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  • 特開-床版接続構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075318
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】床版接続構造
(51)【国際特許分類】
   E01C 11/02 20060101AFI20240527BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
E01C11/02 C
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186689
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】398062574
【氏名又は名称】カナフレックスコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金尾 茂樹
【テーマコード(参考)】
2D051
2D059
【Fターム(参考)】
2D051AB01
2D051AB03
2D051AF03
2D051AH01
2D051CA02
2D059AA14
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】車両走行方向において高い輪荷重を実現でき、充填材を低減できる、床版接続構造を提供する。
【解決手段】少なくとも道路長手方向前方端部に前方外壁3(f)を有する一の床版2(1)と、少なくとも道路長手方向後方端部に後方外壁3(b)を有する他の床版2(2)とを接続する、床版接続構造1において、前方外壁3(f)と後方外壁3(b)とによって、隙間4が形成され、前方外壁3(f)から隙間4内へ前方鉄筋6(f)が突出し、後方外壁6(b)から隙間4内へ後方鉄筋6(b)が突出し、隙間4内に充填材5が充填される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも道路長手方向前方端部に前方外壁を有する一の床版と、少なくとも道路長手方向後方端部に後方外壁を有する他の床版とを接続する、床版接続構造であって、
前記前方外壁と前記後方外壁とによって、隙間が形成され、
前記前方外壁から前記隙間内へ前方鉄筋が突出し、前記後方外壁から前記隙間内へ後方鉄筋が突出し、
前記隙間内に充填材が充填され、
平面視において、前記前方鉄筋は、前記前方外壁に沿って、等ピッチ且つ平行に複数個配設され、前記後方鉄筋は、前記後方外壁に沿って、等ピッチ且つ平行に複数個配設され、
平面視において、前記前方鉄筋と前記後方鉄筋とは、交互に配設される床版接続構造。
【請求項2】
平面視において、前記前方鉄筋と、該前方鉄筋に隣接する前記後方鉄筋と、の距離は一定である請求項1に記載する床版接続構造。
【請求項3】
前記一の床版、前記他の床版、及び前記充填材は、補強繊維入りのコンクリート製である請求項1又は2に記載する床版接続構造。
【請求項4】
前記充填材によって前記一の床版及び前記他の床版が離隔不可能に接続され、前記充填材の強度は前記一の床版及び前記他の床版よりも高い、請求項3に記載の床版接続構造。
【請求項5】
前記前方鉄筋及び前記後方鉄筋は、表面に、長手方向に複数個形成された節を有する異形鉄筋である請求項4に記載する床版接続構造。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床版を接続して道路、滑走路又は歩道橋を形成するための床版接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路の長手方向に隣り合って敷設された二枚の板材を接続して構成する道路が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-236258
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ループ筋が突出するプレキャスト床版の端面同士を所定の隙間をあけて突き合せた状態で、端面同士の隙間に間詰コンクリートを打設する床版継手構造が開示されている。ところが、前記従来の床版継手構造の場合、ループ筋の内側にループ筋と直行する補強鉄筋を配筋する作業に手間がかかる。また、プレキャスト床版同士の位置決めが困難である。また、端面同士の隙間に打設する間詰コンクリートのコストが多大である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る床版接続構造は、少なくとも道路長手方向前方端部に前方外壁を有する一の床版と、少なくとも道路長手方向後方端部に後方外壁を有する他の床版とを接続する、床版接続構造であって、
前記前方外壁と前記後方外壁とによって、隙間が形成され、
前記前方外壁から前記隙間内へ前方鉄筋が突出し、前記後方外壁から前記隙間内へ後方鉄筋が突出し、
前記隙間内に充填材が充填され、
平面視において、前記前方鉄筋は、前記前方外壁に沿って、等ピッチ且つ平行に複数個配設され、前記後方鉄筋は、前記後方外壁に沿って、等ピッチ且つ平行に複数個配設され、
平面視において、前記前方鉄筋と前記後方鉄筋とは、交互に配設されることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る床版接続構造は、前記床版接続構造において、平面視において、前記前方鉄筋と、該前方鉄筋に隣接する前記後方鉄筋と、の距離は一定であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る床版接続構造は、前記床版接続構造において、前記一の床版、前記他の床版、及び前記充填材は、補強繊維入りのコンクリート製であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る床版接続構造は、前記床版接続構造において、前記充填材によって前記一の床版及び前記他の床版が離隔不可能に接続され、前記充填材の強度は前記一の床版及び前記他の床版よりも高いことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る床版接続構造は、前記床版接続構造において、前記前方鉄筋及び前記後方鉄筋は、表面に、長手方向に複数形成された節を有する異形鉄筋であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る床版接続構造によれば、一の床版の前方鉄筋と他の床版との位置決めを行い、一の床版の前方外壁と他の床版の後方外壁との隙間に充填材を充填し固化するだけで、一の床版と他の床版とを接続することができ、施工が容易である。また、前方外壁と後方外壁との間に形成された僅かな隙間に、充填材を充填するだけで、一の床版と他の床版とを接続することができる。すなわち、僅かな隙間の充填材のみによって、一の床版と他の床版とを、離隔不可能に接続することができる。このため、施工が容易であるとともに充填材のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の床版接続構造を示す図であり、(a)は図1(b)におけるA-A線切断部断面図であり、(b)は床版接続構造の平面図である。
図2】接続する前の一の床版及び他の床版を示す平面図である。
図3】本発明の床版接続構造を形成する床版製品を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、図1及び図2を用いて本発明の一実施形態に係る床版接続構造1について説明する。図1及び図2に示す如く、床版接続構造1は、一の床版2(1)と、他の床版2(2)とが接続されて構成される。一の床版2(1)及び他の床版2(2)は、現実に試作されたものである。
【0013】
一の床版2(1)と、他の床版2(2)とは、補強繊維を有する繊維補強コンクリートである。一の床版2(1)は、少なくともX軸方向(道路長手方向)前方端部に前方外壁3(f)を有する。他の床版2(2)は、少なくともX軸方向後方端部に後方外壁3(b)を有する。前方外壁3(f)及び後方外壁3(b)は、X軸方向に対して直角方向の平面である。前方外壁3(f)と後方外壁3(b)とによって隙間4が形成される。
【0014】
一の床版2(1)及び他の床版2(2)を構成するセメントの材質は、本願発明の技術的特徴ではなく、限定されない。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等、各種セメントが、使用される。これらのなかでも、生産性、強度等の点から、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましい。セメントに対する水の配合割合が多すぎると、床版の強度が低下する傾向にあり、逆に水の配合割合が少なすぎると、成形時にセメント混練物の流動性が低下して成形性を阻害する傾向にある。このため、セメントに対する水の配合割合は、適切な範囲内に収まることが好ましい。セメントは、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化第二鉄(Fe)を含む。
【0015】
一の床版2(1)及び他の床版2(2)を構成するセメントが含む補強繊維としては、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維等のポリオレフィン系繊維、アラミド繊維、炭素繊維、鋼繊維、ガラス繊維、鉱物繊維等が挙げられる。補強繊維の繊維長は特に限定されない。補強繊維の繊維長が長い方が補強効果の点では有利であるが、その一方で、繊維長が長くなるほど分散性が低下し、成形体内で補強繊維が偏在して、却って一の床版2(1)及び他の床版2(2)の強度を低下させる場合もある。また、補強繊維の太さも特に限定はない。
【0016】
隙間4には、充填材5が充填され、養生固化される。充填材4の材質は、例えば、高強度の接合力と優れた防水性とを備えた樹脂モルタルである。充填材4の材質は、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはポリエレア樹脂等からなる合成樹脂と、砂等の細骨材と、が混合された樹脂モルタルである。なお、充填材4の材質は、弾性ゴム等であってもよい。
【0017】
充填材5に含まれる補強繊維は、例えば、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維等のポリオレフィン系繊維、アラミド繊維、炭素繊維、鋼繊維、ガラス繊維等である。これらの繊維の中でも、ビニロン繊維は、耐久性が高く、セメントとの親和性に優れるので好ましい。補強繊維の繊維長は特に限定されないが、短繊維であることが好ましく、例えば15~45mmの範囲が好ましい。補強繊維の繊維長が15mm未満では補強効果が不足する傾向がみられる。補強繊維の繊維長が長い方が補強効果の点では有利である。一方で、繊維長が長くなるほど分散性が低下し、成形体内で補強繊維が偏在して、却ってパネル強度を低下させる場合もある。また、補強繊維の太さにも特に限定はないが、通常、10~1000μmのものが用いられる。
【0018】
一の床版2(1)、他の床版2(2)及び充填材4に含まれる補強繊維の配合量は、前記セメント100重量部に対して0.2~6重量部とすることが好ましい。補強繊維の配合量が少ないと、補強効果も低く、パネル強度も低くなる。補強繊維の配合量が多いほどパネル補強効果においては有利であるものの、補強繊維の配合量が過剰であるとセメント混練物中での分散性が悪くなり、補強繊維が偏在して、パネル強度が不均一になり、却ってパネル強度を低下させるおそれがある。このような観点から、補強繊維の配合量のより好ましい範囲は、セメント100重量部に対して0.4~4重量部である。
【0019】
床版接続構造1は、一の床版2(1)の前方外壁3(f)から隙間4内へ前方鉄筋6(f)が突出し、他の床版2(2)の後方外壁3(b)から隙間4内へ後方鉄筋6(b)が突出する。前方鉄筋6(f)は、Y軸方向(水平方向であって道路長手方向に対する直角方向)に、等ピッチ且つ平行に複数個配設される。前方鉄筋6(f)は、Z軸方向(上下方向)に2段配設される。後方鉄筋6(b)は、Y軸方向に、等ピッチ且つ平行に複数個配設される。後方鉄筋6(b)は、Z軸方向に2段配設される。Y軸方向において、前方鉄筋6(f)と後方鉄筋6(b)とは、交互に配設される。前方鉄筋6(f)と、Y軸方向において隣接する後方鉄筋6(b)と、の距離は一定である。試作した床版接続構造1においては、Y軸方向において、前方鉄筋6(f)は11本(本願における各図に記載した本数は14本)であり、後方鉄筋6(b)は12本(同じく15本)であった。なお、前方鉄筋6(f)及び後方鉄筋6(b)は、表面に、長手方向に複数個形成された節を有する異形鉄筋である。異形鉄筋は、引き抜き力に対する抵抗力を高めることができる。
【0020】
なお、床版接続構造1において、充填材5の材質は、一の床版2(1)及び他の床版2(2)よりも強固である。一方で、一の床版2(1)及び他の床版2(2)と充填材5とは、原料がセメントであるため、親和性が良く、強固に接続され、離隔することがない。すなわち、一の床版2(1)及び他の床版2(2)と充填材5に、垂直荷重を付加しても、一の床版2(1)及び他の床版2(2)と充填材5との接続部が破壊することはない。
【0021】
各部材の強度の具体的な数値は、例えば、圧縮強度において、一の床版2(1)及び他の床版2(2)の場合、40~60N/mmであるのに対して、充填材5の場合、80~120N/mmである。充填材5の圧縮強度は、一の床版2(1)及び他の床版2(2)の圧縮強度に対して、1.3~3.0倍である。例えば、一の床版2(1)及び他の床版2(2)が約50N/mmであるのに対して、充填材5の圧縮強度が約100N/mmであり、充填材5の圧縮強度は、一の床版2(1)及び他の床版2(2)の圧縮強度に対して、約2倍である。
【0022】
一の床版2(1)及び他の床版2(2)を構成する繊維補強コンクリート材は、その軽量化を目的として、多孔質であってもよい。なお、「多孔質」であるとは、例えば、発泡剤や起泡剤等を用いて一の床版2(1)及び他の床版2(2)の内部に独立気泡および連続気泡等の気泡を含ませることを意味する。また、一の床版2(1)及び他の床版2(2)を構成する繊維補強コンクリート材は、その軽量化を目的として、樹脂発泡体をさらに含んでいてもよい。
【0023】
本発明に係る床版接続構造1について、NEXCO試験方法442に基づく疲労耐久性試験を行った。載荷荷重250kN且つ積載回数10万回(疲労耐久年数100年に相当する)の条件で、載荷試験を行った。その結果、供試体へのひび割れは確認されず、漏水試験において供試体下面からの漏水は無かった。すなわち、本発明に係る床版接続構造1によれば、下方向への輪荷重に長年耐久できるという有利な効果が生じる。
【0024】
このような床版接続構造1において、充填材5のX軸方向幅Wは15cmであった。従来は、Wは30~40cm程度であったため、充填材を低減できた。なお、充填材5の最大高さH1は270cmであり、最少高さH2は220cmであった。また、床版接続構造1によれば、前方鉄筋6(f)と後方鉄筋6(b)との位置決めを行うことにより、一の床版2(1)と他の床版2(2)との接続作業を容易に行うことができた。
【0025】
また、床版接続構造1によれば、補強繊維の配合量を考慮して、固化した充填材4の強度が、一の床版2(1)及び他の床版2(2)よりも高く設定される。強度とは、圧縮強度又は曲げ強度等である。このため、車両等の荷重による衝撃は、一の床版2(1)及び他の床版2(2)が僅かに弾性変形して、主として一の床版2(1)及び他の床版2(2)が吸収する。また、一の床版2(1)及び他の床版2(2)の上面の面積が充填材4の上面面積よりも大きいことによっても、車両等の荷重による衝撃は、一の床版2(1)及び他の床版2(2)が僅かに弾性変形して、一の床版2(1)及び他の床版2(2)が吸収する。衝撃に対する垂直方向の面積が大きい程、弾性変形量が大きいからである。
【0026】
また、通常、一の床版2(1)と他の床版2(2)との接続部である充填材5の位置に応力集中が生じる。充填材5の強度を、一の床版2(1)及び他の床版2(2)の強度よりも高くすることにより、集中的に負荷のかかる位置をなくし、全体として応力集中の生じる位置をなくすことができる。このため、破損に対する強度を向上させることができる。
【0027】
図3に、床版接続構造1を形成する床版製品2を示す。床版製品2は、前方外壁3(f)と後方外壁3(b)とを有する。また、床版製品2は、前方鉄筋6(f)と後方鉄筋6(b)とを有する。この床版製品2は、X軸方向に複数個接続することにより、床版接続構造1を形成し、道路等を形成できる。床版製品2の複数個の接続は、基台(図示しない)上で行われる。この時、床版製品2は、貫通孔であるスタッド孔7に配置する締結具(図示しない)によって、基台に固定される。
【0028】
以上、本願発明の床版接続構造について、実施形態を説明したが、本願発明は上述の実施形態には限定されない。例えば、前方鉄筋及び後方鉄筋は、異形鉄筋に限定されず、表面がフラットで節のない鉄筋であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 床版接続構造
2(1) 一の床版
2(2) 他の床版
2(P) 床版製品
3(f) 前方外壁
3(b) 後方外壁
4 隙間
5 充填材
6(f) 前方鉄筋
6(b) 後方鉄筋
7 スタッド孔
図1
図2
図3