(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075306
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】立軸ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 13/00 20060101AFI20240527BHJP
F04D 29/046 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
F04D13/00 D
F04D13/00 L
F04D29/046 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186672
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辺見 真
(72)【発明者】
【氏名】三橋 佑規
(72)【発明者】
【氏名】志手 和弘
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌典
(72)【発明者】
【氏名】井上 康弘
(72)【発明者】
【氏名】天野 和雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 和幸
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AB05
3H130AB13
3H130AB24
3H130AB52
3H130AC07
3H130AC10
3H130BA23E
3H130BA24E
3H130BA32D
3H130BA32E
3H130BA36D
3H130BA36E
3H130CA23
3H130DA02X
3H130DB01X
3H130DB03X
3H130DB15X
3H130DD01Z
3H130EA02E
3H130EC02D
3H130EC02E
3H130EC12E
3H130EC17E
(57)【要約】
【課題】回転軸と軸受装置との摺動部で発生する摺動摩擦熱の放熱性を向上して軸受損傷を抑制する。
【解決手段】立軸ポンプは、鉛直方向に延びる回転軸と、この回転軸の下端部側に固定され前記回転軸と共に回転する羽根車と、前記回転軸を支持する軸受装置とを備える。前記軸受装置は、揚水運転時には揚水を潤滑液として使用し、空転運転時には潤滑液のない無潤滑摺動で運転可能なものであり、軸受装置の回転軸と摺動接触する部分には軸受摺動部材が設けられ、この軸受摺動部材は軸受ハウジングに収容され、前記軸受摺動部材の一方または両方の軸方向端部外周側には、軸受ハウジング側に熱を放出するための高熱伝導部材が設けられ、この高熱伝導部材は前記軸受摺動部材の中央外周に配置される材料よりも熱伝導性の高い材料で構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びる回転軸と、この回転軸の下端部側に固定され前記回転軸と共に回転する羽根車と、前記回転軸を支持する軸受装置とを備える立軸ポンプであって、
前記軸受装置は、揚水運転時には揚水を潤滑液として使用し、空転運転時には潤滑液のない無潤滑摺動で運転可能なものであり、
前記軸受装置の前記回転軸と摺動接触する部分には軸受摺動部材が設けられ、この軸受摺動部材は軸受ハウジングに収容され、
前記軸受摺動部材の一方または両方の軸方向端部外周側に、前記軸受ハウジング側に熱を放出するための高熱伝導部材が設けられ、この高熱伝導部材は前記軸受摺動部材の中央外周に配置される材料よりも熱伝導性の高い材料で構成されている
ことを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の立軸ポンプであって、
前記高熱伝導部材は前記軸受摺動部材よりも柔軟な高熱伝導柔軟材で構成されていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の立軸ポンプであって、
前記高熱伝導部材はアクリル放熱シートまたは放熱シリコンパッドの何れかで構成されていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載の立軸ポンプであって、
前記軸受摺動部材の外周に接するようにバックメタルが設けられ、前記バックメタルは前記軸受ハウジングの内周に納められており、
前記軸受摺動部材の一方または両方の軸方向端部外周側に、前記軸受摺動部材と前記バックメタルとに接するように前記高熱伝導部材が設けられていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項5】
請求項2に記載の立軸ポンプであって、
前記軸受摺動部材の端部外周に円周方向の溝部を設け、この溝部に前記高熱伝導部材が配設されていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項6】
請求項4に記載の立軸ポンプであって、
前記高熱伝導部材は前記軸受摺動部材よりも柔軟な高熱伝導柔軟材で構成され、
前記バックメタルの端部内周には円周方向の溝部を設け、この溝部に前記高熱伝導部材が配設されていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項7】
請求項4に記載の立軸ポンプであって、
前記軸受摺動部材の軸方向の端面と前記バックメタルの軸方向端面の両方に接するように設けられた円環状の高熱伝導部材と、前記バックメタルまたは前記軸受ハウジングに取り付けられ、前記円環状の高熱伝導部材を保持する押え部材を備えることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項8】
請求項4に記載の立軸ポンプであって、
前記高熱伝導部材と接触する部分の前記軸受摺動部材または前記バックメタルの少なくとも一方の表面に、前記高熱伝導部材との接触摩擦係数を高くする加工を施していることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項9】
鉛直方向に延びる回転軸と、この回転軸の下端部側に固定され前記回転軸と共に回転する羽根車と、前記回転軸を支持する軸受装置とを備える立軸ポンプであって、
前記軸受装置は、揚水運転時には揚水を潤滑液として使用し、空転運転時には潤滑液のない無潤滑摺動で運転可能なものであり、
前記軸受装置の前記回転軸と摺動接触する部分には軸受摺動部材が設けられ、この軸受摺動部材は、軸受ハウジングに収容され、
前記軸受摺動部材の軸方向中央の外周側と前記軸受ハウジングの内周に接するように弾性部材が設けられ、
前記軸受摺動部材の軸方向端部外周側には、前記軸受摺動部材の中央外周に配置された前記弾性部材よりも熱伝導性の高い材料で構成され前記軸受摺動部材で発生する熱を前記軸受ハウジング側に放出するための高熱伝導部材が設けられている
ことを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項10】
請求項9に記載の立軸ポンプであって、
前記軸受摺動部材の外周にバックメタルが設けられ、このバックメタルの外周と前記軸受ハウジングの内周に接するように前記弾性部材及び前記高熱伝導部材が配置されていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項11】
請求項10に記載の立軸ポンプであって、
前記高熱伝導部材は、前記弾性部材よりも剛性が低い高熱伝導柔軟材で構成されていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項12】
請求項11に記載の立軸ポンプであって、
前記軸受摺動部材の軸方向の端面と前記バックメタルの軸方向端面の両方に接するように設けられた円環状の高熱伝導部材と、前記軸受ハウジングに取り付けられ、前記円環状の高熱伝導部材及び前記軸受摺動部材を保持するための軸受押えを備えることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項13】
請求項9に記載の立軸ポンプであって、
前記弾性部材はニトリルゴムで構成され、前記高熱伝導部材はアクリル放熱シートまたは放熱シリコンパッドの何れかで構成されていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項14】
請求項1または9に記載の立軸ポンプであって、
前記高熱伝導部材は前記軸受摺動部材の軸方向両端部側のうち回転軸との接触摩擦熱の発生量が多くなる側にのみ設けられていることを特徴とする立軸ポンプ。
【請求項15】
請求項1または9に記載の立軸ポンプであって、
前記回転軸は前記軸受摺動部材と接する部分に軸スリーブを設けていることを特徴とする立軸ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を支持する軸受装置を備えた立軸ポンプに係り、特に、無潤滑摺動と、異物等を含む揚水中での摺動が繰り返される軸受装置を備えた立軸ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部で発生する集中豪雨の際、排水ポンプ機場(以下、単に排水機場ともいう)への雨水流入は、大量かつ急激なものとなっており、都市型洪水発生の危険性が高くなっている。このような都市型洪水の発生を回避するためには、緊急時でも速やかに動作する排水ポンプが必要である。そのため、洪水が発生していない通常時において、排水機場に設置されている立軸ポンプなどの排水ポンプの空転運転を実施し、その動作確認をすることが行われている。
【0003】
また、排水ポンプ機場への急激かつ大量の雨水流入に対して、排水ポンプの始動遅れによる冠水被害が発生しないように、雨水が排水機場に流入する前に排水ポンプを空転させて待機運転をさせ、出水時に直ちに排水できるようにする先行待機運転が強く求められている。
【0004】
この先行待機運転を実施する先行待機運転型の立軸ポンプでは、揚水が行われない空転運転時間が長くなるため、ポンプの軸受装置として、ポンプ揚水を潤滑液として使用するものでは、軸受装置に潤滑液のない無潤滑摺動が長時間続くことになる。その結果、摩擦摺動による発熱により、軸受装置などに損傷等の不具合を生じる危険性が高い。
【0005】
このような不具合を解消するために、特開2009-203933号公報(特許文献1)に記載の立軸ポンプ用軸受装置では、立軸ポンプの回転軸の外周面に対向して配置される複合樹脂製の軸受摺動部材を用いると共に、この軸受摺動部材よりも熱伝導率が大きい部材で構成された複数のピンを前記軸受摺動部材の反摺動面側に設ける構成としている。このように構成することにより、この特許文献1のものでは、熱伝導率が低い樹脂製の軸受摺動部材と回転軸との摺動により発生する熱が、前記軸受摺動部材内に留まらずに、熱伝導率の高い前記ピンを介して、軸受摺動部材の外に放熱されるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のものでは、ピンを設置している軸受摺動部材の部分では放熱効果を高めることができるが、ピンを設置していない軸受摺動部材の部分では、放熱しにくくなるため、軸受摺動部材の温度が上昇し、軸受損傷の危険性が高まる課題がある。また、回転軸と軸受装置の軸受摺動部材が接触する場合、軸方向の端部では片当たりが発生し易く、片当たりが発生すると接触圧力が非常に高くなり発熱量が特に大きくなる課題があることもわかった。しかし、軸受摺動部材の軸方向端部に熱伝導率の高い放熱用の前記ピンを設置することは難しく、放熱効果を高めることができないため、特に軸受摺動部材の端部では過度な温度上昇が発生して軸受損傷を引き起こす危険性があるという課題もある。
【0008】
本発明の目的は、回転軸と軸受装置との摺動部で発生する摺動摩擦熱の放熱性を向上して軸受損傷を抑制することのできる立軸ポンプを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、鉛直方向に延びる回転軸と、この回転軸の下端部側に固定され前記回転軸と共に回転する羽根車と、前記回転軸を支持する軸受装置とを備える立軸ポンプであって、前記軸受装置は、揚水運転時には揚水を潤滑液として使用し、空転運転時には潤滑液のない無潤滑摺動で運転可能なものであり、前記軸受装置の前記回転軸と摺動接触する部分には軸受摺動部材が設けられ、この軸受摺動部材は軸受ハウジングに収容され、前記軸受摺動部材の一方または両方の軸方向端部外周側に、前記軸受ハウジング側に熱を放出するための高熱伝導部材が設けられ、この高熱伝導部材は前記軸受摺動部材の中央外周に配置される材料よりも熱伝導性の高い材料で構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の特徴は、鉛直方向に延びる回転軸と、この回転軸の下端部側に固定され前記回転軸と共に回転する羽根車と、前記回転軸を支持する軸受装置とを備える立軸ポンプであって、前記軸受装置は、揚水運転時には揚水を潤滑液として使用し、空転運転時には潤滑液のない無潤滑摺動で運転可能なものであり、前記軸受装置の前記回転軸と摺動接触する部分には軸受摺動部材が設けられ、この軸受摺動部材は軸受ハウジングに収容され、前記軸受摺動部材の軸方向中央の外周側と前記軸受ハウジングの内周に接するように弾性部材が設けられ、前記軸受摺動部材の軸方向端部外周側には、前記軸受摺動部材の中央外周に配置された前記弾性部材よりも熱伝導性の高い材料で構成され前記軸受摺動部材で発生する熱を前記軸受ハウジング側に放出するための高熱伝導部材が設けられていることにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転軸と軸受装置との摺動部で発生する摺動摩擦熱の放熱性を向上して軸受損傷を抑制することのできる立軸ポンプを得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の立軸ポンプの実施例1を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す立軸ポンプにおける軸受装置部分の要部拡大断面図である。
【
図3】本発明の立軸ポンプの実施例2を説明する図で、
図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の立軸ポンプの具体的実施例を、図面に基づいて説明する。なお、各図において、同一符号を付した部分は、同一或いは相当する部分である。
【実施例0014】
本発明の立軸ポンプの実施例1を
図1および
図2を用いて説明する。
まず、
図1を用いて、本実施例1における立軸ポンプの全体構成を説明する。
図1は、本発明の立軸ポンプの実施例1を示す縦断面図である。
【0015】
図1に示す100は立軸ポンプで、この立軸ポンプ100は、鉛直方向に延び回転する回転軸1と、この回転軸1の下端部に固定され、該回転軸1と共に回転する羽根車(インペラ)2と、この羽根車2の外周部を覆うように設けられているポンプケーシング3と、このポンプケーシング3の上部に接続され、さらに上方に延びる揚水管4と、この揚水管4の上部に接続され、流路を水平方向に曲げる吐出エルボ部5等を備えている。また、前記回転軸1は軸受装置6,7により支持され、カップリング8を介して、吸水槽9の床部9aに設けた支持台15に設置されているモータ10などの原動機により回転駆動されるように構成されている。なお、3aは前記ポンプケーシング3の吸込口側に設けられている吸込ベルマウスである。
【0016】
前記軸受装置6は、羽根車2の近傍に配置され、回転軸1の下端部側を回転支持すると共に、案内羽根11などを介して前記ポンプケーシング3に固定されている。前記軸受装置7は、立軸ポンプ100の設置面である吸水槽9の床部9aよりも下方の部分(回転軸1の上下方向の中央部側)の前記回転軸1を回転支持すると共に、前記揚水管4に支持部材12を介して固定されている。
【0017】
図1に示す立軸ポンプ100は、動作確認等のために空転運転を実施する立軸ポンプ、或いは先行待機運転型の立軸ポンプであり、前記軸受装置6,7には、揚水運転時には揚水を潤滑液として使用し、空転運転時には潤滑液のない無潤滑摺動で運転(ドライ運転)可能なタイプのものを使用している。
【0018】
また、前記先行待機運転型の立軸ポンプとしては、例えば特開平6-213190号公報にも記載されているように、ポンプ運転中の水位が、それ以下では、ポンプケーシング3の吸込ベルマウス3aから空気を吸込んでしまう最低水位に相当する水位より下方に羽根車2を位置させ、前記羽根車2の下方の前記ポンプケーシング3に複数個の空気導入部(図示せず)を設け、前記空気導入部に、一端を接続すると共に他端を大気に開放させた吸気管(図示せず)を備える構成とすることが好ましい。
【0019】
図2は
図1に示す立軸ポンプにおける前記軸受装置6または7の部分における要部拡大断面図である。以下の説明では、
図2に示す軸受装置は、
図1に示す軸受装置7である場合について説明するが、軸受装置6も同様の構成となっている。なお、
図2では軸受装置7の右側半分のみを図示しているが、左側半分についても同様の構成であるので、左側半分については図示を省略している。
【0020】
図2において、1は立軸ポンプ100の回転軸、7は前記回転軸1を回転支持する軸受装置であり、この軸受装置7で支持される部分の回転軸1の外周面には、軸スリーブ13が嵌合固定されている。なお、回転軸1が軸スリーブ13を有する場合には軸スリーブも含めて回転軸と称することとする。
【0021】
前記軸受装置7は、内周側に設けられ前記軸スリーブ13と摺動接触する軸受摺動部材21、この軸受摺動部材21の背面側に設けられ前記軸受摺動部材21を保持するバックメタル22、このバックメタル22を保持する軸受ハウジング23などから構成され、前記軸受ハウジング23は前記支持部材12(
図1も参照)に固定されている。
【0022】
前記軸受摺動部材21は、揚水運転時には揚水を潤滑液として使用し、揚水運転をしない空転運転時には潤滑液のない無潤滑摺動で運転可能な材料で構成されている。この軸受摺動部材21としては、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)系の樹脂材料或いは樹脂材料を炭素繊維で補強した複合樹脂製のものを使用すると良い。また、前記樹脂材料としては、PEEKの他に、PI(ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PBI(ポリベンゾイミダゾール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等を使用しても良い。
【0023】
本実施例においては、軸受摺動部材21の軸方向の上下両端部における外周面に、軸受摺動部材21の外周面とバックメタル22の内周面に接するように、柔軟性のある高熱伝導部材(高熱伝導柔軟材)26(26a,26b)が備えられている。さらに、本実施例では、前記軸受摺動部材21及び前記バックメタル22の軸方向両端の端面部分に、これら軸受摺動部材21とバックメタル22の両方に接するように柔軟性のある円環状の高熱伝導部材(高熱伝導柔軟材)27(27a,27b)が設けられている。
【0024】
前記円環状の高熱伝導部材27(27a,27b)は前記バックメタル22或いは前記軸受ハウジング23に固定された軸受押え28(28a,28b)に保持されている。上端側の円環状の高熱伝導部材27aは、上方から軸受押え28aにより押さえられて軸受摺動部材21とバックメタル22の上端面に密着している。同様に、下端側の円環状の高熱伝導部材27bは、下方から軸受押え28bにより押さえられて軸受摺動部材21とバックメタル22の下端面に密着している。なお、前記軸受押え28は前記バックメタル22或いは前記軸受ハウジング23と一体に構成されていても良い。
【0025】
上述したように本実施例においては、前記軸受摺動部材21の軸方向の上下両端部における外周面に、軸受摺動部材21の外周面とバックメタル22の内周面に接するように、柔軟性のある高熱伝導部材26を設け、さらに軸受摺動部材21及びバックメタル22の軸方向両端の端面部分に、これら軸受摺動部材21とバックメタル22の両方に接するように円環状の高熱伝導部材27を設けているが、その理由について以下説明する。
【0026】
立軸ポンプ100の組立上のずれ(組立誤差)や、回転軸1の下端に取り付けられている羽根車2に半径方向の流体力が作用することにより、軸スリーブ13の軸心と、軸受摺動部材21の軸心は、必ずしも平行にはならず、回転軸1の傾斜や撓みにより多少傾いた位置関係になる。軸スリーブ13と軸受摺動部材21との位置関係が、このような状態になると、前記軸受摺動部材21の軸方向上端部または下端部と前記軸スリーブ13とが特に強く接触する片当たりが発生する。この強く接触する部分の摺動摩擦熱の発生量は特に多くなり、この部分の軸受摺動部材21の温度は特に上昇して焼き付きなどの軸受損傷を引き起こす危険性が高くなる。
【0027】
本実施例においては、軸スリーブ13と軸受摺動部材21が強く接触し摺動摩擦熱の発生量が特に多くなる位置に対応して、軸受摺動部材21の軸方向両端部(上下端部)側の外周部分に、軸受摺動部材21の外周面とバックメタル22の内周面に接するように柔軟性のある高熱伝導部材26をそれぞれ設けている。また、軸受摺動部材21とバックメタル22の軸方向の両端面の部分には柔軟性のある円環状の高熱伝導部材27をそれぞれ設けている。本実施例では、前記高熱伝導部材26及び前記円環状の高熱伝導部材27は、熱伝導率が前記軸受摺動部材21に用いられる材料よりも高く、剛性はバックメタル22に用いられる材料よりも低い材料を採用している。
【0028】
なお本実施例では、前記軸受ハウジング23側に熱を放出するための前記高熱伝導部材26を、軸受摺動部材21の両方の軸方向端部外周側に設けているが、一方の軸方向端部外周側にのみ設けるようにしても良い。この場合、適用する機械の特性に合わせて上端側または下端側のいずれか一方だけに設けるようにすると良い。円環状の高熱伝導部材27についても同様に、軸受摺動部材21の上端側または下端側のいずれか一方だけに設けるようにしても良い。
【0029】
本実施例では、前記高熱伝導部材26は前記軸受摺動部材21の中央外周に配置される材料よりも熱伝導性の高い材料で構成されており、さらに本実施例では、前記高熱伝導部材26は前記軸受摺動部材21よりも柔軟性が高い(剛性が低い)材料を採用している。柔軟性が高い前記高熱伝導部材としては、アクリル放熱シートまたは放熱シリコンパッド等の材料で構成すると良い。
【0030】
また本実施例では、前記軸受摺動部材21の軸方向両端部側の外径を小さく加工して、該軸受摺動部材21の端部外周に円周方向の溝部(凹部、切欠き部)21a,21bを設け、これらの溝部21a,21bに前記高熱伝導部材26を配設する構成としている。
【0031】
上記構成とすることにより、軸受摺動部材21の軸端部側には前記溝部21a,21bが形成されるため肉厚が薄くなり、該溝部には剛性の低い柔軟な高熱伝導部材26が配設されるため、軸受摺動部材21の軸端部側は変形し易い構造となる。即ち、軸受摺動部材21の軸端部側に片当たりが発生し、この片当たりによる力が内周側から軸受摺動部材21に作用すると、軸受摺動部材21は変形して易くなる。従って、片当たり等により軸スリーブ13が軸受摺動部材21の端部に強く接触すると、軸受摺動部材21は変形して接触力が低減されるので、摺動摩擦熱の発生量を少なく抑えることができる。
【0032】
さらに、高熱伝導部材26の熱伝導率は軸受摺動部材21よりも高いので、軸受摺動部材21の端部側で発生した摺動摩擦熱を効率良くバックメタル22側へ放熱することができ、放熱性を高めることができる。また、軸受摺動部材21の端部側で発生した摺動摩擦熱を、円環状の高熱伝導部材27からもバックメタル22側や軸受押え28側へ放熱することができ、放熱性をさらに向上できる。
【0033】
以上説明したように、本実施例によれば、軸受摺動部材21への片当たりが発生しても、接触力を低下させて摺動摩擦熱の発生量を少なく抑え、且つ回転軸側と軸受摺動部材21との摺動により発生する摩擦熱の放熱性を高めることができるので、軸受摺動部材21の温度上昇を低減することが可能となる。従って、回転軸1の軸受装置への片当たりによる発熱を抑制し、且つ放熱性を向上して、軸受摺動部材21の過度な温度上昇による軸受損傷を抑制し、信頼性の高い先行待機運転型立軸ポンプなどの立軸ポンプを実現できる。
【0034】
なお、本実施例においては、軸受摺動部材21の軸方向端部側の外径を小さくする加工を施して溝部21a,21bを形成し、これらの溝部21a,21bに高熱伝導部材26を配設する構成としているが、次のように構成しても良い。即ち、軸受摺動部材21の軸方向端部側に対応するバックメタル22の端部側内径を大きくする加工を施し、該バックメタル22の端部内周に円周方向の溝部を設けて、この溝部に前記高熱伝導部材26を設置しても良い。また、軸受摺動部材21の軸方向端部の外径を小さくすると共に。バックメタル22の軸方向端部の内径も大きく加工して、これらにより形成される溝部に高熱伝導部材26を配設するように構成しても良い。
【0035】
さらに、前記高熱伝導部材26と接触する部分の軸受摺動部材21またはバックメタル22の表面を粗加工やネジ溝状加工をして、高熱伝導部材26との接触摩擦係数を高くする加工を施すようにすれば、軸受摺動部材21やバックメタル22に対する前記高熱伝導部材26の滑りを抑えることができ、組立性を向上することができる。
【0036】
以上説明した本実施例によれば、軸受装置と回転軸との摺動部で発生した熱による軸受の過度な温度上昇及び軸受損傷を抑えた立軸ポンプを実現することができる。即ち、揚水が行われない空転運転時に、軸受装置と回転軸との摺動部、特に軸受摺動部材21の軸方向端部側で発生した摺動摩擦熱を効果的に放熱することができ、軸受の過度な温度上昇や軸受損傷の危険性を抑制できる。
前記高熱伝導部材26は、前記軸受摺動部材21の中央外周に前記バックメタル22を介して配置されている前記弾性部材25よりも熱伝導性の高い材料で構成され、前記軸受摺動部材21で発生する熱を、前記バックメタル22及び高熱伝導部材26を介して前記軸受ハウジング23側に放出する構成としている。
本実施例2においても、実施例1と同様に、前記軸受摺動部材21の軸方向の端面と前記バックメタル22の軸方向端面の両方に接するように柔軟な円環状の高熱伝導部材(高熱伝導柔軟材)27(27a,27b)が設けられている。これら円環状の高熱伝導部材27は、前記軸受ハウジング23に取り付けられた軸受押え28、または軸受ハウジング23の下端部に一体に形成されている軸受押え部23aにより保持され、同時に前記軸受摺動部材21、バックメタル22及び高熱伝導部材26等も前記軸受押え28や前記軸受押え部23aに保持されている。
前記弾性部材25は、前記バックメタル22や前記軸受ハウジング23に用いられる材料よりも剛性の低い材料を用いており、例えばニトリルゴムなどのゴム材で構成すると良い。
前記高熱伝導部材26や前記円環状の高熱伝導部材27は、実施例1と同様に、アクリル放熱シートまたは放熱シリコンパッド等の材料で構成すると良い。また、前記高熱伝導部材26や前記円環状の高熱伝導部材27は、前記軸受摺動部材21や前記弾性部材25に用いられる材料よりも熱伝導率が高く、前記バックメタル22や前記弾性部材25に用いられる材料よりも剛性の低いものが用いられる。なお、ニトリルゴムなどのゴム材(弾性部材25)や、アクリル放熱シートまたは放熱シリコンパッドなどで構成された高熱伝導部材26,27の材料の選択に関しては、例えばアスカーCなどの指標で計測される硬度を剛性の指標として用いると良い。
他の部分については、上記実施例1と同様であるので、それらの説明については省略する。
このように、バックメタル22の軸方向中央の外周と軸受ハウジング23の内周に接するように弾性部材25を設けたことにより、回転軸1の傾斜や撓みにより軸受摺動部材21の軸方向上端部または下端部と軸スリーブ13とが特に強く接触するような場合には、前記弾性部材25が変形することにより、バックメタル22の中心線が軸スリーブ13の中心線と一致するように、バックメタル22が傾斜し易くなる。バックメタル22が傾斜することにより、軸受摺動部材21の軸方向上端部または下端部と前記軸スリーブ13との接触力は軽減される。
即ち本実施例では、バックメタル22を、軸方向中央で弾性部材25により保持し、軸方向端部では前記弾性部材25よりも剛性の低い高熱伝導部材26により保持しているため、バックメタル22を軸方向の全長にわたって弾性部材25で保持する場合よりも、軸受摺動部材21をより傾斜し易く構成している。従って、回転軸1の軸スリーブ13と軸受摺動部材21との片当たりを軽減できるので、摺動摩擦熱の発生もより少なくすることができる。
さらに、高熱伝導部材26は、弾性部材25よりも高い熱伝導率の材料が使用されているので、片当たりにより前記軸受摺動部材21の軸端部側で多く発生する摺動摩擦熱を、バックメタル22及び高熱伝導部材26を介して軸受ハウジング23側に放熱する放熱性を向上できる効果もある。また、円環状の高熱伝導部材27も設けられているので、前記軸受摺動部材21の軸端部側で発生する摺動摩擦熱を、円環状の高熱伝導部材27を介して前記軸受押え28側へ放熱する効果も得られる。なお、円環状の高熱伝導部材27も高熱伝導部材26と同様に、柔軟な材料で構成されているので、前記軸受摺動部材21や前記バックメタル22の傾斜が妨げられることも防止できる。
以上説明した本実施例2によれば、実施例1と同様に、軸受装置と回転軸との摺動部で発生した熱による軸受の過度な温度上昇および損傷を抑えた立軸ポンプを得ることができる。また、本実施例2ではバックメタル22の中央外周と軸受ハウジング23との間に弾性部材25を設けているので、回転軸1が傾くと、回転軸1の傾斜に対応して軸受摺動部材21も傾斜できるので、片当たりを軽減して摺動摩擦熱の発生を低減することもできる。さらに、軸受摺動部材21で発生する熱を高熱伝導部材26及び円環状の高熱伝導部材27を介して摺動摩擦熱を放熱できるので放熱性を高めることもでき、軸受摺動部材21の温度上昇を抑制して軸受損傷の危険性を抑えることができる。従って、本実施例の採用により、信頼性の高い先行待機運転型立軸ポンプなどの立軸ポンプを実現することができる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例では軸受装置としてバックメタルを備えるもので説明したが、バックメタルのない軸受装置にも本発明を同様に適用できる。また、本発明は先行待機運転型の立軸ポンプには限定されず、揚水運転時には揚水を潤滑液として使用し、空転運転時には潤滑液のない無潤滑摺動で運転可能な軸受摺動部材を有する軸受装置を備える立軸ポンプであれば、本発明を同様に適用することができる。
また、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。