(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075103
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】毛髪の反復延伸による曲率増加の抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/44 20060101AFI20240527BHJP
A61Q 5/04 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A61K8/44
A61Q5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186301
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】布施 直也
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC661
4C083AC662
4C083AC741
4C083AC742
4C083CC31
4C083CC32
4C083CC33
4C083CC34
4C083CC37
4C083CC39
4C083DD08
4C083DD23
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE21
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】 ゆがみ毛の反復延伸により生じる毛髪の形状および構造の変化を抑制することができる方法および抑制剤を提供する。
【解決手段】 本発明は、毛髪の反復延伸による曲率増加の抑制剤であって、毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔH
D)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を有効成分として含有する、抑制剤を提供する。また、本発明は、毛髪の反復延伸による曲率増加を抑制する方法であって、毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔH
D)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を毛髪に処理することを含む、方法を提供する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪の反復延伸による曲率増加の抑制剤であって、
前記毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を有効成分として含有する、抑制剤。
【請求項2】
前記薬剤が、グアニジル基を有する化合物、N-アシルアミノ酸誘導体またはそれを含む組成物である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
前記グアニジル基を有する化合物が、アルギニンまたはその誘導体である、請求項2に記載の抑制剤。
【請求項4】
前記N-アシルアミノ酸誘導体が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)および(ビス(N-ラウロイルグルタミン酸)リジン)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項2に記載の抑制剤。
【請求項5】
曲率0.3 cm-1以上の毛髪を対象とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の抑制剤。
【請求項6】
扁平率0.06以上の毛髪を対象とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の抑制剤。
【請求項7】
毛髪の反復延伸による曲率増加を抑制するための毛髪処理剤であって、
前記毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を含有する、毛髪処理剤。
【請求項8】
毛髪の反復延伸による曲率増加を抑制する方法であって、
前記毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を毛髪に処理することを含む、方法。
【請求項9】
前記薬剤が、グアニジル基を有する化合物、N-アシルアミノ酸誘導体またはそれを含む組成物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記グアニジル基を有する化合物が、アルギニンまたはその誘導体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記N-アシルアミノ酸誘導体が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)および(ビス(N-ラウロイルグルタミン酸)リジン)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
曲率0.3cm-1以上の毛髪を対象とする、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
扁平率0.06以上の毛髪を対象とする、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢に伴い出現する後天的なうねりやくせのある毛髪の反復延伸による曲率増加の抑制剤、および毛髪の反復延伸による曲率増加を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪のうねり(くせ)には、先天的なくせ毛と、加齢とともに出現する後天的なうねり(くせ)とが存在する。加齢に伴い出現する後天的なうねりやくせのある毛髪(以下、本明細書において「ゆがみ毛」ともいう。)は、髪のまとまりや髪全体の艶を悪化させる原因となる。毛髪のうねりやくせは、毛髪に対する染色処理や脱色処理などによる化学的なダメージ、ドライヤー等の熱によるダメージ、および摩擦やコーミングなどによる物理的なダメージなどによっても増加すると考えられている。
【0003】
毛髪のうねり(くせ)を改善する方法として、カチオン性ポリマー、シリコーン、油剤および糖類等を毛髪化粧料に配合することにより、毛髪の硬さや重さをだすことによってうねりを矯正する方法が知られている。
【0004】
また、毛髪のうねりを改善するための毛髪化粧料として、特許文献1には、(A)所定のアミドアミンを0.5~6質量%、(B)炭素数14~24の直鎖のアルコールを6~20質量%、(C)所定の分岐のアルコールを0.5~4質量%、(D)炭素数12~22の直鎖または分岐の脂肪酸と硬化ヒマシ油とから得られるエステル化合物を0.3~3質量%、(E)炭素数2~6のα-ヒドロキシ酸を0.3~3質量%含有する毛髪化粧料が開示されている。
【0005】
また、縮れ毛を改善するための毛髪用組成物として、特許文献2には、少なくとも1種のレシチン、少なくとも1種の両性界面活性剤、少なくとも1種の非イオン界面活性剤、少なくとも1種の皮膜形成ポリマー、及び少なくとも1種のカチオンポリマーを含む組成物が開示されている。
【0006】
しかし、これらの従来の技術では、加齢に伴い出現する後天的なうねりやくせを十分に改善することはできず、さらなる技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-174831号公報
【特許文献2】特開2002-125695号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】E. Oshimura, et al., “Hair and amino acids: the interactions and the effects” 、2007年、J. Cosmet. Sci. 、58巻、p.347-357
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、ゆがみ毛の保有者を対象として実態調査を行った。その結果、ゆがみ毛の保有者の多くは、くせやうねりへの対策として、髪を引っ張って伸ばす行為を行うことがわかった。また、くせやうねりが気になる人ほど髪を引っ張る行為を行う割合が多いことがわかった。
【0010】
本発明者らは、同一人から採取した直毛およびゆがみ毛を毛束化し、ロールブラシを用いて両面からはさみこんでコーミング試験を行った。コーミングを3000回行った結果、直毛はほとんど変化しなかったが、ゆがみ毛はゆがみが大きくなることがわかった。また、ゆがみ毛を反復延伸したところ、曲率が有意に増加することが示された(試験例1を参照)。この曲率増加は、直毛では見られなかった。
【0011】
そのため、本発明者らは、ゆがみ毛の保有者がくせやうねりへの対策として行う、髪を引っ張って伸ばす行為が、ゆがみ毛には逆効果であることを見出した。
【0012】
そこで、本発明は、ゆがみ毛の反復延伸により生じる毛髪の形状および構造の変化を抑制することができる方法および抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、PPG-2アルギニンが、ゆがみ毛に対し高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有することを見出した。また、本発明者らは、PPG-2アルギニンが、ゆがみ毛の反復延伸による曲率の増加を抑制することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてなされた。
【0014】
本発明は、毛髪の反復延伸による曲率増加の抑制剤であって、毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を有効成分として含有する、抑制剤を提供する。
【0015】
本発明はまた、上記薬剤が、グアニジル基を有する化合物、N-アシルアミノ酸誘導体またはそれを含む組成物である、抑制剤を提供する。
【0016】
本発明はまた、上記グアニジル基を有する化合物が、アルギニンまたはその誘導体である、抑制剤を提供する。
【0017】
本発明はまた、上記N-アシルアミノ酸誘導体が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)および(ビス(N-ラウロイルグルタミン酸)リジン)からなる群より選択される少なくとも1つである、抑制剤を提供する。
【0018】
本発明はまた、曲率0.3 cm-1以上の毛髪を対象とする、上記抑制剤を提供する。
【0019】
本発明はまた、扁平率0.06以上の毛髪を対象とする、上記抑制剤を提供する。
【0020】
本発明はまた、毛髪の反復延伸による曲率増加を抑制するための毛髪処理剤であって、毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を含有する、毛髪処理剤を提供する。
【0021】
本発明はまた、毛髪の反復延伸による曲率増加を抑制する方法であって、毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を毛髪に処理することを含む、方法を提供する。
【0022】
本発明はまた、上記薬剤が、グアニジル基を有する化合物、N-アシルアミノ酸誘導体またはそれを含む組成物である方法を提供する。
【0023】
本発明はまた、上記グアニジル基を有する化合物が、アルギニンまたはその誘導体である方法を提供する。
【0024】
本発明はまた、上記N-アシルアミノ酸誘導体が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)および(ビス(N-ラウロイルグルタミン酸)リジン)からなる群より選択される少なくとも1つである、方法を提供する。
【0025】
本発明はまた、曲率0.3 cm-1以上の毛髪を対象とする、上記方法を提供する。
【0026】
本発明はまた、扁平率0.06以上の毛髪を対象とする、上記方法を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明を用いれば、毛髪、特にゆがみ毛の反復延伸による曲率増加を抑制することができ、ゆがみ毛の反復延伸により生じる毛髪の形状および構造の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】ゆがみ毛および直毛に対して500回反復延伸したときの曲率の変化を示す図。
【
図2】反復延伸後の直毛およびゆがみ毛におけるCH
2基の吸光度を示す図。
【
図3】反復延伸後の直毛およびゆがみ毛におけるスルホン酸基(SO
3H)の信号強度を示す図。
【
図4】ゆがみ毛における反復延伸前および反復延伸後のSO
3H基のマッピング結果を示す図。
【
図5】PPG-2アルギニンをゆがみ毛に処理したときの浸透度を示す図。
【
図6】毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合に得られる結果の一例を示す図。
【
図7】直毛およびゆがみ毛について、反復延伸の前後におけるΔH
Dの変化を示す図。
【
図8】本発明の実施例の薬剤を処理したゆがみ毛について、反復延伸の前後におけるΔH
Dの変化を示す図。
【
図9】本発明の実施例の薬剤を処理したゆがみ毛について、反復延伸の前後における曲率の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、毛髪の反復延伸による曲率増加の抑制剤および抑制方法を提供する。
【0030】
本発明の抑制剤および抑制方法が適用される毛髪は、好ましくはゆがみ毛であることができる。本明細書において「ゆがみ毛」は、加齢に伴い出現する後天的なうねりやくせのある毛髪をさす。
【0031】
毛髪の曲率は、毛髪のうねりの程度の指標となる。毛髪の曲率が大きいほど、毛髪のうねりが大きいことを意味する。本発明の方法が適用される毛髪の曲率は、特に限定されないが、0.3 cm-1以上、好ましくは0.4 cm-1以上、より好ましくは0.49 cm-1以上であることができる。また、本発明の方法が適用される毛髪の曲率は、特に限定されないが、たとえば2.0 cm-1以下、好ましくは1.8 cm-1以下であることができる。毛髪の曲率は、たとえばイメージスキャナー(GTX830,セイコーエプソン株式会社製)にて毛髪の2 次元データを取得してカール半径を計測し、そのカール半径の逆数を取ることにより算出することができる。
【0032】
本発明の抑制剤および抑制方法が適用される毛髪の扁平率は、特に限定されないが、たとえば0.06以上、好ましくは0.07以上、より好ましくは0.08以上であることができる。また、本発明の抑制剤および抑制方法が適用される毛髪の扁平率は、特に限定されないが、たとえば0.5以下、好ましくは0.4以下であることができる。毛髪の扁平率は、たとえばマイクロメーターによって毛髪のカール部分の長径ならびに短径を測定し、計算式:扁平率=(長径-短径)/長径により算出することができる。
【0033】
本明細書において「反復延伸」は、髪を引っ張る行為を繰り返し行うことをさす。毛髪を反復延伸する行為には、ヘアブラシを用いて髪を繰り返しブラッシングする行為、櫛を用いて髪を繰り返しとかす行為(コーミング)、および指で髪を繰り返し引っ張って伸ばす行為などが含まれる。
【0034】
毛髪、特にゆがみ毛は、反復延伸を行うことにより、曲率が増加する。本明細書において、「曲率の増加を抑制する」ことには、毛髪の反復延伸による曲率の増加を予防することが含まれる。本発明の方法は、毛髪の反復延伸による曲率の増加を抑制することにより、毛髪のうねり、くせおよび広がりなどの増加を抑制することができる。
【0035】
本発明の抑制剤は、毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を有効成分として含有する。また、本発明の抑制方法は、毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を毛髪に処理することを含む。
【0036】
高圧示差走査熱量測定(HPDSC)は、特に限定されず、一般的な高圧示差走査熱量計を使用して実施することができる。
【0037】
吸熱ピーク面積(ΔHD)は、高圧示差走査熱量測定により150~160℃付近において得られる融解吸熱ピークの面積である。本発明者らにより、ゆがみ毛を反復延伸すると吸熱ピーク面積(ΔHD)が低下することが示された。
【0038】
吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤は、このような作用を有することが公知の薬剤であることができ、たとえばグアニジル基を有する化合物、N-アシルアミノ酸誘導体およびそれらを含む組成物であることができる。
【0039】
グアニジル基を有する化合物は、たとえば、アルギニンおよびこれらの誘導体等であることができる。本発明における薬剤は、好ましくはアルギニンまたはその誘導体であり、たとえばアルギニンのスルホエチル型誘導体、N-アシルアルギニンのアルキルエステル型誘導体、アルギニンのサクシニル型誘導体、アルギニンのエチレンオキシドおよびアルギニンのプロピレンオキシド誘導体等であることができる。アルギニン誘導体は、たとえばPPG-2アルギニン、ジヒドロキシプロピルアルギニン、アルキル(C12,C14オキシ)ヒドロキシプロピルアルギニン、ココイルアルギニンエチルおよびラウロイルアルギニン等であることができる。
【0040】
N-アシルアミノ酸誘導体は、たとえばN-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)および(ビス(N-ラウロイルグルタミン酸)リジン)等であることができる。
【0041】
本発明の抑制剤および抑制方法は、上記薬剤として、上述した化合物を単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記薬剤は、通常化粧料に用いられるものであれば、どのような由来のものであってもよい。たとえば、公知の任意の合成方法を用いて合成したものであってもよく、微生物による発酵産物等であってもよい。
【0043】
本発明の抑制剤および抑制方法は、上記薬剤として、上述した化合物を含む組成物を用いてもよい。組成物は、特に限定されず、任意の成分をさらに含むことができる。任意の成分としては、たとえば、ラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルーテル硫酸塩、ラウリルベンゼンスルホン酸塩およびラウロイルメチ-β-アラニンナトリウム等のアニオン性界面活性剤;2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインおよびヤシ油アルキルN-カルボキシエチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインナトリウム等の両性界面活性剤:カチオン化セルロース、ポリアクリル酸およびポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)等のポリマー;ソルビトール、イノシトール、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコールおよびイソプレングリコール等の湿潤剤;ジンクピリチオンおよび塩化ベンザルコニウム等の抗フケ成分;エタノール、メタノール、プロピルアルコールおよびイソプロピルアルコール等の低級アルコール;セチルアルコール、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコール等の高級アルコール;ベヘントリモニウムクロリドおよびステアリルトリモニウムクロリドなどの4級カチオン;DL-アラニン、L-アルギニン、グリシン、L-システインおよびL-スレオニン等のアミノ酸;その他紫外線吸収剤、防腐剤、糖類、香料、色剤、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤および各種薬剤等を用いることができる。
【0044】
本発明はまた、毛髪の反復延伸による曲率増加を抑制するための毛髪処理剤を提供する。
【0045】
本発明の毛髪処理剤は、毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔHD)の反復延伸による低下を抑制する作用を有する薬剤を含有する。
【0046】
本発明の抑制剤および毛髪処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記薬剤以外の任意の他の成分をさらに含んでもよい。たとえば、本発明の抑制剤および毛髪処理剤は、ラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルーテル硫酸塩、ラウリルベンゼンスルホン酸塩およびラウロイルメチ-β-アラニンナトリウム等のアニオン性界面活性剤;2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインおよびヤシ油アルキルN-カルボキシエチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインナトリウム等の両性界面活性剤:カチオン化セルロース、ポリアクリル酸およびポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)等のポリマー;ソルビトール、イノシトール、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコールおよびイソプレングリコール等の湿潤剤;ジンクピリチオンおよび塩化ベンザルコニウム等の抗フケ成分;エタノール、メタノール、プロピルアルコールおよびイソプロピルアルコール等の低級アルコール;セチルアルコール、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコール等の高級アルコール;ベヘントリモニウムクロリドおよびステアリルトリモニウムクロリドなどの4級カチオン;DL-アラニン、L-アルギニン、グリシン、L-システインおよびL-スレオニン等のアミノ酸;その他紫外線吸収剤、防腐剤、糖類、香料、色剤、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤および各種薬剤等を含有してもよい。
【0047】
本発明の抑制剤および毛髪処理剤は、その使用目的に応じて、たとえば液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状および泡状などの任意の形態であることができる。
【0048】
本発明の抑制剤および毛髪処理剤は、たとえば毛髪化粧料の形態であることができる。毛髪化粧料には、たとえばヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、洗い流さないタイプのトリートメント、ヘアパック、ヘアフォーム、ヘアワックス、ポマード、ヘアジェル、ヘアクリーム、ヘアスプレー、ヘアミスト、ヘアウォーター、ヘアリキッド、ヘアオイル、ヘアトニック、ヘアローション、ヘアカラー、パーマ剤および養毛剤等が含まれる。これらの毛髪化粧料は、従来公知の方法により製造することができる。
【実施例0049】
〔試験例1〕
同一人より直毛とゆがみ毛をサンプリングし、400点以上のカール半径、長径および短径を計測し、曲率および扁平率を算出した。その結果、直毛は曲率が0.49 cm-1未満、扁平率が0.082未満であった。ゆがみ毛は、曲率が0.49~1.79 cm-1、扁平率が0.082~0.390であった。
【0050】
対象者1名より採取した直毛およびゆがみ毛をそれぞれ毛束化し、ロールブラシにより両面からはさみこんでコーミング試験を行った。コーミングを1000回、2000回および3000回行ったところ、直毛はほとんど変化しなかったが、ゆがみ毛はコーミング回数が増えるほど、広がりやぱさつきが大きくなり、ゆがみが大きくなることがわかった。
【0051】
次に、直毛およびゆがみ毛を反復延伸したときの曲率を計測した。反復延伸は、テクスチャーアナライザ(Stable Micro Systems社製)を用いて0.3Nの応力で延伸速度180mm/minの条件で行った。この条件は、生活者が日々ブラッシングにより髪に与える延伸強度を参考にして設定した。
【0052】
ゆがみ毛および直毛に対して500回反復延伸したときの曲率の変化を
図1に示す。直毛は、500回反復延伸しても、曲率が有意に変化しなかったが、ゆがみ毛は、500回反復延伸したところ、曲率が0.936 cm
-1から1.307 cm
-1に有意に増加した。
【0053】
〔試験例2〕
ゆがみ毛の反復延伸による構造変化を試験した。具体的には、毛髪内部構造を解析するため、ダイヤモンドやすり(三共コーポレーション製)を用いてキューティクルを取り除いた。
【0054】
直毛およびゆがみ毛に対し、テクスチャーアナライザを用いて0.3Nの応力で延伸速度180mm/minの条件で500回反復延伸を行った。500回まで繰り返し延伸を行う際に25回ごとに毛髪をテクスチャーアナライザから取り外し、顕微ATR(Thermo Fisher Scientific社製 , iZ10)を用いてIRスペクトルを取得した。測定の条件は、Aperture ; 50×50 μm, Counts; 64, Resolution; 8 cm
-1とした。得られたスペクトルは、Unscrambler X (version 10.5, Camo Software AS, Oslo, Norway)を用いて多変量スペクトル分解(2800~3000cm
-1)を行った。
図2は、反復延伸後の直毛およびゆがみ毛におけるCH
2基の吸光度を示す。ゆがみ毛において、延伸100回目においてCH
2の吸光度の変化が確認された。
【0055】
また、多変量スペクトル分解(1000~1080cm
-1)を行った。
図3は、反復延伸後の直毛およびゆがみ毛におけるスルホン酸基(SO
3H)の信号強度を示す。ゆがみ毛において、150回目ならびに300回目においてスルホン酸基の信号強度の変化が観察された。
【0056】
顕微IRのマッピングモードを用いて透過測定を行うことにより、ゆがみ毛における反復延伸前および反復延伸後のSO
3H基のマッピングを行った。その結果を
図4に示す。ゆがみ毛において、反復延伸により、キューティクル近傍だけでなく、毛髪全体にSO
3Hの増加が確認された。また、フリーソフトウェアの2DShigeを用いて二次元相関分光分析を行ったところ、SOおよびSO
2が増加したことが示された。この結果から、ゆがみ毛を反復延伸することにより、ジスルフィド結合S-Sが開裂してSO
3Hが上昇したことが推測される。
【0057】
これらの結果から、ゆがみ毛では、反復延伸により毛髪の構造が変化し、メチレン基が増加することから、毛髪内部の構造が変化している可能性が示唆された。また、反復延伸により毛髪の中心部のコルテックスにあるインターメディエイトフィラメント(IF)のジスルフィド結合が開裂して、システイン酸が生成することが示唆された。
【0058】
〔試験例3〕
本発明における薬剤の実施例として、PPG-2アルギニン、アルギニンおよびラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)を用いて試験した。PPG-2アルギニン(製品名:ウィルブライドR-PL)を日油株式会社より入手した。アルギニン(製品名:L-アルギニンCグレード)ならびにラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)(製品名:エルデュウPS-203)は、味の素株式会社より入手した。
【0059】
PPG-2アルギニン、アルギニンおよびラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)をゆがみ毛に40℃、12時間の条件で浸漬処理し、純水にてすすいだ後に22℃、50%湿度の条件で乾燥させた。
【0060】
PPG-2アルギニンについて、処理前および処理後の浸透度を調べるため、顕微IRによりカーボイミン残基の吸光度でマッピングすることにより解析した。その結果を
図5に示す。PPG-2アルギニンは、ゆがみ毛の内部に十分に浸透していることが確認された。
【0061】
次に、毛髪に対して示差走査熱量計(DSC6220、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合の吸熱ピーク面積(ΔH
D)の反復延伸による影響を調べた。具体的には、毛髪試料5mgをSUS製密封パンに秤量した後に10μLの純水を加えてシーリングし、数日間室温で順化させたサンプルを試験に供した。毛髪に対して高圧示差走査熱量測定(HPDSC)を行った場合に得られる結果の一例を
図6に示す。HPDSC測定において、水を含侵した毛髪を加熱すると、
図6に示すように、150~160℃でタンパク質変性(融解)が起きる。このとき観察される吸熱ピーク面積(ΔH
D)は、毛髪のコルテックスに存在するインターメディエイトフィラメント(IF)の存在量や状態変化を表す指標となる。また、HPDSC測定において測定されるT
Dは、マトリックスタンパク質の架橋状態を反映する。
【0062】
直毛およびゆがみ毛について、反復延伸する前と500回反復延伸を行った後のΔH
Dを測定した。反復延伸は、テクスチャーアナライザを用いて0.3Nの応力で延伸速度180mm/minの条件で行った。直毛およびゆがみ毛について、反復延伸の前後におけるΔH
Dの変化を
図7および表1に示す。直毛は、反復延伸してもΔH
Dが変化しなかった。一方、ゆがみ毛では、反復延伸前のΔH
Dは19.85であり、反復延伸後のΔH
Dは14.29であった。したがって、ゆがみ毛では、反復延伸によりΔH
Dが有意に減少することが示された。
【0063】
【0064】
本発明の実施例の薬剤を処理したゆがみ毛について、反復延伸の前後におけるΔH
Dの変化を
図8および表2に示す。PPG-2アルギニン、アルギニンおよびラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)をそれぞれ浸透させたゆがみ毛では、反復延伸によるΔH
Dの減少が抑制されることが示された。
【0065】
【0066】
本発明の実施例の薬剤を処理したゆがみ毛について、反復延伸する前と500回反復延伸を行った後の曲率を計測した。反復延伸は、テクスチャーアナライザを用いて0.3Nの応力で延伸速度180mm/minの条件で行った。本発明の実施例の薬剤を処理したゆがみ毛について、反復延伸の前後における曲率の変化を
図9および表3に示す。本発明の実施例の薬剤を処理していないゆがみ毛は、曲率が有意に増加した。一方、PPG-2アルギニン、アルギニンおよびラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)をそれぞれ浸透させたゆがみ毛では、反復延伸による曲率の増加が抑制されることが示された。
【0067】
【0068】
PPG-2アルギニンおよびアルギニンは、グアニジル基を有している。グアニジル基は、毛髪の酸性基と強く相互作用することが報告されている(非特許文献1)。上述した結果から、PPG-2アルギニンおよびアルギニンが有するグアニジル基が、ゆがみ毛の反復延伸により生じたシステイン酸と相互作用した結果、引張強度が上昇し、毛髪の構造変化を抑制することによって、反復延伸による曲率の増加を抑制したことが示唆される。
【0069】
ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)などのN-アシルアミノ酸誘導体は、水分を保持するコルテックスおよびその隙間を敷き詰めるCMC(Cell Membrane Complex)と呼ばれる細胞膜複合体と類似の構造を持つ。そのため、毛髪内部に浸透することで引張強度が向上した結果、反復延伸による曲率の増加を抑制したことが示唆される。