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特開2024-75334セラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーおよびセラミックスラリー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075334
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】セラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーおよびセラミックスラリー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/18 20060101AFI20240527BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240527BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C08F20/18
C08K3/013
C08L33/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186715
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122345
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 繁久
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 将啓
(72)【発明者】
【氏名】長澤 敦
(72)【発明者】
【氏名】山田 明宏
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG071
4J002CH012
4J002CH052
4J002DE186
4J002EF067
4J002EF107
4J002FD016
4J002FD022
4J002FD207
4J002GQ00
4J002HA01
4J100AJ02Q
4J100AL03P
4J100AL04P
4J100AL09Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA43
(57)【要約】      (修正有)
【課題】保管安定性に優れ、平滑性が良好なグリーンシートを作製でき、且つ焼成後の残留炭素を抑制できるセラミック成形用バインダーとして有用な(メタ)アクリル系ポリマーを提供すること。
【解決手段】式(1)で示されるモノマー(A)を、全モノマーに対して50~99モル%の量で、その他の共重合可能なラジカル重合性モノマー(B)を、全モノマーに対して1~50モル%の量で、並びに式(2)および/または式(3)で示される重合開始剤(C)を、全モノマー100モルあたり0.1~10モルの量で含む混合物を重合させてなる、セラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマー。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、およびRは、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示されるモノマー(A)を、全モノマーに対して50~99モル%の量で、
その他の共重合可能なラジカル重合性モノマー(B)を、全モノマーに対して1~50モル%の量で、および
重合開始剤(C)
を含む混合物を重合させてなる、重量平均分子量が10,000~1,000,000であるセラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーであって、
前記混合物が、重合開始剤(C)として、式(2):
【化2】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示される有機過酸化物および/または式(3):
【化3】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示される有機過酸化物を、全モノマー100モルあたり0.1~10モルの量で含む、セラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマー。
【請求項2】
式(1):
【化4】

(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、およびRは、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示されるモノマー(A)を、全モノマーに対して50~99モル%の量で、
その他の共重合可能なラジカル重合性モノマー(B)を、全モノマーに対して1~50モル%の量で、および
重合開始剤(C)
を含む混合物を重合させることを含む、重量平均分子量が10,000~1,000,000であるセラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法であって、
前記混合物が、重合開始剤(C)として、式(2):
【化5】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示される有機過酸化物および/または式(3):
【化6】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示される有機過酸化物を、全モノマー100モルあたり0.1~10モルの量で含む、製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のセラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーを0.1~20質量%の量で、
可塑剤を0.1~20質量%の量で、
セラミック粉体を20~79質量%の量で、
分散剤を0.1~10質量%の量で、および
有機溶剤を20~79質量%の量で
含む、セラミックスラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成形用のバインダーとして使用可能な(メタ)アクリル系ポリマー、およびそれを含むセラミックスラリー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック成形用バインダーは、積層セラミックコンデンサに代表されるような電子部品を製造する過程において汎用的に使用される。積層セラミックコンデンサは、セラミックグリーンシート(以下、「グリーンシート」または「シート」と記載する場合がある)にニッケルなどの導電材を用いてなる電極層を交互に積層し、焼成する方法などによって製造される。グリーンシートは、チタン酸バリウムやアルミナなどのセラミック粉体、溶媒、バインダーなどの原料を混合してセラミックスラリーを調製し、ドクターブレードなどを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの支持体上にセラミックスラリーを均一に塗布し、乾燥させて作製される。セラミック成形用バインダーに要求される性能として、分散性や保管安定性に優れたセラミックスラリーが得られること、焼成後の残留炭素が少ないこと、熱圧着時の接着性に優れていることなどが挙げられる。
【0003】
特に近年、積層セラミックコンデンサには更なる大容量化、小型化が求められており、これに伴い、セラミックグリーンシートの薄膜化や多層化が進んでいる。しかしながら、薄層化に伴い、残留炭素がシートに与える影響が大きくなっており、微量の残留炭素であっても、シートに割れやクラックを生じさせてしまう。そのため、バインダーには更なる熱分解性の向上が求められており、また、微量の残渣をより厳密に評価する必要性が出てきた。
【0004】
熱分解性に優れ、焼成後の残留炭素を生じにくいバインダーとして、特許文献1に示されるように(メタ)アクリル系ポリマーが汎用的に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-42608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の実施例では、重合開始剤としてアゾ系開始剤が使用されている。重合開始効率が悪いアゾ系開始剤を用いると、得られる(メタ)アクリル系ポリマー中にモノマーが残存しやすく、それに伴う経時での(メタ)アクリル系ポリマー溶液の増粘や保管安定性に問題が生じる。また、残留モノマーが多い(メタ)アクリル系ポリマーをセラミック成形用バインダーとして用いると、乾燥時に乾燥ムラが生じ、シートの平滑性が損なわれてしまう。
【0007】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、保管安定性に優れ、平滑性が良好なグリーンシートを作製でき、且つ焼成後の残留炭素を抑制できるバインダーとして有用な(メタ)アクリル系ポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討した結果、重合開始剤として特定構造の有機過酸化物を用いれば、上記目的を達成できることを見出した。この知見に基づく、本発明は、以下の通りである。
[1] 式(1):
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、およびRは、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示されるモノマー(A)を、全モノマーに対して50~99モル%の量で、
その他の共重合可能なラジカル重合性モノマー(B)を、全モノマーに対して1~50モル%の量で、および
重合開始剤(C)
を含む混合物を重合させてなる、重量平均分子量が10,000~1,000,000であるセラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーであって、
前記混合物が、重合開始剤(C)として、式(2):
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示される有機過酸化物および/または式(3):
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示される有機過酸化物を、全モノマー100モルあたり0.1~10モルの量で含む、セラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマー。
[2] 式(1):
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、およびRは、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示されるモノマー(A)を、全モノマーに対して50~99モル%の量で、
その他の共重合可能なラジカル重合性モノマー(B)を、全モノマーに対して1~50モル%の量で、および
重合開始剤(C)
を含む混合物を重合させることを含む、重量平均分子量が10,000~1,000,000であるセラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーの製造方法であって、
前記混合物が、重合開始剤(C)として、式(2):
【0017】
【化5】
【0018】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示される有機過酸化物および/または式(3):
【0019】
【化6】
【0020】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を表す。)
で示される有機過酸化物を、全モノマー100モルあたり0.1~10モルの量で含む、製造方法。
[3] 前記[1]に記載のセラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーを0.1~20質量%の量で、
可塑剤を0.1~20質量%の量で、
セラミック粉体を20~79質量%の量で、
分散剤を0.1~10質量%の量で、および
有機溶剤を20~79質量%の量で
含む、セラミックスラリー組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、保管安定性に優れ、平滑性が良好なグリーンシートを作製でき、且つ焼成後の残留炭素を抑制できるバインダーとして有用な(メタ)アクリル系ポリマーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<(メタ)アクリル系ポリマー>
本発明の(メタ)アクリル系ポリマー(以下、「(メタ)アクリル系ポリマー(P)」と記載することがある)は、以下で説明する式(1)で示されるモノマー(A)(本明細書中、「モノマー(A)」と略称することがある)、その他の共重合可能なラジカル重合性モノマー(B)(本明細書中、「モノマー(B)」と略称することがある)、および重合開始剤(C)を含む混合物を重合させて得られるセラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマーである。(メタ)アクリル系ポリマー(P)は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本明細書中、「(メタ)アクリル系ポリマー」とは、「(メタ)アクリル酸またはそのエステルに由来する構成単位を有するポリマー」を意味する。
本明細書中、「(メタ)アクリル酸」とは、基本的に「アクリル酸またはメタクリル酸」を意味する。複数の(メタ)アクリル酸が存在してもよい場合、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸および/またはメタクリル酸」を意味する。「(メタ)アクリル酸」と類似する他の用語も、「(メタ)アクリル酸」と同様の意味である。
本明細書中、「セラミック成形用(メタ)アクリル系ポリマー」とは、「セラミック成形用バインダーとして用いられる(メタ)アクリル系ポリマー」を意味する。
【0024】
本明細書中、「モノマー」とは、「ポリマー鎖の構成単位(繰返し単位)を形成する化合物」を意味する。
本明細書中、「モノマー(A)、モノマー(B)、および重合開始剤(C)を含む混合物を重合させる」とは、詳しくは、「前記混合物中の重合開始剤(C)によって重合反応を開始させて、前記混合物中のモノマー(A)およびモノマー(B)を重合させる」ことを意味する。
【0025】
(メタ)アクリル系ポリマー(P)の重量平均分子量は、(メタ)アクリル系ポリマー(P)の重合時に凝集やゲル化などの不具合が無く、セラミックスラリー調製の際のハンドリング性が良好であり、およびセラミック成形体の調製の際の成形性が良好であれば、特に制限は無い。この重量平均分子量は、10,000~1,000,000、好ましくは20,000~850,000、より好ましくは30,000~100,000である。この重量平均分子量が10,000未満であると、焼成後の残留炭素が増加する。また、この重量平均分子量が1,000,000を超えると、グリーンシートの平滑性が損なわれるなどの不具合が起こりやすくなる。この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。
【0026】
<モノマー(A)>
モノマー(A)は、下記式(1)で示される。
【0027】
【化7】
【0028】
式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、好ましくはメチル基である。
式(1)中、Rは、炭素数1~12のアルキル基である。Rのアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれでもよい。Rの炭素数は、1~8であることが好ましい。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、イソブチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。Rは、好ましくはメチル基、イソブチル基、または2-エチルヘキシル基である。
【0029】
モノマー(A)は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。モノマー(A)は、好ましくは(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、および(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、より好ましくはメタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、およびメタクリル酸2-エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、さらに好ましくはメタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、またはメタクリル酸2-エチルヘキシルである。
【0030】
モノマー(A)の量は、(メタ)アクリル系ポリマー(P)の熱分解性向上の観点から、(メタ)アクリル系ポリマー(P)を形成するための全モノマー(即ち、モノマー(A)およびモノマー(B)の合計)に対して、50~99モル%、好ましくは52~97モル%、より好ましくは55~97モル%である。
【0031】
<モノマー(B)>
モノマー(B)は、モノマー(A)以外のものであって、モノマー(A)と共重合可能なラジカル重合性モノマーであれば、特に限定されるものではない。モノマー(B)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、モノマー(A)以外の(メタ)アクリル酸エステル、ビニル化合物などが挙げられる。モノマー(B)は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
モノマー(A)以外の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリセロール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシフェニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0033】
ビニル化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー、(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー、酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類などが挙げられる。
【0034】
ポリマーの強度と伸張性を高め、作製されるセラミック成形体の強度と柔軟性を良好にする観点から、モノマー(B)は、好ましくは(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、およびスチレンからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、より好ましくは(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルであり、さらに好ましくはメタクリル酸および/またはメタクリル酸2-ヒドロキシエチルであり、特に好ましくはメタクリル酸またはメタクリル酸2-ヒドロキシエチルである。
【0035】
モノマー(B)の量は、(メタ)アクリル系ポリマー(P)の熱分解性向上の観点から、(メタ)アクリル系ポリマー(P)を形成するための全モノマー(即ち、モノマー(A)およびモノマー(B)の合計)に対して、1~50モル%、好ましくは3~48モル%、より好ましくは3~45モル%である。
【0036】
<重合開始剤(C)>
本発明では、重合開始剤(C)として、下記式(2)で示される有機過酸化物(以下、「有機過酸化物(2)」と略称することがある)、および/または下記式(3)で示される有機過酸化物(以下、「有機過酸化物(3)」と略称することがある)を使用する。
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
有機過酸化物(2)および有機過酸化物(3)は、いずれも、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、有機過酸化物(2)および有機過酸化物(3)を併用してもよい。重合制御の観点から、重合開始剤(C)として、有機過酸化物(2)または有機過酸化物(3)の1種のみを使用することが好ましく、有機過酸化物(2)の1種のみを使用することがより好ましい。以下、有機過酸化物(2)および有機過酸化物(3)について順に説明する。
【0040】
式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基である。該アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれでもよい。RおよびRの炭素数のいずれも、1~10であることが好ましく、1~8がより好ましい。RおよびRは、それぞれ独立に、好ましくはプロピル基、イソプロピル基、または2-エチルヘキシル基である。有機過酸化物(2)の入手し易さ等の観点から、RおよびRは、好ましくは同じものである。
【0041】
有機過酸化物(2)は、好ましくはジ(n-プロピル)ペルオキシジカーボネート、ジ(イソプロプル)ペルオキシジカーボネート、およびジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、より好ましくはジ(n-プロピル)ペルオキシジカーボネート、ジ(イソプロプル)ペルオキシジカーボネート、またはジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートである。
【0042】
式(3)中、Rは、炭素数1~12のアルキル基である。Rのアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれでもよいが、好ましくは分岐鎖状である。Rの炭素数は、1~10であることが好ましく、1~9がより好ましい。Rは、好ましくはtert-ブチル基またはジメチルヘプチル基である。
【0043】
式(3)中、Rは、炭素数1~12のアルキル基である。Rのアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれでもよいが、好ましくは分岐鎖状である。Rの炭素数は、1~8であることが好ましく、1~4がより好ましい。Rは、好ましくはtert-ブチル基である。
【0044】
有機過酸化物(3)は、好ましくはtert-ブチルペルオキシピバレートおよび/またはtert-ブチルペルオキシネオデカノエートであり、より好ましくはtert-ブチルペルオキシピバレートまたはtert-ブチルペルオキシネオデカノエートである。
【0045】
有機過酸化物(2)および/または有機過酸化物(3)の量(これらを併用する場合はこれらの合計量)は、全モノマー(即ち、モノマー(A)およびモノマー(B)の合計)100モルあたり、0.1~10モル、より好ましくは0.2~8モル、さらに好ましくは0.5~5モルである。前記量が0.1モル未満の場合は、(メタ)アクリル系ポリマー中の残存モノマー量が増大し、その保管安定性および得られるグリーンシートの平滑性が低下する。前記量が、10モルを超える場合は、焼成後の残留炭素が増加する。
【0046】
<(メタ)アクリル系ポリマー(P)の製造方法>
本発明は、モノマー(A)、モノマー(B)、および重合開始剤(C)を上述の量で含む混合物を重合させることを含む、(メタ)アクリル系ポリマー(P)の製造方法も提供する。本発明の製造方法における、モノマー(A)、モノマー(B)、重合開始剤(C)、および(メタ)アクリル系ポリマー(P)の説明は、上述の通りである。
【0047】
(メタ)アクリル系ポリマー(P)は、懸濁重合、溶液重合、乳化重合などの公知の重合法によって製造することができる。懸濁重合の場合、例えばイオン交換水にポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を少量溶解させ、モノマー(A)およびモノマー(B)を水中で高速攪拌することによりモノマー懸濁液を調製し、これに重合開始剤(C)を加えた混合物を重合することによって、(メタ)アクリル系ポリマー(P)を製造することができる。溶液重合の場合、有機溶剤中でモノマー(A)、モノマー(B)および重合開始剤(C)を含む混合物を重合させることで、(メタ)アクリル系ポリマー(P)の溶液を得る。この溶液重合で、後述するセラミックスラリー組成物の調製に用いる有機溶剤を使用することによって、前記溶液を、そのままセラミックスラリー組成物の調製に使用してもよい。乳化重合の場合、ミセル中で重合した(メタ)アクリル系ポリマー(P)を析出分離するか、スプレードライヤーを用いて脱水した(メタ)アクリル系ポリマー(P)を、後述するセラミックスラリー組成物の調製に使用することができる。これらの重合法の中でも、(メタ)アクリル系ポリマー(P)の重量平均分子量を上記範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合が好ましい。
【0048】
モノマー(A)およびモノマー(B)を反応器に投入するに際しては、重合法に応じて様々な投入法を採用することができる。例えばモノマー(A)およびモノマー(B)の全量を一括に反応器に添加してもよく、これらの一部を一括で反応器に添加し、その残りを反応器に滴下してもよく、あるいはモノマー(A)およびモノマー(B)の全量を、反応器に滴下してもよい。
【0049】
重合開始剤(C)を反応器に投入するに際しては、その全量を一括で反応器に添加してもよく、あるいはその全量を反応器に滴下してもよい。残存モノマー量を低減するためには、重合開始剤(C)の一部を反応器に滴下し、十分にモノマー(A)およびモノマー(B)を重合させた後、残りの重合開始剤を反応器に添加することが好ましい。さらに好ましくは、重合開始剤(C)の半量を反応器に滴下し、その後、残りの半量を反応器に添加することによって、(メタ)アクリル系ポリマー(P)の分子量を良好に制御でき、残存モノマー量を効率よく低減できる。
【0050】
また、重合時には分子量を制御する目的で連鎖移動剤を配合しても良い。連鎖移動剤としては、例えばα-メチルスチレンダイマー、1-チオグリセロールなどの汎用の化合物が挙げられる。
【0051】
<セラミックスラリー組成物>
本発明のセラミックスラリー組成物は、(メタ)アクリル系ポリマー(P)、可塑剤、セラミック粉体、分散剤および有機溶剤を含む。各成分は、いずれも1種のみを使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0052】
以下、本発明のセラミックスラリー組成物中の各成分の量を説明する。なお、各成分の量の基準は、いずれも、セラミックスラリー組成物全体である。
(メタ)アクリル系ポリマー(P)の量は、シート強度の観点から、0.1~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは3~10質量%である。
可塑剤の量は、シートの柔軟性および伸張性の観点から、0.1~20質量%、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~7質量%である。
セラミック粉体の量は、シート密度の観点から、20~79質量%、好ましくは30~75質量%、より好ましくは30~65質量%である。
分散剤の量は、シートの平滑性の観点から、0.1~10質量%、好ましくは0.3~8質量%、より好ましくは0.5~6質量%である。
有機溶剤の量は、セラミックスラリーの流動性の観点から、20~79質量%、好ましくは30~79質量%、より好ましくは30~65質量%である。
【0053】
本発明のセラミックスラリー組成物中の(メタ)アクリル系ポリマー(P)の説明は、上述の通りである。(メタ)アクリル系ポリマー(P)以外の成分について、以下、順に説明する。
【0054】
可塑剤としては、例えば、アルキルポリエーテル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤などが挙げられ、アルキルポリエーテル系可塑剤が好ましい。
【0055】
セラミック粉体としては、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛などの酸化物系セラミック粉体、および炭化ケイ素、窒化ケイ素などの非酸化物系セラミック粉体が挙げられる。セラミック粉体は、好ましくは酸化物系セラミック粉体であり、より好ましくはチタン酸バリウムである。
【0056】
セラミック粉体の粒径としては、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50にて、0.05μm~50.0μmであるのが好ましく、0.10μm~10.0μmであるのがより好ましく、0.20μm~5.00μmであるのがさらに好ましく、0.30μm~1.00μmであるのが特に好ましい。
【0057】
分散剤としては、例えば、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、高分子系分散剤などが挙げられる。
カチオン系分散剤としては、例えば、ポリアミン系分散剤などが挙げられる。
アニオン系分散剤としては、例えば、カルボン酸系分散剤、リン酸エステル系分散剤、硫酸エステル系分散剤、スルホン酸エステル系分散剤などが挙げられる。
ノニオン系分散剤としては、例えば、ポリエチレングリコール系分散剤などが挙げられる。
高分子系分散剤としては、ポリカルボン酸系分散剤などが挙げられる。
分散剤は、好ましくは高分子系分散剤であり、より好ましくはポリカルボン酸系分散剤である。
【0058】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、トルエン、アセトン、メチルエチルケトンなどの比較的揮発性の高い有機溶媒が、シート成形性の観点から好適に挙げられる。有機溶媒は、好ましくはエタノールおよび/またはトルエンである。
【0059】
また、本発明のセラミックスラリー組成物は、必要に応じて消泡剤などの添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、本発明の効果を阻害しないものであれば、特に制限は無い。
【0060】
本発明のセラミックスラリー組成物は、上述の成分を公知の機器(例えば、ボールミルなど)で混合することによって製造することができる。
【0061】
<セラミック成形体の製造方法>
セラミック成形体の製造方法としては、例えば、顆粒状のセラミック組成物を加圧することを含むプレス方式、およびセラミックスラリー組成物を薄く延ばしてグリーンシートを形成することを含むシート方式が挙げられる。
【0062】
プレス方式では、例えば、本発明のセラミックスラリー組成物をスプレードライなどの噴霧乾燥により造粒し、得られた顆粒状のセラミック組成物を型に充填し、圧力を加えて特定の形状に成形し、得られた予備成形体を焼成することによってセラミック成形体を得ることができる。
【0063】
予備成形体を焼成することによって、(メタ)アクリル系ポリマー(P)が除去される(脱脂処理)。脱脂処理の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法で行うことができる。例えば、電気炉などを使用して、不活性ガス雰囲気下、350~500℃で30~150分、予備成形体を加熱することによって、(メタ)アクリル系ポリマー(P)を除去することができる。
【0064】
シート方式では、例えば、本発明のセラミックスラリー組成物、ドクターブレード法などによりポリエステル等の支持体上に一定の厚さに塗布し、乾燥させてグリーンシートを形成し、これを焼成することによってセラミック成形体を得ることができる。
【0065】
支持体は、特に限定されるものでなく、公知のものを使用することができる。支持体としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ステンレス鋼(SUS)、ガラス板などが挙げられる。
【0066】
支持体に塗布したセラミックスラリー組成物の乾燥方法は特に限定されるものではなく、公知の方法で行うことができる。その機器としては、例えば乾燥炉、ホットドライヤーなどが挙げられる。乾燥時の雰囲気は、大気雰囲気でもよく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気でもよい。乾燥時の圧力は、常圧でもよく、減圧でもよい。乾燥時の温度および時間は、セラミックスラリー組成物の成分によって異なるが、その温度は、通常30~150℃であり、乾燥時間は、通常5~60分である。また、乾燥後のグリーンシートの膜厚が、0.5~20.0μmとなることが好ましい。
【0067】
乾燥後のグリーンシートを焼成することによって、(メタ)アクリル系ポリマー(P)が除去される(脱脂処理)。脱脂処理の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法で行うことができる。例えば、電気炉などを使用して、不活性ガス雰囲気下、350~500℃で30~150分、乾燥後のグリーンシートを加熱することによって、(メタ)アクリル系ポリマー(P)を除去することができる。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
<実施例1:(メタ)アクリル系ポリマー(P-1)の合成>
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロートおよび窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、エタノール483gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。メタクリル酸イソブチル203.5g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル9.8g、およびエタノール18gを混合してモノマー溶液を調製し、並びにエタノール28gおよびジ(イソプロプル)ペルオキシジカーボネート(日油株式会社製「パーブチルIPP-50」)3.1gを混合して重合開始剤溶液を調製した。
【0070】
反応容器内を65℃まで昇温し、モノマー溶液および重合開始剤溶液を同時にそれぞれ2時間かけて滴下した。その後、65℃で2時間反応させ、次いでジ(イソプロプル)ペルオキシジカーボネート3.1gを添加した。その後、65℃で3時間反応させ、(メタ)アクリル系ポリマー(P-1)を得た。
【0071】
<実施例2~12:(メタ)アクリル系ポリマー(P-2)~(P-12)の合成>
下記表1および表2に示す種類および量の成分を使用したこと以外は実施例1と同様にして、(メタ)アクリル系ポリマー(P-2)~(P-12)を得た。
下記表1には、実施例1~12および後述の比較例1で使用した重合開始剤(C-1)~(C-5)の構造式およびR~Rの種類を記載する。
【0072】
<比較例1および2:(メタ)アクリル系ポリマー(P’-1)および(P’-2)の合成>
下記表1および表2に示す種類および量の成分を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、(メタ)アクリル系ポリマー(P’-1)および(P’-2)を得た。
【0073】
<重量平均分子量>
(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量を、下記の条件でGPCを用いて算出した。結果を表2に示す。
装置:東ソー株式会社製HLC-8220
カラム:昭和電工株式会社製shodex KF-805L
標準物質:ポリスチレン
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0074】
<セラミック成形(メタ)アクリル系ポリマーの評価>
〔残留炭素〕
試料(即ち、(メタ)アクリル系ポリマー)6mgをアルミパンに入れ、TG/DTA装置にて窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で500℃まで昇温し、500℃で30分間保持した。その後、空気雰囲気下、昇温速度20℃/分で600℃まで昇温し、600℃で90分間保持した。下記式:
空気雰囲気下での重量減少率(%)
=100×(窒素雰囲気下での加熱終了時の試料重量-空気雰囲気下での加熱終了時の試料重量)/加熱前の試料重量
にて空気雰囲気下での重量減少率を算出し、以下の基準で残留炭素を評価した。結果を表2に示す。
◎:空気雰囲気下での重量減少率が0.5%未満
○:空気雰囲気下での重量減少率が0.5%以上0.7%未満
×:空気雰囲気下での重量減少率が0.7%以上
【0075】
〔シート平滑性〕
チタン酸バリウム粒子(堺化学工業株式会社製:BT-03)100質量部に対し、ポリカルボン酸系分散剤(日油株式会社製:マリアリムAKM-0531)1質量部、アルキルポリエーテル系可塑剤(日油株式会社製:ソフバールP-0403N)5質量部、トルエン18質量部、エタノール18質量部、および粒径1mmのジルコニアボール100質量部をボールミルに入れ、8時間混合した後、トルエン10質量部、エタノール10質量部、および(メタ)アクリル系ポリマー10質量部を加え、さらに12時間混合した後、ジルコニアボールをろ別し、セラミックスラリー組成物を調製した。そして、セラミックスラリー組成物をドクターブレード法によって支持体であるPETフィルム上に厚さ20μmのシート状に塗布後、90℃および10分間乾燥させ、グリーンシートを作製した。
【0076】
表面粗さ計を用いて、作製したグリーンシートの算術平均粗さを測定および算出して、以下の基準でシート平滑性を評価した。結果を表2に示す。
◎:算術平均粗さが0.050μm未満
○:算術平均粗さが0.050μm以上0.060μm未満
×:算術平均粗さが0.060μm以上
【0077】
〔保管安定性〕
得られたポリマー溶液の保管安定性評価を行った。具体的には、合成した直後のポリマー溶液の粘度(c)、および40℃の恒温槽で1ヶ月間保管した後のポリマー溶液の粘度(d)を測定し、粘度比(d/c)を算出して、以下の基準で保管安定性を評価した。結果を表2に示す。
◎:粘度比(d/c)が1.0以上1.2未満
〇:粘度比(d/c)が1.2以上1.3未満
×:粘度比(d/c)が1.3以上
【0078】
【表1】
【0079】
なお、表1に記載の重合開始剤(C-1)~(C-5)の名称は、以下の通りである。
重合開始剤(C-1):ジ(イソプロプル)ペルオキシジカーボネート
重合開始剤(C-2):ジ(n-プロピル)ペルオキシジカーボネート
重合開始剤(C-3):tert-ブチルペルオキシピバレート
重合開始剤(C-4):ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート
重合開始剤(C-5):tert-ブチルペルオキシネオデカノエート
【0080】
【表2】
【0081】
なお、表2に記載のモノマーの略号の意味は、以下の通りである。
(モノマー(A))
MMA:メタクリル酸メチル
IBMA:メタクリル酸イソブチル
EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル
(モノマー(B))
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
MAA:メタクリル酸
また、表2に記載のV-65は、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を意味する。
【0082】
表1および2に示す通り、実施例1~12の(メタ)アクリル系ポリマーは、残留炭素、シート平滑性および保管安定性のいずれも良好であった。
【0083】
一方、重合開始剤(C)の量が過大である比較例1の(メタ)アクリル系ポリマーは、残留炭素が悪かった。
また、重合開始剤としてアゾ系開始剤を使用した比較例2の(メタ)アクリル系ポリマーは、残留炭素、シート平滑性および保管安定性のいずれも悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の(メタ)アクリル系ポリマーは、セラミック成形用バインダーとして有用である。