(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075182
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】エッチング液セット、エッチング方法および導体パターンの形成方法
(51)【国際特許分類】
C23F 1/28 20060101AFI20240527BHJP
C23F 1/26 20060101ALI20240527BHJP
H05K 3/06 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C23F1/28
C23F1/26
H05K3/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186436
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】四辻 智美
(72)【発明者】
【氏名】秋山 大作
【テーマコード(参考)】
4K057
5E339
【Fターム(参考)】
4K057WA19
4K057WB03
4K057WB08
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4K057WE08
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5E339AA02
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5E339EE10
5E339GG02
(57)【要約】
【課題】Ni-Cr合金等の被処理金属を選択的にエッチング可能なエッチング液セットを提供する。
【解決手段】エッチング液セットは、塩酸およびチオ化合物を含む第一液と、塩酸および亜硝酸源を含む第二液と、を含む。第一液に含まれるチオ化合物は、S-HまたはS=Cを有し、かつアミノ基、イミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、および水酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する炭素数7以下の化合物であり、第一液におけるチオ化合物濃度は0.5~30重量%である。第二液は、亜硝酸源濃度が0.1~30mMであり、塩酸濃度が8~30重量%であり、硫酸濃度が4.5重量%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸およびチオ化合物を含む第一液と;塩酸および亜硝酸源を含む第二液と、を含むエッチング液セットであって、
前記チオ化合物は、S-HまたはS=Cを有し、かつアミノ基、イミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、および水酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する炭素数7以下の化合物であり、
前記第一液におけるチオ化合物濃度が0.5~30重量%であり、
前記第二液における亜硝酸源濃度が0.1~30mMであり、
前記第二液における塩酸濃度が8~30重量%であり、硫酸濃度が4.5重量%以下である、
エッチング液セット。
【請求項2】
請求項1に記載のエッチング液セットを用いて、Ni、Cr、Ni-Cr合金およびPdから選択される被処理金属をエッチングする方法であって、
被処理金属の表面に前記第一液を接触させた後、被処理金属の表面に前記第二液を接触させる、エッチング方法。
【請求項3】
絶縁基板上に前記被処理金属を備える被処理基板を前記第一液に浸漬することにより、被処理金属の表面に前記第一液を接触させ、
前記被処理基板を前記第二液に浸漬することにより、被処理金属の表面に前記第二液を接触させる、請求項2に記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記被処理基板は、前記被処理金属と銅層が共存している、請求項3に記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記第一液および前記第二液を繰り返し使用するエッチング方法であって、
前記第二液に、亜硝酸源を含む補給液を添加して、前記第二液による被処理金属のエッチングレートを所定値以上に維持する、請求項2~4のいずれか1項に記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記第一液および前記第二液を繰り返し使用するエッチング方法であって、
前記第二液における亜硝酸源濃度が0.1~30mMの範囲を維持するように、前記第二液に亜硝酸源を含む補給液を添加する、請求項2~4のいずれか1項に記載のエッチング方法。
【請求項7】
絶縁基板上に、パターニングされた下地層および銅層を順に備える導体パターンを形成する導体パターンの形成方法であって、
絶縁基板上に、パターニングされていない下地層と、パターニングされた銅層とを順に備える被処理基板を準備し、前記下地層は、Ni、Cr、Ni-Cr合金およびPdから選択される被処理金属を含み、
前記被処理基板の銅層の間に露出している前記下地層に、請求項1に記載のエッチング液セットの前記第一液および前記第二液を順に接触させて、前記下地層をエッチングする、
導体パターンの形成方法。
【請求項8】
前記被処理基板を前記第一液に浸漬することにより、被処理金属の表面に前記第一液を接触させ、
前記被処理基板を前記第二液に浸漬することにより、被処理金属の表面に前記第二液を接触させる、請求項7に記載の導体パターンの形成方法。
【請求項9】
前記第二液に、亜硝酸源を含む補給液を添加して、前記第二液による被処理金属のエッチングレートを所定値以上に維持しながら、複数の前記被処理基板を連続して処理する、請求項7または8に記載の導体パターンの形成方法。
【請求項10】
前記第二液における亜硝酸源濃度が0.1~30mMの範囲を維持するように、前記第二液に亜硝酸源を含む補給液を添加しながら、複数の前記被処理基板を連続して処理する、請求項7または8に記載の導体パターンの形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni、Cr、Ni-Cr合金およびPdから選択される金属のエッチングに用いられるエッチング液セット、および当該エッチング液セットを用いたエッチング方法および導体パターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファインピッチ回路が要求されるフレキシブルプリント配線板では、絶縁基板としてのポリイミドフィルム上に樹脂接着層を介さずに銅層を形成した2層銅張積層板が利用されている。特に、ポリイミドフィルム上に下地層を形成し、下地層上の配線を構成する部分にのみ電解めっきにより銅層を形成する方法(セミアディティブ法)は、微細配線の形成に有利である。
【0003】
セミアディティブ法により銅配線を形成する場合、下地層は、電解めっきにより銅層を形成するための給電層(シード層)としての機能を有し、例えばPdを触媒とする無電解銅メッキにより形成される。また、下地層が、Ni,CrまたはNi-Cr合金である場合、下地層は給電層として作用するとともに、ポリイミドフィルム等の絶縁基板と銅配線との密着性を高める接着層としての作用も有している。
【0004】
下地層上に銅層を形成した後、銅層が形成されていない部分の下地層をエッチング除去することにより、銅層および下地層からなる配線が形成される。下地層のエッチングには、一般に塩化第二鉄を主成分とするエッチング液が使用されているが、下地層を構成する金属のエッチングレートが小さいため、下地層をエッチングしている間に、銅層が溶解し、配線の高さや幅が減少するといった問題がある。
【0005】
Ni-Cr層等の下地層のエッチング方法として、特許文献1および特許文献2には、硝酸または亜硝酸を含む酸系の水溶液を用いることが提案されている。特許文献1では、亜硝酸と特定のチオ化合物を含む酸系のエッチング液を用いている。特許文献2は、第一液および第二液を含むエッチング液セットを開示しており、塩酸およびチオ化合物を含む第一液により下地層表面の酸化膜を除去した後、塩酸、硝酸および第二銅イオンを含む第二液でエッチングを実施することにより、下地層のエッチング速度が上昇することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-229196号公報
【特許文献2】特開2005-154899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2のエッチング液は、下地層を構成するNi-Cr合金等の被処理金属のエッチングレートが大きく、短時間で下地層をエッチング除去可能であるため、被処理基板の銅層のエッチングを抑制できる。しかし、銅の溶解を完全に抑制できるわけではないため、複数の被処理基板のエッチング処理を連続して実施した際に(エッチング液を連続使用した際に)、液中に溶解した銅(銅イオン)の濃度が上昇する。
【0008】
第二銅イオンは、金属銅に対する酸化剤として作用し、銅のエッチングレートを高める作用を有するため、エッチング液中の銅イオン濃度が高くなると、銅のエッチングレートが高くなる。また、特許文献2のように硝酸を用いる系では、銅イオンの存在下で窒素酸化物(NOx)が発生することも、銅のエッチングレートを高める要因となっている。
【0009】
液中の銅イオン濃度やNOx濃度が上昇して銅のエッチングレートが高くなると、エッチング特性を維持できないため、エッチング液を交換する必要があり、工程の効率低下やコスト増大の要因となる。そのため、エッチング液を連続使用した場合でもエッチング特性の変化が小さく、液交換の頻度を小さくすること(ランニング性の向上)が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、Ni、Cr、Ni-Cr合金およびPdから選択される金属のエッチングに用いられるエッチング液セットである。エッチング液セットは、塩酸およびチオ化合物を含む第一液と、塩酸および亜硝酸源を含む第二液と、を含む。
【0011】
第一液に含まれるチオ化合物は、S-HまたはS=Cを有し、かつアミノ基、イミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、および水酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する炭素数7以下の化合物であり、第一液におけるチオ化合物濃度は0.5~30重量%である。第二液は、亜硝酸源濃度が0.1~30mMであり、塩酸濃度が8~30重量%であり、硫酸濃度が4.5重量%以下である。
【0012】
Ni、Cr、Ni-Cr合金およびPdから選択される金属(被処理金属)に、上記の第一液および第二液を順に接触させることにより、被処理金属がエッチングされる。例えば、被処理基板を第一液に浸漬することにより、被処理金属の表面に第一液を接触させた後、被処理基板を第二液に浸漬することにより、被処理金属の表面に第二液を接触させてもよい。
【0013】
被処理基板は、絶縁基板上に被処理金属を備えるものであってもよい。また、被処理基板は、被処理金属と銅層が共存しているものであってもよい。
【0014】
被処理基板の例として、絶縁基板上にパターニングされていない下地層を備え、その上にパターニングされた銅層を備える構成が挙げられる。下地層は、Ni、Cr、Ni-Cr合金およびPdから選択される被処理金属を含み、エッチング液セットを用いて、この下地層をエッチングする。すなわち、被処理基板の銅層の間に露出している下地層に、エッチング液セットの前記第一液および前記第二液を順に接触させることにより、下地層がエッチングされる。銅層の間に露出している下地層がエッチングされることにより、絶縁基板上に、パターニングされた下地層および銅層を順に備える導体パターンが形成される。
【0015】
エッチング液セットを用いて複数の被処理基板を連続してエッチングする場合は、エッチング特性の維持等を目的として、第一液および/または第二液に補給液を添加して、組成を調整してもよい。例えば、第二液に亜硝酸源を含む補給液を添加することにより、第二液による被処理金属のエッチングレートを所定値以上に維持できる。
【0016】
第二液に補給液を添加する場合は、例えば、第二液による被処理金属のエッチングレートが所定値以上を維持するように補給液を添加すればよい。また、第二液における亜硝酸源濃度が所定範囲を維持するように、補給液を添加してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエッチング液セットを用いることにより、Ni-Cr合金等の被処理金属を速やかにエッチング可能であるため、被処理基板における銅等の過剰なエッチングを抑制できる。また、エッチング液を連続使用した際にも、エッチング特性の変化が小さく、銅のエッチングレートが上昇し難いため、エッチング液の交換頻度が低く、工程の効率化および低コスト化に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】絶縁基板上に導体パターンを備えるプリント配線板の断面図である。
【
図3】被処理基板を形成するプロセスの一例を示す模式図である
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、Ni,Cr,Ni-Cr合金およびPdから選択される少なくとも1つの金属(以下「被処理金属」と記載する場合がある)のエッチングに用いられるエッチング液セットに関する。エッチング液セットは、第一液および第二液を含む。一実施形態において、エッチング液セットは、被処理金属と銅層とが共存する被処理基板における被処理金属の選択的エッチングに用いられる。
【0020】
図1は、被処理基板の一例を示す断面図である。
図1に示す被処理基板は、絶縁基板10としてのポリイミドフィルム上に、下地層20としてのNi-Cr合金層を備え、下地層20上に、銅の導体パターン31が形成されている。この被処理基板の導体パターン31の間(導体パターンが形成されていない領域5)に露出している下地層20に、エッチング液セットの第一液および第二液を順に接触させることにより、下地層がエッチング除去されて、
図2に示す様に、絶縁基板10上に、パターニングされた銅層31および下地層21からなる導体パターン3が形成されたプリント配線板が得られる。
【0021】
[エッチング液の組成]
エッチング液セットは、第一液と第二液を含む。第一液は、塩酸およびチオ化合物を含む水溶液であり、第二液は塩酸および亜硝酸源(亜硝酸または亜硝酸イオン)を含む水溶液である。
【0022】
Ni-Cr合金等の被処理金属は、主に、第二液の塩酸と亜硝酸の作用によりエッチングされ、第一液から第二液に持ち込まれたチオ化合物が、被処理金属のエッチングを促進するとともに、銅のエッチングを抑制する作用を有する。
【0023】
<第一液>
(塩酸)
第一液における塩酸は、被処理金属の表面に形成された酸化膜等を除去して、第二液による被処理金属のエッチング性を高める作用を有する。また、塩酸は、被処理基板の銅がエッチングされて液中に溶解した際に、後述のチオ化合物と銅により形成される錯体の溶解性を高める作用を有する。第一液における塩酸濃度は、0.5~30重量%が好ましい。塩酸濃度が過度に低いと、酸化膜の除去が不十分となり、第二液による被処理金属のエッチングレートが低下したり、エッチング液を交換せずに複数の被処理基板のエッチング処理を連続して実施した際に、銅-チオ化合物錯体の不溶物により液の濁りや沈殿が生じる場合がある。塩酸濃度が過度に高いと、濃度を一定に保つことが困難となる。酸化膜の除去性(洗浄性)および銅-チオ化合物の溶解性の観点においては、第一液の塩酸濃度が上記範囲であれば特段の差異はない。
【0024】
第一液で処理後の被処理基板を第二液に浸漬すると、被処理基板の表面に付着した第一液が第二液に持ち込まれる。エッチング液を交換せずに複数の被処理基板のエッチング処理を連続して実施した際に、第二液の組成の変動を抑制してエッチング特性を一定に保持する観点からは、第一液の塩酸濃度と第二液の塩酸濃度の差が小さいことが好ましい。第一液の塩酸濃度は、第二液の塩酸濃度の0.3~2倍が好ましく、0.5~1.5倍がより好ましい。第一液の塩酸濃度は、3~30重量%、5~25重量%、7~23重量%または10~20重量%であってもよい。
【0025】
(その他の酸)
第一液には、塩酸以外の酸が含まれていてもよい。塩酸以外の酸としては、硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸等の無機酸や、各種の有機酸が挙げられる。
【0026】
第一液に硝酸が含まれていると、被処理基板の銅がエッチングされて液中に溶解した際に、窒素酸化物(NOx)が生成し、生成したNOxが銅のエッチングレートを高める作用を有する。銅のエッチングに伴って液中の銅イオン濃度が高くなると、さらに銅のエッチングレートが大きくなる。また、第一液に硝酸が含まれていると、後述のチオ化合物が分解されやすく、経時的にその濃度が減少する。銅のエッチングおよびチオ化合物の濃度減少を抑制する観点から、第一液は、実質的に硝酸を含まないことが好ましい。第一液における硝酸濃度は、1重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下がさらに好ましく、0.05重量%以下または0.01重量以下であってもよい。第一液は硝酸を含まないことが特に好ましい。
【0027】
第一液に亜硝酸が含まれていると、後述のチオ化合物が分解されやすく、経時的にその濃度が減少する。チオ化合物の濃度減少を抑制する観点から、第一液は、実質的に亜硝酸源(亜硝酸または亜硝酸塩)を含まないことが好ましい。第一液における亜硝酸濃度は、0.001重量%以下が好ましく、0.0005重量%以下がより好ましく、0.0001重量%以下がさらに好ましい。第一液は亜硝酸源を含まないことが特に好ましい。
【0028】
第一液に硫酸が含まれていると、被処理基板の表面に付着した第一液が第二液に持ち込まれることにより、第二液の硫酸濃度が上昇する。後述のように、第二液の硫酸濃度が高い場合は、第二液の亜硝酸源濃度が経時的に低下しやすく、液安定性に劣る場合がある。第二液への硫酸の持ち込みを抑制する観点から、第一液は硫酸濃度が低いことが好ましい。第一液の硫酸濃度は、4.5重量%以下が好ましく、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下または0.1重量%以下であってもよい。第一液は硫酸を含まないことが特に好ましい。
【0029】
(チオ化合物)
第一液に含まれるチオ化合物は、-SHまたはS=Cを有し、かつアミノ基、イミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、および水酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する炭素数7以下の化合物である。チオ化合物の炭素数は、1~5が好ましい。チオ化合物の分子量は、60~300が好ましく、70~200であってもよい。
【0030】
アミノ基を有するチオ化合物の具体例としては、チオ尿素、二酸化チオ尿素、N-メチルチオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、1,3-ジエチルチオ尿素が挙げられる。イミノ基を有するチオ化合物の具体例としては、エチレンチオ尿素が挙げられる。カルボキシ基を有するチオ化合物の具体例としては、チオサリチル酸、チオグリコール酸、β-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトプロピオン酸、2,2’-チオジグリコール酸、チオリンゴ酸、メルカプトコハク酸、システイン、シスチン等の硫黄原子含有カルボン酸、およびこれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等)が挙げられる。カルボニル基を有するチオ化合物の具体例としては、2-チオバルビツール酸が挙げられる。スルホ基を有するチオ化合物の具体例としては、2-メルカプトエタンスルホン酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、2-メルカプトベンゼンスルホン酸、およびこれらの塩が挙げられる。水酸基を有するチオ化合物の具体例としては、チオグリセロール等の硫黄原子含有アルコールが挙げられる。
【0031】
酸の作用により被処理基板の銅がエッチングされて液中に溶出すると、銅イオンが酸化剤として作用するため、被処理基板の銅のエッチングが促進される。第一液に含まれるチオ化合物は、銅イオンをキレート化して捕捉することにより、被処理基板の銅のエッチングを抑制する作用を有する。
【0032】
第一液で処理後の被処理基板を第二液に浸漬すると、被処理基板の表面に付着した第一液が第二液に持ち込まれる。そのため、第一液に含まれるチオ化合物は、第二液における銅のエッチングの抑制にも寄与する。さらに、第一液から第二液に持ち込まれたチオ化合物は、第二液での被処理金属のエッチング性の向上にも寄与する。
【0033】
第一液における上記のチオ化合物の含有量は、0.5重量%以上である。チオ化合物の含有量が小さい場合は、複数の被処理基板のエッチング処理を連続して実施した際に(エッチング液を連続使用した際に)、第一液中に溶出した銅によってチオ化合物が消費されやすい。エッチング液の連続使用に伴って第一液のチオ化合物濃度が低下すると、第一液における銅のエッチングレートが上昇する。さらに、第一液のチオ化合物濃度の低下に伴って、第二液に持ち込まれるチオ化合物の量が減少する為に、第二液における銅のエッチングレートが上昇する傾向がある。
【0034】
第一液のチオ化合物濃度が0.5重量%以上であれば、第一液中に溶解する銅イオンに比べてチオ化合物の濃度が十分に高いため、銅イオンがチオ化合物によりキレート化されやすく、第一液中での銅のエッチングが抑制される。第一液による銅のエッチングが抑制されるために、チオ化合物の消費が少なく(チオ化合物濃度が減少し難く)、組成の変動が小さい。また、第一液から第二液に持ち込まれたチオ化合物の作用により、第二液中での被処理金属のエッチングが促進されるとともに、第二液による銅のエッチングが抑制される。
【0035】
第一液のチオ化合物濃度は、0.7重量%以上がより好ましく、1.0重量%以上がさらに好ましく、1.3重量%以上、1.5重量%以上または1.7重量%以上であってもよい。第一液のチオ化合物濃度が高いほど、銅のエッチング抑制効果が高い。また、第一液のチオ化合物濃度が高いほど、エッチング液の連続使用に伴うチオ化合物濃度の変化(濃度の減少)が小さいため、第一液へのチオ化合物の補給や第一液の交換の頻度が少なく、工程の効率化や低コスト化に有利である。
【0036】
第一液のチオ化合物濃度は、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましく、7重量%以下または5重量%以下であってもよい。第一液のチオ化合物濃度が過度に高いと、第二液に持ち込まれるチオ化合物の量が過剰となり、第二液における被処理金属のエッチングが阻害される場合がある。
【0037】
<第二液>
(塩酸)
第二液における塩酸は、後述の亜硝酸源とともに、被処理金属を溶解させてエッチングする作用を有する。第二液における塩酸濃度は、8~30重量%が好ましく、10~25重量%がより好ましく、12~20重量%がさらに好ましい。塩酸濃度が過度に低いと、被処理金属のエッチングレートが低下する傾向があり、塩酸濃度が過度に高いと、銅のエッチングレートが増大する傾向がある。
【0038】
(亜硝酸源)
第二液における亜硝酸源は、被処理金属を溶解させてエッチングする作用を有する。亜硝酸源は、亜硝酸および亜硝酸イオンであり、亜硝酸または亜硝酸塩を配合することにより、第二液において亜硝酸または亜硝酸イオンの形態で存在する。亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸バリウム等が挙げられる。
【0039】
第二液の亜硝酸源濃度(亜硝酸と亜硝酸イオンの合計濃度)は、0.1~30mMであり、0.15~25mMが好ましく、0.2~20mMがより好ましく、0.3~17mMがさらに好ましく、0.4~15mM、0.5~12mMまたは0.6~10mMであってもよい。亜硝酸源濃度が過度に低いと、被処理金属のエッチングレートが低下する傾向があり、亜硝酸源濃度が過度に高いと、銅のエッチングレートが増大する傾向がある。
【0040】
亜硝酸源は酸性水溶液中では大半が亜硝酸の形態で存在するが、遊離酸としての亜硝酸は安定性が低く、第二液では亜硝酸源濃度が経時的に減少する場合がある。そのため、エッチング液を使用する直前に、亜硝酸源濃度が上記範囲となるように、亜硝酸塩等を配合して第二液を調製することが好ましい。また、エッチング液の使用時に亜硝酸源濃度が低下した場合は、亜硝酸塩等を補給して、第二液の亜硝酸源濃度を上記範囲内に保持することが好ましい。
【0041】
亜硝酸源は、固体または液体(溶液)として第二液に添加すればよい。亜硝酸源は、中性または弱アルカリ性の溶液中では亜硝酸イオンとして安定に存在するため、亜硝酸塩を中性または弱アルカリ性の水溶液として、第二液に添加して亜硝酸源を補給することが好ましい。亜硝酸塩の水溶液を補給液として第二液に添加する場合、補給液の亜硝酸塩の濃度は、例えば、0.1~75重量%程度であり、1~70重量%、5~60重量%または10~50重量%であってもよい。
【0042】
亜硝酸は、酸性水溶液中での安定性が低いものの、30mM以下であればその濃度減少は緩やかであり、亜硝酸塩等の添加により補給可能である。また、後述のように第二液の酸として硫酸を用いないか、硫酸を用いる場合でもその濃度が低ければ、亜硝酸の減少を抑制できる。さらには、亜硝酸源は分光法等により定量可能であるため、濃度管理が容易である。
【0043】
第二液のエッチング成分として硝酸を用いた場合は、被処理基板の銅がエッチングされて液中に溶解すると、窒素酸化物(NOx)が生成し、生成したNOxが銅のエッチングレートを高める作用を有する。銅のエッチングに伴って液中の銅イオン濃度が高くなると、さらに銅のエッチングレートが大きくなり、エッチング性能を維持できなくなるため、エッチング液を頻繁に交換する必要がある。
【0044】
一方、第二液のエッチング成分として亜硝酸を用いる場合は、銅イオン存在下でもNOxが生成し難い。そのため、第二液に亜硝酸源を用いる本発明では、エッチング性能を安定して維持可能であり、液交換の頻度が少ないため、工程の効率およびコストの点で有利である。
【0045】
また、エッチング液の使用に伴って、第一液から第二液にチオ化合物が連続的に持ち込まれることも、エッチング特性の安定化(銅のエッチングレート上昇の抑制)に寄与している。前述のように、チオ化合物は、被処理金属のエッチング性の向上および銅のエッチング抑制作用を有する。
【0046】
亜硝酸源の存在下では、チオ化合物が分解されやすく、経時的にその濃度が減少する。そのため、亜硝酸源とチオ化合物が併存している一液型のエッチング液では、亜硝酸源およびチオ化合物の濃度が経時的に低下しやすく、それぞれの濃度を個別に管理して、濃度が所定範囲となるように、補給を行う必要がある。
【0047】
一方、第一液がチオ化合物を含み、第二液が亜硝酸源を含む本発明のエッチング液セットを使用する場合は、被処理基板の表面に付着した第一液が第二液に持ち込まれることにより、第二液にチオ化合物が供給されるため、第二液におけるチオ化合物濃度は略一定に保たれる。そのため、第二液については、上記の様に亜硝酸源の濃度が所定範囲内となるように管理を行えばよく、一液型のエッチング液に比べて液の管理が簡便である。
【0048】
(その他の酸)
第二液には、塩酸および亜硝酸以外の酸が含まれていてもよい。塩酸および亜硝酸以外の酸としては、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、各種の有機酸が挙げられる。
【0049】
第二液に硝酸が含まれていると、被処理基板の銅がエッチングされて液中に溶解した際に、硝酸から窒素酸化物(NOx)が生成し、生成したNOxが銅のエッチングレートを高める作用を有する。銅のエッチングを抑制する観点から、第二液は、実質的に硝酸を含まないことが好ましい。第二液における硝酸濃度は、1重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下がさらに好ましく、0.05重量%以下または0.01重量以下であってもよい。第二液は硝酸を含まないことが特に好ましい。
【0050】
第二液は、酸として硫酸を含んでいてもよいが、硫酸濃度が高い場合は、第二液の亜硝酸源濃度が経時的に低下しやすく、液安定性に劣る場合がある。そのため、第二液の硫酸濃度は、4.5重量%以下が好ましく、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下または0.1重量%以下であってもよい。第二液は硫酸を含んでいなくてもよい。
【0051】
被処理金属をエッチングするための成分として硝酸を用いる場合は、硝酸を亜硝酸に変化させてエッチング効率を高めるために、硫酸が用いられる。一方、エッチング成分が亜硝酸である場合は、硫酸を用いなくても被処理金属のエッチングレートを十分に高めることができる。
【0052】
<第一液および第二液の調製>
上記の第一液および第二液は、上記の各成分を水に溶解させることにより調製できる。水としては、イオン性物質や不純物を除去した水が好ましい。具体的には、イオン交換水、純水、超純水等を使用することが好ましい。
【0053】
第一液および第二液は、必要に応じて、種々の添加剤が更に含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、濡れ性向上や銅の侵食防止等を目的として界面活性剤を用いてもよい。
【0054】
界面活性剤としては、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤が挙げられる。第一液および/または第二液が界面活性剤を含む場合、その濃度は、0.001~5重量%、0.01~4重量%または0.1~3重量%であってもよい。
【0055】
第一液および/または第二液には、添加剤として、消泡剤、防錆剤等が含まれていてもよい。
【0056】
エッチング装置を用いてエッチングする際は、第一液および第二液のそれぞれについて、全成分を所定の組成になるように調製した後、エッチング装置に供給してもよく、各成分を個別にエッチング装置に供給して、エッチング装置内で各成分を混合して所定の組成になるように調製してもよい。また、第一液および第二液の一部の成分を予め混合した溶液をエッチング装置に供給した後、他の成分を添加して、エッチング装置内で各成分を混合して所定の組成になるように調製してもよい。
【0057】
前述のように、亜硝酸は、酸性溶液中でその濃度が経時的に減少する傾向がある。そのため、第二液は、亜硝酸源以外の成分を予めエッチング装置に供給しておき、使用する直前に亜硝酸源を添加して、組成を調整することが好ましい。
【0058】
[エッチング液セットを用いた被処理金属のエッチング]
被処理金属の表面に第一液を接触させた後、第二液を接触させることにより、被処理金属のエッチングが行われる。第一液および第二液を被処理金属と接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。
【0059】
被処理基板の表面に付着した第一液が第二液に持ち込まれることにより、第二液にチオ化合物を含有させて、銅のエッチングを抑制する観点から、第一液および第二液と被処理金属とを接触させる方法としては浸漬法が好ましい。すなわち、被処理基板を第一液に浸漬し、第一液中で処理した後、第一液から取り出した被処理基板を第二液に浸漬する方法が好ましい。第一液から取り出した被処理基板は、表面を洗浄することなく、そのまま第二液に浸漬することが好ましい。
【0060】
第一液および第二液の温度、ならびに第一液および第二液での処理時間は、特に限定されず、エッチング対象である被処理金属の種類やエッチング量(厚み)等に応じて適宜設定すればよい。第一液および第二液の温度は、例えば、20~65℃程度であり、処理時間は、5~60秒程度である。
【0061】
エッチング液を連続使用すると、経時的に液の組成が変化して、エッチング性(エッチングレート)が変化する場合がある。エッチング性を一定に保持する観点から、第一液および/または第二液に補給液を添加してもよい。特に、第二液の亜硝酸源は経時的にその濃度が低下するため、第二液に亜硝酸源を補給することが好ましい。前述のように、第二液に亜硝酸源を補給するための補給液としては、亜硝酸塩水溶液が好ましく、補給液の亜硝酸塩濃度は、例えば0.1~75重量%程度であり、1~70重量%、5~60重量%または10~50重量%であってもよい。
【0062】
第二液に補給液を添加して亜硝酸源を補給する場合は、亜硝酸源濃度が前述の範囲を維持するように、補給液を添加すればよい。また、被処理金属のエッチングレートをモニターして、エッチングレートが所定値以上を維持するように、補給液を添加してもよい。
【0063】
上記のように、第二液は、硫酸を含まないか、または硫酸濃度が低いため、第二液における亜硝酸源の濃度低下が抑制されている。本発明のエッチング液セットを使用する場合は、亜硝酸源の濃度変化が小さいため、エッチング速度の変化が抑制される。また、第二液への亜硝酸源の補給量や補給の頻度を低減可能であり、被処理金属を連続してエッチングする際の工程の管理を簡素化できる。
【0064】
第一液は、液中に溶解した銅イオンによりチオ化合物が消費されて(酸化されて)その濃度が低下する場合がある。第一液のチオ化合物濃度を一定に保持する為に、チオ化合物の水溶液を補給液として第一液に添加してもよい。上記のように、第一液のチオ化合物濃度を予め高くしておけば、第一液に溶解した銅が適切にキレート化されて、被処理基板の銅の溶解が抑制されるため、銅によるチオ化合物の消費が少なく、チオ化合物の濃度低下が抑制される。そのため、本発明のエッチング液セットを使用する場合は、第一液へのチオ化合物の補給の頻度を低減可能であり、被処理金属を連続してエッチングする際の工程の管理を簡素化できる。
【0065】
[導体パターンの形成]
上記のエッチング液セットを用いることにより、銅の溶解を抑制しつつ、被処理金属を効率的にエッチング可能である。被処理金属と銅層とが共存する被処理基板に、上記のエッチング液セットを適用することにより、被処理基板上の被処理金属を選択的にエッチングして、導体パターンを形成できる。導体パターンとしては、配線パターンやランドパターン、またはこれらが組み合わされたもの等が挙げられる。
【0066】
被処理金属と銅層とが共存する被処理基板の一例として、
図1に示すように、絶縁基板10上に被処理金属の下地層20を備え、その上に導体パターン31を備える構成が挙げられる。
【0067】
図3A~Eは、
図1に示す被処理基板を形成するプロセスの一例を示す模式図である。まず、絶縁基板10上に、被処理金属の下地層20を形成する(
図3A)。
【0068】
絶縁基板10の絶縁材料としては、AS樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリプロピレン、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル等の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂はガラス繊維、アラミド繊維等で強化されていてもよい。絶縁基板10は、セラミックス材料またはガラスであってもよい。フレキシブルプリント配線板では、絶縁基板10として、ポリイミドフィルムが好適に用いられる。
【0069】
下地層20の材料は、Ni,CrまたはNi-Cr合金である。下地層がNi-Cr層である場合、NiとCrの原子比は特に限定されない。Ni-Cr合金としては、例えばNi/Crの質量比が、6/1、7/1または3/1であるものが挙げられる。下地層20の厚みは、5~500nm程度である。下地層20は、スパッタ法、蒸着法、無電解メッキ法等により形成される。
【0070】
下地層20上にメッキレジスト層40を形成し(
図3B)、フォトリソグラフィー等によりメッキレジスト層40をパターニングすることにより、レジストパターン41が形成される(
図3C)。
【0071】
この基板を用い、下地層20に給電しながら電解銅メッキを行うことにより、導体パターンを構成する部分にのみ銅層31が析出する(
図3D)。銅層31の厚みは、例えば、1~30μm程度である。
【0072】
銅層31を形成後、メッキレジストを除去することにより、パターニングされた銅層31の間(銅層31が形成されていない領域5)に、下地層20が露出している被処理基板が得られる(
図3E、
図1)。この被処理基板を、エッチング液セットの第一液および第二液で順に処理することにより、領域5の下地層20がエッチング除去され、
図2に示すように、絶縁基板10上に、パターニングされた銅層31および下地層21からなる導体パターン3が形成されたプリント配線板が得られる。
【0073】
上記のプロセスはいわゆるセミアディティブ法により導体パターンを形成する方法であるが、サブトラクティブ法により導体パターンを形成してもよい。サブトラクティブ法では、絶縁基板10上に下地層20を形成した後、下地層上に電解銅めっき層を形成し、導体パターンを構成する部分の銅層をエッチングレジストで被覆する。銅エッチング液を用いて、エッチングレジストで被覆されていない領域の銅層をエッチングした後、レジストを剥離することにより、パターニングされた銅層31の間に、下地層20が露出している被処理基板が得られる。この被処理基板を、エッチング液セットの第一液および第二液で順に処理することにより、領域5の下地層20がエッチング除去され、
図2に示すように、絶縁基板10上に、パターニングされた銅層31および下地層21からなる導体パターン3が形成されたプリント配線板が得られる。
【0074】
セミアディティブ法およびサブトラクティブ法のいずれにおいても、被処理基板に第一液および第二液を順に接触させることにより、銅のエッチングを抑制しつつ、銅層が形成されていない領域における下地層を選択的にエッチング除去できる。そのため、導体パターンを構成する銅層の形状をほとんど変化させることなく、導体パターン間の絶縁を確保できる。
【0075】
塩酸およびチオ化合物を含む第一液と、塩酸および亜硝酸源を含む第二液を用いる本発明の方法では、複数の被処理基板を連続して処理した場合でも、液組成の変動が少ない。また、液の連続使用により液中の銅イオン濃度が上昇した場合でも、銅のエッチングレートが増大し難いため、液の交換頻度が少なく、ランニング性に優れている。
【0076】
上記のエッチング液セットは、Pdのエッチング性にも優れている。Pdは、プリント配線基板の製造において無電解銅メッキの触媒として使用されているが、無電解銅メッキ層をエッチング除去した際に、絶縁基板の表面にPd触媒が残存していると、パターン間の電気絶縁性が低下する。また、残存しているPd触媒が、後工程における金めっき処理の際に不要な部分に金を析出させる原因となりえる。上記のエッチング液セットを用いることにより、導体パターンを構成する銅層のエッチングを抑制しつつ、絶縁基板の表面に残存したPdを選択的にエッチング除去することが可能である。
【実施例0077】
以下に、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0078】
[エッチング液の調製]
<第一液>
表1に示す濃度(重量%)となるように、塩酸およびチオ化合物を配合して、第一液を調製した。表1における残部は水である(第二液についても同様)。チオ化合物の略称は下記の通りである。なお、比較例3で用いたプロピオン酸(PA)はチオ化合物ではない。
ATG: チオグリコール酸アンモニウム(分子量:109.15)
TGA: チオグリコール酸(分子量:92.11)
TG: チオグリセロール(分子量:108.16)
TU: チオ尿素(分子量:76.12)
RCoM:2-メルカプトエタンスルホン酸(分子量:142.19)
MPA: β-メルカプトプロピオン酸(分子量:106.14)
DETU:ジエチルチオ尿素(分子量:132.23)
ETU: エチレンチオ尿素(分子量:102.16)
PA: プロピオン酸
【0079】
<第二液>
表1に示す濃度(重量%)となるように、塩酸および亜硝酸塩(亜硝酸ナトリウムまたは亜硝酸カルシウム)を配合して、第二液を調製した。比較例4、6では、亜硝酸塩を配合せず、硝酸および硫酸を配合した。また、実施例2~4、比較例2においても硫酸を配合した。比較例2では、チオ化合物として、0.5重量%のβ-メルカプトプロピオン酸を配合した。亜硝酸塩および硝酸は、エッチング液を使用する直前に、表1に示す濃度となるように配合した。なお、表1における亜硝酸塩濃度(mM)は、亜硝酸源のモル濃度であり、亜硝酸塩として亜硝酸カルシウムを用いた例については、亜硝酸カルシウムのモル濃度の2倍の値を示している。
【0080】
[評価]
<Ni-Cr合金のエッチング性>
厚み50μmのポリイミドフィルムの一方の面に、スパッタ法により厚み20nmのNi-Cr合金膜(Ni:Crの原子比88:12)を形成した。この試料を、40mm×40mmの正方形に切り出し、第一液(50℃)に30秒間浸漬した後、第二液(50℃)に30秒間浸漬して、Ni-Cr合金膜を溶解させた。試料を水洗・乾燥した後、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製「VHX-5000」)を用いて50倍で観察し、Ni-Cr合金膜のエッチング残渣の有無を確認した。残渣がみられなかったものをエッチング性良好(〇)、残渣がみられたものをエッチング不良(×)とした。
【0081】
<銅のエッチングレート>
利昌工業製の両面銅張積層板(40×40mm、板厚0.2mm、銅厚35μm)を、第一液(50℃)に30秒間浸漬した後、第二液(50℃)に30秒間浸漬した。その後、両面銅張積層板を、水洗・乾燥し、重量変化(銅のエッチング量)から銅のエッチングレートを算出した。
【0082】
<銅イオン存在下でのエッチング性>
両面銅張積層板を第二液(50℃)中に浸漬し、液中の銅濃度が0.05、0.2、0.35、1.0、または2.0g/Lとなるまで銅を溶解させた。その後、Griess法(後述)により液中の亜硝酸源を定量し、亜硝酸源の濃度が減少している場合は、亜硝酸源濃度が表1の配合組成(調製直後)と同じになるように、亜硝酸塩を添加した。比較例4および比較例6では、亜硝酸塩を用いていないため、亜硝酸源の定量および亜硝酸塩の添加は実施しなかった。
【0083】
第二液として、上記の方法により所定の銅濃度となるように調製した溶液(エッチング液の使用に伴って被処理基板の銅が第二液中に溶解しており、亜硝酸源を補給した状態を再現したモデル液)を用いて、上記と同様に、Ni-Cr合金のエッチング性および銅のエッチングレートの評価を実施した。
【0084】
実施例および比較例の第一液および第二液の配合、ならびにNi-Cr合金のエッチング性および銅のエッチングレートの評価結果を表1に示す。表1において、第二液の銅濃度が0のものは、調製直後の第一液および第二液を用いた場合の評価結果である。
【0085】
【0086】
実施例のエッチング液セットは、初期配合(銅濃度が0の場合)において、Ni-Crの除去性に優れ、かつ銅のエッチングレートが低く、エッチング選択性に優れていた。また、液中の銅濃度を2.0g/Lまで高めた場合も、Ni-Crの除去性を維持しており、かつ銅のエッチングレートが0.35μm/min未満であり、優れたエッチング選択性を維持していた。
【0087】
実施例のエッチング液セットは、被処理基板の連続処理により液中の銅濃度が上昇した状態でも、Ni-Crの除去性が損なわれることがなく、かつ低い銅のエッチングレートを保っており、ランニング性に優れていることが分かる。
【0088】
第一液による処理を実施せずに、塩酸と亜硝酸塩を含む第二液による処理のみを実施した比較例1では、30秒の浸漬処理後にNi-Crの残渣がみられ、被処理金属のエッチング性が劣っていた。また、チオ化合物を含まない第一液で処理した後に第二液による処理を実施した比較例3も、比較例1と同様、Ni-Crのエッチング性が劣っていた。
【0089】
これらの結果から、実施例のエッチング液セットでは、第一液のチオ化合物が第二液に持ち込まれることにより、第二液におけるNi-Crのエッチング性が向上するとともに、銅のエッチングを抑制する作用を有するのに対して、比較例1,3では、第二液にチオ化合物が供給されないために、Ni-Crのエッチング性が低かったものと考えられる。なお、比較例3では比較例1よりも銅のエッチングレートが大きな値を示した。比較例3では、チオ化合物を用いていないことに加えて、第二液の亜硝酸源濃度が高いことが、銅のエッチングレートの増大の原因であると考えられる。
【0090】
第一液のチオ化合物濃度が低い比較例5は、初期配合(銅濃度が0の場合)では、Ni-Crの除去性に優れ、かつ銅のエッチングレートが低く、エッチング選択性に優れており、銅濃度が高い場合でも、銅のエッチングレートの上昇は抑制されていた。しかし、銅濃度が2.0g/Lの場合は、Ni-Crのエッチング性が低下していた。比較例5では、エッチング液の連続使用に伴って第一液のチオ化合物濃度が低下し、第二液の銅濃度が2.0g/Lとなるまで連続してエッチングを実施すると、Ni-Crのエッチングに必要なチオ化合物濃度を維持できないために、Ni-Crのエッチング性が低下したと考えられる(チオ化合物の残存率とエッチング特性については、後述の実施例12~14および比較例10,11を参照)。
【0091】
第一液による処理を実施せずに、塩酸と亜硝酸塩に加えてチオ化合物を含む第二液による処理を実施した比較例2は、初期配合(銅濃度が0の場合)では、Ni-Crの除去性に優れ、かつ銅のエッチングレートが低く、エッチング選択性に優れていたが、銅濃度が1.0g/L以上で、Ni-Cr除去性が低下しており、銅のエッチングレートも大幅に上昇していた。比較例2では、銅の溶解に伴って第二液中のチオ化合物が消費され、第一液からチオ化合物が供給されないため、チオ化合物の低下により、Ni-Cr除去性が低下するとともに、銅のエッチング抑制効果が失われて、銅のエッチングレートが上昇したものと考えられる。なお、比較例2の第二液は、初期配合では十分に大きなチオ化合物濃度を有しているが、第二液にチオ化合物と亜硝酸源が共存しているため、チオ化合物の分解が促進されやすく、銅の溶解に伴うチオ化合物の消費に加えて、チオ化合物の分解によりチオ化合物濃度が低下することが、Ni-Cr除去性の低下および銅のエッチングレート増大に関与していると考えられる。
【0092】
第二液の亜硝酸源濃度が低い比較例7は、Ni-Crの除去性が劣っていた。第二液の亜硝酸源濃度が高い比較例8は、銅濃度が0の初期配合においても銅のエッチングレートが高く、被処理金属のエッチング選択性が劣っていた。
【0093】
第二液に亜硝酸源を含まず代わりに硝酸を含む第二液を用いた比較例4および比較例6では、初期配合においてNi-Crのエッチング性が劣っていたが、銅濃度が0.05g/Lの場合は、Ni-Crのエッチング性が向上していた。さらに銅濃度が高い場合は、再びNi-Crのエッチング性が低下していた。銅濃度が2.0g/Lの場合は、再びNi-Crのエッチング性が向上したが、銅のエッチングレートも大きくなっていた。
【0094】
比較例4,6は、初期配合では第二液が亜硝酸源を含まず、銅イオンが存在しないために硝酸から亜硝酸が生成し難いため、Ni-Crのエッチング性が劣っていたと考えられる。第二液の銅濃度が0.05g/Lの場合は、第二液中の銅イオンが触媒的に作用して、硝酸が亜硝酸に変化することにより、Ni-Crのエッチング性が高められたと考えられ、さらに銅濃度が高くなると、銅のエッチングレートが高くなり、硝酸から生成した亜硝酸の大半が銅のエッチングに消費されるために、Ni-Crのエッチング性が低下したものと考えられる。さらに銅濃度が高い場合は、エッチングによる亜硝酸の消費よりも、硝酸から生成する亜硝酸の量が多くなることや、銅イオンによるエッチング力の増大により、Ni-Crのエッチング性が再び上昇したと考えられる。
【0095】
比較例4,6のように、第二液に硝酸を用いた場合は、液の連続使用に伴う組成の変化に起因して亜硝酸の生成量や消費量が大きく変化し、これに伴ってエッチング特性が変化するために、安定性に欠けており、ランニング性に課題があることが分かる。
【0096】
[第一液におけるチオ化合物濃度の影響の検討]
<チオ化合物の残存率>
チオ化合物の種類および配合量を表2に示す様に変更したこと以外は実施例1と同様にして、第一液および第二液を調製した。第一液に、濃度が0.025重量%(銅濃度が0.2g/L)となるように酸化第二銅を配合し、第二液に、濃度が0.25重量%(銅濃度が2g/L)となるように酸化第二銅を配合した。酸化第二銅を配合後、第一液および第二液を室温で5時間撹拌した。酸化第二銅を配合して5時間撹拌後の第一液におけるチオ化合物の濃度をヨウ素滴定法により定量し、初期濃度に対する残存率を算出した。
【0097】
<銅のエッチングレート>
酸化第二銅を配合して撹拌した第一液および第二液(エッチング液の使用に伴って被処理基板の銅が第二液中に溶解した状態を再現したモデル液)を用いて、上記と同様の方法により、銅のエッチングレートを測定した。
【0098】
実施例1、12~14および比較例10,11の第一液および第二液の配合、ならびに酸化銅を配合して5時間撹拌後の第一液および第二液を用いた銅のエッチングレート、第一液におけるチオ化合物の残存率を、表2に示す。
【0099】
【0100】
表2に示すように、第一液におけるチオ化合物の初期濃度が高いほど、5時間後のチオ化合物の残存率が高く、当該第一液で処理した後に、銅を添加した第二液で処理した際の銅のエッチングレートが小さい傾向がみられた。チオ化合物濃度が0.5重量%よりも小さい場合に、チオ化合物の残存率の低下および銅のエッチングレートの上昇が顕著であった。
【0101】
第一液のチオ化合物濃度が低い場合は、銅イオンの共存下で、チオ化合物が消費されやすく、第一液から第二液に持ち込まれるチオ化合物の量が少ないために、第二液による銅のエッチングレートが大きくなったと考えられる。これらの結果から、第一液におけるチオ化合物濃度が高いほど、チオ化合物の濃度低下が少なく、銅のエッチングレートが上昇し難いために、エッチング特性の安定性およびランニング性に優れることが分かる。
【0102】
[第二液における硫酸濃度の検討]
<亜硝酸源の残存率>
実施例1~4の第二液の調製において、50℃に加温した後、濃度が0.006重量%(亜硝酸源濃度が0.87mM)となるように亜硝酸ナトリウムを配合した。亜硝酸ナトリウムの添加直後、および50℃の開放系で1時間放置後に、液中の亜硝酸源濃度を測定し、亜硝酸源の残存率を算出した。表3に示す比較例12~14についても、実施例1~4と同様に、50℃で1時間放置した後の亜硝酸源の残存率を求めた。
【0103】
亜硝酸源の残存量は、Griess法により定量した。サンプリングした試料に、Griess試薬(スルファニルアミドとオルト-(1-ナフチル)エチレンジアミンとを含む試薬)を加え、室温で30分間放置した後、分光光度計により、この試料の520~550nmの吸光度を測定した。亜硝酸イオン濃度が既知である標準試料を用いて作成した検量線に基づいて、試料の吸光度から、亜硝酸源濃度を算出した。
【0104】
なお、亜硝酸源を含む試料にGriess試薬を加えると、赤紫色に呈色し、経時的に呈色が濃くなり、520~550nmの吸光度が大きくなる。Griess試薬を添加後、30分~数時間は、吸光度が一定であり、その後呈色が薄くなり、吸光度が低下する。
【0105】
<エッチング性>
第二液として、調整後50℃で1時間放置したもの(エッチング液の使用に伴って亜硝酸源濃度が低下した状態を再現したモデル液)を用いて、上記と同様の方法により、Ni-Cr除去性の評価および銅のエッチングレートの測定を実施した。
【0106】
実施例1~4および比較例12~14の第一液および第二液の配合、ならびに第二液に亜硝酸塩を配合後1時間後の第二液における亜硝酸源の残存率、およびこの第二液を用いた場合のエッチング性(Ni-Cr除去性および銅のエッチングレート)を、表3に示す。
【0107】
【0108】
第二液の硫酸濃度が大きいほど、1時間後の亜硝酸源の残存率が小さくなる傾向がみられた。硫酸が5重量%以上である比較例12~14では、1時間後の亜硝酸源の残存率が40%を下回っており、これを第二液として用いた場合は、Ni-Cr除去性が劣っていた。
【0109】
第二液の硫酸濃度が大きい場合は、調製直後の第二液を使用すれば良好なエッチング性を示し得るものの、亜硝酸源の減少速度が大きいため、Ni-Crの除去性(エッチングレート)が低下しやすく、エッチング性を維持するためには亜硝酸源を頻繁に添加する必要がある。
【0110】
これらの結果から、第二液における亜硝酸源の濃度の減少を抑制し、補給液による亜硝酸源の添加や液交換の頻度を低減するためには、第二液における硫酸濃度が小さいことが好ましいといえる。また、上記の各実施例・比較例の結果から、第二液が亜硝酸源を含むエッチング液セットでは、硫酸を含まない場合でも、優れたエッチング特性およびランニング性を示すことが分かる。