(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075076
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】新規変異導入方法による進化ライブラリの作成およびそのライブラリを用いたペプチドスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20240527BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20240527BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240527BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
C12N15/10 200Z
C40B40/08 ZNA
C07K16/00
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186245
(22)【出願日】2022-11-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊地 重文
(72)【発明者】
【氏名】正木 秀和
(72)【発明者】
【氏名】土屋 政幸
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 目的のタンパク質に近い機能を有するタンパク質に指向性進化したタンパク質を得るための変異導入方法を提供することを目的とする。また、上記変異導入方法を用いた進化ライブラリを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、(a1)所望の機能を有する候補ペプチドを選択する選択工程と;(a2)出現頻度決定工程と;(a3)変異導入用アミノ酸配列決定工程と;(a4)部位飽和変異導入工程と;を備える、変異導入ペプチドをコードするヌクレオチド配列を取得するための変異導入方法を提供する。また、上記変異導入方法により得られた変異導入ヌクレオチド、及び前記ヌクレオチドで構成される進化ライブラリを提供する。これによってより効率的に所望の機能が向上したペプチドを取得することを可能とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)一群のペプチドを機能評価し、所望の機能を有する候補ペプチドを選択する選択工程と;
(a2)前記候補ペプチドのアミノ酸配列と前記一群のペプチドのアミノ酸配列とを比較し、各アミノ酸位置において前記候補ペプチドのアミノ酸と同じアミノ酸を前記一群のペプチドが含んでいる頻度を求める、出現頻度決定工程と;
(a3)前記出現頻度決定工程において決定された各アミノ酸位置での出現頻度のうち、前記出現頻度が最も低いアミノ酸(被置換アミノ酸1)の位置を変異導入部位1とし、2番目に低いアミノ酸(被置換アミノ酸2)の位置を変異導入部位2とするように、低い方から少なくとも1つの変異導入部位を決定し、その他の各アミノ酸位置における最頻アミノ酸種を各位置における決定アミノ酸とする変異導入用アミノ酸配列決定工程と;
(a4)前記決定されたアミノ酸配列を規定するヌクレオチド配列中、前記変異導入部位に対応するコドンをランダムコドンに置換する変異導入工程と;
を備える、変異導入ペプチドをコードするヌクレオチド配列を取得するための変異導入方法。
【請求項2】
前記一群のペプチドが、スクリーニングによって選択されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の変異導入方法。
【請求項3】
前記スクリーニングが、ファージディスプレイ法、細胞表面ディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、mRNAディスプレイ法、およびcDNAディスプレイ法からなる群から選ばれるいずれかの指向性進化法であることを特徴とする、請求項2に記載の変異導入方法。
【請求項4】
前記機能評価が、結合活性評価又は細胞アッセイであることを特徴とする、請求項1に記載の変異導入方法。
【請求項5】
前記出現頻度決定工程において、比較するアミノ酸配列が前記候補ペプチド及び前記一群のペプチドの全長アミノ酸配列の一部であることを特徴とする、請求項1に記載の変異導入方法。
【請求項6】
前記比較するアミノ酸配列の一部において、前記候補ペプチドのアミノ酸配列と20~40%以上異なるアミノ酸配列を有するペプチドを、前記出現頻度決定工程の前に前記一群のペプチドから除いておくことを特徴とする、請求項5に記載の変異導入方法。
【請求項7】
前記変異導入部位の数が、前記ペプチドを構成するアミノ酸総数の20~40%又は前記ペプチドのうち任意の一部アミノ酸配列中のアミノ酸総数の20~40%であることを特徴とする、請求項1又は請求項6に記載の変異導入方法。
【請求項8】
前記指向性進化法が前記mRNAディスプレイ法又は前記cDNAディスプレイ法のいずれかであって、ヌクレオチドとそのヌクレオチドにコードされているペプチドとを対応付けるためのリンカーを用いるものであり、
前記リンカーは、
前記ペプチドを提示するペプチド提示部を3’末端に有し、5’末端に主鎖と結合する主鎖結合部位を有し、前記ペプチド提示部と前記主鎖結合部位との間に蛍光標識を有する側鎖と、
5’末端から固相結合部位と、前記ペプチドをコードするmRNAを連結させるmRNA連結部位と、前記mRNAを逆転写して得られるcDNAを結合させるための逆転写領域とを有する主鎖と、によって構成される請求項3に記載の変異導入方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の変異導入方法で変異を導入したヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載のヌクレオチドで構成される進化ライブラリ。
【請求項11】
請求項10に記載の進化ライブラリのスクリーニングにより取得される、変異導入産物。
【請求項12】
前記変異導入産物は、変異導入ヌクレオチド又は変異導入ペプチドであることを特徴とする、請求項11に記載の変異導入産物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より効率的にペプチドを進化させるための変異導入方法、および変異が導入されたペプチドのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物は自然に発生する遺伝子の変異の結果として、進化を遂げてきた。そして、その進化を利用して、より望ましい機能を有するタンパク質を得るための手法が指向性進化分子工学である。進化分子工学は、人工的に変異を導入したタンパク質を多種類用意し、その中から望ましい機能を有するタンパク質を選択することにより、望ましいタンパク質へより迅速に進化させることができる。
【0003】
進化工学の手法は、変異を持ったタンパク質又は遺伝子のライブラリを作成する工程、及びそのライブラリから望ましい機能を有するタンパク質を選択する工程に分けることができる。
【0004】
タンパク質を構成するアミノ酸数は数百にも上ることから、全てのアミノ酸に変異を導入したライブラリを用いてスクリーニングすることは、膨大な時間を要し効率が悪い。そこで、より効率的にタンパク質を進化させるために、進化させたい機能を司る部位のアミノ酸配列を特定し、その部位だけに変異を導入する手法が開発された。
こうした方法として、アラニンスキャニング(非特許文献1参照。以下、「従来技術1」という。)が知られている。この方法は、特定のタンパク質のアミノ酸配列中のある1つのアミノ酸をアラニンに置換することを順に繰り返すことで、ある機能にとって重要なアミノ酸残基を特定するというものである。このため、アラニンスキャニングは、機能を喪失した点変異体を得るのに便利な方法として知られている。
【0005】
また、あるタンパク質に望ましい機能をもたらす変異を狙って導入することが困難であることは、当業者には周知である。このため、一般的に、ランダム変異の導入又はDNAシャッフリングなどの手法が、ランダムライブラリの作製に使用されている。上記ランダム変異の導入には、変異原性のある化学物質を使用するものと、PCRを利用した部位選択的変異導入法(site-directed mutagenesis)とがあることが知られている。また、特定の遺伝子に対して、PCRの際に生じる複製エラーを利用してランダム変異を導入する、エラープローンPCRという技術(非特許文献2参照。以下、「従来技術2」という。)が知られている。
【0006】
一方で、ヒトのゲノムが解読され全てのヒト遺伝子配列が入手可能になったこと、タンパク質の3次元構造データの蓄積が進んだこと、そして、コンピュータ技術が発達したことによって、in silicoでのタンパク質デザインに基づく進化工学という技術(以下、「従来技術3」)も近年めざましく発展している。この手法では、目的のタンパク質に関する既存の知識を基に、変異を導入した時の機能をコンピュータで予測する、又は蓄積されたタンパク質の構造データから全く新規な部位に変異を導入したときの機能をコンピュータで予測することができるようになりつつある。
【0007】
ここで、「スクリーニング」とは、「ふるいにかけること」を意味し、複数の対象の中から、特定の条件に合ういくつかの対象を選び出すことを言う。本明細書においては、上記のような方法を利用して作成されたライブラリから、望ましい機能を有するタンパク質を選択する操作を「スクリーニング」という。こうしたスクリーニングの系としては遺伝子型-表現型対応付け技術が有用であることが知られており、その理由は下記の通りである。タンパク質又はペプチドといった分子を進化させるためには、遺伝情報を担う遺伝子型とその表現型であるタンパク質又はペプチドの機能という2つを利用して、スクリーニングを行うことが知られている。
【0008】
スクリーニング対象として変異の導入されたライブラリを作製するには、遺伝子型(遺伝子)が適している。これに対して、機能面から分子をスクリーニングするには表現型(タンパク質)を用いる探索が適している。遺伝子型-表現型対応付け技術では、遺伝情報とそれにコードされているタンパク質が1対1で紐づけられている。そのため、作成した遺伝子ライブラリから翻訳したタンパク質をスクリーニングし、得られたタンパク質のヌクレオチド配列を解析することで、容易にそのアミノ酸配列を特定することができる。これが遺伝子型-表現型対応付け技術の利点である。
【0009】
前記技術として、ファージディスプレイ法、細胞表層ディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、mRNAディスプレイ法、cDNAディスプレイ法その他のディスプレイ法に関する技術がこれまで報告されている。これらの中でも、特に、無細胞系によるタンパク質の翻訳、及び扱えるライブラリのサイズの大きさという観点から、cDNAディスプレイ法を利用したスクリーニングの有用性が知られている(特許文献1参照。以下、「従来技術4」という。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】NATURE COMMUNICATIONS | (2021) 12:5506 | https://doi.org/10.1038/s41467-021-25777-z
【非特許文献2】Frontiers in Immunology, September 2017 | Volume 8 | Article 986, doi: 10.3389/fimmu.2017.00986
【非特許文献3】Int. J. Mol. Sci. 2019, 20, 4187; doi:10.3390/ijms20174187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術1は、タンパク質を構成する各アミノ酸残基の役割を検討する手法であるため、タンパク質の機能部位を高い確率で発見することができるという点では優れた技術である。しかし、従来技術1では、タンパク質の構成成分であるアミノ酸を、1つずつアラニンに置換したタンパク質を作製し、その後、そうした置換を含むタンパク質の機能を個々に評価する必要がある。このため、前記タンパク質を構成するアミノ酸を1つずつアラニンに置換するために手間と時間とを要し、得られたタンパク質の機能部位を特定して評価するためにもさらに手間と時間とを要するという問題がある。
【0013】
また、従来技術2のなかでも、PCRを応用した部位選択的変異導入法(site-directed mutagenesis)は、任意に変異導入部位を選択できること、又は任意に変異配列の設計ができるという点では優れた発明である。また、エラープローンPCRは、DNAポリメラーゼ反応を行なう際の反応条件を制御することにより、一定の頻度で人為的に変異を導入することができるという点では優れた発明である。例えば、DNA配列にランダムな変異を導入する方法として、Mn2+を過剰に反応液に添加する、又は反応液中のdNTPsの比を変化させる等の反応条件を変化させてPCRを行うことにより、簡便にランダム変異を導入することができる。しかし、従来技術2には、変異導入箇所を制御できないという根本的な問題があり、さらに導入可能な変異が特定の部位にあるアミノ酸に限定されるという問題もある。
【0014】
従来技術3は、in silicoでタンパク質をデザインできるため、実験設備が不要で、少ない人数で実施できるという点では優れた技術である。しかし、in silicoでのタンパク質デザインは、タンパク質間相互作用の予測に必要なドッキング及び分子動態の計算精度に依存し、また非常に高性能の計算機を必要とし、さらに計算にも時間がかかるため、そのコストが高いという問題がある。
【0015】
従来技術4による遺伝子ライブラリのスクリーニング方法は、1012個~1013個という膨大な数のタンパク質をin vitroでスクリーニングし、そのヌクレオチド配列を容易に決定できる点では優れた発明である。しかし、1012個~1013個はヌクレオチド配列では約21塩基、つまりアミノ酸換算で7~10アミノ酸程度の多様性でしかなく、スクリーニングの規模として多様性が十分ではないという問題があった。つまり、cDNAディスプレイ法により得られたタンパク質にはまだ進化の余地が残されているはずである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上のような状況の下で、本願発明の発明者等は鋭意研究を重ね、本願発明を完成したものである。
すなわち、本発明の一の態様は、(a1)一群のペプチドを機能評価し、所望の機能を有する候補ペプチドを選択する選択工程と;(a2)前記候補ペプチドのアミノ酸配列と前記一群のペプチドのアミノ酸配列とを比較し、各アミノ酸位置において前記候補ペプチドのアミノ酸と同じアミノ酸を一群のペプチドが含んでいる頻度を求める、出現頻度決定工程と;(a3)前記出現頻度決定工程において決定された各アミノ酸位置での出現頻度のうち、前記出現頻度が最も低いアミノ酸(被置換アミノ酸1)の位置を変異導入部位1とし、2番目に低いアミノ酸(被置換アミノ酸2)の位置を変異導入部位2とするように、低い方から少なくとも1つの変異導入部位を決定し、その他の各アミノ酸位置における最頻アミノ酸種を各位置における決定アミノ酸とする変異導入用アミノ酸配列決定工程と;(a4)前記決定されたアミノ酸配列を規定するヌクレオチド配列中、前記変異導入部位に対応するコドンをランダムコドンに置換する変異導入工程と;を備える、変異導入ペプチドをコードするヌクレオチド配列を取得するための変異導入方法である。
【0017】
前記一群のペプチドが、スクリーニングによって選択されたものであることが好ましい。さらに、前記スクリーニングは、ファージディスプレイ法、細胞表面ディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、mRNAディスプレイ法、およびcDNAディスプレイ法からなる群から選ばれるいずれかの指向性進化法であることが好ましい。遺伝子型-表現型対応付け技術を用いたスクリーニング方法が、高い効率性、およびライブラリサイズといった理由から好ましい。
【0018】
また、前記選択工程における機能評価が、結合活性評価又は細胞アッセイであることが好ましい。得られたタンパク質の機能をいずれかの方法で評価することによって、進化ライブラリの作成により良い機能を持ったタンパク質のヌクレオチド配列のみを反映させることができるため、タンパク質の進化効率が向上するからである。
【0019】
前記出現頻度決定工程において、比較するアミノ酸配列が候補ペプチド及び一群のペプチドの全長アミノ酸配列の一部であることが好ましい。ペプチドの全長アミノ酸配列において、機能ドメインを構成する配列は一部である。そのため、その機能ドメインを含む一部アミノ酸配列に変異を導入することが、より良い機能を持ったペプチドを作成するうえでより効率的だからである。さらに、前記比較するアミノ酸配列の一部において、前記候補ペプチドのアミノ酸配列と20~40%以上異なるアミノ酸配列を有するペプチドを、出現頻度決定工程の前に前記一群のペプチドから除いておくことが好ましい。あまりに候補ペプチドと類似しない配列の情報は、候補ペプチドの機能を向上させることに貢献しないばかりか、ノイズとなり、機能向上の阻害要因となりかねないからである。また、前記変異導入部位の数が、前記ペプチドを構成するアミノ酸総数の20~40%又は前記ペプチドのうち特定のアミノ酸配列中であることが好ましい。
【0020】
前記変異導入部位の数は、前記ペプチドを構成するアミノ酸総数の20~40%又は前記ペプチドのうち任意の一部アミノ酸配列中のアミノ酸総数の20~40%であることが好ましい。
また、前記指向性進化法は、前記mRNAディスプレイ法又は前記cDNAディスプレイ法のいずれかであって、ヌクレオチドとそのヌクレオチドにコードされているペプチドとを対応付けるリンカーを用いるものであることが好ましく、前記リンカーは、前記ペプチドを提示するペプチド提示部を3’末端に有し、5’末端に主鎖と結合する主鎖結合部位を有し、前記タンパク質提示部と前記主鎖結合部位との間に蛍光標識を有する側鎖と、5’末端から固相結合部位と、mRNAを連結させるmRNA連結部位と、前記mRNAを逆転写して得られるcDNAを結合させるための逆転写領域とを有する主鎖と、によって構成されるものであることが好ましい。
【0021】
本発明の別の態様は、前記変異導入方法で変異を導入したヌクレオチドである。また、本発明のさらに別の態様は、前記変異を導入したヌクレオチドで構成される進化ライブラリである。本発明のさらにまた別の態様は、前記進化ライブラリをスクリーニングすることで取得された変異導入産物であり、前記変異導入産物は、変異導入ヌクレオチド又はそのヌクレオチド配列で規定される変異導入ペプチドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の変異導入方法によれば、変異導入ペプチドをコードするヌクレオチド配列を取得することができる。また、所望の変異を導入したヌクレオチドを基に進化ライブラリを作製することができる。そして、さらに変異を導入した進化ライブラリを作製することで、所望の機能が向上したヌクレオチド配列を取得するとともに、その配列によってコードされるペプチドを取得することができる。
また、上記進化ライブラリをスクリーニングすることによって、所望の変異を導入した変異導入産物を得ることができる。その結果、ランダムライブラリを探索するよりも、より効率的に所望の機能が向上したペプチドを取得することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、cDNA又はmRNAディスプレイ用リンカーを模式的に表した図である。
【
図2】
図2は、cDNAディスプレイ法によるセレクションを模式的に示す図である。図中、Puはピューロマイシン又はその類縁体を示し、SAビーズはストレプトアビジンでコートされたビーズを示す。
【
図3】
図3は、一次スクリーニング後に得られた配列に対する部位飽和変異導入を行って、最終産物を得るまでの手順を模式的に示す図である。図中、NGSは次世代シーケンサーを示す。また、スクリーニングと記載されている回転する矢印の部分は、上記
図2のcDNAディスプレイ法によるスクリーニング及びセレクションを意味する。
【0024】
【
図4】
図4は、アミノ酸配列中の各アミノ酸位置で出現する各アミノ酸の出現頻度を模式的に示す図である。
図4(A)は、得られた各クローンにおいて、出現回数の多いアミノ酸を上から順に記載した図であり、出現回数とアミノ酸の表記の大きさとが比例して表されている。
図4(B)は、一番上の行はアミノ酸の位置を、その下の2行目は候補ペプチドのアミノ酸配列を、その下の各行は一群のペプチドの各ペプチドのアミノ酸配列を示したものであり、各列は各アミノ酸の位置におけるアミノ酸を表す。黒地に白抜き文字で表されたセルは、そのアミノ酸位置で出現回数が最多のアミノ酸以外のアミノ酸であることを表す。黒地に白抜き文字で表されたアミノ酸の位置番号は、下から数えて5番以下の出現回数のアミノ酸位置を表す。
【0025】
【
図5】
図5は、変異を導入した鋳型を用いたときのPCRの手順を模式的に示した図である。
図5(A)は混合塩基プライマーを用いた場合、
図5(B)は同アミノ酸符号異DNA末端を有する混合塩基プライマーを用いた場合をそれぞれ模式的に示す図である。図中「同アミノ酸符号異DNA」とは、縮重コドンによる変異を指す。
【
図6】
図6は、取得したVHHクローンのOctetによる「single point binding assayの結果を示すグラフである。図中、太い破線はBinding response(縦軸)が0.1であることを示す。横軸は各クローンVHHの番号を示す。破線で示す0.1以上の数値のクローンをヒットクローンとして、以降の操作を行う。
【0026】
【
図7】
図7は、得られたユニーククローンのアミノ酸配列(全長)及びCDR3 H3のアミノ酸配列を示す(その1)。
【
図8】
図8は、得られたユニーククローンのアミノ酸配列(全長)及びCDR3 H3のアミノ酸配列を示す(その2)。
【
図9】
図9は、CDR3の配列(上段)に対するスクリーニングで得られたクローンの各アミノ酸の出現数(中段)と、その出現数に基づいて作製されるライブラリのアミノ酸配列(下段)を示す。図中、アミノ酸はすべて1文字表記としており、「X」は変異を導入するアミノ酸の位置を示す。
【0027】
【
図10】
図10は、変異のないアミノ酸配列(以下、「元配列」ということがある。)に変異を導入した場合の結合活性の変化を示すOctet384のセンサグラムである(
図10(A)~
図10(C)参照。)。
図10(A)は元配列のVHHを使用したときの、
図10(B)~
図10(C)は元配列に変異を挿入したVHHを使用したときのセンサグラムである。図中、標的タンパク質として、ヒト血清アルブミン(以下、「HSA」と言うことがある。)及びマウス血清アルブミン(以下、「MSA」と言うことがある。)を用いた。変異が導入された箇所は、各グラフの上に記載された配列中、黒い点を付して示しれている。また、各グラフの下に解離定数の値を示した。
【
図11】
図11は、元のアミノ酸配列(VM1106)を変異させたアミノ酸配列(VM1986及びVM1987)の全長、及びCDR3のアミノ酸配列を示す。CDR3の配列中、黒い点を付したアミノ酸が導入された変異である。図中、配列番号26及び28は、変異を導入した全長アミノ酸配列である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本明細書ではタンパク質、ポリペプチド及びペプチドは、それぞれ長さに関係なくアミノ酸が連なったものを指す。したがって、特別に長さ等の表現がある場合を除いて、それぞれの表す意味に違いはないものとする。
【0029】
(1)一群のペプチド
前記一群のペプチドは所望の機能を向上させたいペプチドであって、各ペプチド間の全アミノ酸配列又は一部アミノ酸配列が比較可能又はアラインメント可能な程度に類似したアミノ酸配列を有するものであればよい。したがって、50%以上アミノ酸配列が類似したペプチド群を前記一群のペプチドとして使用することができる。そして、上記のように変異を導入した一群のペプチドの中から、より機能の優れたペプチドを選択することができる。こうした一群のペプチドとしては、例えば、リガンド、抗体、VHH、T細胞受容体またはアプタマーからなる群から選ばれるいずれかのペプチドを一群のペプチドとして使用することが好ましい。
【0030】
上記リガンドは、生体内に存在する特定のパートナータンパク質に結合し、何らかの生理活性を発生させる生物由来のタンパク質を指す。例えば、受容体に結合するタンパク質や、酵素に結合するタンパク質等を含む。
上記抗体は、生体内で抗原-免疫反応によりヒト形質細胞等が産生するようになる、いわゆる重鎖と軽鎖とから成るイムノグロブリン、ラクダ科動物又は軟骨魚類で産生される重鎖抗体その他の抗体、及びその断片を含む。また、ヒト以外の抗体のフレームワーク配列をヒト化したものや、人工的なフレームワークと部分的に結合させたもの等も含む。
【0031】
上記VHHはVariable domain of Heavy chain of Heavy chain antibodyの略である。主にラクダ科や軟骨魚類の重鎖抗体の単一可変ドメインからなる抗体類似物であり、単独で抗原結合性を有し、上記抗体と同様の機能を発揮する分子である。ここで、上記抗体やVHHは多量体であってもよく、同一抗原を認識するVHHが結合されたホモダイマー、異なる抗原を認識するものが結合されたmultispecificな多量体が含まれる。
上記T細胞受容体は、免疫細胞であるT細胞が発現する受容体であり、細胞から主要組織適合性複合体(MHC)を介して提示された抗原を認識するために必要な受容体である。
上記アプタマーには、アミノ酸で構成されるペプチドアプタマーとヌクレオチドで構成される核酸アプタマーとがある。これらのアプタマーはいずれも特定の標的タンパク質に結合するという性質を有する。
【0032】
上記一群のペプチドは、常法に従って取得することができる。例えば、市販のペプチドライブラリを購入し、または自ら作成することで取得することができる。自らライブラリを作成する場合は、従来技術2として挙げたPCRを使用したランダム変異導入およびDNAシャッフリングなどの技術を利用して作成した人工ランダムヌクレオチドライブラリを基に、大腸菌などのin vivo系又は無細胞翻訳系などのin vitro系を利用してペプチド産生することで取得できる。また、動物が元来保有する抗体配列のライブラリ(いわゆるナイーブライブラリ)や、動物に抗原を注射し、免疫した動物から抽出された再編抗体配列のライブラリ等も利用することができる。さらに、パラログ遺伝子、オーソログ遺伝子、及びアナログ遺伝子をクローニングし、その遺伝子からペプチド産生することにより、上記一群のペプチドを取得することもできる。
【0033】
また、上記一群のペプチドは事前にスクリーニングされたペプチドであることが好ましい。従来のペプチドライブラリや遺伝子ライブラリのスクリーニングサイズは、大きいものでも1012~1013程度であることから、多様性が十分確保されておらず、取得物には更なる進化の余地が残されている。事前にスクリーニングされ、所望の機能を有する一群のペプチドを基にこれらに変異導入して更なる進化を促すことにより、さらに優れた所望の機能を有する変異ペプチドを入手することができる蓋然性を高めることができる。
この事前に行うスクリーニングに使用する方法は、所望の機能に基づいてペプチドを選択できるものであればよく、特に限定されない。例えば、ファージディスプレイ法、細胞表面ディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、mRNAディスプレイ法、cDNAディスプレイ法その他の指向性進化法のスクリーニングに使用することができる方法を挙げることができる。
【0034】
以下に本発明の例として、ライブラリをmRNA/cDNAディスプレイ法によりスクリーニングすることで得られる一群のペプチドを使用して、変異導入、進化ライブラリを作成し、その進化ライブラリをスクリーニングして変異導入ヌクレオチド配列を取得する場合の方法を示す。
【0035】
(2)mRNA/cDNAディスプレイ法
(2-1)mRNA/cDNAディスプレイ用リンカー
cDNAディスプレイ法では、mRNA、そのmRNAにコードされているペプチド及びそのmRNAから逆転写されるcDNAからなる複合体(cDNAディスプレイ分子)を形成するために、
図1に示す構造のリンカーを使用する。
図1に示すように、上記ヌクレオチドリンカーは主鎖と側鎖とからなる。前記主鎖にはmRNAが結合するmRNA結合部位、前記mRNAを主鎖と連結させるための光架橋部位、mRNAが結合した後に固相と結合する固相結合部位、その後、固相から前記cDNAディスプレイ分子を遊離させるための固相切断部位、側鎖を連結するための側鎖結合部位及び前記mRNAからcDNAを逆転写するための逆転写部位が設けられている。このようなリンカーは常法に従って作成することもできるし、企業に委託して製造することもできる。なお、上記リンカーは逆転写工程を行わずに使用することもでき、その場合はmRNAディスプレイ法となる。
【0036】
ここで、前記光架橋部位は、長波長の光で架橋を形成する光架橋塩基で構成されていることが、連結するmRNAに対するダメージが少ないことから好ましい。こうした光架橋塩基(以下、「光架橋人工核酸」ともいうことがある。)としては、例えば、3-シアノビニルカルバゾール(以下、「cnvK」と略することがある。)及びcnvKの類縁体等を挙げることができる。また、上記固相結合部位を形成する分子としては、例えば、ビオチン、ストレプトアビジン等を挙げることができ、ビオチンを使用することが、ストレプトアビジン結合磁性ビーズを使用できる点から好ましい。
【0037】
上記固相切断部位は、特定の酵素で切断されるヌクレチドで構成されていることが好ましく、例えば、グアニン塩基を持つリボース(以下、「rG」と略すことがある。)や修飾塩基で構成されていることが、リボヌクレアーゼ等を用いた部位特異的切断を行うためには好ましい。
なお、前記光架橋部位は前記固相結合部位と側鎖結合部位との間に配置されており、逆転写部位は主鎖の5’末端近傍に配置されていることが好ましい。また、前記固相結合部位は前記主鎖の3’近傍に設けられており、前記固相切断部位は、前記固相結合部位と前記mRNA結合部位との間に設けられていることが好ましい。
【0038】
上記リンカーを構成する上記側鎖は、前記主鎖の側鎖結合部位と結合される一方の端部と、遊離末端として前記mRNAから翻訳されたペプチドを提示するためのペプチド提示部位となる他方の端部とを備えることが好ましい。ここで、前記ペプチド提示部位は、ピューロマイシン又はその類縁体で構成されることが好ましい。前記ペプチド提示部位と前記側鎖連結部位との間には、このリンカー及びこのリンカーを含む分子の検出を容易にするために、フルオレセイン、FITCその他の蛍光分子を連結させることが好ましい。
【0039】
(2―2)mRNAとリンカーのライゲーション
常法に従って用意したライブラリ遺伝子からmRNAを転写し、上記主鎖と上記側鎖とからなるヌクレオチドリンカーと混合してこれらを光架橋させる。例えば、T7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(Promega社製)を使用し、添付されたマニュアルに従ってmRNAを転写する。mRNAの調製に使用するDNA量は任意に定めることができ、例えば、最初のセレクションラウンドでは約6~約7μg、その後のセレクションラウンドでは、約0.1~約1μgとすることができる。得られた転写産物は、例えば、RNAClean XP(Beckman Coulter社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って精製することができ、こうして得られた精製産物の濃度は、例えば、NanoPad DS-11 FX(DeNovix)により定量することができる。
【0040】
上記のようにして得られたmRNAと本発明のリンカーとを、例えば、NaCl(終濃度は約0.1~約0.5 M)を含むTris-HClバッファー(pH約7.5、終濃度 約0.025~0.075 M)中で混合し、約90℃に加熱し、その後、約10℃まで徐々に降温させ、上記リンカーをmRNAの3’末端側にハイブリダイズさせることが好ましい。その後、使用する上記光架橋人工核酸によって、適宜波長を選択し、例えば、約300~約400 nmのUVを照射して上記リンカーとmRNAとを光架橋させ、mRNA-リンカー複合体を得ることができる。上記シアノビニル化合物類縁体を用いたライゲーションは、光架橋に使用する光が長波長であり、照射時間も短いことから、合成されたcDNA中でチミンダイマーが形成されるといった障害が発生することもない。このため、使用したmRNAに対応する所望のペプチドを得ることができるという利点がある。
【0041】
(2-3)mRNA-リンカー連結体の無細胞翻訳によるmRNA-ペプチド連結体の調製
上記mRNA-リンカー複合体を無細胞翻訳系溶液に加えることで、上記主鎖に連結されたmRNAからペプチドを翻訳し、翻訳されたペプチドを上記リンカーのペプチド提示部位に提示させ、mRNAとこれに対応する配列を有するペプチドが上記リンカーに連結されたmRNAディスプレイ分子を作製することができる。例えば、PUREfrex(登録商標)1.0(ジーンフロンティア社製)等の市販品を用いて、製品の説明書に従って無細胞翻訳を行うことができる。次いで、MgCl2及びKClを、それぞれ最終濃度約50~約100 mM、約800~約1000 mMとなるように加えて、約35~約40℃で約0.5~約1.5時間インキュベートし、mRNA-リンカー上のピューロマイシンにmRNAに対応するペプチドをディスプレイさせることができる。次いで、例えば、EDTAの最終濃度が約50~約100 mM になるようにEDTA溶液(pH 約8.0)を加えて、約0~約10℃で約3~約8分間インキュベートし、mRNAディスプレイ分子を調製することができる。
【0042】
(2-4)cDNAディスプレイ分子の調整
以下にcDNAディスプレイ分子の調整方法を説明するが、逆転写工程を除いたほかは同様に作成したmRNAディスプレイ分子を用いてスクリーニングを行うこともできる。
【0043】
例えば、市販されている固相を所望のチューブ内に入れて結合バッファーで洗浄し、ここに上記のように調製したmRNAディスプレイ分子を加え、例えば、常温で約15~約45分間撹拌し、上記固相に上記mRNAディスプレイ分子を固定化させることができる。上記mRNAディスプレイ分子が固定化された固相を結合バッファーで洗浄し、続いて常法に従って逆転写反応を行い、mRNA/cDNA―タンパク質連結体を調製することができる。上記結合バッファーでこの連結体を洗浄し、その後、Hisタグ結合/洗浄バッファーと固相切断部位の切断用ヌクレア-ゼとをこのチューブ内に加え、約35~約40℃、約10~約20分撹拌することによってcDNA-リンカー-ペプチド連結体(以下、「cDNAディスプレイ分子」ということがある。)を固相から溶出させる。上記固相としては、磁気ビーズを使用することが、操作の簡便性の観点から好ましい。
【0044】
(2-5)ペプチドの選択
(2-5-1)標的タンパク質の調整
標的タンパク質は市販されているものを使用してもよいし、常法に従って合成してもよい。用意した標的タンパク質を固相に結合させるために、例えば、まず、ビオチン化処理を行う。上記標的タンパク質を含むPBSをチューブに入れ、ここに市販のビオチン化試薬を加えて反応させる。例えば、Zeba(商標) Spin Desalting Columns, 7K MWCO, 0.5 mL(Thermo Fisher Scientific社製)を使用する場合には、このキット中のバッファーを説明書に従ってPBS-Tにバッファー交換し、ここに反応液を加える。その後、約1,000~約2,000xgにて約1~約3分間遠心し、上記反応液のバッファーをPBS-Tに交換し、未反応のビオチン化試薬を除去することによって、ビオチン化標的タンパク質を得ることができる。
【0045】
上記のように作製したビオチン化標的タンパク質を、ストレプトアビジン磁気ビーズを入れたチューブに加えてインキュベートし、ビオチン化標的タンパク質結合固相を作製することができる。ここで、固相としては、操作の簡便性から磁気ビーズが好ましいが、その他の固相を使用してもよい。
【0046】
(2-5-2)セレクション
上記のように作成したmRNAディスプレイ分子又はcDNAディスプレイ分子とビオチン化標的タンパク質結合固相とをチューブ内で接触させ、結合したディスプレイ分子のみを溶出することで、標的タンパク質に強く結合するペプチドのみを選択することができる。この接触及び溶出のサイクル(以下、「セレクションラウンド」と略すことがある。)を複数回行うことが、より結合力の高いペプチドを得られる点から好ましい。この時、各ラウンドで使用するディスプレイ分子の量は適宜変更することが好ましく、最初のラウンド(ラウンド1)での使用量が最も多く、その後減らしていくようにすることが、セレクションの効率の点から好ましい。例えば、下記表1のようにすることができる。
【0047】
【0048】
(2-5-3)セレクションサイクル1(R1)のスクリーニング手順
上記表1の合成スケールで調製したmRNAディスプレイ分子又はcDNAディスプレイ分子を、例えば、BSA、salmon sperm DNA及びIgG1タンパク質(Human, Recombinant)を含むPBS-Tを用いてチューブ内で希釈し、その後、ビオチン化標的タンパク質を結合させた固相を入れたチューブに加えてインキュベートすることができる。インキュベート後、上清を回収し、上記チューブ内にある上記固相、例えば、上記ビーズをPBS-Tで所望の回数、例えば、4回程度洗浄することが好ましい。次いで、このチューブにRNase Aを含むPBS-Tを加え、約2~約6℃で保存することができる。
【0049】
上記で回収した上清とビオチン化標的タンパク質とをチューブ内で混合し、インキュベートする。その後、このチューブ内の混合液を、ストレプトアビジンビーズを含むチューブに加えてインキュベートし、上記ディスプレイ分子-ビオチン化標的タンパク質複合体を固相に固定する。上記固相をPBS-Tで所望の回数、例えば、3~5回程度洗浄し、アルカリ溶出又はその他の常法に従ってディスプレイ分子を抽出する。得られたmRNA又はcDNAは、例えば、AMpure XP(Beckman Coulter社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って精製することができる。次いで、精製した溶液は所望のプライマー、例えば、cnvK NewYtag for poly A( 配列番号2: 5'-TTTCCACGCCGCCCCCCGTCCT-3')と PL_T7pro ( 配列番号 3 : 5'-GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGGTTTCCCTC -3')を用いて、例えば、アニーリング温度を約60~約70℃、伸長反応時間を約10秒~約20秒としてPCRを行うことができる。その後、得られたPCR産物を、例えば、約3~約6%変性PAGEで解析してもよい。PCR産物を常法に従って精製した後、得られた精製物をR1ライブラリとしてセレクションの2ndラウンドに供する。
【0050】
(2-5-4)セレクションサイクル2(R2)以降のスクリーニング手順
ビオチン化標的タンパク質を上記(2-4-3)と同様にして、固相に固定化してビオチン化標的タンパク質固層化ビーズを作製する。上記(2-4-3)と同様の方法により、R1ライブラリからディスプレイライブラリを上記表1の合成スケールで調製し、ディスプレイライブラリを標的タンパク質固相化ビーズと接触させる。ビーズを洗浄後、ディスプレイ分子を回収し、常法に従って精製する。精製した上記ディスプレイ分子を含む溶液をR1の際と同等の条件でPCR反応させ、常法に従って精製しR2ライブラリとする。
この操作を所望の回数繰り返すことにより、例えば、R3ライブラリ、R4ライブラリ等を調製することができる。得られるタンパク質の性能と時間や費用の点から、上記操作の繰り返し(スクリーニングの繰り返し)回数は4回程度とすることが好ましい。
【0051】
上記のスクリーニングを繰り返す際に、上記固相等(例えば、磁気ビーズ等)に非特異的に結合するようなペプチドを排除するために、各ラウンドで表面特性が異なる固相を使用することが好ましい。ここで、上記表面特性の異なる固相の組み合わせとしては、例えば、Dynabeads Streptavidin MyOne C1 (Thermo Scientific社製)とDynabeads Streptavidin MyOne T1 (Thermo Scientific社製)等を挙げることができる。
【0052】
(3)次世代シークエンサー(以下、「NGS」ということがある。)によるスクリーニング産物の解析
以上のスクリーニングで得られた濃縮ライブラリを鋳型とし、適当なプライマーを設計してPCR増幅を行うことができる。例えば、この増幅には、以下のプライマーを使用してもよい。
PL_prRd-N4_NL_FW 5'- TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGNNNNATGGAAGTACAATTAGTTGAATCTGGTGGTGGGCTTG -3'(配列番号4)
PL_prRd-N4_Ytag_RV 5'- GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGNNNNTGAAGAGACTGTCACCAACGTGCCTTG -3' (配列番号 5)
【0053】
得られたPCR産物を常法に従って精製し、精製産物を鋳型としてIndex PCRを行うことができる。forward/reverse primerとして、例えば、Nextera XT Index 1 Primers (N7XX)及びNextera XT Index 2 Primers (S5XX)を使用することができる。Index PCR産物を常法に従って精製し、得られたIndex PCR精製産物の濃度を、例えば、分光光度計を用いて測定する。上記Index PCR精製産物を希釈し、各産物を1つのチューブにまとめるように回収し、混合してNGSサンプルライブラリとすることができる。このサンプルライブラリを、例えば、Miseq(illumina社)に付属する取扱説明書に従って作製し、MiSeq Reagent Nano Kit v2(500 Cycles) (illumina社)を用いて解析を行うことができる。NGSから得られたDNA配列をアミノ酸配列に翻訳することによって、各標的タンパク質に対して結合するという所望の機能を有する一群のペプチドのアミノ酸配列を得ることができる。
【0054】
(4)進化ライブラリ(Evolutionary Library)
(4―1)Evolutionary Libraryの設計
進化ライブラリの作製には上述した一群のペプチドのアミノ酸配列を使用するが、ペプチドの全長配列を使用してもよく、その一部の配列を使用してもよい。一部の配列を使用する場合には、論文やProtein Data Bank等のデータベースから、ペプチドの立体構造、標的タンパク質との結合時の立体構造等のデータを取得し、ペプチドの機能ドメインや結合ドメイン(以下、集合的に「機能ドメイン」と言う。)を予測することができる。また、上記ペプチドの上記機能ドメインに関する情報がない場合には、既存タンパク質の機能ドメインに対するアミノ酸配列の類似性検索など、一般的にバイオインフォマティクスで使用される技術を用いて予測することもできる。そして、上記(3)のNGS解析で得られたDNA配列群から上記機能ドメインを抽出し、以下の進化ライブラリ作製に用いることができる。
【0055】
進化ライブラリを作製するためには、まず一群のペプチドの結合活性評価や細胞アッセイといった機能評価を行うことが好ましい。これにより、機能の優れたペプチド(以下、「候補ペプチド」という。)のアミノ酸配列を進化ライブラリに積極的に取り入れることができ、所望の機能を有する変異ペプチドを取得できる蓋然性が高まるからである。また、候補ペプチドと機能ドメインのアミノ酸配列が20~40%又は5~7アミノ酸以上異なるライブラリ遺伝子を取り除くこともできる。アミノ酸数の相違があまりにも多すぎると進化の方向性が発散するため、機能の劣るペプチドが進化ライブラリに多く含まれてしまい、結果的にスクリーニング効率が低下するからである。
結合活性の評価に使用する方法としては、例えば、表面プラズモン共鳴法やバイオレイヤー干渉法を挙げることができる。細胞アッセイとしては、例えば、ウェスタンブロッティングによるシグナル下流タンパク質のリン酸化評価、受容体に対する阻害活性等を挙げることができる。これらのアッセイ法を採用することにより、効率よく所望の機能が向上したペプチドを得ることができるからである。なお、上記細胞アッセイは、実験者が目的に応じて設定することが、目的に沿って指向進化したペプチドを取得できることから望ましい。したがって、上記細胞アッセイは上述したものに限定されず、目的に応じて設定することができる物であれば特に限定されない。
【0056】
上記機能評価を行うために微生物を用いてペプチド産生を行うときは、Corynebacterium glutamicumを使用することが、病原性及び毒性がない、長年医薬分野で使用されているという点から好ましい。上記微生物は独立行政法人製品評価技術基盤機構などから購入することができる。そして、購入した上記微生物に上記で得られたペプチドのヌクレオチド配列を組み込んだ発現用ベクターを用いて、常法に従って形質転換する。形質転換した前記微生物を、例えばGlucose 約4~6g/L、NaCl 約4~6 g/L、tryptone 約8~12 g/L、Yeast Extract 約8~12 g/L、DL-Methionine 約0.1~0.3 g/Lを含み、pHを約7.0~7.4に調製した培養液で培養する。これにより、形質転換した微生物がペプチドを産生し、産生されたペプチドは培養液中に分泌される。分泌されたペプチドは常法に従って回収、精製することができ、それを上記機能評価に用いることができる。
【0057】
候補ペプチドのアミノ酸配列を鋳型として、各アミノ酸位置で候補ペプチドのアミノ酸配列と同じアミノ酸が出現した数を数え、その数が下から数えて4~6番以下、又は下から20%程度以上~40%程度以下のアミノ酸位置を部位飽和変異導入部位とすることが好ましい(
図4)。候補ペプチドの機能ドメインがわかっている場合は、その機能ドメインのアミノ酸配列だけを使用して部位飽和変異導入部位を決定することが、より効率よく目的の機能を向上させることができる点で好ましい。20%程度以上~40%程度以下とするのは、20%未満であると多様性がなく、40%以上とするとスクリーニングの効率が低下するからである。
【0058】
(4―2)Evolutionary Libraryの作製
部位飽和変異導入部位のコドンが混合塩基となるようなプライマーを設計することが好ましい。上記混合塩基を含むコドンとしては、NNK、NNN、及びNNB等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ここで、混合塩基を含むコドン中、NはA、G、C及びTからなる群から選ばれるいずれかの塩基であり、KはG又はT、BはG、C、及びTからなる群から選ばれるいずれかを表す。上記混合塩基を含むコドンの中では、終止コドンの出現頻度が低いことから、NNKを使用することが好ましい。また、混合塩基プライマーの5’末端は、鋳型となるライブラリ遺伝子と同じアミノ酸をコードする、異なるDNA配列であることが好ましい。後述する2回目のPCR時に変異の導入されていない鋳型遺伝子が増幅されないからである(
図5)。
【0059】
これら混合塩基を含んだプライマーの合成は、企業に委託してもよい。上記濃縮ライブラリを鋳型とし、上記混合塩基プライマーを用いるPCR、及び得られたPCR産物の精製は、上記と同様にして行うことができる。得られた精製PCR産物を鋳型の全長に戻すために、さらにPCRを行うことができ、鋳型と同じ全長になるまでPCRを繰り返し行ってもよい。最後に、上記精製PCR産物を鋳型として、ヌクレオチドリンカーとのハイブリダイゼーション領域を付加するためのPCRを行う。この時、プライマーとして、例えば、2nd_PCR_PL_mu (配列番号9 : 5’ - TTTCCACGCCGCCCCCCGTCCTGCTTCCGCCGTGATGATGATGATGATGGCTGCCTCCCCCTGAAGAGACAGTGACGAGGGTGCCCTGT -3’)及び PL_T7pro(配列番号3)等を使用することができる。得られたハイブリダイゼーション領域付加PCR産物を、上記と同様にして精製し、この精製産物をEvolutionary Library DNAとすることができる。
【0060】
(4―3)Evolutionary Libraryからのスクリーニング
次いで、Evolutionary Library DNAを用いてディスプレイ分子を合成することができる。mRNAディスプレイ分子又はcDNAディスプレイ分子をチューブに入れ、ここにIgG1 Proteinを含むPBS-Tを加えて希釈し、ここに固相を加えて転倒混和し、静置して上清を回収することができる。上記のように回収した上清を新しいチューブに入れ、適当なブロッキング剤を含むPBS-Tを加えて希釈し、次いでビオチン化標的タンパク質と混合して、混合液とすることができる。この混合液にストレプトアビジン磁気ビーズ等の固相を加えてこのチューブ内で混和することにより、ディスプレイ分子-ビオチン化標的タンパク質複合体を含むビオチン化標的タンパク質を固相に固定することができる。この固相をPBS-Tで所望の回数、例えば、2~4回程度洗浄し、その後PBS-Tでさらに洗浄してもよい。ついで、上記と同様にして酵素を含むPBS-Tをこのチューブに加えて反応させ、ディスプレイ分子を回収し、精製する。得られた精製液をR1と同等の条件でPCR反応させ、常法に従って精製し、Evolutionary Library濃縮ライブラリとすることができる。その後、上記(3)の手順でクローンを決定し、これらを後述する結合活性評価実験、又は細胞アッセイで評価することで、所望の機能が向上したペプチドを取得することができる。
【実施例0061】
以下、実施例を用いて本願発明をさらに詳細に説明するが、本願発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)ディスプレイ分子用ピューロマイシンリンカー(以下、「cnvK rGリンカー」と言う。)の作成
cnvK rG リンカーは主鎖と側鎖とを有し、主鎖となるビオチンフラグメントの塩基配列は、5’-AAgAATTTCCAKGCCGCCCCCCGVCCT-3’(配列番号1)である。ここで、上記主鎖の5’末端には、BioTEG(ビオチン-オリゴヌクレオチド間の距離をトリエチレングリコール(triethyleneglycol)を用いて15atom離した修飾オリゴ)が結合している。塩基配列中のgはグアノシンを、VはAmino C6-dTを、Kは3-シアノビニルカルバゾールを、それぞれ表す。
また、cnvK rG リンカーの側鎖となるピューロマイシンセグメントは、5’-(5S)TCTFZZCCPの構造を有する。上記側鎖配列中の遊離末端となるPは、タンパク質結合部位としてのピューロマイシンを表す。また、(5S)は5’ Thiol C6を、FはFITC-dTを、ZはSpaceR18をそれぞれ表す。上記の主鎖及び側鎖の化学合成は、北海道システムサイエンスに委託した。
【0063】
まず、0.2 Mのリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.2)に、15 nmolのビオチンフラグメント(終濃度150 μM)及びEMCS(同仁化学研究所社製、終濃度16.7 mM)を加え、37 ℃で30分間インキュベートした。その後、Quick-Precip Plus Solution (Edge BioSystems社製)を用いてエタノール沈殿させた。
次に37.5 nmol分のピューロマイシンセグメントを終濃度417 μMとなるように、50 mMのDTTを含む1M のリン酸水素二ナトリウム水溶液に溶解し、シェーカーを用いて室温で1時間撹拌し、還元ピューロマイシンセグメント溶液とした。次いで、NAP5カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて、0.03 MのNaClを含む0.02 Mのリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)にバッファーを交換した。
【0064】
上記バッファー交換済みの還元ピューロマイシンセグメント溶液を、上記のEMCS修飾済みビオチンフラグメントのエタノール沈殿産物と混合し、4℃で一晩放置した。続いて、DTTを終濃度50 mMとなるように上記反応液に投入し、室温で30分間撹拌した。その後、Quick-Precip Plus Solution (Edge BioSystems社製)を用いて、エタノール沈殿を行なった。エタノール沈殿産物を、100 μLのNuclease-free water(ナカライテスク社製)に溶解した。
【0065】
溶解産物を12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、cnvK rGリンカー画分を切り出した。バイオマッシャーIIセット(ニッピ社製)を用いて切り出したゲルを砕き、500 μLのNuclease-free waterを加え、4℃で一晩撹拌しcnvK rGリンカーを抽出した。上記のように撹拌した溶液をCostar(登録商標) Spin-X(登録商標)遠心チューブフィルター、0.22 μmセルロースアセテート(corning)に移した後、16,000xgで15分遠心し、ゲルと抽出した液とを分離した。その後、Quick-Precip Plus Solutionを用いてエタノール沈殿を行ない、目的のcnvK rGリンカー(以下、単に「cnvKリンカー」ということがある。)を得た。得られたcnvK rGリンカーはNuclease-free waterに溶解して-20℃で保存した。
【0066】
(実施例2)PharmaLogical (PL)ライブラリを用いたcDNAディスプレイ分子の合成
cDNAディスプレイの合成は、ライブラリとして、全長VHHコード化DNAライブラリであるPharmaLogicalライブラリ(以下、「PLライブラリ」と略すことがある。(株)Epsilon Molecular Engineering社製)を用い、以下のように行った。なお、cDNA display分子の合成、In vitroセレクション、PCR増幅という一連の操作を1ラウンドとし、3ラウンドのセレクションを行った。
【0067】
(1)VHH提示cDNAディスプレイ調製用cDNAの作製
(1-1)転写
上記PLライブラリを、T7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(Promega社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って転写した。使用したDNA量は6.6 μgとした。その後のセレクション毎のDNA量は、2ndラウンド以降は0.1~1 μgとした。得られた転写産物は、 RNAClean XP(Beckman Coulter社製)を使用し、添付されたマニュアルに従って精製し、精製産物を得た。上記精製産物の濃度は、NanoPad DS-11 FX(DeNovix社製)により定量した。
【0068】
(1-2)ライゲーション
精製したmRNAとcnvK rGリンカーとを、200 mM NaCl含有(終濃度)50 mM Tris-HClバッファー (pH7.5)中にて、1 μM mRNA、1 μM cnvK リンカーになるように混合し、(s1)90℃、1分、(s2)70℃、1分、(s3)4℃、降温速度0.1℃/sec のプログラムで熱処理を行い、mRNAとcDNA display合成用リンカーとをハイブリダイゼーションさせた。その後、UVP CrossLinker(カタログ番号CL―3000、365 nm、100~115 V、Analytik Jena社製)を使用して、総エネルギー量が406 mJ/cm2となるように365 nmのUVを照射し、mRNAとリンカーとをcnvKによって光架橋し、mRNA-リンカー連結体を作成した。
【0069】
(1-3)mRNAディスプレイ分子の調製
PLライブラリの各サブライブラリ由来のmRNA-リンカー連結体を混合し、混合物とした。この混合物を鋳型として、再構成系無細胞翻訳溶液であるPUREfrex(登録商標)1.0(Gene Frontier(株))を用いて、37℃、30分間無細胞翻訳反応(以下「IVV」ということがある。)を行った。上記無細胞翻訳用反応液の組成は、800 μLのSolution I、それぞれ80 μLのSolution II及びSolution III、400μLの1 pmol/μLの上記のmRNA-リンカー連結体、240μLのNuclease-free waterとした。翻訳反応の終了後、960 μLのIVV formation Bufferを加え、37℃にて30分反応させて翻訳産物をピューロマイシンを介してリンカーに共有結合させた。引き続き、1,280 μLの0.5 M EDTA(pH 8.0)を加え、4℃にて10分間反応させ、リボソームを核酸から遊離させた。
【0070】
(1-4)cDNAディスプレイ分子の調製
以上の操作によって、3200 μLのIVV産物(mRNA-リンカー-VHH結合体。以下、「mRNAディスプレイ分子」と言うことがある。)を取得した。1920 μLのDynabeads Streptavidin MyOne C1 (Thermo Scientific社製)を新しいチューブに取り、ここに結合バッファーを加えて洗浄した。その後、上記IVV産物を加え、25℃で30分間撹拌した。ここに結合バッファーを加えて洗浄することで、上記IVV産物が結合したビーズを得た。次いで、IVV産物が結合したビーズに対して、320 μLの5xRT Buffer、64 μLの25 mM dNTPs、32 μLのReverse Transcriptase、及び1184 μLの超純水を含む逆転写反応溶液を加え、42℃にて1時間反応させてcDNA ディスプレイ分子(cDNA-mRNA-リンカー-ペプチド結合体)を含む逆転写産物を得た。
【0071】
上記のようにして得られたcDNAディスプレイ産物を、RNaseT1 (Thermo Scientific社製)を含む640μLの溶出バッファーでビーズから溶出させ、その後、200μLのHis-Magセファロース(Cytiva社製)を用いて、常法に従ってcDNAディスプレイ産物をHis タグ精製し、200μLのcDNAディスプレイ分子を得た。
【0072】
(実施例3)Human serum albumin(HSA)に対するVHHのセレクション
(1)HSAのビオチン化
300 pmolのHSAを含む20 μLのPBSに15 nmolのビオチン化試薬(EZ-Link(商標)Sulfo-NHS-LC-Biotin、Thermo Fisher Scientific社製)を加え、室温で30分間反応させた。Zeba(商標)Spin Desalting Columns, 7K MWCO, (Thermo Fisher Scientific社製)を、説明書に従って0.5 mLのPBS-Tで置換した。そして、ここに上記のようにして得た反応液を加えて1,500 x gにて2分間室温にて遠心し、反応液のバッファーをPBS-Tに置換して、未反応のビオチン化試薬を除去し、ビオチン化HSAを得た。
【0073】
(2)結合性cDNA display分子の固相化及び精製
cDNA display分子と上記ビオチン化HSAとを下記表2に示す量で混合し、この混合液を4℃にて30分間インキュベーションさせた反応液を得た。その後、この反応液を、洗浄済の120 μLのDynabeads Streptavidin MyOne C1と混合し、4℃にて30分間インキュベーションして、結合性cDNA display分子をビオチン化標的タンパクを介して上記ビーズに固相化し、固相化ビーズを得た。
【0074】
上記固相化ビーズ(cDNAディスプレイ分子-ビオチン化HSAストレプトアビジン-ビーズ)を200 μLのPBS-Tで3回洗浄し、3回目の洗浄の際にチューブを交換した。その後、100 μLの溶出バッファーを上記固相化ビーズを入れたチューブに加えて2回溶出し、HSAに結合能を示すcDNA display分子回収した。得られた溶出サンプルはAMPure XPを用いて精製した。
【0075】
(3)in vitroセレクション
本実施例では、上記のように精製したcDNAディスプレイ分子の核酸配列を用いて、同様なin vitroセレクションを追加で2ラウンド、計3ラウンド行った。2ラウンド目と3ラウンド目とは、各標的タンパク濃度が100 nMになるように、20 μLのcDNAディスプレイ溶液、10 μLの1 μMビオチン化HSA、2.5 μLの200 mg/mLヘパリン溶液、0.5 μLの10% Tween、67 μLの1xPBSの組成で混合した溶液を用いた。2ラウンド目では、MyOne T1に、3ラウンド目ではMyOne C1にそれぞれ固相化した。以上のように各ラウンドで使用するビーズの表面特性を変更したのは、ビーズに非特異的に結合するcDNAディスプレイ分子の排除を狙ったためである(下記表2参照)。
【0076】
【0077】
(4)セレクションしたサンプルのPCR増幅
セレクションで溶出させたDNAについて、PrimeSTAR MAX (タカラバイオ(株))を用いてPCR増幅を行った。1st Roundでは定量PCRは実施せず、上記(3)で得た溶出サンプル全量を鋳型としてPCRを行った。反応溶液の組成(合計250 μL)は、125 μLのPrimeSTAR MAX PreMIX (2×)、100 μLの溶出したDNAサンプル、それぞれ5 μLの20 μM フォワードプライマー(PL_T7pro)、リバースプライマー(NewYtag_cnvk-linker)、15 μLの超純水とした。PCRプログラムはアニーリング温度を60℃、伸長時間を5秒、変性等のサイクル数を15回にした以外は下記表3と同じとした。得られたPCR産物は、AMPure XPを用いて精製を行った。
【0078】
【0079】
2nd ラウンド又は3rd ラウンドでは、上記溶出サンプルの一部を定量PCRに使用し、残りをPCR増幅用の鋳型として用いた。定量PCRに使用した溶液(合計25 μL)の組成は、12.5 μLのTHUNDERBIRD qPCR Mix(東洋紡(株))、それぞれ0.5 μLの20 μM フォワードプライマー(PL_T7pro)及びリバースプライマー(NewYtag_cnvk-linker)、1 μLの溶出したcDNAディスプレイ分子、及び10.5 μLの超純水とした。PCRプログラムは、初期変性を98℃で30秒、(変性を98℃で5秒、アニーリングを60℃で10秒、伸長を72℃で35秒)のサイクルを35回とした。
引き続き、HSAに結合するVHH遺伝子を含む濃縮ライブラリを得た。このPCR反応溶液(合計100 μL)の組成は、50 μLのPrimeSTAR MAX PreMIX (2×)、25 μLの溶出したDNAサンプル、それぞれ2 μLの20 μM フォワードプライマー(PL_T7pro)及びリバースプライマー(NewYtag_cnvk-linker)、21 μLの超純水とした。プログラムはアニーリング温度を65℃、伸長時間を5秒、変性等のサイクル数が15サイクルとした以外は、上記表3に記載のプログラムと同じとした。
【0080】
(実施例4)NGSによるセレクション産物の解析
(4-1)シークエンスサンプルの調製
まず、3ラウンド目のセレクションで得られたHSAに結合するVHH遺伝子の濃縮ライブラリを用いて、以下の条件でPCR増幅を行った。反応液(合計25 μL)の組成は、12.5 μLのPrimeSTAR MAX PreMIX (2×)、1 μLのセレクション産物、それぞれ0.5 μLの20 μM フォワードプライマー(PL_prRd-N4_NL_FW)及びリバースプライマー(PL_prRd-N4_Ytag_RV)、10.5 μLの超純水とした。PCRプログラムは、アニーリング温度を62℃、伸長時間を5秒、変性等のサイクル数を8回にした以外は上記表3と同じとした。
【0081】
上記(4-1)で得られたPCR産物をAMPure XPを用いて精製し、得られた精製産物を鋳型としてIndex PCRを行った。Index PCR用反応液(合計25 μL)の組成は、12.5 μLのPrimeSTAR MAX (2×)、1 μLのセレクション産物、それぞれ0.5 μLの5 μM フォワードプライマー(Nextera XT Index 1 Primers (N7XX))及びリバースプライマー(Nextera XT Index 2 Primers (S5XX))、10.5 μLの超純水とした。Index PCRプログラムは、アニーリング温度を52℃、伸長時間を5秒、変性等のサイクル数を8回にした以外は上記表3と同じとした。得られたIndex PCR産物を上記と同様にAMPure XPを用いて精製して上記Index PCR精製産物とし、DNA濃度をNanoPad DS-11を用いて測定した。その後、Index PCR精製産物を10 nMになるように希釈した後、各産物を5 μLずつ1つのチューブにまとめるように回収して混合した。
【0082】
(4-2)次世代シークエンサー(NGS)解析の実施
今回のNGSではMiSeq Reagent Kit v2 nanokit (500-cycle) (illumina社)を用いて解析を行った。まず、凍結した試薬カートリッジを脱イオン水で溶かした。10 nM NGSサンプルライブラリをResuspension bufferで4 nM ライブラリに希釈した。5 μLの4 nMライブラリに5 μLの0.2 M NaOHを加えてボルテックスし、室温にて5分反応させた。その後、990 μLの氷冷HT1を加えて20 pMライブラリを調製した。450 μLの20 pMライブラリに対して氷冷HT1を150 μL加え、15 pM サンプルライブラリを調製した。コントロールDNAライブラリであるPhiXライブラリも同様の方法で15 pMライブラリを調製した。
最後に、570 μLの15 pMサンプルライブラリと30 μLの15 pM PhiXライブラリとを混合して最終NGSサンプルライブラリとした。試薬カートリッジに上記最終NGSサンプルライブラリをローディングし、Miseqに試薬カートリッジをセットして、解析を行った。得られたNGS解析データの処理を行い、各標的分子に対して結合配列の特定を行った。
【0083】
(実施例5)VHHの一次結合評価
(5-1)VHH発現プラスミドライブラリの作成
上記のin vitroセレクションによって選抜したVHHをコードする各DNAを、VHH発現用のプラスミドベクターにクローニングした。まず、in vitro セレクションによって取得したDNAライブラリに対して、制限酵素処理用の配列をPCRにより付加し、PCR産物を得た。反応液は、25μLのPrimeSTAR MAX、1μLのスクリーニング産物、それぞれ10 pmolのプライマー、PL_VHH_SfiI-NcoI_FW(配列番号6)及びPL_VHH_BamHI-NotI_RV(配列番号7)をチューブに加え、を超純水で50μLに調整した。上記2つのプライマーの配列を以下に示す。
【0084】
5'- ccggcCatggccACTGCggccGAAGTACAATTAGTTGAATCTGGTGGTGGGCTTG -3' (配列番号6)
5'- AAAAgcggccgcggatccTGAAGAGACTGTCACCAACGTGCC -3' (配列番号 7)
【0085】
PCRプログラムは、アニーリング温度を55℃、伸長時間を15秒とし、25サイクル行い、PCR産物を得た。このPCR産物とC. glutamicum発現プラスミドベクターとを、制限酵素BamHIを用いて、37℃にて1時間処理し、その後、制限酵素SfiIを用いて、50℃にて1時間処理しベクターDNA産物を得た。InsertとなるVHH DNA産物をAMPure XPで精製し、得られた精製Vector DNA産物を、1%アガロースゲルにロードし、100 Vにて30分間電気泳動させ、その後ゲルから切り出して常法に従って精製を行った。
【0086】
以上のように精製したVector DNAを脱リン酸化酵素、FastAP Thermosensitive Alkaline Phosphatase(Thermo Scientific社製)を用いて、37℃にて1時間脱リン酸化反応させた。その後、上記Insert DNAと上記Vector DNAとのモル比が1:10になるように混合し、Ligation high (東洋紡(株))を用いて、16℃にて終夜ライゲーション反応を行い、選抜VHHライブラリが導入されたプラスミドライブラリを取得した。
【0087】
(5-2)VHHの培養上清中への分泌
C. glutamicumを、常法に従って前培養して増殖させた。次いで、電気穿孔法により、上記(5-1)で得られた各プラスミドライブラリをC. glutamicumへ導入し、形質転換体とした。得られた形質転換体をCM2G培地に植菌し、30℃にて終夜培養を行った。その後、上記形質転換体を含むCM2G培養液をVHH発現用培地であるPM1S培地に1:20となるように加え、25℃にてさらに72時間培養を行って、上記培養上清中にVHH(単量体)を分泌発現させた。上記培養上清は、4000 x gで室温にて15分遠心して遠心上清として回収し、さらに0.22 μmのフィルターを通して上記遠心上清から菌体を除去した。
【0088】
(5-3)Octetによるsingle point binding assay
Octet RED384 (Fortebio社製)を用いて、上記のように産生されVHHクローンをHis1Kセンサーチップに固相化し、各ターゲット分子に対する結合活性を測定した。リガンドとして各標的分子の濃度を400 nMに調製し、70 μLの測定液を384ウェルプレートに添加して各標的分子の結合を測定した。測定前、にDip and Read(商標) His1K Biosensors (Fortebio社製)の先端を、200 μLのPBS-T(0.05% Tween 20, pH 7.4)に10分間浸漬させて、センサーチップを水和させた。ラン測定毎の測定順の条件は以下の通りとした。
【0089】
1) Baseline step:PBS-T中で30秒間の測定。
2) Loading step:PBS-Tで50倍希釈したVHHで60秒間の測定。
3) Baseline step:PBS-T中で30秒間の測定。
4) Association step:PBS-Tで希釈し調製した各ターゲット分子で100秒間の測定。
【0090】
5) Dissociation step:PBS-T中で100秒間の測定。
6) Regeneration step:Glycine-HCl (pH2.2)中で5秒間測定、PBS-T中で30秒間の測定。
以上の工程を3回繰り返し、測定データを得た。得られたデータはOctetソフトウェアバージョン(1.2.1.5) (Molecular Devices)を用いて処理し、Binding Responseが0.1以上の値を示したクローンをHit cloneとした(
図6)。
【0091】
(5-3)Hit cloneの配列解析
Hit cloneであるVHHのDNA配列を配列解析により特定した。上記の形質転換体の中からHit cloneを産生する形質転換体を選択し、37℃にて一晩、CM2G培地中で培養を行い、この培養液についてコロニーPCRを行った。反応液は、7.5 μL の2x PCR Buffer for KOD Fx Neo、3 μL の2 mM dNTP、0.3 μLのKOD Fx Neo、0.5 μLの上記培養液、それぞれ4.5 pmolのPK Forwardプライマー (配列番号30)及びPK Reverseプライマー(配列番号31)をチューブに加え、超純水で15 μLに調整した。PCRプログラムは、初期変性94℃で2分、変性98℃で10秒、アニーリング、伸長を68℃で30秒とし、30サイクル行った。PCR反応後、0.5 μL Shrimp Alkaline Phosphatase (1,000 units/ml) (NEB), 0.5 μL Exonuclease I (20,000 units/ml) (NEB)を反応液に添加し、37℃で45分間反応させ、次に80℃で15分間熱処理を行うことで、各酵素を失活させた。この反応液を用いて、各DNA配列の解析をEurofins genomicsに依頼した。取得したHit cloneの中で配列が重複するものは1つとカウントし、それらクローンをUnique cloneとした(
図7、
図8、表4~6)。
【0092】
(配列番号30) 5'-GATAAAAGTAATCCCATGTCGTGATCAGC-3'
(配列番号31) 5'-GATCGCTGCAGGTCGACTCTAGA-3'
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
(実施例6)VHHユニーククローンのin vitroにおける特性解析
(6-1)精製VHHの取得
上記の配列解析によって特定したUniqueクローンについて、30℃にて一晩前培養を行った。その後、この前培養液35 μLをVHH発現用培地PM1S培地700 μLに加え、25℃にて72時間培養を行って、培養上清中にVHH(単量体)を分泌させた。この培養上清は、4000 x gで30分間、室温で遠心し、菌体を除去して遠心上清を得た。
このようにして得られた遠心上清を、His Multi Trap HP(Cytiva社製)を用いて当該製品説明書に従って精製した。100 μLの溶出バッファー(300 mM NaCl及び500 mMイミダゾール含有50 mM Tris-HCl (pH 7.5))を添加し、4℃にて2分間、500 x gで遠心し、上記His Multi Trap HPからVHHを溶出させた。得られた溶出液を回収し、この溶出液を精製VHHクローンサンプルとした。
【0097】
(6-2)Octetによるmultipoint Binding assay
Octet RED384を用いて、上記サンプル中の精製VHHクローンをHis1Kセンサーチップに固相化し、各標的分子に対する結合活性を測定した。HSAの濃度は2倍希釈系列で7点と、HSAなし(0 nM)との条件とし、70 μLの各測定液を384ウェルプレートに添加して測定した。測定前にDip and Read His1K Biosensorsの先端を200 μLのPBS-T(0.05% Tween 20, pH 7.4)に10分間浸漬させ、センサーチップを水和させた。ラン測定毎の測定順の条件は以下の通りである。
【0098】
1) Baseline step:PBS-T中で30秒間の測定。
2) Loading step:PBS-Tで50倍希釈したVHHで60秒間の測定。
3) Baseline step:PBS-T中で30秒間の測定。
4) Association step:PBS-Tで希釈し調製した各ターゲット分子で100秒間の測定。
【0099】
5) Dissociation step:PBS-T中で100秒間の測定。
6) Regeneration step:Glycine-HCl (pH2.2)中で5秒間測定、PBS-T中で30秒間の測定。
上記1)~6)の工程を3回繰り返した。得られた解析データはOctetソフトウェアバージョン(1.2.1.5)を用いて、ターゲット濃度が0 nMの測定をReferenceに取り、3.15- 200 nM条件の測定結果に対してGlobal Fittingを行い、結合活性および解離速度を算出した。そして、最も結合活性および解離速度が優れていた1つのVHHを候補VHHとした。HSA結合VHHの各クローンのマウス血清アルブミン(MSA)との結合を実施例6と同様な方法で検討した。そして、マウス血清アルブミンにも交差反応を示したVM-1106を候補ペプチドとしてEvolutionary Libraryを設計した。
【0100】
(実施例7)進化ライブラリ(Evolutionary Library)
(1)Evolutionary Libraryの設計
実施例4のNGS解析で得られた一群のVHHのアミノ酸配列をアラインメントしてCDR3配列を抽出した。この一群のVHHのCDR3アミノ酸配列(以下、「設計用配列群」と言う。)と、実施例5及び6を通して得られたヌクレオチド配列にコードされている候補VHHのCDR3アミノ酸配列を対比した。このときに、候補VHHのCDR3配列と6個以上のアミノ酸に相違が見られたVHHを設計用配列群から除いた。
【0101】
次に、上記設計用配列群のCDR3のアミノ酸配列中のポジションごとに候補VHHと同じアミノ酸が出現する回数を求めた。その出現回数をCDR3のアミノ酸配列中で比較した。そして、cDNA displayでのセレクション条件とダイバーシティを考慮し、変異箇所は5~6が適しているため、出現回数が下位の5箇所を変異導入箇所に決定した(
図9)。
なお、NGSで解析を行う際に、特定の配列が重複して出現するため、通常は、重複数が多いほど濃縮がかかっており、結合する確率が高いとみなすことができる。しかし、本実施例では、NGSに出現してきた配列はすべて標的タンパク質に結合するという前提のもとに重複数は考慮せずにすべて1配列として解析した。これは後述する進化ライブラリの多様性を確保するためであり、指向性進化法という効率的大規模スクリーニング法と組み合わせることによって、従来法では取得できなかったペプチドを取得できる蓋然性が高まった。
【0102】
(2)Evolutionary Libraryの作成
本実施例の(1)で決定した候補VHHのCDR3領域をプライマーのアニーリング箇所とし、変異導入箇所のコドンがNNKになるようなプライマーとしてVM1106mut_primer (配列番号8)の合成をEurofins genomics社に委託した。下記の配列中、MはA又はCを表し、NはA、T、G及びCのいずれかを表す。なお、下記のヌクレオチド配列中、5’末端の1~15番目までの配列であるTGAAGAGACAGTGACはフレームワーク配列であり、どのクローンで配列決定を行っても共通配列となることを確認した。
【0103】
5’-TGAAGAGACAGTGACGAGGGTGCCCTGTCCCCAATAATCMNNATGTGCATGMNNACGCAGMNNGAACCAGAAMNNMNNGGCAGCGCAGTA -3’ (配列番号8)
【0104】
25 μLのPrimeSTAR MAX、1 μLの上記実施例3で得られた3ラウンド後の濃縮ライブラリ、それぞれ20 pmolのVM1106_mut_primer(配列番号8)及び PL_T7pro(配列番号3)をチューブに入れ、超純水で総量が50 μLになるように調整した。PCRプログラムを、アニーリング温度を62℃、伸長時間を15秒とし、15サイクルとする以外は表3と同じとしてPCRを行い、PCR産物Eを得た。得られたPCR産物EをAMPure XPを用いて精製して精製産物Eとし、この精製産物Eを鋳型としてリンカーとのハイブリダイゼーション領域を付加するためのPCRを行った。上記領域付加用のPCR反応液として、25 μLのPrimeSTAR MAX、1 μLの上記精製産物E、20 pmolのプライマー、2nd_PCR_PL_mu (配列番号9)及びPL_T7pro(配列番号3)を超純水で総量が50 μLになるように調整したものを使用した。2nd_PCR_PL_muプライマーの配列を以下に示す。このPCRプログラムは、アニーリング温度を55℃、伸長時間を15秒、サイクル数を8とする以外は表3と同じとし、PCR反応を行った。得られたPCR産物をAMPure XPを用いて精製し、この精製PCR産物をEvolutionary Library DNAとした。
【0105】
5’ - TTTCCACGCCGCCCCCCGTCCTGCTTCCGCCGTGATGATGATGATGATGGCTGCCTCCCCCTGAAGAGACAGTGACGAGGGTGCCCTGT -3’ (配列番号9)
【0106】
(3)Evolutionary Libraryを用いたスクリーニング
上記のように作製したEvolutionary Library DNAを用いて、上記実施例2の手順に従ってcDNA display分子を合成した。20 pmolのmRNA-リンカー複合体から合成されたcDNAディスプレイ分子を入れたチューブに、100 pmolのIgG1 Proteinを含むPBS-Tを加えて100 μLに希釈し希釈液とした。次いで、この希釈液を、20 μL分のDynabeads Myonestreptavidin C1を入れたチューブに加え、4℃にて1時間転倒混和し、混合液とした。
【0107】
上記の混合液の上清を新たなチューブに50 μL回収し、0.8% ブロックエース (ケー・エー・シー社製)、10 pmol分のビオチン化HSAを含むPBS-Tを50 μL加え、室温で30分間転倒混和した。混合液に20 μL分のDynabeads Myonestreptavidin C1を加え、室温で20分間転倒混和してcDNAディスプレイ―ビオチン化HSA複合体を含むビオチン化HSAをビーズに固定し、ビオチン化HSA固定化ビーズとした。
【0108】
上記のビオチン化HSA固定化ビーズを入れたチューブに200 μLのPBS-Tを加えて洗浄する操作を3回繰り返した。その後、20 μLのPBS-Tを上記洗浄済の固定化ビーズを入れたチューブに加え、室温にて15分間転倒混和して洗浄した。その後、20 μLの溶出バッファーをこのチューブに加えて固定化されたcDNA display分子を溶出させ、HSAに結合能を示すcDNA display分子を溶出サンプルとして回収した。得られた溶出サンプルはAMpure XPを使用し、添付されたマニュアルに従って精製し精製液を得た。この精製液を上述したR1のサンプルと同等の条件でPCR増幅させ、その後、AMpureXPを使用し、添付されたマニュアルに従って精製しR2_Evolutionary Library濃縮ライブラリとした。
【0109】
以上のようにして作製したR2_Evolutionary Library濃縮ライブラリから上記実施例2の手順に従って、cDNA display分子を合成した。20 pmolのmRNA-リンカー複合体から合成されたcDNAディスプレイ分子をPBS-Tで100 μLに希釈後、50 μL分のDynabeads Myonestreptavidin C1を入れたチューブに加え、室温にて1時間転倒混和した。
【0110】
上記チューブ内の上清から30 μLを回収し、0.4% ブロックエース (ケー・エー・シー社製)、10 pmol分のビオチン化HSAを含むPBS-Tを970 μL加え、室温で30分間転倒混和し、混合液とした。この混合液に20 μL分のDynabeads Myonestreptavidin C1を加え、室温で20分間転倒混和してcDNAディスプレイ-ビオチン化HSA複合体を含むビオチン化HSAをビーズに固定し、ビオチン化HSA固定化ビーズとした。この固定化ビーズを入れたチューブに200 μLのPBS-Tを加えて洗浄する操作を3回繰り返した。その後、この固定化ビーズを入れたチューブに20 μLのPBS-Tを加え、室温にて15分間転倒混和して洗浄した。
その後、このチューブに20 μLの溶出バッファーを加え、HSAに結合能を示すcDNA display分子を溶出させて回収し、溶出サンプルを得た。以上のようにして得られた溶出サンプルは、AMpure XPを使用し、添付されたマニュアルに従って精製し、精製液とした。この精製液を上記R1と同等の条件でPCRにて増幅させ、AMpureXPを使用し、添付されたマニュアルに従って精製しR3_Evolutionary Library濃縮ライブラリとした。その後、上記実施例3の手順でクローンの配列を決定した。その結果、VM-1986およびVM-1987というクローンについて、以下の配列が得られた。
図11及び以下に、配列番号26および28には全長配列を、また、配列番号27および29には変異を含むCDR3配列を示す。
図11中、アミノ酸の上に点を付けた部分がランダム変異を導入した箇所である。
【0111】
名称:VM-1986
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGHTFSDYAMGWFRQAPGKGREFVAAISRNGGSTYYADSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAAVRFWFDLRKHAHVDYWGQGTLVTVSS(配列番号26)
VM-1986のCDR3 : VRFWFDLRKHAHVDY(配列番号27)
【0112】
名称:VM-1987
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGHTFSDYAMGWFRQAPGKGREFVAAISRNGGSTYYADSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCAAARFWFNLREHAHMDYWGQGTLVTVSS(配列番号28)
VM-1987のCDR3 : ARFWFNLREHAHMDY(配列番号29)
【0113】
VM-1986及びVM-1987とHSA、マウスアルブミンの相互作用解析をOctet384で行った結果を、
図10(A)~10(C)に示す。
図10(A)はアミノ酸配列に変異のないVM-1106を使用した場合、
図10(B)~
図10(C)は、点を付けた位置でアミノ酸配列に変異が生じているVHHである。
測定の結果、VM-1986のHSAに対する解離定数は1.41 nM、VM-1987の解離定数は1.77 nMであり、元配列であるVM-1106の解離定数 (12.4 nM)よりも約10倍結合が強くなっていることが確認された。また、VM-1986及びVM-1987は、マウスアルブミンへの結合交差性もVM-1106の9.58 nMから、それぞれ2.28 nM、2.57 nMと向上していることが確認できた。