IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国際石油開発帝石株式会社の特許一覧 ▶ 公立大学法人首都大学東京の特許一覧

特開2024-75122二酸化炭素濃度低減システム、二酸化炭素濃度低減システム用設備及び二酸化炭素濃度低減方法
<>
  • 特開-二酸化炭素濃度低減システム、二酸化炭素濃度低減システム用設備及び二酸化炭素濃度低減方法 図1
  • 特開-二酸化炭素濃度低減システム、二酸化炭素濃度低減システム用設備及び二酸化炭素濃度低減方法 図2
  • 特開-二酸化炭素濃度低減システム、二酸化炭素濃度低減システム用設備及び二酸化炭素濃度低減方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075122
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】二酸化炭素濃度低減システム、二酸化炭素濃度低減システム用設備及び二酸化炭素濃度低減方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240527BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240527BHJP
【FI】
B01D53/14 200
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186329
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】509001630
【氏名又は名称】株式会社INPEX
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佐野 洋介
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小山田 裕
(72)【発明者】
【氏名】山添 誠司
(72)【発明者】
【氏名】吉川 聡一
【テーマコード(参考)】
4D020
4G146
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020BB04
4D020BC01
4D020BC06
4D020CB08
4D020CB25
4D020CC09
4D020CC21
4D020CD04
4D020CD10
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC17
4G146JC18
4G146JC28
4G146JC30
4G146JC35
4G146JC39
(57)【要約】
【課題】気体の輸送に新たな設備又は動力を用いることなく、気体の二酸化炭素濃度を効率的に低減することが可能なシステムを提供する。
【解決手段】気液接触装置、及び、二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の溶液を前記気液接触装置に供給する流路を有する二酸化炭素吸収装置と、前記気液接触装置内における前記気体と前記溶液との接触を経て、前記気体に含まれる二酸化炭素と前記アミン化合物が反応して生じる析出物を前記溶液から分離する固液分離装置とを備え、前記気液接触装置内における前記記載と前記溶液の接触を経て二酸化炭素濃度が低減した気体を最終的に大気に放出する、二酸化炭素濃度低減システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液接触装置、及び、二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の溶液を前記気液接触装置に供給する流路を有する二酸化炭素吸収装置と、
前記気液接触装置内における気体と前記溶液との接触を経て、前記気体に含まれる二酸化炭素と前記アミン化合物が反応して生じる析出物を前記溶液から分離する固液分離装置と、
を備え、
前記気液接触装置内における前記接触を経て二酸化炭素濃度が低減した気体が最終的に大気に放出される、二酸化炭素濃度低減システム。
【請求項2】
前記固液分離装置で分離された前記析出物を加熱することによって前記析出物から二酸化炭素を放出させ、前記アミン化合物を得る再生設備と、
再生した前記アミン化合物を前記気液接触装置の上流側に返送する返送路と、
を更に備える、請求項1に記載の二酸化炭素濃度低減システム。
【請求項3】
前記気液接触装置が冷却塔である、請求項1に記載の二酸化炭素濃度低減システム。
【請求項4】
前記気液接触装置が輸送機械に設置されている、請求項1に記載の二酸化炭素濃度低減システム。
【請求項5】
気液接触装置を備える二酸化炭素吸収装置とともに請求項1~4のいずれか一項に記載の二酸化炭素濃度低減システムを構成する設備であって、
前記気液接触装置内における、空気と、二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の溶液との接触を経て、空気に含まれる二酸化炭素と前記アミン化合物が反応して生じる析出物を前記溶液から分離する固液分離装置を備える、二酸化炭素濃度低減システム用設備。
【請求項6】
前記固液分離装置で分離された前記析出物を加熱することによって前記析出物から前記アミン化合物を得る再生設備と、
再生した前記アミン化合物を前記気液接触装置の上流側に返送する返送路と、
を更に備える、請求項5に記載の二酸化炭素濃度低減システム用設備。
【請求項7】
気体の二酸化炭素濃度を低減する方法であって、
(A)二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の溶液と、気体とを気液接触装置内において接触させる工程と、
(B)前記気液接触装置内における前記溶液と前記気体の接触を経て、二酸化炭素濃度が低減した気体を前記気液接触装置から大気に放出する工程と、
(C)前記気液接触装置内における前記接触を経て、気体に含まれる二酸化炭素と前記アミン化合物が反応して生じた析出物を前記溶液から分離する工程と、
(D)前記析出物が分離された溶液を前記気液接触装置に供給する工程と、
を含む、二酸化炭素濃度低減方法。
【請求項8】
(E)前記溶液から分離された析出物を加熱する工程を更に含む、請求項7に記載の二酸化炭素濃度低減方法。
【請求項9】
(E)工程を経て前記析出物から再生したアミン化合物を含む溶液を前記気液接触装置に供給する工程を更に含む、請求項8に記載の二酸化炭素濃度低減方法。
【請求項10】
(C)工程を経て得られた前記析出物を再生設備に搬送し、当該再生設備において(E)工程を実施する、請求項8に記載の二酸化炭素濃度低減方法。
【請求項11】
(E)工程を経て前記析出物から放出された二酸化炭素を地中又は貯蔵容器に貯蔵する工程を更に含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の二酸化炭素濃度低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気体の二酸化炭素濃度を低減するためのシステム及びこれに用いられる設備、並びに、気体の二酸化炭素濃度を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素を直接回収するシステムが知られている。例えば、特許文献1は、スラブ状の充填材に二酸化炭素吸収液を流すことによって二酸化炭素吸収液と大気とを接触させて二酸化炭素を捕集する施設を開示している。他方、特許文献2は、二酸化炭素の吸収及び放出を繰り返すことが可能な化合物を使用して二酸化炭素を回収する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/064890号明細書
【特許文献2】国際公開第2022/085789号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大気中の希薄な二酸化炭素を特許文献1に記載の施設で捕集して大気の二酸化炭素濃度を低減するには、大気を吸収液もしくは吸着剤と接触させることを必要とする。この際、ブロワなどを用いて大気の流れを作り出すことになる。ここで、大気中の二酸化炭素濃度が低いため、このブロワは回収できる二酸化炭素の容量に比べて2000倍以上の空気を送風する必要があり、大きな動力を要する。この動力を生み出すための電力供給には、火力発電所で炭化水素を燃焼させることが必要となり、大気中の二酸化炭素を増やしてしまうため、地球全体での二酸化炭素濃度の低減への寄与は限定的になってしまうという課題がある。
【0005】
従来の吸収液を用いて電車及びトラックなどの輸送機械が生み出す空気の流れを利用して二酸化炭素を捕捉する際、吸収液中の二酸化炭素濃度が高くなるにしたがって吸収能力が低下するために吸収効率が低いという課題がある。また、吸収能力の限界まで二酸化炭素を捕捉した吸収液を再生のための設備に輸送する際、二酸化炭素を捕捉する成分に加えて溶媒も同伴せざるを得ず、結果として輸送効率が悪くなるという課題がある。
【0006】
本開示は、空気の輸送に新たな設備又は動力を用いることなく、空気の二酸化炭素濃度を効率的に低減することが可能なシステム及び方法を提供する。また、本開示は上記システムの一部を構成する二酸化炭素濃度低減システム用設備を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、気体(例えば、空気)の二酸化炭素濃度を低減するためのシステムであって、気体の輸送に新たな設備又は動力を使用することなく、気体と溶液の接触によって気体の二酸化炭素濃度を効率的に低減するシステムに関する。すなわち、当該システムは、気液接触装置、及び、二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の溶液を気液接触装置内に供給する流路を有する二酸化炭素吸収装置と、気液接触装置内における気体と上記溶液との接触を経て、気体に含まれる二酸化炭素と上記アミン化合物が反応して生じる析出物を溶液から分離する固液分離装置とを備え、気液接触装置内における上記接触を経て二酸化炭素濃度が低減した気体を最終的に大気に放出する。
【0008】
上記システムは、例えば、既存の冷却装置の冷却塔を気液接触装置として利用して空気の二酸化炭素濃度を低減することが可能である。かかる冷却装置は、世界中のプラント及び工場などに設置されている。このため、システムの全体を新たに建設することなく、世界規模で空気の二酸化炭素濃度を効率的に低減することが可能である。なお、既存の冷却装置に限られず、新設の冷却装置を利用してもよい。
【0009】
上記システムは、電車やトラック等の輸送機械に気液接触装置を設置し、空気を取り込むことで、空気の二酸化炭素濃度を低減することが可能である。かかる気液接触装置は、空気を輸送する設備又は動力を必要とせず空気の二酸化炭素濃度を効率的に低減することが可能である。
【0010】
本開示において、アミン化合物として、例えば、特許文献2に記載の化合物を使用することができる。特許文献2の段落[0017]-[0124]には特定のアミン化合物を含有する二酸化炭素吸収放出剤が記載されている。このアミン化合物は二酸化炭素を吸収するとカルバミン酸誘導体となり、その後、加熱されると二酸化炭素を放出してアミン化合物に戻る性質を有する。特許文献2の段落[0138]には「二酸化炭素の吸収条件に応じて、固体の前記反応物(前記カルバミン酸誘導体)が析出する場合と、析出しない場合がある。」と記載されている。本開示においては、エネルギー効率の観点から、二酸化炭素を吸収後の溶液の全体を加熱してアミン化合物を再生させることは合理的ではない。そこで、本開示においては、二酸化炭素とアミン化合物の反応物を析出させ、アミン化合物の再生に先立って溶液から析出物を固液分離装置によって分離する。
【0011】
上記システムは、固液分離装置で分離された析出物を加熱することによって析出物から二酸化炭素を放出させ、アミン化合物を得る再生設備と、再生したアミン化合物を気液接触装置の上流側に返送する返送路とを更に備えてもよい。上記システムがこれらの構成を備えることで、二酸化炭素の回収、アミン化合物の再生及びアミン化合物の溶液の再利用の一連のプロセスを当該システムにおいて完結することができる。
【0012】
本開示の一側面は、気液接触装置を備える二酸化炭素吸収装置とともに上記システムを構成する二酸化炭素濃度低減システム用設備に関する。すなわち、当該設備は、気液接触装置内における気体と上記アミン化合物の溶液との接触を経て、気体に含まれる二酸化炭素と上記アミン化合物が反応して生じる析出物を溶液から分離する固液分離装置を備える。二酸化炭素吸収装置に当該設備を組み込むことにより、上記システムを構築することができる。
【0013】
上記二酸化炭素濃度低減システム用設備は、固液分離装置で分離された析出物を加熱することによって上記析出物からアミン化合物を得る再生設備と、再生したアミン化合物を気液接触装置の上流側に返送する返送路とを更に備えてもよい。上記設備がこれらの構成を備えることで、二酸化炭素の回収、アミン化合物の再生及びアミン化合物の溶液の再利用の一連のプロセスを二酸化炭素濃度低減システムにおいて完結することができる。
【0014】
複数の気液接触装置で得られた析出物を集積し、一つの再生設備で二酸化炭素の回収、アミン化合物の再生を行ってもよい。各々の気液接触装置において使用するアミン化合物として、再生したアミン化合物を使用してもよい。
【0015】
本開示の一側面は、気体の二酸化炭素濃度を低減する方法であって、気体の輸送に新たな設備又は動力を使用することなく、気体と溶液の接触によって気体の二酸化炭素濃度を効率的に低減する方法に関する。すなわち、当該方法は、(A)二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の溶液と、気体とを気液接触装置内において接触させる工程と、(B)気液接触装置内における溶液と気体の接触を経て、二酸化炭素濃度が低減した気体を気液接触装置から大気に放出する工程と、(C)気液接触装置内における上記接触を経て、気体に含まれる二酸化炭素と上記アミン化合物が反応して生じた析出物を溶液から分離する工程と、(D)析出物が分離された溶液を気液接触装置に供給する工程とを含む。
【0016】
上記方法は、例えば、既存の冷却装置の冷却塔を気液接触装置として利用して空気の二酸化炭素濃度を低減することが可能である。かかる冷却装置は、世界中のプラント及び工場などに設置されている。このため、この方法を実施するためのシステムの全体を新たに建設することなく、世界規模で空気の二酸化炭素濃度を効率的に低減することが可能である。なお、既存の冷却装置に限られず、新設の冷却装置を利用してもよい。
【0017】
上記方法は、電車やトラック等の輸送機械に気液接触装置を設置し、移動時に生じる風を利用して空気と溶液を接触させることで、空気の二酸化炭素濃度を低減することが可能である。かかる気液接触装置は、空気を輸送する新たな設備又は動力を必要とせず空気の二酸化炭素濃度を効率的に低減することが可能である。
【0018】
上記方法は、(E)溶液から分離された析出物を加熱する工程を更に含んでもよい。(E)工程は、例えば、(A)~(D)工程が実施されるサイトにおいて実施される。この場合、二酸化炭素の回収、アミン化合物の再生及びアミン化合物の溶液の再利用の一連のプロセスを当該サイトにおいて完結することができる。(E)工程を経て析出物から再生したアミン化合物を含む溶液を気液接触装置に供給してもよい。他方、(E)工程は、(A)~(D)工程が実施されるサイトと別の設備で実施されてもよい。すなわち、(D)工程を経て得られた析出物を再生設備に搬送し、再生設備において(E)工程を実施してもよい。この場合、複数のサイトで生じる析出物を再生設備にそれぞれ搬送し、再生設備において二酸化炭素の回収及びアミン化合物の再生のプロセスを集約して実施することができる。
【0019】
上記方法は、(E)工程を経て析出物から放出された二酸化炭素を地中に貯蔵する工程を更に含んでもよい。当該工程を実施することで、回収した二酸化炭素を地中に閉じ込めることができる。また、(E)工程を経て回収された二酸化炭素をボンベ等の貯蔵容器に貯蔵してもよい。当該工程を実施することで回収した二酸化炭素を輸送することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、気体の輸送に新たな設備又は動力を用いることなく、気体と溶液の気液接触を行って気体の二酸化炭素濃度を効率的に低減可能なシステム及び方法が提供される。また、本開示によれば、上記システムの一部を構成する二酸化炭素濃度低減システム用設備が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は本開示に係る二酸化炭素濃度低減システムの一実施形態を示す模式図である。
図2図2は冷却装置(二酸化炭素吸収装置)の一例を示す模式図である。
図3図3は本開示に係る二酸化炭素濃度低減システム用設備の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0023】
[二酸化炭素濃度低減システム]
図1は本実施形態に係る二酸化炭素濃度低減システムを示す模式図である。この図に示す二酸化炭素濃度低減システム100(以下、「システム100」と言う。)は、冷却塔5(気液接触装置)を備える冷却装置10(二酸化炭素吸収装置)と、固液分離装置20と、加熱装置30と、貯蔵容器40とを備え、冷却塔5内における空気と水溶液の気液接触を利用して空気の二酸化炭素濃度を低減する。冷却塔5内において、二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の水溶液が空気と直接接触する。冷却塔5内における気液接触を経て二酸化炭素濃度が低減した空気が冷却塔5から大気に放出される。
【0024】
冷却装置10は空気で水溶液を冷却するとともに、大気中の二酸化炭素を水溶液に吸収させるためのものである。冷却装置10は冷却塔5を備える。冷却塔5の上部にはブロワ5aが設けられており、ブロワ5aが回転することで冷却塔5の側面に設けられた空気入口(不図示)から冷却塔5内に空気が取り込まれる。図1における太い矢印は空気の流れを示す。図2は冷却装置10を示す模式図である。
【0025】
冷却装置10は、熱交換器15で加熱された水溶液を冷却塔5に供給する流路1と、冷却塔5内に水溶液を散水するパイプ2と、冷却塔5の下方に設けられた水槽6と、冷却塔5内において空気と接触して冷やされた水溶液を水槽6から熱交換器15に供給する流路7とを更に備える。水溶液を熱交換器15に送るための循環ポンプ7pが流路7の途中に設けられている。循環ポンプ7pを作動させることにより、水槽6内の水溶液が熱交換器15を経て冷却塔5に供給された後、水槽6に戻る循環が生じる。図1における破線の矢印は冷却塔5内における水溶液の流れを示す。水槽6には水を供給するための給水管6aが接続されている。給水管6aには供給管6bが接続されている。供給管6bを通じて給水管6a内の水に対して新たに調製されたアミン化合物の水溶液及び循環水の水質を維持するための薬剤などを添加することができる。なお、冷却塔5は、冷却塔5の内壁及び充填材(不図示)の表面に向けて水を放出する散水パイプ(不図示)を更に備えてもよい。かかる散水パイプを冷却塔5内に設けることで、冷却塔5内で生じた析出物が内壁及び充填材の表面に付着しても、散水によって析出物を水槽6へと流すことができる。
【0026】
固液分離装置20は、冷却塔5内において空気中の二酸化炭素と反応して固体化したアミン化合物の析出物を水溶液から分離するためのものである。固液分離装置20は、水槽6の下流側に設けられている。水槽6の底部に沈殿した析出物を含むスラリーが流路8を通じて固液分離装置20に供給される。図1に示すように、固液分離装置20は、例えば、液体サイクロン21とフィルター22の組み合わせによって構成されている。析出物を含むスラリーは液体サイクロン21に送られ、析出物と水溶液に分離される。水溶液はフィルター22に送られ、水溶液に残存する析出物がフィルター22で漉し取られる。フィルター22の逆洗によりフィルター22に付着した析出物が回収される。なお、ここでは液体サイクロン21とフィルター22の組み合わせを例示したが、液体サイクロン21は使用せず、フィルター22のみで固液分離装置を構成してもよい。また、自然沈降によって水溶液から析出物を分離してもよいし、セパレーターによって水溶液から析出物を分離してもよい。このセパレーターは、液相中に設けられた仕切板とメッシュとを備え、液面レベルをコントロールすることでメッシュを通過させ、析出物をメッシュで漉し取ることが可能である。固液分離装置20で分離された水溶液は流路9を通じて水槽6に返送される。
【0027】
加熱装置30は、固液分離装置20で分離された析出物を加熱するためのものである。流路23を通じて析出物が加熱装置30に供給される。析出物は加熱させることによって二酸化炭素を放出する。貯蔵容器40は、加熱によって析出物から放出された二酸化炭素を収容するためのものである。流路31を通じて二酸化炭素を含むガスが貯蔵容器40に供給される。析出物が二酸化炭素を放出することによって再生したアミン化合物を使用して水溶液が調製され、返送路32を通じて水溶液が冷却塔5の上流側に返送される。本実施形態では、返送路32の先端が流路1に接続されている。システム100がこれらの構成を備えることで、二酸化炭素の回収、アミン化合物の再生及びアミン化合物の水溶液の再利用の一連のプロセスをシステム100において完結することができる。
【0028】
[二酸化炭素濃度低減システム用設備]
図3は本実施形態に係る二酸化炭素濃度低減システム用設備を示す模式図である。この図に示す二酸化炭素濃度低減システム用設備50(以下、「設備50」と言う。)は冷却装置10とともにシステム100を構成する。すなわち、図2に示す冷却装置10に図3に示す設備50を組み込むことによってシステム100を構築することができる。本実施形態に係る設備50は、固液分離装置20と、加熱装置30と、貯蔵容器40とを備える。
【0029】
[二酸化炭素濃度低減方法]
システム100を使用して空気の二酸化炭素濃度を低減する方法について説明する。本実施形態に係る二酸化炭素濃度低減方法は以下の工程を含む。
(A)二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の水溶液と、空気とを冷却塔5内において気液接触させる工程。
(B)冷却塔5内における気液接触を経て、二酸化炭素濃度が低減した空気を冷却塔5から大気に放出する工程。
(C)冷却塔5内における気液接触を経て、空気に含まれる二酸化炭素とアミン化合物が反応して生じた析出物を水溶液から分離する工程。
(D)析出物が分離された水溶液を冷却塔5に供給する工程。
(E)水溶液から分離された析出物を加熱する工程。
(F)上記(E)工程を経て析出物から再生したアミン化合物を含む水溶液を冷却塔5に供給する工程。
【0030】
<(A)工程>
(A)工程は、上記のとおり、二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物の水溶液と、空気とを冷却塔5内において気液接触させる工程である。以下、二酸化炭素と反応して固体化する性質を有するアミン化合物について説明する。
【0031】
(アミン化合物)
本実施形態におけるアミン化合物は下記式(1)で表される化合物である。
【化1】

式中、mは0又は1であり;R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルキルチオ基、スルホ基、アルキルオキシスルホニル基、ニトロ基、水酸基、チオール基、シアノ基又はハロゲン原子であり、前記アルキル基は置換基を有していてもよく;p及びpは、それぞれ独立に、1又は2であり;mが0である場合、qは0~11の整数であり、ただし、p+qは12以下であり、mが1である場合、qは0~10の整数であり、ただし、p+qは11以下であり、qは0~10の整数であり、qが2以上の整数である場合には、2個以上のRは互いに同一でも異なっていてもよく、qが2以上の整数である場合には、2個以上のRは互いに同一でも異なっていてもよく、qが2以上の整数であり、かつ、2個以上のRが置換基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のRは相互に結合して環を形成していてもよく、qが2以上の整数であり、かつ、2個以上のRが置換基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のRは相互に結合して環を形成していてもよい。ただし、mが0であり、pが2であり、pが付されている2個のアミノ基が互いにメタ位に配置されている場合を除く。
【0032】
上記式(1)で表される化合物は下記一般式(11A)、(12A)又は(11B)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】

式中、R11、R12、R13及びR21は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、カルボキシ基、炭素数2~11のアルキルオキシカルボニル基、ホルミル基、炭素数2~11のアルキルカルボニル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、スルホ基、炭素数1~10のアルキルオキシスルホニル基、ニトロ基、水酸基、チオール基、シアノ基又はハロゲン原子であり、前記アルキル基は前記置換基としてアミノ基を有していてもよく;q11及びq12は、それぞれ独立に、0~6の整数であり、q11が2以上の整数である場合には、2個以上のR11は互いに同一でも異なっていてもよく、q12が2以上の整数である場合には、2個以上のR12は互いに同一でも異なっていてもよく、q11が2以上の整数であり、かつ、2個以上のR11が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のR11は相互に結合して環を形成していてもよく、q12が2以上の整数であり、かつ、2個以上のR12が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のR12は相互に結合して環を形成していてもよく;q13及びq21は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、q13が2以上の整数である場合には、2個以上のR13は互いに同一でも異なっていてもよく、q21が2以上の整数である場合には、2個以上のR21は互いに同一でも異なっていてもよく、q13が2以上の整数であり、かつ、2個以上のR13が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のR13は相互に結合して環を形成していてもよく、q21が2以上の整数であり、かつ、2個以上のR21が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のR21は相互に結合して環を形成していてもよい。ただし、前記一般式(12A)において、シクロヘキサン環骨格を構成している炭素原子に直接結合している2個のアミノ基が、互いにメタ位に配置されている場合を除く。
【0033】
化合物(11A)、化合物(12A)又は化合物(11B)は、下記一般式(111A)、(121A)、(122A)又は(111B)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】

式中、R111、R121、R122、R131及びR211は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数2~6のアルキルオキシカルボニル基、ホルミル基、炭素数2~6のアルキルカルボニル基、炭素数1~5のアルキルチオ基、水酸基、チオール基、シアノ基又はハロゲン原子であり、前記アルキル基は前記置換基としてアミノ基を有していてもよく;q111、q121及びq122は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、q111が2以上の整数である場合には、2個以上のR111は互いに同一でも異なっていてもよく、q121が2以上の整数である場合には、2個以上のR121は互いに同一でも異なっていてもよく、q122が2以上の整数である場合には、2個以上のR122は互いに同一でも異なっていてもよく、q111が2以上の整数であり、かつ、2個以上のR111が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のR111は相互に結合して環を形成していてもよく、q121が2以上の整数であり、かつ、2個以上のR121が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のR121は相互に結合して環を形成していてもよく、q122が2以上の整数であり、かつ、2個以上のR122が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個以上のR122は相互に結合して環を形成していてもよく;q131及びq211は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、q131が2である場合には、2個のR131は互いに同一でも異なっていてもよく、q211が2である場合には、2個のR211は互いに同一でも異なっていてもよく、q131が2であり、かつ、2個のR131が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個のR131は相互に結合して環を形成していてもよく、q211が2であり、かつ、2個のR211が前記置換基としてアミノ基を有していてもよい前記アルキル基である場合には、前記2個のR211は相互に結合して環を形成していてもよい。
【0034】
本実施形態においては、アミン化合物の二酸化炭素と反応して固体化する性質を利用する。したがって、アミン化合物と二酸化炭素の反応物(カルバミン酸誘導体)が析出しやすい条件下で(A)工程を実施することが好ましい。具体的には以下の措置が考えられる。
(1)アミン化合物と二酸化炭素との反応時の反応温度を低下させること。
(2)循環水としての水溶液のアミン化合物濃度をなるべく高くすること。
(3)アミン化合物として、ジアミン(アミノ基を2個有するもの)用いること。
(4)気液接触装置において、空気との接触面積を大きくすること。
【0035】
上記(1)の観点から、冷却塔5内の温度は、例えば、0~90℃又は5~60℃であり、5~40℃であることが好ましい。上記(2)の観点から、循環水のアミン化合物濃度は、例えば、0.05~10Mであり、0.08~3Mが好ましく、0.1~1Mであることがより好ましい。なお、濃度単位「M」は「mol/L」を表す。なお、アミン化合物を溶媒で稀釈せずに使用してもよい。
【0036】
<(B)工程>
(B)工程は、上記のとおり、冷却塔5内における気液接触を経て、二酸化炭素濃度が低減した空気を冷却塔5から大気に放出する工程である。二酸化炭素濃度が低減された空気はブロワ5aから大気に放出される。大気から冷却塔5に取り込まれる空気の二酸化炭素濃度は約415体積ppmである。冷却塔5内における気液接触を経ることで、空気の二酸化炭素濃度を1~300体積ppmにまで低減することができる。
【0037】
<(C)工程>
(C)工程は、上記のとおり、冷却塔5内における気液接触を経て、空気に含まれる二酸化炭素とアミン化合物が反応して生じた析出物を水溶液から分離する工程である。本実施形態においては、析出物を含む水溶液が固液分離装置20に供給され、固液分離装置20において、析出物を含むスラリーが水溶液から分離される。スラリーは水と析出物とを含む懸濁液である。スラリーの全質量に対する析出物の質量は、例えば、10~50質量%であり、20~40質量%であることが好ましい。この値が10質量%以上であることで、析出物からアミン化合物を再生させる工程においてスラリーの加熱に要するエネルギーが少なくて済む傾向にあり、他方、50質量%以下であることで、固液分離に要するエネルギーが少なくて済む傾向にある。
【0038】
<(D)工程>
(D)工程は、上記のとおり、析出物が分離された水溶液を冷却塔5に供給する工程である。析出物が分離された水溶液は、水槽6から循環ポンプ7p及び熱交換器15を経て冷却塔5に供給される。
【0039】
<(E)工程>
(E)工程は、上記のとおり、水溶液から分離された析出物を加熱する工程である。本実施形態においては、流路23を通じて加熱装置30にスラリーが供給され、加熱装置30においてスラリーが加熱される。加熱温度は、例えば、50~150℃であり、60~140℃であることが好ましく、60~120℃であることがより好ましい。この温度が60℃以上であることで、析出物からアミン化合物を十分に再生できる傾向にあり、他方、150℃以下であることで、アミン化合物の分解を抑制できる傾向にある。なお、二酸化炭素の分圧が低い環境下に析出物を置くことによって析出物からアミン化合物を再生してもよい。
【0040】
<(F)工程>
(F)工程は、上記のとおり、(E)工程を経て析出物から再生したアミン化合物を含む水溶液を冷却塔5に供給する工程である。本実施形態においては、返送路32を通じて加熱装置30から流路1に、再生したアミン化合物を含む水溶液が供給される。
【0041】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、図1の破線の矢印と太い矢印で水溶液と空気の流れをそれぞれ示したとおり、冷却塔5として、水溶液と空気が向かい合って流れる向流型(カウンターフロータイプ)の冷却塔を例示したが、上から下に流れる水溶液に対して横から空気が流れる直交流型(クロスフロータイプ)の冷却塔に本開示を適用してもよい。
【0042】
上記実施形態においては、二酸化炭素の回収、アミン化合物の再生及びアミン化合物の水溶液の再利用の一連のプロセスがシステム100において完結可能な態様を例示したが、これらのプロセスは再生設備において実施してもよい。すなわち、(C)工程を経て得られた析出物を再生設備(不図示)に搬送し、当該再生設備において(D)工程を実施してもよい。特定のエリアに点在する二酸化炭素濃度低減システムで生じた析出物を再生設備にそれぞれ搬送することで、再生設備において二酸化炭素の回収及びアミン化合物の再生のプロセスを集約して実施することができる。
【0043】
上記実施形態においては、回収した二酸化炭素を貯蔵容器40に収容する場合を例示したが、回収した二酸化炭素を地中に貯蔵してもよい。また、上記実施形態においては、冷却装置10の冷却塔5を気液接触装置として利用して空気の二酸化炭素濃度を低減する場合を例示したが、電車やトラック等の輸送機械に設置された気液接触装置を使用してもよい。すなわち、輸送機械の移動に伴って気液接触装置に空気を取り込むことで、空気の二酸化炭素濃度を低減してもよい。
【0044】
上記実施形態においては、アミン化合物の水溶液を例示したが、アミン化合物の溶液を得るための溶媒は水に限定されるものではない。溶媒として、実施の態様によっては、例えば、有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム(環状アミド);メタノール、エタノール、2-プロパノール(IPA)等のアルコール;トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の炭化水素(芳香族炭化水素);テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロピラン、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル(エーテル結合を有する化合物);プロピオニトリル、アセトニトリル等のニトリル(シアノ基を有する化合物);酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル(カルボン酸エステル)等が挙げられる。溶媒は極性を有することが好ましい。また、溶媒は、高沸点であり且つ常温での蒸気圧が低いものが好ましい。このような溶媒を用いることによって、溶媒の気化を抑制することができる。かかる観点から、溶媒の沸点は、100℃以上であることが好ましく、例えば、190℃以上であってもよい。溶媒の沸点の上限値は、入手が比較的容易な点から、例えば、200℃である。溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒として、水と、1種又は2種以上の有機溶媒を含む水系混合溶媒を使用してもよいし、2種以上の有機溶媒からなる非水系混合溶媒を使用してもよい。また、アミン化合物を溶媒で稀釈せずに使用してもよい。
【0045】
上記実施形態においては、通常の空気(大気)の二酸化炭素濃度を低減する態様を例示したが、二酸化炭素濃度を低減する対象は、他のガスが混合された空気であってもよいし、工場からの排ガス、自動車等の排ガスであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…流路、2…パイプ、5…冷却塔(気液接触装置)、5a…ブロワ、6…水槽、6a…給水管、6b…供給管、7…流路、7p…循環ポンプ、8…流路、9…流路、10…冷却装置(二酸化炭素吸収装置)、15…熱交換器、20…固液分離装置、21…液体サイクロン、22…フィルター、30…加熱装置、31…流路、32…返送路、40…貯蔵容器、50…二酸化炭素濃度低減システム用設備、100…二酸化炭素濃度低減システム。
図1
図2
図3