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特開2024-75069誘導加熱装置及び誘導加熱装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075069
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】誘導加熱装置及び誘導加熱装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
H05B6/12 315
H05B6/12 324
H05B6/12 329
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186227
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】吉田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】錦織 信晴
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151AA15
3K151CA01
3K151CA22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被加熱物が加熱コイルの上から外れたことを、センサなどの専用部品を搭載することなく、あらゆる使用状況において検知できる。
【解決手段】加熱コイルと、インバータ装置と、インバータ装置から出力された交流電流を検出する電流検出部と、インバータ装置を制御する制御装置とを備え、制御装置が、インバータ装置に制御信号を出力するインバータ制御部と、電流検出部が出力する検出信号を受け付ける信号受付部と、インバータ制御部から制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する検出信号が信号受付部に入力された入力タイミングの遅れを位相として測定する位相測定部と、位相測定部により測定された位相である実位相と閾値とを比較して、被加熱物が加熱コイルの上から外れたか否かを判定する判定部と、制御信号に基づいて閾値を算出することで、閾値を制御信号の出力タイミングに応じて変動させる閾値算出部とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、
前記加熱コイルに交流電流を出力するインバータ装置と、
前記インバータ装置から出力された交流電流を検出する電流検出部と、
前記インバータ装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置が、
前記インバータ装置に制御信号を出力するインバータ制御部と、
前記電流検出部が出力する検出信号を受け付ける信号受付部と、
前記インバータ制御部から前記制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する前記検出信号が前記信号受付部に入力された入力タイミングの遅れを位相として測定する位相測定部と、
前記位相測定部により測定された前記位相である実位相と閾値とを比較して、前記被加熱物が前記加熱コイルの上から外れたか否かを判定する判定部と、
前記制御信号に基づいて前記閾値を算出することで、前記閾値を前記制御信号の出力タイミングに応じて変動させる閾値算出部とを備えることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記閾値が、前記加熱コイルの上から前記被加熱物が外れた状態における前記位相である基準位相、又は、この基準位相に基づいて算出される位相である、請求項1記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記インバータ制御部が、前記加熱コイルの駆動周波数を前記制御信号として出力するとともに、前記インバータ装置を構成するスイッチング素子を制御するオン・オフ信号を前記制御信号として出力するものであり、
前記閾値算出部が、前記駆動周波数及び前記オン・オフ信号のデューティ比をパラメータに含む位相算出式を用いて前記閾値を算出する、請求項1又は2記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記位相算出式には、前記インバータ装置のデッドタイムに起因して生じる前記出力タイミングに対する前記入力タイミングの遅れ分である第1遅れ分がパラメータとして含まれている、請求項3記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記第1遅れ分が、前記デッドタイム及び前記駆動周波数に基づいて算出されている、請求項4記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
前記インバータ装置に接続されたスナバ回路をさらに備え、
前記位相算出式には、前記スナバ回路に起因して生じる前記出力タイミングに対する前記入力タイミングの遅れ分である第2遅れ分がパラメータとして含まれている、請求項3記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
前記第2遅れ分が、前記インバータ装置から出力される交流電圧のピーク値を用いて算出されている、請求項6記載の誘導加熱装置。
【請求項8】
前記位相算出式には、前記制御装置を構成する電子機器に起因して生じる前記出力タイミングに対する前記入力タイミングの遅れ分である第3遅れ分がパラメータとして含まれている、請求項3記載の誘導加熱装置。
【請求項9】
被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、前記加熱コイルに交流電流を出力するインバータ装置と、前記インバータ装置から出力された交流電流を検出する電流検出部と、前記インバータ装置を制御する制御装置とを備える誘導加熱装置に用いられるプログラムであって、
前記インバータ装置に制御信号を出力するインバータ制御部と、
前記電流検出部が出力する検出信号を受け付ける信号受付部と、
前記インバータ制御部から前記制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する前記検出信号が前記信号受付部に入力された入力タイミングの遅れを位相として測定する位相測定部と、
前記位相測定部により測定された前記位相である実位相と閾値とを比較して、前記被加熱物が前記加熱コイルの上から外れたか否かを判定する判定部とを備え、
前記制御信号に基づいて前記閾値を算出することで、前記閾値を前記制御信号の出力タイミングに応じて変動させる閾値算出部としての機能を前記制御装置に発揮させることを特徴とする誘導加熱装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物を誘導加熱する誘導加熱装置及びこの装置に用いられる誘導加熱装置用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加熱装置としては、特許文献1に示すように、例えば調理用鍋などの被加熱物を加熱するIH調理器等に用いられるものであって、被加熱物が加熱コイルの上から外れたこと(以下、鍋外れともいう)を検知するように構成されたものがある。
【0003】
鍋外れを検知する具体的な方法としては、例えばセンサを用いて鍋の有無を検出する方法を挙げることができるが、この場合はセンサを搭載することで装置の高コスト化を招くという問題が生じる。
【0004】
センサを用いることなく鍋外れを検知する方法としては、例えば駆動周波数などに基づいて鍋外れ判定用の判定値を算出し、その判定値と所定の閾値とを比較する方法を挙げることができる。
【0005】
しかしながら、加熱コイルの駆動周波数は鍋の材質や大きさや目標火力などによって変わるので、鍋外れを正確に検知するためには、閾値などの条件設定をあらゆる使用状況に対応させる必要があり、現実的には難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5225465号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題を一挙に解決すべくなされたものであり、被加熱物が加熱コイルの上から外れたことを、センサなどの専用部品を搭載することなく、あらゆる使用状況において検知できるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る誘導加熱装置は、被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、前記加熱コイルに交流電流を出力するインバータ装置と、前記インバータ装置から出力された交流電流を検出する電流検出部と、前記インバータ装置を制御する制御装置とを備えたものである。
そして、前記制御装置が、前記インバータ装置に制御信号を出力するインバータ制御部と、前記電流検出部が出力する検出信号を受け付ける信号受付部と、前記インバータ制御部から前記制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する前記検出信号が前記信号受付部に入力された入力タイミングの遅れを位相として測定する位相測定部と、前記位相測定部により測定された前記位相である実位相と閾値とを比較して、前記被加熱物が前記加熱コイルの上から外れたか否かを判定する判定部と、前記制御信号に基づいて前記閾値を算出することで、前記閾値を前記制御信号の出力タイミングに応じて変動させる閾値算出部とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
このように構成された誘導加熱装置によれば、判定部が、位相測定部により測定された実位相と閾値とを比較して、被加熱物がコイルの上から外れたか否かを判定するので、この判定のための専用のセンサを不要にすることができる。
しかも、閾値算出部が、制御信号に基づいて閾値を算出することで、閾値を制御信号の出力タイミングに応じて変動させるので、閾値が、被加熱物の大きさや材料或いは加熱状況など、装置の使用状況に応じた動的な値となる。
これにより、被加熱物が加熱コイルの上から外れたことを、センサなどの専用部品を搭載することなく、あらゆる使用状況において検知することができる。
【0010】
被加熱物の外れをより正確に判定できるようにするためには、前記閾値が、前記加熱コイルの上から前記被加熱物が外れた状態における前記位相である基準位相、又は、この基準位相に基づいて算出される位相であることが好ましい。
【0011】
前記インバータ制御部が、前記加熱コイルの駆動周波数を前記制御信号として出力するとともに、前記インバータ装置を構成するスイッチング素子を制御するオン・オフ信号を前記制御信号として出力するものであり、前記閾値算出部が、前記駆動周波数及び前記オン・オフ信号のデューティ比をパラメータに含む位相算出式を用いて前記基準位相を算出することが好ましい。
これならば、駆動周波数のみならず、デューティ比を変更して出力を制御する構成、言い換えれば、制御に用いられるパラメータが多い構成においても、被加熱物の外れをあらゆる使用状況において検知することができ、本願発明の作用効果をより顕著に発揮させることができる。
【0012】
前記位相算出式には、前記インバータ装置のデッドタイムに起因して生じる前記出力タイミングに対する前記入力タイミングの遅れ分である第1遅れ分がパラメータとして含まれていることが好ましい。
これならば、デッドタイミングを加味して基準位相を算出することができ、被加熱物の外れをより正確に判定できるようになる。
【0013】
より具体的な実施態様としては、前記第1遅れ分が、前記デッドタイム及び前記駆動周波数に基づいて算出されている態様を挙げることができる。
【0014】
前記インバータ装置に接続されたスナバ回路をさらに備え、前記位相算出式には、前記スナバ回路に起因して生じる前記出力タイミングに対する前記入力タイミングの遅れ分である第2遅れ分がパラメータとして含まれていることが好ましい。
これならば、スナバ回路のキャパシタ容量による遅れを加味して基準位相を算出することができ、被加熱物の外れをより正確に判定できるようになる。
【0015】
より具体的な実施態様としては、前記第2遅れ分が、前記インバータ装置から出力される交流電圧のピーク値を用いて算出されている態様を挙げることができる。
【0016】
前記位相算出式には、前記制御装置を構成する電子機器に起因して生じる前記出力タイミングに対する前記入力タイミングの遅れ分である第3遅れ分がパラメータとして含まれていることが好ましい。
これならば、制御装置の例えばマイコン、ドライバーIC、回路等の遅れを加味して基準位相を算出することができ、被加熱物の外れをより正確に判定できるようになる。
【0017】
また、本発明に係る誘導加熱装置用プログラムは、被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、前記加熱コイルに交流電流を出力するインバータ装置と、前記インバータ装置から出力された交流電流を検出する電流検出部と、前記インバータ装置を制御する制御装置とを備える誘導加熱装置に用いられるプログラムであって、前記インバータ装置に制御信号を出力するインバータ制御部と、前記電流検出部が出力する検出信号を受け付ける信号受付部と、前記インバータ制御部から前記制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する前記検出信号が前記信号受付部に入力された入力タイミングの遅れを位相として測定する位相測定部と、前記位相測定部により測定された前記位相である実位相と閾値とを比較して、前記被加熱物が前記加熱コイルの上から外れたか否かを判定する判定部と、前記制御信号に基づいて前記閾値を算出することで、前記閾値を前記制御信号の出力タイミングに応じて変動させる閾値算出部としての機能を前記制御装置に発揮させることを特徴とするものである。
このような誘導加熱装置用プログラムによれば、上述した誘導加熱装置と同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、被加熱物が加熱コイルの上から外れたことを、センサなどの専用部品を搭載することなく、あらゆる使用状況において検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態における誘導加熱装置の全体構成を示す模式図。
図2】同実施形態における制御部の制御態様を説明する参考図。
図3】同実施形態における位相測定部の動作を説明する参考図。
図4】同実施形態における判定部の動作を説明する参考図。
図5】同実施形態における閾値算出部が算出する基準位相を示すグラフ。
図6】同実施形態における制御装置の動作を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る誘導加熱装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係る誘導加熱装置100は、例えばIH調理器等に用いられるものであり、調理用鍋などの被加熱物を誘導加熱するものである。
【0022】
具体的に誘導加熱装置100は、図1に示すように、被加熱物を誘導加熱する加熱コイル1と、加熱コイル1に電力を供給するインバータ装置2と、インバータ装置2を制御する制御装置3とを備えている。
【0023】
さらに誘導加熱装置100は、同図1に示すように、加熱コイル1に直列接続された共振コンデンサなどからなる共振回路4と、インバータ装置2に供給される電流を検出する第1電流検出部I1と、商用電源からインバータ装置2に供給される電圧を検出する電圧検出部Vと、インバータ装置2から共振回路4に出力される電流を検出する第2電流検出部I2とを備えている。
【0024】
加熱コイル1は、調理用鍋などが載置されるトッププレート(不図示)の下に設けられ、当該トッププレートを介して調理用鍋を誘導加熱するものである。本実施形態では、1つの加熱コイル1が設けられているが、加熱コイル1の数はこれに限らず、適宜変更して構わない。
【0025】
インバータ装置2は、加熱コイル1それぞれに対応して設けられており、具体的には、加熱コイル1に高周波電流を供給するインバータ回路21と、インバータ回路21を駆動する駆動回路22とから構成されている。
【0026】
インバータ回路21は、商用電源から供給される電圧を高周波に変換して、加熱コイル1に高周波電流を供給するものであり、ここでは、スイッチング素子SWを用いたハーフブリッジ方式のものである。ただし、インバータ回路21の具体的な構成は、例えばフルブリッジ方式のものなど、適宜変更して構わない。
【0027】
駆動回路22は、インバータ回路21を構成するスイッチング素子SWを動作させるものであり、後述する制御装置3からの制御信号に基づいてスイッチング素子SWのオン・オフを切り替えるものである。
【0028】
制御装置3は、被加熱物を所望の火力により加熱するようにインバータ装置2を制御するものである。
【0029】
本実施形態の制御装置3は、図1に示すように、ユーザにより操作される操作部31と、操作部31からの出力を受け付けてインバータ装置2を制御する制御部32とを備えている。
【0030】
操作部31は、ユーザにより操作されるコントローラであり、ユーザが設定した加熱コイルの火力に対応する電力(すなわち、出力)を目標電力として制御部32に出力する電力指令部311としての機能を発揮するものである。
【0031】
制御部32は、上述した第1電流検出部I1及び電圧検出部Vにより検出される検出電流及び検出電圧に基づいて、実際の電力(すなわち、実際の出力)である実電力を算出する電力算出部321と、この実電力が目標電力(すなわち、目標出力)に近づくようにインバータ装置2を制御するインバータ制御部322としての機能を発揮するものである。
【0032】
より具体的に説明すると、インバータ制御部322は、インバータ装置2から加熱コイル1に供給される電力の周波数である駆動周波数を制御するとともに、インバータ装置2を構成するスイッチング素子SWのオン・オフを制御するものである。
【0033】
つまり、このインバータ制御部322は、インバータ装置2に対して、駆動周波数を示す制御信号を出力するとともに、スイッチング素子SWを制御するオン・オフ信号を制御信号として出力する。
【0034】
ここでのインバータ制御部322は、駆動周波数を制御するとともに、スイッチング素子SWのオン・オフのデューティ比をも制御するものであり、言い換えれば、駆動周波数を変更することにより、実際の出力を目標出力に近づける第1制御態様と、スイッチング素子SWのデューティ比を変更することにより、実際の出力を目標出力に近づける第2制御態様とに切り替わる。
【0035】
第1制御態様は、図2の上段に示すように、スイッチング素子SWを固定デューティ比でオン・オフしつつ、駆動周波数を変更する制御である。
【0036】
本実施形態の第1制御態様は、オンデューティ比を50%に固定したPFM(パルス周波数変調)制御である。ただし、固定デューティ比は50%に限らず、例えばハイサイドを60%、ローサイドを40%にするなど、ハイサイドとローサイドとが補間関係であれば適宜変更しても良いし、具体的な制御態様は、PFM制御に限らずPWM(パルス幅変調)制御などであっても良い。
【0037】
第2制御態様は、図2の下段に示すように、駆動周波数を固定しつつ、スイッチング素子SWを可変デューティ比でオン・オフする制御である。
【0038】
本実施形態の第2制御態様は、ハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比と、ローサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比とを異ならせる(非対称な)制御であり、実電力が目標電力と一致するように、例えばハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を下げていく。ただし、実電力が目標電力と一致するように、ローサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を上げても良い。
【0039】
なお、かかる第2制御態様において、ハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比が、例えばこの実施形態では30%を下回ると、スイッチング素子SWの故障につながる恐れがある。なお、スイッチング素子SWの故障を招来し得るオンデューティ比の下限値は30%に限らず、装置構成に応じて変動する値である。
【0040】
そこで、本実施形態では、ハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を30%以上50%未満に変更可能にしてあり、これによりローサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比は100%からハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を差し引いたものとなるようにしてある。
【0041】
そして、インバータ制御部322は、所定の規則に従って、或いは、操作部31からの制御信号に基づいて、第1制御態様又は第2制御態様に切り替わりながら、実電力を目標電力に一致させるようにインバータ装置2を制御する。
【0042】
然して、本実施形態の制御装置3は、図1に示すように、信号受付部323、位相測定部324、判定部325、及び、閾値算出部326としての機能をさらに備えている。
【0043】
信号受付部323は、インバータ制御装置から加熱コイル1に出力された電流を上述した第2電流検出部I2が検知した場合に、その第2電流検出部I2が出力する検出信号を受け付ける。
【0044】
この検出信号は、検出した電流の大きさを示すものであり、本実施形態の信号受付部323は、第2電流検出部I2により検出された電流の大きさが電圧に変換されたものを検出信号として逐次受け付ける。
【0045】
位相測定部324は、インバータ制御部322から制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する検出信号が信号受付部323に入力された入力タイミングの遅れを位相として測定する。
【0046】
なお、ここでいう制御信号に対応する検出信号とは、その制御信号によりスイッチング素子SWが動作して、これによりインバータ装置2から電流が出力され、その電流が第2電流検出部I2で検出されることで出力される検出信号である。
【0047】
より具体的に説明すると、位相測定部324は、インバータ制御部322からインバータ装置2に出力される制御信号として、スイッチング素子SWをオン・オフさせるオン・オフ信号を監視するとともに、例えばオン信号が出力されたタイミングを上述した出力タイミングとして取得する。
【0048】
一方、位相測定部324は、信号受付部323に逐次入力される検出信号の示す電流の大きさを監視するとともに、その電流の変動が例えばゼロクロス点(ゼロ地点)など所定の電流値を通過するタイミングを上述した入力タイミングとして取得する。
【0049】
そして、位相測定部324は、図3に示すように、オン信号が出力された出力タイミングと、そのオン信号に対応して電流の変動が例えばゼロクロス点を通過する入力タイミングとを比較して、これらの出力タイミング及び入力タイミングの時間差又は時間のズレの割合を位相として測定する。
【0050】
そして、この位相は、加熱コイル1の上に被加熱物が乗っている場合と、加熱コイル1の上から被加熱物が外れた場合とで差が生じる。これは、被加熱物の有無により、共振回路4のリアクタンス等の電気的な特性が変わるからである。
【0051】
そこで、判定部325は、位相測定部324により測定された位相である実位相と閾値とを比較して、被加熱物が加熱コイル1の上から外れたか否かを判定する。
【0052】
より具体的に説明すると、閾値は、加熱コイル1の上から被加熱物が外れた状態における位相(以下、基準位相という)、又は、この基準位相に基づいて算出される位相である。
【0053】
本実施形態では、図4に示すように、基準位相から所定のオフセット値を差し引いた値を閾値として設定しており、判定部325は、実位相が閾値を超えた場合に、被加熱物が加熱コイル1の上から外れていると判定する。なお、閾値としては、基準位相に所定値を乗じた値又は所定値で割った値としても良い。
【0054】
そして、この基準位相は、共振回路4の抵抗値、リアクタンス値、キャパシタ容量、駆動周波数、及びデューティ比などから理論的に算出可能である。言い換えれば、基準位相は、共振回路4の抵抗値、リアクタンス値、キャパシタ容量、駆動周波数、及びデューティ比をパラメータに含む位相算出式を用いて算出可能な理論値である。
【0055】
従って、基準位相は、駆動周波数及びデューティ比を制御している間に変動する値であり、この基準位相に基づいて定まる閾値も、動周波数及びデューティ比を制御している間に変動する。
【0056】
そこで、本実施形態の閾値算出部326は、制御信号に基づいて閾値を算出することで、閾値を制御信号の出力タイミングに応じて変動させるように構成されている。
【0057】
すなわち、この閾値算出部326は、加熱コイル1の上に被加熱物が乗せられている状態において、加熱コイル1の上から被加熱物が外れた場合の理論値たる基準位相を逐次算出するとともに、その基準位相に基づいて閾値を逐次算出する。
【0058】
より具体的に説明すると、上述した通り、インバータ制御部322は、駆動周波数を示す制御信号を出力するとともに、スイッチング素子SWのオン・オフ信号を制御信号として出力するところ、閾値算出部326は、駆動周波数及びオン・オフ信号のデューティ比をパラメータに含む位相算出式を用いて基準位相を算出する。
【0059】
この位相算出式としては、例えば以下の式(1)で表せるものを挙げることができる。
DCP[%]=k×Arctan((ωLcoil-1/ωCap)/Rcoil) ×Duty・・・式(1)
ここで、DCPは算出される位相の値、kは所定の係数、ωは2π×F、Fは駆動周波数、Dutyはスイッチング素子SWのデューティ比、Rcoilは共振回路4の抵抗値、Lcoilは共振回路4のリアクタンス値、Capは共振回路4のキャパシタ容量である。
【0060】
上述した式(1)をそのまま用いて基準位相を算出しても構わないが、本実施形態の閾値算出部326は、この式(1)で求まる位相値を理論位相値として、この理論位相値に種々の追加要素を加味した以下の式(2)を位相算出式として用いている。ただし、位相算出式は式(1)や式(2)に限られるものではなく、適宜変更して構わない。
DCP[%]=理論位相値[%]-第1遅れ分[%]+第2遅れ分[%]+第3遅れ分[%]・・・式(2)
【0061】
ここで、位相算出式(2)に含まれるパラメータの第1遅れ分は、インバータ装置2のデッドタイムに起因して生じる出力タイミングに対する入力タイミングの遅れ分である。なお、デッドタイムとは、ハイサイドのスイッチング素子SWとローサイドのスイッチング素子SWの双方がオフになる時間であり、インターロック遅延時間とも称する。
【0062】
本実施形態の閾値算出部326は、第1遅れ分をデッドタイム及び駆動周波数に基づいて算出しており、具体的には駆動周波数の逆数に対するデッドタイムの比率を第1遅れ分として算出する。
【0063】
ここで、本実施形態の誘導加熱装置100は、図1に示すように、インバータ装置2に接続されたスナバ回路5をさらに備えており、位相算出式(2)に含まれるパラメータの第2遅れ分は、前記スナバ回路5に起因して生じる出力タイミングに対する入力タイミングの遅れ分である。
【0064】
本実施形態の閾値算出部326は、第2遅れ分をスナバ回路5のキャパシタ容量を用いて算出しており、ここでは、共振回路4に入力される交流電圧のピーク値、言い換えれば、インバータ装置2から出力される交流電圧のピーク値をも用いて算出している。
【0065】
また、位相算出式(2)に含まれるパラメータの第3遅れ分は、制御装置を構成する電子機器に起因して生じる出力タイミングに対する入力タイミングの遅れ分である。
この第3遅れ分は、例えば制御装置を構成するマイコン、ドライバーIC、回路等に起因して生じるものであり、例えば実験的に予め求めた値を用いても良いし、制御装置の回路構成等から凡そ推測される値を用いても良い。
【0066】
上述した位相算出式(2)により算出される基準位相は、図5に示すように、駆動周波数及びデューティ比に応じて異なる値となり、この基準位相に基づいて閾値算出部326により算出される閾値も、駆動周波数及びデューティ比に応じて異なる値となる。
【0067】
続いて、上述した制御装置3の動作を図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0068】
まず、制御装置3は、位相算出式に含まれるパラメータのうち、例えば共振回路4を構成する機器の設計値により定まるパラメータの値(以下、固定値ともいう)を予め初期計算により算出し、その固定値を例えば内部メモリに格納する(S1)。
【0069】
この固定値は、制御装置3による出力(火力)の制御中に変動しないパラメータの値であり、具体的には、共振回路4の抵抗値、リアクタンス値、及び、キャパシタ容量などである。
【0070】
その後、被加熱物を所望の火力で加熱するべく、ユーザが操作部31を操作すると、インバータ装置2から加熱コイル1への電流供給が開始される(S2)。
【0071】
次いで、インバータ制御部322が、第1制御態様又は第2制御態様にて、実際の出力が目標出力に一致するよう、加熱コイル1の駆動周波数と、スイッチング素子SWのデューティ比とを制御する(S3)。
【0072】
続いて、閾値算出部326が、位相算出式を用いて基準位相を逐次算出し、その基準位相を用いて閾値を動的に変更する(S4)。この際、駆動周波数及びデューティ比は、インバータ制御部322から出力される制御信号に基づいて取得し、それ以外のパラメータの値は、上述した内部メモリに格納されている固定値を用いており、これによって基準位相の算出速度の向上を図っている。
【0073】
次に、位相測定部324が、インバータ制御部322から制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する検出信号が信号受付部323に入力された入力タイミングの遅れを実位相として測定する(S5)。
【0074】
そして、判定部325が、測定された実位相と、出力タイミングに応じて変動する閾値とを比較して、被加熱物が加熱コイル1の上から外れたか否かを判定する(S6)。具体的に判定部325は、実位相が閾値以下の場合に、被加熱物が加熱コイル1の上に乗せされていると判定し、実位相が閾値よりも大きい場合に、被加熱物が加熱コイル1の上から外れたと判定する。
【0075】
S6において、被加熱物が加熱コイル1の上に乗っていると判定された場合、S3に戻り、S3~S6までの動作が繰り返される。
【0076】
一方、S6において、被加熱物が加熱コイル1の上から外れたと判定された場合、インバータ制御部322が、インバータ制御装置に停止信号を出力して、誘導加熱装置100の出力を停止させる(S7)。
【0077】
このように構成した誘導加熱装置100によれば、判定部325が、位相測定部324により測定された実位相と閾値とを比較して、被加熱物がコイルの上から外れたか否かを判定するので、この判定のための専用のセンサを不要にすることができる。
しかも、閾値算出部326が、制御信号に基づいて閾値を算出することで、閾値を制御信号の出力タイミングに応じて変動させるので、閾値が、被加熱物の大きさや材料或いは加熱状況など、装置の使用状況に応じた動的な値となる。
これにより、被加熱物が加熱コイル1の上から外れたことを、センサなどの専用部品を搭載することなく、あらゆる使用状況において検知することができる。
【0078】
また、閾値算出部326が、制御信号の示す駆動周波数及びオン・オフ信号のデューティ比をパラメータに含む位相算出式を用いて基準位相を算出するので、駆動周波数のみならず、デューティ比を変更して出力を制御する構成、言い換えれば、制御に用いられるパラメータが多い構成においても、被加熱物の外れをあらゆる使用状況において検知することができ、上述した作用効果、すなわち、あらゆる使用状況において被加熱物が加熱コイル1の上から外れたことを検知することができるといった作用効果をより顕著に発揮させることができる。
【0079】
さらに、位相算出式には、インバータ装置2のデッドタイムに起因して生じる第1遅れ分がパラメータとして含まれているので、デッドタイミングを加味して基準位相を算出することができ、被加熱物の外れをより正確に判定できるようになる。
【0080】
加えて、位相算出式には、スナバ回路5に起因して生じる第2遅れ分がパラメータとして含まれているので、スナバ回路5のキャパシタ容量等による遅れを加味して基準位相を算出することができ、被加熱物の外れをより正確に判定できるようになる。
【0081】
そのうえ、位相算出式には、制御装置を構成する電子機器に起因して生じる第3遅れ分がパラメータとして含まれているので、制御装置の例えばマイコン、ドライバーIC、回路等の遅れを加味して基準位相を算出することができ、被加熱物の外れをより正確に判定できるようになる。
【0082】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0083】
例えば、前記実施形態では、スイッチング素子SWを制御するためのオン信号が出力されたタイミングを出力タイミングとして説明したが、出力タイミングはこれに限らず、例えばオフ信号が出力されたタイミングとしても良い。
【0084】
また、前記実施形態では、検出信号の示す電流値がゼロクロス点(ゼロ地点)を通過するタイミングを入力タイミングとして説明したが、入力タイミングはこれに限らず、例えば電流値が最大値又は最小値になるタイミングとしても良い。
【0085】
前記実施形態の位相算出式は、第1遅れ分、第2遅れ分、及び第3遅れ分を加味していたが、これらの遅れ分のうち1つ又は2つのみを加味しても良いし、これらの遅れ分とは異なる1又は複数の遅れ分を加味しても良い。
【0086】
さらには、上述した遅れ分を加味することなく、前記実施形態における式(1)を位相算出式として用いても良い。
【0087】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0088】
100・・・誘導加熱装置
1 ・・・加熱コイル
2 ・・・インバータ装置
SW ・・・スイッチング素子
3 ・・・制御装置
31 ・・・操作部
32 ・・・制御部
321・・・電力算出部
322・・・インバータ制御部
323・・・信号受付部
324・・・位相測定部
325・・・判定部
326・・・閾値算出部
4 ・・・共振回路
5 ・・・スナバ回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6