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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000753
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 23/00 20060101AFI20231226BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20231226BHJP
   B62J 45/00 20200101ALI20231226BHJP
   B62J 41/00 20200101ALI20231226BHJP
   B62J 50/30 20200101ALI20231226BHJP
【FI】
B62J23/00 H
B60K11/04 J
B60K11/04 K
B62J45/00
B62J41/00
B62J50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099638
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 義隆
(72)【発明者】
【氏名】水井 宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 直記
(72)【発明者】
【氏名】小峰 拓也
【テーマコード(参考)】
3D038
【Fターム(参考)】
3D038AA06
3D038AA08
3D038AB04
3D038AC01
3D038AC04
3D038AC12
3D038AC14
3D038AC15
3D038AC17
3D038AC23
(57)【要約】
【課題】高温環境で暑さによる運転者の不快感を防止でき、低温環境では寒さによる運転者の不快感を防止することができる鞍乗り型車両を提供する。
【解決手段】走行用動力源のエンジン16と共に運転者の前方位置に配設され、走行風を前方から後方へと流通させてエンジン16の冷却媒体と熱交換させる熱交換器17と、熱交換器17を後方から覆い、熱交換器17を流通した走行風を排出する排風口18bが形成された導風部材18と、導風部材18の左右両側を覆い、且つ運転者Rの脚部Rfの近接位置に開口部24が形成されたカウル23と、導風部材18の排風口18bから排出されてカウル23の開口部24を経て運転者Rの脚部Rfへと流れる走行風の量を調整する調整部材27とを備えた。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用動力源のエンジンと共に運転者の前方位置に配設され、走行風を前方から後方へと流通させて前記エンジンの冷却媒体と熱交換させる熱交換器と、
前記熱交換器を後方から覆い、前記熱交換器を流通した前記走行風を排出する排風口が形成された導風部材と、
前記導風部材の左右両側を覆い、且つ前記運転者の脚部の近接位置に開口部が形成されたカウルと、
前記導風部材の排風口から排出されて前記カウルの開口部を経て前記運転者の脚部へと流れる前記走行風の量を調整する調整部材と、
を備えたことを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記導風部材は、前記熱交換器に取り付けられた引込式の電動ファンを有するファンシュラウドであり、
前記調整部材は、前記ファンシュラウドに設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
前記調整部材は、前記排風口から排出される前記走行風の流れる方向を前記カウルの開口部側と下方との間で切換可能なルーバーである
ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記排風口は、前記カウルの開口部側に向けて開口する後方排風口と、下方に向けて開口する下方排風口とからなり、
前記調整部材は、前記後方排風口及び前記下方排風口の少なくとも何れか一方を閉鎖可能なシャッターである
ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記熱交換器及び前記導風部材は、前記エンジンの前方位置に配設され、
前記カウルの開口部は、前記カウルの左右両側における前記エンジンの後側に相当する位置に貫設されたダクトである
ことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記調整部材を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御するコントローラとをさらに備えた
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項7】
前記調整部材を任意の作動状態に保つ保持機構をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の鞍乗り型車両。
【請求項8】
外気温を検出する外気温検出部をさらに備え、
前記コントローラは、前記外気温検出部により検出された外気温が予め設定された外気温判定値未満になると、前記運転者の脚部へと流れる前記走行風の量を増加させるべく前記アクチュエータに前記調整部材を駆動させる
ことを特徴とする請求項6に記載の鞍乗り型車両。
【請求項9】
前記エンジンの冷却媒体の温度を検出する冷却媒体温検出部をさらに備え、
前記コントローラは、前記外気温が外気温判定値未満であっても、前記冷却媒体温検出部により検出された冷却媒体の温度が予め設定された冷却媒体温判定値未満の場合には、前記走行風の量の増加を禁止する
ことを特徴とする請求項8に記載の鞍乗り型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗り型車両は、シートに跨った運転者の前方位置にエンジンと共にラジエータ等の熱交換器が配設されており、熱交換器に走行風を前方から後方へと流通させて、エンジン冷却水等の冷却媒体と熱交換させることでエンジンを冷却している。熱交換器を流通する過程で走行風は冷却媒体から受熱するため、後方に位置する運転者の脚部が高温の走行風に晒され、例えば炎天下等の高温環境では、暑さによる運転者の不快感を助長させるという問題があった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、熱交換器のファンシュラウドを下方に開口させた対策が開示されている。これにより高温の走行風が熱交換器から下方に排出されて、運転者の脚部が高温の走行風に晒される事態を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5829907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、低温環境において新たな不具合を発生させる要因になった。即ち、熱交換器から排出される高温の走行風は、高温環境では運転者に不快感を与える反面、低温環境では運転者の脚部を温めて寒さによる不快感を軽減するという、むしろ好ましい作用を奏する。特許文献1の技術は、このような低温環境での走行風による利点が得られなくなるため、従来から抜本的な解決策が要望されていた。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、高温環境で暑さによる運転者の不快感を防止でき、低温環境では寒さによる運転者の不快感を防止することができる鞍乗り型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の鞍乗り型車両は、走行用動力源のエンジンと共に運転者の前方位置に配設され、走行風を前方から後方へと流通させてエンジンの冷却媒体と熱交換させる熱交換器と、熱交換器を後方から覆い、熱交換器を流通した走行風を排出する排風口が形成された導風部材と、導風部材の左右両側を覆い、且つ運転者の脚部の近接位置に開口部が形成されたカウルと、導風部材の排風口から排出されてカウルの開口部を経て運転者の脚部へと流れる走行風の量を調整する調整部材とを備えたことを特徴とする。
【0008】
その他の態様として、導風部材が、熱交換器に取り付けられた引込式の電動ファンを有するファンシュラウドであり、調整部材が、ファンシュラウドに設けられていてもよい。
【0009】
その他の態様として、調整部材が、排風口から排出される走行風の流れる方向をカウルの開口部側と下方との間で切換可能なルーバーであってもよい。
【0010】
その他の態様として、排風口が、カウルの開口部側に向けて開口する後方排風口と、下方に向けて開口する下方排風口とからなり、調整部材が、後方排風口及び下方排風口の少なくとも何れか一方を閉鎖可能なシャッターであってもよい。
【0011】
その他の態様として、熱交換器及び導風部材が、エンジンの前方位置に配設され、カウルの開口部が、カウルの左右両側におけるエンジンの後側に相当する位置に貫設されたダクトであってもよい。
【0012】
その他の態様として、調整部材を駆動するアクチュエータと、アクチュエータを制御するコントローラとをさらに備えていてもよい。
【0013】
その他の態様として、調整部材を任意の作動状態に保つ保持機構をさらに備えていてもよい。
【0014】
その他の態様として、外気温を検出する外気温検出部をさらに備え、コントローラが、外気温検出部により検出された外気温が予め設定された外気温判定値未満になると、運転者の脚部へと流れる走行風の量を増加させるべくアクチュエータに調整部材を駆動させてもよい。
【0015】
その他の態様として、エンジンの冷却媒体の温度を検出する冷却媒体温検出部をさらに備え、コントローラが、外気温が外気温判定値未満であっても、冷却媒体温検出部により検出された冷却媒体の温度が予め設定された冷却媒体温判定値未満の場合には、走行風の量の増加を禁止してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の鞍乗り型車両によれば、高温環境で暑さによる運転者の不快感を防止でき、低温環境では寒さによる運転者の不快感を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の自動二輪車を示す側面図である。
図2】冷却ユニットを示す分解斜視図である。
図3】冷却ユニット及び制御回路を示す斜視図である。
図4】通常モード時の走行風の流れを示す側面図である。
図5】通常モード時のルーバーの切換状態を示す斜視図である。
図6】暖房モード時の走行風の流れを示す側面図である。
図7】暖房モード時のルーバーの切換状態を示す斜視図である。
図8】ルーバーを手動で切り換える別例1を示す図3に対応する斜視図である。
図9】ルーバーに代えてシャッターを備えた別例2の通常モード時を示す断面図である。
図10】別例2の暖房モード時を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を自動二輪車に具体化した一実施形態を説明する。
《全体構成》
図1は、本実施形態の自動二輪車を示す側面図であり、以下の説明では、自動二輪車に跨った運転者を主体として前後、左右及び上下方向を規定し、自動二輪車を車両と称することもある。
【0019】
自動二輪車1の構成は周知であるため、その全体的な構成については概略説明にとどめる。車両1のフレーム2の前部にはヘッドパイプ3が設けられ、ヘッドパイプ3に回転可能に支持された図示しないステアリングシャフトには、上下一対のブラケット4a,4bを介してフロントフォーク5の上部が回転可能に支持されている。フロントフォーク5の下端部には前輪6が回転可能に支持されると共に、前輪ブレーキ7が備えられている。上側のブラケット4aには、左右方向に延びるハンドル8が連結されている。
【0020】
また、フレーム2の後部にはスイングアーム9の前端部が揺動可能に連結され、スイングアーム9の後端部には後輪10が回転可能に支持されると共に、後輪ブレーキ11が備えられている。フレーム2の上側には燃料タンク12が配設され、その後方には運転者用のシート13及び同乗者用のシート14が配設されている。
【0021】
フレーム2にはエンジン16が支持されており、その搭載位置は、左右方向においてシート13に跨った運転者Rの左右の脚部Rfの間に相当し、前後方向においては図1に二点鎖線で示すように、運転者Rの脚部Rfよりも若干前方に相当する。エンジン16は上部を若干前方とした前傾姿勢で配設され、図示はしないが前面には、排気マニホールドを介して排気管が接続され、後面には、吸気マニホールドを介してインジェクタを備えたスロットル装置が接続されている。なお、本実施形態のエンジン16は並列2気筒であるが、その形式はこれに限るものではなく任意に変更可能である。
【0022】
エンジン16の前側には、フレーム2から支持されたラジエータ17がエンジン16に倣った前傾姿勢で配設されている。ラジエータ17は図示しないアッパホース及びロワホースを介してエンジン16内の冷却水路と接続され、エンジン16の運転中には、ラジエータ17と冷却水路との間でエンジン冷却水が循環する。車両1の走行中にはラジエータ17を前方から後方へと走行風Wが流通し、この走行風Wとの熱交換によりエンジン冷却水が放熱してエンジン16を冷却する。ラジエータ17は、本発明の「熱交換器」に相当し、エンジン冷却水は、本発明の「冷却媒体」に相当する。
【0023】
ラジエータ17の後面はファンシュラウド18が取り付けられて後方から覆われ、ファンシュラウド18には引込式の電動ファン19が設けられ、これらのラジエータ17、ファンシュラウド18及び電動ファン19により冷却ユニット20が構成されている。冷却ユニット20の周辺の構成は本発明の要旨に関わるため、その詳細は後述する。
【0024】
エンジン16の下部には、クラッチ及び変速機構を内蔵したトランスミッション22が連結され、図示はしないが、その出力軸はチェーンを介して後輪10に連結されている。従って、エンジン16の回転はクラッチを介してトランスミッションに伝達され、変速機構の変速段に応じて減速された後に、出力軸からチェーンを経て後輪10に伝達され、これにより車両1が走行する。
【0025】
車両1の走行中において、シート13に跨った運転者Rはハンドル8を左右に操舵すると共に、ハンドル8に備えられた図示しないスロットルグリップ、ブレーキレバー及びクラッチレバー、さらに足元のブレーキペダル及びチェンジペダルを適宜操作する。これにより前輪6の操舵、エンジン16の出力調整、クラッチの断接、変速段の切換、前後輪ブレーキ7,11による制動等が行われる。
【0026】
車両1にはカウル23が装着され、カウル23は合成樹脂製のアッパカウル23aとロワカウル23bとからなる。アッパカウル23aはハンドル8の周辺を前方から覆い、ウインドシールドやヘッドランプ等が取り付けられる。ロワカウル23bは左右に分割形成されて、アッパカウル23aの下側に相当するフレーム2の領域を左右から挟み込んで取り付けられている。このようなロワカウル23bにより、エンジン16及び冷却ユニット20の左右両側が覆われている。ロワカウル23bの左右両側におけるエンジン16の後側に相当する位置、換言すると運転者Rの左右の脚部Rfの近接位置には、それぞれ3つのダクト24が貫設されている。ダクト24は、本発明の「開口部」に相当する。
【0027】
車両1の走行に伴う走行風Wは前輪6の周辺からカウル23内に侵入し、上記のようにラジエータ17を流通した後、左右に分かれてダクト24を経てカウル23の外部に排出される。
【0028】
《ファンシュラウド18周辺の構成》
図2は、冷却ユニット20を示す分解斜視図、図3は、冷却ユニット20及び制御回路を示す斜視図である。
本実施形態のファンシュラウド18は、ラジエータ17を流通した走行風Wを電動ファン19を経て後方へと案内する本来の機能を奏すると共に、本発明の「導風部材」としての機能も果たす。以下に述べると、ファンシュラウド18は、ラジエータ17と対応する四角状をなすベース部18aの後面に円筒状の排風口18bを一体形成してなり、ラジエータ17の後面は排風口18b内を介して後方に開放されている。この排風口18b内に電動ファン19が配設され、図示しないブラケットにより支持されている。
【0029】
以上は一般的なファンシュラウド18と同様の構成であり、車両1の走行中にはラジエータ17を流通した走行風Wがベース部18aにより排風口18bに集約され、排風口18bを経て後方へと排出される。また、車両1の停車により走行風Wを受けない状況では電動ファン19が適宜作動し、これによりラジエータ17の前方の空気がラジエータ17を経てファンシュラウド18内に引き込まれ、排風口18bから後方に排出される。
【0030】
排風口18b内において電動ファン19の後側位置には、平板状をなす4枚の羽板26を有するルーバー27が配設されている。各羽板26は所定間隔をおいて上下方向に並設され、その左右幅は、排風口18bの内径に合わせて中央の2枚が長く、その上側及び下側の2枚が短くなっている。各羽板26の前端部にはそれぞれ圧入孔26aが貫設されて駆動軸28が圧入固定され、各駆動軸28は羽板26の両端から突出して、排風口18bに形成された軸孔18cに軸支されている。これにより排風口18b内の所定位置に各羽板26が支持され、その角度を任意に変更可能となっている。
【0031】
各駆動軸28の左端は排風口18bの軸孔18cから左方に延びて回動レバー29の先端が固定され、各回動レバー29の基端は連動ロッド30に回動可能に軸支されている。連動ロッド30の上端はアクチュエータ31に連結され、アクチュエータ31はラジエータ17の左側面に取り付けられている。アクチュエータ31により連動ロッド30が上下方向に駆動され、それに応じて各回動レバー29を介して駆動軸28が回動し、羽板26が図3中に実線で示す水平位置と二点鎖線で示す下方位置との間で切り換えられる。ルーバー27は、本発明の「調整部材」に相当する。
【0032】
《制御回路》
一方、車両1にはコントローラ32が搭載され、車両1の各部に配設された各種センサからの検出情報に基づきエンジン16の運転状態等が制御されるが、その制御内容は周知のため説明を省略する。このような一般的な制御機能に加えて、本実施形態のコントローラ32はルーバー27を制御する機能を備えている。そのために、図3に示すようにコントローラ32の出力側にはアクチュエータ31が接続され、コントローラ32の入力側には、外気温Toutを検出する外気温センサ33及びエンジン冷却水温Twを検出する冷却水温センサ34が接続されている。外気温センサ33は、本発明の「外気温検出部」に相当し、冷却水温センサ34は、本発明の「冷却媒体温検出部」に相当する。
【0033】
コントローラ32によるルーバー27の制御のために、外気温Tout及びエンジン冷却水温Twに関する以下の条件1及び条件2が設定されている。
1.外気温Toutが予め設定された外気温判定値Tout0未満であること
2.エンジン冷却水温Twが予め設定された水温判定値Tw0以上であること
【0034】
条件1は、例えば低温環境での走行中において走行風Wに晒された運転者Rが寒さを感じているか否かを判別するための条件であり、例えば外気温判定値Tout0は、10℃に設定されている。
【0035】
条件2は、暖房に利用できる程度までラジエータ17が温度上昇しているか否かを判別するための条件であり、例えば水温判定値Tw0は、70℃に設定されている。エンジン冷却水温Twは、本発明の「エンジン16の冷却媒体の温度」に相当し、水温判定値Tw0は、本発明の「冷却媒体温判定値」に相当する。
【0036】
コントローラ32は、条件1及び条件2が共に不成立の場合及び何れかが不成立の場合には通常モードを実行し、条件1及び条件2が共に成立した場合には暖房モードを実行する。詳細は後述するが、通常モードは高温環境を想定したモードであり、コントローラ32はアクチュエータ31を駆動してルーバー27の各羽板26を下方位置に切り換え、ラジエータ17を流通した高温の走行風Wを下方に排出する。また、暖房モードは低温環境を想定したモードであり、コントローラ32はアクチュエータ31を駆動してルーバー27の各羽板26を水平位置に切り換え、ラジエータ17を流通した高温の走行風Wを運転者Rの脚部Rfへと案内する。
【0037】
条件2を設定しているのは、条件1に基づき暖房を要すると判定したとしても、ラジエータ17で走行風Wが昇温しない状況では、暖房モードを選択する意義がないため禁止すべきとの趣旨である。
【0038】
《コントローラ32による制御内容》
次いで、コントローラ32の制御による本発明の作用効果を説明する。
図4は、通常モード時の走行風Wの流れを示す側面図、図5は、通常モード時のルーバー27の切換状態を示す斜視図、図6は、暖房モード時の走行風Wの流れを示す側面図、図7は、暖房モード時のルーバー27の切換状態を示す斜視図である。
【0039】
まず、コントローラ32により通常モードが実行され、ルーバー27の各羽板26が図3に二点鎖線線で示す下方位置に切り換えられている場合について述べる。図4,5に示すように、走行風は水平方向に沿ってカウル23内に侵入してラジエータ17を流通し、ファンシュラウド18の排風口18b内で各羽板26に衝突して流路を下方に変更される。従って、走行風Wはエンジン16の直前を下方へと流れた後、トランスミッション22の下側を後方へと流れてカウル23の外部に排出される。即ち、ラジエータ17を流通した走行風Wは、運転者Rの脚部Rf等を避けた経路を導かれて外部に排出される。羽板26により変更された走行風Wの流路は、正確に表現すると下方やや斜め後方であるが、このような方向も本発明の「下方」に含まれるものとする。
【0040】
エンジン16の暖気完了によりエンジン冷却水温Twが上昇している場合、ラジエータ17を流通する過程で走行風Wはエンジン冷却水から受熱して温度上昇している。このような高温の走行風Wに運転者Rの脚部Rfが晒されると、例えば炎天下等の高温環境では、暑さによる運転者Rの不快感を助長させてしまうが、その事態を未然に防止することができる。
次いで、コントローラ32により暖房モードが実行され、ルーバー27の各羽板26が図3に実線で示す水平位置に切り換えられている場合について述べる。図6,7に示すように、カウル23内に侵入してラジエータ17を流通した走行風Wは、ファンシュラウド18の排風口18b内で各羽板26に沿って流れる。即ち、走行風Wは羽板26により流路をほとんど変更されることなくカウル23内を後方へと流れ、後方に位置する左右のダクト24を経て外部に排出される。
【0041】
詳しくは、ラジエータ17の上部領域を流通した走行風Wは、そのまま圧力が低い左右のダクト24側へと導かれ、また、ラジエータ17の下部領域を流通した走行風Wは、直後に位置するエンジン16に衝突することで左右に分かれて左右のダクト24側へと導かれる。走行風Wが如何なる流路を流れるかは、例えばラジエータ17とエンジン16との位置関係等の諸条件によって相違するため、上記はあくまでも一例に過ぎない。カウル23内で走行風Wが如何なる流路を辿ったとしても、最終的には左右のダクト24から外部に排出されて運転者Rの脚部Rf周辺を後方へと流れ、このような走行風Wに運転者Rの脚部Rfが晒される。
【0042】
なお、水平位置でのルーバー27の羽板26の角度は、上記に限るものではない。例えばルーバー27に対してダクト24の位置が上下何れかにずれている場合には、ルーバー27で流路を変更された走行風Wがダクト24側に流れるように、水平位置での羽板26の角度を変更してもよい。
【0043】
上記のように暖房モードは、低温環境での走行により運転者Rが寒さを感じており、且つラジエータ17が温度上昇している状況で実行される。従って、ラジエータ17を流通する過程で走行風Wは温度上昇し、走行風Wに晒された運転者Rの脚部Rfが暖められるため、運転者Rの寒さによる不快感を軽減することができる。
【0044】
なお、例えばエンジン16を冷態始動した直後の走行中にはエンジン冷却水温Twが外気温相当であるため、ラジエータ17を流通した走行風Wも外気温相当となり、運転者Rの脚部Rfを温める作用は得られない。しかしながら、元々脚部Rfは外気に晒されているため、外気に代えて走行風Wに晒されたとしても運転者Rの寒さを助長するようなデメリットは生じない。このため、条件2を考慮することなく条件1の成立だけに基づき暖房モードに切り換えてもよく、このような構成も本発明に含まれるものとする。
【0045】
ところで、本実施形態では、予め設定した条件1,2に基づきルーバー27の作動状態を自動的に切り換えたが、これに限るものではない。例えば、運転者Rが手動でルーバー27の作動状態を切換操作してもよく、その場合の構成を別例1として説明する。
【0046】
《別例1》
図8は、別例1を示す図3に対応する斜視図である。なお、実施形態と同一構成の箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
この別例1では、実施形態で述べた連動ロッド30を駆動するアクチュエータ31が廃止され、これに代えて連動ロッド30にはワイヤ41の一端が連結されている。図1に破線で示すように、ワイヤ41は保護チューブ42に被覆された状態で車両1のフレーム2上をハンドル8に向けて配索され、ワイヤ41の他端は、ハンドル8の左側に取り付けられた操作ユニット43のノブ43aに連結されている。
【0047】
従って、ノブ43aをスライド操作すると、ワイヤ41は保護チューブ42内でノブ43aの操作に応じた方向に摺動する。ワイヤ41は十分な剛性を有するため、ノブ43aによりワイヤ41が引かれる方向に操作された場合のみならず、押される方向への操作された場合でも、ノブ43aのスライド操作を連動ロッド30に伝達する。従って、スライド操作に応じてワイヤ41を介して連動ロッド30が上下方向に駆動され、各回動レバー29を介してルーバー27の羽板26の角度が水平位置と下方位置との間で変化する。
【0048】
また、ノブ43aのスライド操作には適度な摩擦抵抗が付与されているため、任意の位置でスライド操作を中止すると、ワイヤ41を介してその時点の羽板26の角度が保たれる。操作ユニット43、ワイヤ41及び保護チューブ42は、本発明の「保持機構」に相当する。
【0049】
従って、車両1の停車中或いは走行中において、運転者Rがノブ43aを操作して羽板26の角度を任意に変更可能となる。このため、例えば炎天下等の高温環境では羽板26を下方位置に切り換えて、高温の走行風Wを下方に排出することで暑さを和らげることできる。また、低温環境では羽板26を水平位置に切り換えて、高温の走行風Wで脚部Rfを温めることで寒さを和らげることができる。加えて、ノブ34aのスライド位置に応じて羽板26を中間位置に保つことも可能なため、例えば、低温環境で脚部Rf周辺に流れる走行風が熱すぎる場合には、走行風Wの量を制限することもできる。
【0050】
なお、ルーバー27を手動操作する構成は、この別例に限るものではない。例えば、操作ユニット43を車両1のハンドル8に設けることなくラジエータ17の左側面に取り付け、ノブ43aを連動ロッド30に直結してもよい。この場合には車両1の走行中に羽板26の角度を変更できないが、その日の外気温Tout等に基づき運転者Rは走行中の暑さ、寒さを予想でき、走行に先立ち好適な羽板26の角度に切換可能なため、実用上の問題を生じることはない。
【0051】
ところで、上記実施形態では、ファンシュラウド18の排風口18b内にルーバー27を配設し、その羽板26により走行風Wの流路を下方または後方に切り換えたが、これに限るものではない。例えば、ファンシュラウド18に下方及び後方の2方向に開口する排風口を設けて、各排風口をシャッターにより開閉してもよく、その場合の構成を別例2として説明する。
【0052】
《別例2》
図9は、別例2の通常モード時を示す断面図、図10は、別例2の暖房モード時を示す断面図である。
ファンシュラウド18の後面には4つの後方排風口51が上下方向に並設され、ファンシュラウド18の下面には1つの下方排風口52が設けられている。図示はしないが、各排風口51,52は左右方向に延びるスリット状をなし、それぞれファンシュラウド18の内外を連通させている。ファンシュラウド18内には、各後方排風口51に対応してそれぞれ後方シャッター53が配設され、下方排風口に対応して下方シャッター54が配設されている。
【0053】
各後方シャッター53は図示しないアクチュエータに駆動されて、図9に示す後方排風口51を閉鎖する閉鎖位置と、図10に示す後方排風口51を開放する開放位置との間で切り換えられる。下方シャッター54は図示しない別のアクチュエータに駆動されて、図10に示す下方排風口52を閉鎖する閉鎖位置と、図9に示す下方排風口52を開放する開放位置との間で切り換えられる。後方シャッター53及び下方シャッター54は、本発明の「調整部材」に相当する。
【0054】
コントローラ32は条件1,2に基づき通常モードを実行している場合には、図9に示すように、アクチュエータを駆動して後方排風51を閉鎖位置に切り換え、下方排風口52を開放位置に切り換える。これによりラジエータ17を流通後の走行風Wが下方排風口52から下方に排出されるため、高温環境において運転者Rの脚部Rfが高温の走行風Wに晒される事態、ひいてはこれに起因する不快感を未然に防止することができる。
【0055】
また、コントローラ32は暖房モードを実行している場合には、図10に示すように、アクチュエータを駆動して後方排風口51を開放位置に切り換え、下方排風口52を閉鎖位置に切り換える。これによりラジエータ17を流通後の走行風Wが後方排風口51から後方に排出され、その後にカウル23の左右のダクト24から外部に排出される。従って、低温環境において運転者Rの脚部Rfが高温の走行風Wで温められ、寒さによる不快感を軽減することができる。
【0056】
なお、コントローラ32による制御に代えて、別例1と同様に操作ユニット43により後方シャッター53及び下方シャッター54を手動操作するように構成してもよい。
また、この別例2では、後方排風口51及び下方排風口52にそれぞれシャッター53,54を設けたが、これに限るものではなく、何れか一方の排風口だけにシャッターを設けてもよい。
【0057】
例えば下方排風口52だけにシャッター54を設けた場合、暖房モードでシャッター54を閉鎖位置に切り換えると、別例2と同じく、走行風Wが後方排風口51からダクト24を経て外部に排出される。これに対してシャッター54を開放位置とした通常モードでは、下方排風口52のみならず後方排風口51からも走行風Wの排出が継続される。しかしながら、下方排風口52からの排出分だけ後方排風口51から排出される走行風Wの量、ひいては運転者Rの脚部Rfへと流れる走行風Wの量が減少するため、高温環境での暑さによる不快感を軽減することができる。
【0058】
逆に後方排風口51だけにシャッター53を設けた場合には、暖房モードでシャッター53を開放位置に切り換えたとしても、後方排風口51のみならず下方排風口52からも走行風Wが継続して排出される。しかしながら、走行風Wの量は減少するものの高温の走行風Wで運転者Rの脚部Rfを暖めることはできるため、低温環境での寒さによる不快感を軽減することができる。
【0059】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では自動二輪車1に具体化したが、これに限るものではなく、本発明は、運転者Rがシートに跨って搭乗するいわゆる鞍乗り型車両の全般に適用可能である。従って、例えばスクーターやモペット等の小排気量エンジンを搭載した2輪車(原動機付き自転車等)、或いは4輪バギー等のATV(All Terrain Vehicle)等に適用してもよい。
【0060】
また上記実施形態では、カウル23に開口部としてダクト24を貫設して走行風Wを外部に排出したが、これに限るものではない。例えば、カウル23とフレーム2との間に形成された隙間を開口部とし、この開口部から走行風Wを外部に排出するようにしてもよい。このように構成した場合でも、暖房モードでは、隙間を経て排出された高温の走行風Wにより運転者Rの脚部Rfを温めることができる。
【0061】
また上記実施形態では、ラジエータ17に取り付けられたファンシュラウド18を導風部材として機能させたが、これに限るものではなく、例えばファンシュラウド18とは別部品の導風部材をラジエータ17に取り付けてもよい。
【0062】
また上記実施形態では、エンジン冷却水が循環するラジエータ17を熱交換器としたが、これに限るものではない。例えば空冷式のエンジンを搭載した自動二輪車では、エンジンの前方位置にオイルクーラが搭載される場合があるため、このオイルクーラを本発明の熱交換器とし、内部を循環するエンジンオイルを走行風Wと熱交換させてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 鞍乗り型車両
16 エンジン
17 ラジエータ(熱交換器)
18 ファンシュラウド(導風部材)
18b 排風口
19 電動ファン
23 カウル
24 ダクト(開口部)
27 ルーバー(調整部材)
31 アクチュエータ
32 コントローラ
33 外気温センサ(外気温検出部)
34 冷却水温センサ(冷却媒体温検出部)
41 ワイヤ(保持機構)
42 保護チューブ(保持機構)
43 操作ユニット(保持機構)
51 後方排風口
52 下方排風口
53 後方シャッター
54 下方シャッター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10