(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075329
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】軌道生成装置及び塗布システム
(51)【国際特許分類】
B25J 9/22 20060101AFI20240527BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240527BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
B25J9/22 A
B05C11/10
B05C5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186707
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 一輝
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 智章
(72)【発明者】
【氏名】辻 徳生
(72)【発明者】
【氏名】山辺 貴之
【テーマコード(参考)】
3C707
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
3C707AS13
3C707BS09
3C707CY13
3C707LS14
3C707LS15
3C707LV04
3C707LW03
3C707LW12
3C707MT04
4F041AA01
4F041AA02
4F041AB01
4F041BA05
4F041BA22
4F041BA27
4F041BA38
4F042AA01
4F042AA02
4F042BA08
4F042BA12
4F042CA01
4F042CB02
4F042CB08
4F042CB11
4F042DF01
4F042DH09
4F042ED03
4F042ED10
(57)【要約】
【課題】流動体吐出部から吐出される流動体が流動体吐出部から対象物の表面まで繋がった状態を維持する程度の粘性を有していても、流動体を目標塗布軌跡に沿って対象物の表面に塗布すること。
【解決手段】軌道生成装置10は、時系列モデルを用いて、目標塗布軌跡に対応する塗布ノズル30の軌道を生成する。時系列モデルは、塗布ノズル30の実際の軌道と、流動体38の実際の塗布軌跡とに基づいて学習されたものであり、流動体38の粘性による挙動を考慮して塗布ノズル30の軌道と流動体38の塗布軌跡との関係を示すものである。従って、学習された時系列モデルを用いることによって、目標塗布軌跡に沿って流動体38を塗布することが可能な塗布ノズル38の軌道を生成することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動体(38)を目標塗布軌跡に沿って対象物(50)の表面に塗布するための、前記流動体を吐出する流動体吐出部(30)の軌道を生成する軌道生成装置であって、
前記流動体吐出部が吐出する前記流動体は、前記流動体吐出部から前記対象物の表面まで繋がった状態を維持する粘性を有し、
前記流動体吐出部の実際の軌道と、前記流動体の実際の塗布軌跡とに基づいて学習された、前記流動体の粘性による挙動を考慮して前記流動体吐出部の軌道と前記流動体の塗布軌跡との関係を示す時系列モデルを記憶する記憶部(12、112)と、
前記目標塗布軌跡が与えられると、前記時系列モデルを用いて、前記目標塗布軌跡に対応する前記流動体吐出部の軌道を生成する軌道生成部(14、15、114)と、を備える軌道生成装置。
【請求項2】
前記時系列モデルは、少なくとも、前記流動体吐出部の予定軌道を代表する複数の予定軌道位置と、前記対象物の表面に塗布された前記流動体の塗布軌跡を代表する複数の塗布軌跡位置とから、前記流動体吐出部から吐出された前記流動体が前記対象物の表面に塗布される塗布位置を推定するものである、請求項1に記載の軌道生成装置。
【請求項3】
前記軌道生成部は、
前記目標塗布軌跡が与えられると、前記目標塗布軌跡に相当する前記流動体吐出部の軌道を定める軌道設定部(14、S210)と、
前記複数の予定軌道位置及び前記複数の塗布軌跡位置を、前記軌道設定部によって定められた前記流動体吐出部の軌道及び前記対象物の表面に塗布された前記流動体の塗布軌跡に沿って更新しつつ、前記時系列モデルによる前記流動体の塗布位置の推定を繰り返すことによって、前記流動体吐出部を前記軌道設定部によって定められた軌道に沿って移動させたときに得られる前記流動体の塗布軌跡を予測する塗布軌跡予測部(15、S220)と、
前記塗布軌跡予測部によって予測された予測塗布軌跡と前記目標塗布軌跡との差異が所定の許容範囲を超えている場合、前記差異が小さくなるように前記流動体吐出部の軌道を修正する軌道修正部(14、S240)と、
前記予測塗布軌跡と前記目標塗布軌跡との差異が所定の許容範囲に収まった場合、前記予測塗布軌跡を求める際に用いた前記流動体吐出部の軌道を、前記目標塗布軌跡に対応する前記流動体吐出部の軌道として出力する軌道出力部(14、S250)と、を備える請求項2に記載の軌道生成装置。
【請求項4】
前記時系列モデルは、少なくとも、前記対象物の表面に塗布された前記流動体の塗布軌跡に続いて、前記流動体が塗布されるべき前記目標塗布軌跡を代表する複数の塗布軌跡位置と、前記流動体吐出部の過去の軌道を代表する複数の過去軌道位置とから、前記流動体吐出部が移動すべき位置を推定するものである、請求項1に記載の軌道生成装置。
【請求項5】
前記軌道生成部は、前記複数の塗布軌跡位置及び前記複数の過去軌道位置を、前記目標塗布軌跡及び前記流動体吐出部の過去の軌道に沿って更新しつつ、前記時系列モデルによる前記流動体吐出部が移動すべき位置の推定を繰り返すことによって、前記目標塗布軌跡に対応する前記流動体吐出部の軌道を予測し、予測した軌道を出力する軌道出力部(S410、S420)を備える、請求項4に記載の軌道生成装置。
【請求項6】
前記時系列モデルは、前記流動体の塗布軌跡が所定のパターン形状となるように、前記流動体吐出部から前記流動体を吐出しつつ前記流動体吐出部を移動させたときの前記流動体吐出部の軌道と、実際に得られた前記流動体の塗布軌跡を学習データとして学習されるものであり、
前記学習データは、前記流動体吐出部を移動させたときの前記流動体吐出部の軌道と、実際に得られた前記流動体の塗布軌跡に対して、反転、回転、縮小、拡大の少なくとも1つの数学的処理により水増しされる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の軌道生成装置。
【請求項7】
前記時系列モデルは、前記流動体の塗布軌跡が所定のパターン形状となるように、前記流動体吐出部から前記流動体を吐出しつつ前記流動体吐出部を移動させたときの前記流動体吐出部の軌道と、実際に得られた前記流動体の塗布軌跡を学習データとして学習されるものであり、
前記学習データは、前記流動体吐出部の位置又は前記流動体の塗布位置を原点とする2次元座標における位置に変換され、前記原点は、前記時系列モデルによって位置の推定が繰り返される毎に更新される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の軌道生成装置。
【請求項8】
前記2次元座標の一方の軸の向きは、前記流動体吐出部の位置の移動方向又は前記流動体の塗布位置の移動方向に揃えられる、請求項7に記載の軌道生成装置。
【請求項9】
前記軌道生成部によって生成された前記目標塗布軌跡に対応する前記流動体吐出部の軌道に従って、前記流動体吐出部を移動させたときの実際の前記流動体の塗布軌跡を検出する検出部(20、S320)と、
前記検出部によって検出された実際の塗布軌跡と、前記流動体吐出部の軌道を学習データとして、所定の更新条件が満たされたときに前記時系列モデルの更新を指示する更新指示部(S340)と、を備える請求項1乃至5のいずれか1項に記載の軌道生成装置。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の軌道生成装置(10、110)と、
前記流動体吐出部(30)と、
前記流動体吐出部から前記流動体(38)を吐出させつつ、前記流動体吐出部を前記軌道生成装置によって生成された軌道に沿って移動させる制御部(20)と、を備える塗布システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流動体を目標塗布軌跡に沿って対象物の表面に塗布するための、前記流動体を吐出する流動体吐出部の軌道を生成する軌道生成装置、及び当該軌道生成装置を備えた塗布システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高粘性流体(例えば、接着剤)の塗布ノズルの塗布速度の変化(遅くなる、又は早くなる)を検出し、その検出値に基づいて吐出量を制御する吐出量制御装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の吐出量制御装置によれば、例えば、コーナー塗布部において塗布ノズルの塗布速度が遅くなるため、直線塗布部からコーナー塗布部へ移る際に接着剤の吐出量を少なくし、コーナー塗布部から直線塗布部へ移る際には接着剤の吐出量を多くする。その結果、全塗布部に渡って、接着剤塗布の過不足を無くすことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、塗布ノズルなどの流動体吐出部が吐出する流動体が、流動体吐出部から対象物の表面まで繋がった状態を維持する程度の粘性を有する場合、目標とする塗布軌跡通りに流動体吐出部の軌道を定めるだけでは、必ずしも流動体を目標塗布軌跡に沿って塗布することができない場合がある。その理由は、流動性吐出部から吐出された流動体の塗布位置は、吐出された後の流動体吐出部の動きの影響を受けるためである。例えば、流動体吐出部が、目標塗布軌跡に沿って、直線軌道から曲線軌道へと軌道を変化させた場合、曲線軌道に沿って移動する流動体吐出部の影響によって、吐出された流動体の塗布軌跡は、目標塗布軌跡よりも内回りすることがある。
【0006】
本開示は、上述した点に鑑みてなされたものであり、流動体吐出部から吐出される流動体が流動体吐出部から対象物の表面まで繋がった状態を維持する程度の粘性を有していても、流動体を目標塗布軌跡に沿って対象物の表面に塗布することが可能な流動体吐出部の軌道を生成することができる軌道生成装置を提供することを第1の目的とする。さらに、当該軌道生成装置を備えた塗布システムを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記第1の目的を達成するために、本開示による軌道生成装置は、
流動体(38)を目標塗布軌跡に沿って対象物(50)の表面に塗布するための、流動体を吐出する流動体吐出部(30)の軌道を生成する軌道生成装置であって、
流動体吐出部が吐出する流動体は、流動体吐出部から対象物の表面まで繋がった状態を維持する粘性を有し、
流動体吐出部の実際の軌道と、流動体の実際の塗布軌跡とに基づいて学習された、流動体の粘性による挙動を考慮して流動体吐出部の軌道と流動体の塗布軌跡との関係を示す時系列モデルを記憶する記憶部(12、112)と、
目標塗布軌跡が与えられると、時系列モデルを用いて、目標塗布軌跡に対応する流動体吐出部の軌道を生成する軌道生成部(14、15、114)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このように、本開示による軌道生成装置は、時系列モデルを用いて、目標塗布軌跡に対応する流動体吐出部の軌道を生成する。時系列モデルは、流動体吐出部の実際の軌道と、流動体の実際の塗布軌跡とに基づいて学習されたものであり、流動体の粘性による挙動を考慮して流動体吐出部の軌道と流動体の塗布軌跡との関係を示すものである。従って、学習された時系列モデルを用いることによって、目標塗布軌跡に沿って流動体を塗布することが可能な流動体吐出部の軌道を生成することができる。
【0009】
また、上記第2の目的を達成するために、本開示による塗布システムは、
上述した軌道生成装置(10、110)と、
流動体吐出部(30)と、
流動体吐出部から流動体(38)を吐出させつつ、流動体吐出部を軌道生成装置によって生成された軌道に沿って移動させる制御部(20)と、を備える。
【0010】
上記構成により、本開示による塗布システムは、流動体が流動体吐出部から対象物の表面まで繋がった状態を維持する程度の粘性を有していても、流動体を目標塗布軌跡に沿って対象物の表面に塗布することができる。
【0011】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0012】
また、上記した本開示の特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る軌道生成装置を備えた塗布システムの全体構成を概略的に示した構成図である。
【
図2】軌道生成装置がプログラムの実行により発揮する各種の機能を示すブロック図である。
【
図3】塗布ノズルの予定軌道に対する流動体の塗布軌跡を予測する具体的な手法の一例を説明するための説明図である。
【
図4】時系列モデル学習部において実行される、時系列モデルの学習のための処理を示すフローチャートである。
【
図5】得られた学習データに対して数学的処理を施すことにより、学習データを水増しする一例を示す図である。
【
図6】(a)は、学習データの位置の正規化処理を説明するための説明図であり、(b)は、学習データの角度の正規化処理を説明するための説明図である。
【
図7】軌道生成装置において実行される、時系列モデルを用いて、目標塗布軌跡に対応するノズル軌道を生成するための処理を示すフローチャートである。
【
図8】(a)流動体の塗布軌跡が、塗布ノズルの軌道からずれた一例を示す図であり、(b)は、予測される塗布軌跡を目標塗布軌跡に近づけるように、塗布ノズルの軌道を修正した一例を示すである。
【
図9】制御装置において実行される、軌道生成装置によって生成された塗布ノズルの軌道に沿って、塗布ノズルが移動するように、ロボットを制御するための処理を示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態において用いる時系列モデルを説明するための説明図である。
【
図11】第2実施形態に係る軌道生成装置がプログラムの実行により発揮する各種の機能を示すブロック図である。
【
図12】第2実施形態に係る軌道生成装置において実行される、時系列モデルを用いて、目標塗布軌跡に対応するノズル軌道を生成するための処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本開示の好ましい実施形態について説明する。なお、同一又は類似の構成については、複数の図面に渡って同じ参照番号を付与することにより、説明を省略する場合がある。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る軌道生成装置10を備えた塗布システム100の全体構成を概略的に示した構成図である。本実施形態に係る塗布システム100は、ワークなどの対象物50の表面に、目標とする塗布軌跡通りに接着剤などの流動体38を塗布するものである。流動体38は、
図1に示すように、流動体吐出部をなす塗布ノズル30から対象物50の表面まで繋がった状態を維持する粘性を有する。なお、本実施形態に係る塗布システム100が塗布する流動体38は、接着剤に限られず、上述したような粘性を有する流動体38であれば本実施形態による塗布システム100を適用することができる。
【0016】
図1に示すように、塗布システム100は、軌道生成装置10、制御装置20、塗布ノズル30、ホース32、タンク34、ポンプ36、及びロボット40などから構成される。
【0017】
塗布ノズル30は、その先端から対象物50に向けて流動体38を吐出するものである。塗布ノズル30の内部には、流動体38の塗布流量を調節する調節弁が設けられている。本実施形態では、塗布ノズル30から一定流量の流動体38が吐出されるように、調節弁によって流動体38の流量が調節される。また、調節弁は、塗布ノズル30からの流動体38の吐出を開始したり、終了したりすることが可能である。
【0018】
タンク34は、流動体38の粘性を維持した状態で流動体38を貯蔵する。タンク34には、タンク34内の流動体38を塗布ノズル30に向けて送出するポンプ36が設けられている。ポンプ36の駆動により、流動体38がタンク34からホース32を介して塗布ノズル30に供給される。
【0019】
ロボット40は、塗布ノズル30が対象物50の表面に対して垂直な状態を維持するように、ロボットアームの先端に塗布ノズル30を支持している。ロボット40は、塗布ノズル30から対象物50の表面に吐出される流動体38の塗布軌跡が、指示された目標塗布軌跡に一致するように、塗布ノズル30を移動させる。この際、例えば、ロボット40は、対象物50の表面からの塗布ノズル30の高さを一定に保ちながら、等速度で塗布ノズル30を移動させる。なお、以下の説明において、塗布ノズル30の移動により描かれる軌道をノズル軌道と呼ぶこととする。ただし、塗布ノズル30は、ロボットアームによって支持されているので、ノズル軌道は、ロボット軌道と言い換えることもできる。
【0020】
制御装置20は、例えば、CPU、ROM、RAM等を含む公知のコンピュータを用いて構成される。制御装置20は、例えばROMに格納されたプログラムを実行することにより、ロボット40の各種アクチュエータに対して制御信号を出力して、ロボット40の姿勢や移動方向を制御する。具体的には、制御装置20は、軌道生成装置10によって生成されたノズル軌道に沿って、塗布ノズル30が移動するように、ロボット40を制御する。また、制御装置20は、塗布ノズル30からの流動体38の吐出の開始、及び停止も制御する。制御装置20における具体的な制御処理は、後に詳細に説明される。
【0021】
軌道生成装置10は、例えば、制御装置20と同様に、CPU、ROM、RAM等を含む公知のコンピュータを用いて構成される。軌道生成装置10は、例えばROMに格納されたプログラムを実行することにより、後述する時系列モデルを用いて、目標塗布軌跡に対応するノズル軌道を生成して、制御装置20に提供する。
【0022】
図2は、軌道生成装置10がプログラムの実行により発揮する各種の機能を示すブロック図である。
図2に示すように、軌道生成装置10は、時系列モデル学習部11、時系列モデル記憶部12、目標塗布軌跡取得部13、ロボット軌道生成部14、及び塗布軌跡生成部15を含む。ただし、時系列モデル学習部11は、軌道生成装置10とは異なる装置に実装し、異なる装置において学習した時系列モデル(モデルパラメータ)を、時系列モデル記憶部12に記憶するように構成しても良い。
【0023】
時系列モデル学習部11は、流動体38の塗布軌跡が所定のパターン形状となるように、塗布ノズル30から流動体38を吐出しつつ塗布ノズル30を移動させたときの塗布ノズル30の軌道と、実際に得られた流動体38の塗布軌跡を学習データとして、時系列モデルのモデルパラメータを学習する。所定のパターンは、例えば、直線軌道と曲線軌道との組み合わせからなる。また、曲線軌道の曲線半径が異なる複数種類のパターン形状によって多数の学習データを得ることにより、時系列モデル(モデルパラメータ)の学習精度が向上する。
【0024】
本実施形態では、時系列モデルとして、少なくとも、塗布ノズル30の予定軌道を代表する複数の予定軌道位置と、対象物50の表面に塗布された流動体38の塗布軌跡を代表する複数の塗布軌跡位置とから、塗布ノズル30から吐出された流動体38が対象物50の表面に塗布される塗布位置を推定する時系列モデルを用いる。以下、時系列モデルについて詳細に説明する。
【0025】
時系列モデルは、例えば、
図3(a)に示すように、塗布ノズル30の現在の位置X
0からの予定軌道を代表する3つの予定軌道位置X
1、X
2、X
3と、対象物50の表面に塗布された流動体38の塗布軌跡を代表する、最新の塗布軌跡位置Y
1を含む3つの塗布軌跡位置Y
1、Y
2、Y
3とから、下記の数式1に従って流動体38が塗布される塗布位置Y
0を推定するように構成される。
【0026】
【数1】
上記の数式1において、αは切片、β
1~β
3は塗布ノズル30の予定軌道位置X
1、X
2、X
3に対する重み、γ
1~γ
3は塗布軌跡位置Y
1、Y
2、Y
3に対する重み、εは誤差である。これらα、β
1~β
3、γ
1~γ
3、εをまとめてモデルパラメータと呼ぶ。
【0027】
図4は、時系列モデル学習部11において実行される、時系列モデルの学習のための処理を示すフローチャートである。なお、時系列モデルを学習することは、時系列モデルのモデルパラメータを推定することと等価である。
【0028】
最初のステップS100では、実際に塗布ノズル30を移動させたときの塗布ノズル30の軌道と、その際に得られた流動体38の塗布軌跡とを含む学習データを、例えば制御装置20から取得する。続くステップS110において、学習データに基づいて、時系列モデルのモデルパラメータを決定する。モデルパラメータは、学習データに基づいて、最小二乗法などを用いた最尤推定により推定することができる。その結果、推定されたモデルパラメータを適用した時系列モデルは、学習データにおける塗布ノズル30の軌道と、流動体38の塗布軌跡との関係を最も確からしく表すものとなる。そして、ステップS120において、学習された時系列モデル、すなわち、推定(決定)されたモデルパラメータは、時系列モデル記憶部12に保存される。
【0029】
なお、流動体38の粘性や、対象物50の表面から塗布ノズル30までの高さなどが変化すると、流動体38の粘性による挙動も変化し、その結果、流動体38の塗布位置も変化する。このため、時系列モデルは、流動体38の種類毎に、及び/又は、対象物50の表面からの塗布ノズル30の高さの設定値や塗布ノズル30の移動速度などの塗布条件が変更される毎に、複数種類の時系列モデルを学習し、時系列モデル記憶部12に記憶しても良い。この場合、流動体38の種類や、塗布ノズル30の高さや移動速度などに応じて、最適な時系列モデルを特定し、その特定した時系列モデルを時系列モデル記憶部12から読み出すようにすれば良い。
【0030】
ここで、学習データの数が多いほど、時系列モデルの学習精度、言い換えれば、モデルパラメータの推定精度を高めることができる。しかしながら、多くの学習データを得るために、塗布システム100において、実際に流動体38の塗布を繰り返すことは効率的な手法とは言えない。そのため、本実施形態では、実際に塗布ノズル30を移動させたときの塗布ノズル30の軌道と、その際に得られた流動体38の塗布軌跡とを含む学習データに対して、反転、回転、縮小、拡大の少なくとも1つの数学的処理を施すことにより、学習データを水増しする。
【0031】
例えば、実際に塗布システム100を稼働し、塗布ノズル30を所定のパターンに従って移動させつつ、塗布ノズル30から流動体38を吐出させることにより、
図5(a)に示すような、塗布ノズル30のノズル軌道と、実際の流動体38の塗布軌跡とが学習データ1として得られたとする。この学習データ1に対して、例えば、Y軸周りに反転する数学的処理を施すことにより、
図5(b)に示すように、学習データ1とは異なる回転方向の学習データ2を得ることができる。このように、学習データに対して上述した数学的処理を施すことにより、塗布システム100を実際に稼働させることなく、多くの学習データを得ることが可能になる。
【0032】
さらに、学習データに関しては、塗布ノズル30のノズル軌道と、流動体38の塗布軌跡とを含む学習データに対して、位置及び/又は角度の正規化処理を施すことが好ましい。
【0033】
位置の正規化処理は、例えば、
図6(a)に示すように、時系列モデルのモデルパラメータを推定するための、塗布ノズル30の予定軌道位置及び流動体38の塗布軌跡位置を、塗布軌跡上の点である、最新の塗布位置を原点とする2次元座標における位置に変換することを意味する。なお、2次元座標の原点とする点は、塗布軌跡上の最新の塗布位置に限られない。例えば、現在のノズル位置を原点としても良いし、以前の塗布位置やノズル位置を原点としても良い。ただし、原点は、時系列モデルによって新たな塗布位置の推定が繰り返される毎に、時系列モデルのモデルパラメータを推定するための塗布ノズル30の予定軌道位置及び流動体38の塗布軌跡位置と原点との位置関係が維持されるように更新される。
【0034】
角度の正規化処理は、例えば、
図6(b)に示すように、2次元座標の一方の軸の向き(
図6(b)ではx軸の向き)を、原点とする位置の移動方向(すなわち、塗布ノズル30の位置の移動方向又は流動体38の塗布位置の移動方向)に揃えることを意味する。流動体38の塗布位置の移動方向は、例えば、
図5(b)に示すように、原点とする塗布位置と、その直前の塗布位置とを結ぶ直線により規定することができる。塗布ノズル30の位置を原点とする場合には、原点とするノズル位置と、その直前のノズル位置とを結ぶ直線により塗布ノズル30の位置の移動方向を規定すれば良い。
【0035】
このような位置及び/又は角度の正規化処理を行うことにより、学習データの位置依存性及び/又は角度依存性がなくなり、ノズル軌道及び/又は塗布軌跡の形状に依存することなく学習データの値を均等に扱うことが可能となるため、時系列モデルの学習精度を高めることができるようになる。
【0036】
このようにして学習された時系列モデルを用いることで、塗布軌跡生成部15は、塗布ノズル30の予定軌道に対する流動体38の塗布軌跡を求めることができる。以下、
図3(a)~
図3(c)を参照して、塗布ノズル30の予定軌道に対する流動体38の塗布軌跡を予測する具体的な手法の一例が説明される。
【0037】
図3(a)は、時刻t=0における、推定対象となる流動体38の塗布位置Y
0、塗布ノズル30の現在位置X
0、3つの予定軌道位置X
1、X
2、X
3、及び3つの塗布軌跡位置Y
1、Y
2、Y
3の位置関係を示している。
図3(b)は、時刻t=0から所定時間が経過、もしくはノズル位置が所定距離移動した時刻t=1における、推定対象となる流動体38の塗布位置Y
0、塗布ノズル30の現在位置X
0、3つの予定軌道位置X
1、X
2、X
3、及び3つの塗布軌跡位置Y
1、Y
2、Y
3の位置関係を示している。
図3(c)は、時刻t=1から所定時間が経過、もしくはノズル位置が所定距離移動した時刻t=2における、推定対象となる流動体38の塗布位置Y
0、塗布ノズル30の現在位置X
0、3つの予定軌道位置X
1、X
2、X
3、及び3つの塗布軌跡位置Y
1、Y
2、Y
3の位置関係を示している。
【0038】
図3(a)~
図3(c)に示すように、本実施形態では、塗布軌跡生成部15は、時系列モデルを用いて、所定時間が経過する毎に、又はノズル位置が所定距離移動する毎に、流動体38の塗布位置Y
0の推定を繰り返し行う。この際、塗布軌跡生成部15は、流動体38の塗布位置Y
0の推定を繰り返す度に、時系列モデルに代入する複数の予定軌道位置X
1、X
2、X
3及び複数の塗布軌跡位置Y
1、Y
2、Y
3が、それぞれ、塗布ノズル30の予定軌道及び推定された流動体38の塗布位置Y
0をなぞるように予測された塗布軌跡に沿って更新される。
【0039】
このようにして、塗布軌跡生成部15が流動体38の塗布位置Y0の推定を繰り返すことにより、塗布軌跡生成部15は、塗布ノズル30を予定軌道に沿って移動させたときに得られる流動体38の塗布軌跡を予測することができる。
【0040】
なお、時系列モデルに含まれる、時系列データとしての予定軌道位置X1、X2、X3、及び塗布軌跡位置Y1、Y2、Y3の数は3つに限られない。すなわち、予定軌道位置及び塗布軌跡位置の数は、例えば、2つでも良いし、4つ以上であっても良い。また、予定軌道位置の数と塗布軌跡位置の数は、同じであっても良いし、異なっていても良い。さらに、時系列モデルには、上述した時系列データやモデルパラメータ以外の変数が含まれていても良い。
【0041】
上述した時系列モデルは、塗布ノズル30や流動体38の物理的な挙動を数式化する必要が無いため、モデル化を容易に行うことができる。さらに、未学習の挙動に関しても、時系列モデルのロバスト性によって対応することが可能との利点がある。
【0042】
次に、軌道生成装置10において実行される、時系列モデルを用いて、目標塗布軌跡に対応するノズル軌道を生成するための処理を、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0043】
最初のステップS200では、目標塗布軌跡取得部13が、対象物50の表面に塗布される流動体38の目標塗布軌跡を取得する。目標塗布軌跡は、例えば、作業者によって軌道生成装置10に入力される。
【0044】
ステップS210では、ロボット軌道生成部14が、取得した目標塗布軌跡に一致するように、初期的に塗布ノズル30の軌道(すなわち、ロボット軌道)を設定する。
【0045】
ステップS220では、塗布軌跡生成部15が、時系列モデル記憶部12に保存されている時系列モデルを用いて、塗布ノズル30が流動体38を吐出しつつ、設定された軌道に沿って移動したときに得られる流動体38の塗布軌跡を予測する。この流動体38の塗布軌跡の予測に際して、上述したように、時系列モデルに代入する複数の予定軌道位置X1、X2、X3及び複数の塗布軌跡位置Y1、Y2、Y3を、塗布ノズル30の設定された軌道及び流動体38の塗布軌跡に沿って更新しつつ、複数の流動体38の塗布位置が推定される。そして、流動体38の塗布軌跡は、推定された複数の流動体38の塗布位置をなぞるように予測される。
【0046】
ステップS230では、ロボット軌道生成部14が、塗布軌跡生成部15によって予測された流動体38の塗布軌跡と、取得された目標塗布軌跡とを対比して、予測された塗布軌跡と目標塗布軌跡との差異が所定の許容範囲内に収まっているか否かを判定する。
【0047】
ここで、塗布ノズル30が吐出する流動体38が、塗布ノズル30から対象物50の表面まで繋がった状態を維持する程度の粘性を有する場合、流動体38の塗布軌跡が、塗布ノズル30の軌道からずれる場合がある。例えば、
図8(a)に示すように、塗布ノズル30が、直線軌道から曲線軌道を経て再び直線軌道へと軌道を変化させる場合、塗布軌跡は、塗布ノズル30の曲線軌道部分において、ノズル軌道に対して内回りする場合がある。これは、塗布ノズル30から吐出された流動体38が塗布ノズル30に繋がっているため、曲線軌道に沿って移動する塗布ノズル30の影響によって、吐出された流動体38が塗布ノズル30の曲線軌道の内側に引っ張られるためである。従って、目標塗布軌跡に一致するように設定された塗布ノズル30の軌道によって得られる塗布軌跡は、必ずしも目標塗布軌跡に一致するものとはならない場合がある。
【0048】
そのため、上述したステップS230において、予測された塗布軌跡と目標塗布軌跡との差異が所定の許容範囲を超えていると判定された場合、ステップS240に進んで、ロボット軌道生成部14が、予測された塗布軌跡と目標塗布軌跡との差異が小さくなるように、言い換えれば、予測される塗布軌跡が目標塗布軌跡に近づくように、塗布ノズル30の軌道を修正する。そして、塗布軌跡生成部15は、ロボット軌道生成部14から修正されたノズル軌道を取得し、ステップS220の処理において、修正された塗布ノズル30の軌道により得られる塗布軌跡を予測する。
【0049】
例えば、
図8(a)に示すように、予測される塗布軌跡が、塗布ノズル30の曲線軌道部分において、ノズル軌道に対して内回りする場合、予測される塗布軌跡がより外側を通るように、塗布ノズル30の軌道を修正する。具体的には、
図8(b)に示すように、塗布ノズル30の軌道を、初期の軌道よりも外回りするように修正する。このような塗布ノズル30の軌道の修正により、
図8(b)に示すように、予測される塗布軌跡を目標塗布軌跡に近づけることができる。
【0050】
S230において、ロボット軌道生成部14が、予測された塗布軌跡と目標塗布軌跡との差異が所定の許容範囲内に収まっていると判定した場合、ステップS250において、
予測された塗布軌跡を求める際に用いた塗布ノズル30の軌道を、目標塗布軌跡に対応する塗布ノズル30の軌道(ロボット軌道)として決定する。決定された塗布ノズル30の軌道は、制御装置20に出力される。
【0051】
次に、制御装置20において実行される、軌道生成装置10によって生成された塗布ノズル30の軌道に沿って、塗布ノズル30が移動するように、ロボット40を制御する処理を、
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0052】
最初のステップS300では、制御装置20は、目標塗布軌跡に対応する塗布ノズル30の軌道を軌道生成装置10から取得する。続くステップS310では、制御装置20は、取得した塗布ノズル30の軌道に基づいて、塗布ノズル30の軌道が取得した軌道に沿うように、ロボット40を駆動するための制御信号を出力する。制御装置20は、塗布ノズル30を、取得したノズル軌道に沿うように移動させる間、塗布ノズル30から一定流量の流動体38が吐出されるように、塗布ノズル30の調節弁を制御する。その結果、通常であれば、対象物50に塗布される流動体38の塗布軌跡は、目標塗布軌跡に一致する。
【0053】
しかしながら、例えば、流動体38の種類が同じであっても、流動体38の劣化や、温度変化、湿度変化などの環境変化などによって、塗布ノズル30を、取得したノズル軌道に沿うように移動させてた場合であっても、実際の流動体38の塗布軌跡は、目標塗布軌跡に一致しないことが起こり得る。
【0054】
このような課題に対処するため、ステップS320では、対象物50の表面に実際に塗布された流動体38の塗布軌跡を、例えばカメラなどの検出器を用いて検出する。そして、ステップS330において、実際の塗布軌跡と目標塗布軌跡とのずれの大きさが所定の閾値以上であるか否かを判定する。この判定処理において、実際の塗布軌跡と目標塗布軌跡とのずれの大きさが所定の閾値以上と判定されると、ステップS340の処理が実行される。ステップS340では、制御装置20は、ロボット40の制御に用いたノズル軌道と、実際の塗布軌道を学習データに追加するように学習データを更新すること、及び更新された学習データに基づいて時系列モデルの再学習を行って、時系列モデルを更新することを軌道生成装置10の時系列モデル学習部11に指示する。
【0055】
これにより、流動体38の劣化や、温度変化、湿度変化などの環境変化などが生じた場合でも、時系列モデルの更新によって時系列モデルを環境変化などに適応させることができる。従って、更新された時系列モデルを用いることにより、目標塗布軌跡に一致するように流動体38を対象物50に塗布することが可能になる。
【0056】
なお、ステップS320~S340の処理は、塗布システム100の稼働の開始から所定期間だけ実行しても良い。塗布システム100の稼働開始時において、環境変化などの影響による目標塗布軌跡と実際の塗布軌跡とのずれが生じていなければ、その後の塗布システム100の稼働中において、環境変化などの影響によって、目標塗布軌跡と実際の塗布軌跡とのずれが生じる可能性は低いためである。ただし、塗布システム100の稼働中、継続的にステップS320~S340の処理を実行しても良い。
【0057】
さらには、塗布システム100の稼働の開始から所定期間は、目標塗布軌跡と実際の塗布軌跡とのずれが生じているか否かによらず、学習データの取得期間とし、この期間に取得した学習データを追加した学習データに基づいて、時系列モデルを更新しても良い。
【0058】
このように、時系列モデルの更新を指示するための所定の更新条件として、目標塗布軌跡と実際の塗布軌跡との間にずれが生じたことや、塗布システム100が稼働を開始したことなどを採用することができる。
【0059】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態に係る軌道生成装置110を備えた塗布システム100について説明する。なお、本実施形態に係る塗布システム100の全体構成は、第1実施形態に係る塗布システム100の全体構成と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
上述した第1実施形態では、時系列モデルとして、少なくとも、塗布ノズル30の予定軌道を代表する複数の予定軌道位置と、対象物50の表面に塗布された流動体38の塗布軌跡を代表する複数の塗布軌跡位置とから、塗布ノズル30から吐出された流動体38が対象物50の表面に塗布される塗布位置を推定する時系列モデルを用いていた。
【0061】
それに対して、本実施形態では、時系列モデルとして、
図10に示すように、少なくとも、対象物50の表面に塗布された流動体38の塗布軌跡に続いて、流動体38が塗布されるべき目標塗布軌跡を代表する複数の塗布軌跡位置と、塗布ノズル30の最も新しい過去軌道位置を含む過去の軌道を代表する複数の過去軌道位置とから、塗布ノズル30が移動すべき位置を推定する時系列モデルを用いる。
【0062】
そして、このような時系列モデルを用いて、
図11に示すロボット軌道生成部114が、所定時間が経過する毎に、又は所定距離毎に、塗布ノズル30が移動すべき位置の推定を繰り返し行う。この際、ロボット軌道生成部114は、塗布ノズル30が移動すべき位置の推定を繰り返す度に、時系列モデルに代入する複数の塗布軌跡位置及び複数の過去軌道位置が、それぞれ、目標塗布軌跡及び過去のノズル軌道に沿って更新される。
【0063】
このようにして、ロボット軌道生成部114が、塗布ノズル30が移動すべき位置の推定を繰り返すことにより、ロボット軌道生成部114は、目標塗布軌跡に基づいて、当該目標塗布軌跡を得るための塗布ノズル30の軌道を予測することができる。なお、第2実施形態の軌道生成装置110以外の構成及びそれぞれの機能は、第1実施形態と同様である。
【0064】
図11は、本実施形態に係る軌道生成装置110がプログラムの実行により発揮する各種の機能を示すブロック図である。
図11に示すように、軌道生成装置110は、時系列モデル学習部111、時系列モデル記憶部112、目標塗布軌跡取得部113、及びロボット軌道生成部114を含む。本実施形態に係る軌道生成装置110は、上述したように、ロボット軌道生成部114が、目標塗布軌跡から直接的に塗布ノズル30の軌道を推定する。このため、第2実施形態に係る軌道生成装置110には、第1実施形態に係る軌道生成装置10の塗布軌跡生成部15に相当する構成は含まれない。
【0065】
なお、時系列モデル学習部111は、第1実施形態に係る軌道生成装置10の時系列モデル学習部11と同様に、流動体38の塗布軌跡が所定のパターン形状となるように、塗布ノズル30から流動体38を吐出しつつ塗布ノズル30を移動させたときの塗布ノズル30の軌道と、実際に得られた流動体38の塗布軌跡を学習データとして、時系列モデルのモデルパラメータを学習する。学習された時系列モデル(モデルパラメータ)は、時系列モデル記憶部112に保存される。
【0066】
ただし、第2実施形態の時系列モデルは、出力が、塗布ノズル30が移動すべき位置であり、入力される時系列データが、対象物50の表面に塗布された流動体38の塗布軌跡に続いて、流動体38が塗布されるべき目標塗布軌跡を代表する複数の塗布軌跡位置、及び塗布ノズル30の最も新しい過去軌道位置を含む過去の軌道を代表する複数の過去軌道位置である点が、第1実施形態の時系列モデルと異なる。
【0067】
次に、第2実施形態に係る軌道生成装置110において実行される、時系列モデルを用いて、目標塗布軌跡に対応するノズル軌道を生成するための処理を、
図12のフローチャートを参照して説明する。
【0068】
最初のステップS400では、目標塗布軌跡取得部113が、対象物50の表面に塗布される流動体38の目標塗布軌跡を取得する。目標塗布軌跡は、例えば、作業者によって軌道生成装置110に入力される。
【0069】
ステップS410では、ロボット軌道生成部114が、時系列モデル記憶部112に保存されている時系列モデルを用いて、取得した目標塗布軌跡に対応する塗布ノズル30の軌道を予測する。この塗布ノズル30の軌道の予測に際して、ロボット軌道生成部114は、上述したように、時系列モデルに代入する複数の塗布軌跡位置及び複数の過去軌道位置を、それぞれ、目標塗布軌跡及び過去のノズル軌道に沿って更新しつつ、複数の塗布ノズル30が移動すべき位置を推定する。取得した目標塗布軌跡に対応する塗布ノズル30の軌道は、推定された複数の塗布ノズル30が移動すべき位置をなぞるように予測される。
【0070】
ステップS420では、ロボット軌道生成部114が、予測した塗布ノズル30の軌道を、目標塗布軌跡に対応するノズル軌道として決定し、制御装置20へ出力する。
【0071】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は説明した実施形態になんら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0072】
例えば、軌道生成装置10、110、及び/又は制御装置20を構成するコンピュータは、コンピュータプログラムによって一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを有する専用コンピュータにより実現されてもよい。あるいは、軌道生成装置10、110、及び/又は制御装置20を構成するコンピュータは、専用ハードウエア論理回路により実現されてもよい。もしくは、軌道生成装置10、110、及び/又は制御装置20を構成するコンピュータは、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウエア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。ハードウエア論理回路は、例えば、ASIC、FPGAである。
【0073】
コンピュータプログラムを記憶する記憶媒体はROMに限られない。各種プログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に記憶されていればよい。たとえば、フラッシュメモリに上記プログラムが記憶されていてもよい。さらに、記憶媒体の形態は、適宜変更されてよい。こうした記憶媒体は、回路基板上に設けられた構成に限定されず、光学ディスク、ハードディスクドライブ、又はメモリカード等であってもよい。
【0074】
(付記)
最後に、この明細書には、以下に列挙する複数の技術的思想と、それらの複数の組み合わせが開示されている。
【0075】
(技術的思想1)
流動体(38)を目標塗布軌跡に沿って対象物(50)の表面に塗布するための、前記流動体を吐出する流動体吐出部(30)の軌道を生成する軌道生成装置であって、
前記流動体吐出部が吐出する前記流動体は、前記流動体吐出部から前記対象物の表面まで繋がった状態を維持する粘性を有し、
前記流動体吐出部の実際の軌道と、前記流動体の実際の塗布軌跡とに基づいて学習された、前記流動体の粘性による挙動を考慮して前記流動体吐出部の軌道と前記流動体の塗布軌跡との関係を示す時系列モデルを記憶する記憶部(12、112)と、
前記目標塗布軌跡が与えられると、前記時系列モデルを用いて、前記目標塗布軌跡に対応する前記流動体吐出部の軌道を生成する軌道生成部(14、15、114)と、を備える軌道生成装置。
【0076】
(技術的思想2)
前記時系列モデルは、少なくとも、前記流動体吐出部の予定軌道を代表する複数の予定軌道位置と、前記対象物の表面に塗布された前記流動体の塗布軌跡を代表する複数の塗布軌跡位置とから、前記流動体吐出部から吐出された前記流動体が前記対象物の表面に塗布される塗布位置を推定するものである、技術的思想1に記載の軌道生成装置。
【0077】
(技術的思想3)
前記軌道生成部は、
前記目標塗布軌跡が与えられると、前記目標塗布軌跡に相当する前記流動体吐出部の軌道を定める軌道設定部(14、S210)と、
前記複数の予定軌道位置及び前記複数の塗布軌跡位置を、前記軌道設定部によって定められた前記流動体吐出部の軌道及び前記対象物の表面に塗布された前記流動体の塗布軌跡に沿って更新しつつ、前記時系列モデルによる前記流動体の塗布位置の推定を繰り返すことによって、前記流動体吐出部を前記軌道設定部によって定められた軌道に沿って移動させたときに得られる前記流動体の塗布軌跡を予測する塗布軌跡予測部(15、S220)と、
前記塗布軌跡予測部によって予測された予測塗布軌跡と前記目標塗布軌跡との差異が所定の許容範囲を超えている場合、前記差異が小さくなるように前記流動体吐出部の軌道を修正する軌道修正部(14、S240)と、
前記予測塗布軌跡と前記目標塗布軌跡との差異が所定の許容範囲に収まった場合、前記予測塗布軌跡を求める際に用いた前記流動体吐出部の軌道を、前記目標塗布軌跡に対応する前記流動体吐出部の軌道として出力する軌道出力部(14、S250)と、を備える技術的思想2に記載の軌道生成装置。
【0078】
(技術的思想4)
前記時系列モデルは、少なくとも、前記対象物の表面に塗布された前記流動体の塗布軌跡に続いて、前記流動体が塗布されるべき前記目標塗布軌跡を代表する複数の塗布軌跡位置と、前記流動体吐出部の過去の軌道を代表する複数の過去軌道位置とから、前記流動体吐出部が移動すべき位置を推定するものである、技術的思想1に記載の軌道生成装置。
【0079】
(技術的思想5)
前記軌道生成部は、前記複数の塗布軌跡位置及び前記複数の過去軌道位置を、前記目標塗布軌跡及び前記流動体吐出部の過去の軌道に沿って更新しつつ、前記時系列モデルによる前記流動体吐出部が移動すべき位置の推定を繰り返すことによって、前記目標塗布軌跡に対応する前記流動体吐出部の軌道を予測し、予測した軌道を出力する軌道出力部(S410、S420)を備える、技術的思想4に記載の軌道生成装置。
【0080】
(技術的思想6)
前記時系列モデルは、前記流動体の塗布軌跡が所定のパターン形状となるように、前記流動体吐出部から前記流動体を吐出しつつ前記流動体吐出部を移動させたときの前記流動体吐出部の軌道と、実際に得られた前記流動体の塗布軌跡を学習データとして学習されるものであり、
前記学習データは、前記流動体吐出部を移動させたときの前記流動体吐出部の軌道と、実際に得られた前記流動体の塗布軌跡に対して、反転、回転、縮小、拡大の少なくとも1つの数学的処理により水増しされる、技術的思想1乃至5のいずれか1項に記載の軌道生成装置。
【0081】
(技術的思想7)
前記時系列モデルは、前記流動体の塗布軌跡が所定のパターン形状となるように、前記流動体吐出部から前記流動体を吐出しつつ前記流動体吐出部を移動させたときの前記流動体吐出部の軌道と、実際に得られた前記流動体の塗布軌跡を学習データとして学習されるものであり、
前記学習データは、前記流動体吐出部の位置又は前記流動体の塗布位置を原点とする2次元座標における位置に変換され、前記原点は、前記時系列モデルによって位置の推定が繰り返される毎に更新される、技術的思想1乃至6のいずれか1項に記載の軌道生成装置。
【0082】
(技術的思想8)
前記2次元座標の一方の軸の向きは、前記流動体吐出部の位置の移動方向又は前記流動体の塗布位置の移動方向に揃えられる、技術的思想7に記載の軌道生成装置。
【0083】
(技術的思想9)
前記軌道生成部によって生成された前記目標塗布軌跡に対応する前記流動体吐出部の軌道に従って、前記流動体吐出部を移動させたときの実際の前記流動体の塗布軌跡を検出する検出部(20、S320)と、
前記検出部によって検出された実際の塗布軌跡と、前記流動体吐出部の軌道を学習データとして、所定の更新条件が満たされたときに前記時系列モデルの更新を指示する更新指示部(S340)と、を備える技術的思想1乃至8のいずれか1項に記載の軌道生成装置。
【0084】
(技術的思想10)
技術的思想1乃至9のいずれか1項に記載の軌道生成装置(10、110)と、
前記流動体吐出部(30)と、
前記流動体吐出部から前記流動体(38)を吐出させつつ、前記流動体吐出部を前記軌道生成装置によって生成された軌道に沿って移動させる制御部(20)と、を備える塗布システム。
【符号の説明】
【0085】
10:軌道生成装置、11:時系列モデル学習部、12:時系列モデル記憶部、13:目標塗布軌跡取得部、14:ロボット軌道生成部、15:塗布軌跡生成部、20:制御装置、30:塗布ノズル、32:ホース、34:タンク、36:ポンプ、38:流動体、40:ロボット、50:対象物、100:塗布システム、110:軌道生成装置、111:時系列モデル学習部、112:時系列モデル記憶部、113:目標塗布軌跡取得部、114:ロボット軌道生成部