(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075236
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】走行体制御システムおよび走行体制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20240527BHJP
B66B 31/00 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
G05D1/02 H
B66B31/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186521
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹川 憲二
(72)【発明者】
【氏名】上田 紘司
(72)【発明者】
【氏名】川端 俊一
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 直孝
(72)【発明者】
【氏名】松崎 謙司
【テーマコード(参考)】
3F321
5H301
【Fターム(参考)】
3F321AA02
3F321DA07
3F321HA03
5H301AA01
5H301BB10
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG10
5H301JJ01
5H301JJ06
5H301QQ01
(57)【要約】
【課題】走行体が段差を誤検出してしまうことを抑制し、走行体が安定して走行を行うことができる走行体制御技術を提供する。
【解決手段】走行体制御システム1は、床面20を走行する走行体2の進行方向の前方側に固定され、床面20までの距離を測定する第1距離センサ8と、走行体2の前方側かつ第1距離センサ8よりも後方側に固定され、床面20までの距離を測定する第2距離センサ9と、走行体2の走行を制御する1つ以上のコンピュータ10と、を備え、コンピュータ10は、走行体2の走行中に、第1距離センサ8および第2距離センサ9で測定したそれぞれの床面20までの距離の差分D1を算出し、差分D1が予め設定された差分閾値以上であるか否かを判定し、差分D1が差分閾値以上であると判定した場合に走行体2を停止する制御を行う、ように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面を走行する走行体の進行方向の前方側に固定され、前記床面までの距離を測定する第1距離センサと、
前記走行体の前方側かつ前記第1距離センサよりも後方側に固定され、前記床面までの距離を測定する第2距離センサと、
前記走行体の走行を制御する1つ以上のコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、
前記走行体の走行中に、
前記第1距離センサおよび前記第2距離センサで測定したそれぞれの前記床面までの距離の差分を算出し、
前記差分が予め設定された差分閾値以上であるか否かを判定し、
前記差分が前記差分閾値以上であると判定した場合に前記走行体を停止する制御を行う、
ように構成されている、
走行体制御システム。
【請求項2】
床面を走行する走行体の進行方向の前方側に固定され、前記床面までの距離を測定する距離センサと、
前記走行体の傾きを測定する傾斜センサと、
前記走行体の走行を制御する1つ以上のコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、
前記走行体の走行中に、
前記距離センサで測定した前記床面までの距離が予め設定された距離閾値以上であるか否かを判定し、
前記傾斜センサで測定した前記走行体の傾きの絶対値が予め設定された傾斜閾値以上であるか否かを判定し、
前記床面までの距離が前記距離閾値以上であり、かつ前記走行体の傾きの絶対値が前記傾斜閾値未満であると判定した場合に前記走行体を停止する制御を行い、
前記床面までの距離が前記距離閾値以上であり、かつ前記走行体の傾きの絶対値が前記傾斜閾値以上であると判定した場合に前記走行体の走行を継続する制御を行う、
ように構成されている、
走行体制御システム。
【請求項3】
床面を走行する走行体の進行方向の前方側に固定され、前記床面までの距離を測定する距離センサと、
前記走行体の走行を制御する1つ以上のコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、
前記走行体が通常速度で走行中に、
前記距離センサで測定した前記床面までの距離の時間的な変化に基づいて、前記走行体の前方側の前記床面の傾斜角度を算出し、
前記床面の傾斜角度の絶対値が予め設定された角度閾値以上であるか否かを判定し、
前記床面の傾斜角度の絶対値が前記角度閾値以上である場合に前記走行体を前記通常速度よりも低速にする制御を行う、
ように構成されている、
走行体制御システム。
【請求項4】
前記コンピュータは、
前記走行体に固定されたセンサに基づいて、前記走行体が走行中の前記床面の傾斜角度を取得し、
前記床面の傾斜角度が予め設定された上り坂用角度閾値以上であるか否かを判定し、
前記床面の傾斜角度が前記上り坂用角度閾値以上である場合に前記走行体の走行に用いる駆動力を上げる制御を行い、
前記床面の傾斜角度が予め設定された下り坂用角度閾値以下であるか否かを判定し、
前記床面の傾斜角度が前記下り坂用角度閾値以下である場合に前記駆動力を下げる制御を行う、
ように構成されている、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の走行体制御システム。
【請求項5】
床面を走行する走行体の進行方向の前方側に固定され、前記床面までの距離を測定する第1距離センサと、
前記走行体の前方側かつ前記第1距離センサよりも後方側に固定され、前記床面までの距離を測定する第2距離センサと、
前記走行体の走行を制御する1つ以上のコンピュータと、
を用いて行う方法であり、
前記コンピュータが、
前記走行体の走行中に、
前記第1距離センサおよび前記第2距離センサで測定したそれぞれの前記床面までの距離の差分を算出し、
前記差分が予め設定された差分閾値以上であるか否かを判定し、
前記差分が前記差分閾値以上であると判定した場合に前記走行体を停止する制御を行う、
走行体制御方法。
【請求項6】
床面を走行する走行体の進行方向の前方側に固定され、前記床面までの距離を測定する距離センサと、
前記走行体の傾きを測定する傾斜センサと、
前記走行体の走行を制御する1つ以上のコンピュータと、
を用いて行う方法であり、
前記コンピュータが、
前記走行体の走行中に、
前記距離センサで測定した前記床面までの距離が予め設定された距離閾値以上であるか否かを判定し、
前記傾斜センサで測定した前記走行体の傾きの絶対値が予め設定された傾斜閾値以上であるか否かを判定し、
前記床面までの距離が前記距離閾値以上であり、かつ前記走行体の傾きの絶対値が前記傾斜閾値未満であると判定した場合に前記走行体を停止する制御を行い、
前記床面までの距離が前記距離閾値以上であり、かつ前記走行体の傾きの絶対値が前記傾斜閾値以上であると判定した場合に前記走行体の走行を継続する制御を行う、
走行体制御方法。
【請求項7】
床面を走行する走行体の進行方向の前方側に固定され、前記床面までの距離を測定する距離センサと、
前記走行体の走行を制御する1つ以上のコンピュータと、
を用いて行う方法であり、
前記コンピュータが、
前記走行体が通常速度で走行中に、
前記距離センサで測定した前記床面までの距離の時間的な変化に基づいて、前記走行体の前方側の前記床面の傾斜角度を算出し、
前記床面の傾斜角度の絶対値が予め設定された角度閾値以上であるか否かを判定し、
前記床面の傾斜角度の絶対値が前記角度閾値以上である場合に前記走行体を前記通常速度よりも低速にする制御を行う、
走行体制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、走行体制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の施設で稼働しているエスカレータは、点検員により保守点検が行われている。今後も、大型の商業施設の建設などによりエスカレータの台数は増えることが想定される。しかし、点検員の高齢化と人材不足などによる点検員の負荷低減が課題となっている。このような背景の解決手段として、点検の自動化または一部の点検作業を人間からロボットに置き換えるニーズがあり、そのようなロボットの開発が進められている。点検方法としては、例えば、エスカレータ自体にセンサを搭載することによって故障の予兆検知を行う技術が知られている。このような技術は、新規に設置されるエスカレータに対しては効果的であるが、既に設置されている膨大な数のエスカレータに対しては比較的容易に導入を行えるロボットを使った点検技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
停止しているエスカレータにロボットが乗り込む際に、ロボットはエスカレータの踏み段の端部を検出して停止する必要がある。ここで、上りのエスカレータでは、ロボットが踏み段の凸部を検出して停止する必要がある。一方、下りのエスカレータでは、ロボットが踏み段の凹部を検出して停止する必要がある。また、エスカレータの乗り込み口には斜面と段差があり、ロボットがエスカレータに乗り込む際にロボットが傾斜する。特に、掃除用ロボットに代表される自動走行ロボットには、床面との距離を測定して段差を検出する落下防止センサが搭載されている。しかし、同様の検出方法でロボットの前方に床面を検出するセンサが搭載されていても、傾斜面から水平面へ走行する際にセンサと床面との距離関係が変わるため、段差として誤検出してしまうおそれがある。
【0005】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、走行体が段差を誤検出してしまうことを抑制し、走行体が安定して走行を行うことができる走行体制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る走行体制御システムは、床面を走行する走行体の進行方向の前方側に固定され、前記床面までの距離を測定する第1距離センサと、前記走行体の前方側かつ前記第1距離センサよりも後方側に固定され、前記床面までの距離を測定する第2距離センサと、前記走行体の走行を制御する1つ以上のコンピュータと、を備え、前記コンピュータは、前記走行体の走行中に、前記第1距離センサおよび前記第2距離センサで測定したそれぞれの前記床面までの距離の差分を算出し、前記差分が予め設定された差分閾値以上であるか否かを判定し、前記差分が前記差分閾値以上であると判定した場合に前記走行体を停止する制御を行う、ように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、走行体が段差を誤検出してしまうことを抑制し、走行体が安定して走行を行うことができる走行体制御技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】下り坂の終端付近を走行している走行体を示す側面図。
【
図3】第1実施形態の走行体制御システムを示すブロック図。
【
図4】第1実施形態の走行体制御処理を示すフローチャート。
【
図6】段差が在る場合の距離センサから床面までの距離を示すグラフ。
【
図7】下り坂の終端付近の距離センサから床面までの距離を示すグラフ。
【
図9】第2実施形態の走行体制御システムを示すブロック図。
【
図10】第2実施形態の走行体制御処理を示すフローチャート。
【
図12】下り坂の始端付近を走行している走行体を示す側面図。
【
図13】第3実施形態の走行体制御処理を示すフローチャート。
【
図14】下り坂の終端付近の距離センサから床面までの距離を示すグラフ。
【
図15】下り坂の始端付近の距離センサから床面までの距離を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、走行体制御システムおよび走行体制御方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図7を用いて説明する。
【0010】
図1の符号1は、第1実施形態の走行体制御システムである。この走行体制御システム1は、点検用ロボットとしての走行体2の走行を制御する。なお、
図1から
図2の紙面右側を走行体2の正面側(前方側)として説明する。
【0011】
図1から
図2に示すように、走行体2は、その筐体の下部に複数の主車輪3と複数の補助車輪4を備える。走行体2は、主車輪3の回転駆動により走行する。補助車輪4は、走行体2の前方側に設けられ、走行体2を安定させる。
【0012】
図3に示すように、走行体制御システム1は、走行用モータ5と点検用カメラ6と通信部7と第1距離センサ8と第2距離センサ9と制御コンピュータ10とを備える。制御コンピュータ10は、処理回路11と記憶部12とを備える。
【0013】
走行用モータ5は、走行体2の筐体の内部に搭載され、主車輪3を回転駆動させる(
図1)。走行用モータ5によりそれぞれの主車輪3の回転が制御されることで、走行体2は、前進と後退と転回を行うことができる。
【0014】
点検用カメラ6は、走行体2の筐体の上部に搭載されている(
図1)。この点検用カメラ6は、例えば、パンチルトズームカメラで構成されている。つまり、点検用カメラ6は、水平方向への首振りが可能なパン機能、垂直方向への首振りが可能なチルト機能、ズームイン(望遠)とズームアウト(広角)が可能なズーム機能を有する。この点検用カメラ6により点検対象となる機器または構造物などの被写体の詳細な画像を撮影することができる。
【0015】
通信部7は、無線で通信を行う無線通信デバイスである。この通信部7により制御コンピュータ10が他のコンピュータと通信を行うことができる。例えば、制御コンピュータ10と他のコンピュータが、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網などの所定の通信回線を介して互いに接続されている。
【0016】
図1に示すように、走行体2の筐体の前方側の上部には、側面視で逆L字形状を成す支持部材13が固定されている。この支持部材13の上部は、走行体2の前方側に突出されている。この突出された部分に、第1距離センサ8と第2距離センサ9の2つのセンサが固定されている。
【0017】
第1距離センサ8は、支持部材13の最前方側に固定されている。第2距離センサ9は、第1距離センサ8よりも後方側に固定されている。第1距離センサ8と第2距離センサ9は、離間して設けられている。つまり、第1距離センサ8と第2距離センサ9は、走行体2の前後方向(水平方向)にずらして設けられている。
【0018】
第1距離センサ8と第2距離センサ9は、走行体2の筐体の前方側に突出した位置に設けられ、かつ下方を向き、赤外線、レーザ、超音波などを用いて床面20までの距離を測定する。ここで測定される距離は、一次元的な情報である。第1距離センサ8は、走行体2の進行方向の前方側の床面20までの距離を測定する。第2距離センサ9は、走行体2の進行方向の前方側、かつ第1距離センサ8よりも後方側の床面20までの距離を測定する。
【0019】
第1距離センサ8と第2距離センサ9のそれぞれの測定位置は、数センチ程度離れて(ずれて)設定されている。床面20に段差T1が在る場合には、先に第1距離センサ8が床面20までの距離の変化を検出し、少し遅れて第2距離センサ9が床面20までの距離の変化を検出する(
図6)。
【0020】
制御コンピュータ10は、走行体2の走行を制御する。この制御コンピュータ10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるものである。さらに、本実施形態の走行体制御方法は、各種プログラムを制御コンピュータ10に実行させることで実現される。
【0021】
なお、走行体制御システム1の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、1つの走行体制御システム1が、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータで実現されてもよい。例えば、走行体制御システム1が、それぞれ個別のコンピュータに搭載されていてもよい。
【0022】
処理回路11は、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、専用または汎用のプロセッサを備える回路である。このプロセッサは、記憶部12に記憶した各種のプログラムを実行することにより各種の機能を実現する。また、処理回路11は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても各種の機能を実現することができる。また、処理回路11は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0023】
記憶部12は、走行体制御処理を行うときに必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部12は、第1距離センサ8と第2距離センサ9で測定した値、これらの値に基づいて算出した値などを記憶する。
【0024】
図1から
図2に示すように、走行体2は、平坦な床面20を走行する。この走行体2は、床面20に段差T1が在る場合に走行を停止する。また、走行体2は、スロープのような傾斜した床面20を走行する。走行体2は、スロープの終端付近で、傾斜した床面20と平坦な床面20の傾きの変化を検出し、走行を継続する。なお、走行体2は、主に屋内の床面20を走行することを前提としているが、屋外の床面20を走行してもよい。
【0025】
以下の説明では、平坦な床面20の傾斜角度を0度として説明する。ここで、走行体2が上り坂を進む場合の床面20の傾斜角度をプラスの値で示し、走行体2が下り坂を進む場合の床面20の傾斜角度をマイナスの値で示す。例えば、傾斜角度が5度のスロープにおいて、走行体2がスロープを上る場合は、床面20の傾斜角度が+5度となり、走行体2がスロープを下る場合は、床面20の傾斜角度が-5度となる。
【0026】
なお、走行体2は、スロープを真っすぐ進むものとし、走行体2の傾きと床面20の傾斜角度とが同一であるとして説明する。また、走行体2がスロープを斜め方向に進んだ場合は、走行体2の傾きと床面20の傾斜角度とが厳密に一致しない場合が有り得るが、制御コンピュータ10は、走行体2の傾きと進行方向から床面20の傾斜角度を算出できるものとする。
【0027】
点検用ロボットとしての走行体2が点検対象としている構造物として、エスカレータ21を例示する。
図5は、エスカレータ21の乗り口(または降り口)付近を上方から見た平面図である。走行体2がエスカレータ21を点検する際には、エスカレータ21の駆動を停止する。そして、走行体2がエスカレータ21に進入し、点検用カメラ6で撮影を行う。
【0028】
エスカレータ21は、2つの移動手摺22の間に設けられた複数の踏段23を備える。1段目の踏段23の手前側には、カバープレート24が設けられている。このカバープレート24と1段目の踏段23との間には、コム25と呼ばれる僅かな傾斜が設けられている。このコム25は、カバープレート24から1段目の踏段23に向かって下がるように、僅かに傾斜している。なお、カバープレート24も僅かに傾斜している場合がある。
【0029】
一般的なエスカレータ21の場合、1段目と2段目の踏段23は、カバープレート24とほぼ同じ高さで、互いに平坦を成すように並んでいる。そして、3段目の踏段23から段差T1(
図1)が生じ始める。例えば、上りエスカレータ21の踏段23は、3段目から順次階段状に高くなり、下りエスカレータ21の踏段23は、3段目から順次階段状に低くなる。
【0030】
走行体2は、1段目と2段目の踏段23まで進入し、乗り口(または降り口)付近の撮影を行った後、エスカレータ21から後退する。撮影した画像は、所定の管理コンピュータ(図示略)に集められる。これらの画像を点検員が確認することで、エスカレータ21の異常の有無がチェックされる。
【0031】
図1に示すように、走行体制御システム1は、第1距離センサ8と第2距離センサ9を用いて、エスカレータ21(
図5)の2段目と3段目の踏段23に生じた段差T1を検出する。ここで、一般的な階段(図示略)の場合は、床面20と1段目の踏段との段差が大きいため、この段差を検出するための閾値を大きな値に設定し、かつ閾値の許容範囲も大きくできる。
【0032】
一方、エスカレータ21(
図5)の場合は、2段目と3段目の踏段23の段差T1が小さく、この段差を検出するための閾値が小さい値に設定され、かつ閾値の許容範囲も小さくしなければならない。さらに、コム25の部分の段差は、誤検出されないように設定する必要がある。このため、各種の閾値の設定がシビアになる。そこで、停止しているエスカレータ21への走行体2の乗り込みと位置決めを安定して行うことが求められている。
【0033】
第1実施形態の走行体制御システム1は、第1距離センサ8と第2距離センサ9を用いることで、2段目と3段目の踏段23の段差T1を検出し、かつコム25の部分の段差を誤検出しないようにしている。また、床面20の傾斜と段差T1とを区別し、段差T1の誤検出を抑制し、走行体2が安定して走行できるようにしている。
【0034】
なお、第1距離センサ8と第2距離センサ9のそれぞれの測定位置は、数センチ程度離れて設定されているが、この離間距離をコム25の幅よりも狭く設定してもよい。このようにすれば、コム25の傾斜と踏段23の段差T1とを区別することができる。
【0035】
以下の説明において、走行体2が上り坂または下り坂を走行する場合を例示するが、対象となる坂は、コム25でもよいし、一般的なスロープでもよいものとする。
【0036】
図6のグラフは、走行体制御システム1が段差T1を検出するときの第1距離センサ8の出力波形W1と第2距離センサ9の出力波形W2を示している。このグラフに示すように、走行体2が段差T1に近づくと、最初に第1距離センサ8から床面20までの距離が短くなる。そして、若干遅れて第2距離センサ9から床面20までの距離が短くなる。このときに生じる出力波形W1,W2の差分D1が判定の対象となる。
【0037】
さらに、
図2に示すように、走行体制御システム1は、下り坂(スロープ)の終端付近で床面20の傾斜角度が変化する部分を走行体2が通過するときに、床面20の傾斜の変化と段差T1(
図1)とを区別することができる。
【0038】
図7のグラフは、走行体2が下り坂の終端付近を通過するときの第1距離センサ8の出力波形W3と第2距離センサ9の出力波形W4を示している。このグラフに示すように、走行体2が下り坂の終端付近に近づくと、最初に第1距離センサ8から床面20までの距離が短くなり始める。そして、若干遅れて第2距離センサ9から床面20までの距離が短くなり始める。このときの出力波形W3,W4の変化は、床面20に段差T1が在る場合(
図6)に比べて緩やかである。さらに、走行体2が下り坂の終端を抜けると、第1距離センサ8から床面20までの距離が戻り、若干遅れて第2距離センサ9から床面20までの距離が戻る。
【0039】
ここで、走行体2が下り坂の終端付近を通過するときにも出力波形W3,W4の差分D2(
図7)が生じるが、この差分D2は、床面20に段差T1が在る場合の差分D1(
図6)と比較して小さい値となる。これら差分D1,D2に基づいて、床面20の傾斜の変化と段差T1とを区別することができる。
【0040】
第1実施形態では、差分D1を判定するための差分閾値が予め設定されている。この差分閾値は、制御コンピュータ10の記憶部12(
図3)に記憶されている。
【0041】
また、走行体制御システム1は、走行体2が上り坂または下り坂を走行するときに、走行用モータ5の駆動力を変更する制御を行う。例えば、走行体2が上り坂を上る場合は、走行用モータ5を高出力にする。一方、走行体2が下り坂を下る場合は、走行用モータ5を低出力にする。このようにすれば、走行体2が上り坂または下り坂を走行するときに、安定した走行を行うことができる。
【0042】
第1実施形態では、床面20の傾斜角度を判定するための上り坂用角度閾値と下り坂用角度閾値が予め設定されている。これら上り坂用角度閾値と下り坂用角度閾値は、制御コンピュータ10の記憶部12(
図3)に記憶されている。
【0043】
次に、制御コンピュータ10が実行する走行制御処理について
図4のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、走行制御処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが走行制御処理に含まれていてもよい。
【0044】
この走行制御処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。この走行制御処理が繰り返されることで、走行体制御システム1で走行制御方法が実行される。なお、制御コンピュータ10が他のメイン処理を実行中に、この処理を割り込ませて実行してもよい。
【0045】
まず、ステップS1において、処理回路11(
図3)は、走行体2(
図1)が走行中であるか否かを判定する。ここで、走行体2が走行中である場合(ステップS1でYESの場合)は、ステップS2に進む。一方、走行体2が走行中でない場合(ステップS1でNOの場合)は、走行制御処理を終了する。
【0046】
ステップS2において、第1距離センサ8(
図1)は、第1距離センサ8から床面20までの距離を測定する。このときの測定値は、記憶部12(
図3)に記憶される。
【0047】
次のステップS3において、第2距離センサ9(
図1)は、第2距離センサ9から床面20までの距離を測定する。このときの測定値は、記憶部12に記憶される。
【0048】
次のステップS4において、処理回路11は、第1距離センサ8および第2距離センサ9で測定したそれぞれの床面20までの距離の差分D1(
図6)を算出する。
【0049】
次のステップS5において、処理回路11は、差分D1が差分閾値以上であるか否かを判定する。ここで、差分D1が差分閾値以上である場合(ステップS5でYESの場合)は、ステップS6に進む。一方、差分D1が差分閾値未満である場合(ステップS5でNOの場合)は、ステップS7に進む。
【0050】
ステップS6において、処理回路11は、走行体2を停止する制御を行う。差分D1が差分閾値以上であるため、走行の障害となる段差T1(
図1)が在るものとして、走行体2が停止するようになっている。そして、走行制御処理を終了する。
【0051】
ステップS7において、処理回路11は、走行体2が走行中の床面20の傾斜角度を取得する。ここで、処理回路11は、走行体2に固定された第1距離センサ8と第2距離センサ9とに基づいて、床面20の傾斜角度を算出する。例えば、第1距離センサ8と第2距離センサ9とが測定したそれぞれの床面20までの距離の時間的の変化に基づいて、床面20の傾斜角度を算出する。なお、走行体2が走行した経路の記録、または、第1距離センサ8と第2距離センサ9とが測定したそれぞれの床面20までの距離の差分D1に基づいて、床面20の傾斜角度を算出してもよい。
【0052】
次のステップS8において、処理回路11は、走行体2が走行している床面20の傾斜角度が上り坂用角度閾値以上であるか否かを判定する。ここで、床面20の傾斜角度が上り坂用角度閾値以上である場合(ステップS8でYESの場合)は、ステップS9に進む。一方、床面20の傾斜角度が上り坂用角度閾値未満である場合(ステップS8でNOの場合)は、ステップS10に進む。
【0053】
例えば、上り坂用角度閾値が+4度に設定されている場合、床面20の傾斜角度が+4度以上か否かを判定する。ここで、床面20の傾斜角度が+5度の場合は、上り坂用角度閾値以上である。
【0054】
ステップS9において、処理回路11は、走行体2の走行に用いる駆動力を上げる制御を行う。例えば、処理回路11は、走行用モータ5(
図3)を高出力にする。この高出力にする制御は、走行体2の速度を上げる制御でもよい。そして、走行制御処理を終了する。
【0055】
ステップS10において、処理回路11は、走行体2が走行している床面20の傾斜角度が下り坂用角度閾値以下であるか否かを判定する。ここで、床面20の傾斜角度が下り坂用角度閾値以下である場合(ステップS10でYESの場合)は、ステップS11に進む。一方、床面20の傾斜角度が下り坂用角度閾値を超えている場合(ステップS10でNOの場合)は、走行制御処理を終了する。
【0056】
例えば、下り坂用角度閾値が-4度に設定されている場合、床面20の傾斜角度が-4度以下か否かを判定する。ここで、床面20の傾斜角度が-5度の場合は、下り坂用角度閾値以下である。
【0057】
ステップS11において、処理回路11は、走行体2の走行に用いる駆動力を下げる制御を行う。例えば、処理回路11は、走行用モータ5(
図3)を低出力にする。この低出力にする制御は、走行体2の速度を下げる制御でもよい。そして、走行制御処理を終了する。
【0058】
なお、第1実施形態では、第1距離センサ8と第2距離センサ9が支持部材13に固定されているが、その他の態様でもよい。例えば、第1距離センサ8と第2距離センサ9が走行体2の筐体の前面に固定されてもよい。その場合には、第1距離センサ8と第2距離センサ9が水平方向の同一位置に設けられてもよい。そして、第1距離センサ8と第2距離センサ9から、レーザが床面20に向かって斜め方向に照射されてもよい。それぞれのレーザの照射位置が、走行体2の前後方向(水平方向)にずれていればよい。そして、それぞれの床面20までの距離、つまり、床面20の高さが測定されてもよい。
【0059】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について
図8から
図10を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、
図8の紙面右側を走行体2の正面側(前方側)として説明する。
【0060】
図8から
図9に示すように、第2実施形態の走行体制御システム1Aは、前述の第1実施形態と異なり、1つの距離センサ30と1つの傾斜センサ31とを備える。他の構成は、第1実施形態と同一である。
【0061】
距離センサ30は、支持部材13により走行体2の進行方向の前方側に固定され、床面20までの距離を測定する。
【0062】
傾斜センサ31は、走行体2の筐体に固定されている。傾斜センサ31は、走行体2の筐体の傾きを測定する。この傾斜センサ31は、例えば、モーションセンサである。モーションセンサは、慣性センサ(3軸加速度センサと3軸角速度センサ)と3軸地磁気センサを組み合わせた9軸センサである。
【0063】
図8に示すように、距離センサ30が1つである場合には、段差が無いにも関わらず、床面20の傾斜の変化により生じる距離差T2を段差として誤検出してしまうおそれがある。例えば、下り坂(スロープ)の終端付近で床面20の傾斜角度が変化する部分を走行体2が通過する場合がある。この場合において、走行体2の筐体は、床面20の傾斜面に在るが、距離センサ30は、床面20の平坦な部分を測定してしまう。ここで生じる距離差T2が段差として誤検出されてしまう。第2実施形態の走行体制御システム1Aは、この段差の誤検出を防ぐことができる。
【0064】
第2実施形態では、距離センサ30から床面20までの距離を判定するための距離閾値が予め設定されている。さらに、走行体2の傾きを判定するための傾斜閾値が予め設定されている。これら距離閾値と傾斜閾値は、制御コンピュータ10の記憶部12(
図9)に記憶されている。
【0065】
次に、第2実施形態の制御コンピュータ10が実行する走行制御処理について
図10のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、走行制御処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが走行制御処理に含まれていてもよい。
【0066】
この走行制御処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。この走行制御処理が繰り返されることで、走行体制御システム1Aで走行制御方法が実行される。なお、制御コンピュータ10が他のメイン処理を実行中に、この処理を割り込ませて実行してもよい。
【0067】
まず、ステップS21において、処理回路11(
図9)は、走行体2(
図8)が走行中であるか否かを判定する。ここで、走行体2が走行中である場合(ステップS21でYESの場合)は、ステップS22に進む。一方、走行体2が走行中でない場合(ステップS21でNOの場合)は、走行制御処理を終了する。
【0068】
ステップS22において、距離センサ30(
図8)は、距離センサ30から床面20までの距離を測定する。このときの測定値は、記憶部12(
図9)に記憶される。
【0069】
次のステップS23において、傾斜センサ31(
図8)は、走行体2の筐体の傾きを測定する。このときの測定値は、記憶部12に記憶される。
【0070】
次のステップS24において、処理回路11は、距離センサ30で測定した床面20までの距離が距離閾値以上であるか否かを判定する。ここで、床面20までの距離が距離閾値以上である場合(ステップS24でYESの場合)は、ステップS25に進む。一方、床面20までの距離が距離閾値未満である場合(ステップS24でNOの場合)は、ステップS27に進む。
【0071】
ステップS25において、処理回路11は、傾斜センサ31で測定した走行体2の傾きの絶対値が傾斜閾値以上であるか否かを判定する。ここで、走行体2の傾きの絶対値が傾斜閾値以上である場合(ステップS25でYESの場合)は、ステップS27に進む。一方、走行体2の傾きの絶対値が傾斜閾値未満である場合(ステップS25でNOの場合)は、ステップS26に進む。
【0072】
例えば、傾斜閾値が4度に設定され、走行体2の傾きが+3度の場合は、走行体2の傾きの絶対値は、傾斜閾値未満である。また、傾斜閾値が4度に設定され、走行体2の傾きが-3度の場合は、走行体2の傾きの絶対値は、傾斜閾値未満である。
【0073】
ステップS26において、処理回路11は、走行体2を停止する制御を行う。そして、走行制御処理を終了する。
【0074】
処理回路11は、床面20までの距離が距離閾値以上であり、かつ走行体2の傾きの絶対値が傾斜閾値未満であると判定した場合に、走行の障害となる段差が在るものとして走行体2を停止する制御を行う。一方、処理回路11は、床面20までの距離が距離閾値以上であり、かつ走行体2の傾きの絶対値が傾斜閾値以上であると判定した場合に、走行の障害となる段差が無いものとして走行体2の走行を継続する制御を行う。
【0075】
なお、走行体2の傾きの絶対値が傾斜閾値未満である場合の距離閾値(第1距離閾値:平面走行時の閾値)と、走行体2の傾きの絶対値が傾斜閾値以上である場合の距離閾値(第2距離閾値:傾斜面走行時の閾値)とを適宜切り替えてもよい。つまり、平面走行時と傾斜面走行時とで異なる距離閾値が用いられてもよい。
【0076】
ステップS27において、処理回路11は、走行体2が走行中の床面20の傾斜角度を取得する。ここで、処理回路11は、走行体2の筐体に固定された傾斜センサ31に基づいて、床面20の傾斜角度を取得する。なお、距離センサ30が測定した床面20までの距離の時間的の変化、または、走行体2が走行した経路の記録に基づいて、床面20の傾斜角度を算出してもよい。
【0077】
次のステップS28からS31の処理は、第1実施形態のステップS8からS11(
図4)の処理と同一なので説明を省略する。
【0078】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について
図11から
図15を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、
図11から
図12の紙面右側を走行体2の正面側(前方側)として説明する。
【0079】
第3実施形態の走行体制御システム1Bが備える構成は、前述の第2実施形態と同一である。つまり、第3実施形態のブロック図は、前述の
図9を適宜参照する。
【0080】
例えば、エスカレータ21(
図5)の乗り口(または降り口)付近、または、スロープなどの始端または終端付近を、走行体2が走行する場合がある。この場合において、走行体2の移動速度が一定であると、床面20の傾斜角度が変化する部分を走行体2が通過するときに、走行体2に衝撃が加わるおそれがある。
【0081】
第3実施形態の走行体制御システム1Bは、走行体2がスロープなどの傾斜面の出入り口を走行するときに、床面20の傾斜角度の変化を検出する。そして、走行体制御システム1Bは、一時的に走行体2の移動速度を減速し、走行体2に加わる衝撃を緩和するようにしている。
【0082】
例えば、
図11に示すように、走行体2が下り坂の終端付近を走行する場合がある。このときの距離センサ30の出力波形W5が
図14のグラフに示されている。走行体2が下り坂の傾斜面を走行しているときは、通常速度で走行している。ここで、走行体2が下り坂の終端付近に近づくと、距離センサ30から床面20までの距離が一時的に短くなる。そして、走行体2が下り坂の終端を抜けると、再び距離センサ30から床面20までの距離が戻る。つまり、距離センサ30の出力波形W5は、緩やかな直線または曲線から成る下に凸の形状となる。
【0083】
走行体制御システム1Bは、走行体2が下り坂の終端付近に近づくと、走行体2を減速し、低速走行させる。このようにすれば、走行体2に加わる衝撃を緩和することができる。そして、走行体制御システム1Bは、走行体2が下り坂の終端を抜けると、再び通常速度に戻す制御を行う。
【0084】
また、
図12に示すように、走行体2が下り坂の始端付近を走行する場合がある。このときの距離センサ30の出力波形W6が
図15のグラフに示されている。走行体2が平坦面を走行しているときは、通常速度で走行している。ここで、走行体2が下り坂の始端付近に近づくと、距離センサ30から床面20までの距離が一時的に長くなる。そして、走行体2が下り坂に入ると、再び距離センサ30から床面20までの距離が戻る。つまり、距離センサ30の出力波形W6は、緩やかな直線または曲線から成る上に凸の形状となる。
【0085】
走行体制御システム1Bは、走行体2が下り坂の始端付近に近づくと、走行体2を減速し、低速走行させる。このようにすれば、走行体2に加わる衝撃を緩和することができる。そして、走行体制御システム1Bは、走行体2が下り坂に入ると、再び通常速度に戻す制御を行う。
【0086】
ここで、走行体制御システム1Bは、距離センサ30で測定した床面20までの距離の時間的な変化に基づいて、走行体2の前方側の床面20の傾斜角度を算出する。例えば、第1時刻に測定した距離センサ30から床面20までの距離と、第1時刻よりも後の第2時刻に測定した距離センサ30から床面20までの距離との差分に基づいて、床面20の高さの変化量が分かる。この変化量に基づいて、走行体2の前方側の床面20の傾斜角度を算出することができる。
【0087】
第3実施形態では、床面20の傾斜角度を判定するための角度閾値が予め設定されている。この角度閾値は、制御コンピュータ10の記憶部12(
図9)に記憶されている。
【0088】
次に、第3実施形態の制御コンピュータ10が実行する走行制御処理について
図13のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、走行制御処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが走行制御処理に含まれていてもよい。
【0089】
この走行制御処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。この走行制御処理が繰り返されることで、走行体制御システム1Bで走行制御方法が実行される。なお、制御コンピュータ10が他のメイン処理を実行中に、この処理を割り込ませて実行してもよい。
【0090】
まず、ステップS41において、処理回路11(
図9)は、走行体2(
図11)が走行中であるか否かを判定する。ここで、走行体2が走行中である場合(ステップS41でYESの場合)は、ステップS42に進む。一方、走行体2が走行中でない場合(ステップS41でNOの場合)は、走行制御処理を終了する。
【0091】
ステップS42において、距離センサ30(
図11)は、距離センサ30から床面20までの距離を測定する。このときの測定値は、記憶部12(
図9)に記憶される。
【0092】
次のステップS43において、処理回路11は、走行体2の前方側の床面20の傾斜角度を算出する。ここで、処理回路11は、記憶部12に記憶された距離センサ30から床面20までの距離の測定値を参照し、床面20までの距離の時間的な変化に基づいて、走行体2の前方側の床面20の傾斜角度を算出する。
【0093】
次のステップS44において、処理回路11は、走行体2の前方側の床面20の傾斜角度の絶対値が角度閾値以上であるか否かを判定する。ここで、床面20の傾斜角度の絶対値が角度閾値以上である場合(ステップS44でYESの場合)は、ステップS45に進む。一方、床面20の傾斜角度の絶対値が角度閾値未満である場合(ステップS44でNOの場合)は、ステップS46に進む。
【0094】
例えば、角度閾値が4度に設定され、床面20の傾斜角度が+5度の場合は、床面20の傾斜角度の絶対値は、角度閾値以上である。また、角度閾値が4度に設定され、床面20の傾斜角度が-5度の場合は、床面20の傾斜角度の絶対値は、角度閾値以上である。
【0095】
ステップS45において、処理回路11は、走行体2を通常速度よりも低速にする制御を行う。例えば、処理回路11は、走行用モータ5(
図9)を低出力にする。これにより走行体2の速度が下がる。そして、走行制御処理を終了する。
【0096】
ステップS46において、傾斜センサ31(
図11)は、走行体2の筐体の傾きを測定する。このときの測定値は、記憶部12に記憶される。
【0097】
次のステップS47において、処理回路11は、走行体2が走行中の床面20の傾斜角度を取得する。つまり、処理回路11は、走行体2の筐体が載っている床面20の傾斜角度を取得する。ここで、処理回路11は、走行体2の筐体に固定された傾斜センサ31に基づいて、床面20の傾斜角度を取得する。なお、距離センサ30が測定した床面20までの距離の時間的の変化、または、走行体2が走行した経路の記録に基づいて、床面20の傾斜角度を算出してもよい。
【0098】
次のステップS48からS51の処理は、第1実施形態のステップS8からS11(
図4)の処理と同一なので説明を省略する。
【0099】
以上、走行体制御システムおよび走行体制御方法が第1実施形態から第3実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。
【0100】
なお、前述の実施形態において、基準値(閾値)を用いた任意の値(測定値など)の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でもよいし、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でもよいし、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でもよいし、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でもよい。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものでもよい。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定を行ってもよい。また、予め装置に生じる誤差が解析され、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲が判定に用いられてもよい。
【0101】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わってもよい。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されてもよい。
【0102】
前述の実施形態のシステムは、FPGA、GPU、CPUおよび専用のチップなどのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROMおよびRAMなどの記憶装置と、HDDおよびSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスおよびキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0103】
なお、前述の実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。追加的または代替的に、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されて提供される。
【0104】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータに格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0105】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、走行体2に固定されたセンサを備えることにより、走行体2が段差を誤検出してしまうことを抑制し、走行体2が安定して走行を行うことができる。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0107】
1,1A,1B…走行体制御システム、2…走行体、3…主車輪、4…補助車輪、5…走行用モータ、6…点検用カメラ、7…通信部、8…第1距離センサ、9…第2距離センサ、10…制御コンピュータ、11…処理回路、12…記憶部、13…支持部材、20…床面、21…エスカレータ、22…移動手摺、23…踏段、24…カバープレート、25…コム、30…距離センサ、31…傾斜センサ、D1,D2…差分、T1…段差、T2…距離差、W1,W2,W3,W4,W5,W6…出力波形。