(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075255
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】改質油脂及びその製造方法、並びにそれを用いたインキ組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 13/00 20060101AFI20240527BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20240527BHJP
【FI】
C11B13/00
C09D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186576
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 峰
(72)【発明者】
【氏名】川野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】里山 正彦
【テーマコード(参考)】
4H059
4J039
【Fターム(参考)】
4H059BC13
4H059BC15
4H059DA06
4H059EA40
4J039AB08
4J039AD10
4J039AE02
4J039AE06
4J039BC19
4J039BE01
4J039GA02
(57)【要約】
【課題】再生植物油における低温時の析出物の生成や固化の発生を抑制できる改質油脂及びその製造方法、並びにそれを用いたインキ組成物を提供すること。
【解決手段】炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物を再生植物油に添加し、これらを混合することにより得た改質油脂を用いる。この改質油脂は、もとの再生植物油とは異なり、低温時の析出物の生成や固化の発生が抑制されており、インキ組成物の油成分として問題無く使用することが可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生植物油と、炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物と、を含んでなる改質油脂。
【請求項2】
前記再生植物油の酸価が1mgKOH/g以上である請求項1記載の改質油脂。
【請求項3】
前記再生植物油のヨウ素価が110未満である請求項1又は2記載の改質油脂。
【請求項4】
前記再生植物油が使用済み大豆油の再生品である請求項1又は2記載の改質油脂。
【請求項5】
前記ポリマー化合物の含有量が、前記再生植物油100質量部に対して0.03~3質量部である請求項1又は2記載の改質油脂。
【請求項6】
再生植物油と、炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物と、を混合することを特徴とする改質油脂の製造方法。
【請求項7】
前記再生植物油の酸価が1mgKOH/g以上である請求項6記載の改質油脂の製造方法。
【請求項8】
前記再生植物油のヨウ素価が110未満である請求項6又は7記載の改質油脂の製造方法。
【請求項9】
前記再生植物油が使用済み大豆油の再生品である請求項6又は7記載の改質油脂の製造方法。
【請求項10】
前記ポリマー化合物の添加量が、前記再生植物油100質量部に対して0.03~3質量部である請求項6又は7記載の改質油脂の製造方法。
【請求項11】
植物油、及び炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物を含むことを特徴とするインキ組成物。
【請求項12】
オフセット印刷用である請求項11記載のインキ組成物。
【請求項13】
再生植物油に炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物を加えた混合物を油成分として用いることを特徴とするインキ組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質油脂及びその製造方法、並びにそれを用いたインキ組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷を行うために用いられるインキ組成物には、その印刷方式に応じて各種のものが存在する。こうしたインキ組成物の中には、オフセット印刷や凸版印刷等に用いられる、比較的粘度の高いペースト状のインキ組成物や、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等に用いられる、粘度の低い液体状のインキ組成物等がある。これらの中でも、粘度の高いペースト状のインキ組成物では鉱物油や植物油といった油脂が用いられ、近年では環境に配慮して、植物油を主な油脂として用いたインキ組成物が広く流通している。
【0003】
インキ組成物の調製に用いられる植物油としては大豆油や亜麻仁油等が挙げられ、特に大豆油のように食品加工や食用としても使用可能な植物油もインキ組成物を構成する成分として広く用いられている。ところで、こうした大豆油等の食用油は、食品加工を行う工場、飲食店、惣菜店等にて揚げ物を調理するための揚げ油として日々大量に使用されている。そして、調理に使用された揚げ油は、加熱による劣化を生じるため定期的に交換され、使用済みの揚げ油は廃棄処分となる。こうして廃棄処分された食用油は、廃油の回収業者により回収され、その一部が燃料や各種の加工品の原料として再生利用されている。
【0004】
周知のように、近年では持続可能な社会発展への取り組みの一つとして、廃棄物の再生利用が盛んに行われている。インキ組成物製造の分野でも、こうした取り組みの一つとして再生植物油の使用が長く検討されてきており、現在では油脂を多用するペースト状のインキ組成物の分野にて再生植物油を用いることが一般的になりつつある。このような取り組みの一例として、例えば特許文献1には、再生植物油を用いたオフセットインキ組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、再生植物油と一口に言っても、廃棄物となる前の使用状況に応じて油脂としての劣化の状況は様々である。一般に、劣化の進んだ植物油は、酸価が高く、ヨウ素価が小さくなっている。これは、加熱劣化や光劣化により植物油の分解や酸化が進んだことを表しており、このように高度に劣化した植物油をそのままインキ組成物の調製に用いれば、印刷汚れや保存安定性低下等の問題を生じ得る。実際、上記特許文献1に記載されたインキ組成物では、再生植物油として酸価が3よりも低いものを選別して用いることが好ましいとされ、このことから特許文献1記載の発明では、比較的劣化の小さな再生植物油を用いることを想定していると考えられる。
【0007】
また、劣化の進んだ再生植物油で生じ得るその他の問題として、流動性の低下を挙げることもできる。劣化の進んだ再生植物油ではヨウ素価が小さくなっていることからも理解されるように、植物油を構成する油脂分子の二重結合が減少し、未使用の植物油よりも融点が高い状態になっている。このため、劣化の進んだ再生植物油では粘度が高く流動性が低下した状態となっており、特に低温時には析出物を生じたり固化してしまったりするおそれもある。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、再生植物油における低温時の析出物の生成や固化の発生を抑制できる改質油脂及びその製造方法、並びにそれを用いたインキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、炭素数が10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物を再生植物油に添加することにより、再生植物油の流動性が向上し、かつ低温での析出物の生成や固化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」の用語は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」の用語は、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
【0010】
(1)本発明は、再生植物油と、炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物と、を含んでなる改質油脂である。
【0011】
(2)また本発明は、上記再生植物油の酸価が1mgKOH/g以上である(1)項記載の改質油脂である。
【0012】
(3)また本発明は、上記再生植物油のヨウ素価が110未満である(1)項又は(2)項記載の改質油脂である。
【0013】
(4)また本発明は、上記再生植物油が使用済み大豆油の再生品である(1)項~(3)項のいずれか1項記載の改質油脂である。
【0014】
(5)また本発明は、上記ポリマー化合物の含有量が上記再生植物油100質量部に対して0.03~3質量部である(1)項~(4)項のいずれか1項記載の改質油脂である。
【0015】
(6)本発明は、再生植物油と、炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物と、を混合することを特徴とする改質油脂の製造方法でもある。
【0016】
(7)また本発明は、上記再生植物油の酸価が1mgKOH/g以上である(6)項記載の改質油脂の製造方法である。
【0017】
(8)また本発明は、上記再生植物油のヨウ素価が110未満である(6)項又は(7)項記載の改質油脂の製造方法である。
【0018】
(9)また本発明は、上記再生植物油が使用済み大豆油の再生品である(6)項~(8)項のいずれか1項記載の改質油脂の製造方法である。
【0019】
(10)また本発明は、上記ポリマー化合物の添加量が上記再生植物油100質量部に対して0.03~3質量部である(6)項~(9)項のいずれか1項記載の改質油脂の製造方法である。
【0020】
(11)本発明は、植物油、及び炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物を含むことを特徴とするインキ組成物でもある。
【0021】
(12)また本発明は、オフセット印刷用である(11)項記載のインキ組成物である。
【0022】
(13)本発明は、再生植物油に炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物を加えた混合物を油成分として用いることを特徴とするインキ組成物の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、再生植物油における低温時の析出物の生成や固化の発生を抑制できる改質油脂及びその製造方法、並びにそれを用いたインキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の改質油脂の一実施形態、改質油脂の製造方法の一実施態様、インキ組成物の一実施形態、及びインキ組成物の製造方法の一実施態様のそれぞれについて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態又は実施態様に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
<改質油脂>
まずは、本発明の改質油脂の一実施形態について説明する。本発明の改質油脂は、再生植物油と、炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物と、を含んでなることを特徴とする。以下、説明する。
【0026】
[再生植物油]
本発明で用いる再生植物油は、加熱又は光照射を受けることにより劣化した植物油を再生処理したものである。ここでいう再生処理とは、例えば揚げ物等の調製の為に使用された食用油であれば、使用後に含まれる揚げかす等の残渣を濾して取り除くような処理を挙げることができる。なお、劣化した植物油を回収し、そのままの状態でこれを用いてもよい。このような場合には、厳密には回収以外の処理は行っていないことになるが、その場合であっても本発明ではそれを「再生植物油」として扱うものとする。
【0027】
本発明では、再生植物油の原料となる植物油の劣化原因は特に問わない。このような劣化原因の一例としては、揚げ物調理における揚げ油として加熱を受けたこと、食品加工機械等の潤滑油として用いられたこと、放置され日光の照射を受けたこと等を挙げることができるが、特に限定されない。典型的な例としては、揚げ物調理における揚げ油として用いられたことを挙げられる。揚げ油として使用された廃油は、専門の回収業者等により回収された後に、それに含まれる残渣が濾し取られて再生植物油となる。こうした再生植物油は、劣化の程度に応じて各種のグレードのものが市販されているので、そうした市販品を入手して用いることができる。
【0028】
植物油は、食用であっても非食用であってもよい。このような植物油としては、サラダ油、コーン油、オリーブ油、大豆油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、カノーラ油、菜種油、紅花油、亜麻仁油、桐油、ヒマシ油等を挙げることができる。これらの中でも、大豆油を好ましく例示することができる。この場合、上記の再生植物油は、使用済み大豆油の再生品であることになる。
【0029】
劣化を受けた植物油は、劣化前の植物油に比べてヨウ素価が低下し、酸価が上昇する。これは、劣化に伴って、油脂分子に含まれる不飽和結合が減少し、また、分子中にカルボキシ基を生じるためである。これらヨウ素価や酸価は、植物油の劣化の指標となるものである。本発明で用いられる再生植物油のヨウ素価の一例としては、110未満程度のものが挙げられる。また、酸価の一例としては、1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが挙げられる。また、この酸価の下限としては、5mgKOH/gや10mgKOH/g等が挙げられる。
【0030】
また、劣化を受けた植物油は、油脂分子にて二重結合が存在していた箇所にヒドロペルオキシド基(-OOH)を生じることがある。この場合、再生植物油は、過酸化物価(POV;Peroxide Value)を持つことになる。本発明の再生植物油としては、過酸化物価が1meq/kg以上のものが好ましく挙げられる。この過酸化物価の上限としては、1000meq/kg程度が好ましく挙げられ、800meq/kg程度がより好ましく挙げられ、700meq/kg程度がさらに好ましく挙げられる。また、過酸化物価の下限としては、上記のように1meq/kgが好ましく挙げられ、10meq/kg程度がより好ましく挙げられ、30meq/kg程度がさらに好ましく挙げられる。なお、過酸化物価は、公知のように、測定対象となる油脂にヨウ化カリウムを作用させて遊離したヨウ素(I2)を0.01Nチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定して求めることができる。すなわち、油脂に含まれるヒドロペルオキシド基をヨウ素分子(I2)に置き換え、ヨウ素分子がデンプンに反応して青紫色に変わる性質を利用してチオ硫酸ナトリウムで滴定して色が消えるまでの量を求め、滴定で消費したチオ硫酸ナトリウムの当量数を求めればよい。その滴定結果をもとに、油脂1kgに含まれる過酸化物のミリグラム当量(meq)を算出したものが過酸化物価(単位;meq/kg)となる。
【0031】
劣化の進んだ、すなわちヨウ素価が小さく、また酸価の大きな再生植物油は、室温において粘性が高く流動性が乏しいだけでなく、低温において析出物を生じて固化する。こうした再生植物油がインキ組成物等の原料として不適切なことは既に述べた通りである。本発明では、こうした劣化の進んだ再生植物油に、後述するポリマー化合物を添加することで、特に、再生植物油の低温時における析出物の生成や固化を抑制する。
【0032】
[ポリマー化合物]
本発明にて用いられるポリマー化合物は、炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体である。このポリマー化合物が上記再生植物油に添加されることで、その再生植物油は、低温時の析出物の生成や固化の発生が抑制された、本発明の改質油脂となる。このポリマー化合物は、炭素数10~20であるアルコールと、カルボン酸である(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリレートモノマーの重合体である。なお、上記「炭素数10~20であるアルコール」は、一種のアルコールであってもよいし、二種以上のアルコールを組み合わせたものであってもよい。こうしたポリマー化合物は、側鎖に脂肪鎖を備えた(メタ)アクリレートポリマーということができる。このポリマー化合物の分子量としては、5万~20万程度が好ましく挙げられ、8万~12万程度をより好ましく挙げられる。
【0033】
このようなポリマー化合物は、合成によって得たものを用いてもよいし、市販品を入手して用いてもよい。このような市販品の一例としては、Functional Products,Inc社製のPD-585やPD-555C等を挙げることができる。
【0034】
上記のポリマー化合物が、劣化の進んだ再生植物油における析出物の生成や固化を抑制するメカニズムは必ずしも明らかではない。しかし、次のようなメカニズムでこれらを抑制していると推測される。劣化の進んだ再生植物油が低温時に析出物を生じたり固化したりする際には、他の化合物が結晶化して析出する場合と同様に、再生植物油を構成する油脂分子同士が集合状態になって固化する必要がある。こうした油脂分子同士の集合状態となった箇所は、いわば結晶成長点ともいうことができ、この結晶成長点に油脂分子が集まって析出物を形成させることになる。一方、上記のポリマー化合物は、側鎖に炭素数10~20の脂肪鎖を備えており、この側鎖が高い脂溶性を持つことになる。すると、同じく高い脂溶性を持つ油脂分子の集合体である結晶成長点に上記のポリマー化合物が吸着され、結果として油脂分子の結晶成長が抑制されて、析出物の生成や固化が抑制されると考えられる。
【0035】
再生植物油中におけるポリマー化合物の添加量としては、再生植物油100質量部に対して0.03~3質量部程度が好ましく挙げられ、0.05~2質量部程度がより好ましく挙げられ、0.1~1質量部程度がさらに好ましく挙げられる。
【0036】
本発明の改質油脂を調製するには、処理対象となる再生植物油と上記ポリマー化合物とを均一に混合すればよい。このとき、加熱を行っても行わなくてもよい。加熱を行う場合、100~150℃程度を例示できるが、特に限定されない。
【0037】
<改質油脂の製造方法>
上記本発明の改質油脂の製造方法もまた、本発明の一つである。本発明の改質油脂の製造方法は、再生植物油と、炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物と、を混合することを特徴とする。これについては既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【0038】
なお、処理対象となる再生植物油の酸価は、1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが挙げられ、そのヨウ素価は、110未満であることが挙げられる。これらのことも既に述べた通りである。また、再生植物油は、使用済み大豆油の再生品であることが好ましい。このことも既に述べた通りである。
【0039】
<インキ組成物>
上記本発明の改質油脂を油成分として含むインキ組成物も本発明の一つである。本発明のインキ組成物は、植物油、及び炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物を含むことを特徴とする。なお、この「植物油、及び炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物」は、上記の改質油脂によりもたらされた成分となる。
【0040】
本発明のインキ組成物は、上記改質油脂を油成分として含むものなので、ペーストタイプのインキ組成物となる。そして、こうしたインキ組成物の中でも、本発明のインキ組成物は、オフセットインキ組成物であることを好ましく挙げられ、特に、新聞印刷用のインキ組成物であることを好ましく挙げられる。なお、本発明のインキ組成物は、油成分の少なくとも一部として上記改質油脂を用いることを除いて、通常のインキ組成物と同様の組成を備える。こうしたインキ組成物は、一般に、着色顔料、バインダー樹脂及び油成分を含むものになる。以下、各成分について説明する。
【0041】
[着色顔料]
着色顔料は、インキ組成物に着色力を付与するための成分である。着色顔料としては、従来からインキ組成物に使用される有機及び/又は無機顔料を挙げることができる。このような着色顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、蛍光顔料等が例示される。また、インキ組成物に金色や銀色等の金属色を付与するための金属粉顔料も本発明では着色顔料として扱う。このような金属粉顔料としては、金粉、ブロンズパウダー、アルミニウムパウダーをペースト状に加工したアルミニウムペースト、雲母パウダー等を挙げることができる。
【0042】
着色顔料の添加量としては、インキ組成物の全体に対して8~30質量%程度が例示されるが、特に限定されない。なお、イエロー顔料を使用してイエローインキ組成物を、マゼンタ顔料を使用してマゼンタインキ組成物を、シアン顔料を使用してシアンインキ組成物を、黒色顔料を使用してブラックインキ組成物をそれぞれ調製する場合には、補色として、他の色の顔料を併用したり、他の色のインキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0043】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂は、印刷用紙の表面で上記顔料を固定するバインダーとして機能する成分であり、また、上記顔料をインキ組成物中に分散させるために用いられる成分でもある。このようなバインダー樹脂としては、インキ組成物の分野で通常使用されるものを特に制限なく挙げることができ、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性石油樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、アルキド樹脂、植物油変性アルキド樹脂、石油樹脂等が例示される。これらの樹脂の重量平均分子量としては、1000~30万程度を好ましく例示することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
これらのバインダー樹脂の中でも、良好な顔料分散性及び印刷品質、並びに長時間にわたる安定な印刷適性といった観点からは、樹脂として、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及びアルキド樹脂よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。ロジン変性フェノール樹脂及びロジン変性マレイン酸樹脂の重量平均分子量としては、特に限定されないが、1万~30万程度を例示することができ、アルキド樹脂の重量平均分子量としては、特に限定されないが、1000~3万程度を例示することができる。なお、バインダー樹脂の添加量としては、インキ組成物全体に対して、10~45質量%程度を好ましく例示できる。
【0045】
バインダー樹脂は、後述する油成分とともに加熱されることにより溶解又は分散され、ワニスとされた状態で使用される。ワニスを調製する際、樹脂を溶解させて得られた溶解ワニス中に金属キレート化合物や金属石けん等のゲル化剤を投入し、ゲル化ワニスとしてもよい。バインダー樹脂からゲル化ワニスを調製し、これをインキ組成物の調製に用いることにより、インキ組成物に適度な粘弾性を付与することができるので好ましい。
【0046】
[油成分]
油成分は、上記樹脂を溶解又は分散させてワニスとしたり、インキ組成物の粘度を調節したりするために用いられる。本発明のインキ組成物では、油成分の少なくとも一部として、上記本発明の改質油脂を含むことを特徴とする。また、本発明のインキ組成物は、必要に応じて、上記本発明の改質油脂に加えて、その他の油成分を含んでもよい。こうしたその他の油成分としては、植物油や鉱物油を挙げることができる。
【0047】
このような植物油としては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油等の乾性油や半乾性油等が例示される。これらの植物油は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。インキ組成物における植物油及び上記改質油脂の含有量としては、インキ組成物全体に対して5~60質量%程度を例示することができる。
【0048】
また、鉱物油としては、溶剤成分と呼ばれる軽質の鉱物油や、潤滑油状である重質の鉱物油等が例示される。
【0049】
軽質の鉱物油としては、沸点160℃以上、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が例示される。このような非芳香族系石油溶剤としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製の0号ソルベント、同AFソルベント5号、同AFソルベント6号、同AFソルベント7号等が例示される。
【0050】
重質の鉱物油としては、スピンドル油、マシン油、ダイナモ油、シリンダー油等として分類されてきた各種の潤滑油を挙げることができる。これらの中でも、米国におけるOSHA基準やEU基準に適応させるとの観点からは、縮合多環芳香族成分の含有量が抑制されたものであることが好ましい。このような鉱物油としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製のインクオイルH8、同インクオイルH35、三共油化工業株式会社製のSNH8、同SNH46、同SNH220、同SNH540等が例示される。
【0051】
これらの鉱物油は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。インキ組成物における鉱物油の含有量としては、インキ組成物全体に対して0~50質量%程度を例示することができる。
【0052】
[その他の成分]
本発明のインキ組成物には、印刷性能を向上させる等の観点から、必要に応じて上記の各成分の他に各種成分を添加することができる。このような各種成分としては、無色顔料、アルキド樹脂、石油樹脂等の樹脂類、ギルソナイト、リン酸塩等の塩類、ポリエチレン系ワックス・オレフィン系ワックス・フィッシャートロプシュワックス等のワックス類、アルコール類、酸化防止剤等が例示される。
【0053】
無色顔料は、体質顔料とも呼ばれ、インキ組成物における粘弾性等といった特性を調節するために好ましく使用される。無色顔料としては、クレー、タルク、カオリナイト(カオリン)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ベントナイト、酸化チタン等が例示される。無色顔料の添加量としては、インキ組成物全体に対して0~33質量%程度が例示されるが、特に限定されない。
【0054】
上記の各成分を用いて本発明の印刷インキ組成物を製造するには、公知の方法が使用できる。このような方法としては、上記の各成分を混合した後にビーズミルや三本ロールミル等で練肉することで顔料を分散させた後、必要に応じて添加剤(酸化防止剤、アルコール類、ワックス類等)等を加え、さらに油成分の添加により粘度調整することが例示される。インキ組成物における粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が2.0~20Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【0055】
<インキ組成物の製造方法>
上記インキ組成物の製造方法も本発明の一つである。本発明のインキ組成物の製造方法は、再生植物油に炭素数10~20であるアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの重合体であるポリマー化合物を加えた混合物を油成分として用いることを特徴とする。これらのことについては既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【実施例0056】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
再生植物油(酸価:14.9mgKOH/g、ヨウ素価:102.6)に、Functional Products,Inc社製の2種のメタクリレートポリマー(PD-585及びPD-555C;いずれも商品名)のいずれかを添加して130℃にて30分間加熱(実施例1~6)又は25℃にて30分間加温(実施例7及び8)することで改質油脂とした。用いた2種のポリマーは、いずれも炭素数10~20であるアルコールのメタクリレートポリマーであり、これらのGPCで求めた重量平均分子量、及び熱分解GC/MSで求めたモノマー比を表1にそれぞれ示す。得られた改質油脂のそれぞれについて、5℃にて24時間静置した後の流動状態及び外観を観察した。その際の評価基準は下記の通りとし、評価結果を表2の「安定性」欄に示す。また、表2における各配合量は、いずれも質量部である。
○:流動性良好であり、析出物も観察されない
△:やや流動性が低下するが析出物もなく、使用に問題はない
×:流動性がなく全体が固化している又は析出物が観察され、使用は不可である
【0058】
【0059】
【0060】
表2から理解されるように、炭素数10~20であるアルコールのメタクリレートポリマーを再生植物油に添加して得た改質油脂は、いずれも実用上問題のない安定性を示した一方、何も添加しない再生植物油では安定性が劣る結果だった。また、加温温度が25℃である実施例7及び8が、加熱温度が130℃である実施例5及び6と同等の結果を示したことから、改質油脂の調製において高温での熱処理は必ずしも必要なく、室温程度の温度で混合すれば十分であることが理解できる。