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特開2024-75148還元型酸化グラフェン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075148
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】還元型酸化グラフェン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/198 20170101AFI20240527BHJP
【FI】
C01B32/198
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186366
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】孔 昌一
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ ファンボ
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AC19B
4G146BA01
4G146BC15
4G146BC43
4G146BC44
4G146BC50
4G146CB09
4G146CB11
(57)【要約】
【課題】簡便な方法により、優れた電極比容量を有する還元型酸化グラフェンを製造すること。
【解決手段】酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物と酸とを混合すること、又は、酸化グラフェン及び金属化合物を含む水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合することにより、水分散液(A)を得る工程aと、水分散液(A)に対して水熱処理又はマイクロ波処理を行い、酸化グラフェンを還元する工程bと、を備える、還元型酸化グラフェンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物と酸とを混合すること、又は、酸化グラフェン及び金属化合物を含む水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合することにより、水分散液(A)を得る工程aと、
前記水分散液(A)に対して水熱処理を行い、前記酸化グラフェンを還元する工程b1と、を備える、還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項2】
前記水熱処理の処理温度が120~240℃であり、
前記水熱処理の処理時間が2~10時間である、請求項1に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項3】
酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物と酸とを混合すること、又は、酸化グラフェン及び金属化合物を含む水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合することにより、水分散液(A)を得る工程aと、
前記水分散液(A)に対してマイクロ波処理を行い、前記酸化グラフェンを還元する工程b2と、を備える、還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項4】
前記マイクロ波処理の処理温度が120~240℃であり、
前記マイクロ波処理の処理時間が2~10分間である、請求項3に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物が、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は3に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項6】
前記金属化合物が、Al、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を構成元素として含む、請求項1又は3に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項7】
前記水分散液(A)における前記酸化グラフェンの配合量と前記金属化合物の配合量の質量比が、1:1~1:6である、請求項1又は3に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項8】
前記酸が、塩酸、硝酸、硫酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は3に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項9】
細孔径が2nm以上50nm未満であるメソ孔と、細孔径が50nm以上160nm未満であるマクロ孔と、を有し、
XPSによって測定されるC1sスペクトルにおいて、C-Oに帰属される結合の割合が2~12%であり、C=Oに帰属される結合の割合が4~7%であり、O-C=Oに帰属される結合の割合が1.5~3.5%であり、
XPSによって測定されるO1sスペクトルにおいて、C=Oに帰属される結合の割合が25~75%であり、
BET比表面積が、80~380m/gである、還元型酸化グラフェン。
【請求項10】
前記メソ孔の積算細孔容積が、前記マクロ孔の積算細孔容積よりも大きい、請求項9に記載の還元型酸化グラフェン。
【請求項11】
前記メソ孔の積算細孔容積が、0.01~0.80cm/gであり、
前記マクロ孔の積算細孔容積が、0.001~0.10cm/gである、請求項9又は10に記載の還元型酸化グラフェン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型酸化グラフェン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の不足が懸念されており、化石燃料に代わるエネルギー源の需要が劇的に増加している。中でもスーパーキャパシタは、出力密度が高く、短時間で効率よくエネルギーを蓄えることができるため、サイクル寿命の長い電池として注目されており、電気乗用車の電源用キャパシタとしての利用が期待されている。
【0003】
キャパシタ電極用材料としては、還元型酸化グラフェンが注目されている(非特許文献1及び2参照)。還元型酸化グラフェンは、グラファイトの酸化により得られる酸化グラフェンを還元することで得られる材料である。還元型酸化グラフェン中には酸化グラフェンが有していた酸素含有官能基の一部が還元されずに残存していることが多いため、還元型酸化グラフェンは、グラフェンと酸化グラフェンとの中間に位置する材料として位置付けることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Advanced Materials Research, 2014, 1004-1005, 1013-1016
【非特許文献2】Nature Communications 1, Article number: 73, doi:10.1038/ncomms1067
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、還元型酸化グラフェンのような貴金属フリーの炭素材料は、エネルギー密度が低い傾向があり、長距離電気自動車用のキャパシタのように大量の電気を蓄える用途に適用し難いという課題がある。また、従来の還元型酸化グラフェンの製造方法には、工程数が多いという課題もある。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、簡便な方法により、優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも下記[1]~[11]を提供する。
【0008】
[1]
酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物と酸とを混合すること、又は、酸化グラフェン及び金属化合物を含む水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合することにより、水分散液(A)を得る工程aと、
前記水分散液(A)に対して水熱処理を行い、前記酸化グラフェンを還元する工程b1と、を備える、還元型酸化グラフェンの製造方法。
【0009】
[2]
前記水熱処理の処理温度が120~240℃であり、
前記水熱処理の処理時間が2~10時間である、[1]に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【0010】
[3]
酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物と酸とを混合すること、又は、酸化グラフェン及び金属化合物を含む水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合することにより、水分散液(A)を得る工程aと、
前記水分散液(A)に対してマイクロ波処理を行い、前記酸化グラフェンを還元する工程b2と、を備える、還元型酸化グラフェンの製造方法。
【0011】
[4]
前記マイクロ波処理の処理温度が120~240℃であり、
前記マイクロ波処理の処理時間が2~10分間である、[3]に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【0012】
[5]
前記金属化合物が、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【0013】
[6]
前記金属化合物が、Al、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を構成元素として含む、[1]~[5]のいずれかに記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【0014】
[7]
前記水分散液(A)における前記酸化グラフェンの配合量と前記金属化合物の配合量の質量比が、1:1~1:6である、[1]~[6]のいずれかに記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【0015】
[8]
前記酸が、塩酸、硝酸、硫酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【0016】
[9]
細孔径が2nm以上50nm未満であるメソ孔と、細孔径が50nm以上160nm未満であるマクロ孔と、を有し、
XPSによって測定されるC1sスペクトルにおいて、C-Oに帰属される結合の割合が2~12%であり、C=Oに帰属される結合の割合が4~7%であり、O-C=Oに帰属される結合の割合が1.5~3.5%であり、
XPSによって測定されるO1sスペクトルにおいて、C=Oに帰属される結合の割合が25~75%であり、
BET比表面積が、80~380m/gである、還元型酸化グラフェン。
【0017】
前記メソ孔の積算細孔容積が、前記マクロ孔の積算細孔容積よりも大きい、[9]に記載の還元型酸化グラフェン。
【0018】
前記メソ孔の積算細孔容積が、0.01~0.80cm/gであり、
前記マクロ孔の積算細孔容積が、0.001~0.10cm/gである、[9]又は[10]に記載の還元型酸化グラフェン。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡便な方法により、優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1、8及び9、並びに、比較例1~3の還元型酸化グラフェンのFE-SEM画像である。
図2】実施例1、8及び9、並びに、比較例1~3の還元型酸化グラフェンのlog微分細孔容積分布を示す図である。
図3】実施例1、8及び9、並びに、比較例1の還元型酸化グラフェンのXRDパターンを示す図である。
図4】実施例1、8及び9、並びに比較例1の還元型酸化グラフェンのXPS(C1s)スペクトルを示す図である。
図5】実施例1、8及び9、並びに比較例1の還元型酸化グラフェンのXPS(O1s)スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中において数値範囲が段階的に複数記載されている場合、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてよい。また、数値範囲の上限値又は下限値を実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。また、以下で例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0023】
<還元型酸化グラフェンの製造方法>
本発明の一実施形態に係る還元型酸化グラフェンの製造方法は、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物と酸とを混合すること、又は、酸化グラフェン及び金属化合物を含む水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合することにより、水分散液(A)を得る工程aと、水分散液(A)に対して水熱処理又はマイクロ波処理を行い、酸化グラフェンを還元する工程bと、を備える。ここで、「水熱処理」とは、密閉空間等で水の存在下に行われる加熱処理をいい、「マイクロ波処理」とは、マイクロ波の照射を伴う加熱処理をいう。マイクロ波処理も密閉空間等で水の存在下に行われることがあるが、本明細書では、マイクロ波の照射を伴う加熱処理は、上記水熱処理に含まれないものとする。
【0024】
(工程a)
工程aでは、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物と酸とを混合するか、又は、酸化グラフェン及び金属化合物を含む水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合する。工程aでは、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、金属化合物を混合した後に酸を混合してよく、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、酸を混合した後に金属化合物を混合してよく、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、金属化合物及び酸を略同時に混合してよく、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、予め調製した金属化合物と酸との混合物を混合してもよい。酸化グラフェン及び金属化合物を含む水分散液(a2)は、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物を混合して得られたものであってよく、金属化合物を含む水分散液に対し、少なくとも酸化グラフェンを混合して得られたものであってもよい。
【0025】
工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点では、工程aが、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物を混合して水分散液(a2)を得る工程a1と、水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合して水分散液(A)を得る工程a2と、を含むことが好ましい。以下、工程aが工程a1及び工程a2を含む態様を例に挙げて、工程aについて詳細に説明する。
【0026】
[工程a1]
工程a1では、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、少なくとも金属化合物を混合することにより、水分散液(a2)を得る。
【0027】
酸化グラフェンを含む水分散液(a1)は、水と、水に分散した酸化グラフェンとを含む。ここで、「分散」とは、対象物(例えば酸化グラフェン)が懸濁又は浮遊している状態を指すが、対象物の一部は沈殿した状態であってもよい。
【0028】
酸化グラフェンは、例えば、非特許文献1に記載のHummers法によるグラファイトの酸化によって得たものを使用できる。Hummers法は、一般に、グラファイトを過硫酸アンモニウム、五酸化二リン及び硫酸から選ばれる化合物との反応により前処理する工程(第一段階)と、前処理されたグラファイトを硫酸及び強い酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム)で酸化する工程(第二段階)とを含む。通常、前処理後のグラファイトは水で洗浄し、乾燥してから第二段階に供される。第二段階で酸化されたグラファイト(酸化グラフェン)は、過酸化水素、塩酸及び水等により洗浄してもよい。この方法によれば、粉末状の酸化グラフェンが得られる。
【0029】
酸化グラフェンは、グラファイトを酸化することによって生成した酸素含有官能基を有する。酸素含有官能基は、例えば、エポキシ基(-COC-)、水酸基(-OH)、カルボニル基(-CO-)、及びカルボキシ基(-COOH)からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含み得る。
【0030】
水分散液(a1)中の水の量は、例えば、酸化グラフェン及び金属化合物が水中に良好に分散しやすくなり、工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、酸化グラフェン100質量部に対して、100000質量部以下であることが好ましく、80000質量部以下であることがより好ましく、60000質量部以下であることがさらに好ましい。水分散液(a1)中の水の量は、例えば、工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、酸化グラフェン100質量部に対して、25000質量部以上であることが好ましく、35000質量部以上であることがより好ましく、40000質量部以上であることがさらに好ましい。これらの観点から、水分散液(a1)中の水の量は、例えば、酸化グラフェン100質量部に対して、40000~60000質量部であることが特に好ましい。なお、上記と同様の理由から、水分散液(a2)中の水の量の好適な範囲、及び、水分散液(A)中の水の量の好適な範囲は、上記範囲と同じである。すなわち、水分散液(a2)中の水の量は、例えば、酸化グラフェン100質量部に対して、40000~60000質量部であることが特に好ましく、水分散液(A)中の水の量は、酸化グラフェン100質量部に対して、40000~60000質量部であることが特に好ましい。
【0031】
金属化合物は、1種又は2種以上の金属元素を構成元素として含む化合物である。金属化合物は、工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、Al、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を構成元素として含むことが好ましく、Al、Mn及びFeからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を構成元素として含むことがより好ましく、Alを構成元素として含むことがさらに好ましい。
【0032】
金属化合物としては、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、金属塩(例えば金属ハロゲン化物)、金属錯体等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属化合物としては、工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、金属酸化物及び金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、金属水酸化物を用いることがより好ましい。
【0033】
上記観点から、金属化合物としては、酸化アルミニウム(Al)及び水酸化アルミニウム(Al(OH))からなる群より選択される少なくとも1種を用いることがさらに好ましく、水酸化アルミニウムを用いることが特に好ましい。
【0034】
本実施形態では、金属化合物の供給源として、金属化合物を含む粒子(金属化合物含有粒子)を使用してもよい。金属化合物含有粒子は、金属化合物のみから構成されていてよく、金属化合物以外の成分を含んでいてもよい。金属化合物含有粒子中の金属化合物の含有量は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0035】
金属化合物含有粒子の形状は、球状であってよく、鱗片状、棒状等の非球状であってもよい。
【0036】
金属化合物含有粒子の平均粒子径は、例えば、2~500nmであってよく、10~200nm、20~100nm又は30~70nmであってもよい。金属化合物含有粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、金属化合物含有粒子が水中に良好に分散しやすくなり、工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる。なお、平均粒子径は、金属化合物含有粒子の形状が球状である場合、粒子の直径の平均値を意味し、金属化合物含有粒子の形状が非球状である場合、粒子の最も長い部分(長径)の平均値を意味する。また、平均粒子径は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、粒子100個の直径又は長径を測定し、その平均値を算出することで求められる。
【0037】
金属酸化物の使用量は、水分散液(a2)における酸化グラフェンの配合量と金属酸化物の配合量の質量比(酸化グラフェンの配合量:金属酸化物の配合量)が、1:1~1:6となるように調整することが好ましい。酸化グラフェンの配合量と金属酸化物の配合量が上記比の範囲内である場合、工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる。同様の観点から、酸化グラフェンの配合量と金属酸化物の配合量の質量比は、1:2~1:5とすることがより好ましく、1:3~1:5とすることがさらに好ましい。
【0038】
混合方法は特に限定されないが、酸化グラフェンと金属化合物とを良好に分散させる観点では、超音波処理を行うことが好ましい。超音波処理は、例えば、ヤマト科学株式会社の超音波洗浄器(M2800HJ)等の超音波発生装置を用いて実施することができる。超音波処理は、0℃以下で(例えば氷浴中で)実施してよい。超音波処理の時間は、0.5~4時間であってよい。超音波処理後には、撹拌処理を行ってもよい。撹拌処理は12~36時間行ってよい。
【0039】
工程a1では、金属化合物以外の他の成分を水分散液(a1)に混合してもよい。なお、他の成分には、酸は含まれないものとする。
【0040】
[工程a2]
工程a2では、水分散液(a2)に対し、少なくとも酸を混合することにより、水分散液(A)を得る。
【0041】
酸は、有機酸であっても無機酸であってもよい。酸としては、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、酢酸(CHCOOH)等が挙げられる。酸は、一種を単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
酸としては、金属化合物を溶解して金属イオン(陽イオン)を生成しやすい観点及び工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、塩酸、硫酸及び硝酸からなる群より選択される少なくとも一種が好ましく用いられ、塩酸がより好ましく用いられる。
【0043】
酸は、通常、水と混合した水溶液の状態で使用される。すなわち、工程a2では、酸を含む水溶液(例えば希塩酸、希硫酸、希硝酸等)を使用してよい。
【0044】
酸の使用量は、酸化グラフェン100質量部に対して、100~5000質量部であってよく、1000~3500質量部又は2000~3000質量部であってもよい。酸を含む水溶液の使用量は、酸化グラフェン100質量部に対して、300~14000質量部であってよく、3000~10000質量部又は5500~8500質量部であってもよい。
【0045】
工程a2では、酸以外の他の成分を水分散液(a2)に混合してもよい。
【0046】
工程a2で得られる水分散液(A)には、少なくとも酸化グラフェンと金属化合物と酸とが配合されている。ここで、「少なくとも酸化グラフェンと金属化合物と酸とが配合されている」とは、水分散液(A)の調製に、少なくとも酸化グラフェンと金属化合物と酸とが使用されたことを意味し、必ずしも水分散液(A)がこれらの成分を配合時の状態で含有していることを意味しない。例えば、金属化合物の少なくとも一部は、酸と反応していてよい。すなわち、水分散液(A)は、金属化合物と酸との反応生成物を含んでいてよい。また、金属化合物と酸との反応生成物は、加水分解されていてもよい。
【0047】
水分散液(A)における酸化グラフェンの配合量と金属化合物の配合量の質量比(酸化グラフェンの配合量:金属化合物の配合量)は、工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、好ましくは1:1~1:6であり、より好ましくは1:2~1:5であり、さらに好ましくは1:3~1:5である。ここで、上記「金属化合物の配合量」は、配合に使用した金属化合物の量を意味する。
【0048】
水分散液(A)には、酸化グラフェン、金属化合物及び酸以外の他の成分が配合されていてもよいが、他の成分の配合量は、酸化グラフェン100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0049】
水分散液(A)には、アルコール類等の有機溶媒が配合されないことが好ましい。特に、プロパノール、ブタノール等のアルコール、エチレングリコール、メチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール等のアルキレングリコールは、最終的に除去する必要があり、洗浄操作に手間がかかるため、これらの成分を使用しないことで、作業負担を軽減することができる。アルコール類の配合量は、酸化グラフェン100質量部に対して、1質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0050】
水分散液(A)のpHは、工程bにおいてより優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、0~1であってよく、0~2又は0~4であってもよい。水分散液(A)のpHは、酸の種類及び使用量によって調整可能である。
【0051】
以上、工程aが工程a1及び工程a2を含む態様を例に挙げて、工程aについて説明したが、工程a1及び工程a2を含まない態様(例えば、酸化グラフェンを含む水分散液(a1)に対し、予め調製した金属化合物と酸との混合物を混合用いる態様)においても、酸化グラフェン、金属化合物及び酸の詳細(種類、配合量等の好適な態様を含む)は上記と同じである。
【0052】
(工程b)
工程bでは、水分散液(A)に対して水熱処理又はマイクロ波処理を行い、酸化グラフェンを還元する。以下では、水分散液(A)に対して水熱処理を行い、酸化グラフェンを還元する工程を工程b1といい、水分散液(A)に対してマイクロ波処理を行い、酸化グラフェンを還元する工程を工程b2という。
【0053】
[工程b1]
工程b1では、水分散液(A)に対して水熱処理を行う。水熱処理は、例えば、耐圧容器と、温度及び圧力を制御するためのセンサーとを有する公知の水熱反応装置を用いて行うことができる。具体的には、まず、耐圧容器に水分散液(A)を投入し、又は、耐圧容器内で水分散液(A)を調製する。次いで、耐圧容器を充分に密閉した後、耐圧容器内を加熱する。加熱方法は、耐圧容器内を加熱できる方法であれば特に限定されず、例えば、循環油浴加熱、抵抗線加熱、高温オーブン等により行うことができる。水熱処理では、加熱された水の蒸気圧によって耐圧容器内が加圧される。耐圧容器のサイズ、すなわち、水分散液(A)が収容される空間(収容空間)の容積は、水分散液(A)の量に応じて調整すればよく、例えば、水分散液(A)の体積を100体積部とすると、収容空間の容積は、100~2000体積部であってよい。
【0054】
水熱処理の処理温度、すなわち、処理中の水分散液(A)の温度は、より優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、好ましくは120~240℃であり、より好ましくは140~220℃であり、さらに好ましくは160~200℃であり、特に好ましくは170~190℃である。
【0055】
水熱処理の処理圧力、すなわち、処理中の耐圧容器内の圧力は、より優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、好ましくは0~2.5Mpaであり、より好ましくは0.5~2MPaであり、さらに好ましくは1~2MPaである。
【0056】
水熱処理の処理時間の好ましい範囲は、金属化合物の種類や処理温度によっても異なるが、処理温度が120~240℃である場合、より優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、処理時間は2~10時間であることが好ましい。ここで、処理時間は、上記処理温度に到達してから、加熱を停止して温度が40℃に下がるまでの時間を意味する。
【0057】
金属化合物として酸化アルミニウムを用い、処理温度を120~240℃とする場合、水熱処理の処理時間は、さらに優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、2~6時間又は2~4時間であってもよい。さらに、処理温度を上述した好適な範囲とした場合には、一層優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる。
【0058】
金属化合物として水酸化アルミニウムを用い、処理温度を120~240℃とする場合、水熱処理の処理時間は、さらに優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる観点から、3~9時間又は5~7時間であってもよい。さらに、処理温度を上述した好適な範囲とした場合には、一層優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる。
【0059】
[工程b2]
工程b2では、水分散液(A)に対してマイクロ波処理を行う。マイクロ波処理は、例えば、マイクロ波照射ユニットと、耐圧容器と、温度及び圧力を制御するためのセンサーと、任意で、耐圧容器内を冷却するためのコンプレッサーと、を有する公知のマイクロ波処理装置を用いて行うことができる。具体的には、耐圧容器に水分散液(A)を投入し、耐圧容器を充分に密閉した後、水分散液(A)にマイクロ波を照射する。密閉された耐圧容器を用いる場合、マイクロ波処理では、上記水熱処理と同様に、マイクロ波によって加熱された水の蒸気圧によって耐圧容器内が加圧される。したがって、マイクロ波処理はマイクロ波水熱処理ということもできる。耐圧容器のサイズ、すなわち、水分散液(A)が収容される空間(収容空間)の容積は、水分散液(A)の量に応じて調整すればよく、例えば、水分散液(A)の体積を100体積部とすると、収容空間の容積は、100~2000体積部であってよい。
【0060】
マイクロ波の出力は、マイクロ波の照射時間、処理対象物(例えば、酸化グラフェン)の量、装置の大きさ等に応じて異なるが、例えば、50~300Wとすることができる。マイクロ波の照射時間(処理時間)は、好ましくは2~10分間である。マイクロ波の周波数は、例えば、915MHz~2455MHzとすることができる。
【0061】
マイクロ波の照射は室温(例えば25℃)で実施してよく、加熱しながら実施してもよい。マイクロ波処理の処理温度(マイクロ波の照射時における周囲温度)は、好ましくは120~240℃であり、より好ましくは140~220℃であり、さらに好ましくは160~200℃であり、特に好ましくは170~190℃である。上記処理温度は、例えばマイクロ波発生装置内の設定温度であってよい。
【0062】
上記工程b(工程b1及び工程b2)では、酸化グラフェンが有する酸素含有官能基の一部が還元されて還元型酸化グラフェンが得られる。工程bでは、酸素含有官能基が完全には還元されないように、処理条件を調整することが好ましい。
【0063】
工程bの後は、得られた還元型酸化グラフェンを含む溶液(水熱処理後の液又はマイクロ波処理後の処理液)をろ過した後、還元型酸化グラフェンの洗浄(例えば水洗)及び乾燥を行ってよい。乾燥温度は、40~100℃であってよく、乾燥時間は、8~24時間であってよい。
【0064】
以上説明したとおり、上記実施形態の製造方法によれば、簡便な操作によって還元型酸化グラフェンを製造することができる。従来、酸化グラフェンの還元のために有機溶媒(例えばアルコール類)やアルカリ性物質(例えば水酸化カリウム等)が使用されることがあるが、本実施形態の方法では、有機溶媒等を使用する必要がない。有機溶媒等を使用しない場合には、有機溶媒等の除去のための洗浄操作を省略可能であり、より簡便に還元型酸化グラフェンを製造することができる。また、上記実施形態の製造方法では、水分散液(a)を出発原料として酸化グラフェンの還元までをワンポットで実施できるため、従来の方法と比較して短い工程で還元型酸化グラフェンを製造することができる。特に、工程bとして工程b2(マイクロ波処理)を実施する場合には、より短時間で酸化グラフェンを還元することができる。
【0065】
上記実施形態の製造方法によれば、優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンを得ることができる。この原因は明らかではないが、水分散液中の酸化グラフェンが、水中に分散した状態で金属化合物由来の陽イオン(正電荷を有する金属イオン)とイオン結合を形成することにより、酸化グラフェンの還元によって生じ得るグラフェン(還元型酸化グラフェン)の凝集が阻害されることが原因の一つとして考えられる。グラフェンはπ-π電子の影響によりグラフェン層間に凝集を生じやすく、当該凝集は、比表面積を大きく減少させるだけでなく、電解質イオンのような他の物質がグラフェン層に入るのを妨げ、活性部位の量を制限する。そのため、グラフェンの凝集が抑制されれば、優れた比容量を有する還元型酸化グラフェンが得られやすくなる。実際に、上記製造方法により得られる還元型酸化グラフェンは、従来の製造方法で得られる還元型酸化グラフェンよりも微細な断片状を呈する傾向がある。また、水酸化ナトリウム等の強塩基を使用する従来の方法では、当該塩基によって酸素含有官能基が過剰に還元されてしまうのに対して、上記製造方法では、酸素含有官能基の過剰な還元が起こり難く、結果として、適度に酸素含有官能基が残存した還元型酸化グラフェンが得られやすい。このように、適度に酸素含有官能基が残存していることも、優れた比容量が得られる原因の一つと考えられる。
【0066】
上記製造方法で得られる還元型酸化グラフェンは、例えば、細孔径が2nm以上50nm未満であるメソ孔と、細孔径が50nm以上160nm未満であるマクロ孔と、を有し、XPSで測定されるC1sスペクトルにおいて、C-Oに帰属される結合の割合が0~15%、C=O結合の割合が2~11%、O-C=O結合の割合が0~5%であり、XPSによって測定されるO1sスペクトルにおいて、C=Oに帰属される結合の割合が25~80%であり、BET比表面積が、80~380m/gであるという特徴を有する。また、上記製造方法により得られる還元型酸化グラフェンは、メソ細孔容積が大きく、かつ、ある程度のマクロ細孔容積を有する傾向がある。還元型酸化グラフェンは、例えば、約0.01~0.80cm/gのメソ細孔容積を有する傾向があり、0.001~0.10cm/g程度のマクロ細孔容積を有する傾向がある。ここで、メソ細孔容積とは、メソ孔の積算細孔容積を意味し、マクロ細孔容積とは、マクロ孔の積算細孔容積を意味する。
【0067】
上記製造方法で得られる還元型酸化グラフェンは優れた比容量を有することから、スーパーキャパシタ用の電極材料として好適に用いられる。したがって、上記製造方法は、電極容量が大きいスーパーキャパシタ用の電極材料の製造方法ということもできる。
【0068】
以上、一実施形態の還元型酸化グラフェンの製造方法について説明したが、本発明に係る還元型酸化グラフェンの製造方法は上記実施形態に限定されない。例えば、工程aを実施することなく、予め調製された水分散液(A)を用いてもよい。
【0069】
<還元型酸化グラフェン>
本発明の一実施形態に係る還元型酸化グラフェンは、酸化グラフェンの部分還元体である。すなわち、還元型酸化グラフェンは酸素含有官能基を有する。酸素含有官能基としては、例えば、エポキシ基(-COC-)、水酸基(-OH)、カルボニル基(-CO-)、カルボキシ基(-COOH)等が挙げられる。還元型酸化グラフェンは、より大きな比容量が得られる観点から、酸素含有官能基として、カルボニル基を有することが好ましい。還元型酸化グラフェンがカルボニル基を有することは、XPS(X線光電子分光法)によって分析して確認することができる。
【0070】
還元型酸化グラフェンは、XPSによって測定されるC1sスペクトルにおいて、C=C及C=Oに帰属される結合を有する。ここで、C1sスペクトルとは、XPSスペクトルのうち、Cの1s軌道のエネルギーピーク位置に対応する領域を示す。Cの1s軌道のエネルギーピークは、そのピーク位置に基づき、Cを含むいずれかの結合に帰属される。還元型酸化グラフェンは、XPSによって測定されるC1sスペクトルにおいて、C-Oに帰属される結合及びO-C=Oに帰属される結合を有していてもよい。
【0071】
XPSによって測定される還元型酸化グラフェンのC1sスペクトルにおける、C=Oに帰属される結合の割合は、好ましくは2%以上であり、より好ましくは4%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは6%以上である。上記C=Oに帰属される結合の割合は、好ましくは11%以下であり、より好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。これらの観点から、上記C=Oに帰属される結合の割合は、好ましくは2~11%であり、より好ましくは4~9%であり、さらに好ましくは4~7%であり、さらにより好ましくは5~7%であり、特に好ましくは6~7%である。C1sスペクトルにおけるC=Oに帰属される結合の割合とは、C1sスペクトルにおいて観測されるピークから帰属される結合(例えばC=O、C-O及びO-C=O)全体に占める、C=Oに帰属される結合の割合を示す。
【0072】
XPSによって測定される還元型酸化グラフェンのC1sスペクトルにおける、C-Oに帰属される結合の割合は、好ましくは0%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、さらにより好ましくは3%以上であり、特に好ましくは4%以上であり、極めて好ましくは5%以上であってもよい。上記C-Oに帰属される結合の割合は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは12%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは9%以下である。これらの観点から、上記C-Oに帰属される結合の割合は、好ましくは0~15%であり、より好ましくは1~12%であり、さらに好ましくは2~12%であり、さらにより好ましくは3~11%であり、特に好ましくは4~11%であり、極めて好ましくは5~9%である。C1sスペクトルにおけるC-Oに帰属される結合の割合とは、C1sスペクトルにおいて観測されるピークから帰属される結合(例えばC=O、C-O及びO-C=O)全体に占める、C-Oに帰属される結合の割合を示す。
【0073】
XPSによって測定される還元型酸化グラフェンのC1sスペクトルにおける、O-C=Oに帰属される結合の割合は、好ましくは0%以上であり、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上であり、さらにより好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。上記O-C=Oに帰属される結合の割合は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3.5%以下である。これらの観点から、上記O-C=Oに帰属される結合の割合は、好ましくは0~5%であり、より好ましくは0.5~4%であり、さらに好ましくは1~3.5%であり、さらにより好ましくは1.5~3.5%であり、特に好ましくは2~3.5%である。C1sスペクトルにおけるO-C=Oに帰属される結合の割合とは、C1sスペクトルにおいて観測されるピークから帰属される結合(例えばC=O、C-O及びO-C=O)全体に占める、O-C=Oに帰属される結合の割合を示す。
【0074】
上記C1sスペクトルにおけるC=Oに帰属される結合の割合は、C1sスペクトルのピーク面積比率から求められる値であり、C=O結合を構成する酸素原子の原子濃度(単位atm%)といいかえることもできる。上記C1sスペクトルにおけるC-O及びO-C=Oに帰属される結合の割合についても同様である。上記XPSは、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0075】
還元型酸化グラフェンは、XPSによって測定されるO1sスペクトルにおいて、C=Oに帰属される結合を有する。ここで、O1sスペクトルとは、XPSスペクトルのうち、Oの1s軌道のエネルギーピーク位置に対応する領域を示す。Oの1s軌道のエネルギーピークは、そのピーク位置に基づき、Oを含むいずれかの結合に帰属される。還元型酸化グラフェンは、XPSによって測定されるO1sスペクトルにおいて、C-Oに帰属される結合及びC-OHに帰属される結合を有していてもよい。
【0076】
XPSによって測定される還元型酸化グラフェンのO1sスペクトルにおける、C=Oに帰属される結合の割合は、好ましくは25%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。上記C=Oに帰属される結合の割合は、好ましくは80%以下であり、より好ましくは75%以下であり、さらに好ましくは73%以下である。これらの観点から、上記C=Oに帰属される結合の割合は、例えば、25~80%、25~75%、30~75%又は60~73%であってよい。O1sスペクトルにおけるC=Oに帰属される結合の割合とは、O1sスペクトルにおいて観測されるピークから帰属される結合(例えばC=O、C-O及びC-OH)全体に占める、C=Oに帰属される結合の割合を示す。
【0077】
XPSによって測定される還元型酸化グラフェンのO1sスペクトルにおける、C-Oに帰属される結合の割合は、好ましくは0%以上であり、より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上であり、特に好ましくは5%以上である。上記C-Oに帰属される結合の割合は、好ましくは80%以下であり、より好ましくは70%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。これらの観点から、上記C-Oに帰属される結合の割合は、例えば、20~30%であってよい。O1sスペクトルにおけるC-Oに帰属される結合の割合とは、O1sスペクトルにおいて観測されるピークから帰属される結合(例えばC=O、C-O及びC-OH)全体に占める、C-Oに帰属される結合の割合を示す。
上記O1sスペクトルにおけるC=Oに帰属される結合の割合は、O1sスペクトルのピーク面積比率から求められる値であり、C=O結合を構成する酸素原子の原子濃度(単位atm%)といいかえることもできる。上記O1sスペクトルにおけるC-Oに帰属される結合の割合についても同様である。上記XPSは、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0078】
還元型酸化グラフェンは、メソ孔(細孔径:2nm以上50nm未満)及びマクロ孔(細孔径:50nm以上160nm未満)を有する。より大きな比容量が得られる観点から、メソ細孔容積はマクロ細孔容積よりも大きいことが好ましい。
【0079】
メソ細孔容積は、より大きな比容量が得られる観点から、好ましくは0.80cm/g以下であり、より好ましくは0.60cm/g以下であり、さらに好ましくは0.55cm/g以下であり、特に好ましくは0.50m/g以下である。メソ細孔容積は、0.40m/g以下又は0.30m/g以下であってもよい。メソ細孔容積は、好ましくは0.01cm/g以上であり、より好ましくは0.05cm/g以上であり、さらに好ましくは0.10cm/g以上であり、よりさらに好ましくは0.20cm/g以上であり、特に好ましくは0.25cm/g以上である。これらの観点から、メソ細孔容積は、0.01~0.80cm/g、0.05~0.60cm/g、0.10~0.50cm/g、0.20~0.40cm/g又は0.25~0.30cm/gであってよい。
【0080】
マクロ孔の細孔容積は、より大きな比容量が得られる観点から、好ましくは0.001cm/g以上であり、より好ましくは0.01cm/g以上である。マクロ孔の細孔容積は、0.02cm/g以上又は0.03cm/g以上であってもよい。マクロ孔の細孔容積は、好ましくは0.10cm/g以下であり、より好ましくは0.05cm/g以下であり、さらに好ましくは0.02cm/g以下である。これらの観点から、マクロ孔の細孔容積は、0.001~0.10cm/g、0.01~0.10cm/g、0.01~0.05cm/g又は0.01~0.02cm/gであってよい。
【0081】
還元型酸化グラフェンは細孔径が2nm未満の細孔(マイクロ孔)を有していてもよい。マイクロ孔の積算細孔容積は、メソ細孔容積よりも小さくてよく、例えば、0.0025cm/g以下であってよい。マイクロ孔の積算細孔容積は、0cm/gであってよく、0.001cm/g以上(例えば0.001~0.0025cm/g)であってよい。
【0082】
還元型酸化グラフェンは細孔径が160nm以上の細孔を有していてもよい。細孔径が160nm以上の細孔の積算細孔容積は、マクロ細孔容積よりも小さくてよく、例えば、0.04cm/g以下であってよい。細孔径が160nm以上の細孔の積算細孔容積は、0cm/gであってよく、0.001cm/g以上(例えば0.001~0.04cm/g)であってよい。
【0083】
還元型酸化グラフェンのBET比表面積は、好ましくは500m/g以下であり、より好ましくは450m/g以下であり、さらに好ましくは420m/g以下であり、さらにより好ましくは400m/g以下であり、特に好ましくは380m/g以下であり、極めて好ましくは280m/g以下である。還元型酸化グラフェンのBET比表面積は、例えば、10m/g以上、50m/g以上、80m/g以上、100m/g以上、200m/g以上又は250m/g以上であってよく、これらの観点から、還元型酸化グラフェンのBET比表面積は、例えば、80~380m/gであってよい。
【0084】
上記細孔容積(積算細孔容積)及びBET比表面積は、窒素吸着法(多点法)により求めることができる。具体的には、島津製作所製の細孔分布測定装置(商品名:トライスターII Plus 3030)を用いて、77K(-321℃)で窒素ガス(N)を吸着させる。細孔容積は、測定されたN吸着/脱着等温線に基づき求められるlog微分細孔容積分布を用いて求めることができる。
【0085】
還元型酸化グラフェンは、例えば、断片状の粉末である。還元型酸化グラフェンの平均粒子径は、例えば、2~90μmであってよく、5~30μm又は8~15μmであってもよい。平均粒子径が上記範囲内である還元型酸化グラフェンは、より優れた比容量を有する傾向がある。なお、還元型酸化グラフェンの平均粒子径は、粒子の最も長い部分(長径)の平均値を意味する。還元型酸化グラフェンの平均粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、粒子100個の長径を測定し、その平均値を算出することで求められる。
【0086】
還元型酸化グラフェンは、貴金属フリーの導電材料として好適に用いることができ、特に、スーパーキャパシタ用の電極材料として好適に使用することができる。なお、還元型酸化グラフェンの粉末が凝集して塊状となっている場合、微粉末に粉砕してから使用することができる。
【0087】
以上説明した還元型酸化グラフェンは、上述した実施形態の製造方法により製造可能である。XPSによって測定される還元型酸化グラフェンのC1sとO1sスペクトルにおける、C=Oに帰属される結合及びC-Oに帰属される結合の割合、メソ孔及びマクロ孔の細孔容積、比表面積、平均粒子径等は、工程aにおける金属化合物の配合量や、工程bにおける処理条件(処理温度や処理時間)の調整により、上述した範囲に調整可能である。例えば、工程bの処理温度を低くした場合及び工程bの処理時間を短くした場合には、XPSによって測定される還元型酸化グラフェンのO1sスペクトルにおける、C=Oに帰属される結合の割合が少なくなる傾向があり、また、マクロ孔の割合が大きくなり比表面積が小さくなる傾向がある。
【0088】
<電極材料>
本発明の一実施形態に係る電極材料は、上記実施形態の還元型酸化グラフェンを含む。電極材料中の還元型酸化グラフェンの含有量は、例えば、95質量%以上であってよく、97質量%以上又は99質量%以上であってもよい。電極材料は、還元型酸化グラフェンのみで構成されていてもよい。電極材料は、還元型酸化グラフェン以外の成分(例えば不可避的に混入される成分)を含んでいてもよい。例えば、上記実施形態の製造方法に使用された金属化合物由来の成分(例えば、金属化合物やその反応物、金属化合物を構成する金属等)が除去されずに残留していてもよい。電極材料中の上記金属化合物由来成分の残留量は、電極材料の全質量を基準として、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%である。
【0089】
上記電極材料は、例えば、スーパーキャパシタ用の電極材料である。
【実施例0090】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
<調製例1>
(水分散液(a1)の調製)
改良Hummers法により、グラファイト粉末(平均粒子径:45μm)から酸化グラフェン(GO)は合成した。具体的には、まず、60mlの硫酸(HSO、95質量%)を、500mlのビーカーに加えて80℃に加熱した。ここに、過硫酸アンモニウム((NH、98質量%)3.0gを撹拌しながら加えて溶解させ、溶液を得た。その後、五酸化二リン(P、98質量%)3.0gを上記溶液に徐々に加えて混合液を得た。この際、温度が80℃に保たれていることを確認した。次いで、得られた混合液に3.0gのグラファイトを加え、80℃で撹拌しながら4.5時間反応させることで、グラファイト混合液を得た。反応後、これを氷浴で10℃未満に保った。そして、450mlのDI水(脱イオン水)を、急な温度上昇に注意しながら、上記グラファイト混合液中にゆっくりと滴下した。その後、氷浴を外し、室温で一晩静置した。静置後の混合液をろ過し、ろ過物をDI水2000mlで洗浄した後、洗浄後のろ過物を約45℃で一晩乾燥させた。これにより、処理済みグラファイト(treated graphite)を得た。
【0092】
得られた処理済みグラファイト3.0gをビーカーに入れた後、さらなる酸化のために、硫酸150mlを当該ビーカーに加え、氷浴で0℃近くまで冷却した。冷却後の溶液に、35℃を超えないように、18.0gの過マンガン酸カリウム(KMnO、純度99.3%)を徐々に添加し、混合液を得た。得られた混合液を15分間撹拌した後、氷浴を外し、35℃に加熱しながら、2時間撹拌し反応させた。次いで、攪拌後の混合液を再び氷浴で0℃に冷却し、急な温度上昇に注意しながら255mlのDI水をゆっくりと添加した。次に、氷浴を外し、溶液の温度を35℃未満に保ちながら2時間撹拌した。撹拌終了後の溶液に、DI水750mlを撹拌しながら加え、さらに過酸化水素(H、30質量%)を10ml加えて2時間撹拌した後、一晩静置した。その後、上澄みをろ過することによりろ紙沈殿物及びビーカーの底の沈殿物を得た。得られたろ紙沈殿物及びビーカー沈殿物を同じビーカーに入れ、塩酸(10質量%)を250ml添加し、2時間撹拌後にろ過した。同じ操作を2回繰り返した後、ろ紙沈殿物及びビーカー沈殿物を250mlのDI水に溶解し、酸化グラフェンを含む水分散液(水分散液(a1))を得た。
【0093】
<実施例1>
(工程a1:水分散液(a2)の調製)
酸化グラフェンの配合量とアルミナ(Al)の配合量の質量比が1:4となるように、上記調製例1で得た水分散液(a1)に対して、アルミナ粒子を混合し、水分散液(a2)を調製した。具体的には、まず、2.1mg/mlの水分散液(a1)23.8mlに、アルミナ粒子(平均粒子径:50nm、Al含有量:99質量%、形状:球状)0.2gを添加し、混合物を得た。次いで、得られた混合物を氷水浴中で3時間超音波処理した後、一晩撹拌することにより、水分散液(a2)を得た。
【0094】
(工程a2:水分散液(A)の調製)
上記水分散液(a2)23.8ml(酸化グラフェン含有量:0.05g、Al含有量:0.2g)を、3mlの塩酸(HCl含有量:35~37質量%、比重:1.18g/ml)と混合して水分散液(A)を調製した。pH試験紙によって測定した水分散液のpHは、0~1であった。
【0095】
(工程b1:水熱処理)
上記水分散液(A)26.8mlを耐圧容器(テフロンライニング(「テフロン」は登録商標。)を備えたステンレス鋼水熱容器、サイズ:50cm)に入れ、耐圧容器を密閉した後、高温オーブンを用いて水分散液(A)に対する水熱処理を行った。水熱処理の処理温度(周囲温度)は180℃とし、処理時間は6時間とした。処理時の圧力は0~2MPaであった。処理後の液をろ過し、DI水で洗浄した後、40℃で一晩乾燥させることにより、粉末状の還元型酸化グラフェンを得た。還元型酸化グラフェンの平均粒子径は13.34μmであった。
【0096】
<実施例2~6>
工程a1におけるアルミナの配合量を、酸化グラフェンの配合量とアルミナ(Al)の配合量の質量比が表1に示す比となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~6の還元型酸化グラフェンを得た。実施例2~6の還元型酸化グラフェンの平均粒子径は、それぞれ、31.67μm、22.55μm、17.67μm、13.15μm、12.00μmであった。
【0097】
<実施例7~9>
工程b1における水熱処理の処理時間を表1に示す時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7~9の還元型酸化グラフェンを得た。実施例7~9の還元型酸化グラフェンの平均粒子径は、それぞれ、17.41μm、12.97μm、16.77μmであった。
【0098】
<実施例10~11>
工程b1における水熱処理の処理温度を表1に示す温度に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10~11の還元型酸化グラフェンを得た。実施例10~11の還元型酸化グラフェンの平均粒子径は、それぞれ、68.27μm、47.05μmであった。
【0099】
<実施例12>
工程a1において、アルミナ粒子に代えて水酸化アルミニウム粒子(Al(OH)含有量:99質量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例12の還元型酸化グラフェンを得た。実施例12の還元型酸化グラフェンの平均粒子径は、19.43μmであった。
【0100】
<実施例13~14>
工程b1における水熱処理の処理時間を表1に示す時間に変更したこと以外は、実施例12と同様にして、実施例13~14の還元型酸化グラフェンを得た。実施例13~14の還元型酸化グラフェンの平均粒子径は、それぞれ、22.21μm、20.69μmであった。
【0101】
<実施例15>
工程b1に代えて下記工程b2を実施したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例15の還元型酸化グラフェンを得た。
(工程b2:マイクロ波処理)
水分散液(A)35mlを耐圧容器(パイレックス反応器(「パイレックス」は登録商標。)、サイズ:35cm)に入れ、耐圧容器を密閉した後、CEM社製のディスカバーSPを用いて、水分散液(A)に対するマイクロ波処理を行った。マイクロ波処理は、周波数2455MHz、出力100W、周囲温度180℃の条件で、マイクロ波を6分間連続して照射することにより実施した。処理時の圧力は0~2MPaであった。処理後の液をろ過し、DI水で洗浄した後、40℃で一晩乾燥させることにより、粉末状の還元型酸化グラフェンを得た。還元型酸化グラフェンの平均粒子径は80.67μmであった。
【0102】
<実施例16>
工程a1において、アルミナ粒子に代えて水酸化アルミニウム粒子(Al(OH)含有量:99質量%)を用いたこと以外は、実施例15と同様にして、実施例16の還元型酸化グラフェンを得た。実施例16の還元型酸化グラフェンの平均粒子径は、20.51μmであった。
【0103】
<比較例1>
水分散液(A)に代えて、上記調製例1で得た水分散液(a1)をそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様にして工程b1(水熱処理)を行い、比較例1の還元型酸化グラフェンを得た。
【0104】
<比較例2~3>
工程b1における水熱処理の処理時間を表1に示す時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2~3の還元型酸化グラフェンを得た。
【0105】
【表1】
【0106】
<分析・評価>
(形態観察)
上記実施例1、8及び9、並びに、比較例1~3で得られた還元型酸化グラフェンを、日本電子株式会社製の電界放出走査電子顕微鏡(FE-SEM、商品名:JSM-7001F)を用いて観察した。観察されたFE-SEM画像を図1に示す。図1の(a)は実施例1の還元型酸化グラフェンを示し、図1の(b)は実施例8の還元型酸化グラフェンを示し、図1の(c)は実施例9の還元型酸化グラフェンを示し、図1の(d)は比較例1の還元型酸化グラフェンを示し、図1の(e)は比較例2の還元型酸化グラフェンを示し、図1の(f)は比較例3の還元型酸化グラフェンを示す。
【0107】
図1に示されるように、実施例の還元型酸化グラフェンは、同時間水熱処理を行って得られた比較例の還元型酸化グラフェンよりもサイズが小さくなっている(微細な断片状となっている)ことが確認された。
【0108】
(BET比表面積及び細孔径分布の測定)
島津製作所製の細孔分布測定装置(商品名:トライスターII Plus 3030)を用いて、実施例1、8及び9、並びに、比較例1~3で得られた還元型酸化グラフェンの、77K(-321℃)での窒素(N)の吸着/脱着等温線を測定し、Brunauer-Emmett-Teller(BET)比表面積、及び、BJH細孔径分布を求めた。BET比表面積の測定結果を表2に示す。また、各実施例及び比較例のN吸着/脱着等温線に基づき求めた各実施例及び各比較例のlog微分細孔容積分布を図2に重ねて示す。図2の横軸は細孔径を示し、縦軸は差分細孔容積(dV)を、細孔径の対数扱いの差分値dlog(w)で割った値を示す。また、実施例1、8及び9については、メソ細孔容積及びマクロ細孔容積の計算結果を表2に示す。
【0109】
図2より、比較例1~3の還元酸化グラフェンの細孔は主に2~30nmに分布し、細孔の分布は主にメソ細孔(2nm以上50nm未満)に集中しているのに対し、実施例1、8及び9の細孔は、2~250nmの範囲に広く分布していることがわかる。特に、実施例1及び8の細孔は主に2~30nm及び100~180nmの範囲に分布し、細孔分布は主にメソ細孔(2nm以上50nm未満)及びマクロ細孔(50nm以上160nm未満)に集中している。実施例9では、2~10nmのメソ細孔はすべて水熱処理時間が長くなるにつれて減少したが、30~100nmのメソ細孔及びマクロ細孔が増えた。これは、水熱処理時間が長くなったために元の細孔構造が破壊されたためと考えられる。
【0110】
比較例1~3では水熱処理時間を長くしても大きなBET比表面積が得られたが、実施例1及び8では適度なBET比表面積が得られた。これは、図2に示すように、比較例1~3の還元型グラフェン酸化物は多数のマイクロポア及びメソポア構造を有するのに対し、実施例1及び8の還元型グラフェン酸化物は相対的に多くのマイクロポア及びメソポア構造を有し、一部にマクロポーラス構造を有するためである。一方、水熱処理を9時間行った実施例9では、BET比表面積の低下が確認された。これは、水熱プロセスが進行するにつれて、元の細孔構造が徐々に崩壊して破壊されることが原因である可能性がある(図2を参照)。
【0111】
(XRDパターン分析)
上記実施例1、8及び9、並びに、比較例1で得られた還元型酸化グラフェンのXRDパターンをリガク(株)製のXRD測定装置(商品名:RINT2200、スキャン速度:4度/分)により取得し、XRDパターン分析を行った。取得したXRDパターンとアルミナのXRDパターンとを図3に重ねて示す。図3より、実施例1、8及び9では、Alの回折ピークが消失し、還元型酸化グラフェン中のAlが完全に除去されたことが確認された。また、実施例1と比較例1とを比較すると、比較例1では24°付近に確認される還元型酸化グラフェンの回折ピークがシャープであった。このことからも、比較例1の還元型酸化グラフェンの粒子サイズが、実施例1の還元型酸化グラフェンの粒子サイズと比較して大きいことを示唆される。
【0112】
(XPS分析)
上記実施例1、8及び9、並びに、比較例1で得られた還元型酸化グラフェンについて、株式会社島津製作所製のESCA3400分光計を用いてX線光電子分光(XPS)分析を行った。X線源には、MgKα(hv=1.2536keV)を使用した。図4の(a)~(d)は、それぞれ、実施例1、8及び9、並びに、比較例1のXPSスペクトルのうち、Cの1s軌道のエネルギーピーク位置に対応する領域を示す。図4の(a)が実施例1に対応し、図4の(b)が実施例8に対応し、図4の(c)が実施例9に対応し、図4の(d)が比較例1に対応する。図4のXPSスペクトルの4つのピークは、それぞれ、それぞれC=C/C―C(284.8eV)、C-O(286.1eV)、C=O(287.6eV)、O-C=O(288.8eV)に帰属される。また、図5の(a)~(d)は、それぞれ、実施例1、8及び9、並びに、比較例1のXPSスペクトルのうち、Oの1s軌道のエネルギーピーク位置に対応する領域を示す。図5の(a)が実施例1に対応し、図5の(b)が実施例8に対応し、図5の(c)が実施例9に対応し、図5の(d)が比較例1に対応する。図5のXPSスペクトルの3つのピークは、それぞれ、それぞれC=O(530.5eV)、C-O(532.1eV)、C-OH(533.5eV)に帰属される。
【0113】
(比容量の測定)
実施例1~16及び比較例1~3で得られた還元型酸化グラフェンの比容量を以下の方法で測定した。
【0114】
まず、得られた還元型酸化グラフェンを微粉末に粉砕して測定試料とし、0.1%ナフィオン溶液(「nafion」は登録商標。)に浸漬した後、得られた混合液を数分間超音波処理し、さらに撹拌処理を行うことで測定試料を溶液中に略均一に分散させた。次いで、得られた溶液(測定試料の濃度:2mg/ml)を、マイクロピペットを用いてガラス状炭素電極(GCE)上に滴下し、乾燥させて、作用電極を作製した。
【0115】
三電極の測定では、作製した作用電極を用いて、定電流充電-放電(GCD)測定を行った。対向電極及び参照電極としては、それぞれ白金ワイヤ電極及び飽和カロメル(Hg/HgCl)電極を用いた。また、測定は、BioLogic社製のSP300-SK-S電気化学ワークステーションを使用し、室温で、1M HSO水溶液電解質中で行い、電位窓は0~1Vとし、電流密度は1~10A/gとした。
【0116】
得られた定電流充電-放電曲線から、下記式に従って還元型酸化グラフェンの比容量を測定した。
【数1】

[式中、C(単位:F/g)は3電極系における電極材料の比容量を示し、I(単位:A)は測定における印加電流を示し、Δt(単位:s)は放電時間を示し、m(単位:g)は電極上の活物質(測定試料)の質量を示し、ΔV(単位:V)は放電中の電圧変化を示す。]
なお、表2には、電流密度1A/gでの比容量(単位:F/g)の比較を示す。
【0117】
表2に示されるように、実施例1~16の還元型酸化グラフェンの比容量は、比較例1~3の還元型酸化グラフェンの比容量よりも大きいことが確認された。
【0118】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5