(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075137
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロール
(51)【国際特許分類】
C22C 37/00 20060101AFI20240527BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240527BHJP
B21B 27/00 20060101ALI20240527BHJP
B21B 27/03 20060101ALI20240527BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240527BHJP
C21D 9/38 20060101ALN20240527BHJP
C21D 5/00 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
C22C37/00 B
C22C38/00 302E
C22C38/00 301L
B21B27/00 C
B21B27/03 510
C22C38/58
C21D9/38 A
C21D5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186352
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】布施 太雅
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直道
【テーマコード(参考)】
4E016
4K042
【Fターム(参考)】
4E016AA03
4E016CA08
4E016DA03
4E016DA11
4E016DA18
4E016EA02
4E016EA12
4E016EA23
4E016FA02
4E016FA08
4K042AA21
4K042BA03
4K042BA14
4K042CA01
4K042CA06
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA11
4K042CA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC05
4K042DD05
4K042DE03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐摩耗性、耐スリップ性および耐肌荒れ性に優れた熱間圧延用ロールの外層材および熱間圧延用複合ロールを提供する。
【解決手段】質量%で、C:1.1~2.6%、Si:0.15~2.50%、Mn:0.15~2.50%、Ni:0.1~6.0%、Cr:1.5~10.0%、Mo:3.5~12.5%、V:2.5~7.5%、W:0.1~6.0%、P:0.01~0.04%、S:0.001~0.015%を含有し、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Wの含有量が特定の式を満たし、C、Cr、Mo、V、Wの含有量が特定の式を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、粒径1.0μm以上の炭化物が面積率で7.5~18.0%存在し、共晶セルサイズが65~100μmであり、600℃の時のショア硬さが44.0HS以上かつ52.0HS以下であることを特徴とする、熱間圧延用ロール外層材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:1.1~2.6%、
Si:0.15~2.50%、
Mn:0.15~2.50%、
Ni:0.1~6.0%、
Cr:1.5~10.0%、
Mo:3.5~12.5%、
V:2.5~7.5%、
W:0.1~6.0%、
P:0.01~0.04%、
S:0.001~0.015%を含有し、
Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Wの含有量が下記の(1)式を満たし、C、Cr、Mo、V、Wの含有量が下記の(2)式を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
粒径1.0μm以上の炭化物が面積率で7.5~18.0%存在し、共晶セルサイズが65~100μmであり、600℃の時のショア硬さが44.0HS以上かつ52.0HS以下であることを特徴とする、熱間圧延用ロール外層材。
50.0≦([%Cr]×[%Mo]×[%V]×[%W])/([%Si]×[%Mn]×[%Ni])≦150.0 ・・・(1)
0.90≦[%C]×((0.177×[%V])/(0.099×[%Cr]+0.063×[%Mo]+0.033×[%W]))≦3.00 ・・・(2)
ここで(1)式および(2)式において、[%C]、[%Si]、[%Mn]、[%Ni]、[%Cr]、[%Mo]、[%V]、[%W]は、各元素の含有量(質量%)である。
【請求項2】
外層と内層の2層、または外層と中間層および内層の3層を有する熱間圧延用複合ロールであって、前記外層が質量%で、
C:1.1~2.6%、
Si:0.15~2.50%、
Mn:0.15~2.50%、
Ni:0.1~6.0%、
Cr:1.5~10.0%、
Mo:3.5~12.5%、
V:2.5~7.5%、
W:0.1~6.0%、
P:0.01~0.04%、
S:0.001~0.015%を含有し、
Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Wの含有量が下記の(1)式を満たし、C、Cr、Mo、V、Wの含有量が下記の(2)式を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
粒径1.0μm以上の炭化物が面積率で7.5~18.0%存在し、共晶セルサイズが65~100μmであり、600℃の時のショア硬さが44.0HS以上かつ52.0HS以下であることを特徴とする、熱間圧延用複合ロール。
50.0≦([%Cr]×[%Mo]×[%V]×[%W])/([%Si]×[%Mn]×[%Ni])≦150.0 ・・・(1)
0.90≦[%C]×((0.177×[%V])/(0.099×[%Cr]+0.063×[%Mo]+0.033×[%W]))≦3.00 ・・・(2)
ここで(1)式および(2)式において、[%C]、[%Si]、[%Mn]、[%Ni]、[%Cr]、[%Mo]、[%V]、[%W]は、各元素の含有量(質量%)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、耐スリップ性および耐肌荒れ性に優れた熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロールに係り、特に鋼板の粗圧延に好適な熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高品質な鋼板の需要が増加しており、それにともない鋼板の熱間圧延技術を向上させることを求められている。そのため、熱間圧延設備で使用される熱間圧延用ロールの特性の向上、具体的には耐摩耗性や耐焼付き性、耐スリップ性、耐肌荒れ性等の向上が強く要求されている。耐摩耗性を向上させるため、Cr系のM7C3炭化物を組織中に導入したHiCr鋳鋼ロールや、工具鋼の一種である高速度鋼をベースにV、Cr、Mo、Wなどの炭化物形成元素を含有し、V系MC炭化物、Mo、W系M2C炭化物、Cr系M7C3炭化物(Mは炭化物を形成する金属元素を示す。)などの硬質炭化物を組織中に多量に導入したハイスロールが用いられている。しかし、耐摩耗性を向上させるために多量の炭化物を導入すると、硬さが高く耐摩耗性が良いため、ロールの表面粗さが小さくなり、圧延中の摩擦係数が小さくなることから、スリップが発生しやすくなる他、多量の炭化物の導入時に生じた粗大な炭化物の脱落に起因する肌荒れが発生しやすくなる。
【0003】
このような問題を解決するために様々な技術が開示されており、例えば特許文献1には、C:0.8~4.0%、Si:0.2~2.0%、Mn:0.2~2.0%、Cr:3.0~15%、V:3.0~15%、Mo、Wの1種または2種:≧2%、かつMo+0.5W:≧6.1%、あるいはさらに、Ni:0.2~5%、Co:0.5~10%、Nb:0.50~5.0%、Al、Ti、Zrの1種以上:≦0.5%の1種または2種以上を含有させ、外層材の金属組織が面積率で5~30%の炭化物を有し、該各炭化物の分布を隣接する炭化物間の平均間隙が20μm以下であることを特徴とする熱間圧延用複合ロールが提案されている。これによって、粒状炭化物の適正量を微細かつ各炭化物間の隣接する間隙を小さく分散させることで、耐スリップ性、耐焼付き性が向上する熱間圧延用複合ロールになるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、C:1.0~2.6%、Si:1.2%以下、Mn:1.2%以下、Ni:3.0%以下、Cr:1.5~6.0%、Mo及びWはMo+0.5Wとして1.5~5.0%、V:6.0~12.0%、Co:5.0%以下を含有するとともに、Ti:2.0%以下又はNb:2.0%以下のうち少なくとも1種を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鉄基合金組成の相当粒径√Scが1μm以上である炭化物の面積率Sr(%)が20%以下であるMC型炭化物を、その粒間間隔Lc(μm)の平均値が30μm以下となるように、分散させることで、耐摩耗性、耐肌荒れ性及び耐焼付き性が向上する熱間圧延用ロールになるとしている。
【0005】
特許文献3には、質量%で、C:0.90~1.40%、Si:0.50~1.50%、Mn:0.50~1.50%、Ni:0.5~2.0%、Cr:9.0~16.0%、Mo:1.00~3.00%、Al:0.010~0.030%、を含有するとともに、V:0.05~0.50%、Ti:0.05~0.50%、Nb:0.02~0.20%、のうち少なくとも1種を含有し、かつ、(1)式:8≦Cr/C≦14、(2)式:3.0≦12.3C+0.55Cr-15.2≦7.0、および(3)式:26.0≦15.5C+Crを満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる溶湯組成を有する鋳鋼からなる外殻層と、該外殻層の内側に鋳造されたダクタイル鋳鉄からなる軸芯材が、中間層を介して一体化していることを特徴とする熱間圧延粗圧延スタンド用ワークロールが提案されている。これにより、C量とCr量を適切量添加し、M7C3炭化物量を制御することで、耐摩耗性と耐スリップ性が両立できる熱間圧延粗圧延スタンド用ワークロールになるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-255457号公報
【特許文献2】特開2005-28453号公報
【特許文献3】特開2020-63485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高品質鋼板の需要が高まる中で鋼板の熱間圧延技術の向上にともなって、ますます熱間圧延用ロールに要求される特性が厳しくなり、特に耐摩耗性の向上がより強く要求されている。耐摩耗性の要求に合わせてロールを設計すると、かえってスリップや肌荒れし易くなり、その結果ロールトラブルの発生頻度が増加する。特許文献1~3に記載された従来の熱間圧延用ロールでは、耐摩耗性、耐スリップ性、耐肌荒れ性のいずれかが十分ではない。
【0008】
そこで本発明は、上記課題を解決した、耐摩耗性、耐スリップ性および耐肌荒れ性に優れた熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、熱間圧延用ロールの基地、組織中の炭化物、硬さ、摩耗量、摩擦係数、化学成分(成分組成)およびロール材組織とロールに付着しているスケールとの関係を詳細に調査した。その結果、炭化物の量や種類、硬さ、共晶セルサイズが特定の範囲になるような化学成分や鋳込み方法、および熱処理条件を最適化させることで、耐摩耗性、耐スリップ性および耐肌荒れ性が向上することを見出した。
本発明は、これらの知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
[1] 質量%で、
C:1.1~2.6%、
Si:0.15~2.50%、
Mn:0.15~2.50%、
Ni:0.1~6.0%、
Cr:1.5~10.0%、
Mo:3.5~12.5%、
V:2.5~7.5%、
W:0.1~6.0%、
P:0.01~0.04%、
S:0.001~0.015%を含有し、
Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Wの含有量が下記の(1)式を満たし、C、Cr、Mo、V、Wの含有量が下記の(2)式を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
粒径1.0μm以上の炭化物が面積率で7.5~18.0%存在し、共晶セルサイズが65~100μmであり、600℃の時のショア硬さが44.0HS以上かつ52.0HS以下であることを特徴とする、熱間圧延用ロール外層材。
50.0≦([%Cr]×[%Mo]×[%V]×[%W])/([%Si]×[%Mn]×[%Ni])≦150.0 ・・・(1)
0.90≦[%C]×((0.177×[%V])/(0.099×[%Cr]+0.063×[%Mo]+0.033×[%W]))≦3.00 ・・・(2)
ここで(1)式および(2)式において、[%C]、[%Si]、[%Mn]、[%Ni]、[%Cr]、[%Mo]、[%V]、[%W]は、各元素の含有量(質量%)である。
[2] 外層と内層の2層、または外層と中間層および内層の3層を有する熱間圧延用複合ロールであって、前記外層が質量%で、
C:1.1~2.6%、
Si:0.15~2.50%、
Mn:0.15~2.50%、
Ni:0.1~6.0%、
Cr:1.5~10.0%、
Mo:3.5~12.5%、
V:2.5~7.5%、
W:0.1~6.0%、
P:0.01~0.04%、
S:0.001~0.015%を含有し、
Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Wの含有量が下記の(1)式を満たし、C、Cr、Mo、V、Wの含有量が下記の(2)式を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
粒径1.0μm以上の炭化物が面積率で7.5~18.0%存在し、共晶セルサイズが65~100μmであり、600℃の時のショア硬さが44.0HS以上かつ52.0HS以下であることを特徴とする、熱間圧延用複合ロール。
50.0≦([%Cr]×[%Mo]×[%V]×[%W])/([%Si]×[%Mn]×[%Ni])≦150.0 ・・・(1)
0.90≦[%C]×((0.177×[%V])/(0.099×[%Cr]+0.063×[%Mo]+0.033×[%W]))≦3.00 ・・・(2)
ここで(1)式および(2)式において、[%C]、[%Si]、[%Mn]、[%Ni]、[%Cr]、[%Mo]、[%V]、[%W]は、各元素の含有量(質量%)である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐摩耗性、耐スリップ性および耐肌荒れ性に優れた熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロールを提供することができる。その結果、熱間圧延用ロールの寿命が向上し、それにともない熱延鋼板の生産性が向上するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】熱間転動摩耗試験で使用した試験機の構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱間圧延用ロールの外層材(以下、単に外層ともいう。)の組成限定理由について説明する。なお、以下、質量%は、特に断らない限り、単に%と記す。
【0013】
C:1.1~2.6%
CはV、Cr、Mo、W等と結合して硬質炭化物を形成し、耐摩耗性の向上に寄与する。また、基地への固溶強化により基地硬さを向上させる効果を奏する。Cが1.1%未満では炭化物量が不足し、優れた耐摩耗性を得ることができない。また、硬さが低くなるため、塑性流動が起こり、塑性流動に起因する肌荒れ等の影響で摩擦係数が大きくなる。一方で、Cが2.6%を超えると炭化物が過剰に生成し、耐肌荒れ性が低下する。また、Cが2.6%を超えて硬さが高くなると摩擦係数が低下し、スリップが発生する。よって、C含有量は1.1%以上、2.6%以下に限定した。C含有量は、好ましくは1.3%以上であり、より好ましくは1.5%以上である。また、C含有量は、好ましくは2.3%以下であり、より好ましくは2.0%以下である。
【0014】
Si:0.15~2.50%
Siは、溶湯中で脱酸剤として作用し、溶湯の流動性を良くし、鋳造欠陥を防ぐ効果を奏する。Si含有量が0.15%未満では、脱酸に対する効果が不足し、Si含有量が2.50%を超えると脱酸に対する効果が飽和する。よって、Si含有量は0.15%以上、2.50%以下に限定した。Si含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.60%以上である。また、Si含有量は、好ましくは2.00%以下であり、より好ましくは1.50%以下である。
【0015】
Mn:0.15~2.50%
Mnは、溶湯の脱酸に対する効果や、製品への悪影響を及ぼすSをMnSとして固定する効果を奏する。Mn含有量が0.15%未満では、SをMnSとして固定する効果が不十分である。一方で、Mn含有量が2.50%を超えると、効果が飽和する。よって、Mn含有量は0.15%以上、2.50%以下に限定した。Mn含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.35%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは2.00%以下であり、より好ましくは1.50%以下である。
【0016】
Ni:0.1~6.0%
Niは、基地の焼入れ性を向上させ、基地の硬さを向上させる効果を奏する。Ni含有量が0.1%未満では、基地硬さを向上させる効果が不十分となる。一方で、Ni含有量が6.0%を超えると、オーステナイトが残留しやすくなるため、硬さが低下する。よって、Ni含有量は0.1%以上、6.0%以下に限定した。Ni含有量は、好ましくは1.0%以上であり、より好ましくは1.5%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは5.0%以下であり、より好ましくは4.0%以下である。
【0017】
Cr:1.5~10.0%
Crは、炭化物形成元素であり、Cと結合してM7C3炭化物を形成する。M7C3炭化物は、硬質な炭化物であるため、耐摩耗性を向上させる効果を奏する。Cr含有量が1.5%未満では、M7C3炭化物量が不足し、耐摩耗性が低下する。一方で、Cr含有量が10.0%を超えると、粗大なM7C3炭化物が生成し、かえって耐摩耗性が悪化する。よって、Cr含有量は1.5%以上、10.0%以下に限定した。Cr含有量は、好ましくは2.5%以上であり、より好ましくは3.5%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは8.0%以下であり、より好ましくは6.0%以下である。
【0018】
Mo:3.5~12.5%
Moは、炭化物形成元素であり、Cと結合してM2C炭化物を形成する。M2C炭化物は、M7C3炭化物よりも硬質な炭化物であるため、さらに耐摩耗性を向上させる効果を奏する。Mo含有量が3.5%未満では、M2C炭化物量が不足し、耐摩耗性を向上させる効果が不十分である。一方で、Mo含有量が12.5%を超えると、粗大なM2C炭化物が生成し、耐摩耗性の悪化や、靭性の低下が起こる。よって、Mo含有量は3.5%以上、12.5%以下に限定した。Mo含有量は、好ましくは4.0%以上であり、より好ましくは4.5%以上である。また、Mo含有量は、好ましくは10.5%以下であり、より好ましくは8.0%以下である。
【0019】
V:2.5~7.5%
Vは、炭化物形成元素であり、Cと結合してMC炭化物を形成する。MC炭化物はビッカース硬さHvで2800程度の値を有し、最も硬い炭化物のうちの一つであり、耐摩耗性を向上させる効果を奏する。V含有量が2.5%未満では、MC炭化物量が不足し、耐摩耗性を向上させる効果が不十分である。一方で、V含有量が7.5%を超えると、鉄溶湯より比重の軽いVC炭化物が遠心鋳造中の遠心力により外層の内側に濃化し、偏析が起こる。よって、V含有量は2.5%以上、7.5%以下に限定した。V含有量は、好ましくは3.0%以上であり、より好ましくは4.0%以上である。また、V含有量は、好ましくは7.0%以下であり、より好ましくは6.5%以下である。
【0020】
W:0.1~6.0%
Wは、炭化物形成元素であり、Cと結合して硬質なM2C等の硬質な炭化物を生成し、外層の硬さが増加するとともに、耐摩耗性を向上させる効果を奏する。W含有量が0.1%未満では、その効果が不十分であり、耐摩耗性が悪化する。一方で、W含有量が6.0%を超えると、粗大なM2C炭化物が生成し、耐摩耗性がかえって悪化する。よって、W含有量は0.1%以上、6.0%以下に限定した。W含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1.0%以上である。また、W含有量は、好ましくは5.0%以下であり、より好ましくは4.5%以下である。
【0021】
P:0.01~0.04%
Pは、ロール製造過程で混入し、機械的特性が低下すると考えられてきたが、本発明者らの鋭意検討の結果、少量のPの含有は硬さや耐摩耗性を向上させる効果があることを明らかにした。P含有量が0.01%未満では、硬さや耐摩耗性の向上効果が十分ではなく、一方で、P含有量が0.04%超えでは機械的性質が劣化する。よって、P含有量は0.01%以上、0.04%以下に限定した。P含有量は、好ましくは0.02%以上である。また、P含有量は、好ましくは0.03%以下である。
【0022】
S:0.001~0.015%
Sは、通常、鉄系合金では有害元素として取り扱われ、一定量以下の含有量に制限されるが、その範囲内において、MnSは潤滑材の効果を奏する。一方で、含有量が多いと材質が脆くなる。よって、S含有量は0.001%以上、0.015%以下に限定した。S含有量は、好ましくは0.002%以上である。また、S含有量は、好ましくは0.010%以下である。
【0023】
また、本発明では、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Wの含有量が上記の範囲内であり、加えて下記の(1)式および下記の(2)式を満たすことを特徴とする。
50.0≦([%Cr]×[%Mo]×[%V]×[%W])/([%Si]×[%Mn]×[%Ni])≦150.0 ・・・(1)
0.90≦[%C]×((0.177×[%V])/(0.099×[%Cr]+0.063×[%Mo]+0.033×[%W]))≦3.00 ・・・(2)
ここで(1)式および(2)式において、[%C]、[%Si]、[%Mn]、[%Ni]、[%Cr]、[%Mo]、[%V]、[%W]は、各元素の含有量(質量%)である。
【0024】
(1)式における([%Cr]×[%Mo]×[%V]×[%W])/([%Si]×[%Mn]×[%Ni])について、このパラメータは、各炭化物形成元素(V、Cr、Mo、W)の含有量の積と各炭化物非形成元素(Si、Mn、Ni)の含有量の積の比を示しており、(1)式を満たすように調整することで炭化物の生成量や共晶セルサイズが適正化され、耐摩耗性、耐スリップ性および耐肌荒れ性が向上する。([%Cr]×[%Mo]×[%V]×[%W])/([%Si]×[%Mn]×[%Ni])の値が50.0未満であると、炭化物の生成量が不足し十分な耐摩耗性を得ることができない。また、共晶セルサイズが大きくなり、圧延中の摩擦係数が高い値を維持できず、十分な耐スリップ性を得ることができない。一方、150を超えると、粗大な炭化物が多量に生成し、十分な耐摩耗性、耐肌荒れ性を得ることができない。また、共晶セルサイズが小さくなることで、圧延中の摩擦係数が高くなり鋼材が焼付きやすくなる。よって、([%Cr]×[%Mo]×[%V]×[%W])/([%Si]×[%Mn]×[%Ni])の値は50以上、150以下に限定した。さらに好ましくは70以上、130以下である。
【0025】
(2)式における[%C]×((0.177×[%V])/(0.099×[%Cr]+0.063×[%Mo]+0.033×[%W]))について、このパラメータは、MC炭化物量と(M2C炭化物量+M7C3炭化物量)の比を表しており、(2)式を満たすように調整することで、各炭化物量の割合が適正化され、耐摩耗性、耐肌荒れ性の向上および圧延中の摩擦係数が焼付きおよびスリップが起こらない値を取ることが可能となる。[%C]×((0.177×[%V])/(0.099×[%Cr]+0.063×[%Mo]+0.033×[%W]))の値が0.90未満の場合、硬質なMC炭化物量が少なく、十分な耐摩耗性を得られない。また、MC炭化物量が減り、圧延中の摩擦係数が高い値を維持できず、十分な耐スリップ性を得ることができない。一方、3.00を超えると、MC炭化物量の割合が多くなる。これは、微細な粒状な炭化物であり、ロール表面の突起部が多くなることにより圧延中の摩擦係数が大きくなり、焼付きが発生し易くなる。よって、[%C]×((0.177×[%V])/(0.099×[%Cr]+0.063×[%Mo]+0.033×[%W]))の値は0.90以上、3.00以下に限定した。さらに好ましくは1.20以上、2.50以下である。
【0026】
残部:Fe及び不可避的不純物
上記した成分以外の残部は、Fe及び不可避的不純物からなる。
【0027】
次に、本発明の熱間圧延用ロール外層材の組織限定理由について説明する。
【0028】
本発明の熱間圧延用ロール外層材は、上記した範囲の成分組成を有し、粒径1.0μm以上の炭化物が面積率で7.5~18.0%存在し、共晶セルサイズが65~100μmであることを特徴とする。炭化物とは凝固中に晶出したMC炭化物、M2C炭化物、M7C3炭化物であり、また、基地中に存在する析出炭化物は1.0μm未満であることから、1.0μm以上の炭化物に限定した。ここで、基地はマルテンサイトまたはベイナイトであることが好ましい。各炭化物量を適切な割合にするため、上記した範囲の組成を有し、かつ1μm以上の炭化物が面積率で7.5~18.0%存在し、共晶セルサイズが65~100μmである組織に限定することで、耐摩耗性、耐スリップ性および耐肌荒れ性が向上することを発見した。なお、共晶セルサイズとは、後述の方法で測定した共晶セルのサイズの平均値である。熱延用ロールについては様々な研究がされているが、熱延用ロールとスケールの関係はほとんど研究されていない。発明者らの鋭意検討の結果、ロールの基地上にはスケールが付着しており、炭化物上にはスケールが付着しておらず、スケール付着の有無による凹凸がロール表面に存在していることがわかった。耐摩耗性、耐スリップ性、耐肌荒れ性を全て同時に満たすことはできないと考えられてきたが、炭化物面積率および炭化物種類ごとの割合を適正化し、耐摩耗性を向上させるとともに共晶セルサイズを調整し、ロール表面の凹凸間隔を制御することで、摩擦係数を高い値で維持することが可能となり、耐スリップ性が向上したと考えられる。また、肌荒れの原因の1つとなる黒皮剥離は、共晶セル内部の基地上の黒皮が、ロールの回転によってロール周方向に応力を受け、黒皮が剥離すると考えられる。そのため、共晶セルサイズを適切な範囲にすることで、黒皮の剥離を抑制でき、耐肌荒れ性が向上したと考えられる。
【0029】
共晶セルサイズが65μm未満の場合、表面の凹凸が多すぎることで摩擦係数が高く、焼付きが発生する。一方、100μmを超えると、表面の凹凸が少ないことから摩擦係数が十分な値を維持できず、スリップが発生する。よって、共晶セルサイズは65μm以上、100μm以下に限定した。共晶セルサイズは、好ましくは70μm以上であり、より好ましくは75μm以上である。また、共晶セルサイズは、好ましくは95μm以下であり、より好ましくは90μm以下である。
【0030】
組織(基地組織)において、炭化物の他には、マルテンサイトまたはベイナイトを面積率で82.0~92.5%有していてよい。
【0031】
組織の観察方法は以下の通りである。
まず、得られた外層材に鏡面研磨を施した後にナイタール液で腐食した後、デジタルマイクロスコープで組織観察を行う。撮影する視野内に共晶セルが200個以上確認できる視野で撮影を行った。また、画像解析ツール(ImageJ)を用いて、測定倍率200倍の写真の二値化処理を行う。写真中の基地組織と炭化物の輝度に違いがあるため、二値化処理をすることで、基地組織と炭化物を分類し面積を求めることができる。各試料5枚撮影し、炭化物の面積率の平均値を算出する。200倍で撮影したデジタルマイクロスコープ画像から、炭化物の直径を測定し、炭化物の直径を炭化物の粒径とした。また、炭化物の形状が楕円形等の場合は、炭化物内で最も距離の長い線分に対して垂直二等分線を引き、その垂直二等分線が前記炭化物の粒界と交わる2点間の長さを炭化物の粒径とした。
【0032】
また、得られた外層材に鏡面研磨を施した後にナイタール液で腐食した後、デジタルマイクロスコープを用いて測定倍率100倍で組織観察を行う。各試料で3視野撮影し、得られた1つの画像に対して計6本の直線を引く。下記の(3)式に示すように、粒径が5.0μmを超える炭化物と直線との交点の個数を、直線長さで除した値から共晶セルサイズを算出する。各試料の共晶セルサイズは3視野の平均値から得た。なお、粒径が5.0μmを超える炭化物が共晶セルの境界に存在することを利用し、上記の方法により共晶セルサイズを求めている。
((L1/N1)+(L2/N2)+(L3/N3)+(L4/N4)+(L5/N5)+(L6/N6))/6 ・・・(3)
ここで、Liはi本目の直線長さ、Niはi本目の直線と粒径が5.0μmを超える炭化物の交点の個数である。
【0033】
また、本発明の熱間圧延用ロール外層材の硬さは、600℃の時のショア硬さで44.0HS以上52.0HS以下である。20℃の時のショア硬さは74.0HS以上86.0HS以下であることが好ましい。
【0034】
また、熱間圧延中のロール表面温度は約600℃付近であり、600℃時のショア硬さが44.0HS未満では、塑性流動が起こり、鋼材がロール面に焼付きやすくなる。一方で、硬さが52.0HSを超えると、ロール硬さが高すぎることで、圧延中にスリップが発生し易くなる。このような硬さは、本発明の成分を有するロールを、後述する焼戻しパラメータPが10000~20000の範囲内となるように熱処理することで安定して確保できる。
【0035】
20℃の時のショア硬さと600℃の時のショア硬さについては、まず、ビッカース硬さ計(試験力:1kgf)で20℃の時と600℃の時のビッカース硬さHVを各5点測定し、その平均値を算出する。
【0036】
まず、20℃でのビッカース硬さ測定については、ニコン製QM-2(圧子および試験片の同時加熱式)の試験機を用いて、圧子はダイヤモンドを使用し、試験雰囲気はアルゴンガス雰囲気中、荷重保持時間は10secで実験を行う。その後、昇温速度20℃/minで600℃まで昇温した後、20℃の時と同じ試験条件で600℃の時のビッカース硬さを測定する。なお、600℃でのビッカース硬さ測定においては、JIS Z2252「高温ビッカース硬さ試験方法」に準拠する。
これらの得られたビッカース硬さをJIS B 7731の計算式でショア硬さに換算する。
【0037】
次に、本発明の熱間圧延用ロール外層材及び熱間圧延用複合ロールの好ましい製造方法について説明する。
【0038】
本発明では、ロール外層材の製造方法としては、特に限定されず、遠心鋳造法や連続肉盛鋳造法などが好ましいが、製造コストの観点から着目すると、遠心鋳造法がより好ましい。遠心鋳造法を採用する場合、まず、内面にジルコン等を主材とした耐火物が1~5mm厚で被覆された回転する鋳型に、上記した熱間圧延用ロール外層材組成の溶湯(単に外層材溶湯と称する)を、所定の肉厚となるように注湯し、遠心鋳造する。
【0039】
本発明の熱間圧延用複合ロールは、遠心鋳造法でロール外層材を鋳造する場合、遠心鋳造された外層と、該外層と溶着一体化した内層とを有する。なお、外層と内層との間に中間層を配してもよい。すなわち、外層と溶着一体化した内層に代えて、外層と溶着一体化した中間層および該中間層と溶着一体化した内層の3層を有する熱間圧延用複合ロールであってもよい。なお、内層は静置鋳造法で製造することが好ましい。
【0040】
静置鋳造する内層は、鋳造性や機械的性質に優れた球状黒鉛鋳鉄、いも虫状黒鉛鋳鉄(CV鋳鉄)などを用いることが好ましい。遠心鋳造製ロールは、外層と内層が溶着一体化しており、外層材の成分が内層に混入する。外層材に含まれるCr、V等の炭化物形成元素が内層へ混入すると、内層を脆弱化する。このため、外層成分への混入率はできるだけ抑えるのが好ましい。
【0041】
また、中間層を形成する場合は、中間層材として、黒鉛鋼、高炭素鋼、亜共晶鋳鉄等を用いることが好ましい。中間層と外層は溶着一体化しており、外層材の成分が中間層に混入する。内層への外層材成分の混入率を抑制するためには、外層材の中間層への混入率はできるだけ抑えるのが好ましい。
【0042】
熱間圧延用複合ロールを構成する外層(熱間圧延用ロール外層材)における目的の組織として、粒径1.0μm以上の炭化物が面積率で7.5~18.0%存在し、共晶セルサイズが65~100μmである組織を有するためには、金型温度を250℃以下にし、鋳込み温度1350~1550℃で鋳造する。また、熱処理は900~1100℃に加熱し、空冷あるいは衝風空冷する焼入れ処理と、さらに下記の(4)式に記載している焼戻しパラメータPが10000~20000の範囲内となるように、加熱保持したのち冷却する焼戻し処理を2回以上行うことが好ましい。この時、焼入れ温度、焼戻しパラメータ、焼戻し回数は成分に応じて記載の範囲内で変更することによって、前述した組織を得ることが可能となる。
P=T(log(t)+A) ・・・(4)
ここで、Tは焼戻し温度(K)、tは焼戻し時間(h)、Aは定数である。(本発明ではA=20を使用)
【0043】
以上より、外層、中間層、内層の3層、または外層、内層の2層を有する熱間圧延用複合ロールを得ることができる。
【実施例0044】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
表1に示す熱間圧延用ロール外層材の化学組成(残部はFe及び不可避的不純物である。)にて、No.1~6の本発明例の各供試材と、No.7~16の比較例の各供試材を、1450~1550℃まで加熱、溶解し、Y型キールブロック鋳型(直方体部:厚み35mm、幅230mm、高さ120mm)に鋳造した。冷却後、鋳塊を取り出し、900~1100℃で焼入れ処理したのち、焼戻しパラメータPが10000~20000の範囲内となるように、加熱保持したのち冷却する焼戻し処理を3回行った。その後、組織観察、硬さ測定、熱間転動摩耗試験を行った。なお、本実施例では組織観察、硬さ測定、熱間転動摩耗試験片は肉厚中心部から採取したが、外層材中のどの位置であってもよい。
【0046】
【0047】
本発明例及び比較例の鋳塊から切り出した各試料をビッカース硬さ計(試験力:1kgf)で20℃の時のビッカース硬さHVと600℃の時のビッカース硬さHVを各5点測定し、その平均値を算出した。
【0048】
20℃でのビッカース硬さ測定については、ニコン製QM-2(圧子および試験片の同時加熱式)の試験機を用いて、圧子はダイヤモンドを使用し、試験雰囲気はアルゴンガス雰囲気中、荷重保持時間は10secで実験を行った。その後、昇温速度20℃/minで600℃まで昇温した後、20℃の時と同じ試験条件で600℃の時のビッカース硬さを測定した。なお、600℃でのビッカース硬さ測定においては、JIS Z2252「高温ビッカース硬さ試験方法」に準拠した。得られたビッカース硬さをJIS B 7731の計算式でショア硬さに換算した。
【0049】
熱間転動摩耗試験方法は次の通りとした。得られた各本発明例及び各比較例の鋳塊から、熱間転動摩耗試験片(外径60mmφ、幅10mm、C1面取りあり)を採取した。摩耗試験は、
図1に示すように、試験片1と相手片4との2円盤すべり転動方式で行った。試験片1を冷却水2で水冷しながら700rpmで回転させ、回転する該試験片1に、高周波誘導加熱コイル3で800℃に加熱した相手片4(外径190mmφ、幅15mm、C1面取り)を荷重の方向7に荷重686Nを加え、接触させながら転動させた。試験片1の回転方向5と相手片4の回転方向6は、試験片1と相手片4の接点における接線が同一方向となる回転方向である。摩耗試験は135分間実施し、45分(試験片31500回転)ごとに相手片を新品に更新して計3回(試験片94500回転)試験を行い、試験前後の試験片の質量減少量、すなわち摩耗量を測定した。
【0050】
熱間転動摩耗試験機を用いた摩擦係数測定方法は次の通りとした。熱間転動摩耗試験時と同様に、得られた各本発明例及び各比較例の鋳塊から熱間転動摩耗試験片(外径60mmφ、幅10mm、C1面取りあり)を採取した。摩耗試験は、
図1に示すように、試験片1と相手片4との2円盤すべり転動方式で行った。試験片1を冷却水2で水冷しながら76rpmで回転させ、回転する該試験片1に、高周波誘導加熱コイル3で1000℃に加熱した相手片4(外径190mmφ、幅15mm、C1面取り)を荷重の方向7に荷重686Nを加え、接触させながら転動させた。試験片1の回転方向5と相手片4の回転方向6は、試験片1と相手片4の接点における接線が同一方向となる回転方向である。摩擦係数測定方法は、試験を5時間実施し、1時間ごとに相手片を新品に更新して計5回試験を行った。試験中のトルクと荷重を測定し、下式(5)から摩擦係数を算出した。
μ=T/P×L ・・・(5)
ここで、μは摩擦係数、Tはトルク(kgf・m)、Pは荷重(kgf)、Lは試験片の半径(m)である。
【0051】
上記試験は、熱間圧延の連続的な操業を想定している試験のため、相手片を1000℃に加熱し、300分後における摩擦係数や焼付き状況を評価している。
【0052】
熱処理後の各試料について、鏡面研磨を施した後にナイタール液で腐食した後、デジタルマイクロスコープで組織観察を行った。撮影する視野内に共晶セルが200個以上確認できる視野で撮影を行った。また、画像解析ツール(ImageJ)を用いて、測定倍率200倍の写真の二値化処理を行う。写真中の基地組織と炭化物の輝度に違いがあるため、二値化処理をすることで、基地組織と炭化物を分類し面積を求めることができる。各試料5枚撮影し、炭化物の面積率の平均値を算出した。200倍で撮影したデジタルマイクロスコープ画像から、炭化物の直径を測定し、炭化物の直径を炭化物の粒径とした。また、炭化物の形状が楕円形等の場合は、炭化物内で最も距離の長い線分に対して垂直二等分線を引き、その垂直二等分線が前記炭化物の粒界と交わる2点間の長さを炭化物の粒径とした。
【0053】
また、共晶セルサイズの算出のために、熱処理後の各試料について、得られた外層材に鏡面研磨を施した後にナイタール液で腐食した後、デジタルマイクロスコープを用いて測定倍率100倍で組織観察を行う。各試料で3視野撮影し、得られた1つの画像に対して計6本の直線を引く。下記の(3)式に示すように、粒径が5.0μmを超える炭化物と直線との交点の個数を、直線長さで除した値から共晶セルサイズを算出する。各試料の共晶セルサイズは3視野の平均値から得た。
((2574/N1)+(2574/N2)+(2574/N3)+(2574/N4)+(2574/N5)+(2574/N6))/6 ・・・(3)
ここで、直線長さは2574μm、Niはi本目の直線と粒径が5.0μmを超える炭化物の交点の個数である。
【0054】
得られた結果を表2に示す。
【0055】
【0056】
表2の摩耗量は0.46g以下である場合を合格(耐摩耗性が良好であることを意味する。)とし、0.46gよりも大きい値である場合は不合格とした。また、摩擦係数は、0.12~0.30の範囲で合格、0.12未満もしくは0.30より大きい値は不合格とした。摩擦係数が0.12未満の場合、試験中の摩擦係数が小さいことから耐スリップ性が十分ではないため、摩擦係数が0.12以上の場合を耐スリップ性に優れるとした。また、焼付きと肌荒れが無い場合を耐肌荒れ性に優れるとした。表2から明らかなように、比較例は耐摩耗性と耐スリップ性のいずれかまたは両方に優れていないが、本発明例は優れた耐摩耗性および耐スリップ性の両方を有することが確認できた。また、0.30より大きい場合は、試験中の摩擦係数が高いため、焼付きが発生したと考えられる。炭化物面積率および炭化物種類ごとの割合を適正化し、耐摩耗性を向上させるとともに共晶セルサイズを調整し、ロール表面の凹凸間隔を制御することで、摩擦係数を高い値で維持することが可能となり、耐スリップ性も同時に向上した。また、本発明例の試験片表面は焼付きや肌荒れを生じることなく良好な耐肌荒れ性を示した。
【0057】
したがって、本発明によれば、耐摩耗性、耐スリップ性および耐肌荒れ性に優れた熱間圧延用ロール外層材および複合ロールを製造することが可能となる。その結果、熱間圧延用ロールの寿命の向上や、ロールトラブル発生による圧延中断時の時間損失が低減することで熱間圧延用ロールの圧延効率の向上にともない熱間圧延鋼板の生産性が向上するという効果も得られる。