(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007524
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】アルファ線放出核種で標識された抗CD82抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20240110BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240110BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240110BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240110BHJP
A61K 33/241 20190101ALI20240110BHJP
A61K 33/245 20190101ALI20240110BHJP
A61K 33/244 20190101ALI20240110BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20240110BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240110BHJP
A61K 51/02 20060101ALI20240110BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C07K16/30
A61K39/395 T ZNA
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61K33/241
A61K33/245
A61K33/244
A61K33/24
A61K47/68
A61K51/02
C07K16/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109103
(22)【出願日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022108025
(32)【優先日】2022-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】522269130
【氏名又は名称】株式会社細胞工学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池添 隆之
(72)【発明者】
【氏名】趙 松吉
(72)【発明者】
【氏名】織内 昇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美穂
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 剣一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和弘
(72)【発明者】
【氏名】鷲山 幸信
(72)【発明者】
【氏名】右近 直之
(72)【発明者】
【氏名】下山 彩希
(72)【発明者】
【氏名】立花 太郎
(72)【発明者】
【氏名】波田 千彰
(72)【発明者】
【氏名】王 彩霞
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG04
4C085KA03
4C085KA29
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA66
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4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】急性白血病に対して有効な新たな治療剤を提供することを課題とする。
【解決手段】アルファ線放出核種で標識された抗CD82抗体又はその断片を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための抗CD82抗体又はその断片であって、アルファ線放出核種で標識された、前記抗CD82抗体又はその断片。
【請求項2】
前記抗CD82抗体又はその断片が、
配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む重鎖可変領域と
配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
アミノ酸配列Arg-Ala-ThrからなるCDR2、及び
配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗CD82抗体又はその断片。
【請求項3】
前記抗CD82抗体又はその断片が、
配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む、請求項2に記載の抗CD82抗体又はその断片。
【請求項4】
前記アルファ線放出核種が、アスタチン-211、アクチニウム-225、ラジウム-223、ラジウム-224、ビスマス-212、ビスマス-213、鉛-212、トリウム-227、ウラン-230、及びテルビウム-149からなる群から選択される、請求項1に記載の抗CD82抗体又はその断片。
【請求項5】
ヒト化抗体である、請求項1に記載の抗CD82抗体又はその断片。
【請求項6】
抗CD82抗体又はその断片であって、
配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む重鎖可変領域と
配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
アミノ酸配列Arg-Ala-ThrからなるCDR2、及び
配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む軽鎖可変領域を含む、前記抗CD82抗体又はその断片。
【請求項7】
前記抗CD82抗体又はその断片が、
配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む、請求項6に記載の抗CD82抗体又はその断片。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗CD82抗体又はその断片からなる、急性白血病細胞の細胞死誘導剤。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗CD82抗体又はその断片を含む、急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための医薬組成物。
【請求項10】
前記急性白血病が、最未分化型急性骨髄性白血病(AML-M0)、未分化型急性骨髄性白血病(AML-M1)、分化型急性骨髄性白血病(AML-M2)、急性前骨髄球性白血病(AML-M3)、急性骨髄単球性白血病(AML-M4)、急性単球性白血病(AML-M5)、急性赤白血病(AML-M6)、及び急性巨核芽球性白血病(AML-M7)からなる群から選択される急性骨髄性白血病である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群が、治療抵抗性及び/又は再発性である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
静脈内投与、皮下投与、骨髄内投与、又は腫瘍内投与される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記抗CD82抗体又はその断片の1回の投与量が4.4MBq/kg体重~66MBq/kg体重である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗CD82抗体又はその断片を含む、アルファ線放出核種標識用キット。
【請求項15】
さらに前記抗CD82抗体又はその断片をアルファ線放出核種で標識するための試薬を含む、請求項14に記載のアルファ線放出核種標識用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するためのアルファ線放出核種で標識された抗CD82抗体又はその断片、白血病細胞の細胞死誘導剤、及び急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)の発症率は、人口10万人当たり約2~3人とされる。急性骨髄性白血病患者の発症数は、年齢が高くなるにつれて増加し、好発年齢は60歳代である。急性骨髄性白血病では、長期生存率は5割を下回っている。
【0003】
急性骨髄性白血病では、抗がん剤等を用いた治療による根治がしばしば困難であり、治療抵抗性の獲得や再発が大きな問題となっている。これは、骨髄中の微小環境(ニッチ)に留まる白血病幹細胞の一部が細胞周期の休眠期に留まっており、主として増殖性の細胞を標的とする抗がん剤等の作用から逃れることに起因すると考えられている。抗がん剤治療により増殖期の白血病細胞の大部分が死滅した後も、このような一部の白血病幹細胞が残存し、治療抵抗性を獲得してしまう。残存した白血病幹細胞が再発に関与することが、根治が困難である原因と考えられている。それ故、65歳以上の急性骨髄性白血病患者では5年生存率は極めて低く、約5%に留まっている。
【0004】
過去に開発された急性骨髄性白血病の治療薬としては、ゲムツズマブ・オゾガマイシン(gemtuzumab ozogamicin;GO)が挙げられる。GOは、急性骨髄性白血病細胞が発現するCD33抗原を標的とする抗体薬物複合体である。GOは、治療抵抗性又は再発性の急性骨髄性白血病に対する有望な治療薬として2000年にFDAにより承認された。しかしながら、期待されていた全生存率の改善効果が認められなかったため、2010年に米国市場から撤退し、2011年に承認が取り消された(非特許文献1)。その後、GOは、急性骨髄性白血病を対象とするダウノルビシン及びシタラビンとの併用剤として、並びにCD33陽性の急性骨髄性白血病を対象とする単剤治療薬として、2017年に再度承認された(非特許文献1)。しかし、GOの効果は限定的であり、一過性の効果を奏する場合はあっても、根治を達成するものではない。
【0005】
近年では、脱メチル化薬であるアザシチヂンや、Bcl-2阻害薬であるベネトクラクスも急性骨髄性白血病に対する治療薬として承認されている。しかし、いずれも完治が見込めるものではなく、効果は十分とは言えない。
【0006】
したがって、治療抵抗性又は再発性の急性骨髄性白血病に対して有効な新たな治療薬の開発が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jen, E.Y., et al., Clin Cancer Res. 2018, 24(14):3242-3246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、急性白血病に対して有効な新たな治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
急性白血病の骨髄では、一部の白血病幹細胞(Leukemia stem cell;LSC)が、血管内皮細胞や骨芽細胞等から構成される骨髄微小環境(ニッチ)において、細胞周期の休眠期に留まっている。この休眠中のがん細胞は、増殖性の細胞を標的とする抗がん剤等に対して抵抗性を有する。それ故、治療によって根絶されず、治療抵抗性や再発をもたらす主要な原因と考えられている。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、骨髄中のニッチに存在する白血病細胞をアルファ線放出核種により選択的に傷害すれば、休眠中の白血病幹細胞を死滅することが可能となり、治療抵抗性又は再発性の急性白血病に対する新たな治療方法となり得るという着想を得た。アルファ線放出核種は、通常の抗がん剤等とは異なり、細胞周期等の細胞の状態に依存することなく、不逆的な殺細胞効果を有するためである。
【0011】
アルファ線はベータ線と比べて組織内飛程が非常に短く、単位長さ当りの組織に与えるエネルギー(LET)が極めて大きいことが知られている。アルファ線は、この性質に基づきDNAの2本鎖を同時に切断することが可能であり、細胞周期等の細胞の状態に依存せず不逆的な殺細胞効果を有する。その一方、組織内飛程が非常に短いため、周囲の正常細胞に対する障害を低く抑えられる利点も備えている。
【0012】
本発明者らは、上記の着想に基づき、骨髄白血病細胞において高発現することが知られているCD82抗原を認識する抗体をアルファ線放出核種で標識し、白血病モデルマウスに投与した結果、顕著な治療効果が得られることを見出した。さらに、CD82抗原を極めて高い感度で認識し得る新たな抗CD82モノクローナル抗体を開発することにも成功した。本発明は、上記知見に基づくものであって以下を提供する。
【0013】
(1)急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための抗CD82抗体又はその断片であって、アルファ線放出核種で標識された、前記抗CD82抗体又はその断片。(2)前記抗CD82抗体又はその断片が、
配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む重鎖可変領域と
配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
アミノ酸配列Arg-Ala-ThrからなるCDR2、及び
配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む軽鎖可変領域を含む、(1)に記載の抗CD82抗体又はその断片。
(3)前記抗CD82抗体又はその断片が、
配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む、(2)に記載の抗CD82抗体又はその断片。
(4)前記アルファ線放出核種が、アスタチン-211、アクチニウム-225、ラジウム-223、ラジウム-224、ビスマス-212、ビスマス-213、鉛-212、トリウム-227、ウラン-230、及びテルビウム-149からなる群から選択される、(1)に記載の抗CD82抗体又はその断片。
(5)ヒト化抗体である、(1)に記載の抗CD82抗体又はその断片。
(6)抗CD82抗体又はその断片であって、
配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び
配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む重鎖可変領域と
配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、
アミノ酸配列Arg-Ala-ThrからなるCDR2、及び
配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3
を含む軽鎖可変領域を含む、前記抗CD82抗体又はその断片。
(7)前記抗CD82抗体又はその断片が、
配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び
配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む、(6)に記載の抗CD82抗体又はその断片。
(8)(1)~(5)のいずれかに記載の抗CD82抗体又はその断片からなる、急性白血病細胞の細胞死誘導剤。
(9)(1)~(5)のいずれかに記載の抗CD82抗体又はその断片を含む、急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための医薬組成物。
(10)前記急性白血病が、最未分化型急性骨髄性白血病(AML-M0)、未分化型急性骨髄性白血病(AML-M1)、分化型急性骨髄性白血病(AML-M2)、急性前骨髄球性白血病(AML-M3)、急性骨髄単球性白血病(AML-M4)、急性単球性白血病(AML-M5)、急性赤白血病(AML-M6)、及び急性巨核芽球性白血病(AML-M7)からなる群から選択される急性骨髄性白血病である、(9)に記載の医薬組成物。
(11)前記急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群が、治療抵抗性及び/又は再発性である、(9)に記載の医薬組成物。
(12)静脈内投与、皮下投与、骨髄内投与、又は腫瘍内投与される、(9)に記載の医薬組成物。
(13)前記抗CD82抗体又はその断片の1回の投与量が4.4MBq/kg体重~66MBq/kg体重である、(9)に記載の医薬組成物。
(14)(1)~(5)のいずれかに記載の抗CD82抗体又はその断片を含む、アルファ線放出核種標識用キット。
(15)さらに前記抗CD82抗体又はその断片をアルファ線放出核種で標識するための試薬を含む、(14)に記載のアルファ線放出核種標識用キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、急性骨髄性白血病に対して有効な新たな治療剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
125I標識抗CD82抗体のU937細胞への取り込み量を測定した結果を示す図である。
125I標識抗CD82抗体は、単独で、又は20倍量の非標識抗CD82抗体と混合した条件にてU937細胞に添加した。結果は96 wellマイクロプレートにて3 wellの測定結果の平均値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【
図2】皮下担癌マウスに投与した
125I又は
211At標識抗CD82抗体の皮下腫瘍組織への集積を示す図である。結果は各時間ポイントにてn=4~5の測定結果の平均値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【
図3】骨髄担癌マウスに投与した
211At標識抗CD82抗体の骨髄腫瘍組織への集積を示す図である。
図3Aは実験方法の概要を示す。
図3Bは、骨髄腫瘍組織から検出された放射能の測定値を示す。結果は各時間ポイントにてn=3の測定結果の平均値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【
図4】皮下担癌マウスにおける
211At標識抗CD82抗体に基づく腫瘍成長抑制効果を示す図である。非標識抗CD82抗体投与群(n=3)、及び
211At標識抗CD82抗体投与群(n=3)における、腫瘍サイズの時間変化を示す。
【
図5】骨髄担癌マウスにおける
211At標識抗CD82抗体に基づく生存期間延長効果を示す図である。
図5Aは、U937細胞移植から8日目に非標識抗CD82抗体又は
211At標識抗CD82抗体(0.37MBq又は1.11MBq)を投与した場合の累積生存率を示す(各群n=3)。
図5Bは、U937細胞移植から12日目に非標識抗CD82抗体又は
211At標識抗CD82抗体(0.37MBq又は1.11MBq)を投与した場合の累積生存率を示す(各群n=3)。
【
図6】FMU-3H10H4抗体を用いた免疫染色により、急性骨髄性白血病細胞株においてCD82タンパク質を検出した結果を示す図である。スケールバーは50μmを示す。
【
図7】FMU-3H10H4抗体及び対照抗体(abcam, ab59509)を用いた免疫染色により、MOLM13(FAB分類M5a)細胞に由来する皮下腫瘍組織においてCD82タンパク質を検出した結果を示す図である。スケールバーは50μmを示す。
【
図8】FMU-3H10H4抗体又は対照抗体(abcam, ab59509)を用いてU937細胞(FAB分類M5b)、HL60細胞(FAB分類M2)、及びTHP-1(FAB分類M4)細胞に対して免疫染色を実施し、CD82陽性細胞の割合を測定した結果を示す図である。
【
図9】FMU-hCD82キメラ抗体、FMU-hCD82抗体(FMU-3H10H4抗体)、及び対照抗体(abcam, ab59509)を用いてU937細胞に対して免疫染色を実施した結果を示す。スケールバーは50μmを示す。
【
図10】皮下担癌マウスに投与した
211At標識抗CD82キメラ抗体の体内動態及び腫瘍に取り込まれた抗体の量を検討した結果を示す。
【
図11】腫瘍サイズ及び腫瘍の重量を示す図である。摘出前の腫瘍サイズを「外側(mm3)」として示し、摘出後の腫瘍サイズを「実測(mm3)」として示す。また、摘出後の腫瘍の重量を「重量(mg)」として示す。結果はn=3の測定結果の平均値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【
図12】腫瘍組織の単位重量当たりの放射能測定値の投与放射能総量に対する割合(%ID/g)、及び全体腫瘍組織の放射能測定値の投与放射能総量に対する割合(%ID)を示す。結果はn=3の測定結果の平均値を示し、エラーバーは標準偏差を示す。
【
図13】皮下担癌マウスにおける
211At標識抗CD82キメラ抗体に基づく腫瘍生長抑制効果を示す。無処置群(n=3)、非標識抗CD82キメラ抗体投与群(n=5)、及び
211At標識抗CD82キメラ抗体投与群(n=4)における、腫瘍サイズの時間変化を示す。
【
図14】皮下担癌マウスにおける
211At標識抗CD82キメラ抗体に基づく腫瘍生長抑制効果の平均値を各群について示す。
【
図15】無処置群、非標識抗CD82キメラ抗体投与群、及び
211At標識抗CD82キメラ抗体投与群の代表例における腫瘍の時間変化を示す。
【
図16】
211At標識抗CD82キメラ抗体を投与した骨髄担癌マウスの生存期間を示す。
【
図17】
211At標識抗CD82キメラ抗体の大腿骨骨髄を含む各組織への取り込み量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための抗CD82抗体又はその断片)
本発明の一態様によれば、急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための抗CD82抗体又はその断片が提供される。本発明の急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための抗CD82抗体又はその断片は、アルファ線放出核種で標識されている。本発明の急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための抗CD82抗体又はその断片は、白血病細胞等のCD82陽性細胞を標的として傷害し、細胞死を誘導することができる。以下、急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を「急性白血病等」と略記する。また、急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための抗CD82抗体又はその断片を「急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片」と表記する場合がある。
【0017】
本明細書において「急性白血病」は、白血病のうち、貧血症状、出血、感染、頭痛、吐き気、リンパ節腫脹や脾臓/肝臓の腫れ等の症状が急性に現れるものをいう。主な急性白血病として、急性骨髄性白血病及び急性リンパ性白血病が知られている。造血幹細胞は骨髄系幹細胞及びリンパ系幹細胞に分化するが、骨髄系幹細胞や骨髄系幹細胞から分化した前駆細胞や未熟な細胞が異常に増殖するものを「急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)」といい、リンパ系幹細胞やリンパ系幹細胞から分化した前駆細胞や未熟な細胞が異常に増殖するものを「急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia;ALL)」という。
【0018】
本明細書において、「急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)」は、急性白血病の一種であり、骨髄において白血病細胞が異常増殖する疾患である。骨髄における白血病細胞が異常増殖する結果、正常な造血機能が著しく阻害され、白血球減少、貧血、血小板減少に伴う様々な症状を示し得る。急性骨髄性白血病では、形態学的/細胞生化学的分類に基づくFAB分類(French-American-British classification)や染色体異常に基づくWHO分類が知られている。FAB分類では、急性骨髄性白血病は、MPO染色、エステラーゼ染色、PAS染色、細胞表面マーカー等に基づいて、最未分化型急性骨髄性白血病(AML-M0)、未分化型急性骨髄性白血病(AML-M1)、分化型急性骨髄性白血病(AML-M2)、急性前骨髄球性白血病(AML-M3)、急性骨髄単球性白血病(AML-M4)、急性単球性白血病(AML-M5)、急性赤白血病(AML-M6)、及び急性巨核芽球性白血病(AML-M7)に分類することができる。急性骨髄性白血病の従来の治療方法としては、アントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用薬、CD33抗体医薬、アザシチヂン、及び/又はベネトクラクスの投薬治療、同種造血幹細胞移植、並びにこれらの任意の組み合わせが挙げられる。通常は、初回治療としてアントラサイクリン系薬剤とシタラビンとの併用療法が実施され得る。再発リスクの高い患者に対しては、アントラサイクリン系薬剤とシタラビンとの併用療法の後、同種造血幹細胞移植が実施され得る。急性骨髄性白血病の治療では、初回治療後に骨髄中の白血病細胞の割合が十分に低下せず、治療抵抗性を獲得する場合や、再発する場合がある。AMLでは、CD82抗原が白血病細胞において高発現することが知られている(Int J Cancer, 2013, 132(9):2006-19; Leukemia, 2015, 29(12):2296-306.)。
【0019】
本明細書において「急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia;ALL)」は、急性白血病の一種であり、骨髄において幼若なリンパ球(リンパ芽球)が異常増殖する疾患である。ALLは、B細胞系前駆細胞やそれがさらに分化した前駆細胞や未熟な細胞が異常に増殖するもの、及びT細胞系前駆細胞やそれがさらに分化した前駆細胞や未熟な細胞が異常に増殖するものに分類することができる。ALLでは、CD82抗原が白血病細胞において高発現し得る(Burchert, A., Notter, M., et al., Br J Haematol. 1999, 107(3):494-504;池添・趙ら、未発表)。
【0020】
本明細書において「多発性骨髄腫(multiple myeloma;MM)」とは、骨髄に存在する形質細胞ががん化し、単クローン性に増殖する疾患である。がん化した形質細胞が異常増殖する結果、骨の破壊を含む様々な症状が現れる。正常形質細胞ではCD82抗原の発現はほとんど認められないが、RPMI8226等のMM細胞ではCD82抗原が相対的に高く発現され得る(Drucker, L., Tohami, T., et al., Carcinogenesis. 2006, 27(2):197-204.;池添・趙ら、未発表)。
【0021】
本明細書において「骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)」とは、骨髄に存在する造血幹細胞の異常により、正常な血液細胞が減少する疾患をいう。正常な血液細胞が減少する結果として、貧血、出血、感染等の症状が生じ得る。MDSでは、血液細胞が異常な形態を示す「異形成」等が認められ得る。MDSは急性白血病に移行する場合がある。MDSでは、CD82抗原ががん細胞において高発現し得る(Houtsma, R., van der Meer, N., et al., Blood Adv. 2022, 6(7):2129-2143.;池添・趙ら、未発表)。
【0022】
本明細書において、急性白血病等の患者(例えば、急性骨髄性白血病患者や急性リンパ性白血病患者)は、例えば哺乳動物、好ましくは霊長類、より好ましくはヒトである。
【0023】
本明細書において、「急性白血病細胞」とは、急性白血病における白血病細胞をいう。例えば、急性骨髄性白血病細胞や急性リンパ性白血病細胞が挙げられる。急性骨髄性白血病細胞は、造血幹細胞、骨髄系幹細胞、顆粒球単球系前駆細胞、赤芽球系前駆細胞、巨核球系前駆細胞、骨髄芽球、前骨髄球、単芽球等に由来する。急性リンパ性白血病細胞は、リンパ系幹細胞、B細胞系前駆細胞、Bリンパ芽球、T細胞系前駆細胞、Tリンパ芽球等に由来する。CD82陽性の急性白血病細胞は、本発明の急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片の標的となる。
【0024】
本明細書において、「白血病幹細胞(Leukemia stem cell;LSC)」とは、白血病細胞集団において自己複製能を有する細胞を意味する。白血病幹細胞の一部は、血管内皮細胞や骨芽細胞等から構成される骨髄微小環境(ニッチ)において、細胞周期の休眠期に留まることが知られている。この休眠中のがん細胞は、増殖性の細胞を標的とする抗がん剤等に対して抵抗性を有するため、治療抵抗性や再発をもたらす主要な原因と考えられている。
【0025】
本明細書において「アルファ線放出核種」とは、原子核が崩壊する際にアルファ線(α線)を放出し得る核種をいう。アルファ線放出核種の半減期は特に限定せず、例えば1時間~1か月の半減期を有する核種を用いることができる。アルファ線放出核種の具体例として、アスタチン-211(211At)、アクチニウム-225(225Ac)、ラジウム-223(223Ra)、ラジウム-224(224Ra)、ビスマス-212(212Bi)、ビスマス-213(213Bi)、鉛-212(212Pb)、トリウム-227(227Th)、ウラン-230(230U)、及びテルビウム-149(149Tb)が挙げられる。例えばアスタチン-211(211At)は、中型サイクロトロンでも製造可能であり、半減期が約7.2時間であるため、本発明において抗CD82抗体又はその断片を標識するために好適に使用することができる。また、アクチニウム-225(225Ac)及びラジウム-223(223Ra)は、前立腺がんの骨転移に対して治療効果を有することが知られており、本発明において抗CD82抗体又はその断片の標識にも使用することができる。アルファ線はベータ線に比べて組織内飛程が非常に短く、がん細胞2~3個程度の飛程を有する。単位長さ当りの組織に与えるエネルギー(LET)が非常に大きく、DNA二本鎖を同時に切断し得る。それ故、休止期等の細胞周期や低酸素等の酸素状態に依らず不可逆的な細胞殺傷効果を有する上に、周囲の正常細胞への有害な効果が非常に低いという利点を有する。治療に利用可能なアルファ線放出核種については、文献(Seidl, C., Immunotherapy, 2014, 6(4):431-458)を参照することができる。
【0026】
「CD82」又は「CD82抗原」は、テトラスパニンファミリーに属する4回膜貫通型タンパク質であり、KAI-1とも呼ばれる。CD82抗原は、正常造血幹細胞と比較して白血病細胞において高発現していることが知られている。CD82抗原を高発現する白血病細胞として、白血病幹細胞、及び白血病幹細胞から単クローン性に増殖する異常な芽球(白血病細胞)が挙げられる。白血病幹細胞では、CD82抗原は生存維持や骨髄微小環境への接着で機能することが知られている(Int J Cancer, 2013, 132(9):2006-19; Leukemia, 2015, 29(12):2296-306.)。CD82の具体例として、配列番号11で示すアミノ酸配列からなるヒトCD82タンパク質が挙げられる。本明細書においてCD82は原則としてヒト由来のCD82タンパク質を示すが、配列番号11で示すアミノ酸配列に対して80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するか、又は配列番号11で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換された変異型CD82タンパク質も含まれるものとする。また、配列番号11で示すアミノ酸配列からなるヒトCD82タンパク質と同等の活性を有する他生物種のCD82オルソログも包含される。
【0027】
「CD82遺伝子」は、前記CD82タンパク質をコードする遺伝子である。CD82遺伝子の具体例として、配列番号11で示されるアミノ酸配列からなるヒトCD82タンパク質をコードするヒトCD82遺伝子が挙げられる。CD82遺伝子の一例として、配列番号12で示す塩基配列からなるヒトCD82遺伝子が挙げられる。CD82遺伝子のさらなる例としては、配列番号12で示されるCD82遺伝子がコードするCD82タンパク質と機能的に同等の活性を有するCD82バリアントや他生物種のCD82オルソログをコードするCD82遺伝子も包含される。具体的には、配列番号12で示される塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列、或いは配列番号12で示される塩基配列に対して90%、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の塩基同一性を有するCD82遺伝子が包含される。
【0028】
本明細書において「ペプチド断片」とは、CD82タンパク質を構成するアミノ酸配列の一部からなるペプチド断片であって、その断片を構成するアミノ酸配列からCD82タンパク質の断片であることを同定することができるものをいう。通常は、CD82タンパク質の全長アミノ酸配列のうちの20個以上200個以下、30個以上150個以下、40個以上100個以下、又は50個以上80個以下の連続するアミノ酸残基からなるペプチドであればよい。例えば、後述する本発明の抗CD82抗体によって認識される抗原エピトープを含むペプチド断片が挙げられる。
【0029】
本明細書において「アミノ酸同一性」とは、比較する2つのアミノ酸配列の全アミノ酸残基数における一致したアミノ酸残基数の割合(%)をいう。具体的には、2つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じ、一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このとき、1ギャップは、1アミノ酸残基として全アミノ酸残基数にカウントする。アミノ酸配列の整列化は、例えば、Blast、FASTA、ClustalW等の既知プログラムを用いて行なうことができる(Karlin,S.et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877;Altschul,S.F.et al., 1990, J. Mol. Biol., 215: 403-410;Pearson,W.R.et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448)。比較する2つのアミノ酸配列間で全アミノ酸残基数が異なる場合には、長い方を全アミノ酸残基数とする。比較する2つのアミノ酸配列においてアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの同一アミノ酸残基数を全アミノ酸残基数で除して算出される。
【0030】
本明細書において「(アミノ酸の)置換」とは、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸間において、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似する保存的アミノ酸群内での置換をいう。例えば、低極性側鎖を有する無電荷極性アミノ酸群(Gly, Asn, Gln, Ser, Thr, Cys, Tyr)、分枝鎖アミノ酸群(Leu, Val, Ile)、中性アミノ酸群(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸群(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr, Cys)、酸性アミノ酸群(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸群(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸群(Phe, Tyr, Trp)内での置換が挙げられる。これらの群内でのアミノ酸置換であれば、ペプチドの性質に変化を生じにくいことが知られているため好ましい。
【0031】
本明細書において「塩基同一性」とは、2つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときに、配列番号12で示される塩基配列からなるCD82遺伝子の全塩基に対する2つの塩基配列間で同一塩基の割合(%)をいう。
【0032】
CD82遺伝子の塩基配列情報は、公共のデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)より検索可能である。例えば、配列番号12で示されるCD82遺伝子の既知塩基配列情報に基づいて、塩基同一性の高い遺伝子をデータベースから検索し、入手することができる。
【0033】
本明細書において「複数個」とは、例えば、2~50個、2~40個、2~30個、2~20個、2~18個、2~16個、2~14個、2~12個、2~10個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。
【0034】
(1)抗CD82抗体
「抗CD82抗体」とは、CD82タンパク質又はそのペプチド断片に対して免疫応答性を示す抗体をいう。
本発明の抗CD82抗体の由来生物種は、特に限定しない。好ましくは鳥類及び哺乳動物由来の抗体である。例えば、ニワトリ、ダチョウ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、又はヒト等が挙げられる。
【0035】
本発明の抗CD82抗体は、CD82タンパク質又はそのペプチド断片を認識し、免疫応答性を示す抗体である限り、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであってもよい。好ましくは抗体価が安定しているモノクローナル抗体である。
【0036】
本明細書において「ポリクローナル抗体」とは、抗原に特異的に結合し、かつそれを認識することのできる異なる複数種の免疫グロブリン群をいう。
【0037】
また、本明細書において「モノクローナル抗体」とは、フレームワーク領域(Framework region:以下、「FR」と表記する)及び相補性決定領域(Complementarity determining region:以下、「CDR」と表記する)を含み、抗原に特異的に結合し、かつそれを認識することのできる単一種の免疫グロブリン、又は免疫グロブリンに含まれる少なくとも1組の軽鎖可変領域(VL領域)及び重鎖可変領域(VH領域)を包含する組換え抗体又は合成抗体をいう。
【0038】
抗CD82抗体が免疫グロブリン分子で構成される場合、免疫グロブリンは任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgA、IgD、及びIgY)、又は任意のサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)とすることができる。
【0039】
本発明の抗CD82抗体が認識するCD82タンパク質又はそのペプチド断片のエピトープの位置は特に限定しないが、急性白血病等の白血病細胞等において細胞外に位置する細胞ドメインのエピトープであることが好ましい。
【0040】
上記エピトープを認識する抗CD82抗体の具体例として、後述する実施例のラット抗CD82モノクローナル抗体クローンFMU-3H10H4が挙げられる。この抗体クローンFMU-3H10H4は、重鎖可変領域が配列番号7で示すアミノ酸配列からなり、また軽鎖可変領域が配列番号8で示すアミノ酸配列からなる。Kabatのルール(Kabat E.A., et al., 1991, Sequences of proteins of immunological interest, Vol.1, eds. 5, NIH publication)によれば、抗体クローンFMU-3H10H4の重鎖可変領域において、CDR1は配列番号1で示すアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号2で示すアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号3で示すアミノ酸配列からなる。また、抗体クローンFMU-3H10H4の軽鎖可変領域において、CDR1は配列番号4で示すアミノ酸配列からなり、CDR2はアミノ酸配列Arg-Ala-Thrからなり、CDR3は配列番号6で示すアミノ酸配列からなる。配列番号1~8のアミノ酸配列を以下に示す。
【0041】
重鎖CDR1のアミノ酸配列:GFRFNNYW(配列番号1)
重鎖CDR2のアミノ酸配列:ITNTGGNS(配列番号2)
重鎖CDR3のアミノ酸配列:TTNRADY(配列番号3)
軽鎖CDR1のアミノ酸配列:QDVGIF(配列番号4)
軽鎖CDR2のアミノ酸配列:RAT
軽鎖CDR3のアミノ酸配列:LQYVEYPWT(配列番号6)
重鎖可変領域のアミノ酸配列:EVQLVESGGGLVQPGKSLKLSCVVSGFRFNNYWMTWIRQAPGKGLEWVASITNTGGNSYFPDSVKGRFTISRDNAYSTLYLQMNSLRSEDTATYYCTTNRADYWGRGVMVTVSS(配列番号7)
軽鎖可変領域のアミノ酸配列:DIQMTQSPSSMSVSLGDTVTLTCRASQDVGIFVSWFQQKPGKSPRRMIYRATNLADGVPSRFSGSRSGSDYSLTISSLESEDVTDYHCLQYVEYPWTFGGGTKLELK(配列番号8)
【0042】
抗体クローンFMU-3H10H4の重鎖可変領域に相当する配列番号7で示すアミノ酸配列をコードする核酸(ヌクレオチド)として、例えば、配列番号9で示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。また、抗体クローンFMU-3H10H4の軽鎖可変領域に相当する配列番号8で示すアミノ酸配列をコードする核酸として、例えば、配列番号10で示す塩基配列からなる核酸が挙げられる。
【0043】
「組換え抗体」とは、キメラ抗体、又はヒト化抗体をいう。「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の抗体のアミノ酸配列を組み合わせて作製される抗体で、ある抗体の定常領域(C領域)を他の抗体のC領域で置換した抗体である。例えば、ラットモノクローナル抗体のC領域をヒト抗体のC領域と置き換えた抗体が該当する。具体的な例を挙げると、任意の抗原に対するヒト抗体の重鎖可変領域を前述の抗体クローンFMU-3H10H4における配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と置換し、またヒト抗体の軽鎖可変領域を配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と置換してなる抗体が挙げられる。これによりヒト体内における当該抗体に対する免疫反応を軽減し得る。「ヒト化抗体」とは、ヒト抗体におけるCDRをヒト以外の哺乳動物由来の抗体におけるCDRと置換したモザイク抗体である。免疫グロブリン分子の可変領域(V領域)は、4つのFR(FR1、FR2、FR3及びFR4)と3つのCDR(CDR1、CDR2及びCDR3)がN末端側からFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順序で連結されて構成されている。このうちFRは可変領域の骨格を構成する相対的に保存された領域であり、CDRが抗体の抗原結合特異性に直接寄与する。ヒト化抗体は、例えば、ラット由来の抗体クローンFMU-3H10H4の軽鎖又は重鎖における一組のCDR1、CDR2及びCDR3を任意の抗原に対するヒト抗体の軽鎖又は重鎖における一組のCDR1、CDR2、及びCDR3とそれぞれ置換することによって、ラット抗体クローンFMU-3H10H4の抗原結合特異性を受け継いだヒト抗体として構築することができる。具体的な例を挙げると、前述の抗体クローンFMU-3H10H4における重鎖由来の配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3をヒト抗体の重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3とそれぞれ置換し、また前述の抗体クローンFMU-3H10H4における軽鎖由来の配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、アミノ酸配列Arg-Ala-ThrからなるCDR2、及び配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3をヒト抗体の軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3とそれぞれ置換してなる抗体が挙げられる。このようなヒト化抗体は、CDR以外はヒト抗体由来であることからヒト体内における当該抗体に対する免疫反応をキメラ抗体以上に軽減し得る。
【0044】
「合成抗体」とは、化学的に又は組換えDNA法を用いることによって合成した抗体をいう。例えば、組換えDNA法を用いて新たに合成された抗体が挙げられる。具体的には、例えば、scFv(single chain Fragment of variable region:単鎖抗体)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。免疫グロブリン分子において、機能的な抗原結合部位を形成する一組の可変領域(軽鎖可変領域VL及び重鎖可変領域VH)は、軽鎖と重鎖という別々のポリペプチド鎖上に位置する。scFvは、免疫グロブリン分子において、VL及びVHを十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する分子量約35 kDa以下の合成抗体である。scFv内において1組の可変領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。scFvは、それをコードする組換えDNAを、公知技術を用いてベクターに組み込み、発現させることで得ることができる。ダイアボディは、scFvの二量体構造を基礎とした構造を有する分子である(Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448)。例えば、上記リンカーの長さが約12アミノ酸残基よりも短い場合、scFv内の2つの可変領域は自己集合できないが、2つのscFvを相互作用させてダイアボディを形成させることにより、一方のscFvのVLが他方のscFvのVHと集合可能となり、2つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。さらに、scFvのC末端にシステイン残基を付加させることにより、2本のscFv同士のジスルフィド結合が可能となり、安定的なダイアボディを形成させることもできる。このようにダイアボディは二価の抗体断片である。トリアボディ、及びテトラボディは、ダイアボディと同様にscFv構造を基本とした、その三量体、及び四量体構造を有する、それぞれ、三価、及び四価の抗体である。ダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディは、多重特異性抗体であってもよい。「多重特異性抗体」とは、多価抗体、すなわち抗原結合部位を一分子内に複数有する抗体において、それぞれの抗原結合部位が異なるエピトープと結合する抗体をいう。例えば、ダイアボディにおいて、それぞれの抗原結合部位が異なるエピトープと結合する二重特異性抗体(Bispecific抗体)が挙げられる。具体的には、例えば、本発明の抗CD82抗体であれば、一方の抗原結合部位が抗体クローンFMU-3H10H4のエピトープと結合し、他方の抗原結合部位が上記エピトープ以外のエピトープと結合するダイアボディが該当する。
【0045】
本発明の抗CD82抗体は、修飾することもできる。ここでいう「修飾」とは、グリコシル化のような抗原特異的結合活性に必要な機能上の修飾や抗体検出に必要な標識上の修飾を含む。
【0046】
抗CD82抗体上のグリコシル化修飾は、標的であるCD82タンパク質又はそのペプチド断片に対する抗CD82抗体の親和性を調整するために行われる。具体的には、例えば、抗CD82抗体のFRにおいて、グリコシル化を構成するアミノ酸残基に置換を導入してグリコシル化部位を除去することで、その部位のグリコシル化を喪失させる改変等が挙げられる。
【0047】
抗CD82抗体の標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S)又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。
【0048】
本発明の抗CD82抗体は、CD82タンパク質との解離定数が、10-7 M以下であることが好ましく、例えば10-8M以下の高い親和性を有することが好ましく、より好ましくは10-9 M以下、特に好ましくは10-10 M以下である。上記解離定数は、当該分野で公知の技術を用いて測定することができる。例えば、Biacoreシステム(GE Healthcare社)により速度評価キットソフトウェアを用いて測定してもよい。
【0049】
(2)その断片
本明細書において「その断片」とは、抗CD82抗体の一部からなり、かつ抗CD82抗体と同様にCD82タンパク質又はその断片に対して免疫応答性を示す抗体断片をいう。例えば、Fab、F(ab')2、Fab'、F(ab)2、Fvフラグメント、ジスルフィド結合により安定化したFvフラグメント(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド結合により安定化したディアボディ(dsディアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、二量体scFv(2価ディアボディ)、多重特異性抗体、ラクダ化シングルドメイン抗体(ラクダ化抗体;VHH抗体)等の重鎖抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、及び2価ドメイン抗体等が該当する。
【0050】
Fabは、IgG分子がパパインによってヒンジ部のジスルフィド結合よりもN末端側で切断されて生じる抗体断片であって、H鎖定常領域(重鎖定常領域:以下CHと表記する)を構成する3つのドメイン(CH1、CH2、CH3)のうちVHに隣接するCH1とVH、及び完全長のL鎖から構成される。
【0051】
F(ab')2は、IgG分子がペプシンによってヒンジ部のジスルフィド結合よりもC末端側で切断されて生じるFab'の二量体である。Fab'は、Fabよりもヒンジ部を含む分だけH鎖が若干長いが実質的にはFabと同等の構造を有する。Fab'は、F(ab')2をマイルドな条件下で還元し、ヒンジ領域のジスルフィド連結を切断することによって得ることができる。これらの抗体断片は、いずれも抗原結合部位を包含していることから、抗原エピトープと特異的に結合する能力を有している。
【0052】
(3)抗CD82抗体の作製
本発明の抗CD82抗体は、当該分野の常法によって得ることができる。また、モノクローナル抗体のアミノ酸配列が明らかであれば、そのアミノ酸配列に基づいて、化学的合成法や組換えDNA技術を用いることによって調製することもできる。さらに、モノクローナル抗体は、その抗体を産生するハイブリドーマから得ることもできる。
【0053】
本発明の抗CD82抗体の免疫原として使用可能な抗原ペプチドは、CD82タンパク質の中の任意の一部(以下、「CD82抗原ペプチド」と表記する)である。CD82抗原ペプチドは、例えば、化学合成法又はDNA組換え技術を用いて調製することができる。
【0054】
(4)アルファ線放出核種で標識された抗CD82抗体又はその断片
本態様において、抗CD82抗体又はその断片は、アルファ線放出核種で標識されている。 抗CD82抗体又はその断片へのアルファ線放出核種の結合は、アルファ線放出核種の具体的な種類に応じて公知の方法に従って行うことができる。例えば、非金属核種(例:211At)又は金属核種(例:211At以外の上記アルファ線放出核種)に応じて適当な結合方法を用いることができる。
【0055】
例えばアスタチン-211(211At)を用いる場合は、211Atが半金属性を示すことに基づいて抗CD82抗体又はその断片に結合させることができる。211Atの抗体への結合方法の例として、直接標識法、間接標識法、及び半金属性性質に基づいてキレート剤を用いる方法が挙げられる。
【0056】
直接標識法では、まず抗体又はその断片をN-succinimidyl-3-(trime-thylstannyl)benzoate(m-MeATE)又はB10等に反応させて抗体複合体を得て(第1段階)、次いで抗体又はその断片と結合したm-MeATEコンジュゲート又はmB10-NCS(p-isothiocyanato-phenethyl-closo-decaborate(2-))コンジュゲート等に211Atを反応させて結合させる(第2段階)ことにより、211Atで標識された抗体又はその断片を作製することができる。m-MeATEを用いる直接標識法の一例を以下に示す。以下の例では、「R」は抗体又はその断片を示し、「Lys」は抗体又はその断片におけるリジン残基を示す。
【0057】
【0058】
間接標識法では、後述の実施例のように、まずm-MeATE又はB10等に211Atを反応させて結合させて(第1段階)、次いで211Atと結合したm-MeATE又はB10等コンジュゲートを抗体又はその断片と反応させる(第2段階)ことにより211Atで標識された抗体又はその断片を作製することができる。m-MeATEを用いる間接標識法の一例を以下に示す。
【0059】
【0060】
直接標識法及び間接標識法を用いた211Atの抗体への結合方法については、以下の文献:Lindegren, S., et al., J Nucl Med, 2008, 49:1537-1545.;Oriuchi N et al., Scientific Reports, 2020, 10:6810.;Li, Y., et al., PLoS ONE, 2018, 13(10):e0205135.;Aoki M., et al., Chem Pharm Bull, 2020, 68:538-545.を参照することができる。
【0061】
アスタチン-211(211At)以外のアルファ線放出核種は、二官能性キレート剤又は金属キレート剤でキレートすることにより、抗CD82抗体又はその断片に結合させることができる。金属核種のキレートに使用できるキレート剤の例として、DTPA(Diethylene Triamine Pentaacetic Acid)、p-SCN-ベンジル-DOTA等のDOTA(tetraxetanとしても知られている)、TCMC(tetra-(2-carbamonyl methyl)-cyclododecane)、3p-C-NETAが挙げられる。キレート剤は金属核種をキレートした後に抗体又はその断片に結合させてもよく、又は予め抗体又はその断片に結合させたキレート剤に金属核種をキレートさせてもよい。キレート剤は、抗体又はその断片におけるアミノ基、例えばLys、Arg、His、Asn、又はGln等のアミノ酸残基における側鎖のアミノ基やアミノ末端のアミノ基等と結合させることができる。
【0062】
(特定のCDR配列を含む抗CD82抗体又はその断片)
本発明の一態様において、特定のCDR配列を含む抗CD82抗体又はその断片が提供される。本態様の特定のCDR配列を含む抗CD82抗体又はその断片へのアルファ線放出核種の標識の有無は問わない。例えば、アルファ線放出核種又はベータ線放出核種で標識されていてもよい。
【0063】
本態様の特定のCDR配列を含む抗CD82抗体又はその断片は、配列番号1で示すアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2で示すアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号3で示すアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域と配列番号4で示すアミノ酸配列からなるCDR1、アミノ酸配列Arg-Ala-ThrからなるCDR2、及び配列番号6で示すアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。そのような抗CD82抗体又はその断片の一例として、配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗CD82抗体又はその断片が挙げられる。
【0064】
一実施形態において、本態様の特定のCDR配列を含む抗CD82抗体又はその断片は、アルファ線放出核種で標識されている。
【0065】
別の実施形態において、本態様の特定のCDR配列を含む抗CD82抗体又はその断片は、アルファ線放出核種で標識されていない。抗CD82抗体又はその断片の構成については、上述の態様における「(1)抗CD82抗体」及び「(2)その断片」の記載に準じるものとし、ここではその詳細な説明は省略する。
【0066】
本態様の特定のCDR配列を含む抗CD82抗体又はその断片は、従来の市販抗体と比較して高い感度でCD82抗原を検出することができる。
【0067】
(急性白血病細胞の細胞死誘導剤)
本発明の一態様において、急性白血病細胞の細胞死誘導剤も提供される。本態様の細胞死誘導剤は、急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片からなる。その構成については、上で既に詳述しているため、ここではその具体的な説明を省略する。
本態様の急性白血病細胞の細胞死誘導剤が細胞死を誘導する急性白血病細胞の種類は限定しない。例えば、白血病幹細胞が挙げられる。
【0068】
(急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための医薬組成物)
本発明の一態様によれば、急性白血病、多発性骨髄腫、又は骨髄異形成症候群を治療するための医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は、上述の急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片を含み、急性白血病等を治療することができる。
【0069】
本発明の医薬組成物は、必須の構成成分として有効成分を、また選択成分として薬学的に許容可能な担体、又は他の薬剤を包含する。本発明の医薬組成物は、有効成分のみで構成することもできる。しかし、剤形形成を容易にし、有効成分の薬理効果及び/又は剤形を維持するためには後述する薬学的に許容可能な担体を包含した医薬組成物として構成されていることが好ましい。
【0070】
(1)本発明の医薬組成物を構成する成分
本発明の医薬組成物を構成する各成分について具体的に説明をする。
本発明の医薬組成物における有効成分は、急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片である。その構成については、上で既に詳述していることから、ここではその具体的な説明を省略する。
【0071】
本発明の医薬組成物に含まれる急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片の数は限定せず、1つ又は複数であってもよい。
【0072】
「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用し得る溶媒及び/又は添加剤であって、生体に対して有害性がほとんどないか又は全くないものをいう。
【0073】
薬学的に許容可能な溶媒には、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。これらは、殺菌されていることが望ましく、必要に応じて血液と等張に調整されていることが好ましい。
【0074】
また、薬学的に許容可能な添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0075】
賦形剤としては、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中又は高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0076】
結合剤としては、例えば、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0077】
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
【0078】
充填剤としては、例えば、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が挙げられる。
【0079】
乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0080】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、例えば、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが挙げられる。
【0081】
上記の添加剤の他、必要に応じて溶解補助剤(可溶化剤)、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤(例えば、第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム)、増量剤、保湿剤(例えば、グリセリン、澱粉)、吸着剤(例えば、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸)、コーティング剤、保存剤、抗酸化剤、緩衝剤等を含むこともできる。
【0082】
本発明の医薬組成物は、上記有効成分が有する薬理効果を失わない範囲において、他の薬剤を含有することもできる。ここで「他の薬剤」とは、急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片と同様に急性白血病等に対して治療効果を有する薬剤等が挙げられる。本発明の医薬組成物が他の薬剤を含む複合製剤である場合、急性白血病等を多面的に抑制できる等の相乗的な効果を期待することができるので便利である。
【0083】
(2)剤形
本発明の医薬組成物の剤形は、有効成分である本発明の急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片を不活化させないか、又は不活化させにくく、かつ投与後に生体内でその薬理効果を十分に発揮し得る剤形であれば特に限定しない。
【0084】
剤形は、その形態により液体剤形又は固体剤形(ゲルのような半固体剤形を含む)に分類できるが、本発明の医薬組成物は、そのいずれであってもよい。また剤形は投与方法により経口剤形と非経口剤形とに大別できるが、これに関してもいずれであってもよい。
【0085】
具体的な剤形としては、経口剤形であれば、例えば、懸濁剤、乳剤、及びシロップ剤のような液体剤形、散剤(粉剤、粉末剤、飴粉剤を含む)、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、舌下剤、及びトローチ剤等の固体剤形が挙げられる。また、非経口剤形であれば、例えば、注射剤、懸濁剤、乳剤等の液体剤形が挙げられる。
【0086】
(3)投与方法
本発明の医薬組成物は、急性白血病等の治療のために、有効成分である本発明の急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片を生体に有効量投与することができる方法であれば、当該分野で公知のあらゆる方法を適用することができる。
【0087】
本明細書において「有効量」とは、有効成分がその機能を発揮する上で必要な量、すなわち、本発明では治療剤が急性白血病等を治療する上で必要な量であって、かつそれを適用する生体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験体の情報、投与経路、及び投与回数等の条件によって変化し得る。
【0088】
「被験体」又は「対象」とは、本発明の急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片や医薬組成物の適用対象となる動物個体をいう。具体的には哺乳動物であり、例えば霊長類、ペット動物、家畜類、競技用動物等を含む哺乳動物であり、特にヒトが好ましい。「被験体の情報」とは、被験体の様々な個体情報であって、例えば、被験体の年齢、体重、性別、全身の健康状態、薬剤感受性、服用中の医薬品の有無等を含む。有効量、及びそれに基づいて算出される投与量は、個々の被験体の情報等に応じて医師又は獣医師の判断によって決定される。急性白血病等の治療の十分な効果を得る上で、本発明の医薬組成物を大量投与する必要がある場合、被験者に対する負担軽減のために、数回に分割して投与することもできる。
【0089】
本発明の医薬組成物の投与方法は、全身投与又は局所的投与のいずれであってもよい。全身投与の例としては、静脈注射等の血管内注射や経口投与等が挙げられる。また局所投与の例としては、骨髄内投与、腫瘍内投与、直腸投与、腹腔内投与等が挙げられる。好ましい投与方法は、静脈内投与、皮下投与、骨髄内投与、腫瘍内投与、又は経口投与である。本発明の医薬組成物の有効成分は、本発明の溶菌剤で構成されている。したがって、経口投与の場合には、有効成分を消化酵素による分解から保護するために適当なDDS(薬剤送達システム)を用いる等、適切な処置を施すことが好ましい。
【0090】
本発明の医薬組成物を投与又は摂取する場合、その投与量又は摂取量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類等に応じて、適宜選択される。例えば、アルファ線放出核種で標識された抗CD82抗体又はその断片の放射線量に基づいて、0.001MBq/kg体重~1000MBq/kg体重、0.01MBq/kg体重~500MBq/kg体重、0.1MBq/kg体重~200MBq/kg体重、1MBq/kg体重~100MBq/kg体重、2MBq/kg体重~50MBq/kg体重、5MBq/kg体重~40MBq/kg体重、又は10MBq/kg体重~30MBq/kg体重、例えば4.4MBq/kg体重~66MBq/kg体重であってもよい。或いは、アルファ線放出核種で標識された抗CD82抗体又はその断片の重量に基づいて、0.001 mg/kg/日~1000 mg/kg/日、0.01 mg/kg/日~500 mg/kg/日、0.1 mg/kg/日~200 mg/kg/日、1 mg/kg/日~100 mg/kg/日、5 mg/kg/日~50 mg/kg/日、又は10 mg/kg/日であってもよい。
【0091】
一実施形態において、急性白血病等に対する初回治療として本発明の医薬組成物を対象に投与することができる。例えば、本発明の医薬組成物を単独で投与してもよいし、本発明の医薬組成物をアントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用薬、CD33抗体医薬、アザシチヂン、及び/又はベネトクラクスと併用することもできる。
【0092】
別の実施形態において、急性骨髄性白血病に対する初回治療としてアントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用療法を実施した後の対象に対して、本発明の医薬組成物を投与してもよい。例えば、初回治療後に治療抵抗性を示す対象に対して本発明の医薬組成物を投与することができる。
【0093】
さらなる実施形態では、急性骨髄性白血病に対する初回治療としてアントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用療法を実施した後の対象に対して、本発明の医薬組成物を投与することができる。例えば、同種造血幹細胞移植を実施できない高齢者を対象とする地固め療法として本発明の医薬組成物を投与してもよい。
【0094】
また、さらなる実施形態では、急性骨髄性白血病に対する初回治療としてアントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用療法を実施した後の対象に対して本発明の医薬組成物を投与し、その後に同種造血幹細胞移植を実施してもよい。アントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用療法と同種造血幹細胞移植の間に本発明の医薬組成物を投与することによって、通常治療では寛解しない患者において再発率を低下させることができる。
【0095】
(4)対象疾患
本発明の医薬組成物が対象とする急性白血病等が急性骨髄性白血病である場合、急性骨髄性白血病の種類は、特に限定しない。急性骨髄性白血病の具体例としては、最未分化型急性骨髄性白血病(AML-M0)、未分化型急性骨髄性白血病(AML-M1)、分化型急性骨髄性白血病(AML-M2)、急性前骨髄球性白血病(AML-M3)、急性骨髄単球性白血病(AML-M4)、急性単球性白血病(AML-M5)、急性赤白血病(AML-M6)、及び急性巨核芽球性白血病(AML-M7)が挙げられる。本発明の医薬組成物が対象とする急性白血病等が急性リンパ性白血病である場合、急性リンパ性白血病の種類は、特に限定しない。急性リンパ性白血病の具体例としては、ALL-L1、ALL-L2、及びALL-L3が挙げられる。
【0096】
一実施形態において、急性白血病等は、治療抵抗性及び/又は再発性である。治療抵抗性の急性白血病等とは、初回治療後に骨髄における白血病細胞等の割合が十分に低下しない病態をいう。例えば、急性骨髄性白血病では、アントラサイクリン系薬剤及びシタラビンを併用する標準化学療法を行っても骨髄中の白血病細胞割合が5%未満にならない状態が挙げられる。一方、正常造血が回復し、骨髄中の白血病細胞割合が5%未満になることを完全寛解(CR)という。再発性の急性白血病等とは、完全寛解(CR)になった後に白血病を再発することをいう。例えば、急性骨髄性白血病では、完全寛解後、骨髄中の芽球が増加したり、多臓器に白血病細胞からなる腫瘤を形成する状態が挙げられる。
【0097】
本発明の医薬組成物によれば、急性白血病等の患者において急性白血病等を治療することができる。
【0098】
本発明の急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片や医薬組成物を対象に投与する工程を含む、急性白血病等の治療方法、又は急性白血病等の患者において急性白血病細胞等を傷害又は殺傷する方法(例えば、急性白血病細胞の細胞死を誘導する方法)もまた提供される。
【0099】
急性白血病等を治療するための医薬の製造における、本発明の急性白血病等を治療するための抗CD82抗体又はその断片の使用もまた提供される。
【0100】
(キット)
一態様において、本発明は、アルファ線放出核種標識用キットも提供する。
本態様のキットは、必須構成物として抗CD82抗体又はその断片を含む。
本態様のキットは、選択構成物として、抗CD82抗体又はその断片をアルファ線放出核種で標識するための試薬(標識試薬)を含むことができる。標識試薬は、上述の直接標識法や間接標識法で用いる試薬、例えば、m-MeATE(N-Succinimidyl 3-trimethylstannyl-benzoate)又はB10(p-isothiocyanato-phenethyl-closo-decaborate(2-))であってもよく、或いは、二官能性キレート剤又は金属キレート剤等のキレート剤であってもよい。
本態様のキットは、さらなる選択構成物として、アスタチン等のアルファ線放出核種、標識に使用する緩衝液、溶媒、添加剤、及び/又は説明書を含むこともできる。
【0101】
本発明によれば、抗CD82抗体又はその断片をアルファ線放出核種で標識する標識工程を含む、アルファ線放出核種で標識された抗CD82抗体又はその断片の製造方法もまた提供される。標識工程は直接標識法や間接標識法で行うこともできる。
【実施例0102】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、この実施例は単なる一例示に過ぎず、本発明は実施例に記載の範囲に限定されるものではない。
【0103】
<実施例1:担癌モデルマウスの腫瘍組織におけるCD82発現の検討>
(目的)
急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)細胞(以下、「AML細胞」と称する)を皮下又は骨髄に移植した担癌モデルマウスを作製する。さらに、腫瘍組織におけるCD82の発現を免疫染色により検討する。
【0104】
(方法と結果)
本実施例では、急性骨髄性白血病細胞(AML細胞)として、ヒト由来のU937細胞株(ATCC番号:CRL-1593.2)を使用した。このU937細胞株をマウスの皮下又は骨髄に移植することにより、以下の2種類の担癌モデルマウスを作製した。
【0105】
皮下担癌マウス:5×106個のU937細胞を雄性のBALB/cヌードマウス(日本エスエルシー株式会社、BALB/c Slc-nu/nu)の右上背側の皮下に移植することにより作製した。
【0106】
骨髄担癌マウス:5×106個のU937細胞を雄性の完全免疫不全マウス(NRGマウス;ジャクソン研究所、NOD.Cg-Rag1tm1Mom Il2rgtm1Wjl/SzJ)の尾静脈より徐々に投与することにより作製した。この骨髄担癌マウスは、AML患者の骨髄・血液系病態を再現したAMLヒト化マウスである。
【0107】
U937細胞の移植から14日後、心臓より全採血した後、マウスを安楽死させた。その後、皮下から摘出した腫瘍組織又は大腿骨の骨髄を用いて、CD82に対する免疫染色を行った。免疫染色は、抗ヒトCD82マウスモノクローナル抗体(abcam, ab59509, Anti-CD82抗体[TS82b]-BSA and Azide free)を用いて行った。なお、本明細書において当該抗体を「市販の抗CD82抗体」、「市販抗体」、又は「対照抗体」等と表記する場合がある。
【0108】
免疫染色の結果、皮下担癌マウスから摘出した組織及び骨髄担癌マウスから摘出された大腿骨の骨髄腫瘍組織のいずれにおいても、CD82の高発現が認められた。
【0109】
<実施例2:抗CD82抗体のU937細胞への特異的結合>
(目的)
抗CD82抗体が、U937細胞が発現するCD82に特異的に結合することをin vitroで検証する。
【0110】
(方法と結果)
抗ヒトCD82マウスモノクローナル抗体(abcam, ab59509)をヨウ素-125(125I)で標識した。抗体の125I標識は、間接標識法(SIB)により行った。以下、125Iで標識された抗CD82抗体を125I標識抗CD82抗体と呼び、非標識の抗CD82抗体から区別する。
【0111】
96穴プレートの各ウェルに1×106個のU937細胞を加えた。次いで、上記の125I標識抗CD82抗体(5kBq/45ng/10μL)、又は20倍量の非標識抗CD82抗体(900ng)と混合した125I標識抗CD82抗体(5kBq/900ng/10μL)を各ウェルに添加し、37℃にて30分間~3時間インキュベートした。次いで細胞を遠心し上清を捨て、PBS(-)を用いて2回洗浄した。PBS(-)で回収した細胞の放射能を測定し、添加した放射能の総量に対する割合(%ID)を計算した。
【0112】
結果を
図1に示す。
125I標識抗CD82抗体のU937細胞への取り込み量は、時間とともに増大した。一方、
125I標識抗CD82抗体を非標識抗CD82抗体と混合した場合には、標識抗体の取り込みが約80%まで抑制された。この結果から、U937細胞による
125I標識抗CD82抗体の取り込みが、CD82に対する特異的結合によるものであることが示された。
【0113】
<実施例3:抗CD82抗体の皮下腫瘍組織への集積>
(目的)
皮下担癌マウスに投与した抗CD82抗体が、皮下腫瘍組織に集積することを検証する。
【0114】
(方法と結果)
抗ヒトCD82マウスモノクローナル抗体(abcam, ab59509)をヨウ素-125(125I)又はアスタチン-211(211At)で標識した。抗体の125I標識は、実施例2と同様に行った。
【0115】
抗体の211At標識は、文献(Oriuchi N et al., Scientific Reports, 2020, 10:6810.)に記載の方法に基づいて、間接標識法(SAB)により行った。具体的には、211At溶液(溶媒はクロロホルム又はメタノール)を反応容器に入れ、窒素ガスで乾固した後、N-クロロスクシンイミド/メタノール溶液及びN-succinimidyl-3-(trimethylstannyl)benzoate/クロロホルム溶液を加え、室温で20分間反応させた。反応後、N-クロロスクシンイミド/メタノール溶液を加えて室温で1分間反応させ、次いで窒素ガスにて反応溶媒を除去した。除去後、抗CD82抗体を加えて、室温にて約30分間反応させた。反応終了後、グリシン溶液を添加して得られた反応混合物をPD-10カラムに供して精製した。精製後の抗体画分を以下の実施例において211At標識抗CD82抗体として使用した。
【0116】
皮下担癌マウスは、実施例1に記載の方法と同様に、5×106個のU937細胞を皮下に移植することにより作製した。細胞移植から14日後、125I標識抗CD82抗体(150kBq/5μg)又は211At標識抗CD82抗体(120kBq/5μg)を皮下担癌マウスの尾静脈に投与した。抗体投与から1分後、1時間後、6時間後、12時間後、又は24時間後の時点で、心臓から全採血し、マウスを安楽死させた。次いで、腫瘍組織を摘出し、γカウンターを用いて放射能を測定した。腫瘍組織の単位重量当たりの放射能測定値の投与放射能総量に対する割合(%ID/g)を計算した(各群n=4~5)。
【0117】
結果を
図2に示す。
125I標識抗CD82抗体又は
211At標識抗CD82抗体のいずれも、腫瘍組織への取り込み量が時間とともに増大することが示された。
【0118】
<実施例4:抗CD82抗体の骨髄腫瘍組織への集積>
(目的)
骨髄担癌マウスに投与した抗CD82抗体が、骨髄腫瘍組織に集積することを検証する。
【0119】
(方法と結果)
実施例3と同様の方法により、
211At標識抗CD82抗体を作製した。
骨髄担癌マウスは、実施例1に記載の方法と同様に、5×10
6個のU937細胞を尾静脈より徐々に注入することにより作製した。細胞移植から8日後又は12日後、
211At標識抗CD82抗体(0.37MBq/5μg)を骨髄担癌マウスの尾静脈に投与した。抗体投与から6時間後又は24時間後の時点で、心臓から全採血し、マウスを安楽死させた。次いで、大腿骨を摘出し、γカウンターを用いて放射能を測定した。大腿骨の単位重量当たりの放射能測定値の投与放射能総量に対する割合(%ID/g)を計算した(各群n=3)。なお、腫瘍組織の重量として大腿骨における骨髄重量(文献値:0.024g)を計算に用いた。実験方法の概要を
図3Aに示す。
【0120】
結果を
図3Bに示す。
211At標識抗CD82抗体が大腿骨内の骨髄腫瘍組織に取り込まれることが示された。
【0121】
<実施例5:211At標識抗CD82抗体による腫瘍成長抑制効果>
(目的)
211At標識抗CD82抗体による腫瘍成長抑制効果を、皮下担癌マウスを用いて検証する。
【0122】
(方法と結果)
実施例3と同様の方法により、211At標識抗CD82抗体を作製した。
皮下担癌マウスは、実施例1に記載の方法と同様に、5×106個のU937細胞を皮下に移植することにより作製した。
【0123】
細胞移植から5日目に、皮下担癌マウスを211At標識抗CD82抗体投与群(n=3)と非標識抗CD82抗体投与群(n=3)の2群に分け、各マウスの体重と腫瘍サイズを測定した後、抗体を投与した。211At標識抗CD82抗体投与群には、1.11MBqの211At標識抗CD82抗体(5μg)を尾静脈投与した。非標識抗CD82抗体投与群には、非標識の抗CD82抗体(5μg)を尾静脈投与した。抗体投与から16日後まで、2日毎に腫瘍サイズを測定した。
【0124】
腫瘍サイズは、腫瘍の長径と短径を、ノギスを用いて測定し、以下の式Iにより計算した。
腫瘍サイズ(mm3)=π/6×長径(mm)×短径(mm)2 (式I)
【0125】
結果を
図4に示す。非標識抗CD82抗体投与群(n=3)では、腫瘍サイズが時間経過とともに増大した。これに対して、
211At標識抗CD82抗体投与群(n=3)では、腫瘍サイズが顕著に抑制され、うち1匹では腫瘍が消失した。
以上の結果から、
211At標識抗CD82抗体による顕著な腫瘍生長抑制効果が実証された。
【0126】
<実施例6:211At標識抗CD82抗体による治療効果>
(目的)
骨髄担癌マウスを対象として、211At標識抗CD82抗体による治療効果を抗体投与後の生存期間に基づいて検証する。
【0127】
(方法と結果)
実施例3と同様の方法により、211At標識抗CD82抗体を作製した。
骨髄担癌マウスは、実施例1に記載の方法と同様に、5×106個のU937細胞を尾静脈より徐々に注入することにより作製した。細胞移植から8日後又は12日後、骨髄担癌マウスを以下の3群(各群n=3):非標識抗CD82抗体投与群、211At標識抗CD82抗体0.37MBq投与群、及び211At標識抗CD82抗体1.11MBq投与群に分けた。非標識抗CD82抗体投与群では、非標識の抗CD82抗体(5μg)をマウス(約25g)に対して尾静脈投与した。211At標識抗CD82抗体0.37MBq投与群では、0.37MBqの211At標識抗CD82抗体(5μg)をマウス(約25g)に対して尾静脈投与した。211At標識抗CD82抗体1.11MBq投与群では、1.11MBqの211At標識抗CD82抗体(5μg)を尾静脈投与した。抗体投与後、マウスが死亡するまで一般状態の観察と体重測定を行った。Kaplan-Meier法に基づく生存解析を実施した。
【0128】
細胞移植後8日目に抗体を投与した場合の結果を
図5Aに示す。非標識抗CD82抗体投与群では、14日目までに全ての個体が死亡した。一方、
211At標識抗CD82抗体0.37MBq投与群、及び
211At標識抗CD82抗体1.11MBq投与群では、投与放射能量に依存して、生存期間が有意に延長された(Logrank(Mantel-Cox)検定、p<0.01)。
【0129】
細胞移植後12日目に抗体を投与した場合の結果を
図5Bに示す。非標識抗CD82抗体投与群では、16日目までに全ての個体が死亡した。一方、
211At標識抗CD82抗体0.37MBq投与群及び
211At標識抗CD82抗体1.11MBq投与群では、投与放射能量に依存して、生存期間が有意に延長された(Logrank(Mantel-Cox)検定、p<0.01)。
【0130】
<実施例7:抗CD82モノクローナル抗体の作製>
(目的)
CD82タンパク質を特異的かつ高感度で検出可能な新たなモノクローナル抗体を開発する。
【0131】
(方法と結果)
抗CD82モノクローナル抗体の作製は、株式会社細胞工学研究所で実施した。具体的には、配列番号11で示すアミノ酸配列からなるヒトCD82タンパク質を抗原として使用し、ラット1匹及びマウス2匹に対して免疫した。初回免疫はDNA免疫用ベクターを電気穿孔法により導入することにより行い、追加免疫にはヒトCD82タンパク質を強制発現させたHEK293細胞を使用した。免疫後のラット及びマウスの抗血清をヒトCD82強制発現細胞を用いたフローサイトメトリーにより評価し、全ての個体において抗体価上昇を確認した後、各個体から脾臓及び腸骨リンパ節のリンパ球を回収し、各リンパ球とミエローマ細胞とを融合した後、培養上清中の抗体についてフローサイトメトリーを用いてスクリーニングした。次いでフローサイトメトリーで陽性であったものについて、後述する実施例8に準じて細胞免疫染色試験を実施し、良好なウェルを選抜した。この良好なウェルを対象としてメチルセルロース法によりハイブリドーマのクローニングとフローサイトメトリー(FCM)によるスクリーニングを実施した。融合播種したハイブリドーマのウェル数及びフローサイトメトリーで陽性となった数は以下の通りである。
【0132】
【0133】
CD82タンパク質に対して選択的に反応性を示す最も良好なクローンとして、上記表1のラット腸骨リンパ節から3H10H4クローンが得られた。以下では、3H10H4クローンにより産生される抗ヒトCD82ラットモノクローナル抗体をFMU-3H10H4抗体と表記する。
【0134】
<実施例8:FMU-3H10H4抗体を用いた免疫染色>
(目的)
実施例7で作製されたFMU-3H10H4抗体を用いた免疫染色により、急性骨髄性白血病細胞株においてCD82タンパク質を検出する。
【0135】
(方法と結果)
免疫染色に供する急性骨髄性白血病細胞株として、KG-1細胞(ATCC番号:CCL-246)、HL60細胞(ATCC番号:CCL-240)、THP-1細胞(ATCC番号:TIB-202)、MOLM13細胞(JCRB番号:JCRB1810)、及びU937細胞(ATCC番号:CRL-1593.2)を使用した。なお、急性白血病のFAB分類によれば、KG-1細胞はM1、HL60細胞はM2、THP-1細胞はM4、MOLM13細胞はM5a、U937細胞はM5bに分類される。
【0136】
各細胞を用いた免疫染色は、脱パラフィン後の試料に対してプロテアーゼKを用いた抗原賦活化処理(室温にて10分)を行った後、TBSによる2回の洗浄、0.3%過酸化水素による処理(室温にて10分)、及びTBSによる2回の洗浄を行い、1.0mg/mLのFMU-3H10H4抗体(3000倍希釈)を用いた抗体反応(4℃、o/n)を行った。抗体反応後の試料は、TBSによる2回の洗浄後、Biotinylated Anti-rat IgG(VECTOR, 製品番号BA-4000)による処理を室温にて30分間行った。次いでTBSによる2回の洗浄後、VECTASTAIN Elite ABC Reagent(VECTOR, 製品番号PK-6100)による処理(室温、30分間)、TBSによる2回の洗浄、DAB発色(室温、5分)、TBSによる2回の洗浄、及びヘマトキシリン処理を行い、その後封入した。
【0137】
結果を
図6に示す。免疫染色に使用したいずれの急性骨髄性白血病細胞株においても、FMU-3H10H4抗体によりCD82タンパク質が高い感度で検出されることが示された。
【0138】
<実施例9:FMU-3H10H4抗体と市販抗体の性能比較>
(目的)
急性骨髄性白血病細胞株に対する免疫染色でFMU-3H10H4抗体と従来の市販抗体の性能とを比較する。
【0139】
(方法と結果)
FMU-3H10H4抗体の性能を市販の抗ヒトCD82マウスモノクローナル抗体(abcam, ab59509, Anti-CD82抗体[TS82b]-BSA and Azide free)と比較した。本実施例では、この市販の抗体を「対照抗体」と表記する。
【0140】
免疫染色に供する急性骨髄性白血病細胞としては、MOLM13細胞株を皮下に移植して得られた皮下担癌マウスから単離された腫瘍組織を使用した。皮下担癌マウスの作製方法は実施例1に記載の方法と同様に、5×106個のMOLM13細胞を皮下に移植することにより作製した。
【0141】
免疫染色は、FMU-3H10H4抗体又は上記の対照抗体を使用した。FMU-3H10H4抗体は、0.5mg/mL又は1.0mg/mLで免疫染色に使用した。対照抗体は1.0mg/mLで使用した。免疫染色の方法は実施例8の方法に準じた。
【0142】
結果を
図7に示す。0.5mg/mL又は1.0mg/mLのいずれの濃度でFMU-3H10H4抗体を使用した場合も、1.0mg/mLの対照抗体よりも強いシグナルを示した。この結果から、FMU-3H10H4抗体は、対照抗体と比較して、腫瘍組織におけるCD82抗原を飛躍的に高い感度で検出することができることが実証された。
【0143】
次に、実施例8に記載の方法に準じてU937細胞(ATCC番号:CRL-1593.2)、HL60細胞(ATCC番号:CCL-240)、及びTHP-1細胞(ATCC番号:TIB-202)を対象として、FMU-3H10H4抗体又は上記の対照抗体を用いて免疫染色を行った。いずれの抗体も3000倍希釈で免疫染色に使用した。
【0144】
FMU-3H10H4抗体又は上記の対照抗体を用いた免疫染色スライド画像(隣接切片免疫染色画像)の解析は、解析ソフト(HALO version 3.0.311.328, Indica labs)のMultiplex IHC(version 2.2.0)及びArea Quantification(version 2.1.3)を解析アルゴリズムとして使用し、抗体の種類を知らされていない解析者がブラインドで実施した。具体的には、Nuclear RGB optical densitiesをR=0.531、G=0.699、及びB=0.353に、Nuclear Contrast Thresholdを0.457(細胞核を識別するためのコントラストに関する閾値)に、Minimum Nuclear Optical Densityを0.085に、並びにNuclear Segmentation Aggressivenessを0.55に設定して、全細胞数を測定した。また、Membrane RGB optical densitiesをR=0.549、G=0.744、及びB=0.875に、並びにMembrane Segmentation Aggressivenessを0.762(擬陽性を抑制するための閾値)に設定し、CD82細胞膜陽性の細胞数を測定した。その後、細胞膜がCD82陽性を示した細胞数の全細胞数に対する割合を算出した。全細胞数は、U937細胞は276876個(FMU-3H10H4抗体)及び280405個(対照抗体)、HL60細胞は186374個(FMU-3H10H4抗体)及び187169個(対照抗体)、THP-1細胞は301065個(FMU-3H10H4抗体)及び299679個(対照抗体)であった。
【0145】
結果を
図8に示す。U937細胞、HL60細胞、及びTHP-1細胞のいずれにおいても、FMU-3H10H4抗体によって検出されたCD82陽性細胞の割合は、対照抗体を大幅に上回ることが明らかになった。
【0146】
<実施例10:FMU-3H10H4抗体のCDR配列決定>
(目的)
FMU-3H10H4抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域配列並びにCDR配列を決定する。
【0147】
(方法と結果)
3H10H4抗体クローンを対象とする抗体アミノ酸配列の決定を株式会社細胞工学研究所で行った。重鎖及び軽鎖の各可変領域及び各CDRの配列を決定した結果を以下の表2に示す。なお、CDRの同定はKabatの抗体ナンバリングシステムに従った。
【0148】
【0149】
<実施例11:キメラ抗体(ヒト化抗体)>
(目的)
FMU-3H10H4抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むヒト化抗体を作製し、急性骨髄性白血病細胞株に対する免疫染色及び骨髄担癌マウスに対する治療効果の検証に用いる。
【0150】
(方法と結果)
(1)キメラ抗体の作製
ヒト抗体の重鎖可変領域を抗体クローンFMU-3H10H4における配列番号7で示すアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と置換し、またヒト抗体の軽鎖可変領域を配列番号8で示すアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と置換することによって、キメラ抗体(ヒト化抗体)を作製した(以下、「FMU-hCD82キメラ抗体」と呼ぶ)。
【0151】
(2)免疫染色
FMU-hCD82キメラ抗体の性能を、FMU-3H10H4抗体(本実施例では「FMU-hCD82抗体」とも表記する)及び市販の抗ヒトCD82マウスモノクローナル抗体(abcam, ab59509, Anti-CD82抗体[TS82b]-BSA and Azide free;以下「対照抗体」という)と比較した。
【0152】
免疫染色に供する急性骨髄性白血病細胞として、U937細胞(ATCC番号:CRL-1593.2)を使用した。FMU-hCD82キメラ抗体及びFMU-3H10H4抗体は0.5mg/mLで免疫染色に使用した。対照抗体は1.0mg/mLで使用した。免疫染色の方法は実施例8の方法に準じた。
【0153】
結果を
図9に示す。FMU-hCD82キメラ抗体は、FMU-3H10H4抗体及び対照抗体と比較して感度が高いことが示された。
【0154】
(3)211At標識抗CD82抗体による腫瘍成長抑制効果
実施例3と同様の方法により、FMU-hCD82キメラ抗体に対して211At標識を行った。以下では、211At標識されたFMU-hCD82キメラ抗体を「211At標識抗CD82キメラ抗体」と呼び、非標識のFMU-hCD82キメラ抗体を「非標識CD82キメラ抗体」と呼んで区別する。
実施例5と同様の方法により、7.5×106個のU937細胞を皮下に移植することによって皮下担癌マウスを作製した。
【0155】
まず、皮下担癌マウスに投与した211At標識抗CD82キメラ抗体の体内動態を検討した。具体的には、211At標識抗CD82キメラ抗体(0.25MBq)を皮下担癌マウスの尾静脈に投与してから1分、1時間、3時間、6時間、及び24時間後に心臓から全採血し、マウスを安楽死させた。様々な組織を摘出し、γカウンターを用いて放射能を測定した。各組織の単位重量当たりの放射能測定値の投与放射能総量に対する割合(%ID/g)と全腫瘍組織の放射能測定値の投与放射能総量に対する割合(%ID)を計算した(各群n=3)。
【0156】
結果を
図10に示す。この結果から、
211At標識抗CD82キメラ抗体が腫瘍に取り込まれたことが示された。
【0157】
次に211At標識抗CD82キメラ抗体を皮下担癌マウスの尾静脈に投与してから1分後、1時間後、3時間後、6時間後、及び24時間後に心臓から全採血し、マウスを安楽死させた。摘出前の腫瘍サイズをノギスを用いた測定及び式[π/6×長径(mm)×短径(mm)×厚さ(mm)]を用いて算出した。次いで腫瘍組織を摘出し、γカウンターを用いて放射能を測定し、さらに摘出後の腫瘍径と腫瘍の重量を決定した。腫瘍組織の単位重量当たりの放射能測定値の投与放射能総量に対する割合(%ID/g)を計算した(各群n=3)。
【0158】
結果を
図11及び
図12に示す。
図11は、摘出前の腫瘍サイズを「外側(mm3)」として示し、摘出後の腫瘍サイズを「実測(mm3)」として示す。
図12は、%ID/g及び%IDを示す。この結果から、
211At標識抗CD82キメラ抗体が腫瘍に取り込まれたことが示された。
【0159】
次に、細胞移植から6~8日目に、皮下担癌マウスを211At標識抗CD82キメラ抗体投与群(n=4)、非標識抗CD82キメラ抗体投与群(n=5)、及び無処置群(n=3)の3群に分け、各マウスの体重と腫瘍サイズを測定した後、抗体を投与した。211At標識抗CD82キメラ抗体投与群には、1.58MBq(1.58MBq=63.6MBq/kg)の211At標識抗CD82キメラ抗体(5μg)を尾静脈投与した。非標識抗CD82キメラ抗体投与群には、非標識抗CD82キメラ抗体(5μg)を尾静脈投与した。無処置群には、何も投与せずに対照群とした。抗体投与日を基準としてその16日後まで、実施例5と同様の方法により1~2日ごとに腫瘍サイズを測定した。
【0160】
結果を
図13~
図15に示す。
図13は個体ごとの測定結果を示し、
図14は各群における測定結果の平均値を示し、
図15は各群の代表例の写真を示す。非標識抗CD82キメラ抗体投与群(
図13においてCD82-1~CD82-5として示し、
図14及び
図15においてCD82として示す)及び無処置群(
図13においてControl-1~Control-3として示し、
図14及び
図15においてControlとして示す)では、腫瘍サイズが時間経過とともに増大した。16日目に非標識抗CD82キメラ抗体投与群と無処置群の腫瘍の長径が20mmを超え、また腫瘍組織の皮膚が潰瘍を起こしたため、安楽死させた。これに対して、
211At標識抗CD82キメラ抗体投与群(
図13において211At-CD82-1~211At-CD82-4として示し、
図14及び
図15において211At-CD82として示す)では、腫瘍サイズが顕著に抑制された。
211At標識抗CD82キメラ抗体投与群4例のうち、1例は投与後12日目に腫瘍が消失し、その後投与後17日目に再生長となり、時間とともに増大し、投与36日目に腫瘍長径が20mmを超えたため、安楽死させた。2例は投与後8日目まで時間とともに腫瘍が縮小したが、9日目以降時間とともに腫瘍が増大し、投与後24日目に腫瘍長径が20mmを超えたため、安楽死させた。3例は投与後12日目、4例は投与後13日目に腫瘍が消失し、投与後36日目の時点まで消失のままで、現在継続観察中である。
【0161】
以上の結果から、211At標識抗CD82キメラ抗体による顕著な腫瘍生長抑制効果及び腫瘍消失効果が実証された。
【0162】
(4)抗体投与後の生存期間
211At標識抗CD82キメラ抗体投与後の骨髄担癌マウスの生存期間を解析した。実施例6と同様の方法によって、5×106個のU937細胞を尾静脈より徐々に注入することにより骨髄担癌マウスを作製した。細胞移植から8日後、骨髄担癌マウスを以下の3群(各群n=3):非標識抗CD82キメラ抗体投与群、211At標識抗CD82キメラ抗体0.37MBq投与群、及び211At標識抗CD82キメラ抗体1.11MBq投与群に分けた。非標識抗CD82キメラ抗体投与群では、非標識の抗CD82キメラ抗体(5μg)をマウス(約25g)に対して尾静脈投与した。211At標識抗CD82キメラ抗体0.37MBq投与群では、0.37MBqの211At標識抗CD82キメラ抗体(5μg)をマウス(約25g)に対して尾静脈投与した。211At標識抗CD82キメラ抗体1.11MBq投与群では、1.11MBqの211At標識抗CD82キメラ抗体(5μg)をマウス(約25g)に対して尾静脈投与した。抗体投与後、マウスが死亡するまで一般状態の観察と体重測定を行い、Kaplan-Meier法に基づく生存解析を実施した。
【0163】
結果を
図16に示す。非標識抗CD82キメラ抗体投与群では、16日目までに全ての個体が死亡した。一方、
211At標識抗CD82キメラ抗体0.37MBq投与群は17日目まで生存し、
211At標識抗CD82キメラ抗体1.11MBq投与群は22日目~24日目まで生存し、生存期間が延長された。
【0164】
次に、211At標識抗CD8キメラ抗体(0.25MBq/5μg)を骨髄担癌マウスの尾静脈に投与してから1分後、1時間後、3時間後、又は6時間後の時点で、心臓から全採血し、マウスを安楽死させた。次いで、大腿骨を含む様々な組織を摘出し、γカウンターを用いて放射能を測定した。大腿骨を含む様々な組織の単位重量当たりの放射能測定値の投与放射能総量に対する割合(%ID/g)を計算した(各群n=3)。なお、腫瘍組織の重量として大腿骨における骨髄重量(文献値:0.024g)を計算に用いた。
【0165】
結果を
図17に示す。この結果から、
211At標識抗CD82キメラ抗体が大腿骨内の骨髄腫瘍組織に取り込まれることが示された。