(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007527
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】岩盤の掘削方法
(51)【国際特許分類】
E21B 21/00 20060101AFI20240111BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20240111BHJP
C09K 8/12 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
E21B21/00 A
E21D9/06 301L
C09K8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109471
(22)【出願日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022108349
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100203242
【弁理士】
【氏名又は名称】河戸 春樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
(72)【発明者】
【氏名】長澤 浩司
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC05
(57)【要約】
【課題】岩盤を効率よく掘削できる岩盤の掘削方法を提供する。
【解決手段】掘削機を用いる岩盤の掘削方法であって、
掘削部位に、芳香族化合物系高分子又はその塩を0.01質量%以上0.7質量%以下含有する掘削促進剤水溶液を供給して掘削を行う、
岩盤の掘削方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機を用いる岩盤の掘削方法であって、
掘削部位に、芳香族化合物系高分子又はその塩を0.01質量%以上0.7質量%以下含有する掘削促進剤水溶液を供給して掘削を行う、
岩盤の掘削方法。
【請求項2】
掘削機が掘削用ビットを有する掘削機であり、岩盤と掘削機の掘削用ビットが接触する部位に、前記掘削促進剤水溶液を供給して掘削を行う、請求項1に記載の岩盤の掘削方法。
【請求項3】
芳香族化合物系高分子又はその塩が、芳香族スルホン酸を含む化合物の縮合物又はその塩である、請求項1又は2に記載の岩盤の掘削方法。
【請求項4】
掘削方法が非開削工法である、請求項1~3のいずれかに記載の岩盤の掘削方法。
【請求項5】
岩盤の一軸圧縮強度が、50MN/m2以上である、請求項1~4のいずれかに記載の岩盤の掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤の掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市部などのように、工事占有面積が限られ、かつ生活環境への配慮が要求される場所での管の埋設方法やトンネルの構築方法として、地表を開削せずに施工を行う非開削工法が知られている。非開削工法としては、例えば、推進工法があり、これは、前端部に掘削機又は刃口を設けた推進管を後方から元押しジャッキ等の押圧手段で押圧して推進管を地中に推進する工法である。
【0003】
また、岩盤などの地盤の掘削にあたり、種々の薬剤や助材が用いられる。特許文献1には、トンネル工事等において地山(特に粘性地山)に穿孔する際に、くり粉の排出性を向上して、穿孔効率を向上することを課題として、地山に穿孔する際に穿孔水に配合することで孔からの排泥を促進するための排泥促進剤であって、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、リグニンスルホン酸塩、及び、重量平均分子量500~50,000のアクリル系重合物塩から選択される少なくとも1種を含有する排泥促進剤が開示されている。また、穿孔ドリルの先端の穿孔ビット又はその近傍に穿孔水を噴射する噴射口が組み込まれているので、穿孔水を掘削箇所に噴射しながら穿孔ビッドにより地山に穿孔することができることが開示されている。そして、特許文献1の実施例では、蛇紋岩からなる地山に対し、ナフタレンスルホン酸塩の濃度が1.5重量%の穿孔水を用いて穿孔を行ったことが開示されている。
特許文献2には、切削ヘッド、掘削により除去された土のための掘削チャンバおよび前記土を掘削チャンバから除去するための運搬手段を有する土圧バランスシールドトンネル掘削機を用いてトンネルを掘削する方法であって、前記切削ヘッドによって掘削されている土層に発泡水溶液が注入され、(a)前記水溶液が、2つの必須成分である(i)硫酸塩またはスルホン酸塩含有陰イオン性界面活性剤、および(ii)β-ナフタレン硫酸塩-ホルムアルデヒド復水を含有すること、および(b)掘削チャンバおよびコンベアーの少なくとも1つにおいて、本質的に高分子量のポリエチレンオキシドを、および任意に硫酸塩またはスルホン酸塩含有陰イオン性界面活性剤を含有する第2水溶液が、掘削により除去された土に適用されることを特徴とする、前記方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-79925号公報
【特許文献2】特表2003-507604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
岩盤の掘削はできるだけ掘削効率を高くすることが望まれるが、岩盤は非常に硬質であり掘削効率が著しく低下する。特許文献1は、排泥促進効果に焦点をあてた技術であり、岩盤を対象とした場合の掘削効率を高める水溶液濃度に関しては開示や示唆はない。
本発明は、岩盤を効率よく掘削できる岩盤の掘削方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、掘削機を用いる岩盤の掘削方法であって、
掘削部位に、芳香族化合物系高分子又はその塩を0.01質量%以上0.7質量%以下含有する掘削促進剤水溶液を供給して掘削を行う、
岩盤の掘削方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、岩盤を効率よく掘削できる岩盤の掘削方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明で用いられる掘削促進剤水溶液(以下、本発明の掘削促進剤水溶液ともいう)について説明する。
【0009】
本発明の掘削促進剤水溶液は、芳香族化合物系高分子又はその塩を0.01質量%以上0.7質量%以下含有する。本発明の掘削促進剤水溶液は、掘削面に供給されると、岩盤と掘削用ビット(例えばカッタービット、ローラービットなど)との間隙は局所的に高温、高圧状態となり、そこで芳香族化合物系高分子又はその塩がマイクロクラックを容易に発生させることで、岩盤の掘削を促進する。これにより、本発明では、硬質の岩盤においても優れた掘削効率が得られるものと推察される。しかしながら、芳香族化合物系高分子又はその塩の掘削促進剤水溶液中の量が多くなりすぎると岩盤表面上の液膜が厚くなり滑りを生じてマイクロクラックの発生が低下すると推定される。但し、本発明の作用機構はこれに限定されない。
【0010】
本発明の掘削促進剤水溶液は、所定量の芳香族化合物系高分子又はその塩を含有する。塩は、例えば、ナトリウム塩などアルカリ金属塩が挙げられる。
芳香族化合物系高分子又はその塩としては、芳香族スルホン酸を含む化合物の縮合物又はその塩、リグニンスルホン酸又はその塩などが挙げられる。
芳香族化合物系高分子又はその塩としては、岩盤を効率よく掘削できる観点、例えば、後述の実施例でのモーターの電流値低減効果の観点から、芳香族スルホン酸を含む化合物の縮合物又はその塩が好ましい。
【0011】
芳香族スルホン酸を含む化合物の縮合物又はその塩は、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物又はその塩、ナフタレンスルホン酸-アルキルナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物又はその塩、などが挙げられる。これらは市販品を用いることができる。
【0012】
芳香族化合物系高分子又はその塩の重量平均分子量は、例えば、1,000以上、更に1、500以上、更に2,000以上、更に3,000以上、そして、50,000以下、更に30,000以下、更に20,000以下であってよい。この重量平均分子量は、下記条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定することができる。
【0013】
[芳香族化合物系高分子又はその塩用GPC条件]
装置:東ソー株式会社 HLC-8320GPC
カラム:東ソー株式会社 G4000SWXL+G2000SWXL
溶離液:30mMCH3COONa/CH3CN=6/4
流量:0.7ml/min
検出器:UV 280nm
サンプルサイズ:3.33mg/ml
標準物質:ポリスチレンスルホン酸ソーダ換算 SCIENTIFIC POLYMER PRODUCTS,INC.製 SODIUMPOLYSTYRENE SULFONATE-narrow distribution-:MW=1,690、7,540、16,000、68,300、126,700、587,60
【0014】
岩盤を効率よく掘削できる観点、例えば、後述の実施例でのモーターの電流値低減効果の観点から、芳香族化合物系高分子又はその塩の含有量は、本発明の掘削促進剤水溶液中、0.01質量%以上であり、モーターの電流値低減効果の観点から、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に0.08質量%以上、そして、0.7質量%以下であり、モーターの電流値低減効果の観点から、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下、より更に好ましくは0.15質量%以下である。
【0015】
本発明の掘削促進剤水溶液は、好ましくは、芳香族化合物系高分子又はその塩と水とを含有する。また、本発明の掘削促進剤水溶液は、芳香族化合物系高分子又はその塩と水とを含有する掘削用促進用組成物であってよい。
【0016】
次に、本発明で用いられる掘削機について説明する。
本発明の掘削機としては、掘削用ビットを有する掘削機(以下、本発明の掘削機ともいう)が挙げられる。
本発明の掘削機は、掘削用ビットと、本発明の掘削促進剤水溶液の供給手段とを有する掘削機であってよい。
本発明の掘削機としては、シールド工法や推進工法などの非開削工法に用いられる掘削機が挙げられる。本発明の掘削機は、これらの工法に用いられる公知の掘削機であってよい。本発明の掘削機としては、例えば、泥土圧シールドなどの土圧式シールド、泥水式シールドなどのシールドマシンを用いることができる。また、推進工法で用いられる推進機や、坑井掘削用の掘削機などを用いることができる。
【0017】
本発明の掘削機としては、例えば、掘削機本体と、該掘削機本体に設置された掘削用ヘッドと、該掘削用ヘッドの回転推進駆動手段と、を備えた掘削機であって、
前記掘削用ヘッドは、ヘッド本体と、該ヘッド本体に設置された掘削用ビットと、前記ヘッド本体に形成された開口と、を備える、
掘削機が挙げられる。
本掘削機は、作泥土室である空間(チャンバ)、掘削機本体(掘削ヘッド)を掘進方向に推進させるジャッキ、掘削した岩盤の排出装置、などの、前記以外の要素を含んでいてもよい。前記掘削機本体は、胴部となる円筒状部材を含んで構成されてよい。
本掘削機において、前記掘削用ヘッドは、シールドマシンで採用されるスポーク型又は面板型のヘッドのいずれを用いることができる。
本掘削機において、前記掘削用ビット(チップなどとも称される)は、前記掘削用ヘッド(カッタービットなどとも称される)本体の前面に複数配置され、進行方向の切羽を掘削する。掘削用ビットは、岩盤の掘削に適したものが選定される。
本掘削機において、前記開口は、本発明の削促進剤水溶液を供給するための開口であり、通常、前記掘削用ヘッドの表面に複数形成される。
【0018】
本発明では、掘削部位、例えば、岩盤と本発明の掘削機の掘削用ビットが接触する部位に、本発明の掘削促進剤水溶液を供給して掘削を行う。
本発明の掘削促進剤水溶液の供給方法としては、掘削機に設けられた供給口、例えば前記掘削機に形成された前記開口を通じて行うことができる。通常、前記供給口、例えば前記開口は、地上に設置された本発明の削促進剤水溶液の製造プラントと連結しており、該製造プラントから搬送された本発明の削促進剤水溶液は前記供給口、例えば前記開口から掘削機前面の切羽に送り出される。本発明では、掘削機が稼働している状態で本発明の掘削促進剤水溶液を所定の部位に供給して掘削を行う。
【0019】
掘削により生じた、本発明の掘削促進剤水溶液と岩盤粉砕物を含む混合物は、例えば、本発明の掘削機に設けられた排出手段により、掘削機外部に排出される。該排出手段は、例えば、ケーシング(管状部材)、該ケーシング内に配置されており、回転によって前記混合物に搬送力を付与するスクリュ、該スクリュの駆動部、ポンプなどを含んでいてよい。
【0020】
本発明の掘削促進剤水溶液の供給量としては、特に限定されるものではなく、掘削機や掘削方法に応じて適宜選定できる。
例えば、本発明の掘削促進剤水溶液を、例えば、0.1L/min以上、そして50L/min以下で、岩盤と掘削機の掘削用ビットが接触する部位に供給して掘削を行うことができる。
【0021】
本発明の掘削方法は、例えば、シールド工法、推進工法などの非開削工法で行うことができる。これらの掘削方法は、公知の方法、装置などを適宜使用できる。
【0022】
本発明の対象は岩盤であって、基盤となっている岩体である。土や粘土が含まれる地盤とは異なる。
本発明の対象とする岩盤は、砂岩、泥岩、千枚岩、粘板岩、集塊岩、礫岩、チャート、石灰岩、凝灰岩、流紋岩、安山岩、玄武岩、花崗岩、閃緑岩、斑れい岩、片岩、片麻岩、角閃岩、緑色岩などの岩盤が挙げられる。例えば、岩盤は、岩盤種によって硬度が異なることが知られている。本発明の対象とする岩盤の一軸圧縮強度は、掘削効率の低下を抑制する効果がより効率よく発現する観点から、50MN/m2以上が好ましく、80MN/m2以上がより好ましく、100MN/m2以上が更に好ましく、そして、掘削性の観点から、300MN/m2以下が好ましい。一軸圧縮強度が100MN/m2を超える花崗岩、流紋岩のような硬岩は、一般に掘削効率が著しく低下するが、本発明の方法では、掘削効率の低下を抑制することができる。
【実施例0023】
表に示す高分子化合物を表の濃度で含有する掘削促進剤水溶液を調製した。
また、表に示す種類のモデル岩盤のブロック(短辺40~50cm、長辺90~100cm、高さ90~100cm)を用意した。
コンクリートカッターである試料切断機((株)ナカシマ技販、MODEL NO-541)で、表のモデル岩盤のブロックを、ブロックの長辺と直交する方向で切削した。その際、コンクリートカッターの刃とモデル岩盤に掘削促進剤水溶液を3~5L/minで散水しながら切削した(ブランクは水のみを散水。掘削促進剤水溶液の供給無し)。花崗岩を使用した試験においては、切削速度は、5.5mm/分とした。また砂岩を用いた試験においては、切削速度は、12.5mm/分とした。コンクリートカッターのモーター配線部にクランプメーターを設置し、切削中のコンクリートカッターにかかる電流値と周波数を測定し、切削開始から5分後から10分後の間の平均電流値を算出した。
同じ試験群(同じモデル岩盤)におけるブランクの平均電流値を1.00とする電流値比を表に示した。この評価では、電流値比が小さいほど消費電力が少ない、すなわちモーターへの負荷が少ないと考えられ、掘削効率が高いと判断できる。なお、モデル岩盤は、同じ種類の場合は、1つの同じブロックから切削を行った。また、表中、比較例の高分子化合物(芳香族化合物系高分子又はその塩以外の高分子化合物)の分子量は以下の方法で測定した。
[比較例の高分子化合物のGPC条件]
装置:東ソー株式会社 GPC(HLC-8320GPC)
カラム:東ソー株式会社 G4000PWXL+G2500PWXL
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算(分子量既知の単分散ポリエチレングリコール、分子量87,500、250,000、145,000、46,000、24,000)
【0024】
【0025】
*1 ナフタレンスルホン酸/ブチルナフタレンスルホン酸/ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩
*2 掘削促進剤水溶液中の濃度
*3 リグニンスルホン酸ナトリウム塩(東京化成工業株式会社製)
【0026】
表1より、実施例1-1~1-12及び1-13では、水を供給しながら切削した場合に対して、0.88以下の電流値比である一方、比較例1-1~1-4では、最も小さい値でも0.96の電流比であり、芳香族化合物系高分子又はその塩を用いることにより、岩盤を効率よく掘削する効果が高いことが分かる。
また、実施例1-5~1-8と、比較例1-5~1-6とを対比すると、掘削促進剤水溶液中の芳香族化合物系高分子又はその塩の濃度が0.5質量%以下で電流値比が小さく、掘削促進剤水溶液中の芳香族化合物系高分子又はその塩の濃度が本発明の範囲で岩盤を効率よく掘削できることが分かる。
さらに、実施例1-2と実施例2-1、実施例1-6と実施例2-2、実施例1-11と実施例2-3、実施例1-12と実施例2-4とをそれぞれ対比すると、岩盤の強度は80MN/m2の場合よりも200MN/m2の場合の方が、電流値比の値が小さくなり、岩盤を効率よく掘削する効果がより高いことが分かる。