(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075260
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】免疫調整用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240527BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20240527BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20240527BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240527BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20240527BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240527BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240527BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240527BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240527BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12P1/04 Z
C12P19/04 Z
C12P19/04 C
A23L33/135
A61K35/745
A61P11/00
A61P37/02
A61P29/00
A61P31/12
A61P43/00 117
A61P43/00 111
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186590
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久原 徹哉
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB04
4B018LB05
4B018LB06
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4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
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4B018LE05
4B018MD87
4B018ME14
4B018MF13
4B064AF11
4B064CA02
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4B065AA21X
4B065AA21Y
4B065AC14
4B065BA30
4B065CA41
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC59
4C087CA09
4C087CA10
4C087CA14
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZB02
4C087ZB03
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB21
4C087ZB33
(57)【要約】
【課題】免疫調整作用を有する成分、特に容易に経口摂取可能な成分を提供する。
【解決手段】新規菌株ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum) MCC10345(NITE BP-03751)が提供される。該菌株が産生する菌体外多糖(EPS)を免疫調整用組成物の有効成分とする。かかる組成物は、上気道の上皮細胞における免疫調整用に好適である。本発明における免疫調整は、好ましくは炎症性サイトカインの産生抑制、抗ウイルス性サイトカインの産生促進、及び/又は抗ウイルス性タンパク質の産生促進により引き起こされるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum) MCC10345(NITE BP-03751)。
【請求項2】
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-03751)が産生する菌体外多糖(EPS)。
【請求項3】
NITE BP-03751ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロ
ンガム MCC10345(NITE BP-03751)及び/又は、前記細菌が産生
するEPSを含有する、免疫調整用組成物。
【請求項4】
上気道の上皮細胞における免疫調整用である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記免疫調整が、炎症性サイトカインの産生抑制、抗ウイルス性サイトカインの産生促進、及び/又は抗ウイルス性タンパク質の産生促進により引き起こされる、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
前記炎症性サイトカインがIL-8及び/又はIL-1βである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗ウイルス性サイトカインがIFNβ及び/又はIFNλ2である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗ウイルス性タンパク質がMx2である、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記EPSが、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345の菌体、前記菌体の培養物及び前記菌体の処理物から選択される一種又は二種以上に含まれる形態で含有されている、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項10】
飲食品である、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項11】
免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
医薬品である、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項13】
ウイルス感染性疾患を治療または予防するために用いられる、請求項12に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫調整用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古くからあるインフルエンザウイルスや新たな脅威である新型ウイルスなどの病原性ウイルスから、身体を守ることへの関心は高い。病原性ウイルスへの対応としては、生体内へのウイルスの侵入や増殖を防ぐ自然免疫系が重要であり、これには種々のサイトカインや抗ウイルス性タンパク質が関与することが知られている。そのため、免疫に関与するサイトカインやタンパク質の産生を制御しうる成分の探索がなされている(例えば特許文献1)。
【0003】
近年、腸内細菌が産生する菌体外多糖(Extracellular polymeric substances、以降、「EPS」とも記す)が免疫調節作用等のヒトに有用な生理活性を有することが報告されている(非特許文献1)。EPSは、種々の糖残基で構成される多糖であるが、細菌種や株により構成糖や構造、大きさ、電荷が異なり、それぞれに生理活性が異なることが推測されている。
例えば、所定の乳酸菌が産生するEPSが炎症性サイトカインの産生を制御し、また抗ウイルス性サイトカインの産生を促進することが報告されている(特許文献2)。また、所定のビフィドバクテリウム属細菌が産生するEPSが免疫賦活作用を有したり、抗アレルギー作用を有したりすることも報告されている(特許文献3~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5852558号
【特許文献2】特許第7017864号
【特許文献3】国際公開第07/007562号
【特許文献4】特開昭58-203913号公報
【特許文献5】特開2011-201781号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】福田健二、応用糖質科学、第5巻、第1号、31-35(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、免疫について賦活と抑制とをバランスよく調整し得る成分、特に容易に経口摂取可能な成分を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ビフィドバクテリウム属細菌についてはEPSを産生することが知られているが、特定の菌株が産生するEPSが有する作用については不明なところが多い。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ビフィドバクテリウム属細菌の新規菌株が産生するEPSが優れた免疫調整作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は第一の側面として、新規ビフィドバクテリウム属細菌である、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム(Bifidobacterium longum s
ubsp. longum) MCC10345(NITE BP-03751)である。
【0009】
本発明の第二の側面は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-03751)が産生するEPSである。
【0010】
本発明の第三の側面は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-03751)及び/又は、前記細菌が産生する
EPSを含有する、免疫調整用組成物である。
ここで、前記組成物は、上気道の上皮細胞における免疫調整用であることが好ましい。
また、前記免疫調整は、炎症性サイトカインの産生抑制、抗ウイルス性サイトカインの産生促進、及び/又は抗ウイルス性タンパク質の産生促進により引き起こされることが好ましい。
また、前記炎症性サイトカインは、IL-8及び/又はIL-1βであることが好ましい。
また、前記抗ウイルス性サイトカインは、IFNβ及び/又はIFNλ2であることが好ましい。
また、前記抗ウイルス性タンパク質は、Mx2であることが好ましい。
本発明の第三の側面において、前記EPSは、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345の菌体、前記細菌の培養物及び前記菌体の処理物から選択される一種又は二種以上に含まれる形態で含有されていることが好ましい。
本発明の第三の側面に係る組成物は、飲食品であることが好ましく、免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる飲食品であることがより好ましい。
本発明の第三の側面に係る組成物は、医薬品であることが好ましく、ウイルス感染性疾患を治療または予防するために用いられる医薬品であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、IFNβやIFNλ2やMx2の産生を促進することができる。また、それにより免疫賦活化することができる。また本発明によれば、IL-8やIL-1βの産生を抑制することができる。また、それにより免疫抑制することができる。本発明の組成物は経口摂取可能であるため、飲食品や医薬品の態様で簡便に利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】EPS試料を添加した肺上皮細胞A549における、IFNβ遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。**:p<0.01、student t検定。
【
図2】EPS試料を添加した肺上皮細胞A549における、Mx2遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。*:p<0.05、student t検定。
【
図3】EPS試料を添加した肺上皮細胞A549における、IL-8遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。**:p<0.01、student t検定。
【
図4】EPS試料を添加した肺上皮細胞A549における、IL-1β遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。*:p<0.05、student t検定。
【
図5】EPS試料を添加した腸管上皮細胞HT29における、IFNβ遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。*:p<0.05、***:p<0.001、student t検定。
【
図6】EPS試料を添加した腸管上皮細胞HT29における、IFNλ2遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。***:p<0.001、student t検定。
【
図7】EPS試料を添加した腸管上皮細胞HT29における、IFNβ遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。*:p<0.05、***:p<0.001、student t検定。
【
図8】EPS試料を添加した腸管上皮細胞HT29における、IFNβ遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。***:p<0.001、student t検定。
【
図9】加熱菌体を添加した腸管上皮細胞HT29における、IFNλ2遺伝子の相対発現量を示すグラフ(n=4)。*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001、student t検定。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0014】
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum) MCC10345(NITE BP-03751)(以下、「ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムMCC10345」ともいう。)は、ヒト糞便を分離源として単離された、新規ビフィドバクテリウム属細菌である。本細菌の遺伝学的性質を調べるため、16SrRNA遺伝子塩基配列を常法により同定した。さらに、各ビフィドバクテリウム属細菌の16SrRNA遺伝子塩基配列について、米国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のデータベースにて、BLAST解析により前記塩基配列の相同性検索を行った。
その結果、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムの基準株であるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム JCM1217と前記塩基配列において99%の相同性があり、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムに属するビフィドバクテリウム属細菌であることが確認された。
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345は、令和4年9月14日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号:292-0818、住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、ブダペスト条
約に基づく国際寄託がなされ、受託番号NITE BP-03751が付与されている。
【0015】
なお、本明細書におけるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345には、当該細菌名で所定の機関に寄託や登録がなされている株そのもの(以下、説明の便宜上、「寄託株」ともいう)に限られず、それと実質的に同等な株(「派生株」又は「誘導株」ともいう)も包含される。細菌について、上記寄託株と「実質的に同等の株」とは、上記寄託株と同一の種に属し、さらに上記寄託株とのゲノム配列の類似度(Average Nucleotide Identity値)が、好ましくは99.0%以上、より好ま
しくは99.5%以上、さらに好ましくは100%の同一性を有し、かつ、好ましくは上記寄託株と同一の菌学的性質を有する株をいう。細菌について、上記寄託株と実質的に同等の株は、例えば、当該寄託株を親株とする派生株であってよい。派生株としては、寄託株から育種された株や寄託株から自然に生じた株が挙げられる。育種方法としては、遺伝子工学的手法による改変や、突然変異処理による改変が挙げられる。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグア
ニジン、エチルメタンスルフォネート、及びメチルメタンスルフォネート等の変異剤による処理が挙げられる。寄託株から自然に生じた株としては、寄託株の使用の際に自然に生じた株が挙げられる。そのような株としては、寄託株の培養(例えば継代培養)により自然に生じた変異株が挙げられる。派生株は、一種の改変により構築されてもよく、二種又はそれ以上の改変により構築されてもよい。
【0016】
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345は、寄託株や派生株(誘導株)を培養することにより取得した菌体を用いることができる。
培養方法は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が増殖できる限り、特に制限されない。培養方法としては、例えば、一般的なビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムの培養に通常用いられる
方法を、そのまま、あるいは適宜修正して、用いることができる。培養温度は、例えば、25~50℃であってよく、35~42℃であることが好ましい。培養は、好ましくは嫌気条件下で実施することができ、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら実施することができる。また、培養は、液体静置培養等の微好気条件下で実施することもできる。培養は、例えば、前記細菌が所望の程度に増殖するまで実施することができる。
【0017】
培養に用いる培地は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム
MCC10345が増殖できる限り、特に制限されない。培地としては、例えば、前記細菌の培養に通常用いられる培地を、そのまま、あるいは適宜修正して、用いることができる。すなわち、炭素源としては、例えば、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類を資化性に応じて用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩類や硝酸塩類を用いることができる。また、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄等を用いることができる。また、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等の有機成分を用いてもよい。また、前記細菌の培養に通常用いられる培地として、具体的には、強化クロストリジア培地(Reinforced Clostridial medium)、MRS培地(de Man, Rogosa, and Sharpe medium)、mMRS培地(modified MRS medium)、TOSP培地(TOS propionate medium)、TOSP Mup培地(TOS propionate mupirocin medium)、GAM(Gifu Anaerobic Medium)培地、YCFA(Yeast Extract-casein Hydrolysate Acid)培地等が挙げられる。
【0018】
菌体は、生菌体であってもよく、死菌体であってもよく、生菌体と死菌体の混合物であってもよい。死菌体は、任意の方法で殺菌したものであってよいが、例えば菌体の加熱処理物(加熱殺菌体)が好ましい。加熱殺菌体は、例えば前記細菌を70~120℃で10~40分間、80~110℃で10~40分間、90~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理することにより得られるものであってよい。この加熱殺菌の条件であれば、後記の免疫調整作用が高い加熱殺菌体を得ることが可能である。
なお、加熱処理の際に、圧力を加えてもよい。加熱処理の間、温度は必ずしも一定である必要はなく、所定の時間前記温度の範囲にあればよい。
菌体の培養物としては、例えば、培養により得られた培養物をそのまま用いてもよく、培養物を希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。また、培養物として、培養上清や培養画分を用いてもよい。培養上清を用いる場合は、例えばMRS培地で37℃、16hの条件で培養した時の培養液の上清を好ましく使用できる。
菌体の処理物としては、菌体又は培養物に対して、加熱、破砕、加熱乾燥、凍結乾燥、又は噴霧乾燥、及びそれらの希釈物又は画分を用いることができる。
【0019】
本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-03751)が産生するEPSである。
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345に
は、前述した一般的な培養により、EPSを産生させることができる。当該細菌は、通常、菌体内で産生したEPSを菌体外に分泌する。そのためEPSは上記のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-
03751)の培養方法により得ることが可能である。
【0020】
すなわち、本発明の別の側面として、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-03751)を培養して培養物を
得る工程と、前記培養物からEPSを回収する工程と、を含む、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-0375
1)が産生するEPSの製造方法であってよい。
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-03751)を培養して培養物を得る工程と、前記培養物からEPSを
回収する工程は、上記のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム
MCC10345(NITE BP-03751)の培養条件により適宜行うことがで
きる。
培養物からEPSを回収する工程は、培養物からEPSを分離精製する工程であってよく、培養物からMCC10345の菌体、前記菌体の培養物及び前記菌体の処理物から選択される一種又は二種以上に含まれる形態でEPSを回収する工程であってもよい。
培養物からEPSを分離精製する工程としては、特に限定されないが、遠心分離、膜分離等の公知の方法にて行うことが可能である。膜分離としては、分子量100000以下のEPSを除去する透析膜を用いて行うことができる。
培養物からMCC10345の菌体、前記菌体の培養物及び前記菌体の処理物から選択される一種又は二種以上に含まれる形態でEPSを回収する工程としては、特に限定されないが、遠心分離、希釈、濃縮、破砕、加熱、加熱乾燥、凍結乾燥、又は噴霧乾燥等の公知の方法を適宜組み合わせて行うことが可能である。
【0021】
本発明の組成物は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム
MCC10345(NITE BP-03751)及び/又は前記細菌が産生するEPS
を有効成分として含有する。
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345は
上述のとおりの菌体を用いることが可能である。
本発明の組成物に前記EPSを含有させるに際しては、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345の菌体、前記細菌の培養物及び前記菌体の処理物から選択される一種又は二種以上に含まれる形態で含有させることができる。
【0022】
本発明の組成物におけるビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSの含有量としては特に限定されず、組成物の形態により適宜設定されるが、例えば摂取するときの形態において0.1~1000μg/g又は0.1~1000μg/mLとすることが好ましく、1~1000μg/g又は1~1000μg/mLとすることがより好ましく、10~100μg/g又は10~100μg/mLとすることがさらに好ましい。なおEPSの構造は詳しくは判明していないが、分子量100000以下である。
また、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSを、該細菌の菌体、前記細菌の培養物及び/又は前記菌体の処理物の形態で含有させる場合、その含有量としては特に限定されず、組成物の形態により適宜設定される。例えば、摂取するときの形態において、前記細菌の菌体量として、1×104~1×1013cfu/g又は1×104~1×1013cfu/mLとすることが好ましく、1×105~1×1012cfu/g又は1×105~1×1012cfu/mLとすることがより好ましく、1×106~1×1011cfu/g又は1×106~1×1011cfu/mLとすることがさらに好ましい。なお、本明細書において「cfu」は、colony forming unit(コロニー形成単位)を表す。また、死菌体を用いる場合は
、cfu/g又はcfu/mLは個細胞/g又は個細胞/mLと読み替えてよい。
また、前記細菌の培養物として培養上清を用いる場合は、組成物全体の0.1~100質量%とすることが好ましく、より好ましくは1~90質量%、さらに好ましくは10~80質量%とすることができる。
【0023】
また、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSを、該細菌の菌体、前記細菌の培養物及び/又は前記菌体の処理物の形態で含有させる場合、その組成物全体に対する含有量は、好ましくは0.001質量
%以上100質量%未満、より好ましくは0.005~95質量%、さらに好ましくは0.01~85質量%、さらに好ましくは0.1~80質量%、よりさらに好ましくは1~75質量%である。
これらは、通常、経口組成物として流通するときの含有量の範囲であってよい。
【0024】
本発明の組成物は、免疫調整作用を有する。ここで「免疫調整」とは、免疫が適切に機能するようにバランスをとることを指し、「免疫賦活」と「免疫抑制」とを含む。
本明細書において「免疫賦活」とは、免疫反応を亢進する方向への作用を指し、具体的には免疫反応が低下した状態からの改善作用、及び免疫反応が正常又は良好な状態からより高める増強作用とを含む。また、免疫反応を亢進する方向への作用には、免疫賦活によって引き起こされる、ウイルス感染を防御すること及びウイルス増殖を抑制する作用(これらをまとめて、抗ウイルス作用ともいう)、及び感染性疾患を治療または予防する作用や該疾患の症状を改善・緩和する作用が含まれてよい。ここで、「予防」とは適用対象における疾患若しくは症状の発生の防止や遅延、又は適用対象の疾患若しくは症状の危険性の低下をいう。また、感染性疾患としては、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、RSウイルス等により引き起こされる疾患や、COVID-19等が挙げられる。
本明細書において「免疫抑制」とは、免疫反応が過剰にならないように、炎症を抑制する方向への作用(抗炎症作用)を含む。
【0025】
また、本発明の組成物の有する免疫調整作用の発揮される部位は、特に限定されないが、通常は上皮細胞であり、上気道の上皮細胞や腸管の上皮細胞などが挙げられ、上気道の上皮細胞がより好ましい。
そのため、本発明の組成物は、上気道に感染し疾患を引き起こしうるウイルスに対抗する予防又は治療用として好適である。
【0026】
後述の実施例に示されるように、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSは、炎症性サイトカイン(IL-8、IL-1β等)の産生を抑制し、抗ウイルス性サイトカイン(IFNβ、IFNλ2等)の産生を促進し、また抗ウイルス性タンパク質(Mx2等)の産生を促進する。ここで「産生促進」とは、その産生量又は産生速度が、本発明の組成物の適用前に比べて適用後に、又は本発明の組成物の非適用の場合に比べて適用の場合に、増大することをいう。「産生抑制」とは、その産生量又は産生速度が、本発明の組成物の適用前に比べて適用後に、又は本発明の組成物の非適用の場合に比べて適用の場合に、減少することをいう。産生促進又は産生抑制は、特に限定されないが、これらのサイトカインやタンパク質の血中濃度を測定したり、これらの遺伝子のmRNA発現量を測定したりすることで確認できる。
【0027】
ウイルスの感染に対する自然免疫機構の活性化は、Toll like receptors(TLR3,
7,9等)やRIG-like receptor(RIG-I,MDA-5等)により感知された細胞へ
のウイルス感作が、下流のシグナル伝達経路を活性化し、抗ウイルス性サイトカイン(IFNs)や炎症性サイトカインの遺伝子発現を誘導することにより作動する。ウイルス感染細胞自身は自身のIFNsにより、また周囲の細胞は分泌されたIFNsのIFN受容体への結合により、それぞれ細胞の抗ウイルス状態が誘起される。I型、III型IFNは、JAK―STAT経路を介してSTAT1、2及びIRF9からなる転写因子ISG
F3複合体を形成し、IFN-stimulated genes(ISGs)発現を活性化する。実際の抗ウイルスエフェクター分子はISGsに属するMxA protein、protein kinase R(PKR)、2′5′-oligoadenylate synthetase (OAS)等である。
他方、ウイルス感染によるTLRs等を介した炎症性サイトカイン発現誘導は、ウイルス感染細胞の排除のため、炎症性免疫細胞の局所への誘導および活性化を促進するが、それらの過剰な活性化は炎症の蔓延をもたらし、かえって生体防御機能低下の一因となる。これに関し、多発性硬化症multiple sclerosis(MS)治療に用いられるIFNβ製剤は
、抗炎症サイトカインの産生を増強して過剰なT細胞活性化を抑えると報告されていることからも理解できる(Iran, J. Neurol., 2013;12:149-56.)。
そのため、本発明の組成物は、炎症性サイトカイン(IL-8、IL-1β等)の産生を抑制し、抗ウイルス性サイトカイン(IFNβ、IFNλ2等)の産生を促進し、また抗ウイルス性タンパク質(Mx2等)の産生を促進するにより、免疫を賦活しつつ過剰な免疫活性化と炎症を抑える効果をもたらす。すなわち、本発明の組成物は、免疫の賦活と抑制とを適切なバランスで調整することにより、自然免疫系を介した生体防御機能を発揮することとなる。
なお、本発明の組成物による免疫調整作用は、炎症性サイトカインの産生抑制、抗ウイルス性サイトカインの産生促進、及び抗ウイルス性タンパク質の産生促進以外の機序を介する場合を含んでもよい。
【0028】
本発明の組成物を投与する対象(被投与者)及び摂取させる対象(摂取者)は、動物であれば特に限定されないが、通常はヒトであり、好ましくは健康なヒト(すなわち、疾患や疾病に罹患していない人をいう)。また、成人、小児、乳児、新生児等のいずれであってもよい。また、性別は特に限定されない。
【0029】
なお、本明細書において「菌体又はEPSを対象に投与すること」は、「菌体又はEPSを対象に摂取させること」と同義であってよい。摂取は、通常は自発的なもの(自由摂取)であるが、強制的なもの(強制摂取)であってもよい。すなわち、投与工程は、具体的には、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345及び/又は前記細菌が産生するEPSを飲食品や飼料に配合して対象に供給し、以て対象にそれを自由摂取させる工程であってもよい。
【0030】
本発明の組成物の摂取(投与)時期は、特に限定されず、摂取(投与)対象の状態に応じて適宜選択することが可能である。
【0031】
本発明の組成物の摂取(投与)量は、摂取(投与)対象の年齢、性別、状態、その他の条件等により適宜選択される。
本発明の組成物の摂取(投与)量は、本発明に係るビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSの摂取(投与)量として、例えば、成人において0.01~100mg/日が好ましく、0.1~100mg/日がより好ましく、0.1~10mg/日がさらに好ましい。あるいは、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSを、該細菌の菌体、前記細菌の培養物及び/又は前記菌体の処理物の形態で含有させる場合、前記菌体量として1×107~1×1012cfu/mL/日の範囲が好ましく、1×108~1×1011cfu/mL/日の範囲がより好ましく、1×109~1×1011cfu/mL/日がさらに好ましい。
なお、摂取(投与)の量や期間にかかわらず、本発明の組成物は1日1回又は複数回に分けて摂取(投与)することができる。
【0032】
本発明の組成物の摂取(投与)期間は、特に限定されない。また、摂取(投与)期間の上限は特に設けられず、継続的な、長期の摂取(投与)が可能である。
【0033】
本発明の組成物の摂取(投与)経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、経皮、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物を経口摂取(投与)される組成物とする場合は、飲食品の態様とすることが好ましい。
本発明の別の側面は、免疫調整用組成物の製造における、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345及び/又は前記細菌が産生するEPSの使用である。
本発明の別の側面は、免疫調整における、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345及び/又は前記細菌が産生するEPSの使用である。
本発明の別の側面は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム
MCC10345及び/又は前記細菌が産生するEPSを対象に投与することを含む、免疫を調整する方法である。
飲食品としては、本発明の効果を損なわず、経口摂取(投与)できるものであれば形態や性状は特に制限されず、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSそのもの、前記細菌の菌体、前記細菌の培養物及び/又は前記菌体の処理物を含有させること以外は、通常飲食品に用いられる原料を用いて通常の方法によって製造することができる。
【0035】
飲食品としては、液状、ペースト状、ゲル状固体、粉末等の形態を問わず、例えば、錠菓;流動食(経管摂取用栄養食);パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、ゼリー、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類、ベビーフード、ふりかけ、お茶漬のり等のその他の市販食品等;育児用調製粉乳;経腸栄養食;保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、サプリメント等の栄養補助食品等が挙げられる。
【0036】
なお、飲食品としてサプリメントの形態とする場合は、腸溶性コーティング等により腸溶処理されてもよい、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤;等に製剤化することができる。かかる製剤化に際しては、後述する医薬品の製剤化に係る成分、担体、及び方法の説明に準ずることができる。
【0037】
また、飲食品の一態様として飼料とすることもできる。飼料としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
飼料の形態としては特に制限されず、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSそのもの、前記細菌の菌体、前記細菌の培養物及び/又は前記菌体の処理物の他に例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエイ、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;ト
ルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を含有するものであってよい。
【0038】
本発明の組成物が飲食品(飼料を含む)の態様である場合、免疫調整の用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。また、本明細書に係るビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSそのもの、前記細菌の菌体、前記細菌の培養物及び/又は前記菌体の処理物は、これら飲食品等の製造のために使用可能である。
【0039】
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明における「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0040】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0041】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、栄養補助食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
かかる表示としては、例えば、「免疫機能に働きかける」、「健康な人の免疫機能の調整に役立つ」、「免疫機能をサポート」、「健康な人の免疫機能の調整をサポート」、「ウイルスに対抗する」、「ウイルス感染を予防する」、「感染症に対する抵抗力を高める」、「生体防御機能を高める」等と表示することが挙げられる。
【0042】
本発明の組成物は、医薬品の態様とすることもできる。
本発明の別の側面は、免疫調整用組成物の製造における、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345及び/又は前記細菌が産生するEPSの使用である。
本発明の別の側面は、免疫調整のために用いられる、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345及び/又は前記細菌が産生するEPSである。
本発明の別の側面は、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム
MCC10345及び/又は前記細菌が産生するEPSを対象に投与することを含む、免疫を調整する方法である。
【0043】
医薬品の投与経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、経皮、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。
医薬品の形態としては、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、座剤、軟膏剤、注射剤等に製剤化することができる。
製剤化に際しては、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345が産生するEPSそのもの、前記細菌の菌体、前記細菌の培養物及び/又は前記菌体の処理物の他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、他の薬効成分や、公知の又は将来的に見出される免疫調整作用を有する成分や免疫系サイトカインや免疫系タンパク質の産生促進剤/抑制剤等を併用することも可能である。
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、通常製剤化に用いる担体を配合して製剤化してもよい。かかる担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0044】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0045】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0046】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0047】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0048】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0049】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤等が挙げられる。
【0050】
本発明の医薬品を摂取するタイミングは、例えば食前、食後、食間、就寝前など特に限定されない。
【実施例0051】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
<試験例1>
(1)目的
試験例1は、MCC10345株の菌学的性質を明らかにするために行った。
(2)MCC10345株の取得
MCC10345株はヒト糞便サンプルから分離した。MCC10345株をBL寒天培地(栄研化学株式会社、E-MG16、5%馬無菌脱繊血添加)にて37℃、48時間の嫌気培養を行った。菌学的性質を表1に示す。
【0053】
【0054】
(3)16SrRNA遺伝子塩基配列の解析
MCC10345株の16SrRNA遺伝子塩基配列の解析を行った。(2)にて培養したMCC10345株をもとにPCRに用いるサンプルDNA液を調製し、このサンプルDNA液を用いてPCRにて当該16SrRNA遺伝子を増幅し、DNA増幅産物を得、これよりMCC10345株の16SrRNA遺伝子配列を決定した。
この塩基配列情報に基づき、NCBI(National Center for Biotechnology Information、国立バイオテクノロジー情報センター)の国際延期配列データベース(Genbank)上でBLAST(Basic Local Alignment Search Tool )による16SリボソーマルRNA(SrRNA)遺伝子配列の前兆についての相動性検索を行った結果、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムJCM1217 と99%の相同性を示し
た。
【0055】
<試験例2>
(1)目的
試験例2は、ヒト肺上皮細胞を用いて、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-03751)の産生するEPS
の免疫調整作用を確認することを目的とした。IFNβ、Mx2、IL-8、及びIL-1βの各遺伝子の相対発現量を免疫調整作用の指標とした。
【0056】
(2)EPS試料の調製
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(
NITE BP-03751)をLactobacillus MRS Broth (DI
fco社製)で37℃16時間培養した。
培養液を10000rpm、10分間遠心して上清を採取し、上清の3倍量の冷エタノールと混合して24時間4℃で静置した。静置後の沈殿物を採取して注射用蒸留水で溶解し、10000rpm、10分間遠心して不要物を除去した後、凍結乾燥して抽出物を採
取した。得られた抽出物を、再度注射用蒸留水で15mg/mLに溶解した後、DNas
e(043-26773 富士フイルム和光株式会社、7μg/mL)、RNase(7
40505 MACHEREY-NAGEL、7μg/mL)、及びPronase E(
107433 MERCK、50μg/mL)で処理を行い、さらに10000rpm、
10分間遠心して不要物を除去した。得られた上清を、分子量100000以下を除去する透析膜を用いて72時間透析を行い、得られた溶液を凍結乾燥してEPS試料とした。
【0057】
(3)細胞試験
ヒト肺上皮細胞A549(ECACC 86012804)をF12K培地 (10%FC
S)を用いて1×105/ウェルずつ24ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO2
条件下で70%コンフルエントまで増殖させた。(1)で調製したEPS試料を、終濃度10、30、100μg/mLで培地に添加し、37℃、5%CO2条件下で4時間インキュベートした。その後、終濃度200ng/mLでLyoVec(InvivoGen社製)を添加し、37℃で18時間インキュベートした。なお、LyoVecは疑似ウイルス様刺激物でありその添加により細胞に対する刺激を付与するものである。インキュベート後にRNeasy plus universal tissue kit(Qiage
n社製)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNAに対して、TaKaRaPrime
Script RT Reagent kit、ExTaq II、及び対象遺伝子特異primerを用いて定量PCRを行い、GAPDHを標準としてIFNβ、Mx2、IL-8、及びIL-1βの各遺伝子の相対発現量を測定した。
【0058】
(4)結果
結果を
図1~4に示す。
図1~4の「n.t.」とは、LyoVecによる細胞刺激、EPS試料の添加が共に無い例である。EPS試料の添加濃度依存的に抗ウイルス性サイトカインIFNβ遺伝子の相対発現量が増加し、100μg/mL添加群で非添加群に対する有意な増加が認められた。これと並行してIFNβにより産生が誘導される抗ウイルス性タンパク質Mx2遺伝子の相対発現量が増加し、100μg/mL添加群で非添加群に対する有意な増加が認められた。一方、炎症性サイトカインIL-8、及びIL-1βはEPS試料の添加濃度依存的に各遺伝子の相対発現量が減少し、IL-8は30、100μg/mL添加群で、IL-1βは100μg/mL添加群で、それぞれ非添加群に対する有意な減少が認められた。EPS試料による濃度依存的な炎症性サイトカイン遺伝子の発現抑制はIFNβの抗炎症作用およびEPS試料の炎症抑制反応が反映していると考えられ、これによりウイルス感染に伴う過剰な免疫反応が抑えられ得るものと推察された。
【0059】
<試験例3>
(1)目的
試験例3は、ヒト腸管上皮細胞を用いて、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345(NITE BP-03751)の産生するEP
Sの免疫調整作用を確認することを目的とした。IFNβ、IFNλ2の各遺伝子の相対発現量を免疫調整作用の指標とした。
【0060】
(2)EPS試料の調製
試験例2と同じ手順により、MCC10345株の産生するEPS試料を調製した。
【0061】
(3)細胞試験
ヒト腸管上皮細胞HT29(EC91072201-G0)を用い、免疫調整作用の指標としてIFNβ、IFNλ2の相対発現量を測定した以外は試験例2と同様の手順を行った。EPS試料は終濃度1、10、100μg/mLとなるように培地に添加した。
【0062】
(4)結果
結果を
図5、
図6に示す。
図5、6の「control」とはLyoVecによる細胞刺激はあるが、EPS試料の添加が無い例である。
図5に示されるように、EPS試料添加量1μg/mLではコントロールと比較して抗ウイルス性サイトカインIFNβ遺伝子の相対発現量に変化はなかった。10μg/mL、100μg/mLの添加ではIFNβ遺伝子の相対発現量はコントロールと比較して有意に増加し、100μg/mLでは特に顕著な変化であった。
図6に示されるように、EPS試料添加量1、10μg/mLではコントロールと比較して抗ウイルス性サイトカインIFNλ2遺伝子の相対発現量に変化はなかった。100μg/mLの添加ではIFNβ遺伝子の相対発現量はコントロールと比較して有意に増加した。
【0063】
<試験例4>
(1)目的
試験例4は、他のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムに属する菌株と比較したときのMCC10345(NITE BP-03751)が産生する
EPSのIFNβ遺伝子の相対発現量を比較検討した。
【0064】
(2)EPS試料の調製
試験例2と同じ手順により、EPS試料と調製した。さらに、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムJCM1217T、JCM31944、及びATCC51870についても同様の手順によりそれぞれEPS試料を調製した。
【0065】
(3)細胞試験
ヒト腸管上皮細胞HT29(EC91072201-G0)を用い、免疫調整作用の指標としてIFNβの相対発現量を測定した以外は試験例2と同様の手順を行った。EPS試料は終濃度10、100μg/mLとなるように培地に添加した。
【0066】
(4)結果
結果を
図7に示す。
図7の「control」とはLyoVecによる細胞刺激はあるが、EPS試料の添加が無い例である。MCC10345株におけるIFNβの相対発現量は、10μg/mL、100μg/mLのEPS試料添加のいずれにおいても、コントロールに対して有意に増加した。この増加はJCM1217T、JCM31944、ATCC51870と比較して顕著な増加であった。
【0067】
<試験例5>
(1)目的
試験例5は、EPS試料に含まれる成分のうちIFNβ遺伝子の相対発現量に寄与する成分を探索するために行った。
【0068】
(2)EPS試料の調製
試験例2の手順においてEPS産生菌の培養上清抽出物に対する酵素処理の手順のみ変更して下記試料を得た。
α―amylase+EPS:EPS産生菌の培養上清抽出物をα―アミラーゼ(A3176 SIGMA-ALDRICH社製)で処理した試料。処理条件は最終酵素濃度0.25mg/mL、37℃、18時間である。EPS産生菌の培養上清抽出物に含まれる多糖が分解された試料である。
DNase+EPS:EPS産生菌の培養上清抽出物をDNase(043-26773 富士フイルム和光株式会社)で処理した試料。処理条件は最終酵素濃度7μg/mL
、37℃、18時間である。EPS産生菌の培養上清抽出物に含まれるDNAが分解され
た試料である。
Lipase+EPS:EPS産生菌の培養上清抽出物をLipase(534781 SIGMA-ALDRICH社製)で処理した試料である。処理条件は0.1mg/mL、37℃、18時
間である。EPS産生菌の培養上清抽出物に含まれる脂質が分解された試料である。
Proteinase K+EPS:EPS産生菌の培養上清抽出物をProtein
ase K(29442-14ナカライタスク社製)で処理した試料である。処理条件は
50μg/mL、37℃、18時間である。EPS産生菌の培養上清抽出物に含まれるタ
ンパク質が分解された試料である。
また、試験例2と同様の手順により得たEPS試料を基準試料とした。
【0069】
(3)細胞試験
ヒト腸管上皮細胞HT29(EC91072201-G0)を用い、免疫調整作用の指標としてIFNβの相対発現量を測定した以外は試験例2と同様の手順を行った。EPS試料は終濃度100μg/mLとなるように細胞に添加した。また、α―amylase、DNase、Lipase、Proteinase Kも、各酵素処理時の添加量相当
量をそれぞれ単独で細胞に添加した。
【0070】
(4)結果
結果を
図8に示す。
図8の「control」とはLyoVecによる細胞刺激はあるが、EPS試料や酵素の添加が無い例である。
図8に示されるように、α―amylase+EPS、すなわち、EPS産生菌の培養上清抽出物に含まれる多糖が分解された試料は、INFβの相対発現量が、EPS試料と比較して有意に低下した。一方、DNase、Lipase、又はProteinaseで処理されたEPS試料、すなわち、EPS産生菌の培養上清抽出物に含まれるDNA、脂質、タンパク質のいずれかが分解された試料では、INFβの相対発現量は試験例2のEPS試料と比較して同程度であるか、著しい低下は見られなかった。
これらの結果より、EPS産生菌の培養上清抽出物に含まれる成分のうち、INFβの相対発現量の増加に寄与している成分は多糖類であることが示唆された。
【0071】
<試験例6>
(1)目的
試験例6は、MCC10345株の加熱菌体において、加熱温度とIFNλ2の相対発現量との関係を検討するために行った。
【0072】
(2)試料の調製
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム MCC10345 (NITE BP-03751)をLactobacillus MRS Broth (DI
fco社製)で37℃16時間培養した。試験例2と同じMRS Brothを用いた。
10000rpm、10分間遠心分離することで菌体を回収し、室温(25℃)、70、95、120℃の各温度で加熱した加熱菌体を得た。
【0073】
(3)細胞試験
ヒト腸管上皮細胞HT29(EC91072201-G0)を用い、EPS試料の代わりに加熱菌体添加し、免疫調整作用の指標としてIFNλ2の相対発現量を測定した以外は試験例2と同様の手順を行った。菌体添加量は終濃度1x107CFU/wellとなるようにした。
【0074】
(4)結果
結果を
図9に示す。加熱処理温度が上昇するに従い、IFNλ2の相対発現量は増加し、加熱温度が95℃であるときに最大値を示した。