339
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520379949
【氏名又は名称】株式会社リーディングラボ
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】江口 暁子
(72)【発明者】
【氏名】満生 慎二
(72)【発明者】
【氏名】片倉 喜範
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018MD86
4B018ME09
4B018ME10
4B065AA30X
4B065BA22
4B065CA42
4B065CA44
4B065CA50
4C083AA031
4C083AA032
4C083CC01
4C083EE12
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA09
4C087MA52
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA89
4C087ZB22
4C087ZC52
(57)【要約】
【課題】消費者に対し和のイメージを感じさせることができ、食品や化粧品、医薬等に含有させてヒトsirtuin 1遺伝子の発現誘導活性の発現を促すことが可能なSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を提供する。
【解決手段】SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌、同菌体の破砕物、又は同菌体の培養液を含有してなることとした。また前記乳酸菌は、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus paraplantarum、Lactobacillus brevisから選ばれる少なくともいずれか1種の乳酸菌であること等にも特徴を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌、同菌体の破砕物、又は同菌体の培養液を含有してなるSIRT1遺伝子発現誘導用製剤。
【請求項2】
前記乳酸菌は、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus paraplantarum、Lactobacillus brevisから選ばれる少なくともいずれか1種の乳酸菌であることを特徴とする請求項1に記載のSIRT1遺伝子発現誘導用製剤。
【請求項3】
前記Lactobacillus brevis及びLactobacillus pentosusは、GABA産生株であることを特徴とする請求項2に記載のSIRT1遺伝子発現誘導用製剤。
【請求項4】
前記Lactobacillus brevisは、ビフィズス菌賦活化活性を有する株であることを特徴とする請求項3に記載のSIRT1遺伝子発現誘導用製剤。
【請求項5】
前記Lactobacillus plantarum及びLactobacillus pentosusは、繊維芽細胞賦活化活性を有する株であることを特徴とする請求項2に記載のSIRT1遺伝子発現誘導用製剤。
【請求項6】
SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌であるLactobacillus brevis A95株(NITE AP-03926)とLactobacillus plantarum B15株(NITE AP-03928)とLactobacillus casei C24株(NITE AP-03929)との菌体混合物、同菌体混合物の破砕物、又は各菌体の培養液の混合物を含有してなるSIRT1遺伝子発現誘導用製剤。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項に記載のSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を含有する食品。
【請求項8】
請求項1~6いずれか1項に記載のSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を含有する化粧品。
【請求項9】
請求項1~6いずれか1項に記載のSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を含有する医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SIRT1遺伝子発現誘導用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、ヨーグルトや漬物類など乳酸菌を利用した食品が広く喫食されている。
【0003】
また乳酸菌は、整腸作用の他に、免疫増強作用やサーチュイン遺伝子発現誘導作用を有することが近年明らかになってきており、乳酸菌を利用した食品は益々注目を集める存在となっている。
【0004】
中でもサーチュイン遺伝子発現誘導作用は、健康長寿を支えると考えられるサーチュイン遺伝子の発現を促進する作用であり、乳酸菌を利用した食品の摂取により健康長寿維持に役立つ可能性が期待される。
【0005】
そこで従来、サーチュイン遺伝子のプロモーター活性を高める機能を有した乳酸菌を含有する延命効果物質が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、これまでに植物由来の乳酸菌に特化したようなサーチュイン遺伝子のプロモーター活性を高める機能製剤は提案されていない。
【0008】
健康的なイメージがある野菜や果物、美しい花や樹木に由来して得られた微生物は、乳酸菌による延命効果等を期待して食品や化粧品、医薬等を摂取する者にとって、それら由来植物に対応する好ましい印象を与えることも可能である。
【0009】
なかでも桜は、日本の象徴的な存在でもあり和のイメージが強く、桜から分離された乳酸菌にこれら機能を実現させることができれば、消費者にとっても安全や安心、ヘルシーな製剤であるとの訴求効果が期待できる。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、消費者に対し和のイメージを感じさせることができ、食品や化粧品、医薬等に含有させてヒトsirtuin 1遺伝子(以下、SIRT1遺伝子ともいう。)の発現誘導活性の発現を促すことが可能なSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を提供する。また、本発明では、当該製剤を含有することでSIRT1遺伝子の発現誘導が期待できる食品、化粧品、医薬品についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤は、(1)SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌、同菌体の破砕物、又は同菌体の培養液を含有してなることとした。
【0012】
また、本発明に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記乳酸菌は、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus paraplantarum、Lactobacillus brevisから選ばれる少なくともいずれか1種の乳酸菌であること。
(3)前記Lactobacillus brevis及びLactobacillus pentosusは、GABA産生株であること。
(4)前記Lactobacillus brevisは、ビフィズス菌賦活化活性を有する株であること。
(5)前記Lactobacillus plantarum及びLactobacillus pentosusは、繊維芽細胞賦活化活性を有する株であること。
(6)SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌であるLactobacillusbrevisA95株(NITEAP-03926)とLactobacillusplantarumB15株(NITEAP-03928)とLactobacilluscaseiC24株(NITEAP-03929)との菌体混合物、同菌体混合物の破砕物、又は各菌体の培養液の混合物を含有してなること。
【0013】
また本発明に係る食品や化粧品、医薬品では、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載したSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を含有することとした。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る乳酸菌によれば、SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌、同菌体の破砕物、又は同菌体の培養液を含有してなるSIRT1遺伝子発現誘導用製剤としたため、消費者に対し和のイメージを感じさせることができ、食品や化粧品、医薬等に含有させてSIRT1遺伝子の発現誘導活性の発現を促すことが可能なSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を提供することができる。
【0015】
また、本発明に係る食品や化粧品、医薬品によれば、本発明に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を含有することとしたため、SIRT1遺伝子の発現誘導が期待される食品や化粧品、医薬品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】単離同定された桜由来の乳酸菌のリストを示した説明図である。
【
図2】SIRT1遺伝子発現誘導確認試験に供した18株の菌株のリストを示す説明図である。
【
図3】直接法によるSIRT1遺伝子発現誘導確認試験結果を示す説明図である。
【
図4】間接法による試験方法を示した説明図である。
【
図5】間接法による試験の結果を示した説明図である。
【
図6】GABA生産性評価の方法を示す説明図である。
【
図7】ビフィズス菌賦活化活性の測定法を示す説明図である。
【
図8】桜由来の乳酸菌の加熱死菌破砕液の調製方法を示す説明図である。
【
図9】ビフィズス菌賦活化活性確認試験の試験結果を示す説明図である。
【
図10】抗菌活性確認試験の試験方法を示す説明図である。
【
図11】抗菌活性確認試験の結果を示す説明図である。
【
図12】皮膚常在菌バランス改善効果評価試験の試験方法を示す説明図である。
【
図13】皮膚常在菌バランス改善効果評価試験の試験結果を示す説明図である。
【
図14】繊維芽細胞賦活化確認試験の試験方法を示す説明図である。
【
図15】繊維芽細胞賦活化確認試験の試験結果を示す説明図である。
【
図16】コラーゲン・ヒアルロン酸遺伝子発現解析の方法を示す説明図である。
【
図17】コラーゲン・ヒアルロン酸遺伝子発現解析の結果を示す説明図である。
【
図18】コラーゲン・ヒアルロン酸産生の評価方法を示す説明図である。
【
図19】コラーゲン・ヒアルロン酸産生の評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌、同菌体の破砕物、又は同菌体の培養液を含有してなるSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を提供するものである。
【0018】
SIRT1遺伝子はヒストンの脱アセチル化酵素をコードする遺伝子であり、抗老化作用や細胞のストレス耐性との関係が知られ、また、発現量が増えることで被験対象である細胞や動物の寿命がのびることが知られている遺伝子である。
【0019】
また本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤に使用する桜由来の乳酸菌は、例えばサクラ(ソメイヨシノ)から単離した乳酸菌を使用することができる。
【0020】
また、本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤は、桜由来の乳酸菌を含有させても良いが、桜由来の乳酸菌の破砕物や、桜由来の乳酸菌の培養液(以下、総称して桜乳酸菌成分ともいう。)を含有させても良い。
【0021】
すなわち、SIRT1遺伝子発現誘導用製剤は、桜乳酸菌成分を機能惹起のための主要成分として含有してなるものであり、例えば所定の培地にて培養し増殖させて集菌することにより得た菌体であったり、これをホモジナイズしたり酵素処理するなど物理的又は化学的に処理した破砕物を含有させることができる。
【0022】
また、例えば桜由来の乳酸菌を液体培養して得られた培養液を含有するものとしても良い。この液体培養により得た培養液は、菌体を含んだままの状態であっても良いが、菌体が除去されたものであっても良い。
【0023】
本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤は、上述の桜乳酸菌成分のみで構成することも可能であるが、これら桜乳酸菌成分の他に、その他の補助成分を含む構成とすることもできる。
【0024】
補助成分は、実用性を失う程にSIRT1遺伝子発現誘導を妨げるものでなければ特に限定されるものではなく、剤形や食品形態等に応じた賦形剤や添加剤、別の機能を付加するための成分などを含むこともできる。
【0025】
賦形剤としては、例えば、剤形が固形剤の場合には、乳糖や結晶セルロース、デンプンなどとすることができる。
【0026】
また添加剤としては、例えば、安定剤、界面活性剤、可溶化剤、可塑剤、甘味剤、抗酸化剤、着香剤、着色剤、保存剤、無機充填剤等を挙げることができる。
【0027】
また別の機能を付加するための成分としては、例えば、SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する他の桜由来乳酸菌やSIRT1遺伝子発現誘導活性を有していないが有用な生理活性を有する桜由来乳酸菌は勿論のこと、有用な生理活性を有する桜由来乳酸菌以外の乳酸菌などを挙げることができる。
【0028】
なお、「機能惹起のための主要成分として含有」とは、医薬品に置き換えて表現するならば「有効成分として含有する」程度の意味である。すなわち、保健機能食品を想定すれば、機能性表示食品では機能性関与成分、栄養機能食品では栄養成分、特定保健用食品では関与成分など、表現は異なれど機能や効能を発揮させるための成分として乳酸菌の菌体又は同菌体の破砕物であったり、乳酸菌の培養液を含有することを意味している。また、販売に際し特別な許可等の必要が無い一般的な食品において、上記菌体や破砕物、培養液をSIRT1遺伝子発現誘導機能惹起のための主要成分として含有することも意味している。
【0029】
また本願では、上述したSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を含有する医薬品についても提供する。本実施形態に係る医薬品は、上述したSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を機能惹起のための主要成分として含有する点で特徴的である。本願における医薬品は、経口的に摂取されても良いし、また、皮膚外用剤として使用されても良い。
【0030】
また本願では、上述したSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を含有する化粧料についても提供する。
【0031】
本願において化粧料は、いわゆるメーキャップ化粧品の他、基礎化粧品やヘアトニック、香水、歯磨き、シャンプー、リンス、身体の洗浄等に用いられる石鹸や洗浄料、入浴剤などのトイレタリー製品も含むものであり、また、予防効果等を謳う、薬用化粧品も含まれる。
【0032】
また本願では、上述したSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を含有する食品、一般食品や機能食品についても提供するものであり、特に、経口摂取によりSIRT1遺伝子の発現誘導が期待される食品を提供するものである。
【0033】
機能食品は、医薬品成分を含まない健康の保持増進に寄与するとされる食品全般を包含する概念であり、例えば、栄養補助食品や健康補助食品、栄養調整食品のほか、所謂サプリメントなどの一般食品であったり、特定保健用食品や栄養機能食品、機能性表示食品の如き保健機能食品も含まれる。
【0034】
また、サプリメント様とした場合には、その剤形は特に限定されるものではなく、錠剤、カプセル剤、細粒剤、丸剤、トローチ剤、液剤、ゼリー様など、あらゆる剤形を選択することができる。
【0035】
なお、上述した医薬品や化粧料、機能食品についての説明は、本発明の理解に供すべくこれらに相当する物品等の一例を列挙したものであり、各語句の解釈はこれら列挙された物品等に限定されるものではない。ただし、本出願人が本願を権利化するにあたり、本発明をこれら物品等に限定することを妨げない。
【0036】
以下、本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤に関し、実験過程や結果を参照しながら更に説明する。
【0037】
〔1.植物由来乳酸菌の単離〕
ソメイヨシノより採取した花序部分を滅菌バッグへ収容し、麹汁培地に浸漬した状態で室温にて1~2週間静置して、花序に付着している微生物群の前培養を行った。
【0038】
次に、前培養した麹汁培地を白亜MRS寒天培地に画線し、30℃にて3日間にわたり培養を行った。
【0039】
次に、上記培養にてクリアゾーンの形成が認められた株を釣菌し、再びMRS寒天培地にて30℃にて3日間にわたり純粋培養を行った。培養により得た菌は回収し、グリセロールストックとして-80℃にて保存した。このようにして、桜より166菌株の乳酸菌が単離された。
【0040】
乳酸菌の同定は、MALDI-TOF MSにより行った。その結果、166菌株の乳酸菌の内訳は、Enterococcus属は2菌株、Lactobacillus属は41菌株、Lactococcus属は10菌株、Leuconostoc属は58菌株、Pediococcus属は55菌株であった。
【0041】
より具体的には、Enterococcus属は、Enterococcus mundtiiが2菌株であった。また、Lactobacillus属は、Lactobacillus brevis(Levilactobacillus brevis)が4菌株、Lactobacillus casei(Lacticaseibacillus casei)が3菌株、Lactobacillus fermentum(Limosilactobacillus fermentum)が2菌株、Lactobacillus paraplantarum(Lactiplantibacillus paraplantarum)が1菌株、Lactobacillus pentosus(Lactiplantibacillus pentosus)が12菌株、Lactobacillus plantarum(Lactiplantibacillus plantarum)が19菌株の計41菌株であった。また、Lactococcus属はLactococcus lactisの10菌株であった。また、Leuconostoc属はLeuconostoc mesenteroidesが50菌株、Leuconostoc pseudomesenteroidesが4菌株、Leuconostoc holzapheiiが3菌株、Leuconostoc citreum-holzapheiiが1菌株、の計58菌株であった。また、Pediococcus属はPediococcus pentosaceusの55菌株であった。単離した各菌株にはそれぞれ識別のための番号を付し、菌株名は同番号によることとした。
図1に単離同定された乳酸菌のリストを示す。
【0042】
〔2.SIRT1遺伝子発現誘導確認試験〕
次に、上述の如く桜より単離し同定された166菌株のうち、18菌株を対象として、SIRT1遺伝子発現誘導活性の確認試験を行った。試験に供した菌株を
図2に示す。
【0043】
本項では、例えば化粧品や外用薬の如く本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を外用した場合を模した試験である「直接法による試験」と、例えば食品や経口薬の如く本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を経口摂取した場合を模した試験である「間接法による試験」の2つの試験について検討を行った。
【0044】
(2-1)直接法による試験
直接法による試験では、本発明者が開発したSIRT1遺伝子発現誘導の確認のための手法が用いられた。本手法は、pEGFP-C3ベクターをベースとし、CMVプロモーターに代えてヒトSIRT1プロモーターを挿入することで構築したベクター(phSIRT1p-GFP)を用いて樹立したphSIRT1p-GFP安定発現動物細胞株(HaCaT細胞:ヒト表皮角化細胞株)を用いるものであり、この細胞株の培養ウェルに対して上記18株の乳酸菌のうちいずれかの菌体を添加し、ヒトSIRT1の転写活性をGFP蛍光強度で追跡するものである。
図3に直接法による試験の結果を示す。
【0045】
図3に示すように、直接法による試験に供した18菌株のうち、Lactobacillus pentosus A43株、Lactobacillus pentosus A51株、Lactobacillus plantarum A52株、Lactobacillus plantarum A53株、Lactobacillus paraplantarum A54株、Lactobacillus pentosus A55株、Lactobacillus pentosus A56株、Lactobacillus brevis A95株の8菌株(以下、SIRT1直接法誘導株ともいう。)においてコントロールに対し有意差が確認された。なお、コントロールは、菌体に換えてPBS(Phosphate-buffered saline)を添加して同様の試験を行ったものである。
【0046】
また中でも、Lactobacillus pentosus A51株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.19倍、2回目で1.08倍、3回目で1.01倍であって、他の菌株に比してばらつきが少なく、平均すると約1.09倍と比較的高い値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0047】
同様に、Lactobacillus pentosus A55株についても、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.11倍、2回目で1.07倍、3回目で1.09倍であって、他の菌株に比してばらつきが少なく、平均すると約1.09倍と比較的高い値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0048】
同様に、Lactobacillus brevis A95株についても、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.13倍、2回目で1.18倍、3回目で1.08倍であって、他の菌株に比してばらつきが少なく、平均すると約1.13倍と比較的高い値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0049】
これらの結果より、SIRT1直接法誘導株はヒトSIRT1遺伝子の発現誘導活性の発現を促すことが可能であり、また、食品や化粧品、医薬等に含有させて同活性の発現を促すことが可能な、特に化粧品や外用薬の如く外用することにより同活性の発現を促すことが可能なSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を提供できることが示唆された。
【0050】
(2-2)間接法による試験
間接法による試験も、本発明者が開発したSIRT1遺伝子発現誘導の確認のための手法を用いる点で直接法による試験と共通するものである。ただし、直接法ではマイクロプレート中で培養したphSIRT1p-GFP安定発現動物細胞株(HaCaT)に対し、培地中に直接に乳酸菌体を添加してヒトSIRT1プロモーターを介したGFPの発現量を観察したのに対し、間接法では、
図4に示すように、別のマイクロプレートに播種した腸管由来細胞株であるCaco-2細胞に乳酸菌体を添加して培養し、この代謝産物を含む培地上清をphSIRT1p-GFP安定発現動物細胞株(HaCaT)に対して添加しGFPの発現量を観察する点で相違している。付言するならば、間接法は、予めCaco-2細胞による代謝を介することで、SIRT1遺伝子発現誘導用製剤を経口摂取した場合を模したものと言える。なお、実験は各乳酸菌株について試験を3回行っており、Caco-2細胞に対する乳酸菌体の添加量が1回目は30μg/ml、2回目と3回目は90μg/mlとしている。
【0051】
また、それぞれの菌株の1~3回目を通じた結果を勘案し、コントロールよりも強い誘導が3回の試験のうち2回以上観察され、またその中でも比較的良好であった菌株を、効果が確認された菌株と判断した。
図5に間接法による試験の結果を示す。
【0052】
図5に示すように、間接法による試験に供した18菌株のうち、Lactobacillus brevis A46株、Lactobacillus plantarum A53株、Lactobacillus paraplantarum A54株、Lactobacillus pentosus A55株、Lactobacillus fermentum A89株、Lactobacillus fermentum A90株、Lactobacillus brevis A94株、Lactobacillus brevis A95株、Lactobacillus brevis A96株、Lactobacillus plantarum B15株、Lactobacillus casei C24株の11菌株(以下、SIRT1間接法誘導株ともいう。)において効果が確認された。
【0053】
中でも、Lactobacillus brevis A46株、Lactobacillus pentosus A55株、Lactobacillus fermentum A89株、Lactobacillus brevis A94株、Lactobacillus brevis A95株、Lactobacillus brevis A96株、Lactobacillus plantarum B15株、Lactobacillus casei C24株は、特に有用な株であると考えられた。
【0054】
具体的には、Lactobacillus brevis A46株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.01倍、2回目で1.05倍、3回目で1.06倍であって、他の菌株に比してばらつきが少なく、平均すると1.04倍とやや高めの値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0055】
また、Lactobacillus pentosus A55株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.01倍、2回目で1.08倍、3回目で1.00倍であって、2回目の値が他の菌株に比して若干高く、また平均すると1.03倍とやや高めの値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0056】
また、Lactobacillus fermentum A89株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.05倍、2回目で1.06倍、3回目で1.12倍であって、3回とも比較的安定ながら3回目の値が他の菌株に比して若干高く、また平均すると1.076倍と高めの値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0057】
また、Lactobacillus brevis A94株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.045倍、2回目で1.12倍、3回目で1.045倍であって、2回目の値が他の菌株に比して若干高く、また平均すると1.07倍と高めの値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0058】
また、Lactobacillus brevis A95株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.03倍、2回目で1.04倍、3回目で1.04倍であって、他の菌株に比してばらつきが少なく、平均すると1.036倍とやや高めの値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0059】
また、Lactobacillus brevis A96株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.03倍、2回目で1.16倍、3回目で1.07倍であって、2回目の値が他の菌株に比して高く、また平均すると約1.086倍と高めの値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0060】
また、Lactobacillus plantarum B15株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.03倍、2回目で1.10倍、3回目で1.03倍であって、2回目の値が他の菌株に比して高く、また平均すると1.05倍とやや高めの値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0061】
また、Lactobacillus casei C24株は、コントロールに対する誘導活性が1回目で1.045倍、2回目で1.06倍、3回目で1.05倍であって、全体的に安定しており、また平均すると1.05倍とやや高めの値であることから、特に有用な菌株であることが示された。
【0062】
これらの結果より、SIRT1間接法誘導株はヒトSIRT1遺伝子の発現誘導活性の発現を促すことが可能であり、また、食品や化粧品、医薬等に含有させて同活性の発現を促すことが可能な、特に食品や経口薬の如く経口摂取することにより同活性の発現を促すことが可能なSIRT1遺伝子発現誘導用製剤を提供できることが示唆された。
【0063】
〔3.GABA産生性の評価〕
次に、同定された166菌株の桜由来の乳酸菌のうち、GABA(γ-アミノ酪酸)の産生能を有する乳酸菌を見つけるために、GABA産生性の評価を行った。
【0064】
具体的には、各菌株をMRS液体培地に接種して培養した培養液に対して終濃度100mMのグルタミン酸を添加し、遠心上清2μLを薄層クロマトグラフィーに供してニンヒドリン反応による発色を観察することでGABAの産生性を評価した。
【0065】
その結果、
図6に示すように、Lactobacillus brevis A46株、Lactobacillus pentosus A55株、Leuconostoc mesenteroides A93株、Lactobacillus brevis A95株、Lactobacillus brevis A96株の5菌株にて、顕著なGABA産生性が確認された。
【0066】
〔4.ビフィズス菌賦活化活性確認試験〕
次に、同定された166菌株の桜由来の乳酸菌のうち、ビフィズス菌の賦活化活性を有する乳酸菌を見つけるために確認試験を行った。
【0067】
本試験では
図7に示すように、まず、3mLのスキムミルク培地に、チオグリコール酸液体培地にてビフィズス菌を培養した培養液(終濃度5%)と、各桜由来の乳酸菌の加熱死菌破砕液(終濃度10%)とを添加し、嫌気条件下にて37℃で5日間にわたり培養した。
【0068】
次に、得られた培養液についてpHを測定すると共に、同培養液を段階希釈してTOSプロピオン酸寒天培地に塗抹培養することで、生菌数の測定を行った。
【0069】
なお、各桜由来の乳酸菌の加熱死菌破砕液は、
図8に示すように、所定の桜由来の乳酸菌株をMRS液体培地にて30℃で3日間培養し、集菌した菌体を滅菌水にて洗浄し、90℃にて30分間加熱して死菌体とし、凍結乾燥させ、得られた凍結乾燥菌体に滅菌水を添加して10mg/mLの濃度に調整し、超音波破砕及び再加熱を行った液である。
【0070】
そして本試験の結果、
図9に示すように、Lactococcus lactis A19株、Lactococcus lactis A26株、Lactococcus lactis A27株、Lactobacillus brevis A46株、Lactobacillus brevis A95株、Lactobacillus brevis A96株の6菌株においてビフィズス菌の賦活化活性が確認された。
【0071】
また、本試験結果や発明者らの経験を踏まえると、ビフィズス菌賦活化の活性度合いは属や種に依存する傾向はあまり見られず、同じ属や種であっても賦活化活性の高いものもあれば、場合によっては抑制する菌株も存在するようであった。
【0072】
そのような中で、コントロールに対して高い賦活化活性を有していたLactobacillus brevis A46株やLactobacillus brevis A95株、Lactobacillus brevis A96株は、特に有用な株であることが明らかとなった。
【0073】
具体的には、コントロールに対する賦活化の活性が、Lactobacillus brevis A46株は1.17倍とやや高く、Lactobacillus brevis A95株は2.01倍と高く、Lactobacillus brevis A96株は2.52倍と非常に高いことから、有用株と判断された。
【0074】
〔5.抗菌活性確認試験〕
次に、同定された166菌株の桜由来の乳酸菌のうち、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC12732)に対する抗菌活性を有する乳酸菌を見つけるために確認試験を行った。
【0075】
試験は
図10に示すように、検定菌である黄色ブドウ球菌をブイヨン培地にて培養した培養液1mLを4mLのブイヨン0.8%寒天培地に加え、良く撹拌した後に10mLの1.5%寒天培地と混釈した。
【0076】
また、このように調製した混釈培地上に、活性確認菌である桜由来の乳酸菌の培養上清を添加し、阻止帯の形成の確認を行った。
【0077】
その結果、Lactococcus lactis A19株、Lactococcus lactis A26株、Lactococcus lactis A27株、Lactococcus lactis A33株の4菌株において黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が確認された。
【0078】
次に、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が確認されたこれら4菌株に関し、他の検定菌に対する抗菌活性について確認を行った。具体的には、Lactobacillus brevis NBRC3345、Latilactobacillus sakei subsp. sakei NBRC15893、Lactococcus lactis subsp. lactis NBRC100933、Enterococcus faecalis NBRC12966、Bacillus subtilis subsp. subtilis NBRC3108、Bacillus coaglans NBRC12583、Cutibacterium acnes NBRC107605、Staphylococcus epidermidis NBRC100911、Escherichia coli NBRC3972、Pseudomonas aeruginosa NBRC3080の10菌株を検定菌として試験した。なお試験方法は黄色ブドウ球菌と同様に行った。
【0079】
図11は、黄色ブドウ球菌と追加試験の検定菌10菌株との合計11菌株に対する、桜由来乳酸菌4菌株についての抗菌活性を示した説明図である。
図11からも分かるように、Lactococcus lactis A19株とLactococcus lactis A26株は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC12732)の他にも、Lactobacillus brevis NBRC3345、Latilactobacillus sakei subsp. sakei NBRC15893、Enterococcus faecalis NBRC12966、Bacillus subtilis subsp. subtilis NBRC3108、Bacillus coaglans NBRC12583、Cutibacterium acnes NBRC107605に対し抗菌活性を有することが示された。
【0080】
また、Lactococcus lactis A27株は黄色ブドウ球菌の他に、Lactobacillus brevis NBRC3345、Latilactobacillus sakei subsp. sakei NBRC15893、Bacillus subtilis subsp. subtilis NBRC3108、Bacillus coaglans NBRC12583、Cutibacterium acnes NBRC107605に対し抗菌活性を有することが示された。
【0081】
また、Lactococcus lactis A33株は黄色ブドウ球菌の他に、Latilactobacillus sakei subsp. sakei NBRC15893、Bacillus coaglans NBRC12583、Cutibacterium acnes NBRC107605に対し抗菌活性を有することが示された。
【0082】
〔6.皮膚常在菌バランス改善効果評価試験〕
次に、〔5.抗菌活性確認試験〕にて黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が確認された4菌株について、皮膚常在菌のバランスを改善する効果の有無について評価する試験を行った。
【0083】
具体的には
図12に示すように、1Mリン酸緩衝液を0.25mLと、4菌株のうちいずれかの培養上清を0.65mLと、1×10
6個/mLの濃度に調整した黄色ブドウ球菌の懸濁液を0.05mLと、1×10
6個/mLの濃度に調整した表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の懸濁液を0.05mLとを混合し、30℃にて24時間振盪培養を行い、その後段階希釈して標準寒天培地に塗布後、37℃にて2日間培養し黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌とのコロニーをカウントした。なお、培養上清に代えて0.65mLの滅菌水を添加したものをコントロールとした。その結果を
図13に示す。
【0084】
図13に示すように、先の〔5.抗菌活性確認試験〕にて黄色ブドウ球菌に対し良好な抗菌活性を示したLactococcus lactis A19株やLactococcus lactis A26株は、本試験では抗菌活性は認められず、逆に増加させる傾向が認められた。また、表皮ブドウ球菌については、特に影響は認められなかった。
【0085】
一方、先の〔5.抗菌活性確認試験〕にて黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が相対的に弱かったLactococcus lactis A27株やLactococcus lactis A33株は、本試験では黄色ブドウ球菌に対する顕著な抑制効果が認められた。また特に、Lactococcus lactis A33株は更に表皮ブドウ球菌の増殖が認められており、黄色ブドウ球菌は抑制しつつ表皮ブドウ球菌は増殖を促進させるという興味深い結果が得られた。
【0086】
〔7.繊維芽細胞賦活化確認試験〕
次に、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を用い、先に〔4.ビフィズス菌賦活化活性確認試験〕及び
図8にて説明した加熱死菌破砕液の存在下での細胞増殖への影響を調べることで、同定された166菌株の桜由来の乳酸菌の菌体が繊維芽細胞を賦活化できるかについて確認を行った。
【0087】
具体的には
図14に示すように、96穴プレートに各ウェルあたり所定数の正常ヒト皮膚線維芽細胞を播種し、5%CO
2の存在下で37℃にて1日間培養して培地を除去し、加熱死菌破砕液を終濃度1%で含む1%FBS混合DMEM培地を添加し、再び5%CO
2の存在下で37℃にて3日間培養し、Cell Counting Kit-8(株式会社同仁化学研究所製)にて吸光度を測定することにより、繊維芽細胞の賦活化活性について計測した。
【0088】
その結果
図15に示すように、同定された166菌株の桜由来の乳酸菌のうち、Lactococcus lactis A27株、Lactococcus lactis A33株、Leuconostoc mesenteroides A34株、Lactobacillus plantarum A53株、Lactobacillus pentosus A56株、Leuconostoc mesenteroides A80株、Leuconostoc mesenteroides A83株の7菌株に等倍を超える最大約1.2倍程度のNHDFに対する賦活化活性が認められた。
【0089】
〔8.コラーゲン・ヒアルロン酸遺伝子発現解析〕
次に、NHDFに対する賦活化活性が認められた7菌株の桜由来の乳酸菌が細胞のコラーゲン産生やヒアルロン酸産生に与える影響を確認すべく、I型コラーゲン遺伝子(COL1A1)やヒアルロン酸合成遺伝子(HAS3)の転写量について確認を行った。
【0090】
具体的には、
図16に示すように終濃度1%の加熱死菌破砕液を含む10%FBS混合DMEM培地で正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を37℃にて2日間培養し、RNAeasy(登録商標) Plus Mini kit(QIAGEN社製)を用いてmRNAの抽出を行った。
【0091】
次に、リアルタイムRT-PCR法により各遺伝子の転写量の定量を行った。なお、逆転写反応はReverTra AceTM qPCR RT Master Mix(東洋紡株式会社製)を使用し、37℃・20分→50℃・5分→98℃・5分の処理により行った。また、リアルタイムPCR反応は、FastStart SYBR Green Master(ROX)(Roche Diagnostics Deutschland GmbH社製)を使用し、95℃・10分→(95℃・30秒→58℃・30秒→72℃・1分)×40サイクルの処理により行った。その結果を
図17に示す。
【0092】
図17に示すように、I型コラーゲン遺伝子(COL1A1)については、Lactococcus lactis A33株がコントロールとほぼ同等の転写量であり、その他多くの菌株はいずれも転写量が下回ることとなったが、Leuconostoc mesenteroides A80株については顕著なI型コラーゲン遺伝子の誘導活性が認められた。
【0093】
また、ヒアルロン酸合成遺伝子(HAS3)については、Leuconostoc mesenteroides A80株において若干の誘導活性が認められたものの、その他菌株ではいずれも転写が抑制される結果となった。
【0094】
〔9.コラーゲン・ヒアルロン酸産生評価〕
次に、転写誘導活性について検討した7菌株の桜由来の乳酸菌が細胞のコラーゲン産生やヒアルロン酸産生に与える影響を更に確認すべく、培養細胞上清中に含まれるコラーゲン量とヒアルロン酸量について確認を行った。
【0095】
図18に示すように、本試験では96穴プレートに加熱死菌破砕液を終濃度1%で含む1%FBS混合DMEM培地を添加し、各ウェルあたり所定数の正常ヒト皮膚線維芽細胞を播種し、5%CO
2の存在下で37℃にて3日間培養し、得られた培地上清に含まれるコラーゲンやヒアルロン酸の量をELISA法にて測定した。
【0096】
その結果、
図19に示すように、コラーゲンの産生量については、Leuconostoc mesenteroides A83株においてコントロールに対し約1.1倍の増加が認められた。また、それ以外の菌株については同等又は低下する結果となった。
【0097】
またヒアルロン酸の産生量については、いずれもコントロールを下回る結果となった。
【0098】
〔10.まとめ〕
上述してきた試験結果をまとめた表を
図20に示す。表中丸印は試験に供した菌株であることを示し、黒丸は各試験での効果が確認されたことを示し、白丸は黒丸の結果ほどは効果が確認できなかったことを示している。
【0099】
図20に示すように、桜より単離し同定された166菌株のうち、18菌株を対象として行ったSIRT1遺伝子発現誘導活性の確認試験について直接法では、Lactobacillus pentosus A43株、Lactobacillus pentosus A51株、Lactobacillus plantarum A52株、Lactobacillus plantarum A53株、Lactobacillus paraplantarum A54株、Lactobacillus pentosus A55株、Lactobacillus pentosus A56株、Lactobacillus brevis A95株の8株において有意な発現が認められた。
【0100】
また、間接法では、Lactobacillus brevis A46株、Lactobacillus plantarum A53株、Lactobacillus paraplantarum A54株、Lactobacillus pentosus A55株、Lactobacillus fermentum A89株、Lactobacillus fermentum A90株、Lactobacillus brevis A94株、Lactobacillus brevis A95株、Lactobacillus brevis A96株、Lactobacillus plantarum B15株、Lactobacillus casei C24株の11株において効果が確認された。
【0101】
また、これら直接法や間接法の結果を踏まえると、直接法と間接法との両方で効果が確認されたLactobacillus plantarum A53株、Lactobacillus paraplantarum A54株、Lactobacillus pentosus A55株、Lactobacillus brevis A95株の4株は、外用又は経口摂取のいずれの場合においても、SIRT1遺伝子発現誘導活性が得られることが示された。
【0102】
また、このようなSIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌のなかでも、Lactobacillus brevis A46株やLactobacillus brevis A95株、Lactobacillus brevis A96株、Lactobacillus plantarum B15株、Lactobacillus casei C24株については、本発明者らの実験結果や、その操作過程における培養状況などの経験を踏まえると総じて実製造に適した傾向を有していることから、本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤やこれを含有する食品、化粧品、医薬品を実現する上で、特に有用性が高いと考えられた。
【0103】
また、SIRT1遺伝子発現誘導活性を有する桜由来の乳酸菌のなかでも、Lactobacillus brevis A46株はGABA産生性及びビフィズス菌賦活化の作用、Lactobacillus plantarum A53株は繊維芽細胞賦活化、Lactobacillus pentosus A55株はGABA産生性、Lactobacillus pentosus A56株は繊維芽細胞賦活化、Lactobacillus brevis A95株はGABA産生性及びビフィズス菌賦活化の作用、Lactobacillus brevis A96株はGABA産生性及びビフィズス菌賦活化の作用を併せもっており、本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤の付加価値向上に寄与するものと考えられた。
【0104】
また、SIRT1遺伝子発現誘導活性は認められなかったものの、本実施形態に係る食品や化粧品、医薬品を構成する上で多機能化に寄与するものと期待される菌株として、Lactococcus lactis A19株 (ビフィズス菌賦活化及び抗菌活性)、Lactococcus lactis A26株 (ビフィズス菌賦活化及び抗菌活性)、Lactococcus lactis A27株 (ビフィズス菌賦活化、抗菌活性、皮膚常在菌バランス改善効果及び繊維芽細胞賦活化)、Lactococcus lactis A33株 (抗菌活性、皮膚常在菌バランス改善効果及び繊維芽細胞賦活化)、Leuconostoc mesenteroides A34株 (繊維芽細胞賦活化)、Leuconostoc mesenteroides A80株 (繊維芽細胞賦活化及びコラーゲン遺伝子転写促進)、Leuconostoc mesenteroides A83株 (繊維芽細胞賦活化及びコラーゲン産生)、Leuconostoc mesenteroides A93株 (GABA産生性)の存在が明らかとなった。特に、A19株、A26株、A27株、A33株、A80株、A83株の6菌株は現時点において2以上の付加価値的効果が認められており、本実施形態に係る食品や化粧品、医薬品を構成する上で有用であると考えられた。
【0105】
また、これらの結果を踏まえると、本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤やこれを含有する食品、化粧品、医薬品を製造するにあたり、複数の桜由来乳酸菌を併用することで、より付加価値の高い製品を実現することも可能である。
【0106】
例えば、Lactobacillus brevis A95株とLactobacillus plantarum B15株とLactobacillus casei C24株との混合物をSIRT1遺伝子発現誘導用製剤や食品、化粧品、医薬品に添加して併用すれば、種が異なる株を組みあわせつつSIRT1遺伝子発現誘導活性の高い製剤等の製造を行うことができる。
【0107】
また例えば、先述した特に有用な5株であるLactobacillus brevis A46株やLactobacillus brevis A95株、Lactobacillus brevis A96株、Lactobacillus plantarum B15株、Lactobacillus casei C24株については、これらの中から選ばれる少なくとも2以上の菌株を自由に組みあわせることで、SIRT1遺伝子発現誘導活性を備えつつ製造性に優れた製剤等の製造を行うことができる。すなわち、本出願人は、これら5株のうちから選ばれる2以上の菌株の全ての組みあわせの一部又は全部について、将来的に権利化を図る可能性がある。
【0108】
また例えば、SIRT1遺伝子発現誘導活性が不明な乳酸菌との組みあわせの例として、Lactococcus lactis A27株とLactobacillus pentosus A55株との混合物をSIRT1遺伝子発現誘導用製剤や食品、化粧品、医薬品に添加してもよい。このような構成とすれば、SIRT1遺伝子発現誘導活性やGABA産生性、ビフィズス菌賦活化、抗菌活性、皮膚常在菌バランス改善効果、繊維芽細胞賦活化作用など、さまざまな効果が期待できる製剤等の製造を行うことができる。
【0109】
また同様に、SIRT1遺伝子発現誘導活性が不明な乳酸菌との組みあわせの例として、Lactococcus lactis A33株とLactobacillus brevis A95株との混合物をSIRT1遺伝子発現誘導用製剤や食品、化粧品、医薬品に添加してもよい。このような構成によっても、SIRT1遺伝子発現誘導活性やGABA産生性、ビフィズス菌賦活化、抗菌活性、皮膚常在菌バランス改善効果、繊維芽細胞賦活化作用など、さまざまな効果が期待できる製剤等の製造を行うことができる。
【0110】
なお、これら各菌株の併用は、共培養を行うことも可能であるが、製造安定性等の観点から、各菌株の死菌体、望ましくは乾燥粉末を混合して使用するのも一案である。
【0111】
なお、以下の菌株については、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託を行っており、受領番号は以下の通りである。
Lactobacillus brevis A46株 NITE AP-03921
Lactobacillus pentosus A51株 NITE AP-03922
Lactobacillus pentosus A55株 NITE AP-03923
Lactobacillus fermentum A89株 NITE AP-03924
Lactobacillus brevis A94株 NITE AP-03925
Lactobacillus brevis A95株 NITE AP-03926
Lactobacillus brevis A96株 NITE AP-03927
Lactobacillus plantarum B15株 NITE AP-03928
Lactobacillus casei C24株 NITE AP-03929
【0112】
上述してきたように、本実施形態に係るSIRT1遺伝子発現誘導用製剤によれば、桜由来の乳酸菌、同菌体の破砕物、又は同菌体の培養液を含有してなることとしたため、SIRT1遺伝子の発現誘導が期待される食品や化粧品、医薬品を提供することができる。
【0113】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。