(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075063
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】リチウム硫黄二次電池用正極担体材料、それを用いた正極、それを用いたリチウム硫黄二次電池、および、これらを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20240527BHJP
H01M 4/74 20060101ALI20240527BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20240527BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240527BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20240527BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240527BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/74 C
H01M4/70 A
H01M4/136
H01M4/1397
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186213
(22)【出願日】2022-11-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年11月14日公開 Journal of Materials Chemistry A,2022,DOI:10.1039/d2ta07139h, https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2022/TA/D2TA07139H
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「動的フォトニック結晶の機能向上にむけた高品位・大型ナノシートの創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】坂井 伸行
(72)【発明者】
【氏名】馬 仁志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 高義
(72)【発明者】
【氏名】ワン チェンフイ
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS10
5H017BB01
5H017BB12
5H017BB13
5H017BB14
5H017CC05
5H017DD05
5H017EE01
5H017EE06
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH08
5H017HH09
5H029AJ05
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029HJ01
5H029HJ06
5H029HJ14
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA04
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA06
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】 シャトル効果を抑制するリチウム硫黄二次電池用正極担体材料、それを用いた正極、それを用いたリチウム硫黄二次電池、および、それらを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料は、酸化タンタルナノメッシュと、酸化タンタルナノメッシュを挟持する一対のグラフェンナノシートとからなる複合体を含有する。本発明のリチウム硫黄二次電池用正極は、上述の担体材料に硫黄が担持されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タンタルナノメッシュと、
前記酸化タンタルナノメッシュを挟持する一対のグラフェンナノシートと
からなる複合体を含有する、リチウム硫黄二次電池用正極担体材料。
【請求項2】
前記グラフェンナノシートの質量に対する前記酸化タンタルナノメッシュの質量の比は、3以上8以下の範囲である、請求項1に記載の正極担体材料。
【請求項3】
前記グラフェンナノシートの質量に対する前記酸化タンタルナノメッシュの質量の比は、4以上6以下の範囲である、請求項2に記載の正極担体材料。
【請求項4】
前記酸化タンタルナノメッシュは、層状タンタル酸化物から単層剥離されている、請求項1~3のいずれかに記載の正極担体材料。
【請求項5】
前記酸化タンタルナノメッシュは、面内に直径0.1nm以上0.3nm以下の範囲の開口を有する、請求項1~4のいずれかに記載の正極担体材料。
【請求項6】
前記グラフェンナノシートは、還元型酸化グラフェンナノシートである、請求項1~4のいずれかに記載の正極担体材料。
【請求項7】
前記酸化タンタルナノメッシュまたは前記グラフェンナノシートのいずれかは、カチオン性ポリマーを有する、請求項1~6のいずれかに記載の正極担体材料。
【請求項8】
前記カチオン性ポリマーは、ポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)、ポリアリルアミン(PAH)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリピロール(PPy)、ポリアニリン(PANI)およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)からなる群から選択される、請求項7に記載の正極担体材料。
【請求項9】
ペレットまたは薄膜の形態である、請求項1~8のいずれかに記載の正極担体材料。
【請求項10】
硫黄を含有するリチウム硫黄二次電池用正極であって、
前記硫黄は、請求項1~9のいずれかに記載の正極担体材料に担持されている、正極。
【請求項11】
前記硫黄は、1mg/cm2以上25mg/cm2以下の範囲で担持される、請求項10に記載の正極。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料を製造する方法であって、
酸化タンタルナノメッシュが分散した分散液と、カチオン性ポリマーを有するグラフェンナノシートが分散した分散液とを混合するか、または、カチオン性ポリマーを有する酸化タンタルナノメッシュが分散した分散液と、グラフェンナノシートが分散した分散液とを混合すること
を包含する、方法。
【請求項13】
前記分散液における分散媒は、水、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合することによって得られた生成物を不活性または還元性ガス雰囲気中で加熱することをさらに包含する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記加熱することは、前記生成物を300℃以上400℃以下の温度範囲で30分以上3時間以下の時間加熱する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記混合することによって得られた生成物を凍結乾燥することをさらに包含する、請求項13~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
請求項10または11に記載のリチウム硫黄二次電池用正極を製造する方法であって、
請求項1~9のいずれかに記載のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料に硫黄を含侵させること
を包含する、方法。
【請求項18】
前記含侵させることに先立って、前記正極担体材料をペレットまたは薄膜に加工することをさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に位置する電解質とを備えるリチウム硫黄二次電池であって、
前記正極は、請求項10または11に記載の正極であり、
前記負極は、少なくともリチウムを含有する、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄二次電池用正極担体材料、それを用いた正極、それを用いた二次電池、および、これらを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム硫黄二次電池は、理論容量が高く、埋蔵量が豊富でコストが比較的低いことから、次世代のエネルギー貯蔵技術として注目されている。その実用化を妨げている主な問題は、充放電プロセスにおいてカソードで生成するリチウム多硫化物(Li2Sx:4≦x≦8)が電解液に溶出しアノードに到達するといったシャトル効果と呼ばれるものであり、これによりカソードの容量が低下し、サイクル寿命が短くなる。また、充放電時において大きな体積変化に伴う電極材料の亀裂生成による劣化などの問題がある。
【0003】
窒素ドープグラフェンを用いてシャトル効果を抑制する技術が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、窒素ドープグラフェンが相互に積み重なって形成された有効な三次元導電ネットワーク、及び、窒素ドープグラフェンシート層により均一に被覆されたナノ硫黄粒子を含むことを特徴とする窒素ドープグラフェンで被覆したナノ硫黄正極複合材料が開発された。しかしながら、特許文献1の技術の場合には、リチウム硫化物やリチウム多硫化物を正極に閉じ込めるのみならずリチウムイオンの拡散を阻害しており、容量の増大には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上から、本発明の課題は、シャトル効果を抑制するリチウム硫黄二次電池用正極担体材料、それを用いた正極、それを用いたリチウム硫黄二次電池、および、それらを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるリチウム硫黄二次電池用正極担体材料は、酸化タンタルナノメッシュと、前記酸化タンタルナノメッシュを挟持する一対のグラフェンナノシートとからなる複合体を含有し、これにより上記課題を解決する。
前記グラフェンナノシートの質量に対する前記酸化タンタルナノメッシュの質量の比は、3以上8以下の範囲であってもよい。
前記グラフェンナノシートの質量に対する前記酸化タンタルナノメッシュの質量の比は、4以上6以下の範囲であってもよい。
前記酸化タンタルナノメッシュは、層状タンタル酸化物から単層剥離されていてよい。
前記酸化タンタルナノメッシュは、面内に直径0.1nm以上0.3nm以下の範囲の開口を有してもよい。
前記グラフェンナノシートは、還元型酸化グラフェンナノシートであってもよい。
前記酸化タンタルナノメッシュまたは前記グラフェンナノシートのいずれかは、カチオン性ポリマーを有してもよい。
前記カチオン性ポリマーは、ポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)、ポリアリルアミン(PAH)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリピロール(PPy)、ポリアニリン(PANI)およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)からなる群から選択されてよい。
ペレットまたは薄膜の形態であってもよい。
本発明による硫黄を含有するリチウム硫黄二次電池用正極は、前記硫黄が上述の正極担体材料に担持されており、これにより上記課題を解決する。
前記硫黄は、1mg/cm2以上25mg/cm2以下の範囲で担持されてよい。
本発明による上述のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料を製造する方法は、酸化タンタルナノメッシュが分散した分散液と、カチオン性ポリマーを有するグラフェンナノシートが分散した分散液とを混合するか、または、カチオン性ポリマーを有する酸化タンタルナノメッシュが分散した分散液と、グラフェンナノシートが分散した分散液とを混合することを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記分散液における分散媒は、水、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)からなる群から選択されてもよい。
前記混合することによって得られた生成物を不活性または還元性ガス雰囲気中で加熱することをさらに包含してもよい。
前記加熱することは、前記生成物を300℃以上400℃以下の温度範囲で30分以上3時間以下の時間加熱してもよい。
前記混合することによって得られた生成物を凍結乾燥することをさらに包含してもよい。
本発明による上述のリチウム硫黄二次電池用正極を製造する方法は、上述のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料に硫黄を含侵させることを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記含侵させることに先立って、前記正極担体材料をペレットまたは薄膜に加工することをさらに包含してもよい。
本発明によるリチウム硫黄二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に位置する電解質とを備え、前記正極は上述の正極であり、前記負極は、少なくともリチウムを含有し、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料は、酸化タンタルナノメッシュと、酸化タンタルナノメッシュを挟持する一対のグラフェンナノシートとからなる複合体を含有する。このような複合体間に硫黄を担持することができ、グラフェンナノシートにより導電性を有するので、リチウム硫黄二次電池の正極として機能する。また、酸化タンタルナノメッシュは、リチウムイオンよりも大きく、リチウム多硫化物よりも小さな開口を有するため、リチウム多硫化物は担体材料中に効果的に閉じ込められ、シャトル効果が抑制される。リチウムイオンは、担体材料内外を三次元的に移動できるので、電池特性を向上し得る。本発明の担体材料に硫黄を担持させた正極を用いれば、シャトル効果が抑制されたリチウム硫黄二次電池を提供できる。
【0008】
本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料の製造方法は、単に、酸化タンタルナノメッシュが分散した分散液と、カチオン性ポリマーを有するグラフェンナノシートが分散した分散液とを混合するか、または、カチオン性ポリマーを有する酸化タンタルナノメッシュが分散した分散液と、グラフェンナノシートが分散した分散液とを混合するだけでよいので、高価な装置や熟練した技術を不要とするため、実施に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料を模式的に示す図
【
図3】本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料を製造するプロシージャを示す図
【
図4】本発明のリチウム硫黄二次電池用正極を模式的に示す図
【
図5】本発明のリチウム硫黄二次電池を模式的に示す図
【
図6】正極におけるリチウム硫化物の閉じ込めメカニズムを模式的に示す図
【
図7】酸化タンタルナノメッシュのAFM像(a)、面内X線回折パターン(b)、HAADF-STEM像(c)、シミュレーションHAADF像(d)、および、FFTパターン(e)を示す図
【
図8】酸化タンタルナノメッシュの多硫化物の浸透試験の結果を示す図
【
図9】PDDA-rGOナノシートのAFM像を示す図
【
図10】TaO
3ナノメッシュ、PDDA-rGOナノシートおよびGOナノシートのゼータ電位を示す図
【
図11】実施例1で得られた凝集粉末の外観を示す図
【
図12】実施例1および比較例1~比較例3の凝集粉末の粉末XRDパターンを示す図
【
図13】TaO
3ナノメッシュ、rGOナノシート、および、これらの積層ユニットのシミュレートされたXRDパターンを示す図および実施例1の凝集粉末のTEM像を示す図
【
図15】実施例1の凝集粉末のSEM像およびEDSマッピングを示す図
【
図16】実施例1の凝集粉末のTG-DTA曲線を示す図
【
図17】実施例1のS非含侵ペレットの外観を示す図
【
図18】実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたLi
2S
6対称型電池のCV特性を示す図
【
図19】実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたLi
2S
6対称型電池の電気化学インピーダンス分光法(EIS)曲線およびその等価回路を示す図
【
図20】実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたLi
2S
8コイン電池の電流-時間特性(2.05V)を示す図
【
図21】
図20の電流-時間特性の測定後の実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットのラマンスペクトルを示す図
【
図22】
図20の電流-時間特性の測定後の実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたLi
2S
8コイン電池の電気化学インピーダンス分光法(EIS)曲線およびその等価回路を示す図
【
図23】実施例1および比較例1のS非含侵ペレットをLi
2S
6電解質と接触させた後の紫外可視吸収スペクトルを示す図
【
図24】実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを正極に用いたリチウム硫黄電池のCV特性を示す図
【
図25】実施例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のCV特性を示す図
【
図26】比較例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のCV特性を示す図
【
図27】比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のCV特性を示す図
【
図28】実施例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のピーク電流とスキャンレートの平方根との関係を示す図
【
図29】比較例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のピーク電流とスキャンレートの平方根との関係を示す図
【
図30】比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のピーク電流とスキャンレートの平方根との関係を示す図
【
図31】実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池の電気化学インピーダンス分光法(EIS)曲線を示す図
【
図32】実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池の充放電特性を示す図
【
図33】実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す図
【
図34】実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す図
【
図35】
図32の充放電特性から得られた各リチウム硫黄電池の充放電の電位差を示す図
【
図36】
図32の充放電特性から得られた各リチウム硫黄電池の容量Q1およびQ2を示す図
【
図37】実施例1の別のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す図
【
図38】実施例1のさらに別のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料およびその製造方法について説明する。
図1は、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料を模式的に示す図である。
【0012】
本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料100(以降では簡単のため単に担体材料と称する)は、酸化タンタルナノメッシュ110と、酸化タンタルナノメッシュ110を挟持する一対のグラフェンナノシート120とからなる複合体130を含有する。詳細には、酸化タンタルナノメッシュ110の両面のそれぞれ半分がグラフェンナノシート120で被覆された、rGO/TaO3/rGOのサンドイッチ状の構造となっている。このような複合体130間の隙間に正極活物質である硫黄を担持することができ、グラフェンナノシート120により導電性を備えるため、リチウム硫黄二次電池の正極として機能する。本願明細書では、一対のグラフェンナノシート120で挟持された酸化タンタルナノメッシュ110の複合体130は、分かりやすさの観点から、サンドイッチ構造と称する場合がある。
【0013】
また、酸化タンタルナノメッシュ110は、その面内に結晶学的な構造に由来する開口210(
図2)を有する。本願発明者らは、このような開口の径がリチウムイオンよりも大きく、リチウム多硫化物よりも小さいことを明らかとし、リチウム多硫化物(Li
2S
x:4≦x≦8)を担体材料100(具体的には複合体130間の隙間)に効果的に閉じ込めることができることを見出した。本発明の担体材料100をリチウム硫黄二次電池の正極に用いれば、リチウム多硫化物は担体材料100内に閉じ込められるので、リチウム硫化物の電解質への溶解を防ぎ、シャトル効果を抑制できる。
【0014】
また、リチウムイオンは、開口210よりも小さいため、担体材料内外を三次元的に移動できるので、リチウム硫黄二次電池の電池特性を向上し得る。以降では簡単のため、リチウム硫化物(Li2S)およびリチウム多硫化物(Li2Sx:2≦x≦8)をまとめて、単にリチウム硫化物と称する場合がある。
次に、本発明の担体材料100の各構成要素について詳述する。
【0015】
図2は、酸化タンタルナノメッシュを模式的に示す図である。
【0016】
酸化タンタルナノメッシュ110は、特開2007-284277号公報に示されるように、母結晶である層状タンタル酸化物から単層剥離される。層状タンタル酸化物は、単斜晶の結晶構造を有し、金属-酸素八面体が稜共有または頂点共有により連鎖して、規則的なホールを有するTaO6八面体の二次元骨格構造を形成しており、一般式ATaO3(Aは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、および、セシウム(Cs)からなる群から選択される)で表される。層状タンタル酸化物は、特開2007-284277号公報に記載の方法に代表されるように、負に帯電したTaO3の間のAイオンが特殊な処理によりプロトン交換され、単層剥離されるため、酸化タンタルナノメッシュ110は、負の電荷を有する。
【0017】
酸化タンタルナノメッシュ110の厚さは、結晶学的な厚さであってよく、0.9nm以上2nm以下の範囲である。酸化タンタルナノメッシュ110の横方向の大きさは、サブミクロンから数十ミクロンの範囲であってよく、好ましくは、0.05μm以上10μm以下、より好ましくは、0.1μm以上5μm以下の範囲であってよい。この範囲であれば、上述のサンドイッチ構造を形成しやすい。
【0018】
また、酸化タンタルナノメッシュ110が、上述の厚さや横方向の大きさを有することにより、酸化タンタルのリチウム硫化物への変換に対する高い反応サイトをより多く露出させることができる。また、リチウム硫黄二次電池の電極として利用した際にリチウムイオンの拡散距離を短くできるので、レート特性を向上できる。
【0019】
酸化タンタルナノメッシュ110は、ホスト層の結晶学的な構造に由来する面内に開口210を有する。
図2に示されるように、開口210は、ひし形状であってよく、その直径は、好ましくは、0.1nm以上0.3nm以下の範囲である。直径は、より好ましくは、0.1nm以上0.2nm以下の範囲である。この範囲であれば、リチウムイオンを通過させつつ、リチウム多硫化物を閉じ込めることができる。なお、開口210の直径は、ひし形の開口を内接する円を作成し、その直径とした。
【0020】
グラフェンナノシート120は、sp2結合した炭素原子を含む原子層であり、改良Hummers法などによって製造される周知の物質である。グラフェンナノシート120の長手方向の大きさは、好ましくは、10nm以上10μm以下の範囲であり、より好ましくは、0.1μm以上5μm以下の範囲であってよい。この範囲であれば、上述のサンドイッチ構造を形成しやすい。
【0021】
グラフェンナノシート120の厚さは、結晶学的な厚さ(単原子層)からそれが多層になっていてもよい。このような観点から、グラフェンナノシート120の厚さは、好ましくは、0.3nm以上10nm以下の範囲であり、より好ましくは、0.3nm以上2nm以下の範囲である。この範囲であれば、電極として用いた場合、優れた導電性を発揮し得る。
【0022】
また、グラフェンナノシート120が、上述の厚さや横方向の大きさを有することにより、導電性が付与されるので、リチウム硫黄二次電池の正極として機能し得る。
【0023】
グラフェンナノシート120は、カルボキシ基(COOH気)、水酸基(OH基)、カルボニル基(CO基)、アルデヒド基(CHO基)等の官能基(図示せず)を表面に有してもよい。このような官能基は、製造時にグラフェンナノシート120の表面に残留するものであってよく、これら官能基を有していても、電解液イオンの侵入や移動、導電性に遜色はない。このような観点から、グラフェンナノシート120は、酸化グラフェンを還元して得られる還元型酸化グラフェン(rGO)ナノシートであってよい。グラファイトから機械的に単層剥離したグラフェンは電気的に中性であるが、改良Hummers法によって還元して得られるグラフェンナノシート120は負の電荷を有する。
【0024】
上述したように、酸化タンタルナノメッシュ110およびグラフェンナノシート120は、いずれも負の電荷を有するため、酸化タンタルナノメッシュ110またはグラフェンナノシート120のいずれかがカチオン性ポリマー140を有してもよい。これにより、静電的相互作用により、一対のグラフェンナノシート120が酸化タンタルナノメッシュ110を挟持したサンドイッチ構造が維持される。
【0025】
ここで、カチオン性ポリマー140の種類に特に制限はないが、例示的には、ポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)、ポリアリルアミン(PAH)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリピロール(PPy)、ポリアニリン(PANI)およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)からなる群から選択されてよい。これらは、酸化タンタルナノメッシュ110またはグラフェンナノシート120のいずれにも容易に付与することができ、正電荷量を制御できる。
【0026】
複合体130において、グラフェンナノシート120の質量に対する酸化タンタルナノメッシュ110の質量比は、好ましくは、3以上8以下の範囲である。この範囲であれば、酸化タンタルナノメッシュ110が凝集することなく、サンドイッチ構造の形成が促進される。グラフェンナノシート120の質量に対する酸化タンタルナノメッシュ110の質量比は、より好ましくは、4以上6以下の範囲である。この範囲であれば、後述する方法によって、サンドイッチ構造の形成がより促進される。
【0027】
複合体130において、酸化タンタルナノメッシュ110とグラフェンナノシート120との層間距離は、好ましくは、0.5nm以上5nm以下の範囲である。この範囲であれば、絶縁性の酸化タンタルナノメッシュ110に導電性を効果的に付与できる。層間距離は、より好ましくは、1nm以上2nm以下の範囲である。この範囲であれば、リチウムイオンの高速移動を可能にし、レート特性およびサイクル特性に優れたリチウム硫黄二次電池を提供できる。
【0028】
本発明の担体材料100は、粉末の形態で得られるが、粉末をペレットあるいは薄膜に加工してもよい。本発明の担体材料100は、グラフェンナノシート120を含有しているため、バインダーを用いることなく、自立可能なペレットや薄膜へと加工できるので、集電体を不要とできる。
【0029】
本発明の担体材料100がペレットや薄膜の場合、バインダーを有しないため、反応サイトを露出させつつも、十分な量の活物質である硫黄(S8)を担持させることができるので、リチウム硫黄二次電池の電池特性を向上できる。また、ペレットは、リチウム硫化物の閉じ込めによる体積変化にも追随できるので、サイクル特性の向上も期待できる。
【0030】
次に、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料の製造方法について説明する。
図3は、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料を製造するプロシージャを示す図である。
【0031】
図3に示すように、本発明の担体材料100(
図1)は、酸化タンタルナノメッシュ110が分散した分散液310と、カチオン性ポリマー140を有するグラフェンナノシート120が分散した分散液320とを混合することによって得られる。単に混合するだけで、負の電荷を有する酸化タンタルナノメッシュ110と、正の電荷を有するグラフェンナノシート120との静電的相互作用によって複合体130が形成されるので、高価な装置や熟練した技術を不要とできる。
【0032】
酸化タンタルナノメッシュ110が分散した分散液310は、特開2007-284277号公報に開示される方法によって調製される。分散媒は、プロトン性極性溶媒であれば特に制限はないが、例示的には、水、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)からなる群から選択される溶媒が使用される。これらの溶媒は、酸化タンタルナノメッシュ110が再凝集することなく、分散した状態を良好に維持できる。水は、蒸留水、イオン交換水、ミリQ水、超純水等であってよい。
【0033】
分散液310中の酸化タンタルナノメッシュ110の濃度は、分散する限り特に制限はないが、例示的には、0.1g/dm3以上1.5g/dm3以下の範囲である。より好ましくは、0.3g/dm3以上0.7g/dm3以下の範囲である。この範囲であれば、上述のサンドイッチ構造の形成が促進される。
【0034】
カチオン性ポリマー140を有するグラフェンナノシート120は、例えば、酸化グラファイトから単層剥離した酸化グラフェンナノシート(GOナノシート)にカチオン性ポリマー140を付与し、還元することによって調製される。あるいは、酸化グラフェンナノシート(GOナノシート)を還元し、これにカチオン性ポリマー140を付与してもよい。
【0035】
酸化グラファイトは、周知の改良ハマー法により天然のグラファイト片やフレーク状のグラファイトから得られる。このようにして得た酸化グラファイトを分散媒に分散させ、超音波処理することによって、酸化グラファイトが単層剥離されGOナノシートとなる。GOナノシートを含有する分散液にヒドラジン、尿素等の還元剤を添加し、加熱すればよい。これにより、GOナノシートは還元されてグラフェン(rGO)ナノシートになる。次いで、上述したカチオン性ポリマーを添加すれば、カチオン性ポリマーを有するグラフェンナノシート120が得られる。加熱は、例示的には、70℃以上100℃以下の温度範囲で1時間以上24時間以下の間行えばよい。カチオン性ポリマーの添加量は、GOナノシート(またはrGOナノシート)の質量に対して2倍以上10倍以下となるように添加されればよい。このようにして得られたカチオン性ポリマーが付与されたrGOナノシートを遠心分離によって回収し、上述の分散媒に分散させればよい。
【0036】
なお、分散液310と分散液320とが混合されることから、分散液310で使用される分散媒と、分散液320で使用される分散媒とは同じであることが望ましい。なお、分散媒にカチオン性ポリマー140を有するグラフェンナノシート120を分散後、高速遠心分離(例えば、5000rpm~30000rpm)を行い、上澄みを分散液320として使用することが好ましい。
【0037】
分散液320中のグラフェンナノシート120の濃度は、分散する限り特に制限はないが、例示的には、0.02g/dm3以上1.0g/dm3以下の範囲である。より好ましくは、0.05g/dm3以上0.15g/dm3以下の範囲である。この範囲であれば、上述のサンドイッチ構造の形成が促進される。
【0038】
混合は、好ましくは、分散液320中のグラフェンナノシート120に対する分散液310中の酸化タンタルナノメッシュ110の質量比が3以上8以下となるように行われる。これにより、酸化タンタルナノメッシュ110が自己再凝集することを抑制し、酸化タンタルナノメッシュ110とグラフェンナノシート120とのサンドイッチ構造の形成を促進する。混合は、さらに好ましくは、質量比が、4以上6以下の範囲となるよう行われる。
【0039】
混合は、マグネチックスターラ等の攪拌機を用いて行ってもよく、例えば、100rpm~500rpmの回転速度の範囲で、10分~30分の間行われる。
【0040】
このようにして本発明の複合体130を有する担体材料100が生成物(析出物)として得られる。生成物は、エタノール等のアルコール洗浄と遠心分離とを繰り返し、回収されてよい。回収した生成物を凍結乾燥させてもよい。これにより、生成物中に残留する分散媒を完全に除去できる。
【0041】
さらに、生成物を不活性または還元性ガス雰囲気中で熱処理を行ってもよい。これにより、グラフェンナノシート120のグラフェンへの還元がさらに進み、表面に残存する含酸素官能基を除去できるので、導電性が向上し得る。また、熱処理によって、カチオン性ポリマー140が燃焼し、除去されるため、酸化タンタルナノメッシュ110の活性点を増大できる。不活性または還元性ガス雰囲気は、アルゴンガス、キセノンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、窒素ガス、水素ガス、水素および窒素の混合ガス、アンモニア分解ガス等に例示される。熱処理条件は、例示的には、300℃以上400℃以下の温度範囲で30分以上3時間以下の時間であってよい。
【0042】
なお、
図3では、グラフェンナノシート120がカチオン性ポリマー140を有する場合について説明してきたが、酸化タンタルナノメッシュ110がカチオン性ポリマー140を有するようにしてもよい。すなわち、正の電荷を有するカチオン性ポリマー140を有する酸化タンタルナノメッシュ110(正の電荷)が分散した分散液と、負の電荷を有するグラフェンナノシート120が分散した分散液とを混合してもよい。なお、カチオン性ポリマー140を有する酸化タンタルナノメッシュ110は、上述の分散液310にカチオン性ポリマー140を添加・撹拌すればよい。
【0043】
得られた生成物をペレットや薄膜に加工してもよい。ペレットへの加工は、金型プレス、冷間等方圧加圧法(CIP)等の周知の方法を採用できる。薄膜への加工は、滴下法、浸漬コート法、フローコート法、流し塗り、カーテンコート法、スピンコート法、スプレーコート法、エアレススプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、刷毛塗り等の周知の方法を採用できる。
【0044】
このようにして、本発明の酸化タンタルナノメッシュ110と、それを挟持する一対のグラフェンナノシート120とからなるサンドイッチ構造を有する複合体130を含有するリチウム硫黄二次電池用正極担体材料100が製造される。
【0045】
(実施の形態2)
実施の形態2は、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極、それを用いた本発明のリチウム硫黄二次電池、および、それらの製造方法を説明する。
【0046】
図4は、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極を模式的に示す図である。
【0047】
本発明のリチウム硫黄二次電池用正極400は、硫黄410を担持した担体材料100を備える。ここで、担体材料は、実施の形態1で説明した担体材料100であるため説明を省略する。硫黄410は、硫黄粒子であり、担体材料100の複合体130における酸化タンタルナノメッシュ110およびグラフェンナノシート120の表面、および、複合体130間の隙間に位置してよい。
図4では、複合体130が積層されている様子を示すが、積層に限らず、複合体130はランダムに凝集していてもよい。この場合も複合体130間の隙間に硫黄410が位置する。
【0048】
硫黄410の粒径は、好ましくは、1nm以上10nm以下の範囲である。この範囲であれば、複合体130同士の隙間に十分に位置し得るので、電池特性を向上できる。
【0049】
硫黄410の担持量は、特に制限はないが、例示的には、1mg/cm2以上であれば、正極として有利に機能し得る。硫黄410の担持量は、好ましくは、1mg/cm2以上25mg/cm2以下の範囲であり、より好ましくは、5mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲であり、なお好ましくは、10mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲である。担持量を多くすることにより、硫黄利用率が向上するので、高いエネルギー密度を有するリチウム硫黄二次電池を提供できる。
【0050】
次に、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極400の製造方法を説明する。
本発明のリチウム硫黄二次電池用正極400は、実施の形態1の担体材料100に硫黄410を含侵させることによって製造される。硫黄410の含侵は、例えば、硫黄410を含有する溶液に担体材料100を浸漬してもよいし、硫黄410を含有する溶液を担体材料100に滴下、塗布、スプレーしてもよい。このような観点から、含侵に先立って、担体材料100をペレットまたは薄膜に加工することが好ましい。
【0051】
硫黄410を含有する溶液の溶媒は、硫黄410が溶解する限り特に制限はないが、例示的には、二硫化炭素、トルエン、ベンゼン等がある。溶液中の硫黄410の濃度は、担持量によって制御してよいが、例えば、10mg/cm3以上50mg/cm3以下の範囲を採用できる。
【0052】
また、硫黄410を含有する溶液に担体材料100を浸漬させたり、あるいは、滴下、塗布またはスプレーしたりした後に、乾燥させて溶媒を除去してよい。乾燥は、風乾、加熱乾燥、凍結乾燥等であってよい。
【0053】
図5は、本発明のリチウム硫黄二次電池を模式的に示す図である。
【0054】
本発明のリチウム硫黄二次電池500は、正極510と、負極520と、正極510と負極520との間に位置する電解質530とを備える。正極510は、上述の正極400であり、負極520は、少なくともリチウム(Li)を含有する。
【0055】
図6は、正極におけるリチウム硫化物の閉じ込めメカニズムを模式的に示す図である。
【0056】
上述したように、本発明のリチウム硫黄二次電池500では、正極510に硫黄を担持した上述の担体材料100を用いる。正極510では、硫黄(S8)とリチウムとが多段階で反応し、最終的にLi2Sまで反応する過程と、Li2SからS8まで戻る過程とを繰り返すことにより充放電反応が進む。充放電反応で生成するリチウム硫化物は、正極510内の複合体130において酸化タンタルナノメッシュ110の開口210を通過できないため、リチウム硫化物は正極510内(具体的には複合体130と隣り合う別の複合体130との間)に効果的に閉じ込められる。この結果、リチウム多硫化物が負極520へ拡散しにくいので、シャトル効果が抑制され、正極510における硫黄量が減少することはないため、充放電容量の低下を抑制できる。一方で、リチウムイオンは、正極510(具体的には複合体130)内外を三次元的に移動できるので、高速移動を可能にし、高速充放電を可能にし得る。
各構成要素について説明する。
【0057】
正極510は、上述の正極400であるため、説明は省略するが、正極510の厚さは、例示的には、5μm以上500μm以下の範囲である。実用化を考慮すれば、正極510の厚さは10μm以上400μm以下であってよい。正極510はさらに正極集電体(図示せず)を備えることができる。これにより、外部への電力の取り出しが容易となる。正極集電体は、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ステンレス、金(Au)などの金属材料であってよい。正極集電体は、シート状であってよい。
【0058】
負極520は、リチウムを含有する公知の電極を採用できるが、例示的には、リチウム金属単体、リチウムを含有する合金、リチウムをドープした無機材料であってよい。リチウムを含有する合金としては、例えば、リチウムとアルミニウム(Al)との合金、リチウムとインジウム(In)との合金等がある。リチウムをドープした無機材料としては、LiドープSi、LiドープSiO、LiドープSn、LiドープSnO2等がある。
【0059】
負極520の厚さは、特に制限はないが、例示的には、5μm以上500μm以下の範囲である。実用化を考慮すれば、負極520の厚さは50μm以上300μm以下であってよい。負極520はさらに負極集電体(図示せず)を備えてよい。これにより、外部への電力の取り出しが容易となる。負極集電体は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス、金(Au)などの金属材料であってよい。負極集電体は、シート状であってよい。
【0060】
電解質530は、リチウム硫黄二次電池に使用される公知の電解質を使用できるが、例示的には、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、LiPF6、LiBF4等であってよい。これらの電解質は、テトラヒドロフラン、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジエトキシエタン(DEE)、ジメトキシエタン(DME)に溶解させて使用される。電解質530は、硝酸リチウムをさらに含んでもよい。これにより、負極520の表面に被膜が形成され、リチウム硫化物の通過を抑制できる。
【0061】
また、電解質530をセパレータ(図示せず)に含侵させ、保持するようにしてもよい。セパレータは、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂製の多孔質膜である。電解質530の厚さは、特に制限はないが、1μm以上50μm以下であってよい。
【0062】
本発明のリチウム硫黄二次電池500は、ケース(図示せず)に収容されてもよい。ケースは、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などからなる。リチウム硫黄二次電池500の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型などであってよい。
図5では、本発明のリチウム硫黄二次電池500は、一組の正極510、負極520および電解質530を示すが、これを複数集積させてもよい。このような改変は本発明の範囲内であり、当業者であれば理解する。
【0063】
本発明のリチウム硫黄二次電池500を外部電源に接続し、正極510に正の電位、負極520に負の電位を印加することにより、充電される。リチウム硫黄二次電池500の正極510および負極520に放電回路を接続し、電子機器、電気自動車などの放電回路に通電させることにより放電する。
【0064】
次に、本発明のリチウム硫黄二次電池500の製造方法について説明する。
リチウム硫黄二次電池500は、例えば、正極510と、負極520と、電解質530とをそれぞれ製造し、これらを積層すればよい。あるいは、負極520がリチウム金属箔の場合には、正極510と電解質530とを積層後に負極520を物理的気相成長法や化学的気相成長法により成膜してもよい。
【0065】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0066】
[試薬]
以下の試薬を用いた。
炭酸ルビジウム(Rb2CO3、99.9%、株式会社レアメタリック製)、酸化タンタル(Ta2O5、99.99%、株式会社レアメタリック製)、塩酸(濃HCl、キシダ化学株式会社製)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド溶液(TBAOH、10wt%、和光特級、富士フイルム和光純薬株式会社製)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA、20wt%水溶液、アルドリッチ製)、硫黄(S、99.998%、アルドリッチ製)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、99.95%、アルドリッチ製)、硝酸リチウム(LiNO3、SAJ一級、シグマ-アルドリッチ製)、1,2-ジメトキシエタン(DME、99.5%、シグマ-アルドリッチ製)、1,3-ジオキソラン(DOL、99.8%、シグマ-アルドリッチ製)、二硫化炭素(CS2、99%、富士フイルム和光純薬株式会社製)、リチウム箔(Li、99.8%、Alfa Aesar製)、硫化リチウム(Li2S、99.98%、アルドリッチ製)、テトラグライム(99.9%、シグマ-アルドリッチ製)、グラファイト(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0067】
[酸化タンタルナノメッシュの調製]
特開2007-284277号に記載の製造方法にしたがって、酸化タンタルナノメッシュを調製した。詳細には、炭酸ルビジウムと酸化タンタルとをモル比1.02:1で混合し、900℃で20時間焼成し、母結晶である層状ルビジウムタンタル酸化物(RbTaO3)を生成させた。ルビジウムタンタル酸化物(10g)を塩酸溶液(1mol/dm3、1dm3)に浸漬し、3日間撹拌させ、層間のルビジウムを水素イオンと交換した。なお、溶液は24時間おきにデカンテーションを行い、交換した。このようにして水素イオン交換体である層状酸化タンタル(HTaO3・1.3H2O)を得た。
【0068】
得られた層状酸化タンタル(4g)をテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)溶液(1dm3)に分散させ、振盪し、単層剥離させた。このときTBA+とH+とのモル比は1:1であった。分散液を180rpmで10日間振盪させ、2000rpmで10分間遠心分離し、未剥離の層状酸化タンタルを除去した。得られた懸濁液を再度20000rpmで30分間遠心分離し、単層剥離した酸化タンタル(TaO3)ナノメッシュを得た。上澄み液が透明になるまで超純水で洗浄し、酸化タンタルナノメッシュを水に分散させ、分散液とした。
【0069】
この分散液をシリコン基板に滴下・乾燥させ、酸化タンタルナノメッシュを原子間力顕微鏡(AFM、プローブステーションAFM5000II、株式会社日立ハイテク製)および走査透過電子顕微鏡(STEM、JEM-2000、日本電子株式会社製)で観察した。また、酸化タンタルナノメッシュを、面内X線回折法(放射光の波長=0.11991(2)nm、BL-6C、高エネルギー加速器研究機構)により構造解析し、300kV電界放出形電子顕微鏡(TEM、JEM-3000F、日本電子株式会社製)による画像を高速フーリエ変換(FFT法)し、FFTパターンを求めた。これらの結果を
図7に示す。
【0070】
図7は、酸化タンタルナノメッシュのAFM像(a)、面内X線回折パターン(b)、HAADF-STEM像(c)、シミュレーションHAADF像(d)、および、FFTパターン(e)を示す図である。
【0071】
図7(a)によれば、酸化タンタルナノメッシュは、結晶学的な厚さ1nmを有し、0.1μm以上5μm以下の横方向の大きさを有し、二次元のシートであることを確認した。
図7(b)によれば、鋭い回折ピークを示し、酸化タンタルナノメッシュが高い結晶性を有することが分かった。なお、酸化タンタルナノメッシュの回折ピークは、単位格子長a=0.9607nm、b=0.8479nmを有する面心長方格子で指数付けされ、これらの値は、RbTaO
3の面内の格子定数に良好に一致した。このことから、酸化タンタルナノメッシュは、単層剥離前のRbTaO
3のホスト層の結晶構造を維持していることが確認された。
【0072】
図7(c)~(e)によれば、酸化タンタルナノメッシュに
図7(b)の挿入図に示すような開口を有することが確認された。さらに、
図7(b)の挿入図に示すAおよびBのひし形状の開口における直交する2つの酸素原子の距離は、元のRbTaO
3の結晶学的データから、それぞれ0.39nmと0.46nmと見積もられた。酸素イオンの半径(約0.14nm)を考慮すると、AおよびBの開口径はそれぞれ0.11nmおよび0.18nmと算出され、リチウムイオン(Li
+)や電池用の他の金属イオンが侵入するのに十分な大きさであることが確認された。
【0073】
次に、得られた酸化タンタルナノメッシュのリチウム多硫化物の浸透試験を行った。2つのL型チャンバをセパレータ(Celgard2325、セルガード社製)で分離し、H型容器を組み立てた。一方のセパレータには、真空濾過により、0.1mg/cm
2の酸化タンタルナノメッシュを担持させ、もう一方のセパレータには酸化タンタルナノメッシュを担持させなかった。H型容器の左チャンバに0.005mol/L濃度のLi
2S
6溶液(溶媒は体積比1:1で混合したDOLとDMEとの混合溶媒、黄色の溶液)を、右チャンバに純粋なDOLとDMEとの混合溶媒(体積比1:1、無色透明の溶液)を充填し、リチウム多硫化物に対する酸化タンタルナノメッシュの篩い分け能力を調べた。結果を
図8に示す。
【0074】
図8は、酸化タンタルナノメッシュの多硫化物の浸透試験の結果を示す図である。
【0075】
図8の上段は、酸化タンタルナノメッシュを担持させていないセパレータのみの経時変化を示し、
図8の下段は、酸化タンタルナノメッシュを担持させたセパレータの経時変化を示す。
【0076】
図8の上段によれば、時間の経過に伴い、右チャンバは、左チャンバからのリチウム多硫化物の浸透により無色透明から黄色に変化した。一方、
図8の下段によれば、2時間経過後(
図8(h))も、右チャンバは無色透明であり、左チャンバからのリチウム多硫化物の浸透は見られなかった。このことから、酸化タンタルナノメッシュは、リチウム多硫化物を浸透させないので、シャトル効果の抑制に有効であることが示唆された。
【0077】
[グラフェン(rGO)ナノシートの調製]
まず、周知の改良ハマー法によってグラファイトから酸化グラフェンナノシート(以降ではGOナノシートと称する)を製造した。
【0078】
得られたGOナノシートを水に分散させた分散液200cm3(濃度:0.2g/dm3)を、カチオン性ポリマーとしてポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)含有する水溶液1.5cm3(濃度:20wt%)と混合し、GOナノシートをPDDAで修飾させた。次いで、ヒドラジン一水和物15mm3(濃度:98wt%)を添加し、90℃で3時間攪拌しながら加熱した。これによりGOナノシートは、還元され、グラフェンナノシート(以降ではrGOナノシートと称する)となった。
【0079】
得られた懸濁液に高速遠心分離(回転速度:20000rpm)を行い、回収物をさらに超純水に分散させた。再度、遠心分離(回転速度:6000rpm)を行い、上澄み液を、PDDAで修飾されたrGOナノシート(PDDA-rGOナノシート)を含有する分散液とした。この分散液をシリコン基板上に塗布し、AFMで観察した。なお、比較のため、PDDAを用いることなく還元したrGOナノシート(rGOナノシート)を含有する分散液、および、還元前のGOナノシートを含有する分散液も調製した。これらの分散液についてゼータ電位(ゼータ電位・粒径測定システム、ELSZ-2、大塚電子株式会社製)を測定した。これらの結果を
図9および
図10に示す。
【0080】
図9は、PDDA-rGOナノシートのAFM像を示す図である。
【0081】
図9によれば、PDDA-rGOナノシートは、横方向の大きさ0.5μm以上5μm以下、厚さ1.5nmを有する異方性の高い二次元結晶であることを確認した。図示しないが、GOナノシートは厚さ0.8nmを有し、rGOナノシートは厚さ0.6nmを有した。このことから、GOナノシートは、ヒドラジン一水和物を用いた熱処理により、表面に存在した含酸素官能基が除去されて、還元処理され、rGOナノシートとなったことが分かった。また、PDDA-rGOナノシートの厚さ(1.5nm)は、rGOナノシートのそれ(0.6nm)よりも厚く、PDDAが修飾されたことが分かった。
【0082】
図10は、TaO
3ナノメッシュ、PDDA-rGOナノシートおよびGOナノシートのゼータ電位を示す図である。
【0083】
図10には、PDDA-rGOナノシートに加えて、TaO
3ナノメッシュおよびGOナノシートのゼータ電位も併せて示す。
図10によれば、TaO
3ナノメッシュおよびGOナノシートは、いずれも、負電荷を有したが、PDDA-rGOナノシートは、正電荷を有した。図示しないが、PDDAで修飾していないrGOナノシートも負電荷を有することを確認した。このことから、PDDAの付与によって電荷が制御されたことが分かった。
【0084】
以降の実施例/比較例ではここで調製したTaO3ナノメッシュを含有する分散液、PDDA-rGOナノシートを含有する分散液、rGOナノシートを含有する分散液を用いた。
【0085】
[実施例1]
実施例1では、
図3のプロシージャにしたがって、酸化タンタル(TaO
3)ナノメッシュが分散した分散液と、カチオン性ポリマーとしてPDDAを有するグラフェンナノシート(PDDA-rGOナノシート)が分散した分散液とを混合し、TaO
3ナノメッシュとそれを挟持する一対のPDDA-rGOナノシートとからなる複合体(S-TaO
3/rGO)を製造した。
【0086】
詳細には、TaO3ナノメッシュ分散液(TaO3濃度0.48g/dm3、0.2dm3)、および、PDDA-rGOナノシート分散液(PDDA-rGO濃度0.1g/dm3(ただし、PDDAを考慮することなくグラフェン単体の質量で換算)、0.2dm3)を混合し、撹拌した。
【0087】
ここで、TaO3ナノメッシュとPDDA-rGOナノシートとの界面面積が最大となるように、rGOナノシートに対するTaO3ナノメッシュの質量比は4.8を満たすように混合された。六方晶rGOナノシートの単位胞(a=0.25nm)およびTaO3ナノメッシュの面心長方格子の単位胞(a=0.98nm、b=0.87nm)を用い、理想的なグラフェン構造について、TaO3ナノメッシュとPDDA-rGOナノシートとの界面面積を評価した。rGOナノシート二次元重量密度(WrGO)およびTaO3ナノメッシュの二次元重量密度(WTaO3)は次式で表される。
WrGO=2MC/(a×a×sin120°×NA)
WTaO3=8MTaO3/(a×b×NA)
ここで、NAは、アボガドロ定数であり、MCおよびMTaO3は、炭素およびTaO3の分子量である。rGOに対するTaO3の質量比は、WTaO3/WrGOとなり、4.8と算出された。
【0088】
TaO
3ナノメッシュ分散液とPDDA-rGOナノシート分散液との混合物を、5000rpmの回転速度で10分間遠心分離し、洗浄した。洗浄後の凝集粉末を回収し、凍結乾燥させた。凝集粉末を観察した。結果を
図11に示す。
【0089】
凝集粉末に粉末X線回折を行い、TEMおよび走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6700F、日本電子株式会社製)により観察した。また、SEM付属のエネルギー分散型X線分光法(EDS)により元素分析を実施した。凝集粉末に熱重量示差熱分析(TG-DTA、TG-DTA8122、株式会社リガク製)を行った。これらの結果を
図12~
図16に示す。
【0090】
次いで、凝集粉末をペレタイジング法によりペレット化した。詳細には、凝集粉末を直径10mmの円形のモールドに充填し、2MPaの圧力で10秒間圧粉した。ペレットの様子を観察した。結果を
図17に示す。
【0091】
得られたペレット(15mg)の吸着能力を評価した。詳細には、ペレットを、DOL/DME(体積比1:1)にLi
2S
6を添加した溶液(黄色、0.005mol/dm
3、4cm
3)に添加し、溶液の色の変化および紫外可視スペクトルから評価した。結果を
図23に示す。
【0092】
次に、得られたペレットを、硫黄(20mg)を二硫化炭素(CS2、1cm3)に溶解させた硫黄溶液に浸漬させ、二硫化炭素を揮発させて正極とした。硫黄の担持量は、硫黄溶液の浸漬量、および/または、ペレットの厚みを変化させて制御した。このようにして調製した正極を用いて、電気化学試験を行った。以降では分かりやすさのため、硫黄を含侵させたペレットをS含侵ペレットと称し、硫黄を含侵させていないペレットをS非含侵ペレットと称する。
【0093】
アルゴン封入したグローブボックス内でCR2032コイン電池(リチウム硫黄電池)を作製した。正極、セパレータ、負極、および、電解質として、それぞれ、上述のS含侵ペレット、セルガード2325、リチウム箔、および、2wt%LiNO
3を含むLiTFSIのDOL/DME(体積比1:1)溶液(1mol/dm
3)を用いた。S含侵ペレット中の硫黄含有率は50wt%に制御した。また、電解質と硫黄との比率(E/S)は、硫黄担持量5mg/cm
2、10mg/cm
2、15mg/cm
2のリチウム硫黄電池それぞれについて15.2μL/mg、7.6μL/mg、5.1μL/mgであった。電気化学ワークステーション(ソーラトロン社製、1280B)を用い、リチウム硫黄電池の電気化学試験を行った。電池試験装置(ホクト、HJ1001SD8)を用い、電池の充放電性能を1.7Vから2.8Vの電位範囲で評価した。結果を
図24、
図25、
図28、
図31~
図33、および、
図35~
図38に示す。
【0094】
DOL/DME(体積比1:1)に、SおよびLi
2S(モル比5:1)、LiTFSIおよびLiNO
3を添加し、60℃で48時間攪拌し、DOL/DME電解液(DOL/DME中0.2mol/dm
3のLi
2S
6+1mol/dm
3のLiTFSI+2wt%LiNO
3)を作製した。次いで、作用極およびカウンタ電極としてS非含侵ペレット、セパレータとしてセルガード2325、電解質としてDOL/DME電解液を用い、Li
2S
6対称型電池を作製した。電気化学ワークステーションを用い、Li
2S
6対称型電池のCV特性およびEIS特性を測定した。結果を
図18~
図19に示す。
【0095】
テトラグライムに、SおよびLi
2S(モル比7:1)ならびにLiTFSIを添加し、60℃で48時間攪拌し、テトラグライム電解液(テトラグライム中0.3mol/dm
3のLi
2S
8+1mol/dm
3のLiTFSI)を作製した。次いで、正極としてS非含侵ペレット、負極としてリチウム箔、セパレータとしてセルガード2325、正極側の電解質としてテトラグライム電解液、負極側の電解質として(添加物を有しない)テトラグライムを用い、Li
2S
8コイン電池を作製した。Li
2S
8コイン電池を112μAで定電流的に2.06Vまで放電し、2.05Vに保持した状態で、電気化学ワークステーション(ソーラトロン社製、1280B)を用い、電流-時間特性およびEIS特性を測定した。結果を
図20~
図22に示す。
【0096】
[比較例1]
比較例1では、酸化タンタル(TaO3)ナノメッシュが分散した分散液と、グラフェンナノシート(rGOナノシート)が分散した分散液とを混合し、TaO3ナノメッシュとrGOナノシートとがランダムに複合化したランダム複合体(R-TaO3/rGO)を製造した。
【0097】
詳細には、TaO
3ナノメッシュ分散液(TaO
3濃度0.48g/dm
3、0.2dm
3)、および、rGOナノシート分散液(rGO濃度0.1g/dm
3、0.2dm
3)を混合し、これをPDDA水溶液(PDDA濃度10g/dm
3、0.2dm
3)に添加し、撹拌した。その後、5000rpmで30分間遠心分離し、洗浄後、凍結乾燥させた。R-TaO
3/rGOについても、実施例1と同様に、物性および電気化学特性を評価した。結果を
図12、
図18~
図24、
図26、
図29、および、
図31~
図36に示す。
【0098】
[比較例2]
比較例2では、rGOナノシート分散液(rGO濃度0.1g/dm
3、0.2dm
3)をPDDA水溶液(PDDA濃度5g/dm
3、0.2dm
3)に添加し、撹拌した。その後、5000rpmで30分間遠心分離し、洗浄後、凍結乾燥させることによって、PDDA-rGOの再積層体(rGO)を得た。rGOについても、実施例1と同様に、物性および電気化学特性を評価した。結果を
図12、
図13、
図18~
図22、
図24、
図27、
図30、および、
図31~
図36に示す。
【0099】
[比較例3]
比較例3では、TaO
3ナノメッシュ分散液(TaO
3濃度0.48g/dm
3、0.2dm
3)をPDDA水溶液(PDDA濃度5g/dm
3、0.2dm
3)に添加し、撹拌した。その後、5000rpmで30分間遠心分離し、洗浄後、凍結乾燥させることによって、TaO
3ナノメッシュの再積層体(TaO
3)を得た。TaO
3についても、実施例1と同様に、物性を評価した。結果を
図12および
図13に示す。なお、TaO
3ナノメッシュについては、抵抗が高く電極として機能しなかったため、電気化学特性は評価していない。
【0100】
実施例1、比較例1~比較例3の結果をまとめて説明する。
図11は、実施例1で得られた凝集粉末の外観を示す図である。
【0101】
図11によれば、得られた凝集粉末は黒色の粉末であった。図示しないが、比較例1および比較例2で得られた凝集粉末も黒色であり、同様の様態であった。比較例3で得られた凝集粉末は白色であった。
【0102】
図12は、実施例1および比較例1~比較例3の凝集粉末の粉末XRDパターンを示す図である。
【0103】
比較例3の凝集粉末は、4.7°および9.9°に強いピークを示した。これらは、TaO3ナノメッシュの再積層構造からの一連の基底回折に起因し、TBA+をTaO3ナノメッシュ間の空間(d=1.90nm)に保持していることを示唆する。一方、14.3°、28.4°、33.3°、37.7°および43.0°のピークは、TaO3ナノメッシュの面心長方格子の単位胞(a=0.96nm、b=0.85nm)を用いて、110、220、130、400および040結晶面からの回折に同定された。このことから、比較例3の凝集粉末は、凍結乾燥させたTaO3ナノメッシュの再積層体であることが確認された。
【0104】
比較例2の凝集粉末は明瞭な回折ピークを示さなかった。これは炭素の散乱係数が小さいためであり、比較例2の凝集粉末は、凍結乾燥させたPDDA-rGOナノシートの再積層体であることを示す。
【0105】
実施例1の凝集粉末のXRDパターンは、上述のTaO3ナノメッシュからの一連の面内反射を有し、rGOナノシートからのピークは検出されなかった。また、低角側に向けてバックグランドが増強し、矢印で示すように約7°と12°にこぶを有した。これは、TaO3ナノメッシュおよびrGOナノシートの積層構造に基づく。このことから、実施例1の凝集粉末(S-TaO3/rGO)は、TaO3ナノメッシュとPDDA-rGOナノシートとが超格子構造様に積層されていることを示す。
【0106】
図13は、TaO
3ナノメッシュ、rGOナノシート、および、これらの積層ユニットのシミュレートされたXRDパターンを示す図および実施例1の凝集粉末のTEM像を示す図である。
【0107】
凝集粉末の積層構造を知るために、XRDパターンのシミュレーションをした。XRDパターンは、以下のDebyeの式に基づいて、構造中のすべての原子対の散乱振幅を合計することによってシミュレートされた。
【0108】
【0109】
ここで、Nは原子数、fi、fjはi番目とj番目の原子の散乱原子係数、rijは原子間の距離、Qは散乱ベクトル(=4πsinθ/λ)である。計算は、100×100nm2の横長のTaO3ナノメッシュとrGOナノシートとの2次元シートからなる構造モデルに対して行われた。原子位置はRbTaO3およびグラフェンの構造に基づいて計算された。
【0110】
図13(a)は、TaO
3ナノメッシュ一層、および、rGOナノシート一層のシミュレーションXRDパターンを示す。
図13(b)は、rGO/TaO
3の単一ユニット、および、rGO/TaO
3のダブルユニットのシミュレーションXRDパターンを示す。
図13(c)は、rGO/TaO
3/rGOのサンドイッチ構造のシミュレーションXRDパターンを示す。
図13(d)は、実施例1の凝集粉末のTEM像を示す。
【0111】
図13(a)によれば、いずれも、2θ角が小さくなるにつれて、強度が急峻かつ単調に増加した。
図13(b)のrGO/TaO
3単一ユニットのXRDパターンによれば、この2つのシートが1.5nm離れて対になった場合に低角側でバックグラウンドが徐々に増大し、
図12に示す実施例1の凝集粉末のXRDパターンと良好に一致する。
【0112】
図13(b)によれば、rGO/TaO
3の単一ユニットが二回繰り返されると、ラウエ干渉関数に伴う小さな波形が回折ピークとともに現れた。これらの結果から、実施例1の凝集粉末は、TaO
3ナノメッシュ一層と、PDDA-rGOナノシート一層とが対となっているが、化学構造の観点から、TaO
3両面のそれぞれ半分がrGOナノシートで被覆された、rGO/TaO
3/rGOのサンドイッチ状の構造となっていると考えることが合理的である。実際、
図13(c)によれば、rGO/TaO
3/rGOのサンドイッチ状の構造のXRDパターンは、
図12に示す実施例1の凝集粉末のXRDパターンと良好に一致する。
【0113】
図13(d)の挿入図には、実施例1の凝集粉末の断面のTEM像を示すが、3つの平行なフリンジが示されており、rGO/TaO
3/rGOのサンドイッチ状の構造を示している。また、この層間距離は1.5nmであった。このTEM像は、薄いシート状の形態を示しており、実施例1の凝集粉末が超薄膜構造を有することが分かる。
【0114】
一方、
図12の実施例1の凝集粉末のXRDパターンと比較例1の凝集粉末のそれとを比較すると、比較例1のXRDパターンは、4.5°および9.8°の強い基底回折ピークを除いては、実施例1のそれと類似していた。このことは、比較例1の凝集粉末は、rGO/TaO
3の対を有するもの、TaO
3ナノメッシュの再積層体、あるいはrGOナノシートの再積層体が混在しており、TaO
3ナノメッシュおよびrGOナノシートは、ランダムに複合化していることが示唆される。
【0115】
図14は、実施例1の凝集粉末のSEM像を示す図である。
【0116】
図14によれば、実施例1の凝集粉末は、ゆるく結合した微細構造を有しており、硫黄を担持可能な空間を有しており、リチウム硫黄二次電池の正極担体材料として機能することが示唆される。また、このような構造は電子伝導性のフレームワークおよび電解液の浸透経路を有しており、実施例1の凝集粉末を正極に用いれば、低いオーミック抵抗と拡散抵抗とが期待できる。
【0117】
図15は、実施例1の凝集粉末のSEM像およびEDSマッピングを示す図である。
【0118】
図15(a)は実施例1の凝集粉末のSEM像であり、
図15(b)~(d)はそれぞれ炭素(C)、酸素(O)およびタンタル(Ta)のEDSマッピングを示す。
図15(b)~(d)はグレースケールで示されるが、明るく示される領域に各元素が存在することを示す。
図15によれば、C、OおよびTaは均一に分布しており、実施例1の凝集粉末は均質であることが分かった。
【0119】
図16は、実施例1の凝集粉末のTG-DTA曲線を示す図である。
【0120】
図16によれば、実施例1の凝集粉末は、200℃までに脱水した。200℃~450℃までの重量減少は、TaO
3からTa
2O
5への相転移とrGOの燃焼とに起因する。PDDAの質量を無視して算出すると、rGOに対するTaO
3の質量比は4.3となった。この値は、PDDAの質量を考慮すれば、調製時の質量比(4.8)に良好に一致した。
【0121】
以上より、実施例1の凝集粉末は、酸化タンタルナノメッシュと、酸化タンタルナノメッシュを挟持する一対のグラフェンナノシートとからなる複合体(rGO/TaO3/rGO)を含有していることが示され、硫黄を担持可能な空間を有しており、リチウム硫黄二次電池の正極担体材料として機能することが示された。また、グラフェンナノシートの質量に対する酸化タンタルナノメッシュの質量の比は、3以上8以下の範囲、さらには、4以上6以下の範囲を満たすことを確認した。
【0122】
図17は、実施例1のS非含侵ペレットの外観を示す図である。
【0123】
図17によれば、実施例1のS非含侵ペレットは、ピンセットで挟んで持つことができ、自立していた。図示しないが、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットも同様であった。このことから、本発明の複合体は、バインダーや集電体を必須とすることなく、自立可能なペレットを提供でき、硫黄の担持量を増大できることが示された。また、本発明の複合体(rGO/TaO
3/rGO)をペレットとすることにより、充放電時における大きな体積変化に耐えられる正極を提供できる。
【0124】
次に、実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットにおけるリチウム多硫化物の変換に対する触媒活性について調べた結果をまとめて説明する。
【0125】
図18は、実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたLi
2S
6対称型電池のCV特性を示す図である。
【0126】
図18にはスキャンレートが1mV/sの場合のCV特性が示される。CV特性から、実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットのリチウム多硫化物の変換に係る各凝集粉末の触媒活性が分かる。比較例2のS非含侵ペレットのCV曲線は、0.14Vおよび0.71Vに酸化ピーク、および、-0.18Vおよび-0.64Vに還元ピークを示し、2段階の反応を示した。
【0127】
これに対して、比較例1のS非含侵ペレットのCV曲線は、比較例2のそれよりも酸化還元ピークのピーク間隔が非常に小さく、高い可逆性を示した。これは、TaO3ナノメッシュの表面がルイス酸性を示し、これがルイス塩基であるリチウム多硫化物の変換に対する高い触媒活性に寄与するためである。しかしながら、比較例1のS非含侵ペレットでは絶縁性のTaO3ナノメッシュとrGOナノシートとがランダムに積層された凝集粉末からなるため、電流応答は比較例3のペレット(rGO)のそれより小さくなった。
【0128】
一方、驚くべきことに、実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO3/rGO)のCV特性によれば、もっとも高い触媒活性を示した。これは、実施例1のS非含侵ペレットにおけるrGO/TaO3/rGOサンドイッチ構造に起因し、反応サイトがより多く露出しているためと考える。
【0129】
図19は、実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたLi
2S
6対称型電池の電気化学インピーダンス分光法(EIS)曲線およびその等価回路を示す図である。
【0130】
図19によれば、いずれのS非含侵ペレットのEIS曲線も、インピーダンスデータは2つの半円と1つの直線でフィッティングされた。この2つの半円は、長鎖リチウム多硫化物から短鎖リチウム多硫化物への変換プロセスにおける2段階の反応に対応する。電荷移動抵抗が最も大きい、比較例2のS非含侵ペレット(rGO)からの応答(Rct1=61.0Ω、Rct2=15.4Ω)は、リチウム多硫化物の変換の反応速度が最も遅いことを示す。比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)は、比較例2のS非含侵ペレット(rGO)よりも小さな電荷移動抵抗(Rct1=34.0Ω,Rct2=26.5Ω)を示したが、比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)のオーミック抵抗(Rs=12.5Ω)は、比較例2のS非含侵ペレット(rGO)のオーミック抵抗(Rs=5.7Ω)よりも高かった。
【0131】
一方、実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO
3/rGO)の電荷移動抵抗(Rct1=3.8Ω,Rct2=8.1Ω)とオーミック抵抗(Rs=2.0Ω)は、比較例1および比較例2のそれらよりも最も小さく、極めて高い電気伝導度と速い反応速度とを示した。これはTaO
3ナノメッシュとrGOナノシートとが分子レベルで面接触し、活性サイトが豊富に露出したためであり、
図18の結果に整合する。
【0132】
図20は、実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたLi
2S
8コイン電池の電流-時間特性(2.05V)を示す図である。
【0133】
比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO3/rGO)および実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO3/rGO)を用いた電池の曲線は3つの領域を有し、比較例2のS非含侵ペレット(rGO)を用いた電池の曲線は2つの領域を有した。
【0134】
時間経過とともに電流が急速に減少する最初の領域は、可溶性の長鎖リチウム多硫化物が短鎖リチウム多硫化物に液-液変換するプロセスに対応する。R-TaO3/rGOとS-TaO3/rGOとで特に顕著なピークを示す2つ目の領域は、固体のLi2S2またはLi2Sを生成する液体-固体核生成プロセスに対応する。S-TaO3/rGOにおける電流上昇は、R-TaO3/rGOのそれより早かった。これは、S-TaO3/rGOにおいてLi2Sの析出がより速いことを示唆する。ピーク面積は析出したLi2S量に相当するため、S-TaO3/rGOにおける析出量は、R-TaO3/rGOのそれより大きい。電流が減少し、水平になった3つ目の領域は、拡散律速領域での可溶性リチウム多硫化物の還元に対応する。
【0135】
図21は、
図20の電流-時間特性の測定後の実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットのラマンスペクトルを示す図である。
【0136】
図21には、Li
2Sのラマンスペクトルを併せて示す。比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)と実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO
3/rGO)で観測された373cm
-1のバンドは、Li
2Sのバンドに一致した。このことから、これらの材料中でLi
2Sが核生成したことが確認された。一方、比較例2のS非含侵ペレット(rGO)ではこのようなバンドは見られなかった。このことから、TaO
3ナノメッシュは、Li
2Sの電気化学的析出を効率的に促進し、その核生成のための過電圧を低減できることが示された。
【0137】
図22は、
図20の電流-時間特性の測定後の実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたLi
2S
8コイン電池の電気化学インピーダンス分光法(EIS)曲線およびその等価回路を示す図である。
【0138】
図22によれば、比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)と実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO
3/rGO)とのEIS曲線のインピーダンスデータは1つの半円でフィッティングされ、比較例2のS非含侵ペレット(rGO)のそれは2つの半円でフィッティングされた。この違いは、上述のLi
2Sの核生成における過電圧の違いによると考える。
【0139】
Li2S8を含むテトラグライム電解液中の比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO3/rGO)と実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO3/rGO)では、Li2Sの核生成反応が主要なプロセスである。比較例2のS非含侵ペレット(rGO)では、Li2S核生成の過電圧が高いため、溶解性のリチウム多硫化物間の変換反応のみが起こっている。このことは、Li2S6を含むDOL/DME電解液とLi2S8を含むテトラグライム電解液における比較例2のS非含侵ペレット(rGO)のEIS曲線が同様であることから確認された。
【0140】
実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO3/rGO)は、最大量のLi2Sが堆積した後でも、小さなオーミック抵抗(Rs=5.7Ω)を維持し、比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO3/rGO)のオーミック抵抗Rs=7.9Ω、比較例2のS非含侵ペレット(rGO)のオーミック抵抗Rs=9.5Ωより小さい。実施例1のS非含侵ペレットにおける優れた性能は、rGO/TaO3/rGOのサンドイッチ構造にLi2Sが均一に分布し、かつ、密に接触しているためと考える。
【0141】
図23は、実施例1および比較例1のS非含侵ペレットをLi
2S
6電解質と接触させた後の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【0142】
図23には、Li
2S
6電解質(a)、比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)とLi
2S
6電解質(a)とを接触後の様子(b)、および、実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO
3/rGO)とLi
2S
6電解質(a)とを接触後の様子(c)も併せて示す。
図23によれば、接触前のLi
2S
6電解質は淡黄色を呈したが、実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO
3/rGO)と接触させると無色透明となり、550nm以下の吸収ピークを有しなかった。なお、比較例1のS非含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)もLi
2S
6を一部吸着するものの、十分ではなかった。このことからも、実施例1のS非含侵ペレット(S-TaO
3/rGO)は優れた親和性と吸着性とを有することが示された。これは、実施例1のペレットにおけるrGO/TaO
3/rGOサンドイッチ構造に起因して反応サイトがより多く露出しているためと考える。
【0143】
これらから、本発明の凝集粉末は、硫黄の担体材料として機能し、特に、凝集粉末中のrGO/TaO3/rGOサンドイッチ構造の複合体がリチウム多硫化物を閉じ込め、リチウム多硫化物の行き来を低減できるので、シャトル効果を効果的に抑制できることが示唆される。また、本発明の担体材料は、上述したように、TaO3ナノメッシュの高い触媒活性およびLi2Sの高い核生成を有するため、とりわけ、硫黄を含侵させることにより、リチウム硫黄二次電池の正極として優れた電気化学的特性を示し得る。
【0144】
次に、実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを正極として用いたリチウム硫黄二次電池の電気化学的特性について調べた結果をまとめて説明する。
【0145】
図24は、実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを正極に用いたリチウム硫黄電池のCV特性を示す図である。
【0146】
図24には硫黄担持量が5mg/cm
2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池において、スキャンレートが0.1mV/sの場合のCV特性が示される。比較例2のS含侵ペレット(rGO)を用いた場合、2.17Vと1.81Vとに2つの還元ピークを示し、2.57Vに1つの幅広い酸化ピークを示した。比較例1のS含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)を用いた場合、比較例2と同様に2つの還元ピークと、2.39Vおよび2.56Vの2つの酸化ピークを示した。これらの2つの酸化ピークは、比較例2のそれよりも高い電流を示しており、比較例1のS含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)が比較例2のS含侵ペレット(rGO)よりも高い電気化学活性を示していることが示唆された。これは、TaO
3ナノメッシュの高い触媒活性に起因する。
【0147】
一方、実施例1のS含侵ペレット(S-TaO3/rGO)を用いた場合、2組の酸化還元ピークが示された。2.26Vおよび1.87Vの還元ピークは、硫黄(S8)が長鎖のリチウム多硫化物に変換され、次に短鎖のリチウム多硫化物に変換され、最終的にLi2Sに変換されるプロセスである。逆方向に電位を掃引すると、逆の反応が起こった。実施例1と比較例1との結果を比較すると、実施例1のS含侵ペレット(S-TaO3/rGO)の正極では、比較例1のS含侵ペレット(R-TaO3/rGO)の正極に比べ、高いピーク電流と小さいピーク電位分離とを示した。これは、実施例1のS含侵ペレットは、比較例1のそれに比べ、優れた活性と可逆性とを有することを示す。
【0148】
図25は、実施例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のCV特性を示す図である。
図26は、比較例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のCV特性を示す図である。
図27は、比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のCV特性を示す図である。
図28は、実施例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のピーク電流とスキャンレートの平方根との関係を示す図である。
図29は、比較例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のピーク電流とスキャンレートの平方根との関係を示す図である。
図30は、比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のピーク電流とスキャンレートの平方根との関係を示す図である。
【0149】
図25~
図27には、硫黄担持量が5mg/cm
2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池における種々のスキャンレートのCV特性が示され、正極におけるリチウムイオン(Li
+)の移動能力を評価した。
図28~
図30に示すように、いずれのS含侵ペレットにおいても、ピーク電流(Ip)とスキャンレートの平方根(v
1/2)との間にほぼ直線的な関係が見られ、拡散制御されたプロセスであることが分かった。すなわち、リチウムイオンの拡散係数は、Ipおよびv
1/2による直線の傾きに比例し、これがリチウムイオンの移動能力を示す。
【0150】
実施例1のS含侵ペレット(S-TaO3/rGO)の拡散係数は、比較例1および比較例2のS含侵ペレットのそれよりも大きく、もっとも高いリチウムイオンの移動能力を有することが分かった。これは、TaO3ナノメッシュ面内に存在する開口によってリチウムイオンの三次元方向への移動を可能にするだけでなく、リチウムイオンの拡散距離を低減できるためである。このことから、実施例1のS含侵ペレットをリチウム硫黄二次電池の正極に用いれば、高速充放電を実現できる。
【0151】
図31は、実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池の電気化学インピーダンス分光法(EIS)曲線を示す図である。
【0152】
図31には、等価回路も併せて示す。いずれのEIS曲線も、電荷移動抵抗に対応する高周波数領域における半円と、低周波数領域における直線成分とを有した。実施例1のS含侵ペレット(S-TaO
3/rGO)の電荷移動抵抗(Rct=119.5Ω)は、比較例1のS含侵ペレット(R-TaO
3/rGO)のそれ(Rct=159.7Ω)および比較例2のS含侵ペレット(rGO)のそれ(Rct=188.3Ω)に比べて顕著に小さく、優れた触媒活性を示した。
【0153】
図32は、実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池の充放電特性を示す図である。
図33は、実施例1、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す図である。
図34は、実施例1、比較例1および比較例2のS非含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す図である。
図35は、
図32の充放電特性から得られた各リチウム硫黄電池の充放電の電位差を示す図である。
図36は、
図32の充放電特性から得られた各リチウム硫黄電池の容量Q1およびQ2を示す図である。
【0154】
図32および
図33は、硫黄担持量が5mg/cm
2のS含侵ペレットを用い、充放電電流が2mA/cm
2におけるリチウム硫黄電池の充放電特性およびサイクル特性を示す。
図32によれば、実施例1のS含侵ペレット、比較例1のS含侵ペレットおよび比較例2のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池の放電容量は、それぞれ、1139mAh/g、871mAh/gおよび584mAh/gであった。一方、
図34によれば、硫黄(S
8)を含侵させていないペレットを用いた場合、いずれのリチウム硫黄電池も、低い放電容量を示した。このことから、硫黄は、リチウム硫黄電池における活物質であることが確認された。
【0155】
図33において、実施例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池の初期放電容量は、比較例1および比較例2のそれより高かった。これは、実施例1のS含侵ペレットにおける硫黄の利用率が、比較例1および比較例2のそれよりも高いことを意味する。実施例1のリチウム硫黄電池の放電容量は、最初の10サイクルで1139mAh/gから559mAh/gへと徐々に減少し、その後100サイクルにわたって容量は良好に維持された。一方、比較例1および比較例2のリチウム硫黄電池の放電容量は、100サイクルで、それぞれ、484mAh/gおよび326mAh/gへとさらに減少した。
【0156】
図35は、各リチウム硫黄電池について、
図32の充放電特性における充電プラトーと放電プラトーとの間の電位差ΔEの一覧を示す。電位差ΔEは電池の分極を示しており、電池の分極が大きくなると、硫黄の利用率が低下する。
図35によれば、実施例1のS含侵ペレットを用いると、分極電位が大きく低下した。このことは、実施例1のS含侵ペレットは、リチウム硫黄電池の正極の容量を増大することを示す。
【0157】
再度
図32を参照すると、すべての正極で2組の充放電プラトーが見られた。高電位の充放電プラトーは硫黄と長鎖リチウム多硫化物の変換に相当し、低電位のそれは長鎖リチウム多硫化物から短鎖リチウム多硫化物およびLi
2Sへの変換に相当する。この2つのプロセスに対応する容量をQ1、Q2とし、
図36に示すようにプロットされた。
【0158】
図36によれば、Q2>Q1となっており、長鎖リチウム多硫化物から短鎖リチウム多硫化物およびLi
2Sへの変換プロセスの容量寄与が大きいことを示す。特に、実施例1のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のQ2は、比較例1および比較例2のS含侵ペレットを用いた場合に比べて、顕著に大きかった。このことから、実施例1のS含侵ペレットは、長鎖リチウム多硫化物から短鎖リチウム多硫化物およびLi
2Sへの変換を効率的に行うことができ、リチウム硫黄二次電池の正極として有効であることが分かった。
【0159】
図37は、実施例1の別のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す図である。
【0160】
図37には、硫黄担持量が10mg/cm
2の実施例1のS含侵ペレットを用い、充放電電流が1mA/cm
2におけるリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す。
図37によれば、初期放電容量は1190mAh/gであり、100サイクル後には741mAh/gまで減少し、その後、安定化した。
【0161】
図38は、実施例1のさらに別のS含侵ペレットを用いたリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す図である。
【0162】
図38には、硫黄担持量が15mg/cm
2の実施例1のS含侵ペレットを用い、充放電電流が2mA/cm
2におけるリチウム硫黄電池のサイクル特性を示す。
図38によれば、最初の数サイクルにおいて容量の低下がみられたが、活性化プロセスにより、12.2mAh/cm
2の高い面積容量を達成し、40サイクル以降も10.5mAh/cm
2以上の面積容量を保持した。この面積容量は、674mAh/gに相当する充放電容量であった。我々の知る限り、この面積容量および硫黄担持量はこれまで報告された中でも大幅に向上しており、本発明の正極を用いれば、硫黄利用率を顕著に向上させ、高いエネルギー密度のリチウム硫黄二次電池を提供できることを示唆する。
【0163】
以上より、本発明の複合体(rGO/TaO3/rGOサンドイッチ構造)を含有する凝集粉末に硫黄を担持させることにより、リチウム硫黄二次電池の正極として機能することが示された。本発明の正極は、rGO/TaO3/rGOサンドイッチ構造の複合体間にリチウム多硫化物を閉じ込め、リチウム多硫化物の行き来を低減できるので、シャトル効果を効果的に抑制する。特に、バインダー等を用いることなくペレット化できるので、多くの硫黄を担持できるだけでなく、体積変化にも耐えることができ、極めて有用であることが示された。
本発明のリチウム硫黄二次電池用正極担体材料は、酸化タンタルナノメッシュとグラフェンナノシートとが積層した複合体であるため、複合体間の隙間に硫黄を保持することができ、正極として機能する。特に、酸化タンタルナノメッシュは、リチウムイオンよりも大きく、リチウム多硫化物よりも小さな開口を有するため、リチウムイオンの拡散を阻害しない一方、リチウム多硫化物は担体材料中に効果的に閉じ込められ、シャトル効果が抑制される。また、本発明の担体材料はグラフェンナノシートにより、バインダーや集電体を用いることなく容易にペレット化され、より多くの硫黄を担持できる。このような正極を用いれば電池特性に優れたリチウム硫黄二次電池を提供できる。