(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075091
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】材料分離装置および材料分離方法
(51)【国際特許分類】
B03B 4/02 20060101AFI20240527BHJP
B03C 7/04 20060101ALI20240527BHJP
B03C 7/02 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
B03B4/02
B03C7/04
B03C7/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186284
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 達宏
(72)【発明者】
【氏名】安藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】西名 慶晃
(72)【発明者】
【氏名】今西 大輔
【テーマコード(参考)】
4D054
4D071
【Fターム(参考)】
4D054BC10
4D054GA02
4D054GA09
4D054GB05
4D071AA81
4D071AB52
4D071AB61
4D071DA15
(57)【要約】
【課題】3種類以上の材料粒子を含む被処理材料を一度で高精度に分離処理する。
【解決手段】エアテーブル型密度分離機構による密度分離と、この機構のデッキの振動を利用した摩擦帯電分離機構による摩擦帯電分離を組み合わせて材料分離を行う材料分離装置であり、デッキ面10を構成する部材を、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子の仕事関数の中間値となる仕事関数を有する材質とし、デッキ1の材料払出し部12またはその近傍位置に、材料払出し部12から払い出される前記2種類の材料粒子の流れを挟むようにして正負の電極部材2a,2bを対向して設けた。前記2種類の材料粒子はデッキ1の振動によるデッキ面10との摩擦でプラスとマイナスに帯電し、材料払出し部12から払い出される際に、それらの極性に応じて電極部材2a,2bに引き寄せられることで分離される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が材料投入部(11)、他端側が材料払出し部(12)を構成し、デッキ面(10)が、材料投入部(11)から材料払出し部(12)に向かって下向きに傾斜するとともに、デッキ幅方向に傾斜したデッキ(1)を有し、
デッキ面(10)に形成された複数の空気穴からデッキ面(10)上に空気を噴出させつつ、デッキ(1)を幅方向で振動させることにより、材料投入部(11)からデッキ面(10)上に投入された粒状の被処理材料が材料払出し部(12)に流れる過程で、密度差による材料粒子の分離がなされるようにしたエアテーブル型密度分離機構を備えた材料分離装置であって、
デッキ(1)の少なくともデッキ面(10)を構成する部材を、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子の仕事関数の中間値となる仕事関数を有する材質とし、
デッキ(1)の材料払出し部(12)またはその近傍位置に、材料払出し部(12)から払い出される前記2種類の材料粒子の流れを挟むようにして、正電極部材(2a)と負電極部材(2b)が材料払出し部(12)の幅方向で対向して設けられることを特徴とする材料分離装置。
【請求項2】
デッキ(1)のデッキ面(10)を構成する部材が、デッキ本体を被覆するめっき層またはライニングであることを特徴とする請求項1に記載の材料分離装置。
【請求項3】
被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子(x1),(x2)が、密度差による材料粒子の分離が一部生じた状態で材料払出し部(12)から払い出される被処理材料を処理対象とする材料分離装置であって、
材料払出し部(12)の幅方向において、仕事関数の高い方の材料粒子(x1)が多く払い出される側に正電極部材(2a)を配置し、仕事関数の低い方の材料粒子(x2)が多く払い出される側に負電極部材(2b)を配置することを特徴とする請求項1に記載の材料分離装置。
【請求項4】
使用済み耐火物を処理対象とすることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の材料分離装置。
【請求項5】
高炉樋の使用済み耐火物を処理対象とすることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の材料分離装置。
【請求項6】
一端側が材料投入部(11)、他端側が材料払出し部(12)を構成し、デッキ面(10)が、材料投入部(11)から材料払出し部(12)に向かって下向きに傾斜するとともに、デッキ幅方向に傾斜したデッキ(1)を有し、
デッキ面(10)に形成された複数の空気穴からデッキ面(10)上に空気を噴出させつつ、デッキ(1)を幅方向で振動させることにより、材料投入部(11)からデッキ面(10)上に投入された粒状の被処理材料が材料払出し部(12)に流れる過程で、密度差による材料粒子の分離がなされるようにしたエアテーブル型密度分離機構を備えた材料分離装置(A)を用いた材料分離方法であって、
材料分離装置(A)は、デッキ(1)の少なくともデッキ面(10)を構成する部材を、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子の仕事関数の中間値となる仕事関数を有する材質とし、デッキ(1)の材料払出し部(12)またはその近傍位置に、材料払出し部(12)から払い出される前記2種類の材料粒子の流れを挟むようにして、正電極部材(2a)と負電極部材(2b)を材料払出し部(12)の幅方向で対向して設け、
デッキ面(10)上に投入された被処理材料に含まれる材料粒子のうち、前記2種類の材料粒子とそれ以外の材料粒子とを、前記エアテーブル型密度分離機構で密度差により分離するとともに、
デッキ(1)の振動による摩擦により、前記2種類の材料粒子のうちの一方の材料粒子をプラスに、他方の材料粒子をマイナスにそれぞれ帯電させ、材料払出し部(12)から払い出される際に、前記マイナスに帯電した材料粒子が正電極部材(2a)側に引き寄せられ、前記プラスに帯電した材料粒子が負電極部材(2b)側に引き寄せられるようにすることにより、前記2種類の材料粒子を分離することを特徴とする材料分離方法。
【請求項7】
デッキ(1)のデッキ面(10)を構成する部材が、デッキ本体を被覆するめっき層またはライニングであることを特徴とする請求項6に記載の材料分離方法。
【請求項8】
被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子(x1),(x2)が、密度差による材料粒子の分離が一部生じた状態で材料払出し部(12)から払い出される被処理材料を処理対象とする材料分離方法であって、
材料払出し部(12)の幅方向において、仕事関数の高い方の材料粒子(x1)が多く払い出される側に正電極部材(2a)を配置し、仕事関数の低い方の材料粒子(x2)が多く払い出される側に負電極部材(2b)を配置することを特徴とする請求項6に記載の材料分離方法。
【請求項9】
使用済み耐火物を処理対象とすることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の材料分離方法。
【請求項10】
高炉樋の使用済み耐火物を処理対象とすることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の材料分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3種類以上の材料粒子を含む被処理材料(粒状混合物)を材料粒子別に分離回収するための材料分離装置および材料分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製銑工程では溶銑を流すための耐火物製の樋(高炉樋)が用いられており、この高炉樋は溶損による損耗が進むと解体され、使用済み耐火物となる。この使用済み耐火物は、いわゆるスラグライン材(SiCを主成分とする耐火物。以下、説明の便宜上「SL材」という。)、メタルライン材(Al2O3を主成分とする耐火物。以下、説明の便宜上「ML材」という。)、スラグ材(樋に付着していたスラグ)が混在したものである。
この使用済み耐火物のうち、SL材とML材は耐火物としての能力を有する成分に富んだ材料であるため、安定した状態で分離回収し、耐火物原料としてリサイクルすることが望ましい。しかし、分離回収したSL材やML材にスラグ材が混入すると耐火物原料としての品位が安定しないため、リサイクル原料として使用することは難しい。
【0003】
したがって、高炉樋の使用済み耐火物のリサイクルを行うためには、使用済み耐火物をSL材、ML材、スラグ材の3種類に分離する必要がある。しかし、これらの材料は色合いが酷似しており、従来の耐火物リサイクルで利用されている色彩の違いによって選別・分離する方法を適用することは困難である。
従来、密度が異なる材料粒子の混合物(粒状混合物)を対象とする材料分離手段として、材料粒子の密度差を利用したエアテーブル型密度分離装置が使用されており、主にリサイクル廃棄物(廃プラなど)の選別技術として広く用いられている。
【0004】
このエアテーブル型密度分離装置は、
図4に示すように、一端側が材料投入部81、他端側が材料払出し部82を構成し、デッキ面80が、材料投入部81から材料払出し部82に向かって下向きに傾斜(この傾斜をサイドスロープという。)するとともに、デッキ幅方向に傾斜(この傾斜をエンドスロープという。)したデッキ8を備え、デッキ面80の全面に形成された複数の空気穴からデッキ面80上に空気流を噴出させつつ、デッキ8を幅方向(図中x方向)で振動させることにより、材料投入部81からデッキ面80上に投入された被処理材料(粒状混合物)が材料払出し部82に流れる過程で、密度差による材料粒子の分離がなされるようにしたものである。
【0005】
このエアテーブル型密度分離装置では、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、低密度粒子はデッキ面80から噴出する空気流によって浮上するため、振動するデッキ面80との摩擦の影響が少なく、このため幅方向で傾斜したデッキ面80の低い側に移動し、一方、高密度粒子は、振動するデッキ面80との摩擦の影響を大きく受けるので、幅方向で傾斜したデッキ面80の高い側に移動し、このようにして分離された低密度粒子と高密度粒子が、材料払出し部82の幅方向の異なる位置からそれぞれ払い出される。また、被処理材料に低密度粒子と高密度粒子に対して十分な密度差がある中密度粒子が含まれる場合、この中密度粒子は、幅方向で傾斜したデッキ面80の高い側と低い側の中間位置に移動し、低密度粒子・高密度粒子と分離された状態で払い出されるため、被処理材料(粒状混合物)を密度差により3種類の材料粒子(低密度粒子・中密度粒子・高密度粒子)に分離することができる。
【0006】
しかし、被処理材料に含まれる中密度粒子が、低密度粒子または高密度粒子に対して十分な密度差がない場合には、従来のエアテーブル型密度分離装置では、被処理材料を3種類の材料粒子(低密度粒子・中密度粒子・高密度粒子)に高精度に分離することができない。ここで、上述した高炉樋の使用済み耐火物を密度分離する場合、スラグ材が低密度材、ML材が高密度材、SL材が中密度材になるが、SL材とスラグ材に十分に大きな密度差がないため、従来のエアテーブル型密度分離装置では、ML材、SL材、スラグ材という3種類の材料を高精度に分離することができない。
一方、材料の分離精度を向上させるため、例えば、特許文献1には、エアテーブル型密度分離装置で密度分離する前の材料(プラスチックを含む廃棄物)に摩擦帯電分離を実施し、事前に密度差が小さい材料どうしを分離するようにした分離方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のエアテーブル型密度分離装置による密度分離では、十分な密度差があれば3種類以上の材料粒子を高精度に分離できるが、中密度粒子が低密度粒子または高密度粒子に対して十分な密度差がない場合には、低精度の分離しかできない問題がある。
一方、特許文献1の方法は、3種類以上の材料粒子の分離精度は高まるが、摩擦帯電分離工程とエアテーブル型密度分離装置による密度分離工程という2つの工程が必要であるため、手間とコストがかかる問題がある。
【0009】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、分離を要する3種類以上の材料粒子を含む被処理材料(粒状混合物)を一度で高精度に分離処理し、各材料粒子を高純度で分離回収することができる材料分離装置および材料分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の材料分離装置および材料分離方法は、エアテーブル型密度分離機構による密度分離と、この機構のデッキ(テーブル)の振動を利用した摩擦帯電分離機構による摩擦帯電分離を組み合わせることで、3種類以上の材料粒子を含む被処理材料(粒状混合物)を一度で高精度に分離処理できるようにしたものであり、その特徴は以下の通りである。
【0011】
[1]一端側が材料投入部(11)、他端側が材料払出し部(12)を構成し、デッキ面(10)が、材料投入部(11)から材料払出し部(12)に向かって下向きに傾斜するとともに、デッキ幅方向に傾斜したデッキ(1)を有し、
デッキ面(10)に形成された複数の空気穴からデッキ面(10)上に空気を噴出させつつ、デッキ(1)を幅方向で振動させることにより、材料投入部(11)からデッキ面(10)上に投入された粒状の被処理材料が材料払出し部(12)に流れる過程で、密度差による材料粒子の分離がなされるようにしたエアテーブル型密度分離機構を備えた材料分離装置であって、
デッキ(1)の少なくともデッキ面(10)を構成する部材を、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子の仕事関数の中間値となる仕事関数を有する材質とし、
デッキ(1)の材料払出し部(12)またはその近傍位置に、材料払出し部(12)から払い出される前記2種類の材料粒子の流れを挟むようにして、正電極部材(2a)と負電極部材(2b)が材料払出し部(12)の幅方向で対向して設けられることを特徴とする材料分離装置。
【0012】
[2]上記[1]の材料分離装置において、デッキ(1)のデッキ面(10)を構成する部材が、デッキ本体を被覆するめっき層またはライニングであることを特徴とする材料分離装置。
[3]上記[1]または[2]の材料分離装置において、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子(x1),(x2)が、密度差による材料粒子の分離が一部生じた状態で材料払出し部(12)から払い出される被処理材料を処理対象とする材料分離装置であって、
材料払出し部(12)の幅方向において、仕事関数の高い方の材料粒子(x1)が多く払い出される側に正電極部材(2a)を配置し、仕事関数の低い方の材料粒子(x2)が多く払い出される側に負電極部材(2b)を配置することを特徴とする材料分離装置。
[4]上記[1]~[3]のいずれかの材料分離装置において、使用済み耐火物を処理対象とすることを特徴とする材料分離装置。
[5]上記[1]~[3]のいずれかの材料分離装置において、高炉樋の使用済み耐火物を処理対象とすることを特徴とする材料分離装置。
【0013】
[6]一端側が材料投入部(11)、他端側が材料払出し部(12)を構成し、デッキ面(10)が、材料投入部(11)から材料払出し部(12)に向かって下向きに傾斜するとともに、デッキ幅方向に傾斜したデッキ(1)を有し、
デッキ面(10)に形成された複数の空気穴からデッキ面(10)上に空気を噴出させつつ、デッキ(1)を幅方向で振動させることにより、材料投入部(11)からデッキ面(10)上に投入された粒状の被処理材料が材料払出し部(12)に流れる過程で、密度差による材料粒子の分離がなされるようにしたエアテーブル型密度分離機構を備えた材料分離装置(A)を用いた材料分離方法であって、
材料分離装置(A)は、デッキ(1)の少なくともデッキ面(10)を構成する部材を、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子の仕事関数の中間値となる仕事関数を有する材質とし、デッキ(1)の材料払出し部(12)またはその近傍位置に、材料払出し部(12)から払い出される前記2種類の材料粒子の流れを挟むようにして、正電極部材(2a)と負電極部材(2b)を材料払出し部(12)の幅方向で対向して設け、
デッキ面(10)上に投入された被処理材料に含まれる材料粒子のうち、前記2種類の材料粒子とそれ以外の材料粒子とを、前記エアテーブル型密度分離機構で密度差により分離するとともに、
デッキ(1)の振動による摩擦により、前記2種類の材料粒子のうちの一方の材料粒子をプラスに、他方の材料粒子をマイナスにそれぞれ帯電させ、材料払出し部(12)から払い出される際に、前記マイナスに帯電した材料粒子が正電極部材(2a)側に引き寄せられ、前記プラスに帯電した材料粒子が負電極部材(2b)側に引き寄せられるようにすることにより、前記2種類の材料粒子を分離することを特徴とする材料分離方法。
【0014】
[7]上記[6]の材料分離方法において、デッキ(1)のデッキ面(10)を構成する部材が、デッキ本体を被覆するめっき層またはライニングであることを特徴とする請求項6に記載の材料分離方法。
[8]上記[6]または[7]の材料分離方法において、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子(x1),(x2)が、密度差による材料粒子の分離が一部生じた状態で材料払出し部(12)から払い出される被処理材料を処理対象とする材料分離方法であって、
材料払出し部(12)の幅方向において、仕事関数の高い方の材料粒子(x1)が多く払い出される側に正電極部材(2a)を配置し、仕事関数の低い方の材料粒子(x2)が多く払い出される側に負電極部材(2b)を配置することを特徴とする材料分離方法。
[9]上記[6]~[8]のいずれかの材料分離方法において、使用済み耐火物を処理対象とすることを特徴とする材料分離方法。
[10]上記[6]~[8]のいずれかの材料分離方法において、高炉樋の使用済み耐火物を処理対象とすることを特徴とする材料分離方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エアテーブル型密度分離機構による密度分離と、この機構のデッキ(テーブル)の振動を利用した摩擦帯電分離機構による摩擦帯電分離を組み合わせることで、3種類以上の材料粒子を含む被処理材料(粒状混合物)を一度で高精度に分離処理し、各材料粒子を高純度で分離回収することができる。このため、高炉樋の使用済み耐火物についても、SL材、ML材、スラグ材の3種類に高精度に分離し、それぞれを高純度に分離回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の材料分離装置の一実施形態とその使用状況を模式的に示す斜視図
【
図2】本発明の材料分離装置において、分離すべき材料粒子の物性(密度,仕事関数)に応じた正電極部材と負電極部材の配置例を示す説明図
【
図3】実施例において、本発明の材料分離装置と従来の材料分離装置により高炉樋の使用済み耐火物を分離処理した際の材料分離回収純度を示したグラフ
【
図4】従来のエアテーブル型密度分離装置とその使用状況を模式的に示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の材料分離装置は、エアテーブル型密度分離機構と、この機構のデッキ(テーブル)の振動を利用した摩擦帯電分離機構を兼ね備えた材料分離装置であり、このように両機構を兼ね備えることにより、3種類以上の材料粒子を含む被処理材料(粒状混合物)を一度で高精度に分離処理することを可能としたものである。
図1は、本発明の材料分離装置Aの一実施形態とその使用状況を模式的に示す斜視図である。
この材料分離装置Aは、従来のエアテーブル型密度分離装置と同様、材料の密度分離がなされるデッキ1(テーブル)を有するエアテーブル型密度分離機構を備える。
【0018】
デッキ1は、上面がデッキ面10を構成する底板13と、その両側に立設された側板14a,14bなどで構成され、一端側が材料投入部11(材料入口)、他端側が材料払出し部12(材料出口)となっている。デッキ1の平面形状は、密度分離される過程で材料粒子どうしが重ならないようにするため、材料投入部11から材料払出し部12に向かって拡幅した台形状に構成されている。
また、通常、デッキ1のデッキ面10(底板13)には、図中の15で示す各位置に邪魔板が立設される。この邪魔板は、デッキ1に投入された被処理材料をデッキ面10上に滞留させ、その間に密度分離を進行させるために設けられる。
【0019】
デッキ1のデッキ面10は、材料投入部11から材料払出し部12に向かって下向きに傾斜(この傾斜をサイドスロープという。)するとともに、デッキ幅方向に傾斜(この傾斜をエンドスロープという。)している。
デッキ1のデッキ面10(底板13)には、その全面にわたって複数の小孔状の空気穴(図示せず)が形成され、この空気穴からデッキ面10上に空気を噴出させるようにしてある。また、デッキ1は、その幅方向で振動するように、装置本体3に支持されている。なお、デッキ1が振動する方向は、通常、やや斜め上向きのデッキ幅方向(図中x方向)である。
以上のような構成のエアテーブル型密度分離機構により、従来のエアテーブル型密度分離装置と同様、材料投入部11からデッキ面10上に投入された被処理材料が材料払出し部12に流れる過程で、密度差による材料の分離がなされるようにしてある。
【0020】
さらに、この材料分離装置Aでは、摩擦帯電分離機構として、デッキ1の少なくともデッキ面10が特定の材質で構成されるとともに、材料払出し部12またはその近傍に、デッキ面10上で帯電した材料粒子を引き寄せるための正電極部材2aおよび負電極部材2bが設けられる。
すなわち、まず、デッキ1の少なくともデッキ面10を構成する部材を、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差がない若しくは密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子の仕事関数の中間値となる仕事関数を有する材質としてある。これにより、被処理材料をデッキ1に投入した際に、デッキ1の振動によるデッキ面10との摩擦によって、分離を要する上記2種類の材料粒子のうちの一方の材料粒子がプラスに、他方の材料粒子がマイナスに帯電することになる。
【0021】
ここで、例えば、処理対象が高炉樋の使用済み耐火物の場合、上述したようにSL材とスラグ材は密度差が小さく、高精度に密度分離することが難しいので、これらSL材とスラグ材が、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子であるとした場合、SL材の主成分であるSiCの仕事関数は約4.5eV、スラグ材の主成分であるCaOの仕事関数は約1.6eVであり、SL材とスラグ材の仕事関数もそれらに近い値であると考えられることから、デッキ1の少なくともデッキ面10を構成する部材を、それら仕事関数(4.5eV、1.6eV)の中間値となる仕事関数を有する材質とする。具体的には、亜鉛の仕事関数は約3.6eV、炭素の仕事関数は約4.0eVであることから、例えば、デッキ面10を構成する部材を、デッキ本体を被覆する亜鉛めっき層や炭素繊維のライニング(被覆層)とする。
なお、本発明では、少なくともデッキ面10を構成する部材の材質が上記のような仕事関数であればよいので、上記のようにデッキ本体を被覆するめっき層またはライニングをそのような材質のものとしてもよいし、デッキ1の全体をそのような材質のものとしてもよい。
【0022】
上記のようにプラスとマイナスにそれぞれ帯電した材料粒子を、材料払出し部12から払い出される際に、それぞれ引き寄せて分離回収するために、材料払出し部12またはその近傍位置に、材料払出し部12から払い出される前記2種類の材料粒子の流れを挟むように、正電極部材2aと負電極部材2bが材料払出し部12の幅方向で対向して設けられる。なお、本実施形態では、正電極部材2aと負電極部材2bはそれぞれ電極板で構成されているが、これに限定されない。
正電極部材2aと負電極部材2bには、材料払出し部12から払い出される帯電した各材料粒子を引き寄せることができるように、所定の電圧が印加される。
【0023】
本実施形態では、材料払出し部12の外側に正電極部材2aと負電極部材2bが設けられ、材料払出し部12から払い出されて落下する材料粒子が正電極部材2aと負電極部材2bに引き寄せられるようにしているが、例えば、材料払出し部12の位置に正電極部材2aと負電極部材2bを組み込むようにしてもよい。
また、正負の各電極部材2a,2bは極性を切り替えられるようにしてもよく、また、被処理材料によっては高密度粒子側で摩擦帯電分離がなされる場合もあり得ることから、正負の各電極部材2a,2bを材料払出し部12の幅方向において位置調整できるようにしてもよい。
【0024】
また、処理の対象となる被処理材料によっては、被処理材料に含まれる材料粒子のうち、密度差が小さいが分離を要する2種類の材料粒子x1,x2が、密度差による材料粒子の分離が一部生じた状態(すなわち、十分な分離状態ではないが、材料の分離がある程度生じた状態)で材料払出し部12から払い出される場合があり、そのような被処理材料を処理対象とする場合には、材料払出し部12の幅方向において、仕事関数の高い方の材料粒子x1が多く払い出される側に正電極部材2aを配置し、仕事関数の低い方の材料粒子x2が多く払い出される側に負電極部材2bを配置することが好ましい。これは、分離を要する2種類の材料粒子x1,x2が、密度差による材料粒子の分離が一部生じた状態で材料払出し部12から払い出される場合、仮に上記とは逆に、仕事関数の高い方の材料粒子x1が多く払い出される側に負電極部材2bを配置し、仕事関数の低い方の材料粒子x2が多く払い出される側に正電極部材2aを配置すると、密度分離の効果(密度差による材料粒子の分離が一部生じていること)と摩擦帯電分離の効果が互いを減殺させ合う(打ち消し合う)ような関係となるおそれがあり、材料粒子の分離精度が低下するおそれがあるからである。
【0025】
これを
図2に基づいて説明する。
図2は、分離すべき材料粒子の物性(密度、仕事関数)に応じた正電極部材2a(正電極板)と負電極部材2b(負電極板)の配置例を示した説明図であり、材料払出し部12と正電極部材2aおよび負電極部材2bを正面から見た図である。
図2(a)~(c)のいずれの場合も、低密度または中密度の材料粒子x1,x2に対して高密度の材料粒子x3は密度分離された状態で材料払出し部12から払い出される。なお、高Wとは高仕事関数を、低Wとは低仕事関数をそれぞれ意味する。
図2(a)は、分離を要する2種類の材料粒子x1,x2に密度差が殆どなく、このため材料粒子x1,x2が混在した状態で材料払出し部12から払い出される場合であり、この場合には、正電極部材2aおよび負電極部材2bを配置する位置は任意であり、
図2(a)の位置に配置してもよいし、それとは左右逆の位置に配置してもよい。
【0026】
これに対して、
図2(b),(c)は、分離を要する2種類の材料粒子x1,x2にある程度の密度差があり、その密度差による材料粒子の分離が一部生じた状態(すなわち、十分な分離状態ではないが、材料の分離がある程度生じた状態)で材料払出し部12から払い出される場合であり、この場合には、高W粒子x1が多く払い出される側に正電極部材2aを配置し、低W粒子x2が多く払い出される側に負電極部材2bを配置することが好ましい。例えば、
図2(b)において、仮に、高W粒子x1が多く払い出される側に負電極部材2bを配置し、低W粒子x2が多く払い出される側に正電極部材2aを配置した場合には、せっかく密度差により分離された材料粒子が遠い側の電極部材に引き寄せられることになるので、密度差による分離が生かされないだけでなく、密度分離の効果と帯電分離の効果が互いを減殺させ合う関係になるおそれがある。これは
図2(c)の場合も同様である。
【0027】
次に、本発明の材料分離装置Aの使用方法と作用(すなわち本発明の材料分離方法)について説明する。ここでは、高炉樋の使用済み耐火物に含まれるSL材、スラグ材、ML材を想定し、被処理材料(粒状混合物)が中密度・高W粒子x1と低密度・低W粒子x2と高密度粒子x3からなり(但し、低密度・低W粒子x2と中密度・高W粒子x1は密度差が小さい)、デッキ面10を構成する部材を、中密度・高W粒子x1と低密度・低W粒子x2の仕事関数の中間値の仕事関数を有する材質とした場合について説明する。
【0028】
材料分離装置Aのデッキ1を幅方向で振動させた状態で、材料投入部11からデッキ1(デッキ面10)の上に被処理材料が投入されると、被処理材料のうち低密度粒子x2はデッキ面10から噴出する空気流によって浮上するため、振動するデッキ面10との摩擦の影響が少なく、このため幅方向で傾斜したデッキ面10の低い側に移動(滑落)する。また、低密度粒子x2との密度差が小さい中密度粒子x1も、低密度粒子x2と近い挙動をする。一方、高密度粒子x3は、振動するデッキ面10との摩擦の影響を大きく受けるので、デッキ1の振動による運搬力によって幅方向で傾斜したデッキ面10の高い側に移動する。これにより、「中密度・高W粒子x1+低密度・低W粒子x2」と高密度粒子x3が密度差で分離され、これら「中密度・高W粒子x1+低密度・低W粒子x2」と高密度粒子x3は、分離された状態で材料払出し部12の幅方向の異なる位置から払い出される。
【0029】
一方、デッキ1の振動による材料粒子とデッキ面10との摩擦により、デッキ面10上において中密度・高W粒子x1はマイナスに、低密度・低W粒子x2はプラスにそれぞれ帯電し、材料払出し部12から払い出される際に、マイナスに帯電した中密度・高W粒子x1が正電極部材2a側に引き寄せられ、プラスに帯電した低密度・低W粒子x2が負電極部材2b側に引き寄せられる。
以上により、中密度・高W粒子x1と低密度・低W粒子x2と高密度粒子x3が分離された状態で回収部4に回収される。
なお、以上は3種類の材料粒子を含む被処理材料を分離処理する場合について説明したが、例えば、中密度粒子x1と高密度粒子x3に対して十分な密度差がある第2、第3の中密度粒子が含まれる場合には、4種類以上の材料粒子を含む被処理材料を分離処理することが可能である。
【0030】
本発明装置および方法による分離対象となる被処理材料に制限はないが、特に使用済み耐火物、とりわけ高炉樋の使用済み耐火物が好適である。上述したように高炉樋の使用済み耐火物は、SL材、ML材およびスラグ材が混在した粒状混合物であり、従来のエアテーブル型密度分離装置ではSL材とスラグ材を高精度に密度分離することが難しいからである。また、本発明装置および方法は、例えば、炉下堆積スラグから無煙炭を分離回収する場合などにも適用可能である。
【実施例0031】
図1に示す本発明装置と従来のエアテーブル密度分離装置を用い、高炉樋の使用済み耐火物をML材、SL材、スラグ材に分離する試験を行った。使用済み耐火物は、粒径2.0~4.5mmに粉砕・整粒したものであり、密度はML材:約3.3g/cm
3、SL材:約2.6g/cm
3、スラグ材:約2.4g/cm
3であった。また、上述したように、SL材の仕事関数は約4.5eV、スラグ材の仕事関数は約1.6eVとした。
【0032】
本発明装置の装置構成としては、デッキ(テーブル)のデッキ面を構成する部材を亜鉛(Zn)(仕事関数:3.63eV)とし、デッキ(テーブル)のエンドスロープ傾斜角度:7°、サイドスロープ傾斜角:5°、デッキ寸法:投入口(材料投入部)幅180mm×出口(材料払出し部)幅580mm×長さ400mmとした。また、装置の使用条件としては、デッキ振動数:9.0Hz、デッキ振幅:3.5mm、エア風速量:11.1m
3/minとした。また、従来装置(エアテーブル密度分離装置)の使用条件についても、上記と同じデッキ振動数、デッキ振幅、エア風速量とし、本発明装置と材料分離性能を比較した。
各装置で使用済み耐火物を300kg分離処理し、ML材、SL材、スラグ材の各回収部で回収された材料の分離回収純度を調べた。その結果を
図3に示すが、本発明装置は、従来装置に較べてSL材とスラグ材の分離回収純度が特に高く、ML材、SL材、スラグ材が高精度に分離されていることが判る。